説明

炭素被覆アルミニウムおよびその製造方法

アルミニウムと活物質層との密着性を高めることが可能な炭素被覆アルミニウムとその製造方法を提供する。炭素被覆アルミニウムは、アルミニウム(1)と、このアルミニウム(1)の表面上に形成された炭素含有層(2)とを備え、このアルミニウム(1)と炭素含有層(2)との間に形成された、アルミニウム元素と炭素元素とを含む介在層(3)をさらに備える。炭素被覆アルミニウムの製造方法は、炭化水素含有物質を含む空間にアルミニウムを配置する工程と、炭化水素含有物質を含む空間にアルミニウムを配置した状態で加熱する工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
この発明は、炭素被覆アルミニウム、炭素被覆アルミニウムを用いた電極構造体、キャパシタ、および電池、ならびに炭素被覆アルミニウムの製造方法に関する。特定的には、この発明は、リチウム電池、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池、色素感光太陽電池、電気二重層キャパシタ、電解コンデンサ等に用いられる電極または電極集電体の材料としての炭素被覆アルミニウム箔、燃料電池、固体高分子燃料電池等に用いられる電極または電極集電体の材料としての炭素被覆アルミニウム板、および、それらの製造方法に関する。
【背景技術】
化学的エネルギを電気的エネルギに直接変換するための手段として電池がある。電池は、電気化学的な変化を利用して、電荷の放電、または電荷の充電と放電を繰り返す作用を行なうので、種々の電気電子機器の電源として用いられる。また、電荷の充電と放電を繰り返す作用を行なうものとしてキャパシタ(コンデンサ)があり、種々の電気電子機器の電気要素部品として用いられる。
近年、高いエネルギ効率の二次電池として、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池等が携帯電話機、パーソナルコンピュータ、カメラ等の電源として用いられている。また、燃料電池が自動車の電源として使用されることが試みられている。太陽電池に関しては、結晶系、アモルファス系および薄膜系太陽電池の次世代として、低コスト普及型である色素増感太陽電池の開発が進んでいる。
たとえば、燃料電池では、アルミニウム板からなる集電体の表面を炭素材料からなる活物質で被覆したものが負極材料として用いられている。
色素増感太陽電池では、薄膜基材の表面を炭素材料などの導電性材料で被覆したものが電極材料として用いられている。
一方、電気化学キャパシタの一つである電気二重層キャパシタでは、アルミニウム箔からなる集電体の表面を活性炭粉末からなる活物質で被覆したものが分極電極として用いられている。具体的には、活性炭粉末に結合材と導電剤等を添加して混合し、スラリー状に調製し、アルミニウム箔の表面上に塗布した後、室温で乾燥させ、所定の大きさに切断することによって、分極電極を製造する。また、活性粉末と樹脂等の混合物をアルミニウム箔の表面上に熱圧着することによって、分極電極を製造する場合もある。
電解コンデンサでは、エッチングによって表面積を拡大したアルミニウム箔からなる導電体が陰極材料に従来から用いられてきたが、近年、炭素粉末をアルミニウム箔の表面に付着させることによって電極の表面を拡大させたものが開発されている。
これらの電池またはキャパシタ(コンデンサ)等の電極材料に使用される炭素被覆アルミニウムの製造方法としては、特開2000−164466号公報には、アルミニウムの集電体に、カーボンの中間膜またはアルミニウムよりも貴な金属の中間膜を設け、その上にカーボン等の活物質層を被覆する方法が開示されている。また、国際公開第00/07253号パンフレットには、リチウム二次電池において集電体として用いられるアルミニウムと銅集電体を酸性水溶液、塩基性水溶液あるいは中性水溶液として処理し、場合によっては導電性の高分子皮膜を形成することにより、表面積を大きくでき、活物質層との結合力を向上させ、優れた充放電特性のあるリチウム二次電池の作製のための集電体が開示されている。
しかしながら、上記のいずれの製造方法を用いても、得られる炭素被覆アルミニウムは、炭素含有材料からなる活物質層とアルミニウムの表面との間の密着性が不十分であった。このため、二次電池またはキャパシタの充電時と放電時において活物質層がアルミニウムの表面から剥離するという現象が生じる場合があった。その結果、二次電池またはキャパシタの充放電特性、寿命等が低下するという問題があった。
たとえば、容量の大きい電気二重層キャパシタを得るためには、アルミニウムからなる集電体の表面上に活物質層を厚く形成することによって分極電極と電解液との接触面積を大きくする必要がある。しかしながら、従来の炭素被覆アルミニウムを用いて電極を構成すると、キャパシタの充電時と放電時において炭素含有材料からなる活物質層がアルミニウムからなる集電体から剥離するという問題があった。
【発明の開示】
そこで、この発明の目的は上述の問題を解決することであり、アルミニウムと活物質層との密着性を高めることが可能な炭素被覆アルミニウムの構造とその製造方法を提供することである。
また、この発明のもう一つの目的は、アルミニウムと活物質層との密着性を高めることが可能な炭素被覆アルミニウムからなる電極構造体を提供することである。
さらに、この発明の別の目的は、アルミニウムと活物質層との密着性を高めることが可能な炭素被覆アルミニウムからなる電極構造体を備えたキャパシタを提供することである。
この発明のさらに別の目的は、アルミニウムと活物質層との密着性を高めることが可能な炭素被覆アルミニウムからなる電極構造体を備えた電池を提供することである。
本発明者は、背景技術の問題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定条件でアルミニウムを加熱することによって上記の目的を達成できる炭素被覆アルミニウムを得ることができることを見出した。このような発明者の知見に基づいて本発明はなされたものである。
