説明

物体検知装置

【課題】物体の二次元の位置情報が得られる物体検知装置を提供する。
【解決手段】伝搬速度が異なる複数の信号を伝搬する出射用線状アンテナと入射用アンテナを対象空間Pの一辺に布設し、対象空間P中に複数箇所設定された各被検出点における電波の反射係数を複数の受信信号とあらかじめ知られた各被検出点における電波の結合損失とから算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体の位置を検知する物体検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、レーダのように物体を検知する装置として、図23のものが知られている。この物体検知装置は、アンテナ241から特定角度範囲に電波や弾性波を送信し、物体Oから反射される信号をアンテナ241で受信して、物体Oの有無を検知すると共に、送信から受信までの遅延時間に基づき、アンテナ241から物体Oまでの距離を求めるものである。
【0003】
監視角度範囲を全方向に広げるために、アンテナを回転させて使用するものもある。この場合、アンテナから物体までの距離の他に、アンテナの向きを利用して物体の方向も検出できる。
【0004】
図24に示されるように、長さ数十mのフェンス251に沿う長辺とフェンス251から数m以内の短辺とからなる比較的長細い監視範囲Pにおける物体検出を行う場合、図23の物体検知装置には、次の問題点がある。
【0005】
フェンス251の一端(監視範囲Pの一端)にアンテナ241を配置してフェンス251に沿う監視範囲Pに電波を送信する構成が考えられるが、途中に障害物252があると、その障害物252に隠れる領域には電波が届かず監視が行えない。
【0006】
図24の構成では、アンテナ241を配置した一端からフェンス251の遠方端まで監視するために、強力な電波を送信する必要がある。その場合、放射角度範囲を狭めると、アンテナ241に近い領域で放射角度範囲に入らないために監視できない部分が生じる。
【0007】
複数個の独立したアンテナを監視領域に分散配置して、アンテナごとに監視領域を分割することも考えられるが、コストが嵩むと共に、布設が面倒である。
【0008】
フェンス中央付近に可動アンテナを配置して、アンテナの送受信方向を振りながら全監視領域を監視することも考えられるが、可動部の長期間信頼性確保が必要であり、また、全監視領域を同時に監視することができない。
【0009】
このように、従来の物体検知装置に対して、長辺が短辺に比べて比較的長い長方形状等の監視領域を監視する場合に、障害物による監視不可能な領域を極力狭くでき、全監視領域に電波を送信でき、全監視領域を同時に監視でき、低コストで、簡単なシステム構成からなる物体検知装置が望まれる。
【0010】
また、物体検知装置は、物体の有無と、物体の位置を検知できることが望まれる。
【0011】
特許文献1に記載された物体検知装置は、道路の両側に漏洩伝送路を布設し、一方の漏洩伝送路より電波を放射し、他方の漏洩伝送路にて入射した電波を用いて障害物を検知するものにおいて、スペクトラム拡散された信号を電波として送信し、受信信号の位相を利用して障害物を検知するものである。
【0012】
特許文献2に記載された物体検知装置は、監視領域の両側に漏洩ケーブルを布設し、一方の漏洩ケーブルの一端に送信器を接続し、他方の漏洩ケーブルの同じ一端に受信器を接続し、送信器から周波数の異なる電波を交互に送信し、遅延時間の差異を利用して障害物の二次元位置を特定するものである。
【0013】
特許文献3に記載された物体検知装置は、高周波伝送路の長手方向に離散的に複数のアンテナを設置し、そのアンテナで障害物による反射波を検出するものであり、隣接するアンテナの電波が混信しないように偏波を異ならせることで、障害物の位置を特定することができる。
【0014】
【特許文献1】特開2004−098779号公報
【特許文献2】特開2004−125604号公報
【特許文献3】特開2005−195470号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1の問題点は以下の通りである。
【0016】
障害物が漏洩伝送路の長さ方向のどの位置にあるかを検知することはできるが、漏洩伝送路からの離隔距離を検知することはできない。すなわち、漏洩伝送路に沿った一次元の位置情報しか得られない。
【0017】
また、送信用漏洩伝送路と受信用漏洩伝送路を検知対象領域を挟むようにして離隔して設置する必要があり、確保すべき設置スペースが多いと共に、設置費用が嵩む。
【0018】
特許文献2の問題点は以下の通りである。
【0019】
送信用漏洩ケーブルと受信用漏洩ケーブルを検知対象領域を挟むようにして離隔して設置する必要があり、確保すべき設置スペースが多いと共に、設置費用が嵩む。
【0020】
また、周波数による遅延時間の差は、周波数によりケーブルから出射する角度が異なることを利用しているため、ケーブルから近い2つの位置では同じ周波数差による遅延時間の差が小さくなり、ケーブルからの離隔距離の検知精度が低下する。
【0021】
特許文献3の問題点は以下の通りである。
【0022】
障害物が複数設置したアンテナのどのアンテナ付近にあるかを検知することができるが、アンテナからの離隔距離を検知することはできない。すなわち、長さ方向に設置した複数のアンテナ群に沿った一次元の位置情報しか得られない。
【0023】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、物体の位置を検知する物体検知装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記目的を達成するために本発明は、内部での伝搬速度が異なる複数の信号を長手方向に伝搬し、長手方向に連続的又は離散的箇所から対象空間へ上記複数の信号による複数の電磁波や弾性波等の波を出射する出射用線状アンテナと、該出射用線状アンテナの一端に給電又は給振する送信機と、長手方向に連続的又は離散的箇所にて上記対象空間から上記波を入射し、該波から得た内部での伝搬速度が異なる複数の信号を長手方向に伝搬する入射用線状アンテナと、該入射用線状アンテナの一端より受電又は受振する受信機と、上記送信機から上記受信機へ上記複数の信号を送受信したとき得られる複数の受信信号を記憶する信号記憶部と、上記対象空間中に複数箇所設定された各被検出点における上記波の反射係数を上記複数の受信信号とあらかじめ知られた各被検出点における上記波の結合損失とから算出する反射係数分布算出部と、算出された反射係数が所定値を超える被検出点を物体存在位置と判定する物体存在位置判定部と、を備えたものである。
