説明

狭域通信システム、狭域通信車載器、送信機および移動体用受信機

【課題】通信対象の方向が相対的に変化したとしても送信機が情報を安定して伝達できるようにすると共に、移動体が通信対象を的確に絞って情報を受信できるようにする。
【解決手段】狭指向特性のアンテナを適用して車両C1の後方から情報を受信する。広指向特性のアンテナを適用して車両C1の前方に情報を送信する。すると、車両C1後方の情報送信車両C3〜C4の存在方向を認識することができる。また、電界強度を測定することで車両C1後方の情報送信車両C3〜C4の距離の認識に利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DSRC(Dedicated Short Range Communication)技術を用いた狭域通信システム、狭域通信車載器、送信機および移動体用受信機に関する。
【背景技術】
【0002】
DSRC技術は、現在、5.8GHz帯域を用いた狭域通信システムとしてETCシステムが自動車交通における利便性向上のため用いられている。近年では、ガソリンスタンドや駐車場、高速道路などの料金自動収受システムや次世代VICS(登録商標)システムなどへの応用が検討されている。この種の通信技術は、車車間等の移動体通信技術として広く検討されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に開示されている技術によれば、車両の周囲に複数の通信モジュールを設け、限定的な車両同士で情報交換を可能としている。
【特許文献1】特開2005−117427号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
例えば、狭域通信により得た多様な情報を利用して運転支援を行うシステムにおいて、接近する障害物を回避する方向を指示する等の場合には、通信対象の位置を知る必要がある。しかしながら、従来の狭域通信技術では、指向性を広く設定すると、通信有効範囲に複数の通信可能な機器が存在する場合、送信された情報が通信範囲内の何れの方向の機器から送信されてきた情報であるかを判別することが困難であるという問題点があった。一方、指向性を狭めた場合は、移動体が移動すると、通信対象との距離と方向が相対的に変化するため、送信機が情報を送信したとしても情報を的確に伝達できないという不具合を生じる虞があった。
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、通信対象の方向が相対的に変化したとしても送信機が情報を安定して伝達できるようにすると共に、通信対象からの情報を物理的位置と紐付けて利用することが可能となるような狭域通信システムと当該システムに用いられる狭域通信車載器、送信機および移動体用受信機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明によれば、送信機が第2角度レベルよりも広い第1角度レベルの水平方向の指向性角度で電波信号を送信するため、より広い範囲の通信対象に情報を送信することができ、通信対象の方向が相対的に変化したとしても情報を安定して伝達できるようになる。しかも、移動体用受信機が第1角度レベルよりも狭い第2角度レベルの水平方向の指向性角度で電波信号を受信するため、移動体用受信機は、より狭い範囲に絞って通信対象からの情報を受信することができる。これにより移動体受信機は通信対象の方向を判別し、それからの情報をその物理的位置と紐付けて利用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態について図面を参照しながら説明する。車両Cには、狭域通信車載器(DSRC車載器)1が搭載されている。車両内において、狭域通信車載器1は、車両Cの車室内の前部と後部とにそれぞれ1個ずつのアンテナユニットを具備している。狭域通信車載器1は、所謂アンテナ分離型のユニットが組み合わされることによって構成されている。
【0007】
図1は、狭域通信車載器の電気的構成ブロックを概略的に示している。また図2は、車両に設置されるアンテナの形態とその指向性を模式的に示しており、車両間の通信形態を模式的に表している。
【0008】
図1に示すように、狭域通信車載器1は、無線通信用の送信機2と受信機3とを具備し、データ処理部Aによってデータを処理するように構成されている。送信機2は、電波信号を送信するためのデータ送信部4と送信アンテナ5とを備え、データ送信部4がデータを変調し、車両前方に向けて電波信号によって送信アンテナ5を通じて送信するようになっている(送信方向は図2参照)。尚、狭域通信車載器1には、図示しない表示装置やスピーカ(音出力装置)などが搭載されている。
【0009】