この発明に従った炭素被覆アルミニウムは、アルミニウムと、このアルミニウムの表面上に形成された炭素含有層とを備え、このアルミニウムと炭素含有層との間に形成された、アルミニウム元素と炭素元素とを含む介在層をさらに備える。
この炭素被覆アルミニウムにおいては、アルミニウムと活物質層としての炭素含有層との間に形成された介在層が、アルミニウムと活物質層との間の密着性を高める作用をする。また、炭素含有層は、アルミニウムの表面積を拡大または増大させる作用をする。このため、介在層が、アルミニウムの表面積を増大させる活物質層である炭素含有層とアルミニウムとの間の密着性を高める作用をする。これにより、炭素被覆アルミニウムにおいて活物質層の密着性の向上と表面積の増大とを達成することができる。
この発明の炭素被覆アルミニウムにおいて、好ましくは、炭素含有層は、アルミニウム元素と炭素元素とを含む介在物を内部に含む。
炭素含有層が薄い場合は、上記の介在層の存在のみによって、アルミニウムと活物質層との密着性を従来よりも向上させることができる。しかし、炭素含有層が厚い場合は、炭素含有層の内部で剥離が生じる可能性がある。この場合、炭素含有層の内部にアルミニウム元素と炭素元素とを含む介在物を形成することによって、炭素含有層内での密着性を高めることができ、剥離を防止することができる。
上記の介在物は、アルミニウム元素と炭素元素との化合物であるのが好ましい。また、炭素含有層は、アルミニウム元素と炭素元素との化合物であるのが好ましい。
この発明の炭素被覆アルミニウムにおいて、炭素含有層は、アルミニウムの表面から外側に延びるように形成されているのが好ましい。この場合、炭素含有層がアルミニウムの表面積を拡大または増大させる作用をより効果的に発揮する。
また、この発明の炭素被覆アルミニウムにおいて、介在層は、アルミニウムの表面の少なくとも一部の領域に形成された、アルミニウムの炭化物を含む第1の表面部分を構成するのが好ましい。炭素含有層は、第1の表面部分から外側に向かって延びるように形成された第2の表面部分を構成するのが好ましい。
この場合、第2の表面部分がアルミニウムの表面積を増大させる作用をする。また、アルミニウムと第2の表面部分との間にはアルミニウムの炭化物を含む第1の表面部分が形成されているので、この第1の部分が、アルミニウムの表面積を増大させる第2の表面部分との間の密着性を高める作用をする。これにより、炭素被覆アルミニウムにおいて活物質層の密着性の向上と表面積の増大とをより効果的に達成することができる。
また、炭素含有層は炭素粒子をさらに含み、第2の表面部分は第1の表面部分と炭素粒子との間に形成されてアルミニウムの炭化物を含むのが好ましい。この場合、厚い炭素含有層を形成しても、活物質層としての炭素含有層とアルミニウムとの密着性を確実に保持することができる。
さらに、炭素含有層は、炭素粒子に加えて、アルミニウム粒子を含み、アルミニウム粒子の表面の少なくとも一部の領域に形成されてアルミニウムの炭化物を含むアルミニウム粒子表面部分と、アルミニウム粒子表面部分からアルミニウム粒子の表面の外側に向かって延びるように形成されてアルミニウムの炭化物を含むアルミニウム粒子外側部分とをさらに含むのが好ましい。この場合、より厚い炭素含有層を形成しても、活物質層としての炭素含有層内での密着性を高めることができ、剥離を防止することができる。
炭素含有層は、炭素粒子の代わりに、アルミニウム粒子を含み、アルミニウム粒子の表面の少なくとも一部の領域に形成されてアルミニウムの炭化物を含むアルミニウム粒子表面部分と、アルミニウム粒子表面部分からアルミニウム粒子の表面の外側に向かって延びるように形成されてアルミニウムの炭化物を含むアルミニウム粒子外側部分とをさらに含み、第2の表面部分は第1の表面部分とアルミニウム粒子との間に形成されてアルミニウムの炭化物を含んでいてもよい。この場合、活物質層として単位投影面積あたりの表面積が大きい炭素含有層を形成することができる。
この発明の炭素被覆アルミニウムにおいては、炭素含有層の厚みは、アルミニウム箔の厚みに対して0.1以上1000以下の比率を有するのが好ましい。
この発明に従った上述のいずれかの特徴を有する炭素被覆アルミニウムは、電極構造体を構成するために用いられる。電極構造体は、電極または電極集電体のいずれかであるのが好ましい。
上記の電極構造体はキャパシタを構成するために用いられる。これにより、キャパシタの充放電特性、寿命等を高めることができる。キャパシタは、電気化学キャパシタまたは電解コンデンサのいずれかであるのが好ましい。
また、上記の電極構造体は電池を構成するために用いられる。これにより、電池の充放電特性、寿命等を高めることができる。
この発明に従った炭素被覆アルミニウムの製造方法は、炭化水素含有物質を含む空間にアルミニウムを配置する工程と、炭化水素含有物質を含む空間にアルミニウムを配置した状態で加熱する工程とを備える。
この発明の製造方法では、従来のように密着性を確保するために、中間膜を設けることなく、前処理することなく、または、塗布後に、乾燥、圧着という一連の工程を施す必要がない。炭化水素含有物質を含む空間にアルミニウムを配置し、加熱するという簡単な工程で、アルミニウムの表面を炭素含有層からなる活性物質層で被覆することができるだけでなく、アルミニウムと活性物質層との間にアルミニウム元素と炭素元素とを含む介在層を形成することができる。これにより、アルミニウムと活性物質層としての炭素含有層との間の密着性を高めることができる。
また、この発明に従ったアルミニウムの製造方法は、炭化水素含有物質を含む空間にアルミニウムを配置した状態で加熱する工程の後、アルミニウムを冷却して再加熱する工程、すなわち、賦活処理工程をさらに備えてもよい。
この場合、アルミニウムを冷却して再加熱する工程は、100℃以上660℃未満の温度範囲で行なわれるのが好ましい。
