説明

無収縮高粘度ケミカルグラウト材

本発明は無収縮高粘度ケミカルグラウト材に関するものであり、さらに詳しくは、固形分基準で、常温硬化型有機液状樹脂(a)100重量部、ガラスビーズ(b)10乃至200重量部、及びガラス粉(c)10乃至500重量部を含む無収縮高粘度ケミカルグラウト材に関する。さらに、本発明は前記無収縮高粘度ケミカルグラウト材を用いる構造物の補修及び補強方法に関する。本発明の無収縮高粘度ケミカルグラウト材は耐酸性、耐アルカリ性、注入性、流動性、耐衝撃性、耐クラック性、付着性及び貯蔵性が優れ、本発明の構造物の補修及び補強方法は副資材との親和性を有していて、簡便な施工と迅速な硬化により短時間で構造物の機能及び形状を完全に復元させ、引張強度等構造物の物性を補完して構造物に強固に付着させ、構造物の寿命を延長させて破損した美観を完全に復元させることが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無収縮高粘度ケミカルグラウト材に関するものであり、さらに詳しくは耐酸性、耐アルカリ性、注入性、流動性、耐衝撃性、耐クラック性、付着性及び貯蔵性が優れた無収縮高粘度ケミカルグラウト材に関するものである。さらに、本発明は前記無収縮高粘度ケミカルグラウト材を適用した構造物の補修及び補強方法に関するものでもある。
【背景技術】
【0002】
グラウト材とは、土木工事において漏水防止工事または土質安定等のために、地盤の裂け目・空洞等に充填材として注入する注入材を称す。その注入材は重力またはポンプを利用して充填されるか、または建築物の亀裂部分の補修、基礎部分、機械台座の支持力を補強する目的で使用される。
【0003】
グラウト材の種類は施工目的によって止水グラウト、地盤改良グラウト、充填グラウト、補強グラウト等に区分され、注入場所によって空洞グラウト、空隙グラウトに区分れ、その主成分によってセメント系グラウト、鉄粉質系グラウト、アスファルト系グラウト、ケミカルグラウト等に分類される。
【0004】
構造物に亀裂が入った場合にこれを放置すると、構造物の外観を損ねるばかりでなく、放置した亀裂が一層悪化して漏水、汚染、配筋された鉄筋の腐蝕により、構造物の寿命短縮及び聖水大橋(韓国)の崩壊のような多大なる人命被害をもたらし得るため、適切な補修及び補強が要求される。
前記亀裂の発生原因は大別して、材料の不適切な使用、施工上の問題、使用及び外部環境により発生し、亀裂の態様においても発生原因に対応して様々な形態で現れる。
【0005】
従来、グラウト材において、アスファルトグラウトは地水と土質安全用として主に用いられ、鉄粉質系グラウトは化学的無収縮作用及び高強度により、鉄骨基礎の充填や継目部分の充填補強用等に広く用いられてきた。
初期には、セメント、水、粘土等を用いたセメント系グラウトが主に用いられてきたが、1919年ケミカルグラウトが発明され、それ以降からはケミカルグラウトが主に用いられてきた。
さらに、最近ではビニル重合体またはクロムリグニンの発見により、ケミカルグラウト材関連技術は急進展を遂げ、このようなケミカルグラウトは主に地水や地盤の改良及び構造物の補修・補完用として主に用いられてきた。
【0006】
従来、ケミカルグラウト材として最も広く用いられれているものは、エポキシ樹脂を主成分とし、充填添加剤として珪酸ソーダを含むケミカルグラウト材である。しかしながら、エポキシ樹脂を主成分とするケミカルグラウト材は充填材として添加される珪酸ソーダの樹脂に対する高い吸有力により、充填材である珪酸ソーダが均一に分散せず、充填材としての諸機能を発揮できないばかりでなく、グラウト材の強度が低下し、クラック間の付着力が低下して再びクラックが生ずる問題がある。
【0007】
さらに、一般的な従来のエポキシ樹脂及び珪酸ソーダを主成分とするグラウト材をクラックに注入する場合、クラック内に存在する気泡によりグラウト材の注入が容易でない問題がある。特に、幅の狭い導管やクラックではグラウト材の注入が気泡に決定的な妨げを受けると言う問題があった。さらに、グラウト材が母体の中に吸収されるか、または硬化収縮しながらクラック内へ実質的に完全に充填するのは難しい。
