説明

燃料電池セパレータ及びその製造方法

【課題】高信頼性を備え且つより安定的に長期間使用可能な燃料電池セパレータ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】燃料電池セパレータ1は、基材3と基材3上に形成されるアモルファス合金層5とを備えたことを特徴とする。基材3は、金属又は導電性樹脂からなる。導電性樹脂は導電性プラスチックでもよい。アモルファス合金層5は積層された膜からなり、主成分は、ニッケル、鉄、クロム及びコバルトの何れかである。アモルファス合金層5の材料は、3つ以上の元素からなる金属ガラスでもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池セパレータに関する。さらに詳しくは、本発明は、固体高分子形等の燃料電池に使用することができる、アモルファス合金を用いて表面被覆を施した燃料電池セパレータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、枯渇しつつある石油資源に替わるエネルギー源として、燃料電池の研究や開発が盛んに行われている。このうち、固体高分子形燃料電池は作動温度が低く、車載用や家庭用として実用化が期待されている。固体高分子形燃料電池のセパレータには従来カーボンが使用されて来たが、カーボンは難加工性材料であり加工コストが高いことが課題であった。また、カーボンは脆性材料でもあるため、一定の強度を確保するためにはセパレータの厚さを厚くせざるを得ず、カーボンセパレータを使用した燃料電池スタックはコンパクト化できないという問題があった。
【0003】
現在、カーボン材に替わるセパレータ材料として研究が多く進められているのが金属セパレータである。金属は通常、圧延加工が可能であり、かつ金属の持つ高強度を活かせば薄いセパレータが作製可能であるため、金属セパレータが実用化されれば、燃料電池の大幅なコスト低減とコンパクト化に貢献できると考えられる。
【0004】
しかしながら、固体高分子形燃料電池内は酸性腐食環境にあり、SUS304などの通常の鋼材では腐食による接触抵抗の増加、発電効率の低下を免れない。そこで現在の金属セパレータの研究や開発の趨勢は、高耐食性ステンレス鋼SUS316Lやチタン基合金等の基材に窒化処理(例えば特許文献1)、アモルファスカーボン被覆(例えば特許文献2)、貴金属被覆(例えば特許文献3)等の表面処理を施したものや、クラッド材(例えば特許文献4)等の何らかの手段によって表面の耐食性を高める工夫を行うことであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−49980号公報
【特許文献2】特開2008−137887号公報
【特許文献3】特開2007−103075号公報
【特許文献4】特開2009−215655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、従来の金属や金属の表面を処理した材料からなるセパレータでは、燃料電池内の酸性腐食環境に長期に亘って耐える材料が得られていないという課題がある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑み、高信頼性を有し且つより安定的に長期間使用可能な燃料電池セパレータを提供することを第1の目的とし、燃料電池セパレータの製造方法を提供することを第2の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、高耐食性材料として知られるアモルファス材料を使用し、物理的堆積法又は化学的堆積法を用いて基材にアモルファス合金被覆を施すことによって高信頼性を有すると共に、より安定的に長期間使用可能な燃料電池セパレータが実現できるという知見を得て、本発明に想到した。
【0009】
上記第1の目的を達成するため、本発明の燃料電池セパレータは、基材と、基材上に形成されるアモルファス合金層と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
上記構成において、基材は、好ましくは、金属、導電性樹脂、導電性プラスチックの何れかでなるか、或いは、これらを適宜組み合わせた複合材からなる。
導電性樹脂は、好ましくは、導電性プラスチックからなる。
アモルファス合金層は、好ましくは、積層された膜からなる。アモルファス合金の主成分は、好ましくは、ニッケル、鉄、クロム及びコバルトの何れかである。アモルファス合金は、好ましくは、3つ以上の元素からなる金属ガラスである。
【0011】
上記第2の目的を達成するため、本発明の燃料電池セパレータの製造方法は、基材の両面にアモルファス合金層を堆積する工程を含むことを特徴とする。
【0012】
上記構成において、アモルファス合金層を、好ましくは、物理的堆積方法によって堆積する。物理的堆積方法としては、蒸着法、スパッタ法及び電子ビーム蒸着法の何れかとすることができる。或いは、電気めっき法又は無電解めっき法などの化学的堆積法によって堆積してもよい。
基材とアモルファス合金層との間に中間層を堆積する工程を、さらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の燃料電池セパレータによれば、高信頼性で且つより安定的に長期間使用可能であるという優れた効果を奏する。
【0014】
本発明の燃料電池セパレータの製造方法によれば、基材上にアモルファス合金層を堆積する工程によって製造するので、高信頼性且つより安定的に長期間使用可能な燃料電池セパレータを容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る燃料電池セパレータの構成を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る燃料電池セパレータの変形例の構成を示す断面図である。
