説明

生分解性樹脂部材の接合方法

【課題】廃棄に伴う問題がなく、且つ接合力が向上し、短時間で接合できる生分解性樹脂部材の接合方法を提供すること。
【解決手段】ポリ乳酸を主成分とする生分解性樹脂部材の間に、ポリ乳酸を主成分とする接着シートを、前記生分解性樹脂部材と前記接着シートの接する界面を加熱した状態で配置する、生分解性樹脂部材の接合方法である。生分解性樹脂部材はポリ−D−乳酸を主成分とする場合、接着シートはポリ−L−乳酸を主成分とし、生分解性樹脂部材がポリ−L−乳酸を主成分とする場合には、接着シートはポリ−D−乳酸を主成分とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性樹脂部材を接合する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂はその優れた特性のため、現在、日用品のみならず機械工業の構造部品、土木建築材料等の様々な分野において広く用いられている。しかしながら、この合成樹脂はその安定性ゆえに、自然環境下においてほとんど分解されないため、廃棄において問題となっている。
【0003】
そこで近年、微生物等によって分解され、生態系の循環サイクルに還元することができる、いわゆる生分解性樹脂が注目され、この生分解性樹脂を用いた様々な成形体が製造されている。
【0004】
ところで、このような生分解性樹脂成形体の部材同士又はこの部材を基材に接合する場合に、従来の合成樹脂製の接着剤を用いたのでは、部材を生分解性としても廃棄に伴う問題が生ずることになる。そこで、非晶質ポリ乳酸を接着シートとして用い、この非晶質ポリ乳酸のガラス転移温度以上かつ融点以下の温度に加熱して生分解性樹脂同士を接着する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
この方法では非晶質ポリ乳酸を用いるので、接合された部材全体が生分解性を示し、廃棄に伴う問題が解消されることになる。しかしながら、接着のための温度をガラス転移温度以上かつ融点以下のという狭い温度範囲内に制御しなければならず、また、軟化した接着シートが固化し接合するまでに、時間がかかっていた。
【特許文献1】特開2003−292925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点を解決し、具体的には、廃棄に伴う問題がなく、且つ接合力が向上し、短時間で接合できる生分解性樹脂部材の接合方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は、
<1> D−乳酸を主成分とするポリ−D−乳酸を含む生分解性材料で構成された2つの生分解性樹脂部材の間に、L−乳酸を主成分とするポリ−L−乳酸を含む生分解性材料で構成された接着シートを、前記生分解性樹脂部材と前記接着シートの接する界面を加熱した状態で配置する、生分解性樹脂部材の接合方法である。
【0008】
<2> L−乳酸を主成分とするポリ−L−乳酸を含む生分解性材料で構成された2つの生分解性樹脂部材の間に、D−乳酸を主成分とするポリ−D−乳酸を含む生分解性材料で構成された接着シートを、前記生分解性樹脂部材と前記接着シートの接する界面を加熱した状態で配置する、生分解性樹脂部材の接合方法である。
【0009】
上記<1>及び<2>の発明では、生分解性樹脂部材及び接着シートにおいて、一方をポリ−L−乳酸を含む生分解性材料で構成するならば他方はポリ−D−乳酸を含む生分解性材料で構成される。この場合、生分解性樹脂部材と接着シートとの境界では、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸のステレオコンプレックスが形成されるので、化学的な結合によりせん断強度が高まって接合力が向上し、且つ短時間で結晶化(固化、接合)する。
したがって、上記<1>及び<2>の発明によれば、2つの生分解性樹脂部材間の接合力が高まり、且つ短時間で接合することができる。
また、少なくとも接着シートと生分解性樹脂部材との界面でステレオコンプレックスを形成すれば、接着シートと生分解性樹脂部材とを接合することができるので、接合のための加熱時間を短縮することができる。
【0010】
更に、接合された部材全体が生分解性となっていため、上記<1>及び<2>の発明によれば、構成部材を分別することなく廃棄できる。
