説明

漏洩検出装置

【課題】筒内噴射装置の燃料噴射弁におけるガスシールからの燃焼ガスの漏洩を簡便な構成で検出する。
【解決手段】開弁時に気筒の内部に燃料を噴射可能な燃料噴射弁を有する筒内噴射装置と、ノッキングによる振動を検出可能なノッキング検出装置とを備えた内燃機関において、前記筒内噴射装置における燃焼ガスの漏洩を検出する漏洩検出装置であって、前記ノッキング検出装置を介して前記燃料噴射弁の開閉に伴って生じる振動に対応する振動対応値を取得する取得手段と、前記取得された振動対応値と基準値との偏差に基づいて前記漏洩の有無を判定する漏洩判定手段とを具備し、前記漏洩判定手段は、前記偏差が所定値以上である場合に前記漏洩が発生していると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気筒内に燃料を直接噴射可能な筒内噴射装置を備えた内燃機関において当該筒内噴射装置からの燃焼ガスの漏洩を検出する漏洩検出装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置が、例えば、特許文献1に開示されている。特許文献1に開示された筒内噴射式エンジンの燃料噴射装置によれば、筒内噴射システムにおいて、CPS(Cylinder Pressure Sensor:筒内圧センサ)等により検出される筒内圧が上昇し、燃焼室内の燃焼ガスがシール部材を介して外部に漏れる可能性があるとき、ヘッドと噴射弁間に設けられた磁歪素子の制御によってインジェクタがシリンダヘッドに押え付けられる。その結果、燃焼ガスの漏洩を防止することが出来るとされている。
【0003】
また、特許文献2には、KCS(Knocking Control System)において検出される振動から噴射弁のリフト異常を検出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−009630号公報
【特許文献2】特開平10−318027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
気筒内部に直接燃料を噴射する筒内噴射装置においては、燃焼室に露出する燃料噴射弁とシリンダヘッドとの間に、燃焼室からの燃焼ガスの漏洩を防止するためのガスシールが設けられる。一般に、この燃料噴射弁からの燃料の噴射量は、例えば吸気ポートに対する燃料噴射量と較べて高い精度が要求されるため、燃料噴射弁の駆動には、開弁時間及び開弁ストローク(リフト量)の正確な制御が必要とされる。この点からすると、燃料噴射弁における噴射ノズルの先端部近傍に、ノズル軸方向(ノズルリフト方向)へ圧縮応力を与えるシール材を付設することは困難であり、通常、このガスシールは、繊維強化樹脂等を使用した低剛性シールとして構成される。
【0006】
然るに、この種の低剛性のガスシールは、金属材料を使用したシールと較べて熱負荷に対する耐性が低い。このため、内燃機関においてとりわけ高温環境である燃焼室との間のガスシールとして使用するためには、シール表面に熱境界層を形成できることと、燃焼が非連続であることとが前提となる。
【0007】
従って、例えば異常燃焼等により、燃焼室の温度が通常値よりも高くなってガスシール表面の熱境界層が極めて小さくなると、ガスシールは熱負荷により劣化或いは損傷し、事前に想定されたシール性を発揮することができない。また、異常燃焼の発生時等においては、気筒内部の燃焼圧もまた上昇する傾向があるため、ガスシールのシール性は、温度と圧力の二方面からガス漏洩の可能性に晒されることになる。このような問題に対して、シール面圧を高くした場合、ガスシール性は向上するが、シリンダヘッドと燃料噴射弁との径方向の公差や組み付け公差等を考慮すると、そのような対処には自ずと限界がある。
【0008】
一方、特許文献1に開示された装置によれば、磁歪素子による半ば強制的な押圧によって、ガスシールからの燃焼ガスの漏洩は防止され得る。然るに、この装置は、CPSや磁歪素子及びその制御システムが必要となることからして明らかに高コストであり、また、車両に搭載する上での物理的制約も多くなる。即ち、特許文献1に開示される装置には、ガスシールからの燃焼ガスの漏洩を、コストを抑えつつ、且つ車両搭載性を良好に維持しつつ検出することが出来ないという技術的な問題点がある。尚、特許文献2に開示される装置では、そもそも燃焼ガスの漏洩を検出することができない。
【0009】
本発明は、係る技術的問題点に鑑みてなされたものであり、筒内噴射装置の燃料噴射弁におけるガスシールからの燃焼ガスの漏洩を簡便な構成で検出し得る漏洩検出装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するため、本発明に係る漏洩検出装置は、開弁時に気筒の内部に燃料を噴射可能な燃料噴射弁を有する筒内噴射装置と、ノッキングによる振動を検出可能なノッキング検出装置とを備えた内燃機関において、前記筒内噴射装置における燃焼ガスの漏洩を検出する漏洩検出装置であって、前記ノッキング検出装置を介して前記燃料噴射弁の開閉に伴って生じる振動に対応する振動対応値を取得する取得手段と、前記取得された振動対応値と基準値との偏差に基づいて前記漏洩の有無を判定する漏洩判定手段とを具備し、前記漏洩判定手段は、前記偏差が所定値以上である場合に前記漏洩が発生していると判定することを特徴とする(請求項1)。
【0011】
本発明に係る漏洩検出装置は、例えばコモンレール等を介して高圧燃料を気筒内部に供給可能な電子制御式直噴インジェクタ等の筒内噴射装置と、ノックセンサ或いはKCS(尚、KCSにノックセンサが含まれる場合もある)等のノッキング検出装置とを搭載してなる内燃機関に適用することができ、好適な一形態として、例えば、一又は複数のCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、各種プロセッサ又は各種コントローラ等を備えた、単体或いは複数のECU(Electronic Controlled Unit)やコンピュータシステム等の形態を採り得る。また、これらには適宜ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、バッファメモリ又はフラッシュメモリ等の各種記憶手段等が付帯し得る。尚、漏洩検出装置は、内燃機関の各部(動弁系、点火系或いは冷却系等)を制御するコンピュータ装置の一部として構成されていてもよい。
