説明

玉揚げ装置を有する繊維機械

【課題】玉揚げ作業の目標設定において、玉揚げ装置の走行制御機構の負担を軽減しようとすると、巻取りユニットの稼動効率を低下させてしまう。
【解決手段】各巻取りユニット2におけるパッケージ7の巻取り長さの大小を認識する巻取り状態認識手段30bと、巻取り長さが満管にある巻取りユニット7を最優先に、次いで満管に近い巻取りユニット7を優先する順序で、玉揚げ作業の実行目標とする巻取りユニット2を設定する目標設定手段30cと、玉揚げ作業の実行目標とする巻取りユニット2に玉揚げ装置3が到達してから、その巻取りユニット2で形成されているパッケージ7が満管となるまで、玉揚げ装置3に玉揚げ作業の実行を待機させる作業待機手段30dと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
糸を巻き取って巻取管上にパッケージを形成する複数の巻取りユニットと、前記巻取りユニット毎に設けられる作業位置に停止して、その作業位置に対応する前記巻取りユニットに対して玉揚げ作業を行う玉揚げ装置と、を備える玉揚げ装置を有する繊維機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数台が一列に配置された巻取りユニットと、その巻取りユニットの列に沿って走行して、巻取りユニットに対して玉揚げ作業を行う玉揚げ装置と、を備える繊維機械が知られている。
特許文献1には、このような繊維機械(ワインダー)において、満管錘(パッケージが満巻きとなった巻取りユニット)を見つけて、効率的に玉揚げ作業を玉揚げ装置に行わせる、玉揚げ装置の走行制御方法が開示されている。
ここで、ワインダーの稼動開始から間もなくは、各巻取りユニットで満管となる時刻が大体一致しているが、稼動開始から時間が経つにつれバラバラとなり、各巻取りユニットでランダムに満管となるようになる。このようにランダムに満管となる巻取りユニットが発生するのに対応して効率的な玉揚げ作業を実行させるべく、特許文献1の走行制御方法においては、満管錘と、次に満管となる次満管錘との比較で、玉揚げ装置の走行目標(玉揚げ作業の実行目標)とする巻取りユニットを設定するようにしている。走行目標の設定は、玉揚げ装置から満管錘や次満管錘までの距離(l1・l2)や、玉揚げ装置の満管錘までの走行時間(T1)や、次満管錘が満管となるまでの時間(TF)などを判断材料として、効率的となるように設定される。特許文献1の特許請求の範囲には、これらの距離や時間を複合した判定条件が記載されている。なお、括弧内の符号は、特許文献1に記載の符号である。
【特許文献1】特開昭64−34875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1の走行制御方法では、満管錘および次満管錘の双方について、距離および時間に関する情報を複合した判定条件に基づいて判定した結果を利用して、玉揚げ装置の次の移動目標(玉揚げ作業の次の実行目標)を設定している。このため、判定処理に要する時間の増大によって、走行目標への走行制御が困難となってしまう。もしくは、玉揚げ装置の走行制御に要する制御機構のコストを増大させることになる。一方、特許文献1の走行制御方法を用いず、満管錘が発生した場合にのみ、その満管錘に向けて玉揚げ装置を走行させるように制御するだけでは、玉揚げ作業の効率低下を招いてしまう。そして、巻取りユニットの稼動効率の低下を招いてしまう。
【0004】
つまり、解決しようとする問題点は、玉揚げ作業の目標設定において、玉揚げ装置の走行制御機構の負担を軽減しようとすると、巻取りユニットの稼動効率を低下させてしまう点、である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0006】
請求項1に係る玉揚げ装置を有する繊維機械は、
糸を巻き取って巻取管上にパッケージを形成する複数の巻取りユニットと、
前記巻取りユニットのいずれかに移動して、その巻取りユニットに対して玉揚げ作業を行う玉揚げ装置と、
を備える玉揚げ装置を有する繊維機械であって、
前記巻取り長さが満管にある前記巻取りユニットを最優先としながら、満管未満の前記巻取りユニットについては、前記巻取り長さが満管に近い順に優先して、前記玉揚げ作業の実行目標とする前記巻取りユニットを設定する目標設定手段と、
前記実行目標とする巻取りユニットに前記玉揚げ装置が到達してから、その巻取りユニットで形成されている前記パッケージが満管となるまで、前記玉揚げ装置に前記玉揚げ作業の実行を待機させる作業待機手段と、
を備える、ものである。
【0007】
以上構成により、次の作用がある。
準満管の巻取りユニットが複数発生した場合には、これらの巻取りユニットに対する玉揚げ作業の実行順序が、巻取り長さが満管に近い順に設定される。
また、準満管の巻取りユニットに到達した玉揚げ装置は、その巻取りユニットが満管となるまで待機する。
【0008】
請求項2に係る玉揚げ装置を有する繊維機械は、請求項1において、次の構成としたものである。
前記パッケージの巻取り長さが満管未満の所定長さになると、そのパッケージを形成している前記巻取りユニットより定長到達信号を発信する定長信号発信手段を備え、
前記目標設定手段は、前記各巻取りユニットからの前記定長到達信号の発信時刻に基づいて認識される前記各巻取りユニットにおける前記パッケージの巻取り長さの大小を把握する、ものである。
【0009】
以上構成により、次の作用がある。
巻取り長さの認識に係る構成が単純化される。
【0010】
請求項3に係る玉揚げ装置を有する繊維機械は、請求項1または請求項2において、次の構成としたものである。
前記目標設定手段は、前記パッケージの巻取り長さが満管の長さの前記巻取りユニットが複数ある場合は、前記玉揚げ装置の現在位置から前記巻取りユニットまでの距離が近い順序で、前記実行目標を設定する、ものである。
【0011】
以上構成により、次の作用がある。
巻取り状態が同一と認識される巻取りユニットが複数出現する場合でも、玉揚げ作業の優先順位がつけられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0013】
請求項1においては、
