説明

発光ダイオード及びその製造方法

【課題】放熱効率の高い発光ダイオードを低コストで製造する。
【解決手段】半導体層20等がチップ間で分離された状態で金属板70のウェットエッチングを行う(金属板切断工程)。このエッチングに際しては、放熱板30の材料に応じたエッチング液を用いることができる。また、このウェットエッチングの際にフォトレジスト層50が残存するような設定とされる。これにより、ダイシングシート100上で放熱板30も発光ダイオードチップ毎に分離され、図4(j)の形態が得られる。分離後にフォトレジスト層50を剥離液で除去することにより、最終的に図4(k)のように、分離された個々の発光ダイオード10が得られる。この製造方法において、最終的なチップの分離は、図4(j)に示されるウェットエッチングにより行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体層を発光させて動作する発光ダイオードの構造及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化合物半導体が用いられた発光ダイオードは各種の用途に用いられる。特に、GaN等の窒化物半導体が用いられた発光ダイオードは、青色ダイオードや、蛍光材料と組み合わせて白色ダイオードとして照明等の用途にも広く用いられる。
【0003】
GaN等の窒化物半導体からなる発光ダイオードの構造としては、基板上にGaNのn型層、発光層、GaNのp型層が順次エピタキシャル成長で形成された構成が一般的である。発光層としては、pn接合における発光をより効率的にこの層で行わせるために、超格子層、他の窒化物半導体を含む層が用いられる。この際、n型層、p型層に電極が接続され、これらの電極間にpn接合の順方向の通電がされることによってこの発光ダイオードは発光する。良質のGaN層がエピタキシャル成長によって得られる基板としては、サファイアが最も一般的に使用されている。サファイアは機械的強度も充分であるため、発光ダイオードの支持基板としても好適に用いられる。
【0004】
こうした発光ダイオードの構造の代表例の断面図を図7に示す。図7は、サファイア基板91上にGaNのn型層92、発光層93、p型層94を成長させた後に、サファイア基板91をそのまま残した場合の発光ダイオード90の1チップの構成である。この場合には、p型層94、発光層93が部分的に除去されてn型層92が露出した箇所にn電極95が形成される。また、p型層94の表面の広い領域には透明電極96が形成され、更に透明電極96の上の一部分にp電極97が形成される。透明電極96はこの発光ダイオード90が発する光に対して透明であるが電気抵抗が高い。これに対して、n電極95、p電極97はこの光に対して不透明であるが、電気抵抗が低い。また、サファイア基板91は絶縁性であるため、図中の右側においてp型層94、発光層93が除去され、n型層92が露出した領域が形成され、この領域にn電極95が形成されている。このn型層92が露出した領域は発光に寄与しない。また、透明電極96の電気抵抗が高いために別途p電極97は必要であるが、p電極97は不透明であるために、これによる遮光の影響が無視できる程度にp電極97の面積は小さくされる。
【0005】
また、実際に図7の構造の発光ダイオードを得る際には、個々の発光ダイオードチップが多数形成された構成のウェハを製造し、これを切断することによって個々の発光ダイオードチップを得るのが一般的である。ここで、単体の発光ダイオードチップの大きさは例えば1mm角程度であるのに対して、ウェハの直径は2インチ径程度と大きい。このため、1枚のウェハから多数個の発光ダイオードチップを得ることができ、個々の発光ダイオードチップを低コストで得ることができる。この際、図8(a)に示されるように、単一のサファイア基板91の上で図7におけるn型層92よりも上側の構造が多数形成される。隣接するチップ間の分離は、n型層92等をドライエッチングすることによってなされるが、ここではサファイア基板91は分断されていない。その後、図8(b)に示されるように、サファイア基板91の裏面側に高分子材料からなるダイシングシート100を貼り付けた後に、図8(c)に示されるように、隣接するチップ間のサファイア基板91に分離溝60を形成する。分離溝60は、例えばレーザー光の照射によって形成され、サファイア基板91の裏面にまで達しない深さとすることにより、ダイシングシート100の形態には影響を与えないようにすることができる。その後、図8(d)に示されるようにサファイア基板91とダイシングシート100とを分離すれば、分離溝60の底部で薄くされた部分でサファイア基板11は分断(ダイシング)されるため、図7の形態の発光ダイオードチップが分離されて得られる。
