説明

照明装置

【課題】照明装置において走査範囲の長さと走査速度を一定にする。
【解決手段】対象領域を光で走査することにより前記対象領域を照明する照明装置は、光を発生する光源(1)と、前記光源からの光の光路を変更可能に調整する光学系(17)と、電圧の印加により屈折率の分布が誘起される電気光学素子であって、前記対象領域を走査するため前記電圧に応じて前記光学系からの光を偏向させる電気光学素子(9a、9b)と、少なくとも前記電気光学素子への光の入射角度に応じて、前記電気光学素子に印加する前記電圧を調整する制御部(15)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明装置に関する。照明装置は、例えば、内視鏡、プロジェクタ、顕微鏡等において用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
先端に電気光学結晶(電気光学素子)を備えることにより、機械的な駆動なしで照明光を偏向して対象物の走査を行う内視鏡の光学系が知られている(特許文献1)。
【0003】
また、光源より後方に電気光学結晶を備え、照明光を対象物に対し機械的な駆動なしで偏向できる走査顕微鏡の光学系が知られている(特許文献2)。この走査顕微鏡の光学系において、照明光の波長ごとに電気光学結晶に加える電圧を変化させ、偏向方向を一定にできる。
【特許文献1】特表2002-523162号公報
【特許文献2】特開2008-158325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、走査手段に電気光学結晶を用いた場合、電気光学結晶への光の入射角度等に依存して電気光学結晶からの光の射出角度が異なる。このため、印加電圧の時間変化率が同じ場合には、電気光学結晶への光の入射角度等が異なると、走査範囲の長さと走査速度が一定にならないという不都合が生じる。
【0005】
本発明は、照明装置において走査範囲の長さと走査速度を一定にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
対象領域を光で走査することにより前記対象領域を照明する照明装置は、光を発生する光源と、前記光源からの光の光路を変更可能に調整する光学系と、電圧の印加により屈折率の分布が誘起される電気光学素子であって、前記対象領域を走査するため前記電圧に応じて前記光学系からの光を偏向させる電気光学素子と、少なくとも前記電気光学素子への光の入射角度に応じて、前記電気光学素子に印加する前記電圧を調整する制御部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、少なくとも電気光学素子への光の入射角度によらず、走査範囲の長さと走査速度を一定にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第一実施形態に係る照明装置を示す概略構成図である。
【図2】電気光学素子における光線の曲がり方について説明する図である。電圧極に印加する電圧が正の場合を示す。
【図3】電気光学素子における光線の曲がり方を示す説明する図である。電圧極に印加する電圧が負の場合を示す。
【図4】電気光学素子に入射する光線の入射角度と屈折角度を示す図である。
【図5】(a)入射角度がゼロの場合の走査範囲を示す図である。(b)入射角度がゼロでない場合の走査範囲を示す図である。(c)入射角度がゼロの場合と入射角度がゼロでない場合の印加電圧波形を例示するグラフである。
【図6】(a)入射位置が基準位置の場合の走査範囲を示す図である。(b)入射位置が基準位置でない場合の走査範囲を示す図である。(c)入射位置が基準位置の場合と入射位置が基準位置でない場合の印加電圧波形を例示するグラフである。
【図7】(a)光が赤色の場合の走査範囲を示す図である。(b)は、光が青色の場合の走査範囲を示す図である。(c)光が赤色の場合と光が青色の場合の印加電圧波形を例示するグラフである。
【図8】第二実施形態に係る照明装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第一実施形態>
図1を参照して、照明装置の第一実施形態について説明する。なお、第一実施形態では、照明装置は、内視鏡やプロジェクタに設けられている。しかし、本発明はこれに限定されることなく適用可能である。例えば、照明装置は、顕微鏡に設けられてもよい。なお、ファイババンドル7は、斜視図を用いて記載されている。
【0010】
照明装置は、光源1、入射部3(入射手段)、ファイババンドル7、走査部9(走査手段)を有する。このように照明装置は、光走査装置から構成されている。
【0011】
光源1は、三原色の光として赤色(R)の光(波長λr)、緑色(G)の光(波長λg)、及び青色(B)の光(波長λb)を射出する。なお、光源1は、白色光源とRGBフィルタを備えることにより三原色の光を射出するものでもよい。或いは、光源1は、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の発光ダイオードやレーザダイオードを備えることにより、三原色の光を射出するものでもよい。また、後述の電気光学素子の偏向動作を容易にするため、光源1からの光を偏光板により適宜偏光させてよい。また、光源1は、三原色に限らず、所望の数の所望の色の光を射出するものでもよい。
