説明

熱伝導性エマルジョン

【課題】加工性を損なうことなく、樹脂100重量部に対して1000重量部以上の熱伝導性粒子を充填せしめた熱伝導性エマルジョンを提供する。
【解決手段】アニオン性またはノニオン性を示し、乾燥フィルムとしたときのガラス転移温度Tgが0℃以下である樹脂エマルジョンの固形分100重量部に対して、1000〜3000重量部の熱伝導性粒子を分散せしめた熱伝導性エマルジョン。本発明に係る熱伝導性エマルジョンは、高熱伝導性コート剤または接着剤として使用されるが、樹脂100重量部に対して1000重量部以上の熱伝導性粒子が充填されているため、5W/m・k以上といった高い熱伝導性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性エマルジョンに関する。さらに詳しくは、樹脂エマルジョン中に熱伝導性粒子を高濃度で分散させた熱伝導性エマルジョンに関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器、自動車機器、化学機器などを構成する部品は、それ自身の発熱によって加熱されるため、熱可塑性樹脂で成形された部品内が高温となり易く、その熱により内部回路や部品を破壊するおそれがある。そのため、これらの部品の成形材料としては、それから成形された成形品が内部機構部品が発する熱を部品内に蓄熱せずに、放熱性にすぐれたものの開発が望まれている。
【0003】
従来、熱伝導性にすぐれた熱可塑性樹脂組成物を得るにあたっては、高い熱伝導率を有する充填剤を添加する方法が一般的であるが、例えば樹脂100重量部に対して、1000重量部以上の充填剤(熱伝導性粒子)を用いる場合には、樹脂の粘度が高くなりすぎてしまい、加工性が悪化するといった問題があった(特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−86283号公報
【特許文献2】特開平6−188530号公報
【特許文献3】特開平4−198266号公報
【特許文献4】特開2007−23234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、加工性を損なうことなく、樹脂100重量部に対して1000重量部以上の熱伝導性粒子を充填せしめた熱伝導性エマルジョンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる本発明の目的は、アニオン性またはノニオン性を示し、乾燥フィルムとしたときのガラス転移温度Tgが0℃以下である樹脂エマルジョンの固形分100重量部に対して、1000〜3000重量部の熱伝導性粒子を分散せしめた熱伝導性エマルジョンによって達成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る熱伝導性エマルジョンは、高熱伝導性コート剤または接着剤として使用されるが、樹脂100重量部に対して1000重量部以上の熱伝導性粒子が充填されているため、5W/m・k以上といった高い熱伝導性を示す。また、熱伝導性エマルジョンは、20℃にて液状であるため取扱いが容易であり、高熱伝導性コート剤または接着剤、特に光ピックアップなどの電子部品用の高熱伝導性コート剤または接着剤として有効に用いられる。さらに、かかる熱伝導性エマルジョンは、被コート部品等に塗布後、乾燥するだけで、膜形成が可能であるといった作業の点でもすぐれている。
【発明を実施するための形態】
【0008】
アニオン性またはノニオン性を示す樹脂エマルジョンとしては、カルボキシル基、スルホン酸基などのアニオン性基を有する単量体を共重合させたエマルジョン型樹脂あるいはノニオン性モノマーを共重合させたエマルジョン型樹脂が用いられ、樹脂エマルジョンとしては、アクリル樹脂系エマルジョン、ウレタン樹脂系エマルジョン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)系エマルジョンまたはこれらの混合物などが、好ましくは熱伝導性粒子を充填した場合の粘度上昇を抑えるといった観点からウレタン樹脂系エマルジョンが用いられる。ウレタン樹脂系エマルジョンにあっては、ウレタン骨格に重合性二重結合を導入するために2-ヒドロキシエチルメタクリレート等を用いてウレタンポリマーを形成させ、導入された重合性二重結合に重合反応されるN-イソプロピルアクリルアミド等の単量体をグラフト共重合反応させたものなどを用いることもできる。一方、カチオン性を示すエマルジョンは、後記比較例1に示される如く熱伝導性粒子を高充填することができない。
