説明

熱可塑性樹脂組成物の製造方法及びその製造装置

【課題】熱可塑性樹脂組成物を製造する際の混合時の発熱が蓄熱されることを抑制して、得られる熱可塑性樹脂組成物の熱劣化を抑制する熱可塑性樹脂組成物の製造方法及びその製造装置を提供する。
【解決手段】樹脂及び植物性材料を含有し、合計100質量%に植物性材料が30〜95質量%であり、樹脂と植物性材料とを混合して混合物Cとする工程と、圧延装置30を用いて混合物Cを圧延する工程と、を備え、装置30は、圧延ロール320と、上方に配置された押込手段310を備え、圧延工程では圧延ロール320の間に押込手段310を用いて混合物Cを押し込み、混合物Cを平板状の圧延物C1にする。押込手段310は、被圧延物Cを押圧するためのプッシャー311を備え、圧延ロール320間の隙間323に接近した近接位置とそれよりも隙間323から遠ざかった遠隔位置との間で移動可能とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物の製造方法及びその製造装置に関する。更に詳しくは、製造時の熱劣化を抑制できる熱可塑性樹脂組成物の製造方法及びその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点からカーボンオフセットの手法が注目されている。このカーボンオフセットの手法の一つとして、天然由来の植物材料等を配合した熱可塑性樹脂組成物を、従来の合成成分からなる熱可塑性樹脂組成物に代用しようとする研究が進められている。
即ち例えば、ポリオレフィン系樹脂と所定長の木粉とを含有する混合材料を、溶融混練し、押出成形してなる溶融樹脂混練物を冷却し、粉砕してポリオレフィン系樹脂組成物を製造する方法が知られている(特許文献1参照)。また、特許文献1には、この方法により製造された樹脂組成物を用いて、押し込み成形により擬木などの木質感のある成形体を製造することができると説明されている。更に、材木、パルプ等の切削屑、及びケナフ等の植物性材料の粉砕物などの植物系充填材と、熱可塑性樹脂とを溶融混練し、押出成形した後、冷却し、ペレット化して複合材料ペレットを製造する方法(特許文献2参照)が知られている他、本発明者による熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法並びに成形体及びその製造方法(特許文献3参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−269709号公報
【特許文献2】特開2002−210736号公報
【特許文献3】特開2010−144056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して200質量部までの木粉を含有させた樹脂組成物を、押出成形した後に、水噴霧により冷却し、更に、再乾燥させるという冷却方法が開示されている。しかし、吸水性の高い植物材料等を含む樹脂組成物に対してこの作業を行うことは、多大な時間と不要なエネルギーコストを招くという問題がある。一方、特許文献2には、多量の植物系充填材を含有する複合材料ペレットを製造することが記載されているが、押出機にて植物系充填剤と熱可塑性樹脂とを混合した後、更に、加熱賦形型を用いて樹脂組成物の賦形を行う方法が開示されている。しかし、二度にわたる加熱を要するために熱劣化を招くおそれが大きいという問題がある。
【0005】
本発明は、上記の従来の状況に鑑みてなされたものであり、熱可塑性樹脂組成物を製造する際の混合時の発熱が蓄熱されることを抑制して、得られる熱可塑性樹脂組成物の熱劣化を抑制する熱可塑性樹脂組成物の製造方法及びその製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、熱可塑性樹脂及び植物性材料を含有し、前記熱可塑性樹脂と前記植物性材料との合計を100質量%とした場合に、前記植物性材料は30〜95質量%である熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、
熱可塑性樹脂と植物性材料とを混合して混合物とする混合工程と、圧延装置を用いて前記混合物(被圧延物)を圧延する圧延工程と、を備え、
前記圧延装置は、一対の圧延ロールと、その上方に配置された押込手段とを備え、
前記圧延工程では、前記一対の圧延ロールの間に前記押込手段を用いて前記混合物(被圧延物)を押し込み、前記混合物(被圧延物)を平板状の圧延物にすることを要旨とする。
【0007】
請求項2に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、請求項1において、前記植物性材料が、ケナフ繊維であることを要旨とする。
【0008】
請求項3に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、請求項1又は2において、前記熱可塑性樹脂が、酸変性ポリプロピレン系樹脂を含むことを要旨とする。
【0009】
請求項4に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、請求項3において、前記熱可塑性樹脂が、前記酸変性ポリプロピレン系樹脂を、前記熱可塑性樹脂全体100質量%に対して1〜30質量%含むことを要旨とする。
【0010】
上記問題点を解決するために、請求項5に記載の圧延装置は、一対の圧延ロールと、
前記一対の圧延ロールの間に熱可塑性樹脂を含む被圧延物を押し込む押込手段と、を備え、
前記押込手段により前記一対の圧延ロール間に前記被圧延物を押し込みつつ、圧延して前記被圧延物を平板状の圧延物にする圧延装置であって、
前記押込手段は、前記被圧延物を押圧するためのプッシャーを備え、
前記プッシャーは、前記一対の圧延ロール間の隙間に接近した近接位置と、前記近接位置よりも前記隙間から遠ざかった遠隔位置との間で移動可能とされていることを要旨とする。
【0011】
請求項6の圧延装置は、請求項5において、前記被圧延物は、更に植物性材料を含有し、前記熱可塑性樹脂と前記植物性材料との合計を100質量%とした場合に、前記植物性材料は30〜95質量%である熱可塑性樹脂組成物であることを要旨とする。
【0012】
請求項7の圧延装置は、請求項5又は6において、前記一対の圧延ロールのうちの少なくとも一方のロールに対するスクレーパを備えることを要旨とする。
【0013】
請求項8の圧延装置は、請求項5乃至7のうちのいずれかにおいて、前記一対の圧延ロールの各々のロール表面へ送風するエアブロー手段を備えることを要旨とする。
【0014】
請求項9の圧延装置は、請求項5乃至8のうちのいずれかにおいて、前記一対の圧延ロールを構成する各ロールの表面に凹凸加工が施されていることを要旨とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法によれば、熱可塑性樹脂組成物を製造する際の混合時の発熱が蓄熱されることを抑制して、得られる熱可塑性樹脂組成物の熱劣化を抑制することができる。混合して得られた被圧延物(熱可塑性樹脂組成物)が平板状の圧延物(熱可塑性樹脂組成物)へと圧延されて、混合時に発生した熱が圧延物から効率よく放散されて、熱可塑性樹脂組成物における蓄熱を抑制できる。このため、熱可塑性樹脂組成物の熱劣化が防止され、物性の低下が抑えられ、実用性の観点で好ましい成形体を製造できる。