【0012】
入射部3は、ファイババンドル7の一方の端面(近位端)において、光源1からの光を複数のファイバのいずれか一つに選択的に入射させる。本実施形態において、入射部3は、互いに垂直な方向に偏向動作を行う第一と第二のガルバノミラー3a、3bから構成される。ガルバノミラー3a、3bは、図示しないアクチュエータを介して、後述のコントローラ15により制御される。
【0013】
ファイババンドル7は、束ねられた複数n本の光ファイバから構成される。各光ファイバは、ファイババンドル7の一方の端面(近位端)において入射した光を伝送して、ファイババンドルの他方の端面(遠位端)から射出させる。なお、nは、例えば、数本から数千本である。
【0014】
入射部3とファイババンドル7の間には、適宜、一以上のレンズ等を含むレンズ群5が設けられる。レンズ群5は、入射部3から射出された光をファイババンドル7のうちの一本の光ファイバに入射するよう焦点が調整されている。ファイババンドル7と走査部9の間にも、適宜、一以上のレンズ等を含むレンズ群11が設けられる。レンズ群11は、光ファイバからの光をほぼ平行光にして、走査部9に入射させる。走査部9からの光は、一以上のレンズ等を含むレンズ群13によって、走査の対象である走査対象領域(走査対象面)100に合焦する。レンズ群13により、所定倍率で走査範囲が拡大される。
【0015】
入射部3、レンズ群5、レンズ群11、及び、ファイババンドル7は、光源1からの光の光路を変更可能に調整する光学系17を構成する。光学系17は、光源からの光の光路を変更可能に調整し、レンズ群5、11の光軸から外れた軸外光を発生することができる。
【0016】
走査部9は、ファイババンドル7の遠位端から射出した射出光で走査対象領域100を周期的に走査する。ファイババンドル7の一本のファイバへ光が入射している間、一周期又はその整数倍の周期の走査が行われる。走査対象領域100における走査位置(走査点)が順次移動する。図1では、例として、第一の走査位置(P1)と第二の走査位置(P2)が示されている。
【0017】
走査部9は、互いに垂直な方向に偏向動作を行う2つの電気光学素子9a、9bを備える。電気光学素子9a、9bは、電気光学結晶から構成される。なお、電気光学素子9bの電圧による偏向動作を容易にするため、2つの電気光学素子9a、9bの間にλ/2板を設けて光の偏光方向を変えてもよい。
【0018】
コントローラ(制御部)15は、電気光学素子9aの電極にY軸方向の電圧Vyを印加することによりX-Y面内でY軸方向の偏向動作を制御する。コントローラ15は、電気光学素子9bの電極にZ軸方向の電圧Vzを印加することによりX-Z面内でZ軸方向の偏向動作を制御する。なお、X軸は光軸方向の座標を示す。コントローラ15が電圧Vy、Vzを変更することにより、走査位置をY-Z面内で二次元的に移動できる。コントローラ15は、電圧Vy、Vz用の二つの電圧発生部を有する。
【0019】
また、コントローラ(制御部)15は、中央演算処理装置(CPU)やメモリ等を有する。コントローラ15は、光源1や入射部3等も制御する。
【0020】
なお、図1の光走査装置が、内視鏡に搭載される場合には、走査位置からの反射光が図示しない検出器により検出され、モニタ等に走査対象面の画像が表示できる。図1の光走査装置は、プロジェクタに搭載される場合には、スクリーン等の走査対象面に所定の画像を表示できる。
【0021】
図2、図3は、電気光学素子(電気光学結晶)における光線の曲がり方について説明する図である。簡単のため、図2、図3では、Y軸走査用の電気光学素子9aだけについて説明するが、Z軸走査用の電気光学素子9bについても同様である。Y軸は接地電極から非接地電極(電圧極)方向の座標を示す。電気光学素子9aの光の入射面はYZ面とする。なお、電気光学素子9aの接地電極20b側の端でY=0とし、接地電極20bから電圧極20aに向かって座標Yは増加するものとする。
【0022】
電源からの印加電圧Vが、電極(電圧極20aと接地極20b)を介して、電気光学素子9aに加えられる。図2(a)は、電気光学素子9aに加えられる印加電圧Vがプラスの場合を示す。図3(a)は、印加電圧Vがマイナスの場合を示す。なお、印加電圧Vがプラスの場合に電圧極20aが正極、接地電極20bが負極になる。印加電圧Vがマイナスの場合に電圧極20aが負極、接地電極20bが正極になる。
【0023】
電気光学素子9aへ電圧を印加することで屈折率の分布(屈折率分布)が生じ、電気光学素子9aに入射した光は、曲げられて電気光学素子9aより射出する。また、屈折率分布は印加電圧により変化する。このため、電気光学素子9aへの印加電圧を変化させることで、電気光学素子9aから射出する光線の角度が変わる。また、印加電圧を変化させることにより対象物に照射する光のスポットを移動させることができる。
【0024】
なお、印加電圧が一定の場合、射出角度θは、入射角度α、入射位置y、波長λにより異なる。従って、電気光学素子9aへの光の入射角度、光の入射位置、又は光の波長によらず走査範囲の長さと走査速度を一定にすることが必要になる。
【0025】
以下では、簡単のため、電気光学素子9a内での屈折率の分布n(Y)が以下の数式(1)のように座標Yの一次式で表わされる場合を説明する。なお、係数Aは、電圧Vに依存するので、電圧Vに依存して屈折率分布が変化する。
【0026】
【数1】

