説明

生体組織への照射

本発明では、生物組織サンプルに照射を行う方法であって、第1の暴露期間の間、透過性放射線ビームで生物組織サンプルの一部に照射を行うステップと、その後、第2の暴露期間の間、透過性放射線ビームで、同一のまたは隣接する生物組織部分に照射を行うステップと、を有し、前記第2の暴露期間の間、前記組織サンプルに入射する前記放射線の線量は、前記第1の暴露期間の間の前記線量よりも多いことを特徴とする方法について示した。また、本発明では、本発明の方法により作動する機器について示した。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織に照射を行うための方法およびシステムに関する。特に、本発明は、必ずしも生体組織の特徴化に限定する必要はないが、例えば、正常な(例えば健康な)または異常な(疾患のある)組織の特徴化に適用され、生体内および生体外の両方の測定に適用される。本発明は、乳ガンを含むガンの診断および処置の際に有益である。
【背景技術】
【0002】
マンモグラフィーは、通常、乳房腫瘍の早期検出に使用される一般的なX線技術である。しかしながら、他の生体内X線(または他の透過性放射線、特に電離放射線)測定
技術と同様に、生体組織によるX線放射線の吸収(X線結像に基づく原理)によって、組織には、分子損傷が生じる。損傷の発生する可能性は、吸収された放射線量(単位面積当たりのエネルギー吸収量)とともに高くなる。
【0003】
(1回の処理または長時間の累積による)過度の被曝は、持続的な甚大な被害のリスクを著しく増大させ、例えば、ガンの発生リスクを高めることが示されている。これは、患者が浴びる放射線の線量を許容制限内に維持し、いかなる甚大な被害もできる限り回避する必要があることを示している。
【0004】
主に、従来のマンモグラフィーを使用した際に得られる組織特性に関する情報は、極めて限定されているという理由から、疑わしい乳ガンに対する処理、または明白な乳ガンに対する処置のため、一般に、疑わしい可能性のある組織は、生検試料の形で患者から切除され、組織病理学者による専門的な解析に利用される。この情報から、患者の疾病の処置プログラムが得られる。現在の手法では、生検は必要な操作ではあるが、生検は、煩わしく厄介な過程であり、これらを排除すること、または少なくとも可能な限りこれらの使用を最小限に抑制することが望ましい。組織を生体外(通常、実験室)で解析するこれらの過程は、しばしば、結果が得られるまで相当な時間の遅延となり、さらにはその後の診断および処置の遅延にもつながる。
【0005】
可能性のある別の技術は、現在使用されているよりも広い範囲まで、組織特性を微調整し、これにより、患者の対象とする処置を改善するものである。この分野における既存の研究では、例えばX線回折効果を、ある種類の組織を識別する有効な手段として使用できることが示されている。しかしながら、従来のマンモグラフィーに関する放射線量と同様の考察から、これらの技術は、有意なデータが仮に得られるとしても、生体内測定用途としては現実的ではないことが示唆される。この結果、研究は、生体外実験測定、例えば、より高流束なビームおよび/またはより長い暴露時間を用いて、測定データに関するより多くの情報を得ることができる測定に絞られてきている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の全般的な課題は、放射線量の制限を遵守した上で、測定データの情報内容を増加させるために使用される、生物組織に照射を行う手法を提供することである。特に好適な課題は、生体内測定で、より有益なデータを収集することが可能な手法を提供することである。ただし、この手法は、生体外測定にも同様に適用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
大まかには、本発明では、最初に低い放射線量を使用し、組織サンプルの疑わしい部分にのみ、より高い放射線量で照射を行うことにより、生物組織サンプルに投与される放射線レベルを制御することが提案される。これに関して、疑わしい部分は、異常である可能性がある組織であっても良く、またはいくつかの関心のある他の特定の特徴を有するもしくは有さない可能性のある組織であっても良い。低い線量の測定によって、疑わしい部分を同定するための、組織サンプルに関する十分な情報が得られる。高い線量の測定によって、疑わしい組織部分の特徴に関するより多くの情報が得られ、例えば、異常な組織サンプルを、良性または悪性として分類することが可能となる。
【0008】
従って、本発明では、生物組織サンプルに照射を行う方法であって、
第1の暴露期間の間、透過性放射線ビームで生物組織サンプルの一部に照射を行うステップと、