【0009】
また、エマルジョンを形成する樹脂としては、これより得られる乾燥フィルムのガラス転移温度Tgが0℃以下であるものが用いられる。乾燥フィルムとしたときのガラス転移温度Tgが0℃以上のものが用いられると、膜形成が不可となり、コート剤あるいは放熱材として用いることが困難となる。このような樹脂エマルジョンとしては、例えば特許文献4記載のポリウレタン樹脂エマルジョンや市販品、例えば日本ゼオン製品Nipol LX811(アクリル樹脂系エマルジョン)、住化ケムテックス製品EVA S305(エチレン−酢酸ビニル共重合体系エマルジョン)などが挙げられる。
【0010】
アニオン性またはノニオン性を示す樹脂エマルジョンには、その樹脂分100重量部に対して1000〜3000重量部、好ましくは1500〜3000重量部の熱伝導性粒子が分散される。熱伝導性粒子がこれより少ない割合で用いられると、目的とする熱伝導率を達成することが困難となり、一方これより多い割合で用いられると、20℃におけるB型粘度が200,000mPas以上となり、塗布した場合に、ささくれがみられるなど使用上にも支障をきたすようになる。
【0011】
ここで熱伝導性粒子としては、熱伝導性を有するものであればその材質は特に限定されないが、好ましくは熱伝導性にすぐれたもの、具体的には熱伝導率が10W/m・K以上、好ましくは50W/m・K以上、さらに好ましくは100W/m・K以上のものが用いられる。このような熱伝導性粒子としては、例えば酸化アルミニウム、酸化ベリリウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ジルコニウムなどの金属酸化物、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの金属窒化物、炭化ケイ素、炭化チタン、炭化ホウ素などの金属炭化物などが、好ましくはアルミナ、窒化ホウ素および窒化アルミニウムのうち少なくとも一種が挙げられる。
【0012】
以上の各必須成分よりなる熱伝導性エマルジョンには、さらにオキサゾリン、ヒドラジド等の架橋性官能基を有する樹脂エマルジョンあるいはアセトアセチル化ポリビニルアルコール等の親水性樹脂を、アニオン性またはノニオン性を示す樹脂エマルジョンの樹脂分100重量部に対して樹脂分として、50重量部以下、好ましくは2〜20重量部の割合で用いることもできる。架橋性官能基を有する樹脂エマルジョンがこれ以上の割合で用いられると、アニオン性またはノニオン性を示す樹脂との架橋構造が増えすぎてしまい、これを乾燥フィルムとしたときのTgが0℃よりも高くなってしまうため好ましくない。これらは、市販品、例えば日本触媒製品エポクロス、クラレ製品PVA224、日本乳化剤製品アジピン酸ジヒドラジド、日本合成化学製品ゴーセファイマーZ-100などをそのまま用いることができる。そしてこれらを用いることにより、乾燥後の耐熱性向上を達成せしめることができる。
【0013】
また、必要に応じて公知の添加剤、例えば酸化防止剤、光安定剤、帯電防止剤、難燃剤、着色剤、滑剤、接着性改善剤、防かび剤などを適宜配合することができる。
【0014】
得られた熱伝導性エマルジョンは、例えば50℃で1週間といった貯蔵後であっても、良好な分散安定性を示し、これは放熱塗料などのコート剤や、光ピックアップ部品などの放熱材として用いることができる。使用に際しては、プラスチックなどの材質よりなる被コートまたは接着部品表面にディスペンサ、ナイフコート等を用いて膜厚約50〜300μmで熱伝導性エマルジョンを塗布した後、20〜80℃で20〜60分間の乾燥が行われる。
【0015】
得られた熱伝導性エマルジョンは、絶縁性を確保しつつ高い放熱性が要求される部品、特に電子部品、例えば光ピックアップ用の放熱材として用いられる。
【実施例】
【0016】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0017】
参考例1
