説明

熱割れ防止ガラス構造体

【課題】サッシ枠によって固定されたガラス板、合わせガラスあるいは複層ガラスのガラス板の熱割れを防止するガラス構造体を提供する。
【解決手段】複層ガラス100の周縁部面及び端面部がサッシ枠11によって固定されたガラス構造体200であって、前記サッシ枠11によって日光が遮断される部分から遮断されない領域の少なくとも前記周縁部面の全周又は部分周において、ガラス板G1,G2を介して間接的に当てられた日光の日射エネルギーを吸収するようにした蓄熱性樹脂膜12を形成させたことを特徴とするガラス構造体200。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サッシ枠に固定されたガラス板が熱応力によって破損することを防止したガラス構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
複層ガラスは、一般に、複数枚のガラス板を、スペーサーを用いて隔置し、ガラス板とスペーサーとで密閉空間である中空層を形成せしめた構成であり、複層ガラスは中空層があることで断熱性能が高まり、結露防止、室内側冷暖房の負荷軽減などの利点があり、ガラスサッシとして一般住宅用を主として広く使われることが知られている。
【0003】
この種の複層ガラスでは、室内側のガラス板は、室内の空気と接触しながら、同時に低温のサッシ枠にも接触している。ガラス板の中央部は日射を受け温度上昇が大きいが、サッシ枠近傍のエッジ部は直接日射を受けないことから、ガラス板の中央部とエッジ部で大きな温度差が生じやすい。
【0004】
そのため、図3に示すように、ガラス板G1の直接日光を受ける中央部bと、サッシ枠によって日光が遮断されたエッジ部cとの間の境界部dの近傍において、日射を受ける中央部bは、エッジ部cに対して相対的に膨張しようとする。この膨張率の違いから、エッジ部cが中央部bのガラスの熱膨張を拘束する形になるため、低温度のエッジ部cでは引張応力が発生する。温度差の上昇に伴い、この引張応力がガラスの限界強度を超えるとガラス板aが周囲からの熱割れeを引き起こすという問題点があった。
【0005】
この問題点を改善する技術として、ガラス板の中心部からエッジ部への熱の伝達を容易にして両者の温度を小さくして熱応力を低下させ、熱割れを防止した複層ガラスが開示されている。例えば、特許文献1には、複層ガラスを構成する内側ガラス板のエッジ部にアルミニウムテープなどの熱伝導の良い伝熱材を設けることによって、エッジ部の温度が下がらないようにして、ガラス板の中央部とエッジ部で大きな温度差をなくし、ガラス板の熱割れを防止した天窓が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−158750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的に、複層ガラスなどの建築用のガラス板をサッシ枠に固定したガラス構造体では、サッシ枠は通常アルミニウムなどの金属製のものが多い。アルミニウムはサッシ枠として広く使用される材質であるが、熱伝導率が高いために、室内側のガラス板でもサッシ枠の温度が外気の温度に近くなりやすい。
【0008】
そのため、特許文献1のように、アルミニウムテープなどの熱伝導の良い伝熱材を複層ガラスの内側ガラス板のエッジ部に設ける構成では、ガラス板のエッジ部からサッシ枠や躯体へ放熱しやすく、エッジ部の温度が下がりやすくガラス板の中央部とエッジ部の温度差を小さくすることが難しく、熱割れが起こりやすいという問題点があった。特許文献1の構成では、伝熱材に加え別途断熱材を設けることも考えられるが、複層ガラスの構成が複雑になるため望ましくない。
【0009】
また、特許文献1のような構成では、アルミニウムテープなどの伝熱材を、各ガラス板サイズに対して一品一様に製作する必要があり、生産性も悪く、長期間の使用によりアルミニウムテープなどの伝熱材が剥離してしまうという問題点があった。
