説明

発光材料、圧電体、電歪体、強誘電体、電場発光体、応力発光体、及びこれらの製造方法

【課題】摩擦力、剪断力、衝撃力などの機械的な外力が加えられることによって生じる変形によって発光する新規な発光材料を提供する。
【解決手段】本発明の発光材料は、ウルツ鉱型構造の酸化亜鉛と、立方晶又はウルツ鉱型構造の硫化亜鉛と、立方晶の酸化マンガンとの結晶構造の中から少なくとも2種類以上の結晶構造を有するものや、一般式(Ca1−xA’Ba1−yTiO3、(Mg1−xA’Ba1−yTiO3、及び(Sr1−xA’)yBa1−yTiO(0.0001≦x≦0.05,0.005≦y≦0.995,A’はDy,La,Gd,Ce,Sm,Y,Nd,Tb,Pr,Erからなる群より選ばれる希土類元素)からなるもの等のような、複数の結晶構造が混在した混相を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的な外力が加えられることにより発光する、新規な発光材料、圧電体、電歪体、強誘電体、電場発光体、応力発光体、及びこれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
外部から刺激を与えることにより光を発する現象が、従来、蛍光現象としてよく知られている。この蛍光を発する蛍光体は、照明灯、ディスプレイなどを始めとする幅広い範囲で利用されている。蛍光体を発光させる外部刺激としては、紫外線、電子線、X線、放射線、電界、化学反応などが挙げられる。近年、本発明の発明者らによって、機械的な外力が加えられることにより、発光する応力発光材料やその評価方法が開発されている。
【0003】
具体的には、スピネル構造、コランダム構造やβアルミナ構造の応力発光材料(特許文献1参照)、ケイ酸塩の応力発光材料(特許文献2参照)、欠陥制御型アルミン酸塩の高輝度応力発光体(特許文献3参照)、多色型応力発光材料(特許文献4参照)、エポキシ樹脂を含む複合材料及び当該複合材料の塗布膜により作製した試験片に、圧縮、引張、摩擦、ねじりなどの機械的な力を印加することによって、応力発光特性を評価する方法(特許文献5参照)、ウルツ鉱型構造とせん亜鉛鉱型構造が共存する構造をもつ、酸化物、硫化物、セレン化物、テルル化物を主成分として構成される高輝度メカノルミネッセンス材料(特許文献6参照)等を開発している。
【0004】
上記の応力発光体は、肉眼でも確認できる程の輝度で、半永久的に繰り返し発光することが可能なものである。そして、これらの応力発光材料を用いることにより、構造体における応力分布を測定することが可能となる。このような測定方法としては、例えば、応力発光体を用いて応力又は応力分布を測定する方法、及び、測定システム(特許文献7参照)、機械的な外力を直接光信号に変換して伝達する発光ヘッド、及びこれを用いた遠隔スイッチシステム(特許文献8参照)などが挙げられる。
【0005】
また、チタン酸バリウム(BaTiO)系の蛍光物質に関しては、Pr,Alを添加したチタン酸ストロンチウムにプラセオジムイオンを添加したもの(SrTiO:Pr3+)にアルミニウム(Al)を加えた赤色発光体(非特許文献1参照)、チタン酸カルシウム(CaTiO)にプラセオジムイオンを添加したもの(非特許文献2参照)、チタン酸バリウム(BaTiO)にCaOを添加したもの(非特許文献3参照)、及び、(Ba0.90Ca0.10)(Ti0.75Zr0.25)O(非特許文献4参照)等について報告がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−119647(2000年4月25日公開)
【特許文献2】特開2000−313878(2000年11月14日公開)
【特許文献3】特開2001−49251(2001年2月20日公開)
【特許文献4】特開2002−194349(2002年7月10日公開)
【特許文献5】特開2003−292949(2003年10月15日公開)
【特許文献6】特開2004−43656(2004年2月12日公開)
【特許文献7】特開2001−215157(2001年8月10日公開)
【特許文献8】特開2004−77396(2004年3月11日公開)
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Shinji Okamotoら著,JOURNAL OF APPLIED PHYSICS,VOLUME 86,NUMBER10,5594p-5597p,1999年11月15日,American Institute of Physics
【非特許文献2】P.T. Dialloら著,Journal of Alloys and Compounds 323-324(2001),218p-222p,ELSEVIER
【非特許文献3】Tsai-Faら著、JOURNAL OF APPLIED PHYSICS,VOLUME 67,NUMBER15,1042p-1047p,1990年1月15日,American Institute of Physics
【非特許文献4】X.G. Tangら著,APPLIED PHYSICS LETTERS,VOLUME 85,NUMBER6,991p-993p,2004年8月9日,American Institute of Physics
【非特許文献5】Bernard Jaffeら著、「PIEZOELECTRIC CERAMICS」,91p-95p,1971年、ACADEMIC PRESS
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記非特許文献5に記載されているとおり、チタン酸バリウム(BaTiO)にCaを添加しても、キュリー点の改善は小さい上にその誘電率が大きく減少してしまうという問題がある。チタン酸バリウム(BaTiO)系の蛍光物質の混相に関する、電歪、圧電、応力発光、電場発光に関する報告は、これまでになされていない。
【0009】
そして、硫化亜鉛(ZnS)は高効率の蛍光体母体であり、特に、マンガンイオンを添加した硫化亜鉛やアルミと銀とのペアイオンを添加したものは、強い黄色発光体、緑色発光体として知られている。また、酸化亜鉛(ZnO)も発光体母体として知られている。しかし、これらの母体は、赤色蛍光体として不向きであった。
【0010】
また、非特許文献1に記載のように、SrTiOにPrイオンとAlイオンとを添加することにより、その発光強度が強くなることが見出されているものの、この発光体は室温では電場発光しないうえに、応力発光性も無く、圧電性も有していないものである。
【0011】
本発明は、新規な赤色発光体、及び、紫外線励起で発光するだけでなく、応力発光性、電場発光性、及び、圧電性を同時に発現することができる、新規な発光体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、複数の結晶構造が共存した混相とすることにより、新たな発光体を実現することができること、並びに、圧電性を有する母体を活用するとともに、発光中心を発光しやすい結晶環境を制御することにより、応力発光、紫外励起発光、電場励起における発光強度が強く、また圧電性を有する多機能な発光体を実現可能なことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の発光材料は、上記の課題を解決するために、機械的な外力が加えられることにより発光する発光材料であって、複数の結晶構造が混在してなる混相を含んでいることを特徴としている。上記のように、複数の結晶構造を混在してなる混相とすることにより、単独の結晶構造では実現出来なかった発光が可能な発光材料とすることができる。なお、本発明において、「混相」とは、複数の結晶構造が混在していることが、X線結晶回折(XRD)測定により確認できるもの、すなわちXRD測定の結果、複数の結晶構造に対応するピークが得られるものをいい、固溶体とは異なるものである。
【0014】
本発明の発光材料は、上記混相は、ウルツ鉱型構造の酸化亜鉛と、立方晶又はウルツ鉱型構造の硫化亜鉛と、立方晶の酸化マンガンとの結晶構造の中から少なくとも2種類以上の結晶構造を有する複合結晶体であることを特徴としている。この構成により、酸化亜鉛、硫化亜鉛、及び、酸化マンガンのうち、単独あるいはこれらの2つからなるものでは実現出来なかった、赤色発光体とすることが可能になる。すなわち、一般式、xZnO+yZnS+zMnOで表される混相とすることにより、新規の赤色発光材料を実現することができる。
【0015】
本発明の発光材料は、上記混相を構成する金属イオンの一部が、他の金属イオンに置換されたものであってもよい。この場合、上記混相を構成している金属イオンとは別の上記他の金属イオンはTeイオンであることが好ましい。これにより、本発明の発光材料の赤色発光の強度を大きく向上させることが可能となる。上記Teイオンは、上記混相を構成する金属イオン100モルに対し、0.1モル以上5モル以下の範囲内となるようにすることが好ましい。