TDI(三井武田ケミカル製品)12.4重量部、ひまし油(伊藤製油製品H56;OH価110)31.2重量部およびジメチロールブタン酸(パーストープ社製品DMBA)2.12重量部を、窒素雰囲気下、70℃で4時間反応させて、ウレタンプレポリマーを得た。次いで得られたウレタンプレポリマーを、メチルエチルケトン10.0重量部に溶解させた後、10℃以下に冷却した。ここに蒸留水70.0重量部中でトリエチルアミン(和光純薬製品)1.54重量部およびピペラジン・6水和物(日本乳化剤製品)2.74重量部を溶解し、10℃以下に冷却したものを添加しつつ、300rpm以上の回転数で撹拌させてウレタン樹脂系エマルジョンを調製した。その後、メチルエチルケトンをエバポレータで留去させた。得られたウレタン樹脂系エマルジョンはアニオン性であり、その固形分濃度は41.7%、乾燥してフィルムとしたときのガラス転移温度Tgは-10℃であった。
【0018】
参考例2
参考例1において、TDI、ひまし油およびジメチロールブタン酸とともに、ウレタン骨格に重合性二重結合を導入するために2-ヒドロキシエチルメタクリレート0.1重量部が用いられ、さらに得られたウレタンプレポリマーを、導入された重合性二重結合に重合反応させるN-イソプロピルアクリルアミド(興人製品)10重量部、重合反応の開始剤となる過硫酸アンモニウム(和光純薬製品)0.035重量部および亜硫酸ナトリウム(和光純薬製品)0.07重量部よりなるレドックス重合開始剤の存在下でグラフト共重合反応させた。得られたウレタン樹脂系エマルジョンはアニオン性であり、その固形分濃度は42.86%、乾燥してフィルムとしたときのガラス転移温度Tgは-5℃であった。
【0019】
参考例3
参考例1において、ウレタン樹脂系エマルジョンの調製に際し、ジメチロールブタン酸およびトリエチルアミンが用いられず、N-メチルジエタノールアミン1.7重量部および塩酸0.52重量部が追加して用いられた。塩酸は、3級アミンであるN-メチルジエタノールアミンを中和し、樹脂の乳化成分として作用する。得られた樹脂ウレタン系エマルジョンは、参考例1のジメチロールブタン酸-トリエチルアミンの組み合わせとは逆のカチオン性であり、その固形分濃度は45.6%、乾燥してフィルムとしたときのガラス転移温度Tgは-15℃であった。
【0020】
実施例1
参考例1で得られたアニオン性ウレタン系エマルジョンの固形分100重量部に対して、アルミナ粒子(昭和電工製品CBA25BC)1678重量部が用いられた。
【0021】
実施例2
参考例1で得られたアニオン性ウレタン系エマルジョンの固形分100重量部に対して、アルミナ粒子(CBA25BC)3000重量部が用いられた。
【0022】
実施例3
参考例2で得られたアニオン性ウレタン系エマルジョンの固形分100重量部に対して、アルミナ粒子(CBA25BC)1633重量部が用いられた。
【0023】
実施例4
ノニオン性エチレン−酢酸ビニル共重合体系エマルジョン(住化ケミテックスEVA S408HQE :乾燥してフィルムとした時のガラス転移温度Tg -30℃)固形分100重量部に対して、アルミナ粒子(CBA25BC)1272重量部が用いられた。
【0024】
実施例5
アニオン性アクリル樹脂系エマルジョン(日本ゼオン製品Nipol LX432A:乾燥してフィルムとしたときのガラス転移温度Tg -55℃)固形分固形分100重量部に対して、アルミナ粒子(CBA25BC)1400重量部が用いられた。
【0025】
実施例6
実施例1において、参考例1で得られたアニオン性ウレタン系エマルジョンの固形分量が41.7重量部に変更され、さらにアニオン性オキサゾリン含有ポリマー(日本触媒製品エポクロス;樹脂分50%)10重量部が用いられた。ここで、アニオン性オキサゾリン含有ポリマーを添加したアニオン性ウレタン系エマルジョンを乾燥してフィルムとしたときのガラス転移温度Tgは0℃であった。
【0026】
実施例7
実施例4において、さらにノニオン性ポリビニルアルコール(クラレ製品PVA224;樹脂分100%)2重量部が用いられた。ここで、ノニオン性ポリビニルアルコールを添加したノニオン性エチレン−酢酸ビニル共重合体系エマルジョンを乾燥してフィルムとしたときのガラス転移温度Tgは0℃であった。
【0027】
比較例1
参考例3で得られたカチオン性ウレタン系エマルジョンの固形分100重量部に対して、アルミナ粒子(CBA25BC)438重量部が用いられた。
