説明

画像処理装置及び画像処理方法

【課題】 画質の劣化を抑えると同時に、高速、低コストな画像処理装置を提供する。
【解決手段】 画像入力部1から入力された原画像圧縮データは、復号・逆量子化部2でDCTデータに変換され、画像記憶部3に格納される。画像処理部4のデータ選択部11では、画像記憶部3に格納されたDCTデータを読み込み、閾値以上のDCTデータを選択してデータ演算部12に送り、データ演算部12で所定の処理を行なう。これにより、非常に小さい値や0を値として取る無効係数データについてはデータ演算部12で処理が行なわれず、演算量を削減できる。データ演算部12で処理されたデータを含むブロックは符号・量子化部5で圧縮され、画像出力部6へ送られて出力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディジタル画像処理に係り、特に高速/低コストで画像処理を行なうことが可能な画像処理装置及び画像処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フルカラー画像などの画像データは、一般にデータ量が非常に多いため、データを圧縮して蓄積あるいは伝送することが多い。これら多値画像データを圧縮する方法の1つとしては直交変換符号化方法が知られている。この方法は、画像全体を例えば8×8画素単位のブロックに分割して、分割されたブロックごとに直交変換を行なって符号化するものである。特徴としては、画像データに含まれる成分を低周波数成分および高周波数成分に変換し、視覚特性上影響力の大きい低周波数成分に多くのビットを割り当て、高周波数成分は少ないビット数で量子化することにより、画像データを効率的に圧縮する。直交変換としては、離散コサイン変換などが使われている。
【0003】
このように直交変換符号化されて伝送あるいは蓄積された画像に対して画像処理を施す場合、まず符号化データを復号化し、その復号化データを逆量子化し、逆量子化データを直交逆変換して原画像データに戻した後、目的とする画像処理を行ない、再度、直交変換、量子化、符号化を行ない、伝送あるいは蓄積する。しかし、一般に直交変換は、演算量が多い処理であるため、通常の画像データを処理する場合と比べて処理時間が長くなるという欠点がある。
【0004】
そこで従来より、原画像データを直交変換して得られた周波数データに対して、逆変換を行なわずに処理を行なう手法が提案されている。例えば、特許文献1に記載されているように、ブロック内のデータに解像度変換用マトリクスを乗じることにより、周波数データを逆変換することなしに、高解像度から低解像度への解像度変換を行なう手法が提案されている。また、特許文献2に記載されているように、ハイパス・ローパス等の線形フィルタリングや、拡大・縮小・回転等の編集を実現するマトリクスと直交変換マトリクスとの積を新たな変換用マトリクスとして用いることで、逆変換と同時に上記の処理を行なう手法が提案されている。
【0005】
さらに、処理速度を向上させる手法として、特許文献3や特許文献4のように、周波数データのDC成分のみを用いてカラー画像の色補正や、画像表示装置のガンマ特性に合わせた濃度補正を行なう手法も提案されている。
【0006】
こうした手法では、直交変換符号化によるデータ量の減少と、直交変換および直交逆変換を行なわないことによる処理コストの減少を利用した高速化が図られ、同時にデータ格納に必要な装置コストを減らすことができる。
【0007】
一般に、自然画像などを直交変換すると、低周波成分に大きな値が現れ、高周波成分は小さな値か0となる場合が多い。しかしながら、分割されたブロック内の周波数データを用いて解像度変換やフィルタリングなどの処理を行なう手法では、こうした非常に小さな値や0による演算が多く含まれ、処理として効率が悪いという問題がある。
【0008】
また、周波数データのDC成分のみを用いる手法では、高周波成分が多い画像ブロックの場合、原画像データへ逆変換するとブロックの境界が目立ち、画質が極端に劣化するという問題がある。
【0009】
【特許文献1】特開平5−316357号公報
【特許文献2】特開平1−114279号公報
【特許文献3】特開平6−6611号公報