その後、第2の暴露期間の間、透過性放射線ビームで、同一のまたは隣接する生物組織部分に照射を行うステップと、
を有し、
前記第2の暴露期間の間、前記組織サンプルに入射する前記放射線の線量は、前記第1の暴露期間の間の前記線量よりも多いことを特徴とする方法が提供される。
【0009】
第2の暴露期間の間、例えば、入射放射線の流束を増大することにより、または第1の暴露期間に比べて、暴露時間を延ばすことにより(または両者の組み合わせにより)、より多くの線量をサンプルに到達させても良い。これらの手法は、いずれも、第2の暴露期間中の組織サンプルへの光子数、さらには放射線量を増大する効果を有する。
【0010】
また、入射放射線のエネルギーを変化させることにより、線量を増大することも可能である。ただしこれは、通常の場合、あまり好ましくはない。実際には、しばしば、現実的な理由から、エネルギーを一定に維持することが好ましいとされる。
【0011】
組織サンプルの選択部分のみが、より高い放射線量パラメータを用いて照射されることが好ましい。一方、組織サンプルの十分な部分、または好ましくは組織サンプルの全体(必要であれば、高い放射線量の測定に利用される部分を除く)は、より低い暴露パラメータを用いて照射されることが好ましい。これは、例えば、サンプルに対して、広い(例えばスリット型)ビームを一次元的に走査することにより可能となる(ビームの幅は、サンプルの幅全体を照射できる程度であることが好ましい)。
【0012】
あるいは、サンプルに対して(例えば、ラスター走査、またはビームがサンプルの幅にわたって1方向に走査したときにのみ、測定が実施されるような断続的な照射の方法で)、より狭小のまたはペンシル型のビームを二次元的に走査することも可能である。他の代替例には、サンプルの周囲でビームが回転する方法が含まれる。
【0013】
より高い線量の放射線用に選択される組織サンプル部分は、より低い線量の照射の際に収集された組織データをベースとした、前記組織サンプルの識別可能な所定の組織特性に基づいて選択されることが好ましい。例えば、第1の暴露期間の際に、何らかの異常があると同定された組織サンプルの部分(「正常」と定義される所定の閾値を超えることが好ましい)は、より高い線量に暴露され、これらの組織部分のより明解な特徴化を目的として、これらの部分から更なるデータが収集される。
【0014】
この方法では、組織サンプル全体に照射される全放射線量を、必要以上に高めずに、収集データの情報内容を増大させることができる点で有意である。
【0015】
ある実施例では、より低い線量の暴露期間の間、従来の既存のマンモグラフィーおよび他の生体内X線測定技術に比べて、より低い放射線量で測定を行っても、依然として、組織サンプルの当該部分を同定するため、より高い線量での更なる検査が必要かどうかに関する十分な情報を得ることができる。この結果、これらの従来の技術よりも全体の線量を低くしたまま、組織サンプル特徴に関するより多くの情報が得られる。
【0016】
最初に、サンプル全体またはサンプルの領域の複数の部分に対して、低い線量での測定が実施され、次に選択部分が、例えば、サンプルまたはサンプル領域の第2の走査の際に、より高い線量の放射線に暴露される。この方法は、例えば、低い線量の測定に、従来のX線透過測定を使用して、一度にサンプル全体に照射を行い、次に、より高い線量のX線を提供するスリット型またはペンシル型のビームを用いて、疑わしいサンプル部分を検査する場合に有益である。
【0017】
あるいは、一般により好ましい方法として、単一の走査の間に、低い線量および高い線量の暴露測定を実施しても良い。例えば、低い線量での測定によって、疑わしい組織部分が検出された際に、線量をすかさず増大させてサンプルに対する走査を継続し、より高い線量で隣接する組織部分を照射する。あるいは、線量を増大させ、より高い線量レベルで、疑わしい組織部分を再走査することも可能である。いずれの場合も、測定データによって、被走査組織部分が正常であることが示されるまで、線量がより高いレベルに維持され、サンプル全体の走査が継続され、正常であることが示された場合、再度線量が減少する。あるいは、線量は、走査が移行する前に、より低いレベルに戻されても良い。
【0018】
特に生体内測定の場合、低い線量と高い線量での測定が単一の走査で行われる、これらの後者の手法では、低い線量と高い線量の測定間で、いかなるサンプルの動きも最小限に抑制され、全体の走査時間が最小化される。
【0019】
いくつかの実施例では、サンプルへの照射のため、および/または透過性もしくは散乱性の放射線を検出するため(もしくは他のパラメータの測定のため)に使用される機器の物理的な配置を制御して、測定結果からの利用可能な情報を増加させ、および/または線量の更なる制御を行うことが有意である。
