説明

燃料遮断弁

【課題】弁室内に流入した燃料を燃料タンク内へ排出しやすくすることのできる燃料遮断弁を提供する。
【解決手段】燃料遮断弁10は、燃料タンク内の燃料の液面が上昇した場合にフロート14の上昇により閉弁することで、燃料タンク内の燃料の外部への流出を阻止し、フロート14を昇降可能に収納する弁室38を形成するケーシング12の底壁部34に、燃料タンク内と弁室38内とを連通する連通孔40が形成されている。連通孔40を、底壁部34の上面側から下面側に向かって徐々に縮径するテーパ孔状に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料遮断弁に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料遮断弁は、自動車等の車両の燃料タンクの上部に設けられ、車両の通常時は、燃料タンクの外部への通気を確保し、また、車両の傾斜や転倒等において燃料タンク内の燃料の外部への流出を阻止するものである。なお、燃料遮断弁は、フューエルカットオフバルブ、ロールオーバーバルブ等とも呼ばれている。
【0003】
燃料遮断弁は、燃料タンク内の燃料の液面が上昇した場合にフロートの上昇により閉弁することで、燃料タンク内の燃料の外部への流出を阻止し、前記フロートを昇降可能に収納する弁室を形成するケーシングの底壁部に、前記燃料タンク内と前記弁室内とを連通する連通孔が形成されている(例えば、特許文献1参照)。燃料タンク内の燃料及びガスが連通孔を介して弁室に流入したり、弁室内に流入した燃料が連通孔を介して燃料タンク内へ流出(排出)したりするようになっている。
【0004】
図8は連通孔を示す上面図、図9は図8のIX−IX線矢視断面図である。図8及び図9に示すように、従来例にかかる連通孔100は、底壁部102に対して一定の孔径d(図9参照)で上下方向に貫通する円形のストレート孔状に形成されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−82270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記燃料遮断弁において、ストレート孔状の連通孔100では、弁室内に流入した燃料が連通孔100を介して燃料タンク内へ排出されにくいという問題点があった。このため、車両旋回時に弁室から外部(キャニスタへのベーパ通路)に燃料が飛び出す現象いわゆるスピレッジの悪化を招くおそれがあった。
本発明が解決しようとする課題は、弁室内に流入した燃料を燃料タンク内へ排出しやすくすることのできる燃料遮断弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題は、特許請求の範囲に記載された構成を要旨とする燃料遮断弁により解決することができる。
請求項1に記載された燃料遮断弁によると、連通孔を、底壁部の上面側から下面側に向かって徐々に縮径するテーパ孔状に形成したものである。したがって、テーパ孔状の連通孔により、連通孔を流下する燃料の流速が高められる。このため、ケーシングの弁室内に流入した燃料を速やかに流下させて排出することができる。ひいては、スピレッジの悪化を抑制することができる。
【0008】
また、請求項2に記載された燃料遮断弁によると、連通孔の内周面が断面凸型のR面部を備えている。したがって、連通孔の内周面の断面凸型のR面部により、連通孔を流下する燃料の流速を一層高めることができる。
【0009】
また、請求項3に記載された燃料遮断弁によると、連通孔が、底壁部に対する打ち抜き加工によって形成されている。したがって、底壁部に対して連通孔を容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施の形態にかかる燃料遮断弁を示す分解斜視図である。
【図2】燃料遮断弁を示す断面図である。
【図3】リテーナの連通孔を示す上面図である。
【図4】図3のIV−IV線矢視断面図である。
【図5】リテーナの連通孔の変更例1を示す断面図である。
【図6】リテーナの連通孔の変更例2を示す断面図である。
【図7】リテーナの連通孔の変更例3を示す断面図である。
【図8】従来例にかかる連通孔を示す上面図である。
【図9】図8のIX−IX線矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。
燃料遮断弁の概要について説明する。なお、図1は燃料遮断弁を示す分解斜視図、図2は同じく断面図である。
図2に示すように、燃料遮断弁10は、ケーシング12とフロート14とバルブスプリング16とリリーフ弁18とを備えている。なお、燃料遮断弁10は、周知のものと同様に、燃料タンク(図示省略)の上部(例えば上壁部)に対してケーシング12の下半部が燃料タンク内の気層部に位置するように設置されるようになっている。
【0012】