【特許文献4】特開平6−6608号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、原画像データを直交変換して得られた周波数データに対して処理を行なう際に、直交変換および逆変換する無駄を減らし、さらに、画質の劣化を抑えると同時に、高速、低コストな画像処理装置及び画像処理方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明は、原画像データを複数の画素を含む複数のブロックに分割して、ブロックごとに空間周波数成分に変換した周波数データに対して画像処理を行なう画像処理装置であって、前記ブロック内における処理すべきデータに演算を施す演算手段を備え、前記演算手段は、前記ブロックの周波数データを周波数に応じて分割された複数の領域について、周波数の低い領域で各ブロックの周波数データ中の個々のデータを足し合わせた積算値が閾値以下である場合、周波数の高い領域のデータに対して演算を行なわないことを特徴とするものである。
【0012】
請求項2に記載の発明は、原画像データを複数の画素を含む複数のブロックに分割して、ブロックごとに空間周波数成分に変換した周波数データに対して画像処理を行なう画像処理装置であって、前記ブロック内における処理すべきデータに演算を施す演算手段を備え、前記演算手段は、前記ブロックの周波数データを周波数に応じて分割された複数の領域について、周波数の低い領域のエネルギーが所定値よりも小さい場合、周波数の高い領域のデータに対して演算を行なわないことを特徴とするものである。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の画像処理装置において、前記周波数データが、原画像データをブロックごとに直交変換したデータであることを特徴とするものである。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の画像処理装置において、前記周波数データが、原画像データをブロックごとに離散コサイン変換したデータであることを特徴とするものである。
【0015】
請求項5に記載の発明は、原画像データを複数の画素を含む複数のブロックに分割して、ブロックごとに空間周波数成分に変換した周波数データに対して画像処理を行なう画像処理方法であって、前記ブロック内における処理すべきデータに演算を施す演算手段を備え、前記演算手段は、前記ブロックの周波数データを周波数に応じて分割された複数の領域について、周波数の低い領域で各ブロックの周波数データ中の個々のデータを足し合わせた積算値が閾値以下である場合、周波数の高い領域のデータに対して演算を行なわないことを特徴とするものである。
【0016】
請求項6に記載の発明は、原画像データを複数の画素を含む複数のブロックに分割して、ブロックごとに空間周波数成分に変換した周波数データに対して画像処理を行なう画像処理方法であって、前記ブロック内における処理すべきデータに演算を施す演算手段を備え、前記演算手段は、前記ブロックの周波数データを周波数に応じて分割された複数の領域について、周波数の低い領域のエネルギーが所定値よりも小さい場合、周波数の高い領域のデータに対して演算を行なわないことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、原画像データをブロックごとに直交変換した周波数データに対して、絶対値の非常に小さい値や0を値として取る無効係数データや、原画像データにほとんど影響のない、ブロック内のある特定領域のデータの演算を省くことで、高速で効率の良い処理が可能な画像処理装置及び画像処理方法を実現することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、本発明による画像処理装置の第1の実施の形態を示すブロック図である。図中、1は画像入力部、2は復号・逆量子化部、3は画像記憶部、4は画像処理部、5は符号・量子化部、6は画像出力部、7は制御部、11はデータ選択部、12はデータ演算部である。ここでは一例として、8×8画素のブロックごとに離散コサイン変換(DCT)符号化、量子化、ハフマン符号化されて伝送あるいは蓄積された原画像圧縮データに対して画像処理を施す場合について説明する。
【0019】
