説明

発光素子アレイチップ、発光素子ヘッドおよび画像形成装置

【課題】発光素子アレイチップを駆動させるための信号に外乱が混入した場合でも、損傷が生じにくい発光素子アレイチップ等を提供する。
【解決手段】主走査方向に列状に配される発光サイリスタL1、L2、L3、L4、…と、発光サイリスタL1、L2、L3、L4、…を駆動する信号を入出力するためのボンディングパッド82と、発光サイリスタL1、L2、L3、L4、…とボンディングパッド82とを接続する配線部と、配線部に接続し、配線部に入力する外乱から配線部および発光サイリスタL1、L2、L3、L4、…を保護するための保護素子113と、を備えることを特徴とする発光素子アレイチップC1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子アレイチップ、発光素子ヘッド、画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を採用した、プリンタや複写機、ファクシミリ等の画像形成装置では、一様に帯電された感光体上に、画像情報を光記録手段によって照射することにより静電潜像を得た後、この静電潜像にトナーを付加して可視化し、記録紙上に転写して定着することによって画像形成が行なわれる。かかる光記録手段として、レーザを用いて主走査方向にレーザ光を走査させて露光する光走査方式の他、近年では、LED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)アレイ光源を主走査方向に多数、配列してなるLEDヘッドを用いた光記録手段が採用されている。
【0003】
特許文献1には、p型基板上に、p型半導体層、n型半導体層、p型半導体層、n型半導体層が積層され、PNPN構造を形成しており、カソード層はカソード島を構成しつつ、活性層、アノード層と同じメサ面で分離されており、その周辺部がエッチングされて、厚さの薄い部分が形成されている発光サイリスタが開示されている。
また特許文献2には、左側回路と右側回路に分かれ、左右の回路ごとに、クロックパルスφ1,φ2、スタートパルスφ、書込み信号φをそれぞれ別系統とし、電源VGKのみは共通とする自己走査型発光素子アレイチップが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−179368号公報
【特許文献2】特開2002−111063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、発光素子アレイチップを駆動させるための信号に、例えば、ノイズやサージなどの外乱が混入することがある。この場合、外乱により生じうる発光素子アレイチップの損傷をチップ単体にて抑制することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、主走査方向に列状に配される複数の発光素子を有する発光素子アレイと、前記発光素子アレイを駆動する信号を入出力するための電極部と、前記発光素子アレイと前記電極部とを接続する配線部と、前記配線部に接続し、当該配線部に入力する外乱から当該配線部および前記発光素子アレイを保護するための保護素子と、を備えることを特徴とする発光素子アレイチップである。
【0007】
請求項2に記載の発明は、前記発光素子は、基板上に形成されるサイリスタからなり、
前記保護素子は、前記サイリスタの少なくとも前記基板側三層と共に形成されることを特徴とする請求項1に記載の発光素子アレイチップである。
請求項3に記載の発明は、前記保護素子は、電流制限抵抗としての機能を更に有することを特徴とする請求項1または2に記載の発光素子アレイチップである。
請求項4に記載の発明は、前記保護素子は、前記発光素子を点灯させるための点灯信号を送信する配線部に接続することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の発光素子アレイチップである。
【0008】
請求項5に記載の発明は、主走査方向に列状に配される複数の発光素子を有する発光素子アレイと、当該発光素子アレイを駆動する信号を入出力するための電極部と、当該発光素子アレイと当該電極部とを接続する配線部と、当該配線部に接続し、当該配線部に入力する外乱から当該配線部および前記発光素子アレイを保護するための保護素子と、を備える発光素子アレイチップと、当該発光素子アレイの光出力を結像させて感光体を露光し静電潜像を形成させるための光学素子と、を備えることを特徴とする発光素子ヘッドである。
【0009】