【0006】
ここで、図8(c)における分離溝60を形成するためには、レーザー光を用いる方法の他に、ブレードを用いた機械的切断も用いることができる。ただし、ブレードを用いる場合には、隣接するチップ間の間隔(分離溝60の幅)をこのブレードの厚さ(例えば100μm)よりも小さくすることができない。このため、この間隔を小さくして1枚のサファイア基板91上から多数の発光ダイオードチップを得るという観点からは、充分に小さなスポットとされたレーザー光を走査して分離溝60を形成することが特に好ましい。
【0007】
こうした構造、製造方法を用いて発光ダイオードを低コストで製造することができる。
【0008】
一方、発光ダイオードを発光させる際には、大電流が流されるため、発熱が生ずる。このため、その放熱効率が高い構成が望まれる。この観点においては、サファイア基板91の熱伝導率は40W/m/K程度と高くないため、より熱伝導率の高い他の材料の基板を用いることが好ましい。熱伝導率が高い材料として周知なものとして、例えば熱伝導率が390W/m/K程度である銅がある。しかしながら、GaNの熱膨張係数は5.6ppm/K、サファイアの熱膨張係数は6.8ppm/Kであり、これらの間に大差がないのに対して、銅の熱膨張係数は16ppm/K程度であり、GaNと大きく異なる。このため、銅を用いた場合には、製造の際において熱膨張の差に起因したウェハの反りや、半導体層における歪み等が発生する。更に、金属材料の一般的な傾向として、熱膨張係数が小さくGaNに近いものの熱伝導率は小さい。
【0009】
これに対して、銅と同等の高い熱伝導率をもち、GaNに近い小さな熱膨張係数をもつクラッド材(金属の積層構造板)が特許文献1で開示されている。このクラッド材においては、銅(Cu)層とモリブデン(Mo)層とが特定の構成で積層されることにより、この特性が実現されている。このため、GaNが用いられた発光ダイオードの支持基板(放熱板)としてこのクラッド材が使用されれば、良好な放熱特性をもつ発光ダイオードが得られる。ただし、サファイア基板と異なり、このクラッド材上に直接GaNからなる半導体層を形成することは極めて困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許3862737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
半導体層をサファイア基板上に形成した後に、特許文献1に記載のクラッド材を接合し、その後でサファイア基板を除去するという工程を用いることによって、このクラッド材が接合された放熱効率の高い発光ダイオードを得ることができる。しかしながら、こうしたクラッド材に限らず、サファイア基板の代わりに金属板が支持基板として用いられた場合には、図8に示されたチップ間の分離を行うことが困難である。
【0012】
まず、特許文献1に記載のクラッド材等の金属板をサファイア基板91の代わりに用いて図8(c)の工程を行った場合、金属板の熱伝導率が高いために、レーザー光の照射によって金属板の上側のn型GaN層92、発光層93等まで高温となる。このため、半導体層中に結晶欠陥が発生し、発光特性に劣化を生ずることがある。また、金属板の下側のダイシングシート100も同様に高温となるため、高分子材料からなるダイシングシート100は変形(収縮等)し、切断加工の精度が劣化する。
【0013】
また、レーザー光を用いる場合には、レーザー光は小さなスポット状とされるため、分離溝60を形成するためには、レーザー光が走査される。この場合、特に1枚のウェハ当たりの発光ダイオードのチップ数が多い場合には長時間を要する。この点においては、前記のブレードを用いた切断を行う場合にはこの時間は短くなるが、この場合には、前記の通りチップ間の間隔を狭くすることが困難であるため、1枚のウェハから得られるチップ数が少なくなる。
【0014】
従って、放熱効率の高い発光ダイオードを低コストで製造することは困難であった。
【0015】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、上記の問題点を解決する積層シート、その製造方法、加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の発光ダイオードの製造方法は、発光機能をもった半導体層が金属製の放熱板と接合された構成を具備する複数の発光ダイオードを、前記半導体層が形成された1枚のウェハと前記放熱板となる金属板とを接合する接合工程と、隣接する前記発光ダイオード間における前記半導体層をエッチングする半導体層エッチング工程と、隣接する前記発光ダイオード間における前記金属板を切断する金属板切断工程と、を行うことによって前記発光ダイオードを分離して得る、発光ダイオードの製造方法であって、前記金属板切断工程における前記金属板の切断を、ウェットエッチングにより行うことを特徴とすることを特徴とする。
