説明

燃料噴射弁の冷却構造

【課題】高い冷却効果を得ることができると共に、製造の工数を少なくできて、製造コストも低減できる燃料噴射弁の冷却構造を提供すること。
【解決手段】シリンダヘッドに燃料噴射弁を取り付けるためのホルダーガイド2に、軸方向に垂直な断面において円環状の噴射弁冷却通路15と、ホルダーガイド2の外周面から噴射弁冷却通路15の径方向に延在する冷却水入口穴11と、噴射弁冷却通路15において冷却水入口穴11に対して周方向の位相が180°異なる位置からホルダーガイド2の外周面までを連通させるための径方向に延在する冷却水出口穴とを形成する。噴射弁冷却通路15と、冷却水入口穴11とを軸方向に延在する連通穴26で連通させ、噴射弁冷却通路15と、冷却水出口穴とを軸方向に延在する連通穴27で連通させる。冷却水入口穴11および出口穴は、それぞれシリンダヘッドの噴射弁冷却専用の冷却水通路と連通する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃料噴射弁の冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
舶用の中大型機関においては低質重油が使用されている。この低質重油は燃焼させるために加熱されて供給されているが、高温ゆえに噴孔にカーボンが付着し、燃料噴射特性が劣化するという問題がある。そのため、機関の性能維持と燃料噴射弁寿命のためには、燃料噴射弁の冷却が重要な問題である。
【0003】
従来、内燃機関の燃料噴射弁の冷却構造としては、実開昭58−130075号公報(特許文献1)に記載されているものがある。この冷却構造は、燃料弁スリーブ内に断面円状の環状の冷却水通路を形成し、その冷却水通路は、第1および第2冷却水入口穴と、第1および第2冷却水出口穴とを有している。
【0004】
上記第1および第2冷却水入口穴は、上記円状の冷却水通路の直径方向に存在し、同一の第1の直線上に位置している。また、上記第1および第2冷却水出口穴も、上記円状の冷却水通路の直径方向に存在し、同一の第2の直線上に位置している。上記第1の直線と、上記第2の直線とは、略直交している。
【0005】
この冷却構造では、冷却水は、第1冷却水入口穴から流入して、環状の冷却水通路を1/4周分(つまり90°分)通過した後、第1または第2冷却水出口穴から流出するようになっているか、または、第2冷却水入口穴から流入して、環状の冷却水通路を1/4周分(つまり90°分)通過した後、第1または第2冷却水出口穴から流出するようになっている。この冷却構造は、環状の冷却水通路(特に下側)と、冷却水入口および出口とに高低差があるため、とくに上下方向の冷却水の流れは、自然対流によるところが大きく、冷却効果が充分でないという問題がある。
【0006】
また、冷却水が環状の冷却水通路の下側を回らずにホルダー外に出ていく場合もあるし、そもそも冷却水が冷却水入口穴からホルダー内に流入することはできずに、ホルダー外のまわりを1/4周分回ってそのまま戻し通路からジャケットへ抜けて行ってしまう(素通りしてしまう)場合がある。
【0007】
また、上記冷却構造は、燃料弁スリーブ内に、断面円状の環状の冷却水通路と、第1および第2冷却水入口穴と、第1および第2冷却水出口穴とを形成しなければならないから、製造の工数が大きくなると共に、製造コストが大きいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実公昭58−130075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の課題は、高い冷却効果を得ると共に、製造の工数を少なくできて、製造コストも低減できる燃料噴射弁の冷却構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、この発明の燃料噴射弁の冷却構造は、
内燃機関の燃焼室に燃料を噴射する燃料噴射弁と、
上記内燃機関のシリンダヘッドに上記燃料噴射弁を取り付けるための筒状のホルダーガイドと
を備え、
上記ホルダーガイドは、
軸方向に垂直な断面において円環状の噴射弁冷却通路と、
上記ホルダーガイドの外周面から上記噴射弁冷却通路まで上記噴射弁冷却通路の径方向に延在する冷却水入口穴と、
上記噴射弁冷却通路において上記冷却水入口穴に対して周方向の位相が180°異なる位置から上記ホルダーガイドの外周面まで上記径方向に延在する冷却水出口穴と
を有していることを特徴としている。
【0011】