【0020】
例えば、より高い線量で照射される領域は、入射放射線のビーム形状を変調することにより限定しても良い。例えば、低い線量の測定にはスリット型ビームを用い、選択部分での高い線量の集束放射に対しては、より狭小のスリット型ビームまたはペンシル型ビームを使用しても良い。
【0021】
他の実施例には、高い線量での測定の際に追加情報を得るため、代わりのおよび/またはより多くの数の検出器を使用すること、高い線量での測定の際に利用される検出器の配置形状を変更すること、および高い線量での期間中に、別のおよび/または追加の測定方法を利用することが含まれる。
【0022】
本願の基礎をなす思想は、システムの構成を「理知的に」を選択して、決定されるべき特定の組織特性を最も好適に識別するデータを得ることである。例えば、低い線量のモードでは、正常な組織部分と異常な組織部分とを単に識別できれば十分であり、使用される検出器は、この区別を最も好適に示すデータが得られるような測定を実施するように選定され配置される。しかしながら、高い線量での期間は、良性と悪性の組織を識別することが目的である場合があり、このためには、検出器を再配置することおよび/または別のもしくは追加の検出器を使用することが望ましい。
【0023】
このシステム構成を変更するという思想は、単独で利点を有し、線量レベルが変更されないときにも使用しても良い。
【0024】
組織特性の測定は、低い線量と高い線量の両方の暴露期間に実施され、組織データとして記録されることが好ましい。組織データを得るために使用される好適な技術には、エネルギーまたは角度分散X線(または他の透過性放射線)回折(EDXRD)、コンプトン散乱デンシトメトリー、低角X線(または他の透過性放射線)散乱、小角散乱(SAXS)、超低角散乱(ULAX)、従来のX線(または他の透過性放射線)透過測定、線形減衰(透過)係数の測定、および(生体外測定用の)XRF測定が含まれる。同時係属中のPCT特許出願第PCT/GB04/005185号およびPCT/GB05/001573号に示されているように、2またはそれ以上の、これらの測定法を組み合わせて使用することが好ましい。
【0025】
透過性放射線は、X線放射線であることが好ましい。
【0026】
本発明のある実施例では、前述の原理は、次第に大きくなる、更なる(例えば第3、第4またはそれ以上の)高い線量での暴露期間を含むように拡張することができる。
【0027】
本発明の各種態様の実施例では、全体の線量制限によって、組織サンプルのいかなる特定の部分に到達する線量、および/または走査工程の間、サンプル全体に到達する線量を制限するように適用されても良い。
【0028】
本発明の好適実施例では、生物組織サンプルは、人間または動物の器官の生体組織を有する。生体外測定用生体組織サンプルは、外科的な操作または獣医学的な操作によって取得されても良い。あるいは、生物組織サンプルは、培養細胞または細胞株から取得しても良い。これらの培養細胞または細胞株は、ペトリ皿等の中で、成長、繁殖または育成させても良い。
【0029】
前述の方法は、生体外測定用途に利用することも可能であるが、この方法は、特に、線量への配慮が最も重要視される生体内測定用途に適している。この場合、組織サンプルは、例えば患者の乳房の領域であっても良く、本発明の方法により作動するように配置された、典型的なマンモグラフィー組立体を使用して、測定を実施しても良い。そのような典型的な組立体は、患者の乳房を所望の位置に配置することに適した寸法を有しても良い。より好適には、本発明の方法により作動するように配置され、所望の位置に患者の組織を配置することに適した寸法を有する、いかなる好適な組立体を利用して、乳房全体、他の生体部分または器官に照射しても良い。
【0030】
前述の態様のいずれかにおいて、組織データは、組み合わせデータを、1または2以上の(例えば、正常なまたは異常な)組織特性に関連付ける所定の較正モデルへの入力として使用されることが好ましい。同時係属のPCT特許出願第PCT/GB04/005185号および第PCT/GB05/001573号には、この目的に使用可能な多変量モデルが示されている。
【0031】
また、本発明では、前述の方法により作動する走査機器およびシステム、ならびにそのような機器およびシステムを、この方法で制御するためのソフトウェアが提供される。
【0032】
例えば、本発明の好適実施例では、生物組織サンプルに照射を行う機器が提供され、当該機器は、
透過性放射線源と、
生物組織サンプルロケータと、
使用の際に、サンプルに向かって誘導される放射線の線量を変化させる手段と、
