説明

澱粉粒又はセルロース粉末固定化リパーゼ及び油脂反応物の製法

【課題】澱粉粒又はセルロース粉末固定化リパーゼ、その製造方法及び油脂反応物の製法を提供する。
【解決手段】澱粉粒の形態を保持した澱粉粒又はセルロース粉末に、酵素リパーゼを混合し、該澱粉粒又はセルロース粉末担体に、粉末状態を維持して、リパーゼを結合させて、澱粉粒又はセルロース粉末固定化リパーゼとすることから成る澱粉粒又はセルロース粉末固定化リパーゼの製造方法、該方法で作製した澱粉粒又はセルロース粉末固定化リパーゼ、該固定化リパーゼを使用して、原料として、油脂及び/又はその分解物と、グルコース、又はオリゴ糖を用いて、当該固定化リパーゼを上記原料に作用させて、油脂反応物を製造することを特徴とする油脂反応物の製法、及びその油脂反応物。
【効果】澱粉粒又はセルロース粉末固定化リパーゼ及びその利用技術を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、澱粉粒又はセルロース粉末に酵素リパーゼを結合させた澱粉粒又はセルロース粉末固定化リパーゼ及びその製法に関するものであり、更に詳しくは、澱粉粒又はセルロース粉末担体に、リパーゼを加え、粉末状態を維持して、混合、結合させて固定化する方法及び該方法によって得られる澱粉粒又はセルロース粉末固定化リパーゼ、更に、この澱粉粒又はセルロース粉末固定化リパーゼに、油脂又はその分解物と、グルコースなどから成る被反応物に作用させて、各種の油脂反応物を製造する方法に関するものである。
【0002】
本発明は、より効率的に、リパーゼを固定化するために、特に、澱粉粒としては、α−アミラーゼ及び/又はグルコアミラーゼを作用させて、その表面に穴を開けた澱粉粒又は粒表面を一部糊化した澱粉粒を用いること、また、澱粉粒表面又はセルロース粉末を、酸化処理した後に、リパーゼを結合させること、また、固定化を強力にするために、卵白、ゼラチン、カゼインナトリウム、ツェインなどのタンパク質で、澱粉粒又はセルロース粉末表面をコーテイングしてから酵素を結合させること、更には、リパーゼと担体を、グルタルアルデヒドで結合させること、並びに、これらの固定化酵素材を使用して、油脂反応物から成る乳化素材を製造すること、を特徴とするものである。
【0003】
本発明の油脂反応物の原料は、大豆油、ナタネ油、コーン油、米油、ゴマ油、オリーブ油、あるいは油脂の分解物である脂肪酸、グリセリンであり、本発明は、これらの加水分解又は逆合成で、油脂反応物を製造する方法、これらの方法により、製造された製品である乳化素材をも対象とするものである。なお、本発明で、結合とは、化学結合である共有結合、イオン結合、疎水結合、単なる吸着結合も含むものである。澱粉粉末は、通常は、澱粉と呼称され、澱粉粒の形態である。損傷澱粉粒、破砕澱粉も含まれることもあるが、本明細書では、澱粉、澱粉粒、澱粉粉末は、澱粉粒の形態を有している澱粉を意味するものとして同義として取扱うものとする。
【背景技術】
【0004】
従来から、酵素の固定化技術としては、各種の方法がある(非特許文献1)。DEAEなどのイオン交換樹脂に結合させた方法として、例えば、酵素セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼを、イオン交換樹脂に固定化し、該固定化酵素を用いてグリシンとホルムアルデヒドからL−セリンを製造する方法がある(特許文献1)。
【0005】
N,N’−メチレン−ビス(メタクリルアミド)・グリシジルメタクリレート・アリルグリシジルエーテル・メタクリルアミド共重合体に、固定化されていることを特徴とする、枯草菌由来の酵素を固定化した、固定化アセチルハイドロラーゼがある(特許文献2)。
【0006】
酵素タンパク質のカルボキシ末端側に、システイン残基をカルボキシ末端とする数個のアミノ酸残基から成るアミノ酸配列を導入して、改変酵素タンパク質を調製した後、そのカルボキシ末端のシステイン残基におけるメルカプト基を介して、固定化担体に結合させることにより、固定化酵素を製造する方法がある(特許文献3)。
【0007】
再生粒状多孔質キトサン担体に対し、ビニルアルコールのアルキルエーテルと無水マレイン酸との共重合体溶液を、該担体1乾燥重量部に対し、0.05〜0.60乾燥重量部反応させた後、該溶液を除去し、次いで、酵素水溶液を加え、酵素を固定化した固定化酵素の製造方法がある(特許文献4)。
【0008】
寒天を用いて調製した寒天ゲルを、固定化担体として、多点結合法により、酵素を固定化する方法、すなわち、寒天ゲルに、グリシドール(2,3−エポキシプロパノール)を反応させて、プロパンジオール基を導入し、次いで、過ホウ素酸ナトリウムを反応させて、アセトアルデヒド基とした後、酵素を固定化することを特徴とする固定化酵素の製造方法がある(特許文献5)。
【0009】
固定化を強力にする手法としては、グルタルアルデヒド架橋法がある。グルタルアルデヒドは、生化学や形態学など、生物学分野においては、固定液として利用される。特に、電子顕微鏡観察用の標本調製では、固定力が強く、細胞の微細構造をよく保存するので、基本的な固定液として重要である。
【0010】
上記架橋法では、固定液としての主要な反応は、タンパク質のリジン残基のε−アミノ基との間で起こるが、α−アミノ基やSH基との間でも起こり、分子間架橋を形成し、1つのグルタルアルデヒド分子が単独で架橋形成を起こせるとは考えられていない。水溶液中に形成された2量体や3量体といった重合体や、それらがアルドール縮合を起こした不飽和アルデヒドが、分子間架橋を形成すると考えられている。
【0011】
この性質を利用した、酵素の担体への結合については、極めて多くの研究・開発例がある。例えば、固定化ヒスタミンオキシダーゼがあるが、これは、担体への結合が、多孔性アルキルアミノ化ガラス、多孔性アミノ化ポリアクリロニトリル及び多孔性アルキルアミノ化セラミックスから成る群より選ばれた少なくとも1種によるものであることを特徴としたものである(特許文献6)。
【0012】
不織布、バイオキューブ、セライト、キトパール、ウレタンフォームを用い、固定化担体と固定化法について検討した例もある(非特許文献2)。また、ヘミセルラーゼを、グルタルアルデヒド処理によって多孔性ガラスに固定化し、また、カルボジイミド処理によってシリカゲルに固定化することを試み、多孔性ガラスに固定化することで、高い酵素活性が得られている(非特許文献3)。
【0013】