準満管の巻取りユニットが複数発生した場合であっても、これらの巻取りユニット間における玉揚げ作業の実行順序が、もっとも満管になりやすい順に設定されるため、巻取りユニットの稼動効率の低下を防止できる。また、巻取り長さの大小のみに基づいて実行順序が設定されるため、玉揚げ装置の走行制御機構の負担の増大が防止される。
【0014】
請求項2においては、請求項1の効果に加えて、
巻取り長さの認識に係る装置構成が簡素化され、コスト的に有利である。
【0015】
請求項3においては、請求項1または請求項2の効果に加えて、
玉揚げ装置の走行制御機構の負担を増大させること無く、より一層、巻取りユニットの稼動効率の低下を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。
【0017】
図1を用いて、本発明の一実施の形態であるワインダー1を説明する。
ワインダー1は、原料糸のパッケージである給糸ボビン6を巻き返して、パッケージ7を形成する装置である。
このワインダー1は、一方向に沿って複数並設される巻取りユニット2と、巻取りユニット2の列に沿って移動自在の玉揚げ装置3と、巻取りユニット2の列の一端側に配置されるエア供給部4および本体制御部5とを、備えている。
ここで、巻取りユニット2は、一本の巻取管10上に一個のパッケージ7を形成するための一ユニット(装置集合体)を指している。ワインダー1は、このワインダー1に備える巻取りユニット2の配置数分のパッケージ7を並行して形成することが可能である。
また、玉揚げ装置3は、前記巻取りユニットのいずれかに移動して、その巻取りユニットに対して玉揚げ作業を行う装置である。
【0018】
図2は、巻取りユニット2の並設方向より見たワインダー1の断面図(側面断面図)を示しており、この図2には、巻取りユニット2および玉揚げ装置3が図示されている。
巻取りユニット2の並設方向に沿ってメインフレーム11が延出するように配置されている。このメインフレーム11には、巻取りユニット2を構成する装置を支持するユニットフレーム21が支持されると共に、玉揚げ装置3を走行させるレール12が支持されている。
【0019】
図2に示すように、巻取りユニット2は、前記ユニットフレーム21と、このユニットフレーム21に支持される巻き返しに係る装置と、を備えている。
この巻き返しに係る装置は、テンション装置23、糸欠点検出装置24、糸継ぎ装置25、パッケージ7を形成する巻取り装置26である。これらの装置23〜26は、この並びの順に、下方から上方に向けて配置されている。そして、テンション装置23の下方には、給糸ボビン6がセットされる。また、これらの装置23〜26の駆動を制御するユニットコントローラ20(図1)が、巻取りユニット2には備えられている。
巻取り装置26は、パッケージ7を巻き付ける巻取管10を支持するクレードル27と、巻取管10またはパッケージ7に接触して回転させる綾振ドラム28と、を備えている。
【0020】
また、巻取りユニット2にそれぞれに、補充用の巻取管10を保管する巻取管ストッカ29が備えられている。そして、巻取管10のセット等の巻取り準備作業が完了すると、巻取りユニット2は、自動的に、この巻取管10上にパッケージ7を形成する。
加えて、クレードル27より払い出された満管パッケージ7を受けるパッケージ受け13が、各巻取りユニット2に対応して設けられている。
【0021】
図2に示すように、玉揚げ装置3は、台車フレーム31と、前記レール12に沿って走行する走行装置32と、玉揚げ作業に係る装置とを、備えている。
ここで、玉揚げ作業とは、巻取りユニット2より満管となったパッケージ7を払い出し作業と、満管パッケージ7の払い出しに応じて必要となる空の巻取管10を新たに補給する巻取管10のセット作業と、セット後の巻取管10に糸掛けして巻取りが可能な状態を準備する糸掛け作業と、を含む全体の作業を意味する。
そして、玉揚げ作業に係る装置として、パッケージ7の払い出し作業に係るクレードルオープナー33と、巻取管10のセット作業に係る巻取管チャッカー34と、糸掛け作業に係る糸掛け装置35と、が玉揚げ装置3に備えられている。
また、これらの玉揚げ作業に係る装置の駆動を制御する装置コントローラ30が備えられている。
玉揚げ装置3は、玉揚げ作業を行う際は、玉揚げ作業の目的とする巻取りユニット2の正面位置(図3の作業位置P)に移動し、この玉揚げ装置3と対向する位置にある巻取りユニット2に対して玉揚げ作業を行う。
【0022】
図1を用いて、ワインダー1の制御システムについて説明する。
ワインダー1には、ワインダー1に備える各種装置の制御に拘わる装置として、ワインダー1の全体を統括管理するホストコンピュータ50と、各巻取りユニット2の駆動を制御する前記ユニットコントローラ20と、玉揚げ装置3の駆動を制御する前記装置コントローラ30とが、備えられている。
ユニットコントローラ20は巻取りユニット2に備えられ、装置コントローラ30は玉揚げ装置3に備えられ、ホストコンピュータ50は本体制御部5に備えられている。
【0023】
ホストコンピュータ50は、各ユニットコントローラ20や装置コントローラ30と通信線15を介して接続されており、これらのコントローラ20・30を統括管理する。そして、これらのコントローラ20・30およびホストコンピュータ50により、ワインダー1の制御システムが構成されている。
【0024】
コントローラ20・30およびホストコンピュータ50は、コンピュータの四つの主要部分である演算装置、記憶装置、入出力装置、制御装置(この制御装置は、ここでは演算装置、記憶装置、入出力装置を制御する装置を意味する)のうち、入出力装置を除いた装置として構成されている。
入出力装置に該当するのは、ホストコンピュータ50の場合、このホストコンピュータ50に接続される外部装置であり、オペレータが入力操作を行うための入力装置(例えばキーボード)や、オペレータが紡績機1の作動状態を把握するための出力装置(例えばディスプレイ)、コントローラ20・30である。また、ユニットコントローラ20の場合、巻取りユニット2に備える各種装置(糸欠点検出装置24や巻取り装置26など)が入出力装置に該当する。装置コントローラ30の場合、玉揚げ装置3に備える各種装置(クレードルオープナー33など)が入出力装置に該当する。
