説明

熱遮蔽コーティング構造の形成方法

【課題】熱遮蔽コーティング構造を形成するための時間及び費用を低減することを可能にし、それによって全体的熱遮蔽コーティングシステムの熱サイクル耐性を損なうことなしに基材表面上に熱遮蔽コーティング構造を形成する方法を利用可能にする。
【解決手段】該熱遮蔽コーティング構造は、異なる方法で作り出される少なくとも2つの熱遮蔽コーティング2.1、2.2を含む。一方の熱遮蔽コーティング2.1を形成するには、コーティング材料を、大気圧でのプラズマ溶射(大気プラズマ溶射又は略してAPS)によって粉末ジェットの形態で基材表面上に溶射し、もう一方の熱遮蔽コーティング2.2を形成するには、コーティング材料を、異方性ミクロ構造を形成し且つ基材表面に対して本質的に垂直に整列される長く伸びた微粒子を有する層が基材表面上に発現するようにプラズマ溶射−物理蒸着又は略してPS−PVDによって基材表面に塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部分(preamble)により基材表面上に熱遮蔽コーティング構造を形成するための方法、及び形成されたこのような熱遮蔽コーティング構造を有する基材表面を含む基材又はワークピースに関する。
【背景技術】
【0002】
熱遮蔽コーティングシステムは、機械及びプロセスにおいて、厳しい熱負荷にさらされる部品を熱、高温ガス腐食及び侵食の影響から保護するために使用される。しばしば、機械及びプロセスの効率の増大はプロセス温度の上昇によってのみ可能であり、そのため、暴露される部品を相応して保護しなければならない。例えば、航空機用エンジン及び定置ガスタービン中の燃焼室のタービンブレード又は部品は、したがって、燃焼室のタービンブレード及び/又は部品を高いプロセス温度の影響から保護し、且つ整備間隔及びそれらの寿命を増加させるために、通常は単層熱遮蔽コーティング又は複層熱遮蔽コーティングシステムを備える。
【0003】
熱遮蔽コーティングシステムは、適用分野に応じて、1つ又は複数の層、例えば遮蔽層、とりわけ拡散遮蔽層、ボンド層、高温ガス腐食保護層、保護層、熱遮蔽コーティング及び/又はカバー層を含むことができる。上述のタービンブレードの例で、基材は、一般に、ニッケル合金又はコバルト合金から作製される。タービンブレード上に塗布される熱遮蔽コーティングシステムは、例えば、記載順で以下の層を含むことができる:
・例えば、NiAl相又はNiCr相或いは合金で構成される金属遮蔽層、
・高温ガス腐食保護層としても役立ち、且つ、例えば、金属アルミニド又はMCrAlY合金(ここで、Mは、金属Fe、Ni若しくはCo又はNiとCoとの組合せの1つである)から少なくとも部分的には形成されることができる、金属ボンド層、
・例えば、Al又はその他の酸化物からなる酸化物系セラミック保護層、
・例えば、安定化酸化ジルコニウムからなる酸化物系セラミック熱遮蔽コーティング、及び
・例えば、安定化酸化ジルコニウム又はSiOからなる酸化物系セラミック平滑化層又はカバー層。
【0004】
酸化物系セラミック熱遮蔽コーティングは、繰り返し起こる温度変化のため、熱遮蔽コーティングの剥落を促進する割れを形成する傾向があるという問題を有する。この理由のため、酸化物系セラミック熱遮蔽コーティングの寿命は、熱遮蔽コーティングシステムを厳しい熱負荷にさらされる基材上に導入した場合に、不満足であることが多かった。
【0005】
金属間ボンド層、及び柱状粒子構造又はミクロ構造を有するセラミック熱遮蔽コーティングを含む熱遮蔽コーティングシステムは、特許文献米国特許第5238752号により公知である。柱状ミクロ構造は、米国特許第5238752号による電子ビーム−物理蒸着又は略してEB−PVD法として公知である蒸着技術によって形成される。その方法で形成される熱遮蔽コーティングは、柱状ミクロ構造を有さない熱遮蔽コーティングの寿命に比較して相当に増大した寿命を有する。
【0006】
米国特許第5238752号に記載の熱遮蔽コーティングシステムの形成は、EB−PVDによって熱遮蔽コーティングを塗布するための装置の費用が比較的高いという不都合、及び、EB−PVDであれば、例えば、端部の背後に位置し低圧プラズマ溶射(LPPS)でプラズマトーチから見えない基材の部分を被覆することも可能であるのに対し、熱遮蔽コーティングの「非直接照準(Non Line of Sight)」(NLOS)塗布を可能にしないという不都合を有する。
【0007】