尚、「上記ホルダーガイドの外周面から上記噴射弁冷却通路まで上記噴射弁冷却通路の径方向に延在する冷却水入口穴」という文言には、冷却水入口穴が、ホルダーガイドの外周面から上記噴射弁冷却通路にホルダーガイドの軸方向に重なる位置まで、上記噴射弁冷却通路の径方向に延在するという意味である。したがって、この表現には、冷却水入口穴と、噴射弁冷却通路とが、直接つながっている場合は勿論のこと、軸方向に延在する連通穴を介してつながる場合が含まれる。
【0012】
また、「上記噴射弁冷却通路において上記冷却水入口穴に対して周方向の位相が180°異なる位置から上記ホルダーガイドの外周面まで上記径方向に延在する冷却水出口穴」という文言には、冷却水出口穴が、上記噴射弁冷却通路において上記冷却水入口穴に対して周方向の位相が180°異なる位置にホルダーガイドの軸方向に重なる位置から、上記ホルダーガイドの外周面まで上記径方向に延在するという意味である。したがって、この表現には、冷却水出口穴と、噴射弁冷却通路とが、直接つながっている場合は勿論のこと、軸方向に延在する連通穴を介してつながる場合が含まれる。
【0013】
本発明によれば、燃料噴射弁の冷却を、円環状の噴射弁冷却通路と、噴射弁冷却通路において位相が互いに180°異なる位置から径方向に延びる冷却水入口穴および冷却水出口穴とで行うようになっているから、冷却水入口穴から冷却水出口穴との間で冷却水がバイパスすることがなくて、噴射弁冷却通路にかならず一定の流れがあるから、高い冷却効果を得ることができる。しかも、噴射弁冷却通路の出入口の圧力差は、シリンダヘッド全体に供給される冷却水の出入口の圧力差と同じにできる。したがって、冷却水の流速を速くすることができて、熱交換の効率を優れたものにすることができる。
【0014】
また、本発明によれば、燃料噴射弁の冷却を、円環状の噴射弁冷却通路と、噴射弁冷却通路において位相が互いに180°異なる位置から径方向に延びる冷却水入口穴および冷却水出口穴とで行うようになっているから、ホルダーガイドの噴射弁冷却通路に、冷却水の冷却水入口穴と、冷却水出口穴とを形成するのに、水平のキリ穴を形成するだけで良い。したがって、冷却水の入口と出口の形成およびシリンダヘッド側の通路の形成の工数を大幅に低減できて、製造コストも大幅に低減できる。
【0015】
また、一実施形態では、
上記冷却水入口穴と、上記冷却水出口穴は、同じ水平面にある。
【0016】
また、一実施形態では、
上記シリンダヘッドには、上記冷却水入口穴と、上記冷却水出口穴とに、夫々連通する冷却水通路が、一直線上に備えられている。
【0017】
上記実施形態によれば、冷却水入口と、冷却水出口とが、一直線上に存在するから、これらに連通するシリンダヘッド側の通路も、水平の一段のキリ穴を形成するだけで良い。したがって、ホルダー、シリンダヘッドともに、工数を低減し、コストダウンをはかることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の燃料噴射弁の冷却構造によれば、高い冷却効果を得ることができる。また、製造の工数を少なくできて、製造コストも低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ディーゼル機関に適用した本発明の一実施形態の燃料噴射弁の冷却構造を示す図である。
【図2】図1のAA線断面図である。
【図3】ホルダーガイドの斜視図である。
【図4】ホルダーガイドの小径筒状部を、ホルダーガイドの軸方向に垂直な平面で切断した状態を示す斜視図である。
【図5】ホルダーガイドの小径筒状部を、その周方向の180度の位相分について、軸方向に切断した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を図示の形態により詳細に説明する。
【0021】
図1は、ディーゼル機関に適用した本発明の一実施形態の燃料噴射弁の冷却構造を示す図である。
【0022】
この燃料噴射弁の冷却構造(以下、単に、冷却構造という)は、ノズルとノズルホルダーからなる燃料噴射弁1と、ホルダーガイド2とを備え、ホルダーガイド2は、内燃機関のシリンダヘッド5に燃料噴射弁1を取り付けるガイドと冷却の役割を担っている。上記燃料噴射弁1には、図示しない燃料噴射ポンプからの圧送燃料が、噴射管継手7を通過してノズル部分に到達するようになっている。
【0023】
上記ホルダーガイド2は、冷却水入口穴11と、冷却水出口穴12とを有する。上記冷却水入口穴11は、図示しない冷却水ポンプにつながるシリンダヘッド5の冷却水通路23に通じている一方、冷却水出口穴12は、シリンダヘッド5の冷却水通路24に連通している。上記冷却水入口穴11には、所定の温度に冷却された冷却水が冷却水ポンプから導入されるようになっている。