【0012】
本発明に係るノッキング検出手段は、例えば、シリンダブロック或いはシリンダヘッド等に固定された、例えば、ピエゾ素子等の圧電素子を利用した振動検出素子を有する構成としてもよく、この場合、燃焼室内の燃料の燃焼状態等に応じて生じる物理的振動を、例えば、その振幅値や振幅値に相当する電気信号値(例えば電圧値)等の各種振動対応値(端的な一例としては、センサ値)として出力することができる。
【0013】
一方、筒内噴射装置の物理的或いは電気的構成は、本発明に係る漏洩検出装置を実現する上で制約を受けないが、高温高圧の燃焼室内部に直接燃料を噴射する構成に鑑みれば、少なくとも、シリンダブロック或いはシリンダヘッドに対して各種のガスシールを伴って固定される構成を採る。また、筒内噴射装置は、燃料噴射弁を有しており、この燃料噴射弁の開弁時に燃料を噴射する構成を採る。従って、如何なる構成を採るにせよ、燃料噴射弁の開閉に伴って、筒内噴射装置及びそれが固定されたシリンダブロック或いはシリンダヘッドは少なくとも幾らかなり振動することになる。
【0014】
ここで、ノッキングの発生により生じる物理振動も、この燃料噴射弁の開閉動作に伴う振動を含む、他の要因により生じる物理振動も、シリンダブロック或いはシリンダヘッドに生じる物理振動である点に違いはないから、ノッキング検出手段によって検出することができる。本発明に係る漏洩検出装置は、この点に鑑み、取得手段により取得される、ノッキング検出手段により検出された振動に対応する振動対応値を、筒内噴射装置からの燃焼ガスの漏洩の有無を判定する判定指標として利用する構成を採る。従って、本発明に係る漏洩検出装置においては、ガス漏洩の検出に特化した検出手段を必要とせず、燃焼ガスの漏洩を低コスト且つ小体格で実現することができる。
【0015】
本発明に係る漏洩検出装置は、漏洩判定手段を有する。漏洩判定手段は、取得された振動対応値を基準値と比較すると共に、これらの偏差に基づいて燃料噴射弁とシリンダブロック或いはシリンダヘッドとの間に介在するガスシールからの燃焼ガス漏洩の有無を判定する。尚、振動対応値は、燃料噴射弁の開閉期間(好適には、クランク角に対応付けられた角度概念)における離散的な振動対応値であってもよいし、当該開閉期間において振動対応値が時間軸上で描く波形(狭義にはこの波形を時間特性と称することもある)であってもよい。
【0016】
先に述べたように、燃料噴射弁は、その開閉動作に伴ってシリンダブロック或いはシリンダヘッドを振動させる。この振動の時間軸上の推移は、ガスシールの劣化の度合いに応じて比較的大きく変化する。ガスシールは、シリンダブロック或いはシリンダヘッドに対し、燃料噴射弁を起震源とする物理振動を中継する中継要素であるから、ガスシールに劣化(この場合の劣化とは、剛性の低下等物理的特性の変化や、形状の変化等を包括する)が生じていれば、必然的に発生する振動の時間軸上の推移は正常時と異なったものになるのである。従って、燃料噴射弁の開閉に伴う振動対応値と基準値との偏差は、ガスシールの劣化の度合いと一対一、一対多、多対一又は多対多に対応することとなり、ガスシールの劣化の度合いが燃焼ガスの漏洩の度合いと一義的であることからして、当該偏差に基づいて燃焼ガスの漏洩の有無を判定することが可能となるのである。
【0017】
尚、基準値(振動対応値が波形で得られるなら基準波形としてもよい)とは、正常時の振動対応値に相当するものであり、その提供の態様は多義的である。例えば、基準値は、予め実験的に、経験的に又は理論的に得られ然るべき記憶手段に記憶されていてもよい。また、基準値は、内燃機関が複数の気筒を有する多気筒内燃機関である場合には、他の気筒の振動対応値から適宜導出される値であってもよい。
【0018】
本発明に係る漏洩検出装置の一の態様では、前記振動対応値は、前記燃料噴射弁の開閉に伴って生じる振動の振幅値であり、前記漏洩判定手段は、前記振幅値が前記基準値未満であり且つ前記偏差が所定値以上である場合に前記漏洩が発生していると判定する(請求項2)。
【0019】
この態様によれば、振動対応値が燃料噴射弁の開閉に伴って生じる振動の振幅値として設定される。振動の度合いやその時間推移を規定するのに、振動の振幅値は重要な要素であり且つ明確な要素であるから、この態様によれば、燃焼ガス漏洩の有無判定に係る判定プロセスが比較的簡便に行われ得る。
【0020】
本発明に係る漏洩検出装置の他の態様では、前記内燃機関は、複数の気筒を備える多気筒内燃機関であり、前記筒内噴射装置は、前記複数の気筒のうち複数の気筒に備わっており、前記漏洩検出装置は、前記複数の気筒のうち一の気筒について前記漏洩の有無が判定される場合において、前記複数の気筒のうち前記一の気筒を除く残余の気筒における前記振動対応値に基づいて前記基準値を設定する設定手段を更に具備し、前記漏洩判定手段は、前記一の気筒について取得された前記振動対応値を前記設定された基準値と比較することにより前記漏洩の有無を判定する(請求項3)。
【0021】
この態様によれば、設定手段により振動対応値の基準値が設定される。設定手段は、複数の気筒のうち、その時点で漏洩の有無判定に供される一の気筒を除く残余の気筒(必ずしも残余の全気筒でなくてよい)における振動対応値に基づいて基準値を設定する。例えば、設定手段は、残余の全気筒の振動対応値を平均化して基準値としてもよいし、残余の気筒のうち一又は複数の気筒の振動対応値を基準値としてもよい。この際、燃料噴射弁のシール劣化は、複数の燃料噴射弁において同時或いは略同時に生じる可能性は低いから、残余の気筒を基準とすることによる信頼性の低下は、実践上は無視し得る程度に小さくて済む。
【0022】
この態様によれば、漏洩の有無判定に供される一の気筒と、同一の運転条件に晒される残余の気筒を基準値設定の礎とするので、比較的高い信頼性が担保される。
