説明

異方性球状材料の方向測定方法、異方性球状材料の方向測定装置および球状弾性表面波素子の製造方法

【課題】異方性を示す方向を精度良く決定することができ、特定の好適な位置に薄膜構造を形成して高精度な球状弾性表面波素子を作成することができる異方性球状材料の方向測定方法、異方性球状材料の方向測定装置および球状弾性表面波素子の製造方法を提供する。
【解決手段】弾性表面波制御手段12が、マニピュレータ11bに保持された球状材料1の表面の所定の位置で、軸に垂直な平面上の大円に沿って伝搬する弾性表面波を発生可能である。弾性表面波制御手段12は、所定の位置における大円に沿って周回した弾性表面波の所定の物理量を測定可能である。マニピュレータ11bにより、保持した球状材料1に対し、その周囲で大円に沿って弾性表面波制御手段12を相対的に回転させ、互いに異なる複数の回転角ごとに弾性表面波の発生および物理量の測定を繰り返し、各回転角ごとに測定された物理量に基づいて、異方性を示す方向を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に球状弾性表面波素子の方位を制御した加工に利用される異方性球状材料の方向測定方法、異方性球状材料の方向測定装置およぴ球状弾性表面波素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電体上に1対のすだれ状電極を設けて、一方のすだれ状電極に高周波電圧を供給することにより弾性表面波を発生させ、他方のすだれ状電極がその弾性表面波を受信する弾性表面波素子は従来から良く知られており、遅延線、発振素子及び共振素子、周波数を選択するフィルター、化学センサ、バイオセンサ、またはリモートタグ等に使用されている。
【0003】
このような弾性表面波素子において、すだれ状電極間を弾性表面波が伝搬する際の伝搬損失を出来る限り小さくし、伝搬特性計測精度を飛躍的に高めるものとして、球状弾性表面波素子がある(例えば、特許文献1または2参照)。この球状弾性表面波素子は、高性能な水素ガスセンサなどに応用されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
この球状弾性表面波素子のなかで、基材として異方性のある圧電結晶球などの球状材料を用いる場合、結晶方位が異方性を示す方向となるため、球状材料の表面においてどの結晶軸に対してどの位置にすだれ状電極を設けるかにより、受信箇所における弾性表面波の伝搬速度や振幅に大きな違いが生じ、可能な周回数に大きな差が生じる。このため、特定の好適な結晶方位の位置にすだれ状電極を形成することが望ましい。
【0005】
また、球状弾性表面波素子を利用したセンサにおいては、多重周回を利用して高感度化を達成できるが、感応膜を形成する下地の結晶方位が感応膜の特性に影響を与える場合があるため、特定の好適な結晶方位の位置に感応膜を形成することが望ましい。さらに、弾性表面波を分岐させる球状弾性表面波素子においては、分岐のための回折パターンを用いるが、回折パターンの下地の結晶方位が回折効率や方向に影響を与えるため、特定の好適な結晶方位の位置に回折パターンを形成することが望ましい。
【0006】
結晶方位を測定する方法として、X線ラウエ法や光の偏光面の旋回性を利用した方法がある。しかし、X線ラウエ法では、球状材料として水晶のような軽元素材を使用する場合、通常の装置で発生できるX線の強度では、球状材料からの回折は弱く、その検出には10分以上の時間が必要で、球状弾性表面波素子の作製プロセスに用いることは困難であるという問題があった。また、光の偏光面の旋回性を利用した方法は、簡便で高速であるが、球状材料として水晶などを使用する場合、結晶のZ軸を決定する事が出来るのみで、結晶のX軸あるいはY軸を測定する事は出来ず、Z軸の正負の向きも判定できないという問題があった。そこで、これらの問題を解決するために、球に加工する前の平面基板の段階でレーザーにより方位をマーキングする方法が提案されている(特許文献3参照)。
【0007】
【特許文献1】特開2001−272381号公報
【特許文献2】米国特許第6566787号明細書