【0011】
<3> 前記界面の加熱温度が、前記ポリ−L−乳酸及び前記ポリ−D−乳酸の融点以上の温度であることを特徴とする上記<1>又は<2>に記載の生分解性樹脂部材の接合方法である。
【0012】
<4> 更に、前記接合時に加圧することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の生分解性樹脂部材の接合方法である。
【0013】
<5> 前記接合時に、前記生分解性樹脂部材と前記接着シートとが接合された状態で、全体を加熱することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の生分解性樹脂部材の接合方法である。
【0014】
本発明は、生分解性樹脂部材と接着シートとを、ステレオコンプレックスの形成によって接合する。ステレオコンプレックスは、ポリ−L−乳酸及びポリ−D−乳酸の分子レベルでの均一な混合によって起こる。
したがって、ポリ−L−乳酸及びポリ−D−乳酸の融点以上となるように加熱して、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを混合させる
【0015】
また、上記<4>の発明のように、接合時に加圧したり、上記<5>の発明のように、生分解性樹脂部材と前記接着シートとが接合された状態で全体を加熱したりすることで、より強固に部材同士を接合することができる。
【0016】
<6> 前記2つの生分解性樹脂部材の少なくとも一方に、前記接着シートと接する面に1以上の凹部が設けられており、2つの生分解性樹脂部材の間に接着シートを配置して加熱圧着した際に、軟化した接着シートをこの凹部に侵入させることを特徴とする前記<1>乃至<4>のいずれか1項に記載の生分解性樹脂部材の接合方法である。
【0017】
<7> 前記凹部が非貫通孔又は貫通孔であることを特徴とする前記<6>に記載の生分解性樹脂部材の接合方法である。
【0018】
<8> 前記2つの生分解性樹脂部材の少なくとも一方が、ポリ乳酸と生分解性繊維の複合体で構成されており、前記凹部が前記生分解性繊維間の隙間であることを特徴とする前記<6>又は<7>に記載の生分解性樹脂部材の接合方法である。
【0019】
上記<6>乃至<8>の発明によれば、生分解性樹脂部材の凹部に接着シートの溶融体が入り込み固化することによって、ステレオコンプレックスの形成という化学的な結合に加え、物理的にも結合することになるので、より強固に部材同士を接合することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、廃棄に伴う問題がなく、且つ接合力が向上し、短時間で接合できる生分解性樹脂部材の接合方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、図1に示すように、生分解性樹脂部材1及び2の間に接着シート3を配置し、生分解性樹脂部材と接着シートとの間でステレオコンプレックスを形成させることで、生分解性樹脂部材1及び2を接合する方法である。本発明においては、接合される生分解性樹脂部材及びこの部材を接合する接着シートは共にポリ乳酸で構成する。
【0022】
生分解性樹脂部材1及び2の材質について説明する。
生分解性樹脂部材1及び2は、D−乳酸を主成分とするポリ−D−乳酸を含む生分解性材料、又はL−乳酸を主成分とするポリ−L−乳酸を含む生分解性材料、により構成される。ポリ−D−乳酸を主成分とするポリ−D−乳酸とは、D−乳酸70〜100モル%とL−乳酸又は乳酸以外の共重合モノマー0〜30モル%とから構成されるものである。一方、L−乳酸を主成分とするポリ−L−乳酸とは、L−乳酸70〜100モル%とD−乳酸又は乳酸以外の共重合モノマー0〜30モル%とから構成されているものをいう。
【0023】
乳酸以外の共重合モノマー成分としては、分解性を損なわない範囲で、公知の共重合モノマー(例えば、ポリスチレン、ポリアミドなど)を用いることができるが、共重合モノマー成分も生分解性であることが望ましい。
