炭化珪素半導体装置の製造方法
【課題】歩留まりを向上することができる炭化珪素半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】炭化珪素半導体装置100の製造方法は以下の工程を有する。第1の主表面1との第2の主表面2とを有する炭化珪素基板80が準備される。第1の主表面1に電極が形成される。炭化珪素基板80は六方晶の結晶構造を有し、第1の主表面1の{0001}面に対するオフ角が±8°以内であり、第1の主表面1は、炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光が照射された場合に、第1の主表面1に生ずる750nm以上の波長域における発光領域3の密度が1×104cm-2以下であるような特性を有する。
【解決手段】炭化珪素半導体装置100の製造方法は以下の工程を有する。第1の主表面1との第2の主表面2とを有する炭化珪素基板80が準備される。第1の主表面1に電極が形成される。炭化珪素基板80は六方晶の結晶構造を有し、第1の主表面1の{0001}面に対するオフ角が±8°以内であり、第1の主表面1は、炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光が照射された場合に、第1の主表面1に生ずる750nm以上の波長域における発光領域3の密度が1×104cm-2以下であるような特性を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、炭化珪素半導体装置の製造方法に関し、より特定的には六方晶の結晶構造を有する炭化珪素基板を使用した炭化珪素半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置の製造用に炭化珪素基板が用いられ始めている。炭化珪素は珪素に比べて大きなバンドギャップを有する。そのため、炭化珪素基板を用いた半導体装置は、耐圧が高く、オン抵抗が低く、また高温環境下での特性の劣化が小さいといった利点を有する。
【0003】
上記のような炭化珪素基板を使った半導体デバイスにおいて、歩留まりを向上するためには、炭化珪素基板に存在する転位を制御することが求められる。たとえば、特開2010−184833号公報(特許文献1)において、転位線が(0001)面を貫通する貫通転位の転位線の方向と[0001]軸との為す角度が22.5°以下となるようにすることで、デバイス(半導体装置)の特性の劣化や歩留まりの低下を抑制できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−184833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特開2010−184833号公報(特許文献1)に記載の方法では、炭化珪素基板上に形成されたエピタキシャル膜中の転位線の方向を制御することにより転位の密度を低減している。しかしながら、エピタキシャル膜の転位の密度だけを低減したとしても、半導体装置の歩留まりを十分向上させることが困難であった。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するために成されたものであり、半導体装置の歩留まりを向上させることができる半導体装置の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
半導体装置の歩留まりと転位の密度との関係について発明者らが鋭意研究した結果、エピタキシャル層が形成される基板の表面(つまり基板の表面側)の転位の密度を低減させるだけでは半導体装置の歩留まりを向上させるには十分ではなく、電極が形成される基板の表面(つまり基板の裏面側)の転位の密度を低減させることが、半導体装置の歩留まりを向上するために重要であることを見出した。以下、その理由について説明する。
【0008】
{0001}面を主表面とする炭化珪素基板には二種類の結晶欠陥が存在する。一つは貫通転位とよばれる結晶欠陥であり、この貫通転位は結晶の成長面に垂直な方向(<0001>方向)に成長する結晶欠陥である。もう一つは、積層欠陥や基底面転位でありとよばれる結晶欠陥であり、これらは{0001}面に平行な方向(<11−20>方向)に成長する結晶欠陥である。インゴットをスライスして(0001)面を主表面とする基板を取出した場合、貫通転位は主表面に対して垂直な方向に成長する転位のため、基板の表面と裏面における貫通転位の密度にはほとんど違いがない。一方、積層欠陥や基底面転位のような(0001)面に平行な方向に存在する転位は、貫通転位の場合とは異なり、表面と裏面における転位の密度が異なる場合がある。
【0009】
裏面における転位の密度が増加すると基板の形状に変化が現れる。具体的には、基板が熱プロセスや成膜プロセスのような工程を経るごとに基板の反りの大きさを示すSORI値が変化する。熱プロセスなどにより基板のSORI値が変化すると、その後のリソグラフィーなどの工程において位置合わせが困難となる。結果として、その基板を使用して完成された半導体装置の歩留まりが低下する。基板の表面における転位の密度が小さくても、基板の裏面における転位の密度が大きい基板を使用してデバイス形成プロセスをする場合、デバイス形成プロセスの前後においてSORI値が変化する。SORI値の変化量が大きいと、リソグラフィー工程において位置合わせずれ(パターンずれ)の頻度が多くなるため、半導体装置の歩留まりが低減する。つまり、半導体装置の歩留まりを向上するためには、基板の裏面における転位の密度を低減することで、SORI値の変化量を低減することが必要となる。
【0010】
そこで、本発明に係る炭化珪素半導体装置の製造方法は以下の工程を有する。第1の主表面と第1の主表面と反対側の第2の主表面とを有する炭化珪素基板が準備される。第1の主表面に電極が形成される。炭化珪素基板は六方晶の結晶構造を有し、第1の主表面の{0001}面に対するオフ角が±8°以内であり、第1の主表面は、炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光が照射された場合に、第1の主表面に生ずる750nm以上の波長域における発光領域の密度が1×104cm-2以下であるような特性を有する。
【0011】
750nm以上の波長域における発光領域の密度と転位の密度は密接に関連している。第1の主表面(裏面)の当該発光領域の密度が1×104cm-2以下であるような特性を有する炭化珪素基板を使って半導体装置を製造すれば、熱プロセスなどによる基板の反りの変化量を低減することができる。その結果、リソグラフィー工程における位置合わせずれの頻度を低減することができるので、半導体装置の歩留まりが向上する。
【0012】
上記の炭化珪素半導体装置の製造方法において好ましくは、第2の主表面上にエピタキシャル層を形成する工程をさらに有している。これにより、基板の表面にエピタキシャル層が形成される。
【0013】
上記の炭化珪素半導体装置の製造方法において好ましくは、炭化珪素基板を準備する工程は、第1の主表面に対して炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光を照射しながら、第1の主表面に生ずる750nm以上の波長域における発光領域の密度を測定する工程を含む。第1の主表面に生ずる750nm以上の波長域における発光領域の密度を測定することにより、基板の裏面における転位の密度を調べることができる。
【0014】
上記の炭化珪素半導体装置の製造方法において好ましくは、第1の主表面は、炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光が照射された場合に、第1の主表面に生じる390nmの波長域における非発光領域の密度が1×104cm-2以下であるような特性を有する。これにより、390nmの波長域における非発光領域と関連する転位の密度が小さい炭化珪素基板を使うことで、半導体装置の歩留まりがさらに向上する。
【0015】
上記の炭化珪素半導体装置の製造方法において好ましくは、炭化珪素基板を準備する工程は、第1の主表面に対して炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光を照射しながら、第1の主表面に生じる390nmの波長域における非発光領域の密度を測定する工程を含む。ここで、当該非発光領域の密度と転位の密度とは密接に関係している。それゆえ、第1の主表面に生じる390nmの波長域における非発光領域の密度を測定することにより、当該非発光領域に関連する転位の密度をより詳細に調べることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、半導体装置の歩留まりを向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態1における炭化珪素基板の構成を概略的に示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態1における炭化珪素基板の結晶構造のオフ角を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態1における炭化珪素基板のフォトルミネッセンス測定に用いられる測定装置の構成を概略的に示すブロック図である。