【非特許文献1】山中一司、他(Kazushi YAMANAKA,et.Al.),「ボール・エスエーダブリュー・デバイス・フォー・ハイドロジェン・ガス・センサー(Ball SAW Device for Hydrogen Gas Sensor)」,アイイーイーイー・ウルトラソニック・シンポジウム(IEEE ultrasonic symposium),(米国),2003年,p.299
【特許文献3】特開2005−150496号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献3に記載の方法では、球に加工した後に容易にマークを見出しにくいため、特定の好適な結晶方位の位置にすだれ状電極、感応膜および回折パターンなどの薄膜構造を高精度に形成することができないという課題があった。このため、個々の結晶球などの球状材料について、結晶方位を測定して球状弾性表面波素子を作製することは困難であるという課題があった。
【0009】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、異方性を示す方向を精度良く決定することができ、特定の好適な位置に薄膜構造を形成して高精度な球状弾性表面波素子を作成することができる異方性球状材料の方向測定方法、異方性球状材料の方向測定装置およぴ球状弾性表面波素子の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る異方性球状材料の方向測定方法は、異方性を有する球状材料の表面の所定の位置に、前記球状材料の大円に沿って伝搬する弾性表面波を発生させる弾性波発生工程と、前記所定の位置における前記大円に沿って周回した前記弾性表面波の所定の物理量を測定する測定工程と、前記球状材料に対し、前記球状材料の中心を通り前記大円を含む平面に垂直な軸周りに、前記所定の位置を相対的に回転移動させ、互いに異なる複数の回転角ごとに前記弾性波発生工程および前記測定工程を繰り返す繰り返し工程と、前記繰り返し工程の各回転角ごとに測定された前記物理量に基づいて、異方性を示す方向を決定する決定工程とを、有することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る異方性球状材料の方向測定方法では、球状材料の異方性により、各回転角ごとに測定された物理量が、各回転角に対して周期的に変化する。このため、その物理量の変化に基づいて、異方性を示す方向を精度良く決定することができる。決定された異方性を示す方向に基づいて、球状材料の特定の好適な位置にすだれ状電極などの薄膜構造を形成することにより、高精度な球状弾性表面波素子を作成することができる。
【0012】
測定される弾性表面波の所定の物理量は、球状材料の異方性により変化する物理量であればいかなるものであってもよく、例えば弾性表面波の振幅や信号強度、周波数から成る。決定工程では、測定された物理量の各回転角に対する周期的な変化から直接、異方性を示す方向を決定してもよく、測定された物理量の周期的な変化と理論的に計算される物理量の周期的な変化とを比較することにより、異方性を示す方向を決定してもよい。
【0013】
本発明に係る異方性球状材料の方向測定方法で、前記弾性波発生工程は、前記球状材料をすだれ状電極を有する圧電素子に接近または接触させることにより前記弾性表面波を発生させ、前記測定工程は、前記弾性波発生工程で前記球状材料に接近または接触させられた前記圧電素子により前記物理量を測定する、ことが好ましい。この場合、球状材料が圧電体から成ることにより、すだれ状電極を有する圧電素子で弾性表面波の発生や物理量の測定をすることができる。球状材料と圧電素子との距離が近いほど、発生する弾性表面波の信号強度が大きくなり、球状材料と圧電素子とを接触させることにより、弾性表面波の信号強度が最も大きく、測定の信頼性が高くなる。球状材料と圧電素子とを接触させる場合には、圧電素子の劣化を防いで測定の再現性を高めるよう、圧電素子が耐久性の素材から成ることが好ましい。
【0014】
本発明に係る異方性球状材料の方向測定方法で、前記繰り返し工程は、各回転角によらず前記球状材料と前記圧電素子との間隔または接触状態が一定になるよう、前記弾性波発生工程および前記測定工程を繰り返す、ことが好ましい。この場合、測定精度を一定に保つことができる。球状材料と圧電素子との間隔または接触状態をモニターしたり、圧電素子の電気的反射によるインピーダンス変化や、発生した弾性表面波の物理量の変化を計測したりすることにより、球状材料と圧電素子との間隔や接触状態を一定にすることができる。
