説明

燃料電池用電磁弁

【課題】エア等の流体の流量を調節可能な燃料電池用電磁弁を提供する。
【解決手段】燃料電池用電磁弁1は、流体が導入される導入ポート10aと、流体が導出される導出ポート10bと、導入ポート10aと導出ポート10bとの間に設けられた連通室10cと、連通室と導出ポートとを連通させる第一の連通路R1と、第一の連通路R1の連通室10c側開口に設けられた弁座面91aと、連通室10cに収容されているとともに、弁座面91aに対して離座・着座可能に設けられた弁部70と、連通室10cと導出ポート10bとを連通させる第二の連通路R2と、を備え、第一の連通路R1は、弁座面91aに対する弁部70の離座・着座によって開閉され、第二の連通路R2は、常に連通室10cと導出ポート10bとを連通させるように開放されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、燃料電池システムにおいて、燃料電池からガス及び/又は水を外部へと排出する燃料電池用電磁弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固体高分子膜型燃料電池は、固体高分子電解質膜をアノードとカソードとで両側から挟み込んで形成されたセルに対し、複数のセルを積層して構成されたスタック(以下、燃料電池という)を備えており、アノードに燃料として水素が供給され、カソードに酸化剤としてエアが供給されて、アノードで触媒反応により発生した水素イオンが、固体高分子電解質膜を通過してカソードまで移動して、カソードで電気化学反応を起こして発電するようになっている。
【0003】
このような燃料電池装置は、例えば、燃料電池のカソード側に反応ガスとしてエアを供給するためのエアコンプレッサ等を備え、さらに、このエアの圧力を信号圧として、エアの圧力に応じた圧力で燃料電池のアノード側に反応ガスとして水素を供給する圧力制御弁を備え、燃料電池のカソード側に対するアノード側の反応ガスの圧力を所定圧に調圧して所定の発電効率を確保すると共に、燃料電池に供給される反応ガスの流量を制御することで所定の出力が得られるように設定されている。
【0004】
そこで、本出願人は、燃料電池内におけるエア流路及び/又は水素流路の適宜の位置に設けられ、燃料電池の外部にエア、水素又は水を排出する燃料電池用電磁弁を提案している(特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2006−153207号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
かかる燃料電池用電磁弁は、エア等が流通可能な開弁状態と、エア等が流通不能な閉弁状態と、を切換可能な弁である。ところで、燃料電池システムが複雑化・高機能化するにつれて、燃料電池用電磁弁には様々な機能が望まれるようになってきている。例えば、燃料電池から排出された水素を希釈する希釈器に、希釈用のエアを供給する際に、供給されるエアの流量を調節したいという要望がある。
【0007】
本発明は、前記要望を鑑みて創案されたものであり、エア等の流体の流量を調節可能な燃料電池用電磁弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、本発明は、流体が導入される導入ポートと、前記流体が導出される導出ポートと、前記導入ポートと前記導出ポートとの間に設けられた連通室と、前記連通室と前記導出ポートとを連通させる第一の連通路と、前記第一の連通路の連通室側開口に設けられた弁座と、前記連通室に収容されているとともに、前記弁座に対して離座・着座可能に設けられた弁部と、前記連通室と前記導出ポートとを連通させる第二の連通路と、を備え、前記第一の連通路は、前記弁座に対する前記弁部の離座・着座によって開閉され、前記第二の連通路は、常に前記連通室と前記導出ポートとを連通させるように開放されていることを特徴とする。
【0009】
かかる燃料電池用電磁弁は、弁部が弁座に着座した状態(第一の状態)では、第一の連通路が閉塞され、第二の連通路のみを介して流体を排出し、弁部が弁座から離座した状態(第二の状態)では、第一の連通路及び第二の連通路を介して流体を排出する。したがって、前記燃料電池用電磁弁は、流体の流量を調節することができる。
【0010】