【図4】本発明の実施の形態1における炭化珪素基板の発光領域の一例を模式的に示す部分平面図である。
【図5】本発明の実施の形態1における炭化珪素基板の非発光領域の一例を模式的に示す部分平面図である。
【図6】本発明の実施の形態2における半導体装置の構成を概略的に示す断面模式図である。
【図7】本発明の実施の形態2における半導体装置の製造方法の概略的なフロー図である。
【図8】本発明の実施の形態2における半導体装置の製造方法の第1工程を概略的に示す部分断面図である。
【図9】本発明の実施の形態2における半導体装置の製造方法の第2工程を概略的に示す部分断面図である。
【図10】本発明の実施の形態2における半導体装置の製造方法の第3工程を概略的に示す部分断面図である。
【図11】本発明の実施の形態2における半導体装置の製造方法の第4工程を概略的に示す部分断面図である。
【図12】本発明の実施例における半導体装置のSORI値と底面転位密度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0019】
また、本明細書中の結晶学的記載においては、個別方位を[]、集合方位を<>、個別面を()、集合面を{}でそれぞれ示している。また、負の指数については、結晶学上、”−”(バー)を数字の上に付けることになっているが、本明細書中では、数字の前に負の符号を付けている。また角度の記載には、全方位角を360度とする系を用いている。
【0020】
(実施の形態1)
図1に示すように、本実施の形態の炭化珪素基板80は、六方晶の結晶構造を有する炭化珪素基板80である。炭化珪素基板80は、側面と、側面に取り囲まれた第1の主表面1と第2の主表面2とを有する。便宜上、第1の主表面1を裏面とし、第2の主表面2を表面とする。六方晶のポリタイプは、好ましくは4Hである。
【0021】
さらに図2に示すように、第1の主表面1(図1)は、六方晶HXの{0001}面からオフ角OAだけ傾斜している。すなわち第1の主表面1の法線方向DZは、<0001>方向からオフ角OAだけ傾斜している。第1の主表面1の{0001}面に対するオフ角OAは、±8°以内である。この傾斜は、たとえばオフ方向DXにおいて設けられている。図中、方向DYは、第1の主表面1内において方向DXに垂直な方向である。オフ方向DXは、たとえば{0001}面における<11−20>方向である。
【0022】
炭化珪素基板80の第1の主表面1は、後述する特定のフォトルミネッセンス特性を有する。このフォトルミネッセンス特性の測定およびそれに用いる装置について、以下に説明する。
【0023】
図3に示すように、フォトルミネッセンス測定装置400は、励起光生成ユニット420と、顕微鏡ユニット430とを有する。
【0024】
励起光生成ユニット420は、光源部421と、導光部422と、フィルタ423とを有する。光源部421は、六方晶炭化珪素のバンドギャップよりも高いエネルギー成分を含む光源であり、たとえば水銀ランプである。導光部422は、光源部421から出射した光を導くものであり、たとえば光ファイバーを含む。フィルタ423は、六方晶炭化珪素のバンドギャップよりも高いエネルギーに対応する特定の波長を有する光を選択的に透過するものである。六方晶炭化珪素のバンドギャップに対応する波長は典型的には313nm程度であることから、たとえば約390nmの波長を有する光を特に透過するバンドパスフィルタをフィルタ423として用いることができる。この構成により、励起光生成ユニット420は、六方晶炭化珪素のバンドギャップよりも高いエネルギーを有する励起光LEを出射することができる。
【0025】
顕微鏡ユニット430は、制御部431と、ステージ432と、光学系433と、フィルタ434と、カメラ435とを有する。制御部431は、ステージ432の変位動作の制御と、カメラ435による撮影動作の制御とを行なうものであり、たとえばパーソナルコンピュータである。ステージ432は、第1の主表面1が露出するように炭化珪素基板80を支持し、かつ第1の主表面1の位置を変位させるものであり、たとえばXYステージである。光学系433は、励起光LEによる励起にともなって第1の主表面1から放射されたフォトルミネッセンス光LLを受光するためのものである。フィルタ434は、光学系433によって受光された光のうち750nm以上の波長を選択的に透過するものであり、ローパスフィルタまたはバンドパスフィルタである。カメラ435は、フィルタ434を透過した透過光LHによる像を撮影してそのデータを制御部431に送信するものであり、たとえばCCDカメラである。
【0026】
次にフォトルミネッセンス測定方法について説明する。
まず、炭化珪素基板80の第1の主表面1へ励起光LEが入射される。励起光のエネルギーは炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーである。これにより第1の主表面1上においてフォトルミネッセンス光LLの発光領域が生じる。フォトルミネッセンス光LLのうちフィルタ434を透過したものである透過光LHが、カメラ435によって像として観測される。フィルタ434が、たとえば750nm以上の周波数を特に透過するようなフィルターである場合、第1の主表面1上において750nm以上の波長を有するフォトルミネッセンス光LLの発光領域が観測される。この場合、発光領域の密度が転位の密度と密接に関連している。また、フィルタ434が、たとえば390nm付近の波長域を特に透過するようなフィルターである場合、第1の主表面1上において390nm付近の波長を有するフォトルミネッセンス光LLの発光領域が観測される。
【0027】
次に、本実施の形態に係る炭化珪素基板80が有する特性について説明する。
本実施の形態における炭化珪素基板80の第1の主表面1は、炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光LEが照射された場合に、第1の主表面1に生ずる750nm以上の波長域における発光領域3の密度が1×104cm-2以下であるような特性を有している。より好ましくは、第1の主表面1に生ずる750nm以上の波長域における発光領域3の密度が1×103cm-2以下である。
【0028】
図4を参照して、第1の主表面1に生じる750nm以上の波長域における発光領域3について模式的に説明する。上述したようなフォトルミネッセンス測定を行った場合、発光領域3はカメラ435により撮影されたイメージにおいて輝点として観測される。発光領域3の密度は、単位面積あたりの輝点の数として計算される。発光領域3の密度は転位の密度と密接に関連している。発光領域3の密度が小さい場合、転位の密度も小さい。
【0029】
本実施の形態における炭化珪素基板80の第1の主表面1は、炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光LEが照射された場合に、第1の主表面1に生じる390nmの波長域における非発光領域4の密度が1×104cm-2以下であるような特性を有していることが好ましい。より好ましくは、第1の主表面1に生ずる390nmの波長域における非発光領域4の密度が1×103cm-2以下である。
【0030】
図5を参照して、第1の主表面1に生じる390nm付近の波長域における非発光領域4について模式的に説明する。上述したようなフォトルミネッセンス測定を行った場合、非発光領域4は、カメラ435により撮影されたイメージにおいて暗点として観測される。非発光領域4の密度は、単位面積あたりの暗点の数を数えることにより計算される。非発光領域4の密度は転位の密度と密接に関連している。非発光領域4の密度が小さい場合、転位の密度も小さい。
【0031】
