説明

熱硬化性樹脂組成物、熱硬化性接着シート及び熱硬化性接着シートの製造方法

【課題】 加熱プレス時に回路と接着シート接合面と間の気泡を短時間で抜くことができる熱硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 熱硬化性樹脂組成物は、150〜180℃での加熱プレス時における引張弾性率が10〜10Paであることを特徴とする。また、熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ基含有ビニルモノマーを含むアクリル共重合体と、エポキシ樹脂と、該エポキシ樹脂用の硬化剤とを含有し、硬化剤として有機酸ジヒドラジドを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル共重合体とエポキシ樹脂とエポキシ樹脂用の硬化剤とを含有する熱硬化性樹脂組成物、熱硬化性接着シート及び熱硬化性接着シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
良好なリフロー耐熱性を得るために、ベースポリマーにカルボキシル基とエポキシ基とを含有するアクリル系ポリマー、又は、カルボキシル基を含有するアクリル系ポリマーとエポキシ基を含有するアクリル系ポリマーとに、硬化成分としてレゾール型フェノール樹脂とエポキシ樹脂とを含有してなる樹脂組成物がある。これらのアクリル系ポリマーとレゾール型フェノール樹脂とエポキシ樹脂とにより、低温かつ短時間のプレスキュア(硬化)で、良好な接着力が得られる接着シートが提案されている(特許文献1及び特許文献2を参照)。
【0003】
しかし、特許文献1及び特許文献2に記載の接着シートに用いられる接着組成物は、カルボキシル基、エポキシ基、レゾール型フェノール樹脂等の3次元網目構造を形成する官能基を多数含有しているため、常温保管中に徐々に硬化反応が進行してしまい、常温保管性が良好でない。
【0004】
また、実際のプレス圧着時には、回路と接着シート接合面との間の気泡抜きが律速となるため、特許文献1及び特許文献2に記載の接着組成物では、回路と接着シート接合面との間の気泡を完全に抜くために、長い時間プレスする必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−9057号公報
【特許文献2】特開2007−9058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、加熱プレス時に、回路と接着シート接合面と間の気泡を短時間で抜くことができる熱硬化性樹脂組成物、熱硬化性接着シート及び熱硬化性接着シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る熱硬化性樹脂組成物は、150〜180℃での加熱プレス時における引張弾性率が10〜10Paである。
【0008】
本発明に係る熱硬化性接着シートは、基材フィルム上に、上記熱硬化性樹脂組成物からなる熱硬化性接着層が形成されている。
【0009】
本発明に係る熱硬化性接着シートの製造方法は、有機溶媒に溶解したエポキシ基含有モノマーを含むアクリル共重合体を含む有機溶媒に、エポキシ樹脂と、有機酸ジヒドラジドから選ばれる少なくとも1種を含む該エポキシ樹脂用の硬化剤とを溶解させることにより、熱硬化性接着層形成用塗料を調製する調製工程と、前記熱硬化性接着層形成用塗料を基材フィルム上に塗布し、乾燥することによって、150〜180℃での加熱プレス時に、引張弾性率が10〜10Paである熱硬化性接着層を形成する熱硬化性接着層形成工程とを有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱硬化性樹脂組成物では、150〜180℃での加熱プレス時における引張弾性率を10〜10Paとすることにより、加熱プレス時に回路と接着シート接合面との間の気泡を短時間で抜くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】プレス試験の方法を説明するための工程図である。
【図2】プレス試験に用いたサンプルを模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を適用した熱硬化性樹脂組成物、熱硬化性接着シート及び熱硬化性接着シートの製造方法の具体的な実施の形態の一例について、図面を参照しながら以下の順序で説明する。
1.熱硬化性樹脂組成物
1−1.アクリル共重合体
1−2.エポキシ樹脂
1−3.硬化剤
1−4.アミン系硬化剤
2.熱硬化性樹脂組成物の製造方法
3.熱硬化性接着シート
4.熱硬化性接着シートの製造方法
5.他の実施の形態
6.実施例
【0013】
<1.熱硬化性樹脂組成物>