【0023】
本発明に係る漏洩検出装置の他の態様では、前記漏洩判定手段は、前記筒内噴射装置の燃料噴射圧が所定値以上である場合に前記漏洩の有無を判定する(請求項4)。
【0024】
筒内噴射装置の燃料噴射圧が相対的に高い場合、当然ながら燃料噴射弁の開閉に伴う物理振動の度合いも大きくなり、振動対応値にもその影響が現れる。その結果、シール劣化発生時における振動態様の変化も、燃料噴射圧が相対的に低い場合と較べて大きく現れることになる。従って、この態様によれば、燃料噴射圧に適当な所定値を設け、この所定値以上の噴射圧領域においてのみ、或いはこのような噴射圧領域において優先的に、燃焼ガスの漏洩判定を行わしめることにより、漏洩判定手段による漏洩の有無判定に係る判定精度を相対的に向上させることができる。
【0025】
本発明に係る漏洩検出装置の他の態様では、前記漏洩判定手段は、前記内燃機関の機関温度が所定値未満である場合に前記漏洩の有無を判定する(請求項5)。
【0026】
内燃機関の機関温度が相対的に低い場合、当然ながらノッキングは発生し難くなり、振動対応値には、ノッキングの影響が現れ難くなる。その結果、シール劣化発生時における振動態様の変化が、相対的にノッキングの生じ易い運転領域で漏洩判定がなされる場合と較べてクリアに現れることになる。
【0027】
従って、この態様によれば、機関温度に適当な所定値を設け、この所定値未満の温度領域においてのみ、或いはこのような温度領域において優先的に、燃焼ガスの漏洩判定を行わしめることにより、漏洩判定手段による漏洩の有無判定に係る判定精度を相対的に向上させることができる。
【0028】
尚、内燃機関の機関温度は、好適には、冷却水温等により代替することができる。
【0029】
本発明に係る漏洩検出装置の他の態様では、前記内燃機関は、吸気弁の開弁時において前記気筒の内部に連通する吸気ポートに対し燃料を噴射可能なポート噴射装置を更に具備し、前記取得手段は、前記ノッキング検出装置を介して、燃料が前記吸気ポートのみから供給される場合における振動に対応するポート噴射時振動対応値を取得し、前記漏洩検出装置は、前記取得されたポート噴射時振動対応値に基づいて前記燃料噴射弁の開閉に依存しないノイズの有無を判定するノイズ判定手段を更に具備し、前記漏洩判定手段は、前記ノイズが無いと判定された場合に前記漏洩の有無を判定する(請求項6)。
【0030】
この態様によれば、内燃機関は、筒内噴射装置に加えて、ポート噴射装置を備える。これら筒内噴射装置とポート噴射装置との吹き分け比率は、多段階に或いは連続的に可変である。
【0031】
ここで、燃料噴射弁の開閉に伴う振動は、当然ながら筒内噴射装置が幾らかなり燃料を噴射している状況下で生じるものであるから、ポート噴射装置の噴射比率(総噴射量に対するポート噴射量の比率)が100%、或いは実践上100%とみなして差し支えない程度に高い場合(本態様における「吸気ポートのみから供給される場合」とは、このようなある程度の幅を有する概念である)、燃料噴射弁の開閉に伴う振動は、理想的には発生しない。但し、実践的にみると、取得手段により取得される振動対応値には、電気的なノイズが混入する場合も多く、この電気的ノイズは、ポート噴射装置の噴射比率に関係なく発生し得る。また、この電気的ノイズは、漏洩判定手段による漏洩の有無判定に係る判定精度に影響を与え得る。より具体的には、この種の電気的ノイズにより、実際には生じていない燃焼ガスの漏洩が生じていると誤判定される可能性がある。
【0032】
この態様によれば、このようにポート噴射装置を備える構成において、ノイズ判定手段により、燃料がポート噴射装置のみから供給される場合における振動対応値たるポート噴射時振動対応値に基づいて電気的ノイズの有無が判定される。漏洩判定手段は、このノイズ判定手段により電気的ノイズが無い(無論、無いと扱って差し支えない程度に低い場合や、時間軸上の変動幅が極めて小さいノイズ等も含む)場合に漏洩の有無を判定する。従って、この態様によれば、漏洩判定手段に係る漏洩の有無判定精度をより向上させることができる。
【0033】
ノイズ判定手段を備えた本発明に係る漏洩検出装置の一の態様では、前記漏洩判定手段は、前記ノイズが無いと判定された場合に、過去一定の期間にわたる、前記取得されたポート噴射時振動対応値と前記取得された振動対応値との偏差の推移に基づいて、前記漏洩の発生の有無を判定する(請求項7)。
【0034】
ポート噴射装置を有さぬ構成においては、漏洩判定手段は上述のように振動対応値と基準値との偏差に基づいて、実現象としての漏洩の有無を判定するのであるが、このように電気的ノイズの影響を切り分けることが出来る場合、ポート噴射時振動対応値と、取得手段により取得される振動対応値との偏差(ポート噴射時の振動がゼロであれば、即ち、取得される振動対応値そのもの)の時間推移に基づいて、漏洩の兆候を検出することができる。
【0035】
即ち、端的には、この偏差が時間的に減少していく場合、ガスシールの劣化が経時的に進行しているとの判断が成立する。従って、この態様によれば、燃焼ガスの漏洩が実践上問題となる程度に拡大する以前に、燃焼ガスの漏洩を招来し得るガスシールの軽微な劣化を検出することができ、然るべき退避措置を講じるための時間的猶予を獲得することが可能となる。このような効果は、内燃機関の保護を図る面から顕著に有利に作用する。
【0036】
尚、この場合における「漏洩の発生の有無」とは、言わば「将来的な」漏洩の発生の有無を意味し、その時点での漏洩の発生の有無とは必ずしも一致せずともよい。
【0037】
ノイズ判定手段を備えた本発明に係る漏洩検出装置の他の態様では、前記漏洩判定手段は、前記取得されたポート噴射時振動対応値と前記取得された振動対応値との偏差の変化量が所定値以上である場合に前記漏洩が発生していると判定する(請求項8)。
【0038】
このように、ポート噴射時振動対応値と振動対応値との偏差の変化量に対し判断基準としての所定値を設定すれば、比較的簡便に漏洩の発生の有無を判定することができる。
【0039】