画像入力部1は、原画像圧縮データを入力する。復号・逆量子化部2は、画像入力部1から入力された原画像圧縮データをハフマン復号化、逆量子化処理を行なって8×8のDCT係数データ(以後、DCTデータと呼ぶ)に戻す。画像記憶部3は、復号・逆量子化部2で得られた8×8のDCTデータを記憶する。画像処理部4は、DCTデータに対して画像処理を行なう。符号・量子化部5は、画像処理部4で処理された8×8のDCTデータを量子化処理、ハフマン符号化を行なって圧縮する。画像出力部6は、符号・量子化部5で圧縮された画像データを出力する。制御部7は、各部を制御する。
【0020】
画像処理部4は、データ選択部11とデータ演算部12を有し、入力されたDCTデータに対して画像処理を行なう。データ選択部11は、ブロック内において処理すべきデータを選択する。データ演算部12は、ブロック内でデータ選択部11により選択されたデータにのみ画像処理を施す。
【0021】
図1において、画像入力部1から入力された原画像圧縮データは、復号・逆量子化部2でDCTデータに変換され、画像記憶部3に格納される。画像記憶部3に格納されたDCTデータは、画像処理部4へ読み出されてデータ処理され、符号・量子化部5で圧縮され、画像出力部6へ送られて出力される。
【0022】
図2は、本発明の画像処理装置の第1の実施の形態におけるデータ選択部11の一例を示す構成図である。図中、21は係数参照部、22は閾値処理部である。データ選択部11は、例えば図2に示すように、係数参照部21および閾値処理部22を有する構成とすることができる。係数参照部21は、画像記憶部3から読み込まれた8×8ブロックのDCTデータ中の係数を順次参照する。閾値処理部22は、係数参照部21で参照された係数と、予め定められた閾値Thとを比較し、有効係数と無効係数にわける。例えば、係数の絶対値が閾値Th以上のとき、その係数を有効係数としてデータ演算部12に転送する。このようにしてDCTデータ中の有効係数のみを選択し、データ演算部12において画像処理を行なう。
【0023】
図3は、DCTデータの一例の説明図である。図3では、8×8個のDCTデータの係数を1つのブロックとして示している。ブロックの左上の角に当たる箇所が8×8ブロック中の平均的な画素値を表わしており、周波数成分でいえば直流成分を表わしている。その意味でDC成分と呼ばれる。他の63個の要素は交流成分を表わし、AC成分と呼ばれる。また図2に示すように、ブロックの右下の方向に進むにつれて、順次周波数が高くなり、より高周波の成分を表わすデータとなる。
【0024】
図4は、本発明の画像処理装置の第1の実施の形態における画像処理部4の処理の流れの一例を示すフローチャートである。S31において、ブロック内での処理開始位置Pを1とし、ブロック左上のDC係数の位置に設定して処理を開始する。
【0025】
S32において、画像記憶部3からデータ選択部11に8×8ブロックのDCTデータを読み込む。このブロック内の位置Pのデータの絶対値を係数vと称する。
【0026】
S33において、S32で参照した係数vを予め定められた閾値Thと閾値処理部22で比較する。その結果、Th≦vの場合にはS34に、Th>vの場合にはS35に移る。Th≦vの場合、空間周波数表現された8×8ブロックのDCTデータにおいて、ブロック内の位置Pに相当する周波数成分が、大きいエネルギーを持つことを示す。すなわち、原画像データに対しては、その周波数域に重要な情報が存在することを示す。そこで、S34において、位置Pのデータをデータ演算部12に転送し、データ演算部12でデータの処理を行なう。データ演算部12内の処理については後述する。
【0027】
Th>vの場合、空間周波数表現された8×8ブロックのDCTデータにおいて、ブロック内の位置Pに相当する周波数成分は小さいエネルギーしか持たないことを示す。すなわち原画像データに対しては、その周波数域の情報は無視できることを示す。従って、位置Pのデータはデータ演算部12に転送しない。
【0028】
S35において、1ブロックについての処理が終了したか否かを判定し、当該ブロックの処理中である場合にはS36に移り、S36において、ブロック内の位置Pを1つ進めてS32に戻る。もし当該ブロックの処理が終了した場合、S37に移る。そして、S37において、演算後の8×8ブロックのDCTデータを画像出力部6に送り、順次出力する。