さらに、従来構造物の補修・補強方法は施工が複雑で、復元後正常化するまで長時間を要し、破損した美観を復元するには完全を期し難く、亀裂の再発が頻繁に生ずる問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述した問題点を解決するためのものであって、本発明の目的は耐酸性、耐アルカリ性、注入性、流込性、耐衝撃性、耐クラック性、付着性及び貯蔵性を同時に満足させ、水中作業が可能なケミカルグラウト材を提供するものである。さらに、本発明は副資材との親和性を有していて、簡便な施工と迅速な硬化により短時間で構造物の機能及び形状を完全に復元させ、引張強度等構造物の物性を補完して構造物に強固に付着させ、構造物の寿命を延長させて破損した美観を完全に復元させる構造物の補修及び補強方法を提供することを目的とする。前記目的を達成するために、本発明は固形物基準にa)常温硬化型有機液状樹脂100重量部;b)ガラスビーズ10乃至200重量部;及びc)ガラス粉10乃至500重量部を含む無収縮高粘度ケミカルグラウト材を提供する。
さらに、本発明は構造物の補修及び補強方法において、前記無収縮高粘度ケミカルグラウト材を適用することを特徴とする構造物の補修及び補強方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【0009】
以下、本発明をより詳しく説明する。
本発明の無収縮高粘度ケミカルグラウト材は、従来、無収縮高粘度ケミカルグラウト材の主成分として広く用いられてきた樹脂に、充填材としてガラスビーズ及びガラス粉をさらに添加したことを特徴とする。
【0010】
本発明の無収縮高粘度ケミカルグラウト材は主成分として(a)常温硬化型有機液状樹脂を含む。該常温硬化型有機液状樹脂としてはエポキシ系、アクリル系、ウレタン系、アルキド系、ポリエステル系またはポリビニルクロライド系等が好ましい。前記エポキシ系樹脂(epoxy based resin)はジグリシジル(diglycidyl)タイプとトリグリシジルタイプ(triglycidyl)タイプの、分子量が350乃至3,000の範囲の無溶剤または溶剤稀釈用エポキシ樹脂が好ましい。前記アクリル系樹脂(arcryl based resin)はメタアクリル酸誘導体を主成分とする溶剤型のアクリルウレタン、水性アクリルハイドロゾル、エマルジョン無溶剤型アクリルシランまたは紫外線硬化型アクリル等が好ましい。前記アルキド系樹脂(alkyd based resin)は多塩基酸と多価アルコールエステル化合物に変性させた塗料形態のアルキド樹脂が好ましく、ロジン(rosin)、フェノル(phenol)、エポキシ(epoxy)、ビニルスチレンモノマ(vinyl styrene monomer)、イソシアネート(isocyanate)またはシリコン(silicon)等に変性させたアルキド樹脂等の使用も可能である。前記ポリビニルクロライド系はPVCのプラスチックゾル液状樹脂を使用するのが好ましい。
【0011】
さらに、常温硬化型有機液状樹脂は従来ウレタン系グラウト材とは別に、本発明の無収縮高粘度ケミカルグラウト材の必須成分として添加されるガラスビーズ及びガラス粉の高比重により、膨張(発泡)性が無くなると言う長所がある。従って、本発明の無収縮高粘度ケミカルグラウト材をクラックに注入すると、グラウト材自体の膨張性に因るクラック現象がさらに甚だしくなるような従来の問題点が現れなかった。
【0012】
これらの常温硬化型有機液状樹脂等は無収縮高粘度ケミカルグラウト材が注入されるクラックまたは空隙で付着されるセメント、コンクリート等への付着性を付与するバインダーとして作用し、さらに、無収縮高粘度ケミカルグラウト材に耐酸性及び耐アルカリ性を付与する。
【0013】
このような常温硬化型有機液状樹脂の含量が低過ぎると、セメント、コンクリート等への付着性が弱まり、その含量が高過ぎると相対的に充填添加材であるガラス粉の含量が減少するので、硬度、強度及びその他のグラウト材としての物性が悪くなると言う問題点があった。
【0014】