本発明の発光ダイオードの製造方法は、前記接合工程において、金属からなり前記半導体層の表面に形成された半導体層側接合層と、前記金属板とをはんだ層で接合することにより、前記ウェハと前記金属板とを接合することを特徴とする。
本発明の発光ダイオードの製造方法は、前記半導体層エッチング工程において、前記隣接する発光ダイオードを分離する箇所における前記半導体層、前記半導体層側接合層、及び前記はんだ層をドライエッチングで除去することを特徴とする。
本発明の発光ダイオードの製造方法において、前記ウェハは、基板上に前記半導体層がエピタキシャル成長によって形成された構成を具備し、前記接合工程において、前記半導体層における前記基板と反対側の面が前記金属板と接合され、前記接合工程の後に、前記基板を前記半導体層から剥離する剥離工程を具備することを特徴とする。
本発明の発光ダイオードの製造方法において、前記半導体層は窒化物半導体で構成され、前記基板はサファイアで構成されることを特徴とする。
本発明の発光ダイオードの製造方法において、前記金属板は、銅を主成分とする層と、モリブデンを主成分とする層又はタングステンを主成分とする層とが積層されて構成されることを特徴とする。
本発明の発光ダイオードの製造方法は、前記銅を主成分とする層と、前記モリブデンを主成分とする層又はタングステンを主成分とする層とを積層し、印加圧力5MPa 以上15MPa以下で、850℃以上1000℃以下の温度で熱間一軸加工法によって接合して、前記金属板を製造することを特徴とする。
本発明の発光ダイオードは、前記発光ダイオードの製造方法によって製造されたことを特徴とする。
本発明の発光ダイオードは、一方の主面側に窒化物半導体のn型層が、他方の主面側に窒化物半導体のp型層が設けられた構成を具備する半導体層における前記他方の主面側に、金属製の放熱板がはんだ層を介して接合された構成を具備することを特徴とする。
本発明の発光ダイオードは、前記放熱板の前記半導体層と接合される側の面の算術平均粗さRaが1μm以下であることを特徴とする。
本発明の発光ダイオードは、前記一方の主面において金を含むn側電極が形成されたことを特徴とする。
本発明の発光ダイオードにおいて、前記放熱板は、銅を主成分とする層と、モリブデンを主成分とする層又はタングステンを主成分とする層とが積層されて構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明は以上のように構成されているので、放熱効率の高い発光ダイオードを低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態に係る発光ダイオードの構造を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る発光ダイオードの製造方法を示す工程断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る発光ダイオードの製造方法を示す工程断面図(続き)である。
【図4】本発明の実施の形態に係る発光ダイオードの製造方法を示す工程断面図(続き)である。
【図5】本発明の実施の形態に係る発光ダイオードにおいて用いられる放熱板の一例の断面図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る発光ダイオードの変形例の構造を示す断面図である。
【図7】従来の発光ダイオードの一例の構造を示す断面図である。
【図8】従来の発光ダイオードの製造方法の一例の工程断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態に係る発光ダイオード、及びその製造方法について説明する。この発光ダイオードには熱伝導率の高い放熱板が接合されている。この製造方法においては、単一の大きな金属板に単一の大きな半導体層が接合され、この構造が後で切断分離されることによって複数の発光ダイオードが得られる。
【0020】
