説明

現像装置

【課題】現像剤担持体を2本以上使用した現像装置において、現像剤担持体の温度分布の不均一による熱変形を抑制できる現像装置を提供する。
【解決手段】現像剤を担持して搬送し、感光体ドラム1上の静電潜像を現像する上流現像スリーブ26と、上流現像スリーブ26に担持された現像剤の層厚規制ブレード21と、上流現像スリーブ26より受け取った現像剤を担持して搬送し、感光体ドラム1上の静電潜像を現像する下流現像スリーブ28とを有し、上流現像スリーブ26は、0<mx<1、m=(hP)/(kA)、h:対流熱伝達率(自然対流)(W/mK)、k:現像スリーブの熱伝導率(W/mK)、P:現像スリーブの肉厚断面の周囲長(m)、A:現像スリーブの肉厚断面積(m)、x:(現像スリーブの肉厚断面の周囲長)/2(m)、を満たし、下流現像スリーブ28は、ビッカース硬さが300Hv以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式あるいは静電記録方式を採用した画像形成で用いられる現像装置に関するものであり、特に複数の現像スリーブを有する現像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真複写機等の画像形成装置において、現像剤担持体である現像スリーブを用いた磁気ブラシ現像方法が一般化されている。磁気ブラシ現像方法とは以下のような方法である。
【0003】
まず、感光体ドラム上の静電像を効率よく現像する目的を達成するために、二成分現像剤又は一成分現像剤を現像スリーブに保持させる。現像スリーブは、内部に磁極を有する非磁性体で作られた中空の円筒状の現像剤担持体である。
【0004】
次に、現像スリーブによって、現像剤容器から感光体ドラムに対向する現像領域まで現像剤を搬送する。現像領域で磁界の作用により現像剤を穂立ちさせて感光体ドラム表面に摺擦させることにより、感光体ドラム上に形成された静電潜像を現像させる。
【0005】
現像スリーブを用いた磁気ブラシ現像方法は、白黒デジタル複写機や高画質を要求されるフルカラー複写機を中心に多くの製品で用いられている。
【0006】
これまで、感光体ドラムの回転移動速度が比較的低い場合には、つまり比較的低速な複写機の場合には、現像時間が短くても充分であり良好な現像画像が得られるので、現像スリーブが1本でもよかった。しかしながら、最近の複写機への高速化の要求の流れの中で、感光体ドラムの回転移動速度が大きくなった場合は、現像スリーブが1本では必ずしも好適な画像形成ができるとは限らなくなった。
【0007】
その対策として、現像スリーブの周速度を大きくすることで、現像効率を上げる方法がある。しかし、現像スリーブの周速度を大きくすると、磁気ブラシを形成している現像剤に働く遠心力が大きくなり、現像剤の飛散が多くなり、複写機内部の汚染を引き起こし、装置機能の低下のおそれがある。
【0008】
そこで、別の対策として、現像スリーブを2本以上使用し、それを互いに隣り合うように周面を近接させて配置する。そして、現像剤をそれぞれの周面を伝わるように搬送して、現像時間を延ばし現像能力を上げるいわゆる多段磁気ブラシ現像方法が提案されてきている(特許文献1参照)。
【0009】
この現像スリーブを2本以上備えた多段磁気ブラシ現像方式の現像装置においては、現像スリーブの基材の材質としてステンレス鋼(SUS)やアルミニウムを用いた現像装置が多く知られている。
【0010】
【特許文献1】特登録02699968号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記のうちステンレス鋼の現像スリーブを用いた現像装置には以下のような課題が生じる。
【0012】
ステンレス鋼は比較的硬度があるため耐久性に優れているが、熱伝導性が悪いという欠点がある。そのため、現像スリーブの近傍に熱源があると、現像スリーブの熱源側とその反対側とで温度差が生じて現像スリーブが熱変形し、現像スリーブの回転周期で現像濃度にムラが発生してしまう場合があった。
【0013】
この対策として、例えば画像形成装置の待機中時に、ある時間間隔で現像スリーブを少しずつ回転させて、現像スリーブの温度分布の変動をなくしてから、コピーをスタートさせる方法が提案されている。しかし、この方法には、現像スリーブの駆動系の寿命を短くしたり、現像剤の飛散を生じたりする等の課題がある。
【0014】