【0015】
本発明に係る異方性球状材料の方向測定方法で、前記球状材料は異方性を有する結晶球から成る、ことが好ましい。この場合、結晶方位が異方性を示す方向となるため、結晶方位を精度良く決定することができる。球状材料は、例えば、水晶から成る。
【0016】
前記大円は、前記球状材料の異方性を示す一つの方向に対して垂直な平面上に設けられていてもよい。水晶のような三方晶系の結晶球を使用する場合、あらかじめ光の偏光面の旋回性を利用した方法により、結晶球のZ軸を求めることができる。このため、弾性表面波が伝搬する大円を、Z軸に対して垂直な平面上に設けることにより、結晶球のX軸およびY軸を精度良く決定することができる。
【0017】
本発明に係る異方性球状材料の方向測定装置は、保持手段と弾性表面波発生手段と弾性表面波測定手段と回転手段と表示手段とを有し、前記保持手段は異方性を有する球状材料を、前記球状材料の中心を通る軸の一方向から保持可能に設けられ、前記弾性表面波発生手段は前記保持手段に保持された前記球状材料の表面の所定の位置で、前記軸に垂直な平面上の大円に沿って伝搬する弾性表面波を発生可能に設けられ、前記弾性表面波測定手段は、前記所定の位置における前記大円に沿って周回した前記弾性表面波の所定の物理量を測定可能に設けられ、前記回転手段は前記保持手段に保持された前記球状材料に対し、その周囲で前記大円に沿って前記弾性表面波発生手段および前記弾性表面波測定手段を相対的に回転可能に設けられ、前記表示手段は前記弾性表面波制御部により測定された前記物理量を表示可能に設けられている、ことを特徴とする。
【0018】
本発明に係る異方性球状材料の方向測定装置は、本発明に係る異方性球状材料の方向測定方法を容易に実施することができる。本発明に係る異方性球状材料の方向測定装置では、回転手段により、球状材料の周囲で大円に沿って弾性表面波発生手段および弾性表面波測定手段を相対的に回転させ、互いに異なる複数の回転角ごとに弾性表面波の発生および物理量の測定を行う。このとき、球状材料の異方性により、各回転角ごとに測定された物理量が、各回転角に対して周期的に変化する。このため、その物理量の変化に基づいて、異方性を示す方向を精度良く決定することができる。決定された異方性を示す方向に基づいて、球状材料の特定の好適な位置にすだれ状電極などの薄膜構造を形成することにより、高精度な球状弾性表面波素子を作成することができる。
【0019】
水晶のような三方晶系の結晶球を使用する場合、あらかじめ求められた結晶球のZ軸の一方向から、保持手段で結晶球を保持することにより、結晶球のX軸およびY軸を精度良く決定することができる。球状材料は圧電体から成り、弾性表面波発生手段および弾性表面波測定手段は、共通のすだれ状電極を有する圧電素子から成っていてもよい。
【0020】
測定される弾性表面波の所定の物理量は、球状材料の異方性により変化する物理量であればいかなるものであってもよく、例えば弾性表面波の振幅や信号強度、周波数から成る。測定された物理量の各回転角に対する周期的な変化から直接、異方性を示す方向を決定してもよく、測定された物理量の周期的な変化と理論的に予測される物理量の周期的な変化とを比較することにより、異方性を示す方向を決定してもよい。
本発明に係る異方性球状材料の方向測定装置で、前記保持手段は真空吸引により前記球状材料を保持可能であってもよい。
【0021】
本発明に係る球状弾性表面波素子の製造方法は、本発明に係る異方性球状材料の方向測定方法で決定された前記球状材料の異方性を示す方向に基づいて、前記球状材料の所定の表面位置に薄膜構造を設ける、ことを特徴とする。本発明に係る球状弾性表面波素子の製造方法で、前記薄膜構造は、すだれ状電極、感応膜および回折パターンのうち少なくとも一つから成る、ことが好ましい。
【0022】