また、前記弁座は、前記第二の連通路の連通室側開口よりも前記弁部側に突設されていることが望ましい。
【0011】
かかる燃料電池用電磁弁は、弁座が第二の連通路の連通室側開口よりも弁部側に突設されているので、弁部が弁座に着座した状態(第一の状態)であっても、弁部と第二の連通路の連通室側開口との間にクリアランスが生じている。したがって、前記燃料電池用電磁弁は、弁部が磨耗した場合等であっても、弁部によって第二の連通路が閉塞されることなく、第二の連通路を介した流体の排出を好適に行うことができる。
【0012】
また、前記燃料電池用電磁弁は、前記弁部が前記弁座から離座した際に、前記弁部と当接することによって前記弁部の移動を規制する移動規制部をさらに備え、前記弁部は、弁基部と、前記弁基部の外周に取り付けられており、前記移動規制部と対向する弾性体部と、を備えており、前記弾性体部の前記移動規制部と対向する面は、前記移動規制部と当接可能な当接部と、前記当接部が前記移動規制部と当接した状態において前記移動規制部から離間している凹部と、を備えており、前記当接部は、放射状に延びているとともに、前記弾性体部の軸中心に対して周方向に複数設けられていることが望ましく、複数の前記当接部は、その内径側端部が前記弾性体部の内径側端部よりも外径側で立ち上がるように形成されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、エア等の流体の流量を調節可能な燃料電池用電磁弁を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
続いて、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態に係る燃料電池用電磁弁を備える燃料電池システムの構成図である。かかる燃料電池システム200は、例えば、自動車等の車両に搭載される。
【0015】
図1に示すように、燃料電池システム200は、燃料電池211と、内部に高圧の水素ガスが充填されており、燃料電池211に対して燃料ガスとしての水素ガスを供給する水素タンク212と、燃料電池211に対して酸化剤ガス(酸素)を含む圧縮エアを供給するエアコンプレッサ213と、燃料電池211から排出された水素ガスを、燃料電池211から排出されたエア及びエアコンプレッサ213から供給されたエアによって希釈する希釈器214と、を備えている。
【0016】
燃料電池211は、例えば、固体高分子電解質型燃料電池(PEFC)であり、図示しない燃料電池自動車等の車両に搭載される。この燃料電池211は、複数の単セルが積層して構成されたスタック本体(図示せず)を有しており、燃料ガスとして水素ガスが供給されるアノードと、酸化剤ガスとして、例えば、酸素を含むエアが供給されるカソードと、を備えている。
【0017】
水素タンク212と燃料電池211との間には、水素供給通路201が設けられており、水素供給通路201中には、エゼクタ215が配設されている。このエゼクタ215には、燃料電池211から排出された燃料オフガスである未反応の水素(以下、水素オフガスという)をフィードバックさせる循環通路202が接続されており、燃料電池211からフィードバックされた水素オフガスを水素タンク212から供給される水素ガスに混合させて、燃料電池211のアノードに供給する装置である。
【0018】
エアコンプレッサ213と燃料電池211との間には、エア供給通路203が設けられており、エア供給通路203中には、エアコンプレッサ213から供給されたエアを加湿する加湿器216が配設されている。加湿器216によって加湿されたエアは、エア供給通路203を介して燃料電池211のカソードに供給される。
【0019】
燃料電池211と希釈器214との間には、燃料電池211のアノードから排出された水素ガスを希釈器214に送る水素ガス排出通路204が設けられている。なお、水素ガス排出通路204において、循環通路202との分岐の下流側には、図示しないパージ弁が設けられており、かかるパージ弁によって水素ガス排出通路204を開閉することによって、水素オフガスの流れる方向を切り替えることが可能である。
【0020】
燃料電池211と希釈器214との間には、燃料電池211のカソードから排出されたエアを希釈器214に送るエア排出通路205が設けられている。
