説明

発光素子

【課題】光吸収率を増加することなくチップ全体に電流を広げることができる電極構造を有する発光素子を提供する。
【解決手段】発光素子1は、光取り出し面としての第1の面と、第1の面に対向する第2の面とを有し、発光層63を有するIII−V族化合物半導体からなる積層構造10と、支持基板3と第2の面との間に設けられ発光層63の発光光を第1の面側に反射する反射金属膜4と、第1の面の一部に複数設けられて積層構造10と導電する第1電極70と、第1の面に設けられ第1電極70と導電する透明導電膜71と、透明導電膜71の上に設けられる電極パッド9とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図8(b)に示すように、活性層とSi基板の間に金属反射膜を挟んだ構造を採用した発光素子1Cが知られている。このような発光素子1Cを製造するにあたり、半導体エピタキシー成長における原材料としてレアメタルを含む有機金属原料を使用するため、原材料費が高価となる。そのため、半導体結晶(積層構造10)を薄くすることが、製造コストの面で好ましい。
【0003】
しかし、半導体層(積層構造10)を薄く構成すると、半導体層における電流分散の効果が低下し、電流を活性層63の全面に均一に注入することが困難となる。そこで、図8(a)に示すように、電極パッド9Cから分配電極90Cをチップ表面に張り巡らせることで、電流を積層構造10の全体に均一に注入し、より高信頼性で、かつ、最大印加電流値の高い発光素子を実現している。また、電流をチップ面内に均一に流すことによって駆動時の順方向電圧を低減し、実効的に高効率とすることができる。
【0004】
しかし、活性層63の面積が所定サイズ以上の比較的大型の発光素子(ラージチップサイズ)であって、例えば、DC100mA以上の駆動電流に対応して設計された発光素子において、電流を積層構造10の全体に広げるためには、分配電極90Cの面積を広げる必要があるが、活性層63で発光した光をチップ外部に取り出す際に、分配電極90Cが光を吸収するため、光取り出し効率が減少してしまうという問題がある。
【0005】
このような問題に対して、透明導電膜を利用した発光素子が考案されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載の発光素子は、透明導電膜によって積層構造全体に電流を広げるとともに、活性層で発光した光を吸収しないため、発光素子の光取り出し効率を向上することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−329889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の発光素子において、積層構造全体に電流を広げるには透明電極の膜厚を増加する必要があり、透明電極による光吸収を増加させないためには透明電極の膜厚を減少する必要があるため、電流を広げることと光吸収率を増加させないことを構造的に両立できないという問題があった。
【0008】
したがって、本発明の目的は、光吸収率を増加することなくチップ全体に電流を広げることができる電極構造を有する発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、支持基板と、光取り出し面としての第1の面と、前記第1の面に対向する第2の面と、前記第1の面と前記第2の面との間に発光層とを有するIII−V族化合物半導体からなる積層構造と、前記支持基板と前記第2の面との間に設けられ前記発光層の発光光を前記第1の面側に反射する反射金属膜と、前記第1の面の一部に複数設けられて前記積層構造と導電する第1電極と、前記第1の面に設けられ前記第1電極と導電する透明導電膜と、前記透明導電膜の上に設けられる電極パッドとを備える発光素子が提供される。
【0010】
また、上記発光素子において、前記第1電極は、平面視において前記第1の面上のうち前記パッド電極の設けられる領域を投影した領域外に配置されることが好ましい。
【0011】
また、上記発光素子において、上記反射金属膜界面と上記半導体層との間に、透明絶縁膜と、前記透明絶縁膜の一部を貫通して前記第2の面と前記反射金属膜とを導電する第2電極とをさらに備えることができる。
【0012】
また、上記発光素子において、前記第2電極は、平面視において前記第1の面上のうち前記第1電極の設けられる領域を投影した領域外に第2電極が配置されることが好ましい。
【0013】