また、ユーザーによるコピーボタンのONと同時に、現像スリーブをある時間だけ回転させたりして、現像スリーブの温度分布の変動をなくしてから、コピーをスタートさせる方法が提案されている。しかし、この方法には、ファーストコピータイムが長くなるという課題があった。従って極力、現像スリーブの温度分布を均一にするような手段を取らなければならない。
【0015】
一方で、アルミニウムの現像スリーブを用いた現像装置には以下のような課題が生じる。
【0016】
アルミニウムは、ステンレス鋼と反対に、熱伝導性は高いが、比較的軟らかい材質であるため耐久性で所望の性能を満足できない場合があった。
【0017】
そこで本発明は、現像剤を担持する基材を2本以上使用した現像装置において、基材の耐久性を損なうことなく、基材の温度分布の不均一による熱変形を抑制して濃度ムラのない画像形成を行うことができる現像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために本発明に係る現像装置の代表的な構成は、層厚規制部材によって層厚が規制された前記現像剤を担持して搬送し、像担持体の上の静電像を現像する第一の基材と、前記第一の基材より受け取った現像剤を担持して搬送し、前記像担持体の上の静電像を現像する第二の基材と、を有する現像装置において、
前記第一の基材は、純アルミニウム又はアルミニウム合金からなり、
前記第二の基材は、ステンレス鋼からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、現像剤を担持する基体を2本以上使用した現像装置において、基体の耐久性を損なうことなく、基体の温度分布の不均一による熱変形を抑制して濃度ムラのない画像形成を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
[第一実施形態]
本発明に係る現像装置の第一実施形態について、図を用いて説明する。図1は本実施形態に係る画像形成装置の構成図である。なお、本実施形態は本発明の適用可能な1形態であって、これに限定されるものではない。
【0021】
(画像形成装置100)
図1に示すように、画像形成装置100は、4個の画像形成部(画像形成ステーション)を有する4色フルカラーの電子写真方式の画像形成装置である。4個の画像形成部は、中間転写体としての中間転写ベルト7の回転方向(矢印R7方向)に沿って上流側から下流側にかけて配設されている。
【0022】
各画像形成部は、それぞれ像担持体としてドラム形の電子写真感光体(以下「感光体ドラム」という。)1a、1b、1c、1dを備えている。感光体ドラム1a〜dは、この順に、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色のトナー像を形成する。
【0023】
感光体ドラム1a〜1dは、それぞれ矢印R1方向(図1中の時計回り)に回転駆動されるようになっている。また、各々の感光体ドラム1a〜1dはヒーターを内蔵しており、感光体ドラム上の温度検知手段14a、14b、14c、14dの検出結果に基づいて約45℃に保たれるよう制御されている。温度検出手段14a〜14dとしてはサーモパイル方式やサーミスタ方式などを用いることができる。
【0024】
各感光体ドラム1a〜1dの周囲には、その回転方向に沿って順に、帯電器(帯電手段)2、露光装置(潜像形成手段)3、現像装置4、一次転写ローラ(一次転写手段)5、ドラムクリーナ(クリーニング装置)6が配設されている。
【0025】
一次転写ローラ5a、5b、5c、5d及び二次転写対向ローラ8には、無端状の中間転写ベルト7が掛け渡されている。中間転写ベルト7は、その裏面側から一次転写ローラ5a〜5dによって押圧されていて、その表面を感光体ドラム1a〜1dに当接させている。中間転写ベルト7は、駆動ローラも兼ねるローラ8の矢印R8方向の回転に伴って、矢印R7方向に回転するようになっている。この中間転写ベルト7の回転速度は、上述の各感光体ドラム1a〜1dの回転速度(プロセススピード)とほぼ同じに設定されている。
【0026】
中間転写ベルト7表面における、ローラ8に対応する位置には、二次転写ローラ(二次転写手段)9が配設されている。二次転写ローラ9は、ローラ8との間に中間転写ベルト7を挟持しており、二次転写ローラ9と中間転写ベルト7との間には、二次転写ニップ(二次転写部)T2が形成されている。
【0027】
画像形成に供される転写材Pは、給送カセット10に積載された状態で収納されている。転写材Pは、給送ローラ、搬送ローラ、レジストローラ等を有する給搬送装置(いずれも不図示)によって、二次転写ニップT2に供給される。