エアコンプレッサ213と希釈器214との間には、エアコンプレッサ213からのエアを希釈器214の供給するエア供給通路206が設けられている。エア供給通路206中には、当該エア供給通路206を部分的に開閉する燃料電池用電磁弁1が設けられている。
【0021】
次に、前記燃料電池システム200に組み込まれた燃料電池用電磁弁1の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。図2は、本発明の実施形態に係る燃料電池用電磁弁の構造を説明するための断面図である。図3は、本発明の実施形態に係る弾性部材を説明するための図であり、(a)は斜視図、(b)は平面図である。図4は、本発明の実施形態に係る燃料電池用電磁弁の動作を説明するための要部断面図であり、(a)は閉弁状態を示す図、(b)は開弁状態を示す図である。
【0022】
この燃料電池用電磁弁1は、エアコンプレッサ213で圧縮されたエアを希釈器214に供給するための弁であり、図2に示すように、バルブボディ10と、ガイドボディ20と、カラーガイド30と、樹脂封止体40と、ハウジング50と、ソレノイド部60と、弾性部材80を有する弁体70と、弁座部材90と、を備えている。
【0023】
<バルブボディ10>
図2に示すように、バルブボディ10は、エアコンプレッサ213(図1参照)で圧縮されたエア)が導入される導入ポート10aと、導入されたエアが外部へと導出される導出ポート10bと、を有する。バルブボディ10は、金属製材料(例えば、ステンレス鋼)から形成されており、その内部に弁体70が変位自在(ここでは、図の上下方向に変位自在)に設けられている。
【0024】
導入ポート10aは、エアコンプレッサ213で圧縮されたエアが供給される通路であり、バルブボディ10の内部に形成される連通室10cと、当該連通室10cの側壁10cにて連通している。また、導入ポート10a内には、塵埃等の除去するためのフィルタFが配設されている。このフィルタFは、下方から供給されたエアに含有された塵埃等を当該フィルタFの下面で捕捉するので、捕捉された塵埃は、自重によって下方に落下する。したがって、フィルタFは目詰まりを起こすことがない。
【0025】
導出ポート10bは、連通室10c内のエアが導出される通路であり、連通室10cの底壁10cに形成された孔部10dに圧入された弁座部材90内の第一の連通路R1を介して、連通室10cと連通している。また、導出ポート10bは、連通室10cの底壁10cに形成された第二の連通路R2を介して、連通室10cと連通している。この第一の連通路R1が開口する弁座部材90の上面は、後記する弁体70の着座部81が着座・離座する弁座面(弁座)91aとして機能している。
【0026】
<ガイドボディ20及びカラーガイド30>
ガイドボディ20は、バルブボディ10の上部に連結され、その内部に後記する可動コア64が軸線方向に沿って変位自在に設けられる。ガイドボディ20は、筒状に形成され、内部に可動コア64が変位自在に設けられる円筒部21と、当該円筒部21より半径外方向に突出し、バルブボディ10の上部に連結ボルトB1を介して連結されるフランジ部22と、を備えている。なお、フランジ部22には、周方向に所定間隔離間して形成される複数の孔部(図示せず)を介して連結ボルトB1が挿通され、当該連結ボルトB1がバルブボディ10の上面に螺合されることにより、ガイドボディ20とバルブボディ10とが一体的に連結されている。
【0027】
円筒部21の下部は、バルブボディ10の内部に挿入され、前記円筒部21とフランジ部22とが接合する角部とバルブボディ10との間には、シール部材S1が装着されている。これにより、円筒部21が挿入されるバルブボディ10の内部の気密が確実に保持される。
【0028】
また、円筒部21の内部には、略同一直径から筒状に形成されるカラーガイド30の一端部側が挿入され、当該カラーガイド30の一端部に形成される鍔部31が円筒部21の下部に装着されている。このカラーガイド30は、後記する可動コア64を上下方向に沿って案内するガイド機能を有しており、金属製材料から薄板円筒状に形成され、半径外方向に突出した鍔部31の上面が、円筒部21の下面に当接した状態でレーザ溶接等によって強固に固着されている。これにより、円筒部21の内周面がカラーガイド30によって覆われる。鍔部31には、周方向に沿って複数の孔部31aが配列されており、孔部31aを介して、エアが鍔部31の内側及び外側に流通可能となっている。