【0016】
また、本発明の発光材料は、上記の課題を解決するために、上記混相が、正方晶構造のチタン酸バリウム、斜方晶構造のチタン酸カルシウム、菱面体晶構造のチタン酸マグネシウム、及び立方晶構造のチタン酸ストロンチウムの中から、少なくとも2種類以上を含むものであることを特徴としている。この場合、上記混相を構成する金属イオンの一部が、他の金属イオンに置換されているものであってもよい。
【0017】
また、本発明の発光材料は、一般式(Ca1−xA’Ba1−yTiO3、(Mg1−xA’Ba1−yTiO3、及び(Sr1−xA’)yBa1−yTiO(0.0001≦x≦0.05,0.005≦y≦0.995,A’はDy,La,Gd,Ce,Sm,Y,Nd,Tb,Pr,Erからなる群より選ばれる希土類元素)からなるものであることを特徴としている。
【0018】
上記の構成により、応力や電場を加えることにより光を発する発光性と圧電性と兼ね備えた発光材料とすることができる。また、A’として示している希土類元素としては、プラセオジム(Pr)が最も好ましく用いられる。
【0019】
また、本発明の発光材料は、強誘電性正方晶のBa1−xCaTiO3:Pr固溶体(0<x<0.23)と、常誘電性の斜方晶のBaCa1−yTiO:Pr固溶体(0.9<y<1)とからなる混相であってもよい。
【0020】
また、本発明の発光材料は、発光強度が上記機械的な外力の大きさに比例するものであってもよい。
【0021】
また、本発明の発光材料は、上記A’はEr又はPrであり、Er又はPrの配合量とCaの配合量とが最適化されたものであることが好ましい。
【0022】
上記Caの比率が40%以上80%以下の範囲内、あるいは、上記Caの比率が1%以上35%以下の範囲内であることが好ましい。また、上記Caの比率が55%以上65%以下の範囲内、あるいは、上記Caの比率が25%以上35%以下の範囲内であることがより好ましい。
【0023】
本発明の発光材料は、サイズの異なる複数の結晶相を有しており、当該複数の結晶相のうち、少なくとも1つの結晶相は大きい粒子サイズで、また、少なくとも1つの結晶相は大きい粒子サイズよりも小さい粒子サイズで構成されており、小さい粒子サイズの結晶相は大きい粒子サイズの結晶相の粒子間に均一に分散していることを特徴としている。
【0024】
この場合、上記チタン酸バリウムの結晶相は大きい粒子サイズで、また、上記チタン酸カルシウムの結晶相は小さい粒子サイズで構成されており、小さい粒子サイズのチタン酸カルシウム結晶相はチタン酸バリウム大きい粒子サイズの結晶相の粒子間に均一に分散しているものであってもよい。あるいは、酸化マンガンの結晶相は大きい粒子サイズで、また、硫化亜鉛、酸化亜鉛の結晶相は小さい粒子サイズで構成されており、小さい粒子サイズの硫化亜鉛亜鉛、酸化亜鉛結晶相は酸化マンガン大きい粒子サイズの結晶相の粒子間に均一に分散しているものであってもよい。
【0025】
本発明の圧電体は、上記の課題を解決するために、複数の結晶構造が混在してなる混相を含んでいることを特徴としている。
【0026】
本発明の圧電体は、上記混相が、正方晶構造のチタン酸バリウム、斜方晶構造のチタン酸カルシウム、菱面体晶構造のチタン酸マグネシウム、及び立方晶構造のチタン酸ストロンチウムの中から、少なくとも2種類以上のもの含むものであることが好ましい。この場合、上記混相を構成する金属イオンの一部が、他の金属イオンに置換されているものであってもよい。
【0027】
本発明の圧電体は、一般式(Ca1−xA’Ba1−yTiO3、(Mg1−xA’Ba1−yTiO3、及び(Sr1−xA’)yBa1−yTiO(0.0001≦x≦0.05,0.005≦y≦0.995,A’はDy,La,Gd,Ce,Sm,Y,Nd,Tb,Pr,Erからなる群より選ばれる希土類元素)からなるものであってもよい。この場合、上記の一般式において、1モル中にCaイオンが0.21−0.40の範囲内で含有された組成である混相構造を有することが好ましい。
【0028】
本発明の電歪体は、上記の課題を解決するために、複数の結晶構造が混在してなる混相を含んでいることを特徴としている。
【0029】
本発明の電歪体は、BaTiOセラミックの電歪を100%とすると、電歪が170%以上であることが好ましい。また、電歪特性が0.26%以上であることが好ましい。
【0030】
本発明の電歪体は、上記混相が、正方晶構造のチタン酸バリウム、斜方晶構造のチタン酸カルシウム、菱面体晶構造のチタン酸マグネシウム、及び立方晶構造のチタン酸ストロンチウムの中から、少なくとも2種類以上のもの含むものであることが好ましい。
【0031】
本発明の電歪体は、一般式(Ca1−xA’Ba1−yTiO3、(Mg1−xA’Ba1−yTiO3、及び(Sr1−xA’)yBa1−yTiO(0.0001≦x≦0.05,0.005≦y≦0.995,A’はDy,La,Gd,Ce,Sm,Y,Nd,Tb,Pr,Erからなる群より選ばれる希土類元素)からなるものであってもよい。この場合、上記の一般式において、1モル中にCaイオンが0.21−0.40の範囲内で含有された組成である混相構造を有することが好ましい。
【0032】
本発明の強誘電体は、上記の課題を解決するために、一般式(Ca1−xA’Ba1−yTiO3、(Mg1−xA’Ba1−yTiO3、及び(Sr1−xA’)yBa1−yTiO(0.0001≦x≦0.05,0.005≦y≦0.995,A’はDy,La,Gd,Ce,Sm,Y,Nd,Tb,Pr,Erからなる群より選ばれる希土類元素)からなるものであり、1モル中にCaイオンが0.21−0.40の範囲内で含有された組成である混相構造を有することを特徴としている。
【0033】
本発明の電場発光体は、上記の課題を解決するために、複数の結晶構造が混在してなる混相を含んでいることを特徴としている。
【0034】
本発明の電場発光体は、ウルツ鉱型構造の酸化亜鉛と、立方晶又はウルツ鉱型構造の硫化亜鉛と、立方晶の酸化マンガンとの結晶構造の中から少なくとも2種類以上の結晶構造を有する複合結晶体であることが好ましい。また、上記混相が、正方晶構造のチタン酸バリウム、斜方晶構造のチタン酸カルシウム、菱面体晶構造のチタン酸マグネシウム、及び立方晶構造のチタン酸ストロンチウムの中から、少なくとも2種類以上のもの含むものであることが好ましい。
【0035】
また、本発明の電場発光体は、一般式(Ca1−xA’Ba1−yTiO3、(Mg1−xA’Ba1−yTiO3、及び(Sr1−xA’)yBa1−yTiO(0.0001≦x≦0.05,0.005≦y≦0.995,A’はDy,La,Gd,Ce,Sm,Y,Nd,Tb,Pr,Erからなる群より選ばれる希土類元素)からなるものであってもよい。この場合、上記の一般式において、1モル中にCaイオンが0.5−0.80の範囲内で含有された組成である混相構造を有することが好ましい。
【0036】
本発明の応力発光体は、上記の課題を解決するために、一般式(Ca1−xA’Ba1−yTiO3、(Mg1−xA’Ba1−yTiO3、及び(Sr1−xA’)yBa1−yTiO(0.0001≦x≦0.05,0.005≦y≦0.995,A’はDy,La,Gd,Ce,Sm,Y,Nd,Tb,Pr,Erからなる群より選ばれる希土類元素)からなるものであり、1モル中にCaイオンが0.5−0.80の範囲内で含有された組成である混相構造を有することを特徴としている。
【0037】
上記した本発明の発光材料、圧電体、電歪体、強誘電体、電場発光体、又は応力発光体は、複数の結晶構造の混在した混相となる比率の原料を混合するステップを含む方法によって、製造することができる。
【0038】
本発明の製造方法は、製造時における、上記原料容器の真空度を10−1Pa以上とすることとしてもよい。
【0039】
また、2つの亜鉛を添加した酸化マンガン結晶の合成中に、硫黄を添加することとしてもよい。この場合、さらに、硫黄とテルルを同時に添加することとしてもよい。
【発明の効果】
【0040】
本発明の発光材料、圧電体、電歪体、強誘電体、電場発光体、及び応力発光体は、複数の結晶構造が混在してなる混相とを含んでいる。この混相により、赤色発光可能な新規発光材料、圧電体、電歪体、強誘電体、電場発光体、及び応力発光体を実現することができる。
【0041】
また、本発明の発光材料、圧電体、電歪体、強誘電体、電場発光体、及び応力発光体は、一般式(Ca1−xA’Ba1−yTiO3、(Mg1−xA’Ba1−yTiO3、及び(Sr1−xA’)yBa1−yTiO(0.0001≦x≦0.05,0.01≦y≦0.99,A’はDy,La,Gd,Ce,Sm,Y,Nd,Tb,Pr,Erからなる群より選ばれる希土類元素)からなる混相を含んでいる。これにより、応力や電場を加えることにより光を発する発光性と圧電性と兼ね備えた発光材料、圧電体、電歪体、強誘電体、電場発光体、及び応力発光体とすることができる。