【0025】
図3を用いて、玉揚げ装置3の走行経路について説明する。
ワインダー1には、巻取りユニット2が複数台(本実施形態では60台)備えられており、これらの巻取りユニット2は一列に並べて配置されている。各巻取りユニット2には、固有のID情報としてのユニット番号が付与されている。このユニット番号を、図中において、部材参照用の符号とは別に、(5)等のように括弧書きで図示している。
玉揚げ装置3は、巻取りユニット2の配置方向に沿って並設される前記レール12に沿って走行するように構成されており、ワインダー1に備えるどの巻取りユニット2の正面位置にも移動でき、どの巻取りユニット2に対しても玉揚げ作業を行うことができる。ここで、巻取りユニット2の正面位置とは、その巻取りユニット2に対して玉揚げ装置3が玉揚げ作業を行う際に停止する位置であり、これを玉揚げ作業の作業位置(以下単に、作業位置)Pとする。この作業位置Pは、巻取りユニット2のそれぞれに設けられている。
【0026】
玉揚げ装置3の走行経路(レール12)は、各作業位置Pを直列接続して形成される一直線の経路となっている。玉揚げ装置3はレール12に沿ってどちらの方向にも走行可能(往復可能)である。
また、玉揚げ装置3は、玉揚げ作業の実行の有無に拘わらず、走行を停止する際は、いずれかの作業位置Pに停止するものとし、作業位置P・P間に停止することはないものとする。
なお、本実施の形態では、玉揚げ装置3の走行経路は、一直線の往復経路であるが、分岐部を設けない一筆書き状の単線経路であれば、両端を有する線分状経路に限定されず、両端のないループ状経路であってもよい。
【0027】
玉揚げ装置3は、巻取りユニット2より満管信号または準満管信号の発信があると、玉揚げ作業を実行すべく、発信先の巻取りユニット2に向けて走行する。
巻取りユニット2は、パッケージ7が満管となると、満管信号を通信線15を介して玉揚げ装置3に向けて送信する。パッケージ7が満管となった状態とは、巻取管10への糸8の巻取り長さが、所定の上限である一定長さに到達した状態を意味する。玉揚げ装置3は、満管信号を受信すると、その満管信号を発信した巻取りユニット2に向けて移動し、その巻取りユニット2に対して玉揚げ作業を行う。
加えて、巻取りユニット2は、パッケージ7が準満管となると、準満管信号を発信する。パッケージ7が準満管となった状態とは、巻取管10への糸8の巻取り長さが、満管未満の所定の一定長さ(例えば満管の長さの95%など)に到達した状態を意味する。したがって巻取りユニット2は、満管信号の発信に先立って、準満管信号を発信する。玉揚げ装置3は、準満管信号を受信すると、その準満管信号を発信した巻取りユニット2に向けて移動して、その巻取りユニット2の作業位置Pに停止し、その巻取りユニット2からの満管信号の発信を待機する。その巻取りユニット2より満管信号が発信されれば、直ちに、その巻取りユニット2に対して玉揚げ装置3は玉揚げ作業を実行する。
【0028】
巻取りユニット2のユニットコントローラ20には、満管信号や準満管信号を発信するための定長到達信号発信手段20aが設けられている。この定長到達信号発信手段20aは、自らが設けられる巻取りユニット2において、パッケージ7の巻取り長さが準満管の長さとなった場合に準満管信号を発信し、パッケージ7の巻取り長さが満管の長さとなった場合に満管信号を発信する。
ここで、ユニットコントローラ20は、パッケージ7の巻取り長さを、綾振ドラム28の回転数計測または巻取り時間の計測をすることによって認識している。定長到達信号発信手段20aは、この巻取り長さの認識結果に基づいて、準満管信号や満管信号を発信する。
【0029】
ワインダー1内(一台の玉揚げ装置3が担当する巻取りユニット2の全体内)に、満管信号や準満管信号を発信する巻取りユニット2が一台しか存在しない場合、その一台の巻取りユニット2が、玉揚げ作業の実行目標に設定される。そして、満管信号が受信された場合は直ちに、その発信元の巻取りユニット2に対して玉揚げ装置3により玉揚げ作業が行われる。また、準満管信号が受信された場合は、満管信号が発信されるまで玉揚げ装置3を待機させた上で、その発信元の巻取りユニット2に対して玉揚げ装置3により玉揚げ作業が行われる。
一方、ワインダー1内に、満管信号や準満管信号を発信する巻取りユニット2が複数台存在する場合は、玉揚げ作業の効率を向上させる上で、これらの複数台の巻取りユニット2に対して玉揚げ作業を実行させる順序を適切に設定し、その順序に応じて玉揚げ作業の実行目標を設定する必要がある。そこで、ワインダー1においては、玉揚げ作業の実行目標とする巻取りユニット2を適切に設定するための手段が備えられている。
【0030】
図5に示すように、装置コントローラ30には、玉揚げ作業の実行目標とする巻取りユニット2を適切に設定するための手段として、巻取り状態記憶手段30aと、巻取り状態認識手段30bと、目標設定手段30cと、が備えられている。
【0031】
巻取り状態記憶手段30aには、各巻取りユニット2より発信された満管信号や準満管信号が、発信元である巻取りユニット2のユニット番号(識別情報)とセットで、記憶される。準満管信号については、その発信時刻に関する情報も、ユニット番号とセットで記憶される。以下、巻取り状態記憶手段30aに記憶される情報、つまり満管信号や準満管信号および準満管信号の発信時刻やユニット番号の情報を、巻取り状態情報とする。
【0032】
巻取り状態認識手段30bは、巻取り状態記憶手段30aに記憶される巻取り状態情報に基づいて、各巻取りユニット2におけるパッケージ7の巻取り長さの大小を認識する。この巻取り状態認識手段30bは、満管信号を発信した巻取りユニット2のパッケージ7については、満管(巻取り長さが上限値に達した状態)であると認識する。また、この巻取り状態認識手段30bは、準満管信号を発信した巻取りユニット7のパッケージ7については、準満管信号の発信時刻が早いほど、巻取り長さが満管に近づいている、と認識する。このため、巻取り状態認識手段30bは、準満管信号を発信した巻取りユニット7が複数存在する場合は、その発信時刻が早い巻取りユニット2ほど、パッケージ7の巻取り長さが(準満管同士の相対比較で)大であり、その発信時刻が遅い巻取りユニット2ほど、パッケージ7の巻取り長さが(準満管同士の相対比較で)小であることを、認識している。