図1は、この発光ダイオード(チップ)の構成を示す断面図である。この発光ダイオード(チップ)10においては、エピタキシャル成長で形成されたn型GaN層(n型層)21、発光層22、p型GaN層(p型層)23からなる半導体層20が用いられている。この半導体層20は発光機能をもつ。ただし、これらの上下関係は図7とは逆向きであり、図1においては、n型層21が上側(一方の主面側)、p型層23が下側(他方の主面側)となっている。p型層23の下面(発光層22がある側の反対側の面)には、p型層23との間の密着性が高くかつはんだ付けが可能である半導体層側接合層25が形成されている。また、半導体層側接合層25は、p型層23との間でオーミック接触がとれる材料で構成される。また、半導体層20が図1中の下側に発した光は、この半導体層側接合層25で反射され、上側に発せられる。n型層21上には、部分的にn電極26が形成されている。n電極26は、n型層21とオーミック接触がとれる材料として例えば金を含む金属材料で構成される。
【0021】
また、この半導体層20の支持基板としては、高い熱伝導率をもった金属で構成された放熱板30が接合されている。放熱板30の上面には、放熱板30との間の密着性が高くかつはんだ付けが可能である放熱板側接合層31が形成されている。放熱板30の構成は後述するが、例えば特許文献1に記載されたクラッド材を放熱板30として用いることができる。
【0022】
図1に示されるように、上記の構成においては、半導体層20側と放熱板30側が、半導体層側接合層25と放熱板側接合層31の間のはんだ層40によって接合されている。この構成においては、放熱板30とn電極26との間で、半導体層20中のpn接合を順方向とする電流を流すことによって、半導体層20(主に発光層22)を発光させることができる。この際の発熱は、高い熱伝導率を持った放熱板30によってなされる。すなわち、この発光ダイオード10は高い放熱効率をもつ。
【0023】
図2(a)〜(e)、図3(f)〜(i)、図4(j)〜(k)は、この発光ダイオード10の製造方法を示す工程断面図である。ここでは、1枚の大きなサファイア基板、金属板を用いて多数の発光ダイオードが製造され、最後に金属板がチップ間の分離溝に対応する箇所で分断されて図1の形態の発光ダイオード10が得られる。
【0024】
まず、図2(a)に示されるように、サファイア基板(基板)11上に、n型層21、発光層22、p型層23が順次エピタキシャル成長される(成長工程)。発光層22も、窒化物半導体のヘテロ接合が用いられた層である。これらを形成する方法や構成は周知のものを用いることができる。n型層21、発光層22、p型層23からなる半導体層20の結晶性を高め、良好な発光特性を得るために、サファイア基板11とn型層21との間に緩衝層を挿入することもできる。サファイア基板11の特性(面方位)等は、良質のn型層21、発光層22、p型層23が得られるように適宜設定される。また、サファイア基板11は、例えば直径2インチ程度のウェハ状である。サファイア基板11の厚さは300μm以上であり、かつその機械的強度は高い。一方、n型層21、発光層22、p型層23からなる半導体層20の厚さは例えば20μm以下と薄い。このため、図2(a)の構造は、サファイア基板11が機械的な支持基板となったウェハである。
【0025】
一方、図2(b)に示されるように、金属板70を準備する。金属板70は金属材料で構成され、製造される発光ダイオード10における前記の放熱板30となる。金属板70は、この段階ではサファイア基板11と同様のウェハ形状をもつ。その厚さは例えば( )mm程度であり、サファイア基板11と同様に半導体層20の支持基板となりうる程度の機械的強度をもつ。金属板70の具体的構成(特にその膜厚方向における構成)については後述する。金属板70における一方の主面に、放熱板側接合層31が形成される(放熱板側接合層形成工程)。放熱板側接合層31は、例えば金属板70の最表面が銅である場合には、例えばAu/Ni(金属板70の直上にニッケル(Ni)、その上に金(Au)を積層した構造)のように、金属板70との間の密着性が良好でかつその上にはんだ付けが可能である構成が用いられる。放熱板側接合層31は、めっきや蒸着等によって形成される。
【0026】
なお、金属板70の放熱板側接合層31が形成される側の表面の面粗さは、その算術平均粗さとして1μm以下とすることが好ましい。これにより、接合強度を高めることができ、かつ半導体層20側から金属板70(放熱板30)側への熱伝導を向上させることができる。こうした面粗さの調整は、研磨処理によって適宜行われる。
【0027】
また、図2(c)に示されるように、図2(a)に示された半導体層20側の構成におけるp型層23上においても、半導体層側接合層25が形成される(半導体層側接合層形成工程)。半導体層側接合層25としては、p型層23と密着性が高くオーミック接合が可能であり、かつこの上にはんだ付けが可能であるAu/Pt/Ti/Ag層等が用いられる。その形成方法は放熱板側接合層31と同様である。