キシラナーゼの固定化において、キトサンを担体として、グルタルアルデヒド処理によって固定化した酵素は、高い操作安定性を示したという報告もある(非特許文献4)。また、キシラナーゼの固定化を行い、グルタルアルデヒド架橋処理によってダイヤイオンHP200に固定化した例がある(非特許文献5)。
【0014】
キシラナーゼをガラスビーズに固定化し、酵素の熱安定性が向上することを明らかにした報告もある(非特許文献6)。また、蟻酸酸化酵素をシリカゲルに、グルタルアルデヒド架橋法により、固定化した例がある(非特許文献7)。
【0015】
グルタルアルデヒド架橋法により、キトサンビーズにクレアチニンデイミナーゼを固定化した例がある(非特許文献7)。また、作用極の上に、グルタルアルデヒド架橋牛血清アルブミン膜及びグルコースオキシダーゼ含有光架橋樹脂膜を順次形成せしめてなる尿糖バイオセンサがある(特許文献7)。
【0016】
油脂分解用酵素を、固定化用担体に吸着固定化した後、脂溶性脂肪酸、又はその誘導体を溶解した有機溶剤に接触させることにより、担体重量に対して、1〜20%の残存水分量になるように酵素水分を調整する固定化酵素の製造方法がある(特許文献8、その他多数)。
【0017】
本方法では、固定化用担体として、セライト、ケイソウ土、カオリナイト、シリカゲル、モレキュラーシーブス、多孔質ガラス、活性炭、炭酸カルシウム、セラミックスなどの無機担体、セラミックスパウダー、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、キトサン、イオン交換樹脂、疎水吸着樹脂、キレート樹脂、合成吸着樹脂などの有機高分子などが挙げられ、特に、イオン交換樹脂が望ましい、とされている。
【0018】
エピクロルヒドリンで架橋した澱粉、エピクロルヒドリンで架橋したグアーガム及びセルロースの中から選ばれた少なくとも1種の物質を充填したカラムに、水又は硫酸アンモニウムの溶液中で、糖質関連酵素を吸着させ、硫酸アンモニウム溶液で洗浄して、該酵素以外の不純物を除去した後、水又は緩衝液を用いて、該吸着酵素を溶離して回収することを特徴とする高純度糖質関連酵素の製造方法、並びに該酵素を用いる固定化糖質関連酵素の製造方法がある(特許文献9)。
【0019】
本方法では、特定の物質をカラムに充填し、流速が保持できる酵素吸着用担体を用いて、水又は硫安溶液中で、糖質関連酵素を吸着し、酵素以外の不純物を同溶液で洗浄・除去して、酵素結合ゲル、酵素結合物とし、純水又は緩衝液で、該酵素を溶離して、精製酵素を得ている。更に、該酵素を各種の固定化基材と混合し、ゼラチンなどで結合させて、固定化酵素製材としている。
【0020】
澱粉をジアルデヒド化するためには、通常、澱粉を溶解して反応させる(非特許文献9)。澱粉を、水媒体中にて、触媒の存在下、過酸化物を使用して、酸化反応を行う際に、一旦、澱粉を含む水媒体を当該澱粉の糊化開始温度以上に加熱して糊化した後、糊化開始温度以下の温度に冷却し、次いで、過酸化物を供給して反応を行なうことを特徴とする澱粉の酸化方法もある(特許文献10)。この澱粉は、固定化担体に利用できる可能性がある。
【0021】
澱粉粒、セルロース粉末を担体として、リパーゼを作用させる方法は、本発明者らによる先願(特許文献11)で提案されている。すなわち、該方法は、リパーゼの反応にも適用でき、例えば、粉末担体に基質の脂肪酸と糖アルコールを噴霧混合し、50〜60℃で密閉静置反応すれば、脂肪酸エステルを製造することができる。
【0022】
リパーゼの反応での基質の組合せを、デキストリンとグルコース、フルクトースなど単糖、糖アルコール、ポリフェノール、ステロイドなどの水酸基を持つ食品成分などに換えて、サイクロデキストリン合成酵素の作用を利用すれば、各種の糖転移物が得られる。また、プラナーゼ、イソアミラーゼによる糖転移反応、α−アミラーゼ、グルコアミラーゼによる糖転移反応、ペプチダーゼによるアミノ酸転移反応も、水が粒表面に局在するために効率的に進行することで、その利用も可能である。
【0023】
上記方法は、担体表面を反応の場としたものであり、担体に酵素を固定化したものではない。したがって、該方法では、酵素剤の繰り返し利用は考慮されていないし、ましてや、澱粉粒、セルロース粉末担体に、粉末状態を維持して、リパーゼを固定化し、油脂、油脂分解物、糖質などと液状で作用させて製品を製造する方法は、予想だにできないものである。
【0024】
また、リパーゼは、水溶液中では、作用し難く、その生成物の収率が小さく、リパーゼが失活し易いという大きな問題点がある。有機溶媒中で、リパーゼの安定性は高く、作用、特に、合成作用が促進される。そこで、有機溶媒中でも作用するリパーゼの開発が進み、有機溶媒可溶化リパーゼ調製法が確立されている(特許文献12、13)。これらは、界面活性剤で処理して有機溶媒に可溶性としたリパーゼを、有機溶媒中で糖質と脂肪酸及び/又は油脂の混合物に作用させることを特徴とする糖質−脂肪酸複合体の製造方法であり、界面活性剤が、ジドデシルグルコシルグルタメイトであることを特徴とする方法である。
【0025】
一般に、酵素を不溶性担体に固定化する方法としては、大別して、3種の方法がある。すなわち、1)酵素と担体を共有結合、イオン結合、物理的吸着あるいは生化学的な特異性や親和性により結合させる担体結合法、2)2個又はそれ以上の官能基を持つ試薬、例えば、グルタルアルデヒドなどを介して、酵素分子と担体を結合させる架橋法、3)ゲルの格子中に酵素を包み込む「格子型」や、半透膜性ポリマーの皮膜、リポソームや中空繊維に酵素を封じ込む「マイクロカプセル型」形成法、である(非特許文献10)。
【0026】
通常、リパーゼ分子が、活性を発現するのに必要な高次構造を維持する上で、有機溶媒は、最小限の水を添加しなければならない。リパーゼの機能発現には、水分の存在が必須であり、水のない系では、反応は起こらない。一般に、水分が10%以上では、加水分解反応に有利であり、1%以下では、エステル合成反応、エステル交換反応に有利であり、水分の量は、リパーゼの種類、基質の種類、反応条件により、反応様式、効果が異なる。
【0027】
普通、食用に使用されている油脂には、動物由来のものと、植物油来のものがある。動物由来のものの多くは、脂肪と呼ばれ、比較的融点の高い固型脂が大勢を占める。その融解点は、ほぼその動物の体温に近く、乳脂であるバターでは30℃前後、牛脂では35−50℃、豚脂では28−48℃程度である。これに対し、植物油来の油は、椰子油、パーム油、パーム核油のように、20−30℃で流動化する植物油を除いて、ほとんどの食用油脂は、常温(15℃)付近では液状である。魚油の多くは、室温で液体状態である。