文献国際公開第03/087422号には、低圧プラズマ溶射薄膜法が開示されており、その方法によって、柱状ミクロ構造を有する熱遮蔽コーティングを形成することもできる。この方法で形成される熱遮蔽コーティングは、繰り返して起こる温度変化に対して主として可逆的に反応するが、このことは、割れを形成することなしに、結果として、それらの寿命が、柱状ミクロ構造を有さない熱遮蔽コーティングの寿命に比較して相当に増大されることも意味する。
【0008】
柱状構造を有する熱遮蔽コーティングを形成するための国際公開第03/087422号に記載のプラズマ溶射法は、その方法が、やはり、典型的には100kPaのプラズマトーチの内部圧力と10kPa未満の作業チャンバーの圧力との間の圧力差のため起こる幅の広いプラズマジェットを使用するので、LPPS−薄膜法と関連付けて言及される。しかし、記載の方法で形成される熱遮蔽コーティングは厚さが1mmまで又はより厚く、そのため用語「薄膜」を使用して言及することはできないので、記載の方法は、以下でプラズマ溶射−物理蒸着法又は省略してPS−PVD法として言及される。
【0009】
しかし、柱状ミクロ構造を有する熱遮蔽コーティングを形成するための上記方法は、該形成が250μm又はより厚い熱遮蔽コーティングの場合に比較的緩慢であるという不都合を有する。この理由のため、柱状ミクロ構造を有する熱遮蔽コーティングの形成は、このようなミクロ構造を有さない熱遮蔽コーティングの形成に比べて、有意により複雑なものとなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、柱状ミクロ構造を有する同じ厚さの従来型熱遮蔽コーティングに比較して、熱遮蔽コーティング構造を形成するための時間及び費用に関する努力を低減することを可能にし、それによって全体的熱遮蔽コーティングシステムの熱サイクル耐性を損なうことなしに、基材表面上に熱遮蔽コーティング構造を形成する方法を利用可能にすることである。本発明のさらなる目的は、このような熱遮蔽コーティング構造を有する基材表面を含む基材又はワークピースを提供することからなる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
これらの目的は、本発明により請求項1で規定される方法、及び請求項10で規定される基材又はワークピースによって達せられる。
【0012】
本発明により基材表面上に熱遮蔽コーティング構造を形成するための方法において、セラミックコーティング材料は、プラズマ溶射によって基材表面上に塗布され、ここで、該熱遮蔽コーティング構造は、異なる方法で作り出される少なくとも2つの熱遮蔽コーティングを含む。一方の熱遮蔽コーティングを形成するには、コーティング材料を、大気圧でのプラズマ溶射(大気プラズマ溶射又は略してAPS)によって粉末ジェットの形態で基材表面上に溶射する。もう一方の熱遮蔽コーティングを形成するには、コーティング材料を、プラズマ溶射−物理蒸着又は略してPS−PVDによって2000Pa未満の圧力の作業チャンバー内の基材表面上に塗布し、ここで、コーティング材料は粉末としてプラズマ中に注入され、プラズマは粉末ジェットを非収束化し、粉末は、その中で部分的又は完全に気化され、例えば、十分に高い比エンタルピーを有するプラズマが作られ、典型的には、コーティング粉末の少なくとも10又は少なくとも20重量パーセントの部分が気相中に移行され、その結果、異方性ミクロ構造を形成し、且つ基材表面に対して本質的には垂直に整列される長く伸びた微粒子を有する層が基材表面上に発現する。このようなミクロ構造は、柱状ミクロ構造とも呼ばれる。
【0013】
APSによって溶射される熱遮蔽コーティングは、例えば、20μmから1000μmまで、50μmから800μmまで、又は100μmから600μmまでの厚さを有することができ、且つ1つ又は複数の層に溶射される。PS−PVDによって塗布される熱遮蔽コーティングは、20μmから1000μmまで、50μmから800μmまで、又は100μmから600μmまでの厚さを有することができ、且つ有利には、1つ又は複数の層に塗布される。
【0014】
複層の場合、APSによって溶射される熱遮蔽コーティング及び/又はPS−PVDによって塗布される熱遮蔽コーティングの個々の層は、それぞれ、3μmから20μmまで、とりわけ、4μmから12μmまでの厚さを有することができる。
【0015】
有利には、APSによって溶射される1つ又は複数の熱遮蔽コーティング、及びPS−PVDによって塗布される1つ又は複数の熱遮蔽コーティングの連続(a sequence)が生成される。
【0016】