【0028】
上述構成の画像形成装置においては、以下のようにして、転写材P上に4色フルカラーのトナー像が形成される。
【0029】
まず、感光体ドラム1a〜1dは、感光体ドラム駆動モータ(不図示)によって矢印方向に所定のプロセススピードで回転駆動され、帯電器2a、2b、2c、2dによって所定の極性・電位に一様に帯電される。帯電後の感光体ドラム1a〜1dは、露光装置3a、3b、3c、3dによって画像情報に基づく露光が行われ、露光部分の電荷が除去されて各色毎の静電像が形成される。
【0030】
これら感光体ドラム1a〜1d上の静電像は、現像装置4a、4b、4c、4dによってイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色のトナー像として現像される。これら4色のトナー像は、一次転写ニップT1において、一次転写ローラ5a、5b、5c、5dにより、中間転写ベルト7上に順次に一次転写される。こうして、4色のトナー像が中間転写ベルト7上で重ね合わされる。一次転写時に、中間転写ベルト7に転写されないで感光体ドラム1a〜1c上に残ったトナー(残留トナー)は、ドラムクリーナ6a、6b、6c、6dによって除去される。残留トナーが除去された感光体ドラム1a〜1dは、次の画像形成に供される。
【0031】
一方、給送カセット10から給搬送装置によって搬送された転写材Pは、レジストローラによって中間転写ベルト7上のトナー像にタイミングを合わせるようにして二次転写ニップT2に供給される。供給された転写材Pは、二次転写ニップT2において、二次転写ローラ9により、中間転写ベルト7上の4色のトナー像を一括で二次転写される。
【0032】
4色のトナー像が二次転写された転写材Pは、定着装置11に搬送され、加熱・加圧されて表面にトナー像を定着される。トナー像定着後の転写材Pは、排出トレイ上に排出される。以上で、1枚の転写材Pの片面(表面)に対する4色フルカラーの画像形成が終了する。
【0033】
(現像装置4)
ここで、図2を用いて現像装置4について詳述する。なお、本実施形態の画像形成装置本体に用いられる各現像装置は同一の構成を備えているので、一つの現像装置についてのみ説明を行う。以下の説明で、現像装置4といえば、現像装置4a、4b、4c、4dのどれを指してもよい。
【0034】
図2は現像装置4の構成図である。図2に示すように、現像装置4は現像剤容器22、隔壁23、搬送スクリュー24、25、現像スリーブ26、28を有している。
【0035】
現像剤容器22は、隔壁23によって内部を現像室R1と撹拌室R2に区画される。現像室R1および撹拌室R2内には、トナー粒子と磁気キャリアが混合された現像剤が収容されている。磁気キャリアとして、樹脂磁性キャリア等を用いている。樹脂磁性キャリアは、フェライトキャリアやバインダ樹脂と磁性金属酸化物及び非磁性金属酸化物からなる
【0036】
現像室R1内には搬送スクリュー24が収容されており、回転駆動により現像剤を、現像スリーブ26、28の長手方向に沿って搬送する。攪拌室R2内に収容されたスクリュー25による現像剤搬送方向はスクリュー24による現像剤搬送方向とは反対方向である。
【0037】
隔壁23には手前側と奥側(現像装置長手方向両端部)に開口が設けられており、スクリュー24で搬送された現像剤が一方の開口からスクリェー25に受渡され、スクリュー25で搬送された現像剤が他方の開口からスクリュー24に受渡される。
【0038】
現像剤容器22の感光体ドラム1に近接する部位には開口部が設けられ、その表面に適度な凹凸を有する第一の現像剤担持体(上流現像スリーブ26)および第二の現像剤担持体(下流現像スリーブ28)の2本の現像スリーブ設けられている。なお、2本の現像スリーブ26、28は、それぞれ厚さが1mm、外径が30mm、スラスト方向の長さが350mmである。現像スリーブ26、28は、感光体ドラム1と300μmの微小なギャップを開けて対向配置されている。
【0039】
第一の現像剤担持体である上流現像スリーブ26は、矢印R26の方向(感光体回転方向とは逆方向)に回転し、現像容器開口上端にある層厚規制ブレード(層厚規制部材)21にて適正な現像剤層厚に規制された後、該現像剤を第1の現像領域A1に担持搬送する。上流現像スリーブ26内にはローラ状の第1のマグローラ27が固定配置されている。層厚規制ブレード21は、上流現像スリーブ26に対して、所定の間隙を有するように配置されている。