ここで、パッケージ7の巻取り長さが大きいほど、満管に近い状態であって、玉揚げ作業を優先して実行すべき状態にある。したがって、巻取り状態認識手段30bの認識結果を利用することで、準満管信号を発信した巻取りユニット7が複数存在する場合に、優先して玉揚げ作業を実行する順序を特定するための情報を得ることができる。
【0033】
目標設定手段30cは、巻取り状態認識手段30bの認識結果に基づいて、各巻取りユニット2における巻取り長さの大小を把握し、巻取り長さが満管にある巻取りユニット2を最優先としながら、満管未満の巻取りユニット2については、巻取り長さが満管に近い順に優先して、玉揚げ作業の実行目標とする巻取りユニット2を設定する。そして、装置コントローラ30は、実行目標に設定された巻取りユニット2に向けて玉揚げ装置3を移動させる。
ここで、満管の巻取りユニット2は、直ちに玉揚げ作業を実行できる状態にある巻取りユニット2であるため、玉揚げ作業の実行順序が最優先されるものとなっている。準満管の巻取りユニット2については、直ちに玉揚げ作業を実行できる状態にはないが、準満管にない巻取りユニット2よりも玉揚げ作業の実行可能時期が近い将来に到来する巻取りユニット2であり、満管の巻取りユニット2の次に優先される目標である。加えて、準満管の巻取りユニット2が複数ある場合は、満管に近い巻取りユニット2ほど玉揚げ作業の実行可能時期が近い将来に到来するため、満管に近い順序で、玉揚げ作業の実行順序が優先されるようにしている。
【0034】
また、目標設定手段30cは、満管の巻取りユニット2が複数存在する場合は、玉揚げ装置3の現在位置から巻取りユニット2までの距離が近い順序で、玉揚げ作業の実行目標とする巻取りユニット2を設定する。ここで、玉揚げ装置3と巻取りユニット2との距離とは、玉揚げ装置3が位置する作業位置Pと、当該の巻取りユニット2に対応する作業位置Pとの距離を意味する。
満管の巻取りユニット2が複数存在する場合に、このような順序(距離が近い順序)で実行目標を設定することで、玉揚げ装置3がこれら複数の巻取りユニット2に玉揚げ作業に赴く際のトータルの移動距離を短縮させることができる。したがって、各巻取りユニット2において、玉揚げ作業を待機するため巻取り作業を中断される時間が短縮され、巻取りユニット2全体の稼動効率の低下を防止できる。
【0035】
また、目標設定手段30cは、巻取りユニット2より準満管信号または満管信号が発信される度に、つまり巻取り状態認識手段30bによる各巻取りユニット2の巻取り状態の認識結果が変更されるたびに、次の玉揚げ作業の実行目標とする巻取りユニットを再設定する。これは、準満管であった巻取りユニット2が満管に移行するなどした場合は、優先させる玉揚げ作業の実行目標が変化することがあるためである。
【0036】
また、装置コントローラ30には、玉揚げ作業の実行目標とする巻取りユニット2に玉揚げ装置3が到達してから、その巻取りユニット2で形成されているパッケージ7が満管となるまで、玉揚げ装置3に玉揚げ作業の実行を待機させる作業待機手段30dが備えられている。
【0037】
図4には、満管および準満管の巻取りユニット2が複数出現している状態を示している。
ここで、ユニット番号(10)・(21)の巻取りユニット2は満管(図4で格子模様)である。また、ユニット番号(12)(20)の巻取りユニット2は準満管(図4で斜線模様)である。加えて、準満管信号の発信時刻については、ユニット番号(20)の巻取りユニット2の方が、ユニット番号(12)の巻取りユニット2よりも早いものとする。
他の巻取りユニット2は巻取り長さが準満管の長さに到達しておらず、これらについては模様表示はしていない。このとき、玉揚げ装置3は、ユニット番号(14)の巻取りユニット2の作業位置Pに、(この作業位置Pを通過中もしくは停止により)位置していたとする。
【0038】
図4に示す場合、目標設定手段30cは、玉揚げ作業の実行目標を、次の順に設定する。
第一の実行目標はユニット番号(10)の巻取りユニット2であり、第二の実行目標はユニット番号(21)の巻取りユニット2である。
これは、ユニット番号(10)・(21)の巻取りユニット2は共に、満管であるが、玉揚げ装置3の現在位置からの距離が、ユニット番号(21)の巻取りユニット2よりも、ユニット番号(10)の巻取りユニット2の方が近いことによる。ここで、作業位置P・P間の距離(ユニット1個分の距離)Dは、どこでも一定である。玉揚げ装置3とユニット番号(10)の巻取りユニット2との距離L1はユニット4個分の距離で、玉揚げ装置3とユニット番号(21)の巻取りユニット2との距離L2はユニット7個分の距離で、ユニット3個分の距離だけ、ユニット番号(10)の巻取りユニット2の方が玉揚げ装置3に近い。
【0039】
また、第三の実行目標はユニット番号(12)の巻取りユニット2であり、第四の実行目標はユニット番号(20)の巻取りユニット2である。
ユニット番号(12)・(20)の巻取りユニット2は準満管であるので、満管であるユニット番号(10)・(21)の巻取りユニット2よりも、玉揚げ作業の実行順序が遅れたものとなる。また、準満管同士であるユニット番号(12)・(20)の巻取りユニット2間では、準満管信号の発信時刻の早い順に優先順位が設定されるため、ユニット番号(20)の巻取りユニット2の方が、ユニット番号(12)の巻取りユニット2よりも優先される。
【0040】
そして、目標設定手段30cにより玉揚げ作業の実行目標に設定された巻取りユニット2に玉揚げ装置3が到達すると、装置コントローラ30は、その実行目標の巻取りユニット2が満管のときは、到達次第直ちに、玉揚げ作業を開始させる。また、その実行目標の巻取りユニット2が準満管のときは、満管となるまで、作業待機手段30dが玉揚げ装置3をその巻取りユニット2の作業位置Pで待機させ、満管となると装置コントローラ30は玉揚げ作業を開始させる。
【0041】
なお、前述した玉揚げ作業実行の優先順位は、玉揚げ装置3がユニット番号(14)の巻取りユニット2の作業位置Pに位置している図4に示す時点におけるものである。