また、上記発光素子において、前記第2電極は、平面視において前記第1の面上のうち前記電極パッドの設けられる領域を投影した領域外に第2電極が配置されることが好ましい。
【0014】
また、上記発光素子において、前記第2電極は、平面視において前記第1電極のそれぞれからの最短距離が略等距離に配置されることが好ましい。
【0015】
また、上記発光素子において、前記積層構造は、前記第1の面の表面に凹凸形状が形成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る発光素子によれば、光吸収率を増加することなくチップ全体に電流を広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1(a)は、本発明の実施の形態に係る発光素子の構造を説明するための平面図であり、図1(b)は図1(a)のA−A断面における断面図である。
【図2A】図2Aは、本発明の実施の形態に係る発光素子の製造工程を説明するための概略断面図である。
【図2B】図2Bは、本発明の実施の形態に係る発光素子の製造工程を説明するための概略断面図である。
【図2C】図2Cは、本発明の実施の形態に係る発光素子の製造工程を説明するための概略断面図である。
【図2D】図2Dは、本発明の実施の形態に係る発光素子の製造工程を説明するための概略断面図である。
【図2E】図2Eは、本発明の実施の形態に係る発光素子の製造工程を説明するための概略断面図である。
【図2F】図2Fは、本発明の実施の形態に係る発光素子の製造工程を説明するための概略断面図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態に係る発光素子の透明導電膜の膜厚と透過率との関係を説明するためのグラフ図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態に係る発光素子のAl組成xと接触抵抗との関係を説明するためのグラフ図である。
【図5】図5は、本発明の変形例に係る発光素子の構造を説明するための概略平面図である。
【図6A】図6Aは、本発明の実施例1に係る発光素子の電極パッドの面積と発光出力との関係を説明するためのグラフ図である。
【図6B】図6Bは、本発明の実施例1に係る発光素子の電極パッドの面積と順方向電圧との関係を説明するためのグラフ図である。
【図7A】図7Aは、本発明の実施例2に係る発光素子の第1電極の総面積と発光出力との関係を説明するためのグラフ図である。
【図7B】図7Bは、本発明の実施例2に係る発光素子の第1電極の総面積と順方向電圧との関係を説明するためのグラフ図である。
【図8】図8(a)は、従来の発光素子の構造を説明するための概略平面図であり、図8(b)は図8(a)のB−B断面における概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[実施の形態の要約]
支持基板と、光取り出し面としての第1の面と、前記第1の面に対向する第2の面とを有し、発光層を有するIII−V族化合物半導体からなる積層構造と、前記支持基板と前記第2の面との間に設けられ前記発光層の発光光を前記第1の面側に反射する反射金属膜とを備える発光素子において、前記第1の面の一部に複数設けられて前記積層構造と導電する第1電極と、前記第1の面に設けられ前記第1電極と導電する透明導電膜と、前記透明導電膜の上に設けられる電極パッドとを備える発光素子が提供される。
【0019】
[実施の形態]
図1(a)は、本発明の実施の形態に係る発光素子の構造を説明するための概略平面図であり、図1(b)は図1(a)のA−A断面における概略断面図である。
【0020】
発光素子1は、Si等からなる支持基板3上に、支持基板3側へ発した光を活性層63側に反射する反射金属膜4と、反射金属膜4とP型コンタクト層60とを電気的に接続する第2電極50及び発光光を透過する透明絶縁膜51と、P型コンタクト層60と、P型クラッド層61と、光を発する活性層63と、光取り出し効率向上のために表面に凹凸形状を有するN型クラッド層64と、N型コンタクト層65と、N型コンタクト層65上に複数形成される第1電極70と、N型クラッド層64及び第1電極70の表面を覆って形成される透明導電膜71と、透明導電膜71の表面及び側面、N型クラッド層64の側面、活性層63の側面並びにP型クラッド層61の側面を覆って形成される透明絶縁膜8と、N側電極である電極パッド9とがこの順で積層され、支持基板3の裏面にP側電極である裏面電極2を備える。
【0021】
