説明

無線機及びその制御方法

【課題】装置の規模を大型化することなく、運用を継続させた状態で自装置の診断が可能な無線機及びその制御方法を提供する。
【解決手段】信号の送信及び受信を行うアンテナ(ANT)と、送信信号の送信経路(120)と受信信号の受信経路(130)とを分離する分波器(DUP)とを備えた自己診断機能を有する無線機(100)は、分波器(DUP)の前段で送信経路(120)から送信信号を分配する分配部(140)、分配部(140)で分配された送信信号の位相を調整する移相器(150)、移相器(150)で位相が調整された送信信号を分波器(DUP)の後段で受信経路(130)に結合させる結合部(160)、自己診断時に、分配部(140)で分配された送信信号の位相を、分波器(DUP)を経て受信経路(130)に流入した送信信号の位相と同位相にするように移相器(150)を制御する制御部(114)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線機及びその制御方法に関し、特に、無線機の運用を停止することなく無線機が正常に動作しているか否かを診断可能な、自己診断機能を有する無線機及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信システムにおいて、通信事業者は、故障等の不具合を早期に検出して良質なサービスを提供するために、基地局を定期的に保守点検する必要がある。この保守点検をより簡易にすべく、基地局には、自装置が正常に動作しているかを基地局自体で診断する自己診断機能が付与されているものがよくある(例えば、特許文献1を参照)。一般に、自己診断には、自装置が送信する送信信号の受信経路への漏れ込みを利用した受信経路の診断や、擬似端末を基地局に内蔵させて、その擬似端末から送信される信号を受信することによる受信経路の診断が含まれる。
【0003】
ここで、従来技術による、通信方式がFDD(Frequency Division Duplex:周波数分割複信)方式の場合の、自己診断機能を有する基地局について簡単に説明する。図7は、FDD方式の場合の、自己診断機能を有する基地局の概略ブロック図である。FDD方式では、送信信号と受信信号の周波数が異なるため、基地局に疑似端末を設置する方法がとられる。図7に示すように、基地局200は、ベースバンド部210、送信系220、デュプレクサ(分波器)DUP2、受信系230、擬似端末300、カプラCUP及びアンテナANTを主な構成要素として備える。送信系220は、デジタルアップコンバータ(DUC)221、デジタル/アナログ変換器(DAC)222、アップコンバータ223、バンドパスフィルタ224及び電力増幅器225を備える。受信系230は、低雑音増幅器235、バンドバスフィルタ234、ダウンコンバータ233、アナログ/デジタル変換器(ADC)232及びデジタルダウンコンバータ(DDC)231を備える。また、送信系220と受信系230とに共有の、局部発振器LO及びPLL226が備えられている。自己診断を行わない通常の運用時には、上述の構成によって、無線通信端末(移動局)との通信が行われる。すなわち、ベースバンド部210において送信信号が変調され、変調された信号は、DUC221によって所望の周波数へと変換される。DAC222は、DUC221からのデジタル信号をアナログ信号へと変換する。ここまでの信号処理は中間周波数帯(IF帯)で行われるが、アップコンバータ223によって、IF信号が無線周波数信号(RF信号)へと変換される。なお、局部発振器LOは、送信信号を必要なRF信号に変換するための信号を生成し、生成された信号は、PLL226と基準信号源とによって周波数及び位相の同期がかけられた上で、アップコンバータ223へ供給される。バンドパスフィルタ224は、アップコンバータ223で生じた不要なスプリアス成分を除去する。その後、送信信号は、電力増幅器225によって所要の出力電力まで増幅され、アンテナANTから送信される。
【0004】
また、アンテナANTで受信した受信信号は、低雑音増幅器235によって増幅され、バンドパスフィルタ234によって不要なスプリアス成分が除去される。その後、RF帯の受信信号は、局部発振器LO、PLL226及びダウンコンバータ233によってIF信号に変換される。このIF帯の受信信号は、ADC232によってデジタル信号に変換され、さらに、DDC231によって所望の周波数に変換される。その後、受信信号はベースバンド部210へ送信され、ベースバンド部210によって復調される。
【0005】
擬似端末300は、無線通信端末と同様の動作をするもので、基地局200における上述のブロックと同様の構成である。自己診断時には、擬似端末300から送信された信号が、カプラCUPによって分配され、受信信号として受信系230へ出力される。この受信信号に対する受信系230の挙動(受信電界強度や変調精度等)と、出荷時の初期調整時に予め測定した挙動とを比較することで、基地局200が正常に動作しているか否かを判定する。