有利な変形形態において、基材表面上の最初の熱遮蔽コーティングは、APSによって溶射される熱遮蔽コーティングであり、及び/又はAPSによって溶射される熱遮蔽コーティングが、最上層の熱遮蔽コーティングとして塗布される。
【0017】
該方法の有利な実施形態において、セラミックコーティング材料は、熱遮蔽コーティングを形成するための酸化物系セラミック成分を含み、ここで、該セラミックコーティング材料は、例えば、安定化酸化ジルコニウム、とりわけイットリウム、セリウム、ガドリニウム、ジスプロシウム、若しくはその他の希土類で安定化された酸化ジルコニウムから構成され、及び/又は成分として安定化酸化ジルコニウムを含み、とりわけイットリウム、セリウム、ガドリニウム、ジスプロシウム、若しくはその他の希土類で安定化された酸化ジルコニウムを含む。
【0018】
該方法のさらに有利な実施形態では、以下の機能層の1つ又は複数がさらに塗布される:
・熱遮蔽コーティングの塗布に先立つ、2μmから30μmまでの厚さを有する金属遮蔽層、とりわけNiAl合金、NiCr合金、PtAl合金、又はPtNiの合金で構成される金属間遮蔽層、
・熱遮蔽コーティングの塗布に先立つ、ボンド層及び/又は高温ガス腐食保護層、とりわけMCrAlY型合金(ここで、M=Fe、Co、Ni又はNiCo)の50μmから500μmまでの厚さを有する層、
・熱遮蔽コーティングの塗布に先立つ、0.02μmから20μmまでの、又は0.3μmから3μmまでの厚さを有する保護層、とりわけAl又は三元Al−Zr−O化合物の保護層、
・熱遮蔽コーティングの塗布に続く、平滑化層、とりわけ酸化物系セラミックコーティング材料の及び/又は熱遮蔽コーティングと同一のコーティング材料からの厚さが2μmから50μmまでの平滑化層。
【0019】
有利には、熱に耐えるコーティング構造を形成するために、少なくとも2つのプラズマ溶射システム:APSを使用して熱遮蔽コーティングを溶射するための装置、及びPS−PVDによって熱遮蔽コーティングを塗布するための装置が設けられる。
【0020】
本発明は、さらに、上記実施形態及び変形形態の1つ又は複数による方法によって形成される熱遮蔽コーティング構造を有する基材表面を含む、基材又はワークピースを含み、ここで、該熱遮蔽コーティング構造は、異なる方法で作り出される少なくとも2つの熱遮蔽コーティング、すなわちAPSによって溶射される熱遮蔽コーティング、及びPS−PVDによって塗布される熱遮蔽コーティングを含み、ここで、PS−PVDによって塗布される熱遮蔽コーティングは、異方性ミクロ構造を形成し、且つ基材表面に対して本質的に垂直に整列される長く伸びた微粒子を含む。
【0021】
基材表面上に熱遮蔽コーティング構造を形成するための本発明による方法、及びこのような熱遮蔽コーティング構造を有する基材又はワークピースは、熱遮蔽コーティングシステムの一部を溶射するのにAPSを使用するので、PS−PVDによってもっぱら形成される同一の厚さを有する一般的な熱遮蔽コーティングに比較して、全体的な熱遮蔽コーティングシステムの熱サイクル耐性に影響を及ぼさないで、熱遮蔽コーティング構造を形成するための時間及び費用に関する努力を低減することができるという利点を有する。
【0022】
実施形態及び変形形態に関する上記説明は、単に例として提供するにすぎない。さらに有利な実施形態は、従属請求項及び図面から明らかになる。さらに、記載の実施形態及び変形形態からの個々の特徴、又は示した実施形態及び変形形態からの特徴を、互いに組み合わせて、本発明の範囲内の新たな実施形態を形成することができる。
【0023】
以下で、本発明を実施形態に関して図面を参照して詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明により形成される熱遮蔽コーティング構造の実施形態を示す図である。
【図2】本発明により形成される熱遮蔽コーティング構造を有する熱遮蔽コーティングシステムの実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