請求項6に記載の発明は、トナー像を形成させるトナー像形成手段と、前記トナー像を記録媒体に転写する転写手段と、前記トナー像を記録媒体に定着する定着手段と、を有し、前記トナー像形成手段は、主走査方向に列状に配される複数の発光素子を有する発光素子アレイと、当該発光素子アレイを駆動する信号を入出力するための電極部と、当該発光素子アレイと当該電極部とを接続する配線部と、当該配線部に接続し、当該配線部に入力する外乱から当該配線部および当該発光素子アレイを保護するための保護素子と、を備える発光素子アレイチップと、当該発光素子アレイの光出力を結像させて感光体を露光し静電潜像を形成させるための光学素子と、を有する発光素子ヘッドを備えることを特徴とする画像形成装置である。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、本構成を採用しない場合に比較して、発光素子アレイチップを駆動させるための信号に外乱が混入した場合でも、損傷が生じにくい発光素子アレイチップを提供できる。
請求項2の発明によれば、本構成を採用しない場合に比較して、保護素子を発光素子と共に作製することができる。
請求項3の発明によれば、本構成を採用しない場合に比較して、発光素子アレイチップの駆動を行なう駆動回路の構成がより簡単になる。
請求項4の発明によれば、本構成を採用しない場合に比較して、外乱から発光素子を保護することができる。
請求項5の発明によれば、本構成を採用しない場合に比較して、より安定的に動作する発光素子ヘッドを提供することができる。
請求項6の発明によれば、本構成を採用しない場合に比較して、より画像の乱れが少ない画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施の形態が適用される画像形成装置の全体構成の一例を示した図である。
【図2】本実施の形態が適用される発光素子ヘッドの構成を示した図である。
【図3】発光素子ヘッドにおける回路基板および発光部の上面図である。
【図4】(a)〜(b)は、本実施の形態が適用される発光チップの構造を説明した図である。
【図5】発光チップとして自己走査型発光素子アレイチップを採用した場合に回路基板上に形成される配線図を示した図である。
【図6】発光チップとして自己走査型発光素子アレイチップを採用した場合の回路構成を説明するための図である。
【図7】発光チップを駆動を行なう信号のタイミングチャートである。
【図8−1】発光チップを駆動させる駆動装置内の電流の流れについて説明した図である。
【図8−2】発光チップを駆動させる駆動装置内の電流の流れについて説明した図である。
【図8−3】発光チップを駆動させる駆動装置内の電流の流れについて説明した図である。
【図8−4】発光チップを駆動させる駆動装置内の電流の流れについて説明した図である。
【図9】保護素子の第1の形態を説明した図である。
【図10】保護素子の第2の形態を説明した図である。
【図11】保護素子の第3の形態を説明した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
<画像形成装置の説明>
図1は本実施の形態が適用される画像形成装置の全体構成の一例を示した図である。
図1に示す画像形成装置1は、一般にタンデム型と呼ばれる画像形成装置である。この画像形成装置1は、各色の画像データに対応して画像形成を行なう画像形成プロセス部10、画像形成プロセス部10を制御する画像出力制御部30、例えばパーソナルコンピュータ(PC)2や画像読取装置3に接続され、これらから受信された画像データに対して予め定められた画像処理を施す画像処理部40を備えている。
【0013】
画像形成プロセス部10は、一定の間隔を置いて並列的に配置される複数のエンジンからなる画像形成ユニット11を備えている。この画像形成ユニット11は、トナー像形成手段の一例である4つの画像形成ユニット11Y、11M、11C、11Kから構成されている。画像形成ユニット11Y、11M、11C、11Kは、それぞれ、静電潜像を形成してトナー像を保持する像保持体の一例としての感光体ドラム12、感光体ドラム12の表面に塗布された感光体を予め定められた電位で一様に帯電する帯電器13、帯電器13によって帯電された感光体を露光し静電潜像を形成する発光素子ヘッド14、発光素子ヘッド14によって形成された静電潜像を現像する現像手段の一例としての現像器15を備えている。ここで、各画像形成ユニット11Y、11M、11C、11Kは、現像器15に収納されたトナーを除いて、構成に違いはない。そして、画像形成ユニット11Y、11M、11C、11Kは、それぞれがイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)のトナー像を形成する。
