説明

滑り性に優れた金属板

【課題】 商品の大きさや形状や質量に関わらず、商品を金属板の表面に沿って容易かつ円滑に移動させることが可能であり、かつ長期間に渡って滑り性が持続される滑り性に優れた金属板を提供すること。
【解決手段】 エンボス加工13により表面に複数の凸部13aが形成された金属板11の表面に、前記凸部13aより細かな凹凸14aが塗膜表面に形成可能な粉体塗料により凹凸付き塗膜14を形成した。そして好ましくは、粉体塗料にフッ素樹脂粉末を3〜5%含有させると滑り性の向上が一層図れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長時間にわたって滑り性に優れた表面を有する金属板に関し、更に詳しくは商品陳列棚等における棚に載せた商品を持ち上げて移動させることなく、手で滑らすことにより、或いは棚を傾斜させることにより、容易に棚に載せた商品を移動させることが可能な棚用として好適な金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、棚上に商品を載せた商品陳列棚では、模様替えや商品の一部が売れて、棚上に商品の空きスペースが生じた際、通常、商品を手で持ち上げて移動させ、前記空きスペースに商品を補充していた。しかし、手動で商品を持ち上げて移動させて補充する方法は多くの労力と時間を必要とする問題があり面倒であった。そこで、棚板に多数のローラを並列して回転自在に架設した商品陳列棚があり、棚板が傾斜され設置されることでローラの回転方向を沿って、商品の自重で棚板の下流に移動されることで、常に商品陳列棚の前方には商品が陳列される構成になっている(特許文献1)。
【0003】
また、金属板表面にフッ素樹脂粉末を含有する塗膜を施すことで滑り性のある面を形成したものがあり(特許文献2)、この金属板を用いて棚板を構成したことにより棚板表面に滑り性を持たせ、棚板に前述したローラを一切用いることなく、棚板の傾斜面に沿って商品の自重で移動が円滑に行なわれる棚板もある。
【0004】
【特許文献1】特許第3208733号公報(段落0023、図1,図4)
【特許文献2】特許第3075117号公報(段落0026,段落0027、表1,図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、商品の大きさや形状に応じてローラの径を調整しないと、ローラ間に商品の引っ掛かり等が生じ、さらにローラ軸に埃等が入ることでローラの回動移動がスムーズにいかず、更に、この棚板を商品保冷タイプの冷蔵商品陳列棚に適用した場合には、ローラ間に結露による氷や埃が固着しやすく、ローラの回転に支障をきたすことがしばしば生じる虞がある。そのためにメンテナンスも必要とした。
【0006】
また、特許文献2では、滑り性のある塗膜により初期の滑り性に優れるものの、長期の使用により、商品の底部との接触により滑り性のある塗膜が徐々に磨耗されて滑り性が劣化されることから、商品との接触面の抵抗が次第に大きくなるため、金属板の滑り性を長期に渡って維持することが難しかった。
【0007】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、商品の大きさや形状や質量に関わらず、商品を金属板の表面に沿って容易かつ円滑に移動させることが可能であり、かつ長期間に渡って滑り性が持続される滑り性に優れた金属板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載の滑り性に優れた金属板は、エンボス加工により表面に複数の凸部が形成された滑り性に優れた金属板であって、前記凸部より細かな凹凸が塗膜表面に形成可能な粉体塗料により前記金属板表面に塗膜を形成したことを特徴としている。
この特徴によれば、エンボス加工により金属板の表面に形成された複数の凸部と、塗膜表面に形成された細かな凹凸との働きで、この金属板表面に載置した物品が接触面積の少ない状態で滑ることが可能であり、そのため物品の滑り摩擦抵抗を極力低減でき、塗膜の磨耗が極力避けられ、金属板の滑り性および耐久性を長時間維持することができる。
【0009】
