説明

燃料電池システム

【課題】車両搭載型の燃料電池システムにおいて、効率よく燃料電池の冷却が可能な燃料電池システムを提供する。
【解決手段】車両には、車両フロント部に設けられEVラジエータ16、FCラジエータ15及びメインラジエータファン13が配置され、グリル21から走行風を取り入れることができる。車両には、車両を駆動するモータや駆動系が配置されたモータコンパートメントがあり、走行風は車両床下部に搭載された燃料電池ケース10へ導かれる。燃料電池ケース10の下側にはサブラジエータ17が配置され、燃料電池ケース10の後方には、メインラジエータファン13による気流と、カウルトップルーバ23から導かれた走行風と、が合成され、サブラジエータ17周りの空気を排出するサブラジエータファン14が配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
燃料電池スタックを車両の床下に搭載する燃料電池システムに関し、特に、燃料電池スタックを冷却する部品を床下スペースに設けた燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に燃料電池を動力源とする燃料電池車両では、車両レイアウトの都合上、フロアパネルの下部に燃料電池スタックを搭載し、発電に伴う燃料電池スタックの発熱による過熱を防ぐための冷却水を用いた熱交換器と、冷却水の熱を放出する車両フロント部のラジエータと、を設けている。
【0003】
燃料電池車両に用いられる固体分子電荷質型の燃料電池は、その運転上限温度が比較的低く、いわゆるエンジン等の内燃機関用の運転上限温度と比べて大気との温度差が少ないので、ラジエータにて十分な冷却能力を得るには、多量の冷却風を取り込むことのできる大型ラジエータが必要となる。
【0004】
さらに、燃料電池車両では、燃料電池スタックの冷却だけでなく、モータやDC−DCコンバータなどの電子部品の冷却や空調のための熱交換器を有し、車両のフロントグリル後方に大型の燃料電池用メインラジエータ(FCメインラジエータ)と、電気自動車用ラジエータ(EVラジエータ)等とを設置して必要な冷却性能を確保している。
【0005】
燃料電池車両において、全力運転となる長距離登坂や長距離高速走行が続くと燃料電池コンバータ、各種インバータ、エアコンプレッサ等の各ユニットは発熱し、高温状態が継続することがある。オーバーヒートによる機能停止または出力低下を防ぐため、十分な冷却性能を有する大型のラジエータやメインラジエータを補助するサブラジエータ等を設ける必要がある。
【0006】
そこで、特許文献1には、車両のフロアパネル外側に取り付けられているマウンティングフレームを用いて、燃料電池を車体のフロアパネル外側に固定し、燃料電池本体とマウンティングフレームとを熱的に接触させて気流による空冷及び水冷のマウンティングフレームにより燃料電池を冷却する技術が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、フロントグリル後方に位置する燃料電池用のラジエータに供給される冷却風の経路と、ボンネットとフロントガラスの間に位置するカウルトップルーバによって空気を取り入れ、ダクトを通って車両用空調装置のラジエータに供給される冷却風の経路と、をお互いに独立して設けることによりラジエータの小型化を実現する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−210176号公報
【特許文献2】特開2005−96706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、フロントグリル後方のモータコンパートメント内に、大型の燃料電池用メインラジエータ(FCメインラジエータ)、サブラジエータ(FCサブラジエータ)及び、電気自動車用ラジエータ(EVラジエータ)等を設置した場合、走風抵抗が増加し、他のラジエータによって熱交換されて温度が上昇した空気による冷却では、冷却能力が悪化する場合がある。このようなラジエータは、モータコンパートメントを占有して他部品の搭載性が悪化したり、さらに意匠上の自由度を奪うと共に、空力性能を悪化させていた。
【0010】
特許文献1の空冷式や水冷・空冷伴用のシステム等のように自然走行風のみでは冷却力が不足し、長距離坂路走行時などでは冷却能力が不足するおそれがある。特許文献2の床下にFCサブラジエータを設置し、走行風を制御する技術もあるが、空力特性が悪化する場合がある。
【0011】