【0029】
また、カラーガイド30の鍔部31は、弁体70がガイドボディ20側に向かって変位した際の変位を規制するストッパ機能を備えている。鍔部31の下面(弾性部材80と対向する面)は、平面形状を呈している。また、カラーガイド30の表面は、フッ素コーティング被膜(図示せず)によって被覆されている。
【0030】
また、カラーガイド30の他端部は、ガイドボディ20の円筒部21から突出するように上方に向かって所定長だけ延在し、ソレノイド部60のボビン62(後記する)の内部に挿通されている。
【0031】
<樹脂封止体40>
樹脂封止体40は、後記するコイル61及びボビン62からなるコイル巻線体が樹脂製材料によってモールドされることによって形成され、ガイドボディ20の上部に連結されている。この樹脂封止体40の側面には、ソレノイド部60に電流を供給するための電源(図示せず)に接続されるコネクタ部41が設けられ、当該コネクタ部41には、その内部に一端部が露呈するように金属製材料からなる端子(図示せず)が設けられている。そして、かかる端子は、樹脂封止体40の内部を介してソレノイド部60のコイル61へと接続されている。なお、端子は、図示しないリード線を介して前記電源と接続されている。
【0032】
樹脂封止体40の上面には、半径内方向に張り出した張出部42が形成され、当該張出部42の上面に形成された環状溝を介してOリングA1が装着されている。そして、OリングA1が樹脂封止体40と後記するハウジング50との間で挟持されることにより、樹脂封止体40とハウジング50との間の気密が保持される。
【0033】
<ハウジング50>
ハウジング50は、磁性体からなる金属製材料より断面略U字状に形成され、樹脂封止体40及びガイドボディ20の一部を上部から覆うように装着されている。ハウジング50の上部には、略中央部に孔部51が形成されており、孔部51には、後記する固定コア63の上面に設けられるねじ部63aが挿通されている。このように、ハウジング50を断面略U字状に形成することにより、軽量化を図ることができると共に、使用される材料の量を削減することができるためコストの低減を図ることも可能である。
【0034】
また、ハウジング50には、軸線方向に沿って略長方形状に切り欠かれた開口部52が形成されており、コネクタ部41は、かかる開口部52を介してハウジング50の外側に突出している。
【0035】
<ソレノイド部60>
ソレノイド部60は、図2に示すように、樹脂封止体40の内部に配設され、外周面にコイル61が巻回されたボビン62と、樹脂封止体40の上部にキャップナットC1を介して一体的に連結される固定コア63と、固定コア63と対向し、ボビン62の内部を軸線方向に沿って変位自在に設けられる可動コア64と、固定コア63と可動コア64との間に介装されるリターンスプリング65と、を備えている。
【0036】
ボビン62は、樹脂封止体40の内周面に当接するように設けられ、その上端部及び下端部には半径外方向へと拡径した第1拡径部62a及び第2拡径部62bがそれぞれ形成されている。そして、ボビン62は、第1拡径部62aと第2拡径部62bとの間にコイル61が巻回された状態で樹脂封止体40の内部にモールドされている。
【0037】
また、ボビン62の略中央部には、軸線方向に沿って貫通した挿通孔62cが形成されており、当該挿通孔62cには、ガイドボディ20の円筒部21に固着されたカラーガイド30が挿通されると共に、挿通孔62cの上部には磁性体からなる金属製材料により円柱状に形成された固定コア63が挿入されている。なお、挿通孔62cの内周径は、前記カラーガイド30の外周径と略同等となるように形成されている。
【0038】
固定コア63は、その上部に形成されたねじ部63aが、ハウジング50の孔部51に挿通された後に、ワッシャW1が挿通されてキャップナットC1が螺合される。これにより、固定コア63が樹脂封止体40に一体的に連結される。
【0039】
また、固定コア63の外周面の可動コア64側には、縮径した縮径部63bが形成されており、縮径部63bには、ガイドボディ20に固着されたカラーガイド30の他端部が装着される。詳細には、カラーガイド30は、固定コア63に対してレーザ溶接で溶着されることにより、固定コア63に対して強固に固着されている。