【0006】
【特許文献1】特開2008−118243号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、FDD方式では送信信号と受信信号とで周波数が異なるため、上述のような擬似端末の使用が考えられている。しかしながら、擬似端末を用いると基地局として大規模な構成となり、それに伴いコストも増大する。また、自己診断を行うには、無線通信端末と通信を行う通常の基地局としての運用を停止しなければならず、効率的でない。
【0008】
よって、本発明の目的は、上述の問題を克服し、装置の規模を大型化することなく、運用を継続させた状態で自装置の診断が可能な技法(無線機及びその制御方法)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した諸課題を解決すべく、本発明による自己診断機能を有する無線機は、
信号の送信及び受信を行うアンテナと、
前記アンテナから送信する送信信号の送信経路と、前記アンテナで受信する受信信号の受信経路とを分離する分波器(デュプレクサ)と、
を備えた自己診断機能を有する無線機であって、
前記分波器の前段で前記送信経路から送信信号を分配する分配部と、
前記分配部で分配された送信信号の位相を調整する移相器と、
前記移相器で位相が調整された送信信号を前記分波器の後段で前記受信経路に結合させる結合部と、
自己診断時に、前記分配部で分配された送信信号の位相を、前記分波器を経て前記受信経路に流入した(漏れ込んだ)送信信号の位相と同位相にするように前記移相器を制御する制御部と、
(前記分波器を経て前記受信経路に流入した(漏れ込んだ)送信信号と、当該流入した送信信号の位相と同位相にされた前記分配部で分配された送信信号とを前記受信経路上で初期調整時(出荷時)に予め測定した基準値を格納する記憶部と、)
(前記受信経路上の前記結合部から出力された送信信号と基準値とを比較して自己診断を行う判定部と)を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の一実施態様による自己診断機能を有する無線機は、
前記制御部は、
自己診断時でない場合は、前記分配部で分配された送信信号の位相を、前記分波器を経て前記受信経路に流入した送信信号の位相と逆位相にするように前記移相器を制御することを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明の別の実施態様による自己診断機能を有する無線機は、
前記受信経路上に、前記アンテナで受信した受信信号を通過させる第1のフィルタと、前記分配部から分配された送信信号を通過させる第2のフィルタをさらに備えることを特徴とする。
【0012】
上述したように本発明の解決手段を装置として説明してきたが、本発明はこれらに実質的に相当する方法、プログラム、プログラムを記録した記憶媒体としても実現し得るものであり、本発明の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。なお、方法やプログラムの各ステップは、データの処理においては必要に応じて、CPU、DSPなどの演算処理装置を使用するものであり、入力したデータや加工・生成したデータなどをHDD、メモリなどの記憶装置に格納するものである。
【0013】
例えば、本発明を方法として実現させた自己診断機能を有する無線機の制御方法は、
アンテナで信号の送信及び受信を行うステップと、
分波器で前記アンテナから送信する送信信号の送信経路と、前記アンテナで受信する受信信号の受信経路とを分離するステップとを含む自己診断機能を有する無線機の制御方法であって、さらに、
前記分波器の前段で前記送信経路から送信信号を分配するステップと、
前記分配するステップで分配された送信信号の位相を移相器で調整するステップと、
前記調整するステップで位相が調整された送信信号を前記分波器の後段の結合部で前記受信経路に結合させるステップと、
自己診断時には、前記分配するステップで分配された送信信号の位相を、前記分波器を経て前記受信経路に流入した送信信号の位相と同位相にするように前記移相器を制御するステップと、
(前記受信経路上の前記結合部から出力された出力信号と基準値とを比較して自己診断を行うステップと)を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、装置の規模を大型化することなく、通常の運用を継続させた状態で自装置の診断が可能な無線機及びその制御方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以降、諸図面を参照しながら、本発明による無線機の実施態様を詳細に説明する。なおこれ以降では、無線機として基地局を例に説明するが、本発明はこれに限られるものではなく、携帯電話、PDA(パーソナルデジタルアシスタンス)等の携帯端末装置とすることもできる。