本発明の請求項2に記載の滑り性に優れた金属板は、請求項1に記載の滑り性に優れた金属板であって、前記粉体塗料にフッ素樹脂粉末を3〜5%含有させたことを特徴としている。
この特徴によれば、凹凸付き塗膜の粉体塗料のフッ素樹脂粉末を含有させたことで、金属板のさらなる滑り性を高めることができるとともに、エンボスの凸部を保護することができ、耐久性の向上が図れる。
【0010】
本発明の請求項3に記載の滑り性に優れた金属板は、請求項1または2に記載の滑り性に優れた金属板であって、前記フッ素樹脂粉末が、平均粒径0.1〜30μmのテトラフルオロエチレン樹脂粉末であることを特徴としている。
この特徴によれば、フッ素樹脂粉末を平均粒径0.1〜30μmのテトラフルオロエチレン樹脂粉末としたことで滑り性をさらに優れたものとすることができるばかりでなく、塗装安定性に優れ、しかも無色透明で、変色しにくいので、金属素地による美観をそのまま保持することができる。
【0011】
本発明の請求項4に記載の滑り性に優れた金属板は、請求項1乃至3のいずれかに記載の滑り性に優れた金属板であって、前記塗膜の膜厚が、5〜200μmであることを特徴としている。
この特徴によれば、塗膜の膜厚を5〜200μmとすることで、金属板表面の凹部を塞ぐことなく、滑り性能を持続させることができる。
【0012】
本発明の請求項5に記載の滑り性に優れた金属板は、請求項1乃至4のいずれかに記載の滑り性に優れた金属板であって、前記金属板表面と、前記凹凸付き塗膜との間に、更に粉体塗料塗装により形成された下地塗膜を有することを特徴としている。
この特徴によれば、凹凸付きの塗膜を形成する前工程で、予め金属板表面に粉体塗料塗装による下地塗膜を塗工しておくことで、エンボス加工によって形成された複数の凸部の頂部部分の膜厚を適正範囲に保つと共に、金属板表面と凹凸付きの塗膜との接着強度を高め、長期の経過にわたる金属板の使用によっても、凹凸付きの塗膜が剥がれにくく、耐久性をさらに高めることができる。
【0013】
本発明の請求項6に記載の滑り性に優れた金属板は、請求項5に記載の滑り性に優れた金属板であって、前記下地塗膜の膜厚が、10〜200μmであることを特徴としている。
この特徴によれば、下地塗膜の膜厚が10μmより薄いと滑り性の長期持続性の向上が望めず、200μmより厚いと下地塗膜の平滑性が得られにくくなるとともに、凹凸付きの塗膜の平滑性を阻害する原因となり、滑り性を低下させる傾向となる。また、外部から凹凸付きの塗膜に外圧や衝撃が加えられても、下地塗膜によって衝撃が吸収され、凹凸付きの塗膜が剥がれ落ちたり傷ついたりすることが防止される。
【0014】
本発明の請求項7に記載の滑り性に優れた金属板は、請求項1乃至6のいずれかに記載の滑り性に優れた金属板であって、前記凸部が、前記金属板表面上で規則的に配置され、該凸部の高さが100〜1200μmであることを特徴としている。
この特徴によれば、凸部が規則的に配置されるとともに、凸部の高さを100〜1200μmとすることで、金属板表面の摩擦係数を全域に渡り安定化させて、常に安定した滑り性能を確保できる。
【0015】
本発明の請求項8に記載の滑り性に優れた金属板は、請求項1乃至7のいずれかに記載の滑り性に優れた金属板であって、前記金属板が商品陳列棚の棚板に使用されることを特徴としている。
この特徴によれば、商品陳列棚の棚板に滑り性に優れた金属板を使用することで、たとえ滑りにくい紙製の容器であっても移動がスムーズとなり、棚板上のどの場所からも商品を金属板に沿って移動可能な商品陳列棚として利用できる。さらに、棚板を傾斜させることで商品の大きさや形状や質量に関わらず、商品の自重によって傾斜面に沿って円滑に流下させて商品陳列作業の時間を短縮でき、かつ従来の滑り棚板に用いられていたローラ等を使用していないので、故障による補修等の問題も生じることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0017】