【0027】
例えば、電流の注入により電気光学素子9a(例えば、KTa1-xNbxO3)内に電荷を生じさせることにより印加電圧の方向に電界を傾斜させて、屈折率の大きな傾斜を得ることができる(特開2008-158325号公報、特開2007−310104公報等参照)。この場合、係数Aは以下の数式(2)により表わされる。
【0028】
【数2】

【0029】
ここで、n0は印加電圧がゼロの場合の屈折率、Sijは2次の電気光学定数、dは結晶の電場方向の厚み(電極間の距離)である。係数Aは、印加電圧の二乗に比例する。図2(b)は、電気光学素子9aに加えられる印加電圧Vがプラスの場合の屈折率変化(屈折率の傾斜)を示す。図3(b)は、印加電圧Vがマイナスの場合の屈折率変化を示す。
【0030】
なお、波長依存性を考慮する場合には、屈折率nは、以下の数式(3)のようになる。
【0031】
【数3】

【0032】
このように、電気光学素子9aへの印加電圧により屈折率はY座標に依存するため、印加電圧により電気光学素子9a内での光路は曲がる。また、印加電圧Vの大きさが大きいほど電気光学素子9a内での光路は大きく曲がる。従って、印加電圧Vに応じて走査位置tanθが決まり、印加電圧Vの変化範囲に応じて走査範囲の長さが決まる。なお、前述の通り、θは、射出角度である。また、走査対象領域100での実際の走査位置はtanθで一義的に定められるため、本実施形態では、走査位置はtanθで表わされる。
【0033】
なお、電気光学素子9aと走査対象領域との間に、別の光学系が配置されている場合には、θは、最も走査対象領域側に配置された光学系からの射出角度である。この点は、以下の図においても同様である。
【0034】
例えば、印加電圧Vの波形(時間依存性)はのこぎり波である(図5(c)参照)。ここでは、印加電圧波形の最小値Vminと最大値Vmaxの絶対値は等しいが、これに限られるものではない。走査範囲の長さRaは、印加電圧の最小値Vminに対応する走査位置tanθ(V=Vmax)と印加電圧の最大値Vmaxに対応する走査位置tanθ(V=Vmin)の差分に比例する。従って、本実施形態では、簡単のため、走査範囲の長さをRa=tanθ(V=Vmax)-tanθ(V=Vmin)と定義する。
【0035】
射出角度θは、屈折角度βに一対一に対応する入射角度α、及び、入射位置yに依存して以下の数式(4)により表わされる。
【0036】
【数4】