【0028】
従来からの食用油脂の改質、加工技術の主たるものには、3種ある。すなわち、1.水素添加、油脂の硬化(Hydrogenation)、2.固液油脂の分別(Fractionation)、3.エステル交換(分子間,分子内,Inter−,Intra−esterification)、である。
【0029】
上記3の作用様式としては、更に、3つの交換作用に区別され、1)エステル交換(Interesterification,Transesterification):トリアシルグリセロール同士、あるいは、他の脂肪酸エステルとの間で、脂肪酸基を交換する作用、2)アシドリシス(Acidolysis):トリアシルグリセロールや脂肪酸エステルと、遊離脂肪酸を反応させて、その結合脂肪酸基を取り替える作用、3)アルコリシス(Alcoholysis):油脂とアルコールの作用、である。これらは、低級アルコール、メタノール、エタノールなどの低級アルコール、ソルビトールやショ糖などの糖質と油脂を反応させて、食品用界面活性剤を合成したりするのに応用される。
【0030】
このように、固定化酵素の生産には、各種の方法があり、各種の原料から各種の生産物が製造されている。しかし、これらの固定化酵素の生産方法は、高コストで、煩雑な工程があり、更に、固定化酵素への生産物の吸着、不要物の混入の可能性があり、目的の素材が効率的に得られないなどの不利な面もあるのが実情である。一方、澱粉粒は、安定性に優れ、食品素材として、安全で、大量に生産され、これを、固定化酵素の担体として利用できれば、酵素作用で生成されたものを担体に含めた全体利用が可能であり、要すれば、分離も簡単であり、安全性にも優れた製品となると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0031】
【特許文献1】特開平8−84593号公報
【特許文献2】特開2002−266号公報
【特許文献3】特開平8−33485号公報
【特許文献4】特開平11−164687号公報
【特許文献5】特開平11−56357号公報
【特許文献6】特開2002−264号公報
【特許文献7】特開平9−159645号公報
【特許文献8】特開2006−136258号公報
【特許文献9】特開平8−116970号公報
【特許文献10】特開平9−188704号公報
【特許文献11】特願2007−233463
【特許文献12】特許第2913010号公報
【特許文献13】特開平8−245680号公報
【非特許文献】
【0032】
【非特許文献1】一島英治、『酵素の化学』、朝倉書店、p.122−134、1995年
【非特許文献2】学位論文筑波大学、博乙第2288号、平成19年3月23日
【非特許文献3】Trans.Tech.Sect.Can.Pulp Pap.Assoc.Vol.3,TR64(1977)
【非特許文献4】Appl.Biotecnol.,38,69(1993)
【非特許文献5】発酵工学会誌,69(3),151(1991)
【非特許文献6】Biochem.J.,277,413(1991)
【非特許文献7】愛知県産業技術研究所報告(2008)
【非特許文献8】分析化学,54(12),1205−1210(2005)
【非特許文献9】日本応用糖質科学会誌、Vol.46、pp.407−412(1999)
【非特許文献10】Trends Food Science Technology,7,279(1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0033】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、簡便な方法で、食品製造に安全な固定化酵素と、これを利用した安全な食品素材の製造法を開発することを目標として鋭意研究を重ね、食品素材の生産用に好適な材料として、澱粉とセルロースを選択し、これらに、酵素リパーゼを結合させることを試みた結果、条件により、澱粉粒に直接結合させ、固定化した固定化リパーゼが得られ、また、該固定化リパーゼを、疎水環境で、基質に作用させることにより、目的の食品素材が生成することを初めて見出し、本発明を完成するに至った。
【0034】
本発明は、澱粉粒又はセルロース粉末に、リパーゼを結合させることを特徴する澱粉粒又はセルロース粉末固定化リパーゼの製法又はその澱粉粒又はセルロース粉末固定化リパーゼを提供することを目的とするものである。また、本発明は、上記澱粉粒又はセルロース粉末固定化リパーゼを使用して、油脂及び/又はその分解物と、グルコース、又はオリゴ糖の被反応物を用いて、当該固定化リパーゼを上記原料に作用させて、油脂反応物を製造することを特徴とする油脂反応物の製造方法及びその油脂反応物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0035】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)澱粉粒の形態を保持した澱粉粒又はセルロース粉末に、酵素リパーゼを混合し、該澱粉粒又はセルロース粉末担体に、粉末状態を維持して、リパーゼを結合させて、澱粉粒又はセルロース粉末固定化リパーゼとすることを特徴する澱粉粒又はセルロース粉末固定化リパーゼの製造方法。
(2)澱粉粒に、リパーゼの水又はエタノール水溶液を、澱粉粒重量当たり5〜40%加えて混合して、当該澱粉粒に、粉末状態を維持して、リパーゼを結合させて固定化リパーゼとする、前記(1)に記載の澱粉粒固定化リパーゼの製造方法。
(3)澱粉粒に、α−アミラーゼ及び/又はグルコアミラーゼを作用させて、その表面に穴を開けた澱粉粒又は粒表面を一部糊化した澱粉粒を用いる、前記(1)又は(2)に記載の澱粉粒固定化リパーゼの製造方法。
(4)澱粉粒表面又はセルロース粉末を、酸化処理した後に、リパーゼを結合させる処理を行う、前記(1)から(3)のいずれかに記載の澱粉粒又はセルロース粉末固定化リパーゼの製造方法。
(5)澱粉粒又はセルロース粉末表面をタンパク質でコーテイングしてから、リパーゼを結合させる処理を行う、前記(1)から(4)のいずれかに記載の澱粉粒又はセルロース粉末固定化リパーゼの製造方法。
(6)タンパク質が、卵白、ゼラチン、カゼインナトリウム、又はツェインである、前記(5)に記載の澱粉粒又はセルロース粉末固定化リパーゼの製造方法。
