説明

画像表示装置用前面板とその製造方法

【課題】画像表示装置の画像表示部に表示される画像を外部に透過させながら、画像表示部を保護する画像表示装置用前面板であって、一般的な押出成形装置で成形可能な単層構造をとりうりながら、耐衝撃性および表面硬度の双方の特性が両立した前面板を提供する。
【解決手段】スチレン単位および/またはメタクリル酸メチル(MMA)単位を構成単位として有する重合体を主成分とし、重合体の全構成単位に占めるMMA単位ならびに該単位の誘導体である環構造を含む単位の割合が45重量%以上またはスチレン単位の割合が45重量%以上であり、重合体のガラス転移温度よりも30℃高い温度における加熱収縮率が20〜70%であり、JIS K7361−1に準拠して測定した全光線透過率が90%以上であり、厚さが0.5mm以上3mm以下である画像表示装置用前面板とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置などの画像表示装置において、外部の異物の接触、衝突などから画像表示部を保護するために配置される画像表示装置用前面板と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置などの画像表示装置において、外部の異物の接触、衝突などから画像表示部を保護するために、しばしば前面板が配置される。前面板は、画像表示装置における画像表示部の外側(画像表示面に対して外部側)の任意の位置に配置することができるが、画像表示装置の最外層への配置が一般的である。前面板には、外部の異物の接触、衝突などによっても容易に破壊されないだけの耐衝撃性が求められる。また、破壊されないまでも、前面板の表面に傷がつくことでユーザーが視認する画像の品質が低下するため、できるだけ表面に傷がつかない特性、具体的には高い表面硬度、が求められる。即ち、前面板には、高い耐衝撃性と表面硬度との両立が求められる。
【0003】
前面板が配置された場合、ユーザーは、画像表示部に表示された画像を前面板を通して見ることになるために、前面板は光学的に透明な材料からなる必要がある。アクリル、ポリスチレン、ポリカーボネートなどの透明性ポリマーあるいはガラスが、前面板に使用する材料として考えられる。しかし、近年、前面板に要求される耐衝撃性および表面硬度の水準は高く、要求される水準を単独の材料で満たすことが困難になってきている。例えば、ガラスは非常に高い表面硬度を有するが、耐衝撃性に劣り、そもそも重量の問題から採用が困難であることが多い。アクリル樹脂は、高い表面硬度を有するものの耐衝撃性に劣る。ポリカーボネートは、これとは逆に、高い耐衝撃性を有するものの表面硬度に劣る。ポリスチレンは、いずれの特性も近年要求される水準を満たさない。
【0004】
このため、複数の材料を組み合わせた前面板が開発されている。特開2006-103169号公報および特開2007-237700号公報には、ポリカーボネートからなる基層の表面に、共押出しによってアクリル層を積層した前面板が開示されており、ポリカーボネート由来の高い耐衝撃性と、アクリル由来の高い表面硬度との双方の特性の両立が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-103169号公報
【特許文献2】特開2007-237700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、互いに異なる材料からなる複数の層の多層構造を有する前面板では、層の界面において、波模様やスジ模様といった光学的な欠陥が発生することがある。また、このような多層構造の前面板は、通常、共押出しにより形成されるが、共押出成形装置における樹脂の流路が通常の押出成形装置よりも複雑であるために、流路への樹脂の滞留が生じやすく、滞留によって生成した樹脂の熱劣化物による光学的欠点の発生がしばしば見られる。光学的な欠陥、欠点は、ユーザーが視認する画像の品質低下につながる。その他、製造コストの点などからも、単純な押出成形装置で成形可能な単層構造をとることができながら、耐衝撃性および表面硬度の双方の特性の両立がなされた画像表示装置用前面板が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の画像表示装置用前面板は、画像表示装置の画像表示部に表示される画像を外部に透過させながら、前記画像表示部を保護する画像表示装置用前面板であって、スチレン単位および/またはメタクリル酸メチル単位を構成単位として有する重合体を主成分とし、前記重合体の全構成単位に占める、メタクリル酸メチル単位ならびに当該単位の誘導体である環構造を含む構成単位の割合の合計が45重量%以上であるか、またはスチレン単位の割合が45重量%以上であり、前記重合体のガラス転移温度よりも30℃高い温度における加熱収縮率が20%以上70%以下であり、JIS K7361−1の規定に準拠して測定した全光線透過率が90%以上であり、厚さが0.5mm以上3mm以下である。
【0008】
本発明の製造方法は、画像表示装置の画像表示部に表示される画像を外部に透過させながら、前記画像表示部を保護する画像表示装置用前面板の製造方法であって、厚さ0.6mm以上10mm以下の樹脂シートを延伸して、厚さ0.5mm以上3mm以下の延伸樹脂シートからなる前記画像表示装置用前面板を形成し、前記樹脂シートは、スチレン単位および/またはメタクリル酸メチル単位を構成単位として有する重合体を主成分とし、前記重合体の全構成単位に占める、メタクリル酸メチル単位ならびに当該単位の誘導体である環構造を含む構成単位の割合の合計が45重量%以上であるか、またはスチレン単位の割合が45重量%以上であり、形成した前記画像表示装置用前面板の、JIS K7361−1の規定に準拠して測定した全光線透過率が90%以上である。