【0042】
したがって、今までの発光材料(発光体)、圧電体の応用分野はもちろんのこと、さらに、電気、機械、光の3者の相互変換を簡便に実現することができるから、本発明の発光材料は、新規なセンサ、アクチュエータをはじめ、新規の表示デバイス、及び、アミュズメント機器などの用途へ展開することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施例の粉体X線回折パターンを示しており、各パターンの矢印で示されたピークが当該矢印の左に示された相の典型的なX線回折パターン(PDF結晶構造データーベースと合致するピーク)を表している。
【図2】ZnS.90MnTe.10の試料について得られたZnSの2H相のXRDパターンである。
【図3】ZnS.93ZnTe.03MnTe.04の試料について得られたZnSの2H及び10H相のXRDパターンである。
【図4】ZnO.5MnS.5の試料について得られたXRDパターンを示すグラフである。
【図5】XRDパターンのピーク(Mn+2Oの〔200〕面)の強度に対するPL強度の分布を示すグラフである。
【図6】Mn+2Oの〔200〕面XRDパターンのピーク位置2シータの値に対するPL強度の分布を示すグラフである。
【図7】表1に示した試料1〜5について光吸収スペクトルを記録したグラフである。
【図8】MnCO3及びZn0.6Mn0.4原料から得られたそれぞれのMn+2O相の吸収スペクトルを、ZnS及びZnOの吸収スペクトルと共に示したグラフである。
【図9】黄色ルミネッセンスの試料1の励起(excitation)及び発光(emission)のスペクトルを示すグラフである。
【図10】赤色ルミネッセンスの試料2〜5の発光(emission)のスペクトルを示すグラフである。
【図11】赤色ルミネッセンスの試料2〜5の励起スペクトルを示すグラフである。
【図12】4%MnTeを含んだ試料(ZnS0.96MnTe0.04)の励起(excitation)及び発光(emission)を示すグラフである。
【図13】黄色ルミネッセンスを発するZnO0.6MnS0.4及びZnO0.5MnS0.5に、1000Nの力を加えたときのML(応力発光)シグナルを示すグラフである。
【図14】赤色ルミネッセンスを発するZnO0.6MnS0.35MnTe0.05及びZnO0.6MnS0.37MnTe0.03に、1000Nの力を加えたときのMLシグナルを示すグラフである。
【図15】2つの温度(850℃及び950℃)で調製したZnO0.6MnS0.35MnTe0.05について、低温フォトルミネッセンスを行った結果を示すグラフである。
【図16】850℃で調製した、ZnO0.6MnS0.35MnTe0.05の試料について、異なる速度で温度を上昇させたときのグロー曲線を示すグラフである。
【図17】950℃で調製した、ZnO0.6MnS0.35MnTe0.05の試料について、異なる速度で温度を上昇させたときのグロー曲線を示すグラフである。
【図18】電場、機械的応力あるいは歪み、及び、光の相互関係を示す図である。
【図19】[(1−x)BaTiO3−xCaTiO]のxの値を1.0〜0.2の範囲で変化させた試料のXRDパターンを示すグラフである。
【図20】BCT−30の構造解析を行って得られた、XRDスペクトルと顕微鏡写真図とを示す。
【図21】BCT−20、23、25、30、40、50の電歪(ES)特性を示すグラフである。
【図22】BCT−20、23、25、30、40、50のヒステレス特性(Ferroelectric hysteresis loop)を示すグラフである。
【図23】BCT−60のML(Mechanoluminescence)を示しており、(a)(b)は圧力が加えている間、肉眼で観察可能な赤色ML放出をしているBCT−60ペレットの図であり、(c)は、ML強度が加えられる圧力に比例することを示すグラフである。
【図24】BCT−60の電場発光特性(EL)を示すグラフである。
【図25】BCT−60のEL強度と電場の大きさとの関係を示すグラフである。
【図26】BCT−60の電場発光特性(EL)を示すグラフである。
【図27】BCT−30の、ML、EL、及び、PLのスペクトルを重ねて記載したグラフである。
【図28】BCT−60の、ML、EL、及び、PLのスペクトルを重ねて記載したグラフである。
【図29】BCT−60、70、80、90、95、100の励起スペクトルを示すグラフである。
【図30】BCT−60、70、80、90、95、100の発光スペクトルを示すグラフである。
【図31】BCT−20、25、30、40、50の測定結果を示すものであり、(a)は抗電場(Ec)を示すグラフであり、(b)は残留分極(Pr)を示すグラフである。
【図32】BCT−20、23、25、30、40、50及び[BaTiO]:Pr(BT−pure)について、電気誘起ひずみを測定した結果を示すグラフである。
【図33】BCT−30、50、60、70について、印加される電圧と電場発光強度との関係を表すグラフである。
【図34】Caの比率xを変化させた試料について、1Hz,50kV/cm条件下で、電歪特性を測定した結果を示すグラフである。
【図35】Caの比率xを変化させた試料について、蛍光特性(紫外線励起発光)を測定した結果を示すグラフである。
【図36】Caの比率xを変化させた試料について、電場発光を測定した結果を示すグラフである。
【図37】Caの比率xを変化させた試料について、応力発光を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
〔実施の形態1〕
本発明の出願人らは、「応力発光」を提唱し、機械的な作用により発光する材料を用いて、遠隔な応力センシング、応力分布のビジュアル化を目指している。今までは発光色の異なる応力発光体を開発している。例えば、欠陥制御型SrAl:Euが弾性変形領域において、発光強度と応力とが直線的に比例することを見出し、日中でも目視できる強い緑色の応力発光強度を得ている。
【0045】
しかし、赤色の応力発光体については、視覚感度が低いために、目視できる十分な強度を示す応力発光体はまだ開発されていない。そこで、目視できる高効率な赤色応力発光体の開発を目標として鋭意検討した結果、以下に説明する構成により実現できることを見出した。
【0046】
本実施の形態の発光材料は、複数の結晶構造が混在した混相を含んでおり、当該混相は、ウルツ鉱型構造の構造の酸化亜鉛と、立方晶又はウルツ鉱型構造の硫化亜鉛と、立方晶の酸化マンガンとの結晶構造が混在する混相を含むものである。
【0047】
また、上記混相を構成する金属イオンの一部が、上記混相を構成している金属イオンとは別の他の金属イオンに置換されたものであっても良い。当該他の金属イオンとしては、Te,Sb,Sn,Mn,Cu,Ag等が挙げられ、この中では、Te4+イオンが好ましい。
【0048】
上記Te4+は、上記混相を構成する金属イオン100モルに対し、0.01モル以上20モル以下の範囲内であることが好ましく、0.1モル以上5モル以下の範囲内であることがより好ましく、1モル以上3モル以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0049】
以下に、実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0050】
本発明の発明者らは、赤色ルミネッセンス相の起源(母体)を求めるために、ZnS、ZnO、MnS、MnTe、Mn、及び、Teの一連の組み合わせについて、石英サンプル管に原料となる粉末をいれ、サンプル管を真空炉に置いて、高真空に排気した後、合成温度以上の温度で結晶成長させた。
合成したサンプルの結晶構造はX線回折法で同定するとともに、ルミネッセンス特性調べることにより、ルミネッセンス相を同定した。
【0051】
このようにして同定された新規な化学種の相は、硫化亜鉛と酸化亜鉛の2つの結晶相が必ず共存して、さらに、酸化マンガン(Mn+2O)が含まれる、複数の結晶構造が共存する混相で形成されたものである。そして、赤色ルミネッセンス相における発光を大幅に向上させるためには、Teの効果が顕著であることを見出した。以下に、これら材料の調製方法及びルミネッセンス特性について説明する。
【0052】
〔実験方法〕