本発明の無収縮高粘度ケミカルグラウト材は(b)ガラスビーズを含む。ガラスビーズには球形、楕円形またはこれに準じた全ての形状のガラスビーズを使用することができ、多様な大きさが分布されたものから一定の大きさを有するものまで全て選択して使用することができる。
本発明の無収縮高粘度ケミカルグラウト材の内、ガラスビーズの含量は常温硬化型有機液状樹脂固形分100重量部に対して10乃至200重量部を使用し、100乃至200重量部が好ましく、150重量部前後がより好ましい。
【0015】
本発明の無収縮高粘度ケミカルグラウト材の内、ガラスビーズの含量が10重量部未満の場合、無収縮高粘度ケミカルグラウト材の流動性が低くなり、硬化後に強度及び硬度が低くなることがあり、また、ガラスビーズの含量が200重量部を超えると、常温硬化有機型液状樹脂の含量が低下するので、無収縮高粘度ケミカルグラウト材の強度が低くなることがあり、無収縮高粘度ケミカルグラウト材が硬化した後で脱落することがある。前記ガラスビーズの含量が100乃至200重量部の場合、作業性と物性等を満足させることができてさらに良い。
【0016】
このように無収縮高粘度ケミカルグラウト材に充填材として添加されるガラスビーズの含量は、クラックが大きい箇所には高いものが好ましく、クラックの間隔が狭い箇所には低いものが好ましい。
さらに、ガラスビーズの粒子の大きさは施工の用途と施工の厚さによって適切に選定するのが好ましい。この時のガラスビーズの粒径は200メッシュ乃至3mmのものがより好ましい。200メッシュ未満のガラスビーズを用いると、嵩充填性が低くなり、耐衝撃性も低くなることがあり、また、粒径3mmを超えるガラスビーズを用いると、分散性が低くなったり、クラックの大きさが3mm以下の箇所には効率的に使用することができない。
【0017】
特に、球状に近い形状を有したガラスビーズは、無収縮高粘度ケミカルグラウト材に高い流動性を付与し、樹脂と充填添加材の混合物が長期間保管された後にも単純撹拌だけでも良く混合される優れた貯蔵性を提供する。
さらに、ガラスビーズは珪酸ソーダより強度が高く、上述した通り、球状に近い形状を有することにより、外部からの衝撃をよく吸収して分散させるようになる。従って、ガラスビーズが充填材として添加された本発明の無収縮高粘度ケミカルグラウト材は優れた耐衝撃性を有する。
【0018】
本発明の無収縮高粘度ケミカルグラウト材は、(c)ガラス粉をさらに含む。このガラス粉は無収縮高粘度ケミカルグラウト材の粘度を増加させ、耐衝撃性及び引張力を増大させ、収縮・膨張を抑制する機能を有する。
本発明に用いられるガラス粉は多様な粒子形状と大きさのものを使用できる。このガラス粉の粒子は一般のガラスを粉砕して得られるものであって、ガラスの組成はA,C,E,耐アルカリ性ガラス粉組成等樹脂との常用性のあるものであれば特に限定されない。
【0019】
このようなガラス粉の含量は、常温硬化型有機液状樹脂固形分100重量部に対し、10乃至500重量部を使用し、20乃至80重量部が好ましく、50重量部前後がより好ましい。ガラス粉の含量が、常温硬化型有機液状樹脂固形分100重量部に対し、10重量部未満の場合、グラウト材の粘度が低くなり、硬化後に収縮・膨張率が増加することがある。また、500重量部を超えると粘度が高くなり過ぎてクラックに無収縮高粘度ケミカルグラウト材を注入することが困難となり、さらに、相対的に常温硬化型有機液状樹脂の含量が減少するので、無収縮高粘度ケミカルグラウト材の強度が低下する問題点がある。
【0020】
従って、クラックの大きさのみならず、クラックの深さ及びクラック間の気泡等の異物質の含量を考慮して、深いクラックに注入する場合には多少ガラス粉の含量を少なめにして流動性及び注入性の優れたグラウト材を注入するのが好ましい。
このガラス粉は珪石や珪砂とは異なり樹脂を吸収しないため、無収縮高粘度ケミカルグラウト材の中に多量を添加することもでき、ガラス粉の含量が高くても常温硬化型有機液状樹脂の中に混合分散がよくなされ、嵩充填効果が極めて優れている。
【0021】