【0016】
植物性材料が、ケナフ繊維である場合には、成長速度が極めて大きい一年草であり、優れた二酸化炭素吸収性を有するケナフを用いることにより、大気中の二酸化炭素量の削減、及び植物資源の有効利用等に貢献することができる。
【0017】
熱可塑性樹脂が、酸変性ポリプロピレン系樹脂を含む場合は、優れた機械的特性を有する成形体を得ることができる。
【0018】
熱可塑性樹脂が、酸変性ポリプロピレン系樹脂を熱可塑性樹脂全体100質量%に対して1〜30質量%含む場合は、酸変性樹脂を併用することによる作用効果が十分に奏され、特に高い流動性を有する熱可塑性樹脂組成物とすることができ、且つ優れた機械的特性を有する成形体とすることができる。
【0019】
本発明の圧延装置によれば、熱可塑性樹脂組成物を製造する際の混合時の発熱が蓄熱されることを抑制して、得られる熱可塑性樹脂組成物の熱劣化を抑制することができる。混合して得られた被圧延物(熱可塑性樹脂組成物)が平板状の圧延物(熱可塑性樹脂組成物)へと圧延されて、混合時に発生した熱が圧延物から効率よく放散されて、熱可塑性樹脂組成物における蓄熱を抑制できる。このため、熱可塑性樹脂組成物の熱劣化が防止され、物性の低下が抑えられ、実用性の観点で好ましい成形体を製造できる。
【0020】
被圧延物が、更に植物性材料を含有し、熱可塑性樹脂と植物性材料との合計を100質量%とした場合に、植物性材料は30〜95質量%である場合は、熱可塑性樹脂組成物を製造する際の混合時の発熱が蓄熱されることを抑制して、得られる熱可塑性樹脂組成物の熱劣化を抑制できるという本装置を用いることによる効果を特に顕著に享受できる。
【0021】
一対の圧延ロールのうちの少なくとも一方のロールに対するスクレーパを備える場合は、スクレーパを備えない場合に比べてより確実にロールへの被圧延物の付着を抑制して、より確実に圧延ロール間に被圧延物を押し込むことができる。
【0022】
一対の圧延ロールの各々のロール表面へ送風するエアブロー手段を備える場合は、エアブロー手段を備えない場合に比べてより確実にロールへの被圧延物の付着を抑制して、より確実に圧延ロール間に被圧延物を押し込むことができる。
【0023】
一対の圧延ロールを構成する各ロールの表面に凹凸加工が施されている場合は、各ロールの表面に凹凸加工が施されていない場合に比べてより確実にロールへの被圧延物の付着を抑制して、より確実に圧延ロール間に被圧延物を押し込むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】熱可塑性樹脂組成物の製造方法及び装置を説明する模式的な説明図である。
【図2】圧延装置を説明する模式的な説明図である。
【図3】混合装置を説明する模式的な説明図である。
【図4】混合装置に配設された混合羽根を説明する模式的な説明図である。
【図5】ペレット化装置の要部を説明する模式的な説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を図を参照しながら詳しく説明する。
[1]熱可塑性樹脂組成物の製造方法
熱可塑性樹脂及び植物性材料を含有し、熱可塑性樹脂と植物性材料との合計を100質量%とした場合に、植物性材料は30〜95質量%である熱可塑性樹脂組成物は、
熱可塑性樹脂と植物性材料とを混合して混合物とする混合工程と、圧延装置を用いて混合物を圧延する圧延工程と、を備え、
圧延装置は、一対の圧延ロールと、その上方に配置された押込手段とを備え、
圧延工程では、一対の圧延ロールの間に押込手段を用いて混合物を押し込み、混合物を平板状の圧延物にすることにより製造することができる。
【0026】
〈1〉熱可塑性樹脂組成物
本製造方法においていう熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と植物性材料との合計を100質量%とした場合に、植物性材料を30〜95質量%含有する組成物である。
【0027】
(1)熱可塑性樹脂
上記「熱可塑性樹脂」は、混合工程で植物性材料と混合される樹脂である。この熱可塑性樹脂は特に限定されず、各種の熱可塑性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン、ポリエステル樹脂、ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール及びABS樹脂等が挙げられる。また、熱可塑性樹脂としては、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン及びポリブチレンサクシネート等を用いることもできる。これらのうちでは、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等のポリオレフィンが好ましく、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、特にエチレン−プロピレンブロック共重合体がより好ましい。熱可塑性樹脂は2種以上を併用してもよいが、1種のみ用いられることが多い。
【0028】
また、特に熱可塑性樹脂としてポリオレフィンを用いる場合、酸変性ポリオレフィンを併用することが好ましい。酸変性ポリオレフィンを用いることにより、熱可塑性樹脂組成物を用いて成形した成形体の機械的特性をより向上させることができる。酸変性ポリオレフィンのベース樹脂としては、前述の各種のポリオレフィンを用いることができる。更に、熱可塑性樹脂組成物に含有される非変性ポリオレフィンと、酸変性に用いるベース樹脂とは同種の樹脂であることが好ましい。また、同種の樹脂である場合、各々の樹脂の平均分子量、密度等の差が小さいことがより好ましく、共重合体であるときは、各々の単量体単位の割合の差が小さいことがより好ましい。
【0029】
酸変性ポリオレフィンに酸基を導入する方法も特に限定されないが、通常、ポリオレフィンに酸基を有する化合物を反応させて導入する、所謂、グラフト重合により導入することができる。酸基を有する化合物も特に限定されず、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、アクリル酸及びメタクリル酸等が挙げられる。これらは1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうちでは、酸無水物が用いられることが多く、特に無水マレイン酸及び無水イタコン酸が多用される。
【0030】
酸変性ポリオレフィンにおける酸基の導入量は特に限定されないが、酸価が5以上となる導入量であることが好ましい。酸変性ポリオレフィンの酸価が5以上となる導入量であれば、酸変性ポリオレフィンを多量に配合することなく、成形体の機械的特性を十分に向上させることができる。この酸価は、10〜80、特に15〜70、更に20〜60であることがより好ましい。
尚、酸価はJIS K0070により測定することができる。
【0031】