【0025】
出射用線状アンテナは1本の線状アンテナからなり、入射用線状アンテナは複数本の線状アンテナからなってもよい。
【0026】
上記反射係数分布算出部は、上記被検出点の個数N個以上の受信信号を反射係数と結合損失からなる方程式で表した連立方程式を解いてN個の反射係数を算出してもよい。
【0027】
上記出射用線状アンテナの両端間又は上記入射用線状アンテナの両端間で交互に受給電し、その所要時間を用いて当該線状アンテナの伝搬速度を校正する伝搬速度校正手段を有してもよい。
【0028】
上記出射用及び入射用線状アンテナが上記対象空間の同じ一辺側に布設されてもよい。
【0029】
上記出射用及び入射用線状アンテナがそれぞれ漏洩ケーブルで構成されてもよい。
【0030】
上記出射用及び入射用線状アンテナがそれぞれ伝送ケーブルと該伝送ケーブルに長手方向に間隔を開けて取り付けられた複数の個別アンテナで構成されてもよい。
【0031】
上記対象空間が車両、ロボット等の移動体をループ状に囲む領域であって、上記複数の出射用及び入射用線状アンテナが上記移動体の周囲に布設されてもよい。
【発明の効果】
【0032】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0033】
(1)二次元の位置情報が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0035】
図1に示されるように、本発明に係る物体検知装置1は、内部での伝搬速度が異なる複数の信号を長手方向(x軸方向)に伝搬し、長手方向に連続的又は離散的箇所から所定角度θに対象空間Pへ上記複数の信号による複数の電磁波や弾性波等の波を出射する出射用線状アンテナ2と、該出射用線状アンテナ2の一端に給電又は給振する送信機3と、長手方向(x軸方向)に連続的又は離散的箇所にて上記対象空間Pから所定角度θに上記波を入射し、該波から得た内部での伝搬速度が異なる複数の信号を長手方向に伝搬する入射用線状アンテナ4と、該入射用線状アンテナ4の一端より受電又は受振する受信機5と、上記送信機から上記受信機へ上記複数の信号を送受信したとき得られる複数の受信信号を記憶する信号記憶部6と、上記対象空間P中に複数箇所設定された各被検出点における上記波の反射係数を上記複数の受信信号とあらかじめ知られた各被検出点における上記波の結合損失とから算出する反射係数分布算出部7と、算出された反射係数が所定値を超える被検出点を物体存在位置と判定する物体存在位置判定部8とを備えたものである。
【0036】
以下の説明では、所定角度θを直角方向(y軸方向)として説明する。
【0037】
この実施形態では、線状アンテナ2,4内部を伝搬する信号は電気信号とし、出射用線状アンテナ2から対象空間Pへ出射され対象空間Pから入射用線状アンテナ4に入射される波は電波とする。よって、送信機3は出射用線状アンテナ2に給電し、受信機5は入射用線状アンテナ4から受電する。また、線状アンテナ2,4はそれぞれ1本又は複数本用い、各線状アンテナ2,4は内部での信号の伝搬速度が異なるものとし、上記複数の信号の組み合わせは、1本又は複数本の出射用及び入射用線状アンテナ2,4の組み合わせで実現される。
【0038】
対象空間Pは、説明を簡単にするため、長方形としてある。この対象空間Pの片側の長辺(x軸)に沿わせて出射用線状アンテナ2及び入射用線状アンテナ4が布設される。対象空間Pには位置座標(x,y)を定義する。対象空間Pは、四隅の座標が(0,0)、(X,0)、(X,Y)、(0,Y)の長方形である。例えば、X=10m、Y=4mである場合、位置座標(x,y)は、本来連続値(アナログ)であるが被検出点を定義するため、x軸1m間隔、y軸0.4m間隔の格子状の座標とすることができる。
【0039】
出射用線状アンテナ2及び入射用線状アンテナ4に用いる線状アンテナは、線状に布設でき長手方向連続的又は離散的にアンテナとしての機能を有するものであればよく、ストリップライン、漏洩ケーブルなどが該当する。本実施形態では、1本の線状アンテナを1本の単心漏洩同軸ケーブルで構成する。漏洩同軸ケーブルは、内部導体の周囲に絶縁体を介して外部導体を設け、外部導体に漏洩孔を形成したものである。漏洩孔は長手方向に一定間隔で設けられる。出射用線状アンテナ2及び入射用線状アンテナ4は、複数の漏洩孔による電磁波の放射(出射、入射)方向が一律に対象空間P内を向くように布設される。
【0040】
本発明では、漏洩同軸ケーブルの絶縁体に発泡ポリエチレン、非発泡ポリエチレン、塩化ビニルなどを単独又は複合したものなどを用いることにより、複数本の線状アンテナ2,4において互いに絶縁体の組成が異なる。材料により同じ周波数に対する比誘電率が異なる(発泡ポリエチレン約1.6、非発泡ポリエチレン約2.4、塩化ビニル約8)ので、絶縁体の組成によって同じ周波数に対する比誘電率が異なる。
【0041】
図2に、8本の漏洩同軸ケーブルを用いて、出射用線状アンテナ2を1本、入射用線状アンテナ4を7本設けた形態を示す。8本の漏洩同軸ケーブルを1本に複合一体化した複合漏洩同軸ケーブルにより、1本の出射用線状アンテナ2及び7本の入射用線状アンテナ4が構成される。各線状アンテナ2,4の電磁波放射方向は、それぞれ一方向であり、全て同じ方向に向いている。絶縁体の組成の違いを漏洩同軸ケーブル(線状アンテナ)の符号S1〜S8で表す。絶縁体の組成の違いによって同じ周波数に対する比誘電率が異なることで、線状アンテナ内部での伝搬速度が異なる。よって、符号S1〜S8は伝搬速度と対応している。
【0042】
【表1】

【0043】
ここでは、表1に示すように、漏洩同軸ケーブルS2の伝搬速度は約4×107m/s、漏洩同軸ケーブルS8の伝搬速度は約1.6×108m/sであり、各漏洩同軸ケーブルの伝搬速度はS2の伝搬速度<S3の伝搬速度<…<S8の伝搬速度、S1の伝搬速度=S5の伝搬速度としてある。
【0044】