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、サッシ枠に固定されたガラス板のエッジ部の温度低下を防ぎ、かつ、ガラス板のエッジ部からサッシ枠や躯体への放熱を抑制し、ガラス板の中央部とエッジ部の温度差を小さくすることによって、ガラス板の熱割れを防止したガラス構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記課題を解決するために、鋭意検討した結果、ガラス構造体を構成するガラス板のエッジ部に、良好な熱吸収性と断熱性能を両立した樹脂膜を形成させ、ガラス板を介して当てられた日射のエネルギーによる熱吸収によりガラス板のエッジ部の温度低下を防ぎ、かつ、エッジ部から窓枠などのサッシ枠への放熱を抑制することによって、ガラス板の熱割れを防止できることを見出し、本発明に至った。
【0012】
すなわち、本発明は、ガラス板、合わせガラスあるいは複層ガラスの周縁部面及び端面部がサッシ枠によって固定されたガラス構造体であって、前記サッシ枠によって日光が遮断される部分から遮断されない領域の少なくとも前記周縁部面の全周又は部分周において、ガラス板を介して間接的に当たる日光の日射エネルギーを吸収するようにした蓄熱性樹脂膜を形成させたことを特徴とするガラス構造体である。なお、ここで言う蓄熱性樹脂膜とは、所定の熱吸収性能と断熱性能を両立した樹脂膜を表す。
【0013】
また、本発明は、蓄熱性樹脂膜が、明度(L*値)の値が40以下であり、かつ、熱伝導率が前記ガラス構造体を構成するガラス板の熱伝導率に対して0.3倍以下であることが好ましい。明度(L*値)の値が40以下の場合、被膜が黒色又は灰色に近い色調になり、日射のエネルギーをより吸収しやすく、ガラス板のエッジ部の温度低下をより効果的に防ぐことができる。
【0014】
また、一般的な複層ガラスに用いられるブチルゴムなどの一次シール材は、明度(L*値)の値が40以下の黒色又は灰色系統の色調に近く、本発明の蓄熱性樹脂膜の色調と同系統の色彩であり、見栄え上外観を損なうことがなく好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のガラス構造体によれば、日射のエネルギーによる熱吸収によってガラス板のエッジ部の温度低下を防止し、さらに、ガラス板のエッジ部から窓枠などのサッシへの放熱が抑制される構成となっているため、ガラス板のエッジ部と中央部の温度差を小さくすることができ、ガラス板の熱割れを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係るガラス構造体の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る蓄熱性被膜の部分拡大断面図である。
【図3】ガラス板の温度差発生と熱応力発生によるガラス板の破壊を説明する概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図1を参照し、本発明の実施形態について、複層ガラス100をサッシ枠11に固定したガラス構造体200を好適な一例とし説明する。なお、ここで言うガラス構造体とは、複層ガラスあるいは単板のガラス板、合わせガラスなどをサッシ枠に固定し、各種建築物の開口部に利用される窓部材等として使用可能な構造体を表す。
【0018】
図1に示すように本発明のガラス構造体200は、複層ガラス100のガラス板の周縁部及び端面部がサッシ枠11に固定され、建築物における開口部の窓部材として使用される。このとき、サッシ枠11と複層ガラス100の間にはセッティングブロック7及びバックアップ材8が設けられ、複層ガラス100を構成するガラス板G1、G2とサッシ枠11の伝熱が抑制される。なお、固定する際は、内部にガスを封入したあと、シーリング材10を使用して密封される。
【0019】
なお、セッティングブロック7の材質としては、クロロピレンゴム、エチレン‐プロピレン‐ジエンゴム(EPDM)等のゴム製のものを用いるとよい。また、バックアップ材8の材質としては、クロロピレンゴム、発泡ポリエチレン等を用いるとよい。
【0020】