共重合モノマー成分としては、例えば、ラクチドと共重合が可能なオキシカルボン酸、カルボン酸エステル、ラクトン、ジカルボン酸、多価アルコール等を適用することができ、更にこれら成分から構成され、エステル結合形成性の官能基を有するポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート等も適用することができる。なお、共重合モノマー成分も生分解性であることが望ましい。このような共重合モノマー成分としては、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸などを挙げることができる。
【0024】
また、ポリ乳酸の成形加工性や成形体の物性を向上させるために、可塑剤、滑剤、充填材、紫外線吸収剤等の添加剤を添加してもよい。
【0025】
ポリ−D−乳酸及びポリ−L−乳酸が共重合体(コポリマー)の場合、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、グラフトコポリマーのいずれの形態であってもよい。
【0026】
ポリ−D−乳酸及びポリ−L−乳酸の重合法としては、縮合重合法、開環重合法等の公知の方法を用いることができ、例えば、乳酸や他の共重合モノマーを、有機溶媒及び触媒の存在下において脱水縮合し、或いは、乳酸や共重合モノマーを一旦脱水し環状二量体とした後に、開環重合する。
更に、得られるポリ乳酸の分子量を増大させるために鎖延長剤を用いることもできる。
【0027】
このポリ−D−乳酸及びポリ−L−乳酸の分子量は、目的とする用途において十分な物性を有するものであれば特に制限されないが、一般には重量平均分子量として10万〜30万であることが好ましく、15万〜25万であることがより好ましく、18万〜22万であることが更に好ましい。
【0028】
ポリ−D−乳酸及びポリ−L−乳酸は、ポリマー鎖が無秩序に配置している非晶質のポリ乳酸であってもよいし、非晶質のポリ乳酸に、温度、圧力、張力等の外的な要因を加えた際にポリマー鎖の一部が配向し、個々のポリマー鎖が形態的に秩序のある状態に置かれた結晶性のポリ乳酸であってもよい。
【0029】
また、生分解性樹脂部材1及び2は、ポリ−D−乳酸又はポリ−L−乳酸のほかに、生分解性物質を含有してもよい。本発明で適用し得る生分解性物質としては、生分解性を呈するものであって、下記で説明するステレオコンプレックスの形成を阻害するものでなければ特に制限は無いが、生分解性繊維を用いると、生分解性樹脂部材1及び2の表面に凹凸を付することができるので、接合力を強化することができる点から好ましい。生分解性繊維を用いる場合には、ポリ−D−乳酸又はポリ−L−乳酸をマトリックスとし、生分解性繊維で強化した複合体とすることが好ましい。この場合、生分解性繊維は、ポリ−D−乳酸又はポリ−L−乳酸の軟化又は溶融によって熱融着して一体化し、生分解性樹脂部材1及び2表面の少なくとも1部ではポリ−D−乳酸又はポリ−L−乳酸が露出して存在している。
生分解性繊維としては、天然繊維、例えば、麻、綿、ケナフ等、又は生分解性樹脂より形成した繊維を用いることができる。この複合体において、ポリ乳酸と生分解性繊維の比率は7:3〜3:7であることが好ましい。
【0030】
次に、接着シート3の材質について説明する。
接着シート3は、L−乳酸を主成分とするポリ−L−乳酸を含む生分解性材料又はD−乳酸を主成分とするポリ−D−乳酸を含む生分解性材料で構成される。ここでいう、「L−乳酸を主成分とするポリ−L−乳酸」及び「D−乳酸を主成分とするポリ−D−乳酸」は、生分解性樹脂部材1及び2で示したものと同義であり、重合方法等も同様である。
なお、本発明では、生分解性樹脂部材1及び2がポリ−D−乳酸を含む生分解性材料によって構成される場合には、接着シート3はポリ−L−乳酸で構成され、生分解性樹脂部材1及び2がポリ−L−乳酸を含む生分解性材料によって構成される場合には、接着シート3はポリ−D−乳酸で構成される。
【0031】
また、生分解性樹脂部材1及び2と同様に、接着シート3においても、ポリ−D−乳酸又はポリ−L−乳酸のほかに、生分解性物質を含有してもよい。接着シート3に適用し得る生分解性物質としても、生分解性樹脂部材1及び2の場合と同様であり、生分解性繊維を含有させることもできる。生分解性繊維を接着シート3に含有させる場合には、ポリ乳酸と生分解性繊維の比率は9:1〜6:4程度であることが好ましい。
【0032】
接着シート3は、上記のポリ乳酸を一般的な射出成形、押出成形等によりフィルムもしくはシートとして成形することにより得られる。接着シートの厚さは特に制限はないが、一般に0.5mm〜1mm程度である。
【0033】