基材表面3上に熱遮蔽コーティング構造2を形成するための本発明による方法に関する実施形態を、図1を参照して以下で説明する。該方法では、セラミックコーティング材料を、プラズマ溶射によって基材表面上に塗布する。ここで、熱遮蔽コーティングシステム2は、異なる方法で作り出される少なくとも2つの熱遮蔽コーティング2.1、2.2を含む。一方の熱遮蔽コーティングを形成するには、コーティング材料を、大気圧でのプラズマ溶射(大気プラズマ溶射又は略してAPS)によって粉末ジェットの形態で基材表面上に溶射する。もう一方の熱遮蔽コーティング2.2を形成するには、コーティング材料を、プラズマ溶射−物理蒸着又は略してPS−PVDによって2000Pa未満の圧力の作業チャンバー内の基材表面上に塗布し、ここで、コーティング材料は、プラズマ中に粉末として注入され、プラズマは粉末ジェットを非収束化し、粉末は、その中で部分的又は完全に気化され、例えば、十分に高い比エンタルピーを有するプラズマが生成され、コーティング粉末の少なくとも10又は少なくとも20重量パーセントの部分が気相中に移行し、その結果、異方性ミクロ構造を形成し且つ基材表面に対して本質的に垂直に整列される長く伸びた微粒子を有する層が基材表面上に発現する。このようなミクロ構造は、柱状ミクロ構造とも呼ばれる。
【0026】
APS熱遮蔽コーティング2.1を形成するには、プラズマトーチを備えた大気プラズマ溶射用プラズマ溶射装置、例えば、Sulzer Metco社の9MB型DCプラズマトーチを使用することができる。プラズマ溶射中にプラズマトーチに供給される電力は、典型的には、40kWから80kWまでになる。Arと選択的にHe及び/又はHとの混合物を、プラズマガスとして使用することができ、例えば、30%〜40%のHe又はHを有するArを使用することができる。
【0027】
PS−PVD熱遮蔽コーティング2.2を形成するには、プラズマジェットを形成するためのプラズマトーチを備えた作業チャンバー、作業チャンバーに連結されて作業チャンバーの圧力を2000Pa以下に低下させるポンプ装置、及び基材を支えるための基材支持具を有するプラズマコーティング装置が、好都合には使用される。例えばDCプラズマトーチとして配置することができるプラズマトーチには、柱状ミクロ構造を有する熱遮蔽コーティングを形成することができるような十分に高い比エンタルピーを備えたプラズマを作り出すために少なくとも60kW、80kW又は100kWの電力を有利には供給できる。プラズマコーティング装置は、固体、液体及び/又はガス様形態の1種又は複数の成分をプラズマ中又はプラズマジェット中に吹き込むための1つ又は複数の吹き込みデバイスを必要なら付加的に含むことができる。
【0028】
プラズマトーチは、典型的には、PS−PVD熱遮蔽コーティングを形成するための電源、例えば、DCプラズマトーチのためのDC電源に、及び/又は冷却装置に、及び/又はプラズマガス供給源に連結され、場合によっては液体及び/又はガス様反応成分の供給に、及び/又は溶射粉末又は懸濁液の供給デバイスに連結されることもある。プロセスガス又はプラズマガスは、例えば、アルゴン、窒素、ヘリウム及び/又は水素、或いは不活性ガスと窒素及び/又は水素との混合物を含有することができ、且つ/又はこれらのガスの1又は複数の種から調製することができる。
【0029】
有利には、基材支持具は、基材をプレチャンバーから作業チャンバー内に封止ロックを通って移動させるための移動可能な棒状支持具として実現される。棒状支持具は、さらに、必要なら処理及び/又はコーティング中の基材の回転を可能にする。
【0030】
さらに、PS−PVD熱遮蔽コーティングを形成するためのプラズマコーティング装置は、プラズマジェットの方向及び/又はプラズマトーチから基材表面3までの距離を例えば0.2mから2mまで、又は0.3mから1.2mまでの領域に制御するための、プラズマトーチ用の移動制御装置を付加的に含むことができる。場合によっては、1つ又は複数の旋回軸を移動装置中に備えて旋回運動を行うことができる。さらに、移動装置は、プラズマトーチを基材表面3の上記の別の領域に配置するための直線移動軸を付加的に含むこともできる。プラズマトーチの直線運動及び旋回運動は、基材処理及び基材コーティングを制御して、例えば、基材表面を均一に予熱すること、又は基材表面上での均一な層厚及び/又は層品質を達成することを可能にする。
【0031】
APSによって溶射される熱遮蔽コーティング2.1は、例えば、20μmから1000μmまで、50μmから800μmまで、又は100μmから600μmまでの厚さを有することができ、且つ1つ又は複数の層に溶射することができる。PS−PVDによって塗布される熱遮蔽コーティング2.2は、20μmから1000μmまで、50μmから800μmまで、又は100μmから600μmまでの厚さを有することができ、且つ有利には複数の層に塗布される。
【0032】
いくつかの層からなる場合、APSによって溶射される熱遮蔽コーティング2.1及び/又はPS−PVDによって塗布される熱遮蔽コーティング2.2の個々の層は、それぞれ、3μmから20μmまでの厚さを有し、とりわけそれぞれ、4μmから12μmまでの厚さを有することができる。