なお、上記では炭化珪素基板80の第1の主表面(裏面)に注目して、第1の主表面1に生ずる発光領域3の密度および非発光領域4の密度について説明したが、第1の主表面1および第2の主表面2に生ずる発光領域3の密度および非発光領域4の密度が小さくてもよい。すなわち、炭化珪素基板80の第1の主表面1(裏面)に対して、炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光LEが照射された場合に、第1の主表面1に生ずる750nm以上の波長域における発光領域3の密度が1×104cm-2以下であるような特性であり、かつ炭化珪素基板80の第2の主表面2(表面)に対して、炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光LEが照射された場合に、第2の主表面2に生ずる750nm以上の波長域における発光領域3の密度が1×104cm-2以下であるような特性を有していてもよい。同様に、炭化珪素基板80の第1の主表面1(裏面)に対して、炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光LEが照射された場合に、第1の主表面1に生ずる390nmの波長域における非発光領域4の密度が1×104cm-2以下であるような特性であり、かつ炭化珪素基板80の第2の主表面2(表面)に対して、炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光LEが照射された場合に、第2の主表面2に生ずる390nm以上の波長域における非発光領域4の密度が1×104cm-2以下であるような特性を有していてもよい。
【0032】
炭化珪素基板80の第1の主表面1と転位密度と第2の主表面2の転位密度との差が大きいと、熱プロセスや成膜プロセスの前後において、SORI値が大きく変化しやすい。上記のように、炭化珪素基板80の第1の主表面1と転位密度と第2の主表面2の転位密度が同じ程度に低い場合は、SORI値の変化が小さくなる。
【0033】
(実施の形態2)
図6に示すように、本実施の形態の炭化珪素半導体装置100は、MOSFETであり、具体的には、縦型DiMOSFET(Double Implanted MOSFET)である。MOSFETは、エピタキシャル基板90、酸化膜126、ソース電極111、上部ソース電極127、ゲート電極110、およびドレイン電極を有する。エピタキシャル基板90は、炭化珪素基板80、バッファ層121、耐圧保持層122、p領域123、n+領域124、およびp+領域125を有する。
【0034】
炭化珪素基板80は、実施の形態1で説明したような特性を有する基板である。炭化珪素基板80およびバッファ層121はn型の導電型を有する。バッファ層121におけるn型の導電性不純物の濃度は、たとえば5×1017cm-3である。またバッファ層121の厚さは、たとえば0.5μmである。
【0035】
耐圧保持層122は、バッファ層121上に形成されており、また導電型がn型の炭化珪素からなる。たとえば、耐圧保持層122の厚さは10μmであり、そのn型の導電性不純物の濃度は5×1015cm-3である。
【0036】
この耐圧保持層122の表面には、導電型がp型である複数のp領域123が互いに間隔を隔てて形成されている。p領域123の内部において、p領域123の表面層にn+領域124が形成されている。また、このn+領域124に隣接する位置には、p+領域125が形成されている。複数のp領域123の間から露出する耐圧保持層122上には酸化膜126が形成されている。具体的には、酸化膜126は、一方のp領域123におけるn+領域124上から、p領域123、2つのp領域123の間において露出する耐圧保持層122、他方のp領域123および当該他方のp領域123におけるn+領域124上にまで延在するように形成されている。酸化膜126上にはゲート電極110が形成されている。また、n+領域124およびp+領域125上にはソース電極111が形成されている。このソース電極111上には上部ソース電極127が形成されている。
【0037】
次に炭化珪素半導体装置100であるMOSFETの製造方法について説明する。
図1を参照して、炭化珪素基板形成工程(図7:S110)が実施される。炭化珪素基板形成工程は、第1の主表面1と第1の主表面1と反対側の第2の主表面2とを有する炭化珪素基板80が準備される。炭化珪素基板80は、実施の形態1で説明した特性を有している。
【0038】
図3を参照して、フォトルミネッセンス測定工程(図7:S120)が実施される。フォトルミネッセンス測定工程では、第1の主表面1に対して炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光を照射しながら、第1の主表面に生ずる750nm以上の波長域における発光領域3の密度が測定される。また、フォトルミネッセンス測定工程では、第1の主表面1に対して炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光LEを照射しながら、第1の主表面1に生じる390nmの波長域における非発光領域4の密度が測定されてもよい。本実施の形態では、第1の主表面1における発光領域3の密度および非発光領域4の密度が測定されるが、たとえば第1の主表面1および第2の主表面2の双方の発光領域3の密度および非発光領域4の密度が測定されてもよい。
【0039】
次に、測定された第1の主表面1の750nm以上の波長域における発光領域3の密度に基づいて炭化珪素基板80が選別される。すなわち、第1の主表面1の750nm以上の波長域における発光領域3の密度が1×104cm-2以下の炭化珪素基板80を良品とし、第1の主表面1の750nm以上の波長域における発光領域3の密度が1×104cm-2よりも大きい炭化珪素基板80を不良品と判断する。このようにして、炭化珪素基板80を良品と不良品に選別し、良品の炭化珪素基板80を使用して炭化珪素半導体装置100が製造される。
【0040】
図8を参照して、炭化珪素基板80の第2の主表面2上へのエピタキシャル成長によって炭化珪素からなるエピタキシャル層81が形成される。具体的には、炭化珪素基板80の主面上にバッファ層121が形成され、バッファ層121上に耐圧保持層122が形成される。これによりエピタキシャル基板90が形成される(図7:ステップS110)。バッファ層121は、導電型がn型の炭化珪素からなり、その厚さは、たとえば0.5μmとされる。またバッファ層121における導電型不純物の濃度は、たとえば5×1017cm-3とされる。耐圧保持層122の厚さは、たとえば10μmとされる。また耐圧保持層122におけるn型の導電性不純物の濃度は、たとえば5×1015cm-3とされる。
【0041】
図9に示すように、注入工程(図7:ステップS130)により、p領域123と、n+領域124と、p+領域125とが、以下のように形成される。
【0042】
まずp型の導電性不純物が耐圧保持層122の一部に選択的に注入されることで、p領域123が形成される。次に、n型の導電性不純物を所定の領域に選択的に注入することによってn+領域124が形成され、またp型の導電性不純物を所定の領域に選択的に注入することによってp+領域125が形成される。なお不純物の選択的な注入は、たとえば酸化膜からなるマスクを用いて行われる。
【0043】
このような注入工程の後、活性化アニール処理が行われる。たとえば、アルゴン雰囲気中、加熱温度1700℃で30分間のアニールが行われる。
【0044】
図10に示すように、ゲート絶縁膜形成工程(図7:ステップS140)が行われる。具体的には、耐圧保持層122と、p領域123と、n+領域124と、p+領域125との上を覆うように、酸化膜126が形成される。この形成はドライ酸化(熱酸化)により行われてもよい。ドライ酸化の条件は、たとえば、加熱温度が1200℃であり、また加熱時間が30分である。
【0045】
その後、窒化アニール工程(図7:ステップS150)が行われる。具体的には、一酸化窒素(NO)雰囲気中でのアニール処理が行われる。この処理の条件は、たとえば加熱温度が1100℃であり、加熱時間が120分である。この結果、耐圧保持層122、p領域123、n+領域124、およびp+領域125の各々と、酸化膜126との界面近傍に、窒素原子が導入される。
【0046】
なおこの一酸化窒素を用いたアニール工程の後、さらに不活性ガスであるアルゴン(Ar)ガスを用いたアニール処理が行われてもよい。この処理の条件は、たとえば、加熱温度が1100℃であり、加熱時間が60分である。
【0047】
図11に示すように、電極形成工程(図7:ステップS160)により、ソース電極111および電極112が、以下のように形成される。なお、本実施の形態において、電極112はドレイン電極である。
【0048】
酸化膜126上に、フォトリソグラフィ法を用いて、パターンを有するレジスト膜が形成される。このレジスト膜をマスクとして用いて、酸化膜126のうちn+領域124およびp+領域125上に位置する部分がエッチングにより除去される。これにより酸化膜126に開口部が形成される。次に、この開口部においてn+領域124およびp+領域125の各々と接触するように導体膜が形成される。次にレジスト膜を除去することにより、上記導体膜のうちレジスト膜上に位置していた部分の除去(リフトオフ)が行われる。この導体膜は、金属膜であってもよく、たとえばニッケル(Ni)からなる。このリフトオフの結果、ソース電極111が形成される。また、炭化珪素基板80の第1の主表面1(裏面)上に電極112(ドレイン電極)が形成される。
【0049】