前記ケーシング12は、ケーシング本体20とリテーナ22とカバー24とを備えている(図1参照)。ケーシング本体20は、円筒状の筒状壁部26、及び、筒状壁部26の上部(詳しくは、上端よりも少し下方位置)において該筒状壁部26内の開口部を閉鎖する上壁部27を有している。上壁部27の中央部には、上下方向に貫通する弁孔28が形成されている。また、上壁部27の一側部(図2において左側部)には、上下方向に延びる中空円筒状の筒状部29が形成されている。筒状部29内は、上下方向に貫通するリリーフ通路30となっている。また、上壁部27の外周部(図2において左側部)には、外側方に向けて突出する円管状の接続管部31が形成されている。また、筒状壁部26の上部(詳しくは、上壁部27の下方付近)には、径方向に貫通する複数個の通気孔32が形成されている。通気孔32は、筒状壁部26の周方向に所定の間隔で配置されている。また、ケーシング本体20は、樹脂製の一体成形品で形成されている。
【0013】
前記リテーナ22は、円板状の底壁部34と、底壁部34の外周縁から立ち上がる円環状の側壁部35と、側壁部35から上方へかつ径方向外方へ延びる取っ手状部36とを有している。また、リテーナ22は、金属製の板状材をプレス成形することにより一体形成されている。
【0014】
前記リテーナ22は、前記ケーシング本体20の筒状壁部26に対してその下面開口部を閉塞するように装着されている(図1参照)。これにより、ケーシング本体20とリテーナ22とによる中空円筒状の内部空間である弁室38が形成されている(図2参照)。また、リテーナ22の底壁部34には、板厚方向すなわち上下方向に貫通する多数の連通孔40が分散状に形成されている(図1参照)。連通孔40については後で詳しく説明する。なお、リテーナ22は、本明細書でいう「底壁部形成部材」に相当する。
【0015】
前記カバー24は、円板状に形成されている。カバーは、前記ケーシング本体20の筒状壁部26に対してその上面開口部を閉塞するように装着されている(図2参照)。これにより、ケーシング本体20とカバー24との間に連通室42が形成されている。連通室42は、弁孔28及びリリーフ通路30を介して前記弁室38と連通されている。また、連通室42は、前記接続管部31内と連通されている。接続管部31には、ホース等の配管部材(図示省略)を介してキャニスタ(図示省略)と連通されるようになっている。また、カバー24は、樹脂製の一体成形品で形成されている。
【0016】
前記フロート14は、前記弁室38内に昇降可能に収納されている。フロート14の中央部上には、前記ケーシング本体20の弁孔28に対応する円錐状の弁部44が突出されている。
また、前記バルブスプリング16は、コイルスプリングからなり、前記リテーナ22と前記フロート14との間に介装されている。バルブスプリング16は、フロート14の浮力を補助する。
【0017】
前記リリーフ弁18は、前記リリーフ通路30に設けられている。リリーフ弁18は、前記筒状部29の下端部内にフランジ状に形成された弁座46と、リリーフ通路30内に組込まれかつ弁座46に着座するボール状の弁体47と、リリーフ通路30内に組込まれかつ弁体47を閉弁方向すなわち下方に付勢するリリーフスプリング48とにより構成されている。リリーフスプリング48は、コイルスプリングからなり、弁体47とカバー24との間に介装されている。
【0018】
次に、前記燃料遮断弁10の作動について説明する。
車両の通常時においては、燃料タンク内の燃料の液面は燃料遮断弁10よりも下方に位置するため、フロート14は自重により弁室38における下降位置に位置する。この状態では、フロート14の弁部44がケーシング本体20の弁孔28から下方へ離れることにより弁孔28が開口されることになる。したがって、燃料遮断弁10は開弁状態にある。この状態で、燃料タンク内の気層部に発生した蒸発燃料は、ケーシング本体20の通気孔32、弁室38におけるフロート14と上壁部27との間、弁孔28、連通室42、及び、接続管部31内を通じて外部(すなわち配管部材を介してキャニスタ)へ流出される。
【0019】
また、車両の傾斜や転倒等により、燃料タンク内の燃料がリテーナ22の連通孔40を介して弁室38の下部に流入した場合には、フロート14がその浮力により弁室38における上昇位置に上昇する。このため、フロート14の弁部44が弁孔28に着座し、弁孔28が閉塞される。したがって、燃料遮断弁10は閉弁状態となる。この状態では、弁室38と連通室42との間の連通路(弁孔28)が遮断されるため、燃料タンク内の燃料の外部(すなわち配管部材を介してキャニスタ)への流出が阻止される。また、車両が通常時に戻ると、弁室38内の燃料がリテーナ22の連通孔40を介して燃料タンク内へ流下するにともない、燃料遮断弁10が開弁状態となる。
【0020】
また、リリーフ弁18は、車両の通常時においては、リリーフスプリング48の付勢により弁体47が弁座46に着座しているため閉弁状態にある。そして、燃料タンク1内の圧力が所定値に達した時には、リリーフスプリング48の付勢に抗して弁体47が弁座46から離れることにより開弁する。これにより、燃料遮断弁10の弁孔28を迂回するリリーフ通路30が開通するため、燃料タンク1内の圧力が外部へ逃される。これにより、燃料タンク1内の圧力が所定値以上に上昇することが防止される。なお、燃料タンク1内の圧力が所定値に低下すれば、リリーフ弁18は閉弁する。
【0021】
次に、前記燃料遮断弁10の要部の構成すなわち連通孔40の構成について詳しく説明する。なお、図3はリテーナの連通孔を示す上面図、図4は図3のIV−IV線矢視断面図である。