【0029】
S38において、全ブロックについて処理を行なったか否かを判定する。全ブロックの処理が終了していない場合、S31に戻る。全ブロックの処理が終了した場合には、画像処理部4の処理を終了する。
【0030】
図5は、本発明の画像処理装置の第1の実施の形態におけるデータ演算部12の動作の具体例の説明図である。ここでは、周波数特性変換を行なう場合について説明する。図5(A)においてハッチングを施した部分は、8×8ブロックのDCTデータ中で、データ選択部11により選択された有効係数を示している。また、図5(A)でハッチングを施していない部分、つまりデータ選択部11により無効係数とされた各要素は、非常に小さい値かあるいは0の値を取るので、データ演算部12で処理を行なわず、そのまま出力される。
【0031】
原画像データの周波数特性変換は、図5(A)に示すように空間周波数表現されたDCTデータの各係数に、図5(B)に示す周波数特性変換マトリクスのそれぞれ対応する位置の要素を乗じることにより実行される。例えば、DCTデータの係数をai とし、周波数特性変換マトリクスの要素をfi とするとき、演算後の係数bi は、
i =ai ×fi (i=0〜63)
として求めればよい。
【0032】
ここで、実際にマトリクス演算を施すのは有効係数だけであり、無効係数については演算を行なわない。図5に示す具体例では、無効係数を除く23個の有効係数のみ、演算を行なうことになる。すなわち、従来のようにDCTデータの選択を行なわない場合、各ブロックにつき64回の乗算が必要であるのに対し、この具体例においては、23回の乗算しか必要とせず、演算コストの削減が可能となる。
【0033】
図6は、周波数特性変換マトリクスの一例の説明図である。図6に示すような周波数特性変換マトリクスを図5(B)に示す周波数特性変換マトリクスとして用い、DCTデータに乗じることにより、原画像データを平滑化する画像処理を行なうことが可能である。
【0034】
図7は、周波数特性変換マトリクスの別の例の説明図である。図7に示すような周波数特性変換マトリクスを図5(B)に示す周波数特性変換マトリクスとして用い、DCTデータに乗じることにより、原画像データにおけるエッジ部分を強調する画像処理を行なうことが可能である。
【0035】
図8は、本発明の画像処理装置の第1の実施の形態におけるデータ演算部12の動作の別の具体例の説明図である。ここでは、RGB空間から輝度・色差(YCrCb)空間への色空間変換を例に説明を行なう。図8(A),(B),(C)は、R,G,B各色信号ごとのDCTデータを示し、ハッチングを施した部分がDCTデータ中でデータ選択部11により選択された有効係数の一例である。
【0036】
図8に示すように、RGB空間からYCrCb空間への色空間変換は、図8(A),(B),(C)に示すDCTデータの各係数ごとに、例えば図8(D)に示すような係数マトリクスを用いたマトリクス演算を施して行なわれる。3×3マトリクス処理の場合は、9回の乗算と6回の加減算が必要である。従って、従来のようにDCTデータの選択を行なわない場合、ブロック内の各係数につき9回の乗算と6回の加減算が必要であり、8×8ブロック全体では576回の乗算と384回の加減算が必要となる。これに対して、この具体例においては、図8(E),(F),(G)にハッチングを施して示した部分の演算しか必要としない。具体的には135回の乗算と72回の加減算のみで実行でき、演算コストの削減が可能となる。
【0037】
以上説明したように、この第1の実施の形態によれば、DCTデータを原画像データに逆変換することなく画像処理を行なうとともに、演算を施しても処理結果にほとんど影響のでない無効係数データの演算を簡単な閾値処理によって省くことで、画質の劣化を抑えた、高速かつ効率的な画像処理が可能になる。
【0038】
なお、上述の説明では、閾値処理部22の閾値Thは固定としたが、これに限定されるわけではなく、さまざまな閾値を用いることが可能である。例えば、図3に示すようなDCTデータの特性を利用して、ブロック内の位置により適応的に閾値を変える可変閾値を用いる方法が可能である。その一例として、低周波領域にはより小さい閾値、高周波領域にはより大きい閾値を用いることで、高域成分が目につきにくいという人間の視覚特性を利用した閾値処理が可能となる。