【0040】
第1のマグローラ27は、第1の現像領域A1に対向する現像磁極S1を有している。現像磁極S1が、第1の現像領域A1に形成する現像磁界により現像剤が穂立ちし、現像剤の磁気ブラシが形成される。この磁気ブラシが第1の現像領域A1で矢印a方向に回転する感光体ドラム1に接触して静電像を第1の現像領域A1で現像する。その際、磁気ブラシに付着しているトナーと、現像スリーブ表面に付着しているトナーも、静電像の画像領域に転移して現像する。
【0041】
本実施形態では、第1のマグローラ27は、現像磁極S1の他にN1、N2、N3、S2極を有している。N3極とN2極は同極で隣り合っており反撥磁界が形成されるため、現像剤に対してバリアが形成されている。
【0042】
上流現像スリーブ26および感光体ドラム1の双方に略対向した領域に、第二の現像剤担持手段である下流現像スリーブ28を矢印R28方向(上流現像スリーブ26と同一方向)に回転可能に配設している。下流現像スリーブ28は、上流現像スリーブ26と同様に非磁性材料で構成され、その内部には磁界発生手段であるローラ状の第2のマグローラ29が非回転状態で設置されている。
【0043】
第2のマグローラ29は、磁極S3、N4、S4、N5、S5の5極を有している。N4極上の磁気ブラシは、第2の現像領域A2で感光体ドラム1に接触しており、第1の現像領域A1を通過後の感光体に対し、更に2度目の現像を行う。またS3極とS5極は同極でありS3極とS5極の間には反発磁界が形成され、現像剤に対してバリアが形成されている。S3極は上流現像スリーブ26に内包された第1のマグローラ27のN3極に、スリーブ26、28が最も接近している位置の近傍で対向している。
【0044】
(現像剤の流れ)
以下、現像剤の流れについて説明する。図3は第1の現像スリーブ26と第2の現像スリーブ28付近の拡大図である。図3に示すように、第1の現像スリーブ(上流現像スリーブ)26のN3極とN2極間には反発磁界が形成されおり、第2の現像スリーブ(下流現像スリーブ)28のS3極とS5極間にも反発磁界が形成されている。N3極は、スリーブ26、28の最近接位置より現像スリーブ26の回転方向上流側の位置にある。
【0045】
このため、上流現像スリーブ26上を搬送され第1の現像領域A1を通過してきた現像剤はN3極へ至る。そして、矢印dのようにN3極からS3極方向へのびる磁力線に従って下流現像スリーブ28側へ移動し、下流現像スリーブ28によって撹拌室R2内の搬送スクリュー5まで搬送される。
【0046】
すなわち、現像剤は、上流現像スリーブ26のN2→S2→N1→S1→N3と搬送された後、N3極で上流現像スリーブ26の反発磁界によりブロックされ、下流現像スリーブ28へと移動する。そして、下流現像スリーブ28のS3→N4→S4→N5→S5と搬送され、S5極で下流現像スリーブ28の反発磁界にブロックされ攪拌室R2へ剥ぎ落とされる。
【0047】
なお、受渡極(受渡部)であるN3とS3は完全に対向している必要はない。N3極は、完全に対向する位置(最近接位置)から現像スリーブ26の回転方向上流側に45°のズレ範囲内にあり、S3極はそのN3極に略対向していれば、現像剤の受渡をスムーズに行うことができる。
【0048】
(現像スリーブ26、28の材質)
ここで、現像スリーブ26、28を構成する第一、第二の基材の材質について説明する。
【0049】
従来、現像スリーブ26、28の第一、第二の基材の材質としては、性能およびコストの観点から非磁性ステンレス鋼(SUS)かアルミニウムが多く用いられている。発明が解決しようとする課題の項でも述べたように、ステンレス鋼には耐磨耗性は良いが熱分布の不均一により変形が生じ易いという課題がある。一方、アルミニウムには熱分布が均一になりやすく変形しにくいが、削れ易いという課題がある。
【0050】
実際に上流現像スリーブ26、下流現像スリーブ28の基材として非磁性ステンレス鋼を用いた場合には、特に定着や感光体ドラムのヒーターなどの熱源が近くにある場合には、熱変形の課題が生じる場合があった。また、上流現像スリーブ26、下流現像スリーブ28としてアルミニウムを用いた場合には、削れの観点で所望の寿命を満たさないことがあった。
【0051】
そこで、本実施形態の現像装置4では、上流現像スリーブ26の基材の材質としてアルミニウムを用い、下流現像スリーブ28の基材の材質としてステンレス鋼を用いた。かかる構成とした理由を以下に説明する。