このように無収縮高粘度ケミカルグラウト材にガラス粉を添加する場合、グラウト材の注入条件が低温であればガラス粉の含量を低下させ、粘度を低めて用いることができ、これとは逆にグラウト材の注入条件が高温であれば、ガラス粉の含量を増加させて粘度を高めて用いることもできる。
ガラス粉の粒径は10μm乃至1mmであることが好ましく、さらに、ガラス粉はガラスビーズ間の空隙を埋める機能も有するので、できるだけガラスビーズより粒径の小さいものを用いるのが好ましい。
【0022】
ガラス粉の粒径が10μm未満の場合、本発明の無収縮高粘度ケミカルグラウト材の粘度が大きく増加することがある。また、ガラス粉の粒径が1mmを超えると、ガラスビーズの空隙を埋める機能が低下して、無収縮高粘度ケミカルグラウト材の強度が低下したり、または収縮・膨張性が増加する恐れがある。
以上説明した(a)常温硬化型有機液状樹脂;(b)ガラスビーズ;及び(c)ガラス粉を含む無収縮高粘度ケミカルグラウト材は、クラック間隙が5mmを超える比較的大きいクラックに好ましく使用できる。
【0023】
本発明の無収縮高粘度ケミカルグラウト材に選択的に粉砕ガラス繊維(d)がさらに添加できる。ガラス繊維が添加されると無収縮高粘度ケミカルグラウト材が硬化する場合、硬化されたグラウト材の引張力を増加し耐クラック性を増加させる。
このようなガラス繊維はE組成の長ガラス繊維が好ましく、耐アルカリ性組成の繊維も使用が可能である。このガラス繊維は繊維径が10乃至20μmのガラス繊維を均一なストランド(strand)の長さで切断した切断繊維(chopped fiber)または平均繊維の長さで粉砕して製造した粉砕繊維(milled fiber)も用いられる。切断繊維は2乃至12mm程の繊維の長さに切断されたものが好ましく、粉砕繊維は平均繊維の長さが100乃至300μmであることが好ましい。
【0024】
このようなガラス繊維は、常温硬化型有機液状樹脂の固形分100重量部に対して、1乃至50重量部が含まれるようにすることが好ましい。1重量部未満の場合、硬化された建築材グラウト材の引張強度が低くなり亀裂が生じ、収縮・膨張が増加することもあり、また50重量部を超えた場合、混合分散が難しくなる。より好ましくは、前記ガラス繊維の含量が1乃至10重量部である。
【0025】
本発明の無収縮高粘度ケミカルグラウト材は流動性が極めて優れるが、セメント、コンクリート等のクラックに容易に注入しようとする場合には、さらにベンジルアルコール等の溶剤を添加することができる。
【0026】
さらに、本発明の無収縮高粘度ケミカルグラウト材に硬化剤、硬化促進剤等を添加することができる。この硬化剤及び硬化促進剤の選択は樹脂の種類と量によって決定し、無収縮高粘度ケミカルグラウト材が注入されるクラックの種類及び状況に合わせて使用量を決めるようにする。
【0027】
本発明の無収縮高粘度ケミカルグラウト材は、1000乃至20000cpsの粘度を有し、従来のエポキシ樹脂を主成分とし、充填材として珪酸ソーダを少量含むグラウト材に比べて高粘度である。特に、本発明の無収縮高粘度ケミカルグラウト材がガラス繊維を含む場合、粘度は15000乃至20000であることが好ましい。さらに、球形に近いガラスビーズを必須成分として含むことにより、高粘度であるにも拘らず流動性が優れていて、気泡等の不純物が塞いでいるクラックの深部まで注入することができる。
【0028】
従って、本発明の無収縮高粘度ケミカルグラウト材は注入性が優れ、注射器やポンプ等の公知された方法によりクラックに注入する場合、クラックの深部まで容易に注入が可能という長所もある。
以上に説明したとおり、本発明の無収縮高粘度ケミカルグラウト材は耐酸性、耐アルカリ性、注入性、流動性、耐衝撃性、耐クラック性及び抵抗性が共に優れている。
【0029】
さらに、本発明の前記無収縮高粘度ケミカルグラウト材を構造物の補修または補強のため、適用した構造物の補修及び補強方法を提供する。
具体的には、前記構造物の補修及び補強は、前記無収縮高粘度ケミカルグラウト材を構造物の表面に被覆するか、または構造物の亀裂した空隙部分に充填または注入し、補強材を構造物に一体化させる場合には、接着剤として用いたり、炭素繊維をケミカルグラウト材に含浸させて構造物に一体化させるか、または前記の方法等を混用して使用することによりなされる。