【0033】
有利には、APSによって溶射される1つ又は複数の熱遮蔽コーティング及びPS−PVDによって塗布される1つ又は複数の熱遮蔽コーティングの連続が生成される。
【0034】
有利な変形形態において、基材表面3上の最初の熱遮蔽コーティングは、APSによって溶射される熱遮蔽コーティングであり、及び/又はAPSによって溶射される熱遮蔽コーティングは、最上層の熱遮蔽コーティングとして塗布される。
【0035】
該方法の有利な実施形態において、熱遮蔽コーティング2.1、2.2を形成するためのセラミックコーティング材料は、酸化物系セラミック成分を含み、ここで、該セラミックコーティング材料は、例えば、安定化酸化ジルコニウム、とりわけ、イットリウム、セリウム、ガドリニウム、ジスプロシウム若しくはその他の希土類で安定化された酸化ジルコニウムから構成され、及び/又は成分として安定化酸化ジルコニウムを含み、とりわけ、イットリウム、セリウム、ガドリニウム、ジスプロシウム若しくはその他の希土類で安定化された酸化ジルコニウムを含み、ここで、酸化イットリウム含有量は、イットリウムで安定化された酸化ジルコニウムの場合、典型的には5〜20重量%である。
【0036】
PS−PVD熱遮蔽コーティング2.2の形成中に、プラズマを非収束化することによって粉末ジェットを蒸気雲に変換し、それから所望の柱状構造を有する層が生じるように、粉末形状の出発原料を極めて微細に造粒しなければならない。出発材料の粒度分布の実質的部分は、有利には、1μm〜50μm、好ましくは1μm〜25μmの範囲にある。
【0037】
基材表面3上に熱遮蔽コーティング構造を形成するための本発明による方法のさらなる実施形態では、1つ又は複数の機能性層が、熱遮蔽コーティング上に付加的に塗布される。該実施形態を、図2を参照して以下で説明する。この実施形態では、セラミックコーティング材料が、プラズマ溶射によって基材表面上に塗布され、ここで、該熱遮蔽コーティング構造は、異なる方法で作り出される少なくとも2つの熱遮蔽コーティング2.1、2.2を含む。一方の熱遮蔽コーティング2.1を形成するには、コーティング材料を、大気圧でのプラズマ溶射(大気プラズマ溶射又は略してAPS)によって粉末ジェットの形態で基材表面上に溶射する。もう一方の熱遮蔽コーティング2.2を形成するには、コーティング材料を、プラズマ溶射−物理蒸着又は略してPS−PVDによって2000Pa未満の圧力を有する作業チャンバー内の基材表面上に塗布し、ここで、該コーティング材料はプラズマ中に粉末として注入され、プラズマは粉末ジェットを非収束化し、粉末はその中で部分的又は完全に気化され、例えば、十分に高い比エンタルピーを有するプラズマが生成され、コーティング粉末の少なくとも10又は少なくとも20重量%の部分が気相中に移行され、その結果、異方性ミクロ構造を形成し且つ基材表面に対して本質的に垂直に整列される、長く伸びた微粒子を有する層が基材表面上に発現する。
【0038】
熱遮蔽コーティングの形成に関する考え得る実施形態及び変形形態、並びにより正確な言明は、図1を参照して例示された上記の最初の実施形態の説明から得ることができる。
【0039】
以下の実施形態では、熱遮蔽コーティングに加えて、以下の機能性層の1つ又は複数が塗布される:
・熱遮蔽コーティングの塗布に先立つ、2μmから30μmまでの厚さを有する金属遮蔽層、とりわけ、NiAl合金、NiCr合金、PtAl合金、又はPtNi合金で構成される金属間化合物(inter−metallic)遮蔽層、
・熱遮蔽コーティングの塗布に先立つ、ボンド層及び/又は高温ガス腐食保護層4、とりわけ、MCrAlY型合金(ここで、M=Fe、Co、Ni又はNiCo)からなる厚さが50μmから500μmまでの層、
・熱遮蔽コーティングの塗布に先立つ、厚さが0.02μmから20μmまで、又は0.3μmから3μmまでの保護層、とりわけAl又は三元Al−Zr−O化合物からなる保護層、
・熱遮蔽コーティングの塗布に続く、平滑化層5、とりわけ、酸化物系セラミックコーティング材料の及び/又は熱遮蔽コーティングと同一のコーティング材料からの厚さが2μmから50μmまでの平滑化層。
【0040】
上記の機能性層と組み合わせた熱遮蔽コーティング2.1、2.2は、熱遮蔽コーティングシステム1とも呼ばれる。
【0041】