図3及び図4に示すように、リテーナ22の連通孔40は、底壁部34の上面側から下面側に向かって徐々に縮径する円形のテーパ孔状に形成されている。連通孔40の内周面は、断面凸型の円弧状の曲面部からなるR面部50により形成されている。
【0022】
図4に示すように、前記連通孔40の上端部の最大孔径D1とその下端部の最小孔径D2は、前記従来例の連通孔100の孔径d(図8及び図9参照)と比較して、
D1>d
D2<d
の関係を満たすように設定されている。
また、連通孔40は、リテーナ22の底壁部34に対する打ち抜き加工によって形成されている。この打ち抜き加工は、リテーナ22のプレス成形と同時に行うとよいが、別工程で行ってもよい。
【0023】
前記した燃料遮断弁10によると、連通孔40を、リテーナ22の底壁部34の上面側から下面側に向かって徐々に縮径するテーパ孔状に形成したものである。したがって、テーパ孔状の連通孔40により、連通孔40を流下する燃料の流速が高められる。このため、ケーシング12の弁室38内に流入した燃料を速やかに流下させて排出することができる。ひいては、スピレッジの悪化を抑制することができる。
【0024】
また、連通孔40の最小孔径D2が前記従来例の連通孔100(図8及び図9参照)の孔径dと比較して小径であるため、従来例の連通孔100を単純に拡径する場合と比べて、ケーシング12の弁室38内に流入した燃料を燃料タンク内へ排出しやすくしながらも、燃料タンク内の燃料をケーシング12の弁室38内へ流入しにくくすることができる。
【0025】
また、連通孔40の内周面が断面凸型のR面部50を備えている。したがって、連通孔40の内周面の断面凸型のR面部50により、連通孔40を流下する燃料の流速を一層高めることができる。
【0026】
また、連通孔40が、リテーナ22の底壁部34に対する打ち抜き加工によって形成されている。したがって、リテーナ22の底壁部34に対して連通孔40を容易に形成することができる。
【0027】
[変更例1]
図5はリテーナの連通孔の変更例1を示す断面図である。図5に示すように、本変更例は、連通孔40の内周面を、断面直線状の傾斜面部52により形成したものである。
【0028】
[変更例2]
図6はリテーナの連通孔の変更例2を示す断面図である。図6に示すように、本変更例は、前記変更例1(図5参照)における連通孔40の内周面の傾斜面部52と、リテーナ22の底壁部34の上面(符号、34aを付す)とのなす角部に、R面(円弧状面)により面取りしたR面取り部54を形成したものである。なお、R面取り部54は、本明細書でいう「R面部」に相当する。
【0029】
[変更例3]
図7はリテーナの連通孔の変更例3を示す断面図である。図7に示すように、本変更例は、前記変更例1(図5参照)における連通孔40の内周面の傾斜面部52と、リテーナ22の底壁部34の上面34aとのなす角部に、C面(直線状面)により面取りしたC面取り部56を形成したものである。
【0030】
本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更が可能である。例えば、前記実施の形態では、リテーナ22の底壁部34に連通孔40を形成したが、リテーナ22に限らず、底壁部34を有する底壁部形成部材であれば底壁部34に連通孔40を形成することができる。また、リテーナ22は、金属製に限らず、樹脂製でもよい。
【符号の説明】
【0031】
10…燃料遮断弁
12…ケーシング
14…フロート
20…ケーシング本体
22…リテーナ(底壁部形成部材)
28…弁孔
34…底壁部
38…弁室
40…連通孔
50…R面部
54…R面取り部(R面部)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンク内の燃料の液面が上昇した場合にフロートの上昇により閉弁することで、燃料タンク内の燃料の外部への流出を阻止し、前記フロートを昇降可能に収納する弁室を形成するケーシングの底壁部に、前記燃料タンク内と前記弁室内とを連通する連通孔が形成されている燃料遮断弁であって、
前記連通孔を、前記底壁部の上面側から下面側に向かって徐々に縮径するテーパ孔状に形成したことを特徴とする燃料遮断弁。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料遮断弁であって、
前記連通孔の内周面が断面凸型のR面部を備えていることを特徴とする燃料遮断弁。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の燃料遮断弁であって、
前記連通孔は、前記底壁部に対する打ち抜き加工によって形成されていることを特徴とする燃料遮断弁。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−235772(P2011−235772A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109255(P2010−109255)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(000116574)愛三工業株式会社 (1,018)
【Fターム(参考)】