例えば、前記第一の実行目標であるユニット番号(10)の巻取りユニット2の玉揚げ作業が終了した時点で、ユニット番号(20)の巻取りユニット2が準満管から満管に移行していたような場合には、目標設定手段30cは、次の玉揚げ作業の実行目標を、前記第二の実行目標であるユニット番号(21)の巻取りユニット2ではなく、ユニット番号(20)の巻取りユニット2に設定する。これは、玉揚げ装置3の現在位置(ユニット番号(10)の作業位置P)から見て、ユニット番号(21)の巻取りユニット2よりもユニット番号(20)の巻取りユニット2の方が近いことによる。
【0042】
また、目標設定手段30cは、玉揚げ作業を受けることができない不能状態にある巻取りユニット2については、巻取り長さの大小に拘わりなく、玉揚げ作業の実行目標には設定しない。
玉揚げ作業を受けることができない不能状態の一例は、例えば、巻取りユニット2において先に払い出された満管パッケージ7が前記パッケージ受け13に留まった状態にあって、現在クレードル27に保持されている満管パッケージ7を払い出す場所がない状態である。このような場合、この不能状態の巻取りユニット2を無視して、他の巻取りユニット2に対する玉揚げ作業ができるように、不能状態の巻取りユニット2を、その巻取り長さの大小に拘わりなく(つまり満管であっても)、玉揚げ作業の実行目標の選択先から外すようにしている。
【0043】
次に、図5を用いて、玉揚げ装置3の走行制御に係る構成を説明する。
玉揚げ作業の実行目標とする巻取りユニット2に向けて適正に走行させるために、玉揚げ装置3の走行を制御するシステムがワインダー1には備えられている。
この走行制御システムは、玉揚げ作業の実行目標位置を設定する手段(前記目標設定手段30c)と、実行目標位置の設定に応じて前記走行装置32の駆動を制御する手段(走行駆動制御手段30e)と、玉揚げ装置3の現在位置を認識する手段とを、備えている。
目標設定手段30cについては前述している。
走行駆動制御手段30eは、目標設定手段30cが設定した実行目標位置(目的の巻取りユニット2の作業位置P)に到達するように、走行装置32に備える駆動源(モータ)の駆動を制御する。
現在位置の認識手段については、以下で説明する。
【0044】
玉揚げ装置3の現在位置の認識手段は、停止時における現在位置の認識手段(停止時現在位置認識手段)と、走行時における現在位置の検出手段(走行時現在位置認識手段)との二つからなっている。
これらの(停止時および走行時)現在位置認識手段は、玉揚げ装置3の現在位置を認識する手段であるが、より詳しくは、この現在位置がレール12上のどの作業位置Pに位置しているかを認識する手段である。
【0045】
停止時における現在位置の認識に係る構成について説明する。
玉揚げ装置3の装置コントローラ30には、停止時現在位置認識手段30fが備えられている。この停止時現在位置認識手段30fは、この玉揚げ装置3が何れかの作業位置Pに停止した際に、玉揚げ装置3の現在位置を認識する手段である。
また、玉揚げ装置3および巻取りユニット2に備える装置を利用して、停止時現在位置認識手段30fに現在位置を認識させるための判断材料を提供する手段が、構成されている。
【0046】
停止時現在位置認識手段30fは、次の各手段による判断材料の提供を受けて、現在位置を認識する。
一つは、玉揚げ装置3が何れかの作業位置Pに位置しているか否かを検出する作業位置検出手段である。
もう一つは、玉揚げ装置3が何れかの前記作業位置Pに停止した際に、その作業位置Pに対応する巻取りユニット2のユニット番号(ID情報)を取得するID情報取得手段である。
【0047】
作業位置検出手段について説明する。
この作業位置検出手段は、各作業位置Pに対応して巻取りユニット2に設けられるインデックスプレート41と、玉揚げ装置3に設けられるインデックスプレート検出センサ61と、から構成される。
【0048】
玉揚げ装置3が何れかの作業位置Pに位置する際には、その作業位置Pに対応するインデックスプレート41が、インデックスプレート検出センサ61に検出される。このインデックスプレート検出センサ61は、玉揚げ装置3が何れかの作業位置Pに位置する場合(つまり作業位置Pに停止もしくは作業位置Pをまさに通過する際)にのみ、インデックスプレート41を検出し、玉揚げ装置3が作業位置P以外に位置する場合(つまり玉揚げ装置3が作業位置P・P間を走行している場合)は、インデックスプレート41を検出しない。
このように、インデックスプレート検出センサ61がインデックスプレート41を検出する際には、どの作業位置Pに位置しているかまでは不明としても、いずれかの作業位置Pに玉揚げ装置3が位置(停止もしくは通過)していることが明らかである。インデックスプレート検出センサ61は装置コントローラ30に信号通信可能に接続されており、インデックスプレート検出センサ61による検出情報は、装置コントローラ30で認識される。
【0049】
ID情報取得手段について説明する。
このID情報取得手段は、各作業位置Pに対応して巻取りユニット2に設けられるID要求受信装置42と、玉揚げ装置3に設けられるID要求送信装置62と、ID要求送信装置62が発信したID要求に基づいて巻取りユニット2のID情報を玉揚げ装置3に返信するように指令するID返信指令手段20bと、ユニットコントローラ20と装置コントローラ30とを通信可能に接続する通信装置と、で構成される。
【0050】
ID要求送信装置62は、玉揚げ装置3に設けられており、作業位置Pに対応して設けられるID要求受信装置42に向けて、ID要求信号を送信する。ID要求受信装置42は、本実施の形態では、巻取りユニット2に設けられている。
ID要求信号とは、ある作業位置Pに停止している玉揚げ装置3が、この玉揚げ装置3が停止している作業位置Pに対応する巻取りユニット2(ユニットコントローラ20)に対して、そのID情報(本実施形態ではユニット番号)を、玉揚げ装置3(装置コントローラ30)に返信するように要求する信号である。このID要求信号は例えば光信号とし、ID要求送信装置62は発光装置、ID要求受信装置42は受光装置とする。