(7)リパーゼと担体を、グルタルアルデヒドで結合させる、前記(5)に記載の澱粉粒又はセルロース粉末固定化リパーゼの製造方法。
(8)前記(1)から(7)のいずれかに記載の方法で、澱粉粒又はセルロース粉末担体に、粉末状態を維持して、酵素リパーゼを結合させて固定化リパーゼとしたことを特徴とする澱粉粒又はセルロース粉末固定化リパーゼ。
(9)前記(8)に記載の固定化リパーゼを使用して、原料として、油脂及び/又はその分解物と、グルコース、又はオリゴ糖の被反応物を用いて、当該固定化リパーゼを上記原料に作用させて、油脂反応物を製造することを特徴とする油脂反応物の製造方法。
(10)油脂が、大豆油、ナタネ油、コーン油、米油、ゴマ油、又はオリーブ油であり、油脂の分解物が、脂肪酸、又はグリセリンである、前記(9)に記載の方法。
(11)前記(8)に記載の固定化リパーゼを、油脂及び/又はその分解物と、グルコース、又はオリゴ糖から成る被反応物に作用させて作製した反応生成物から成ることを特徴とする油脂反応物。
(12)油脂反応物が、乳化剤である、前記(11)に記載の油脂反応物。
【0036】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、澱粉粒又はセルロース粉末に、リパーゼを結合させることを特徴する澱粉粒又はセルロース粉末固定化リパーゼの製法又はその固定化リパーゼであり、固定化するための条件として、澱粉粒に、水又はエタノール水溶液を、澱粉粒重量当たり5〜40%加えて、リパーゼを混合、結合させること、また、固定化を強くするために、α−アミラーゼ及び/又はグルコアミラーゼを作用させて、その表面に穴を開けた澱粉粒又は粒表面を一部糊化した澱粉粒を用いること、また、結合を強化するために、澱粉粒表面又はセルロース粉末を酸化処理した後に、リパーゼを結合させること、更に、澱粉粒表面又はセルロース粉末の表面を、タンパク質素材でコーテイングし、グルタルアルデヒドで処理して、リパーゼを結合すること、などを特徴とするものである。
【0037】
本発明では、澱粉粒は、分散状態にしてから、高温処理する。この状態以外では、溶解・糊化して、本発明の方法の適用が困難となる。このような場合、粒構造をとらせ、表面が液に浸漬したときに溶解しないようにすればよい。また、本発明では、上述の酵素材を使用して、油脂、油脂水解物、グルコース、オリゴ糖を用いて、油脂反応物から成る乳化素材を製造する。
【0038】
本発明では、澱粉粒又はセルロース粉末に、水分を少なくするようにして、リパーゼのエタノール水溶液を混合、撹拌して、リパーゼを結合させ、粉末状態(油液中では分散している状態)を維持して、原料に作用させる。リパーゼの量と種類は、任意であり、目的に応じて、適宜選択する。エタノール濃度についても、任意である。
【0039】
澱粉粒又はセルロース粉末に添加する水又はエタノール溶液の量を調整することが肝要であり、適量は、澱粉粒又はセルロース粉末に対して、5〜40%であり、30%が好適である。水又はエタノールを、これ以上添加すると、45%程度で澱粉が団子状に固まり、50%では揺変性(チキソトロピー、Thixotropie)で、これ以上の水の添加では、液状を呈し、このままでは、本発明の方法では使えない。しかし、室温で通風乾燥すれば、使えるようになる。
【0040】
穴あき澱粉粒の製法には、本発明者ら(深井、高木、小林)の方法[日本農藝化學會誌,68(4),793−800(1994)]があり、本発明では、該方法を利用することができ、この穴あき澱粉粒を、本発明では、空洞澱粉と呼称する。
【0041】
澱粉粒表面を糊化させる方法は、先願(特願2007−233463)に掲載されている。すなわち、本発明では、澱粉粒に、水又は水溶液を、澱粉粒重量当たり30%程度に添加して、大気中、高温で焙焼することにより、澱粉粒表面を糊化させる方法が適宜用いられる。
【0042】
タンパク質の表面コーテイング素材としては、卵白が好適に利用できる。卵白のタンパク質は、オボグロビン、オボアルブミン、糖タンパクからなり、62℃で、凝固し、80℃以上で、完全に凝固する。卵白は、約89%が水分であるが、水を加えると、白濁する。少量の食塩を加えて、生理的食塩水程度の食塩濃度にすると、透明に溶解するので、この状態で、澱粉粒又はセルロース粉末を混合して、コーテイングする。
【0043】
コーテイング用のタンパク質溶液の濃度は限定されないが、均等被覆には、2.5〜20%が好適である。なお、コーテイングの際の添加量は、澱粉粒の場合は、30〜40%、セルロース粉末では、50%程度が好適であり、粉末状を維持することが可能となる。粉末状で、高温処理することにより、分散状の澱粉粒又はセルロース粉末が得られる。
【0044】
また、タンパク質素材に、糖質が混入していると、高温処理によるメイラード反応で、着色することがあるが、着色状態でも、本発明の方法は適用することができる。プロラミン蛋白は、含水アルコールに可溶な蛋白であり、トウモロコシ由来のプロラミンは、ツェイン(ゼイン)と呼称される。ツェイン蛋白は、50%エタノール水溶液に、5%濃度に溶解してコーテイングする。
【0045】
カゼインは、牛乳タンパク質の1つで、カゼイン自体は、水に溶けないので、アルカリで中和し、ナトリウム塩とした水溶性のカゼインナトリウムが製品化されているので、これを利用することができる。ゼラチンは、動物の皮膚や骨に含まれる結合組織を構成する繊維性蛋白質の1種であるコラーゲンを、温水で加熱抽出することにより得られる、変性させたコラーゲンであり、水溶性タンパク質である。
【0046】
本発明では、リパーゼの作用を大別して、加水分解作用(油脂の主成分であるトリアシルグリセロールの加水分解反応で、遊離脂肪酸とモノアシルグリセロールやグリセロールが生成する)、及び逆合成作用、を利用するものであり、加水分解作用又はアルドシスの作用と、両作用を併用するものも含まれる。また、油液中で分散し、リパーゼが反応中に離脱しないような素材であれば、何れでも、本発明を適用でき、例えば、粉あめ、乳糖などの糖質でも、適用可能である。
【0047】
リパーゼには、各種あるが、何れでも利用できる。例えば、酵素リパーゼ(天野エンザイム製 リパーゼAY「アマノ」30G)33mg(1000IU)を50%エタノール水溶液1mLに溶解すると、僅かに懸濁状液となる。この600μLをコーンスターチ2gに加えて、撹拌、混合して、室温で、2時間放置して、固定化リパーゼとして用いることができる(これをSIL1、スイル1と記載することがある)。
【0048】