【0030】
前記構造物の補修及び補強は、補修及び補強の目的、亀裂の発生原因、亀裂の形態及び大きさ、構造物の重要度、構造形式、環境条件、補修後の耐用年数等を考慮して適切に選択して適用する。
前記構造物の補修及び補強方法の実施態様の一つである表面被覆方法は、構造物の亀裂幅が0.2mm以下の場合に特に好ましく、構造物の防水性及び耐久性を向上させる場合に有用である。施工方法としては、構造物の亀裂部周囲または補強を望む部分の表面を綺麗にした後、所望の部分を本発明の前記無収縮高粘度ケミカルグラウト材で被覆し硬化させ、塗膜を形成させる。
【0031】
本発明の無収縮高粘度ケミカルグラウト材を用いる表面被覆方法は、前記無収縮高粘度ケミカルグラウト材が高粘度でありながら流動性が良いことから、亀裂の隙間に流れ込み復旧効果を向上させ、かつ亀裂の上部において1次表面復元後に硬化収縮がなく仕上げの復元作業が簡単であるという特徴がある。さらに、亀裂の隙間の中で収縮がなく充填効果が良く、隙間に流れ込んだ無収縮高粘度ケミカルグラウト材は引張力を立体的に作用させ亀裂再発を防止する。
これは、従来の引張力補強テープを亀裂の上部に付着させ樹脂で仕上げる方法より、薄膜では部材の痕跡が発生して亀裂の再発が頻発し、不定形亀裂の際表面被覆が難しい等の問題点を画期的に解決したものと言える。
【0032】
さらに、前記構造物の補修及び補強方法の実施態様の一つである注入方法は、亀裂幅が0.2乃至1mmの場合、及び浮いた箇所の復旧に適し、望む箇所に前記ケミカルグラウト材を注入してなされる。
注入方法は機械式注入工法、手動注入工法、ペダル式注入工法、流し込み工法等が、当業者により適宜選択され適用できることは勿論である。
【0033】
1実施例として、貫通されていない0.5mmの亀裂幅を有する構造物の補強の場合、本発明のケミカルグラウト材を亀裂の上部に注入パックを設け、重力による自由落下または圧力を加えて亀裂上部まで注入し、注入パックを取除き、亀裂表面を仕上げることにより、構造物の補修及び補強がなされ、貫通した場合には貫通した亀裂の一面に保養膜を設け、前記の通り進行させ構造物の補修及び補強がなされる。
【0034】
前記本発明の注入による構造物の補修及び補強方法は、前記無収縮高粘度ケミカルグラウト材が母体に10乃至20mm浸透して母体の強度を強化し、密閉亀裂内で気泡及び水を貫いて亀裂深部まで到達する性能に優れ、母体の脆弱性である引張強度を補完しながら硬化するので、亀裂の再発を予防し、温度変化に伸縮的に適用され、硬化の際に収縮がないという長所がある。
【0035】
さらに、前記構造物の補修及び補強方法の実施態様の一つである充填方法は、構造物の亀裂幅が0.5mmを超える場合、及び構造物内部の鉄筋が腐蝕している場合に特に好ましい。
本発明の充填方法は、別途の事前作業無しで充填箇所を清掃した後、前記本発明の無収縮高粘度ケミカルグラウト材を、通常の方法を利用して充填箇所に充填することによりなされる。従来、構造物内部の鉄筋が腐蝕している場合には、鉄筋がある箇所まで構造物をUまたはV字状に母体をカッティングした後、別途の鉄筋防錆処理をした後、充填材を注入しモルタル左官仕上げをしたが、本発明の充填方法は、前記本発明の無収縮高粘度ケミカルグラウト材が防錆機能まで同時に有することから、簡単な施工で構造物の補修及び補強が可能で、前記無収縮高粘度ケミカルグラウト材が無収縮であるため、仕上げ線の作業が精密で硬化後付着面の脱落がなく、1回の充填作業により防錆のみならず防蝕、防水、中性化防止等の効果を同時に得ることができ、水中及び湿潤環境の中でも施工が可能であって、超速硬化により構造物の原状回復の時間が著しく速くなり、進行性亀裂の場合亀裂の進行を防止する効果がある。
【0036】
さらに、前記構造物の補修及び補強方法の実施態様の一つである補強材を構造物に一体化させる場合、接着剤として用いる方法は、補強材による断面増設及びコンクリートの劣化と鉄筋の腐蝕防止を要求する場合に適用することができ、特に本発明においては無収縮の前記無収縮高粘度ケミカルグラウト材を従来の接着樹脂の代わりに接着剤として用いて、施工の位置で母体と補強材との間に空洞発生を遮断して、工事の信頼性を期し得る長所がある。補強材の付着において鋼板、鉄筋、H型鋼、I型鋼等の選択や圧着工法または注入工法等の選択、当業者が通常的に選択適用できることは勿論である。