【0016】
<第1実施例>
図1は、本発明の第1実施例による基地局の概略ブロック図である。図1に示すように、基地局100は、ベースバンド部110、送信系120、デュプレクサ(分波器)DUP、受信系130、分配部140、移相器150、結合部160及びアンテナANTを主な構成要素として備える。ベースバンド部110は、判定部112、制御部114及び記憶部116をさらに備える。また、送信系120は、デジタルアップコンバータ(DUC)121、デジタル/アナログ変換器(DAC)122、アップコンバータ123、バンドパスフィルタ124及び電力増幅器125を備える。受信系130は、低雑音増幅器135、バンドバスフィルタ134、ダウンコンバータ133、アナログ/デジタル変換器(ADC)132及びデジタルダウンコンバータ(DDC)131を備える。また、送信系120と受信系130とに共有の、局部発振器LO及びPLL170が備えられている。また、基地局100は、アンテナANTを共有して、信号の送受信を行う。送信系120、受信系130、局部発振器LO、PLL170及びデュプレクサ(分波器)DUPの機能は、上述した図7に示す従来技術の基地局200と同様であるため、説明を省略する。
【0017】
デュプレクサDUPは、送信信号の送信経路と受信信号の受信経路とを分離する機能を有するが、電力増幅器125で増幅された電力の大きい送信信号は、デュプレクサDUPを介して受信経路へ漏れ込んで、受信経路に流入してしまう。本発明は、自己診断を行う際にこの送信信号の漏れ込みを積極的に利用することを特徴とする。したがって、従来技術と異なり、本発明は、分配部140、移相器150及び結合部160をさらに備えている。分配部140は、送信系120における電力増幅器125とデュプレクサDUPとの間に結合され、デュプレクサDUPの前段で、送信経路上の送信信号を送信経路から分配する。分配部140は、一般的な方向性結合器でよく、例えば、簡単なマイクロストリップラインで実現することができる。移相器150は、分配部140に結合されており、分配部140から分配された送信信号の位相を調整する。また、結合部160は、デュプレクサDUPと受信系130の低雑音増幅器135との間に結合され、移相器150から出力された送信信号を、デュプレクサDUPの後段で受信経路に結合させる。結合部160も、分配部140と同様に、簡単なマイクロストリップラインで実現することができる。
【0018】
このように、分配部140及び結合部160によって、送信信号を受信経路に結合させることができる。なお、この受信経路上に結合される送信信号を、これ以降、「分配信号」と称し、デュプレクサDUPを経て受信経路へ漏れ込んだ送信信号を、「漏れ込み信号」と称する。自己診断時には、分配信号を受信系の診断箇所で監視することによって、受信系の診断が可能となる。すなわち、出荷時の初期調整時に予め測定した分配信号の電界強度を、基準値として記憶部116に格納しておき、その基準値と分配信号とを判定部112で比較することによって、基地局100の異常の有無を判定することができる。
【0019】
なお従来技術と異なり、本発明では、制御部114によって、自己診断時には、分配信号の位相と漏れ込み信号の位相とが同位相になるように移相器150が制御される。すなわち、分配信号と漏れ込み信号とをたし合わせることで受信系130に流れる分配信号の電界強度を増大させて、自己診断時における分配信号の測定を容易にしている。これに対して、自己診断時でなく、無線通信端末と通常の通信を行う場合(通常の運用時)には、受信経路への送信信号の漏れ込みは、受信系の劣化や受信信号の精度に影響を及ぼすため、好ましくない。したがって、通常の運用時には、制御部114によって、分配信号の位相と漏れ込み信号の位相とが逆位相になるように移相器150が制御される。すなわち、漏れ込み信号と分配信号とが互いに打ち消しあうようにして、受信経路上に不要な信号が流れないような制御がなされる。このことを、図を用いて説明する。図5は、例えば結合部160と低雑音増幅器135との間で観察した分配信号の信号波形を示すグラフである。グラフにおいて、実線DPは自己診断時、すなわち分配信号の位相と漏れ込み信号の位相とが同位相になるように制御された場合、破線TPは、通常の運用時、すなわち分配信号の位相と漏れ込み信号の位相とが逆位相になるように制御された場合の信号波形を示す。図のように、自己診断時には、分配信号の振幅が増大するので、受信経路で容易に分配信号を検出することができるようになる。なお、分配信号と漏れ込み信号とが確実に打ち消しあうようにするため、分配部140と結合部160との間に、通常の運用時に動作する減衰器を設けてもよいし、分配部140や結合部160のマイクロストリップラインのパターンを調整することで信号の結合係数を調整して、分配信号の電力を調整してもよい。