なお、ここでアロイ化のための熱処理が行なわれることが好ましい。たとえば、不活性ガスであるアルゴン(Ar)ガスの雰囲気中、加熱温度950℃で2分の熱処理が行なわれる。
【0050】
再び図6を参照して、ソース電極111上に上部ソース電極127が形成される。また、酸化膜126上にゲート電極110が形成される。
【0051】
次に、ダイシング工程(図7:ステップS170)が行われる。これにより複数のチップが切り出される。以上により、炭化珪素半導体装置100であるMOSFET(図6)が得られる。
【0052】
なお上述された構成に対して導電型が入れ替えられた構成、すなわちp型とn型とが入れ替えられた構成を用いることもできる。また縦型DiMOSFETを例示したが、本発明の複合基板を用いて他の炭化珪素半導体装置100が製造されてもよく、たとえばRESURF−JFET(Reduced Surface Field−Junction Field Effect Transistor)が製造されてもよい。
【0053】
次に、本実施の形態の炭化珪素半導体装置100の製造方法の作用効果について説明する。
【0054】
本実施の形態に係る炭化珪素半導体装置100の製造方法によれば、炭化珪素基板80の第1の主表面1は、炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光LEが照射された場合に、第1の主表面1に生ずる750nm以上の波長域における発光領域3の密度が1×104cm-2以下であるような特性を有する炭化珪素基板80が使用される。
【0055】
750nm以上の波長域における発光領域3の密度と転位の密度は密接に関連している。第1の主表面1の当該発光領域3の密度が1×104cm-2以下であるような特性を有する炭化珪素基板80を使って炭化珪素半導体装置100を製造すれば、熱プロセスなどによる基板の反りの変化量を低減することができる。その結果、リソグラフィー工程における位置合わせずれの頻度を低減することができるので、炭化珪素半導体装置100の歩留まりが向上する。
【0056】
また、本実施の形態に係る製造方法においては、炭化珪素基板80を準備する工程は、第1の主表面1に対して炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光LEを照射しながら、第1の主表面1に生ずる750nm以上の波長域における発光領域3の密度を測定する工程を含んでいる。当該発光領域3の密度を測定することにより、基板の裏面における転位の密度を調べることができる。これにより、良好な炭化珪素基板80を選別して炭化珪素半導体装置100を製造することができるので、炭化珪素半導体装置100の歩留まりが向上する。
【0057】
さらに、第1の主表面1が、炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光LEが照射された場合に、第1の主表面1に生じる390nmの波長域における非発光領域4の密度が1×104cm-2以下であるような特性を有する場合は、390nmの波長域における非発光領域4と関連する転位の密度が小さい炭化珪素基板80を使うことで、炭化珪素半導体装置100の歩留まりがさらに向上する。
【0058】
さらに、第1の主表面1に対して炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光LEを照射しながら、第1の主表面1に生じる390nmの波長域における非発光領域4の密度を測定する工程を有している場合は、非発光領域4の密度を測定することにより、非発光領域4に関連する転位の密度をより詳細に調べることができる。
【実施例】
【0059】
本実施例においては、炭化珪素半導体基板の裏面の密度と、当該基板を使ってデバイスプロセスをした場合におけるSORI値の変化量およびパターンずれの発生率について調べた。なお、SORI値とは基板の反りの大きさを定量化する一つの指標であり、基板の主表面の最小二乗面から基板の主表面の最高点までの距離と最低点までの距離との合計で定義される値である。SORI値が大きい場合、基板の反りが大きいことを意味する。
【0060】
本発明例1〜5および比較例1および2は、パターンずれ発生率を測定するための実験ウエハである。本発明例1〜5および比較例1および2には、第1の主表面(裏面)の輝点密度の異なる7種類の炭化珪素基板80を使用した。裏面の輝点密度は表1に示す通りである。発明例1〜5には輝点密度が10000以下の炭化珪素基板80を使用し、比較例1および2には輝点密度が10000よりも大きい炭化珪素基板80を使用した。本実験に使用した炭化珪素基板80の第2の主表面2(表面)の転位密度は低く、7つの炭化珪素基板80の表面の転位密度は同程度である。
【0061】
炭化珪素基板80の裏面の輝点密度は、実施の形態1で説明した方法により測定した。フォトルミネッセンス光を撮影するためのカメラ435としてCCDカメラを使用した。CCDカメラの画素数を1024×1024(96dpi×96dpi)とした。CCDカメラの1ショットの測定視野を650μm×650μmとした。CCDカメラの空間分解能を0.6μm/pixelとした。
【0062】
【表1】
【0063】
表1は、炭化珪素基板80の第1の主表面1(裏面)の輝点密度と、SORI値変化量およびパターンずれ発生率との関係を示している。また、図12は、裏面の輝点密度とSORI値変化量との関係を示すグラフである。ここで、輝点密度は転位密度と考えることができる。SORI値変化量とは、実施の形態2で示したような熱プロセスや成膜プロセスの前後におけるSORI値の変化量である。SORI値変化量が大きいと、実験ウエハの反りの変化が大きいことを表す。パターンずれ発生率とは、リソグラフィー工程においてパターンずれが発生した頻度である。パターンずれ発生率が多い場合、正確に半導体基板上にイオン注入などがされなくなるので、炭化珪素半導体装置100の歩留まりが悪化する。
【0064】
表1および図12から分かるように、比較例1および2の実験ウエハにおいては、SORI値変化量が6.1μm以上と大きな値を示した。また、パターンずれ発生率も9.6%以上と多かった。一方、本発明例1〜5の実験ウエハにおいては、SORI値変化量が4.3μm以下と比較的小さな値を示し、パターンずれ頻度も6.1%以下と少なかった。
【0065】
以上の実験より、裏面における輝点密度が10000以下である炭化珪素基板80を使用した場合パターンずれ発生率が低くなることが確認された。
【0066】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0067】
1 第1の主表面、2 第2の主表面、3 発光領域、4 非発光領域、80 炭化珪素基板、81 エピタキシャル層、90 エピタキシャル基板、100 炭化珪素半導体装置、400 フォトルミネッセンス測定装置、420 励起光生成ユニット、421 光源部、422 導光部、423,434 フィルタ、430 顕微鏡ユニット、431 制御部、432 ステージ、433 光学系、435 カメラ、DX オフ方向、DZ 法線方向、HX 六方晶、LE 励起光、LH 透過光、LL フォトルミネッセンス光、OA オフ角。
【技術分野】
【0001】
この発明は、炭化珪素半導体装置の製造方法に関し、より特定的には六方晶の結晶構造を有する炭化珪素基板を使用した炭化珪素半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置の製造用に炭化珪素基板が用いられ始めている。炭化珪素は珪素に比べて大きなバンドギャップを有する。そのため、炭化珪素基板を用いた半導体装置は、耐圧が高く、オン抵抗が低く、また高温環境下での特性の劣化が小さいといった利点を有する。
【0003】
上記のような炭化珪素基板を使った半導体デバイスにおいて、歩留まりを向上するためには、炭化珪素基板に存在する転位を制御することが求められる。たとえば、特開2010−184833号公報(特許文献1)において、転位線が(0001)面を貫通する貫通転位の転位線の方向と[0001]軸との為す角度が22.5°以下となるようにすることで、デバイス(半導体装置)の特性の劣化や歩留まりの低下を抑制できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−184833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特開2010−184833号公報(特許文献1)に記載の方法では、炭化珪素基板上に形成されたエピタキシャル膜中の転位線の方向を制御することにより転位の密度を低減している。しかしながら、エピタキシャル膜の転位の密度だけを低減したとしても、半導体装置の歩留まりを十分向上させることが困難であった。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するために成されたものであり、半導体装置の歩留まりを向上させることができる半導体装置の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