言及した金属遮蔽層は、基材表面がNiAlをベースにした合金によって形成されない場合に有利である。この場合、金属遮蔽層は、基材表面3上に直接的に塗布され、続いて塗布されるボンド層及び/又は高温ガス腐食保護層4の準備段階での分解を防止するのに役立つ。
【0042】
保護層は、典型的には、前述のように、ボンド層及び/又は高温ガス腐食保護層4上に付加的に塗布され、好都合には、酸化物層として形成される。該酸化物層は、例えば、PS−PVD熱遮蔽コーティング2.2を形成するのに使用されるプラズマコーティング装置の作業チャンバー内で形成することができる。酸化物層は、例えば、その中で熱的に作り出されることができ、基材表面は、例えばプラズマジェットで加熱され、ここで、該作業チャンバーは、酸化物層を形成する間、酸素又は酸素含有ガスを含む。
【0043】
保護層として使用される酸化物層は、有利には、その中に2%未満、0.5%未満、又は0.1%未満の気孔率を有し、例えば、該保護層は本質的にはAlから形成される。
【0044】
必要なら、遮蔽層及び/又はボンド層及び/又は高温ガス腐食保護層4及び/又は保護層は、PS−PVD熱に耐えるコーティング2.2を形成するのに使用されるプラズマコーティングプラントの作業チャンバー内で作り出すことができる。
【0045】
さらに有利な実施形態では、プラズマジェットの方向及び/又はプラズマトーチの基材からの距離を制御することができる。それによって、例えば、基材表面の加熱の際に、及び/又は酸化物層の形成の際に、及び/又は熱遮蔽コーティング2.1、2.2の塗布の際に、プラズマジェットを、基材表面上で誘導して、できる限り均一な処理又はコーティングを達成し、且つ一定に方向付けられた高ビーム出力のプラズマジェットで起こり得る基材表面及び/又は基材の局部加熱及び/又は損傷を回避することができる。
【0046】
上記の実施形態及び変形形態中に記載のコーティングの塗布及び/又は生成に先立って、通常的には、基材及び/又は基材表面3を予熱して層の接着性を向上させる。基材の予熱は、プラズマジェットによって行うことができ、ここで、予熱は、数回の旋回運動によってプラズマジェットを基材上に誘導するだけで通常十分であるが、プラズマジェットは予熱のためのコーティング粉末又は反応性成分を含まない。典型的には、20〜30の旋回運動によって、基材表面3を800℃から1300℃までの温度まで十分に加熱することができる。
【0047】
使用するプラズマ溶射法とは独立に、上の実施形態及び変形形態中に記載のように、熱遮蔽コーティング及び機能性層の塗布及び/又は生成を前もって定めた温度領域内で実施するために、付加的熱源を使用することが有利であることもある。該温度は、好都合には、800〜1300℃の範囲、好ましくは1000℃超の温度範囲に前以て定められる。例えば、赤外ランプ及び/又はプラズマジェット及び/又はプラズマを、付加的熱源として使用することができる。これに関して、熱源の熱供給及び/又は被覆される予定の基材の温度を、制御又は調節する。
【0048】
熱遮蔽コーティング構造を形成するには、少なくとも2つのプラズマ溶射装置:APSによって熱遮蔽コーティングを溶射するための装置、及びPS−PVDによって熱遮蔽コーティングを塗布するための装置が、有利には設けられる。
【0049】
本発明は、さらに、上記の実施形態及び変形形態の1つ又は複数による方法により形成される熱遮蔽コーティング構造を有する基材表面を含む基材又はワークピースを含む。図1は、本発明による熱遮蔽コーティング構造2の実施形態を示し、図2は、本発明による熱遮蔽コーティング構造を有する熱遮蔽コーティングシステム1の実施形態を示す。熱遮蔽コーティング構造は、双方の実施形態において、異なる方法で形成される少なくとも2つの熱遮蔽コーティング2.1、2.2、すなわち、APSによって溶射される熱遮蔽コーティング2.1、及びPS−PVDによって塗布される熱遮蔽コーティング2.2を含み、ここで、PS−PVDによって塗布される熱遮蔽コーティングは、異方性ミクロ構造を形成し且つ基材表面に対して本質的に垂直に整列される、長く伸びた微粒子を含む。
【0050】
示した実施形態において、熱遮蔽コーティング構造は、基材又はワークピースの基材表面3上に塗布される。典型的な変形形態において、基材及び/又はワークピース及び/又は基材表面は、金属性であり、ここで、基材及び/又はワークピースは、例えば、Ni合金又はCo合金で構成されるタービンブレードである。
【0051】