【0040】
これにより、固定コア63、ガイドボディ20及びカラーガイド30という3部品をレーザ溶接等によって一体化することができるため、予め一体化された固定コア63、ガイドボディ20及びカラーガイド30を他部品に組み付けることが可能となり、組み付ける際の組付工数の低減及び作業性の向上を図ることが可能となる。
【0041】
さらに、固定コア63の縮径部63bは、カラーガイド30の厚さ分だけ半径内方向に縮径して形成されているため、縮径部63bに装着されたカラーガイド30の外周面が、固定コア63の外周面と略面一となる。そして、固定コア63の下方には、カラーガイド30を介して可動コア64が挿入されている。
【0042】
固定コア63の下面には、その略中央部に可動コア64側に向かって突出した凸部63cが形成されており、可動コア64との間に介装されるリターンスプリング65の一端部が係着されている。
【0043】
可動コア64は、磁性体からなる金属製材料によって円筒状に形成され、固定コア63側となる一端部には所定深さで窪んだスプリング受穴64aが形成されている。スプリング受穴64aと当該スプリング受穴64aと対向する固定コア63の凸部63cとの間には、リターンスプリング65が介装されており、リターンスプリング65の弾発力は、可動コア64を固定コア63から離間させる方向に付勢している。
【0044】
また、可動コア64の外周面には、複数の溝部64bが軸線方向に沿って形成されており、これらの溝部64bは、可動コア63の周方向に沿って所定間隔離間して形成されている。溝部64bは、例えば、断面略V字状となるように形成されている。
【0045】
このように、可動コア64の外周面に沿って溝部64bを形成することにより、可動コア64が軸線方向に沿って変位する際に、可動コア64と固定コア63との間に存在するエアを、溝部64bを通じて弁体70側へと通気させることができる。そのため、可動コア64と固定コア63との間のエアによって可動コア64の変位抵抗が生じることがなく、可動コア64を円滑に変位させることが可能となる。
【0046】
一方、可動コア64の内部には、その他端部側に弁体70が連結される小径孔64cと、小径孔64cよりも拡径して形成される大径孔64dとが形成されている。なお、リターンスプリング65が介装されるスプリング受穴64aと小径孔64c及び大径孔64dとは連通している。
【0047】
<弁体70及び弁座部材90>
弁体70は、可動コア64に連結されるシャフト部(軸部)71と、当該シャフト部71の下部に形成され、バルブボディ10における本体部11の弁座面10cに着座・離座自在に設けられる弁部72と、を備えている。
【0048】
シャフト部71は、金属製材料から形成されており、可動コア64の小径孔64cに圧入される第1軸71aと、当該第1軸71aよりも拡径して可動コア64の大径孔64dに挿入される第2軸71bと、当該第2軸71bよりもさらに拡径して形成され、可動コア64の下端面に係止される第3軸71cと、を備えている。このように、シャフト部71aの第1軸71aが可動コア64の小径孔64cに対して圧入されているため、弁体70と可動コア64とが強固に連結された状態となる。
【0049】
弁部72は、バルブボディ10の連通室10cに配設され、シャフト部71の第3軸71cの下部に形成されて当該第3軸71cよりも拡径した拡径部(弁基部)72aと、当該拡径部72aを取り囲むように外装された弾性材料(例えば、フッ素ゴム)からなる弾性部材(弾性体部)80と、を備えている。
【0050】
拡径部72aは、略円盤状に形成され、その外周径は、連通室11dの内周径より小さく形成される。また、拡径部72aには、その上下面間を貫通する複数の連通孔72bが所定間隔離間して形成されている。
【0051】
一方、弾性部材80は、前記拡径部72aを図示しない成形型の内部に載置し、前記成形型に弾性材料を充填させて固化させることにより、拡径部72aの全体を覆うように形成される(弾性材料の連通孔72bへの充填を含む)。
【0052】
この弾性部材80は、拡径部72aの外周面及び下面側に略一定の厚さとなるように形成されている。弾性部材80は、拡径部72aの上面と下面とを連通する複数の連通孔72bに充填されているため、弾性部材80が拡径部72aから脱落することが防止される。このように、弁体70は、拡径部72aが弾性部材80の中心に設けられる構造としているため、弾性材料からなる弾性部材80の強度を向上させることができる。