【0037】
ここで、Lは、光軸方向の電気光学素子(結晶)の長さである。図4のように、βは屈折角度であり、入射角度αと屈折角度βとの間に数式(5)の関係が成立する。なお、入射角度αと屈折角度βは、電圧極20a側から接地極20b側に進む方向に光が入射する場合を正にとる。
【0038】
【数5】

【0039】
コントローラ15は、走査範囲の長さRa{=tanθ(V=Vmax)-tanθ(V=Vmin) }が一定値になるように、入射角度、入射位置、波長の少なくとも一つに応じて、最大電圧Vmax(電圧の最大値)と最小電圧Vmin(電圧の最小値)を調整する。これにより、入射角度α、入射位置y、波長λによらず、走査範囲の長さRaが一定値になる。なお、印加電圧波形の周期及び周波数は、入射角度、波長、入射位置によらず一定である。また、コントローラ15は、レンズ群13の収差等の影響を考慮して、走査範囲の長さRaが一定になるよう印加電圧波形のVmaxとVminを調整する構成としてもよい。
【0040】
また、VmaxとVminの調整と同時に、電圧の時間変化率が入射角度、入射位置、波長に応じて調整されている。これにより、入射角度、入射位置、波長に関らず、走査速度を一定にすることができる。なお、電圧の時間変化率は、電圧がVmin からVmaxへ変化するのに要する時間をDTとすると、Vmin からVmax に応じて(Vmax-Vmin)/ DTで与えられる。のこぎり波の場合、DTは周期に略等しい。
【0041】
入射角度α、入射位置y、波長λに対して、走査範囲の長さRaが一定になるような最大電圧Vmaxと最小電圧Vminの値を数式(4)に基づいて解析的に求めるのは困難である。このため、予め実験やシミュレーション等により、走査範囲の長さを一定にするような最大電圧Vmaxと最小電圧Vminが、入射角度α、入射位置y、波長λごとに予め求められてもよい。例えば、コントローラ15は、表1のように、そのメモリ内に入射角度α、入射位置y、波長λごとに最大電圧Vmaxと最小電圧Vminを定めるルックアップテーブル(参照テーブル)を記憶しておいてよい。コントローラ15は、ルックアップテーブルを参照して、入射角度α、入射位置y、波長λに応じて、最大電圧Vmaxと最小電圧Vminを設定する。
【0042】
【表1】

【0043】
本実施形態では、入射角度α、入射位置yは、コントローラ15による入射部3の操作量から求められる。本実施形態では、入射角度α、入射位置yは、ガルバノミラー3a、3bで選択される入射光ファイバによって決まっているため、入射角度αと入射位置yは、ガルバノミラー3a、3bの角度γa、γb(即ち、操作量)と対応付けられる。表2のように、コントローラ15は、そのメモリ内にガルバノミラー3a、3bの角度γa、γbから入射角度αと入射位置yを求めるルックアップテーブルを記憶しておいてよい。コントローラ15は、ルックアップテーブルを参照して、角度γa、γbに応じて、入射角度αと入射位置yを取得できる。
【0044】
なお、必要に応じてガルバノミラー3a、3bの角度(即ち、操作量)を検出する検出器を設けることもできる。
【0045】
【表2】