【0037】
さらに、前記構造物の補修及び補強方法の実施態様の一つである炭素繊維を前記無収縮高粘度ケミカルグラウト材に含浸させ、構造物に一体化させる方法は、建築物においては、鉄筋コンクリートスラブの下面、梁の下面と側面等に引張力と撓み引張力、剪断力を受ける部材の耐荷力を向上させ、既に発生している亀裂の発展を遮断しようとする場合と、土木構造物においては道路橋、鉄橋の橋脚の耐震補強、トンネルの補修及び補強、ボックス暗渠の補修及び補強に特に有用である。
【0038】
本発明に用いられる炭素繊維は糸状のストランド型と、炭素繊維を一方向に配列して作った炭素繊維シート全てが適用可能で、好ましくは施工の便利性のため炭素繊維シートが良い。本発明に伴う炭素繊維を利用した構造物の補修及び補強方法は、炭素繊維を前記無収縮高粘度ケミカルグラウト材に含浸させた後、取出してコンクリートの主筋方向に硬化させ付着させることによりなされる。本発明の炭素繊維を利用した構造物の補修及び補強方法は高強度、軽量、作業の容易性、高い耐久性等の炭素繊維固有の長所に、本発明の無収縮性と高強力接着性を有する無収縮高粘度ケミカルグラウト材の長所を更に加えて炭素繊維シートと母体との共同発生を最小化し、炭素繊維を使用する場合の短所である引張力を補完して補修及び補強効果の最大化をもたらし得る長所がある。
【0039】
さらに、予め炭素繊維を前記無収縮高粘度ケミカルグラウト材に含浸させた後、硬化させパネル状に製造し、前記パネルを前記無収縮高粘度ケミカルグラウト材を利用して、接着させるのは、作業の便利性をさらに向上させ得ることから一層好ましい。
さらに、本発明の無収縮高粘度ケミカルグラウト材を用いる構造物の補修及び補強方法は、水中でもグラウト材が溶けることなく、母体に吸収されず、強力に母体と付着するように注入され、充填及び表面に被覆できることから水中及び浸水された構造物の亀裂、細窟等の構造物の補修及び補強に極めて効果的に使用できる長所がある。さらに船舶の船底部分に亀裂等の瑕疵が生じて補修補強をする場合にも、本発明の無収縮高粘度ケミカルグラウト材を注入、充填、または被覆して船舶の船底部分を補修及び補強することができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の好ましい実施例及び比較例を通じて、本発明をより詳しく説明する。但し、実施例には本発明を例示するためのものであって、これらだけに限定するものではない。
【0041】
実施例1:無収縮高粘度ケミカルグラウト材製造
エポキシ液状樹脂(韓国国都化学製造YD−128)1kgにベンジルアルコール20gを混合し、これに平均粒度1mmのガラスビーズ(韓国チサン企業製造)1kg及び平均粒度200メッシュ、比重2.54のガラス粉(韓国金隆産業(株)製造)500gを一般の混合機で混合して無収縮高粘度ケミカルグラウト材を製造した。
【0042】
製造した無収縮高粘度ケミカルグラウト材は比重が1.3、流動性はスランプテストの結果50cmを示した。これをスチール缶の容器に入れて12ケ月間常温で保管し、開封した結果、充填材等が一部沈降したことが観察されたが、固化はしておらず、缶を振ってみた結果、充填材等が再び均等に分散され、スランプテストの結果は50cmを示した。
【0043】
比較例1:
エポキシ主剤(透明液状の韓国英知精密YJ100)及びエポキシ硬化剤(変性脂肪族アミン系列褐色液状(韓国英知精密))を2:1に混合したグラウト材を比較例として用いた。この比較例のグラウト材の粘度は220cpsで、混合比重は1.15であった。
【0044】
注入性試験
前記実施例1及び比較例1で製造した無収縮高粘度ケミカルグラウト材をコンクリートクラックの間に注入し、クラックの残存の如何を調べてみた。
図1はそれぞれ実施例1及び比較例1で製造したケミカルグラウト材を注入した後、コンクリートクラックの残存の如何を示した図である。