また、ID要求送信装置62によるID要求信号の送信は、玉揚げ装置3の作業位置Pへの停止をトリガーとして実行される。ID要求送信装置62は装置コントローラ30に信号通信可能に接続されており、インデックスプレート検出センサ61によるインデックスプレート41の検出情報や走行駆動制御手段30eによる走行装置32の駆動停止状態の検出情報に基づいて、玉揚げ装置3が作業位置Pに停止していることを認識する。また、ID要求受信装置42はID要求信号を受信すると、その受信信号を、ユニットコントローラ20に備えるID返信指令手段20bに向けて送信する。このID要求受信装置42はユニットコントローラ20に、信号通信可能に接続されている。
【0051】
ID要求受信装置42がID要求信号を受信すると、当該ID返信指令手段20bを備える巻取りユニット2のユニット番号(ID情報)を、ユニットコントローラ20より装置コントローラ30に向けて返信するように指令する。
ワインダー1には、各ユニットコントローラ20と装置コントローラ30とを通信可能に接続する通信装置が、通信線15と、この通信線15とユニットコントローラ20とを接続する通信用入出力機器や、この通信線15と装置コントローラ30とを接続する通信用入出力機器によって、構成されている。
なお、ID要求信号やユニット番号の送受信に係る、各ユニットコントローラ20と装置コントローラ30とを通信可能に接続する通信装置の構成としては、通信線15を利用した有線式の通信装置に限定されるものではなく、無線式の通信装置であってもよい。特に、無線式の通信装置としてRFICタグ(巻取りユニット2に配置)およびタグリーダー(玉揚げ装置3に配置)を利用する場合は、このRFICタグのメモリにユニット番号を記憶させておけば、ユニットコントローラ20を介することなく、玉揚げ装置3へのユニット番号の返信が可能となる。
【0052】
停止時現在位置認識手段30fは、装置コントローラ30に備えられている。
この停止時現在位置認識手段30fは、ID返信指令手段20bの指令により返信されたID情報に基づいて、玉揚げ装置3の停止している作業位置Pを特定する。ここで、ID要求送信装置62がID要求信号を送信した先は、玉揚げ装置3の正面位置(作業位置P)にある巻取りユニット2であり、その巻取りユニット2から返信されるユニット番号が、通信線15を経由して、装置コントローラ30へと返信される。このユニット番号で特定される巻取りユニット2は、当然ながら、玉揚げ装置3の正面位置(作業位置P)にある巻取りユニット2である。
【0053】
走行時における現在位置の認識に係る構成について説明する。
玉揚げ装置3の装置コントローラ30には、走行時現在位置認識手段30hが備えられている。この走行時現在位置認識手段30hは、玉揚げ装置3が走行経路(レール12)を走行する際に、玉揚げ装置の現在位置を認識する手段である。
詳しくは後述するが、走行時現在位置認識手段30hが特定できる現在位置は、正確には、走行経路(レール12)上の任意の位置ではなく、現在時点でどの作業位置Pを最後に通過したか(もしくは現在通過中であるか)という作業位置P単位における位置である。
また、玉揚げ装置3および巻取りユニット2に備える装置を利用して、走行時現在位置認識手段30hに現在位置を認識させるための判断材料を提供する手段が、構成されている。
【0054】
走行時現在位置認識手段30hは、次の各手段による判断材料の提供を受けて、現在位置を認識する。
一つは、玉揚げ装置3が何れかの作業位置Pに位置しているか否かを検出する作業位置検出手段である。
もう一つは、玉揚げ装置3が走行経路(レール12)を走行する際に、前回停止した作業位置Pから現在の走行位置までに通過した作業位置Pの数をカウントするカウント手段30gである。
【0055】
作業位置検出手段については、停止時現在位置認識手段30fに係る説明の際に、前述している。
この作業位置検出手段は、各作業位置Pに対応して巻取りユニット2に設けられるインデックスプレート41と、玉揚げ装置3に設けられるインデックスプレート検出センサ61と、から構成される。そして、玉揚げ装置3の走行時(走行装置32の駆動時に)において、インデックスプレート検出センサ61がインデックスプレート41を検出する度に、玉揚げ装置3が作業位置Pを通過したことが明らかである。
【0056】
カウント手段30gについて説明する。
このカウント手段30fは、装置コントローラ30に備えられており、インデックスプレート検出センサ61によるインデックスプレート41の検出回数(つまり作業位置Pの数)をカウントする。ここで、カウント手段30fは、前回停止した作業位置Pから現在の走行位置までに通過した作業位置Pの数をカウントする。このカウント数(前回停止からの間に通過した作業位置Pの数)の情報は、前回停止した作業位置Pから現在の走行位置までの走行距離の情報を与えるものである。
【0057】
走行時現在位置認識手段30hは、装置コントローラ30に備えられている。
この走行時現在位置認識手段30hは、前回停止時の作業位置Pを特定するID情報(ユニット番号)と、前回停止した作業位置Pからの現在位置までに通過した作業位置Pの数(カウント手段30gによるインデックスプレート41の検出回数)とに基づいて、走行中の玉揚げ装置3の現在位置を認識する。前述したように、正確には、走行中の玉揚げ装置3が最後に通過した作業位置Pを特定する。
本実施の形態では、巻取りユニット2を特定するユニット番号は、ワインダー1に備える巻取りユニット2の配設数に応じて設定された数字であり、カウント手段30gによるカウント数を、その走行方向に応じて加算または減算すれば、走行中の玉揚げ装置3の現在位置を特定できる。
【0058】
例えば、レール12に沿って右から左に向けて配置される巻取りユニット2に、ユニット番号が1〜60まで順に付与されているとする。この場合、前回停止時の作業位置Pに対応するユニット番号が(10)で、玉揚げ装置3が右から左に走行して、カウント数が3であったとすると、走行中の現在位置は、ユニット番号が(13)となる巻取りユニット2に対応する作業位置Pとなる。逆に、玉揚げ装置3が左から右に走行して、カウント数が6であったとすると、走行中の現在位置は、ユニット番号が(4)となる巻取りユニット2に対応する作業位置Pとなる。