また、画像形成プロセス部10は、各画像形成ユニット11Y、11M、11C、11Kの感光体ドラム12にて形成された各色のトナー像を記録媒体の一例としての記録用紙に多重転写させるために、この記録用紙を搬送する用紙搬送ベルト21と、用紙搬送ベルト21を駆動させるロールである駆動ロール22と、感光体ドラム12のトナー像を記録用紙に転写させる転写手段の一例としての転写ロール23と、記録用紙にトナー像を定着させる定着手段の一例としての定着器24とを備えている。
【0014】
この画像形成装置1において、画像形成プロセス部10は、画像出力制御部30から供給される各種の制御信号に基づいて画像形成動作を行う。そして、画像出力制御部30による制御の下で、パーソナルコンピュータ(PC)2や画像読取装置3から受信された画像データは、画像処理部40によって画像処理が施され、画像形成ユニット11に供給される。そして、例えば黒(K)色の画像形成ユニット11Kでは、感光体ドラム12が矢印A方向に回転しながら、帯電器13により予め定められた電位に帯電され、画像処理部40から供給された画像データに基づいて発光する発光素子ヘッド14により露光される。これにより、感光体ドラム12上には、黒(K)色画像に関する静電潜像が形成される。そして、感光体ドラム12上に形成された静電潜像は現像器15により現像され、感光体ドラム12上には黒(K)色のトナー像が形成される。同様に、画像形成ユニット11Y、11M、11Cにおいても、それぞれイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)の各色トナー像が形成される。
【0015】
各画像形成ユニット11で形成された感光体ドラム12上の各色トナー像は、矢印B方向に移動する用紙搬送ベルト21の移動に伴って供給された記録用紙に、転写ロール23に印加された転写電界により、順次静電転写され、記録用紙上に各色トナーが重畳された合成トナー像が形成される。
その後、合成トナー像が静電転写された記録用紙は、定着器24まで搬送される。定着器24に搬送された記録用紙上の合成トナー像は、定着器24によって熱および圧力による定着処理を受けて記録用紙上に定着され、画像形成装置1から排出される。
【0016】
<発光素子ヘッドの説明>
図2は、本実施の形態が適用される発光素子ヘッド14の構成を示した図である。この発光素子ヘッド14は、ハウジング61と、発光素子として複数のLEDを備えた発光部63と、発光部63や信号発生回路100(後述の図3参照)等を搭載する回路基板62と、発光部63から出射された光出力を結像させて感光体を露光し静電潜像を形成させるための光学素子の一例としてのロッドレンズ(径方向屈折率分布型レンズ)アレイ64とを備えている。
【0017】
ハウジング61は、例えば金属で形成され、回路基板62およびロッドレンズアレイ64を支持し、発光部63の発光点とロッドレンズアレイ64の焦点面とが一致するように設定されている。また、ロッドレンズアレイ64は、感光体ドラム12の軸方向(主走査方向)に沿って配置されている。
【0018】
<発光部の説明>
図3は、発光素子ヘッド14における回路基板62および発光部63の上面図である。
図3に示すように、発光部63は、回路基板62上に、60個の発光素子アレイチップの一例としての発光チップC(C1〜C60)を、主走査方向に二列に向かい合わせて千鳥状に配置して構成されている。さらに、回路基板62は、発光チップCの発光素子アレイ(後述の図4参照)を駆動する信号を生成する信号発生回路100を搭載している。
【0019】
<発光素子アレイチップの説明>
図4(a)〜(b)は、本実施の形態が適用される発光チップCの構造を説明した図である。
図4(a)は、発光チップCをLEDの光が出射する方向から見た図である。また図4(b)は、図4(a)のIVb−IVb断面図である。
発光チップCには、発光素子アレイの一例として主走査方向に列状に配される複数のLED81が直線状に等間隔で配されている。また基板80の両側に発光素子アレイを駆動する信号を入出力するための電極部の一例としてのボンディングパッド82が発光素子アレイを挟むようにして配されている。そしてそれぞれのLED81には光が出射する側にマイクロレンズ83が形成されている。このマイクロレンズ83により、LED81から出射した光は集光され、感光体ドラム12(図2参照)に対して、効率よく光を入射させることができる。
このマイクロレンズ83は、光硬化性樹脂等の透明樹脂からなり、より効率よく光を集光するためその表面は非球面形状をとることが好ましい。また、マイクロレンズ83の大きさ、厚さ、焦点距離等は、使用されるLED81の波長、使用される光硬化性樹脂の屈折率等により決定される。
【0020】
<自己走査型発光素子アレイチップの説明>