本発明に係る漏洩検出装置の他の態様では、前記漏洩が発生していると判定された場合に、予め前記漏洩を進行させないように設定された退避制御則に従って前記内燃機関を制御する制御手段を更に具備する(請求項9)。
【0040】
この態様によれば、漏洩が有るとされた場合に、制御手段により、燃焼ガスの漏洩をそれ以上進行させないように予め実験的に、経験的に又は理論的に定められてなる退避制御則に従って、内燃機関が制御される。即ち、各種のアプローチを伴う内燃機関のフェールセーフが実現される。従って、内燃機関の保護を図る上で実践上極めて有益である。尚、本態様は、退避制御則の実践的態様について規定しないが、本態様は、燃焼ガスの漏洩が生じた場合において、内燃機関の制御によりその進行を食い止める点に本質があり、その具体性について言及することを要しない。
【0041】
制御手段を備えた本発明に係る漏洩検出装置の一の態様では、前記制御手段は、前記筒内噴射装置の燃料噴射比率を増加させる(請求項10)。
【0042】
この態様によれば、上述した退避制御則に従った制御の一態様として、筒内噴射装置の燃料噴射比率が増加させられる。より好適には、筒内噴射装置の燃料噴射比率が100%或いは略100%にまで高められる。従って、燃料噴射弁からの気化燃料噴射の過程における燃料の気化潜熱によって、燃料噴射弁、ガスシール及びシリンダブロック或いはシリンダヘッドを冷却することができ、ガスシールに対する熱負荷を軽減することが可能となって、ガスシールのそれ以上の劣化を食い止めることが可能となる。
【0043】
制御手段を備えた本発明に係る漏洩検出装置の他の態様では、前記制御手段は、前記内燃機関が過給器を備える場合において、該過給器の所定の過給領域における前記内燃機関の出力を制限する(請求項11)。
【0044】
この態様によれば、上述した退避制御則に従った制御の他の態様として、過給器の過給領域における内燃機関の出力制限が実行される。従って、内燃機関が過剰な高負荷状態になることを防止することができ、ガスシールのそれ以上の劣化、或いは劣化したガスシールからの燃焼ガスの漏洩を緩和することが可能となる。
【0045】
尚、この態様において内燃機関に備わる「過給器」とは、例えば、排気通路に設けられたタービンにより排気熱を回収してコンプレッサを駆動する所謂ターボチャージャや、このタービンを電気モータ等により駆動する所謂MAT(Motor Assist Turbo)や、タービンハウジングに設けられたノズルベーンを開閉駆動して過給効率を可変とするVNT(Variable Nozzle Turbo)や、同様にコンプレッサハウジングに設けられたノズルベーンを開閉駆動して過給効率を可変とするVGC(Variable Geometry Compressor)等を含み得る。特に、MAT、VNT又はVGC等、過給効率を可変とするための要素を備えた過給器においては、この種の制限措置を比較的精度良く実現できる。
【0046】
制御手段を備えた本発明に係る漏洩検出装置の他の態様では、前記制御手段は、前記漏洩が発生していると判定された気筒が初爆気筒とならないように、前記内燃機関の点火時期を変更する(請求項12)。
【0047】
この態様によれば、上述した退避制御則に従った制御の他の態様として、漏洩が発生している気筒が初爆気筒にならないように、火花点火装置等を介して点火時期が制御される。従って、燃焼ガスの漏洩が生じている気筒が初爆気筒となることによる、燃焼の不安定性や失火等を回避することができ、動力性能及び環境性能の面から顕著に効果的である。
【0048】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の第1実施形態に係るエンジンシステムの構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図2】図1のエンジンシステムにおける直噴インジェクタの構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図3】図1のエンジンシステムにおいて実行される燃焼ガス漏洩検出処理のフローチャートである。
【図4】図3の燃焼ガス漏洩検出処理における検出原理に係り、KCSセンサ出力の一時間特性を例示する図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る燃焼ガス漏洩検出処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0050】
<発明の実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0051】
<実施形態の構成>
始めに、図1を参照し、本発明の第1実施形態に係るエンジンシステム10の構成について説明する。ここに、図1は、エンジンシステム10の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【0052】
図1において、エンジンシステム10は、図示せぬ車両に搭載され、ECU100及びエンジン200を備える。
【0053】
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM等を備え、エンジンシステム10の動作全体を制御することが可能に構成された電子制御ユニットであり、本発明に係る「漏洩検出装置」の一例である。ECU100は、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述する燃焼ガス漏洩検出処理を実行可能に構成されている。
【0054】
尚、ECU100は、本発明に係る「取得手段」、「漏洩判定手段」、「設定手段」、「ノイズ判定手段」及び「制御手段」の夫々一例として機能し得る一体の電子制御ユニットであるが、本発明に係るこれら各手段の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、これら各手段は、例えば複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等として構成されていてもよい。