不必要な気体種である酸素や水を反応槽から排出して当該反応槽が高真空に排気されて、Arなどの不活性ガスで目的の圧力(1Paから1気圧)まで満された後、密閉して焼成することにより、合成反応を制御できるような密閉雰囲気制御型固体結晶合成反応装置を設計した。密閉雰囲気制御型固体結晶合成反応装置(以下、「合成反応装置」という。)は、硫黄やテルルなどのような非常に昇華しやすい成分を含む化合物結晶の合成に用いられた。発光材料の原料は、各々所定の比率で秤量し・乳鉢で均一に混合した後、内径10mm×長さ10cmの石英管に詰め込まれ、管の両端は、石英ウールにより栓がされる。これら石英管は、上記合成反応装置に挿入されて、数時間の間、反応層の雰囲気温度が600℃〜1200℃となる温度で、10分間から100時間加熱される。多くのトライアンドエラーを繰り返した結果、最適な温度(反応槽内の雰囲気温度)及び加熱時間は、850℃で10時間であった。また、同様な焼成条件で、高真空密封アンプル(0.1Pa以下の圧力)を用いた実験もいくつか行われた。
【0053】
構造解析には、Rigaku Rint2000粉体X線回折計を用いた。光ルミネッセンス及び熱ルミネッセンスの測定には、Jasco FP−6500分光蛍光光度計を用いた。光吸収の測定には、Jasco V−570 UV−VIS−IR 分光光度計を用いた。
【0054】
本実施例では、試薬は純度が99.9%以上のものを用いた。種々の試薬を用いて実験がなされた結果、黄色ルミネッセンスを示すものとしてZnO0.60MnS0.40(0.6ZnO・0.4MnS)が得られ、また、少量のMnTeを加えることにより、黄色から赤色ルミネッセンスへと変換できることが分かった。
【0055】
〔実験結果及び考察〕
上記説明した方法に従って調整して得られた試料並びにその測定結果について、下記の表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
上記の表1の試料1は、高真空密封アンプル内で作製されたものであり、他の試料2〜5は密閉雰囲気制御型固体合成装置により作製されたものである。高真空密封アンプルで合成したものはさらに発光強度は高くなる。なお、上記の表1には記載した試料以外にも、比較考察にのみ用いられた試料も密閉雰囲気制御型固体合成装置を用いて作製した。以下の説明においては、XRD相でなく原材料の組成を用いて各試料を区別する。
【0058】
図1は、表1に示した試料1〜5のX線回析(以下、適宜「XRD」という)パターンを示す。また、同図において矢印で示されたピークが、当該矢印の左に示された相で帰属される。
【0059】
図1に示された相のうち、ZnTe相、酸化マンガン(Mn+2O)相、及び、ZnO相はいずれも、単独では、表1に示された黄色、あるいは赤色ルミネッセンスを示さないことが知られている。同図に示された相の中で、単独で黄色ルミネッセンスを示すものはZnS相のみである。そして、ZnS相はウルツ鉱型硫化亜鉛であり、2Hあるいは10H相であり‐多層繰り返し構造(超格子構造)である。
【0060】
ウルツ鉱型硫化亜鉛相10Hの結晶相において、結晶のC軸の長さは2H相のものよりも5倍に増加し、その構造は多層繰り返し構造内で円柱状になる。試料1で観察される相は2Hであるが、他の試料では10Hである。この円柱状C軸の増加は、発光中心Teを固定することに関与していると考えられる。
【0061】
ZnSの役割を調べる為に、ZnS0.96MnTe0.04、ZnS0.90MnTe0.10、ZnS0.93ZnTe0.03MnTe0.04、ZnS0.91Mn0.03Te0.06、及び、ZnS0.94Te0.06の原料比率での混合物の試料を密閉雰囲気制御型固体合成装置において、
かけた。その結果、ZnS相の2H相(図2参照)及び10H相(図3参照)が得られた。しかしながら、観察されたルミネッセンスは非常に小さく、後者(10H相)が検出されなかったものもあった(図1参照)。したがって、上記の表1に示した試料2〜5において、850℃から1200℃で10時間を焼成した。赤色ルミネッセンスが発生した原因は、ZnS単独相ではないと考えられる。
【0062】
さらに、図9に試料1の励起スペクトルおよび発光スペクトルを示し、試料2〜5の発光スペクトルを図10に、励起スペクトルを図11に示す。図9,図10,及び図11に示した励起スペクトルおよび発光スペクトルは異なっており、試料1の発光中心波長は約582nm(黄色)であるが、試料2から5は約640nm(赤)である。また、これら図9,図10,及び図11に示した物質のバンドギャップは、表2および図7に示すように、ZnSのもの(図8参照)とは大きく異なっていた。即ち、硫化亜鉛のバンドギャップは、表1、図1に示すZnO−MnS−MnTeの組み合わせで得られた高ルミネッセンス相のバンドギャップとは全く異なっている。
【0063】
また、ZnS以外の相がルミネッセンスの原因であることもあり得る。ここで、ZnOが緑色ルミネッセンスを発することは知られているものの、TeあるいはMnと共に強い赤色や黄色のルミネッセンスを発することは知られていない。みかけの比率をZnO0.5MnS0.5として調製された試料においては、高い黄色ルミネッセンスが観察され、Teを添加することで、赤色ルミネッセンスを発する。しかし、この試料のXRDパターンではZnO相のピークが存在しなかった。
【0064】
図4にZnO0.5MnS0.5の試料について測定して得られたXRDパターンを示す。同図に示すように、ZnO0.5MnS0.5の試料のXRDパターンでは、ZnO相のピークが認められない。以上のことから、ZnOは図1に示した試料1及び図4に示したZnO0.5MnS0.5の試料における黄色ルミネッセンスの原因ではないものと考えられる。
【0065】
上記ルミネッセンスの原因として次の可能性のあるものは、Mn+2Oである。しかし、このMn+2Oの純粋な相は、ルミネッセンスを示さない。様々な比率で構成した酸化マンガンを含む混相発光体の発光特性と酸化マンガンの結晶性の相関を図5,6にまとめている。ここで、1つの重要な注目すべき点は、他の同種の材料で見られたとおり、Mn+2O相の〔200〕面のXRDピーク強度に対して、PL(Photoluminescence)強度は図5に示すような関係がある。酸化マンガン相のピークはなければ、強い発光は得られない。また、一定の閾値を超えると、強い発光が観察される。即ち、酸化マンガン相の共存は強い発光を得るために必要不可欠である。(図5)。強い発光は、酸化マンガンと硫化亜鉛の結晶相が共存する、さらに酸化亜鉛の結晶相が共存することが最も好ましい。
【0066】
第2の注意すべき重要な点は、酸化マンガン結晶相のXRDの回折角度(例えば、〔200〕面)が常に、純粋な酸化マンガン単一相の40.547よりも大きいことである。これは格子収縮を示唆している。雰囲気密閉型合成装置内において、Mn+2Oへと組み入れ可能なすべての要素のイオン半径が、硫黄、テルル、亜鉛はマンガンイオンあるいは酸素イオンとの置換で格子収縮を可能にするものは亜鉛しかない。したがって、相当な数のZnとマンガンを置換していたことが、格子収縮の唯一の可能性である。図6は、Mn+2Oの〔200〕面の2θ(theta)に対する光ルミネッセンス強度(PL強度)のばらつきを示すが、これは混相の比率は様々であるためであり、亜鉛の置換量のみで発光特性を決めることではなく、他の結晶相の共存も重要であることを示している。
【0067】
図6から、目視による観察が可能な程の光ルミネッセンスを発するために、最適な混合比率(degree of incorporation)があることは、明らかである。酸化マンガン(Mn+2O)単一相又はZnを固溶した酸化マンガン(Mn+2O)との混成物のどちらかが、ルミネッセンスを生じさせる必要不可欠の要素となっている。そして、この相は2通りの方法で容易に作ることが出来る。
【0068】
1つ目の方法は、MnCOを熱分解させることである。MnCOを単独で熱分解燃焼させる方法によれば、図6に示すような回折角度における高角度へのシフトを生じさせることなく、ルミネッセンスを発しない単一相が得られる。また、MnOをZnOと共に混合した後熱分解させると、回折ピークにおける明らかな高角度へのシフトが見られるが、ルミネッセンスのないものが得られる。
【0069】
2つ目の方法は、ZnOと金属Mnとを混合して熱処理で合成することにより、Mn+2Oとかなりの量のZnとの混成物(混合物)を得ることができる。この場合、回折角度の明らかな転移が認められたが、ルミネッセンスの無いものが得られた。
【0070】
以上の2つの亜鉛を添加した酸化マンガン結晶の合成中に、硫黄を添加すると、黄色ルミネッセンスが得られた。さらに、硫黄とテルルを同時に添加すると、赤色ルミネッセンスが得られた。
【0071】
好適な量の十分なZnを混合したMn+2Oに、さらに好適な量のS/Teを加えることが、黄色あるいは赤色ルミネッセンスに必須であるものと考えられる。
【0072】