図1は、本発明の実施例1における商品陳列棚の全体像を示す斜視図であり、図2(a)は、棚板の分解組立斜視図であり、図2(b)は、棚板の表面を示す平面図であり、図3(a)は、図2(b)のA−A線の断面図であり、図3(b)は、図3(a)の要部拡大断面図であり、図4(a)は、商品の取り出しにともなう他の陳列商品の移動過程を示す棚板とその周辺部を示す拡大側断面図であり、図4(b)は、棚板の要部拡大側断面図である。
【0018】
図1に示されるように、商品陳列棚1は床面に棚板2を設けた載置台5が設けられ、載置台5の後方に床面から上下方向に延びる脚柱3が左右に一対にて所定間隔離間されて立設されている。両脚柱3,3の上端部には横架材8が挟持されるように設けられており、これら左右の脚柱3,3、載置台5、横架材8によって枠体が構成されている。この枠体の脚柱3間に背面板6が嵌合して取り付けられている。
【0019】
両脚柱3,3にはそれぞれ係合穴3aが上下方向に複数形成され、背面板6の所定の高さ位置には上下方向に棚板2が複数段(本実施例では3段)設けられている。これら棚板2は脚柱3の係合穴3aに予め取り付けられた板金状のブラケット9の上端に載置され係止されている。以下、本実施例では商品陳列棚1の正面側を前方とし、商品陳列棚1の背面側を後方として説明する。
【0020】
棚板2の上面は前方に向けて緩やかな傾斜角度が形成されており、棚板2の前端部にはアクリル板などで構成された商品落下防止用の落下防止具4が設けられている。棚板2の傾斜面2dに沿って複数の商品16(本実施例では飲料等の紙パック商品)が前後方向に並べて陳列され、落下防止具4によって最前位置の商品16の落下が防止されている。
【0021】
図2(a)に示されるように、棚板2は金属板の折曲げ形成によって構成され、棚板2の後端部2bから前端部2aに向けて傾斜面2dが形成され、棚板2の前端部2aには略左右側部2c,2cの長さ方向に向けて上方に開口する取付孔2eが形成され、落下防止部4の下端部を挿し込むだけで取り付け可能になっている。
【0022】
図2(b)に示されるように、棚板2を構成する金属板の表面にはエンボス加工が施され、複数の凸部13aおよびフラットな面の凹部13cからなる凹凸のエンボス13が形成されている。この複数の凸部13aは略半球形状に形成され、規則的に所定間隔で均等に配置され、同一直径(200μm〜1500μm)および同一の高さ(100〜1200μm)で形成されており、それぞれの凸部13a同士の間隔が500μm〜3500μmで配置されている。尚、本実施例では凸部13aの面積に対する占有率は5〜60%の範囲内となっている。
【0023】
図3(a)に示されるように、エンボス加工(凸部13a,凹部13c)が施された金属板11の表面には、下地層として粉体塗料塗装による下地塗膜15が形成され、さらに下地塗膜15の表面に粉体塗料により、後述する滑り性を有する凹凸付きの塗膜14が形成されている。これら金属板11と下地塗膜15および塗膜14について以下に説明する。金属板11のエンボス加工は、例えばロール圧延処理や、プレス処理によって金属板11の表面全体に複数の凸部13aが均一に施されている。
【0024】
金属板11には、例えば、冷延鋼板や、熱延鋼板、炭素鋼板、亜鉛メッキ等のメッキ処理を施した鋼板、ステンレス板、アルミニウム板等の各種金属平板が特に制限なく利用でき、必要に応じて金属板11の表面に水洗や、湯洗、酸洗、アルカリ脱脂、研磨、クロメート処理、若しくはリン酸亜鉛処理等の前処理を施して、下地塗膜15との密着性を高めるようにしても良い。なお、これら各種の処理は金属板11のエンボス加工前後のいずれの段階で施しても良い。
【0025】
下地塗膜15は、金属板表面にエンボス加工によって形成された複数の凸部の頂部部分の膜厚を適正範囲に保つために塗布され、塗膜14と密着性の良い粉体塗料Aが用いられ、市販の各種粉体塗料が使用できる。即ち、下地塗膜15用の粉体塗料は、バインダー樹脂、又はこの樹脂と硬化剤から成り、必要に応じて、更に、各種着色顔料、紫外線吸収剤、抗菌剤等の各種添加剤等を配合したものから構成される。具体的には、例えば、エポキシ樹脂−酸ヒドラジド系、ポリエステル樹脂−ポリイソシアネート硬化系、ポリエステル樹脂−エポキシ樹脂硬化系、アクリル樹脂−ポリエステル樹脂硬化系、フッ素樹脂−ポリイソシアネート硬化系などの熱硬化型粉体塗料や、ポリエステル樹脂系、アクリル樹脂系、フェノキシ樹脂系、ポリエチレン樹脂系、塩化ビニル樹脂系、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂系などの熱可塑型粉体塗料が代表的なものとして挙げられる。