更に、酸変性ポリオレフィンの平均分子量も特に限定されないが、重量平均分子量が10000〜200000であることが好ましい。即ち、比較的低分子量の酸変性ポリオレフィンであることが好ましい。このような酸変性ポリオレフィンを用いることにより、優れた機械的特性を有する成形体とすることができる。この重量平均分子量は、15000〜150000、特に25000〜120000、更に35000〜100000であることがより好ましい。
尚、重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィにより測定することができる。
【0032】
また、酸変性ポリオレフィンを併用する場合、熱可塑性樹脂全体を100質量%としたときに、酸変性ポリオレフィンは1〜30質量%であることが好ましく、1〜25質量%、特に1〜20質量%、更に1.5〜10質量%であることがより好ましい。酸変性ポリオレフィンの配合量が1〜30質量%であれば、射出成形等の成形時の熱可塑性樹脂組成物の流動性を飛躍的に向上させることができるとともに、成形体の機械的特性を向上させることができる。更に、熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂、例えば、ポリプロピレン及び/又はエチレン−プロピレン共重合体、特にエチレン−プロピレンブロック共重合体と、これらを酸変性した樹脂とを併用することがより好ましい。これによって、射出成形等の成形時の熱可塑性樹脂組成物の流動性、及び成形体の機械的特性を十分に向上させることができる。
【0033】
(2)植物性材料
上記「植物性材料」は、植物に由来する材料である。この植物性材料としては、ケナフ、ジュート麻、マニラ麻、サイザル麻、雁皮、三椏、楮、バナナ、パイナップル、ココヤシ、トウモロコシ、サトウキビ、バガス、ヤシ、パピルス、葦、エスパルト、サバイグラス、麦、稲、竹、針葉樹(杉、檜等)、広葉樹及び綿花などの各種の植物が有する材料が挙げられる。この植物性材料は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうちでは、成長が極めて早い一年草であり、優れた二酸化炭素吸収性を有し、大気中の二酸化炭素量の削減、森林資源の有効利用等に貢献することができるケナフが好ましく、更には、ケナフが有する繊維がより好ましい。また、植物のうちの用いる部位は特に限定されず、非木質部、木質部、葉部、茎部及び根部等の植物を構成するいずれの部位であってもよい。更に、特定部位のみを用いてもよいし、2箇所以上の異なる部位を併用してもよい。
【0034】
ケナフは木質茎を有する早育性の一年草であり、アオイ科に分類される植物である。このケナフとしては、学名におけるhibiscus cannabinus及びhibiscus sabdariffa等、並びに通称名における紅麻、キューバケナフ、洋麻、タイケナフ、メスタ、ビムリ、アンバリ麻及びボンベイ麻等が挙げられる。植物性材料としてケナフが有する繊維を用いる場合、強靱な繊維を有する靭皮と称される外層部分を用いることができる。
【0035】
植物性材料として植物性繊維を用いる場合、繊維長及び繊維径は特に限定されないが、繊維長(L)と繊維径(t)との比(L/t)が5〜20000であることが好ましい。また、植物性繊維の繊維長は、通常、10〜300mmであり、繊維径は、通常、10〜150μmである。この繊維長は、JIS L1015における直接法と同様にして1本の植物性材料を伸張させずに真っ直ぐに延ばし、置尺上で測定した値である。一方、繊維径は、繊維長を測定した植物性材料について、繊維の長さ方向の中央部における繊維径を光学顕微鏡を用いて測定した値である。
【0036】
更に、植物性繊維の平均繊維長及び平均繊維径も特に限定されないが、平均繊維長は100mm以下(通常、10mm以上)であることが好ましい。平均繊維長が100mm以下の植物性繊維を用いることにより、容易に熱可塑性樹脂と混合することができる。この平均繊維長は、JIS L1015に準拠する直接法により、単繊維を無作為に1本ずつ取り出し、伸張させずに真っ直ぐに延ばし、置尺上で繊維長を測定し、合計200本について測定した平均値である。また、平均繊維径は100μm以下(通常、15μm以上)であることが好ましい。この平均繊維径は、無作為に単繊維を1本ずつ取り出し、繊維の長さ方向の中央部における繊維径を光学顕微鏡を用いて実測し、合計200本について測定した平均値である。
尚、この原料繊維として用いられる植物性繊維は、通常、裁断して用いられる。
【0037】
また、植物性材料は、何ら加工することなく熱可塑性樹脂と混合してもよく、裁断し、又は粉砕して所定の大きさの植物性材料として熱可塑性樹脂と混合してもよい。更に、植物性材料は、ペレット化装置(例えば、熱可塑性樹脂組成物のペレット化に用いる装置の要部を記載した図5参照)により所定の形状及び寸法を有する繊維ペレットとし、この繊維ペレットを熱可塑性樹脂と混合してもよい。
【0038】
熱可塑性樹脂組成物には、熱可塑性樹脂及び植物性材料を除く他の成分を含有させることができる。この他の成分は特に限定されないが、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、抗菌剤、着色剤等の各種の添加剤が挙げられる。これらの添加剤は各々1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの他の成分を配合する工程は特に限定されないが、通常、混合工程において配合し、含有させる。
【0039】
〈2〉本製造方法における各工程
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、混合装置1{図3(断面図)及び図4(側面図)参照}により熱可塑性樹脂と植物性材料とを混練し、混合する混合工程と、圧延装置30(図1及び図2参照)により混合物(熱可塑性樹脂と植物性材料との混合物であって、被圧延物である)を平板状に圧延する圧延工程と、を備える。
【0040】
(1)混合工程
上記「混合工程」は、熱可塑性樹脂と植物性材料とを混合する工程である。
この混合工程では、押出タイプの混練機、押出タイプの混合機を除いた混合装置が用いられる。この混合装置は特に限定されないが、熱可塑性樹脂に多量の植物性材料を混合させることができればよく、例えば、図3及び図4に記載された混合装置を用いることができる。この特定の混合装置を用いた場合、より高い流動性を有する熱可塑性樹脂組成物をより容易に製造することができる。
【0041】
この混合装置[以下、図3(図3は、特許庁の特許電子図書館から取得した国際公開04/076044号パンフレットの図1を引用)及び図4(図4は、特許庁の特許電子図書館から取得した国際公開04/076044号パンフレットの図2を引用)参照]としては、国際公開04/076044号パンフレットに記載の混合装置1が好ましい。即ち、混合装置1は、材料供給室13と、材料供給室13に連設された混合室3と、材料供給室13と混合室3とを貫通して回転自在に設けられた回転軸5と、材料供給室13内の回転軸5に配設され、且つ材料供給室13に供給された熱可塑性樹脂と植物性材料との混合材料を混合室3へ搬送するためのスクリュー羽根12と、混合室3内の回転軸5に配設され、且つ混合材料を混合する混合羽根10a〜10fと、を備えることが好ましい。
【0042】