漏洩同軸ケーブルS1を出射用線状アンテナ2とし、この一端を送信機3に接続し、漏洩同軸ケーブルS2〜S8を入射用線状アンテナ4とし、これらの反対端を受信機5に接続する。
【0045】
図3に、送信機3、受信機5の内部構成と、各線状アンテナ2,4の接続関係を示す。ただし、内部構成に関しては、物体検知のための信号処理回路(図1参照)は省略し、伝搬速度の校正のための回路と信号分配のための回路のみ示す。
【0046】
すなわち、送信機3は、異なる周波数f1〜f4を有する4つの信号を発生する信号発生器F1〜F4と、これら信号発生器F1〜F4を制御する制御部31と、上記4つの信号を合波する合波器32と、漏洩同軸ケーブルS2〜S8から入力される校正用信号を受信する7群の校正用受信部群34a〜34gとを備える。校正用受信部群34aは、周波数f1〜f4で受信信号を分波する分波器41aと、周波数別の信号を受信する4つの校正用受信部42a〜42dとからなる。図中では、校正用受信部群34b〜34gは細部を省略して描かれているが、校正用受信部群34aと同様の構成を有する。
【0047】
一方、受信機5は、漏洩同軸ケーブルS1から入力される校正用信号を受信する校正用受信部35a〜35dと、漏洩同軸ケーブルS2〜S8と後述する分波器37との間で入出力される信号を分配する分配器36と、該分配器36側に1入出力端子が接続され周波数f1〜f4の入出力ポートを有する分波器37と、分波器37に接続された4個の分配器38と、各分配器38にそれぞれ接続された受信部39及び校正用発信部群40とを備える。校正用発信部群40は、4つの周波数f1〜f4に対応して校正用発信部40a,40b,40c,40dを備える。
【0048】
ここで校正について述べておくと、伝搬速度の校正は、使用する周波数、出射用線状アンテナ、入射用線状アンテナの全ての組み合わせで行うことで周波数や線状アンテナの特性を反映させることが理想である。したがって、以下の手順で行うことが理想的である。ただし、装置構成の複雑さとコストの兼ね合いで適宜省略は可能である。
【0049】
送信機3から4種類の周波数f1〜f4で校正用信号を同時に発信して給電すると、各々の校正用信号は出射用線状アンテナ2(漏洩同軸ケーブルS1)を伝搬して受信機5に到達する。
【0050】
校正用受信部35a〜35dでは、それぞれ周波数f1〜f4の校正用信号を受信してから、トリガ信号を校正用発信部群40a〜40dに送信する。校正用発信部40a〜40dは、トリガ信号によりそれぞれ周波数f1、f2、f3、f4に対応した校正用信号を発信する。
【0051】
各校正用発信部40a〜40dから送信された校正用信号は、分配器38、分波器7、分配器36を経由して7本の入用線状アンテナ4(漏洩同軸ケーブルS2〜S8)に給電され、送信機3に到達する。
【0052】
漏洩同軸ケーブルS2から校正用受信部群34aの分波器41aに到達した校正用信号は、分波器41aで周波数f1〜f4に分波され、周波数別に校正用受信部42a〜42dで受信される。他の漏洩同軸ケーブルS2〜S8からの校正用信号も同様である。
【0053】
送信機3にて、送信機3が校正用信号を発信してから受信機5からの校正用信号を受信するまでの時間を各校正用受信部群34a〜34gの校正用受信部ごとに測定する。
【0054】
上記のように伝搬速度の校正(伝送時間の校正でも可)を、使用する周波数と入射用線状アンテナの各組み合わせについて行うために、各校正用受信部群34a〜34gにおいて、受信機5からの校正信号を受信する時間を管理する。これにより、使用する周波数と入射用線状アンテナの組み合わせに対する伝搬速度又は伝送時間を識別して求めることができる。
【0055】
図3の構成において、入射用漏洩同軸ケーブルS2〜S8の伝搬速度は、物体からの反射波(図1参照)が同時に受信機5で受信される該物体の座標を結ぶ直線の傾きの差がほぼ一定となるのが好ましい。よって、漏洩同軸ケーブルSi(i=2,3,…,7)の伝搬速度と漏洩同軸ケーブルSi+1の伝搬速度との関係が式(1)となるよう絶縁体の組成を設定する。
【0056】
i=vi+1^((vmin/vmax)^(1/(本数−1)))
(1)
i;漏洩同軸ケーブルSiの伝搬速度
本数;漏洩同軸ケーブルの本数
max;伝搬速度の最大値
min;伝搬速度の最小値
演算記号の^は、べき乗を表す
このようにして設計した7本の入射用漏洩同軸ケーブルS2〜S8の伝搬速度が表1に示してある。なお、出射用漏洩同軸ケーブルS1の伝搬速度はS2〜S5の伝搬速度範囲付近であればどのような速度であってもよいが、ここではS5と同じに設定した場合について説明する。
【0057】
この構成において、物体からの反射波が同時に受信される場合に、物体の座標がxy平面上でなす直線の傾きを表2に示す。ただし、周波数は1種類とする。
【0058】
【表2】

【0059】
なお、出射用線状アンテナ2の伝搬速度をvtとし、入射用線状アンテナ4の伝搬速度をvrとすると、物体があった場合にその物体からの反射波が同時に受信される座標の集合がなす直線の傾きは(vt−vr)/(vt×vr)である。
【0060】
直線の傾きが最も小さい場合は入射用漏洩同軸ケーブルS2を用いる場合であるが、この場合の直線をxy平面(対象空間Pに対応)に描くと図4のようになる。パラメータは時刻である。図示のように、xy平面の左下隅、すなわち、発信機3に近く、線状アンテナ2,4に近いほど反射波が早く受信される。
【0061】
また、傾きが最も大きい入射用漏洩同軸ケーブルS7を用いた場合の直線をxy平面(対象空間Pに対応)に描くと図5のようになる。パラメータは時刻である。図示のように、xy平面の右下隅、すなわち、受信機5に近く、線状アンテナ2,4に近いほど反射波が早く受信される。
【0062】
以下、本発明の物体検知装置1の原理と動作を説明する。
【0063】
図6に示されるように、送信機3に接続した出射用線状アンテナ2から直角方向に放射された電波が物体Oに当たると、反射波が生じ、その一部は入射用線状アンテナ4に入射する。受信機5において物体Oからの反射波を受信し、物体Oの有無を検知すると共に、その位置を特定するのが、本発明の目的である。
【0064】
なお、本発明では、対象空間P中に設定した各監視点(図1におけるx軸1m間隔、y軸0.4m間隔で格子状に配置した座標点)での反射情報を独立に検出可能である。したがって、図6のように対象空間Pに3つの物体Oが存在するとき、これら3個の物体Oの有無とそれらの位置を同時に検知することができる。