【0026】
塗膜14は、例えば、熱硬化性ポリエステル樹脂及びビスフェノールA型エポキシ樹脂を主成分とし、フッ素樹脂粉末を3%〜5%含有させた粉体塗料Bが用いられており、さらに複数の樹脂ビーズを含有させて、これらを混合して分散することでサテン系塗料を構成している。フッ素樹脂粉末は形成される塗膜14に滑り性を付与するために、必須成分として配合するものである。また、フッ素樹脂粉末が前記範囲(3%〜5%)より少ないと滑り性が低下する傾向にあり、逆に多量に含有していても滑り性の向上効果が飽和してしまい経済的ではなくなる。
【0027】
このフッ素樹脂粉末としては、例えば、テトラフルオロエチレン樹脂粉末や、テトラフルオロエチレンーヘキサフルオロプロピレン共重合樹脂粉末、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合樹脂粉末、ポリフッ化ビニル樹脂粉末、ポリフッ化ビニリデン樹脂粉末、トリフッ化塩化エチレン樹脂粉末等が代表的なものとして挙げられる。特に、本発明においては、滑り牲に優れ、かつ、無色透明で、変色しにくいテトラフルオロエチレン樹脂粉末が好ましく、金属板11の滑り性を優れたものとすることができる。
【0028】
これらフッ素樹脂粉末の平均粒径は、例えば、0.1〜30μm、好ましくは、1〜20μmが適当である。なお、平均粒径が、前記範囲より小さいと塗膜に滑り性を付与する効果がさほど得られず、逆に大き過ぎると塗装安定性が低下し、また、塗膜表面からフッ素樹脂粉末が脱落し易くなる傾向にある。
【0029】
樹脂ビーズとしては、従来公知のものが使用でき例えば、塩化ビニル樹脂,ポリエステル樹脂,アクリル樹脂,ウレタン樹脂,メラミン樹脂,プチラール樹脂等が好ましく、後述する焼き付け処理の加熱時に熱変形を防止する観点から、三次元架橋構造を有する熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂等の高分子化合物も適宜使用できる。樹脂ビーズの形状としては、真球状体で平均粒径:30〜150μmであることが好ましいが若干形が崩れた擬似球状体であっても良い。ただし、平均粒径が200μmを越えた場合や、形状が柱状体,針状体あるいは不定形体などは、粉体塗料Bの製造時における分散性が低下したり、後述のサテン調の凹凸面を損なうので好ましくない。
【0030】
そして、これら粉体塗料Aおよび粉体塗料Bには、顔料を着色することで美観を付与したり、膜厚を付与したり、塗装作業性を良くするために、必要に応じて配合することができ、このような顔料としては、例えば、酸化チタンや、カーボンブラック、酸化鉄、フタロシアニンブルー等の着色顔料や、炭酸カルシウムや、タルク、硫酸バリウム、カオリン、クレー等の体質顔料などが代表的なものとして挙げられる。尚、金属板11の素地の金属感による美観を持たせたい場合には、塗膜14,15を透明とする都合上、顔料を配合しないか、配合しても透明性を阻害しない程度の少量の配合とする必要がある。
【0031】
次いで、図3(b)に示されるように、下地塗膜15および塗膜14の塗工方法について説明する。まず、粉体塗料Aを粉体塗装機にて、凹凸状のエンボス加工した金属板11の表面に塗装する。この粉体塗料Aの塗装後、熱風炉や、誘導加熱炉、赤外線炉等の焼き付け処理により粉体塗料Aを硬化させることで下地塗膜15が形成される。下地塗膜15の膜厚は10〜200μm、好ましくは15〜100μmが適当である。尚、膜厚が前記範囲(10〜200μm)より薄いと、滑り性の長期持続性の向上が望めず、厚いと下地塗膜15の平滑性が得られにくくなるとともに、後述の次いで形成される塗膜14の平滑性を阻害する原因となり、塗膜14の滑り性を低下させる傾向となる。
【0032】