なお、本実施の形態では、発光チップCとして例示した発光素子アレイチップとして自己走査型発光素子アレイ(SLED:Self-Scanning Light Emitting Device)チップを使用するのが好ましい。自己走査型発光素子アレイチップは、発光素子アレイチップの構成要素としてpnpn構造を持つ発光サイリスタを用い、発光素子の自己走査が実現できるように構成したものである。
【0021】
図5は、発光チップCとして自己走査型発光素子アレイチップを採用した場合に回路基板62上に形成される配線図を示した図である。
図5に示したように、回路基板62上には、信号発生回路100から発光チップCに対して点灯信号φI(φI1〜φI60)を送信する信号ライン101(101_1〜101_60)、転送信号CK1(CK1_1〜1_6)を送信する信号ライン102(102_1〜102_6)、転送信号CK2(CK2_1〜2_6)を送信する信号ライン103(103_1〜103_6)、転送信号CKS(CKS_1〜S_6)を送信する信号ライン104(104_1〜104_6)が配線されている。また回路基板62上には、発光チップC(C1〜C60)に電力を供給する+3.3Vの電源ライン105および接地(GND)された電源ライン106が配線されている。
つまり、各発光チップCには、信号ライン101を介して、各発光チップCに対する点灯信号φIが入力される。また、信号ライン102を介して転送信号CK1(CK1_1〜1_6)が、信号ライン103を介して転送信号CK2(CK2_1〜2_6)が、信号ライン104を介して転送信号CKS(CKS_1〜S_6)がそれぞれ各発光チップCに入力される。転送信号CK1、転送信号CK2、転送信号CKSは、それぞれ10個の発光チップCを駆動することができるため、信号線102,103,104はそれぞれ6組ずつで足りる。
【0022】
図6は、発光チップとして自己走査型発光素子アレイチップを採用した場合の回路構成を説明するための図である。なお、ここでは、発光チップC1を例として説明を行うが、他の発光チップC2〜C60も発光チップC1と構成に違いはない。
【0023】
図6に示すように、発光チップC1は、60個の転送サイリスタS1〜S60と、60個の発光サイリスタL1〜L60と、61個のダイオードCR0〜CR60とを備える。また、発光チップC1は、駆動装置110として、抵抗RS、R1B、R2B、RIDと、コンデンサC1、C2と、を備える。更に発光チップC1は、ノイズやサージ等の外乱から転送サイリスタS1〜S60、発光サイリスタ(LED)L1〜L60、ダイオードCR0〜CR60を保護するための保護素子113を備える。なおここで発光サイリスタL1〜L60は、図4で説明を行なったLED81に対応する。
【0024】
ここで、各転送サイリスタS1〜S60のアノード端子A1〜A60は電源ライン105に接続されている。この電源ライン105には電源電圧VDD(VDD=+3.3V)が供給される。
奇数番目転送サイリスタS1、S3、…、S59のカソード端子K1、K3、…、K59は抵抗R1Aを介して信号発生回路100に接続されているが、抵抗R1Aと信号発生回路100との間は、抵抗R1Bが接続された信号線とコンデンサC1が接続された信号線とを並列に分岐したレベルシフト回路111が配されている。
さらに、偶数番目の転送サイリスタのカソード端子K2、K4、…、K60は抵抗R2Aを介して信号発生回路100に接続されているが、抵抗R2Aと信号発生回路100との間は、抵抗R2Bが接続された信号線とコンデンサC2が接続された信号線とを並列に分岐したレベルシフト回路112が配されている。
【0025】
一方、各転送サイリスタS1〜S60のゲート端子G1〜G60は、各転送サイリスタに対応して設けられた抵抗R1〜R60を介して電源ライン106に各々接続されている。なお、電源ライン106は接地(GND)されている。
また、各転送サイリスタS1〜S60のゲート端子G1〜G60と、各転送サイリスタS1〜S60に対応して設けられた発光サイリスタL1〜L60のゲート端子とは各々接続される。さらに、各転送サイリスタS1〜S60のゲート端子G1〜G60には、ダイオードCR1〜CR60のアノード端子が接続されている。ダイオードCR1〜CR60のカソード端子は、次段のゲート端子に各々接続されている。すなわち、各ダイオードCR1〜CR60は直列接続されている。
【0026】
ダイオードCR1のアノード端子はダイオードCR0のカソード端子に接続され、ダイオードCR0のアノード端子は電流制限抵抗である抵抗RSを介して信号発生回路100に接続されている。また、発光サイリスタL1〜L60のカソード端子は、電流制限抵抗である抵抗RIDを介して信号発生回路100に接続されている。そして抵抗RIDおよび発光サイリスタL1〜L60の間には、保護素子113が配される。なお、発光サイリスタL1〜L60は、一例としてAlGaAsPまたはGaAsPで構成され、バンドギャップは約1.5Vである。