【0053】
また、弾性部材80の下部には、その略中央部に環状に突出した着座部(環状突部)81が形成されており、着座部81の直径は、弁座部材90に開口した第一の連通路R1の内径よりも大きく形成される。すなわち、着座部81が弁座部材90の弁座面91aに当接し、弁座面91aに開口する第一の連通路R1の外周部位を覆うことにより、第一の連通路R1における連通室10cと導出ポート10bとの連通状態が遮断される。
【0054】
弾性部材80の着座部81よりも内周側において、拡径部72aの底面は、弾性部材80によって覆われずに露出している。
【0055】
弾性部材80は、図3に示すように、鍔部31と対向する上面側に、鍔部31と当接可能な当接部82と、当接部82が鍔部31と当接した状態において鍔部から離間している凹部83と、を備える。この弾性部材80において、凹部83は、弾性部材80の軸中心に対して周方向に等間隔となるように複数設けられており、放射状に延びている(本実施形態では、90度ごとに計4個)。
【0056】
当接部82の内径側端部82aは、鍔部31の内径側端部と外径側端部との間又は鍔部31の内径側端部よりも内側に位置し、当接部82の外径側端部82bは、弾性部材80の外周面まで延びている。燃料電池用電磁弁1は、かかる形状の凹部83を採用することによって、弾性部材80の当接部82が鍔部31と当接した状態において、凹部83内のエアが凹部83外へと流通可能となる。また、燃料電池用電磁弁1は、かかる形状の当接部82を採用することによって、弾性部材80の当接部82が鍔部31と当接した際の衝撃を、当接部82の外径側端部82bだけでなく内径側端部82aにも逃がすことができる。また、当接部82の内径側面及び一対の側面は、それぞれテーパ面82c及びテーパ面82d,82dとなっている。また、当接部82及び凹部83の内側となる中央部84の外周面は、テーパ面84aとなっている。テーパ面82c及びテーパ面84aは、V字形状の切欠きを構成している。
【0057】
凹部83の内径側端部83aは、鍔部31の内径側端部よりも内側に位置し、凹部83の外径側端部83bは、弾性部材80の外周面に向かって開放されている。かかる形状の凹部83を採用することによって、弾性部材80の当接部82が鍔部31と当接した状態において、凹部83内のエアが凹部83外へと流通可能となる。
【0058】
弁座部材90は、図2に示すように、バルブボディ10の孔部10dに圧入される金属製(例えば、SUS製)部材であり、円筒部91と、フランジ部92と、を備えている。円筒部91は、その内部に第一の連通路R1を備えるとともに、その上面が弁座面91aとなっている。フランジ部92は、円筒部91の上端部近傍に設けられており、弁座部材90をバルブボディ10の孔部10dに圧入した状態において、バルブボディ10の底壁10cと当接する。また、弁座部材90の表面は、フッ素コーティング被膜(図示せず)によって被覆されている。
【0059】
燃料電池用電磁弁1は、弁座部材90の弁座面91aが第二の連通路R2の連通室10c側開口よりも弁部70側に突設されているので、弁体70が弁座面91aに着座した状態(第一の状態)であっても、弁体70と第二の連通路R2の連通室10c側開口との間にクリアランスが生じている。したがって、燃料電池用電磁弁1は、弁体70の着座部81が磨耗した場合等であっても、弁体70によって第二の連通路R2が閉塞されることなく、第二の連通路R2を介したエアの排出を好適に行うことができる。
【0060】
本発明の実施形態に係る燃料電池用電磁弁1は、基本的には以上のように構成されるものであり、次にその動作並びに作用効果について説明する。
【0061】
図1及び図2に示すように、燃料電池システム200において燃料電池用電磁弁1は、エア供給路206中に設けられており、燃料電池用電磁弁1の導入ポート10aは、エア供給路206の上流側と接続されている。そして、導出ポート10bは、パイプPを介してエア供給路206の下流側と接続されている。
【0062】