【0065】
線状アンテナ2,4の長手方向にx軸を想定し、直角方向にy軸を想定し、対象空間P(x=0〜X,y=0〜Y)内に複数個の被検出点(x(i),y(j)),i=1,2,…,I、j=1,2,…,J、I=J)を設定する。基準時間から一定時間の範囲にわたり、所定のサンプリング時間間隔でサンプリングした受信信号の組を用いて、各被検出点における情報の大きさを求めるものとする。ここで、情報とは反射係数であり、反射係数が所定値を超える被検出点には物体Oが存在すると判定するための情報である。
【0066】
送信機3から出射用線状アンテナ(漏洩同軸ケーブル)2に送出(給電)された信号は、出射用線状アンテナ2の長手方向に伝搬しつつ、その長手方向の離散的箇所から直角方向に出射される。その電波が物体Oで反射され、反射波が入射用線状アンテナ(漏洩同軸ケーブル)4に入射する。受信機5では、複数の被検出点からの反射波を同時に受信する。そこで、送受信条件を変えた送受信を被検出点の個数N(=I×J)回以上行い、N個以上の受信信号を得る。これらN個以上の受信信号は、N個以上の独立した方程式となる。これらの連立方程式を解くことにより、各被検出点の情報(反射係数)を求めることができる。送受信条件を変えて複数回の送受信を行って得られた受信信号は、式(2)で表される。
【0067】
M(k)=ΣΣAij(k)・R(xi,yj)
Aij(k);座標(xi,yj)における信号の結合損失(送信〜受信)であ り、計算などによりあらかじめ求めておく
(結合損失Aijは、k番目の条件で受信される位置(i,j) の場合以外は0となる)
R(xi,yj);座標(xi,yj)における反射係数であり、本発明で求め ようとしている連立方程式の未知数
M(k);k番目の受信信号であり、k=1〜K
(2)
上式(2)のR(xi,yj)の求め方をI=2,J=2の場合につき、以下に説明する。
【0068】
M(1)={A11(1)×R11+A12(1)×R21}
+{A11(1)×R12+A12(1)×R22}
+{A21(1)×R11+A22(1)×R21}
+{A21(1)×R12+A22(1)×R22}
={A11(1)+A21(1)}×R11
+{A11(1)+A21(1)}×R12
+{A12(1)+A22(1)}×R21
+{A12(1)+A22(1)}×R22
M(2)={A11(2)+A21(2)}×R11
+{A11(2)+A21(2)}×R12
+{A12(2)+A22(2)}×R21
+{A12(2)+A22(2)}×R22
M(3)={A11(3)+A21(3)}×R11
+{A11(3)+A21(3)}×R12
+{A12(3)+A22(3)}×R21
+{A12(3)+A22(3)}×R22
M(4)={A11(4)+A21(4)}×R11
+{A11(4)+A21(4)}×R12
+{A12(4)+A22(4)}×R21
+{A12(4)+A22(4)}×R22
故に、
M(k)={A11(k)+A21(k)}×R11
+{A11(k)+A21(k)}×R12
+{A12(k)+A22(k)}×R21
+{A12(k)+A22(k)}×R22
ここで、
B11(k)=A11(k)+A21(k)
B12(k)=A11(k)+A21(k)
B13(k)=A12(k)+A22(k)
B14(k)=A12(k)+A22(k)
とおくと、
M(k)=B11(k)×R11
+B12(k)×R12
+B13(k)×R21
+B14(k)×R22
故に、
【0069】
【数1】

【0070】
となり、行列Bが正則行列であれば、
R=B-1×M (4)
となる。I=2,J=2以外でも、I=Jとなるように対象空間Pの座標を設定すれば、同様となる。
【0071】
求めようとする被検出点の個数N=I×Jと同じ回数N回以上異なる条件で測定を行い、行列Bが正則でBが既知であれば、式(4)により反射係数行列R(各被検出点の反射係数R(xi,yj))を求めることができる。
【0072】
送受信条件(伝搬速度の組み合わせや信号の周波数)によっては、行列Bの要素に0が多く含まれるために正則にならない場合がある。送受信条件を増やすことにより0となる要素を減らすことができるので、行列Bが正則となるように送受信条件をふやして測定を行うことで対応できる。
【0073】
図7に、対象空間Pにおける座標x,yでの反射係数R(x,y)の定義イメージを示す。
【0074】
送信機3から送出(給電)する信号は、パルス状に時間が制限された周波数Fの正弦波とする。すなわち、図8に示されるように、時間幅Δtのパルス時間内に周波数Fの信号を送出する。パルスの立ち上がり時刻を時間計測の開始時刻0とする。この信号が、送信機3から距離xの点で出射用線状アンテナ2からy軸方向に出射され、座標(x,y)で反射され、距離xの点で入射用線状アンテナ4に入射し、時刻tに受信機5に到達する。x.y,tの関係は、次式(5)のように表すことができる。
【0075】
t=x/vxt+2×y/vy+(L−x)/vxr
t;信号送出から受信信号サンプリングまでの時間
L;送信機から受信機までのアンテナ長
vxt;出射用線状アンテナにおける伝搬速度
vxr;入射用線状アンテナにおける伝搬速度
vy;対象空間における電磁波伝搬速度
(真空中の光速 3×108m/sとする)
(5)
式(5)を変形すると、
y=(vy×(vxt−vxr)/(2×vxt×vxr))×x
+vy×(t−L/vxr)/2
(6)
となる。つまり、図9に示されるように、xy平面で式(6)で表される直線91上にある被検出点からの反射波が同一時刻tに受信される。時刻tが遅いと、この直線は図示右上に移動し、直線92,93となる。なお、この図はvxt<vxrの場合を示している。
【0076】
受信機5においては、継続して受信を行うので、対象空間P内の各被検出点からの反射波が相次いで受信され、図10に示すような連続的な受信信号101が得られる。ある瞬時tにおける受信信号101の値は、図9の1つの直線(例えば、直線91)上の全ての被検出点で生じた反射波の合計である。図10中のM(t)は、
M(t)=∫A(x,y)・R(x,y)dx
M(t);時刻tでの受信信号