【0052】
ここでいうステンレス鋼とは、例えばSUS303、SUS304、SUS305、SUS316(JISG4303参照)などが挙げられ、いずれを用いてもよい。本実施形態においては、特に磁性が弱くかつ加工しやすいSUS305を使用した。
【0053】
また、アルミニウムとは純アルミニウム又はアルミニウム合金のことを指す。アルミニウム合金とは、アルミニウムを主成分とする合金であり、銅、マンガン、ケイ素、マグネシウム、亜鉛、ニッケルなどと合金にすることで強度など金属材料としての特性の向上を図ったものである。
【0054】
層厚規制ブレード21を備えた上流現像スリーブ26の基材の材質としてステンレス鋼を用いた場合に、熱分布の不均一により変形が生じると、層厚規制ブレード21と現像スリーブ26との距離が周期的に変動することになる。そのため、現像スリーブ26上にコートされた現像剤量が上流現像スリーブ26の回転周期で変動してしまう。その結果、濃度変動が生じてしまう。
【0055】
一方、下流現像スリーブ28は上流現像スリーブ26より現像剤を受け取るため層厚規制ブレード21を備えていない。したがって、熱分布の不均一により変形が生じても、上流現像スリーブ26のように現像スリーブ28の回転周期での現像剤量の変動(ムラ)は発生しない。よって、下流現像スリーブ28の基材は材質としてステンレス鋼を用いた場合にも熱変形の問題による影響は少ない。
【0056】
一方で、現像スリーブ26、28の基材の材質としてアルミニウムを用いた場合、上流現像スリーブ26から下流現像スリーブ28への現像剤の受渡部(極N3、S3)において現像スリーブ26、28の削れが発生する。
【0057】
ただし、受渡部(極N3、S3)においては下流現像スリーブ28の表面は上流現像スリーブ26上の現像剤の流れの方向と逆(カウンタ)方向に回転しながら上流現像スリーブ26から現像剤を受け取らなければならない。そのため、下流現像スリーブ28は現像剤との摺擦が大きく削れやすい。
【0058】
一方、上流現像スリーブ26は下流現像スリーブ28に現像剤を受け渡すだけなので、現像剤との摺擦も小さい。従って、材質としてアルミニウムを用いた場合にも、下流現像スリーブ28のような削れの影響は少ない。
【0059】
以上より、上流現像スリーブ26は熱変形による影響を受けやすいが、削れにくい状況にあるので、熱伝導率が比較的高く熱変形に強いアルミニウムを用いればよい。そして、下流現像スリーブ28は削れやすいが、熱変形による影響少ない状況にあるので、比較的耐磨耗性に優れているステンレス鋼を用いればよい。
【0060】
(濃度ムラおよび削れの実験)
本実施形態の現像装置4において、現像スリーブ26、28の基材の材質を変えた下記の比較例1、2、実施例1について、熱変形による濃度ムラおよび削れに関する実験を行った。表1は実験結果である。ステンレス鋼はSUS305、アルミニウムは、A5000系のアルミニウム合金を用いた。
【0061】
比較例1は、現像スリーブ26、28共にステンレス鋼を用いたものである。比較例2は、現像スリーブ26、28共にアルミニウムを用いたものである。実施例1は、現像スリーブ26にアルミニウムを用い、スリーブ28にステンレス鋼を用いたものである。
【0062】
熱変形による濃度ムラに関しては、ヒーターにより感光体ドラム1が45℃に保持されている場合の現像スリーブ26、28の回転周期での濃度ムラの発生有無を比較した。また、現像スリーブ26、28の削れに関しては、50万枚通紙相当の耐久実験を行い、現像スリーブ26、28の削れ量を比較した。
【0063】
【表1】

【0064】
表1に示すように、比較例1では、濃度ムラが発生したが、現像スリーブ26、28共に初期に2μmほど削れた後は削れることはなかった。
【0065】
比較例2では、濃度ムラは発生しなかったが、下流現像スリーブ28の削れ量が大きく(7μm)、現像剤の搬送性が低下し、現像剤の搬送不良が生じた。下流現像スリーブ28のみ搬送性が低下すると、受渡部(極N3、S3)において現像剤が滞留するようになり、感光体ドラム上の画像を掻きとったり、感光体ドラム上にキャリアが付着するようになる問題が生じた。
【0066】
一方、実施例1では、濃度ムラの発生もなく、現像スリーブ26、28共に初期に2μmほど削れた後は削れることもなく、削れによる問題も発生しなかった。
【0067】
(温度分布の測定)
比較例1、2、実施例1に関して、画像形成装置内における現像スリーブ26、28の温度分布を測定した。