本発明に係る球状弾性表面波素子の製造方法は、本発明に係る異方性球状材料の方向測定方法で決定された前記球状材料の異方性を示す方向に基づいて、球状材料の所定の表面位置に薄膜構造を設けるため、高精度な球状弾性表面波素子を作成することができる。薄膜構造は、例えば、ディップやスプレーによるレジストの塗布、露光、現像、製膜、リフトオフを順次適用する方法により、球状材料の表面に設けることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、異方性を示す方向を精度良く決定することができ、特定の好適な位置に薄膜構造を形成して高精度な球状弾性表面波素子を作成することができる異方性球状材料の方向測定方法、異方性球状材料の方向測定装置およぴ球状弾性表面波素子の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至図6は、本発明の実施の形態の異方性球状材料の方向測定方法、異方性球状材料の方向測定装置およぴ球状弾性表面波素子の製造方法を示している。
【0025】
図1に示すように、異方性球状材料の方向測定装置10は、2つのマニピュレータ11a,11bと弾性表面波制御手段12と光源13と光源側偏光手段14と出力側偏光手段15と画像出力手段16と表示手段(図示せず)とを有している。なお、球状材料1は、異方性を有する水晶の圧電結晶球から成っている。
【0026】
図1に示すように、各マニピュレータ11a,11bは、アーム部21とアーム部21の先端に設けられた吸引部22とを有している。各マニピュレータ11a,11bは、球状材料1を吸引部22でゆるやかな真空吸引により保持可能になっている。アーム部21は、長さ方向に対して垂直な力がかかったとき、弾性的に曲がるようになっていてもよい。また、吸引部22は、保持した球状材料1が変位しても吸引力が変化せず、柔軟に空気バネ作用により保持できるよう、凹面のテーパー加工が施されている。吸引部22は、吸引方向に沿った中心軸を中心として回転可能になっている。なお、各マニピュレータ11a,11bは、ゆるやかな真空吸引でなくても、強い真空吸引とより弾性的に変位しやすいアーム部21との組み合わせでもよい。各マニピュレータ11a,11bは、球状材料1を柔軟に弾性的に保持するよう、凹面のテーパー加工ではなく、機械ばねを用いた弾性保持機構を有していてもよい。
【0027】
一方のマニピュレータ11aは、球状材料1の中心を通る垂直軸(図1中のZ軸)の上方から、球状材料1を保持可能に配置され、垂直軸に沿って進退可能になっている。一方のマニピュレータ11aは、垂直軸を中心として、保持した球状材料1を回転可能になっている。他方のマニピュレータ11bは、一方のマニピュレータ11aに保持された球状材料1の中心を通る水平方向の第1水平軸(図1中のX軸)の一方向から、球状材料1を保持可能に配置され、第1水平軸に沿って進退可能になっている。他方のマニピュレータ11bは、第1水平軸を中心として、保持した球状材料1を回転可能になっている。他方のマニピュレータ11bは、保持手段および回転手段を成している。
【0028】
図1に示すように、弾性表面波制御手段12は、支持ステージ23と圧電素子24とを有し、弾性表面波発生手段および弾性表面波測定手段を成している。支持ステージ23は、一方のマニピュレータ11aの下方に配置され、垂直軸に沿って移動して一方のマニピュレータ11aに保持された球状材料1との間隔を調整可能になっている。また、支持ステージ23は、一方のマニピュレータ11aの吸引部22と同軸で回転可能になっている。圧電素子24は、基板上に作成された1対のすだれ状電極25を有し、支持ステージ23の上面の回転中心に固定されている。圧電素子24は、すだれ状電極25に高周波電圧を印加可能になっている。
【0029】
弾性表面波制御手段12は、支持ステージ23を上方に移動して、他方のマニピュレータ11bに保持された球状材料1に圧電素子24のすだれ状電極25を接近または接触させることにより、球状材料1の表面に、第1水平軸に垂直な平面上の大円に沿って伝搬する弾性表面波を発生可能になっている。また、弾性表面波制御手段12は、球状材料1に接近または接触した圧電素子24のすだれ状電極25により、大円に沿って周回した弾性表面波の所定の物理量を測定可能になっている。これにより、他方のマニピュレータ11bは、吸引部22を回転させることにより、吸引部22で保持した球状材料1に対し、その周囲で第1水平軸に垂直な平面上の大円に沿って、弾性表面波制御手段12を相対的に回転可能に構成されている。
【0030】