そこで、本発明に係る燃料電池システムでは、効率よく燃料電池の冷却が可能な車両搭載型の燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以上のような目的を達成するために、本発明に係る燃料電池システムは、車両の床下に燃料電池スタックを搭載する燃料電池システムにおいて、冷却能力を可変させるため、第1のラジエータによって冷却された冷媒をさらに冷却するための切替弁を介して接続される第2のラジエータと、第2のラジエータ周りの空気の流れを作る気流形成手段と、を有し、第2のラジエータは、車両の床下に搭載された燃料電池スタックの下部に配置され、気流形成手段は車両中心軸に沿って流れる気流により第2のラジエータを冷却することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る燃料電池システムにおいて、気流形成手段は、第2のラジエータの車両後方に冷却ファンを有し、第2のラジエータ周囲の空気の流れを形成することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る燃料電池システムにおいて、反応ガス中に凝結した反応水を分離する気液分離器から得られた反応水を滴下調整弁により第2のラジエータに滴下して気化熱により冷却することを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る燃料電池システムにおいて、車両のグリル、カウル及びバンパー下端から第2のラジエータに走行風を導入する導入板を設けたことを特徴とする。
【0016】
さらに、本発明に係る燃料電池システムにおいて、導入した走行風により燃料電池スタックを冷却するため、燃料電池スタックケースに冷却フィンを設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る燃料電池システムでは、メインラジエータを通過する気流(走行風)と、車両中央部に位置する床下サブラジエータを通過する気流(走行風)と、の合成風を利用する「動圧効果」により効率的な燃料電池の冷却を可能にするという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る燃料電池システムを有する車両の構成を示した構成図である。
【図2】本実施形態に係る燃料電池システムの構成を示す構成図である。
【図3】本実施形態に係る燃料電池で生成された反応水をサブラジエータに滴下するパージモジュールを説明する説明図である。
【図4】車両底面側から示した図であり、第1の実施形態に係る燃料電池システムの周囲を流れる冷却風の流れを説明する説明図である。
【図5】車両前面側から示した図であり、第1の実施形態に係る燃料電池システムの周囲を流れる冷却風の流れを説明する説明図である。
【図6】車両側面側から示した図であり、第2の実施形態に係る燃料電池システムの周囲を流れる冷却風の流れを説明する説明図である。
【図7】車両底面側から示した図であり、第2の実施形態に係る燃料電池システムの周囲を流れる冷却風の流れを説明する説明図である。
【図8】車両前面側から示した図であり、第2の実施形態に係る燃料電池システムの周囲を流れる冷却風の流れを説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下実施形態という)を、図面に従って説明する。
【0020】
図1は本発明における第1の実施形態である燃料電池車両1の構成を示している。図1の燃料電池車両1には、車両フロント部に設けられEVラジエータ16、FCラジエータ15及びメインラジエータファン13が配置されており、メインラジエータファン13はグリル21から走行風を取り入れる。車両フロント部には車両を駆動するモータや駆動系が配置されたモータコンパートメントがあり、メインラジエータファン13により取り込まれた走行風は車両床下部に搭載された燃料電池ケース10と後方の水素タンク12へ導かれることになる。
【0021】
別の走行風は、フード22とフロントウインドウ28との間に設けられたカウルトップルーバ23から導かれ、ダクトを通り車両床下部に搭載された燃料電池ケース10へ導かれる。燃料電池ケース10の前方には、空冷フィン18により熱を放出可能なDC/DCコンバータ11が配置され、燃料電池ケース10の下側にはサブラジエータ17が配置されている。さらに、燃料電池ケース10の後方には、上述したメインラジエータファン13による気流と、カウルトップルーバ23から導かれた走行風と、が合成され、さらに、サブラジエータ17周りの空気を排出するサブラジエータファン14により多量の走行風を取り入れることが可能となる。
【0022】
図2には燃料電池システム2が示されている。燃料電池システム2は、放熱のための燃料電池用のFCラジエータ15と、メインラジエータファン13と、冷却水の流れを切り替える切替弁24と、燃料電池スタック20及び発電時に生成される水を排出してサブラジエータ17に滴下する排出弁を有するパージモジュール19とを格納する燃料電池ケース10と、サブラジエータ17と、サブラジエータファン14と、を有している。このパージモジュール19は、反応水をサブラジエータ17に滴下することにより気化熱による冷却が可能となっている。
【0023】
