説明

熱可塑性樹脂組成物および接着フィルム、並びにそれを用いた配線フィルム

【課題】基材フィルム、導体配線との接着力が優れ、かつ比誘電率、誘電正接が低い熱可塑性樹脂組成物を得ること。また、それを用いた接着フィルム、配線フィルムを提供すること。
【解決手段】構造中に水酸基を有し、2,6−ジメチルフェニレンエーテルを繰り返し単位として有するポリフェニレンエーテル系ポリマーと、複数のイソシアナート基を構造中に有するイソシアナート化合物と、又は2,6−ジメチルフェニレンエーテルを繰り返し単位として有するポリフェニレンエーテル系ポリマーと複数のイソシアナート基を構造中に有するイソシアナート化合物との反応生成物と、水素添加したスチレン系エラストマーとを含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物、それを用いた接着フィルム、配線フィルムを開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低誘電率、低誘電正接であり、基材フィルム、導体配線との接着性に優れた熱可塑性樹脂組成物および接着フィルムとそれを用いたフレキシブルフラットケーブル等の配線フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器は小型化、薄型化、軽量化が進行し、それに用いる配線板には、多層化、微細配線化、薄型化による高密度微細配線が要求されている。その配線技術の一例として特許文献1に記載のような、基材フィルム上に複数の導体配線を平行に形成し、導体配線を絶縁樹脂で被覆し、更にその外層に導体層を設置してシールド層とするフレキシブルフラットケーブル(FFCと略す)が知られている。絶縁樹脂は、導体配線と基材フィルムを接合する接着層として機能する。基材フィルムにはポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルムが好ましく用いられ、絶縁樹脂(以下、接着層と呼ぶ)としては各種プラスチックフィルムや塗料を用いることができる。
【0003】
一方、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ等に代表される映像機器においては高精彩化にともない電気信号の高周波化が進行しており、薄型筐体内の配線に適するFFC等の配線フィルムに対してもGHz帯域の電気信号への対応が求められている。電気信号の伝送損失は、誘電損失と導体損失と放射損失との和で表され、電気信号の周波数が高くなるほど、誘電損失,導体損失及び放射損失は大きくなる関係にある。伝送損失は、電気信号を減衰させ、信号の信頼性を損なうため、高周波信号を取り扱う配線においては、誘電損失、導体損失、放射損失の増大を抑制する工夫が必要である。
【0004】
誘電損失は、回路を被覆する接着層の比誘電率の平方根、誘電正接及び使用される信号の周波数の積に比例する。そのため、比誘電率及び誘電正接の小さな基材フィルム、接着剤を選定することによって誘電損失の増大を抑制することができる。
【0005】
FFCにおいては、特許文献2に記載のように発泡弾性体を基材フィルムとする例がある。これは基材フィルム中に空孔を設置することにより比誘電率を低減する技術である。これにより基材フィルムの比誘電率を1.5程度に低減することができ、高速伝送を実現するものである。本文献においては、更に導体配線として錫等のめっき処理を施した平角銅配線、発泡基材フィルムとして発泡ポリエチレンテレフタレートフィルムが開示されており、更に基材フィルム上への接着層の設置、最終製品であるFFC外層へのシールド層の設置等が開示されている。
【0006】
特許文献3では、基材フィルムとしてポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリイミド樹脂等が開示され、接着層としては難燃剤を含有するポリエステル樹脂が開示されている。更に特許文献3では、基材フィルムの接着層を有していない面にポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、フッ素樹脂、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマーから選ばれる樹脂を含有する低誘電層を設置することが開示されている。低誘電層の設置により、フィルム全体の比誘電率を低減する技術である。
これらの技術に対する課題としては、接着層そのものの誘電特性の改善が挙げられる。即ち、従来技術では多孔質構造、低誘電層を有する基材フィルムの適用により接着フィルム全体としての比誘電率が低減でき、高速伝送を実現できるものの、導体配線と直接接している接着層の比誘電率、誘電正接が大きいため、伝送損失の増大が避けられないことに問題がある。接着層を有するFFC等の配線フィルムにおいては、今後の信号の高周波化に対応するために接着層の比誘電率、誘電正接の低減が重要な課題である。
【0007】
特許文献4には接着層としてポリエステル系、ポリエーテル系、エポキシ系の硬化性樹脂およびポリスチレン系、酢酸ビニル系、AVB系、ポリプロピレン系、ポリエチレン系、ポリエステル系、PVC系の熱可塑性樹脂が開示されている。ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン等の低極性なポリマーを接着層に用いた場合、接着層の比誘電率、誘電正接がともに低くなるので伝送損失の低減に有効である。しかし、これらの低極性樹脂は導体配線や基材フィルムとの接着力が低く、その改善が必要であった。
【0008】
特許文献5では電気特性のほか、難燃性、密着性を考慮した3層構造の接着層を有する接着フィルムが開示されている。この文献では結晶性ポリエステルを25重量%以上、変性ポリオレフィンを1〜50重量%を配合した樹脂組成物を主剤とした接着層が開示されており、更に種々の難燃剤を配合した難燃性接着層が開示されている。しかし、この開示技術では接着力を確保するために変性ポリオレフィンの含有率を低く抑える必要があるため、接着層の比誘電率、誘電正接の低減には限界があった。
【0009】
高周波信号に対応したFFC等の配線フィルムに適用する接着剤には比誘電率、誘電正接の低減とともに各種基材フィルム、導体配線との接着力の向上が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】実開平01−095014号公報
【特許文献2】特開2003−031033号公報
【特許文献3】特開2008−198592号公報
【特許文献4】特開2007−323918号公報
【特許文献5】特開2006−156243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、比誘電率と誘電正接が低く、基材フィルム、導体配線との接着力が高い熱可塑性樹脂組成物及びそれを接着層として基材フィルム上に担持した接着フィルム、さらに、この接着フィルムを用いて作製される高い接着信頼性と低い伝送損失を両立するFFC等の配線フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、接着層のベースレジンとしてワニス化が容易で、比誘電率、誘電正接が低いスチレン系エラストマーに着目した。特に全炭化水素骨格を有する水素添加されたスチレン系エラストマーは、10GHzにおける比誘電率が2.2〜2.3程度、誘電正接が0.001〜0.002と優れているので好ましい。しかし、スチレン系エラストマーを接着層としてポリエチレンテレフタレートフィルム上に設置し、その接着力を評価した結果、180°ピール試験において低い接着力しか発現しなかった。剥離モードを検討した結果界面剥離であったことから接着層と基材フィルム間の接着力が不足していることが確認された。
【0013】
この問題は、基材フィルムと接着層との間に一次結合を形成することによって改善できるものと考えた。一般に塗装分野では、プラズマ処理、コロナ処理、UVオゾン処理、火炎処理等の表面処理によって基材表面にカルボキシル基、水酸基等の官能基を導入し、表面を親水化することによって塗料と基材との密着性の改善が図られている。同様の処理をポリプロピレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、液晶ポリマーフィルム等の基材フィルムに施したところ、カルボキシル基、水酸基の生成が確認された。スチレン系エラストマーに対して、誘電特性を損なうことなく、カルボキシル基、水酸基と化学結合可能な改質を加えることが可能ならば高い接着力と低い比誘電率、誘電正接を両立する接着層の実現が可能であると考えた。
【0014】