この発明に従ったアルミニウムの製造方法においては、炭化水素含有物質を含む空間にアルミニウムを配置する工程は、炭素含有物質およびアルミニウム粉末からなる群より選ばれた少なくとも1種をアルミニウムの表面に付着させた後、炭化水素含有物質を含む空間にアルミニウムを配置するのが好ましい。
すなわち、この発明の製造方法において、アルミニウムを配置する工程では、アルミニウムの表面に炭素含有物質を付着させた後、炭化水素含有物質を含む空間にアルミニウムを配置してもよく、アルミニウムの表面にアルミニウム粉末を付着させた後、炭化水素含有物質を含む空間にアルミニウムを配置してもよく、または、アルミニウムの表面に炭素含有物質とアルミニウム粉末とを付着させた後、炭化水素含有物質を含む空間にアルミニウムを配置してもよい。
薄い炭素含有層を形成する場合には、炭化水素含有物質を含む空間にアルミニウムを配置し、加熱するだけで、上記の介在層の存在のみによって、アルミニウム箔と活物質層との密着性を従来よりも向上させることができる。しかし、厚い炭素含有層を形成する場合、アルミニウムと活物質層との密着性を確実に保持するためには、アルミニウムの表面に炭素含有物質を付着させた後、炭化水素含有物質を含む空間にアルミニウムを配置し、加熱するのが好ましい。
より厚い炭素含有層を形成する場合、炭素含有層の内部で剥離が生じる可能性がある。この場合、アルミニウムの表面に炭素含有物質とアルミニウム粉末とを付着させた後、炭化水素含有物質を含む空間にアルミニウムを配置し、加熱して、炭素含有層の内部にアルミニウム元素と炭素元素とを含む介在物を形成することによって、炭素含有層内での密着性を高めることができ、剥離を防止することができる。
さらに、単位投影面積あたりの表面積が大きい活物質層を形成するためには、アルミニウムの表面にアルミニウム粉末を付着させた後、炭化水素含有物質を含む空間にアルミニウムを配置し、加熱するのが好ましい。または、アルミニウムの表面を粗面化した後、炭化水素含有物質を含む空間に配置し、加熱してもよい。
なお、この発明の製造方法において、炭素含有物質およびアルミニウム粉末からなる群より選ばれた少なくとも1種をアルミニウムの表面に付着させる場合、バインダを用いてもよい。バインダは、加熱時に燃焼可能な有機高分子系であることが好ましい。
この発明の製造方法において、アルミニウムを加熱する工程は、450℃以上660℃未満の温度範囲で行なうのが好ましい。
また、この発明の製造方法において、炭化水素含有物質を含む空間にアルミニウムを配置する工程では、パラフィン系炭化水素またはメタンを含む空間にアルミニウムを配置するのが好ましい。
以上のように、この発明の炭素被覆アルミニウムによれば、炭素含有層とアルミニウムの密着性を従来よりも向上させることができる。また、本発明の炭素被覆アルミニウムを用いて電極構造体を構成することによって、電池またはキャパシタの充放電特性、寿命等を高めることができる。さらに、本発明の炭素被覆アルミニウムの製造方法によれば、炭化水素含有物質を含む空間にアルミニウムを配置し、加熱するという簡単な工程で、アルミニウムの表面を炭素含有層からなる活性物質層で被覆することができるだけでなく、アルミニウムと活性物質層との間にアルミニウム元素と炭素元素とを含む介在層を形成することができ、炭素含有層とアルミニウムの密着性を従来よりも向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、この発明の一つの実施の形態として炭素被覆アルミニウムの断面構造を模式的に示す図である。
図2は、この発明のもう一つの実施の形態として炭素被覆アルミニウムの断面構造を模式的に示す図である。
図3は、この発明のさらにもう一つの実施の形態として炭素被覆アルミニウムの断面構造を模式的に示す図である。
図4は、この発明のさらに別の実施の形態として炭素被覆アルミニウムの断面構造を模式的に示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
図1に示すように、この発明の一つの実施の形態として炭素被覆アルミニウムの断面構造によれば、アルミニウム(アルミニウム板またはアルミニウム箔)1の表面上に炭素含有層2が形成されている。アルミニウム1と炭素含有層2との間には、アルミニウム元素と炭素元素とを含む介在層3が形成されている。炭素含有層2は、アルミニウム1の表面から外側に延びるように形成されている。介在層3は、アルミニウム1の表面の少なくとも一部の領域に形成された、アルミニウムの炭化物を含む第1の表面部分を構成している。炭素含有層2は、第1の表面部分3から外側に繊維状またはフィラメント状の形態で延びるように形成された第2の表面部分21を含む。第2の表面部分21は、アルミニウム元素と炭素元素との化合物である。
また、図2に示すように、この発明のもう一つの実施の形態として炭素被覆アルミニウムの断面構造は、図1に示す断面構造と同様の構造を有し、炭素含有層2が多数個の炭素粒子22をさらに含む。第2の表面部分21は、第1の表面部分3から外側に繊維状またはフィラメント状の形態で延び、第1の表面部分3と炭素粒子22との間に形成されてアルミニウムの炭化物を含む。
さらに、図3に示すように、この発明のさらにもう一つの実施の形態として炭素被覆アルミニウムの断面構造は、図1に示す断面構造と同様の構造を有し、炭素含有層2が多数個のアルミニウム粒子23をさらに含む。アルミニウム粒子表面部分24は、アルミニウム粒子23の表面の少なくとも一部の領域に形成されてアルミニウムの炭化物を含む。アルミニウム粒子外側部分25は、アルミニウム粒子表面部分24からアルミニウム粒子23の表面の外側に向かってサボテン状の形態で延びるように形成されてアルミニウムの炭化物を含む。第2の表面部分21は、第1の表面部分3から外側に繊維状またはフィラメント状の形態で延び、第1の表面部分3とアルミニウム粒子23との間に形成されてアルミニウムの炭化物を含む。