【0024】
ここで、シリンダヘッドの冷却水通路23と24とは、燃料噴射弁に冷却水を供給するための専用通路となっており、シリンダヘッドそのものを冷却するための冷却水の通路(冷却室など)とは別になっている。つまり、シリンダヘッドの外部から供給された冷却水は、冷却水通路23を介して燃料噴射弁を冷却すると、そのまま冷却水通路24を介して、シリンダヘッドの外部へ排出される。従来技術では、燃料噴射弁の冷却構造は、あくまでもシリンダヘッドそのものの冷却経路の途中に介在していたので、本発明とは、圧力差が異なる。
【0025】
上記燃料噴射弁1の先端部を支持するホルダーガイド2の部分は、円環状の噴射弁冷却通路15を有し、その噴射弁冷却通路15は、燃料噴射弁1のノズルの先端部分を取り囲んでいる。上記冷却水入口穴11と、噴射弁冷却通路15とは、連通し、噴射弁冷却通路15と、冷却水出口穴12とも、連通している。上記冷却水入口穴11から噴射弁冷却通路15に導入された冷却水が、噴射弁冷却通路15を流動している間に、燃料噴射弁1のノズルの先端部を冷却するようになっている。そして、燃料噴射弁1のノズルの先端部分を冷却後の冷却水が、噴射弁冷却通路15から冷却水出口穴12に流出するようになっている。
【0026】
図2は、図1のAA線断面図である。
【0027】
図2に示すように、ホルダーガイド2は、冷却水入口穴11、冷却水出口穴12および複数の冷却穴18を有する。冷却水入口穴11、冷却水出口穴12および複数の冷却穴18の夫々は、キリ穴からなっている。上記ホルダーガイド2は、燃料噴射弁1のノズルを保持する環状部19を有し、冷却水入口穴11および冷却水出口穴12の夫々は、環状部19の径方向に延在している。図2に示すように、上記冷却水入口穴11と、冷却水出口穴12とは、同一の直線上に位置している。
【0028】
上記冷却水入口穴11は、噴射弁冷却通路15(図1参照)に連通する連通穴26を有する一方、冷却水出口穴12は、噴射弁冷却通路15(図1参照)に連通する連通穴27を有している。上記複数の冷却穴18の夫々は、噴射弁冷却通路15に連通しないようになっており、冷却水入口穴11、冷却水出口穴12および冷却水通路23,24とも連通しない。複数の冷却穴18には、冷却水通路23,24とは異なる別の図示しない冷却水通路から冷却水が導入されて、ホルダーガイドの側面からシリンダヘッド3の冷却室に流出するようになっている。よって、冷却穴18は、フィンの役割を果たし、冷却効果を高めている。
【0029】
図3は、上記ホルダーガイド2の斜視図である。
【0030】
図3において、参照番号40a,40b,40cは、冷却穴18(図2参照)に相当し、図2において40a,40b,40cに対応する冷却穴である。図3に示すように、ホルダーガイド2は、大径筒状部80と、その大径筒状部80よりも小径の小径筒状部81を有し、大径筒状部80は、冷却水入口穴11および冷却水出口穴12よりも燃焼室側とは反対側に位置する一方、小径筒状部81は、冷却水入口穴11および冷却水出口穴12よりも燃焼室側に位置している。
【0031】
図4は、ホルダーガイド2を燃焼室側からななめ上側に見上げた状態で、ホルダーガイド2の小径筒状部81を、ホルダーガイド2の軸方向に垂直な平面で切断した状態を示す斜視図である。
【0032】
図4に示すように、ホルダーガイド2の冷却水入口穴11は、軸部材であるホルダーガイド2の径方向に延在している。また、上記連通穴26は、ホルダーガイド2の軸方向に延在している。上記冷却水入口穴11は、連通穴26と連通している。図4に示すように、上記噴射弁冷却通路15は、軸方向に垂直な断面において円環状を有している。上記噴射弁冷却通路15は、燃料噴射弁1のノズルを保持する筒状の環状部19の外周円筒面90と、小径筒状部81の内周円筒面91とで画定されている。
【0033】
尚、詳述しないが、図4において、連通穴27は、ホルダーガイド2の軸方向に延在し、噴射弁冷却通路15と、冷却水出口穴(図4においては、図示せず)12との間を、連通している。また、図4において、参照番号85は、小径筒状部81の内周円筒面である。この内周円筒面85は、燃料噴射弁1のノズルの先端部を支持する役割を担っている。
【0034】
図5は、ホルダーガイド2の小径筒状部81を、その周方向の180度の位相分について、軸方向に切断した状態を示す図である。
【0035】