【0055】
エンジン200は、本発明に係る「内燃機関」の一例たるガソリンエンジンである。
【0056】
エンジン200は、シリンダブロック201A及びシリンダヘッド201Bをその外郭体とする気筒201C内において、燃焼室に点火プラグ(符号省略)の一部が露出してなる点火装置202による点火動作を介して燃料たるガソリンと空気との混合気を燃焼せしめると共に、係る燃焼に伴う爆発力に応じて生じるピストン203の往復運動を、コネクティングロッド204を介してクランクシャフト205の回転運動に変換可能に構成された機関である。クランクシャフト205近傍には、クランクシャフト205の回転位置(即ち、クランク角)を検出するクランクポジションセンサ206が設置されている。このクランクポジションセンサ206は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたエンジン200のクランク角は、一定又は不定の周期でECU100に参照される構成となっている。尚、エンジン200は、紙面と垂直な方向に4本の気筒201が直列に配されてなる直列4気筒エンジン(即ち、本発明に係る「多気筒内燃機関」の一例)であるが、個々の気筒201の構成は相互に等しいため、図2においては一の気筒201についてのみ説明を行うこととする。また、このような構成は、本発明に係る「内燃機関」が採り得る一例に過ぎない。
【0057】
エンジン200において、外部から吸入された空気は吸気管207を通過し、吸気ポート209において、吸気ポートインジェクタ211(即ち、本発明に係る「ポート噴射装置」の一例)から噴射されたポート噴射燃料Fpiと混合されて前述の混合気となる。燃料は、図示せぬ燃料タンクに貯留されており、図示せぬフィードポンプの作用により、図示せぬデリバリパイプを介して吸気ポートインジェクタ211に圧送供給されている。
【0058】
気筒201内部と吸気管207とは、吸気バルブ210の開閉によってその連通状態が制御されている。気筒201内部で燃焼した混合気は排気となり吸気バルブ210の開閉に連動して開閉する排気バルブ213の開弁時に排気ポート214を介して排気管215に導かれる。
【0059】
一方、吸気管207における、吸気ポート209の上流側には、図示せぬクリーナを経て導かれた吸入空気に係る吸入空気量を調節するスロットルバルブ208が配設されている。このスロットルバルブ208は、ECU100と電気的に接続された、不図示のスロットルバルブモータによってその駆動状態が制御される構成となっている。尚、ECU100は、基本的には不図示のアクセルポジションセンサにより検出されるアクセル開度Taに応じたスロットル開度が得られるようにスロットルバルブモータを駆動制御するが、スロットルバルブモータの動作制御を介してドライバの意思を介在させることなくスロットル開度を調整することもまた可能である。即ち、スロットルバルブ208は、一種の電子制御式スロットルバルブとして構成されている。
【0060】
排気管215には、エンジン200の排気空燃比AFを検出可能に構成された空燃比センサ216が設置されている。また、気筒201Cを収容するシリンダブロック201A及びシリンダヘッド201Bを取り囲むように設置されたウォータジャケットには、エンジン200を冷却するために循環供給される冷却水(LLC)に係る冷却水温Twを検出するための冷却水温センサ217が配設されている。空燃比センサ216及び水温センサ217は、ECU100と電気的に接続されており、各々検出された空燃比AF及び冷却水温Twは、ECU100により一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0061】
また、気筒201Cを収容するシリンダブロック201Aには、KCSセンサ218が付設されている。KCSセンサ218は、圧電素子の一種であるピエゾ素子により構成された検出体を有する振動検出装置であり、シリンダブロック201Aにノッキングによる振動が生じると、検出体が、その圧電効果により振動の度合いに応じた電気信号(電圧信号)を発生する構成となっている、この電気信号は、振動の振幅値に比例する信号であり、即ち、本発明に係る「振動対応値」の一例たるKCSセンサ出力となる。尚、KCSセンサとは、「ノッキングコントロールシステムのセンサ」を意味しており、エンジンシステム10には、エンジン200のノッキング強度(振幅)に応じて点火装置202による点火時期を遅角或いは進角させる公知のKCSが採用されていることを意味している。
【0062】
ここで、エンジン200には、上述のポート噴射インジェクタ211に加えて、本発明に係る「筒内噴射装置」の一例たる直噴インジェクタ212が備わっている。直噴インジェクタ212は、後述するように、燃焼室に噴射ノズルが露出する燃料噴射弁を有しており、高温高圧の燃焼室内に燃料たるガソリンを気化させた状態で直噴燃料Fdiとして噴射することが可能である。直噴インジェクタ212は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100によりその駆動状態が制御される構成となっている。
【0063】
尚、補足すると、この直噴インジェクタ212からの直噴燃料Fdiを用いた燃焼制御としては、例えば、希薄空燃比下における成層燃焼制御や、吸気行程同期噴射による均質燃焼制御等がある。前者は、点火装置202の点火プラグ近傍に直噴燃料Fdiの噴霧を偏在させることにより、気筒内部を希薄空燃比とすることを可能とした制御であり、他方は、例えば、予混合された燃料を理論空燃比近傍の空燃比下で燃焼させる制御である。これらとポート噴射燃料Fpiとを使用したエンジンシステム10全体の燃料噴射制御の形態は自由であるが、本実施形態におけるエンジン200では、ECU100により、軽負荷時に直噴燃料Fdiによる成層燃焼が、中高負荷時にはポート噴射燃料Fpiによる均質燃焼が夫々選択的に実行されるものとする。
【0064】