【0020】
次に、本発明の第1実施例による基地局100の制御方法を、図2のフローチャートを用いて説明する。まず、制御部114は、自己診断の要求があるか否かを判定する(ステップS11)。自己診断の要求は、例えば、基地局100の保守管理を行う通信事業者から行われる。自己診断の要求がない場合は、制御部114は、移相器150を制御して、分配部140から分配された送信信号の位相と、デュプレクサDUPを経て受信経路に漏れ込んだ送信信号の位相とが逆位相になるように設定する(ステップS12)。自己診断の要求がある場合は、制御部114は、移相器150を制御して、分配部140から分配された送信信号の位相と、デュプレクサDUPを経て受信経路に漏れ込んだ送信信号の位相とが同位相になるように設定する(ステップS13)。その後、判定部112は、受信経路上の分配信号の電界強度と、記憶部116に格納されている基準値の電界強度とを比較する(ステップS14)。判定部112にて、異常があると判定されると、異常が発生していることを、例えば図示しないモニタ等へ表示させたり、アラーム音を発生させたりして報告する(ステップS15,S17)。異常であるか否かの判定は、分配信号の電界強度と基準値との差が所定の閾値以上である場合や、分配信号の電界強度が時間によって大きく変動している場合等が該当する。なお、判定部112にて異常がないと判定されれば、正常であることを報告して、通常の運用を継続する(ステップS15,S16)。
【0021】
本発明では、上述のように、送信信号の一部を分配して受信経路に結合させたものを用いた自己診断が行われるため、従来技術のような擬似端末を基地局に内蔵する必要がなく基地局を大型化することがないという利点がある。さらに、分配部140及び結合部160は、簡単なマイクロストリップラインで実現できるため、コストがかかることもない。
【0022】
<第2実施例>
次に、本発明の第2実施例による基地局について説明する。図3は、本発明の第2実施例による基地局100Aの概略ブロック図である。なお、図1に示す第1実施例の基地局100と同様の機能を有する構成部には同じ符号を付し、説明を省略する。基地局100Aは、デジタルダウンコンバータ(DDC2)131B,アナログ/デジタル変換器(ADC2)132B及び分配器136をさらに備える。分配器136は、通常の運用時には、結合部160からデジタルダウンコンバータ(DDC)131Aまでの受信経路のみを構成するが、自己診断時には、デジタルダウンコンバータ(DDC2)131B及びアナログ/デジタル変換器(ADC2)132Bを、受信経路にさらに結合させる。上述のように、FDD方式の通信方式では、自己診断時に、周波数の異なる送信信号(分配信号)と受信信号とが混在して、受信経路上を流れるようになる。したがって、受信経路を2つに分路し、それぞれの経路に、送信信号と受信信号の周波数に対応したフィルタを設けて、送信信号(分配信号)と受信信号とを分離する。
【0023】
図3の例では、分配器136からデジタルダウンコンバータ(DDC2)131B及びアナログ/デジタル変換器(ADC2)132Bの経路上で、例えばADC2 132Bの前段又は後段に、送信信号(分配信号)のみを通過させるフィルタを設ける。また、分配器136からデジタルダウンコンバータ(DDC)131A及びアナログ/デジタル変換器(ADC)132Aの経路上で、例えばADC 132Aの前段又は後段に、受信信号のみを通過させるフィルタを設ける。判定部112Aは、送信信号(分配信号)の電界強度を、予め測定した基準値と比較し、異常判定を行う。なお、図1及び図3に示す基地局100及び100Aの違いは、分配器、DDC及びADCのみであるため、図3におけるその他の構成部についての説明は省略する。
【0024】
上述の概念を、図を用いて説明する。図6は、ADC(132A,132B)でサンプリングする際に検出される、送信信号(分配信号)及び受信信号の周波数特性を示す模式的なグラフである。図のように、送信信号(分配信号、送信波)及び受信信号(受信波)が混在して検出される。なお、図において、受信信号(受信波)の周波数特性は実線RP、送信信号(分配信号、送信波)のうち、自己診断時の周波数特性は実線DP、通常の運用時の周波数特性は破線TPで示してある。自己診断時には、分配信号の位相と漏れ込み信号の位相とが同位相になるように移相器150が調整されるため、図のように、破線TPで示す通常の運用時の送信信号(分配信号)に比べて電力が大きくなる。第2実施例では、図6に示す受信信号と送信信号(分配信号)とを、フィルタをかけることによってそれぞれ取り出すことができる。例えば、受信信号RPを取り出す場合は、図6において波形FIL1で示す通過帯域を有するローパスフィルタを用いる。それに対して、送信信号DP(又はTP)を取り出す場合は、図6においてFIL2で示す通過帯域を有するローパスフィルタを用いる。なお、フィルタはデジタルフィルタ又はアナログフィルタのいずれかで実現することができる。アナログフィルタで実現する場合は、図3における分配器136とADC 132A及び132Bとの間に、受信信号又は送信信号(分配信号)に対応するフィルタをそれぞれ設ける。また、デジタルフィルタで実現する場合は、図3におけるADC 132A,132BとDDC 131A,131Bとの間に、受信信号又は送信信号(分配信号)に対応するフィルタをそれぞれ設ける。