【0027】
信号発生回路100により生成された発光素子アレイを駆動する信号は、駆動装置110を介し発光チップCに設けられたボンディングパッド82に送出される。そしてボンディングパッド82から転送サイリスタS1〜S60、発光サイリスタL1〜L60、ダイオードCR0〜CR60に対し更に送出される。よって転送サイリスタS1〜S60、ダイオードCR0〜CR60、および転送サイリスタS1〜S60、発光サイリスタL1〜L60、ダイオードCR0〜CR60を相互に結ぶ配線は、発光素子アレイである発光サイリスタL1〜L60と電極部であるボンディングパッド82とを接続する配線部として捉えることができる。そして本実施の形態では保護素子113は、この配線部に接続し、配線部に入力する外乱から配線部および発光サイリスタL1〜L60を保護する役割を担う。
【0028】
次に、本実施の形態の作用について、図7に示すタイミングチャートを参照して説明する。
(1)初期状態では、すべての転送サイリスタS1、S2、S3、S4、…、S60には電流が流れないため、オフしている(図7(a))。
【0029】
(2)初期状態から、転送信号CK1Rをローレベル(「L」)にすると(図7(b))、レベルシフト回路111では、図8−1に示したように矢印の方向へ電流が流れ、やがて転送信号CK1の電位がGNDになる。転送信号CK1Cの電位は3.3Vなので、コンデンサC1の両端電位は3.3V(VDD)になる。この場合、図7(b)のタイミング点線部分のように、転送信号CKSをハイレベル(「H」)としてもよい。
【0030】
(3)これと同時に、転送信号CKSを「H」、転送信号CK1Cを「L」にすると(図7(c))、転送信号CK1の電位は、コンデンサC1に電荷が蓄積されているため、約−33Vになる。また、ゲートG1電位は、ΦS電位−Vf=約1.8Vとなる。ここで、ΦS電位=約3.3Vであり、VfはAlGaAsのダイオード順方向電圧を意味し、約1.5Vである。さらに、Φ1電位=G1電位−Vf=0.3Vとなる。このため、信号線Φ1と転送信号CK1との間に約3.7Vの電位差が生じる。
【0031】
そして、この状態において、図8−2に示すように、ゲートG1→信号線Φ1→転送信号CK1のルートで転送サイリスタS1のゲート電流が流れ始める。その際に信号発生回路100のトライステートバッファーB1Rをハイインピーダンス(Hi−Z)にすることで、電流の逆流防止を行う。
その後、転送サイリスタS1のゲート電流により、Tr2がオンし、それによってTr1のース電流(Tr2のコレクタ電流)が流れ、Tr1がオンするという順序で転送サイリスタS1がオンし始め、ゲート電流が徐々に上昇する。それとともに、レベルシフト回路111のコンデンサC1に電流が流れ込むことで、転送信号CK1の電位も徐々に上昇する。
【0032】
(4)予め定められた時間(転送信号CK1電位がGND近傍になる時間)の経過後、信号発生回路100のトライステートバッファーB1Rを「L」にする(図7(d))。そうすると、ゲートG1電位が上昇することによって信号線Φ1電位の上昇および転送信号CK1電位の上昇が生じ、それに伴いレベルシフト回路111の抵抗R1B側に電流が流れ始める。その一方で、転送信号CK1電位が上昇するのに従い、レベルシフト回路111のコンデンサC1に流れ込む電流は徐々に減少する。
そして転送サイリスタS1が完全にオンし、定常状態になると各点の電位は図8−3に示したようになる。すなわち、転送サイリスタS1のオン状態を保持するための電流がレベルシフト回路111の抵抗R1Bに流れるが、コンデンサC1には流れない。なお、転送信号CK1の電位は、CK1電位=1.8−1.8×R1B/(R1A+R1B)である。
【0033】
(5)転送サイリスタS1が完全にオンした状態で、点灯信号IDを「L」にする(図7(e))。このとき、ゲートG1電位>ゲートG2電位(ゲートG1電位−ゲートG2電位=1.8V)であるため、サイリスタ構造の発光サイリスタL1のほうが早くオンし、点灯する。発光サイリスタL1がオンするのに伴って、信号線Φ1電位が上昇し、信号線Φ1電位=ゲートG2電位=1.8Vとなるため、発光サイリスタL2以降の発光サイリスタはオンすることはない。すなわち、L1、L2、L3、L4…、L60は、最もゲート電圧の高い発光サイリスタのみがオン(点灯)することになる。
【0034】