ここで、図2を参照し、直噴インジェクタ212の詳細な構成について説明する。ここに、図2は、直噴インジェクタ212の構成を概念的に表してなる概略構成図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0065】
図2において、直噴インジェクタ212は、燃料噴射弁212A、ノズル212B、軸シール212C及び制振インシュレータ212Dを備える。
【0066】
燃料噴射弁212Aは、燃料を高圧で貯蓄する不図示のコモンレールから高圧燃料が印加される圧力室と、当該圧力室に接続された低圧側通路との間の連通を制御可能に構成された電磁弁である。燃料噴射弁212への通電がなされると、圧力室と低圧側通路とは連通し、圧力室の圧力が低下する構成となっている。
【0067】
一方、ノズル212Bは、燃料噴射弁212に連結され、先端部の噴孔が燃焼室内部に露出すると共に、噴孔を開閉するニードルを内蔵しており、閉弁時において、上記圧力室の燃料圧力が当該ニードルを閉弁方向(ノズルの噴孔を閉じる方向)に付勢する構成となっている。従って、燃料噴射弁212Aへの通電により圧力室と低圧通路とが連通し、圧力室の燃料圧力が低下すると、ニードルがノズル212B内を図示上方にリフト駆動されてノズル212Bが開弁する。その結果、コモンレール216より供給された高圧燃料は、ノズル212Bの噴孔より燃焼室に噴射される。また、燃料噴射弁212Aへの通電が停止されることにより圧力室と低圧通路とが相互に遮断されて圧力室の燃料圧力が再度上昇すると、ニードルはノズル内を図示下方にリフト駆動され、ノズル212Bは閉弁する。
【0068】
軸シール212Cは、繊維強化樹脂により形成され、ノズル212Bに固定された環状のガスシールである。軸シール212Cは、燃焼室からの燃焼ガスの漏洩を防止するシール機能を有している。また、この軸シール212Cは、ノズル212Bとシリンダヘッド202Bとの間に介在しており、ノズル212Bにおける上述したニードルの軸方向(図示鎖線の方向)へのリフト駆動により、この軸シール212Cに生じた軸方向の物理的振動は、シリンダヘッド202Bにも同様の振動として伝達する構造となっている。
【0069】
制振インシュレータ212Dは、燃料噴射弁212Aの振動を緩和させる緩衝部材である。制振インシュレータ212Dも、軸シール212Cと同様にシリンダヘッド202Bに固定されているため、直噴インジェクタ212の動作過程で上述したようにノズル212Bが軸方向にリフト駆動された際に生じる軸方向の物理振動は、シリンダヘッド202Bに同様の振動として伝達する構造となっている。
【0070】
<実施形態の動作>
次に、図3を参照し、本実施形態の動作として、ECU100により実行される燃焼ガス漏洩検出処理の詳細について説明する。ここに、図3は、燃焼ガス漏洩検出処理のフローチャートである。尚、図3は、識別子i(本実施形態に係るエンジン200は4気筒なので、i=1,2,3,4)で識別される、その時点の一の漏洩判定対象気筒に関する処理を示したものである。実際には、エンジン200に備わる気筒数分同様の処理が繰り返されるが、ここでは、説明の煩雑化を防ぐ目的から繰り返し部分については割愛することとする。
【0071】
図3において、ECU100は、漏洩判定対象気筒に関するKCSセンサ出力Skiを取得し(ステップS101)、次に、このKCSセンサ出力Skiとの比較判定に供すべき基準値を取得する(ステップS102)。続いて、ECU100は、これら取得した値に基づいて漏洩判定対象気筒における軸シール212Cからの燃焼ガス漏洩の有無を判定する(ステップS103)。ステップS103において、燃焼ガスが漏洩しているものと判定された場合には、漏洩判定対象気筒の識別子が記憶される。
【0072】
ここで、図4を参照し、ステップS103における燃焼ガスの漏洩判定原理について説明する。ここに、図4は、KCSセンサ出力Skiの一時間特性を例示する図である。
【0073】
図4において、上段がKCSセンサ出力Skiの時間特性であり、下段は燃料噴射弁212Aにおけるノズル212Bのリフト量の時間特性である。
【0074】
時刻T1(実際にはクランク角により規定される)において漏洩判定対象気筒のノズル212Bの開弁動作が開始され、時刻T2において同様に閉弁動作が開始されるものとすると、軸シール212Cに熱負荷による劣化(物理的特性の劣化や物理的損傷等を包括する)が生じていない正常時のKCSセンサ出力Skiの特性は、図示L_nml(破線参照)として表される。
【0075】
燃料噴射弁212Aにおけるノズル212Bの一開閉動作に際しては、図示するように、開弁起因振動群Vopと、閉弁起因振動群Vclが生じる。また、閉弁起因振動群Vclは、直噴燃料Fdiの噴射後に生じる爆発による筒内圧上昇の影響を受けるため、開弁起因振動群Vopよりも総じて振幅が大きい。
【0076】
ここで、軸シール212Cに熱負荷による劣化が生じている場合におけるKCSセンサ出力Skiの特性は、図示L_fail(実線参照)として表される。図示するように、軸シール212Cに熱負荷による劣化が生じている場合、KCSセンサ出力Skiは、正常時と較べて低下する。これは、正常時におけるシリンダヘッド202Bへの振動伝達媒体が、軸シール212Cと制振インシュレータ212Dとの二つであるのに対して、軸シール212C劣化時の当該振動伝達媒体が、制振インシュレータ212Dのみとなる、或いは、軸シール212Cからの伝達振動が減少するためである。従って、正常時のKCSセンサ出力Skiを与える基準特性と、漏洩判定対象気筒のKCSセンサ出力Skiとの偏差は、燃焼ガス漏洩の有無判定を行うにあたっての指標として利用できるのである。尚、燃焼室の圧力に鑑みれば、軸シール212Cの劣化と燃焼ガスの漏洩とは一義的に扱ってよい。
【0077】
尚、図4に例示されるように、振動は一の振動群について複数回生じ得る。これら複数回の振動のうちいずれを偏差算出及び漏洩判定に係る振動として利用してもよいが、全体的な振動の度合いが大きい方が高い信頼性を獲得できる点に鑑みれば、漏洩判定は、望ましくは閉弁起因振動群Vclのピーク値同士の偏差に基づいて実行される。尚、ECU100は、KCSセンサ出力Skiを一定周期で取得することが出来るから、KCSセンサ出力Skiは、図3に例示されるような一種の時間特性として取得される。従って、このようなピーク値同士の比較は容易にして可能である。