A;座標(x,y)における信号の結合損失(送信〜受信)
R(x,y);座標(x,y)における反射係数
y;式(6)にしたがい、x,tに依存して決まる
(7)
で表すことができる。
【0077】
次に、受信信号を離散情報として扱うために、図10の受信信号101をサンプリング時間間隔Δtでサンプリングするものとする。図9に示した1つの直線上の全ての被検出点で生じた反射波を同時に受信するので、x,yに関しては離散値扱いにはならない。図10中のサンプル値M(k)は、
M(k)=∫A(x,y) ・R(x,y)dx
M(k);k番目にサンプリングした受信信号
x,y;式(6)にしたがう
t=k×Δt
(8)
で表すことができる。
【0078】
次に、対象空間Pの座標をx=0〜xI、y=0〜yJで表す。xIは、受信機5の直前の位置を表す。yJは、結合係数が所定値A0以下となる直前の位置を表す。これはyが大きくなると、空間伝搬損失が増えるので結合損失が小さくなることによる。
【0079】
対象空間P内の反射係数を求める座標点(被検出点)を、対象空間Pのx軸全長をI等分したxi(i=0,1,2,…,I)と、対象空間Pのy軸全長をJ等分したyj(j=0,1,2,…,J)とを用いて表す。ただし、I=J
yは、xiを用いて下式(9)で表される。
【0080】
y=vy・(vxt−vtr)/(2・vxt・vxr))・xi
+vy・ (t−L/vxr)/2、
t=k×Δt
(9)
しかし、一般的には、図11に示されるように、yはyiとは異なる。このため、このままでは、座標点(被検出点)における反射係数R(xi,yj)、結合係数A(xi,yj)を式(9)に導入できない。そこで、互いに隣接し合うyi間では反射係数と結合係数が直線的に変化すると仮定して、反射係数と結合係数をそれぞれ式(10)、式(11)で表す。
【0081】
R(xi,y)=R(xi,yj)+R(xi,yj+1−yj)×
(y−yj)/(yj+1−yj)、
yj≦y≦yj+1≦yJ
R(xi,y)=0、
yj>yJ
(10)
A(xi,y)=A(xi,yj)+A(xi,yj+1−yj)×
(y−yj)/(yj+1−yj)、
yj≦y≦yj+1≦yJ
A(xi,y)=0、
yj>yJ
(11)
上式(10)、式(11)の考え方のうち反射係数について、図11に示す。ある座標で生じた反射波を時刻t=k×Δtに同時に受信するような該座標を通る直線(そのような座標の集合からなる線)が座標(xi,0)に立てた垂線と交わる座標のy成分がy(xi)であり、その座標を(xi,y)と表す。反射係数R(xi,y)は、座標(xi,yj+1)における反射係数R(xi,yj+1)と座標(xi,yj)における反射係数R(xi,yj)とから内挿により求める。よって、上式(10)が得られる。
【0082】
結合係数については、考え方が反射係数と同様であるので、図示、説明を省く。
【0083】
これらの変換方法に基づいて式(8)を書き換えると、式(12)となる。
【0084】
M(k)=ΣA(xi,y)×R(xi,y)
=f{A(xi,yj)×R(xi,yj)}
i=1,2,I
(12)
すなわち、k番目の受信信号M(k)は、対象空間Pに設定した座標点(被検出点)における結合係数と反射係数との積として表すことができる。
【0085】
次に、異なる送受信条件で信号を送受信することについて説明する。
【0086】
送受信条件のひとつは伝搬速度の組み合わせである。
【0087】
出射用線状アンテナ2及び入射用線状アンテナ4として用いている漏洩同軸ケーブルの絶縁体の誘電率を変えると、漏洩同軸ケーブルの単位長さあたりの静電容量を変えることができる。一方、漏洩同軸ケーブルにおける伝搬速度vは下式(13)で表される。よって、絶縁体の誘電率を変えることで伝搬速度vxt,vxrを変えることができる。
【0088】
v=(C×L)-0.5
v;漏洩同軸ケーブルにおける伝搬速度
C;漏洩同軸ケーブルの単位長あたりの容量
L;漏洩同軸ケーブルの単位長あたりのインダクタンス
(13)
出射用線状アンテナ2と複数本の入射用線状アンテナ4について、絶縁体の組成が異なる組み合わせを作ることで、出射用線状アンテナ2における伝搬速度vxtと入射用線状アンテナ4における伝搬速度vxrとの組み合わせが異なると複数の送受信条件を作ることができる。
【0089】
vxt>vxrである場合、図12に示されるように、xy平面で傾きが正の直線121上にある被検出点からの反射波が同一時刻に受信される。時刻tを大きくとると、直線122,123のように被検出点の集合が異なってくる。
【0090】
vxt=vxrである場合、図示しないがx軸と平行な直線上にある被検出点からの反射波が同一時刻に受信される。
【0091】
vxt<vxrである場合、図13に示されるように、xy平面で傾きが負の直線131上にある被検出点からの反射波が同一時刻に受信される。時刻tを大きくとると、直線132,133のように被検出点の集合が異なってくる。
【0092】
以上のように、絶縁体の誘電率が異なる漏洩同軸ケーブルを用いて複数の線状アンテナ2,4を構成することにより、伝搬速度の組み合わせが異なる複数の送受信条件を実現できる。これら送受信条件の異なる送受信により、反射係数を求めるための連立方程式を増やすことができる。
【0093】
具体的には、一般的な絶縁体材料の比誘電率は、発泡ポリエチレン約1.6、非発泡ポリエチレン約2.4、塩化ビニル約8である。これらを絶縁体に用いた漏洩同軸ケーブルの伝搬速度は、4×107〜2×108m/sである。
【0094】
送受信条件として周波数がある。
【0095】
信号の周波数を変えると、誘電率の周波数依存性により、伝搬速度を変えることができる。同一の物体検知装置1において、信号の周波数を高くすると、出射用線状アンテナ2における伝搬速度vxtも入射用線状アンテナ4における伝搬速度vxrもほぼ同じ比率で増加し、この結果、式(6)より、y切片が大きくなり、傾きが小さくなる。
【0096】
y=vy・(vxt−vxr)/(2・vxt・vxr))・
x+vy・ (t−L/vxr)/2
(6再掲)
図14に示されるように、vxt>vxrである場合に、反射波が同一時刻に受信される被検出点による直線141があるとき、vxt,vxrをそれぞれ大きくすると、反射波が同一時刻に受信される別の被検出点による直線142が得られる。