【0025】
次に、本発明の第2実施例による基地局100Aの制御方法を、図4のフローチャートを用いて説明する。まず、制御部114は、自己診断の要求があるか否かを判定する(ステップS21)。自己診断の要求は、例えば、基地局100Aの保守管理を行う通信事業者から行われる。自己診断の要求がない場合は、制御部114は、移相器150を制御して、分配部140から分配された送信信号の位相と、デュプレクサDUPを経て受信経路に漏れ込んだ送信信号の位相とが逆位相になるように設定する(ステップS22)。自己診断の要求がある場合は、制御部114は、移相器150を制御して、分配部140から分配された送信信号の位相と、デュプレクサDUPを経て受信経路に漏れ込んだ送信信号の位相とが同位相になるように設定する(ステップS23)。次に、制御部114は、ダウンコンバータ133からADC2 132Bへの経路も構成するように分配器136を制御し、送信信号(分配信号)の帯域で動作するADC2 132BおよびDDC2 131Bを動作させる(ステップS24)。その後、判定部112Aは、受信経路上の分配信号の電界強度と、記憶部116に格納されている基準値の電界強度とを比較する(ステップS25)。なおこのとき、受信信号と送信信号(分配信号)とが混在している第1実施例とは異なり、第2実施例では、送信信号(分配信号)のみをフィルタによって取り出すことができていることに留意されたい。判定部112にて、異常があると判定されると、異常が発生していることを、例えば図示しないモニタ等へ表示させたり、アラーム音を発生させたりして報告する(ステップS26,S29)。異常であるか否かの判定は、分配信号の電界強度と基準値との差が所定の閾値以上である場合や、分配信号の電界強度が時間によって大きく変動している場合等が該当する。なお、判定部112にて異常がないと判定されれば、正常であることを報告して、送信信号の帯域で動作するADC2 132BおよびDDC2 131Bを停止させ、通常の運用を継続する(ステップS26〜S28)。
【0026】
このように、第2実施例によれば、自己診断時に、周波数の異なる受信信号と送信信号とをフィルタを用いることによって別個に検出することができる。よって、より精度のよい自己診断が可能となる。
【0027】
本発明の効果を再度記述する。本発明によれば、送信信号の一部を分配して受信経路に結合させたものを用いた自己診断が行われるため、従来技術のような擬似端末を基地局に内蔵する必要がなく、基地局を大型化することがない。さらに、送信信号の一部を取り出すための分配部及び受信経路に結合させるための結合部は、簡単なマイクロストリップラインで実現できるため、コストをかけることがない。また、移相器によって漏れ込み信号と分配信号とを打ち消しあうように制御するため、送信信号が受信経路に漏れ込むことによる、受信系の劣化を最小限に抑えることができる。さらに、自己診断時に、周波数の異なる受信信号と送信信号とを別個に検出することができるため、より精度のよい自己診断が可能となる。そのため、外部の無線通信端末との通信を継続しながら、自己診断を行うことができる。
【0028】
本発明を諸図面や実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形や修正を行うことが容易であることに注意されたい。したがって、これらの変形や修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部、各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部やステップなどを1つに組み合わせたり、あるいは分割したりすることが可能である。例えば、上述の実施例では、FDD方式について説明したが、本発明は、送受の周波数が等しいTDD方式に適用することも可能である。また、局部発振器及びPLLを、送信系及び受信系のそれぞれに設けてもよい。なお、図ではアンテナを1つのみ有する基地局を示しているが、本発明はこれに限られるものではなく、基地局は、複数のアンテナを備えてもよい。さらに、記憶部116には、初期調整時の電界強度だけではなく、ベースバンド部110で受信経路に結合された送信信号を復調(検波)したデータを格納してもよい。この場合、検波の精度を診断することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1実施例による基地局の概略ブロック図である。