【0028】
その後、図2(d)に示されるように、図2(b)の構造(金属板70側)と図2(c)の構造(半導体層20側)とをはんだ層40で接合する(接合工程)。この際、はんだ層40の材料としては例えば金−錫や金−ゲルマニウム等の合金を用いることができ、この場合には例えば300℃程度の温度で接合を行うことができる。
【0029】
この状態で、図2(e)に示されるように、サファイア基板11とn型層21とを分離することにより、サファイア基板11を剥離する(剥離工程)。この工程は、例えばレーザーリフトオフ法として周知の方法によって行われる。レーザーリフトオフ法においては、サファイア基板11側(図2(d)における下側)からレーザー光が照射される。レーザー光の波長をGaNの禁制帯幅に対応する波長よりも短く、かつサファイアの禁制帯幅に対応する波長よりも長くすれば、このレーザー光はサファイア基板11を透過し、サファイア基板11近辺のn型層21で吸収され、熱に変換される。この熱によってGaNが局所的に分解し、サファイア基板11とn型層21とが分離する。以降は、金属板70が半導体層20の支持基板となる。なお、分離されたサファイア基板11は研磨を施すことにより、再使用が可能である。この工程以降では、半導体層20等の支持基板は、サファイア基板11に代わり、金属板70となる。
【0030】
次に、図3(f)に示されるように、露出したn型層21の上にn電極26を形成する。なお、図3(f)以降においては便宜上図2(e)までの場合と上下を反転させている。n電極26は、n型層21とオーミック接触をすることのできる材料(例えば金を含む金属層)で形成される。n電極26はこの発光ダイオード10が発する光に対して不透明であるため、その面積は、n電極26による遮光の影響が小さくなる程度に小さくする。n電極26を形成するためには、上記の材料を露出したn型層21の表面全面に蒸着等によって成膜した後に、フォトレジストをマスクとしたドライエッチングを行う。あるいは、n電極26が形成されない箇所にフォトレジストマスクを形成してから同様に上記の材料を成膜した後に、フォトレジストマスクを除去する。なお、図3(f)は断面構造のみを示しているが、n型層21上のn電極26のパターンは、これによる遮光の影響が小さく、かつ全面において有効に発光を行わせることができる限りにおいて任意である。
【0031】
次に、図3(g)に示されるように、フォトレジスト層(マスク)50が、各発光ダイオードチップに対応した領域を覆うように形成される(マスク形成工程)。図8におけるチップ間の分離溝60に対応した領域においてはフォトレジスト層50は形成されない。図3(g)は断面を示しているが、フォトレジスト層50の平面形状は、各発光ダイオードチップの平面形状に対応している。
【0032】
この状態で、フォトレジスト層50をマスクとしたドライエッチングを行い、図8における分離溝60に対応した領域における半導体層20(p型層23、発光層22、n型層21)を除去する(半導体層エッチング工程)。ここで除去するのは主に窒化物半導体からなる半導体層20であり、例えば塩素系のガスを用いてこのドライエッチングを行うことができる。また、半導体層側接合層25、はんだ層40、放熱板側接合層31は半導体層20に比べて薄いため、これらも同時にエッチングされる。金属板70は半導体層20と比べて厚いため、上記のガスによってエッチングされる量(深さ)は少なくともその全体の厚さに比べて無視できる。このため、このドライエッチングの後の形状は、図3(h)に模式的に示される通りとなる。すなわち、支持基板となる金属板70上で、各発光ダイオードチップに対応した半導体層20が分離された形態となる。なお、このドライエッチング後においてもフォトレジスト層50が充分残存するように、フォトレジスト層50の厚さは適宜設定される。
【0033】
次に、この状態で、図3(i)に示されるように、金属板70側にダイシングシート100を貼り付ける。
【0034】
その後、半導体層20等がチップ間で分離された状態で金属板70のウェットエッチングを行う(金属板切断工程)。このエッチングに際しては、金属板70の材料に応じたエッチング液を用いることができる。また、このウェットエッチングの際にフォトレジスト層50が残存するような設定とされる。これにより、ダイシングシート100上で金属板70も発光ダイオードチップ毎に分離され、図4(j)の形態が得られる。分離後にフォトレジスト層50を剥離液で除去することにより、最終的に図4(k)のように、分離された個々の発光ダイオード10が得られる。
【0035】