次に、生分解性樹脂部材1及び2と接着シート3との接合について説明する。
本発明では、生分解性樹脂部材1と2の間に接着シート3を挟持し、少なくとも生分解性樹脂部材1又は2と接着シート3とが接する界面において、ステレオコンプレックスが形成することによって接合する。
【0034】
ステレオコンプレックスについて説明する。
ポリ−L−乳酸は左巻きらせん構造を有するのに対し、ポリ−D−乳酸は右巻きらせん構造を有するため、これらが分子レベルで均一に混合すると、2成分間に立体特異的な結合が生じ、ポリ−L−乳酸あるいはポリ−D−乳酸単独の場合に形成される結晶構造よりも緊密かつ強固な結晶構造を形成する。この結晶構造をステレオコンプレックスという。このステレオコンプレックスの形成により、生分解性樹脂部材1及び2と接着シート3とが化学的に接合する。この化学的な結合は緊密かつ強固であるため、生分解性樹脂部材1及び2と接着シート3との接合力が向上する。
【0035】
ポリ乳酸系重合体におけるステレオコンプレックスは、上記ポリ−D−乳酸とポリ−L−乳酸とが溶液状態あるいは溶融状態で混合することにより形成することができる。
したがって、生分解性樹脂部材1及び2と接着シート3との接合では、少なくとも生分解性樹脂部材1又は2と接着シート3とが接する界面において溶融状態となるように加熱を行う。ポリ−D−乳酸とポリ−L−乳酸を溶融状態とするには、ポリ−D−乳酸及びポリ−L−乳酸の融点以上の温度に加熱することが好ましく、具体的には170℃〜220度であることより好ましく、180℃〜210℃であることが更に好ましい。但し、ポリ−D−乳酸又はポリ−L−乳酸のほかに、ケナフ繊維を含有する場合、ケナフ繊維の熱劣化を防ぐために、加熱温度は190℃以下とすることが望ましい。
【0036】
ステレオコンプレックスによる結晶構造は、巻き方向が異なる2成分の螺旋構造間で立体特異的な結合を生じることによって形成するので、溶融して分子の配列を再配列して整えることで結晶構造を形成する場合に比べて、結晶化の速度が極めて速い。したがって、これまでの接合方法に比べて、部材の接合時間を短縮することができる。
また、ステレオコンプレックスは少なくとも上記界面で形成されればよく、これまでのように、接着シート全体を溶融させなくても、接合させることが可能である。特にポリ乳酸は結晶化するまでの時間が長いため、部材の接合に長時間を要していたが、本発明では、少なくとも上記界面でポリ乳酸が溶融すればよいので、部材の接合時間を更に短縮することができる。
【0037】
生分解性樹脂部材1及び2が、ポリ−D−乳酸又はポリ−L−乳酸と生分解性繊維との複合体の場合、接合される面、すなわち接着シート3と接する面において生分解性繊維の一部が露出していることが好ましい。表面に生分解性繊維の一部が露出していることにより、接合時において接着シートが溶融すると、生分解性繊維の隙間にこの接着シートの溶融体が入り込み、固化することによってより強固に部材同士を接合することができる。
これにより、ステレオコンプレックスの形成という化学的な結合に加え、物理的にも結合することになるので、より強固に部材同士を接合することができる。
【0038】
また、接合される部材の接合される面に凹部を設けることも好ましい。この凹部は、図2に示すように、接合される部材の接合される面に設けた非貫通孔4又は貫通孔5の形態であってよい。このような凹部を設けることにより、接合の際に、この凹部に接着シートの溶融体3が入り込み、固化することによってより強固に部材同士を接合することができる。凹部は、図2の非貫通孔4に示されるように、接合される面に対して傾斜を設けて形成することが好ましい。剥離に対して強度がより高まるからである。また、接合時に軟化溶融した接着シート3が流れ出ることを防止するため、かつ凹部に入るようにするため、流れ止め6を部材の少なくとも一方に設けることが好ましい。この流れ止めは接合時の部材同士の位置決めも兼ねることができる。
【0039】
以上のようにして製造した生分解性樹脂部材1及び2の間に接着シート3を配置し、少なくとも生分解性樹脂部材1又は2と接着シート3とが接する界面で、生分解性樹脂部材1、生分解性樹脂部材2及び接着シート3の融点以上の温度となるように加熱し、前記界面においてステレオコンプレックスを形成させる。
【0040】