セルロース微粉末(アビセルセルロース)2gに、同様にして、リパーゼを固定化できるが、油液中での反応を続けると、リパーゼが脱離しやすい(これをCIL1、セイル1と記載することがある)。澱粉粒固定化リパーゼのみのカラムでは、固着して反応液を流動させることができなくなる。セルロース粉末は、澱粉粒固定化リパーゼが、油液中での反応の際の固着を防止するために有用であり、特に、カラムに詰めて使用する際には、SIL1とCIL1を、当量混合すれば、反応液の流速を維持することが可能となる。CIL1の代わりに、セルロースを利用してもよい。
【0049】
SIL1は、油液中での反応を繰り返すと、酵素の脱離が起こりやすい。リパーゼの油脂分解反応を指標とした場合、バッチ式反応、活性発現が半分となる、45℃、14時間での反応回数は、2回程度であった。そこで、澱粉粒表面を、α−アミラーゼで処理[日本農藝化學會誌Vol.68,No.4(1994)pp.793−800]して、穴あき澱粉粒とし、これに、SIL1の調製法に準じて、固定化(これをSIL2と記載することがある)すれば、3回程度までに強化することができる。更に、澱粉粒が、粉末状態を維持できる程度に、水分を加えて、高温処理して、表面を糊化させた澱粉粒を用い、固定化したものも調製することが可能である(これをSIL3と記載することがある)。
【0050】
結合を、より強くするための手段としては、糖質の特性を利用したものが適当であり、グルコースのポリマーである場合、2、3位の水酸基を、酸化により、アルデヒド基として、酵素のアミノ基と結合させることが好ましい。固定化を強化する方法として、卵白、ゼラチン、カゼインナトリウム、ツェインなどのタンパク質で、澱粉粒又はセルロース粉末表面を、コーテイングしてから、酵素を結合させる、酵素と担体を、グルタルアルデヒドで結合させる方法も含まれる。
【0051】
澱粉粒としては、コーンスターチ(ワキシ、ハイアミロース)、馬鈴薯、甘藷、タピオカ、サゴなど、粒構造を維持しているもの、反応媒体中で粒構造物で、リパーゼを保持できるものであれば、何れでも、本発明を適用することができる。反応液中で固定化酵素が固まりになるのを防止するには、また、カラムに詰めて、少量の水を供給するためには、5〜10%のエタノール水溶液を流してから使用する。
【0052】
澱粉粒を、カラムに詰めたり、液状で作用させるとき、水分含有量により固着する傾向がある。これを防止するために、空隙を均一に存在させることが有効であり、食品素材の生産に適当な素材として、セルロースが最適と考えられる。この他、活性炭、グラスビーズなどでも利用できるが、作用終了後の処理に、手数がかかる可能性がある。
【0053】
上述のように、リパーゼの種類は、極めて多く、作用様式も異なるので、目的により、適宜選択するが、本発明の方法では、リパーゼの種類に、制限はない。また、リパーゼ産生菌体を直接用いることも可能であるが、効率は高くない可能性がある。リパーゼの量は、任意であり、特に、合成を目的とした場合は、リパーゼの作用を増強させることが望ましい。
【0054】
また、本発明は、本発明の固定化リパーゼで、乳化素材又は乳化剤様の食品素材を製造する方法で、原料として、油脂及びその分解物、グルコース、オリゴ糖を用いることを特徴とするものである。油脂としては、大豆油、ナタネ油、コーン油、米油、ゴマ油、オリーブ油を挙げたが、この他、動物油脂、椰子油、パーム油、パーム核油など、固形油脂でも、作用温度で融解するものであれば、効果的に利用でき、油脂の種類には、限定されない。
【0055】
また、油脂の分解物は、完全加水分解すれば、脂肪酸とグリセリンになるが、一部水解物も、利用できる。本作用により、脂肪酸、モノアシルグリセロールやジアシルグリセロール、トリアシルグリセロール、グリセロールの混合物が得られ、澱粉粒又はセルロースを除去するのは簡単であり、得られる製品は、このままでも食品加工に利用できる。水分量を多く含ませるために、液状反応では、10%程度の水を油脂に添加し、撹拌・混合をよくする。
【0056】
また、油脂から生成した脂肪酸と、グルコース、オリゴ糖を混合して、本発明の固定化リパーゼを作用させれば、各種のエステルが生成し、これら生成物全体が、乳化素材、又は乳化剤様食品素材となる。この場合は、反応液中の水分含量が、1%以下になるようにする。
【0057】
油脂と、糖質、水酸基を持つポリフェノール、ステロールなどの食品成分を混合して、水分含有量を5%以下に抑制することができれば、加水分解と同時に、逆合成も起こり、各種の乳化性食品素材が生成する。要すれば、本発明で生産された乳化素材から、各種成分を分離して、製品化することもできる。
【0058】
次に、具体的な固定化リパーゼを用いた乳化剤の調製法の一例を示す。リパーゼ(天野エンザイム製 リパーゼAY「アマノ」30G)33mg(1000IU)を、50%エタノール1mLに溶解する。この600μLを、コーンスターチ2gに加えて、撹拌、混合して、室温で2時間放置する。更に、グリセリン300mgを加えて、撹拌、混合し(粉末状を維持している)、これを、バイアルに入れ、3mLのリノール酸を加えて、マグネチックスターラーで、45℃、14時間、撹拌する(澱粉粒は、バイアルの底で噴煙状に動き、油層表面は、緩慢に動いている)。なお、グリセリンは、リノール酸に直接混合することも可能である。グルコースなどの粉末は、50%エタノール溶液に溶解して、コーンスターチに混合するか、本溶液を、直接リノール酸に加えることも可能である。
【0059】
リパーゼの作用評価法について説明すると、HPLCによって、反応生成物をRIで測定し、元の油脂成分のピーク面積を100として、生成ピーク面積から、生成率を求める。なお、油脂は、HPLCでは、ピークが出現しないので、同量のリノール酸100μLでのピーク面積を100とする。
【0060】
装置と測定条件について説明すると、HPLCによる脂肪酸の分析には、カラムオーブン(CTO−10Avp,島津製作所(株))、ポンプ(LC−10ADvp,島津製作所(株))、オートインジェクター(SIL−10ADvp,島津製作所(株))、示差屈折検出器(RID−10A,島津製作所(株))、紫外吸収検出器(SPD−M10Avp,島津製作所(株))、カラム(Mightysil RP−18−GP,φ4.6mm x 250mm(5μm),関東化学(株))からなる高速液体クロマトグラフを用いる。
【0061】