【図3】本発明の燃料電池セパレータの製造方法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る燃料電池セパレータ1の構成を示す断面図である。
図1に示すように、本発明の燃料電池セパレータ1は、基材3と、この基材3の表面3A及び裏面3Bに形成されたアモルファス合金層5とからなる構造を有している。図では、基材の表面3A及び裏面3B上に形成されたアモルファス合金層5には、それぞれ5A、5Bという符号を付している。
【0017】
基材3を構成する材料としては、金属、樹脂、プラスチック等を使用できる。ただし、導電性が良好であることが望ましい。基材3には、図1に示すように溝形状を付与してもよい。この凹凸又は溝形状は用途に応じて寸法等を変更すれば良く、図1の溝形状には限定されない。
【0018】
上記金属材料としては、ステンレス鋼、チタン、チタン基合金、アルミニウム、アルミニウム基合金、ニッケル、ニッケル基合金、マグネシウム、マグネシウム基合金、鉄、鉄基合金、銅、銅基合金、亜鉛、亜鉛合金等を用いることができる。
【0019】
上記樹脂材料としては、導電性樹脂を用いることができる。導電性樹脂としては、導電性プラスチックが挙げられる。導電性プラスチックとしては、ポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリパラフェニレン、ポリアニリン、ポリパラフェニレンビニレン等を用いることができる。
【0020】
基材3は、上記の金属、導電性樹脂、導電性プラスチックの何れかでなるか、或いは、これらを適宜組み合わせて複合材としてもよい。
【0021】
アモルファス合金層5は、基材3に堆積される層であって、基材3に優れた耐食性を付与する。アモルファス合金層5には、耐食性に優れた成分系を選択するべきであることは自明である。このような観点から、本実施形態では、アモルファス合金層5を構成する成分系としては、ニッケル基合金、鉄基合金、クロム基合金、コバルト基合金等の二元又は三元以上の合金が挙げることができる。ここで、ニッケル基とは、上記アモルファス合金層5の主成分がニッケルであることを意味している。アモルファス合金は、3つ以上の元素からなる金属ガラスを用いてもよい。
【0022】
ニッケル基合金は一例として、下記(1)式で表される材料を使用することができる。
Ni100−(a+b+c+d)M1aM2bM3cM4d (1)
ここで、M1,M2を、Cr,Fe,W,Mo,Zn,Co,Cu,Re,Zr,Nb,Hf,Taとし、その組成範囲を0≦a+b≦30原子%とする。さらに、M3,M4を、P,B,Si,C,Hとし、その組成範囲を0≦c+d≦30原子%とする。
上記以外のニッケル基合金としては、例えばNi−P、Ni−Cr−P、Ni−Cr−P−B、Ni−Fe−P、Ni−W、Ni−Mo、Ni−Zn、Ni−Co−P、Ni−Mo−P、Ni−W−P、Ni−Cu−P、Ni−Re−P,Ni−B、Ni−Co−B、Ni−Mo−B、Ni−W−B等が挙げられる。
【0023】
鉄基合金の一例としては、下記(2)式で表される材料を使用することができる。
Fe100−(a+b+c+d)M1aM2bM3cM4d (2)
ここで、M1,M2を、Cr,Ni,W,Mo,Zn,Co,Cu,Re,Zr,Nb,Hf,Taとし、その組成範囲を0≦a+b≦30原子%とする。さらに、M3,M4を、P,B,Si,C,Hとし、その組成範囲を0≦c+d≦30原子%とする。
上記以外の鉄基合金としては、例えばFe−P、Fe−W、Fe−Mo、Fe−Cr、Fe−Cr−P、Fe−Mo−W等が挙げられる。
【0024】
クロム基合金の一例としては、下記(3)式で表される材料を使用することができる。
Cr100−(a+b+c+d)M1aM2bM3cM4d (3)
ここで、M1,M2を、Fe,Ni,W,Mo,Zn,Co,Cu,Re,Zr,Nb,Hf,Taとし、その組成範囲を0≦a+b≦30原子%とする。さらに、M3,M4を、P,B,Si,C,Hとし、その組成範囲を0≦c+d≦30原子%とする。
上記以外のクロム基合金としては、例えばCr−H、Cr−W−H、Cr−Mo−H、Cr−Fe−H、Cr−C等が挙げられる。
【0025】
コバルト基合金の一例としては、下記(4)式で表される材料を使用することができる。
Co100−(a+b+c+d)M1aM2bM3cM4d (4)
ここで、M1,M2を、Cr,Ni,W,Mo,Zn,Fe,Cu,Re,Zr,Nb,Hf,Taとし、その組成範囲を0≦a+b≦30原子%とする。さらに、M3,M4を、P,B,Si,C,Hとし、その組成範囲を0≦c+d≦30原子%とする。
上記以外のコバルト基合金としては、例えばCo−Ni−P、Co−Zn−P、Co−S、Co−W−B、Co−W、Co−Mo、Co−Re、Co−Ti、Co−P、Co−B、Co−W−B等が挙げられる。
【0026】
本実施形態では、基材3の厚さは任意である。アモルファス合金層5にはピンホールが生じない十分な厚みが望ましく、1μm以上であることが望ましい。
【0027】
本発明の燃料電池セパレータ1によれば、基材の両面3A,3Bに優れた耐食性を有しているアモルファス合金層5が形成されているので、耐食性に優れ、高信頼性且つより安定的に長期間使用可能という優れた効果を奏し得る。
【0028】
次に、本発明の実施形態に係る燃料電池セパレータの変形例10について説明する。
図2は、本発明の実施形態に係る燃料電池セパレータ10の変形例の構成を示す断面図である。
図2に示すように、本発明の燃料電池セパレータの変形例10は、基材3と、この基材の両面3A,3Bに形成された中間層7と、この中間層の上部側7A上に形成されたアモルファス合金層5Aと、この中間層の下部側7B上に形成されたアモルファス合金層5Bと、からなる構造を有している。つまり、燃料電池セパレータの変形例10は、基材の両面3A,3Bに中間層7を介してアモルファス合金層5を積層した構造となっている。
【0029】