本実施の形態に係る熱硬化性樹脂組成物は、150〜180℃での加熱プレス時に、引張弾性率が10〜10Paである。これにより、加熱プレス時に回路と接着シート接合面との間の気泡を短時間で抜くことができる。以下、「引張弾性率」とは、JIS K7244−4 プラスチック 「動的機械特性の試験方法(引張振動)」で測定した値をいう。熱硬化性樹脂組成物の引張弾性率が10Paより小さいときには、熱硬化性樹脂組成物の粘度が低くなり、加熱プレス後に回路と接着シート接合面との間からエアーが入り込みやすいため、気泡を完全に抜くのに長時間を要してしまう。また、熱硬化性樹脂組成物の引張弾性率が10Paより大きいときには、熱硬化性樹脂組成物の粘度が高くなり、回路と接着シート接合面との間にある気泡を完全に抜くのに長時間を要してしまう。
【0014】
熱硬化性樹脂組成物は、例えば、エポキシ基含有ビニルモノマーを含むアクリル共重合体と、エポキシ樹脂と、エポキシ樹脂用の硬化剤としての有機酸ジヒドラジドとを含有する。
【0015】
<1−1.アクリル共重合体>
アクリル共重合体は、フィルム形成時に成膜性をもたせ、硬化物に可撓性、強靭性を付与するためのものである。アクリル共重合体は、例えば、エポキシ基含有ビニルモノマーと、アクリロニトリルモノマーと、エポキシ基非含有モノマーとを共重合させたものである。
【0016】
<エポキシ基含有ビニルモノマー>
エポキシ基含有ビニルモノマーは、エポキシ樹脂用硬化剤と反応し、熱硬化性樹脂組成物の硬化物に3次元架橋構造を形成するために用いられる。3次元架橋構造が形成されると、硬化物の耐湿性及び耐熱性が向上する。例えば、熱硬化性樹脂組成物の硬化物でフレキシブルプリント配線板に接着固定された補強樹脂シートからなる補強フレキシブルプリント配線板を260℃以上でのはんだ処理(一例として、はんだリフロー処理)を行った場合でも、その接着固定部に吸湿を原因とする膨れ現象が発生することを防止することができる。
【0017】
このようなエポキシ基含有ビニルモノマーとしては、電子部品分野に適用されている従来のアクリル系熱硬化性接着剤で使用されているものから適宜選択して使用することができる。例えば、グリシジルアクリレート(GA)、グリシジルメタクリレート(以下、「GMA」という)、メチルグリシジルアクリレート、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。これらのエポキシ基含有ビニルモノマーの中では、安全性、市場での入手が容易である観点から、GMAを使用することが好ましい。なお、エポキシ基含有モノマーは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0018】
アクリル共重合体を調整する際に使用する全モノマーにおけるエポキシ樹脂含有ビニルモノマーの量は、少なすぎると耐熱性が低下し、多すぎると剥離強度が低下してしまう傾向があるため、好ましくは、1〜10質量%とするのが好ましい。
【0019】
<アクリロニトリルモノマー>
アクリロニトリルモノマーは、耐熱性を向上させるために用いられる。例えば、アクリルニトリルモノマーとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが挙げられる。アクリロニトリルモノマーは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
アクリル共重合体を調整する際に使用する全モノマーにおけるアクリルニトリルモノマーの量は、少なすぎると耐熱性が低下し、多すぎると溶剤に溶解し難くなるため、好ましくは20〜35質量%、より好ましくは25〜30質量%である。
【0021】
<エポキシ基非含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー>
エポキシ基非含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、電子部品分野に適用されている従来のアクリル系熱硬化性接着剤で使用されているものから適宜選択して使用することができる。エポキシ基非含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、例えば、メチルアクリレート(MA)、エチルアクリレート(EA)、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、i−ブチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート、i−オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、i−ノニルアクリレート、ステアリルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、i−ブチルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、i−オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、i−ノニルメタクリレート、n−ドデシルメタクリレート、i−ドデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等が挙げられる。これらのエポキシ基非含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーの中では、ブチルアクリレート、エチルアクリレートを用いるのが好ましい。これらエポキシ基非含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