半導体装置の歩留まりと転位の密度との関係について発明者らが鋭意研究した結果、エピタキシャル層が形成される基板の表面(つまり基板の表面側)の転位の密度を低減させるだけでは半導体装置の歩留まりを向上させるには十分ではなく、電極が形成される基板の表面(つまり基板の裏面側)の転位の密度を低減させることが、半導体装置の歩留まりを向上するために重要であることを見出した。以下、その理由について説明する。
【0008】
{0001}面を主表面とする炭化珪素基板には二種類の結晶欠陥が存在する。一つは貫通転位とよばれる結晶欠陥であり、この貫通転位は結晶の成長面に垂直な方向(<0001>方向)に成長する結晶欠陥である。もう一つは、積層欠陥や基底面転位でありとよばれる結晶欠陥であり、これらは{0001}面に平行な方向(<11−20>方向)に成長する結晶欠陥である。インゴットをスライスして(0001)面を主表面とする基板を取出した場合、貫通転位は主表面に対して垂直な方向に成長する転位のため、基板の表面と裏面における貫通転位の密度にはほとんど違いがない。一方、積層欠陥や基底面転位のような(0001)面に平行な方向に存在する転位は、貫通転位の場合とは異なり、表面と裏面における転位の密度が異なる場合がある。
【0009】
裏面における転位の密度が増加すると基板の形状に変化が現れる。具体的には、基板が熱プロセスや成膜プロセスのような工程を経るごとに基板の反りの大きさを示すSORI値が変化する。熱プロセスなどにより基板のSORI値が変化すると、その後のリソグラフィーなどの工程において位置合わせが困難となる。結果として、その基板を使用して完成された半導体装置の歩留まりが低下する。基板の表面における転位の密度が小さくても、基板の裏面における転位の密度が大きい基板を使用してデバイス形成プロセスをする場合、デバイス形成プロセスの前後においてSORI値が変化する。SORI値の変化量が大きいと、リソグラフィー工程において位置合わせずれ(パターンずれ)の頻度が多くなるため、半導体装置の歩留まりが低減する。つまり、半導体装置の歩留まりを向上するためには、基板の裏面における転位の密度を低減することで、SORI値の変化量を低減することが必要となる。
【0010】
そこで、本発明に係る炭化珪素半導体装置の製造方法は以下の工程を有する。第1の主表面と第1の主表面と反対側の第2の主表面とを有する炭化珪素基板が準備される。第1の主表面に電極が形成される。炭化珪素基板は六方晶の結晶構造を有し、第1の主表面の{0001}面に対するオフ角が±8°以内であり、第1の主表面は、炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光が照射された場合に、第1の主表面に生ずる750nm以上の波長域における発光領域の密度が1×104cm-2以下であるような特性を有する。
【0011】
750nm以上の波長域における発光領域の密度と転位の密度は密接に関連している。第1の主表面(裏面)の当該発光領域の密度が1×104cm-2以下であるような特性を有する炭化珪素基板を使って半導体装置を製造すれば、熱プロセスなどによる基板の反りの変化量を低減することができる。その結果、リソグラフィー工程における位置合わせずれの頻度を低減することができるので、半導体装置の歩留まりが向上する。
【0012】
上記の炭化珪素半導体装置の製造方法において好ましくは、第2の主表面上にエピタキシャル層を形成する工程をさらに有している。これにより、基板の表面にエピタキシャル層が形成される。
【0013】
上記の炭化珪素半導体装置の製造方法において好ましくは、炭化珪素基板を準備する工程は、第1の主表面に対して炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光を照射しながら、第1の主表面に生ずる750nm以上の波長域における発光領域の密度を測定する工程を含む。第1の主表面に生ずる750nm以上の波長域における発光領域の密度を測定することにより、基板の裏面における転位の密度を調べることができる。
【0014】
上記の炭化珪素半導体装置の製造方法において好ましくは、第1の主表面は、炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光が照射された場合に、第1の主表面に生じる390nmの波長域における非発光領域の密度が1×104cm-2以下であるような特性を有する。これにより、390nmの波長域における非発光領域と関連する転位の密度が小さい炭化珪素基板を使うことで、半導体装置の歩留まりがさらに向上する。
【0015】
上記の炭化珪素半導体装置の製造方法において好ましくは、炭化珪素基板を準備する工程は、第1の主表面に対して炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光を照射しながら、第1の主表面に生じる390nmの波長域における非発光領域の密度を測定する工程を含む。ここで、当該非発光領域の密度と転位の密度とは密接に関係している。それゆえ、第1の主表面に生じる390nmの波長域における非発光領域の密度を測定することにより、当該非発光領域に関連する転位の密度をより詳細に調べることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、半導体装置の歩留まりを向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態1における炭化珪素基板の構成を概略的に示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態1における炭化珪素基板の結晶構造のオフ角を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態1における炭化珪素基板のフォトルミネッセンス測定に用いられる測定装置の構成を概略的に示すブロック図である。
【図4】本発明の実施の形態1における炭化珪素基板の発光領域の一例を模式的に示す部分平面図である。
【図5】本発明の実施の形態1における炭化珪素基板の非発光領域の一例を模式的に示す部分平面図である。
【図6】本発明の実施の形態2における半導体装置の構成を概略的に示す断面模式図である。
【図7】本発明の実施の形態2における半導体装置の製造方法の概略的なフロー図である。
【図8】本発明の実施の形態2における半導体装置の製造方法の第1工程を概略的に示す部分断面図である。
【図9】本発明の実施の形態2における半導体装置の製造方法の第2工程を概略的に示す部分断面図である。
【図10】本発明の実施の形態2における半導体装置の製造方法の第3工程を概略的に示す部分断面図である。
【図11】本発明の実施の形態2における半導体装置の製造方法の第4工程を概略的に示す部分断面図である。
【図12】本発明の実施例における半導体装置のSORI値と底面転位密度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0019】
また、本明細書中の結晶学的記載においては、個別方位を[]、集合方位を<>、個別面を()、集合面を{}でそれぞれ示している。また、負の指数については、結晶学上、”−”(バー)を数字の上に付けることになっているが、本明細書中では、数字の前に負の符号を付けている。また角度の記載には、全方位角を360度とする系を用いている。
【0020】
(実施の形態1)
図1に示すように、本実施の形態の炭化珪素基板80は、六方晶の結晶構造を有する炭化珪素基板80である。炭化珪素基板80は、側面と、側面に取り囲まれた第1の主表面1と第2の主表面2とを有する。便宜上、第1の主表面1を裏面とし、第2の主表面2を表面とする。六方晶のポリタイプは、好ましくは4Hである。
【0021】
さらに図2に示すように、第1の主表面1(図1)は、六方晶HXの{0001}面からオフ角OAだけ傾斜している。すなわち第1の主表面1の法線方向DZは、<0001>方向からオフ角OAだけ傾斜している。第1の主表面1の{0001}面に対するオフ角OAは、±8°以内である。この傾斜は、たとえばオフ方向DXにおいて設けられている。図中、方向DYは、第1の主表面1内において方向DXに垂直な方向である。オフ方向DXは、たとえば{0001}面における<11−20>方向である。
【0022】
炭化珪素基板80の第1の主表面1は、後述する特定のフォトルミネッセンス特性を有する。このフォトルミネッセンス特性の測定およびそれに用いる装置について、以下に説明する。
【0023】
図3に示すように、フォトルミネッセンス測定装置400は、励起光生成ユニット420と、顕微鏡ユニット430とを有する。
【0024】