次いでスチレン系エラストマーの改質について説明する。スチレン系エラストマーは、水酸基やカルボキシル基と直接化学結合可能な官能基を持っていない。そこで本発明者は、スチレン系エラストマーの簡便な改質方法として、ポリフェニレンエーテル系ポリマーの配合とポリフェニレンエーテル系ポリマーが有する水酸基の変性について検討した。ポリフェニレンエーテル系ポリマーはスチレン系エラストマーと良い相溶性を有し、比誘電率、誘電正接も比較的低いことからスチレン系エラストマーへの配合素材として好ましい。本発明におけるポリフェニレンエーテル系ポリマーの簡便な変性方法としてイソシアナート基を複数有する化合物によるイソシアナート変性が考えられる。この変性によりポリフェニレンエーテル系ポリマー樹脂末端の水酸基とイソシアナート基を反応させ、ウレタン結合を介してポリフェニレンエーテル系ポリマー末端にイソシアナート基を導入するものである。接着層中のイソシアナート変性ポリフェニレンエーテルは、基材フィルム表面の水酸基、カルボキシル基とウレタン結合、アミド結合等の化学結合を生じるため、接着層と基材フィルムとの接着力を増すことができ、イソシアナート変性ポリフェニレンエーテルの添加量を十分に低減できるならば低誘電率、低誘電正接との両立も可能であると考えた。更に導体配線に対しても表面を水酸基、アミノ基等のイソシアナート基と反応可能なカップリング処理剤で処理することにより導体配線と接着層との間の接着力も改善されるものと考えた。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、基材フィルム、導体配線との接着力が優れ、且つ比誘電率、誘電正接が低い熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。更に本発明の熱可塑性樹脂組成物を接着層に用いることにより、基材フィルム、導体配線との接着力が優れ、比誘電率、誘電正接が低い接着フィルムを得ることができる。これにより高周波伝送特性、ハンドリング性、接着信頼性の優れたフレキシブルフラットケーブル等の配線フィルムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の基材フィルムと接着層との接着構造を示す概念図である。
【図2】本発明の導体配線と接着層との第一例の接着構造を示す概念図である。
【図3】本発明の導体配線と接着層との第二例の接着構造を示す概念図である。
【図4】本発明の導体配線と接着層との第三例の接着構造を示す概念図である。
【図5a】本発明で用いる単官能ポリフェニレンエーテルポリマーの一例の構造式である。
【図5b】本発明で用いる単官能ポリフェニレンエーテルポリマーの他の例の構造式である。
【図6a】本発明で用いる多官能ポリフェニレンエーテルポリマーの一例の構造式である。
【図6b】本発明で用いる多官能ポリフェニレンエーテルポリマーの他の例の構造式である。
【図7】本発明の導体配線と接着層との多層構造を示す概念図である。
【図8】本発明が適用されるフレキシブルフラットケーブル(FFC)の斜視図である。
【図9】本発明が適用されるFFCの端部の斜視図である。
【図10】本発明が適用されるFFCの端部の断面図である。
【図11】基材フィルムの表面処理により親水化した際の接着層表面の接触角−時間の関係を示すグラフである。
【図12】本発明の一実施例による配線フィルムの構造を示す断面図である。
【図13】本発明の他の実施例による配線フィルムの構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。図1に、本発明の熱可塑性樹脂組成物を接着層に用いた場合の接着層と基材フィルムとの接着界面構造を模式的に示す。基材フィルム1表面には、アミノ基、アミド基、水酸基、カルボキシル基等の活性水素を有する官能基を形成する。これら官能基を持たない基材フィルム1の場合、UVオゾン処理、コロナ処理、プラズマ処理等の親水化処理により水酸基、カルボキシル基を生成する。
【0018】
一方、本発明の接着層2中においては、主成分である水素添加したスチレン系エラストマー3のスチレンユニットとイソシアナート変性ポリフェニレンエーテル4のポリフェニレンエーテルユニットが相互作用し、両者は相溶し、高い接着力を発現する。親水化処理した基材フィルム上に本発明の接着層2を設置すると接着層2中のイソシアナート基と基材フィルム表面の水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基等との間に共有結合が生じる。イソシアナート変性ポリフェニレンエーテルを介して基材フィルムと接着層中の主成分である水素添加したスチレン系エラストマーが強固に接合され、接着層と基材フィルムの接着力が増すものである。なお、本発明においては接着層に含まれるポリフェニレンエーテル系ポリマーの全ての水酸基がイソシアナート基に変性される必要はない。
【0019】
図2には、本発明の接着層2と導体配線5との接着界面構造の第一の例を模式的に示す。導体配線5の表面には、接着層中のポリフェニレンエーテル末端の水酸基或いはイソシアナート基と化学結合可能な水酸基、カルボキシル基、イソシアナート基、アミノ基、アミド基等の官能基をシランカップリング処理等によって導入する。図2には代表としてアミノシラン処理の例を示した。導体配線5が銅の場合には、シランカップリング処理層6と導体配線5との間に錫、亜鉛、コバルト、ニッケル等の異種金属層7および好ましくはその酸化物/水酸化物層を形成することが好ましい。
【0020】
この酸化物/水酸化物は導体配線5とシランカップリング剤層6との間に化学結合を生じ、接着力を増す効果を有する。シランカップリング処理層6が有する官能基と、接着層中のイソシアナート変性ポリフェニレンエーテル4とは、熱ラミネート工程および必要によりその後の加熱工程において共有結合を形成し、接着層2と導体配線5とを強く接合するものである。
【0021】
図3には、本発明の接着層と導体配線との接着界面構造の第二の例を模式的に示す。この例は、基材フィルム1上に設置した接着層2の表面に同様に親水化処理を施し、水酸基、カルボキシル基等の極性基を導入する手法を示す。接着層2表面に導入した極性基を介して、接着層2と導体配線5の表面に存在する異種金属層7およびその酸化物/水酸化物層8(図3中では省略)とをファンデルワールス力によって接着するものである。なお、図3には、水酸基とカルボキシル基が同時に存在する例を示した。
【0022】
図4には、本発明の接着層と導体配線との接着界面構造の第三の例を模式的に示す。この例は、接着層2の表面に導体配線用プライマー層10(第三の接着層)を設置する手法である。導体配線用プライマー層10を介して、接着層2と導体配線5の表面に存在する異種金属層7およびその酸化物/水酸化物層8(図4中では省略)とをファンデルワールス力によって接着するものである。図4には、代表としてニトリル基を構造中に有する化合物の例を示した。
【0023】
更に本発明は、接着層2と導体配線5との接着力を増す別の手法として、導体配線表面への粗化処理を含む。粗化処理方法としては、公知のエッチング処理、粒状めっき処理、黒化還元処理、ネオブラウン処理等を用いることができる。これらの手法は、導体配線表面を平均面粗さRaで0.1μm〜2μmの範囲で粗化することによって、導体損失の増大を抑制しつつ、接着層と導体配線との接着力を改善でき、更に界面の層構成も簡素化できるので好ましい。なお、導体配線表面の粗化処理とシランカップリング処理、接着層2表面の親水化処理、導体配線用プライマー層10の設置は併用して用いてもよい。
【0024】
本発明は、以下の実施形態を含む。
【0025】
(1)本発明の熱可塑性樹脂組成物は、化学構造中に水酸基を有し、2,6−ジメチルフェニレンエーテルを繰り返し単位として有するポリフェニレンエーテル系ポリマー(I)と、複数のイソシアナート基を構造中に有するイソシアナート化合物(II)と、水素添加したスチレン系エラストマー(III)とを含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。即ち本発明の樹脂組成物は、(I)〜(III)を必須成分とする。
【0026】
(2)構造中に水酸基を有する2,6−ジメチルフェニレンエーテルを繰り返し単位として有するポリフェニレンエーテル系ポリマーと複数のイソシアナート基を構造中に有するイソシアナート化合物との反応生成物(IV)と水素添加したスチレン系エラストマーとを含有する熱可塑性樹脂組成物である。上記(1)におけるポリフェニレンエーテル系ポリマー(I)と複数のイソシアナート基を構造中に有するイソシアナート化合物(II)に代えて、上記反応生成物(IV)を用いることができる。この場合、樹脂組成物は(III)と(IV)を必須成分とする。
【0027】
(3)前記ポリフェニレンエーテル系ポリマーが両末端に水酸基を有するジオール化合物であり、イソシアナート化合物がジイソシアナート化合物であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【0028】
(4)更にイソシアナート基と水酸基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基との反応を促進する触媒を含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【0029】
(5)水素添加したスチレン系エラストマー75〜90重量部、2,6−ジメチルフェニレンエーテルを繰り返し単位として有するポリフェニレンエーテル系ポリマー10〜25重量部、複数のイソシアナート基を構造中に有するイソシアナート化合物1〜20重量部を含有する熱可塑性樹脂組成物。
【0030】
(6)前記触媒の添加量が熱可塑性樹脂組成物中の樹脂成分の総量100重量部に対して0.1〜2重量部であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【0031】
(7)水素添加したスチレン系エラストマーと水素添加したアクリロニトリルブタジエンまたは/および非晶性ポリエステルとを含有する熱可塑性樹脂組成物。
【0032】
(8)水素添加したスチレン系エラストマーを50〜99重量部、アクリロニトリルブタジエンまたは/および非晶性ポリエステルの総量を1〜50重量部含有することを特徴とする(7)に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0033】
(9)更に下記式1及び式2で表される難燃剤の1種以上を含有することを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0034】
【化1】