次に、粉体塗料Bを前述と同様の粉体塗装機にて、下地塗膜15の表面に塗装する。この塗装の際に樹脂ビーズ14bおよびフッ素樹脂粉末(図示省略)が均等に分散され付着する。この粉体塗料Bの塗装後、前述と同様の焼き付け処理により粉体塗料Bを硬化させることで、樹脂ビーズ14bが粉体塗料Bに覆われるように一体化され、この樹脂ビーズ14bによって、塗膜14の表面に凸部13cよりも細かな凹凸面14aが形成され、サテン調の滑らかな凹凸付きの塗膜14が形成される。
【0033】
さらに、フッ素樹脂粉末によって粉体塗料Bには滑り性が付与されるので、金属板11の表面には潤滑性の有する表面が形成される。尚、樹脂ビーズ14bの表面は、塗膜14の焼き付け過程で粉体塗料Bに溶融することが好ましく、溶融しないと凹凸面14aが滑らかな面でなくなり、ゴツゴツした感じとなり塗膜14の滑り性を低下させてしまう。
【0034】
このように、凹凸付き塗膜14を形成する前工程で、予め金属板11表面に粉体塗料塗装による下地塗膜15を塗工しておくことで、直に塗膜14を金属板11に塗工するよりも、この下地塗膜15を介して金属板11と塗膜14との接着強度が高められるので、長期の経過にわたる金属板11の使用によっても、塗膜14が下地塗膜15から剥がれにくくなり、塗膜14の耐久性をさらに高めることができる。また、外部から凹凸付きの塗膜14に外圧や衝撃が加えられても、下地塗膜15によって衝撃が吸収され、凹凸付きの塗膜14が剥がれ落ちたり傷ついたりすることが防止される。
【0035】
尚、塗膜14の膜厚は5〜200μm、好ましくは20〜100μmが適当である。塗膜14の膜厚が前記範囲(5〜200μm)より薄いと、塗膜14の磨耗等により滑り性効果の持続性が劣り、逆に厚すぎると金属板11の表面に形成されたエンボス13の凹部13cが塞がり易くなるとともに、滑り性の向上効果が飽和してしまい経済的ではなくなる。
【0036】
次に、図4(a)および図4(b)に示されるように、ブラケット9の後部に形成された係止溝9aに棚板2の後端部2bを係合させることで、棚板2が安定してブラケット9に位置固定されており、棚板2には複数の商品16が陳列されている。そこで、最前列の商品16が利用者によって抜き取られると、塗膜14の高滑り性能により陳列された複数の商品16が自重によって棚板2の傾斜面2dに沿って前方に円滑に移動されていく。
【0037】
そこで、例えば商品を棚板2に補充する店員は、棚板2上の商品16を並び直す手間が省けるとともに、特に図示しないが、陳列された商品16の最後部の後方のスペースより新たな商品16を補充するだけで、常に商品を棚板2の前端部2aに位置させることができるとともに、店の利用者に棚板2の後方まで手を伸ばさせて商品16を取らせる手間も生じさせない。
【0038】
図4(b)示される商品16が紙製の容器であっても、金属板11の表面に形成された複数の凸部13aは微小に形成されているため、商品16の移動時において、接触面積が少ない状態で滑ることが可能であり、棚板2の前端部2a方向への移動がスムーズに行われる。さらに、これら凸部13aを傾斜面2dの略全域に渡って複数の凸部13aが規則的に配置されるとともに、これら凸部13aの高さが一定で金属板11に形成されることで、金属板11表面の摩擦係数を一定にすることができるので、常に安定した滑り性を提供できる。
【0039】
さらに、本実施例においては塗膜14の膜厚を5〜200μm程度とすることで、金属板表面の凹部を塞ぐことなく、滑り性能を持続させることができる。また下地塗膜15の膜厚を10〜200μmとすることで、滑り性の長期持続性の向上を図ることができ、かつ下地塗膜15の平滑性がを維持することができる。また、下地塗膜15が金属板11と塗膜14との間の緩衝材となり、外部から塗膜14に外圧や衝撃が加えられても、衝撃が吸収され、塗膜14の剥がれ落ちを防止することができる。
【0040】
尚、図4(b)に示されるように、凸部13aの高さは、100〜1200μm、好ましくは、300〜1000μmであるのが適当である。なぜなら凸部13aの高さが、前記範囲より少ないと、塗装14の摩耗が進んだ場合における微小チリが金属板の凹部に堆積し、金属板表面に載置した商品16の塗膜14に対する接触面積が大きくなって摩擦抵抗が増大し、逆に大き過ぎると、滑らす商品16の底面16a形状によっては、引っ掛かりが生じ易くなり、商品16が滑る際に支障をきたす頻度が多くなる傾向があるためである。