反射金属膜4は、発光光の波長に対して80%以上の反射率を有する金属膜が好ましい。例えば、赤色波長帯の光に対しては、Au、Ag、Alのいずれか又はこれらの合金からなることが好ましい。青色波長帯の光に対しては、Ag、Al、又はこれらの合金が好ましい。
【0022】
透明絶縁膜51は、発光光に対して透明であり、半導体層60〜65(以下、「積層構造10」という。)と反射金属膜4との間に挟さまれている。透明絶縁膜51の膜厚は発光波長λ、透明誘電体層の屈折率をnとした場合に、(2×λ)/(4×n)以上の膜厚であることが好ましい。また、具体的には透明誘電体層はSiO、SiNから構成される。
【0023】
透明導電膜71は、発光素子1面内に電流を広げる役割として機能するため、少なくとも1×10−3Ω・cm以下の抵抗率を有し、さらに膜厚は少なくとも50nm以上であることが好ましい。
【0024】
また、透明導電膜71は.電流を発光素子1面内に広げるために、光取り出し面側には必要だが、活性層63の側面部に形成すると、PN接合のリークとなるため形成しない。
【0025】
また、本実施の形態の積層構造10は厚みが比較的薄く、例えば、1〜6μmの厚みに構成されている。つまり、N型コンタクト層65の表面から活性層63間の距離が小さい。そのため発光素子1のチップを機械的にピックアップする際に、発光素子1の側面への接触等によるダメージによりPN接合のリークが発生しやすいので、発光素子1の側面(活性層63側面)には、この機械的ダメージから保護するために透明絶縁膜8を形成することが好ましい。また、発光素子1において透明絶縁膜8が形成される部位の幅(透明絶縁膜8の厚さを含む)は、支持基板3の幅以下とするとよい。
【0026】
また、透明絶縁膜8を光取出し面側にも設ける場合には、電極パッド9の周囲と透明絶縁膜8との間が接触しないよう離間領域を形成しても良い。これは透明絶縁膜8により、電極パッド9に発生する応力を抑制するためである。
【0027】
図3は、本発明の実施の形態に係る発光素子の透明導電膜の膜厚と透過率との関係を説明するためのグラフ図である。
【0028】
透明導電膜71を構成する材料にはITO等を用いることができる。透明導電膜71の膜厚と波長630nmの発光光に対する透過率との関係を図3に示す。透明導電膜71の膜厚が、1.0μm以上になると、透明導電膜71の光吸収率が大きく、発光素子1の発光出力が小さくなる。したがって、透明導電膜71は、1.0μm以下の膜厚にすることが好ましい。
【0029】
また、例えば、平面視にて1mm角のラージチップサイズのLEDの場合、透明導電膜71の膜厚が1.0μmの場合、十分に電流を分散させることができないため、電極パッド9から対角線上に伸びる分配電極90を形成する必要がある。一方、分配電極90は、光を吸収するため、面積を小さくすることが好ましい。しかし、本実施の形態の発光素子1は大電流を印加することを前提としているため、分配電極90の断面積が小さすぎると、分配電極90が断線する可能性がある。そこで、断面積は予め定めた値以上必要である。また、分配電極90の幅を広げることは、光取り出しの点から好ましくなく、検討の結果、活性層63の面積に対して20%を超えると、光の出力が落ち込むことがわかった。そのため、面積は活性層63の面積の20%以下であることが好ましい。分配電極90の幅は、例えば、1.0μm以上、20μm以下、かつ高さは500nm以上あることが好ましい。
【0030】
本実施の形態の発光素子1では、第1電極70と第2電極50との間の活性層63から第1電極70側又は第2電極50側に発光する。そのため、光取り出し効率を高くするためには、平面視において第1電極70に重なる位置、つまり断面視において第1電極70の下方に第2電極50を設けないことが重要である。また、発光素子1全体において光吸収要因として作用しやすい電極パッド9の光吸収の影響を小さくするために、電極パッド9の下方に第1電極70及び第2電極50を設けないことも重要であり、さらに平面視において電極パッド9の縁部とパッド9の縁部から最短の距離にある第1電極70及び第2電極50間の距離を10μm以上離して設計することが好ましい。
【0031】
電流注入用の電極パッド9は、ワイヤーボンディングが可能である大きさで、かつ、上述したように活性層63で発光した光の吸収要因として大きく影響を及ぼさない程度の大きさが好ましい。電極パッド9の面積は、具体的には、平面視にて3500μm以上であって20000μm以下が好ましい。上限を20000μmとしたのは、これよりサイズを大きくすると、光の取り出し効率が落ち込むことがわかったためである。
【0032】