母体半導体の特性である光吸収を、表1に示した試料1〜5について測定したグラフを図7に示す。同図から明らかなように、これら半導体は、500〜700nmの波長領域において特有のバンドギャップ吸収を有しており、光吸収スペクトルは、長波長領域で特徴的な肩形状(shoulder)の吸収を示した。また、300nm〜400nmの波長領域の吸収は、ZnS相及びZnO相によるものである。
【0073】
上記試料1〜5について得られたバンドギャップを表2に示した。図7に示すように、Te含有量が増えるに従って、吸収の肩形状は鋭くなるが、ルミネッセンスは減少する。上述したように、これらの試料はZnO、ZnS、そしてMn+2O相の共存する混相を含んでいる。
【0074】
【表2】

【0075】
上記のようにして得られたバンドギャップの結果は、主な相であるZnSあるいはZnOを反映していない。図8は、MnCO及びZnO0.6Mn0.4の原料で得られたMn+2O相の吸収特性を示している。ルミネッセンス試料の吸収特性と、ZnO、ZnSそしてMn+2O相の吸収特性との比較により、ルミネッセンスはMn+2Oによるものであることが分かる。
【0076】
しかしながら、上述したMnCO及びZnO0.6Mn0.4の相は、どちらも無ルミネッセンスであり、これはS及びTeが添加(ドープ)されていないことに起因すると考えられる。これらの添加によって、長波長領域の吸収をかなり改善するから、S及びTeを含んでいる新しい混成物がルミネッセンスに寄与しているものと考えられる。
【0077】
図9に試料1の黄色ルミネッセンス試料の励起スペクトル及び発光スペクトルを示し、図10に赤色ルミネッセンスの試料2〜5の発光スペクトルを示すグラフを示す。
【0078】
図9及び図10は、Te含有量を増やしていった場合の、典型的な試料の励起と発光のスペクトルである。発光スペクトルの中心波長は、Te含有量が増えるに従って、長波長側へとシフトした。また、Te含量が低くても、或いはTeを含まないものであっても、図9に示すように目視可能な黄色発光が観察された。そして、PL強度は、Te含量が増加するにつれて減少した。
【0079】
図11に赤色ルミネッセンスの試料2〜5の励起スペクトルを示す。同図に示すように、励起光のスペクトルでは、Te含有量の増加に伴って励起光のピークも長波長側へと移動する。Te含量の多い試料では、短波長領域で、明らかな減少が起こっている。そしてPL強度もまた、Te含有量の増加に伴って減少している。
【0080】
すでに述べたとおり、試料2〜5は、ZnO、ZnS、及び、Mn+2O相を含んでいる。そして、緑色のルミネッセンスで知られるZnOは、本実施例において観察されたフォトルミネッセンス(PL)の原因ではない。一方ZnSは、Mnを添加するとともに黄色ルミネッセンスを示す。また、ZnSは、3%Mn及び6%Teがドープされた薄膜で、弱い赤色ルミネッセンスを発することが観察された。
【0081】
母体としてのZnSに加えてMn及びTeを含む試料をいくつか調製した。4%MnTeを含んだ試料(ZnS0.96MnTe0.04)のPLスペクトルを図12に示す。同図に示すように、この試料のルミネッセンスは弱く、励起スペクトルは400nm〜500nmの波長範囲において複数の励起バンドを示した。ほとんどのルミネッセンスは約490nm〜500nmの励起波長から生じる。これらの試料のバンドギャップは約2.94evであり、これはZnSのバンドギャップに近い値である。
これは図10、図11に示すような混相による発光と異なっており、全く違う相による発光であると示している。
【0082】
〔応力発光(Mechanoluminescence)〕
図13は、黄色ルミネッセンスを発するZnO0.6MnS0.4及びZnO0.5MnS0.5に、1000Nの力を加えたときのML(mechanoluminescence、応力発光)シグナルを示すものである。また、図14は、赤色ルミネッセンスを発するZnO0.6MnS0.35MnTe0.05及びZnO0.6MnS0.37MnTe0.03に、1000Nの力を加えたときのMLシグナルを示している。図13及び図14に示すように、上記の試料は、何れも応力発光を示すものであることが分かる。
【0083】
〔サーモルミネッセンス(Thermoluminescence)〕
図15に、ZnO0.6MnS0.35MnTe0.05を2つの温度(850℃及び950℃)で調製したものについて、低温フォトルミネッセンスを行った結果を示す。一般に、PL強度は低温で増すが、図14には、950℃で調製した試料においては、低温になるほどルミネッセンス強度が減少することが示されている。
【0084】
図16及び図17に、850℃及び950℃で調製した、上記ZnO0.6MnS0.35MnTe0.05の試料について、異なる速度で温度を上昇させたときのグロー曲線を示す。図16及び図17から、950℃で調製されたものは3つのトラップ(trap)を示すのに対して、850℃で調製されたものは2つしかトラップを示さなかった。
【0085】
〔本実施例のまとめ〕
高い黄色ルミネッセンスの示したものは、850℃〜900℃の範囲の条件で、真空密封条件下または密閉雰囲気制御型固体合成装置により作製されたZnO0.6Mns0.4の原料とした試料であった。そして、調製段階において、上記試料の原料に数%のMnTeを加えることによって、ルミネッセンスの色が赤色に変化した。0.1−5%Teの添加はZn、Mn、O、S元素を含む原料で強い赤色発光体を合成するために、Teが必要不可欠である。
【0086】
XRDで観察された相は、ZnO、ZnS及びMn+2Oであった。MnTeあるいはZnTeを高濃度で含む混成物についても同様に調製した。ZnO相を含まない複数の試料でルミネッセンスが観察されたことから、ZnO相単独によるルミネッセンスは上記黄色及び赤色のルミネッセンスの原因から除外することができる。
【0087】
XRD強度のピーク及びMn+2Oのピーク位置の何れとも、PL強度は相関関係があることが認めれられた。おそらく、硫黄(S)の添加に加えて、亜鉛(Zn)と混合されることにより生じるものと考えられるMn+2O相の格子収縮が、強い赤色ルミネッセンスが発生する必要条件である可能性が高い。本実施例の試料において観察された約2.0eVの光学バンドギャップは、Mn+2O相に起因するものと考えられる。
【0088】
ZnS及びMn+2Oが、ZnOとMnSとの相互反応から同時に形成され、ZnS相の存在は強いルミネッセンスを発生させるもう1つの必要条件である。さらにZnO相が共存することによりルミネッセンスが強くなる。
【0089】
そして、望ましい相であるZnS及びMn+2Oを含んだ多くの試料が、発光及び励起スペクトルの形に関係なく、弱いルミネッセンスを示した。これらの試料のバンドギャップは、ZnSのバンドギャップに近く、高ルミネッセンス試料のバンドギャップとは全く合致しなかった。
【0090】
最も高い応力発光を示した試料は、高真空密封アンプルを用いて調製したものであるから、真空度を高くすることにより応力発光が改善された。また、真空度は10−1Pa以上、すなわち高真空密封アンプル内の圧力が10−1Pa未満であることが好ましい。
【0091】
〔実施の形態2〕
本実施の形態においては、Pr3+添加(ドープ)BaTiO−CaTiOセラミックにおける電気・機械・光変換について説明する。
【0092】
いわゆる、インテリジェントな(intelligent)材料、又はスマートな(smart)材料とは、他の同種の材料と同様に、検知する機能及び作動機能を実現可能なものである。このような特質を有する材料は近年注目を集めている。電場、機械的応力あるいは歪み、及び、光との相互変換作用を図18に示す。同図では、電場(electric field)と歪み(stress or strain)と光(Light)との物理的相互作用としては、圧電効果または電歪効果(Piezoelectric or inverse Electrostriction)、電場発光(Electroluminescence)、電気光学効果(Electro-optic effect)、光歪効果(Photostriction)、及び、応力発光(Mechanoluminescence)を示している。
【0093】
これまで、このような材料の研究や応用においては、2つのパラメーターを組み合わせることにより考察されることが多かった。例えば、電気・機械相互作用(圧電と電歪効果)、機械・光相互作用(応力発光と光歪)、及び、電気・光学相互作用(電場発光と電気光学効果)等である。機能性材料及び装置がこれまでに著しく発展してきたように、さらに多くの機能を備えた材料及び装置の開発が切望されている。
【0094】