図1に示すように、光源13は、垂直軸および第1水平軸に垂直な第2水平軸(図1中のY軸)上に、各マニピュレータ11a,11bに保持された球状材料1から所定の間隔をあけて配置されている。光源側偏光手段14は、偏光板と拡散板とから成り、光源13と各マニピュレータ11a,11bに保持された球状材料1との間に配置されている。出力側偏光手段15は、偏光板から成り、各マニピュレータ11a,11bに保持された球状材料1に対して、光源側偏光手段14の反対側に配置されている。画像出力手段16は、CCDカメラ26とそれに接続されたモニタ画面(図示せず)とを有し、出力側偏光手段15に対して、各マニピュレータ11a,11bに保持された球状材料1の反対側に配置されている。画像出力手段16は、CCDカメラ26で各マニピュレータ11a,11bに保持された球状材料1を撮影し、モニタ画面に出力するようになっている。
【0031】
表示手段は、コンピュータから成り、弾性表面波制御手段12の圧電素子24に接続されている。表示手段は、圧電素子24により測定された弾性表面波の所定の物理量を取得し、ディスプレイ画面に表示可能になっている。また、表示手段は、取得した所定の物理量のメモリへの保存や解析、プリンタへの印刷などが可能になっている。
【0032】
なお、具体的な一例では、球状材料1は、直径が10mmである。各マニピュレータ11a,11bは、垂直軸または第1水平軸に沿った移動を1μm単位、吸引部22の回転を1/250°単位でコントロール可能である。
【0033】
本発明の実施の形態の異方性球状材料の方向測定方法は、異方性球状材料の方向測定装置10により、以下のようにして実施される。
まず、光の偏光面の旋回性による同心円状マークを用いる既知の方法により、結晶球から成る球状材料1のZ軸を決定する。すなわち、各マニピュレータ11a,11bのいずれか一方の吸引部22で球状材料1を保持し、光源13からの光を光源側偏光手段14を介して球状材料1に当て、球状材料1を通過した光を出力側偏光手段15を介して画像出力手段16で観測する。このとき、画像出力手段16のモニタ画面には、干渉縞が観測される。この干渉縞の中心位置がZ軸に対応するため、吸引部22を回転させたり各マニピュレータ11a,11b間で球状材料1を受け渡したりしながら、モニタ画面の中心に干渉縞の中心を位置づける。これにより、球状材料1のZ軸が第2水平軸に一致し、Z軸を決定することができる。
【0034】
図2(a)に示すように、Z軸が第2水平軸に一致した状態の球状材料1を、一方のマニピュレータ11aにより保持する。次に、図2(b)に示すように、一方のマニピュレータ11aの吸引部22を90度回転させ、他方のマニピュレータ11bを接近させて、他方のマニピュレータ11bにより球状材料1をZ軸上の点で保持する。次に、図2(c)に示すように、一方のマニピュレータ11aを球状材料1から離し、上方に移動して後退させる。
【0035】
図2(d)に示すように、支持ステージ23を上昇させて、圧電素子24の1対のすだれ状電極25を球状材料1の表面に接触させる。これにより、球状材料1の大円に沿って周回する弾性表面波を発生させ、大円に沿って周回した弾性表面波の信号強度や周波数を測定することができる。このとき、図3に示すように、他方のマニピュレータ11bのアーム部21の弾性変形により、接触力に比例する変位が発生するため、画像出力手段16などの光学系によりこの変位を測定することで接触力を一定に保持して、弾性表面波の発生や測定を制御して最適化することができる。このため、測定精度を一定に保つことができる。また、同時に、球状材料1とすだれ状電極25との過大な応力での接触による損傷を防ぐことができるため、高精度な球状弾性表面波素子の製造を維持することができる。また、吸引部22に凹面のテーパー加工が施されているため、すだれ状電極25が接触すると接触力を低下させる方向に球を変位させる空気バネ作用が働くようにすることができる。
【0036】
次に、図2(e)に示すように、球状材料1とすだれ状電極25とを一定の間隙をもって非接触状態で相対させるよう、支持ステージ23を移動して固定する。さらに、他方のマニピュレータ11bを回転させながら、第1水平軸周りに球状材料1を回転させて、互いに異なる複数の回転角ごとに弾性表面波の発生と測定を繰り返す。このとき、球状材料1とすだれ状電極25とを非接触にすることにより、球状材料1とすだれ状電極25との摩擦を解消してなめらかに滑らせて、すだれ状電極25の損傷を防止するとともに、精密な姿勢制御が可能である。