図4に示すように、この発明のさらに別の実施の形態として炭素被覆アルミニウムの断面構造は、図1に示す断面構造と同様の構造を有し、炭素含有層2が多数個の炭素粒子22とアルミニウム粒子23とをさらに含む。第2の表面部分21は、第1の表面部分3から外側に繊維状またはフィラメント状の形態で延び、第1の表面部分3と炭素粒子22との間に形成されてアルミニウムの炭化物を含む。さらに、アルミニウム粒子表面部分24は、アルミニウム粒子23の表面の少なくとも一部の領域に形成されてアルミニウムの炭化物を含む。アルミニウム粒子外側部分25は、アルミニウム粒子表面部分24からアルミニウム粒子23の表面の外側に向かってサボテン状の形態で延びるように形成されてアルミニウムの炭化物を含む。
この発明の一つの実施の形態として、炭素含有層が形成される基材としてのアルミニウムは、特に限定されず、純アルミニウムまたはアルミニウム合金を用いることができる。このようなアルミニウムは、アルミニウム純度が「JIS H2111」に記載された方法に準じて測定された値で98質量%以上のものが好ましい。本発明で用いられるアルミニウム箔は、その組成として、鉛(Pb)、珪素(Si)、鉄(Fe)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ガリウム(Ga)、ニッケル(Ni)およびホウ素(B)の少なくとも1種の合金元素を必要範囲内において添加したアルミニウム合金、または、上記の不可避的不純物元素の含有量を限定したアルミニウムも含む。アルミニウムの厚みは、特に限定されないが、箔であれば5μm以上200μm以下、板であれば200μmを越え3mm以下の範囲内とするのが好ましい。
上記のアルミニウムは、公知の方法によって製造されるものを使用することができる。たとえば、上記の所定の組成を有するアルミニウムまたはアルミニウム合金の溶湯を調製し、これを鋳造して得られた鋳塊を適切に均質化処理する。その後、この鋳塊に熱間圧延と冷間圧延を施すことにより、アルミニウムを得ることができる。なお、上記の冷間圧延工程の途中で、150℃以上400℃以下の範囲内で中間焼鈍処理を施してもよい。
本発明の炭素被覆アルミニウムは、燃料電池のガス電極材料、電気二重層キャパシタの分極電極材料、電解コンデンサの陰極材料に用いるのに最適である。
ところで、従来から、リチウムイオン電池およびリチウムイオンポリマー電池等のリチウムイオン系二次電池の正極材料には集電体としてのアルミニウムの表面上に活物質層を形成したものが用いられ、負極材料には集電体としての銅箔の表面上に炭素含有層からなる活物質層を形成したものが用いられてきた。本発明の炭素被覆アルミニウムは、上記のリチウムイオン系二次電池の正極材料において集電体の表面上に塗布加工される電極物質(金属酸リチウム、カーボン、バインダ等の混合物)の密着性を高めるために、集電体材料として用いても有効である。近年、これらの二次電池の軽量化を図るために、負極材料にも集電体としてアルミニウムを用いる試みがなされている。このような試みに対応して、本発明の炭素被覆アルミニウムは、リチウムイオン系二次電池の負極材料に用いるのに最適である。
本発明の炭素被覆アルミニウムの製造方法の一つの実施の形態では、用いられる炭化水素含有物質の種類は特に限定されない。炭化水素含有物質の種類としては、たとえば、メタン、エタン、プロパン、n−ブタン、イソブタンおよびペンタン等のパラフィン系炭化水素、エチレン、プロピレン、ブテンおよびブタジエン等のオレフィン系炭化水素、アセチレン等のアセチレン系炭化水素等、またはこれらの炭化水素の誘導体が挙げられる。これらの炭化水素の中でも、メタン、エタン、プロパン等のパラフィン系炭化水素は、アルミニウム箔を加熱する工程においてガス状になるので好ましい。さらに好ましいのは、メタン、エタンおよびプロパンのうち、いずれか一種の炭化水素である。最も好ましい炭化水素はメタンである。
また、炭化水素含有物質は、本発明の製造方法において液体、気体等のいずれの状態で用いてもよい。炭化水素含有物質は、アルミニウムが存在する空間に存在するようにすればよく、アルミニウムを配置する空間にどのような方法で導入してもよい。たとえば、炭化水素含有物質がガス状である場合(メタン、エタン、プロパン等)には、アルミニウムの加熱処理が行なわれる密閉空間中に炭化水素含有物質を単独または不活性ガスとともに充填すればよい。また、炭化水素含有物質が液体である場合には、その密閉空間中で気化するように炭化水素含有物質を単独または不活性ガスとともに充填してもよい。
アルミニウムを加熱する工程において、加熱雰囲気の圧力は特に限定されず、常圧、減圧または加圧下であってもよい。また、圧力の調整は、ある一定の加熱温度に保持している間、ある一定の加熱温度までの昇温中、または、ある一定の加熱温度から降温中のいずれの時点で行なってもよい。
アルミニウムを配置する空間に導入される炭化水素含有物質の重量比率は、特に限定されないが、通常はアルミニウム100重量部に対して炭素換算値で0.1重量部以上50重量部以下の範囲内にするのが好ましく、特に0.5重量部以上30重量部以下の範囲内にするのが好ましい。
アルミニウムを加熱する工程において、加熱温度は、加熱対象物であるアルミニウムの組成等に応じて適宜設定すればよいが、通常は450℃以上660℃未満の範囲内が好ましく、530℃以上620℃以下の範囲内で行なうのがより好ましい。ただし、本発明の製造方法において、450℃未満の温度でアルミニウムを加熱することを排除するものではなく、少なくとも300℃を超える温度でアルミニウムを加熱すればよい。
加熱時間は、加熱温度等にもよるが、一般的には1時間以上100時間以下の範囲内である。
加熱温度が400℃以上になる場合は、加熱雰囲気中の酸素濃度を1.0体積%以下とするのが好ましい。加熱温度が400℃以上で加熱雰囲気中の酸素濃度が1.0体積%を超えると、アルミニウムの表面の熱酸化被膜が肥大し、アルミニウムの表面における界面電気抵抗が増大するおそれがある。
また、加熱処理の前にアルミニウムの表面を粗面化してもよい。粗面化方法は、特に限定されず、洗浄、エッチング、ブラスト等の公知の技術を用いることができる。