励起光生成ユニット420は、光源部421と、導光部422と、フィルタ423とを有する。光源部421は、六方晶炭化珪素のバンドギャップよりも高いエネルギー成分を含む光源であり、たとえば水銀ランプである。導光部422は、光源部421から出射した光を導くものであり、たとえば光ファイバーを含む。フィルタ423は、六方晶炭化珪素のバンドギャップよりも高いエネルギーに対応する特定の波長を有する光を選択的に透過するものである。六方晶炭化珪素のバンドギャップに対応する波長は典型的には313nm程度であることから、たとえば約390nmの波長を有する光を特に透過するバンドパスフィルタをフィルタ423として用いることができる。この構成により、励起光生成ユニット420は、六方晶炭化珪素のバンドギャップよりも高いエネルギーを有する励起光LEを出射することができる。
【0025】
顕微鏡ユニット430は、制御部431と、ステージ432と、光学系433と、フィルタ434と、カメラ435とを有する。制御部431は、ステージ432の変位動作の制御と、カメラ435による撮影動作の制御とを行なうものであり、たとえばパーソナルコンピュータである。ステージ432は、第1の主表面1が露出するように炭化珪素基板80を支持し、かつ第1の主表面1の位置を変位させるものであり、たとえばXYステージである。光学系433は、励起光LEによる励起にともなって第1の主表面1から放射されたフォトルミネッセンス光LLを受光するためのものである。フィルタ434は、光学系433によって受光された光のうち750nm以上の波長を選択的に透過するものであり、ローパスフィルタまたはバンドパスフィルタである。カメラ435は、フィルタ434を透過した透過光LHによる像を撮影してそのデータを制御部431に送信するものであり、たとえばCCDカメラである。
【0026】
次にフォトルミネッセンス測定方法について説明する。
まず、炭化珪素基板80の第1の主表面1へ励起光LEが入射される。励起光のエネルギーは炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーである。これにより第1の主表面1上においてフォトルミネッセンス光LLの発光領域が生じる。フォトルミネッセンス光LLのうちフィルタ434を透過したものである透過光LHが、カメラ435によって像として観測される。フィルタ434が、たとえば750nm以上の周波数を特に透過するようなフィルターである場合、第1の主表面1上において750nm以上の波長を有するフォトルミネッセンス光LLの発光領域が観測される。この場合、発光領域の密度が転位の密度と密接に関連している。また、フィルタ434が、たとえば390nm付近の波長域を特に透過するようなフィルターである場合、第1の主表面1上において390nm付近の波長を有するフォトルミネッセンス光LLの発光領域が観測される。
【0027】
次に、本実施の形態に係る炭化珪素基板80が有する特性について説明する。
本実施の形態における炭化珪素基板80の第1の主表面1は、炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光LEが照射された場合に、第1の主表面1に生ずる750nm以上の波長域における発光領域3の密度が1×104cm-2以下であるような特性を有している。より好ましくは、第1の主表面1に生ずる750nm以上の波長域における発光領域3の密度が1×103cm-2以下である。
【0028】
図4を参照して、第1の主表面1に生じる750nm以上の波長域における発光領域3について模式的に説明する。上述したようなフォトルミネッセンス測定を行った場合、発光領域3はカメラ435により撮影されたイメージにおいて輝点として観測される。発光領域3の密度は、単位面積あたりの輝点の数として計算される。発光領域3の密度は転位の密度と密接に関連している。発光領域3の密度が小さい場合、転位の密度も小さい。
【0029】
本実施の形態における炭化珪素基板80の第1の主表面1は、炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光LEが照射された場合に、第1の主表面1に生じる390nmの波長域における非発光領域4の密度が1×104cm-2以下であるような特性を有していることが好ましい。より好ましくは、第1の主表面1に生ずる390nmの波長域における非発光領域4の密度が1×103cm-2以下である。
【0030】
図5を参照して、第1の主表面1に生じる390nm付近の波長域における非発光領域4について模式的に説明する。上述したようなフォトルミネッセンス測定を行った場合、非発光領域4は、カメラ435により撮影されたイメージにおいて暗点として観測される。非発光領域4の密度は、単位面積あたりの暗点の数を数えることにより計算される。非発光領域4の密度は転位の密度と密接に関連している。非発光領域4の密度が小さい場合、転位の密度も小さい。
【0031】
なお、上記では炭化珪素基板80の第1の主表面(裏面)に注目して、第1の主表面1に生ずる発光領域3の密度および非発光領域4の密度について説明したが、第1の主表面1および第2の主表面2に生ずる発光領域3の密度および非発光領域4の密度が小さくてもよい。すなわち、炭化珪素基板80の第1の主表面1(裏面)に対して、炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光LEが照射された場合に、第1の主表面1に生ずる750nm以上の波長域における発光領域3の密度が1×104cm-2以下であるような特性であり、かつ炭化珪素基板80の第2の主表面2(表面)に対して、炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光LEが照射された場合に、第2の主表面2に生ずる750nm以上の波長域における発光領域3の密度が1×104cm-2以下であるような特性を有していてもよい。同様に、炭化珪素基板80の第1の主表面1(裏面)に対して、炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光LEが照射された場合に、第1の主表面1に生ずる390nmの波長域における非発光領域4の密度が1×104cm-2以下であるような特性であり、かつ炭化珪素基板80の第2の主表面2(表面)に対して、炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光LEが照射された場合に、第2の主表面2に生ずる390nm以上の波長域における非発光領域4の密度が1×104cm-2以下であるような特性を有していてもよい。
【0032】
炭化珪素基板80の第1の主表面1と転位密度と第2の主表面2の転位密度との差が大きいと、熱プロセスや成膜プロセスの前後において、SORI値が大きく変化しやすい。上記のように、炭化珪素基板80の第1の主表面1と転位密度と第2の主表面2の転位密度が同じ程度に低い場合は、SORI値の変化が小さくなる。
【0033】
(実施の形態2)
図6に示すように、本実施の形態の炭化珪素半導体装置100は、MOSFETであり、具体的には、縦型DiMOSFET(Double Implanted MOSFET)である。MOSFETは、エピタキシャル基板90、酸化膜126、ソース電極111、上部ソース電極127、ゲート電極110、およびドレイン電極を有する。エピタキシャル基板90は、炭化珪素基板80、バッファ層121、耐圧保持層122、p領域123、n+領域124、およびp+領域125を有する。
【0034】
炭化珪素基板80は、実施の形態1で説明したような特性を有する基板である。炭化珪素基板80およびバッファ層121はn型の導電型を有する。バッファ層121におけるn型の導電性不純物の濃度は、たとえば5×1017cm-3である。またバッファ層121の厚さは、たとえば0.5μmである。
【0035】
耐圧保持層122は、バッファ層121上に形成されており、また導電型がn型の炭化珪素からなる。たとえば、耐圧保持層122の厚さは10μmであり、そのn型の導電性不純物の濃度は5×1015cm-3である。
【0036】
この耐圧保持層122の表面には、導電型がp型である複数のp領域123が互いに間隔を隔てて形成されている。p領域123の内部において、p領域123の表面層にn+領域124が形成されている。また、このn+領域124に隣接する位置には、p+領域125が形成されている。複数のp領域123の間から露出する耐圧保持層122上には酸化膜126が形成されている。具体的には、酸化膜126は、一方のp領域123におけるn+領域124上から、p領域123、2つのp領域123の間において露出する耐圧保持層122、他方のp領域123および当該他方のp領域123におけるn+領域124上にまで延在するように形成されている。酸化膜126上にはゲート電極110が形成されている。また、n+領域124およびp+領域125上にはソース電極111が形成されている。このソース電極111上には上部ソース電極127が形成されている。