【0039】
次に、第2の実施の形態について説明する。上述の第1の実施の形態では、8×8ブロックのDCTデータの各係数について閾値処理を施し、有効係数のみを選択していた。しかし、図3でも示されるように、ブロック分割されたDCTデータは、ブロック内の左上から右下に向かって、周波数の低い順に配置されている。また一般に、自然画像は低い周波数成分を多く含む。従って、ブロック内において、低周波領域と高周波領域とを分け、処理する領域を選択することで、高速な処理が可能となる。
【0040】
図9は、本発明の画像処理装置の第2の実施の形態におけるデータ選択部11の一例を示す構成図である。図中、23は係数値積算部である。係数値積算部23は、画像記憶部3から読み込まれた8×8ブロックのDCTデータに対して、ある特定領域のDCTデータの係数絶対値を積算する。
【0041】
図10は、本発明の画像処理装置の第2の実施の形態における計数値積算部23で係数の積算を行なう特定領域の一例の説明図である。計数値積算部23で係数の積算を行なう特定領域としては、例えば、DC成分のみの領域と、図10(A)にハッチングを施して示す低周波領域と、図10(B)にハッチングを施して示す高周波領域の3つの領域を用いるように構成することができる。計数値積算部23では、各特定領域ごとにその特定領域内の計数を積算する。
【0042】
閾値処理部22は、係数値積算部23で計算された積算値に対して、予め定められた閾値Thにより閾値処理を行ない、演算領域を選択する。データ演算部12は、選択された領域内のデータに対してのみ処理を施す。
【0043】
図11は、本発明の画像処理装置の第2の実施の形態における画像処理部4の処理の流れの一例を示すフローチャートである。S41において、画像記憶部3から係数値積算部23に、8×8ブロックのDCTデータを読み込み、図10(A)にハッチングを施して示した低周波領域内のDCTデータの係数の絶対値を積算し、積算値Sum1を求める。
【0044】
S42において、S41で求めた積算値Sum1を閾値処理部22に転送し、予め定められた閾値Th1と比較する。その結果、Th1>Sum1の場合にはS43に、Th1≦Sum1の場合にはS44に移る。Th1>Sum1の場合、図10(A)に示されるような低周波領域に大きなエネルギーを持たないことを示す。すなわち、原画像データにおいて、非常に平坦で画素値の変化がほとんどない領域であることを示す。そこで、S43において、8×8ブロックのDCTデータのうち、DC成分のみをデータ演算部12に転送し、データ演算部12で処理を行なう。
【0045】
Th1≦Sum1の場合、低周波領域に大きなエネルギーを持ち、原画像データにおいても画素値の変化があることを示す。そこで、次にS44において、係数値積算部23で、今度は図10(B)にハッチングを施して示す特定領域、つまり高周波領域内のDCTデータの係数の絶対値を積算し、積算値Sum2を求める。
【0046】
S45において、S44で求めた積算値Sum2を閾値処理部22に転送し、予め定められた閾値Th2と比較する。その結果、Th2≦Sum2の場合にはS46に、Th2>Sum2の場合にはS47に移る。Th2>Sum2の場合、図10(B)で示されるような、周波領域に大きなエネルギーを持たないことを示す。すなわち、原画像データにおいては、エッジ等によって、画素値が急激に変化することがない領域であることを示す。そこで、S47において、8×8ブロックのDCTデータのうち、DC成分とS41で用いた図10(A)に示す低周波領域内のデータを選択してデータ演算部12に転送し、データ演算部12で処理を行なう。
【0047】
Th2≦Sum2の場合、高周波領域にも大きなエネルギーを持ち、原画像データにおいて、エッジ等の画素値変化が激しい領域であることを示す。そこで、S46において、8×8ブロック内の全てのDCTデータを選択してデータ演算部12に転送し、データ演算部12で処理を行なう。
【0048】
S48において、S43,S46,S47のいずれかのステップで処理された処理後の8×8ブロックのDCTデータを画像出力部6に送り、順次出力する。
【0049】