【0035】
(10)前記難燃剤の添加量が熱可塑性樹脂組成物中の樹脂成分の総量100重量部に対して100〜300重量部であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【0036】
(11)厚さが10〜300μmであるポリプロピレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、液晶ポリマーフィルム及びそれらの組み合わせから選ばれる基材フィルム上に前記(1)〜(10)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の少なくとも1種類を10〜100μmの厚さに積層した接着フィルム。なお、基材フィルムは上記樹脂の複合フィルムであってもよい。
【0037】
(12)基材フィルム上に第一の接着層として難燃剤の含有率が0から90重量部である(1)〜(9)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を積層し、更にその上に第二の接着層として難燃剤の含有率が100重量部以上である(1)〜(10)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を積層した多層構造を有することを特徴とする接着フィルム。
【0038】
(13)前記、接着フィルムにおいて接着層と基材フィルムの界面に水酸基、カルボキシル基、アミノ基、ウレタン結合、尿素結合、アミド結合の少なくとも何れか一つの化学構造を有することを特徴とする接着フィルム。
【0039】
(14)前記第二の接着層上に、第三の接着層として水酸基、カルボキシル基、ニトリル基、ケトン基、アミド基、アミノ基の何れかを有する化合物を含有する高極性層を有することを特徴とする接着フィルム。
【0040】
(15)第三の接着層が水素添加したアクリロニトリルブタジエンを含有することを特徴とする接着フィルム。
【0041】
(16)更に、第三の接着層が水素添加したスチレン系エラストマーを含有することを特徴とする(15)記載の接着フィルム。
【0042】
(17)更に、第三の接着層が非晶性ポリエステルを含有することを特徴とする(16)記載の接着フィルム。
【0043】
(18)更に、第三の接着層が前記式1または式2に記載の難燃剤を含有することを特徴とする(14)〜(17)のいずれかに記載の接着フィルム。
【0044】
(19)前記第三の接着層が、前記第二の接着層の表面の親水化処理により形成される高極性層であることを特徴とする(14)に記載の接着フィルム。
【0045】
(20)前記(19)記載の接着フィルムにおいて、第三の接着層が第二の接着層へのUVオゾン処理、コロナ処理、プラズマ処理の何れかの親水化処理により形成された高極性層であることを特徴とする接着フィルム。
【0046】
(21)前記多層構造を有する接着層の第一の接着層が1〜18μm、第二の接着層が9〜99μm、第三の接着層が0μm〜10μmである接着フィルム。
【0047】
(22)前記多層構造を有する接着層の複合誘電特性が比誘電率において2.3〜2.7であり、誘電正接が0.0015〜0.005であることを特徴とする接着フィルム。
【0048】
(23)複数の導体が平行に配列された導体列と、導体列面を2枚の接着フィルムにより接着層を介して上下から挟んだ後にラミネート加工された配線フィルムにおいて、該接着層が水素添加したスチレン系エラストマー、2,6−ジメチルフェニレンエーテルを繰り返し単位として有するポリフェニレンエーテル系ポリマー、複数のイソシアナート基を構造中に有するイソシアナート化合物または/およびそれらの反応性生物を含有する熱可塑性樹脂組成物であることを特徴とする配線フィルム。
【0049】
(24)前記導体配線が銅であり、その表面に錫、亜鉛、コバルト、ニッケル、クロムから選ばれる異種金属層を有し、更に異種金属層の表面が該金属の酸化物または水酸化物層を有し、その酸化物または水酸化物層上にアミノ基、水酸基、イソシアナート基を有するシランカップリング剤層または該シランカップリング剤とイソシアナート化合物との反応残渣の少なくとも何れか一つを有することを特徴とする配線フィルム。
【0050】
(25)前記配線フィルムにおいて導体表面が、粗化処理されていることを特徴とする配線フィルム。
【0051】
(26)前記配線フィルムにおいて接着層と導体配線との間に共有結合または/および高極性層を有していることを特徴とする配線フィルム。
【0052】
(27)前記配線フィルムにおいて基材フィルムの外層に導電性接着層を介してアルミ箔層を設置し、該アルミ箔層と導体配線の少なくとも1本が電気的に接続されていることを特徴とする配線フィルム。
【0053】
(28)少なくとも一方の面に配線パターンを有する配線フィルムと両面に接着層を有する接着フィルムを交互に積層した多層配線フィルムにおいて、該接着層が水素添加したスチレン系エラストマー、2,6−ジメチルフェニレンエーテルを繰り返し単位として有するポリフェニレンエーテル系ポリマー、複数のイソシアナート基を構造中に有するイソシアナート化合物または/およびそれらの反応生成物を含有する熱可塑性樹脂組成物であることを特徴とする多層配線フィルム。
【0054】
先に低誘電率、低誘電正接な接着層と基材フィルム、導体配線との接着力を向上する手法について述べた。以下に基材フィルム、導体配線、接着層について説明する。本発明に用いる基材フィルムと接着層との接着力を増すためには、基材フィルム表面にイソシアナート基と反応可能な官能基、即ち水酸基、カルボキシル基、アミド基、アミノ基、イソシアナート基等が存在することが好ましい。基材フィルム上に水酸基、カルボキシル基等を簡便に導入する手法としては、UVオゾン処理、コロナ処理、プラズマ処理等の親水化処理が知られている。基材フィルムの親水化処理時間は処理のエネルギー強度にも依存するが、概ね1分から10分間の処理で基材フィルム表面に水酸基、カルボキシル基を導入できる。また、親水化後の基材フィルムに後述するシランカップリング剤を塗布し、水酸基をアミノ基、アミド基等の他の官能基に変換することもできる。
【0055】
なお、ポリイミドフィルムを基材とする場合には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ水溶液を用いた化学処理によってイミド環を開環し、アミノ基、アミド基を生成することも知られている。これらの基材フィルム上の活性水素を有する官能基は、接着層中に配合したイソシアナート化合物、およびイソシアナート化合物によって変性されたポリフェニレンエーテル系ポリマーと反応し、基材フィルムと接着層間に高い接着力が発現する。本発明の接着フィルムの基材には、先に列挙した汎用の有機フィルムが使用できる。その中でもコストと汎用性の観点からはポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましく用いられ、誘電特性の観点からはポリプロピレンフィルムを用いるのが好ましい。フィルムの厚さには特に制限はないが、取り扱い易さ、強度の観点から10〜300μmの範囲で選定するものである。
【0056】
基材フィルムと同様に導体配線表面にイソシアナート基と反応可能な官能基を導入することによって接着層と導体配線との接着力が改善される。導体配線表面への官能基の導入手法としては、シランカップリング剤を用いた化学処理が簡便である。導体配線が銅の場合には、導体表面に存在する酸化銅、亜酸化銅層が機械的、化学的に脆弱であるので他の安定な異種金属層に置換することが好ましい。その例としては錫、亜鉛、ニッケル、クロム、コバルト、アルミニウム等を挙げることができ、中でも無電解めっき,置換めっきが可能な、錫、亜鉛、ニッケル、クロム、コバルトの適用が簡便である。また、該金属層表面には、シラノール基との反応性を向上するために該異種金属の酸化物層、水酸化物層が形成されていることが好ましい。該異種金属の酸化物層、水酸化物層は、乾燥、水洗といっためっきプロセス中でも生成するが、更に加熱処理、熱水処理、水蒸気加熱、化学処理、プラズマ処理を加えることによって形成を促進しても良い。
【0057】
異種金属層の膜厚は1〜100nmの厚さを有することが望ましい。1nm以下では異種金属層の成分が銅配線内に拡散して消失する場合があり、100nmを越えると高周波信号の表皮効果によって銅よりも抵抗の高い異種金属層の影響により導体損失が増加する懸念があるためである。このような理由からより好ましい異種金属層の膜厚は、10nm〜50nmである。金属酸化物層および/または金属水酸化物層は異種金属層を変成して製造されることから概ね1nm〜100nmの厚さを有するものである。なお、異種金属層、該金属酸化物層および/または該金属水酸化物層は、複数の金属原子を含有していてもよい。
【0058】
シランカップリング剤層の膜厚は、1〜150nmであることが好ましい。1nmの膜厚とは、概ね単分子膜の厚さである。また、シランカップリング剤層の膜厚増加による接着力の改善効果は、概ね150nmまでしか発揮されないためである。シランカップリング剤層は水溶液または有機溶媒溶液として配線上に塗布され形成される。塗布後は、100℃〜150℃の温度範囲で10分以上乾燥することが好ましい。
【0059】
本発明におけるイソシアナート基と反応可能な官能基を有するシランカップリング剤としては、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン等のアミン系シランカップリング剤、反応後に表面に水酸基を生成するテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、イソシアナート基を構造中に有する3−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアナートトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0060】
上記、表面処理を施した導体配線上に更に、多官能イソシアナート化合物を含有する本発明の接着層をあらかじめプライマーとして1〜10μmの範囲で設置することにより、本発明の接着フィルムと導体配線の接着力を更に増すことができる。
【0061】
親水化処理を施した基材フィルムおよびシランカップリング剤による化学処理を施した導体配線は、スチレン系エラストマー、ポリフェニレンエーテル系ポリマー、複数のイソシアナート基を構造中に有するイソシアナート化合物(以下、多官能イソシアナート化合物と略す)を含有する熱可塑性樹脂組成物との間に一次結合を生じ、高い接着力を発現する。
【0062】
次いで接着層に用いる熱可塑性樹脂組成物の構成成分について説明する。スチレン系エラストマーは系の比誘電率、誘電正接を低減する効果を有する。好ましい例としては、誘電特性の観点からも、酸化劣化抑制の観点からも構造中に1,2−或いは1,4−ブタジエン構造を持たない水素添加されたスチレン−ブタジエン共重合体を挙げることができる。その例としては、旭化成ケミカルズ製タフテック(登録商標)H1031、H1041、H1043、H1051、H1052、H1062、H1221、H1272等が挙げられる。中でも伸び率が700%以上であるエラストマーの適用が接着性改善の観点から好ましい。
【0063】
本発明で用いるポリフェニレンエーテル系ポリマーは、2,6−ジメチルフェニレンエーテルの繰り返し単位を有し、末端に水酸基を有するポリマーであり、多官能イソシアナート化合物を介して接着層と基材フィルム、導体配線表面の官能基とを化学的に結合する機能を有する。その分子量は、低いことが好ましく、これによりポリフェニレンエーテル系ポリマーの溶解性を改善することができるほか、接着層中の水酸基濃度の調整が容易になる。好ましい分子量範囲はスチレン換算数平均分子量において1000〜3000である。分子量が3000を大きく超えてしまうと系内の水酸基濃度を調整するために過剰のポリフェニレンエーテル系ポリマーを添加する必要が生じる。ポリフェニレンエーテル系ポリマーは融点が高く、その増量は接着フィルムのラミネート温度の上昇、接着力の低下を招く恐れがある。好ましい配合比はポリスチレン系エラストマーが75重量部〜90重量部であり、ポリフェニレンエーテル系ポリマーが10〜25重量部であり、更に好ましくはポリフェニレンエーテル系ポリマーの配合比が10〜20重量部である。
【0064】