本実施の形態で対象としている大型(ラージチップサイズ)の発光素子は、大電流を印加する用途として用いられるため、積層構造10と第1電極70及び第2電極50との間の抵抗が大きいと直列抵抗成分として順方向電圧が高くなる。そのため、複数の第1電極70は、それぞれ金属電極とコンタクト層間の接触抵抗から見積もられる電圧上昇に寄与しない程度の面積以上で、小さければ小さいほど好ましい。また、活性層63で発光した光が吸収要因として大きく影響を及ぼさない程度の大きさであれば効果があり、具体的には第1電極70それぞれの面積が、100μm以下であることが好ましい。
【0033】
コンタクト層と第1電極70とが接触している総面積が小さいと、直列抵抗成分として、順方向電圧が高くなる要因となる。そのため、コンタクト層と第1電極70とが接触している総面積が100μm以上あることが好ましい。
【0034】
第1電極70は、それぞれが小さいほど好ましいが、小さすぎるとコンタクト層との接触抵抗が大きくなり、順方向電圧が上昇してしまう。そのため、接触抵抗が上昇しないように、第1電極70のN型コンタクト層65としてAlGa1−xAs(但し、0≦x≦0.3)からなる半導体層を用いることが好ましい。また、第1電極70のサイズはそれぞれが1μm以上であり、かつ総面積について管理できていれば、順方向電圧の上昇を抑制できることがわかった。
【0035】
図4は、本発明の実施の形態に係る発光素子のAl組成xと接触抵抗との関係を説明するためのグラフ図である。
【0036】
Al組成と接触抵抗ρの関係は、図4に示すように、Al組成がx=0.3以下で接触抵抗が十分小さくなっていることがわかる。
【0037】
第1電極70と第2電極50との距離が不均一だと、活性層63において注入される電流に偏りが発生する。そのため、第1電極70と第2電極間50の最短距離をDとした場合に、最短距離Dはそれぞれ均一であればあるほど、つまり標準偏差が小さいほど好ましく、少なくとも最短距離Dの70%が最短距離Dの平均値の±20μm以内であることが好ましい。さらに、活性層63の発光は第1電極70と第2電極50間で生じるため、第1電極70と第2電極50間の距離が狭いと、発光が第1電極70又は第2電極50に吸収されやすくなる。また、距離が広いと積層構造10の抵抗が順方向電圧の上昇に寄与してしまうため、問題となる。そこで、2電極間の距離は、5μm以上、50μm以下程度が好ましい。
【0038】
(発光素子1の製造工程)
図2A〜2Fは、本発明の実施の形態に係る発光素子の製造工程を説明するための概略断面図である。
【0039】
まず、MOVPE法によってGaN系やAlGaInP系の高品質結晶をGaAs基板67上に成長して、図2Aに示すように、P型コンタクト層60、P型クラッド層61、活性層63、N型クラッド層64及びN型コンタクト層65を含む積層構造10及びエッチングストップ層66を形成する。この積層構造10は、例えば、波長630nm付近の赤色光を発光する。
【0040】
エピタキシャル成長方法、エピタキシャル層膜厚、エピタキシャル構造や電極形成方法及びLED素子製作方法は、以下の通りである。
【0041】
まず、N型GaAs基板67上に、MOVPE法で、アンドープ(Al0.7Ga0.30.5In0.5Pからなるエッチングストップ層66、N型(Siドープ)GaAsからなるN型コンタクト層65、N型(Siドープ)(Al0.7Ga0.30.5ln0.5PからなるN型クラッド層64、アンドープ(Al0.1Ga0.90.5In0.5Pからなる活性層63、P型(Mgドープ)(Al0.7Ga0.30.5In0.5PからなるP型クラッド層61、P型(Mgドープ)GaPからなるP型コンタクト層60を順次積層成長させる。
【0042】
MOVPE成長での成長温度は650°Cとし、成長圧力50Torr、各層の成長速度は0.3〜1.0nm/sec、V/III比は約200前後で行なうことができる。なお、V/III比とは、分母をTMGaやTMAIなどのIII族原料のモル数とし、分子をAsH、PHなどのV族原料のモル数とした場合の比率(商)を指す。
【0043】
MOVPE成長において用いる原料としては、例えばトリメチルガリウム(TMGa)、又はトリエチルガリウム(TEGa)、トリメチルアルミニウム(TMAl)、トリメチルインジウム(TMIn)等の有機金属や、アルシン(AsH)、ホスフィン(PH)等の水素化物ガスを用いることができる。N型半導体層の添加物原料としては、ジシラン(Si)を用いることができる。P型半導体層の導電型決定不純物の添加物原料としては、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(CpMg)を用いることができる。