上記中間層7は、基材3とアモルファス合金層5との間の密着性を高めるためのものである。中間層7を構成する材料としては、金属、樹脂、プラスチック等のいずれも使用可能であるが、導電性が良好であることが望ましい。
【0030】
化学的堆積法や物理的堆積法によってアモルファス合金層5を成膜する場合は、中間層7としては、触媒機能のある金属を使用してもよい。
【0031】
中間層7の厚さは、基材3とアモルファス合金層5との密着性が向上する厚さとし、ピンホールが生じない十分な厚みが望ましく、1μm以上であることが望ましい。
【0032】
本発明の燃料電池セパレータの変形例10によれば、基材3とアモルファス合金層5との密着性を向上させ、耐食性に優れ、高信頼性を備え且つより安定的に長期間使用可能という優れた効果を奏する。
【0033】
次に、本発明の電池セパレータ1の製造方法について説明する。
図3は、本発明の電池セパレータ1の製造方法を示す断面図である。
図3(A)に示すように、最初に基材3を用意する。基材3は、セパレータを所定の形状とするために溝や凹凸等を形成してもよい。
次に、図3(B)に示すように、基材の両面3A,3Bにアモルファス合金層5を堆積する。アモルファス合金層5の堆積には、物理的堆積方法や化学的堆積法等の種々の方法を用いることができる。
【0034】
物理的堆積方法としては、蒸着法、スパッタ法及び電子ビーム蒸着法等の種々の方法が挙げられる。例えばスパッタ法の場合には、スパッタしてアモルファス合金層5となるターゲットを使用して、基材の両面3A,3Bにアモルファス合金層5を堆積すればよい。
【0035】
化学的堆積法としては、電気めっき法、無電解めっき法、化学蒸気堆積法(CVD法)など、種々の方法が挙げられる。
【0036】
本発明の燃料電池セパレータ10の製造方法においては、さらに、基材3とアモルファス合金層5との間に中間層7を形成してもよい。中間層7の堆積には、アモルファス合金層5の形成と同様の方法を使用することができる。
【0037】
本発明の燃料電池セパレータ1、10の製造方法によれば、基材3上にアモルファス合金層5を堆積する工程によって製造するので、高信頼性を有するとともに、より安定的に長期間使用可能な燃料電池セパレータ1、10を容易に製造することができる。
【0038】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のアモルファス合金被覆燃料電池セパレータ1、10は、燃料電池を使用する分野において、その構成要素として利用できる。
【符号の説明】
【0040】
1、10:燃料電池セパレータ
3:基材
3A:表面
3B:裏面
5:アモルファス合金層
7:中間層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材上に形成されるアモルファス合金層と、
を備えたことを特徴とする、燃料電池セパレータ。
【請求項2】
前記基材は、金属又は導電性樹脂からなることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池セパレータ。
【請求項3】
前記導電性樹脂は、導電性プラスチックからなることを特徴とする、請求項2に記載の燃料電池セパレータ。
【請求項4】
前記基材は、金属、導電性樹脂及び導電性プラスチックの何れかを組み合わせて形成された複合材からなることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池セパレータ。
【請求項5】
前記アモルファス合金層は、積層された膜からなることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池セパレータ。
【請求項6】
前記アモルファス合金の主成分は、ニッケル、鉄、クロム及びコバルトの何れかであることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池セパレータ。
【請求項7】
前記アモルファス合金は、3つ以上の元素からなる金属ガラスであることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池セパレータ。
【請求項8】
基材の両面にアモルファス合金層を堆積する工程を含むことを特徴とする、燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項9】
前記アモルファス合金層を、物理的堆積方法によって堆積することを特徴とする、請求項8に記載の燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項10】
前記物理的堆積方法を、蒸着法、スパッタ法及び電子ビーム蒸着法の何れかとすることを特徴とする、請求項9に記載の燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項11】
前記アモルファス合金層を、化学的堆積法によって堆積することを特徴とする、請求項8に記載の燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項12】
前記化学的堆積法を、電気めっき法又は無電解めっき法とすることを特徴とする、請求項11に記載の燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項13】
前記基材と前記アモルファス合金層との間に中間層を堆積する工程を、さらに備えたことを特徴とする、請求項8に記載の燃料電池セパレータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−249247(P2011−249247A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−123516(P2010−123516)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】