図4(a)は、燃料電池用電磁弁1の部分拡大図であり、コイル61に対してコネクタ部41を介して電流を供給していない非励磁状態にあり、弁体70の着座部81が、弁座部材90の上面11bに形成された弁座面10cに着座して、第一の連通路R1における導入ポート10aと導出ポート10bとの連通が遮断されたオフ状態(第一の状態)を示している。なお、かかるオフ状態においても、導入ポート10aから導入室10cへ導入されたエアは、第二の連通路R2を介して導出ポート10cへと流通可能である。
【0063】
このようなオフ状態において、図示しないECU(Electronic Control Unit、電子制御装置)による駆動制御によって、図示しない電源を付勢してコネクタ部41の端子を介してコイル61に通電することによりコイル61が励磁され、その励磁作用下に磁束がコイル61から可動コア64へと向かい、再びコイル61へと復帰して周回するように発生する。
【0064】
そして、図4(b)に示すように、可動コア64がリターンスプリング65の弾発力に抗して軸線方向に沿って上方へと変位し、弁体70の着座部81が弁座部材90の弁座面91aから離座する。
【0065】
そして、弁体70の拡径部72aに装着された弾性部材80の上面が、カラーガイド30の鍔部31に当接して変位終端位置となる。なお、その際、弾性材料からなる弾性部材80によって弁体70が変位終端位置まで変位した際の衝撃が緩和されると共に、その当接音が低減される。その結果、燃料電池用電磁弁1がオフ状態からオン状態(第二の状態)へと切り換わる。かかるオン状態においては、導入ポート10aから導入室10cへ導入されたエアは、第一の連通路R1及び第二の連通路R2を介して導出ポート10cへと流通可能である。
【0066】
このように、開弁状態である第二の状態では、導入ポート10aから連通室10cの内部に導入されたエアが、第一の連通路R1及び第二の連通路R2を介して連通路12aから導出ポート10bを通じて外部へと排出されるので、第二の連通路R2のみを介してエアが排出される閉弁状態である第一の状態と比べて、より多くのエアが排出可能、すなわち、希釈器214へ供給可能である。
【0067】
また、このようなオン状態において、エアの排出量を抑制したい場合には、再び弁体70の着座部81を弁座部材90の弁座面91aに着座させて、第一の連通路R1における導入ポート10aと導出ポート10bとの連通が遮断されたオフ状態とする。
【0068】
この場合には、図示しない電源からコイル61に通電されていた電流の供給を停止することにより当該コイル61が非励磁状態となり、可動コア64に付勢されていた上方への変位力が滅勢される。
【0069】
そのため、可動コア64がリターンスプリング65の弾発力によって下方へと押圧され、弁体70における弾性部材80の上面が鍔部31の下面から離間する。その際、弾性部材80の上面には、鍔部31の下面と当接した状態において、当該弾性部材80の上面に形成された凹部83によって弾性部材80の上面と鍔部31の下面との間に予め非接触部分(空間)が設けられる。そのため、弁体70の弾性部材80と鍔部31とが貼り付くことが防止され、弁体70を下方へと変位させる際、弾性部材80を鍔部31から確実かつ容易に離間させることができる。また、固定側の鍔部31ではなく可動側の弁部72側に凹部83を設け、可動側が凹部83の分だけ軽量化されるので、弁体72の動作がより円滑となり、弾性部材80を鍔部31から確実かつ容易に離間させることができる。
【0070】
そして、弁体70の着座部81が、弁座部材90の弁座面91aに着座し、環状の着座部81によって第一の連通路R1の外周部位が閉塞されることにより、第一の連通路R1を介した導入ポート10aから導出ポート10bへのエアの流通が遮断される。その結果、燃料電池用電磁弁1から希釈器214側へのエアの排出は、第二の連通路R2のみを介して行われることになり、エアの排出量が低減される。
【0071】
前記燃料電池用電磁弁1は、弾性部材80が複数の凹部83を備えているので、弾性部材80が鍔部31に当接した際に、弾性部材80が鍔部31に対して貼着されることが防止される。また、前記排出弁1は、弾性部材80の鍔部31と対向する面に凹部83を備えているので、弾性部材80と鍔部31との当接面積を減少させることができ、それによって当接音を低減することができる。さらに、前記燃料電池用電磁弁1は、弾性部材80の鍔部31と対向する面に凹部83を備えているので、弾性部材80の鍔部31との当接面が柔らかく、弾性変形しやすくなり、それによって当接音をさらに抑制することができる。さらに、前記燃料電池用電磁弁1は、金属製の鍔部31ではなく樹脂、ゴム等から形成可能な弾性部材80に凹部83を備えるので、容易に製造可能である。