電波信号の変調用データは、送信機2が搭載された車両の種別、属性(一般車両、緊急車両などの分類カテゴリ情報や車種情報)を含む情報でも良いし、また、車両の速度情報や、アクセルの開度情報、ブレーキの操作量情報やハンドル舵角情報などの車両運行情報を含んでいても良い。また、これらに付加した情報として、例えば、救急車(緊急車両)が送信する情報の場合には「疾病者運搬中のため直進進路開放要求」などを示す進路予定情報、進路開放要求情報を含んでいても良い。
【0010】
この送信アンテナ5は、水平面内においてある所定の第1角度(例えば、車両前方の水平面方向第1角度θ1)の送信指向性を備えたアンテナであり、車両前方に対し広指向特性となるように設置される。したがって、データ送信部4は車両前方のより広い範囲に電波信号を送信できる。
【0011】
受信機3は、受信アンテナ6を通じて電波信号を受信して復調する復調機能を有するデータ受信部7を備えている。この受信機3は、受信信号の電界強度を測定し当該測定結果から他車両に搭載された狭域通信車載器1との間の距離を測定する機能を備えることも可能である。受信アンテナ6は、水平面内においてある所定の第2角度θ2(第1角度θ1よりも狭い)の受信指向特性を備えたアンテナにより構成される。
【0012】
尚、受信アンテナ6をある所定の第2角度θ2の範囲に高指向性特性となるように設けた実施形態を示すが、この場合、アダプティブアレイアンテナを使用してアンテナ指向性を変化させる技術を適用しても良いし、高指向性アンテナを適用して当該指向性アンテナの向きを機械的に走査制御することで高指向性となる向きを変化させても良い。
【0013】
上記構成の作用について説明する。
本実施形態では、送信機2が送信アンテナ5を通じて車両の前方方向に電波信号を放射し、受信機3が受信アンテナ6によって車両後方から電波信号を受信する形態に適用した実施形態を示す。
【0014】
図2は、本発明の狭域通信システムを、緊急車両と一般車両との間の通信システムに適用した形態を示している。この通信システムSは、一般車両C1〜C3や緊急車両C4に搭載された複数の狭域通信車載器1からなる。以下の説明は、車載器1の動作として説明を示しているが、特に明記しない限り、車載器1のうち特にデータ処理部Aが行う処理を示している。
【0015】
図2に示すように、一般車両(自車両)C1に搭載された狭域通信車載器1は、送信アンテナ5を介して一般車両C1の前方に広い範囲で送信アンテナ5を介して電波信号を放射する。また、一般車両C1の走行車線の右前方には一般車両C2が走行している。この一般車両C2にも狭域通信車載器1が搭載されているが、この狭域通信車載器1は車両後方から送信された電波信号を受信アンテナ6によって受信する。送信アンテナ5は、例えば車室内のルームミラー近傍に設置されており広指向角度θ1の範囲で送信する。受信アンテナ6は、例えば車両後端部に設置されており車両後方の狭指向角度θ2の範囲で走査して受信可能である。
【0016】
この場合、車両C1の送信アンテナ5の水平面指向性Tは広範囲に渡るため、車両C2が別車線を走行していたとしても車両C2の狭域通信車載器1は車両C1による送信情報を安定して受信することができる。
【0017】
また、一般車両C1に搭載された狭域通信車載器1は、一般車両C1の後方から受信アンテナ6を介して電波信号を受信する。車両C1の直後方に位置する後続車両C3にもまた狭域通信車載器1が搭載されており、当該狭域通信車載器1が車両C3前方の広範囲に渡って送信アンテナ5を通じて電波信号を送信する。車両C1の走行車線に隣接する車線には緊急車両C4が走行している。この緊急車両C4にも狭域通信車載器1が搭載されており、当該狭域通信車載器1が車両C4前方の広範囲に渡って送信アンテナ5を介して電波信号を送信する。
【0018】
この場合、一般車両C1の狭域通信車載器1は、車両C1の後方を水平方向に走査して受信している。すると、狭域通信車載器1の受信機3が一般車両C1の走行車線とは別車線側を走査する場合には、緊急車両C4の送信情報を受信できる。また逆に、一般車両C1の狭域通信車載器1の受信機3が当該一般車両C1の走行車線と同一車線側を走査する場合には、一般車両C1の直後方に位置する一般車両C3の送信情報を受信できる。すなわち、一般車両C1の狭域通信車載器1は、情報を受信したときに受信走査方向を認識しているため、受信アンテナ6にて受信した情報と通信対象車両の実在位置(方向)とを容易に結びつけることができる。
【0019】
車両の種別、属性(一般車両、緊急車両などの分類カテゴリ情報や車種情報)を含む情報が送信機2の送信情報に含まれている場合には、通信対象車両の種別や属性、緊急度などをも認識することができ、これらの情報を運転者に通知することができる。
【0020】
車両の速度情報や、アクセルの開度情報、ブレーキの操作量情報やハンドル舵角情報を含む情報が送信機2の送信情報に含まれている場合には、通信対象車両の走行状態(走行状況)や危険度、緊急度なども認識することができ、これらの情報を運転者に通知することができる。