本発明の製造方法において、厚い炭素含有層を形成する場合、アルミニウムの表面に炭素含有物質、または、炭素含有物質とアルミニウム粉末を付着させた後、炭化水素含有物質を含む空間にアルミニウムを配置し、加熱する工程が採用される。この場合、アルミニウム箔の表面に付着される炭素含有物質は、活性炭素繊維、活性炭クロス、活性炭フェルト、活性炭粉末、墨汁、カーボンブラックまたはグラファイト等のいずれを用いてもよい。付着方法は、バインダ、溶剤または水等を用いて、スラリー状、液体状または固体状等に上記の炭素含有物質を調製したものを、塗布、ディッピングまたは熱圧着等によってアルミニウムの表面上に付着させればよい。炭素含有物質をアルミニウムの表面上に付着させた後、20℃以上300℃以下の範囲内の温度で乾燥させてもよい。
本発明の製造方法において、より厚い炭素含有層を形成するために、アルミニウムの表面に炭素含有物質とアルミニウム粉末を付着させる場合には、上記の炭素含有物質100重量部に対して0.01重量部以上10000重量部以下の範囲内の重量比率でアルミニウム粉末を添加するのが好ましい。
【実施例】
以下の実施例1〜23と従来例1〜3に従って炭素被覆アルミニウムを作製した。なお、実施例と比較するために炭素被覆アルミニウムの参考例も作製した。
【実施例1〜5】
厚みが10μmのアルミニウム硬質箔(JIS A1050−H18)の両面に炭素含有物質を塗布し、温度30℃で3時間乾燥処理することにより、付着させた。アルミニウム箔の公称純度は99.55質量%、組成の質量分析値はシリコンが2250ppm、鉄が3800ppmであった。炭素含有物質の組成は、カーボンブラック(三菱化学株式会社製 #2400B)1重量部に対し、イソプロピルアルコール(IPA)を6重量部、1、1、1トリクロロエタンを3重量部、加えたものであった。炭素含有物質の付着は、乾燥後の厚みが片面で4μmとなるようにした。
その後、炭素含有物質を付着させたアルミニウム箔を表1に示す雰囲気と温度の条件で12時間加熱した。
【実施例6】
厚みが10μmのアルミニウム硬質箔(JIS A1050−H18)の両面に炭素含有物質を塗布し、温度100℃で10分間乾燥処理することにより、付着させた。アルミニウム箔の公称純度は99.55質量%、組成の質量分析値はシリコンが2250ppm、鉄が3800ppmであった。炭素含有物質の組成は、カーボンブラック(三菱化学株式会社製 #2400B)1重量部に対し、ポリエチレンテレフタレート(PET)を1重量部、加えたものであった。炭素含有物質の付着は、乾燥後の厚みが片面で180μmとなるようにした。
その後、炭素含有物質を付着させたアルミニウム箔を表1に示す雰囲気と温度の条件で12時間加熱した。
【実施例7】
実施例6と同様にして、アルミニウム硬質箔の両面に炭素含有物質を付着させた。その後、炭素含有物質を付着させたアルミニウム箔に圧延ロールを用いて約20%の圧下を加えて、炭素含有物質をアルミニウム箔の表面上に圧着させた。圧着後のアルミニウム箔を表1に示す雰囲気と温度の条件で12時間加熱した。
【実施例8】
厚みが10μmのアルミニウム硬質箔(JIS A3003−H18)の両面に炭素含有物質を塗布し、温度100℃で10分間乾燥処理することにより、付着させた。アルミニウム箔の組成の質量分析値は、シリコンが0.57質量%、鉄が0.62質量%、銅が0.1質量%、マンガンが1.1質量%であった。炭素含有物質の組成は、カーボンブラック(三菱化学株式会社製 #2400B)1重量部に対し、ポリエチレンテレフタレート(PET)を1重量部、加えたものであった。炭素含有物質の付着は、乾燥後の厚みが片面で3mmとなるようにした。
その後、炭素含有物質を付着させたアルミニウム箔に圧延ロールを用いて約30%の圧下を加えて、炭素含有物質をアルミニウム箔の表面上に圧着させた。圧着後のアルミニウム箔を表1に示す雰囲気と温度の条件で12時間加熱した。
【実施例9〜12】
厚みが10μmのアルミニウム硬質箔(JIS A3003−H18)の両面に炭素含有物質を塗布し、温度100℃で10分間乾燥処理することにより、付着させた。アルミニウム箔の組成の質量分析値は、シリコンが0.57質量%、鉄が0.62質量%、銅が0.1質量%、マンガンが1.1質量%であった。炭素含有物質の組成は、カーボンブラック(三菱化学株式会社製 #2400B)100重量部に対し、ポリエチレンテレフタレート(PET)を100重量部、アルミニウム粉末を表1に示す重量部、加えたものであった。炭素含有物質の付着は、乾燥後の厚みが片面で3mmとなるようにした。
その後、炭素含有物質を付着させたアルミニウム箔に圧延ロールを用いて約30%の圧下を加えて、炭素含有物質をアルミニウム箔の表面上に圧着させた。圧着後のアルミニウム箔を表1に示す雰囲気と温度の条件で12時間加熱した。
(従来例1)
厚みが10μmのアルミニウム硬質箔(JIS A1050−H18)の両面に炭素含有物質を塗布し、温度30℃で3時間乾燥処理することにより、付着させた。アルミニウム箔の公称純度は99.55質量%、組成の質量分析値はシリコンが2250ppm、鉄が3800ppmであった。炭素含有物質の組成は、カーボンブラック(三菱化学株式会社製 #2400B)1重量部に対し、イソプロピルアルコール(IPA)を6重量部、1、1、1トリクロロエタンを3重量部、加えたものであった。炭素含有物質の付着は、乾燥後の厚みが片面で4μmとなるようにした。
このようにして得られた炭素被覆アルミニウム箔は、実施例1〜5の加熱処理が施されなかったものに相当する。
(従来例2)
厚みが10μmのアルミニウム硬質箔(JIS A1050−H18)の両面に炭素含有物質を塗布し、温度100℃で10分間乾燥処理することにより、付着させた。アルミニウム箔の公称純度は99.55質量%、組成の質量分析値はシリコンが2250ppm、鉄が3800ppmであった。炭素含有物質の組成は、カーボンブラック(三菱化学株式会社製 #2400B)1重量部に対し、ポリエチレンテレフタレート(PET)を1重量部、加えたものであった。炭素含有物質の付着は、乾燥後の厚みが片面で180μmとなるようにした。