アクリル共重合体を調整する際に使用する全モノマーにおけるエポキシ樹脂非含有モノマーの量は、少なすぎると基本特性が低下し、多すぎると耐熱性が低下する傾向があるので、60〜75質量%とするのが好ましい。
【0023】
<重量平均分子量>
アクリル共重合体は、重量平均分子量が小さすぎると剥離強度並びに耐熱性が低下し、大きすぎると溶液粘度が上がり、塗布性が悪化する傾向がある。したがって、アクリル共重合体の重量平均分子量は、50万〜70万であることが好ましい。
【0024】
<ガラス転移温度>
熱硬化性樹脂組成物は、アクリル共重合体のガラス転移温度(Tg)により、引張弾性率を調整することができる。例えば、アクリル共重合体のガラス転移温度は、−4.5℃〜20℃の範囲とするのが好ましい。
【0025】
<1−2.エポキシ樹脂>
熱硬化性樹脂組成物を構成するエポキシ樹脂は、3次元網目構造を形成し、接着性を良好にするために用いられる。
【0026】
エポキシ樹脂としては、電子部品分野に適用されている従来のエポキシ樹脂系熱硬化性接着剤で使用されている液状又は固体状のエポキシ樹脂から適宜選択して使用することができる。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ポリアルキレンポリオール(ネオポンチルグリコール等)ポリグリシジエーテル、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジル−p−アミノフェノール、トリグリシジル−m−アミノフェノール、テトラグリシジル−m−キシレンジアミン、ジグリシジルフタレート、ジグリシジルヘキサヒドロフタレート、ジグリシジルテトラヒドロフタレート、ビニルシクロヘキセンジオキシド、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシシクロヘキサン)カルボキシレート、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルヘキシルメチル)アジペート等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
エポキシ樹脂の使用量は、少なすぎると耐熱性が低下し、多すぎると接着性が低下する傾向があるため、アクリル共重合体100質量部に対して、好ましくは5〜30質量部であり、より好ましくは10〜20質量部である。
【0028】
<1−3.硬化剤>
熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂の硬化剤として、有機酸ジヒドラジドを含んでいる。硬化剤として有機酸ジヒドラジドを用いることにより、常温で固体ある熱硬化性樹脂組成物の常温保管性を向上させることができる。
【0029】
有機酸ジヒドラジドは、平均粒径が0.5〜15μmであり、均一に分散されていることが好ましい。有機酸ジヒドラジドの平均粒径が0.5μm未満であると、熱硬化性樹脂組成物の塗布のための有機溶剤を使用した場合に、有機酸ジヒドラジド粒子が溶解する可能性が高まり、常温保管性が低下するおそれがある。有機酸ジヒドラジド類の平均粒径が15μmより大きいと、熱硬化性樹脂組成物の塗布性が低下し、粒度が大きいためアクリルポリマーやエポキシ樹脂との溶融時に十分に混合できなくなるおそれがある。
【0030】
有機酸ジヒドラジドとしては、エポキシ樹脂の硬化剤として従来から使用されている有機酸ジヒドラジドの中から適宜選択することができる。例えば、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、イミノジ酢酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スベリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカンジオヒドラジド、ヘキサデカンジホラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、ジグリコール酸ジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、2,6−ナフトエ酸ジヒドラジド、4,4’−ビスベンゼンヒドラジド、1,4−ナフトエ酸ジヒドラジド、アミキュアVDH、アミキュアUDH(商品名、味の素(株)製)、クエン酸トリヒドラジド、7,11−オクタデカジエン−1,18−ジカルボヒドラジド等が挙げられる。有機酸ジヒドラジドは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これら有機酸ジヒドラジドの中では、比較的低融点であり、硬化性のバランスに優れ、入手が容易である観点から、アジピン酸ジヒドラジド又は7,11−オクタデカジエン−1,18−ジカルボヒドラジドを使用することが好ましい。