【0045】
図1に示した通り、左側面の実施例1で製造した無収縮高粘度ケミカルグラウト材を注入した場合、コンクリートクラックが肉眼で識別できない程に綺麗になくなったことが分かった。しかしながら、図1の右側面の比較例1で製造した無収縮高粘度ケミカルグラウト材を注入した場合、コンクリートクラックは依然と残っていることが分かった。
これは、本発明の無収縮高粘度ケミカルグラウト材がガラスビーズ及びガラス粉を必須成分として含むことにより、流動性に優れ、比重が高く、内部の気泡を押出しながら充填されるためと判断される。
【0046】
付着性試験
前記実施例1及び比較例1で製造した無収縮高粘度ケミカルグラウト材をコンクリートクラックの間に注入し、24時間後、そのグラウト材の両端のコンクリートに物理的な力を加えてそのコンクリートを分離した。
その結果、比較例1に伴うグラウト材を注入したコンクリートの両端は容易に分離されたが、実施例1に伴う無収縮高粘度ケミカルグラウト材を注入したコンクリートの両端は容易に分離されなかったのみならず、コンクリート構造物自体が二つの部分に分離されたことが分かった。
これはコンクリートの自己付着力が17kg/cm2と高いにも拘らず、本発明の無収縮高粘度ケミカルグラウト材の付着力が36〜90kg/cm2とコンクリートより高いからであると判断される。
【0047】
水中作業試験
本発明の無収縮高粘度ケミカルグラウト材を用いた構造物の補修及び補強が有効になされ得るか否かを確かめるために、水中作業試験を行った。
試験の方法は水が満たされた所定の容器に亀裂があるセメント煉瓦を入れ、前記実施例1の無収縮高粘度ケミカルグラウト材と、比較例1のグラウト材を上部で注入し、その状態を観察した。
【0048】
図2及び図3は、実施例1のグラウト材を用いたものにして、水中でグラウト材が溶けず、母体煉瓦に吸収されないまま母体煉瓦に強力に付着したことを示した。これを通じて、本発明の無収縮高粘度ケミカルグラウト材が水中でも構造物及び船舶の補修及び補強に適用できることが分かった。
【0049】
これに対して、図4及び図5は比較例1のグラウト材を使用したもので、樹脂が水中で溶け、母体煉瓦に吸収されて水中構造物の補修及び補強に不適切であることを示した。
本発明の無収縮高粘度ケミカルグラウト材は耐酸性、耐アルカリ性、注入性、流動性、耐衝撃性、耐クラック性、付着性及び貯蔵性が共に優れている。
さらに、本発明の構造物の補修及び補強方法は、前記無収縮高粘度ケミカルグラウト材を用いることによって副資材との親和性を有するようになり、簡便な施工と迅速な硬化により短時間で構造物の機能及び形状を完全に復元させ、引張強度等構造物の物性を補完して構造物に強力に付着して構造物の寿命を延ばし、破損した美観を完全に復元する。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施例1及び比較例1で製造したケミカルグラウト材を注入した後、コンクリートクラックの存在の如何を示した比較写真である(左が実施例1、右が比較例)。
【図2】実施例1の無収縮高粘度ケミカルグラウト材を用いた構造物の補修及び補強の有効性確認の水中作業試験結果を示す写真である。
【図3】実施例1の無収縮高粘度ケミカルグラウト材を用いた構造物の補修及び補強の有効性確認の水中作業試験結果を示す写真である。
【図4】比較例1の無収縮高粘度ケミカルグラウト材を用いた構造物の補修及び補強の有効性確認の水中作業試験結果を示す写真である。
【図5】比較例1の無収縮高粘度ケミカルグラウト材を用いた構造物の補修及び補強の有効性確認の水中作業試験結果を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形分基準で、常温硬化型有機液状樹脂(a)を100重量部、ガラスビーズ(b)を10乃至200重量部、及びガラス粉(c)を10乃至500重量部を含むことを特徴とする無収縮高粘度ケミカルグラウト材。
【請求項2】