このようにして得られた炭素被覆アルミニウム箔は、実施例6の加熱処理が施されなかったものに相当する。
(従来例3)
厚みが10μmのアルミニウム硬質箔(JIS A3003−H18)の両面に炭素含有物質を塗布し、温度100℃で10分間乾燥処理することにより、付着させた。アルミニウム箔の組成の質量分析値は、シリコンが0.57質量%、鉄が0.62質量%、銅が0.1質量%、マンガンが1.1質量%であった。炭素含有物質の組成は、カーボンブラック(三菱化学株式会社製 #2400B)1重量部に対し、ポリエチレンテレフタレート(PET)を1重量部、加えたものであった。炭素含有物質の付着は、乾燥後の厚みが片面で3mmとなるようにした。
このようにして得られた炭素被覆アルミニウム箔は、実施例7の加熱処理が施されなかったものに相当する。
(参考例1)
厚みが10μmのアルミニウム硬質箔(JIS A1050−H18)の両面に炭素含有物質を塗布し、温度30℃で3時間乾燥処理することにより、付着させた。アルミニウム箔の公称純度は99.55質量%、組成の質量分析値はシリコンが2250ppm、鉄が3800ppmであった。炭素含有物質の組成は、カーボンブラック(三菱化学株式会社製 #2400B)1重量部に対し、イソプロピルアルコール(IPA)を6重量部、1、1、1トリクロロエタンを3重量部、加えたものであった。炭素含有物質の付着は、乾燥後の厚みが片面で4μmとなるようにした。
その後、炭素含有物質を付着させたアルミニウム箔を表1に示す雰囲気と温度の条件で12時間加熱した。
実施例1〜12、従来例1〜3および参考例1で得られた炭素被覆アルミニウムにおいて炭素含有層とアルミニウムとの密着性、アルミニウム元素と炭素元素を含む介在層および炭素含有層に含まれる介在物の形成量を評価した。評価条件は次に示すとおりである。評価結果を表1に示す。
[密着性]
テーピング法によって密着性を評価した。幅10mm、長さ100mmの炭素被覆アルミニウムの試料において炭素含有層の表面に、幅15mm、長さ120mmの接着面を有する粘着テープ(住友スリーM株式会社製、商品名「スコッチテープ」)を押し当てた後、粘着テープを引き剥がして、密着性を次の式にしたがって評価した。
密着性(%)={引き剥がし後の炭素含有層の重量(mg)/引き剥がし前の炭素含有層の重量(mg)}×100
[介在層および介在物の形成量]
介在層および介在物の形成量をアルミニウム炭化物の定量分析によって評価した。炭素被覆アルミニウムの試料を20%水酸化ナトリウム水溶液に全量溶解させることによって発生したガスを捕集し、フレームイオン化検出器付高感度ガスクロマトグラフを用いて捕集ガスを定量分析して、アルミニウム炭化物(Al)含有量に換算した。このアルミニウム炭化物含有量で介在層および介在物の形成量を次の式にしたがって評価した。
介在層と介在物の形成量=アルミニウム炭化物(Al)の重量(mg)/炭素含有層(mg)

表1中、「介在層と介在物の形成量」の欄に示される「Tr」は検出不能な微量であることを示す。
表1の結果から明らかなように、実施例1〜5の炭素被覆アルミニウムは、従来例1の炭素被覆アルミニウムよりもかなり高い密着性を示した。また、炭素含有層を厚く形成した場合でも、実施例6〜7の炭素被覆アルミニウムは、従来例2の炭素被覆アルミニウムよりもかなり高い密着性を示した。さらに、炭素含有層をかなり厚く形成した場合でも、実施例8〜12の炭素被覆アルミニウムは、従来例3の炭素被覆アルミニウムよりもかなり高い密着性を示した。この場合、炭素含有物質に加えてアルミニウム粉末を付着させた後、加熱処理することによって得られた実施例9〜12の炭素被覆アルミニウムは、炭素含有物質のみを付着させた後、加熱処理することによって得られた実施例8の炭素被覆アルミニウムよりも高い密着性を示すことが理解される。
なお、炭化水素含有物質の雰囲気ガス(実施例1〜5)に代えて、不活性ガスであるアルゴンガスの雰囲気中で加熱処理することによって得られた参考例1の炭素被覆アルミニウムは、従来例1と同様に低い密着性を示した。
上記の実施例では、アルミニウムの表面に炭素含有物質を付着させた後、加熱処理を施したものを示したが、予め炭素含有物質をアルミニウム箔の表面に付着させない場合でも、従来よりも高い密着性を示すことが確認された。
実施例5で得られた試料表面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、炭素含有層として、約1000nmの長さで繊維状またはフィラメント状の形態でアルミニウム箔の表面から外側に延びている部分の存在を確認した。実施例5の断面模式図を図2に示す。また、X線回折および電子エネルギー損失分光器(EELS)にて炭化アルミニウムの存在を確認した。
実施例10で得られた試料表面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、アルミニウム箔の表面上に付着している粒径が約1μmの多数個の粒子部分から、サボテン状の形態で外側に延びている部分と、この部分の上に付着している粒径が約0.1μmの多数個の粒子部分とから構成される炭素含有層の存在を確認した。実施例10の断面模式図を図4に示す。また、X線回折および電子エネルギー損失分光器(EELS)にて炭化アルミニウムの存在を確認した。
(参考例2)
厚みが30μmのアルミニウム箔(JIS A1050−H18)を、アルゴンガス雰囲気中にて温度590℃で10時間保持した。その後、走査電子顕微鏡(SEM)で試料の表面を観察したところ、繊維状またはフィラメント状の形態でアルミニウム箔の表面から外側に延びている部分の存在は確認されなかった。また、X線回折および電子エネルギー損失分光器(EELS)にても炭化アルミニウムの存在は確認されなかった。
【実施例13】