複層ガラス100は、2枚のガラス板G1、G2がスペーサー4を介して隔置され、2枚のガラスG1、G2とスペーサー4で密閉された空間である中空層9が形成される。さらに、スペーサー6の両側にはブチルゴム接着剤などの一次シール材5が貼着され、2枚のガラスG1、G2を一次シール材7で接着一体化し、2枚のガラスG1、G2を隔置して密閉された中空層9を形成する。中空層9にはゼオライトなどの乾燥剤が充填される。尚、2枚のガラスG1、G2とスペーサー4に囲まれた凹部の形状を有する二次シール部6には、水分などが浸入しないように、シリコーンシーラントやポリサルファイドシーラントなどが充填される。
【0021】
複層ガラス100を構成するガラス板G1、G2のサッシ枠11側に位置する周縁部面には、サッシ枠11によって直接日射が当たらない部分から日射が当たる部分にかけて、蓄熱性樹脂膜12が形成される。なお、蓄熱性樹脂膜12は、周縁部面に加えてより効果が得られるようにガラス板G1、G2の端面部にも形成するようにするとよい。また、一般的なサッシ枠の溝深さ(ガラス板の飲み込み部)に合わせて、蓄熱性樹脂膜12を形成する周縁部面の領域は、例えば、溝深さ方向において10〜20mm程度にするとよい。
【0022】
次に、蓄熱性樹脂膜12について説明する。図2に示すように、蓄熱性樹脂膜12は、断熱性能を有する無機中空粒子12aと樹脂12bを主成分とする混合物の樹脂被膜であり、乾燥硬化後の樹脂膜中に無機中空粒子12aが分散した状態となり、良好な熱吸収性と断熱特性を両立させるものである。また、無機中空粒子12aは、シリカやアルミナあるいはその他セラミックス等の無機系の材質からなり、内部が中空状の粒子である。この中空状の空間を有しているため、熱伝導率が小さく、優れた断熱性能を有する。
【0023】
ガラス板G1、G2の周縁部面又は端面部に蓄熱性樹脂膜12を形成させる方法は、所定重量比、所定粘度に調整した無機中空粒子12aと樹脂12bを混合した塗布溶液を塗布し、乾燥硬化させ、樹脂被膜を形成させる一般的な方法であれば特に限定されない。例えば、ロールコーターやフローコーターで塗布する方法、スプレーガンによって塗布する方法、又は、刷毛やコテによって塗布する方法などを挙げることができる。
【0024】
乾燥後の蓄熱性樹脂膜12の膜厚さは、0.05〜3mmとすることが好ましく、さらに、0.1〜1.5mmとすることが好ましい。0.05mmより薄い場合は、十分な断熱性能を発現することができず、一方、3mmより厚い場合には、樹脂膜に亀裂が入りやすくなり、樹脂膜の破損が起こりやすくなるため好ましくない。
【0025】
樹脂12bは、無機中空粒子12aを均一に分散させるものであれば特に限定されない。樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル‐ウレタン硬化系樹脂、エポキシ‐ポリエステル硬化系樹脂、アクリル‐ポリエステル系樹脂、アクリル‐ウレタン硬化系樹脂、アクリル‐メラミン硬化系樹脂、ポリエステル‐メラミン硬化系樹脂等の熱硬化性樹脂、又は、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、石油樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、熱可塑性フッ素樹脂等の熱可塑性樹脂を挙げることができる。
【0026】
上記の無機中空粒子12aと樹脂12bの成分以外に、本発明の効果を阻害しない程度に必要に応じてその他の添加剤を混合することも可能である。例えば、その他の添加剤として、着色顔料、体質顔料、増粘剤、造膜助剤、レベリング剤、可塑剤、凍結防止剤、pH調整剤、希釈剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、分散剤、消泡剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、繊維、触媒、架橋剤等を挙げることができる。
【0027】
ガラス板の周縁部及び端面部において、サッシ枠11によって光の遮蔽される部分は、直接日光は当たらないが、実際、サッシ枠11によって日光が遮断されていないガラス板面(例えば、中央部)では、ガラス板面において日光の反射や散乱等が起こり、このガラス板面を介して、サッシ枠11によって直接日光の当たらないガラス板の周縁部及び端面部の一部に、反射光や散乱光が間接的に当たることになる。そのため、ガラス板の周縁部及び端面部に形成させる蓄熱性樹脂膜12は、日射によるエネルギーを吸収しやすい濃彩色の色調にすることが好ましい。