を有し、
当該機器は、前記請求項のいずれか一つに記載の方法により作動する。
【0033】
生物組織サンプルロケータは、マンモグラフィー組立体であっても良い。あるいは、生物組織サンプルロケータは、本発明の方法により作動するように配置された、所望の位置に患者の組織を配置するのに適した寸法を有する、いかなる好適な組立体であっても良い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、一例としての添付図面を参照して、本発明の実施例を説明する。
【0035】
図1には、組織サンプル(例えば、乳房)の生体内照射に適した機器を示す。この機器は、透過性放射線(この例では、X線)ビーム源2を有し、このビーム源は、X線放射線のビームを被検査組織サンプル4の方に誘導する。一連の検出器6、8、10、12は、サンプル4の下部および上部に配置され、透過性と散乱性の両方のX線を検出する。
【0036】
ビーム源と検出器配置についてのより詳細な説明は、本願と同日に出願された、我々の「透過性放射線測定」という題目の同時係属中の英国特許出願に示されている。
【0037】
使用の際に、ビーム源と検出器配置は、矢印Sに示すように、組織サンプル(例えば乳房)の全長にわたって走査されるが、サンプルは、静止状態に保持される。走査は、階段状に行われ、各ステップにおいて、検出器から測定結果が得られる。
【0038】
入射ビームは、サンプルの全幅にわたって十分に延伸する幅(図1の紙面に入る方向)を有する、スリット型ビームであっても良い。あるいは、ビームは、より狭小(例えばペンシル型ビーム)であり、縦方向の各ステップにおいて、サンプルを横方向にわたって走査しても良い。
【0039】
この実施例では、入射X線ビームのエネルギー(kV)は、走査処理の間、一定に保持される(被検査組織の性質に基づいて、開始時の多数の想定されるエネルギーレベルから選定される)。しかしながら、サンプルに到達するX線の線量は、X線ビームの流束(mA)を変えることにより、および/または機器がサンプルのいずれかの特定の部分に照射する時間の長さ(すなわち、走査時の各ステップの期間)を変えることにより、変化させることができる。
【0040】
図2乃至4には、本発明の実施例による、走査処理の際のX線の線量を制御するための、3つの代替方法を示すが、これらを使用することにより、走査の際の全体の線量と、検出器の測定結果から収集されるデータの情報内容の間の均衡を保つことができる。
【0041】
まず図2を参照すると、走査処理は、サンプルが設置された後、ステップ21で開始される。最初の線量レベル、すなわち「低」または「高」は、ステップ22で設定され(例えば、これは、オペレータによって選択されても良く、あるいは常時「低」となるように設定されても良い)、次に、ステップ23で、組織サンプルの第1の部分が照射される(第1の走査ステップに対応する)。組織部分が照射されると、検出器6、8、10、12の一つまたは複数を用いて、測定結果が採取される。
【0042】
これらの測定結果に基づいて、システムは、ステップ25において、測定された組織サンプル部分の特性が、当該部分に、正常な組織または異常な組織が含まれていることを示唆しているかどうかを判断する。
【0043】
組織部分が正常であると判断された場合、ステップ26において、線量レベルは「低」に維持され、あるいは「低」に設定され、次にステップ28で、走査がその隣に移行し、ステップ23では、低い線量設定で組織サンプルの次の隣接部分が照射される。
【0044】
一方、ステップ25で、組織部分からの測定結果から、当該部分が異常であると判断された場合は、ステップ27で、線量レベルが「高」に設定されまたは維持される。この場合、システムは、ステップ28で次の走査に移行し、ステップ23では、次の隣接する組織部分が高い線量設定で照射される。
【0045】
測定された組織部分に基づいて、ステップ24で、サンプル全体が走査されるまで、すなわち走査が完了するまで、線量レベルを低と高の間で切り替えながら、この照射サイクルが繰り返される。その後、ステップ29で、走査処理が停止される。
【0046】
この処理の変形例は、図3に示されている。前述のように、図2に示した処理プロセスでは、異常な部分に隣接する組織部分は、高い線量レベルで照射される。低線量設定で同定された異常な部分には、当該部分の追加情報を得るための再走査は実施されない。これに対して、図3に示す方法では、低線量測定によって異常であると同定された当該部分が、高い線量で照射される。高線量測定は、次のステップに走査が移行する前に実施される。
【0047】