図2に示す実施形態において、ボンド層及び/又は高温ガス腐食保護層4、例えば、NiAl又はPtAlなどの金属アウルミニド、或いはMCrAlY型合金(ここで、M=Fe、Co、Ni又はNiとCoとの組合せ)の層は、基材と熱遮蔽コーティング2.1、2.2との間に付加的に準備される。ボンド層及び/又は高温ガス腐食保護層4は、典型的には、50μm〜500μmの厚さを有する。必要なら、
・典型的には厚さが2μm〜30μmの遮蔽層(図2には示さない)を、基材とボンド層及び/又は高温ガス腐食保護層4との間に付加的に準備することができ、ここで、該遮蔽層は、有利には、金属から、例えば、NiAl合金、NiCr合金、PtAl合金、又はPtNi合金で構成される金属間遮蔽層の形態で構成され、且つ/又は
・厚さが0.02μmから20μmまで、又は0.03μmから3μmまでの保護層(図2には示さない)を、ボンド層及び/又は高温ガス腐食保護層4及び/又は熱遮蔽コーティング2.1、2.2の間に付加的に準備することができ、ここで、該保護層は、有利には、酸化物層として、例えば、Al又は三元Al−Zr−O化合物の保護層の形態で形成される。
【0052】
封止遮蔽及び/又はボンド層及び/又は高温ガス腐食保護層及び/又は保護層の塗布は、所望なら、熱遮蔽コーティング構造を形成するための方法の枠組み中で行うことができる。有利な実施形態において、遮蔽コーティング及び/又はボンド層及び/又は高温ガス腐食保護層4及び/又は保護層は、基材表面3上に、例えばプラズマ溶射法によって又は別の適切な方法によって最初に塗布され、異なる方法で作り出される少なくとも2つの熱遮蔽コーティング2.1、2.2が塗布される熱遮蔽コーティング構造が続く。
【0053】
必要なら、図2に示すように、最上層の熱遮蔽コーティング上に、例えば、ZrO又はSiOなどの酸化物系セラミック材料で構成され、典型的には1μmから50μmまで、好ましくは2μmから20μmまでの厚さを有する付加的平滑化層5を準備することができる。しばしば、平滑化層は、熱遮蔽コーティングと同一のコーティング材料で構成される。平滑化層は、PS−PVD又はAPSによって塗布することができ、ここで、例えば、1つ又は複数の成分が、プラズマ中に、又はプラズマジェット中に、固体、液体、及び/又はガス様形態で注入される。
【0054】
基材表面上に熱遮蔽コーティング構造を形成するための上記方法、関連する実施形態及び変形形態、並びに形成されたこのような熱遮蔽コーティング構造を備えた基材又はワークピースは、記載の方法で形成される熱遮蔽コーティング構造が、それによって全体的な熱遮蔽コーティングシステムの熱サイクル耐性に影響を及ぼさないで、柱状ミクロ構造を有する同じ厚さの一般的熱遮蔽コーティングに比較して、より安価に形成され得るという利点を有する。
【符号の説明】
【0055】
1 熱遮蔽コーティングシステム
2 熱遮蔽コーティング構造
2.1 熱遮蔽コーティング
2.2 熱遮蔽コーティング
3 基材表面
4 ボンド層及び/又は高温ガス腐食保護層
5 平滑化層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面(3)上に熱遮蔽コーティング構造(2)を形成するための方法であって、セラミックコーティング材料がプラズマ溶射によって該基材表面上に塗布され、前記該熱遮蔽コーティング構造が、異なる方法で作り出される少なくとも2つの熱遮蔽コーティング(2.1、2.2)を含み、ここで、一方の該熱遮蔽コーティング(2.1)を形成するために、コーティング材料が、大気圧でのプラズマ溶射(大気プラズマ溶射又は略してAPS)によって粉末ジェットの形態で該基材表面上に溶射され、且つもう一方の該熱遮蔽コーティング(2.2)を形成するために、コーティング材料が、プラズマ溶射−物理蒸着又は略してPS−PVDによって2000Pa未満の圧力の作業チャンバー内の該基材表面上に塗布され、ここで、該コーティング材料は粉末としてプラズマ中に注入され、プラズマは粉末ジェットを非収束化し、粉末はそこで部分的又は完全に気化され、その結果、異方性ミクロ構造を形成し且つ基材表面に対して本質的に垂直に整列される長く伸びた微粒子を有する層が基材表面上に発現することを特徴とする上記方法。
【請求項2】
APSによって溶射される前記熱遮蔽コーティング(2.1)が、20μmから1000μmまでの、とりわけ50μmから800μmまでの厚さを有し、且つ1つ又は複数の層に溶射される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
PS−PVDによって塗布される前記熱遮蔽コーティング(2.2)が、20μmから1000μmまでの、とりわけ50μmから800μmまでの厚さを有し、且つ1つ又は複数の層に塗布される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