S49において、全ブロックについて処理を行なったか否かを判定する。全ブロックの処理が終了していない場合、未処理のブロックについて処理を行なうべくS41に戻る。全ブロックの処理が終了した場合には、画像処理部4の処理を終了する。
【0050】
以上説明したように、この第2の実施の形態によれば、DCTデータを原画像データに逆変換することなく、8×8ブロックのDCTデータをDC成分と低周波領域および高周波領域とに分け、それぞれの領域内の係数絶対値による簡単な閾値処理により、原画像データにほとんど影響のでない演算を領域単位で省くので、画質の劣化を抑えた、高速な画像処理が可能になる。
【0051】
なお、本実施の形態において、8×8ブロックのDCTデータの分割方法は、DC成分と低周波領域および高周波領域の3領域に限定されるわけではなく、さらに多くの領域に分割する方法もある。図12は、本発明の画像処理装置の第2の実施の形態における計数値積算部23で係数の積算を行なう特定領域の別の例の説明図である。例えば、図12(A)に示すように、ブロック内を低周波側からDC成分も含めて5つの領域に分割し、各領域ごとに予め定められた閾値により、処理領域を選択することも可能である。もちろん、4つの領域に分割したり、6以上の領域に分割してもよい。
【0052】
また図12(B)に示すように、斜めに配置された係数ごとにグループ化し、このグループごとに選択する手法も可能である。例えば、8×8ブロック内のDC成分から周波数が高くなる方向へ、DCT係数の絶対値和Sum1,Sum2,Sum3,・・・を順次計算し、計算された絶対値和の積算値Sを算出する。各々の絶対値和に対応するように閾値Th1,Th2,Th3,・・・を予め定めておき、絶対値和が算出されるごとに、対応する閾値とそれまでの絶対値和の積算値Sを比較する。閾値Thiより積算値Sが小さくなる領域までを処理領域とするように、低周波側から順に領域を選択すればよい。
【0053】
図12(B)に示した例では、順次Sum1,Sum2,・・・と計算していき、Sum5までの積算値Sが
S=Sum1+Sum2+Sum3+Sum4+Sum5<Th5
となった場合を示しており、図12(B)にハッチングを施して示した部分を処理領域として選択することになる。
【0054】
上述の各例において、DCTデータの係数マトリクスの大きさを8×8としているが、本発明はこの大きさに限らず、小さくても大きくてもよい。JPEGやMPEG等の種々の規格化された符号化データでは、8×8の大きさのDCTデータを用いており、上述の各例では、これらの規格に容易に対応させることが可能である。
【0055】
また、上述の各例では、一例として8×8画素のブロックごとに離散コサイン変換(DCT)符号化、量子化、ハフマン符号化されて伝送あるいは蓄積された原画像圧縮データに対して画像処理を施す場合について説明したが、これに限るものではない。例えば、原画像のブロックの大きさは8×8画素に限定されるものではなく、もっと大きくても小さくてもよい。また、離散コサイン変換符号化のほか、離散フーリエ変換符号化やK−L変換符号化など、他の種々の直交変換符号化手法を用いてもよい。さらに、このような直交変換符号化による符号データがそのまま入力されてもよいし、上述の例において量子化やハフマン符号化が行なわれていたように、他の種々の処理が施された符号データが入力されてもよい。なお、これらの変形を行なう際には、復号・逆量子化部2、符号・量子化部5を対応させておけばよい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明による画像処理装置の第1の実施の形態を示すブロック図である。
【図2】本発明の画像処理装置の第1の実施の形態におけるデータ選択部11の一例を示す構成図である。
【図3】DCTデータの一例の説明図である。
【図4】本発明の画像処理装置の第1の実施の形態における画像処理部4の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【図5】本発明の画像処理装置の第1の実施の形態におけるデータ演算部12の動作の具体例の説明図である。
【図6】周波数特性変換マトリクスの一例の説明図である。
【図7】周波数特性変換マトリクスの別の例の説明図である。
【図8】本発明の画像処理装置の第1の実施の形態におけるデータ演算部12の動作の別の具体例の説明図である。