このように、ステップ31での走査は、ステップ32での低線量設定により開始され、ステップ33において、第1の組織サンプルが照射される。ステップ35で、この組織サンプルが正常であると判断された場合、ステップ38での走査は、サンプルの次の隣接する組織部分への、ステップ32、33での低線量設定での照射に移行する。
【0048】
しかしながらステップ35において、この組織部分が異常であると判断された場合、システムは、次ステップに移行せず、ステップ36において、高線量レベルに切り替わり、ステップ37において、同じ組織部分で再走査(すなわち、連続照射)が行われる。例えば、走査ステップの長期化により高い線量を得る場合、X線ビーム源および検出器配置は、更なる期間、単にこの走査位置に残され、この期間全体が高線量レベルに相当することになる。
【0049】
次にステップ38では、走査が次のステップに移り、ステップ32で、システムが低線量設定に戻され、ステップ33で、サンプルの次の隣接する組織部分が照射される。
【0050】
この示された実施例では、各走査ステップ32において、線量レベルは、低に戻される。しかしながら、これは必ずしも必要ではない。
【0051】
なお、図には示していないが、図2および3の方法を組み合わせた、さらなる変更例がある。異常な組織部分は、低い線量での測定によって同定されるが、当該部分をさらに高線量設定で照射し、その後、測定結果から組織が正常であることが示唆される部分に走査が移行するまで、線量レベルを高設定に維持しても良い。その後線量レベルだけが、低に戻される。
【0052】
この方法では、ステップ34、39においてサンプル全体が走査されるまで、走査が継続される。
【0053】
図4には、走査処理の際の線量を制御する別の方法を示す。この実施例では、最初にサンプル全体が、低い線量レベルで走査され、疑わしい可能性のある組織部分が検知される。次に、第2のパスの際に、疑わしい部分が高い線量レベルで再走査される。
【0054】
特に、ステップ41で一度走査が開始されると、ステップ42で線量レベルが低に設定され、走査がステップ44で完了するまで、ステップ43、45、48において、サンプル全体が階段状に走査される。ステップ45では、低線量走査での各ステップにおいて、組織サンプルの被照射部分が正常であるか異常であるかが判断される。走査において、異常であると判断された部分は、ステップ46、47で保管される。
【0055】
ステップ44で、一度低線量走査が完了すると、ステップ49で、1または2以上の異常な組織である可能性があると判断された部分が検出され、ステップ50で、X線ビーム源および検出器配置が、開始時の位置に戻される。それ以外の場合、すなわち異常な組織部分が検出されなかった場合は、ステップ56で走査が停止される。
【0056】
異常な部分が検出された場合、ステップ51で、線量レベルが高に設定され、ステップ52で、X線ビーム源および検出器配置は、ステップ47で異常であると同定された組織サンプル部分の位置と対応する第1の保管走査位置に移行する。この部分は、高い線量レベルで照射され、ステップ53で、更なる測定結果が収集される。さらに別の異常な部分が存在する場合、X線ビーム源および検出器配置は、ステップ55で異常な組織部分であるとされた位置に対応した、次の走査位置に移行し、ステップ53で、この部分が高い線量レベルで照射される。ステップ54で、一度、同定された全ての異常部分が再走査されると、ステップ56で、走査処理プロセスが完了する。
【0057】
前述の全ての処理プロセスにおいて、線量レベルは、サンプル中に疑わしい組織領域が同定されない限り低に維持され、そのような疑わしい領域(および/またはそれらと隣接する領域)のみが、高線量で照射される。これにより、場合によっては、走査期間中の全線量を最小限に抑制したまま、疑わしい組織領域から得られる測定結果に最良の情報内容を含めることが可能となり、異常な組織特性をより正確に判断して、その後の診断をより良いものにすることができるようになる。
【0058】
通常の場合、サンプルは、走査期間中、連続的に照射される。あるいは、X線ビームが断続的にサンプル上に入射されるように調整しても良く、この場合、ステップとステップの間には、ビームがサンプルに入射されない走査期間が存在する。この場合、いかなる1走査の際にも、サンプルに吸収される線量を、さらに抑制することができるという効果が得られる。
【0059】
さらに、(およびある場合には、その代わりに)線量レベルを変化させるため、他のシステムパラメータを変化させて、疑わしい(例えば異常な)組織サンプル部分から得られる測定結果のデータ内容を増加させ、必要なデータ処理容量を最小化しおよび/または線量を最小化することが望ましい。
【0060】