【0044】
その他、N型半導体層の導電型決定不純物の添加物原料として、セレン化水素(HSe)、モノシラン(SiH)、ジエチルテルル(DETe)、ジメチルテルル(DMTe)を用いることもできる。また、P型半導体層のP型添加物原料として、ジメチルジンク(DMZn)、ジエチルジンク(DEZn)を用いることもできる。
【0045】
次に、この積層構造10を含むエピタキシャルウエハをMOCVD装置から搬出した後、図2Bに示すように、P型GaP表面にプラズマ−CVD装置でSiO膜を成膜する。次に、レジストやマスクアライナなどの一般的なフォトリソグラフィー技術を駆使し、フッ酸系エッチング液でSiOに開口部を形成する。次に、その開口部に真空蒸着法によって第2電極50として、オーミックコンタクト接合部を形成する。オーミックコンタクト接合部としてAuZn(金・亜鉛)合金を用いる。また、オーミックコンタクト接合部は後で形成する電極パッド9に対して平面視で直下以外の領域になるように配置する。
【0046】
次に、オーミックコンタクト接合部付きエピタキシャルウエハ上に反射金属層40として、図2Cに示すように、Al、Ti、Auを、それぞれ順に蒸着した。Alが反射膜、Tiが拡散防止バリア層、Auが接合層となる。
【0047】
また、支持基板として用意した導電性のSi基板3の表面にTi、Pt、Auをそれぞれこの順に蒸着し、金属密着層41を形成する。Tiがオーミックコンタクト金属、Ptが拡散防止バリア層、Auが接合層となる。
【0048】
上記のようにして作製するオーミックコンタクト接合部及び反射金属層40付きエピタキシャルウエハとSi基板表面の金属密着層41を貼り合わせる。具体的には、圧力0.01Torr雰囲気で30Kgf/cmの荷重を負荷した状態で、温度350℃で30分間保持することによって貼り合わせる。
【0049】
次に、図2Dに示すように、Si基板3に貼り合わせたエピタキシャルウエハのGaAs基板67をアンモニア水と過酸化水素水の混合液によってエッチング除去し、アンドープ(Al0.7Ga0.30.5In0.5Pからなるエッチングストップ層66を露出させた後、さらに塩酸でエッチングストップ層66を除去し、N型コンタクト層65を露出させる。
【0050】
次に、図2Eに示すように、N型コンタクト層65表面に真空蒸着法によって全面に第1電極70を形成する。第1電極70は、AuGe(金・ゲルマニウム合金)、Ti、Auを、それぞれ順に蒸着して形成する。
【0051】
次に、レジストやマスクアライナなどの一般的なフォトリソグラフィー技術を駆使し、図2Fに示すように、第1電極70を形成する。その後、硫酸と過酸化水素水と水の混合液からなるエッチング液を用いて、所定の領域にのみ第1電極70を残し、第1電極70以外の領域のN型コンタクト層65をエッチング除去し、選択性エッチングによってN型クラッド層64を露出させる。さらに、光取り出し面となるN型クラッド層64上にフォトリソグラフィー技術を用いて1.0μm〜3.0μm周期のパターニングを行ない、ウエットエッチング法でN型クラッド層64表面に凹凸形状を形成する。
【0052】
次に、第1電極70及びN型クラッド層64を覆うITOからなる透明導電膜71をスパッタリング装置で形成する。なお、ITO原料ターゲットとしてSn濃度が重量パーセント濃度において5%のものを使用する。スパッタリング装置はRFマグネトロンスパッタ装置であり、RFの投入電力50W、酸素ガス導入なし、チャンバー圧力0.5Pa、成膜時間30分で成膜する。この時得られたITO膜の膜厚は、同時バッチに投入したSiダミー基板サンプルを分光エリプソメトリにて評価することができる。一例として、ITO膜の膜厚を500nm、屈折率1.98となるよう成膜する。
【0053】
その後、素子と素子との間を分離するために、素子間のITO膜を除去してから、表面からGaPコンタクト層までをウエットエッチング法で除去する。さらに、チップ保護膜としてプラズマCVD装置でSiO膜をチップ上面部とチップ側面部に成膜し、フォトリソグラフィー技術とエッチング技術を用いて、表面電極部分のSiO保護膜を開口する。
【0054】
Si基板裏面にはTi、Auからなる裏面電極を真空蒸着法によって形成する。電極の合金化であるアロイ工程は、窒素ガス雰囲気中にて400°Cに加熱し、5分間熱処理することで行なう。さらに、ワイヤーボンディング用にTi、Auからなる2つの電極パッド9を2つの表面電極上にフォトリソグラフィー技術及び真空蒸着法によって形成する。