この製造方法において、最終的なチップの分離は、図4(j)に示されるウェットエッチングにより行われる。この工程は、図3(i)に示された構造のウェハを前記のエッチング液に浸漬することにより行われる。このため、チップ間の分離をウェハ全面におい同時にて行うことができる。このため、全てのチップ間の分離を行うのに要する時間を、レーザー光を用いて分離溝を形成する場合と比べて短くすることができる。この際、エッチングされる箇所(分離溝に対応)の位置はフォトレジスト層50で定まり、この精度はリソグラフィの精度となるため、充分に高い。また、各発光ダイオード10はドライエッチング(図3(h):半導体層エッチング工程)、ウェットエッチング(図4(j):金属板切断工程)の際にはフォトレジスト層50で保護される。このため、上記の製造工程において特性が劣化しない良好な特性の発光ダイオード10を得ることができる。また、サファイア基板11よりも熱伝導率の高い金属板70(放熱板30)を用いることができるため、この発光ダイオード10の放熱効率は高くなる。更に、単一の大きなサファイア基板11、金属板70を用いて多数個の発光ダイオード10を、簡易な金属板切断工程を用いて製造することができるため、低コストでこの発光ダイオード10を製造することができる。
【0036】
なお、上記の製造方法においては、サファイア基板11上にエピタキシャル成長させた半導体層20を用いた場合につき記載したが、他の構成の半導体層を用いた場合でも同様に発光ダイオードを製造できることは明らかである。例えば、半導体層が化合物半導体ウェハ中に形成され、このウェハを直接取り扱うことができる場合においては、上記の剥離工程は不要となる。
【0037】
また、はんだ層を用いた接合以外の方法で半導体層と放熱板とを接合した場合においても、同様に上記の半導体層エッチング工程、金属板切断工程を行うことができることは明らかである。また、この接合が可能な限りにおいて、半導体層側接合層、放熱板側接合層は不要である。これに対応して、半導体層エッチング工程において半導体層以外にエッチングされる層も変わる。
【0038】
次に、金属板70(放熱板30)の具体的構成について説明する。放熱板30としては、熱伝導率が高く半導体層20からの放熱を効率的に行うことのできる材料が用いられる。こうした材料としては、銅や銅合金を主成分とするものが特に好ましく用いられる。ただし、例えば半導体層20がGaNで構成される場合、その熱膨張係数は5.6ppm/Kであるのに対して、銅の熱膨張係数は、16ppm/K程度と大きく異なる。この場合には、接合工程後において、反りが発生し、これよりも後の工程において障害となる場合がある。
【0039】
このため、放熱板30としては、銅を主成分とする層と、モリブデン(熱膨張係数が5ppm/K程度)やタングステン(熱膨張係数が4ppm/K程度)を主成分とする層とが交互に積層されたクラッド材が好ましく用いられる。こうしたクラッド材においては、熱伝導率や熱膨張係数は一般にはそれぞれの層の比率に応じたものとなり、この比率の設定(積層構造の構成)によって調整が可能である。例えば、積層構造の構成を調整することによって、放熱板30の熱膨張係数を半導体層20と等しくすることも可能である。モリブデンやタングステンの熱伝導率は銅よりも低い(銅:390W/m/K、モリブデン:142W/m/K、タングステン:167W/m/K)ため、高い熱伝導率と小さな熱膨張係数は、一般的にはトレードオフの関係となる。しかしながら、これらのいずれの熱伝導率も、サファイア基板の熱伝導率(40W/m/K)よりも高い。また、はんだの熱伝導率はその組成により異なるが、一般的には数十W/m/K程度である。このため、はんだ層40を薄くすれば、放熱板30におけるモリブデンやタングステンの比率が高い場合でも、サファイア基板11がそのまま半導体層20と接合された状態と比べて、高い放熱効率を得ることができる。
【0040】
更に、特許文献1には、高い熱伝導率と小さな熱膨張係数を両立させたクラッド材が記載されている。図5は、このクラッド材を用いた放熱板30の一例の断面構造を示す図である。この放熱板30は、共に平板状の銅(Cu)層301とモリブデン(Mo)層302とが交互に積層されたクラッド材であり、その詳細は特許文献1に記載されている。このクラッド材においては、Cu層301とMo層302とが合計で5層以上積層されている。ただし、Mo層302の占める体積比率(図5における合計膜厚の比率)は2.78%〜10%とCu層301と比べて小さく、かつMo層302の単層の厚さを200μm以下としている。特許文献1に記載されるように、この構成においては、上記の範囲内において、Cu層301とMo層302の膜厚と積層構成を調整することによって、膜厚方向の熱伝導率と膜厚方向と垂直な方向の熱膨張係数を調整することができる。この際、膜厚方向の熱伝導率をCu層301に近く、例えば200W/m/K以上とすることができる。また、積層条件を上記の通りとした場合、上記の通りMo層302の体積比はCu層301よりも小さいながらも、熱膨張係数をMo(5ppm/K)に近づけることができる。このMoの熱膨張係数は、GaNの熱膨張係数(5.6ppm/K)と近い。