【図9】本発明の画像処理装置の第2の実施の形態におけるデータ選択部11の一例を示す構成図である。
【図10】本発明の画像処理装置の第2の実施の形態における計数値積算部23で係数の積算を行なう特定領域の一例の説明図である。
【図11】本発明の画像処理装置の第2の実施の形態における画像処理部4の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【図12】本発明の画像処理装置の第2の実施の形態における計数値積算部23で係数の積算を行なう特定領域の別の例の説明図である。
【符号の説明】
【0057】
1…画像入力部、2…復号・逆量子化部、3…画像記憶部、4…画像処理部、5…符号・量子化部、6…画像出力部、7…制御部、11…データ選択部、12…データ演算部、21…係数参照部、22…閾値処理部、23…係数値積算部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原画像データを複数の画素を含む複数のブロックに分割して、ブロックごとに空間周波数成分に変換した周波数データに対して画像処理を行なう画像処理装置であって、前記ブロック内における処理すべきデータに演算を施す演算手段を備え、前記演算手段は、前記ブロックの周波数データを周波数に応じて分割された複数の領域について、周波数の低い領域で各ブロックの周波数データ中の個々のデータを足し合わせた積算値が閾値以下である場合、周波数の高い領域のデータに対して演算を行なわないことを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
原画像データを複数の画素を含む複数のブロックに分割して、ブロックごとに空間周波数成分に変換した周波数データに対して画像処理を行なう画像処理装置であって、前記ブロック内における処理すべきデータに演算を施す演算手段を備え、前記演算手段は、前記ブロックの周波数データを周波数に応じて分割された複数の領域について、周波数の低い領域のエネルギーが所定値よりも小さい場合、周波数の高い領域のデータに対して演算を行なわないことを特徴とする画像処理装置。
【請求項3】
前記周波数データが、原画像データをブロックごとに直交変換したデータであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記周波数データが、原画像データをブロックごとに離散コサイン変換したデータであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項5】
原画像データを複数の画素を含む複数のブロックに分割して、ブロックごとに空間周波数成分に変換した周波数データに対して画像処理を行なう画像処理方法であって、前記ブロック内における処理すべきデータに演算を施す演算手段を備え、前記演算手段は、前記ブロックの周波数データを周波数に応じて分割された複数の領域について、周波数の低い領域で各ブロックの周波数データ中の個々のデータを足し合わせた積算値が閾値以下である場合、周波数の高い領域のデータに対して演算を行なわないことを特徴とする画像処理方法。
【請求項6】
原画像データを複数の画素を含む複数のブロックに分割して、ブロックごとに空間周波数成分に変換した周波数データに対して画像処理を行なう画像処理方法であって、前記ブロック内における処理すべきデータに演算を施す演算手段を備え、前記演算手段は、前記ブロックの周波数データを周波数に応じて分割された複数の領域について、周波数の低い領域のエネルギーが所定値よりも小さい場合、周波数の高い領域のデータに対して演算を行なわないことを特徴とする画像処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−24222(P2006−24222A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−201400(P2005−201400)
【出願日】平成17年7月11日(2005.7.11)
【分割の表示】特願平8−172318の分割
【原出願日】平成8年7月2日(1996.7.2)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】