本発明で用いるポリフェニレンエーテル系ポリマーには、あらかじめ末端の水酸基をイソシアナート基に変性したものを用いてもよい。また、ポリフェニレンエーテル系ポリマーには、図5a、図5bに記載した単官能のポリフェニレンエーテル系ポリマーよりも、図6a、図6bに記載した両末端に水酸基、イソシアナート基を有するものを用いることが好ましい。両末端に官能基を有することで接着フィルムの乾燥、ラミネート工程で高分子量化するので接着層の強度が増し、接着力の改善を図ることができるためである。低分子量で両末端に水酸基を有するポリフェニレンエーテル系ポリマーとしては、三菱ガス化学(株)製低分子量ポリフェニレンエーテル系ポリマーであるOPE(登録商標)を例として挙げることができ、イソシアナート変性ポリフェニレンエーテルとしてはOPEと各種ジイソシアナート化合物との反応物を挙げることができる。接着層形成用のワニスを作製する際には、あらかじめイソシアナート変性したポリフェニレンエーテル系ポリマー系を用いても良いが、水酸基を有したポリフェニレンエーテル系ポリマーをそのまま用いても良い。これはイソシアナート基と水酸基との反応性が高く、ワニス調整時および接着層の乾燥時に、ポリフェニレンエーテル系ポリマーの水酸基と多官能イソシアナート化合物との反応が進行し、イソシアナート変性がなされるためである。
【0065】
次いで多官能イソシアナート化合物について説明する。基材フィルム、導体配線と接着層とを接合する多官能イソシアナート化合物としては、イソシアナート基を複数有する化合物であれば何れの化合物も接着力の改善に寄与する。その例としては、ヘキサメチレンジイソシアナート及びその重合体であるポリヘキサメチレンジイソシアナート、ジシクロヘキシルメタン4,4’−ジイソシアナート、1,5−ジイソシアナトナフタレン、2,4−トリレンジイソシアナート及びその重合体であるポリ(2,4−トリレンジイソシアナート)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナート、m−キシレンジイソシアナート等が挙げられる。好ましいイソシアナート化合物としてはジイソシアナート化合物が挙げられる。これは、ジイソシアナート化合物とジオール化合物の反応では3次元の架橋構造が形成されにくく、接着層のラミネート性の変動が少ないからである。更に分子量の大きなポリジイソシアナート化合物の適用が、接着力の改善効果の観点から特に好ましい。
【0066】
イソシアナート化合物の添加量は、1〜20重量部の範囲であることが好ましい。イソシアナート基及びその反応物であるウレタン結合、尿素結合は極性が高いので、その増量は接着層の誘電特性を劣化させる恐れがあるからである。また、先のスチレン系エラストマーとポリフェニレンエーテル系ポリマーの配合比の範囲内では、イソシアナート化合物を更に増量しても接着力が改善しないからである。
【0067】
本発明においては、接着層にイソシアナート化合物の硬化触媒を添加することができる。硬化触媒を添加することによって、基材フィルム、導体配線との接着力を増すことができる。硬化触媒の例としては、トリエチレンジアミン,ビス(2−ジメチルアミノエチル)エーテル,N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサメチレンジアミン,N,N,N’,N”,N”−ペンタメチルジエチレントリアミン,N−メチル−N’−(2−ジメチルアミノエチル)ピペラジン,トリエチルアミン,N−メチルモルホリン,N−エチルモルホリン等の3級アミンおよびそのカルボン酸塩、オクチル酸鉛,ジブチル錫ジラウレート等のカルボン酸金属塩などの有機金属化合物等が挙げられる。これらは単独および2種以上の併用のいずれでも好ましく使用できる。その添加量は、樹脂成分の総量100重量部に対して0.1〜2重量部であることが好ましい。
【0068】
上記接着層には、更に前記式1または式2で表される難燃剤を樹脂総量100重量部に対して100重量部以上、特に100重量部〜300重量部の範囲で添加しても良い。上記難燃剤は誘電特性が優れており、接着層の誘電特性の劣化を抑制しつつ、系に難燃性を付与することができる。難燃剤の添加量が100重量部未満では十分な難燃性を発揮しない場合があり、300重量部より多い場合は接着フィルムの柔軟性を損なう可能性があることから上記範囲内で添加量を調整することが望ましい。
【0069】
次いで第三の接着層として用いる、多官能イソシアナート化合物を用いない接着層と基材フィルム、導体配線との接着力改善手法について述べる。接着層からイソシアナート化合物を除くことで、接着剤ワニスの安定性を改善することを目的とするものである。イソシアナート化合物を用いない接着層は、水素添加されたスチレン系エラストマー、水素添加されたアクリルニトリルブタジエンまたは/および非晶性ポリエステルを主成分とする。水素添加されたスチレン系エラストマーは接着層の誘電特性の改善に寄与し、水素添加されたアクリロニトリルブタジエンは、構造中のニトリル基の効果により主に導体配線との接着力改善に寄与する。また、非晶性ポリエステルは、接着層の流動性改善、基材フィルムとの接着性改善に寄与する。
【0070】
各成分の配合比は、水素添加したスチレン系エラストマーが50〜99重量部、水素添加されたアクリルニトリルブタジエンまたは/および非晶性ポリエステルの総量を1〜50重量部の範囲で用いられ、特に接着力と低誘電特性を両立するための好ましい範囲として、水素添加したスチレン系エラストマーが75〜97.5重量部、水素添加されたアクリルニトリルブタジエンまたは/および非晶性ポリエステルの総量を2.5〜25重量部の範囲が挙げられる。水素添加したアクリロニトリルブタジエンの例としては、日本ゼオン製Zetpol(登録商標)2000L、2000、1020、0020等の市販品を挙げるができる。非晶性ポリエステルとしては、東洋紡績製バイロン(登録商標)103、220、300、670、GK330、GK590等を挙げることができる。本発明のイソシアナートを含まない接着層には、イソシアナートを含む接着層の場合と同様に前記式1,式2で表される難燃剤を配合しても良い。
【0071】
本発明の接着フィルムでは、接着層を多層化して用いることが好ましい。各層に主な機能を分担し、接着層全体の性能を向上できるからである。その層構成の例を図7に示した。第一の接着層9は、基材フィルムとの接着力を向上する機能を重視した基材用プライマー層であり、樹脂成分の総量を100重量部とした際の式1、式2で表される難燃剤の添加量が0〜90重量部、更に好ましくは5〜20重量部の範囲の接着層とするのが好ましい。難燃剤の添加量が少ないため高い接着力が得られやすいという特徴と少量の難燃剤の添加により接着層10がタックフリー化するという特徴を有する。第二の接着層11は、接着剤層の誘電正接の低減と接着フィルムの難燃化に寄与する層であり、接着層の樹脂成分の総量を100重量部とした際の前記式1,式2で表される難燃剤の添加量が100〜300重量部である接着層が好ましい。また、高充填した難燃剤の効果により、接着層表面に微細な凹凸ができ、第三の接着層10のタックフリー化にも寄与する。第三の接着層10は、粗化処理やプライマーの設置がなされていない導体配線と接着層との接着力を改善する機能を有する。
【0072】
第三の接着層10は、極性成分を含有する層であり、先に述べたように第二の接着層11に親水化処理を施して形成しても良いし、水素添加したスチレン系エラストマーと水素添加されたアクリロニトリルブタジエンや非結晶性ポリエステルとを配合した接着層を新たに設置して形成してもよい。本発明では、各層に共通して水素添加したスチレン系エラストマーを配合している点に特徴のひとつがある。これにより各接着層の比誘電率、誘電正接を低減するとともに、多層化時に接着層間の相溶化が進み、接着力が改善される。
【0073】
本発明の配線フィルムの例としては、第一にFFCを挙げることができる。図8にFFCの斜視図を、図9にFFC端部の斜視図を、図10にFFC端部の断面図を示した。平行に配置した導体配線5を2枚の接着フィルム13で挟み込み、ラミネートすることによって固定した配線フィルムである。本発明の接着フィルムを用いた場合、ラミネート圧力は0.1〜1MPa、ラミネート温度は100℃〜140℃の範囲で接着することが好ましい。
【0074】
本発明の配線フィルムの外層に導電性接着層とアルミ金属箔からなる外層シールド層14を設置し、定法のアースと接続することによってFFCが作製できる。
【0075】
また、本発明の接着層を両面に有する接着フィルムをプリプレグとして用い、配線フィルムを複数層積層接着することによって多層配線フィルムを得ることも可能である。
【0076】
図12は本発明による配線フィルムの構造を示す断面図で、導体層5を中心として、異種金属層7(酸化物又は水酸化物を含んでもよい)、接着層2(この構成は図1、2、3、4、7に示すような様々な形態がありうる)、外層シールド14及び基材フィルム1から構成されている。
【0077】
また図13に示す配線フィルムの構造は、図12に示す構成に加えて、第一の接着層9、第二の接着層11及び第三の接着層10を設けたものである。
[実施例]
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。試薬および評価方法を示す。
【0078】
(1)供試試料
(イ)水素添加されたスチレン系エラストマー:タフテック(登録商標)H1052、伸び率700%、旭化成ケミカルズ(株)製
(ロ)水素添加されたスチレン系エラストマー:タフテック H1227、伸び率950%、旭化成ケミカルズ(株)製
(ハ)水素添加されたスチレン系エラストマー:タフテック H1031、伸び率650%、旭化成ケミカルズ(株)製
(ニ)両末端OH含有ポリフェニレンエーテル系ポリマー系樹脂:OPE、スチレン換算数平均分子量1000、三菱ガス化学(株)製
(ホ)イソシアナート化合物(1):ヘキサメチレンジイソシアナート、和光純薬(株)製
(ヘ)イソシアナート化合物(2):ポリヘキサメチレンジイソシアナート、デュラネートD201、粘度1800cps、NCO含有率15.8wt%、旭化成ケミカルズ(株)製
(ト)イソシアナート化合物(3):ポリヘキサメチレンジイソシアナート、デュラネートD101、粘度500cps、NCO含有率19.7wt%、旭化成ケミカルズ(株)製
(チ)イソシアナート化合物(4):イソシアヌレート構造を有するポリヘキサメチレントリイソシアナート、デュラネートTPA−100、NCO含有率23.1wt%、旭化成ケミカルズ(株)製
(リ)イソシアナート化合物(5):2,4−ジイソシアン酸トリレン、東京化成工業(株)製
(ヌ)イソシアナート化合物(6):ジイソシアン酸イソホロン、東京化成工業(株)製
(ル)水素添加されたアクリロニトリルブタジエン:Zetpol(登録商標)2000L、アクリロニトリル含有率36.2wt%、日本ゼオン(株)製
(オ)水素添加されたアクリロニトリルブタジエン:Zetpol1020、アクリロニトリル含有率44.2wt%、日本ゼオン(株)製
(ワ)水素添加されたアクリロニトリルブタジエン:Zetpol 0020、アクリロニトリル含有率49.2wt%、日本ゼオン(株)製
(カ)非晶性ポリエステル:バイロンGK330、ガラス転移温度16℃、スチレン換算数平均分子量17000、東洋紡績(株)製
(ヨ)非晶性ポリエステル:バイロン670、ガラス転移温度7℃、スチレン換算数平均分子量20000、東洋紡績(株)製
(タ)ポリエチレンテレフタレートフィルム:厚さ20μm
(レ)平角銅線:幅0.5mm、厚さ35μm、日立電線(株)製
(ソ)銅箔:厚さ35μm、JTC箔、日本鉱山(株)製
(ツ)KBM−602:N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン,信越化学工業(株)
(ネ)難燃剤:ビス(ペンタブロモフェニル)エタン、SAYTEX8010、(株)アルベマール日本製
(ナ)触媒:ジラウリン酸ジブチル錫(IV)、和光純薬(株)製
(2)接着剤ワニスの調整
表2〜5および表9−1、表9−2に記載の所定の配合比で接着剤ワニスを調整した。
【0079】
(3)基材フィルムの表面処理
厚さ20μmのポリエチレンテレフタレートフィルムにUVオゾン処理を所定の時間施した。接触角が一定となる処理時間10分を選定して、基材フィルムの処理を実施した。表面処理時間と水との接触角の関係を図11に示した。同様に接着層にもUVオゾン処理を1〜10分間施し、親水化した。その際の接着層表面の酸素含有率、官能基含有率の変化を表1に示した。
【0080】
【表1】