具体的な加熱方法としては、(1)予め、接着シート3と接する面側の生分解性樹脂部材1及び2の表面を加熱してポリ乳酸を溶融させておき、この状態で生分解性樹脂部材1と2との間に接着シート3を挟み込む方法が挙げられる。また、(2)接着シート3の表面を予め加熱してポリ乳酸を溶融させておいてから、生分解性樹脂部材1及び2の間に挟み込む方法、(3)生分解性樹脂部材1及び2の表面を加熱し、一方で、接着シート3の表面を予め加熱しておいて、この状態で生分解性樹脂部材1と2との間に接着シート3を挟み込む方法、(4)前記(1)〜(3)のいずれかによって、生分解性樹脂部材1と2との間に接着シート3を挟み込んだ後、加圧しながら接合する方法、(5)前記(1)〜(3)のいずれかによって、生分解性樹脂部材1と2との間に接着シート3を挟み込んだ後、加圧しながら全体を加熱する方法、などが挙げられる。
【0041】
接合時に加圧する場合には、生分解性樹脂部材1及び生分解性樹脂部材2の強度や、接着シート3の強度を勘案して適宜圧力を調節することが好ましく、例えば10MPa〜20MPaの圧力を加えることができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明について実施例を用いて具体的に説明する。ただし、本発明は、下記実施例により何ら限定されるものではない。
【0043】
[実施例1]
<生分解性樹脂部材の作製>
ポリ−L−乳酸(トヨタ自動車製、商品名:U’z−B0、融点168℃)300gと、ケナフ繊維200gとを用いて、圧縮成形を行い、図1に示すようなクリップ形状の部材と板状部材を製造した。
【0044】
<接着シート−1の作製>
前記ポリ−D−乳酸(PURAC社製、商品名:PURASORB PD、融点192℃)の短繊維(1.7T51mm)を用い、目付100g/mの不織布を製造し、接着シート−1を成形した。
【0045】
<接合>
上記クリップ形状の生分解性樹脂部材と板状部材の生分解性樹脂部材のそれぞれの表面を200℃で3分間加熱し、その間に接着シート−1を挟んでクリップで圧着し、数時間放置した。
【0046】
[比較例1]
<生分解性樹脂部材の作製>
ポリ−L−乳酸(トヨタ自動車製、商品名:U’z−B0、融点168℃)300gと、ケナフ繊維200gとを用いて、圧縮成形を行い、図1に示すようなクリップ形状の部材と板状部材を製造した。
【0047】
<接着シート−2の作製>
接着シート−1の作製において、ポリ−D−乳酸の短繊維(1.7T51mm)を用いたところを、ポリ−L−乳酸(トヨタ自動車製、商品名:U’z−B0、融点168℃)の短繊維(1.7T51mm)に変え、目付100g/mの不織布を製造し、接着シート−2を成形した。
【0048】
<接合>
上記クリップ形状の生分解性樹脂部材と板状部材の生分解性樹脂部材のそれぞれの表面を200℃で3分間加熱し、その間に接着シート−2を挟んでクリップで圧着し、数時間放置した。
【0049】
[比較例2]
<生分解性樹脂部材の作製>
ポリ−L−乳酸(トヨタ自動車製、商品名:U’z−B0、融点168℃)300gと、ケナフ繊維200gとを用いて、圧縮成形を行い、図1に示すようなクリップ形状の部材と板状部材を製造した。
【0050】
<接合>
上記クリップ形状の生分解性樹脂部材と板状部材の生分解性樹脂部材のそれぞれの表面を200℃で3分間加熱し、その間に接着シートを挟まずにクリップで圧着し、数時間放置した。
【0051】
[接合部分の粘弾性測定]
上記接合部分について、粘弾性を測定した。測定方法は以下の通りである。
株式会社レオロジ製DVEレオスペクトラー(DVE−V4)を使用し、引張り試験を実施し、粘弾性を測定した。測定条件は、測定開始温度−50℃、終了温度250℃、昇温速度3℃/minであり、基本周波数10Hzの正弦波を用いた。
【0052】
得られた測定結果を図3に示す。図3に示すとおり、実施例1では比較例1や比較例2に比べて粘弾性が高くなっていた。これは、接着シート−1のポリ−D−乳酸と生分解性樹脂部材のポリ−L−乳酸とが界面においてステレオコンプレックスを形成したためと思われる。
【0053】
[接合部分の接着強度の測定]
上記接合部分について、株式会社島津製作所 島津オートグラフ(AG−20KNG)を使用し、クロスヘッド移動速度10mm/minで引張り試験を実施して、接着強度を測定した。
【0054】