【0009】
加熱収縮率とは、樹脂シートを室温から所定の温度に加熱したときに、当該樹脂シートが収縮する程度を示す値であり、当該樹脂シートが延伸されているか(延伸樹脂シートであるか)否かの判断の基準となる。未延伸の樹脂シートでは、収縮がほとんど生じず、加熱収縮率は−1%以上1%以下となる。加熱収縮率が大きいほど、加熱による収縮が大きく、強い延伸を経て形成された延伸樹脂シートであると判断できる。本発明の画像表示装置用前面板は、その加熱収縮率が20%以上70%以下になる程度に延伸された延伸樹脂シートからなる。
【0010】
主成分とは、画像表示装置用前面板あるいは樹脂シートにおける含有率が最大の成分を意味し、通常、その含有率は50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、特定の構成単位を特定の含有率で有する重合体を主成分とする延伸樹脂シートを用いることにより、単層構造をとることができながら、耐衝撃性および表面硬度の双方の特性の両立がなされた画像表示装置用前面板が得られる。
【0012】
本発明の画像表示装置用前面板の厚さは0.5mm以上3mm以下である。また、本発明の製造方法では、厚さ0.6mm以上10mm以下の樹脂シートを延伸して、厚さ0.5m以上3mm以下の画像表示装置用前面板(延伸樹脂シート)を得ている。従来、薄い樹脂フィルムの延伸は広く行われてきたが、このような厚い樹脂シートの延伸は行われてこなかった。それは、(I)樹脂フィルムの場合には、その薄膜化が延伸の重要な目的の一つである一方で、樹脂シートの場合、延伸によってシート厚を変化させなくても、成形時にシート厚を容易に制御できること、即ち、厚い樹脂シートを延伸する動機が当業者にないこと、(II)延伸には延伸対象物の予熱ならびに延伸後の冷却が必要であるが、加熱または冷却ロールに沿わせて搬送するだけで予熱または冷却が完了するフィルムとは異なり、厚い樹脂シートは、その剛性の高さから、ロールに沿わせることが非常に困難であり、フィルムの延伸装置を樹脂シートの延伸にそのまま流用できなかったこと、(III)光学部材の分野では、フィルムの延伸により位相差フィルムを得ることが広く行われているが、厚い樹脂シートを延伸して光学部材を形成することは、できるだけ薄い位相差フィルムを得ようとする当業者の技術的課題に反しており、誰も試みようとしなかったこと、などの理由による。本発明は、厚い樹脂シートを延伸して光学部材の一種である画像表示装置用前面板を得るという、従来全く想定されなかった工程を実施することでなされたものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の画像表示装置用前面板は、スチレン単位および/またはメタクリル酸メチル単位を構成単位として有する重合体(A)を主成分とする。ただし、重合体(A)の全構成単位に占める、メタクリル酸メチル単位の割合と、当該単位の誘導体である環構造を含む構成単位の割合との合計が45重量%以上であるか、または、スチレン単位の割合が45重量%以上である。
【0014】
重合体(A)は、構成単位に関するこれらの条件を満たすとともに、JIS 7361−1の規定に準拠して測定した全光線透過率が90%以上の画像表示装置用前面板を形成できる限り、特に限定されない。
【0015】
なお、スチレン単位は、当該単位のホモポリマーであるポリスチレンが耐衝撃性および表面硬度の双方の特性に劣ることからもわかるように、従来、画像表示装置用前面板を構成する重合体の構成単位として好ましくなかった。これに対して本発明の画像表示装置用前面板では、スチレン単位の含有率が45重量%以上である場合にも、単層構造をとることができながら、耐衝撃性および表面硬度の双方の特性の両立が可能である。なお、このことは、画像表示装置用前面板の製造コストの観点からも有利となる。
【0016】
重合体(A)がメタクリル酸メチル単位を構成単位として有する場合、重合体(A)の全構成単位に占める、メタクリル酸メチル単位の割合と、当該単位の誘導体である環構造を含む構成単位の割合との合計は、50重量%以上が好ましい。
【0017】
重合体(A)は、スチレン単位およびメタクリル酸メチル単位の双方を構成単位として有していてもよい。このような重合体(A)の例は、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体である。
【0018】
重合体(A)は、構成単位に関する上記条件を満たすとともに、全光線透過率に関して上記条件を満たす画像表示装置用前面板を形成できる限り、スチレン単位およびメタクリル酸メチル単位以外の構成単位を有していてもよい。このような構成単位は、例えば、メタクリル酸メチル単位以外の(メタ)アクリル酸エステル単位である。
【0019】
重合体(A)は、主鎖に環構造を有していてもよい。主鎖に環構造を有することにより、重合体(A)のガラス転移温度(Tg)が上昇し、耐熱性に優れる画像表示装置用前面板となる。環構造の種類および重合体(A)における環構造の含有率にもよるが、主鎖に環構造を有する重合体(A)のTgは、例えば110℃以上、115℃以上、120℃以上、さらには130℃以上となる。重合体(A)のTgは、JIS K7121の規定に準拠して、中点法により測定できる。