【0081】
(4)接着フィルムの作製
表面処理を施した基材フィルム上に所定のギャップを有するバーコーターを用いて接着剤ワニスを塗布し、80℃で20分間乾燥して接着剤フィルムを作製した。接着層の膜厚を各表に示した。
【0082】
(5)銅箔の表面処理1
銅配線との接着力を評価することを目的として、銅箔(JTC箔)のシャイニーに所定の処理を施し、接着層との接着力を評価した。以下に処理方法を示す。JTC箔を20℃の10wt%硫酸水溶液に15秒間浸し、次いで流水によって1分間洗浄した。洗浄後のJTC箔を60℃に加熱した石原薬品(株)製、UTB580−Z18置換錫めっき液に5分間浸し、置換錫めっきを施した。その後、流水洗浄を1分間施し、120℃/1時間乾燥した。銅箔の断面観察の結果、置換錫めっきの膜厚は約100nmであることを確認した。また、XPSによる表面分析によって錫層表面に酸化錫と水酸化錫を含有する層が数nm存在することが確認された。
【0083】
置換錫めっきを施した銅線に所定の1wt%のアミン系シランカップリング剤水溶液をディップ法により塗布し、120℃で10分間乾燥してアミン系シランカップリング剤層を形成した。アミン系シランカップリング剤層の膜厚は約0.07μmであった。
【0084】
次いでアミン系シランカップリング剤層上に表7に記載のプライマー層をバーコーターにて所定の厚さに塗布し、80℃で20分間乾燥して表面処理を施した。
【0085】
(6)銅箔の表面処理2
銅箔を過硫酸アンモニウム水溶液で粗化し、過塩素酸ナトリウムを主成分とする水溶液で酸化膜を形成し、次いでジメチルアミンボラン水溶液で還元処理し、乾燥した(黒化還元処理)。
【0086】
(7)基材フィルムと接着層との接着力評価
2枚の接着フィルムの接着層側の面を張り合わせ、送り速度1m/分、120℃、0.4MPaの条件でラミネート接着した。接着後のフィルムを幅1cmに切り出し、基材と接着層の間で180°ピール試験を実施した。
【0087】
(8)銅箔と接着層との接着力評価
接着フィルムの接着層側の面に表面処理を施した銅箔を置き、1m/分、120℃、0.4MPaの条件でラミネート接着した。その後、銅箔と接着フィルム間で180°ピール試験を実施した。銅箔との接着フィルムとのピール強度を導体配線と接着フィルムとの接着力として観測した。
【0088】
(9)接着層の誘電特性の評価
空洞共振法(8722ES型ネットワークアナライザー,アジレントテクノロジー製:空洞共振器,関東電子応用開発製)によって、10GHzの値を測定した。接着剤ワニス10gをポリテトラフロロエチレン製フィルム上で乾燥し、120℃、1MPaの条件で成型板を作製した。本成型板を1.0×1.5×80mmの大きさに切り出して試料とした。
【0089】
(10)難燃性の評価
2枚の接着フィルムの接着層側の面を張り合わせ、1m/分、120℃、0.4MPaの条件でラミネート接着した。接着後のフィルムを幅1.3cm、長さ16cmに切り出し、ガスバーナーの炎で着火した。着火後、炎からフィルムを外し、5秒以内に消炎した場合を○、消炎しなかった場合を×として評価した。
【0090】
(比較例1)
比較例1は、イソシアナート化合物を含有しない接着層を用いた接着フィルムの例である。表2に評価結果を示した。接着層の比誘電率は2.2であり、誘電正接は0.0022と優れているものの、基材フィルムと接着層との接着力は0.3kN/mと低いことが確認された。
【0091】
(実施例1〜6)
実施例1〜6は、各種イソシアナート化合物を所定量添加した例である。評価結果を表2に示した。比較例1と本実施例を比較するとイソシアナート化合物を添加することによって基材フィルムとの接着力が改善されること、誘電特性の劣化は殆どないことが確認できた。本接着剤を用いた接着フィルムは誘電特性、接着性がともに優れ、高周波用配線フィルムの接着剤として好ましいと思われる結果を得た。
【0092】
【表2】