【0097】
図15に示されるように、vxt<vxrである場合に、反射波が同一時刻に受信される被検出点による直線151があるとき、vxt,vxrをそれぞれ大きくすると、反射波が同一時刻に受信される別の被検出点による直線152が得られる。
【0098】
このように、信号の周波数を異ならせることにより、同一時刻に反射を受信できる被検出点による直線を異ならせることができ、これによっても、反射係数を求めるための連立方程式を増やすことができる。
【0099】
伝搬速度の組み合わせと信号の周波数とを併用することで、連立方程式の次数を増やすことができる。つまり、伝搬速度の異なる入射用線状アンテナの本数n1と、信号の周波数の数n2とにより、連立方程式の次数を最大n1×n2とすることができる。これによって離散的な被検出点の個数を増やして空間分解能を上げることができる。
【0100】
このようにして、xy平面における反射係数分布を求める手法は、CT(Computerized Tomography)に類似しているので、CTの手法を利用することも考えられる。
【0101】
以上説明したように、本発明は、出射用線状アンテナ2及び複数の入射用線状アンテナ4の組み合わせ、及び信号周波数の組み合わせで送信機3から受信機5へ信号を送受信したとき得られる複数の受信信号を信号記憶部6に記憶しておき、反射係数分布算出部7において、対象空間P中に複数箇所設定された各被検出点における電波の反射係数R(x,y)を上記複数の受信信号とあらかじめ知られた各被検出点における電波の結合損失とから算出し、算出された反射係数が所定値を超える被検出点について物体存在位置判定部8がこの被検出点を物体存在位置と判定する。被検出点の個数がNのとき、N個以上の受信信号からN以上の連立方程式を得て、これを解くことにより、各被検出点の反射係数が求まる。
【0102】
本発明は、従来技術との構成上の相違点として、
・線状アンテナ内での伝搬速度の差を利用する
・入射用線状アンテナとしてそれぞれ伝搬速度の異なる複数本の線状アンテナを布設する・出射用線状アンテナとして、複数の入射用線状アンテナの伝搬速度範囲付近の伝搬速度の線状アンテナを1本布設する。
・周波数の異なる複数の信号を用いる
・出射用線状アンテナ、入射用線状アンテナを監視範囲Pの片側の辺に沿わせて布設する・送受信の組み合わせ(出射用線状アンテナ、入射用線状アンテナ、周波数の組み合わせ)で複数の受信信号を得る
・N個の被検出点を設定する
などの特徴を有する。
【0103】
これにより、本発明は、被検出点を線状アンテナの長手方向だけでなく、線状アンテナの直角方向にも設定し、物体の位置を二次元的に検知することができる。
【0104】
また、本発明は、線状アンテナから直角方向の離隔距離によらず検出精度が低下しない。
【0105】
また、本発明は、出射・入射の線状アンテナを監視範囲Pの片側に布設すればよいので、布設が容易である。
【0106】
次に、温度補償について述べる。
【0107】
線状アンテナ2,4の静電容量は、温度によっても変化するので、温度の影響を受けないようにするために、温度補償を行うとよい。すなわち、線状アンテナ2,4の静電容量の変化により、伝搬速度が変わるので、長さが既知の線状アンテナについて、線状アンテナ2,4で送受信する信号と同じ周波数の信号が伝搬する時間を別途に測定することで、温度の影響を補償する。
【0108】
具体的には、送信機3から送信機3に接続されている出射用線状アンテナ2に信号を送信し、出射用線状アンテナ2の遠端で反射した信号が送信機3に戻るまでの時間を送信機3で測定するという方法がある。
【0109】
図16に示されるように、出射用線状アンテナ2の遠端を受信機5に接続し、入射用線状アンテナ4の遠端(送信機側)を送信機3に接続する。この構成において、送信機3が送信した信号を受信機5が受信した後、一定時間tz2後に、受信機5が伝搬時間校正用信号を送出する。送信機3では、伝搬時間校正用信号を受信した時刻を用いて伝搬速度を校正する。これにより、出射用線状アンテナ2の全長と入射用線状アンテナ4の全長の合計を信号が伝搬する時間を測定する。
【0110】
上記校正による伝搬速度算出は以下の手順で行う。
【0111】
送信機3から信号を送信してから受信機5から送られてくる校正用信号を受信するまでの時間tzは、校正用信号が線状アンテナを往復する時間tz1+tz3と受信機5が校正用信号を送り返す際の待ち時間tz2との合計になる。待ち時間tz2は、あらかじめ把握できるので、時間tz1+tz3を求めることができる。線状アンテナの長さLを既知とすれば、線状アンテナの伝搬速度はv=2L/(tz1+tz3)として求めることができる。温度による伝搬速度の変化を校正するためには標準温度(例えば25℃)での伝搬速度v0に対する実際の伝搬速度vの比v/v0を用いる。式(8)用いるサンプリング時間間隔Δtの代わりに、Δt♯=Δt/(v/v0)を用いることで伝搬速度が速くなった場合は、その比率でサンプリング時間間隔を短くすることができるため、温度による伝搬速度変化を校正して測定が行える。
【0112】
このように、本発明は、周囲温度に対して温度補償ができるため、周囲温度変化によって位置検知精度が低下することがない。
【0113】
次に、検出精度について述べる。
【0114】
検出精度向上のためには、受信信号のS/Nを良くするのがよい。受信信号のS/Nを良くするためには、平均化処理を行うとよい。k番目(k=1,2,3,…)の受信信号M(k)を得るための送受信をp回行うものとすると、式(14)が得られる。
【0115】
M(k,p)=ΣA(xi,y)×R(xi,y)
i=1,2,…,I
p=1,2,…
(14)
これらを同じkに対して平均化すると、式(15)が得られる。
【0116】
Ma(k)=ΣM(k,p)/p
p=1,2,…
(15)
これにより、検出精度(S/N)を√pに比例して向上させることができる。
【0117】
次に、空間分解能の向上について述べる。
【0118】
送受信する信号として、電波ではなく弾性波を使用すると、電磁波伝搬速度が約3×108m/sであるのに対して、弾性波の一種である音波の空気中の伝搬速度は約340m/sと伝搬速度が遅いので、伝搬速度に反比例して空間分解能を向上させることができる。
【0119】