図2の燃料電池システム2では、燃料電池の作動温度を適切に保つため、ポンプ42によって冷却水が循環されている。ポンプ42から吐出される冷却水はFCラジエータ15に供給され、FCラジエータ15によって冷却水が冷却される。図示しない燃料電池制御装置は、始動時や低温走行時において、燃料電池スタック20の作動温度が低い場合には、燃料電池制御装置は切替弁24によりサブラジエータ17をバイパスし、FCラジエータ15からの冷却水のみを燃料電池スタック20の冷却路に供給する。これにより、氷点下となる極低温時にも対応している。
【0024】
高速走行時や長距離坂路走行時等のように燃料電池スタック20が高温で作動している場合には、切替弁24により冷却水がサブラジエータ17に供給され、冷却水が追加冷却された後に燃料電池スタック20の冷却路に供給される。燃料電池スタック20の冷却路を通過する際に高温となった冷却水は、ポンプ42によってFCラジエータ15に送られることになる。さらに、燃料電池スタックが高温状態を継続する場合は、燃料電池スタック20が発電をし続けている状態であり反応水が大量に発生するため、パージモジュール19によって反応水を利用し、気化熱冷却を行う。
【0025】
図3は燃料電池で生成された反応水をサブラジエータに滴下する排出弁(滴下調整弁)を有するパージモジュール19を示している。パージモジュール19は燃料電池ケース10の車両前方側に配置され、サブラジエータ17は下側に傾斜角θ(例えば、約5度程度)傾けて配置されているため、パージモジュール19によって滴下された反応水はサブラジエータ17の表面に沿って広い範囲を濡らすことになる。
【0026】
反応水は気液分離器によって分離され、通常は排気管に送られ車外に排出される。高速走行・長距離坂路走行時などで燃料電池が高温動作、全力運転を行っている時には、発電に伴い大量の反応水が発生し、大量の反応水が排気管から車外に排出される。そこで、本実施形態では、燃料電池の作動温度に応じてパージモジュール19にて反応水を滴下し、気化熱によりサブラジエータ17を効率良く冷却することでサブラジエータの小型化が実現可能となった。
【0027】
図4は燃料電池システムの周囲を流れる冷却風の流れを車両底面側から示している。本発明における特徴事項の一つは、走行風マネージメントとサブラジエータファン14による床下送風マネージメントとの合成風により効率よく冷やすというものである。
【0028】
図4に示したように、燃料電池車両1の床下には複数の導風フィン(導風板)38,39を有するフロントアンダーカバー33が設けられ、ホイールハウスライナ37に通風用の複数のスリット36を設け、FCラジエータ15を通過した走行風の一部を排出させている。また、車両中央部には燃料電池ケース10と、燃料電池ケースの下側にはサブラジエータ17が配置され、その後方にはサブラジエータファン14が配置されている。
【0029】
図5は燃料電池システムの周囲を流れる冷却風の流れを車両前面側から示している。床下のサブラジエータ17に導入する走行風は、以下の3方向から取り入れている。第1はモータコンパートメント内からグリル21、カウルトップルーバ23、バンパー26下端等から入ってくる走行風であり、第2の走行風はフロントホイール部からタイヤの回転も加わり乱流となって入ってくる空気である。さらに、第3の走行風はアンダーカバー、フロントのバンパー26下面から入ってくる空気である。この3方向の走行風のうち、第1のモータコンパートメントから入ってくる空気は、FCラジエータ15及びEVラジエータ16を通過した後の空気であるため、比較的高温となるが、上述した合成風により風量を増加させることで冷却能力を高めることが可能である。さらに、障害物による通風抵抗を減少させるため、床下の空気を積極的に吸い出すことにより空力性能を向上させると共に燃費も向上させている。
【0030】
次に、第2の実施形態について記述する。本実施形態では比較的高温となったメインラジエータファン13の走行風をサブラジエータ17の冷却に用いるのではなく、近傍を通過させることにより引き込み風を発生させてサブラジエータ17を通過する走行風を増やすものである。
【0031】
図6は燃料電池システムの周囲を流れる冷却風の流れを車両側面側から示している。図6に示すように、センタートンネル27にDC/DCコンバータ11、フロントシート25の床下に燃料電池ケース10を配置、その下方にサブラジエータ17を配置すると共に、サスペンションアンダーカバー34の後端に導風フィン38を追加し、FCアンダーカバー35にも導風フィン39を設けている。
【0032】
本実施形態で特徴的な事項は、図6(A)に示すように、車両中心軸を流れるサブラジエータへ17の走行風は、カウルトップルーバ23、FCアンダーカバー35、フロントアンダーカバー33下面から入って来る走行風を主に使用することにより冷却効果をさらに高めている。また、図6(B)に示すように、メインラジエータファン13を通過した比較的高温の走行風をホイールハウスライナ37のスリットからフロントタイヤ31の乱流を利用して排出すると共に、FCアンダーカバー35に設けた導風フィン39により車両の中心軸を避けて車両床下の両側から下方後方へ排出された空気は走行風とサブラジエータファン14の風の流れで発生する「動圧効果」によって排出効果を向上させたことである。