混合装置1を使用し、熱可塑性樹脂と植物性材料とを材料供給室13に投入し、スクリュー羽根12により混合室3へ搬送し、混合羽根10a〜10fを回転させることで、熱可塑性樹脂及び植物性材料がともに、混合室3の内壁へ向かって押し付けられ、内壁を打撃し、且つ混合羽根10a〜10fの回転方向に押し進められ、材料同士の衝突により発生する熱により短時間で熱可塑性樹脂が軟化し、溶融して、植物性材料と混練され、混合される。このようにして製造される混合物(熱可塑性樹脂組成物)には、例えば、射出成形が可能な優れた流動性が付与される。
【0043】
混合羽根10a〜10fは、回転軸5の周方向に一定の角度で間隔をおいた位置において軸方向に対向するとともに、回転方向において互いの対向間隔が狭くなるような取付角で回転軸5に配設され、少なくとも2枚の混合羽根(10a〜10f)によって構成される。混合羽根10a〜10fの回転軸5に対する取付角は、回転軸5に取り付けられる混合羽根10a〜10fの根元部から径方向外方の先端部まで同一であることが好ましい。また、混合羽根10a〜10fの平面形状は矩形であることが好ましい。更に、混合室3は、その構成壁に冷却媒体を循環させることができる混合室冷却手段を備えることがより好ましい。このような構成とすることにより、混合室内が過度に昇温することを抑えることができ、熱可塑性樹脂の熱劣化を防止、又は少なくとも抑えることができる。
【0044】
混合工程における各種条件は特に限定されないが、例えば、混合時の温度は、混合室の外壁面の温度を200℃以下、特に150℃以下、更に120℃以下に制御することが好ましく、且つ50℃以上、特に60℃以上、更に80℃以上に制御することがより好ましい。また、この温度に到達させる時間は、10分以内、特に5分以内であることが好ましい。短時間で所定温度に到達させることで、急激に水分を蒸散させるとともに、混合することができ、熱可塑性樹脂の劣化をより効果的に抑えることができる。更に、前述の温度範囲を維持する時間も、15分以内、特に10分以内とすることが好ましい。また、この温度は、混合装置の混合羽根の回転速度により制御することが好ましい。より具体的には、混合羽根の先端の周速度を5〜50m/秒となるように制御することが好ましい。この範囲の周速度に制御することにより、効率よく熱可塑性樹脂を軟化させ、溶融させつつ、植物性材料とより均一に混合することができる。
【0045】
更に、この混合の終点は特に限定されないが、回転軸に負荷されるトルクの変化により決定することができる。即ち、回転軸に負荷されるトルクを測定し、そのトルクが最大値となった後に混合を停止することが好ましい。これにより、熱可塑性樹脂と植物性材料とを相互に十分に分散させることができる。また、トルクが最大値となった後、低下し始めてから混合を停止させることがより好ましい。更に、最大トルクに対して40%以上、特に50〜80%のトルク範囲となった時点で混合を停止することが特に好ましい。これにより、熱可塑性樹脂と植物性材料とを相互により十分に分散させることができるとともに、混合室内から混合物(熱可塑性樹脂組成物)を160℃以上の温度で取り出すことができ、混合室内に熱可塑性樹脂組成物が付着して残存されることをより確実に防止することができる。
【0046】
また、熱可塑性樹脂組成物に含有される上記「植物性材料」(熱可塑性樹脂と混練、混合される原料繊維として用いられる植物性材料とは異なった形態の繊維になる。また、粉砕工程及びペレット化工程を備える場合は、これらの工程において更に異なった形態の繊維になる。)の含有量は、熱可塑性樹脂と植物性材料との合計を100質量%とした場合に、30〜95質量%である。この含有量は、通常、熱可塑性樹脂組成物の製造時に熱可塑性樹脂に配合する植物性材料の配合量と同量である。即ち、熱可塑性樹脂及び植物性材料の各々の配合量の合計を100質量%としたときに、植物性材料の配合量は30〜95質量%である。この植物性材料の含有量(配合量)は33〜75質量%であることが好ましく、35〜55質量%であることがより好ましい。植物性材料の含有量(配合量)が30〜95質量%であれば、優れた曲げ弾性率等を有し、実用性の観点で好ましい成形体とすることができる。
【0047】
(2)圧延工程
上記「圧延工程」は、混合工程において得られた混合物C(圧延工程では、特に「混合物」のことを「被圧延物」ともいう)を、圧延装置30を用いて圧延する工程である。この圧延装置30は、一対の圧延ロール320と、その上方に配置された押込手段310とを備えている。そして、この圧延工程は、一対の圧延ロール320の間に押込手段310を用いて被圧延物Cを押し込み、被圧延物Cを平板状の圧延物C1にする工程である。
尚、この工程で用いる圧延装置30については、後述する。
【0048】
圧延物C1の厚さは特に限定されず、混合装置から排出される、通常、220〜240℃と高温の被圧延物Cが圧延されてなる圧延物C1の放熱、冷却が十分になされればよい。また、一般的な粉砕装置により効率よく粉砕することができる厚さであればよい。この厚さは、例えば、1〜10mm、特に2〜8mmとすることができる。この場合、圧延ロール320間(ロール321とロール322との間)のクリアランス(隙間323)は1〜10mm、特に2〜8mmとすることができ、通常、圧延物C1の厚さは、圧延ロール320間のクリアランスと略同じである。
【0049】
(3)他の工程
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、混合工程及び圧延工程以外に、他の工程を備えることができる。例えば、圧延工程により得られた圧延物C1は、そのまま成形体等を成形するための原料として用いてもよいが、更に粉砕した粉砕物として利用したり、或いは、粉砕物をペレット化したりして利用できる。従って、例えば、他の工程としては、圧延工程で得られた圧延物を粉砕して粉砕物とする粉砕工程が挙げられる。更に、得られた粉砕物をペレット化するペレット化工程(粉砕物ペレット化工程)が挙げられる。
またその他、混合工程を行う前に植物性材料の予めペレット化するペレット化工程(植物性材料ペレット化工程)等も挙げられる。
【0050】
(4)粉砕工程
この粉砕工程を備える場合、粉砕装置は特に限定されず、圧延物C1を効率よく粉砕することができればよい。例えば、株式会社ホーライ製のZシリーズの粉砕機等を用いることができる。また、粉砕物の粒子の形状及び粒径も特に限定されず、整粒等の操作は特に必要とすることなく、成形体の原料として用いることができる。粒径(最大寸法)は1〜10mm、特に3〜8mmであることが好ましく、粒径が1〜10mmであれば、取り扱い易く、射出成形機等の成形機への供給も容易である。
【0051】
(5)粉砕物ペレット化工程
粉砕工程により得られた粉砕物は、そのまま成形体の原料として使用することができるが、ペレット化して用いることが好ましい。粉砕物をペレット化することにより射出形成等の成形がより容易になるからである。即ち、粉砕工程の後に、粉砕物ペレット化工程を備えることができる。このペレット化の方法は特に限定されないが、例えば、図1に例示されるように粉砕装置50とペレット化装置90とを並列に配置し、粉砕と連続してペレット化することができる。また、ペレット化は粉砕物を再加熱せずに実施することもでき、粉砕装置から排出される粉砕物を押出機等により溶融混練し押し出してペレット化することもできる。