【0037】
次に炭化珪素半導体装置100であるMOSFETの製造方法について説明する。
図1を参照して、炭化珪素基板形成工程(図7:S110)が実施される。炭化珪素基板形成工程は、第1の主表面1と第1の主表面1と反対側の第2の主表面2とを有する炭化珪素基板80が準備される。炭化珪素基板80は、実施の形態1で説明した特性を有している。
【0038】
図3を参照して、フォトルミネッセンス測定工程(図7:S120)が実施される。フォトルミネッセンス測定工程では、第1の主表面1に対して炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光を照射しながら、第1の主表面に生ずる750nm以上の波長域における発光領域3の密度が測定される。また、フォトルミネッセンス測定工程では、第1の主表面1に対して炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光LEを照射しながら、第1の主表面1に生じる390nmの波長域における非発光領域4の密度が測定されてもよい。本実施の形態では、第1の主表面1における発光領域3の密度および非発光領域4の密度が測定されるが、たとえば第1の主表面1および第2の主表面2の双方の発光領域3の密度および非発光領域4の密度が測定されてもよい。
【0039】
次に、測定された第1の主表面1の750nm以上の波長域における発光領域3の密度に基づいて炭化珪素基板80が選別される。すなわち、第1の主表面1の750nm以上の波長域における発光領域3の密度が1×104cm-2以下の炭化珪素基板80を良品とし、第1の主表面1の750nm以上の波長域における発光領域3の密度が1×104cm-2よりも大きい炭化珪素基板80を不良品と判断する。このようにして、炭化珪素基板80を良品と不良品に選別し、良品の炭化珪素基板80を使用して炭化珪素半導体装置100が製造される。
【0040】
図8を参照して、炭化珪素基板80の第2の主表面2上へのエピタキシャル成長によって炭化珪素からなるエピタキシャル層81が形成される。具体的には、炭化珪素基板80の主面上にバッファ層121が形成され、バッファ層121上に耐圧保持層122が形成される。これによりエピタキシャル基板90が形成される(図7:ステップS110)。バッファ層121は、導電型がn型の炭化珪素からなり、その厚さは、たとえば0.5μmとされる。またバッファ層121における導電型不純物の濃度は、たとえば5×1017cm-3とされる。耐圧保持層122の厚さは、たとえば10μmとされる。また耐圧保持層122におけるn型の導電性不純物の濃度は、たとえば5×1015cm-3とされる。
【0041】
図9に示すように、注入工程(図7:ステップS130)により、p領域123と、n+領域124と、p+領域125とが、以下のように形成される。
【0042】
まずp型の導電性不純物が耐圧保持層122の一部に選択的に注入されることで、p領域123が形成される。次に、n型の導電性不純物を所定の領域に選択的に注入することによってn+領域124が形成され、またp型の導電性不純物を所定の領域に選択的に注入することによってp+領域125が形成される。なお不純物の選択的な注入は、たとえば酸化膜からなるマスクを用いて行われる。
【0043】
このような注入工程の後、活性化アニール処理が行われる。たとえば、アルゴン雰囲気中、加熱温度1700℃で30分間のアニールが行われる。
【0044】
図10に示すように、ゲート絶縁膜形成工程(図7:ステップS140)が行われる。具体的には、耐圧保持層122と、p領域123と、n+領域124と、p+領域125との上を覆うように、酸化膜126が形成される。この形成はドライ酸化(熱酸化)により行われてもよい。ドライ酸化の条件は、たとえば、加熱温度が1200℃であり、また加熱時間が30分である。
【0045】
その後、窒化アニール工程(図7:ステップS150)が行われる。具体的には、一酸化窒素(NO)雰囲気中でのアニール処理が行われる。この処理の条件は、たとえば加熱温度が1100℃であり、加熱時間が120分である。この結果、耐圧保持層122、p領域123、n+領域124、およびp+領域125の各々と、酸化膜126との界面近傍に、窒素原子が導入される。
【0046】
なおこの一酸化窒素を用いたアニール工程の後、さらに不活性ガスであるアルゴン(Ar)ガスを用いたアニール処理が行われてもよい。この処理の条件は、たとえば、加熱温度が1100℃であり、加熱時間が60分である。
【0047】
図11に示すように、電極形成工程(図7:ステップS160)により、ソース電極111および電極112が、以下のように形成される。なお、本実施の形態において、電極112はドレイン電極である。
【0048】
酸化膜126上に、フォトリソグラフィ法を用いて、パターンを有するレジスト膜が形成される。このレジスト膜をマスクとして用いて、酸化膜126のうちn+領域124およびp+領域125上に位置する部分がエッチングにより除去される。これにより酸化膜126に開口部が形成される。次に、この開口部においてn+領域124およびp+領域125の各々と接触するように導体膜が形成される。次にレジスト膜を除去することにより、上記導体膜のうちレジスト膜上に位置していた部分の除去(リフトオフ)が行われる。この導体膜は、金属膜であってもよく、たとえばニッケル(Ni)からなる。このリフトオフの結果、ソース電極111が形成される。また、炭化珪素基板80の第1の主表面1(裏面)上に電極112(ドレイン電極)が形成される。
【0049】
なお、ここでアロイ化のための熱処理が行なわれることが好ましい。たとえば、不活性ガスであるアルゴン(Ar)ガスの雰囲気中、加熱温度950℃で2分の熱処理が行なわれる。
【0050】
再び図6を参照して、ソース電極111上に上部ソース電極127が形成される。また、酸化膜126上にゲート電極110が形成される。
【0051】
次に、ダイシング工程(図7:ステップS170)が行われる。これにより複数のチップが切り出される。以上により、炭化珪素半導体装置100であるMOSFET(図6)が得られる。
【0052】
なお上述された構成に対して導電型が入れ替えられた構成、すなわちp型とn型とが入れ替えられた構成を用いることもできる。また縦型DiMOSFETを例示したが、本発明の複合基板を用いて他の炭化珪素半導体装置100が製造されてもよく、たとえばRESURF−JFET(Reduced Surface Field−Junction Field Effect Transistor)が製造されてもよい。
【0053】
次に、本実施の形態の炭化珪素半導体装置100の製造方法の作用効果について説明する。
【0054】
本実施の形態に係る炭化珪素半導体装置100の製造方法によれば、炭化珪素基板80の第1の主表面1は、炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光LEが照射された場合に、第1の主表面1に生ずる750nm以上の波長域における発光領域3の密度が1×104cm-2以下であるような特性を有する炭化珪素基板80が使用される。
【0055】
750nm以上の波長域における発光領域3の密度と転位の密度は密接に関連している。第1の主表面1の当該発光領域3の密度が1×104cm-2以下であるような特性を有する炭化珪素基板80を使って炭化珪素半導体装置100を製造すれば、熱プロセスなどによる基板の反りの変化量を低減することができる。その結果、リソグラフィー工程における位置合わせずれの頻度を低減することができるので、炭化珪素半導体装置100の歩留まりが向上する。
【0056】
また、本実施の形態に係る製造方法においては、炭化珪素基板80を準備する工程は、第1の主表面1に対して炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光LEを照射しながら、第1の主表面1に生ずる750nm以上の波長域における発光領域3の密度を測定する工程を含んでいる。当該発光領域3の密度を測定することにより、基板の裏面における転位の密度を調べることができる。これにより、良好な炭化珪素基板80を選別して炭化珪素半導体装置100を製造することができるので、炭化珪素半導体装置100の歩留まりが向上する。
【0057】
さらに、第1の主表面1が、炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光LEが照射された場合に、第1の主表面1に生じる390nmの波長域における非発光領域4の密度が1×104cm-2以下であるような特性を有する場合は、390nmの波長域における非発光領域4と関連する転位の密度が小さい炭化珪素基板80を使うことで、炭化珪素半導体装置100の歩留まりがさらに向上する。
【0058】