前記常温硬化型有機液状樹脂(a)が、エポキシ樹脂及びポリウレタン樹脂からなる群から選ばれる請求項1記載の無収縮高粘度ケミカルグラウト材。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂が、ジグリシジルタイプとトリグリシジルタイプの分子量350乃至3000の無溶剤または溶剤稀釈用エポキシ樹脂である請求項2記載の無収縮高粘度ケミカルグラウト材。
【請求項4】
前記ガラスビーズ(b)の粒径が200メッシュ乃至3mmである請求項1記載の無収縮高粘度ケミカルグラウト材。
【請求項5】
前記ガラス粉(c)の粒径が10μm乃至1mmである請求項1記載の無収縮高粘度ケミカルグラウト材。
【請求項6】
粘度が1000乃至20000cpsであることを特徴とする請求項1記載の無収縮高粘度ケミカルグラウト材。
【請求項7】
ガラス繊維(d)が常温硬化型有機液状樹脂(a)100重量部に対し、1乃至50重量部がさらに添加された請求項1乃至6のいずれか1つの項に記載の無収縮高粘度ケミカルグラウト材。
【請求項8】
前記のガラス繊維(d)はE−ガラス組成のガラス長繊維を2乃至12mmの繊維の長さに裁断した切断繊維、または100乃至300μmの長さで粉砕した粉砕繊維である請求項7記載の無収縮高粘度ケミカルグラウト材。
【請求項9】
粘度が15000乃至20000cpsである請求項7記載の無収縮高粘度ケミカルグラウト材。
【請求項10】
構造物の補修及び補強方法において、請求項1または9記載の無収縮高粘度ケミカルグラウト材を適用したことを特徴とする構造物の補修及び補強方法。
【請求項11】
構造物の亀裂部周囲または補強を望む部分の表面を綺麗にした後、望む部分に前記無収縮高粘度ケミカルグラウト材で被覆した後、硬化させ塗膜を形成させる請求項10記載の構造物の補修及び補強方法。
【請求項12】
構造物の亀裂上部に注入パックを設け、前記無収縮高粘度ケミカルグラウト材を重力による自由落下または圧力を加えて亀裂上部まで注入し、注入パックを取除いた後、亀裂表面を仕上処理する請求項10記載の構造物の補修及び補強方法。
【請求項13】
構造物の充填箇所を清掃後、前記無収縮高粘度ケミカルグラウト材を充填箇所に充填する請求項10記載の構造物の補修及び補強方法。
【請求項14】
前記構造物の補修及び補強は亀裂の幅が0.5mm以上であるか、内部の鉄筋が腐蝕している構造物であって、別途のUまたはV字状カッティングを実施せずに充填箇所に前記無収縮高粘度ケミカルグラウト材を充填する請求項13記載の構造物の補修及び補強方法。
【請求項15】
補強材を構造物に一体化させる場合、前記無収縮高粘度ケミカルグラウト材を接着剤として使用する請求項10記載の構造物の補修及び補強方法。
【請求項16】
炭素繊維を前記無収縮高粘度ケミカルグラウト材に含浸させた後、取出してコンクリートの主筋方向に硬化させ、付着させる請求項10記載の構造物の補修及び補強方法。
【請求項17】
炭素繊維を前記無収縮高粘度ケミカルグラウト材に含浸させた後、硬化させてパネル状に製造し、前記パネルを前記無収縮高粘度ケミカルグラウト材で硬化させ付着させる請求項10記載の構造物の補修及び補強方法。
【請求項18】
水中または浸水された構造物の損傷箇所を前記無収縮高粘度ケミカルグラウト材で復旧する請求項10記載の構造物の補修及び補強方法。
【請求項19】
船舶の船底部位の補修及び補強方法において、請求項1または9記載の無収縮高粘度ケミカルグラウト材を適用して補修及び補強する船舶の船底補修及び補強方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2006−502944(P2006−502944A)
【公表日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−541323(P2004−541323)
【出願日】平成15年10月2日(2003.10.2)
【国際出願番号】PCT/KR2003/002031
【国際公開番号】WO2004/031094
【国際公開日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【出願人】(505076979)
【Fターム(参考)】