【0052】
これらのうちでは、粉砕物は加熱せず、押し固めてペレット化することが好ましい。このように、加熱せず、押し固めてペレット化することにより、粉砕物を押出機等を用いてペレット化するときに比べて、熱可塑性樹脂組成物への熱履歴を低減でき、この熱可塑性樹脂組成物を用いて成形される成形体の機械的特性をより向上させることができる。
【0053】
加熱せず押し固めてペレット化する工程では、どのような装置及び手段を用いてもよいが、各種圧縮成形法によるペレット化であることが特に好ましい。この圧縮成形法としては、例えば、ローラー式成形法及びエクストルーダ式成形法等が挙げられる。これらのうち、ローラー式成形法は、ローラー式成形機を用いる方法であり、ダイに接して回転するローラーにより粉砕物がダイ内に圧入され、その後、ダイから押し出されてペレット化される。ローラー式成形機とてしは、ディスクダイ式(ローラーディスクダイ式成形機)とリングダイ式(ローラーリングダイ式成形機)が挙げられ、これらはダイの形状が異なる。一方、エクストルーダ式成形法は、エクストルーダ式成形機を用いる方法であり、スクリューオーガの回転により粉砕物がダイ内に圧入され、その後、ダイから押し出されてペレット化される。これらの圧縮成形法のうちでは、圧縮効率が高いローラーディスクダイ式成形機を用いた方法がより好ましい。
【0054】
更に、本方法では下記の特定のローラーディスクダイ式成形機90{要部を記載した図5(斜視図)参照}を用いてペレット化することが特に好ましい。即ち、複数の貫通孔911が穿設されたディスクダイ91と、ディスクダイ91上で転動し、貫通孔911内に粉砕物を押し込むプレスローラ92と、プレスローラ92を駆動する主回転軸93とを備えるローラーディスクダイ式成形機を用いることが特に好ましい。この成形機では、ディスクダイ91は、貫通孔911と同方向に貫通する主回転軸挿通孔912を有し、主回転軸93は、主回転軸挿通孔912に挿通され、且つ主回転軸93に垂直に設けられたプレスローラ固定軸94を有する。また、プレスローラ92は、プレスローラ固定軸94に回転可能に軸支され、主回転軸93の回転に伴ってディスクダイ91上を転動する。
このローラーディスクダイ式成形機90では、上記の構成に加え、プレスローラ92の表面に凹凸921が設けられていることがより好ましい。また、主回転軸93の回転に伴って回転される切断用ブレード95を備えていることがより好ましい。
【0055】
ローラーディスクダイ式成形機90では、例えば、図5において、主回転軸93の上方から投入された粉砕物をプレスローラ92が備える凹凸921が捉えて貫通孔911内に押し込み、ディスクダイ91の裏面側から紐状になって押し出される。この紐状となった粉砕物は、回転する切断用ブレード95により適宜の長さに切断されてペレット化され、下方に落下して回収される。また、ペレット化された熱可塑性樹脂組成物の形状及び寸法は特に限定されないが、円柱状等の柱状形状であることが好ましい。更に、その最大寸法は1mm以上(通常、20mm以下)であることが好ましく、1〜10mm、特に2〜7mmであることがより好ましい。
【0056】
(6)植物性材料ペレット化工程
また、混合工程で用いる植物性材料は、混合工程で用いる前に予めペレット化して用いることができる。即ち、混合工程前に、植物性材料ペレット化工程を備えることができる。植物性材料をペレット化する場合、ペレット化装置は特に限定されないが、上記(5)の粉砕物ペレット化工程と同様にローラーディスクダイ式成形機を用いることができる。このように植物性材料をペレット化することで、植物性材料と熱可塑性樹脂との嵩密度の差を小さくすることができ、作業性が向上し、混合の際の各々の材料の偏在を抑えることもできる。また、植物性材料と熱可塑性樹脂とが相互により均一に分散した熱可塑性樹脂組成物とすることができ、この組成物を用いてなる成形体の機械的強度をより向上させることができる。
【0057】
(7)混合工程からペレット化工程までの連続工程
混合工程と圧延工程とは、図1に例示されるように、混合装置1と圧延装置30とを並列に配置し、連続的に混合し、圧延する工程とすることが好ましい。即ち、混合装置1から排出される混合物C(被圧延物)を、シュート309を用いて圧延装置30に投入できる。更に、圧延装置30では、具備された押込手段310によって被圧延物Cを、その下方に配置された圧延ロール320の間に向けて押し込み、圧延ロール320間で圧延して所定厚さの平板状の圧延物C1とすることが好ましい。
【0058】
更に、前述のような粉砕工程及び粉砕物ペレット化工程を備える場合には、これらの工程も、圧延工程に引き続いて連続されていることが好ましい。例えば、圧延装置30から排出された圧延物C1は、粉砕可能である程度[例えば、100℃以下、室温(20〜30℃)にまで降温していても特に問題はない。]に降温しておれば、そのまま直接粉砕装置50に投入してもよい。また、圧延物C1がより高温(例えば、110〜150℃、特に120〜130℃)である場合は、図1に例示されるように、圧延物C1をベルトコンベア40により搬送しながら放熱させた後、粉砕装置50に投入してもよい。
【0059】
ベルトコンベア40の材質(ベルト材質)は特に限定されず、ゴム製、金属製等のいずれでもよいが、金属製であり、且つメッシュ状のベルトであれば、圧延物C1の冷却をより促進できる。更に、ベルトコンベア40の長さも特に限定されず、1〜5m、特に2〜4mとすることができる。また、ベルトコンベア40の搬送速度も特に限定されず、このベルトコンベア40の搬送速度は、圧延物C1がベルトコンベア40上に存在する時間(放熱時間)が10〜80秒、特に20〜60秒程度となるものであることが好ましい。
【0060】
更に、前述のように、粉砕物をペレット化する場合、粉砕装置50とペレット化装置90とを並列に配置し、粉砕装置50により粉砕された粉砕物を、搬送用ダクトホース60内を搬送させてサイクロン70内に投入して粉塵を集塵し、その後、ロータリーバルブ80でエアーカットしてペレット化装置90に投入し、ペレット化することが好ましい。
【0061】
[3]成形体の製造方法
本発明の方法により製造された熱可塑性樹脂組成物(好ましくは圧延後、粉砕された粉砕物、又は粉砕物がペレット化されてなるペレット)は、射出成形、押出成形、圧縮成形等の各種の成形方法により、成形体とすることができる。この熱可塑性樹脂組成物は、多量の植物性材料を含有しているにもかかわらず、優れた流動性を有するため、特に高い流動性を要する射出成形に用いることが好適である。この射出成形時、熱可塑性樹脂組成物がペレット化されておれば、計量時間及び射出時間等を短縮することができ、その結果、成形サイクルが短縮されて成形効率を向上させることができる。また、射出成形等の各種の成形に用いる装置及び成形条件等は特に限定されず、熱可塑性樹脂の種類、及び成形体の形状、用途等により適宜選択し、設定すればよい。
【0062】