図5に示すように、上記噴射弁冷却通路15は、円筒の環形状を有している。上記冷却水入口穴11は、ホルダーガイド2の外周面から噴射弁冷却通路15に軸方向に重なる箇所まで噴射弁冷却通路15の径方向に延在し、連通穴26につながっている。また、冷却水出口穴12(図1参照)は、噴射弁冷却通路15において冷却水入口穴11に軸方向に重なる位置に対して周方向の位相が180°異なる位置に軸方向に重なる位置から軸方向に延在する連通穴27の端部から、ホルダーガイド2の外周面まで上記径方向に延在している。
【0036】
上記実施形態の燃料噴射弁の冷却構造によれば、燃料噴射弁1の冷却を、円環状の噴射弁冷却通路15と、噴射弁冷却通路15において位相が互いに180°異なる位置から径方向に延びる冷却水入口穴11および冷却水出口穴12とで行うようになっているから、冷却水入口穴11から出口穴12との間で冷却水がバイパスすることがなくて、噴射弁冷却通路15にかならず一定の流れがあるから、高い冷却効果を得ることができる。しかも、噴射弁冷却通路15の出入口の圧力差は、シリンダヘッド全体に供給される冷却水の出入口の圧力差と同じにできる。したがって、冷却水の流速を速くすることができて、熱交換の効率を優れたものにすることができる。
【0037】
また、上記実施形態の燃料噴射弁の冷却構造によれば、燃料噴射弁1の冷却を、円環状の噴射弁冷却通路15と、噴射弁冷却通路15において位相が互いに180°異なる位置から径方向に延びる冷却水入口穴11および冷却水出口穴12とで行うようになっているから、ホルダーガイド2の噴射弁冷却通路15に、冷却水の冷却水入口穴11と、冷却水出口穴12とを形成するのに、水平のキリ穴を形成するだけで良くて、ホルダーガイド2の冷却水の入口と出口の形成およびシリンダヘッド側の通路の形成の工数を大幅に低減できると共に、製造コストも大幅に低減できる。
【0038】
尚、ホルダーガイド2は、ホルダーガイド内筒2aとホルダーガイド外筒2bとを、溶接などで接合してできている。噴射冷却通路15は、ホルダーガイド内筒2aの外周と、ホルダーガイド外筒2bの内周とで囲われるようにしてできているから、加工が非常に容易である。
【0039】
また、上記実施形態では、噴射弁冷却通路15と、径方向に延在する冷却水入口穴11とが、軸方向に延在する連通穴26を介して連通するとともに、噴射弁冷却通路15と、径方向に延在する冷却水出口穴12とが、軸方向に延在する連通穴27を介して連通していたが、この発明では、円環状の噴射弁冷却通路と、径方向に延在する冷却水入口とは、直接連通していても良く、また、円環状の噴射弁冷却通路と、径方向に延在する冷却水出口とは、直接連通していても良い。
【符号の説明】
【0040】
1 ノズルホルダー
2 ホルダーガイド
5 シリンダヘッド
11 冷却水入口穴
12 冷却水出口穴
15 噴射弁冷却通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃焼室に燃料を噴射する燃料噴射弁と、
上記内燃機関のシリンダヘッドに上記燃料噴射弁を取り付けるための筒状のホルダーガイドと
を備え、
上記ホルダーガイドは、
軸方向に垂直な断面において円環状の噴射弁冷却通路と、
上記ホルダーガイドの外周面から上記噴射弁冷却通路まで上記噴射弁冷却通路の径方向に延在する冷却水入口穴と、
上記噴射弁冷却通路において上記冷却水入口穴に対して周方向の位相が180°異なる位置から上記ホルダーガイドの外周面まで上記径方向に延在する冷却水出口穴と
を有し、上記シリンダヘッドそのものを冷却する通路とは別の専用通路としていることを特徴とする燃料噴射弁の冷却構造。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料噴射弁の冷却構造において、
上記冷却水入口穴と、上記冷却水出口穴は、同じ水平面にあることを特徴とする燃料噴射弁の冷却構造。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料噴射弁の冷却構造において、
上記シリンダヘッドには、上記冷却水入口穴と、上記冷却水出口穴とに、夫々連通する冷却水通路が、一直線上に備えられていることを特徴とする燃料噴射弁の冷却構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−104377(P2013−104377A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249724(P2011−249724)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(390033042)ダイハツディーゼル株式会社 (43)
【Fターム(参考)】