【0041】
すなわち、図5に示された構成のクラッド材は、銅に近い高い熱伝導率をもち、かつGaNに近い小さな熱膨張係数をもつ。このため、上記の発光ダイオード10における放熱板30として特に好適である。なお、Mo層302の代わりにタングステン(W)層を用いても同様である。また、Cu層301、Mo層302、W層は、それぞれCu、Mo、Wを100%組成とする層である必要はなく、これらを主成分とする層であればよい。
【0042】
また、図5に記載のクラッド材においては、最外層(最上層、最下層)が共にCu層301となっている。高い熱伝導率をもち、かつ熱膨張係数をGaNに近づけるという観点からは、最外層となるのはCu層301、Mo層302のいずれでもよい。ただし、前記の通り、最外層には放熱板側接合層301が形成される。一般に、Cu上にめっき等によって密着性の高い金属層を形成することは特に容易であるため、最外層をCu層301とする構成は、特に容易に製造することができる。
【0043】
こうしたクラッド材は、例えば、Cu層301、Mo層302を図5の順番で積層し、ホットプレス機等を用いて一軸加圧してこれらを接合することによって製造することができる。この場合、印加圧力を、5MPa以上15MPa以下の範囲とし、850℃以上1000℃以下の温度でこの接合を行うことによって、剥離が発生しにくいクラッド材を得ることができる。この際、銅は酸化しやすい材料であるため、その雰囲気は、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、ヘリウム雰囲気、あるいは真空中でこの接合を行うことが好ましい。また、この際に、積層前の各層表面に薄いめっき層を形成しておくことにより、接合をより強固とすることもできる。
【0044】
この構成のクラッド材を放熱板30として用いた場合、図4(j)に示されたウェットエッチングにおいては、例えばCu層301に対しては塩化第II鉄水溶液、Mo層302に対しては硝酸及び燐酸を含むエッチング液を用いることができる。この場合、これらの液の組成(濃度)は、フォトレジスト層50がエッチング中に消失しない限りにおいて、適宜設定が可能である。また、これらのエッチング液は、積層構成に対応して交互に用いてもよいが、混合して使用することも可能である。また、これらのエッチング液によるGaN(半導体層20)のエッチング速度は低いため、図4(j)に示されたウェットエッチング(金属板切断工程)において、半導体層20に悪影響を与えずにチップ間の分離を行うことができる。
【0045】
すなわち、放熱効率が高い金属板が放熱板30として用いられた図1の構成の発光ダイオード10を、上記の製造方法によって容易に製造することができる。
【0046】
なお、半導体層20におけるサファイア基板11と反対側に金属板70を接合することのできる限りにおいて、発光ダイオードの形態は任意である。図6は、半導体層20を右端部で除去し、放熱板側接合層31を部分的に露出させた構成をもつ発光ダイオードの構成の断面図である。この場合においては、図中の上面側から、2本のボンディングワイヤ70をそれぞれn電極26、露出した放熱板側接合層31に接続することにより、n側、p側との間の電気的接続をとることができる。
【0047】
この構成の発光ダイオードは、図3(h)のドライエッチングを、半導体層20等のエッチングと、放熱板側接合層31のエッチングの2回に分けて行えば、同様にして製造することができる。
【0048】
このように、上記の製造方法によって、高い熱伝導率をもった金属板が半導体層に接合された構成をもつ発光ダイオードを容易に製造することができる。
【0049】
なお、上記の例では、半導体層が主にGaNからなるものとしたが、発光ダイオードとして用いられ、かつヘテロエピタキシャル成長によって基板上に成長させることができる他の窒化物半導体からなる半導体層を用いた場合でも同様である。また、サファイア以外の成長基板を用いた場合においても、成長基板よりも熱伝導率の高い金属板を発光ダイオードに接合させる場合においては、上記の構造、製造方法が有効であることは明らかである。
【0050】
更に、窒化物半導体以外の半導体からなる半導体層が用いられる場合、例えば、GaAsに代表されるIII−V族化合物半導体が用いられる場合においても、半導体層からの放熱を高効率で行うことが必要となる発光ダイオードであれば、同様であることは明らかである。