【0093】
(実施例7〜11)
実施例7〜11は、イソシアナート化合物としてポリヘキサメチレンジイソシアナート(D101)を添加した例である。評価結果を表3に示した。イソシアナート化合物の増量にともない、接着強度が増すことが確認できた。また、誘電正接の値はイソシアナート化合物の増加にともない僅かに増加するものの、本検討の範囲では誘電特性、接着性がともに優れ、本組成領域の接着剤が高周波用配線フィルムの接着剤として好ましいと思われる結果を得た。
【0094】
【表3】

【0095】
(比較例2)
比較例2は、ポリフェニレンエーテル系ポリマー系樹脂を25重量部、スチレン系エラストマー75重量部含有する接着層の例である。評価結果を表3に示した。イソシアナート化合物を含有しておらず、ポリフェニレンエーテル系ポリマー系樹脂組成物の含有量が増したため、基材フィルムとの接着力は0.05kN/mと比較例1よりも低い値を示した。また、接着層の比誘電率は2.3、誘電正接は0.005と僅かに高い値を示した。
【0096】
(実施例12)
実施例12は、比較例2にイソシアナート化合物としてポリヘキサメチレンジイソシアナート(D101)を添加した例である。評価結果を表3に示した。イソシアナート化合物を添加したことによって基材フィルムとの接着力は0.52kN/mに改善されることが確認できた。このとき比誘電率は2.3、誘電正接は0.0052であり、比較例2と比較して誘電特性は殆ど劣化しないことが確認できた。
【0097】
(比較例3)
比較例3は、ポリフェニレンエーテル系ポリマー系樹脂を50重量部、スチレン系エラストマー50重量部含有する接着層の例である。評価結果を表3に示した。イソシアナート化合物を含有しておらず、ポリフェニレンエーテル系ポリマー系樹脂組成物の含有量が増したため、基材フィルムとの接着力は、0.05N/mと低い値を示した。また、接着層の比誘電率は2.4、誘電正接は0.011を示した。この誘電正接の値は、従来のポリエステル系接着層とほぼ同等の値であった。
【0098】
(実施例13)
実施例13は、比較例3にイソシアナート化合物としてポリヘキサメチレンジイソシアナート(D101)を添加した例である。評価結果を表4に示した。イソシアナート化合物を添加したにもかかわらず、接着力は殆ど改善されず、イソシアナート化合物を添加する効果が確認できなかった。また、誘電特性も比較例3と同等の大きな値を示した。実施例12と比較例3,実施例13との比較から、スチレン系エラストマーとポリフェニレンエーテル系ポリマー系樹脂の配合比率は75/25重量部から95/5重量部の範囲が好ましいと思われる結果を得た。
【0099】
【表4】