【0046】
なお、コントローラ15は、そのメモリ内にガルバノミラー3a、3bの角度γa、γbから直接VmaxとVminを求めるルックアップテーブルを記憶しておいてもよい。この場合、コントローラ15は、このルックアップテーブルを参照して、ガルバノミラー3a、3bの角度γa、γbから直接VmaxとVminを求めることができる。
【0047】
−入射角度に対する印加電圧の依存性−
次に、入射角度に対する印加電圧の依存性とその調整について説明する。ここでは、波長λと入射位置yが同じで入射角度αだけが異なる場合について説明する。
【0048】
図5(a)(b)は、従来技術のように印加電圧の波形(ここでは、のこぎり波)を同じにした場合に、入射角度αに応じて走査範囲の長さがどのように変化するかを示す。図5(a)は、入射角度αがゼロの場合(α=β=0の場合)の走査範囲を示す。図5(b)は、入射角度αがゼロでない場合(α,β≠0の場合)の走査範囲を示す。射出角度θは、入射角度αから一義的に決まる屈折角度βに対して、以下の数式(6)のように表わされる。
【0049】
【数6】

【0050】
ここで、n1は、入射位置での屈折率である。
【0051】
印加電圧の波形が同じ場合に、射出角度θが印加電圧の変化により変動する幅は、入射角度αの増加に伴って増加することになる。
【0052】
そこで、入射角度によらず走査範囲の長さRaを一定値Kにするよう、入射角度αに応じて最大電圧Vmaxと最小電圧Vminが調整される。即ち、任意の入射角度α1に対して以下の数式(7)が成立するようにVmaxとVminが設定される。
【0053】
【数7】

【0054】
なお、印加電圧波形の周期及び周波数は、入射角度αによらず一定である。Vmax0はα=0の場合の最大印加電圧であり、Vmin0はα=0の場合の最小印加電圧である。
【0055】
図5(c)において、入射角度αがゼロの場合(α=0の場合)と入射角度αがゼロでない場合(α=α1≠0の場合)の印加電圧波形を例示する。ここで、印加電圧波形は、VmaxとVminの絶対値(大きさ)が等しいのこぎり波であるが、これに限定されるものではない。印加電圧波形の振幅(Vmax-Vmin)は、入射角度αの増加とともに減少するように調整される。これにより、入射角度αに関らず、走査範囲の長さRaは同じになる。図5(c)のように、入射角度αがゼロでない場合、印加電圧波形の振幅(Vmax-Vmin)は入射角度αがゼロの場合より小さくなるように調整される。また、同時に電圧の時間変化率が入射角度αに応じて調整されている。これにより、入射角度αに関らず、走査速度を一定にすることができる。なお、電圧の時間変化率は、電圧がVmin からVmaxへ変化するのに要する時間をDTとすると、Vmin からVmax に応じて(Vmax-Vmin)/ DTで与えられる。のこぎり波の場合、DTは周期に略等しい。
【0056】
このように、走査範囲の長さと走査速度を一定にするように、印加電圧は入射角度αに応じて設定することができる。
【0057】
−入射位置に対する印加電圧の依存性−
次に、入射位置に対する印加電圧の依存性とその調整について説明する。ここでは、波長λと入射角度αが同じで入射位置yだけが異なる場合を説明する。なお、簡単のため、ここでは入射角度αはゼロである場合を取り扱う。
【0058】
図6(a)(b)は、従来技術のように印加電圧の波形(ここでは、のこぎり波)を同じにした場合に、入射位置yに応じて走査範囲の長さがどのように変化するかを示す。図6(a)は、入射位置yが基準位置y0として光学結晶の厚さ方向の中心位置にある場合(y=y0=-d/2)の走査範囲を示す。図6(b)は、入射位置yが基準位置でない場合(y≠y0)の走査範囲を示す。
【0059】
射出角度θは、入射位置yに対して以下の数式(8)のように表わされる。
【0060】
【数8】

【0061】
印加電圧波形がVmaxとVminの絶対値が等しいようなのこぎり波の場合、射出角度θが印加電圧の変化により変動する幅は、基準位置で最大になり、入射位置yが電圧極20a側にずれる程減少する。入射位置yが基準位置にない場合(y≠y0)、射出角度θの変動幅は、入射位置yが基準位置である場合より小さい。
【0062】
そこで、入射位置によらず走査範囲の長さRaを一定値Kにするよう、入射位置yに応じて最大電圧Vmaxと最小電圧Vminを調整する。即ち、任意の入射位置y1に対して以下の数式(9)が成立するようにする。
【0063】
【数9】