サンプルは、オートインジェクターを用いて、100μLをインジェクターに注入する。分析の条件は、流速1.0mL/min、波長210nm、カラム温度25℃、室温20℃で測定を行う。溶離液は、アセトニトリル:0.1%(v/v)リン酸水溶液=80:20を用いる。
【0062】
次に、ナタネ油のリパーゼ反応の一例について説明する。リパーゼ(天野エンザイム製 リパーゼAY「アマノ」30G)33mg(1000IU)を、50%エタノール1mLに溶解する。この600μLを、コーンスターチ2gに加えて、撹拌、混合して、室温で、2時間放置する。これを、バイアルに入れ、3mLのナタネ油(日本油脂社製)を加えて、マグネチックスターラーで、45℃、14時間、撹拌する(澱粉粒は、バイアルの底で噴煙状に動き、油層表面は、緩慢に動いている)。なお、澱粉粒に固定化しない遊離酵素(50%エタノール溶液に溶解した酵素液)でも、600μLを、3mLのナタネ油に混合して、撹拌、反応させると、同等以上の生成率であるが、酵素の回収は、困難である。
【0063】
本発明の方法では、酵素のリサイクルが可能であり、反応物全体が、食品素材として利用できるものであることが特徴である(化学試薬処理した場合、化学架橋剤を使用した場合は、除く)。図1に、ナタネ油100μLのHPLCプロファイルを示す。また、図2に、リパーゼ反応ナタネ油のHPLCプロファイルを示す。
【0064】
次に、反応条件及び操作について説明する。リパーゼ(天野エンザイム製 リパーゼAY「アマノ」30G)33mg(1000IU)を、50%エタノール1mLに溶解する。この600μLを、コーンスターチ2gに加えて、撹拌混合して、室温で、2時間放置する。更に、グリセリン300mgを加えて、撹拌、混合し(粉末状を維持している)、これを、バイアルに入れ、3mLのリノール酸を加えて、マグネチックスターラーで、45℃、14時間、撹拌する(澱粉粒は、バイアルの底で噴煙状に動き、油層表面は、緩慢に動いている)。
【0065】
本例では、新しく出現したピークの総和を、元のリノール酸ピークで除した値は、0.1程であり、リノール酸の10%程が、変換したことになる。この条件では、油状部分の採取が困難(澱粉部分が混入する)であるが、油液状反応の場合、3mLの油脂素材・成分に対して、1g以下を用いれば、油状部分の採取が容易となる。
【0066】
図3に、リノール酸100μL(リノール酸保持時間17.436分)のHPLCプロファイルを示す。図4に、グリセリン100μL(グリセリンピークは、ボイドボリューム)のHPLCプロファイルを示す。図5に、グルコース100μL(グルコースピークは、ボイドボリューム)のHPLCプロファイルを示す。図6に、SIL12gでの反応生成物示すHPLCプロファイル(新しく出現したピークは、11.771、12.928、15.504、16.103)を示す。
【0067】
次に、乳化能の評価方法について説明する。評価は、着色油又は着色液を用いて、以下の手順により行う。着色油は、アスタキサンチン−オキアミ色素1%含有製品(マリン大王製)500mgを、市販サラダ油5mLに混合撹拌した溶液である。本着色油は、室温放置で、1ヶ月以上安定である。
(1)酵素反応物1mLを、10mLバイアルに秤取り、水5mLを加えて撹拌する。
(2)これに、着色油100μLを加えて、1分間、振盪撹拌し、その後、1時間室温で静置する。
(3)着色油の色の、水層への分散程度を観察して、++:全体によく着色、+:局部的に着色、±:僅かに着色、−:表層又は下層に着色液が残存している、の4段階で評価する。
【0068】
水5mLに、各素材・成分と、着色油100μLを加え、手で1分間振盪、撹拌し、室温で、1時間静置して観察した。なお、乳化剤として用いたものは、グリセリン脂肪酸エステル製剤であり、以下の3種である。ここでは、以下の表1の記載を含めて、各グリセリン脂肪酸エステル製剤を、「クエン酸モノグリ」などのように略記して示す。
1.クエン酸モノグリ(理研ビタミン(株)ポエムK−30 HLB 3.0)
2.コハク酸モノグリ(理研ビタミン(株)パンマック200V)
3.ジアセチル酒石酸モノグリ(理研ビタミン(株)ポエムW−90VP)
【0069】
表1に、固定化リパーゼ反応物の乳化能(水に対するアスタキサンチンの分散性)を示す。
【0070】
【表1】

【0071】
以上のように、本発明は、食品素材の製造に適した固定化リパーゼ及びその製造方であり、澱粉粒又はセルロースに、リパーゼを結合させる方法、澱粉粒又はセルロース粉末固定化リパーゼ、また、この固定化リパーゼを利用して、油脂、その他の素材・成分から、乳化素材を製造する方法を提供するものとして有用である。
【発明の効果】
【0072】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)澱粉粒又はセルロース粉末固定化リパーゼを製造し、提供することができる。
(2)固定化の方法は、例えば、澱粉粒に、リパーゼの水又はエタノール水溶液を、澱粉粒重量当たり5〜40%加えて、混合、結合させるものであり、極めて簡便、低コストである。
(3)澱粉粒に、α−アミラーゼ及び/又はグルコアミラーゼを作用させて、その表面に穴を開けた澱粉粒又は粒表面を一部糊化した澱粉粒を用いることで、固定化を増強することができる。
(4)澱粉粒表面又はセルロース粉末を、酸化処理することで、固定化を増強することができる。
(5)卵白、ゼラチンなどのタンパク質で、澱粉粒又はセルロース粉末表面をコーテイングしてから、酵素を結合させることにより、固定化を増強することができる。
(6)タンパク質素材でコーテイングし、グルタルアルデヒドで処理することにより、固定化を強化することができる。
(7)本発明の固定化リパーゼにより、油脂及びその分解物と、グルコース、オリゴ糖から成る被反応物を用いて、乳化素材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】ナタネ油のHPLCプロファイルを示す。
【図2】リパーゼ反応ナタネ油のHPLCプロファイルを示す。
【図3】リノール酸のHPLCプロファイルを示す。
【図4】グリセリンのHPLCプロファイルを示す。
【図5】グルコースのHPLCプロファイルを示す。
【図6】SIL1での反応生成物のHPLCプロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0074】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0075】