【0078】
尚、KCSセンサ出力Skiとの比較に供される基準値は、多義的である。例えば、基準値は、予め(例えば、工場出荷時等)軸シール212Cが正常であることが確実である状況において検出された値であってもよい。この場合、基準値は、内燃機関の運転条件に応じてマップ等に多数記憶され、適宜適切な値が選択されてもよい。或いは基準値は、その時点の漏洩判定対象気筒を除く残余の気筒(残余の全気筒である必要は必ずしもない)についてのKCSセンサ出力Skiの平均値であってもよい。これは、複数の気筒の軸シール212Cが略同時に同様の劣化状態に陥ることが考え難いことから、実践上十分な信頼性を確保しつつ、エンジン200の径時的な変化によるKCSセンサ出力Skiの変化にも対応し得る、現実的且つ合理的な態様である。例えば、その時点の漏洩判定対象気筒に漏洩が生じている場合、残余の気筒の平均値はこれよりも高くなる。また、残余の時点の漏洩判定対象気筒に漏洩が生じている場合、漏洩判定対象気筒のKCSセンサ出力Skiは、残余の気筒のそれと同等か、或いはそれを上回る。この場合、少なくとも漏洩判定対象気筒に燃焼ガスの漏洩が生じていないとの判定は合理的に成立し得るのである。
【0079】
図3に戻り、ECU100は、ステップS103を実行した結果、漏洩判定対象気筒に燃焼ガスの漏洩が生じているか否かを判定する(ステップS104)。燃焼ガスの漏洩が生じていた場合(ステップS104:YES)、ECU100は後述するフェールセーフ措置を実行する(ステップS104)。フェールセーフ措置が実行されると、処理はステップS101に戻される。また、漏洩判定対象気筒に燃焼ガスの漏洩が生じていない場合(ステップS104:NO)、ECU100は、ステップS105をスキップして処理をステップS101に戻し一連の処理を繰り返す(具体的には、上述したように、識別子iをインクリメント或いはディクリメントして漏洩判定対象気筒を変更する)。燃焼ガス漏洩判定処理は以上のように実行される。
【0080】
ここで、ステップS104におけるフェールセーフ制御について説明する。フェールセーフ制御は、本発明に係る退避制御則に従った制御の一例である。フェールセーフ制御は、例えば、下記(1)又は(2)の制御からなる。
【0081】
(1)筒内噴射量比率PFdiを100%とする噴射制御(Fpi不使用)
この制御によれば、燃料をポート噴射燃料Fpiで賄うべき運転条件においても、筒内噴射燃料Fdiを使用した均質燃焼制御が実行される。その結果、直噴燃料の気化潜熱による筒内冷却効果により、それ以上の軸シール212Cの劣化を食い止めることができる。
【0082】
(2)漏洩が発生した気筒以外を初爆気筒とする点火時期制御
この制御によれば、点火装置202を介した点火時期の制御により、燃焼が不安定となり易い漏洩気筒が初爆気筒となることが回避されるため、エンジン200の燃焼を安定させることができ、異常燃焼等を招かずに済む。また、失火等によるエミッションの悪化を回避することができる。
【0083】
一方、エンジンシステム10のエンジン200を、排気駆動型のターボチャージャ等、吸入空気を大気圧以上に過給された状態で供給可能な各種の過給器を備えた他のエンジン構成とした場合、下記(3)の制御も可能となる。
【0084】
(3)ターボチャージャの所定過給域におけるエンジン出力制限
この制御によれば、とりわけ高負荷領域など、ターボチャージャが顕著に過給効果を発揮する過給領域において、例えば、スロットル絞りや点火時期の遅角等により出力が制限される。その結果、燃焼室の燃焼圧を制限することが可能となり、軸シール212Cのそれ以上の劣化を食い止めることができる。
【0085】
以上説明したように、本実施形態に係る燃焼ガス漏洩検出処理によれば、エンジン200に元々備わるKCSセンサ218のKCSセンサ出力Skiに基づいて、軸シール212Cからの燃焼ガスの漏洩を高精度に検出することが出来る。また、元々KCSの一部として備わるKCSセンサ218の出力を利用するため、低コストであり且つ車両搭載性も良好である。
【0086】
尚、上述した燃焼ガス漏洩検出制御は、燃料噴射装置として直噴インジェクタ212のみを備える場合にも有効であるが、本実施形態のように吸気ポートインジェクタを備える構成においては、以下の制御も可能である。
【0087】
即ち、ポート噴射燃料比率PFpi=100%である場合には、図4に例示した燃料噴射弁212Aの開閉駆動による振動が発生しない。このことを利用して、この場合に、KCSセンサ218のノイズ判定を実行してもよい。この際、ノイズがゼロ又は略ゼロであるか、或いは一定である場合に、ノイズが無いものと判定される。ここで、KCSセンサ218にノイズが生じていない場合、KCSセンサ出力Skiと、このノイズ判定時の値との偏差の履歴(偏差の変化量)に基づいて、軸シール212Cの劣化の進行の度合いを判定することができる。
【0088】
即ち、この偏差の履歴が所定値以上となった時点で、未だ軸シール212Cがある程度正常な段階で、将来的な軸シール212Cの劣化を予見し、例えばステップS105等のフェールセーフ制御を事前に講じることによって、燃焼ガスの漏洩を未然に防ぐことができるのである。
<第2実施形態>
次に、図5を参照し、本発明の第2実施形態に係る燃焼ガス漏洩検出処理について説明する。ここに、図5は、燃焼ガス漏洩検出処理のフローチャートである。尚、同図において、図3と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略する。
【0089】
図5において、ECU100は、漏洩判定を実行すべき条件であるか否かを判定する(ステップS201)。漏洩判定を実行すべきでない場合(ステップS201:NO)、ECU100、漏洩判定を実行せずに待機し、漏洩判定を実行すべき場合に(ステップS201:YES)、第1実施形態と同様ステップS101以下の漏洩判定を実行する。