APSによって溶射される前記熱遮蔽コーティング(2.1)及び/又はPS−PVDによって塗布される前記熱遮蔽コーティング(2.2)の個々の層が、それぞれ、3μmから20μmまで、とりわけ4μmから12μmまでの厚さを有する、請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
APSによって溶射される1つ又は複数の熱遮蔽コーティング、及びPS−PVDによって塗布される1つ又は複数の熱遮蔽コーティングの連続が生成される、請求項1から4までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記基材表面上の最初の熱遮蔽コーティングが、APSによって溶射される熱コーティング遮蔽であり、及び/又はAPSによって溶射される熱遮蔽コーティングが、最上層の熱遮蔽コーティングとして塗布される、請求項1から5までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記セラミックコーティング材料が、前記熱遮蔽コーティング(2.1、2.2)を形成するための酸化物系セラミック成分を含み、及び/又は該熱遮蔽コーティングを形成するための該セラミックコーティング材料が、安定化酸化ジルコニウム、とりわけ、イットリウム、セリウム、ガドリニウム、ジスプロシウム、若しくはその他の希土類で安定化された酸化ジルコニウムから構成され、及び/又は成分として安定化酸化ジルコニウム、とりわけ、イットリウム、セリウム、ガドリニウム、ジスプロシウム、若しくはその他の希土類で安定化された酸化ジルコニウムを含む、請求項1から6までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
以下の機能性層:
・前記熱遮蔽コーティングの塗布に先立つ、金属遮蔽層、とりわけ、2μmから30μmまでの厚さを有し、NiAl合金、NiCr合金、PtAl合金、又はPtNi合金で構成される金属間化合物遮蔽層;
・該熱遮蔽コーティングの塗布に先立つ、ボンド層及び/又は高温ガス腐食保護層4、とりわけ、MCrAlY型(ここで、M=Fe、Co、Ni又はNiCo)の合金の50μmから500μmまでの厚さの層;
・該熱遮蔽コーティングの塗布に先立つ、酸化物系セラミック保護コーティング、とりわけ、Al、又は三元Al−Zr−O化合物の0.02μmから20μmまでの、又は0.03μmから3μmまでの厚さの保護層;
・該熱遮蔽コーティングの塗布に続く、平滑化層5、とりわけ、酸化物系セラミックコーティング材料の及び/又は該熱遮蔽コーティングと同一のコーティング材料からの2μmから50μmまでの厚さの平滑化層;
の1つ又は複数が更に塗布される、請求項1から7までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
複層熱遮蔽システムを形成するために、少なくとも2つのプラズマ溶射システム:APSによって熱遮蔽コーティングを溶射するための装置、及びPS−PVDによって熱遮蔽コーティングを塗布するための装置が設けられる、請求項1から8までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか一項に記載の方法を使用して形成され、異なる方法で作り出される少なくとも2つの熱遮蔽コーティング(2.1、2.2)、すなわちAPSによって溶射される熱遮蔽コーティング(2.1)及びPS−PVDによって塗布される熱遮蔽コーティング(2.2)を含む熱遮蔽コーティング構造(2)を有する基材表面(3)を含む基材又はワークピースであって、ここで、該PS−PVDによって塗布される熱遮蔽コーティングが、異方性ミクロ構造を形成し、且つ基材表面に対して本質的に垂直に整列される長く伸びた微粒子を含む、上記基材又はワークピース。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−140703(P2012−140703A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−264232(P2011−264232)
【出願日】平成23年12月2日(2011.12.2)
【出願人】(500063790)ズルツァー・メットコ・アクチェンゲゼルシャフト (30)
【氏名又は名称原語表記】Sulzer Metco AG
【Fターム(参考)】