【0068】
比較例1、2、実施例1で、室温22℃の状態でステンレス鋼を用いた現像スリーブの温度は、感光体ドラム1と対向した現像部位置A(図4参照)で約43℃である。また、現像部位置Aとは反対側の位置Bで約32℃であって、位置A、Bとで11℃の温度差があった。
【0069】
比較例1、2、実施例1で、室温22℃の状態でアルミニウムを用いた現像スリーブの温度は、現像部位置A(図4参照)で約43℃、位置Bで約38℃、現像部位置A、Bとで5℃の温度差であった。
【0070】
現像スリーブ26、28の位置A、Bの温度差の材料による違いは、現像スリーブを放熱ファンと考えると良く説明できる。
【0071】
図4(a)において、円筒状の現像スリーブ26、28の現像部位置Aが温度Ta=45℃に保たれた場合、反対側位置Bの温度Tbは、以下のような関係式により求められる。但し、周囲の空気の温度Tairは22℃とした。また、図4(b)は、現像スリーブ長手方向の各種寸法を表した図である。
【0072】
△Ta/△Tb=exp[−mx]、m=hP/kA
但し、
△Ta:位置Aと雰囲気の温度差=Ta−Tair、
△Tb:位置Bと雰囲気の温度差=Tb−Tair、
h:対流熱伝達率(自然対流:スリーブ周囲の空気の対流による影響を表す係数):10W/mK、
k:現像スリーブの基材の熱伝導率(ステンレス鋼:16W/mK、アルミ:200W/mK)、
P:現像スリーブの基材の長手方向肉厚断面の周囲長=2×l+2×d≒0.7m、
l:現像スリーブの基材の長手方向長さ(0.35m)、
d:現像スリーブの基材の厚み(0.7×10−3m)、
A:基材の長手方向肉厚断面積=l×d=2.45×10−4
x:スリーブ外周面におけるAB間距離L=(現像スリーブの外周の周長)/2=π×r=4.7×10−2m、
r:現像スリーブの半径(15mm)、
Tair:雰囲気温度(22℃)、
Ta:位置Aの温度(約45℃)、
Tb:位置Bの温度
【0073】
上式に従うと、Tbは、ステンレス鋼の場合Tb(SUS)=26℃、アルミニウムの場合Tb(アルミ)=35℃となる。
【0074】
このように、上式は熱分布の差をうまく表現できている。よって、熱伝導率の良い材料(アルミニウム)で現像スリーブを作ると、現像スリーブの温度ムラが改善されることを理論的にも分る。
【0075】
上記の計算値と実測値とには若干の差がある。この差は、現像スリーブ26、28近くの周囲の空気が感光体ドラム1の熱により温度分布を持って、周囲の空気温度22℃よりも高くなることに起因している。正確な温度を知るには雰囲気温度を正確に知る必要があるが、熱分布の差に着目している限りは、雰囲気温度の正確な値は重要ではない。熱分布の差は上式の右項の乗数の絶対値(mx)が0の時になくなり、0に近いほど小さくなる。そのため、乗数の絶対値が小さくなるように現像スリーブの材質、形状を選ぶことで熱変形が軽減されることが推測される。
【0076】
(mxと濃度ムラの発生の有無)
下記の16種類の現像スリーブの基材に関して、mxの計算および濃度ムラの発生の有無を調べ、その相関関係を調べた。
【0077】
ステンレス鋼、鉄、アルミニウム、銅の4種の材質で作られた現像スリーブを用意する。現像スリーブの外径に関してもφ20mm、φ25mm、φ30mm、φ40mmの4種類を用意する。なお、現像スリーブの厚さは1mm、スラスト長さは350mmで統一した。
【0078】
このとき、雰囲気温度は15℃、感光体ドラム中のヒーター温度は50℃に設定した。表2には、ステンレス鋼、鉄、アルミ、銅の各々の材質の熱伝導率を載せた。表3にはmxの計算結果と濃度ムラの発生の有無を同時に示した。表3中の○は発生しない、△は軽微に発生、×は発生をそれぞれ意味する。
【表2】

【0079】
【表3】

【0080】
これらの結果より、mxの値と濃度ムラの発生の有無には相関があり、mxの値が1より小さければ(0<mx<1)熱変形による濃度ムラの発生を抑えることが可能であることがわかった。
【0081】
(材質と削れ)
ステンレス鋼、チタン合金、白金加金合金、鉄、アルミニウム、銅の6種の材質に関する削れ量を調べた。本実施形態の現像装置4に6種の材質の基材の現像スリーブを用いて、50万枚通紙相当の耐久試験、削れ量を比較した。表4は結果とビッカース硬さも同時に示しておいた。
【0082】