成形体の形状及び寸法等は特に限定されず、その用途も特に限定されない。この成形体としては、例えば、自動車、鉄道車両、船舶及び飛行機等の内装材、外装材及び構造材等が挙げられる。これらのうち、自動車用途としては、内装材、インストルメントパネル、外装材等が挙げられ、具体的には、ドア基材、パッケージトレー、ピラーガーニッシュ、スイッチベース、クオーターパネル、アームレストの芯材、ドアトリム、シート構造材、シートバックボード、天井材、コンソールボックス、ダッシュボード、インストルメントパネル、デッキトリム、バンパ、スポイラ及びカウリング等が挙げられる。更に、前述の自動車等を除く他の用途としては、例えば、建築物及び家具等の内装材、外装材及び構造材等が挙げられる。例えば、建築物のドア表装材、ドア構造材、机、椅子、棚、箪笥等の各種家具の表装材、構造材等が挙げられる。更に他の例として、包装体、トレイ等の収容体、保護用部材及びパーティション部材等が挙げられる。
【0063】
[4]圧延装置
本発明の圧延装置30は、一対の圧延ロール320(ロール321及びロール322)と、一対の圧延ロール320の間に熱可塑性樹脂を含む被圧延物C(混合物C)を押し込む押込手段310と、を備え、押込手段310により一対の圧延ロール320間に被圧延物Cを押し込みつつ、圧延して被圧延物Cを平板状の圧延物C1にする圧延装置30であって、
押込手段310は、被圧延物Cを押圧するためのプッシャー311を備え、
プッシャー311は、一対の圧延ロール320間の隙間323に接近した近接位置と、近接位置よりも隙間323から遠ざかった遠隔位置との間で移動可能とされている(図1及び図2参照)。
【0064】
このように、押込手段310がプッシャー311を備えることで、押込手段310を備えない場合に比べて、一対の圧延ロール320の隙間323に被圧延物Cをより確実に押し込むこととともに圧延物C1をより確実に形成することができる。より詳しく説明すれば、押込手段310を備えない場合には、例えば、図1及び図2において、シュート309から圧延装置30内に投入された被圧延物Cは、シュート309から遠い側のロール322の表面に張り付いて圧延され、ロール322の表面に押し伸ばしたような状態で圧延されてしまう場合がある。しかし、押込手段310を備えることで、この偏りを防止して、被圧延物Cを隙間323にバランス良く押し込むことができ、一方のロールに張り付いたまま圧延されてしまうことを防止できる。
【0065】
押込手段310は、どのような形態によって、近接位置と遠隔位置と間が移動可能とされてもよい。例えば、図1及び図2に例示されるように、シリンダー313内で、ロッド312が移動されることにともない、このロッド312の一端に連結されたプッシャー311の近接位置と遠隔位置と間での移動を可能とすることができる。ロッド312の駆動方法は特に限定されず、油圧式シリンダーや、エア式シリンダー等を用いることができる。
【0066】
また、プッシャー311は、被圧延物Cを押圧するための押圧ヘッドである。このプッシャー311の形状は特に限定されないが、近接位置において圧延ロール320との間のクリアランスを小さくするため、被圧延物Cと接触する側の形状が、圧延ロール320の表面形状に追従した対応形状であることが好ましい。具体的には、図2に例示されるように、ロール321の表面形状に対応した切欠部311a及びロール322の表面形状に対応した切欠部311bを有することが好ましい。これにより、隙間323へ被圧延物Cを押し込むという作用をより効果的に発揮でき、その結果、一対の圧延ロール320の表面への被圧延物Cの張り付きをより効果的に抑制できる。
【0067】
更に、圧延ロール320(ロール321及びロール322)は、樹脂素材の圧延に利用できる公知のロールを適宜適用することができる。圧延ロール320のロール間のクリアランス(隙間323)は、圧延物C1の厚さと、熱可塑性樹脂の種類及び被圧延物Cの温度等とを勘案し、設定することが好ましい。即ち、前述のように、隙間323は、1〜10mm、特に2〜8mmとすることができる。
【0068】
また、一対の圧延ロール320の各々ロールの径及び回転速度は特に限定されない。例えば、圧延ロール320からの圧延物C1の送出速度が0.2〜5m/分、特に0.5〜3m/分、更に0.7〜2m/分になるような径及び回転速度とすることができる。例えば、圧延ロール320の径は30〜500mm、特に50〜350mm、回転速度(周速度)は0.2〜10m/分、特に0.5〜6m/分とすることができる。
【0069】
更に、圧延装置30は、一対の圧延ロール320(ロール321及びロール322)のうちの少なくとも一方のロール321に対するスクレーパ330を備えることが好ましい。特に本装置30では、図2に例示されるように、シュート309が備えられた側と同じ側、即ち、図2におけるロール321に対するスクレーパを備えることが好ましい。図2に示すようなプッシャー311を備える装置30においては、シュート309と同じ側に配置されたロール321の表面に被圧延物Cが張り付き易い傾向にあるためである。その理由は定かではないが、シュート309に近接するロール321上に混合装置1から排出された被圧延物Cが直接載置され、被圧延物Cがロール321に付着され圧延ロール320で圧延された際にさらにロール321側へ押し付けられるため被圧延物Cがロール321に巻き付き易くなる(張り付き易くなる)ためと考えられる。
【0070】
このため、スクレーパ330を備えることで、上記張り付きを防止して、圧延物C1を下方へより確実に排出させることができる。このスクレーパ330は、通常、対応したロール321の表面に略平行に配置される。更に、対応したロール321の表面に対して所定のクリアランスを維持して配置される。
また、スクレーパ330の配設位置は特に限定されないが、圧延物C1を下方へ排出する目的において、図2に例示されるように、対応したロール321の下側に配置されることが好ましい。更に、スクレーパ330と対応したロール321表面とのクリアランスは特に限定されないが、0.1〜1mmとすることが好ましく、0.3〜0.8mmとすることが好ましい。
【0071】
また、圧延ロール320は、ロール内部からロールを冷却する冷却手段を有していることが好ましい。このような冷却手段を有することで、被圧延物Cのロール表面への張り付きをより効果的に防止できる。ロール内部から冷却できる冷却手段としては、ロール内に冷媒流路を設けるとともに、ロール内部で冷媒を流通させることができる手段が好ましい。即ち、例えば、気体冷媒(空気など)をロール内部に流通させる空冷、及び、液体冷媒(水など)をロール内部に流通させる水冷等の各種冷却手段を付与できる。この際に用いる冷媒の温度は特に限定されないが、過度に低温にする必要はなく、0〜50℃、特に10〜30℃とすることができる。
【0072】
更に、本装置30は、一対の圧延ロール320(ロール321及びロール322)の各々のロール表面へ送風するエアブロー手段340を備えることができる。エアブロー手段340を備えることで、ロール(ロール321及びロール322)を外部から冷却することができ、被圧延物Cのロール表面への張り付きをより効果的に防止できる。
このエアブロー手段340は、一対の圧延ロール320の表面に向かって気体(冷媒)を吐出する吐出ノズル部341と、気体供給源(コンプレッサー及びガスボンベなどの供給源、図示せず)から吐出ノズル部341まで気体を送る流通部342とを備えてなることができる。