【0033】
図7は燃料電池システムの周囲を流れる冷却風の流れを車両底面側から示している。図7に示すように、ホイールハウスライナ37の前後に通風用のスリットを追加し、メインラジエータファン13の比較的高温になった走行風は、ホールハウス後部のスリットより車両側面に沿って流れ出すことにより、サブラジエータ17には影響を与えることが少ない。また、フロントタイヤ31の周囲に発生する乱流を活用してその他の走行風を車両後方へ流すことでタイヤ周りの空力損失を減少させる。さらに、アンダーカバーの導風フィン38,39と、走行風にサブラジエータファン14の力を加えて、床下の風の流れを大きくさせる導風効果によって、走行風の一部は車両中央付近に集約される。
【0034】
図8は燃料電池システムの周囲を流れる冷却風の流れを車両前面側から示している。走行風をサブラジエータファン14により車両後方に引き出すことにより、モータコンパートメント内の通風抵抗は減らすことができるため、FCラジエータの大型化によるフロント開口部が大きくなっても空力性能を低下を抑えることが可能となる。また、このような走行風の流れを作ることで効率良くDC/DCコンバータ11、燃料電池ケース10及びサブラジエータ17を冷やすということを可能にしている。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係る燃料電池システムの冷却方法は、上述した燃料電池下部に設けたサブラジエータとサブラジエータファンにより燃料電池の冷却が可能となることから、燃料電池車両に好適に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 燃料電池車両、2 燃料電池システム、10 燃料電池ケース、11 DC/DCコンバータ、12 水素タンク、13 メインラジエータファン、14 サブラジエータファン、15 FCラジエータ、16 EVラジエータ、17 サブラジエータ、18 空冷フィン、19 パージモジュール、20 燃料電池スタック、21 グリル、22 フード、23 カウルトップルーバ、24 切替弁、25 フロントシート、26 バンパー、27 センタートンネル、28 フロントウインドウ、31 フロントタイヤ、33 フロントアンダーカバー、34 サスペンションアンダーカバー、35 FCアンダーカバー、36 スリット、37 ホイールハウスライナ、38,39 導風フィン、42 ポンプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の床下に燃料電池スタックを搭載する燃料電池システムにおいて、
冷却能力を可変させるため、第1のラジエータによって冷却された冷媒をさらに冷却するための切替弁を介して接続される第2のラジエータと、
第2のラジエータ周りの空気の流れを作る気流形成手段と、
を有し、
第2のラジエータは、車両の床下に搭載された燃料電池スタックの下部に配置され、
気流形成手段は車両中心軸に沿って流れる気流により第2のラジエータを冷却することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムにおいて、
気流形成手段は、第2のラジエータの車両後方に冷却ファンを有し、第2のラジエータ周囲の空気の流れを形成することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の燃料電池システムにおいて、
反応ガス中に凝結した反応水を分離する気液分離器から得られた反応水を滴下調整弁により第2のラジエータに滴下して気化熱により冷却することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の燃料電池システムにおいて、
車両のグリル、カウル及びバンパー下端から第2のラジエータに走行風を導入する導入板を設けたことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の燃料電池システムにおいて、
導入した走行風により燃料電池スタックを冷却するため、燃料電池スタックケースに冷却フィンを設けたことを特徴とする燃料電池システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−274675(P2010−274675A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126111(P2009−126111)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】