厚みが30μmのアルミニウム箔(JIS A1050−H18)を、アセチレンガス雰囲気中にて温度590℃で10時間保持した。その後、走査電子顕微鏡(SEM)で試料の表面を観察したところ、炭素含有層として、約1000nmの長さで繊維状またはフィラメント状の形態でアルミニウム箔の表面から外側に延びている部分の存在を確認した。この断面模式図を図1に示す。また、X線回折および電子エネルギー損失分光器(EELS)にて炭化アルミニウムの存在を確認した。
(参考例3)
厚みが40μmのアルミニウム(JIS A1080−H18)に、塩酸15%と硫酸0.5%を含む電解液中で温度50℃、電流密度0.4A/cmの条件にて60秒間交流エッチング処理を施した後、エッチング後のアルミニウムを水洗し、乾燥した。
(参考例4)
参考例3で得られたエッチング後のアルミニウムを、アルゴンガス雰囲気中にて温度590℃で10時間保持した。
【実施例14】
参考例3で得られたエッチング後のアルミニウムを、アセチレンガス雰囲気中にて温度590℃で10時間保持した。
【実施例15】
平均粒径が0.5μmのカーボンブラック2重量部を、少なくとも炭素と水素を含むバインダー1重量部と混合し、溶剤(トルエン)に分散させて固形分30%の塗工液を得た。この塗工液を、厚みが30μmのアルミニウム(JIS A1050−H18)の両面に塗工し、乾燥した。乾燥後の塗膜の厚みは片面1μmであった。このアルミニウムをメタンガス雰囲気中にて温度590℃で10時間保持した。その後、走査電子顕微鏡(SEM)で試料の表面を観察したところ、約1000nmの長さで繊維状またはフィラメント状の形態でアルミニウムの表面から外側に延びている部分と、この部分の上に付着している粒径が約0.5μmの多数個の粒子部分とから構成される炭素含有層の存在を確認した。この断面模式図を図2に示す。また、X線回折および電子エネルギー損失分光器(EELS)にて炭化アルミニウムの存在を確認した。
【実施例16】
平均粒径が1μmのアルミニウム粉末2重量部を、少なくとも炭素と水素を含むバインダー1重量部と混合し、溶剤(トルエン)に分散させて固形分30%の塗工液を得た。この塗工液を、厚みが15μmのアルミニウム(JIS 1N30−H18)の両面に塗工し、乾燥した。乾燥後の塗膜の厚みは片面2μmであった。このアルミニウムをメタンガス雰囲気中にて温度620℃で10時間保持した。その後、走査電子顕微鏡(SEM)で試料表面を観察したところ、炭素含有層として、アルミニウムの表面上に付着している粒径が約1μmの多数個の粒子部分から、約5000nmの長さでサボテン状の形態で外側に延びている部分の存在を確認した。この断面模式図を図3に示す。また、X線回折および電子エネルギー損失分光器(EELS)にて炭化アルミニウムの存在を確認した。
【実施例17〜23】
平均粒径が0.1μmのカーボンブラック2重量部と平均粒径が1μmのアルミニウム粉末2重量部を、少なくとも炭素と水素を含むバインダー1重量部と混合し、溶剤(トルエン)に分散させて固形分30%の塗工液を得た。この塗工液を、厚みが1.5mmのアルミニウム(JIS A3003−H18)の両面に塗工し、乾燥した。乾燥後の塗膜の厚みは片面4μmであった。このアルミニウムを表2に示す条件で熱処理した。実施例21では、熱処理後に圧延ロールを用いて約20%の圧下率で圧延加工をアルミニウムに施した。実施例23では、熱処理後に空気中にて300℃で2時間の賦活処理を施した。その後、走査電子顕微鏡(SEM)で試料表面を観察したところ、アルミニウムの表面上に付着している粒径が約1μmの多数個の粒子部分から、サボテン状の形態で外側に延びている部分と、この部分の上に付着している粒径が約0.1μmの多数個の粒子部分とから構成される炭素含有層の存在を確認した。この断面模式図を図4に示す。

実施例13、14で得られた炭素被覆アルミニウムおよび参考例2〜4で得られたアルミニウムにおいて表面抵抗特性を評価した。評価条件は次に示すとおりである。評価結果を表3に示す。
[表面抵抗特性]
交流インピーダンス法によって表面抵抗特性を評価した。
実施例13、14および参考例2〜4で得られた試料を、液温293Kの1M塩酸水溶液中に浸漬させて定電流下で交流インピーダンスを測定した。測定周波数は0.5から1000Hzまでの20点とした。一般に、電極/水溶液界面における最も簡単な等価回路は、電荷移動抵抗と電気二重層容量との並列回路に溶液抵抗が直列に接続された回路で表される。そこで、本条件にて測定した交流インピーダンス測定値を複素平面上にベクトルとして表示し、X軸を実数部、Y軸を虚数部で表わした。さらに、各試料の交流インピーダンスの軌跡から、X軸との交点の値を表面抵抗値として採用した。

表3の結果から明らかなように、実施例13の炭素被覆アルミニウムは、参考例2のアルミニウムよりもかなり低い表面抵抗特性を示した。また、表面にエッチング処理を施したアルミニウムの場合でも、実施例14の炭素被覆アルミニウムは、参考例3、4のアルミニウムよりもかなり低い表面抵抗特性を示した。
実施例13〜23で得られた炭素被覆アルミニウムおよび参考例2〜4で得られたアルミニウムにおいて表面積を評価した。評価条件は次に示すとおりである。評価結果を表4に示す。
[表面積]
表面積は静電容量で評価した。静電容量はホウ酸アンモニウム水溶液(8g/L)中で、LCRメータにより測定した。

表4の結果から明らかなように、実施例13の炭素被覆アルミニウムは、参考例2のアルミニウムよりもかなり高い静電容量、すなわち、かなり大きい表面積を示した。また、表面にエッチング処理を施したアルミニウムの場合でも、実施例14の炭素被覆アルミニウムは、参考例3、4のアルミニウムよりもかなり大きい表面積を示した。さらに、実施例15〜21の炭素被覆アルミニウムは、参考例3、4の表面にエッチング処理を施したアルミニウムよりもかなり大きい表面積を示した。
以上に開示された実施の形態や実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の実施の形態や実施例ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正や変形を含むものである。