例えば、最初に異常な組織の領域を定めるため、広角のスリット型ビームを使用して、低線量設定でサンプルに照射を行っても良く、または(例えば、マンモグラフィーのような、従来のX線透過測定技術を用いて)サンプル全体を一度に照射しても良い。ただし、高線量レベルでの照射の際の線量を最小限に抑制するため、より集束されたビーム、例えば、関心領域にのみ誘導されるペンシル型のビームを使用することが望ましい。
【0061】
ある場合には、組織部分が正常か異常かを最初に判断するために処理されるデータを制限するため、低線量設定で使用される検出器の数を制限することが望ましい場合がある。しかしながら、(高線量でまたは低線量で)疑わしい領域を検査する際、通常は、(例えば、同時係属のPCT特許出願第PCT/GB04/005185号およびPCT/GB05/001573号に示されている方法で)より多くの検出器を使用して、より多くの幅広い測定結果を取得し、測定された組織データの情報内容を最大にすることが望ましい。例えば、一例として図1の機器を考慮した場合、検出器6のみからの透過性測定結果からのデータ、または別の単一の検出器もしくは恐らくは2つの検出器の組み合わせからのデータを用いて、疑わしい領域を検出することが可能である。一度、疑わしい領域が同定されると、次に、検出器配置全体からのデータを用いて、組織特性に関する更なる情報を抽出することが可能となる。
【0062】
有効に採用することが可能な別の方策は、位置が可変の検出器を提供することであり、この場合、例えば特定の組織特性、関心組織の種類もしくは関心組織の特徴に基づいて、検出器を最適化することが可能となり、および/または、単一の検出器を用いて、例えば異なる散乱角で各種測定を行うことが可能となる。例えば、図1を参照すると、検出器10は、角度が可変となるように配置されており、適当な視準を仮定すれば、これらの検出器を用いて複数の選択角度で散乱放射線を検出することができる。
【0063】
前述の記載は、一例であって、本発明から逸脱しないで、特に説明されたものに対して、各種変更、省略または追加が可能であることは明らかである。
【0064】
例えば、実施例では、高および低の2つの線量レベルを参照して説明したが、3以上の線量レベルを用いて、あるいは、解析用の別のもしくは追加のデータが提供される2、3または4以上の他のシステム状態を用いて、同様の原理を適用することが可能である。また、前述のサンプルに対するビームの走査は、階段状処理として説明したが、走査の全部または一部は、サンプルに沿った連続的な動きであっても良い。例えば、走査は、疑わしい組織領域が検出されるまで、連続的な方法で実施され、疑わしい組織領域が検出された際に、走査を低速化しあるいは停止させて、追加のデータを収集しおよび/または更なる測定を実施しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施例による組織サンプルに照射を行うための機器の概略図である。
【図2】本発明の第1の実施例による組織サンプルに照射を行うための処理プロセスを示す図である。
【図3】本発明の第2の実施例による組織サンプルに照射を行うための処理プロセスを示す図である。
【図4】本発明の第3の実施例による組織サンプルに照射を行うための処理プロセスを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物組織サンプルに照射を行う方法であって、
第1の暴露期間の間、透過性放射線ビームで生物組織サンプルの一部に照射を行うステップと、
その後、第2の暴露期間の間、透過性放射線ビームで、同一のまたは隣接する生物組織部分に照射を行うステップと、
を有し、
前記第2の暴露期間の間、前記組織サンプルに入射する前記放射線の線量は、前記第1の暴露期間の間の前記線量よりも多いことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第2の暴露期間の間、
入射放射線の流束の増加:
前記第1の暴露期間に比べて、暴露期間の時間の長期化:
入射放射線のエネルギーを変化させることによる、前記線量の増大:
のうちの少なくとも一つによって、前記より多くの線量が前記サンプルに到達することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
より高い線量の放射線を用いて、前記組織サンプルの選択された部分だけが照射されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記組織サンプルの大部分は、より低い線量の放射線を用いて照射されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