【0020】
また、重合体(A)が主鎖に環構造を有することにより、より高い表面硬度を有する画像表示装置用前面板となる。
【0021】
重合体(A)が主鎖に有していてもよい環構造の具体例は、ラクトン環構造、無水マレイン酸構造およびN−置換マレイミド構造から選ばれる少なくとも一種である。これらの環構造は、重合体(A)の透明性(全光線透過率)をほとんど低下させず、また、メタクリル酸メチル単位およびスチレン単位との共重合が容易である。環構造の種類によっては、メタクリル酸メチル単位および/またはスチレン単位、ならびにこれらの構成単位との共重合が容易な(メタ)アクリル酸エステル単位および/または(メタ)アクリル酸単位を構成単位に有する共重合体に対して、脱アルコール環化縮合反応を進行させることにより、重合体(A)を比較的容易に形成可能である。
【0022】
ラクトン環構造は特に限定されないが、例えば、以下の式(1)に示す構造である。
【0023】
【化1】

【0024】
式(1)におけるR1、R2およびR3は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機残基である。有機残基は、酸素原子を含んでいてもよい。有機残基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基;エテニル基、プロペニル基などの不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの芳香族炭化水素基;上記アルキル基、上記不飽和脂肪族炭化水素基または上記芳香族炭化水素基における水素原子の一つ以上が、ヒドロキシ基、カルボキシル基、エーテル基およびエステル基から選ばれる少なくとも1種の基により置換された基;である。
【0025】
式(1)に示すラクトン環構造は、例えば、エステル基(カルボン酸エステル基)を有する構成単位と、水酸基を有する構成単位とを有する共重合体に対して、脱アルコール環化縮合反応を進行させて形成できる。このような共重合体は、例えば、(メタ)アクリル酸エステル単位と、水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル単位との共重合体である。このような共重合体の一例は、メタクリル酸メチル(MMA)単位と2−(ヒドロキシ)アクリル酸メチル(RHMA)単位とを有する共重合体である。このとき、式(1)に示すラクトン環構造のR1はH、R2はCH3、R3はCH3となる。
【0026】
共重合体に対して脱アルコール環化縮合反応を進行させて重合体(A)としたときに、メタクリル酸メチル単位の含有率を45重量%以上とすることが容易となることから、エステル基を有する構成単位がMMA単位であることが好ましい。エステル基を有する構成単位がMMA単位である場合、水酸基を有する構成単位とMMA単位との脱アルコール環化縮合反応により形成された環構造は、MMA単位の誘導体である。
【0027】
水酸基を有する構成単位は、例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸n−ブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸t−ブチル、2−(ヒドロキシメチル)メタクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)メタクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)メタクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)メタクリル酸n−ブチル、2−(ヒドロキシメチル)メタクリル酸t−ブチルの各単量体の重合により形成される構成単位である。
【0028】
以下の式(2)に、N−置換マレイミド構造および無水マレイン酸構造を示す。
【0029】
【化2】

【0030】
上記式(2)におけるR4およびR5は、互いに独立して、水素原子またはメチル基であり、X1は、酸素原子または窒素原子である。X1が酸素原子のときR6は存在せず、X1が窒素原子のとき、R6は、水素原子、炭素数1〜6の直鎖アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基またはフェニル基である。
【0031】
1が窒素原子のとき、式(2)に示す環構造はN−置換マレイミド構造となる。N−置換マレイミド構造を主鎖に有する重合体(A)は、例えば、N−置換マレイミドとメタクリル酸メチルおよび/またはスチレンとを共重合して形成できる。
【0032】
1が酸素原子のとき、式(2)に示す環構造は無水マレイン酸構造となる。無水マレイン酸構造を主鎖に有する重合体(A)は、例えば、無水マレイン酸とメタクリル酸メチルおよび/またはスチレンとを共重合して形成できる。
【0033】
重合体(A)が主鎖に環構造を有するとき、重合体(A)における環構造の含有率は、画像表示装置用前面板として望む特性に応じて調整すればよいが、例えば5重量%以上80重量%未満であり、10重量%以上60重量%未満が好ましい。
【0034】
重合体(A)における環構造の含有率は、公知の手法、例えば1H核磁気共鳴(1H−NMR)あるいは赤外線分光分析(IR)により求めることができる。また、特開2008-133462に記載の方法により求めることも可能である。
【0035】