【0031】
硬化剤の使用量が少なすぎると、未反応のエポキシ基が残り、架橋が十分ではないため、耐熱性、接着性が低下してしまう。また、硬化剤の使用量が多すぎると、過剰の硬化剤が未反応のまま残るため、耐熱性、接着性が低下してしまう傾向がある。そこで、硬化剤の使用量は、アクリル共重合体及びエポキシ樹脂の合計100質量部に対して、2〜15質量部とするのが好ましい。
【0032】
<1−4.アミン系硬化剤>
熱硬化性樹脂組成物は、アクリル共重合体のエポキシ基部分が、アミン系硬化剤によって部分的に架橋されている。このように、熱硬化性樹脂組成物におけるアクリル共重合体のエポキシ基をアミン系硬化剤で部分的に架橋することにより、引張弾性率を上述したように10〜10Paに調整することができる。アミン系硬化剤は、エポキシ樹脂と常温で硬化する観点から、液状のものが好ましい。
【0033】
アミン系硬化剤としては、液状のポリアミン又はポリアミドアミン、具体的には、脂肪族ポリアミンである鎖状脂肪族ポリアミン、環状脂肪族ポリアミン等が挙げられる。鎖状脂肪族ポリアミンとしては、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンポリアミン、テトラエチレンペンタミン、トリエチレンテトラミン、ジプロピレンジアミン、ジエチルアミノプロピルアミンが挙げられる。環状脂肪族ポリアミンとしては、例えば、メンセンジアミン、イソホロンジアミンが挙げられる。
【0034】
アクリル共重合体において架橋されたエポキシ基部分が少ない場合には、引張弾性率が不良となってしまう。また、アクリル共重合体において架橋されたエポキシ基部分が多い場合には、引張弾性率については問題ないものの、常温保管性が不良となってしまう。エポキシ基が架橋された割合については、例えば、DSC(Differential Scanning Calorimetry)測定で発熱ピークを観察することで確認することができる。
【0035】
以上説明したように、本実施の形態に係る熱硬化性樹脂組成物は、150〜180℃での加熱プレス時における引張弾性率を10〜10Paとすることにより、加熱プレス時に回路と接着シート接合面との間の気泡を短時間で抜くことができる。これにより、工程時間を短縮し、生産性を向上させることができる。
【0036】
また、本実施の形態に係る熱硬化性樹脂組成物は、硬化剤として有機酸ジヒドラジドを含んでいるため、常温保存安定性に優れており、冷蔵庫等の設備が不要であり、運搬、保管等の取り扱いを非常に容易にすることができる。
【0037】
さらに、本実施の形態に係る熱硬化性樹脂組成物は、優れた接着強度を有するため、例えば、ポリイミドフィルムや金属板に対して高い接着性を維持することができる。
【0038】
また、本実施の形態に係る熱硬化性樹脂組成物は、吸湿はんだ耐熱性に優れているため、例えば、夏場などの高湿度下でも、実装時の耐無鉛はんだリフロー性を良好とすることができる。
【0039】
<2.熱硬化性樹脂組成物の製造方法>
本実施の形態に係る熱硬化性樹脂組成物は、アクリル共重合体と、エポキシ樹脂と、硬化剤と、アミン系硬化剤とを、常法により均一に混合することにより調整することができる。例えば、有機溶剤に溶解したアクリル共重合体と、アミン系硬化剤とを攪拌機で混合しながら反応させ、混合後、有機溶剤にエポキシ樹脂及び硬化剤を所定量投入して、熱硬化性樹脂組成物となる接着剤溶液を作製することができる。熱硬化性樹脂組成物の形態としては、ペースト、フィルム、分散液状等が挙げられる。
【0040】
<3.熱硬化性接着シート>
熱硬化性接着シートは、例えば、基材フィルム(剥離基材)上に上述した熱硬化性樹脂組成物からなる熱硬化性接着層が形成されてなるものである。基材フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルム等が挙げられる。熱硬化性接着シートは、保管性や使用時のハンドリング性等の観点から、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルム等に必要に応じてシリコーン等で剥離処理した基材フィルムに、熱硬化性樹脂組成物からなる熱硬化性接着層が10〜50μmの厚さで成形されていることが好ましい。
【0041】
<4.熱硬化性接着シートの製造方法>
熱硬化性接着シートは、例えば次の方法により製造することができる。熱硬化性接着シートの製造方法は、熱硬化性接着層形成用の塗料を調製する調製工程と、熱硬化性接着層を形成する熱硬化性接着層形成工程とを含む。
【0042】