澱粉粒の形態を保持したコーンスターチ粉末2gに、酵素リパーゼ(天野エンザイム製 ニューラーゼ・F3G)50mgを蒸留水1mLに溶解した酵素溶液600μLを加えて、混合、撹拌した。この混合物は、粉末状態を維持していた。これを、2時間、室温で放置し、乾燥して、コーンスターチにリパーゼを結合させた澱粉粒固定化リパーゼを調製した。次に、本粉末の1gを、3mLのナタネ油に加えて、40℃で、24時間、撹拌して反応させた。
【0076】
その100μLを、HPLCで分析、測定した結果、加水分解率(以下、水解率と記載することがある。)は、40%であった。対照試験として、同じ酵素溶液を、同様にして3mLのナタネ油に反応させた場合の水解率は、50%であった。上記試験区の澱粉部分を、遠心分離して集め、新たに3mLのナタネ油を加えて、同様にして、反応させた結果、水解率は、20%程度になった。すなわち、本澱粉粒固定化リパーゼの半減回数は、2回ということになる。50%エタノール溶液に、上記酵素を溶解して用いた場合、その発現活性は、やや高まる傾向となった。
【実施例2】
【0077】
深井・高木・小林の方法[日本農藝化學會誌,68(4),793−800(1994)]で、コーンスターチから調製した空洞澱粉乾燥粉末を用いて、該粉末2gを、酵素リパーゼ(天野エンザイム製 ニューラーゼ・F3G)30mgを50%エタノール溶液600μLに加えて、混合、撹拌した。この混合物は、粉末状態を維持していた。これを、2時間、室温で放置し、乾燥して、空洞澱粉にリパーゼを結合させた澱粉粒固定化リパーゼを調製した。これを、実施例1と同様に、反応、及び測定を行って、50%の水解率と、半減回数3回という結果を得た。
【実施例3】
【0078】
コーンスターチを、文献記載の方法[日本応用糖質科学会誌、Vol.46、pp.407−412(1999)]に準拠して、酸化処理した。すなわち、コーンスターチ懸濁液(10g/500mL)に、100mM過ヨウ素酸ナトリウム500mLを、4℃、一夜、暗所で撹拌して反応させて、酸化処理を行った。反応後、500mLの蒸留水で、3回洗浄して、洗浄後、これを室温で風乾して、粉末状とし、その後、105℃で、乾燥して、サラサラの粉末とした。この粉末2gを用い、実施例1と同様にして、固定化リパーゼを調製し、反応、及び測定を行って、50%の水解率と、半減回数5回という結果を得た。
【実施例4】
【0079】
セルロースを、文献記載の方法[日本応用糖質科学会誌、Vol.46、pp.407−412(1999)]に準拠して、酸化処理した。すなわち、セルロース懸濁液(10g/500mL)に、100mM過ヨウ素酸ナトリウム500mLを、4℃、一夜、暗所で撹拌して反応させて、酸化処理を行った。反応後、500mLの蒸留水で、3回洗浄して、洗浄後、室温で風乾して、粉末状とし、その後、105℃で、乾燥し、サラサラの粉末とした。
【0080】
この粉末2gを用い、これを、酵素リパーゼ(天野エンザイム製 リパーゼAY「アマノ」30G)30mgを50%エタノール溶液2mLに溶解した酵素溶液に加えて、混合、撹拌した。この混合物は、粉末状態を維持していた。これを、2時間、室温で放置し、乾燥して、上記セルロース粉末にリパーゼを結合させたセルロース粉末固定化リパーゼを調製した。次に、本粉末1gを、3mLのナタネ油に加えて、45℃で、24時間、撹拌して反応させた。実施例1と同様に、測定を行って、40%の水解率と、半減回数2回という結果を得た。
【実施例5】
【0081】
市販卵を割って、白身部分を、先の太いピペットで吸引してとり、0.9%食塩水で2倍希釈、4倍希釈したものを、空洞澱粉2gに対して、800μL加えて、ミニビーカー中で、混合、撹拌し、150℃で、1時間焙焼した。その結果、2倍希釈では、殆ど着色はなく、170℃、1時間で、僅かに黄灰色になり、4倍希釈のものでは、褐色がやや強くなる程度であった。
【0082】
この4倍希釈卵白を150℃で、1時間コーテイング処理した空洞澱粉(卵白被覆空洞澱粉)の乾燥粉末と、酵素リパーゼ(天野エンザイム製 ニューラーゼ・F3G)30mgを50%エタノール溶液600μLに溶解した溶液とを混合、撹拌した。この混合物は、粉末状態を維持していた。これを、室温で、2時間放置して、乾燥粉末を得て、リパーゼ固定化卵白被覆空洞澱粉を調製した。この粉末を用い、実施例1と同様に、反応、測定を行って、50%の水解率と、半減回数5回という結果を得た。
【実施例6】
【0083】
卵白被覆空洞澱粉2gを、0.2M炭酸塩緩衝液(pH10)で調製した5%(v/v)グルタルアルデヒド溶液20mLに加え、室温で、2時間振盪した後(アルデヒド基導入)、pH6.5〜7.5に調整した蒸留水50mLで、2回洗浄し、本蒸留水を、酵素リパーゼ(天野エンザイム製 ニューラーゼ・F3G)を溶解した溶液(50mg/mL)20mLに移し、室温で、2時間振盪後、5℃で、一晩放置して、カップリングを行った。反応後、同蒸留水で、澱粉を洗浄して、未反応の酵素を除去し、室温で、乾燥し、リパーゼ固定化乾燥粉末を得た。
【実施例7】
【0084】
実施例6で調製した、リパーゼ固定化乾燥粉末1gに、3mLのナタネ油を加えて、40℃、24時間撹拌して反応させた。この100μLを、HPLCで測定した結果、水解率は、30%であった。澱粉部分を、遠心分離して集め、新たに3mLのナタネ油を加えて、同様にして、反応させた結果、水解率は、30%程と変わらず、5回の反応でも、水解率は、半減しなかった。
【実施例8】
【0085】
市販卵を割って、白身部分を、先の太いピペットで吸引してとり、0.9%食塩水で2倍希釈したものを、2gのセルロース粉末に2mL加えて、ミニビーカー中で、混合、撹拌し、150℃、1時間焙焼して、卵白被覆セルロース粉末を得た。これを、酵素リパーゼ(天野エンザイム製 ニューラーゼ・F3G)50mgを50%エタノール溶液2mLに溶解した溶液と混合、撹拌した。この混合物は、粉末状態を維持していた。これを、室温で、2時間放置して、乾燥粉末を得て、卵白被覆セルロース固定化リパーゼを調製した。次いで、実施例1と同様に、反応、測定を行って、40%の水解率と、半減回数2回という結果を得た。
【実施例9】
【0086】
実施例8で得た卵白被覆セルロース粉末2gを、0.2M炭酸塩緩衝液(pH10)で調製した5%(v/v)グルタルアルデヒド溶液20mLに加え、室温で、2時間振盪した後、pH6.5〜7.5に調整した蒸留水50mLで、2回洗浄し、本蒸留水を、酵素リパーゼ(天野エンザイム製 ニューラーゼ・F3G)を溶解した溶液(50mg/mL)20mLに移し、室温で、2時間振盪後、5℃で、一晩放置して、カップリングを行った。反応後、同蒸留水で、澱粉を洗浄して、未反応の酵素を除去し、室温で、乾燥し、リパーゼ固定化乾燥粉末を得た。