【0021】
緊急車両C4の進路予定情報、進路開放要求情報が送信機2の送信情報に含まれている場合には、通信対象車両の未来における進行方向や要求なども認識することができ、これらの情報を運転者に通知することができる。
【0022】
車両C1〜C4の送信機2は各車両の前方方向に電波信号を放射し、車両C1の受信機3は車両C3、C4の前方に放射された電波信号を車両C1後方から受信するため、特に車両C1の後方から送信された情報の送信方向を判断できる。
【0023】
受信機3が、受信信号の電界強度を測定し当該測定結果から他車両に搭載された狭域通信車載器1との間の距離を測定する機能を備えている場合、他車両C2〜C4からの送信情報の送信位置を判断できる。したがって、運転者に対して「接近中、回避してください」などの警告情報を報知することができる。
【0024】
また、車両C1の狭域通信車載器1が受信した情報をそのまま前方に向けて送信するようにしても良い。すると、車両C1〜C4が連なっている場合には、情報を後方から前方に向けて連続的に伝達することができ、特に緊急時には早急に情報を伝達することができる。
【0025】
(第2の実施形態)
図3は、本発明の第2の実施形態を示すもので、前述実施形態と異なるところは、車両後方に情報送信し、車両前方から受信するようにしたところにある。前述実施形態と同一部分について同一符号を付して説明を省略し、以下、異なる部分についてのみ説明する。
【0026】
図3は、車両と障害物との間の通信状態を模式的に示している。
この図3に示すように、路面には道路工事を行う場合などに障害物10が設置される場合がある。この障害物10には送信機2が搭載されており、進行方向とは逆方向に向けてデータ変調された電波信号を送信するように構成されている。変調用データは、障害物の寸法情報や重量情報などとすると良い。
【0027】
他方、車両C1には狭域通信車載器1が搭載されている。狭域通信車載器1は、受信機3が車両前方から送信された電波信号を受信するように構成されており、送信機2が車両後方に電波信号を送信するように構成されている。すると、車両C1に搭載された狭域通信車載器1は、前述実施形態にて説明した構成を備えているため、進行方向に存在する障害物10の方向や存在位置を特定することができる。したがって、データ処理部Aは、運転者に対して障害物10が存在することを表示装置やスピーカによって報知することができる。
【0028】
(他の実施形態)
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に示す変形もしくは拡張が可能である。
車両C1の走行速度が比較的遅い場合には、通信可能角度を広くかつ通信可能距離を近く、走行速度が比較的速いときには通信可能角度を狭くかつ通信可能距離を遠くすると良い。すると、より目的や状況に適応した制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る狭域通信車載器の電気的構成を概略的に示す図
【図2】車車間の通信状態を模式的に表す図
【図3】本発明の第2の実施形態に係る図2相当図
【符号の説明】
【0030】
図面中、1は狭域通信車載器、2は送信機、3は受信機、5は送信アンテナ、6は受信アンテナ、C1〜C4は車両、Sは狭域通信システムを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平面内指向性の角度を所定の第1角度とした広範囲に対しデータ変調された電波信号を送信するように構成された送信機と、
前記送信機が送信する電波信号の第1角度よりも狭い水平面内指向性の角度となる第2角度の狭範囲の電波信号を受信するように構成された移動体用受信機とを備えたことを特徴とする狭域通信システム。
【請求項2】
前記送信機および前記移動体用受信機は、車両に搭載されていることを特徴とする請求項1記載の狭域通信システム。
【請求項3】
請求項1または2記載の狭域通信システムの送信機と移動体用受信機とを備えたことを特徴とする狭域通信車載器。
【請求項4】
請求項1または2記載の狭域通信システムに使用されることを特徴とする送信機。
【請求項5】
請求項1または2記載の狭域通信システムに使用されることを特徴とする移動体用受信機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−311728(P2008−311728A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−155172(P2007−155172)
【出願日】平成19年6月12日(2007.6.12)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】