【0064】
ここで、Vmax0はy=y0の場合の最大印加電圧であり、Vmin0はy=y0の場合の最小印加電圧である。なお、印加電圧波形の周期及び周波数は、入射位置yによらず一定である。
【0065】
図6(c)は、入射位置yが基準位置の場合(y= y0の場合)と入射位置yが基準位置でない場合(y≠y0の場合)の印加電圧波形を例示する。ここで、印加電圧波形は、VmaxとVminの絶対値(大きさ)が等しいのこぎり波であるが、これに限定されるものではない。印加電圧波形の振幅(Vmax-Vmin)は、入射位置が電極側に近づくとともに大きくなるように調整される。また、同時に電圧の時間変化率が入射位置yに応じて調整されている。これにより、入射位置yに関らず、走査速度を一定にすることができる。
【0066】
このように、走査範囲の長さと走査速度を一定にするように、印加電圧は入射位置yに応じて設定することができる。
【0067】
−波長に対する印加電圧の依存性−
次に、波長に対する印加電圧の依存性とその調整について説明する。ここでは、入射角度αと入射位置yが同じで、波長λだけが異なる場合について説明する。なお、簡単のため、入射角度αはゼロで、入射位置yが基準位置である場合について説明する。
【0068】
図7(a)(b)は、従来技術のように印加電圧の波形(ここでは、のこぎり波)を同じにした場合に、波長λに応じて走査範囲の長さがどのように変化するかを示す。図7(a)は、波長λが基準波長(赤色の波長)λrの場合(λ=λr)の走査範囲を示す。図7(b)は、波長λが青色の波長λbの場合(λ=λb)の走査範囲を示す。
【0069】
射出角度θは、波長λに対して、以下の数式(10)ように表わされる。
【0070】
【数10】

【0071】
射出角度θが印加電圧の変化により変動する幅は、波長λが減少するとともに増加する。例えば、波長λが青色の波長(λb)である場合、射出角度θの印加電圧による変動幅は、波長λが赤色の波長(λr)である場合より大きい。これは、電気光学素子において、波長が短いほど屈折率が大きいためである。
【0072】
そこで、波長λによらず走査範囲の長さRaを一定値Kにするよう、波長λに応じて最大電圧Vmaxと最小電圧Vminを調整する。即ち、任意の波長λ1に対して以下の数式(11)が成立するようにする。
【0073】
【数11】