【符号の説明】
【0051】
10、90 発光ダイオード(チップ)
11、91 サファイア基板(基板)
20 半導体層
21、92 n型GaN層(n型層)
22、93 発光層
23、94 p型GaN層(p型層)
25 半導体層側接合層
26、95 n電極
30 放熱板
31 放熱板側接合層
40 はんだ層
50 フォトレジスト層(マスク)
60 分離溝
70 金属板
96 透明電極
97 p電極
100 ダイシングシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光機能をもった半導体層が金属製の放熱板と接合された構成を具備する複数の発光ダイオードを、前記半導体層が形成された1枚のウェハと前記放熱板となる金属板とを接合する接合工程と、隣接する前記発光ダイオード間における前記半導体層をエッチングする半導体層エッチング工程と、隣接する前記発光ダイオード間における前記金属板を切断する金属板切断工程と、を行うことによって前記発光ダイオードを分離して得る、発光ダイオードの製造方法であって、
前記金属板切断工程における前記金属板の切断を、ウェットエッチングにより行うことを特徴とする発光ダイオードの製造方法。
【請求項2】
前記接合工程において、
金属からなり前記半導体層の表面に形成された半導体層側接合層と、前記金属板とをはんだ層で接合することにより、前記ウェハと前記金属板とを接合することを特徴とする請求項1に記載の発光ダイオードの製造方法。
【請求項3】
前記半導体層エッチング工程において、前記隣接する発光ダイオードを分離する箇所における前記半導体層、前記半導体層側接合層、及び前記はんだ層をドライエッチングで除去することを特徴とする請求項2に記載の発光ダイオードの製造方法。
【請求項4】
前記ウェハは、基板上に前記半導体層がエピタキシャル成長によって形成された構成を具備し、
前記接合工程において、前記半導体層における前記基板と反対側の面が前記金属板と接合され、
前記接合工程の後に、前記基板を前記半導体層から剥離する剥離工程を具備することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の発光ダイオードの製造方法。
【請求項5】
前記半導体層は窒化物半導体で構成され、前記基板はサファイアで構成されることを特徴とする請求項4に記載の発光ダイオードの製造方法。
【請求項6】
前記金属板は、銅を主成分とする層と、モリブデンを主成分とする層又はタングステンを主成分とする層とが積層されて構成されることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の発光ダイオードの製造方法。
【請求項7】
前記銅を主成分とする層と、前記モリブデンを主成分とする層又はタングステンを主成分とする層とを積層し、
印加圧力5MPa 以上15MPa以下で、850℃以上1000℃以下の温度で熱間一軸加工法によって接合して、前記金属板を製造することを特徴とする請求項6に記載の発光ダイオードの製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の発光ダイオードの製造方法によって製造されたことを特徴とする発光ダイオード。
【請求項9】
一方の主面側に窒化物半導体のn型層が、他方の主面側に窒化物半導体のp型層が設けられた構成を具備する半導体層における前記他方の主面側に、金属製の放熱板がはんだ層を介して接合された構成を具備することを特徴とする発光ダイオード。
【請求項10】
前記放熱板の前記半導体層と接合される側の面の算術平均粗さRaが1μm以下であることを特徴とする請求項9に記載の発光ダイオード。
【請求項11】
前記一方の主面において金を含むn側電極が形成されたことを特徴とする請求項9又は10に記載の発光ダイオード。
【請求項12】
前記放熱板は、銅を主成分とする層と、モリブデンを主成分とする層又はタングステンを主成分とする層とが積層されて構成されることを特徴とする請求項9から請求項11までのいずれか1項に記載の発光ダイオード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−243925(P2012−243925A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112081(P2011−112081)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(302014446)
【Fターム(参考)】