試験の結果から、削れ量と硬度の間には相関があり、ビッカース硬さが硬いほど削れにくいことがわかる。ビッカース硬さが280Hv以上であれば、削れに関して問題ないといえる。更に言えば、300Hv以上であればいっそう削れに関して問題ないといえる。2μmの削れはブラスト加工時に生じる細かな出っ張り部分が削れるものであり、材質が硬くても生じてしまうものである。この削れは搬送性に影響はほとんどない。
【0083】
先述のとおり、ここでの削れは下流現像スリーブ28に関してのものであり、上流現像スリーブ26に関しては銅やアルミニウムのように比較的軟らかい材質であっても上述のように削れが問題になることはない。
【表4】

【0084】
(結果)
以上の知見から、現像剤規制ブレード21を備えた上流現像スリーブ26は熱変形による影響を受けやすいので、0<mx<1となるように現像スリーブの基材の材質、形状を選ぶことで熱変形に強くする。下流現像スリーブ28は削れやすいので、ビッカース硬さが300Hv以上の比較的耐磨耗性に優れている材質を選ぶことで耐磨耗性に強くする。
【0085】
これにより、現像スリーブを2本以上を使用した現像装置において、現像スリーブの耐久性を損なうことなく、温度分布の不均一に起因する現像スリーブの熱変形による濃度ムラを抑え、良好で濃度ムラのない高品質な画像を得ることができる。
【0086】
上流現像スリーブ26の基材にふさわしい材質としては純アルミニウム又はアルミニウム合金があげられる。また、下流現像スリーブ28の基材にふさわしい材質としてはステンレス鋼(JISG4303)があげられる。
【0087】
なお、現像剤については、本実施形態においては、非磁性トナーと磁性キャリアからなる2成分現像剤の場合についてのみ述べた。しかし本発明はかかる現像剤に限定されるものではなく、磁性トナーを用いた場合、磁性トナーと磁性キャリアを用いた場合など、現像剤中に磁性粒子を含む場合には、すべて適用可能である。
【0088】
[第二実施形態]
次に本発明に係る現像装置の第二実施形態について図を用いて説明する。図5は本実施形態にかかる現像装置4の構成図である。上記第一実施形態と説明の重複する部分については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0089】
図5に示すように、本実施形態の現像装置4は、上記第一実施形態の現像装置4において、第二の現像剤担持体(現像スリーブ28)の外径が第一の現像剤担持体(現像スリーブ26)の外径より小さくなるように構成したものである。
【0090】
下流現像スリーブ28の基材は耐磨耗性の観点からステンレス鋼を材質として使用している。そのため、下流現像スリーブ28は熱変形が生じやすい状況にある。しかし、下流現像スリーブ28は規制ブレード21を備えていないため、熱変形による影響がでにくい状況にあり、実使用上問題はない。しかし、熱変形が生じにくくしておくことが好ましい。
【0091】
上記第一実施形態では、上流現像スリーブ26と下流現像スリーブ28の外径は同じとしたが、外径が小さい方が熱分布の差が生じにくい。このため、図5に示すように材質による熱変形の抑制効果がない下流現像スリーブ28は上流現像スリーブ26に比較してその外径を小さくしておくことが好ましい。
【0092】
上流現像スリーブ26と下流現像スリーブ28共に外径を小さくすると、現像ニップが小さくなるので、現像性の低下という観点で問題が生じる場合がある。そのため、熱伝導率が比較的高く熱変形の生じにくい上流現像スリーブ26の外径はなるべく大きく、熱伝導率の比較的低く熱変形の生じやすい下流現像スリーブ28の外径はなるべく小さくしておくことが必要である。
【0093】
本実施形態においては、上流現像スリーブ26の外径は30mm、下流現像スリーブ28の外径は20mmとした。
【0094】
上記構成により、上記第一実施形態の効果が得られるとともに、下流現像スリーブ28について熱変形が生じにくくしておくことができる。
【0095】
[第三実施形態]
次に本発明に係る現像装置の第三実施形態について図を用いて説明する。図6は本実施形態にかかる現像装置4の構成図である。上記第一及び第二実施形態と説明の重複する部分については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0096】
現像スリーブの熱変形の原因となる熱源に関しては、ヒーターを内蔵した感光体ドラム1や定着装置等色々考えられる。熱変形対策として、これらの熱源から現像スリーブをなるべく離しておくことが考えられる。
【0097】