【0073】
また、吐出ノズル部341は、いずれか一方の圧延ロール(ロール321又はロール322)に対してのみ配置されてもよいが、一対の圧延ロール320の両方に対して設けることが好ましい。また、ロール(ロール321及びロール322)に対して1つの吐出ノズル部341を備えてもよいが、通常、ロールは軸方向に長さを有するため、ロールの長手方向に複数の吐出ノズル部341を並列して備えることが好ましい。これによりロール320の表面の冷却効率をより向上させることができる。
更に、ロールに対する送風角度は特に限定されないが、例えば、ロール表面に対して接線方向へ気体を吐出するように吐出ノズル部341を配置することができる。
【0074】
更に、一対の圧延ロール320(ロール321及びロール322)を構成する各ロールの表面には、凹凸加工が施されていることが好ましい。即ち、一対の圧延ロール320の各ロール321及びロール322の表面が凹凸形状であることが好ましい。この凹凸加工の種類は特に限定されず、例えば、エンボス加工及びローレット加工等が挙げられる。
即ち、上記凹凸形状は、凹凸であればどのような形状であってもよい。例えば、ドットパターンの凹凸形状でもよく、ラインパターンの凹凸形状でもよい。ドットパターンの凹凸形状である場合、その凸部の横断面の形状は特に限定されず、円形、楕円形、三角形及び四角形等の多角形などのいずれであってもよい。また、ラインパターンの凹凸形状である場合、そのパターンはロールの回転方向に対して平行なパターンであってもよく、回転方向に対して斜めのパターンでもよい。
また、凹凸形状における凹部と凸部との高低差(凸部の頂端から凹部の底端までの高さ)は特に限定されないが、通常、0.1〜1.0mmである。この範囲では、より効果的に被圧延物Cがロールへ張り付くことを防止できる。この高低差は0.2〜0.8mmが好ましく、0.3〜0.7mmがより好ましい。
【0075】
本発明の圧延装置30は、熱可塑性樹脂を含む被圧延物の圧延に広く利用できるが、なかでも、本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法の圧延工程において特に有用に用いることができる。即ち、本発明の装置30に適する被圧延物Cは、熱可塑性樹脂と植物性材料とを含有し、熱可塑性樹脂と植物性材料との合計を100質量%とした場合に、植物性材料は30〜95質量%である熱可塑性樹脂組成物が好適である。
【実施例】
【0076】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
[1]熱可塑性樹脂組成物の製造
実施例1
〈1〉混合工程
ケナフ繊維(平均繊維長1.6mm)240gと、ポリプロピレン(サンアロマー株式会社製、商品名「VM970X」)385gと、酸変性ポリプロピレン(三菱化学株式会社製、商品名「モディックP908」)15gと、を図3の混合装置1(WO2004−076044号に記載された装置)の材料供給室13に投入し、その後、容量5リットルの混合室3に移送し、混合羽根(図4の10a〜10f)を、32kwモーターに対して指令周波数40Hzにて駆動させて混合した。尚、この配合は、原料全量に対してケナフ繊維が37.5質量%の質量割合である。
その後、混合羽根にかかる負荷(トルク)が上昇し、150%に相当する負荷に達した時点から4秒経過後を終点として混合を停止し、混合物Cを混合装置1から排出した。得られた塊状物は、最大寸法10〜20cmの塊状であり、デジタル温度計(CUSTOM社製、品名「CT−1310D型」)によって測定された塊状物の内部の温度は220〜240℃であった。
【0077】
〈2〉圧延工程
上記〈1〉で得られた塊状物(混合物C且つ被圧延物C)は、混合装置1から排出されるとシュート309を通り、圧延装置30内に投入される。この圧延装置30は、図1及び図2に示されるように、ロール321及びロール322からなる一対の圧延ロール320と、この一対の圧延ロール320の間に被圧延物Cを押し込む押込手段310と、を備えている。
【0078】
このうち、一対の圧延ロール320は、各ロールの直径が86mmであり且つ各その長さが240mmであるとともに、両ロール間は6mmの隙間323を介して平行に配置されている。そして、一対の圧延ロール320は、上方から投入された被圧延物Cを圧延して、圧延物C1として下方へ排出できるように略水平(圧延装置30の設置面に対して略水平)に配置されている。
【0079】
更に、押込手段310は、被圧延物Cを押圧する押圧ヘッドとして、直径32mmのプッシャー311を備え、一対の圧延ロール320の隙間323に近接した近接位置と、近接位置よりも隙間323から遠ざかった遠隔位置との間で移動可能とされている。具体的には、一対の圧延ロール320の上方において、ロッド312の下端に配設されたプッシャー311は、空気圧の増減により、シリンダー313内を上下移動が可能に配置されている。そして、プッシャー311は、近接位置において、その先端側が一対の圧延ロール320に最も近接されるように配置されている。また、この押込手段310は
プッシャー311は、図2に示すように、ロール321の表面形状に対応した切欠部311a及びロール322の表面形状に対応した切欠部311bを有し、近接位置において一対の圧延ロール320との間のクリアランスを10〜30mmとすることができる。
【0080】
また、ロール321及びロール322の表面には、高低差が約0.5mm且つアヤ目形状のパターンをなすローレット加工(凹凸加工)が施されている。これにより、被圧延物Cのロールへの張り付きを抑制している。
更に、ロール321及びロール322の両ロール内に冷媒流路が備えられ、温度20℃の水が流通されて、図示されないロール内水冷手段を備えている。これにより、被圧延物Cのロールへの張り付きを抑制している。
加えて、ロール321及びロール322の両ロール表面を風冷するエアブロー手段340を備えている。エアブロー手段340は、ロール321及びロール322の両ロール表面に向かって空気を吐出する吐出ノズル部341と、図示されないコンプレッサーから吐出ノズル部341まで圧縮空気を送る流通部342とを備える。各ロールに対応した吐出ノズル部341は、各ロールの長手方向に4つが並列されており、合計8つの吐出ノズル部341を備えている。これにより、被圧延物Cのロールへの張り付きを抑制している。
【0081】
更に、図2に示されるように、シュート309が備えられた側と同じ側のロール、即ち、図2におけるロール321、の下方にロール321に対して機能するスクレーパ330を備える。ロール321とスクレーパ330とのクリアランスは0.5mmに維持されている。これにより、シュート309と同じ側に配置されたロール321の表面への被圧延物Cの張り付きを防止して、圧延物C1を確実に下方へ排出させている。
【0082】
前述のように、上記〈1〉で得られた塊状物(混合物C且つ被圧延物C)は、混合装置1から排出されて、上記構成の圧延装置30内に投入される。圧延装置30内に投入されると、一対の圧延ロール320上に落下され、その落下に合わせて、プッシャー311が空気圧力0.3MPaで下降され、被圧延物Cをロール321とロール322との間の隙間323へと押し込む。