【0100】
(実施例14〜19)
実施例14〜17は、実施例10の接着剤にイソシアナート用硬化触媒としてジラウリン酸ジブチル錫(IV)を添加した例である。評価結果を表5に示した。硬化触媒の添加の効果により、実施例10に比べて接着力が更に増すことが確認できた。また、誘電特性の劣化は観察されなかった。実施例18〜19は、実施例17に特定の難燃剤を少量添加した例である。難燃剤の添加によりタックフリー化することが確認でき、このとき誘電特性、接着力はほとんど変化しなかった。以上のことから本実施例の接着剤は誘電特性、接着性がともに優れ、高周波用配線フィルムの接着剤として好ましいと思われる結果を得た。
【0101】
【表5】

【0102】
(実施例20〜22)
実施例20〜22は、実施例10の接着剤に特定の難燃剤を添加した例である。評価結果を表6に示した。特定の難燃剤を添加したことにより誘電正接が低減されること、樹脂成分の総量を100重量部とした際に、難燃剤を100重量部以上添加することによって接着フィルムが難燃化することが確認された。以上のことから特定の難燃剤を添加した接着剤の適用は、高周波用配線フィルムの安全性改善に寄与することが判明した。
【0103】
【表6】

【0104】
(実施例23〜26)
実施例23〜26は、難燃剤を含まない実施例16の接着剤を基材用プライマー層として設置し、更にその上に難燃剤を含有する実施例22の接着剤を接着層として積層した接着フィルムの例である。評価結果を表7に示した。プライマー層を設置することによって難燃性と接着力が両立できることが判明した。また、実施例16、実施例22の接着剤はともに誘電特性が優れることから、本発明の接着フィルムは誘電特性、接着性、難燃性がともに優れていることから、高周波用配線フィルムの接着フィルムとして好適である。
【0105】
【表7】

【0106】
(比較例5)
比較例5では、実施例24の接着フィルムとシランカップリング処理を施した銅箔との接着力を評価した。結果を表7に示した。第二の接着層に難燃剤が高充填されているため接着力は低い値を示した。
【0107】
(実施例27〜30)
実施例27〜30は、実施例16の接着剤を導体配線用プライマー層として銅箔上に積層した銅箔と実施例24に記載の接着フィルムとの接着例である。結果を表7に記載した。銅箔上に導体配線用プライマー層のない比較例5に比較して、実施例27〜30は高い接着力を示した。これにより銅配線上へのプライマー層の設置が銅配線と難燃剤を含有する接着層との接着力の改善に寄与することが確認された。本実施例の導体配線用プライマー層を有する配線フィルムは、難燃性と低誘電率、低誘電正接、高接着性を有することから、高周波用配線フィルムとして好適である。
【0108】
(実施例31)
実施例31は、黒化還元処理を施した銅箔と実施例24に記載の接着フィルムとの接着例である。結果を表8に記載した。銅箔表面の粗化により、難燃剤を含有する接着層と高い接着力を示した。これにより銅配の表面粗化が難燃剤を含有する接着層と銅配線との接着力の改善に寄与することが確認された。本実施例の銅配表面を粗化した配線フィルムは、難燃性と低誘電率、低誘電正接、高接着性を有することから、高周波用配線フィルムとして好適である。
【0109】
【表8】

【0110】
(比較例6)
比較例6は、実施例18の接着剤を基材用プライマー層とし、実施例22の接着剤を接着層とする接着フィルムとカップリング処理を施していない錫めっきを施した銅箔との接着例である。結果を表9−1、9−2に記載した。実施例22の接着剤が難燃剤を高充填しているため銅箔との接着力は低い値を示した。
【0111】
(実施例32〜34)
実施例32〜34は、導体配線用プライマーとしてアクリロニトリルブタジエンを比較例6の接着層上に設置した例である。錫めっきを施した銅箔との接着力は改善されるものの、接着力が安定しないことおよびフィルム間の接着力が低下することが確認された。
【0112】
(実施例35〜43)
実施例35〜43は、水素添加したスチレン系エラストマーとアクリロニトリルブタジエンおよび非結晶性ポリエステルを添加した接着剤を導体配線用プライマーに用いた例である。スチレン系エラストマー配合したことによって銅箔との接着力とフィルム間の接着力がともに改善されることが確認された。本実施例の接着フィルムを用いた配線フィルムは、難燃性と低誘電率、低誘電正接、高接着性を要することから、高周波用配線フィルムとして好適である。
【0113】
【表9−1】

【0114】
【表9−2】

【0115】
(実施例44〜46)
実施例44〜46では、第二の接着層への親水化処理により導体配線との接着力改善した例で、その結果を表10に示した。第一の接着層として実施例18に記載の接着剤層を用い、第二の接着層として実施例22の接着剤を用いた比較例6の接着フィルムの導体配線に対する接着力は0.05kN/mと低いのに対して、UVオゾンによる親水化処理を施した実施例44〜46は0.5kN/m以上の高い接着力を示した。本実施例の接着フィルムは難燃性と低誘電率、低誘電正接、高接着性を要することから、高周波用配線フィルムとして好適である。
【0116】
【表10】

【0117】
(実施例47)
実施例47にはFFCの製造例を示した。
【0118】
(A)実施例24で作製した接着フィルムを20×150mmの大きさに切り出し、接着フィルムの基材側を30×200mmのガラスエポキシ基板に乗せ、ポリイミドテープで貼り付けた。
【0119】
(B)ガラスエポキシ基板上の接着フィルムの接着層側に黒化還元処理を施した銅配線を配線中心が1mm間隔となるように平行に10本並べ、銅線の両端をポリイミドテープで固定した。
【0120】
(C)実施例24で作製した接着フィルムを20×130mmの大きさに切り出し、前述の銅配線上に接着層が銅配線側に向くように重ね、長辺の端部をポリイミドテープで固定した。
【0121】
(D)ガラスエポキシ基板全体をポリテトラフロロエタンフィルムで覆い、ラミネート処理によってガラスエポキシ基板上の2枚の接着フィルムを接着し、配線フィルムを得た。ラミネート条件は送り速度1.0m/分、ラミネート温度120℃、ラミネート圧力0.4MPaとした。
【0122】
(E)ポリテトラフロロエタンフィルム、ガラスエポキシ基板から配線フィルムを分離し、短辺2辺を5mm、長辺2辺を3mm切断除去して、幅が14mm長さが140mmの配線フィルムを作製した。
【0123】
(F)次いで導電性接着層付きアルミ箔で配線フィルム上の基材フィルム面を被覆してシールド層を設置した。
【0124】
(G)シールド層と配線の一部を銀ペーストで接続して、模擬FFCを作製した。本フレキシブルフラットケーブルは、折り曲げによる層間剥離を生じなかった。また、接着層の比誘電率,誘電正接が低いこと、難燃性を有することから、高周波機器の接続ケーブルに好適であった。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明の低誘電率接着剤、それを用いた接着フィルムは、配線フィルム、フレキシブルフラットケーブル用の接着剤、接着フィルムの適用でき、それを用いた配線フィルム、フレキシブルフラットケーブルは、接着層の誘電損失が小さく、更に導体配線、基材フィルムとの接着力が優れていることに起因して、高周波機器の配線材料に好適である。
【符号の説明】
【0126】
1…基材フィルム、2…接着層、3…スチレン系エラストマー、4…イソシアナート変性ポエイフェニレンエーテル、5…導体配線、6…シランカップリング処理層、7…異種金属層、8…酸化物/水酸化物層、9…第一の接着層、10…導体配線用プライマー層(第三の接着層)、11…第二の接着層、12…導体配線、13…接着フィルム、14…外層シールド層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学構造中に水酸基を有し、2,6−ジメチルフェニレンエーテルを繰り返し単位として有するポリフェニレンエーテル系ポリマー(I)と、
複数のイソシアナート基を構造中に有するイソシアナート化合物(II)と、
水素添加したスチレン系エラストマー(III)の(I)−(III)、又は
上記(I)と(II)との反応生成物(IV)と上記(III)の(III)−(IV)を必須成分として含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
ポリフェニレンエーテル系ポリマーが両末端に水酸基を有するジオール化合物であり、イソシアナート化合物がジイソシアナート化合物であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
更にイソシアナート基と水酸基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基との反応を促進する触媒を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記水素添加したスチレン系エラストマー75〜90重量部、前記2,6−ジメチルフェニレンエーテルを繰り返し単位として有するポリフェニレンエーテル系ポリマー10〜25重量部、前記複数のイソシアナート基を構造中に有するイソシアナート化合物1〜20重量部を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
触媒が熱可塑性樹脂組成物に添加され、その添加量が樹脂成分の総量100重量部に対して0.1〜2重量部であることを特徴とする請求項4に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記水素添加したスチレン系エラストマーに加えて、水素添加したアクリロニトリルブタジエンおよび/または非晶性ポリエステルを含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記水素添加したスチレン系エラストマーを50〜99重量部、前記アクリロニトリルブタジエンまたは/および非晶性ポリエステルの総量を1〜50重量部含有することを特徴とする請求項6に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
更に下記式1及び/または式2で表わされる難燃剤を含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【化1】