【0028】
具体的な色調の目安として、蓄熱性樹脂膜12は、色差計による明度(L*値)が40以下の濃彩色とすることが好ましく、さらには、明度(L*値)が20以下であり、黒色の外観を呈することが好ましい。なお、ここで言う、明度(L*値)とは、JIS Z8729:2008に規格されているL*a*b*表色系における明度を表す。また、使用する色差計としては、例えば、色彩色差計「CR400」「CR300」(コニカミノルタセンジング株式会社製)などを用いるとよい。
【0029】
なお、蓄熱性樹脂膜12の色調を調整する方法については、特に限定されないが、例えば、カーボンブラックや金属粉末等の近赤外線領域の日射のエネルギーを吸収しやすい黒色系顔料や灰色顔料などの濃彩色の塗料を添加する方法、あるいは、黒や灰色に着色した上記説明において列挙した樹脂を用いるとよい。着色した樹脂としては、市販のものを適宜使用するとよい。
【0030】
無機中空粒子12aの含有率は、乾燥硬化後の蓄熱性樹脂膜12中において、10〜40重量%であると好ましく、さらに、20〜30重量%であることがより好ましい。10重量%より少ない場合は、十分な断熱効果を発現することができず、一方、40重量%より多くなる場合は、塗料の展延性が悪く、塗装性が低下し、乾燥硬化後の蓄熱性樹脂膜12に亀裂や剥離などが生じやすくなるので好ましくない。
【0031】
また、蓄熱性樹脂膜12の十分な断熱性を発現するには、蓄熱性樹脂膜12の熱伝導率は、前記ガラス構造体を構成するガラス板G1、G2の熱伝導率に対して、0.3倍以下、さらには、0.1倍以下とすることが好ましい。また、アルミ等のサッシ枠11に対しては、蓄熱性樹脂膜12の熱伝導率が、0.002倍以下とすることが好ましい。例えば、使用する無機中空粒子12aの熱伝導率は、0.05〜0.2W/(m・K)の範囲にあるものを使用するとよい。
【0032】
また、無機中空粒子12aは、平均粒子径が50〜300μmであることが好ましく、さらには、70〜150μmであることがより好ましい。50μmより小さい場合は、中空状の粒子であっても十分な断熱性を発現することができず、一方、300μmより大きい場合は、樹脂組成物12bと混合した場合のハンドリングが容易でなくなり、分散させることが難しくなるため好ましくない。
【0033】
また、無機中空粒子12aは、下記に示す商品名の市販の断熱性塗料用粉体を利用することができ、例えば、市販のヒートカット(商品名)、シスターコート(商品名)、シラスバルーン(商品名)などを挙げることができる。
【0034】
以上の実施の形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0035】
本発明の実施の形態によると、ガラス板のエッジ部には、日射のエネルギーを吸収しやすい濃淡色の樹脂膜が形成されており、ガラス板のエッジ部の温度が日射のエネルギーを吸収して下がりにくく、さらに、この樹脂膜には断熱性能が付与されているため、樹脂膜の断熱性能によってガラス板のエッジ部から窓枠などのサッシへの放熱が抑制される構成となっている。そのため、ガラス板のエッジ部と中央部の温度差を小さくすることができ、ガラス板の熱割れを防止できる。
【0036】
さらに、本発明の実施の形態によると、ガラス板のエッジ部に本発明の蓄熱性樹脂膜を形成させる一工程だけで、同時に良好な熱吸収性と断熱性を両立させることができ、別途断熱材を設けるなどの煩雑な構造にする操作の必要がなく、簡易な処理工程で、サッシ枠に固定されたガラス板の熱割れを防止できる。
【0037】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【0038】
例えば、複層ガラス100に適用されるガラス板G1、G2は、フロート法等で製造された後、何ら後処理がなされていない生板ガラス(単板ガラス)、製造後、風冷強化または化学強化等の強化処理がなされた強化ガラス、ポリビニルブチラール膜などの樹脂中間膜を介して接合した合わせガラス、網入りガラス等を使用することができる。また、本発明の複層ガラス100を構成する2枚のガラス板の内の少なくとも1枚に熱伝達を抑制する低放射膜をコーティングしたLow−Eガラスを用いることももちろん可能である。