しかしながら、ヒーターを内蔵した感光体ドラム1に関していえば、感光体ドラム1と現像スリーブ26、28の距離が離れすぎると現像性の低下を招くという問題が生じる。そのため、ある一定の距離以上は離すことができない。なお、ここで言うところの距離とは、感光ドラム1の表面と、現像スリーブ26,28の表面との、最近接距離のことを言う。
【0098】
上記第二実施形態でも述べたように、熱伝導率の比較的低く熱変形の生じやすい下流現像スリーブ28はなるべく熱変形の生じにくい構成にしておくことが好ましい。そこで、本実施形態では図6に示すように、下流現像スリーブ28と感光体ドラム1の距離は、上流現像スリーブ26と感光体ドラム1の距離より長くなる構成とする。具体的には、上流現像スリーブ26と感光体ドラム1の距離を250μm、下流現像スリーブ28と感光体ドラム1との距離を400μmとする。
【0099】
上記構成により、上記第一または第二実施形態の効果が得られるとともに、下流現像スリーブ28について熱変形が生じにくくしておくことができる。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】第一実施形態に係る画像形成装置の構成図である。
【図2】現像装置の構成図である。
【図3】現像装置の現像スリーブ上を搬送される現像剤の流れを説明する図である。
【図4】(a)現像装置の温度分布の測定点A、Bを説明するための図である。(b)現像スリーブ長手方向の各寸法を表した図である。
【図5】第二実施形態にかかる現像装置の構成図である。
【図6】第三実施形態にかかる現像装置の構成図である。
【符号の説明】
【0101】
A …現像部位置
A1、A2 …第2の現像領域
B …位置
P …転写材
R1 …現像室
R2 …撹拌室
T1、T2 …二次転写ニップ
1 …感光体ドラム
2 …帯電器
3 …露光装置
4 …現像装置
5 …一次転写ローラ
6 …ドラムクリーナ
7 …中間転写ベルト
8 …二次転写対向ローラ
9 …二次転写ローラ
10 …給送カセット
11 …定着装置
12 …定着ローラ
13 …加圧ローラ
14 …温度検知手段
21 …層厚規制ブレード
22 …現像剤容器
23 …隔壁
24 …搬送スクリュー
25 …スクリュー
26、28 …現像スリーブ
27 …第1のマグローラ
29 …第2のマグローラ
34 …現像装置
100 …画像形成装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
層厚規制部材によって層厚が規制された前記現像剤を担持して搬送し、像担持体の上の静電像を現像する第一の基材と、前記第一の基材より受け取った現像剤を担持して搬送し、前記像担持体の上の静電像を現像する第二の基材と、を有する現像装置において、
前記第一の基材は、純アルミニウム又はアルミニウム合金からなり、
前記第二の基材は、ステンレス鋼からなることを特徴とする現像装置。
【請求項2】
前記第一の基材は、0<mx<1、の関係を満たし、
但し、m=(hP)/(kA)、
h:対流熱伝達率(自然対流)(W/mK)、
k:基材を構成する材料の熱伝導率(W/mK)、
P:基材の長手方向肉厚断面の周囲長(m)、
A:基材の長手方向肉厚断面積(m)、
x:基材の外周の周長/2(m)、
前記第二の基材は、ビッカース硬さが300Hv以上であることを特徴とする請求項1に記載の現像装置。
【請求項3】
前記第二の基材の外径が前記第一の基材の外径より小さいことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の現像装置。
【請求項4】
前記第二の基材と前記像担持体との距離は、前記第一の基材と前記像担持体との距離より長いことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の現像装置。
【請求項5】
内部に熱源を備えている前記像担持体を有する画像形成装置に用いられることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の現像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−185745(P2008−185745A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−18723(P2007−18723)
【出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】