調製工程では、有機溶剤に応じた粘度となるように熱硬化性樹脂組成物を投入し、硬化剤を有機溶剤中に分散させ、アクリル共重合体及びエポキシ樹脂を有機溶剤中に溶解させることにより、熱硬化性接着層形成用塗料を調製する。有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、トルエン等を用いることができる。
【0043】
調製工程では、全有機酸ジヒドラジド粒子の70質量%が、室温下で熱硬化性接着層形成用塗料中に固体粒子として分散していることが好ましい。これにより、熱硬化性接着シートの常温保管性を高めることができる。
【0044】
熱硬化性接着層形成工程では、調製工程で調整した熱硬化性接着層形成用塗料を、乾燥厚が10〜50μmとなるように基材フィルム上にバーコーター、ロールコーター等で塗布し、常法により乾燥させ熱硬化性接着層を形成する。これにより、熱硬化性接着層シートを得ることができる。
【0045】
上述した熱硬化性樹脂組成物及び熱硬化性接着シートは、例えば、電子部品分野に好ましく適用することができる。特に、熱硬化性接着シートは、フレキシブルプリント配線板の端子部等と、その裏打ちするためのポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ガラスエポキシ、ステンレス、アルミニウム等の厚さ50μm〜2mmの補強用樹脂シートとを接着固定するために好ましく適用できる。これにより、フレキシブルプリント配線板の端子部と補強用樹脂シートとが、本実施の形態に係る硬化性接着層シートの基材フィルムを除いた熱硬化性接着層の熱硬化物で接着固定されてなる補強フレキシブルプリント配線板を得ることができる。
【0046】
<5.他の実施の形態>
上述した説明では、アクリル共重合体中のエポキシ基の一部を、アミン系硬化剤によって架橋することで、150〜180℃での加熱プレス時の引張弾性率を10〜10Paとするものとしたが、この例に限定されるものではない。例えば、アミン系硬化剤を用いずに、アクリル共重合体のガラス転移温度や、アクリル共重合体の重量平均分子量を調整して、150〜180℃での加熱プレス時の引張弾性率が10〜10Paである熱硬化性樹脂組成物を得るようにしてもよい。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。なお、下記の実施例に本発明の範囲が限定されるものではない。
【0048】
(材料)
・アクリル共重合体
ブチルアクリレート(BA)、エチルアクリレート(EA)、アクリロニトリル(AN)、GMA、アクリル酸(AA)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)
【0049】
・エポキシ樹脂
JER806、JER1031S(共に三菱化学株式会社製)
【0050】
・硬化剤
7,11−オクタデカジエン−1,18−ジカルボヒドラジド(UDH)
【0051】
・プレ架橋用アミン系硬化剤
トリエチレンテトラミン及びその変性物の混合物
【0052】
(熱硬化接着層形成用塗料の調製)
実施例1〜4、実施例6及び比較例4では、有機溶剤に溶解したアクリル共重合体と、アミン系硬化剤であるトリエチレンテトラミン及びその変性物の混合物とを、表1の組成になるように計りとり、攪拌機(浅田鉄工株式会社製 ディゾルバー)で2時間混合しながら反応させた。混合後、エポキシ樹脂、硬化剤を所定量投入し、表1の組成となる接着剤溶液(熱硬化性樹脂組成物)を作製した。なお、表1において、各化合物の添加量の単位は、質量部である。
【0053】
実施例5及び比較例3では、アミン系硬化剤であるトリエチレンテトラミン及びその変性物の混合物を使用しないこと以外は、実施例1〜4、実施例6及び比較例4と同様にして、表1の組成となる接着剤溶液を作製した。
【0054】
比較例1では、アクリル共重合体としてGMAを用いずに、アクリル共重合体としてアクリル酸を用いたこと以外は、実施例5及び比較例3と同様にして、表1の組成となる接着剤溶液を作製した。
【0055】
比較例2では、アクリル共重合体であるアクリル酸の代わりに2−ヒドロキシエチルメタクリレートを用いたこと以外は、比較例5及び比較例3と同様にして、表1の組成となる接着剤溶液を作製した。
【0056】
(熱硬化性接着シートの作製)
得られた熱硬化性接着層形成用塗料を、剥離処理が施されたポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布し、50〜130℃の乾燥炉中で乾燥し、35μm厚の熱硬化性接着層を形成することにより、実施例1〜実施例5及び比較例1〜比較例4の熱硬化性接着シートを作製した。
【0057】
【表1】

【0058】
(引張弾性率について)
各熱硬化性接着性シートについて、170℃での引張弾性率を測定した。結果を表1に示す。
【0059】
(プレス試験)
プレス試験には、真空プレスとして、Vacuum Star (ミカドテクノス社製)を用いた。プレス条件は、プレス温度:170℃、プレス圧力:1.8MPa、プレス時間:真空保持時間10sとした。