本発明の画像表示装置用前面板は、その加熱収縮率が20%以上70%以下である。20%未満の場合、延伸樹脂シートとしての延伸の程度が不足しており、耐衝撃性と表面硬度との両立が困難となる。70%を超える場合、延伸樹脂シートとしての延伸の程度が過度となり、そのような強い延伸が困難である割りには得られるメリットが少ない。
【0036】
本発明の画像表示装置用前面板の厚さは、0.5mm以上3mm以下である。
【0037】
本発明の画像表示装置用前面板の濁度(ヘイズ)は、JIS K7136の規定に準拠して測定した値にして、1%以下が好ましい。
【0038】
本発明の画像表示装置用前面板における表面粗さは、表面処理の有無ならびに表面処理が行われている場合にはその種類によっても異なるが、JIS B0601に規定するRa(算術平均粗さ)にして0.1μm以下とすることができ、条件によっては、0.05μm以下ともなる。
【0039】
本発明の画像表示装置用前面板は、重合体(A)が主成分であるとともに、JIS 7361−1の規定に準拠して測定した全光線透過率が90%以上である限り、重合体(A)以外の材料を含んでいてもよい。このような材料は、例えば、弾性有機微粒子である。
【0040】
弾性有機微粒子の含有により、本発明の画像表示装置用前面板の耐衝撃性がさらに向上する。弾性有機微粒子は、例えば、共役ジエン単量体の重合により形成される構成単位(例えば、ブタジエン単位、イソプレン単位)と、(メタ)アクリル酸エステル単量体の重合により形成される構成単位(例えば、アクリル酸ブチル単位、アクリル酸エチル単位)とを有する弾性有機微粒子である。弾性有機微粒子として、特開2008-242421号公報に開示の弾性有機微粒子を使用できる。弾性有機微粒子の製造方法は、当該公報に開示がある。
【0041】
本発明の画像表示装置用前面板が弾性有機微粒子を含む場合、当該前面板における弾性有機微粒子の含有率は、5〜30重量%が好ましい。弾性有機微粒子の含有率が過度に大きい場合、耐衝撃性が向上するメリットよりも、弾性有機微粒子によって生じる前面板への入射光の散乱によって、前面板の濁度(ヘイズ)が増大し、全光線透過率が低下したり表面硬度が低下するデメリットの方が大きくなる。
【0042】
本発明の画像表示装置用前面板は、その表面にハードコート処理などの表面処理がなされていてもよい。ハードコート処理によって、前面板の表面硬度がさらに向上する。表面処理には、ハードコート処理以外にも、アンチグレア処理、帯電防止処理、反射防止処理などがある。具体的な表面処理の方法は、公知の方法に従えばよい。
【0043】
本発明の画像表示装置用前面板は、典型的には重合体(A)を主成分とする、場合によっては重合体(A)からなる樹脂組成物の単層構造を有するが、本発明の効果が得られる限り、当該樹脂組成物からなる層以外の任意の層を有していてもよい。
【0044】
本発明の画像表示装置用前面板は、液晶表示装置など、任意の画像表示装置に使用できる。本発明の画像表示装置用前面板を画像表示装置における画像表示部の外側(画像表示面の外部側)に配置することで、画像表示部に表示される画像を外部に透過させながら、画像表示部を外部の異物の接触、衝突などから保護できる。また、本発明の画像表示装置用前面板は単層構造をとることができるため、従来の多層構造を有する前面板に比べて、層の界面における波模様やスジ模様といった光学的な欠陥となりうる干渉模様が発生することがなく、製造時に熱劣化物が混入することによる光学的欠点の発生も少ない。また、製造コスト的にも、複層構造を有する前面板に比べて有利である。
【0045】
本発明の画像表示装置用前面板は、例えば、本発明の画像表示装置用前面板の製造方法により製造できる。
【0046】
本発明の製造方法では、厚さ0.6mm以上10mm以下の樹脂シートを延伸して、厚さ0.5mm以上3mm以下の延伸樹脂シートからなる画像表示装置用前面板を形成する。ここで、延伸する樹脂シートは、スチレン単位および/またはメタクリル酸メチル単位を構成単位として有する重合体(A)を主成分とするシートである。重合体(A)の全構成単位に占める、メタクリル酸メチル単位の割合と、当該単位の誘導体である環構造を含む構成単位の割合との合計が45重量%以上であるか、またはスチレン単位の割合が45重量%以上である。また、延伸により形成した画像表示装置用前面板の全光線透過率(JIS 7361−1の規定に準拠して測定した全光線透過率)が90%以上である。画像表示装置用前面板の上記全光線透過率は、重合体(A)の組成ならびに樹脂シートにおける重合体(A)の含有率および重合体(A)以外の成分の選択により調整できる。
【0047】
樹脂シートの延伸には、予熱方法を除き、一般的な延伸方法を応用できる。例えば、一軸延伸または二軸延伸により樹脂シートを延伸して画像表示装置用前面板を形成すればよい。より高いレベルでの耐衝撃性および表面硬度の両立が可能となることから、樹脂シートを二軸延伸して、延伸樹脂シートからなる画像表示装置用前面板を形成することが好ましい。一軸延伸および二軸延伸には、予熱方法を除き、公知の延伸方法を応用できる。
【0048】
具体的な延伸には、例えば、樹脂シートを低速ロール、高速ロールの順に導入し、低速側と高速側との搬送速度の差を利用する方法や、樹脂シートの端部を把持して引っ張る方法を利用でき、これらを単独で用いたり、組み合わせることによって、樹脂シートの一軸延伸、二軸延伸を実現できる。樹脂フィルムの主面に圧縮力を加えることで当該フィルムを押し広げる方法も考えられるが、当該方法では、フィルムが広がる方向を制御することが難しく、シートの部位により収縮率にムラが生じる可能性があり、好ましくない。また、得られるシートの形状も丸みを帯びた形となり、通常好まれる矩形状の製品を得るための方法として好ましくない。また、当該方法では、押出成形された帯状の未延伸シートの連続的な延伸も不可能である。