【0041】
また、エンボス13と塗幕14を備えた金属板11は、棚板2に対して前方方向に約7度の傾斜が設けられている。この傾斜角度は本実施例において棚板2に商品16が載置された際に、商品16自身の自重によって自然と落下する最適な角度になっているが、本発明はこれに限定されるものではなく、棚板2に載置する商品16の大きさや重量により適宜な角度設定にすることが好ましい。
【0042】
以上の説明により実施例1では、エンボス加工により金属板11にエンボス13を形成し、さらにエンボス13の最上面に塗工された細かな凹凸面14aが形成された塗膜14との働きで、金属板11とこの金属板11に当接する商品16との接触面積を少なくすることで摩擦抵抗を極力低減でき、かつ凹凸付き塗膜14の磨耗が極力避けられるので、金属板11の滑り性および耐久性を長時間維持することが可能となる。
【0043】
さらに、塗膜14を構成する粉体塗料にフッ素樹脂粉末(例えば、テトラフルオロエチレン樹脂粉末)を含有させたことで潤滑性能が向上し、金属板11のさらなる滑り性が高められるので摩擦抵抗が低減され、商品16との摩擦による磨耗を極力防止できる。また、塗膜14の表面に汚れが付着した場合でも、フッ素樹脂粉末の滑り性により水で洗い流すだけで簡便に汚れを流れ落とすことができるので、衛生面でも優れた棚板2となり、商品陳列棚1に好適である。
【0044】
したがって、商品陳列棚1の棚板2に滑り性に優れた金属板が使用されたことで、たとえ滑りにくい紙製の容器であっても移動がスムーズとなり、棚板2上のどの場所からも商品16を金属板11に沿って移動可能な商品陳列棚1として利用できる。さらに、棚板2を傾斜させることで商品16の大きさや形状や質量に関わらず、商品16の自重によって傾斜面2dに沿って円滑に流下させることができ、かつ商品16を流下させるための部品がないので、故障による補修等の問題が生じることなく長期にわたって使用できる。
【実施例2】
【0045】
次に、本発明の実施例2を図5に基づいて説明する。図5は、実施例2における棚板の要部拡大断面図である。なお、以下の実施例2において前述の実施例1と同様の構造部分に関しては、同一の符号を付すことにより詳細な説明は省略することにする。前述した実施例1の凸部13aは半球状となっているが、本発明のエンボス形状はこれに限定されるものではない。
【0046】
例えば、図5に示されるように、棚板2’の金属板11’には、規則的に配置された複数の円柱形の凸部13a’と、これら凸部13a’間に水平面を構成する凹部13cが形成され、金属板11’の表面に前述の粉体塗料塗装による下地塗膜15が形成されている。さらに、下地塗膜15の上面には前述の粉体塗料塗装による塗膜14が形成されたことで、棚板2’の表面にサテン調の細かな凹凸面(微細なため図示略)が形成されている。
【0047】
凸部13a’の頂部は平坦な面(平坦面13b)が形成されており、これら凸部13a’の高さは金属板11’の表面全体に渡って均一に形成されており、商品を安定して支持できる。尚、凸部13a’のように形状が円柱形であって平坦面13bの側縁が角張っていても、塗膜14および下地塗膜15の塗工によって丸みが形成されるので、商品の引っ掛かりは防止される。
【0048】
このように、凸部13a’の頂部が平坦面13bとして形成されたことで、前述した実施例1の半球状の凸部13aよりも商品の接触面積が大きくなり、若干摩擦抵抗が大きくなるものの、支持面が拡大されることで、商品の重さが各平坦面13bに分散され、塗膜14の摩擦耐久性が向上される。
【0049】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれ、例えば上記実施例では、金属板11の表面に下地塗膜15を形成し、下塗り処理を施したことで、金属板11と塗膜14との接着密度が高め塗膜14の耐久性をさらに高めることができることから好ましいが、本発明はこれに限定されるものではなく、下地塗膜15を形成せず、直に金属板11の表面に塗膜14を塗工するようにしても良い。