【0037】
ここで、図4(a)および(b)に示すように、理論解析結果により、水晶について、平板上での各結晶軸と異方性との関係が知られている。すなわち、図4(b)に示すように、測定される弾性表面波の速度は、回転角γの関数として60度周期で増減することが知られている。このとき、速度が最小になるのが結晶の−Y軸の方位であり、これに90度直交する方向がX軸の方位である。結晶球上の弾性表面波については、その伝搬に従い、結晶軸に対する伝搬方向が刻一刻と変化するため、その解析は容易ではない。しかし、図4(c)に示すように、局所的な伝搬を考え、方位を一定とみなすことにより、平板上と同様の扱いが可能である。
【0038】
図5に示すように、他方のマニピュレータ11bの各回転角ごとに測定された、信号強度に比例する表面のメタライズによる相対速度変化は、回転角に対して周期的に変化する。図5に示す測定された信号強度の周期的な変化と理論的に計算される周期的な変化とを比較することにより、異方性を示す方向を精度良く決定することができる。すなわち、図5に示す弾性表面波の信号強度が最小になる方位角γを測定することにより、−Y軸方位を決定することができる。また−Y軸に90度直交する方向として、X軸方位を決定することができる。
【0039】
また、図6に示すように、波長が一定の条件で送受信を行うために、他方のマニピュレータ11bの各回転角ごとに測定された周波数は、回転角に対して周期的に変化する。図6に示す測定された周波数の周期的な変化と、図4(b)に示す理論的に計算される周期的な変化とを比較することにより、異方性を示す方向を精度良く決定することができる。すなわち、図6に示す弾性表面波の周波数が最低になる方位角γを測定することにより、−Y軸方位を決定することができる。また−Y軸に90度直交する方向として、X軸方位を決定することができる。
【0040】
こうして決定された異方性を示す結晶方位に基づいて、球状材料1の特定の好適な位置にすだれ状電極、感応膜または回折パターンなどの薄膜構造を形成することにより、高精度な球状弾性表面波素子を作成することができる。
【0041】
このように、本発明の実施の形態の異方性球状材料の方向測定方法、異方性球状材料の方向測定装置10およぴ球状弾性表面波素子の製造方法によれば、厳密な結晶方位に応じて送受信感度が変化する結晶球を用いた球状弾性表面波素子の最適化ができる。例えば、球状弾性表面波素子の周回特性、分岐型球状弾性表面波素子の回折効率および、球状弾性表面波素子のセンサ感度を最適化することができる。また、感応膜を形成する下地の結晶方位が感応膜の特性に影響を与える場合、感応膜の形成する方位を制御することにより、感度や応答速度の向上が期待できる。この結果、従来の球状弾性表面波素子では不可能だった、遅延線、発振素子及び共振素子、周波数を選択するフィルター、化学センサ、バイオセンサ、またはリモートタグ等の性能の飛躍的向上を期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施の形態の異方性球状材料の方向測定装置を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態の異方性球状材料の方向測定方法の手順を示す(上段)側面図、(下段)弾性表面波制御手段の平面図である。
【図3】図1に示す異方性球状材料の方向測定装置の(a)球状材料を弾性表面波制御手段に接近させた状態を示す側面図、(b)球状材料を弾性表面波制御手段に接触させた状態を示す側面図である。
【図4】弾性表面波の音速異方性の理論を示す(a)水晶の平板上の各結晶軸と回転角γとの関係を示す斜視図、(b)水晶の平板での回転角γの関数としての速度変化を示すグラフ、(c)水晶の結晶球上の各結晶軸と回転角γとの関係を示す斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態の異方性球状材料の方向測定方法および異方性球状材料の方向測定装置により測定される、マニピュレータの回転角γの関数としての、信号強度を表わす表面のメタライズによる表面波の相対速度の変化ΔV/V(×10-3)を示すグラフである。