【実施例10】
【0087】
実施例9で調製した、リパーゼ固定化乾燥粉末1gに、3mLのナタネ油に加えて、40℃、24時間撹拌して反応させた。この100μLを、HPLCで測定した結果、水解率は、30%であった。セルロース部分を、遠心分離して集め、新たに3mLのナタネ油を加えて、同様にして、反応させた結果、水解率は、30%程と変わらず、3回の反応でも、水解率は、半減しなかった。
【実施例11】
【0088】
実施例5で調製した、卵白被覆空洞澱粉固定化リパーゼ乾燥粉末1gに、3mLのナタネ油を加えて、40℃、24時間撹拌して反応させ、遠心分離して、油分を得た。本油分1gを、10mL共栓付き試験管に秤取り、蒸留水5mLを加えて、着色油100μLを加えて、1分間、振盪、撹拌し、室温で1時間静置後、観察した結果、乳化能は、+であった。大豆油、コーン油、米油、ゴマ油、サラダ油で、同様に反応させて、同様の結果を得た。オリーブ油では、++であった。
【実施例12】
【0089】
実施例5で調製した、卵白被覆空洞澱粉固定化リパーゼ乾燥粉末1gに、グリセリン300mgと3mLのリノール酸を加えて、バイアルに入れ、マグネチックスターラーで、40℃、24時間、撹拌した。その結果、リノール酸の変換率は、20%程度であり、乳化能は、+であった。グリセリンの代わりに、グルコース、マルトース又はマルトトリオースを、各300mg、直接、リノール酸に添加して、同様にして、反応させ、同様の結果を得た。
【実施例13】
【0090】
実施例5で調製した、卵白被覆空洞澱粉固定化リパーゼ乾燥粉末と、同量のセルロース粉末を均一に混合した後、直径2センチ×20センチのガラスカラムに詰め、50%エタノール溶液を通してから、40℃の定温室内で、シリコン管を用いて、ペリスタポンプで、ナタネ油を24時間連続サイクルで送液して、乳化能+の油状標品を得た。グリセリンとリノール酸を、1:10の割合で含む油状混合物を用いた以外は、実施例12と同様にして、同様の結果を得た。
【産業上の利用可能性】
【0091】
以上詳述したように、本発明は、澱粉粒又はセルロース粉末固定化リパーゼ及び油脂反応物の製法に係るものであり、本発明により、食品加工上、安全性の高い素材である、澱粉粒、セルロース粉末を用いて、これらにリパーゼを固定化した固定化リパーゼを提供することができる。本発明では、澱粉粒をタンパク質でコーテイングすることにより、固定化が増強され、更に、穏和な条件で、化学的処理をすることにより、固定化を強力にすることができる。本発明では、澱粉粒、セルロース粉末の特性を利用して、これらにリパーゼを結合させて固定化リパーゼを調製することができ、これらの粒構造を持つ素材を利用した固定化リパーゼの提供が可能である。また、この固定化リパーゼを用いて、油脂素材・成分から、極めて簡単に、乳化能を持つ素材を製造することが可能であり、本発明は、油脂反応物から成る各種の乳化性素材を提供することを可能とするものとしても有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉粒の形態を保持した澱粉粒又はセルロース粉末に、酵素リパーゼを混合し、該澱粉粒又はセルロース粉末担体に、粉末状態を維持して、リパーゼを結合させて、澱粉粒又はセルロース粉末固定化リパーゼとすることを特徴する澱粉粒又はセルロース粉末固定化リパーゼの製造方法。
【請求項2】
澱粉粒に、リパーゼの水又はエタノール水溶液を、澱粉粒重量当たり5〜40%加えて混合して、当該澱粉粒に、粉末状態を維持して、リパーゼを結合させて固定化リパーゼとする、請求項1に記載の澱粉粒固定化リパーゼの製造方法。
【請求項3】
澱粉粒に、α−アミラーゼ及び/又はグルコアミラーゼを作用させて、その表面に穴を開けた澱粉粒又は粒表面を一部糊化した澱粉粒を用いる、請求項1又は2に記載の澱粉粒固定化リパーゼの製造方法。
【請求項4】
澱粉粒表面又はセルロース粉末を、酸化処理した後に、リパーゼを結合させる処理を行う、請求項1から3のいずれかに記載の澱粉粒又はセルロース粉末固定化リパーゼの製造方法。
【請求項5】
澱粉粒又はセルロース粉末表面をタンパク質でコーテイングしてから、リパーゼを結合させる処理を行う、請求項1から4のいずれかに記載の澱粉粒又はセルロース粉末固定化リパーゼの製造方法。
【請求項6】
タンパク質が、卵白、ゼラチン、カゼインナトリウム、又はツェインである、請求項5に記載の澱粉粒又はセルロース粉末固定化リパーゼの製造方法。
【請求項7】
リパーゼと担体を、グルタルアルデヒドで結合させる、請求項5に記載の澱粉粒又はセルロース粉末固定化リパーゼの製造方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の方法で、澱粉粒又はセルロース粉末担体に、粉末状態を維持して、酵素リパーゼを結合させて固定化リパーゼとしたことを特徴とする澱粉粒又はセルロース粉末固定化リパーゼ。
【請求項9】
請求項8に記載の固定化リパーゼを使用して、原料として、油脂及び/又はその分解物と、グルコース、又はオリゴ糖の被反応物を用いて、当該固定化リパーゼを上記原料に作用させて、油脂反応物を製造することを特徴とする油脂反応物の製造方法。
【請求項10】
油脂が、大豆油、ナタネ油、コーン油、米油、ゴマ油、又はオリーブ油であり、油脂の分解物が、脂肪酸、又はグリセリンである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項8に記載の固定化リパーゼを、油脂及び/又はその分解物と、グルコース、又はオリゴ糖から成る被反応物に作用させて作製した反応生成物から成ることを特徴とする油脂反応物。
【請求項12】
油脂反応物が、乳化剤である、請求項11に記載の油脂反応物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−226966(P2010−226966A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−75256(P2009−75256)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(591040236)石川県 (70)
【出願人】(390021636)塩水港精糖株式会社 (11)
【Fターム(参考)】