前記組織サンプルの全体が、より低い線量の放射線を用いて照射されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
前記暴露は、前記サンプルに対して、広角のビームを一次元的に走査することによって行われることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
前記暴露は、前記サンプルに対して、ペンシル型ビームを二次元的に走査することによって行われることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
より高い線量の放射線用に選択される組織サンプル部分は、より低い線量の照射の際に収集された組織データをベースとした、前記組織サンプルの識別可能な所定の組織特性に基づいて選択されることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
最初に、サンプルまたは該サンプルの領域の複数の部分に対するより低い線量の測定が完了した後に、選択された部分が、より高い線量の照射に曝されることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
単一の走査の際に、前記低い線量および高い線量の暴露測定が実施されることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
測定データによって、走査された前記組織部分が正常であることが示唆されるまで、前記高い線量の照射が維持されて前記サンプルに対する走査が継続され、前記走査される前記組織部分が正常であることが示唆された際に、前記線量が低減されることを特徴とする請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記高い線量の照射は、前記走査に移行する前に、より低い線量の照射に戻ることを特徴とする請求項9または10に記載の方法。
【請求項13】
より高い線量での照射時の前記ビームの形状は、入射放射線を変調することによって限定されることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
低い線量の照射には、スリット型ビームが使用され、前記選定部分の高い線量の照射には、より狭小のスリット型ビームまたはペンシル型ビームが使用されることを特徴とする請求項1乃至13のいずれか一つに記載の方法。
【請求項15】
前記低い線量の照射によって、正常な組織と異常な組織が十分に識別されることを特徴とする請求項1乃至14のいずれか一つに記載の方法。
【請求項16】
前記高い線量の照射によって、良性組織と悪性組織が十分に識別されることを特徴とする請求項1乃至15のいずれか一つに記載の方法。
【請求項17】
組織特性の測定は、低い線量と高い線量の両方の照射の間、実施され、結果が組織データとして記録されることを特徴とする請求項1乃至16のいずれか一つに記載の方法。
【請求項18】
次第に高くなる、3つ以上のより高い線量の暴露期間があることを特徴とする請求項1乃至17のいずれか一つに記載の方法。
【請求項19】
全体の線量制限によって、前記組織サンプルのいかなる特定の部分に到達する線量、および/または走査工程の間、サンプル全体に到達する線量も制限されることを特徴とする請求項1乃至18のいずれか一つに記載の方法。
【請求項20】
生物組織サンプルに照射を行う機器であって、
透過性放射線源と、
生物組織サンプルロケータと、
使用の際に、サンプルに向かって誘導される放射線の線量を変化させる手段と、
を有し、
前記請求項のいずれか一つに記載の方法により作動する機器。
【請求項21】
前記生物組織サンプルロケータは、マンモグラフィー組立体であることを特徴とする請求項20に記載の機器。
【請求項22】
前記生物組織サンプルロケータは、患者の組織を所望の位置に配置するのに適した寸法を有する組立体であることを特徴とする請求項20に記載の機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−538246(P2007−538246A)
【公表日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−517428(P2007−517428)
【出願日】平成17年5月23日(2005.5.23)
【国際出願番号】PCT/GB2005/001999
【国際公開番号】WO2005/112765
【国際公開日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(506200429)ティシュオミクス リミテッド (6)
【Fターム(参考)】