【図2】本発明の第1実施例による基地局100の制御方法のフローチャートである。
【図3】本発明の第2実施例による基地局100Aの概略ブロック図である。
【図4】本発明の第2実施例による基地局100Aの制御方法のフローチャートである。
【図5】分配信号の振幅を時間軸で示したグラフである。
【図6】送信信号(分配信号)及び受信信号の周波数特性を示す模式的なグラフである。
【図7】FDD方式の自己診断機能を有する基地局装置の概略ブロック図である。
【符号の説明】
【0030】
100,100A,200 基地局
110,210,310 ベースバンド部
112,112A 判定部
114 制御部
116 記憶部
120,220,320 送信系
121,221,321 デジタルアップコンバータ(DUC)
122,222,322 デジタル/アナログ変換器(DAC)
123,223,323 アップコンバータ
124,224,324 バンドパスフィルタ
125,225,325 電力増幅器
130,230,330 受信系
131,231,331 デジタルダウンコンバータ(DDC)
132,232,332 アナログ/デジタル変換器(ADC)
133,233,333 ダウンコンバータ
134,234,334 バンドバスフィルタ
135,235,335 低雑音増幅器
136 分配器
140 分配部
150 移相器
160 結合部
170,226,326 PLL
300 擬似端末
ANT アンテナ
LO 局部発振器
DUP,DUP2,DUP3 デュプレクサ
CUP カプラ
FIL1,FIL2 フィルタ帯域
DP 自己診断時の分配信号の信号波形
TP 通常の運用時の分配信号の信号波形
RP 受信信号(受信波)の周波数特性
DP 自己診断時の受信信号(受信波)の周波数特性
TP 通常の運用時の受信信号(受信波)の周波数特性

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号の送信及び受信を行うアンテナと、
前記アンテナから送信する送信信号の送信経路と、前記アンテナで受信する受信信号の受信経路とを分離する分波器と、
を備えた自己診断機能を有する無線機であって、
前記送信経路から送信信号を前記分波器の前段で分配する分配部と、
前記分配部で分配された送信信号の位相を調整する移相器と、
前記移相器で位相が調整された送信信号を前記分波器の後段で前記受信経路に結合させる結合部と、
自己診断時に、前記分配部で分配された送信信号の位相を、前記分波器を経て前記受信経路に流入した送信信号の位相と同位相にするように前記移相器を制御する制御部と、
を備えることを特徴とする自己診断機能を有する無線機。
【請求項2】
請求項1に記載の自己診断機能を有する無線機において、
前記制御部は、
自己診断時でない場合は、前記分配部で分配された送信信号の位相を、前記分波器を経て前記受信経路に流入した送信信号の位相と逆位相にするように前記移相器を制御する、
ことを特徴とする自己診断機能を有する無線機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の自己診断機能を有する無線機において、
前記受信経路上に、前記アンテナで受信した受信信号を通過させる第1のフィルタと、前記分配部から分配された送信信号を通過させる第2のフィルタをさらに備える、
ことを特徴とする自己診断機能を有する無線機。
【請求項4】
アンテナで信号の送信及び受信を行うステップと、
分波器で前記アンテナから送信する送信信号の送信経路と、前記アンテナで受信する受信信号の受信経路とを分離するステップと、
を含む自己診断機能を有する無線機の制御方法であって、さらに、
前記分波器の前段で前記送信経路から送信信号を分配するステップと、
前記分配するステップで分配された送信信号の位相を移相器で調整するステップと、
前記調整するステップで位相が調整された送信信号を前記分波器の後段の結合部で前記受信経路に結合させるステップと、
自己診断時に、前記分配するステップで分配された送信信号の位相を、前記分波器を経て前記受信経路に流入した送信信号の位相と同位相にするように前記移相器を制御するステップと、
を含むことを特徴とする自己診断機能を有する無線機の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−109546(P2010−109546A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−278081(P2008−278081)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】