【0028】
比較例2
参考例2で得られたアニオン性ウレタン系エマルジョンの固形分100重量部に対して、アルミナ粒子(CBA25BC)3500重量部が用いられた。
【0029】
比較例3
参考例1で得られたアニオン性ウレタン系エマルジョンの固形分100重量部に対して、アルミナ粒子(CBA25BC)900重量部が用いられた。
【0030】
以上の各実施例および比較例で得られた熱伝導性エマルジョンについて、次の各項目の測定または評価が行われた。
分散安定性:熱伝導性エマルジョンを50℃で1週間放置した後の状態を目視で判断
し、良好な状態のものを○、粒子の沈降がみられるものを×と評価
B型粘度:JIS K7117-1準拠、B型粘度計を用いて20℃における粘度を測定
50万以上のものについてはNGとした
塗布性能:ナイフコート法により、膜厚100μmでポリエチレン上に塗布を行い、
その状態を目視で判断し、良好な状態のものを○、ささくれがみられる
ものを×と評価
乾燥時間:熱伝導性エマルジョンを塗布量200g/m2でポリエチレン板に塗布し、相
対湿度60%で20℃、80℃および140℃の条件下、蝕指タックが消滅する
までの時間を測定
熱伝導率:レーザーフラッシュ法による
80℃で2日間乾燥させた1mm厚のフィルムにレーザー発振器からレーザー
光を発射し、その裏面に出てくる熱量とその時間を測定し、比熱および
熱拡散率を導き出して、これらと試料の密度をかけあわせて算出
ガラス転移温度Tg:DMA法による
【0031】
得られた結果は、次の表に示される。

測定・評価項目 実1 実2 実3 実4 実5 実6 実7 比1 比2 比3
分散安定性 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ × ○ ×
B型粘度(×103 mPas) 65 180 75 65 80 75 65 1.5 NG 1.6
塗布性能 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ × ○
20℃乾燥時間(分) 10 10 10 10 10 10 10 ≧30 ≧30 ≧30
80℃ 〃 (分) 5 5 ≦1 2 2 5 2 10 10 10
140℃ 〃 (分) ≦1 ≦1 ≦1 ≦1 ≦1 ≦1 ≦1 ≦1 ≦1 ≦1
熱伝導率(W/m・K) 5.2 7.5 5.3 5.0 5.3 5.2 5.0 1.1 7.2 1.4

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性またはノニオン性を示し、乾燥フィルムとしたときのガラス転移温度Tgが0℃以下である樹脂エマルジョンの固形分100重量部に対して、1000〜3000重量部の熱伝導性粒子を分散せしめた熱伝導性エマルジョン。
【請求項2】
樹脂エマルジョンが、アクリル樹脂系エマルジョン、ウレタン樹脂系エマルジョンまたはエチレン−酢酸ビニル共重合体系エマルジョンである請求項1記載の熱伝導性エマルジョン。
【請求項3】
熱伝導性粒子がアルミナ、窒化ホウ素および窒化アルミニウムの少なくとも一種よりなる請求項1記載の熱伝導性エマルジョン。
【請求項4】
20℃において液状である請求項1記載の熱伝導性エマルジョン。
【請求項5】
20℃におけるB型粘度が、200,000mPas以下である請求項4記載の熱伝導性エマルジョン。
【請求項6】
さらに架橋性官能基を有する樹脂エマルジョンを、アニオン性またはノニオン性を示す樹脂エマルジョンの樹脂分100重量部に対して樹脂分として、50重量部以下の割合で添加した請求項1記載の熱伝導性エマルジョン。
【請求項7】
さらに親水性樹脂を添加した請求項1または6記載の熱伝導性エマルジョン。
【請求項8】
高熱伝導性コート剤または接着剤として用いられる請求項1乃至7のいずれかに記載の熱伝導性エマルジョン。
【請求項9】
光ピックアップ用放熱材として用いられる請求項8記載の熱伝導性エマルジョン。


【公開番号】特開2010−189505(P2010−189505A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33801(P2009−33801)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】