【図6】本発明の実施の形態の異方性球状材料の方向測定方法および異方性球状材料の方向測定装置により測定される、マニピュレータの回転角γの関数としての信号周波数fの変化を速度V(=λf)の変化に換算したグラフである。
【符号の説明】
【0043】
1 球状材料
10 異方性球状材料の方向測定装置
11a,11b マニピュレータ
12 弾性表面波制御手段
13 光源
14 光源側偏光手段
15 出力側偏光手段
16 画像出力手段
21 アーム部
22 吸引部
23 支持ステージ
24 圧電素子
25 すだれ状電極
26 CCDカメラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異方性を有する球状材料の表面の所定の位置に、前記球状材料の大円に沿って伝搬する弾性表面波を発生させる弾性波発生工程と、
前記所定の位置における前記大円に沿って周回した前記弾性表面波の所定の物理量を測定する測定工程と、
前記球状材料に対し、前記球状材料の中心を通り前記大円を含む平面に垂直な軸周りに、前記所定の位置を相対的に回転移動させ、互いに異なる複数の回転角ごとに前記弾性波発生工程および前記測定工程を繰り返す繰り返し工程と、
前記繰り返し工程の各回転角ごとに測定された前記物理量に基づいて、異方性を示す方向を決定する決定工程とを、
有することを特徴とする異方性球状材料の方向測定方法。
【請求項2】
前記弾性波発生工程は、前記球状材料をすだれ状電極を有する圧電素子に接近または接触させることにより前記弾性表面波を発生させ、
前記測定工程は、前記弾性波発生工程で前記球状材料に接近または接触させられた前記圧電素子により前記物理量を測定する、
ことを特徴とする請求項1記載の異方性球状材料の方向測定方法。
【請求項3】
前記繰り返し工程は、各回転角によらず前記球状材料と前記圧電素子との間隔または接触状態が一定になるよう、前記弾性波発生工程および前記測定工程を繰り返す、
ことを特徴とする請求項2記載の異方性球状材料の方向測定方法。
【請求項4】
前記球状材料は異方性を有する結晶球から成る、ことを特徴とする請求項1,2または3記載の異方性球状材料の方向測定方法。
【請求項5】
前記大円は、前記球状材料の異方性を示す一つの方向に対して垂直な平面上に設けられている、ことを特徴とする請求項1,2,3または4記載の異方性球状材料の方向測定方法。
【請求項6】
保持手段と弾性表面波発生手段と弾性表面波測定手段と回転手段と表示手段とを有し、
前記保持手段は異方性を有する球状材料を、前記球状材料の中心を通る軸の一方向から保持可能に設けられ、
前記弾性表面波発生手段は前記保持手段に保持された前記球状材料の表面の所定の位置で、前記軸に垂直な平面上の大円に沿って伝搬する弾性表面波を発生可能に設けられ、
前記弾性表面波測定手段は、前記所定の位置における前記大円に沿って周回した前記弾性表面波の所定の物理量を測定可能に設けられ、
前記回転手段は前記保持手段に保持された前記球状材料に対し、その周囲で前記大円に沿って前記弾性表面波発生手段および前記弾性表面波測定手段を相対的に回転可能に設けられ、
前記表示手段は前記弾性表面波制御部により測定された前記物理量を表示可能に設けられている、
ことを特徴とする異方性球状材料の方向測定装置。
【請求項7】
前記保持手段は真空吸引により前記球状材料を保持可能である、ことを特徴とする請求項6記載の異方性球状材料の方向測定装置。
【請求項8】
請求項1乃至5記載の異方性球状材料の方向測定方法で決定された前記球状材料の異方性を示す方向に基づいて、前記球状材料の所定の表面位置に薄膜構造を設ける、ことを特徴とする球状弾性表面波素子の製造方法。
【請求項9】
前記薄膜構造は、すだれ状電極、感応膜および回折パターンのうち少なくとも一つから成る、ことを特徴とする球状弾性表面波素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−315778(P2007−315778A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−142637(P2006−142637)
【出願日】平成18年5月23日(2006.5.23)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【出願人】(000006666)株式会社山武 (1,808)
【Fターム(参考)】