本実施の形態においては、多機能材料であるPr3+を添加(ドープ)したBaTiO−CaTiOセラミックについて、その圧電効果、電歪効果、応力発光、および電場発光を見出すことで、電気エネルギー・機械エネルギー・光学エネルギーの間の相互変換について調べた結果について示す。
【0095】
電歪(ES)アクチュエータは、電気エネルギーを直接機械的エネルギーに変換するものであって、アクチュエータの位置を、印加される電圧により調節可能であるから、光学、天文学、流体制御、精密機械加工等の、多様な広範囲の領域で用いられる。
【0096】
広い意味での応力発光(mechanoluminescence、適宜MLという)は、固体に対して機械的な応力が加わったときの破壊あるいは変形から生じるものであり、このような発光をそれぞれ、破壊発光(fractoluminescence、適宜FLという)、変形発光(deformation luminescence、適宜DLという)と呼ぶ。これらのうちでも、DLは非破壊なので、より実用に適している。
【0097】
新規のDL材料とその特性を調べる方法が開発され、そしてDL材料の評価方法は改善されてきた。このような材料は、今や応力分布の可視化、高性能のセンサ及び自己診断系への利用を図っている。本実施の形態における応力発光とは、このような非破壊の変形発光のことをいう。電場発光(EL)は、熱エネルギーを発生せずに、電気エネルギーが光エネルギーに変換される現象であり、フラットパネルディスプレイに広く用いられている。
【0098】
上述した3つの効果(ES、ML、そしてEL)は、後述するとおり、Pr3+が添加されたBaTiO−CaTiOの混相セラミックによって、同時に実現することが可能である。電圧の印加は機械的な歪み及び光の放出を引き起こし、機械的応力は電気シグナル(圧電及び逆電歪効果)と光の放出とを引き起こす。この種の多機能材料を用いることにより、電気的、物理的、光学的シグナルに同時に反応することが可能な、複雑な検出・作動システムアプリケーションを実現することができる。
【0099】
60年程前に発見されたチタン酸バリウム(BaTiO)は、研究対象とされた初めてのペロブスカイト型強誘電性・圧電性材料であったが、圧電性/電歪性の分野で、ジルコン酸チタン酸鉛に取って代わられた。しかし、近年、地球環境の保護の動きが高まるにつれて、鉛を含まない材料が注目を集め始めている。そこで、BaTiOを主とする材料の研究は再び盛んになり、単結晶及びドープされたセラミックにおいて、高電歪のものが得られている。
【0100】
BaTiOのBa2+にCa2+が置き換わることにより、xが0.21以下の範囲では、Ba1−xCaTiO固溶体になることが知られている。これによってキュリー点(立方晶常誘電性−正方晶強誘電性転移温度)はわずかに変化するだけだが、正方晶−斜方晶転移温度は著しく低くなる。このように正方晶−斜方晶転移温度が低くなるということは、圧電性/電歪性の温度安定性を高め、実用へ応用するにあたって非常に好ましいことである。
【0101】
溶解限界(x=0.21)を超えた状態においては、全体に占めるCaTiOの割合が90mol%に達するまでの領域が、不溶領域となっている。このような領域における2つの結晶相が共存する材料(混相)は、今までは注目されなかった。しかし、固溶限界の組成で構成する材料は、さらに優れた機能を示す可能性を有するという点で、固溶限界の固溶体に注目されている。実際、Pb(Zn1/3Nb2/3)TiO−PbTiO(PZN−PT)及びPb(Mg1/3Nb2/3)TiO−PbTiO(PMN−PT)のような、鉛を主成分とする超高歪材料の組成は、相変化が生じる境界(morphotropic phase boundary(MBP))の近傍に位置している。高歪は、正方晶と斜方晶という2つの等価なエネルギー状態が共役することにより生じると考えられる。
【0102】
一方、三価のプラセオジム(Pr3+)が添加(ドープ)されたチタン酸カルシウム(CaTiO)は、室温で強い赤色ルミネッセンスを示すことが報告されている。しかし、Pr3+をドープした(1−x)BaTiOxCaTiO(x>0.21)混成物あるいは複数の結晶相を含む混相材料は、非常に優れた電気機械的、応力発光性、そして電場発光性を示すものは本発明により初めて見出した。
【0103】
なお、BaTiO及びCaTiOは何れも、単独では上記の特性において劣っているか、あるいは上記の特性が全くない。
【0104】
本実施の形態の発光材料は、(Ca1−xPrBa1−yTiO,(Mg1−xA’Ba1−yTiO,(Sr1−xPr)yBa1−yTiO,(0.0001≦x≦0.05,0.01≦y≦0.99)からなるものであるが、Prは、Dy,La,Gd,Ce,Sm,Y,Nd,Tb,Pr,Erからなる群より選ばれる希土類元素であってもよい。
【0105】
以下に、本発明の本実施形態について、実施例を示して詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【実施例2】
【0106】
本実施例では、複数の結晶相が共存する混相で、溶解限度を超えた近傍にあるPr3+ドープ(1−x)BaTiO3−xCaTiOセラミック(x=0.25〜0.30)において、BaTiOセラミックの電歪より176%も高い、0.264%の大きな電歪(electrostrictive (ES) strain)と、強い赤色応力発光(mechanoluminescence ML)と、電場発光(electroluminescense(EL))と、が観察された。このPr3+添加(1−x)BaTiO3−xCaTiOセラミックは、強誘電性正方晶のBa0.77Ca0.23TiO3:Pr固溶体と、標準的な誘電性の斜方晶のBa0.1Ca0.9TiO:Pr固溶体とからなる混相のセラミックである。
【0107】
上記セラミックにおいて認められた、増長されたES並びに新たに見出されたML及びELは、Pr3+が添加(ドープ)されたBaTiOを主とする固溶体、及びCaTiOを主とする固溶体においては認められないものである。これらは、混相セラミック内で、Ba0.1Ca0.9TiO:Pr内の大きなイオン分極と、Ba0.77Ca0.23TiO:Pr内の強誘電性領域(強誘電性領域ドメイン、ferroelectric domains)とが強く相互作用することによって生じるものである。
【0108】
〔実験方法〕
本実施例では、Ba1−x−yCaPrTiO(x=0、0.20,0.23,0.25,0.30,0.40,0.50,0.60,0.70,0.80,0.90,0.95,1.0、y=0.002)の化学量論的組成に基づき、固相反応方法を用いて、Pr3+ドープBaTiO−CaTiOセラミックを調製した。より具体的には、所定の組成比に秤量したものを、エタノールを加えてボールミルを用いて均一に混合し、酸素雰囲気中において、1400℃で4時間加熱することにより調製した。以下、試料の組成は、[(1−x)BaTiO3−xCaTiO]:Prのように簡略化して示す。また、適宜、xの小数点以下2桁の数字●●を用いて、BCT−●●と表すこととする。例えば、Ba0.68Ca0.30TiO:Pr0.02をBCT−30とする。
【0109】
図19に[(1−x)BaTiO3−xCaTiO]:Prのxの値を、1.0〜0.2の範囲で変化させた試料のXRDパターンを示す。同図に示すように、X=1.0及び0.95の試料のXRDでは、図中にOで示した斜方晶のピークのみが認められ、X=0.20及び0.23の試料のXRDでは、図中にTで示した正方晶のピークのみが認められるのに対し、X=0.25〜0.90の試料のXRDでは斜方晶及び正方晶のピークが認められる。構造解析の結果、x<0.25の試料は単相の正方晶Ba1−xCaxTiO:Pr固溶体であり、0.90<xの試料は単相の正方晶Ba1−xCaxTiO:Pr固溶体であり、0.25≦x≦0.90の試料は正方晶Ba0.77Ca0.23TiO:Pr固溶体と斜方晶Ba0.1Ca0.9TiO:Pr固溶体との2相共存状態の混相となっていることが明らかとなった。Pr固溶させる事により、Caの固溶限界は0.21から0.23に向上した。
【0110】
x=0.30の試料(BCT−30)について構造解析を行って得られた、XRDスペクトルと顕微鏡写真図とを図20示す。同図のXRDスペクトルに示すように、正方晶Ba0.77Ca0.23TiO:Pr固溶体の(110)面のピークTと、斜方晶Ba0.1Ca0.9TiO:Pr固溶体の(121)面のピークと、が存在しており、2相が共存していることが明確に確認できる。さらに、写真に黒い小さい粒子は斜方晶Ba0.1Ca0.9TiO:Pr固溶体(チタン酸カルシウム)、白い大きい粒子は正方晶Ba0.77Ca0.23TiO:Pr(チタン酸バリウム)であり、小さい粒子は大きい粒子の粒界に均一に分散されている。
【0111】