【0039】
また、複層ガラス100に封入されるガスの種類についても特に限定されないが、例えば、一般的に公知の複層ガラスに封入されるアルゴン、クリプトン、キセノン、ヘリウム、ネオン、六フッ化イオウ等のガスを挙げることができる。なお、単一成分のガスまたは単一成分のガスを少なくとも2種以上混合したガスを封入した複層ガラスにも適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、ガラス板の熱割れを防止したガラス板構造体を提供することができ、各種建築物の開口部に利用される窓部材等に適用することができる。
【0041】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は係る実施例に限定されるものではない。以下の手順にて、蓄熱性樹脂塗料の調製、及びガラス板への蓄熱性樹脂膜の塗布形成を行い、樹脂膜を形成したガラス板より構成される複層ガラスをサッシに嵌め込んだガラス構造体の断熱性能を調べた。なお、また、本発明に係る蓄熱性樹脂膜を形成しないガラス板を用いたガラス構造体の断熱性能を比較例とし、蓄熱性樹脂膜を形成した場合との温度差を比較した。
【0042】
[実施例1]
(蓄熱性樹脂塗料の調整及び塗布)
黒色のアクリルウレタン系樹脂(ニッペホームプロダクツ製、油性ウレタントップ、ブラック)に対して、断熱性粉体(東亜システムクリエイト製、商品名、ヒートカット)を20重量%となるように混合して、蓄熱性塗料とした。なお、断熱性粉体(ヒートカット)は、熱伝導率0.1W/(m・K)、平均粒子径70〜150μmの範囲に調整されたものを使用した。
【0043】
調製した蓄熱性樹脂塗料を、図1に示すように複層ガラスの室内側及び室外側の単板ガラス板(420mm×420mm、厚さ10mm、)のエッジ部(周縁端面部及び端面部)の全周に、刷毛を用いて3回重ね塗りを行い乾燥させて、乾燥後の厚みが1mm程度になるように蓄熱性樹脂膜を形成させた。上記の工程にて、蓄熱性樹脂膜を形成した複層ガラスを、図1に示すようなアルミ製のサッシ枠に嵌め込み、さらに、セッティングブロック、パックアップ材を用いて固定しシール材(二次シール部10)で密封してガラス構造体とした。なお、ガラス板はソーダライムガラスの材質のものを使用した。
【0044】
また、実施例1のガラス板に形成させた蓄熱性樹脂膜の明度と色彩を色差計(コニカミノルタセンジング株式会社製、CR400)を用いて測定したところ、明度(L*値)は17であった。
【0045】
(断熱性試験)
断熱性試験としては、上記の工程にて蓄熱性樹脂膜をエッジ部に形成させた複層ガラスをサッシ枠に嵌め込んだガラス構造体に赤外線(1162W/m2、英弘精機産業製、ネオ日射計にて測定)を複層ガラスの室外側から60分間照射し、複層ガラスのガラス板の中央部とエッジ部の温度差ΔTを測定した。なお、温度は市販のT型熱電対を用いて測定し、測定箇所は室内側の外側ガラス板面の中央部とエッジの端面部を測定した。温度を測定したエッジ部の端面部はガラス板の下端部において、長さ420mmの中央となる点を測定した。
【0046】
その結果、ガラス板の中央部とエッジ部(端面部)の温度差ΔTは、27.6℃であり、比較例1の蓄熱性樹脂膜を形成していない場合と比較して、ΔTの差は5.3℃であった。黒色の蓄熱性樹脂膜を形成した場合、ガラス板の中央部とエッジ部の温度は小さくなり、ガラス板に生じる熱応力を小さくできることが分かった。
【0047】
[実施例2]
蓄熱性樹脂膜として用いる樹脂を、灰色のアクリルウレタン系樹脂(ニッペホームプロダクツ製、油性ウレタントップ、グレー)とする以外は実施例1と同様な構成において、ガラス構造体の断熱性試験を行った。また、実施例2のガラス板に形成させた蓄熱性樹脂膜の明度と色彩を色差計(コニカミノルタセンジング株式会社製、CR400)を用いて測定したところ、明度(L*値)は30であった。
【0048】
その結果、ガラス板の中央部とエッジ部(端面部)の温度差ΔTは、29.4℃であり、比較例1の蓄熱性被膜を形成していない場合と比較して、ΔTの差は3.5℃であった。灰色の蓄熱性被膜を形成した場合、黒色の蓄熱性被膜には劣るがガラス板の中央部とエッジ部の温度は小さくなり、ガラス板に生じる熱応力が小さくできることが分かった。