【0050】
また、上記実施例では、金属板11の表面に細かな凹凸面14aを形成するために粉体塗料B内に樹脂ビーズ14bを含有させることで、均等に分散された凹凸付きの塗膜14が形成可能なことから好ましいが、本発明はこれに限定されるものではなく、シボ、サテン、リンクル調といわれている市販の凹凸ができる粉体塗料を使用することができる。
【0051】
また、上記実施例では、塗膜14および下地塗膜15の塗工過程において、始めに粉体塗料Aの塗装と焼き付け処理で下地塗膜15を形成し、次いで下地塗膜15に粉体塗料Bの塗装と焼き付け処理で塗膜14を順に形成しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、塗装機で粉体塗料Aおよび粉体塗料Bを順に塗り重ねたのち、両塗料A,Bを同時に焼き付けても良く、少なくとも金属板11の最上部に形成される塗膜14の滑り性を損なわなければ、その他の塗工方法を用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施例1における商品陳列棚の全体像を示す斜視図である。
【図2】(a)は、棚板の分解組立斜視図であり、(b)は、棚板の表面を示す平面図である。
【図3】(a)は、図2(b)のA−A線の断面図であり、(b)は、(a)の要部拡大断面図である。
【図4】(a)は、商品の取り出しにともなう他の陳列商品の移動過程を示す棚板とその周辺部を示す拡大側断面図であり、(b)は、棚板の要部拡大側断面図である。
【図5】本発明の実施例2における棚板の要部拡大断面図である。
【符号の説明】
【0053】
1 商品陳列棚
2,2’ 棚板
2a 前端部
2b 後端部
2c 側部
2d 傾斜面
2e 取付孔
3 脚柱
3a 係合穴
4 落下防止具
5 載置台
6 背面板
8 横架材
9 ブラケット
9a 係止溝
11,11’ 金属板
13,13’ エンボス
13a,13a’ 凸部
13b 平坦面
13c,13c’ 凹部
14 凹凸付き塗膜(粉体塗料B)
14a 微細な凹凸面
14b 樹脂ビーズ
15 下地塗膜(粉体塗料A)
16 商品(物品)
16a 底面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンボス加工により表面に複数の凸部が形成された滑り性に優れた金属板であって、前記凸部より細かな凹凸が塗膜表面に形成可能な粉体塗料により前記金属板表面に塗膜を形成したことを特徴とする滑り性に優れた金属板。
【請求項2】
前記粉体塗料にフッ素樹脂粉末を3〜5%含有させた請求項1に記載の滑り性に優れた金属板。
【請求項3】
前記フッ素樹脂粉末が、平均粒径0.1〜30μmのテトラフルオロエチレン樹脂粉末である請求項1または2に記載の滑り性に優れた金属板。
【請求項4】
前記塗膜の膜厚が、5〜200μmである請求項1乃至3のいずれかに記載の滑り性に優れた金属板。
【請求項5】
前記金属板表面と、前記凹凸付き塗膜との間に、更に粉体塗料塗装により形成された下地塗膜を有する請求項1乃至4のいずれかに記載の滑り性に優れた金属板。
【請求項6】
前記下地塗膜の膜厚が、10〜200μmである請求項5に記載の滑り性に優れた金属板。
【請求項7】
前記凸部が、前記金属板表面上で規則的に配置され、該凸部の高さが100〜1200μmである請求項1乃至6のいずれかに記載の滑り性に優れた金属板。
【請求項8】
前記金属板が商品陳列棚の棚板に使用される前記1乃至7のいずれかに記載の滑り性に優れた金属板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−83172(P2007−83172A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−275655(P2005−275655)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(000000561)株式会社岡村製作所 (1,415)
【Fターム(参考)】