また、ID情報とするユニット番号を数字とせず記号等としてもよく、この場合はインデックスプレート41の検出回数と、ユニット番号との対応表を作成しておき、その対応表を装置コントローラ30に記憶させておく。そして、玉揚げ装置3の走行方向の認識結果と、カウント数(インデックスプレート41の検出回数)とに基づいて、前記対応表より、走行中の現在位置を認識するようにする。なお、玉揚げ装置3の走行方向の認識は、走行装置32の駆動を制御する走行駆動制御手段30eにおいて、可能である。
【0059】
以上のように、作業位置Pの通過回数を利用して、現在位置を特定する方法を利用する構成においては、玉揚げ装置3が停止するたびに、その停止した作業位置Pにおける現在位置を、停止時現在位置認識手段30fを利用して別に求める必要はない。この走行時現在位置認識手段30hを利用して、停止時においても、現在位置を特定することが可能である。
ただし、走行時現在位置認識手段30hは、前回停止した際の作業位置Pの特定が正確に行われていることを前提として、走行時の現在位置の検出や、さらには停止時における現在位置の検出を可能とする構成であるため、つまり相対的な位置関係を利用して次の現在位置を特定する構成であるため、一旦前回停止した際の作業位置Pの特定に失敗すると、以後の現在位置認識が誤ったものとなってしまう。
そこで、ワインダー1においては、前述したように、停止時においては、停止時現在位置認識手段30fを利用して、一々、巻取りユニット2の作業位置Pに停止した玉揚げ装置3が、その巻取りユニット2に対してID情報を要求して、作業位置Pに関する絶対的な位置情報を得るようにすることで、現在位置の位置制御の信頼性を向上させている。
【0060】
また、玉揚げ装置3の停止制御は、次のようにして行われる。
装置コントローラ30は、走行時現在位置検出手段により、玉揚げ装置3の走行中における現在位置を随時把握している。また、装置コントローラ30は、走行時現在位置検出手段により、玉揚げ装置3が次に通過する作業位置Pが、実行目標とする作業位置Pであるか否かも認識している。このため、実行目標とする作業位置Pに玉揚げ装置3が到達するのに先立って、走行駆動制御手段30eが走行装置32の駆動を減速させ、インデックス検出センサ61により当該作業位置Pに対応するインデックスプレート41が検出された時点で、走行駆動制御手段30eが走行装置32の駆動を停止させるようにしている。
【0061】
次に、図6を用いて、玉揚げ装置3による玉揚げ作業の実行フローを説明する。
この走行制御のフローは、玉揚げ装置3に備える装置コントローラ30が、玉揚げ装置3の走行を制御する処理手順を示すものである。
ワインダー1または玉揚げ装置3の起動開始により、玉揚げ装置3の走行制御のフローが開始される。このフロー開始時には、玉揚げ装置3は、走行待機状態にある(ステップ100)。
図6中においては、巻取りユニット2のことを、記載の簡略も兼ねて「錘」と称している。
【0062】
走行待機状態(ステップ100)に移行した状態において、装置コントローラ30は、自機位置(玉揚げ装置3の現在位置)を認識しているかどうか、確認する。認識していない場合はステップ102に処理が移行し、認識している場合はステップ103へ処理が移行する。
【0063】
ステップ102(自機位置を認識せず)は、玉揚げ装置3が何れかの作業位置Pに停止していないなど、その作業位置Pに対応する巻取りユニット2からのユニット番号の取得に失敗し、装置コントローラ30において、現在位置の認識ができていない状態である。
この場合、装置コントローラ30は、玉揚げ装置3を近傍の巻取りユニット2に停止させ、その巻取りユニット2のユニット番号を取得(INDEX IN)させる。近傍の巻取りユニット2への停止は、具体的には、玉揚げ装置3をレール12上でいずれかの方向に移動させて、インデックスプレート41をインデックス検出センサ61が検出した時点で玉揚げ装置3を停止させることで行う。
ユニット番号の所得に成功すると、ステップ103の処理に進む。
【0064】
ステップ103(自機位置を認識)では、装置コントローラ30は、ワインダー1内に、満管の巻取りユニット2があるかどうかを判定する。
満管の巻取りユニット2がない場合はステップ104に処理が移行し、満管の巻取りユニット2がある場合はステップ105へ処理が移行する。
【0065】
ステップ104(満管のユニットなし)では、装置コントローラ30は、ワインダー1内に、準満管の巻取りユニット2があるかどうかを判定する。
準満管の巻取りユニット2がない場合はステップ100に処理が移行し、準満管の巻取りユニット2がある場合はステップ111へ処理が移行する。
整理すると、ステップ105へ処理が移行した場合は、少なくとも一つは満管の巻取りユニット2がある場合であり、さらに準満管の巻取りユニット2が存在する可能性もある。ステップ111へ処理が移行した場合は、準満管の巻取りユニット2はあるが、満管の巻取りユニット2はまったくない場合である。また、ステップ100に処理が移行した場合は、満管および準満管の巻取りユニット2がまったくない場合である。
【0066】
ステップ105(満管のユニットあり)では、装置コントローラ30は、満管の巻取りユニット2が複数存在する場合、これらの複数の満管の巻取りユニット2について、玉揚げ装置3の現在位置から満管の巻取りユニット2までの距離の大小を比較する。
ステップ106では、装置コントローラ30は、玉揚げ装置3の現在位置からもっとも近い満管の巻取りユニット2を、玉揚げ作業の実行目標の巻取りユニット2に設定する。
ステップ107では、装置コントローラ30は、玉揚げ装置3を、ステップ106で玉揚げ作業の実行目標に設定した巻取りユニット2に向けて走行させて、その作業位置Pに停止させる。
ステップ108では、装置コントローラ30は、玉揚げ作業の実行目標に設定した巻取りユニット2に対して、玉揚げ装置3により玉揚げ作業を実行させる。
【0067】
ステップ109では、装置コントローラ30は、ワインダー1内に、満管または準満管の巻取りユニット2があるかどうかを判定する。