【0049】
[実施例3]
蓄熱性樹脂膜として用いる樹脂を、白色のアクリルウレタン系樹脂(ニッペホームプロダクツ製、油性ウレタントップ、ホワイト)とする以外は実施例1と同様な構成において、ガラス構造体の断熱性試験を行った。また、比較例2のガラス板に形成させた蓄熱性樹脂膜の明度と色彩を色差計(コニカミノルタセンジング株式会社製、CR400)を用いて測定したところ、明度(L*値)は90であった。
【0050】
その結果、ガラス板の中央部とエッジ部(端面部)の温度差ΔTは、30.9℃であり、比較例1の蓄熱性樹脂膜を形成していない場合と比較して、ΔTの差は2.0℃であった。白色の蓄熱性樹脂膜を形成した場合、黒色又は灰色の蓄熱性樹脂膜には劣るがガラス板の中央部とエッジ部の温度は小さくなり、ガラス板に生じる熱応力を小さくするのに有効であることが分かった。
【0051】
[比較例1]
比較例として、蓄熱性樹脂膜を形成させない(樹脂膜なし)とする以外は実施例1と同様な構成において、ガラス構造体の断熱性試験を行った。
【0052】
その結果、ガラス板の中央部とエッジ部(端面部)の温度差ΔTは、32.9℃であった。
【0053】
[比較例2]
蓄熱性樹脂膜に含有させる断熱性粉体の重量比を5重量%とする以外は実施例1と同様な構成において、ガラス構造体の断熱性試験を行った。
【0054】
その結果、ガラス板の中央部とエッジ部(端面部)の温度差ΔTは、35.1℃であり、比較例1の場合と同等であり、断熱性粉体の重量比を5重量%とすると、十分な断熱効果を発現することができず、ガラス板の中央部とエッジ部の温度差ΔTは十分に小さくすることができないことが分かった。
【0055】
[実施例1]〜[実施例3]と[比較例1]の結果より、ガラス板のエッジ部に有色の蓄熱性樹脂膜を形成すると、ガラス板の中央部とエッジ部の温度差ΔTを小さくすることができ、ガラス板に生じる熱応力が小さくなる。さらに、日射のエネルギーを吸収しやすい黒や灰色の濃彩色にするとより効果的にガラス板に生じる熱応力が小さくできることが分かった。
【符号の説明】
【0056】
100 複層ガラス
200 ガラス構造体
G1、G2 ガラス板
3 乾燥剤
4 スペーサー
5 一次シール材
6 スペーサー
7 セッティングブロック
8 バックアップ材
9 中空層
10 二次シール部
11 サッシ枠
12 蓄熱性樹脂膜
12a 無機中空粒子
12b 樹脂
b 中央部
c エッジ部
d 境界部
e 熱割れ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板、合わせガラスあるいは複層ガラスの周縁部面及び端面部がサッシ枠によって固定されたガラス構造体であって、前記サッシ枠によって日光が遮断される部分から遮断されない領域の少なくとも前記周縁部面の全周又は部分周において、ガラス板を介して間接的に当たる日光の日射エネルギーを吸収するようにした蓄熱性樹脂膜を形成させたことを特徴とするガラス構造体。
【請求項2】
前記樹脂膜が、明度(L*値)の値が40以下であり、かつ、熱伝導率が前記ガラス構造体を構成するガラス板の熱伝導率に対して0.3倍以下であることを特徴とする請求項1に記載のガラス構造体。
【請求項3】
前記樹脂膜が、膜中に無機中空粒子を分散させてなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のガラス構造体。
【請求項4】
前記無機中空粒子が、前記樹脂膜中に10〜40重量%含有されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載のガラス構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−219503(P2012−219503A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86177(P2011−86177)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】