弾性波を伝搬させる線状アンテナとしては、金属、プラスチック等を用いることができる。弾性波の伝搬速度Vは、V=(K/ρ)1/2、(Kは剛性率、ρは密度)と表される。したがって、線状アンテナの剛性率や密度を変えることにより線状アンテナにおける弾性波の伝搬速度を変えることができる。例えば、鉄鋼の弾性率は78〜84GPa、黄銅は4.1GPa、ゴムは0.5〜1.5MPaであるから、これら弾性率の異なる材料で作成した複数種類の線状アンテナを用いることができる。例えば、弾性率0.5MPaのゴム製のアンテナと弾性率1.5MPaのゴム製のアンテナと弾性率4.1GPaの黄銅製のアンテナと弾性率84GPaの鉄鋼製のアンテナを用いる。
【0120】
次に、他の実施形態を説明する。
【0121】
送信機と受信機を同一場所に置く構成でも本発明は実施できる。図17に示されるように、本発明に係る物体検知装置181は、対象空間Pの片側の長辺(x軸)に沿わせて出射用線状アンテナ2及び入射用線状アンテナ4が布設され、出射用線状アンテナ2と入射用線状アンテナ4の同じ側の一端に送信機3と受信機5がそれぞれ接続される。他の構成は図1の物体検知装置1に準じる。
【0122】
送信機3から送出された信号は、出射用線状アンテナ2を伝搬し、この出射用線状アンテナ2から直角方向に電波が出射される。物体で反射した電波は入射用線状アンテナ4に直角に入射し、その信号が入射用線状アンテナ4を伝搬して受信機5に受信される。
【0123】
この場合、受信時間tは式(16)で表される。
【0124】
t=x/vx t+2・y/vy+x/vxr
t;信号送出から受信信号サンプリングまでの時間
vxt;出射用線状アンテナ2の伝搬速度
vxr;入射用線状アンテナ4の伝搬速度
(16)
同一時刻に反射波が受信される被検出点は、式(16)を変形した式(17)で表される。
【0125】
y=vy・(vst+vxr)/(2・vxt・vxr))・x
+vy・t/12
(17)
図18に示されるように、xy平面で式(17)で表される直線191上にある被検出点からの反射波が同一時刻tに受信される。時刻tが遅いと、この直線は図示右上に移動し、直線192,193となる。
【0126】
図19に示されるように、反射波が同一時刻に受信される被検出点による直線201があるとき、vxt,vxrをそれぞれ大きくすると、反射波が同一時刻に受信される別の被検出点による直線202が得られる。
【0127】
図1、図17の物体検知装置1,181では、線状アンテナ2,4として漏洩同軸ケーブルを用いたが、線状に布設でき、アンテナとしての機能を有するものであれば、漏洩同軸ケーブル以外のものを用いてもよい。例えば、ストリップラインとして作製したアンテナを用いてもよい。
【0128】
図1、図17の物体検知装置1,181では、線状アンテナ2,4を対象空間Pの片側の長辺に沿わせて布設したが、対象空間P内に布設してもよい。例えば、図20に示されるように、対象空間Pのほぼ中央を横切る線上に線状アンテナ2,4を布設する。線状アンテナ2,4には、電波の出射・入射方向が2方向(+90度と−90度)のものを用いる。
【0129】
この構成では、線状アンテナ2,4の+90度方向と−90度方向で線状アンテナ2,4からの距離が同じ被検出点は、区別できないが、線状アンテナ2,4の布設経路に自由度が増す利点がある。
【0130】
図1、図17の物体検知装置1,181では、線状アンテナ2,4として漏洩同軸ケーブルを用いたが、線状アンテナは伝送ケーブルと個別アンテナで構成してもよい。図21に示されるように、この物体検知装置221は、長手方向(x軸方向)に信号を伝送する複数の出射用伝送ケーブル222aと、その伝送ケーブル222aの離散的箇所に設置されて直角方向(y軸方向)に対象空間Pへ電波を出射する出射用個別アンテナ222bと、これら複数の出射用伝送ケーブル222aの一端に分配器223bを介して給電する送信機223aと、長手方向(x軸方向)の離散的箇所に設置されて対象空間Pから直角方向(y軸方向)に電波を入射する入射用個別アンテナ224bと、長手方向(x軸方向)に信号を伝送する複数の入射用伝送ケーブル224aと、これら複数の入射用伝送ケーブル224aの一端より分配器225bを介して受電する受信機225aとを備える。
【0131】
図示省略したが、物体検知装置1の信号記憶部6、反射係数分布算出部7、物体存在位置判定部8に相当する部材も備えるものとする。各伝送ケーブル222a,224aにおける信号の伝搬速度は、これまでに述べたものに準じるものとする。
【0132】
この構成は、複数の個別アンテナ222b,224bを直列、並列、あるいは直並列に接続したものである。複数の個別アンテナを分配器を介して直列に接続すると、分配器における伝搬損失が分配器の個数分生じるが、並列構成を併用して送受信経路の伝搬損失を最適化して低減化することができる。
【0133】
ここまでは、線状アンテナを直線状に布設する形態を説明したが、線状アンテナはループ状等の任意形状に布設することができる。
【0134】
図22に示されるように、この物体検知装置231は、自動車232の周囲にこれまで述べたような漏洩同軸ケーブル等からなる線状アンテナ233を布設し、自動車232の外方に電波が出射されると共に、自動車232の外方からの電波が入射するようにしたものである。物体からの反射波を受信することにより、自動車232の周囲に運転の障害となる障害物があるかどうかを判定すると共に、その障害物の位置を特定することができる。
【0135】
このように、対象空間Pが車両、ロボット等の移動体(ここでは自動車232)をループ状に囲む領域であって、線状アンテナ233が上記移動体の周囲に布設されてもよい。この構成の場合、出射用線状アンテナ2の一端に送信機3を接続し、入射用線状アンテナ4の反対端に受信機5を接続する形態であっても、送信機3と受信機5を同じ位置に配置することができ、図22に示されるように、検出器234の中に送信機3と受信機5を収容し、信号入出力の配線を少なくすることができる。
【0136】
従来の自動車では、周囲状況監視(障害物検出)のために電磁波の1種であるミリ波を用いたミリ波レーダや弾性波の1種である超音波を用いた超音波レーダが知られているが、これらの装置では監視範囲が限られている。また、カメラでの画像撮影による監視も行われているが、目視確認が必要であったり、自動認識を行う場合でも物体が障害となるかどうかの判定が困難である場合があり、駐車場内等で車両近くにいる人を検出するには監視範囲が不十分であり、改善が望まれている。