【0049】
さらに当該方法では、通常、圧縮ダイを樹脂シートの主面に押しつけることで当該シートに圧縮力を加えるが、圧縮ダイの表面に存在する凹凸がシートに転写されるために、あるいはダイを大きな圧力でシートに押しつけた状態で、シートをダイに対して水平移動させるために使用される易滑剤に起因する凹凸がシートに転写されるために、表面が平滑な延伸樹脂シートが得られない。一方、一軸延伸または二軸延伸では、JIS B0601に規定するRa(算術平均粗さ)にして、0.1μm以下、条件によっては0.05μm以下の延伸樹脂シートが得られる。
【0050】
延伸時のシート温度は、例えば、重合体(A)のTgを基準として(Tg+30)℃以下であり、(Tg+5)〜(Tg+20)℃が好ましい。延伸倍率は、例えば、1.2〜4倍であり、1.2〜3倍が好ましい。
【0051】
樹脂シートを延伸する際には、当該樹脂シートを延伸温度にまで予熱する必要がある。従来の薄いフィルムの延伸では、加熱ロールをフィルムが通過する際に予熱を行うことが可能であったが、本発明のように厚い樹脂シートを用いた場合、フィルムに比べて熱容量が大きいことにより、また、そもそも加熱ロールへ樹脂シートを沿わせることが不可能であることにより、このような予熱の実施が不可能である。このため、樹脂シートの予熱には他の手段、例えば、熱風の導入あるいは赤外線の照射を用いることが好ましい。赤外線を照射する場合、樹脂シートの双方の主面に赤外線を照射することが好ましい。同様に、延伸後のシートの冷却には、冷却ロールにシートを沿わせることが不可能であることから、他の手段、例えば、冷風の導入を用いることが好ましい。
【0052】
延伸する樹脂シートは、重合体(A)を主成分とする樹脂組成物を押出成形するなど、公知の成形法により形成できる。
【0053】
本発明の製造方法では、本発明の画像表示装置用前面板が得られる限り、樹脂シートを延伸して樹脂延伸シートとする以外の任意の工程を、任意の時点で実施できる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
【0055】
最初に、本実施例において作製した重合体および画像表示装置用前面板の評価方法を示す。
【0056】
[重合反応率、重合体組成分析]
重合体を作製する際の重合反応率は、得られた重合溶液に残留する未反応単量体の量から算出した。未反応単量体の量は、ガスクロマトグラフィー(島津製作所製、GC17A)により測定した。また、未反応単量体の量と、最初に重合系に加えた単量体の量とから、重合体の組成を求めた。
【0057】
[重量平均分子量]
重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算により求めた。測定に用いた装置および測定条件は、
システム:東ソー製
カラム:TSK-GEL SuperHZM-M 6.0×150 2本直列
ガードカラム:TSK-GEL SuperHZ-L 4.6×35 1本
リファレンスカラム:TSK-GEL SuperH-RC 6.0×150 2本直列
溶離液:クロロホルム 流量0.6mL/分
カラム温度:40℃
である。
【0058】
[ガラス転移温度]
重合体のガラス転移温度(Tg)は、JIS K7121に準拠して求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク製、DSC−8230)を用い、窒素フロー(50mL/分)雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から200℃まで昇温(昇温速度10℃/分)して得られたDSC曲線から、中点法により評価した。リファレンスには、α−アルミナを用いた。
【0059】
[全光線透過率]
前面板の全光線透過率は、JIS K7361−1に準拠し、ヘーズメーター(日本電色工業製、NDH5000)を用いて求めた。
【0060】
[表面粗さ]
前面板の表面粗さとして、JIS B0601:2001に規定されているRa(算術平均粗さ)を、平面に拡張して求めた。測定は、レーザー顕微鏡(キーエンス製、VK−9700)を用い、測定面積を95μm×70μmとして行った。なお、前面板における表面粗さの測定部位は、前面板において、視認できる傷や汚れの無い部位を無作為に選択した。
【0061】
[加熱収縮率]
前面板の加熱収縮率は、以下のようにして求めた。
【0062】
作製した前面板から、80mm×80mmのサイズの試験片を切り出し、当該試験片の表面に、直径約50mmの円をマジックで描いた。このときの円の直径をΦ1とした。次に、タルク粉をまんべんなく敷いたトレイに試験片を置き、さらに試験片の上にもタルク粉を敷き、その上にステンレス製の板(150mm×150mm、重さ180g)を置いた。このステンレス製の板は、試験片の加熱時に、試験片がカールしたり波打ったりすることを抑制する目的で使用した。次に、前面板を構成する重合体のTgより30℃高い温度に保持した熱風オーブンに試験片ごとトレイを収容し、試験片を1時間加熱処理した。加熱処理後、トレイをオーブンから取り出して室温まで冷却し、冷却した試験片の表面に描かれた円の直径の最大値(Φ2a)と最小値(Φ2b)とをノギスで測定した。式[Φ1−(Φ2a+Φ2b)/2]/Φ1×100(%)の値を加熱収縮率とし、3枚の試験片に対して求めた加熱収縮率の平均値を測定結果とした。