【0060】
図1(A)に示すように、補強板としてのポリイミドフィルム1に、表1の組成通りに配合した熱硬化性接着層2を100℃、1m/min、5kg/cmの条件でラミネートしてラミネートサンプル3を得た。次に、図1(B)及び図1(C)に示すように、ラミネートサンプル3を、評価用FPC(Flexible Printed Circuits)の補強部位と同じ型に打抜いて評価用フィルム(補強板/熱硬化性接着シートサンプル)4を作製した。
【0061】
図1(D)に示すように、打抜いた評価用フィルム4を評価用FPCとなる片面FPC5に貼り付けた。片面FPC5は、図1(D)及び図2に示すように、厚さ56μmの片面CCL(copper clad laminate)8と、片面CCL8の一方の面に設けられた厚さ45μmのカバーレイ(カバーフィルム)7とからなる。片面CCL8は、厚さ18μmの銅箔6と、厚さ25μmのポリイミドフィルム9とを、厚さ13μmの接着材層11を介して積層したものである。
【0062】
図1(E)に示すように、上記条件でのプレス後の補強板接着部位を光学顕微鏡10にて確認し、気泡の有無を確認した。プレス開始時から気泡が完全になくなるまでの最短時間を、表1における「プレス時間(気泡抜き)」とした。表1において、プレス時間が「○」とは、プレス時間が45秒以下の場合を示し、プレス時間が「×」とは、プレス時間が45秒を超える場合を示す。
【0063】
(剥離強度の評価)
剥離強度の評価は、次のようにして行った。得られた直後の熱硬化性接着性シートを所定の大きさの短冊(5cm×10cm)にカットした。短冊にカットした熱硬化性接着性シートにおける熱硬化性接着層を、175μmのポリイミドフィルム(175AH、カネカ(株)製)に80℃に設定したラミネータで仮貼りした後、基材フィルムを取り除いて熱硬化性接着層を露出させた。露出した熱硬化性接着層に対し、熱硬化性接着性シートと同じ大きさの50μm厚のポリイミドフィルム(200H、デュポン社製)を上から重ね合わせ、170℃で2.0MPaの圧力で60秒間加熱加圧した後、140℃のオーブン中に60分間保持した。
【0064】
また、短冊(5cm×10cm)にカットした熱硬化性接着シートの熱硬化性接着層を0.5mmのSUS304板又は厚さ1mmのガラスエポキシ板に押し当てて仮貼りした後、基材フィルムを取り除いて熱硬化性接着層を露出させた。露出した熱硬化性接着層に対し、短冊状の厚さ50μmのポリイミドフィルム(5cm×10cm)を上から重ね合わせ、170℃で2.0MPaの圧力で60秒間加熱加圧した後、140℃のオーブン中に60分間保持した。
【0065】
その後ポリイミドフィルムに対し、剥離速度50mm/minで90度剥離試験を行い、引き剥がすのに要した力を測定した。得られた結果を表1に示す。剥離強度は、実用上10N/cmであることが望まれている。
【0066】
(吸湿リフロー半田耐熱性試験)
吸湿リフロー半田耐熱性試験は、次のようにして行った。短冊(2cm×2cm)にカットした熱硬化性接着性シートの熱硬化性接着層を、175μm厚のポリイミドフィルム(アピカル175AH、カネカ(株)製)に80℃に設定したラミネータで仮貼りした後、剥離基材を取り除いて熱硬化性接着層を露出させた。露出した熱硬化性接着層に対し、同じ大きさの厚さ50μm厚のポリイミドフィルム(カプトン200H、デュポン社製)を上から重ね合わせ、170℃で2.0MPaの圧力で60秒間加熱加圧した後、140℃のオーブン中で60分間保持した。その後、加熱硬化した試験片を40℃、90RHの湿熱オーブンで96時間放置した。
【0067】
湿熱処理直後の試験片をトップ温度260℃×30秒に設定したリフロー炉を通過させ、通過後の試験片に膨れ、剥がれ等の外観異常がないかを目視観察した結果を表1に示す。表1において、吸湿リフロー半田耐熱性が「260℃ Pass」とは、外観に全く問題がなかった場合を示す。吸湿リフロー半田耐熱性が「260℃ NG」とは、試験片に発泡による膨れが観察された場合を示す。
【0068】
(常温保管性について)
常温保管性については、次のように評価した。すなわち表1において、常温保管性が「○」とは、各熱硬化性接着シートの初期の剥離強度と、この熱硬化性接着シートを常温で3ヵ月保管した後の剥離強度とを比較して、剥離強度の低下率が30%未満の場合を示す。なお、上述した剥離強度の低下率が30%未満であっても、初期の吸湿リフロー半田耐熱性が良好(上述した「260℃ Pass」)であり、常温で3ヵ月保管した後の吸湿リフロー半田耐熱性が良好でない(上述した「260℃ NG」)として評価された熱硬化性接着シートについては、常温放置により特性が変化したものが明らかなので、「△」として評価している。
【0069】