Pr3+は、2相共存状態の混相において、Ba2+及びCa2+の両方と置き換わることができる。Pr3+は、強誘電性正方晶相内のBa2+と置き換わることで強誘電性の特性を増長し、斜方晶相内のCa2+と置き換わることで赤色発光中心を供給する。
【0112】
図21に、BCT−20、23、25、30、40、50の電歪(ES)特性を示す。同図に示すように、本実施例の混相状態にある試料は優れた電歪特性を示した。特に、2相共存状態となる、2相領域内の溶解限界近傍にあるBCT−25,30は、何れもきれいなバタフライカーブを描いた。これは、図22に示す電場に対する分極のグラフが描くヒステリシスループに合致している。また、図22に示されたヒステレス特性から、BCT−20、23、25、30、40、50の強誘電特性が優れていることが分かる。
【0113】
±55kV/cm、Hzの駆動電場において、BCT−25(x=0.25)が0.264%程度の強い電歪を達成した。この電歪の値は、BaTiOセラミックの電歪より176%高い、すなわち、BaTiOセラミックの電歪を100%とすると、BCT−25の電歪は176%となる。
【0114】
[(1−x)BaTiO3−xCaTiO3]:Pr試料の2相領域(0.25≦x≦0.90)において、x=0.60のBCT−60は、強いML及びEL放出を実現した。図23にBCT−60のML(Mechanoluminescence)を示す。図23(a)、(b)は圧力を加えている間、肉眼で観察可能な赤色ML放出をしているBCT−60ペレットを示しており、図23(c)は、ML強度が加えられる圧力に比例することを示している。なお、図23(c)では、上側の曲線がML強度を示しており、下側の曲線はBCT−60ペレットに加えられた圧力の大きさを示している。なお、ここでは、BCT−60の結果について具体的に説明したが、後述するように2相領域(0.25≦x≦0.90)の試料は、何れも同様の性質を示すことを確認している。なお、これらの性質は、Pr3+がドープされたBaTiOまたはCaTiOには、全く存在しないものである。また、上記した[(1−x)BaTiO3−xCaTiO3]:Pr試料の2相領域(0.25≦x≦0.90)について確認された現象は、以前Eu2+をドープした単一相SrAlについて出願人が既に確認している応力発光現象と同様なものであるが、結晶相は全く異なっており、発光スペクトルも異なる。
【0115】
BCT−60の電場発光特性(EL)を図24に示す。同図に示すように、交流電源(60Hz)を‘on’にしたとき、EL強度は大きく減衰した後、電場によって若干変化しながらも安定していく。このように、BCT−60は、電場発光特性が優れていることが示されている。なお、同図中の拡大図は、Time=3100〜3125の範囲を拡大したものである。図25にEL強度と電場の大きさとの関係を示す。同図に示すように、電場が大きくなることに伴ってEL強度も大きくなることが分かる。
【0116】
また、図26にBCT−30の電場発光特性(EL)を示す。同図に示されているように、BCT−30もBCT−60同様に、優れた電場発光特性を示していることが分かる。このように、混相は電場発光特性において優れている。
【0117】
次にML及びELの放出における特徴を明らかにするために、ML及びELのスペクトルと光ルミネッセンス(PL)のスペクトルとを比較した。BCT−30について、ML、EL、及び、PLのスペクトルを重ねて記載したグラフを図27に示す。また、BCT−60について同様のスペクトルを重ねて記載したグラフを図28に示す。
【0118】
図27に示すように、BCT−30のML及びELのスペクトルのピークは、何れも618nmに位置しており一致しているが、PLのピーク(612nm)から少しシフトしている。この事実は、Pr3+ドープBaTiO−CaTiOセラミックのML、EL、及び、PLが、Pr3+ドープCaTiOと同じ発光中心から光を放出することを示している。すなわち、Pr3+ドープBaTiO−CaTiOセラミックのML、EL、及び、PLが、CaTiO−を主とするホストにおけるPr3+転移によって光を放出することを示している。
【0119】
以上に述べた現象は、Ba0.1Ca0.9TiO3:Prのイオン分極と、Ba0.77Ca0.23TiO:Pr内の強誘電性領域(ferroelectric domain)との間の強い相互作用のモデルを用いて説明することができる。第一に、我々はES、ML及びELを制御する要素について調べた。電歪(ES)は、外部の電場によって駆動される非180°ドメイン回転(non-180°domain rotation)から生じると考えられている。また、ML及びELはどちらも、固体内の圧電及び転位と強く結びついており、これらは、もしそれが特定の効率をもつ発光中心を有していれば、強いML及びELを示すであろう。
【0120】
本実施例においては、[(1−x)BaTiO−xCaTiO]:Pr(0.25≦x0.90)セラミックは、正方晶Ba0.77Ca0.23TiO:Pr固溶体、及び斜方晶Ba0.1Ca0.9TiO:Pr固溶体を含む混相である。広い温度範囲(少なくとも−180℃〜120℃の範囲)において、前者は強誘電性であり、後者は常誘電性を有するものである。
【0121】
CaTiOは初期の強誘電性(incipient ferroelectric)つまり強誘電性様の性質を示す。Ba0.1Ca0.9TiO:Prは、CaTiO:Prよりも大きなイオン分極を有するので、CaTiO:Prが有する誘電定数(約145)よりも大きな誘電定数(約200)を示す。
【0122】
本実施例の混相のセラミック(0.25≦x0.90)では、Ba0.1Ca0.9TiO:Pr粒子がセラミック中に分散している。すなわち、図20の(b)の写真を示す図において、濃い色の粒子であるBa0.1Ca0.9TiO:Pr粒子が、同図中において薄い色の粒子である強誘電性のBa0.77Ca0.23TiO:Pr粒子中に分散している。そして、Ba0.1Ca0.9TiO:Pr粒子のイオン分極は、囲んでいるBa0.77Ca0.23TiO:Pr粒子中の非180°ドメインと結びつく。このような分極は、外部の電場が存在する間における、セラミックの分極率及びドメイン回転能力を増強する。
【0123】
したがって、溶解限界近傍のx=0.25である混相のセラミックでは大きな電歪が得られる。また、非強誘電性部分がかなり多いにも関わらず、x=0.30の試料の電歪は、0.11%という大きな値を保持していた。
【0124】
Pr3+添加BaTiO及びBa1−xCaxTiO固溶体(x<0.25)ではルミネッセンスが弱いことから、[(1−x)BaTiO−xCaTiO]:Pr(0.25≦x≦0.90)の混相の強い赤色発光は、Ba0.1Ca0.9TiO:Pr相に強く関連するものと考えられる。
【0125】
混相のセラミック(図20参照)では、Ba0.1Ca0.9TiO:PrとBa0.77Ca0.23TiO:Prの粒子は、3次元方向に強く結合しており、またナノ及びマイクロメートルのスケールで3次元方向に相互作用している。このような状態は、市販の製品には見られないものである。市販の製品では、強誘電性と発光性とを備えた薄膜は、当該膜を構成する粒子の物理的な接触及び相互作用は、何れも1次元方向に沿ったものである。
【0126】
機械的的圧力あるいは電場がセラミックに加えられたとき、強誘電性(圧電性でもある)のBa0.77Ca0.23TiO3:Pr粒子は、Ba0.1Ca0.9TiO:Prに対して表面電荷を供給し、Ba0.1Ca0.9TiO:Pr粒子を転位(dislocation)させる。そして、Ba0.1Ca0.9TiO:Pr粒子とBa0.77Ca0.23TiO:Pr粒子との強い相互作用によって、発光中心のキャリアが高エネルギー準位に励起される。以上のようにして、適切な遷移(transition)が起きたときにMLまたはEL放出が見られる。
【0127】
BCT−60、70、80、90、95、100の測定結果のうち、励起(excitation)のスペクトルを図29に示し、発光(emission)のスペクトルを図30に示す。BCT−95は最も高い蛍光を示すことがわかった。なお、図29のEm:〜612nmは、発光波長が612nm時の励起スペクトルであること(Em=Emission=発光)、Ex:〜336nmは、励起波長が336nm時の発光スペクトルであることを示している。
【0128】
また、BCT−20、25、30、40、50の測定結果のうち、抗電場(Ec)及び残留分極(Pr)について、図31(a)(b)に示す。同図に示すように、本実施例の試料は何れも、抗電場Ecが低く、残留分極Prが高いことが分かる。また、BCT−20、23、25、30、40、50及び[BaTiO]:Pr(BT−pure)について、電気誘起ひずみを測定した結果を図32に示す。同図に示すように、本実施例の混相である試料は、[BaTiO]:Prよりはるかに高い電気誘起ひずみを示し、混相は優れる特性を示すことが分かる。