【0063】
[耐衝撃性]
前面板の耐衝撃性は、自由落下のダート法(JIS K7124、A法)に準拠して評価した。同じ前面板から切り出した3枚の試験片に対して、重量50gの弾頭を用いて試験を実施した。耐衝撃性の判定は、3枚の試験片全てで弾頭が貫通しなかった場合を合格(○)、1枚の試験片でも弾頭が貫通した場合を不合格(×)とした。
【0064】
[耐擦傷性]
前面板の耐擦傷性は、JIS K5600−5−4に準拠して評価した。評価は、硬度Hの鉛筆を用いて行い、前面板の表面に傷がつかなかった場合を合格(○)、傷がついた場合を不合格(×)とした。
【0065】
(製造例1)
攪拌装置、温度センサー、冷却管、および窒素導入管を備えた、内容積30Lの反応釜に、8kgのメタクリル酸メチル(MMA)、2kgの2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(RHMA)、重合溶媒として10kgのメチルイソブチルケトン、調整剤として5gのn−ドデシルメルカプタンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として5gのt−アミル−3,5,5−トリメチルヘキサノエートを添加するとともに、230gのメチルイソブチルケトンにt−アミル−3,5,5−トリメチルヘキサノエート10gを溶解させた溶液を2時間かけて滴下しながら、約105〜120℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間の熟成を行った。
【0066】
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、30gのリン酸ステアリル/リン酸ジステアリル混合物(堺化学工業製、Phoslex A-18)を加え、約90〜120℃の還流下において5時間、ラクトン環構造を形成するための脱アルコール環化縮合反応を進行させた。
【0067】
次に、このようにして得た重合溶液を、バレル温度260℃、回転速度100rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個およびフォアベント数4個のベントタイプスクリュー二軸押出機(Φ=29.75mm、L/D=30)に、樹脂量換算で2.0kg/時の処理速度で導入し、押出機内でさらなる環化縮合反応と脱揮とを実施して、MMA単位と、当該単位の誘導体であるラクトン環構造を含む構成単位とを有する重合体(1)を得た。得られた重合体(1)の重量平均分子量は15万、ガラス転移温度(Tg)は131℃であった。また、得られた重合体(1)におけるMMA単位と、当該単位の誘導体であるラクトン環構造を含む構成単位との含有率の合計は、100重量%であった。
【0068】
次に、作製した重合体(1)を、押出成形法により、厚さ4mmのシート(1A)および厚さ5mmのシート(1B)とした。押出成形には、東洋精機製作所製ラボプラストミルに単軸押出ユニット(シリンダー径20mm)およびコートハンガー型ダイ(幅150mm)を取り付けた装置を用いた。得られたシート(1A)、(1B)の加熱収縮率は−1%〜1%の間であり、それぞれ実質的に未延伸の状態であることが確認された。
【0069】
(実施例1)
製造例1で作製した未延伸シート(1A)を97mm角に切断し、延伸機(東洋精機製作所製、コーナーストレッチ式2軸延伸試験装置X6−S)にセットした。この延伸機は、セットしたシートの4辺を各々10個のチャックで把持して当該シートを延伸する機能を有する。各チャックは連動して移動し、同時または逐次に、直交する2方向にシートを延伸可能である。
【0070】
次に、セットしたシートを、150℃で3分間予熱した後(即ち、延伸温度が150℃)、20秒間で倍率1.5倍となるように1段目の延伸を行った。1段目の延伸が完了して1秒後に、1段目と直交する方向に2段目の延伸を、20秒間で倍率1.5倍となるように行った。2段目の延伸完了後の状態を20秒間維持した後、加熱炉を開放し、延伸後のシートを冷却して、延伸シート(1)を得、これを前面板とした。なお、未延伸シート(1A)の中央部に50mm角の四角形をマジックで描き、延伸に伴ってこの四角形がどのように変化するかを確認したところ、1段目の延伸終了時には、およそ50mm×75mmの四角形であり、2段目の延伸終了時には、およそ75mm×75mmの四角形であった。
【0071】
(実施例2)
延伸倍率を、1段目および2段目ともに2.0倍とした以外は実施例1と同様にして、延伸シート(2)を得、これを前面板とした。
【0072】
(実施例3)
製造例1で作製した未延伸シート(1B)を用い、延伸倍率を、1段目および2段目ともに3.0倍とした以外は実施例1と同様にして、延伸シート(3)を得、これを前面板とした。
【0073】
(製造例2)
重合する単量体として、7kgのMMA、2kgのMHMA、1kgのスチレン(St)を用いた以外は、製造例1と同様にして、St単位と、MMA単位と、MMA単位の誘導体であるラクトン環構造を含む構成単位とを有する重合体(2)を得た。得られた重合体(2)の重量平均分子量は14.5万、ガラス転移温度(Tg)は127℃であった。また、得られた重合体(2)におけるMMA単位と、当該単位の誘導体であるラクトン環構造を含む構成単位との含有率の合計は、89重量%であった。
【0074】