実施例1〜実施例6で得られた熱硬化性接着シートは、170℃での加熱プレス時における引張弾性率が1.1×10〜3.5×10Paであり、150〜180℃での加熱プレス時における引張弾性率が10〜10Paの条件を満たす。これにより、実施例1〜実施例5で得られた熱硬化性接着シートは、加熱プレス時のプレス時間が20〜40秒であり、短時間で回路と熱硬化性接着シートの接合面との間の気泡を抜くことができた。また、実施例1〜実施例5で得られた熱硬化性接着シートは、フィルムの常温保管性、剥離強度、吸湿リフロー半田耐熱性試験の評価についても、全て良好であった
【0070】
比較例1で得られた熱硬化性接着シートは、170℃での加熱プレス時における引張弾性率が7.0×10Paであったため、加熱プレス時に短時間で回路と熱硬化性接着シートの接合面との間の気泡を抜くことができなかった。また、比較例1で得られた熱硬化性接着シートは、GMAを含んでいないため、常温保管性が良好でなかった。
【0071】
比較例2で得られた熱硬化性接着シートは、170℃での加熱プレス時における引張弾性率が6.5×10Paであったため、加熱プレス時に短時間で回路と熱硬化性接着シートの接合面との間の気泡を抜くことができなかった。また、比較例2で得られた熱硬化性接着シートは、GMAを含んでいないため、常温保管性が良好でなかった。
【0072】
比較例3で得られた熱硬化性接着シートは、170℃での加熱プレス時における引張弾性率が7.0×10Paであったため、加熱プレス時に短時間で回路と熱硬化性接着シートの接合面との間の気泡を抜くことができなかった。
【0073】
比較例4で得られた熱硬化性接着シートは、170℃での加熱プレス時における引張弾性率が6.0×10Paであったため、加熱プレス時に短時間で回路と熱硬化性接着シートの接合面との間の気泡を抜くことができなかった。
【符号の説明】
【0074】
1 ポリイミドフィルム、2 熱硬化性接着層、3 ラミネートサンプル、4 評価用フィルム、5 片面FPC、6 銅箔、7 カバーレイ、8 片面CCL、9 ポリイミドフィルム、10 光学顕微鏡、11 接着材層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
150〜180℃での加熱プレス時における引張弾性率が10〜10Paである熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
エポキシ基含有ビニルモノマーを含むアクリル共重合体と、エポキシ樹脂と、該エポキシ樹脂用の硬化剤とを含有し、該硬化剤は、有機酸ジヒドラジドを含む請求項1記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記アクリル共重合体100質量部に対して、エポキシ基非含有アクリル酸エステルモノマーが60〜75質量部、アクリロニトリルモノマーが20〜35質量部及びエポキシ基含有ビニルモノマーが1〜10質量部含有されている請求項2記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記アクリル共重合体100質量部に対して、前記エポキシ樹脂が10〜20質量部配合されている請求項2又は3記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記アクリル共重合体100質量部に対して、前記有機酸ジヒドラジドが10〜20質量部配合されている請求項2乃至4のいずれか1項記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記有機酸ジヒドラジドは、平均粒径が0.5〜15μmであり、均一に分散されている請求項2乃至5のいずれか1項記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
前記アクリル共重合体中のエポキシ基の一部が、アミン系硬化剤によって架橋されている請求項2乃至6のいずれか1項記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
基材フィルム上に、請求項1乃至7のうちいずれか1項記載の熱硬化性樹脂組成物からなる熱硬化性接着層が形成されている熱硬化性接着シート。
【請求項9】
有機溶媒に溶解したエポキシ基含有モノマーを含むアクリル共重合体を含む有機溶媒に、エポキシ樹脂と、有機酸ジヒドラジドから選ばれる少なくとも1種を含む該エポキシ樹脂用の硬化剤とを溶解させることにより、熱硬化性接着層形成用塗料を調製する調製工程と、
前記熱硬化性接着層形成用塗料を基材フィルム上に塗布し、乾燥することによって、150〜180℃での加熱プレス時に、引張弾性率が10〜10Paである熱硬化性接着層を形成する熱硬化性接着層形成工程と
を有する熱硬化性接着シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−116870(P2012−116870A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264790(P2010−264790)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】