さらに、第1の主表面1に対して炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光LEを照射しながら、第1の主表面1に生じる390nmの波長域における非発光領域4の密度を測定する工程を有している場合は、非発光領域4の密度を測定することにより、非発光領域4に関連する転位の密度をより詳細に調べることができる。
【実施例】
【0059】
本実施例においては、炭化珪素半導体基板の裏面の密度と、当該基板を使ってデバイスプロセスをした場合におけるSORI値の変化量およびパターンずれの発生率について調べた。なお、SORI値とは基板の反りの大きさを定量化する一つの指標であり、基板の主表面の最小二乗面から基板の主表面の最高点までの距離と最低点までの距離との合計で定義される値である。SORI値が大きい場合、基板の反りが大きいことを意味する。
【0060】
本発明例1〜5および比較例1および2は、パターンずれ発生率を測定するための実験ウエハである。本発明例1〜5および比較例1および2には、第1の主表面(裏面)の輝点密度の異なる7種類の炭化珪素基板80を使用した。裏面の輝点密度は表1に示す通りである。発明例1〜5には輝点密度が10000以下の炭化珪素基板80を使用し、比較例1および2には輝点密度が10000よりも大きい炭化珪素基板80を使用した。本実験に使用した炭化珪素基板80の第2の主表面2(表面)の転位密度は低く、7つの炭化珪素基板80の表面の転位密度は同程度である。
【0061】
炭化珪素基板80の裏面の輝点密度は、実施の形態1で説明した方法により測定した。フォトルミネッセンス光を撮影するためのカメラ435としてCCDカメラを使用した。CCDカメラの画素数を1024×1024(96dpi×96dpi)とした。CCDカメラの1ショットの測定視野を650μm×650μmとした。CCDカメラの空間分解能を0.6μm/pixelとした。
【0062】
【表1】
【0063】
表1は、炭化珪素基板80の第1の主表面1(裏面)の輝点密度と、SORI値変化量およびパターンずれ発生率との関係を示している。また、図12は、裏面の輝点密度とSORI値変化量との関係を示すグラフである。ここで、輝点密度は転位密度と考えることができる。SORI値変化量とは、実施の形態2で示したような熱プロセスや成膜プロセスの前後におけるSORI値の変化量である。SORI値変化量が大きいと、実験ウエハの反りの変化が大きいことを表す。パターンずれ発生率とは、リソグラフィー工程においてパターンずれが発生した頻度である。パターンずれ発生率が多い場合、正確に半導体基板上にイオン注入などがされなくなるので、炭化珪素半導体装置100の歩留まりが悪化する。
【0064】
表1および図12から分かるように、比較例1および2の実験ウエハにおいては、SORI値変化量が6.1μm以上と大きな値を示した。また、パターンずれ発生率も9.6%以上と多かった。一方、本発明例1〜5の実験ウエハにおいては、SORI値変化量が4.3μm以下と比較的小さな値を示し、パターンずれ頻度も6.1%以下と少なかった。
【0065】
以上の実験より、裏面における輝点密度が10000以下である炭化珪素基板80を使用した場合パターンずれ発生率が低くなることが確認された。
【0066】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0067】
1 第1の主表面、2 第2の主表面、3 発光領域、4 非発光領域、80 炭化珪素基板、81 エピタキシャル層、90 エピタキシャル基板、100 炭化珪素半導体装置、400 フォトルミネッセンス測定装置、420 励起光生成ユニット、421 光源部、422 導光部、423,434 フィルタ、430 顕微鏡ユニット、431 制御部、432 ステージ、433 光学系、435 カメラ、DX オフ方向、DZ 法線方向、HX 六方晶、LE 励起光、LH 透過光、LL フォトルミネッセンス光、OA オフ角。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の主表面と前記第1の主表面と反対側の第2の主表面とを有する炭化珪素基板を準備する工程と、
前記第1の主表面に電極を形成する工程とを備え、
前記炭化珪素基板は六方晶の結晶構造を有し、
前記第1の主表面の{0001}面に対するオフ角が±8°以内であり、
前記第1の主表面は、炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光が照射された場合に、前記第1の主表面に生ずる750nm以上の波長域における発光領域の密度が1×104cm-2以下であるような特性を有する、炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記第2の主表面上にエピタキシャル層を形成する工程をさらに備えた、請求項1に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記炭化珪素基板を準備する工程は、前記第1の主表面に対して炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光を照射しながら、前記第1の主表面に生ずる750nm以上の波長域における前記発光領域の密度を測定する工程を含む、請求項1または2に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記第1の主表面は、炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光が照射された場合に、前記第1の主表面に生じる390nmの波長域における非発光領域の密度が1×104cm-2以下であるような特性を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記炭化珪素基板を準備する工程は、前記第1の主表面に対して炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光を照射しながら、前記第1の主表面に生じる390nmの波長域における前記非発光領域の密度を測定する工程を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項1】
第1の主表面と前記第1の主表面と反対側の第2の主表面とを有する炭化珪素基板を準備する工程と、
前記第1の主表面に電極を形成する工程とを備え、
前記炭化珪素基板は六方晶の結晶構造を有し、
前記第1の主表面の{0001}面に対するオフ角が±8°以内であり、
前記第1の主表面は、炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光が照射された場合に、前記第1の主表面に生ずる750nm以上の波長域における発光領域の密度が1×104cm-2以下であるような特性を有する、炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記第2の主表面上にエピタキシャル層を形成する工程をさらに備えた、請求項1に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記炭化珪素基板を準備する工程は、前記第1の主表面に対して炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光を照射しながら、前記第1の主表面に生ずる750nm以上の波長域における前記発光領域の密度を測定する工程を含む、請求項1または2に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記第1の主表面は、炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光が照射された場合に、前記第1の主表面に生じる390nmの波長域における非発光領域の密度が1×104cm-2以下であるような特性を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記炭化珪素基板を準備する工程は、前記第1の主表面に対して炭化珪素のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光を照射しながら、前記第1の主表面に生じる390nmの波長域における前記非発光領域の密度を測定する工程を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−112575(P2013−112575A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261395(P2011−261395)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
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