満管や準満管の巻取りユニット2がない場合はステップ110に処理が移行し、満管の巻取りユニット2がある場合はステップ103へ処理が移行する。
【0068】
ステップ110に処理が移行した場合は、ワインダー1内に、玉揚げ作業を必要もしくは近いうちに必要とする巻取りユニット2(満管または準満管の巻取りユニット2)が存在せず、玉揚げ装置3を一旦待機させる場合である。
ステップ110では、装置コントローラ30は、玉揚げ装置3を所定の走行待機位置へと移動させる。所定の走行待機位置は、ワインダー1に備える巻取りユニット2群のうち、例えば中央に位置するユニット(60台構成において、ユニット番号が30または31のユニット)の作業位置Pに設定するものとする。あるいは単に、先に玉揚げ作業を行った巻取りユニット2より中央側へユニット2個分移動させた位置、とする。このようにして、後の時点に玉揚げ作業が発生した際に、より効率的に玉揚げ装置3を運用できるように、レール12上のどこにも行きやすいように、現在位置よりもレール12の中央側で玉揚げ装置3を待機させるようにしている。
ステップ110で玉揚げ装置3を待機させるように移動させると、ステップ100に処理が移行する。
【0069】
前に戻って、ステップ111(準満管のユニットあり)に処理が移行した場合の説明を行う。
ステップ111では、装置コントローラ30は、準満管の巻取りユニット2が複数存在する場合、これらの複数の準満管の巻取りユニット2について、もっとも早く満管になりそうな巻取りユニット2を検索する。現在時点において、準満管である巻取りユニット2のうち、準満管信号の発信時刻がもっとも早かった巻取りユニット2が、もっとも早く満管になりそうな巻取りユニット2である。このような各巻取りユニット2の巻取り状態は、巻取り状態認識手段30bが認識しており、この認識結果を利用して、装置コントローラ30は、もっとも早く満管になりそうな巻取りユニット2を特定できる。
ステップ112では、装置コントローラ30(目標設定手段30c)は、もっとも早く満管になりそうな巻取りユニット2を、玉揚げ作業の実行目標の巻取りユニット2に設定する。
ステップ113では、装置コントローラ30は、玉揚げ装置3を、ステップ106で玉揚げ作業の実行目標に設定した巻取りユニット2に向けて走行させて、その作業位置Pに停止させる。
ステップ114では、装置コントローラ30(作業待機手段30d)は、その作業位置Pに、玉揚げ装置3を、玉揚げ作業の実行目標に設定した巻取りユニット2が満管に移行するまで、待機させる。
ステップ115では、装置コントローラ30は、玉揚げ作業の実行目標に設定した巻取りユニット2に対して、玉揚げ装置3により玉揚げ作業を実行させる。
【0070】
ステップ115の処理が終了すると、ステップ109に移行し、前述と同様の処理が行われる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】ワインダーの構成を示す正面図。
【図2】ワインダーの側面断面図。
【図3】ワインダーの構成を示す概略平面図。
【図4】ワインダーにおいて満管および準満管の巻取りユニットが複数発生した状況を示す図。
【図5】現在位置検出手段の構成を示すブロック図。
【図6】玉揚げ装置による玉揚げ作業の実行フロー図。
【符号の説明】
【0072】
1 ワインダー
2 巻取りユニット
3 玉揚げ装置
20 ユニットコントローラ
20a 定長到達信号発信手段
20b ID返信指令装置
30 装置コントローラ
30a 巻取り状態記憶手段
30b 巻取り状態認識手段
30c 目標設定手段
30d 作業待機手段
30e 走行駆動制御手段
30f 停止時現在位置認識手段
30g カウント手段
30h 走行時現在位置認識手段
41 インデックスプレート
42 ID要求受信装置
61 インデックスプレート検出センサ
62 ID要求送信装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸を巻き取って巻取管上にパッケージを形成する複数の巻取りユニットと、
前記巻取りユニットのいずれかに移動して、その巻取りユニットに対して玉揚げ作業を行う玉揚げ装置と、
を備える玉揚げ装置を有する繊維機械であって、
前記巻取り長さが満管にある前記巻取りユニットを最優先としながら、満管未満の前記巻取りユニットについては、前記巻取り長さが満管に近い順に優先して、前記玉揚げ作業の実行目標とする前記巻取りユニットを設定する目標設定手段と、
前記実行目標とする巻取りユニットに前記玉揚げ装置が到達してから、その巻取りユニットで形成されている前記パッケージが満管となるまで、前記玉揚げ装置に前記玉揚げ作業の実行を待機させる作業待機手段と、
を備える、
ことを特徴とする、玉揚げ装置を有する繊維機械。
【請求項2】
前記パッケージの巻取り長さが満管未満の所定長さになると、そのパッケージを形成している前記巻取りユニットより定長到達信号を発信する定長信号発信手段を備え、
前記目標設定手段は、前記各巻取りユニットからの前記定長到達信号の発信時刻に基づいて認識される前記各巻取りユニットにおける前記パッケージの巻取り長さの大小を把握する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の玉揚げ装置を有する繊維機械。
【請求項3】
前記目標設定手段は、前記パッケージの巻取り長さが満管の長さの前記巻取りユニットが複数ある場合は、前記玉揚げ装置の現在位置から前記巻取りユニットまでの距離が近い順序で、前記実行目標を設定する、
ことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の玉揚げ装置を有する繊維機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−308814(P2007−308814A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−137060(P2006−137060)
【出願日】平成18年5月16日(2006.5.16)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】