次に、作製した重合体(2)から、製造例1と同様にして、厚さ4mmの未延伸シート(2)を得た。
【0075】
(実施例4)
製造例2で作製した未延伸シート(2)を用い、延伸温度を145℃、延伸倍率を、1段目および2段目ともに2.0倍とした以外は実施例1と同様にして、延伸シート(4)を得、これを前面板とした。
【0076】
(製造例3)
攪拌装置、温度センサー、冷却管、および窒素導入管を備えた、内容積30Lの反応釜に、9kgのMMA、1kgのN−フェニルマレイミド(PMI)、および重合溶媒として10kgのトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として12gのt−アミルパーオキシイソノナノエートを添加するとともに、136gのトルエンにt−アミルパーオキシイソノナノエート24gを溶解させた溶液を2時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間の熟成を行った。
【0077】
次に、このようにして得た重合溶液を、バレル温度240℃、回転速度120rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個およびフォアベント数4個のベントタイプスクリュー二軸押出機(Φ=29.75mm、L/D=30)に、樹脂量換算で2.0kg/時の処理速度で導入し、押出機内で脱揮を実施して、MMA単位と、N−フェニルマレイミド単位とを有する重合体(3)を得た。得られた重合体(3)の重量平均分子量は17万、ガラス転移温度(Tg)は127℃であった。また、得られた重合体(3)におけるMMA単位の含有率は、90重量%であった。
【0078】
次に、作製した重合体(3)から、製造例1と同様にして、厚さ4mmの未延伸シート(3)を得た。
【0079】
(実施例5)
製造例3で作製した未延伸シート(3)を用い、延伸温度を145℃、延伸倍率を、1段目および2段目ともに1.3倍とした以外は実施例1と同様にして、延伸シート(5)を得、これを前面板とした。
【0080】
(製造例4)
重合する単量体として、9.5kgのMMA、0.5kgのメタクリル酸(MA)を用いた以外は、製造例3と同様にして、MMA単位とMA単位とを有する重合体(4)を得た。得られた重合体(4)の重量平均分子量は15.8万、ガラス転移温度(Tg)は106℃であった。また、得られた重合体(4)におけるMMA単位の含有率は、95重量%であった。
【0081】
次に、作製した重合体(4)から、厚さを4mmの未延伸シート(4)を得た。
【0082】
(実施例6)
製造例4で作製した未延伸シート(4)を用い、延伸温度を125℃、延伸倍率を、1段目および2段目ともに2.0倍とした以外は実施例1と同様にして、延伸シート(6)を得、これを前面板とした。
【0083】
(製造例5)
重合する単量体として、8.8kgのMMA、1kgのPMI、0.2kgのStを用いた以外は、製造例3と同様にして、MMA単位とMA単位とSt単位とを有する重合体(5)を得た。得られた重合体(5)の重量平均分子量は16万、ガラス転移温度(Tg)は126℃であった。また、得られた重合体(5)におけるMMA単位の含有率は、88重量%であった。
【0084】
次に、作製した重合体(5)から、製造例1と同様にして、厚さ4mmの未延伸シート(5)を得た。
【0085】
(実施例7)
製造例5で作製した未延伸シート(5)を用い、延伸温度を145℃、延伸倍率を、1段目および2段目ともに2.0倍とした以外は実施例1と同様にして、延伸シート(7)を得、これを前面板とした。
【0086】
(製造例6)
コンデンサー、攪拌機および2つの滴下ロートを備えた内容積30Lの反応釜に、1.8kgのStと9.1kgのトルエンとを仕込み、これに窒素を通じつつ、114℃まで昇温させた。114℃に達したところで、重合開始剤として2.5gのt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートを添加するとともに、予め調製しておいた、5.8kgのPMIと3.8kgのトルエンとからなる滴下液(I)、および4.4kgのStと、5.0gのt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートとからなる滴下液(II)を、それぞれ別のルートから、3.5時間かけて均一な速度で反応釜に滴下しながら、環流状態で重合を進行させた。滴下終了後、反応釜の内部をさらに1.5時間保温し続け、トルエン52重量%、スチレン5.1重量%およびマレイミド系共重合体42.9重量%からなる組成物を得た。マレイミド系共重合体におけるN−フェニルマレイミド単位の含有率は54.3重量%、スチレン単位の含有率は45.7重量%であり、そのTgは206℃であった。
【0087】
次に、得られた組成物を、ギアポンプを用いてスタティックミキサー式熱交換機を通過させることで240℃に加熱した後、ベントタイプ二軸同方向噛み合い型押出機(スクリュー径(D)が65mm、シリンダー長さ(L)が2600mm、L/D=40、リアベント1個、フォアベント3個)に連続して供給し、押出機内で脱揮処理を行った。このとき、組成物の供給速度を110kg/時とし、バレル温度を270℃、スクリュー回転速度を120rpmとした。また、各ベントの圧力は、リアベントが700mmHg、第1フォアベントが250mmHg、第2フォアベントが20mmHg、第3フォアベントが20mmHgとした。さらに、第2、第3フォアベント前段において、それぞれ供給速度7kg/時で水を圧入した。このようにして得たマレイミド系共重合体(6)の重量平均分子量は23万であった。