【産業上の利用可能性】
この発明に従った炭素被覆アルミニウムを用いて電極構造体を構成することによって、電池またはキャパシタの充放電特性、容量、寿命等を高めることができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム(1)と、
前記アルミニウム(1)の表面上に形成された炭素含有層(2)とを備え、
前記アルミニウム(1)と前記炭素含有層(2)との間に形成された、アルミニウム元素と炭素元素とを含む介在層(3)をさらに備える、炭素被覆アルミニウム。
【請求項2】
前記炭素含有層(2)は、アルミニウム元素と炭素元素とを含む介在物(21)を内部に含む、請求項1に記載の炭素被覆アルミニウム。
【請求項3】
前記介在物(21)は、アルミニウム元素と炭素元素との化合物である、請求項2に記載の炭素被覆アルミニウム。
【請求項4】
前記炭素含有層(2)は、アルミニウム元素と炭素元素との化合物である、請求項1に記載の炭素被覆アルミニウム。
【請求項5】
前記炭素含有層(2)は、前記アルミニウム(1)の表面から外側に延びるように形成されている、請求項1に記載の炭素被覆アルミニウム。
【請求項6】
前記介在層(3)は、前記アルミニウム(1)の表面の少なくとも一部の領域に形成された、アルミニウムの炭化物を含む第1の表面部分(3)を含み、
前記炭素含有層(2)は、前記第1の表面部分(3)から外側に向かって延びるように形成された第2の表面部分(21)を含む、請求項1に記載の炭素被覆アルミニウム。
【請求項7】
前記炭素含有層(2)は炭素粒子(22)をさらに含み、前記第2の表面部分(21)は前記第1の表面部分(3)と前記炭素粒子(22)との間に形成されてアルミニウムの炭化物を含む、請求項6に記載の炭素被覆アルミニウム。
【請求項8】
前記炭素含有層(2)は、アルミニウム粒子(23)と、前記アルミニウム粒子(23)の表面の少なくとも一部の領域に形成されてアルミニウムの炭化物を含むアルミニウム粒子表面部分(24)と、前記アルミニウム粒子表面部分(24)から前記アルミニウム粒子(23)の表面の外側に向かって延びるように形成されてアルミニウムの炭化物を含むアルミニウム粒子外側部分(25)とをさらに含む、請求項7に記載の炭素被覆アルミニウム。
【請求項9】
前記炭素含有層(2)は、アルミニウム粒子(23)と、前記アルミニウム粒子(23)の表面の少なくとも一部の領域に形成されてアルミニウムの炭化物を含むアルミニウム粒子表面部分(24)と、前記アルミニウム粒子表面部分(24)から前記アルミニウム粒子(23)の表面の外側に向かって延びるように形成されてアルミニウムの炭化物を含むアルミニウム粒子外側部分(25)とをさらに含み、前記第2の表面部分(21)は前記第1の表面部分(3)と前記アルミニウム粒子(23)との間に形成されてアルミニウムの炭化物を含む、請求項6に記載の炭素被覆アルミニウム。
【請求項10】
前記炭素含有層(2)の厚みは、前記アルミニウム(1)の厚みに対して0.1以上1000以下の比率を有する、請求項1に記載の炭素被覆アルミニウム。
【請求項11】
当該炭素被覆アルミニウムは、電極構造体を構成するために用いられる、請求項1に記載の炭素被覆アルミニウム。
【請求項12】
前記電極構造体は、電極および電極集電体からなる群より選ばれたいずれか一種である、請求項11に記載の炭素被覆アルミニウム。
【請求項13】
前記電極構造体は、キャパシタを構成するために用いられる、請求項11に記載の炭素被覆アルミニウム。
【請求項14】
前記キャパシタは、電気化学キャパシタおよび電解コンデンサからなる群より選ばれたいずれか一種である、請求項13に記載の炭素被覆アルミニウム。
【請求項15】
前記電極構造体は、電池を構成するために用いられる、請求項11に記載の炭素被覆アルミニウム。。
【請求項16】
炭化水素含有物質を含む空間にアルミニウムを配置する工程と、
炭化水素含有物質を含む空間にアルミニウムを配置した状態で加熱する工程とを備えた、炭素被覆アルミニウムの製造方法。
【請求項17】
前記炭化水素含有物質を含む空間にアルミニウムを配置した状態で加熱する工程の後、アルミニウムを冷却して再加熱する工程をさらに備える、請求項16に記載の炭素被覆アルミニウムの製造方法。
【請求項18】
前記アルミニウムを冷却して再加熱する工程は、100℃以上660℃未満の温度範囲で行なわれる、請求項17に記載の炭素被覆アルミニウムの製造方法。
【請求項19】
前記炭化水素含有物質を含む空間にアルミニウムを配置する工程は、炭素含有物質およびアルミニウム粉末からなる群より選ばれた少なくとも1種をアルミニウムの表面に付着させた後、炭化水素含有物質を含む空間にアルミニウムを配置することを含む、請求項16に記載の炭素被覆アルミニウムの製造方法。
【請求項20】
前記炭化水素含有物質を含む空間にアルミニウムを配置した状態で加熱する工程は、450℃以上660℃未満の温度範囲で行なう、請求項16に記載の炭素被覆アルミニウムの製造方法。
【請求項21】
前記炭化水素含有物質を含む空間にアルミニウムを配置する工程は、パラフィン系炭化水素を含む空間にアルミニウムを配置することを含む、請求項16に記載の炭素被覆アルミニウムの製造方法。
【請求項22】
前記炭化水素含有物質を含む空間にアルミニウムを配置する工程は、メタンを含む空間にアルミニウムを配置することを含む、請求項16に記載の炭素被覆アルミニウムの製造方法。

【国際公開番号】WO2004/087984
【国際公開日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【発行日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504148(P2005−504148)
【国際出願番号】PCT/JP2004/003239
【国際出願日】平成16年3月11日(2004.3.11)
【出願人】(399054321)東洋アルミニウム株式会社 (179)
【Fターム(参考)】