(6)次に、転送信号CK2Rを「L」にすると(図7(f))、図7(b)の場合のように電流が流れ、レベルシフト回路112のコンデンサC2の両端に電圧が発生する。図7(f)の終了直前の定常状態において、ゲートG2電位が1.8Vあるため、各点の電圧値は図7(b)の場合とは若干異なるが、動作上影響はない。これは、図7(f)の終了直前の定常状態では、信号線Φ2電位=ゲートG2電位−Vf=1.8V−1.5V=0.3V程度あるため、図8−4に示したように、点線の方向に転送サイリスタS2にゲート電流が流れるが、これがわずかであるため転送サイリスタS2はオンしないからである。なお、この場合の転送信号CK2電位は、CK2電位=0.3−0.3×R2B/(R2A+R2B)≒0.15程度である。
【0035】
(7)この状態で転送信号CK2Cを「L」にすると(図7(g))、転送サイリスタスイッチS2がターンオンする。
【0036】
(8)そして、転送信号CK1C、CK1Rを共に「H」にすると(図7(h))、転送サイリスタスイッチS1はターンオフし、抵抗R1を通って放電することによってゲートG1電位は除々に下降する。その際、転送サイリスタスイッチS2のゲートG2は3.3Vになり、完全にオンする。したがって、画像データに対応した点灯信号ID端子を「L」/「H」することで、発光サイリスタL2を点灯/非点灯させることが可能となる。なお、この場合ゲートG1の電位はすでにゲートG2の電位より低くなっているため、発光サイリスタL1がオンすることはない。
【0037】
このように、本実施の形態によれば、転送信号CK1、CK2を交互に駆動することにより、転送サイリスタS1、S2、S3、S4…、S60の転送サイリスタスイッチのオン状態を遷移することができるため、発光サイリスタL1、L2、L3、L4…、L60を時分割で点灯/非点灯を選択的に制御可能となる。
【0038】
<保護素子の説明>
次に、保護素子113について更に詳細に説明を行なう。
図9は、保護素子113の第1の形態を説明した図である。
図9は、保護素子113が配された発光チップCの断面図であり、点灯信号φIを送信する信号ライン101に沿った断面を示している。図9に示すように、発光チップCは、基板80上に点灯信号φIを入力するためのボンディングパッド82と、保護素子113と、発光サイリスタL1〜L60が順に形成されている。また絶縁層114を介して信号ライン101が、ボンディングパッド82、保護素子113、発光サイリスタL1〜L60上に延びている。そして信号ライン101は、カソード端子115を介してボンディングパッド82、保護素子113、発光サイリスタL1〜L60と接続している。
【0039】
本実施の形態では、保護素子113は、発光サイリスタL1〜L60の構造を利用して、発光チップCに内蔵して形成される。つまり発光サイリスタL1〜L60は、基板80側からpnpn型の四層構造を採るか、またはnpnp型の四層構造を採るかのどちらか一方である。そして保護素子113は、この四層構造をそのまま利用して形成することができる。これにより保護素子113を発光サイリスタL1〜L60と共に作製することができるため、別途工程を設けることなく、例えば発光サイリスタL1〜L60のダミーとして保護素子113を作製することが可能である。なお本実施の形態では、発光サイリスタL1〜L60や保護素子113がpnpn型の四層構造を採る場合で説明を行なう。
【0040】
ボンディングパッド82を通し、ノイズやサージ等の外乱が入力した場合、外乱は、信号ライン101を通し伝送する。ただし保護素子113が、ボンディングパッド82と発光サイリスタL1の間に設けられているため、この外乱は、発光サイリスタL1に達するより早く保護素子113に到達する。この際、外乱の電圧が予め定められた値(例えば、20V〜30V)より大きい場合は、保護素子113がターンオンし、外乱を基板80側に逃がすことができる。つまり保護素子113内部には、サイリスタの各層のpn接合間で生ずる逆バイアス状態の領域が存在するため、通常信号ライン101に流れる点灯信号φIの電圧では、保護素子113がターンオンすることはない。しかしながら予め定められた値より大きい電圧が保護素子113に印加された場合は、保護素子113がターンオンし、電流を基板80側に逃がす。そのため発光チップC内部を保護することができる。また外乱が予め定められた電圧以下(例えば、2V〜3V)であった場合でも、この保護素子113の内部に逆バイアス状態の領域が存在するために、これにより外乱は緩和される。即ちこの場合は、保護素子113は、容量性の保護素子としての機能を発揮し、そのため発光チップC内部が損傷することは少ない。
【0041】