【0088】
次に、作製した重合体(6)から、製造例1と同様にして、厚さ5mmの未延伸シート(6)を得た。
【0089】
(実施例8)
製造例6で作製した未延伸シート(6)を用い、延伸温度を220℃、延伸倍率を、1段目および2段目ともに1.8倍とした以外は実施例1と同様にして、延伸シート(8)を得、これを前面板とした。
【0090】
(製造例7)
市販されているMMAとStとの共重合体(新日鐵化学製、MS−600、MMAとStとの共重合比が重量比で6:4)を用い、製造例1と同様にして、厚さ5mmの未延伸シート(7)を得た。用いた共重合体のTgは100℃であった。
【0091】
(実施例9)
製造例7で作製した未延伸シート(7)を用い、延伸温度を120℃、延伸倍率を、1段目および2段目ともに2.5倍とした以外は実施例1と同様にして、延伸シート(9)を得、これを前面板とした。
【0092】
(製造例8)
市販されているMMAとStとの共重合体(新日鐵化学製、MS−300、MMAとStとの共重合比が重量比で3:7)を用い、製造例1と同様にして、厚さ6mmの未延伸シート(8)を得た。用いた共重合体のTgは92℃であった。
【0093】
(実施例10)
製造例8で作製した未延伸シート(8)を用い、延伸温度を110℃、延伸倍率を、1段目および2段目ともに1.5倍とした以外は実施例1と同様にして、延伸シート(10)を得、これを前面板とした。
【0094】
(比較例1)
製造例4で作製した未延伸シート(4)を、そのまま延伸することなく、前面板とした。
【0095】
(比較例2)
市販のポリカーボネートシート(住友ベークライト製、ポリカエースECK100、厚さ2.0mm)を、そのまま前面板とした。
【0096】
実施例1〜10および比較例1〜2で作製した前面板を構成する重合体の、重合前のモノマー組成およびガラス転移温度(Tg)、ならびに作製した前面板の特性評価結果を、以下の表1に示す。
【0097】
【表1】

【0098】
表1に示すように、実施例1〜10で作製した各前面板は、単層構造でありながら、高い表面硬度および耐衝撃性を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の画像表示用前面板は、画像表示装置の種類を問わず、前面板として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像表示装置の画像表示部に表示される画像を外部に透過させながら、前記画像表示部を保護する画像表示装置用前面板であって、
スチレン単位および/またはメタクリル酸メチル単位を構成単位として有する重合体を主成分とし、
前記重合体の全構成単位に占める、メタクリル酸メチル単位ならびに当該単位の誘導体である環構造を含む構成単位の割合の合計が45重量%以上であるか、またはスチレン単位の割合が45重量%以上であり、
前記重合体のガラス転移温度よりも30℃高い温度における加熱収縮率が、20%以上70%以下であり、
JIS K7361−1の規定に準拠して測定した全光線透過率が90%以上であり、
厚さが0.5mm以上3mm以下である画像表示装置用前面板。
【請求項2】
前記重合体がスチレン単位およびメタクリル酸メチル単位の双方を構成単位として有する請求項1に記載の画像表示装置用前面板。
【請求項3】
前記重合体のガラス転移温度が110℃以上である請求項1に記載の画像表示装置用前面板。
【請求項4】
表面粗さが、JIS B0601に規定するRa(算術平均粗さ)にして0.1μm以下である請求項1に記載の画像表示装置用前面板。
【請求項5】
画像表示装置の画像表示部に表示される画像を外部に透過させながら、前記画像表示部を保護する画像表示装置用前面板の製造方法であって、
厚さ0.6mm以上10mm以下の樹脂シートを延伸して、厚さ0.5mm以上3mm以下の延伸樹脂シートからなる前記画像表示装置用前面板を形成し、
前記樹脂シートは、スチレン単位および/またはメタクリル酸メチル単位を構成単位として有する重合体を主成分とし、
前記重合体の全構成単位に占める、メタクリル酸メチル単位ならびに当該単位の誘導体である環構造を含む構成単位の割合の合計が45重量%以上であるか、またはスチレン単位の割合が45重量%以上であり、
形成した前記画像表示装置用前面板の、JIS K7361−1の規定に準拠して測定した全光線透過率が90%以上である、画像表示装置用前面板の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂シートを一軸延伸または二軸延伸して、前記延伸樹脂シートからなる画像表示装置用前面板を形成する、請求項5に記載の画像表示装置用前面板の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂シートの延伸により形成した前記延伸樹脂シートの表面粗さが、JIS B0601に規定するRa(算術平均粗さ)にして0.1μm以下である、請求項5に記載の画像表示装置用前面板の製造方法。

【公開番号】特開2011−43619(P2011−43619A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−190973(P2009−190973)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】