【請求項9】
前記難燃剤の添加量が熱可塑性樹脂組成物中の樹脂成分の総量100重量部に対して100〜300重量部であることを特徴とする請求項8に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】
厚さが10〜300μmである基材フィルム上に、化学構造中に水酸基を有し、2,6−ジメチルフェニレンエーテルを繰り返し単位として有するポリフェニレンエーテル系ポリマー(I)と、
複数のイソシアナート基を構造中に有するイソシアナート化合物(II)と、
水素添加したスチレン系エラストマー(III)の(I)−(III)、又は
上記(I)と(II)の反応生成物(IV)と(III)の(III)−(IV)を必須成分として含有する熱可塑性樹脂組成物の10μmから100μmの厚さの接着層を積層したことを特徴とする接着フィルム。
【請求項11】
前記基材フィルムは、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、液晶ポリマーフィルム及びそれらの組み合わせから選ばれる1種であることを特徴とする請求項10に記載の接着フィルム。
【請求項12】
前記樹脂組成物は、前記水素添加したスチレン系エラストマーに加えて、水素添加したアクリロニトリルブタジエンまたは/および非晶性ポリエステルを含有することを特徴とする請求項10に記載の接着フィルム。
【請求項13】
前記接着層は、難燃剤の含有量が樹脂総量100重量部あたり0から90重量部である熱可塑性樹脂組成物を有する第一の接着層と、更にその上に難燃剤の含有量が樹脂総量100重量部あたり100重量部以上である第二の接着層を有し、前記基材フィルムと積層されていることを特徴とする請求項10に記載の接着フィルム。
【請求項14】
前記第一の接着層と第二の接着層が複数層積層されていることを特徴とする請求項13記載の接着フィルム。
【請求項15】
前記接着フィルムにおいて接着層と基材フィルムの界面に水酸基、カルボキシル基、アミノ基、ウレタン結合、尿素結合及びアミド結合の少なくとも何れか一つの化学構造を有することを特徴とする請求項10〜14のいずれかに記載の接着フィルム。
【請求項16】
前記第二の接着層上に、水酸基、カルボキシル基、ニトリル基、ケトン基、アミド基及びアミノ基の何れか1種以上を有する化合物を含有する高極性層を有する第三の接着層が積層されていることを特徴とする請求項10〜14のいずれかに記載の接着フィルム。
【請求項17】
前記第三の接着層が水素添加したアクリロニトリルブタジエン、水素添加したスチレン系エラストマー及び非晶性ポリエステルから選ばれたポリマーを含有することを特徴とする請求項16に記載の接着フィルム。
【請求項18】
更に、第三の接着層が下記式1または式2に記載の難燃剤を含有することを特徴とする請求項10〜17のいずれかに記載の接着フィルム。
【化2】

【請求項19】
前記第三の接着層が、前記第二の接着層の表面の親水化処理により形成される高極性層であることを特徴とする請求項13に記載の接着フィルム。
【請求項20】
前記第三の接着層が第二の接着層へのUVオゾン処理、コロナ処理及びプラズマ処理の何れかの親水化処理により形成された高極性層であることを特徴とする請求項19記載の接着フィルム。
【請求項21】
前記第一の接着層の厚さが1〜18μm、第二の接着層の厚さが9〜99μm、第三の接着層の厚さが0μm〜10μmであることを特徴とする請求項10〜20のいずれかに記載の接着フィルム。
【請求項22】
前記接着層の複合誘電特性が比誘電率において2.3〜2.7であり、誘電正接が0.0015〜0.005であることを特徴とする請求項10〜21のいずれかに記載の接着フィルム。
【請求項23】
複数の導体が平行に配列された導体列と、導体列面を2枚の接着フィルムにより接着層を介して両面から接着して一体化した配線フィルムであって、
該接着層は、化学構造中に水酸基を有し、2,6−ジメチルフェニレンエーテルを繰り返し単位として有するポリフェニレンエーテル系ポリマー(I)と、
複数のイソシアナート基を構造中に有するイソシアナート化合物(II)と、
水素添加したスチレン系エラストマー(III)の(I)−(III)、又は
上記(I)と(II)との反応生成物(IV)と上記(III)の(III)−(IV)を必須成分として含有する熱可塑性樹脂組成物であることを特徴とする配線フィルム。
【請求項24】
前記前記導体配線が銅であり、その表面に錫、亜鉛、コバルト、ニッケル、クロムから選ばれる異種金属層を有し、更に必要ならば異種金属層の表面が該金属の酸化物または水酸化物層を有し、その酸化物または水酸化物層上にアミノ基、水酸基、イソシアナート基を有するシランカップリング剤層または該シランカップリング剤とイソシアナート化合物との反応残渣の少なくとも何れか一つを有することを特徴とする請求項23に記載の配線フィルム。
【請求項25】
前記配線フィルムにおいて導体表面が、粗化処理されていることを特徴とする請求項23又は24に記載の配線フィルム。
【請求項26】
前記接着層と導体配線との間に共有結合または/および高極性層を有していることを特徴とする請求項23〜25のいずれかに記載の配線フィルム。
【請求項27】
複数の導体が平行に配列された導体列と、導体列面を2枚の接着フィルムにより接着層を介して両面から接着して一体化した配線フィルムであって、
前記接着フィルムとして請求項10〜22のいずれかに記載の接着フィルムを用いることを特徴とする配線フィルム。
【請求項28】
前記配線フィルムにおいて基材フィルムの外層に導電性接着層を介してアルミ箔層を設置し、該アルミ箔層と導体配線の少なくとも1本が電気的に接続されていることを特徴とする請求項23〜26のいずれかに記載の配線フィルム。
【請求項29】
少なくとも一方の面に配線パターンを有する配線フィルムと両面に接着層を有する接着フィルムを交互に積層した多層配線フィルムであって、
該接着層が化学構造中に水酸基を有し、2,6−ジメチルフェニレンエーテルを繰り返し単位として有するポリフェニレンエーテル系ポリマー(I)と、
複数のイソシアナート基を構造中に有するイソシアナート化合物(II)と、
水素添加したスチレン系エラストマー(III)の(I)−(III)、又は
上記(I)と(II)との反応生成物(IV)と上記(III)の(III)−(IV)を必須成分として含有する熱可塑性樹脂組成物であることを特徴とする多層配線フィルム。
【請求項30】
少なくとも一方の面に配線パターンを有する配線フィルムと両面に接着層を有する接着フィルムを交互に積層した多層配線フィルムであって、前記接着フィルムが請求項10〜22のいずれかに記載の接着フィルムであることを特徴とする多層配線フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−41372(P2012−41372A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180742(P2010−180742)
【出願日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】