なお実際に保護素子113がターンオンし、外乱を基板80側に逃がした場合でも、保護素子113の保護機能が失われることは少ない。即ち、この場合、カソード端子115を構成する金(Au)等と信号ライン101を構成するアルミニウム(Al)等が合金を形成し、劣化を生ずることになるが、保護素子113の保護機能は、再度使用することが可能であることが多い。
【0042】
上述した例では、保護素子113は、サイリスタの四層構造をそのまま利用していたが、これに限られるものではなく、サイリスタの少なくとも基板80側三層を利用して形成されれば足りる。
【0043】
図10は、保護素子113の第2の形態を説明した図である。
図10は、保護素子113が配された発光チップCの断面図である。図10に示した発光チップCは、図9で示した発光チップCに対し、保護素子113が三層構造を採る点で異なる。即ち、保護素子113は、サイリスタの基板80側三層を利用して形成されている。
このような形態の保護素子113でもpnpの各層のpn接合間に逆バイアス状態の領域が存在するため保護素子としての機能を持たせることができる。そして図10で示した保護素子113場合は、三層構造であるため基板80との段差がより少ない。そのため図9に示した四層構造で形成する場合に比べ、信号ライン101を形成する際の段差がより少なくなる。そのため信号ライン101の断線が生じにくくなるという利点がある。
【0044】
また図11は、保護素子113の第3の形態を説明した図である。
図11は、保護素子113が配された発光チップCの断面図である。図11に示した発光チップCは、図9で示した発光チップCに対し、保護素子113が、信号ライン101の途中に設けられる。そのため信号ライン101は、保護素子113上に連続して形成されずに、保護素子113の両端に接続する。このような形態を採ることで、保護素子113に電流制限抵抗としての機能を更に付与することができる。即ち、保護素子113はサイリスタの四層構造を採るが、図11における最上層であるカソード層はシート抵抗が他の層に比べ低いため、抵抗として利用することができる。そして保護素子113を形成する際に、基板80上に占める面積を調整することで、保護素子113に予め定められた抵抗値を持たせることができる。よってこれにより保護素子113は、電流制限抵抗である抵抗RID(図6参照)の機能をも併せて有することになる。なお本実施の形態の場合のように、保護素子113に電流制限抵抗としての機能を更に付与した場合は、抵抗RIDは設けなくてよい。
【0045】
なお上述した例では、保護素子113を信号ライン101に接続して設けたが、これに限られるものではなく、信号ライン102,103,104に接続して設けてもよい。
ただし、保護素子113は、点灯信号φIを送信する信号ライン101および転送信号CKSを送信する信号ライン104に接続させることがより好ましく、更に点灯信号φIを送信する信号ライン101に接続させることが特に好ましい。
【0046】
つまり図6に示すように転送信号CK1を送信する信号ライン102および転送信号CK2を送信する信号ライン103には電流制限抵抗としてそれぞれ抵抗R1Aおよび抵抗R2Aが、発光チップC内部に設けられている。この場合、抵抗R1A、抵抗R2Aにより外乱を緩和することができる。そのため発光チップC内部が損傷する可能性は比較的低い。対して、信号ライン101および信号ライン104には、発光チップC内部ではなく、発光チップC外部に電流制限抵抗としての機能を発揮しうる抵抗RSおよび抵抗RIDが設けられる。そのため抵抗RSおよび抵抗RIDの後段で外乱が混入した場合は、保護素子113を設けないと発光チップC内部を保護する手段が存在しないことになる。
【0047】
また信号ライン101は、点灯信号φIを送信するため他の信号ラインより大きな電流を流す必要性からインピーダンスが比較的低く設計される。そのため他の信号ラインより外乱の影響を受けやすく、特に発光サイリスタL1,L2,L3、…、L60に損傷が生じやすい。そのため本実施の形態の保護素子113は、信号ライン101に設けることが、特に有効である。
【0048】
なお電流制限抵抗でも上述したように外乱を緩和する働きがあり、本実施の形態の保護素子113の機能と類似の機能を果たす。しかしながら電流制限抵抗で保護素子を構成した場合は、外乱を受けた場合に断線し、発光チップが機能しなくなることがある。一方、本実施の形態の保護素子113では、外乱を受けた結果、外乱に対する保護機能が失われても断線を生じるわけではなく、発光チップCはそのまま機能する。
更に、ボンディングパッド82の後段に電流制限抵抗を作製する場合、即ち配線部に接続して電流制限抵抗を作製する場合は、予め定められた抵抗値(例えば、50Ω〜100Ω)を与えるためには、発光チップ中で電流制限抵抗が占有する面積が大きくなりやすい。そのため発光チップ全体のサイズも大きくなりやすい。一方、本実施の形態の保護素子113では、その発光チップC中で保護素子113が占有する面積は、大体発光サイリスタL1〜L2と同様の大きさで足りる。そのため発光チップ全体のサイズも大きくなりにくい。