【0074】
なお、印加電圧波形の周期及び周波数は、波長λによらず一定である。Vmax0はλ=λrの場合の最大印加電圧であり、Vmin0はλ=λrの場合の最小印加電圧である。
【0075】
図7(c)は、波長λが赤色の波長λrの場合(λ=λr)と波長λが青色の波長λbの場合(λ=λb)の場合の印加電圧波形を例示する。ここで、印加電圧波形は、VmaxとVminの絶対値(大きさ)が等しいのこぎり波であるが、これに限定されるものではない。印加電圧波形の振幅(Vmax-Vmin)は、波長λが増加するとともに増加するように調整される。また、同時に電圧の時間変化率が波長λに応じて調整されている。これにより、波長λに関らず、走査速度を一定にすることができる。
【0076】
このように、走査範囲の長さと走査速度を一定にするように、印加電圧は波長λに応じて設定することができる。
【0077】
なお、上記の実施形態において、入射位置に応じて印加電圧を調整することを行わない構成としてもよい。また、波長に応じて印加電圧を調整することを行わない構成としてもよい。これは、数式(4)において、特に屈折角度βの寄与が大きいためである。しかし、少なくとも入射角度αに応じて最大電圧Vmaxと最小電圧Vminが調整される。
【0078】
作用効果
光の入射角度に応じて電気光学素子に加える電圧が調整されるため、入射角度に関らず走査範囲の長さと走査速度を一定にできる。光の入射位置に応じて電気光学素子に加える電圧が調整されるため、入射位置に関らず走査範囲の長さと走査速度を一定にできる。光の波長に応じて電気光学素子に加える電圧が調整されるため、波長に関らず走査範囲の長さと走査速度を一定にできる。電圧の最大値と最小値を調整することにより走査範囲の長さを一定にできる。電圧の時間変化率を調整することにより、走査速度を一定にできる。電圧の印加により電流が注入されその内部に電荷を生じることにより、電気光学素子の内部に屈折率の傾斜が誘起される。
【0079】
<第二実施形態>
図8のように第二実施形態では、入射部3が、デジタルミラーデバイス(DMD)30で構成される。DMD30を構成する複数の微小ミラーは、それぞれ、コントローラ15からの指示に応じて、光源1からの光の一部を反射して、電気光学素子に入射する光線を生じさせる。コントローラ15は、順次微小ミラーを選択する。
【0080】
この場合、入射角度α、入射位置yは、コントローラ15が選択した微小ミラーの番号から求められる。入射角度α、入射位置yは、選択される微小ミラーの位置で決まっているため、入射角度αと入射位置yは、微小ミラーの番号と対応付けられる。表3のように、コントローラ15は、そのメモリ内に微小ミラーの番号から入射角度αと入射位置yを求めるルックアップテーブル(参照テーブル)を記憶しておいてよい。コントローラ15は、ルックアップテーブルを参照して、入射角度α、入射位置y、波長λに応じて、最大電圧Vmaxと最小電圧Vminを設定する。また、VmaxとVminの調整と同時に、電圧の時間変化率が入射角度、入射位置、波長に応じて調整されている。
【0081】
【表3】

【0082】
なお、コントローラ15は、そのメモリ内に微小ミラーの番号から直接VmaxとVminを求めるルックアップテーブルを記憶しておいてもよい。この場合、コントローラ15は、このルックアップテーブルを参照して、選択した微小ミラーの番号から直接VmaxとVminを求めることができる。
【0083】
第二実施形態でも、第一実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0084】
本発明は上記の第一と第二実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。例えば、上記の第一と第二の実施形態では、入射角度αと入射位置yが変えられて電気光学素子に光が入射する例を示した。しかし、レンズ群11の構成を変えるなどして、入射角度αのみ変える構成としてもよい。
【符号の説明】
【0085】
1 光源
3 入射部
3a、3b ガルバノミラー
5、11、13 レンズ群
7 ファイババンドル
9 走査部
9a、9b 電気光学素子
15 コントローラ
17 光学系
20a 電圧極
20b 接地極
100 走査対象領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象領域を光で走査することにより前記対象領域を照明する照明装置において、
光を発生する光源と、
前記光源からの光の光路を変更可能に調整する光学系と、
電圧の印加により屈折率の分布が誘起される電気光学素子であって、前記対象領域を走査するため前記電圧に応じて前記光学系からの光を偏向させる電気光学素子と、
少なくとも前記電気光学素子への光の入射角度に応じて、前記電気光学素子に印加する前記電圧を調整する制御部と、を備えることを特徴とする照明装置。
【請求項2】
前記制御部が、前記電気光学素子への光の入射位置に応じて、前記電気光学素子に印加する前記電圧を調整することを特徴とする、請求項1に記載の照明装置。
【請求項3】
前記制御部が、光の波長に応じて、前記電気光学素子に印加する前記電圧を調整することを特徴とする、請求項1に記載の照明装置。
【請求項4】
前記制御部が、前記電圧の時間変化率を調整することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一つに記載の照明装置。
【請求項5】
前記制御部が、前記電圧の最大値と最小値を調整することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一つに記載の照明装置。
【請求項6】
前記電気光学素子において、前記電圧の印加により電流が注入されその内部に電荷を生じることにより、屈折率の傾斜が誘起されることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一つに記載の照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−59174(P2011−59174A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205806(P2009−205806)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】