【0129】
BCT−30、50、60、70について、印加される電圧(Electric field)と電場発光強度(EL Intensity)との関係を表したグラフを図33に示す。同図によれば、BCT−30、50、60、70は何れも、低電圧で発光するものであることが分かる。
【0130】
Caの比率xを変化させた試料について、1Hz,50kV/cm条件下で、電歪特性を測定した結果を図34に示す。同図に示すように、Caの比率が25%〜90%(モル%)である混相の試料では、Pr及びCaの配合量を最適化することにより、単一相よりも大きく向上させることができた。特に、相固溶限界を超えた混相に位置する、図中にAで示したピーク上にあるCa30%の試料では、非常に高い0.264%もの電歪特性が認められた。
【0131】
Caの比率xを変化させた試料について、蛍光特性(紫外線励起発光)を測定した結果を図35に示す。同図に示すように、Pr及びCaの配合量を最適化することにより、蛍光特性を大きく向上させることができた。
【0132】
Caの比率xを変化させた試料について、電場発光を測定した結果を図36に示す。同図に示すように、Pr及びCaの配合量を最適化することにより、単一相ではない混相常態の試料によって電場発光機能を発現することができた。特に、図中にBで示したピークの存在するCaの比率xが約40−80%近傍にある混相の試料には、高い電場発光機能が認められた。また、Caの比率xが約60%である混相の試料に、最大の電場発光機能が認められた。
【0133】
Caの比率xを変化させた試料について、応力発光を測定した結果を図37に示す。同図に示すように、図34の電歪のピークAに対応する、Caの比率xが約30%の位置、及び、図36の電場発光のピークBに対応する、Caの比率xが約60%の位置において、応力発光のピークが存在している。このことから、本実施例の試料の応力発光は、電歪・圧電と電場発光との相乗効果によって奏されるものであることがわかった。
【0134】
〔本実施例のまとめ〕
以上をまとめると、溶解限界を超えた混相領域近傍(0.25≦x≦0.30)にある[(1−x)BaTiO−xCaTiO]:Prセラミックにおいて、高い電歪、応力発光及び電場発光の全てを実現することができた。そして、2相性領域(0.25≦x≦0.90)では、Ba0.1Ca0.9TiO:Prの大きなイオン分極と、Ba0.77Ca0.23TiO:Prのドメインとの間の相互作用は、ES特性を改善し、高いML特性及び高いEL特性を生み出す上で、重要な因子として機能していると考えられる。このような特性は、Pr3+ドープBaTiO及びPr3+添加CaTiOの固溶体には認められないものである。
【0135】
電歪特性(ES)、応力発光(ML)強度、及び、電場発光(EL)強度の組成依存性を調べることにより、以下の知見が得られた。Caの比率を増やして40%よりも大きくすることにより電歪が減少し、xが0.50の試料では約0.043%となった。このことから、Caの比率の高いものは、電歪の用途には不都合であるといえる。
【0136】
また、xが増加して0.40以上となると、ML強度及びEL強度が大きくなり始め、0.60付近に最大を示す。このことは、2相性領域(0.25≦x≦0.90)において、ML強度及びEL強度の高い材料の用途には、Caの比率の高いものが有用であることを示している。ただし、xが30%付近では、高い電歪と応力発光示すと同時に、比較的に高い電場発光を示している。
【0137】
強誘電性材料と非強誘電性材料との2つの結晶相は共存する混成物(2相の混相)であって、複数の機能を有する本実施例の試料は、広い範囲の多様な材料から、新しい多機能性材料や、高い単一機能(ES特性、ML強度又はEL強度、の高いものなど)を備えた材料の開発に大いに役立つものといえる。
【比較例】
【0138】
上記本発明の実施例2に示した、0.25≦x≦0.90の範囲内で混相を形成する[(1−x)BaTiO3−xCaTiO]:Prと比較するために、BaSrTiO+Pr+Al系の試料を作製して、蛍光、応力発光、及び、電場発光について調べた。なお、試料は、所定の組成比に秤量したものをエタノールと混ぜて、ボールミルを用いて混合し、酸素雰囲気中、1400℃で4時間の焼成により調製した。
【0139】
上記のようにして調製されたBaSrTiO+Pr+Al系の試料は、Srの比率を変化させたもの全てが、混相ではなく、単一の結晶構造であることを、走査電子顕微鏡による観察並びにXRD測定により確認した。このため、本比較例の試料を発光させるためには、Pr又はAlを添加することが必要があった。そこで、Alの添加量を1%、3%として調製したものについてXRD測定を行いった。この結果、Alを添加した試料では、添加していないものと比較してピークシフトが認められ、Alが比較例の試料の結晶構造に固溶していることが分かった。
【0140】
また、Alが添加された試料は蛍光を発することが認められ、Sr比率が40%の試料の蛍光強度が最大となることを確認した。しかしながら、本比較例の試料は、応力発光及び電場発光を発現するものではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明の発光材料は、応力により発光する新規な発光材料、圧電体、電歪体、強誘電体、電場発光体、及び応力発光体としての用途に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械的な外力が加えられることにより発光する発光材料であって、
ZnO0.6MnS0.4−xMnTe(0.001≦x≦0.05)からなることを特徴とする発光材料。
【請求項2】
ウルツ鉱型構造の酸化亜鉛の結晶相、立方晶又はウルツ鉱型構造の硫化亜鉛の結晶相、及び、立方晶の酸化マンガンの結晶相の中から選択される少なくとも2種類以上の結晶相が混在してなる混相を含み、当該混相を構成する金属イオンの一部が、Teイオンに置換されていることを特徴とする請求項1に記載の発光材料。
【請求項3】
サイズの異なる複数の結晶相を有し、上記酸化マンガンの結晶相は大きい粒子サイズであり、上記硫化亜鉛の結晶相および上記酸化亜鉛の結晶相は小さい粒子サイズで構成されているとともに、小さい粒子サイズの結晶相は大きい粒子サイズの結晶相の粒子間に均一に分散していることを特徴とする請求項2に記載の発光材料。
【請求項4】
赤色発光材料であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の発光材料。
【請求項5】
発光強度が上記機械的な外力の大きさに比例するものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の発光材料。
【請求項6】
ZnO0.6MnS0.4−xMnTe(0.001≦x≦0.05)からなることを特徴とする電場発光体。
【請求項7】
ウルツ鉱型構造の酸化亜鉛の結晶相、立方晶又はウルツ鉱型構造の硫化亜鉛の結晶相、及び立方晶の酸化マンガンの結晶相の中から選択される少なくとも2種類以上の結晶相が混在してなる混相を含み、当該混相を構成する金属イオンの一部が、Teイオンに置換されていることを特徴とする請求項6に記載の電場発光体。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載された発光材料又は電場発光体の製造方法であって、複数の結晶構造の混在した混相となる比率の原料を混合するステップを含むことを特徴とする発光材料又は電場発光体の製造方法。
【請求項9】
製造時における、前記原料を混合する原料容器の真空度を10−1Pa以上とすることを特徴とする請求項8に記載の発光材料又は電場発光体の製造方法。
【請求項10】
亜鉛を添加した酸化マンガン結晶の合成中に、硫黄を添加することを特徴とする請求項8または9に記載の発光材料又は電場発光体の製造方法。
【請求項11】
さらに、硫黄とテルルを同時に添加することを特徴とする請求項10に記載の発光材料又は電場発光体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【公開番号】特開2010−77437(P2010−77437A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−239357(P2009−239357)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【分割の表示】特願2004−343000(P2004−343000)の分割
【原出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】