【0083】
更に、プッシャー311が被圧延物Cを隙間323へ押し込みむのにともない、1分間に9回転(9rpm)の速度で回転されているロール321及びロール322の間で、塊状をなした被圧延物Cは厚さ約6mmの圧延物C1(質量約500〜600g)へと圧延されて、一対の圧延ロール320から落下し、その下方へ投下される。
【0084】
上記下方に落下された圧延物C1は、図1に示すように、1分間に1.5mの速度で移動される長さ2.5mのベルトコンベア40上に落下される。そして、このベルトコンベア40上において、粉砕装置50に投入されるまでの間、放熱され、圧延物C1の温度は120〜140℃となる。
【0085】
〈3〉粉砕工程
上記〈2〉において、ベルトコンベア40で搬送された圧延物C1は、粉砕装置50(TRIA社製、型式「42−20JM」)に投入される。この粉砕装置50内では、圧延物C1が粉砕されて、目開き5mmのスクリーンを通過されて、粉砕物となる。
その後、粉砕物は、搬送用ダクトホース60内を搬送されて、ジェットローダー(松井製作所製、型式「JL4−VC」)によりサイクロン70内に吸引され、エア分離されて、ロータリーバルブ80にて、ローラーディスクダイ式ペレット化装置90に投入される。
【0086】
〈4〉粉砕物ペレット化工程
上記〈3〉で粉砕された粉砕物は、ローラーディスクダイ式ペレット化装置90(菊川鉄工所製、形式「KP280」、貫通孔径3.2mm、厚さ30mmのダイを使用)に投入されて、ローラーディスクダイ式ペレット化装置90において、直径約3mm、且つ長さ約5mmの円柱状のペレットに成形される。
その後、ペレットをオーブンにて110℃で5時間乾燥させて、本発明の熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
【0087】
〈5〉成形工程
上記〈4〉までに得られたペレットを、射出成形機(住友重機械工業社製、形式「SE100DU」)により、シリンダー温度190℃、型温度40℃の条件で射出成形し、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの試験片を作製し、次いで、ISO178に準拠して曲げ試験を実施し、曲げ強さ及び曲げ弾性率を算出した。また、バーフロー金型を用いて同様にして射出成形し、流動長を評価した。その結果、曲げ強度は61MPa、曲げ弾性率は3700MPa、バーフロー長は360mmであった。このように、実施例の熱可塑性樹脂組成物は、十分な曲げ特性を有し、且つバーフロー長を指標とする流動性も優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の熱可塑性組成物の製造方法は、自動車関連分野及び建築関連分野等の広範な用途おいて利用することができ、自動車、鉄道車両、船舶及び飛行機等の内装材、外装材及び構造材等の技術分野でより有用であり、特に、自動車用内装材、自動車用インストルメントパネル、自動車用外装材等の自動車関連の製品分野で好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0089】
1;混合装置、3;混合室、5;回転軸、10及び10a〜10f;混合羽根、12;らせん状羽根、13;材料供給室、
30;圧延装置、309;シュート、310;押圧手段、311;プッシャー、311a及び311b;切欠部、312;ロッド、313;シリンダー、320;一対の圧延ロール、321及び322;ロール、323;隙間、330;スクレーパ、340;エアブロー手段、341;吐出ノズル部、342;流通部、
40;搬送用コンベア、
50;粉砕装置、
60;搬送用ダクトホース、
70;サイクロン、
80;ロータリーバルブ、
90;ローラーディスクダイ式成形機、91;ディスクダイ、911;貫通孔、912;主回転軸挿通孔、92;プレスローラ、921;凹凸部、93;主回転軸、94;プレスローラ固定軸、95;切断用ブレード。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂及び植物性材料を含有し、前記熱可塑性樹脂と前記植物性材料との合計を100質量%とした場合に、前記植物性材料は30〜95質量%である熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、
熱可塑性樹脂と植物性材料とを混合して混合物とする混合工程と、圧延装置を用いて前記混合物を圧延する圧延工程と、を備え、
前記圧延装置は、一対の圧延ロールと、その上方に配置された押込手段とを備え、
前記圧延工程では、前記一対の圧延ロールの間に前記押込手段を用いて前記混合物を押し込み、前記混合物を平板状の圧延物にすることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記植物性材料は、ケナフ繊維である請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂は、酸変性ポリプロピレン系樹脂を含む請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂は、前記酸変性ポリプロピレン系樹脂を、前記熱可塑性樹脂全体100質量%に対して1〜30質量%含む請求項3に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
一対の圧延ロールと、
前記一対の圧延ロールの間に熱可塑性樹脂を含む被圧延物を押し込む押込手段と、を備え、
前記押込手段により前記一対の圧延ロール間に前記被圧延物を押し込みつつ、圧延して前記被圧延物を平板状の圧延物にする圧延装置であって、
前記押込手段は、前記被圧延物を押圧するためのプッシャーを備え、
前記プッシャーは、前記一対の圧延ロール間の隙間に接近した近接位置と、前記近接位置よりも前記隙間から遠ざかった遠隔位置との間で移動可能とされていることを特徴とする圧延装置。
【請求項6】
前記被圧延物は、更に植物性材料を含有し、前記熱可塑性樹脂と前記植物性材料との合計を100質量%とした場合に、前記植物性材料は30〜95質量%である熱可塑性樹脂組成物である請求項5に記載の圧延装置。
【請求項7】
前記一対の圧延ロールのうちの少なくとも一方のロールに対するスクレーパを備える請求項5又は6に記載の圧延装置。
【請求項8】
前記一対の圧延ロールの各々のロール表面へ送風するエアブロー手段を備える請求項5乃至7のうちのいずれかに記載の圧延装置。
【請求項9】
前記一対の圧延ロールを構成する各ロールの表面に凹凸加工が施されている請求項5乃至8のうちのいずれかに記載の圧延装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−97210(P2012−97210A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246766(P2010−246766)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】