【0090】
ここで、実行条件は、冷却水温Twが基準値Twth未満であるか、又は、筒内噴射燃料の噴射圧Pdiが基準値Pdith以上であることとして規定される。前者は、ノッキングが発生し難い運転領域を意味し、後者はKCSセンサ出力Skiが相対的に大きくなり易い運転条件を意味する。従って、これら少なくとも一方が満たされる場合に漏洩判定を行えば、より漏洩判定を高精度に行い得る。
【0091】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う漏洩検出装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、気筒内部に燃料を噴射可能な筒内噴射装置を備えた内燃機関における燃焼ガスの漏洩検出に適用可能である。
【符号の説明】
【0093】
10…エンジンシステム、100…ECU、200…エンジン、202A…シリンダブロック、202B…シリンダヘッド、212…直噴インジェクタ、212A…燃料噴射弁、212B…ノズル、212C…軸シール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開弁時に気筒の内部に燃料を噴射可能な燃料噴射弁を有する筒内噴射装置と、ノッキングによる振動を検出可能なノッキング検出装置とを備えた内燃機関において、前記筒内噴射装置における燃焼ガスの漏洩を検出する漏洩検出装置であって、
前記ノッキング検出装置を介して前記燃料噴射弁の開閉に伴って生じる振動に対応する振動対応値を取得する取得手段と、
前記取得された振動対応値と基準値との偏差に基づいて前記漏洩の有無を判定する漏洩判定手段と
を具備し、
前記漏洩判定手段は、前記偏差が所定値以上である場合に前記漏洩が発生していると判定する
ことを特徴とする漏洩検出装置。
【請求項2】
前記振動対応値は、前記燃料噴射弁の開閉に伴って生じる振動の振幅値であり、
前記漏洩判定手段は、前記振幅値が前記基準値未満であり且つ前記偏差が所定値以上である場合に前記漏洩が発生していると判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の漏洩検出装置。
【請求項3】
前記内燃機関は、複数の気筒を備える多気筒内燃機関であり、
前記筒内噴射装置は、前記複数の気筒のうち複数の気筒に備わっており、
前記漏洩検出装置は、
前記複数の気筒のうち一の気筒について前記漏洩の有無が判定される場合において、前記複数の気筒のうち前記一の気筒を除く残余の気筒における前記振動対応値に基づいて前記基準値を設定する設定手段を更に具備し、
前記漏洩判定手段は、前記一の気筒について取得された前記振動対応値を前記設定された基準値と比較することにより前記漏洩の有無を判定する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の漏洩検出装置。
【請求項4】
前記漏洩判定手段は、前記筒内噴射装置の燃料噴射圧が所定値以上である場合に前記漏洩の有無を判定する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の漏洩検出装置。
【請求項5】
前記漏洩判定手段は、前記内燃機関の機関温度が所定値未満である場合に前記漏洩の有無を判定する
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の漏洩検出装置。
【請求項6】
前記内燃機関は、吸気弁の開弁時において前記気筒の内部に連通する吸気ポートに対し燃料を噴射可能なポート噴射装置を更に具備し、
前記取得手段は、前記ノッキング検出装置を介して、燃料が前記吸気ポートのみから供給される場合における振動に対応するポート噴射時振動対応値を取得し、
前記漏洩検出装置は、
前記取得されたポート噴射時振動対応値に基づいて前記燃料噴射弁の開閉に依存しないノイズの有無を判定するノイズ判定手段を更に具備し、
前記漏洩判定手段は、前記ノイズが無いと判定された場合に前記漏洩の有無を判定する
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の漏洩検出装置。
【請求項7】
前記漏洩判定手段は、前記ノイズが無いと判定された場合に、過去一定の期間にわたる、前記取得されたポート噴射時振動対応値と前記取得された振動対応値との偏差の推移に基づいて、前記漏洩の発生の有無を判定する
ことを特徴とする請求項6に記載の漏洩検出装置。
【請求項8】
前記漏洩判定手段は、前記取得されたポート噴射時振動対応値と前記取得された振動対応値との偏差の変化量が所定値以上である場合に前記漏洩が発生していると判定する
ことを特徴とする請求項7に記載の漏洩検出装置。
【請求項9】
前記漏洩が発生していると判定された場合に、予め前記漏洩を進行させないように設定された退避制御則に従って前記内燃機関を制御する制御手段を更に具備する
ことを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の漏洩検出装置。
【請求項10】
前記制御手段は、前記筒内噴射装置の燃料噴射比率を増加させる
ことを特徴とする請求項9に記載の漏洩検出装置。
【請求項11】
前記制御手段は、前記内燃機関が過給器を備える場合において、該過給器の所定の過給領域における前記内燃機関の出力を制限する
ことを特徴とする請求項9又は10に記載の漏洩検出装置。
【請求項12】
前記制御手段は、前記漏洩が発生していると判定された気筒が初爆気筒とならないように、前記内燃機関の点火時期を変更する
ことを特徴とする請求項9から11のいずれか一項に記載の漏洩検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−225252(P2012−225252A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93389(P2011−93389)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】