【0049】
またボンディングパッド82については、本実施の形態では、発光サイリスタL1〜L60を構成するpnpn型の四層構造を利用して作製することが可能である。ただしボンディングパッド82を保護素子として利用することは困難である場合がある。つまりボンディングパッド82は発光チップCの外部からの配線を接続する必要性から、その面積を大きくする必要がある。そのためボンディングパッド82の面積によっては容量値が大きくなりすぎ、ノイズやサージ等の外乱が混入した場合でも、ターンオンしにくいことがある。更に1個のpnpn型の四層構造を利用して複数個のボンディングパッド82を形成する場合は、ボンディングパッド82間で外乱が伝達するなどの二次障害が懸念される。このような場合は、ボンディングパッド82に対し、保護素子としての機能を付与することは困難である。
【符号の説明】
【0050】
1…画像形成装置、12…感光体ドラム、14…発光素子ヘッド、23…転写ロール、24…定着器、64…ロッドレンズアレイ、81…発光素子、82…ボンディングパッド、100…信号発生回路、113…保護素子、φI1〜φI60…点灯信号、C1〜C60…発光チップ、S1,S2,S3,…,S60…転送サイリスタ、L1,L2,L3、…、L60…発光サイリスタ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
主走査方向に列状に配される複数の発光素子を有する発光素子アレイと、
前記発光素子アレイを駆動する信号を入出力するための電極部と、
前記発光素子アレイと前記電極部とを接続する配線部と、
前記配線部に接続し、当該配線部に入力する外乱から当該配線部および前記発光素子アレイを保護するための保護素子と、
を備えることを特徴とする発光素子アレイチップ。
【請求項2】
前記発光素子は、基板上に形成されるサイリスタからなり、
前記保護素子は、前記サイリスタの少なくとも前記基板側三層と共に形成されることを特徴とする請求項1に記載の発光素子アレイチップ。
【請求項3】
前記保護素子は、電流制限抵抗としての機能を更に有することを特徴とする請求項1または2に記載の発光素子アレイチップ。
【請求項4】
前記保護素子は、前記発光素子を点灯させるための点灯信号を送信する配線部に接続することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の発光素子アレイチップ。
【請求項5】
主走査方向に列状に配される複数の発光素子を有する発光素子アレイと、当該発光素子アレイを駆動する信号を入出力するための電極部と、当該発光素子アレイと当該電極部とを接続する配線部と、当該配線部に接続し、当該配線部に入力する外乱から当該配線部および当該発光素子アレイを保護するための保護素子と、を備える発光素子アレイチップと、
前記発光素子アレイの光出力を結像させて感光体を露光し静電潜像を形成させるための光学素子と、
を備えることを特徴とする発光素子ヘッド。
【請求項6】
トナー像を形成させるトナー像形成手段と、
前記トナー像を記録媒体に転写する転写手段と、
前記トナー像を記録媒体に定着する定着手段と、を有し、
前記トナー像形成手段は、
主走査方向に列状に配される複数の発光素子を有する発光素子アレイと、当該発光素子アレイを駆動する信号を入出力するための電極部と、当該発光素子アレイと当該電極部とを接続する配線部と、当該配線部に接続し、当該配線部に入力する外乱から当該配線部および当該発光素子アレイを保護するための保護素子と、を備える発光素子アレイチップと、当該発光素子アレイの光出力を結像させて感光体を露光し静電潜像を形成させるための光学素子と、
を有する発光素子ヘッドを備えることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図8−3】
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【図8−4】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−40698(P2012−40698A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181270(P2010−181270)
【出願日】平成22年8月13日(2010.8.13)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】