【0137】
このような用途に本発明を適用すると、車両の全周囲を監視することが可能になり、事故防止に貢献できる。この場合、本発明の物体検知装置で物体の検知を知らせ、最終的には直接目で確認したり画像で確認することが有効と考えられる。
【0138】
線状アンテナ233を布設する位置としては、車両周囲の下端や上端であれば、ドアやトランク等の開閉の障害にならない。車両近傍の監視を主目的とした場合、複数の超音波レーダを直列、並列、あるいは直並列に接続する方式でも適用可能である。
【0139】
自動車以外では、例えば、自走式ロボット、固定式ロボットの可動部周囲に線状アンテナを布設して本発明を実施すれば、これらロボットの移動・運動の障害となる物体の検知を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】本発明の一実施形態を示す物体検知装置の構成図兼配置平面図である。
【図2】図1の物体検知装置に用いる出射用線状アンテナ及び入射用線状アンテナの配置を示した立面断面図である。
【図3】図1の物体検知装置に用いる送信機及び受信機の相互接続及び内部構成図である。
【図4】反射波が同時に受信される座標からなる直線を示すxy平面図である。
【図5】反射波が同時に受信される座標からなる直線を示すxy平面図である。
【図6】本発明の物体検知装置の概念図である。
【図7】反射係数R(x,y)を定義するxy平面図である。
【図8】送信機から送出する信号の時間幅を示す図である。
【図9】反射波が同時に受信される座標からなる直線を示すxy平面図である。
【図10】受信信号の時間的変化を示す図である。
【図11】反射波がある時刻に受信される座標を離散化して反射係数を求める方法を説明するためのxy平面図である。
【図12】反射波が同時に受信される座標からなる直線を示すxy平面図である。
【図13】反射波が同時に受信される座標からなる直線を示すxy平面図である。
【図14】反射波が同時に受信される座標からなる直線を示すxy平面図である。
【図15】反射波が同時に受信される座標からなる直線を示すxy平面図である。
【図16】本発明において伝搬時間測定(校正)を行うときの物体検知装置の構成図である。
【図17】本発明において送信機と受信機を同一端に配置するときの物体検知装置の構成図である。
【図18】図17の構成における反射波が同時に受信される座標からなる直線を示すxy平面図である。
【図19】図17の構成における反射波が同時に受信される座標からなる直線を示すxy平面図である。
【図20】本発明において線状アンテナを対象空間内に布設した物体検知装置の概念図である。
【図21】本発明において線状アンテナを伝送ケーブルと個別アンテナで構成した物体検知装置の構成図である。
【図22】本発明において線状アンテナを移動体の周囲に布設した物体検知装置の概念図である。
【図23】従来のレーダの概念図である。
【図24】従来のレーダを細長い監視範囲に適用した平面図である。
【符号の説明】
【0141】
1 物体検知装置
2 出射用線状アンテナ
3 送信機
4 入射用線状アンテナ
5 受信機
6 信号記憶部
7 反射係数分布算出部
8 物体存在位置判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部での伝搬速度が異なる複数の信号を長手方向に伝搬し、長手方向に連続的又は離散的箇所から対象空間へ上記複数の信号による複数の電磁波や弾性波等の波を出射する出射用線状アンテナと、
該出射用線状アンテナの一端に給電又は給振する送信機と、
長手方向に連続的又は離散的箇所にて上記対象空間から上記波を入射し、該波から得た内部での伝搬速度が異なる複数の信号を長手方向に伝搬する入射用線状アンテナと、
該入射用線状アンテナの一端より受電又は受振する受信機と、
上記送信機から上記受信機へ上記複数の信号を送受信したとき得られる複数の受信信号を記憶する信号記憶部と、
上記対象空間中に複数箇所設定された各被検出点における上記波の反射係数を上記複数の受信信号とあらかじめ知られた各被検出点における上記波の結合損失とから算出する反射係数分布算出部と、
算出された反射係数が所定値を超える被検出点を物体存在位置と判定する物体存在位置判定部と、
を備えたことを特徴とする物体検知装置。
【請求項2】
出射用線状アンテナは1本の線状アンテナからなり、入射用線状アンテナは複数本の線状アンテナからなることを特徴とする請求項1記載の物体検知装置。
【請求項3】
上記反射係数分布算出部は、上記被検出点の個数N個以上の受信信号を反射係数と結合損失からなる方程式で表した連立方程式を解いてN個の反射係数を算出することを特徴とする請求項1記載の物体検知装置。
【請求項4】
上記出射用線状アンテナの両端間又は上記入射用線状アンテナの両端間で交互に受給電し、その所要時間を用いて当該線状アンテナの伝搬速度を校正する伝搬速度校正手段を有することを特徴とする請求項1記載の物体検知装置。
【請求項5】
上記出射用及び入射用線状アンテナが上記対象空間の同じ一辺側に布設されることを特徴とする請求項1記載の物体検知装置。
【請求項6】
上記出射用及び入射用線状アンテナがそれぞれ漏洩ケーブルで構成されることを特徴とする請求項1記載の物体検知装置。
【請求項7】
上記出射用及び入射用線状アンテナがそれぞれ伝送ケーブルと該伝送ケーブルに長手方向に間隔を開けて取り付けられた複数の個別アンテナで構成されることを特徴とする請求項1記載の物体検知装置。
【請求項8】
上記対象空間が車両、ロボット等の移動体をループ状に囲む領域であって、上記複数の出射用及び入射用線状アンテナが上記移動体の周囲に布設されることを特徴とする請求項1記載の物体検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2009−156591(P2009−156591A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−331782(P2007−331782)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】