【0072】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で適宜設計変更可能である。例えば、本発明の燃料電池用電磁弁1は、エアを排出するための弁だけではなく、水や、水素等の流体(圧力流体を含む)を排出するための弁にも適用可能である。また、弾性部材80の当接部82及び凹部83の数、形状等は図示したものに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施形態に係る燃料電池用電磁弁を備える燃料電池システムのブロック構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る燃料電池用電磁弁の構造を説明するための断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る弾性部材を説明するための図であり、(a)は斜視図、(b)は平面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る燃料電池用電磁弁の動作を説明するための要部断面図であり、(a)は閉弁状態を示す図、(b)は開弁状態を示す図である。
【符号の説明】
【0074】
1 燃料電池用電磁弁
10a 導入ポート
10b 導出ポート
10c 連通室
72 弁部
72a 拡径部(弁基部)
80 弾性部材(弾性体部)
82 当接部
83 凹部
91a 弁座面(弁座)
R1 第一の連通路
R2 第二の連通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が導入される導入ポートと、
前記流体が導出される導出ポートと、
前記導入ポートと前記導出ポートとの間に設けられた連通室と、
前記連通室と前記導出ポートとを連通させる第一の連通路と、
前記第一の連通路の連通室側開口に設けられた弁座と、
前記連通室に収容されているとともに、前記弁座に対して離座・着座可能に設けられた弁部と、
前記連通室と前記導出ポートとを連通させる第二の連通路と、
を備え、
前記第一の連通路は、前記弁座に対する前記弁部の離座・着座によって開閉され、
前記第二の連通路は、常に前記連通室と前記導出ポートとを連通させるように開放されている
ことを特徴とする燃料電池用電磁弁。
【請求項2】
前記弁座は、前記第二の連通路の連通室側開口よりも前記弁部側に突設されている
ことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用電磁弁。
【請求項3】
前記弁部が前記弁座から離座した際に、前記弁部と当接することによって前記弁部の移動を規制する移動規制部をさらに備え、
前記弁部は、弁基部と、前記弁基部の外周に取り付けられており、前記移動規制部と対向する弾性体部と、を備えており、
前記弾性体部の前記移動規制部と対向する面は、前記移動規制部と当接可能な当接部と、前記当接部が前記移動規制部と当接した状態において前記移動規制部から離間している凹部と、を備えており、
前記当接部は、放射状に延びているとともに、前記弾性体部の軸中心に対して周方向に複数設けられている
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の燃料電池用電磁弁。
【請求項4】
複数の前記当接部は、その内径側端部が前記弾性体部の内径側端部よりも外径側で立ち上がるように形成されている
ことを特徴とする請求項3に記載の燃料電池用電磁弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−301847(P2009−301847A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−154510(P2008−154510)
【出願日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(000141901)株式会社ケーヒン (1,140)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】