得られた測定結果を図4に示す。図4に示すとおり、実施例1では比較例1や比較例2に比べてせん断強度が高くなっていた。これは、接着シート−1のポリ−D−乳酸と生分解性樹脂部材のポリ−L−乳酸とが界面においてステレオコンプレックスを形成したためと思われる。
【0055】
[接合部分の接着速度]
実施例1では200℃で3分間程度の時間で、生分解性樹脂部材を接合できることが確認された。一方、比較例1及び比較例2では、接合に0.5〜3時間程度要していた。本実施例では、ステレオコンプレックスを形成することによって接合しているため、比較例のように、溶融して分子の配列を再配列して整えることで結晶構造を形成するよりも接合時間を短縮できたものと思われる。
【0056】
なお、本発明では、実施例の結果に示すようにステレオコンプレックスが形成されることにより、せん断強度が高まり、接合力が向上し、且つ接合時間が短縮されているが、これに加え当然に部材全体が生分解性を有するため、部材全体を微生物等によって分解することができ、構成部材を分別することなく廃棄できる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の方法を説明する略図である。
【図2】本発明の方法を説明する略図である。
【図3】実施例における粘弾性測定の結果を示すグラフである。
【図4】実施例における接着強度の測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0058】
1 生分解性樹脂部材
2 生分解性樹脂部材
3 接着シート
4 非貫通孔
5 貫通孔
6 流れ止め

【特許請求の範囲】
【請求項1】
D−乳酸を主成分とするポリ−D−乳酸を含む生分解性材料で構成された2つの生分解性樹脂部材の間に、L−乳酸を主成分とするポリ−L−乳酸を含む生分解性材料で構成された接着シートを、前記生分解性樹脂部材と前記接着シートの接する界面を加熱した状態で配置する、生分解性樹脂部材の接合方法。
【請求項2】
L−乳酸を主成分とするポリ−L−乳酸を含む生分解性材料で構成された2つの生分解性樹脂部材の間に、D−乳酸を主成分とするポリ−D−乳酸を含む生分解性材料で構成された接着シートを、前記生分解性樹脂部材と前記接着シートの接する界面を加熱した状態で配置する、生分解性樹脂部材の接合方法。
【請求項3】
前記界面の加熱温度が、前記ポリ−L−乳酸及び前記ポリ−D−乳酸の融点以上の温度であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の生分解性樹脂部材の接合方法。
【請求項4】
更に、前記接合時に加圧することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の生分解性樹脂部材の接合方法。
【請求項5】
前記接合時に、前記生分解性樹脂部材と前記接着シートとが接合された状態で、全体を加熱することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の生分解性樹脂部材の接合方法。
【請求項6】
前記2つの生分解性樹脂部材の少なくとも一方に、前記接着シートと接する面に1以上の凹部が設けられており、2つの生分解性樹脂部材の間に接着シートを配置して接合した際に、軟化した接着シートをこの凹部に侵入させることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の生分解性樹脂部材の接合方法。
【請求項7】
前記凹部が非貫通孔又は貫通孔であることを特徴とする請求項6に記載の生分解性樹脂部材の接合方法。
【請求項8】
前記2つの生分解性樹脂部材の少なくとも一方が、ポリ乳酸と生分解性繊維の複合体で構成されており、前記凹部が前記生分解性繊維間の隙間であることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の生分解性樹脂部材の接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−307719(P2007−307719A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−136216(P2006−136216)
【出願日】平成18年5月16日(2006.5.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】