【0055】
上記のように支持基板に反射金属膜とオーミックコンタクト接合部を介して貼り換え、電極形成したLED用エピタキシャルウエハを、ダイシング装置を用いて切断し、チップサイズ800μm角のLEDベアチップを作製した。さらに前記LEDベアチップをTO−46ステム上にマウント(ダイボンディング)し、その後、さらにマウントされた該LEDベアチップに、ワイヤーボンディングを行ない、LED素子を作製する。
【0056】
表面電極の電極パッド9は直径100μmの円形とし、幅3.0μmの分配電極90を配置する。また、ITOの透明導電膜71と積層構造10間の導電を取るための表面電極(第1電極70)は直径5μmの円形とする。第1電極70と、積層構造10と反射金属膜4との導電のための界面電極(第2電極50)との距離を、図1に示すように、一定値になるよう配置し、発光素子1の厚み方向における第1電極70と第2電極50との距離は12μmとする。
【0057】
本発光素子1をエポキシ樹脂でモールドし、500mA通電時のLEDとしての特性は、発光出力、順方向電圧は、380mW、2.01Vであり、エネルギー効率は、37.8%であった。
【0058】
(実施の形態の効果)
発光素子1の面内における電流分散を透明導電膜71と分配電極である第1電極70の双方により行うことで、図2に示す従来の発光素子に比べて、第1電極70の面積を小さくすることが可能となった。つまり、光吸収要因となる表面電極面積を大幅に低減し、ITO膜からなる透明導電膜71の膜厚を、図3に示すように、光吸収の影響が少ない膜厚で作製したために、発光出力が大幅に向上した。また、透明導電膜71の膜厚を積層構造10の電流が均一に分散するよう設計したため、積層構造10の順方向電圧を低く抑えることに成功した。
【0059】
また、従来の発光素子の構造では表面電極の光吸収の影響を小さくするために、第1電極と第2電極間の距離を大きくしないと発光出力を大きくすることができなかった。しかし、第1電極と第2電極間の距離を大きくすると半導体層抵抗成分が大きくなり、順方向電圧の上昇により限界があった。しかし、本特許では第1電極の面積をドット状に一つ一つを小さくすることによって、第1電極と第2電極間の距離を小さくしても光吸収の影響がかなり小さく、高発光出力と低順方向電圧を同時に達成することが可能となった。その結果として、エネルギー効率も格段に向上することができた。
【0060】
図5は、本発明の変形例に係る発光素子の構造を説明するための概略平面図である。
【0061】
上記実施の形態に示した構造から分配電極90を除いて発光素子1Aを作製して、500mA通電時のLED特性を調べた結果、発光出力、順方向電圧は、350mW、2.45Vであった。また、エネルギー効率は、28.6%であった。分配電極90がないと、電流が発光素子1の全体に均一に広げることができず、電流が集中するため、順方向電圧が高くなったためと考えられる。また、電流が集中すると、印加電流が同じ値でも活性層63の温度が高くなるため、内部量子効率が低下して、発光出力が低くなったためと考えられる。
【0062】
また、従来例(図8)と本実施例(図1、図5)の発光素子1、1Aを1.0Aで1000時間、常温環境で通電した際の、500mWで評価した、通電前の特性に対する相対発光出力と順方向電圧の変化率を表1に示す。
【0063】
表1に示すように、相対発光出力及び順方向電圧変化率において、本実施の形態の分配電極90がある構造が最も優れていることがわかる。これは、分配電極90によって、電流が発光素子1に均一に広がリ、実効的な活性層63の電流密度が小さくなるために、活性層63の温度上昇を抑制して、チップ劣化の進行が遅くなるためと考えられる。
【表1】

【実施例1】
【0064】
実施の形態において説明した発光素子の構造を有する800μm角の発光素子を作成した。
【0065】
実施例1では、電極パッド9の面積を変えて発光素子1を作製した。この際、表面電極(第1電極70)は直径5μm、第1電極70と第2電極50との発光素子1の厚み方向の距離を12μmにした。
【0066】
また、図1に示す発光素子1の構造で、各形状パラメータに合わせて第1電極70と第2電極50のペア数を変えて作製した。
【0067】
なお、電極パッド9の面積が3500μm以下だとワイヤーボンディングの歩留まりが低下するため3500μm以上にした。
【0068】
電極パッド9の面積と、500mA通電時の発光素子1の発光出力及び順方向電圧の測定結果をそれぞれ図6A及び6Bに示す。
【0069】
図6Aは、本発明の実施例1に係る発光素子の電極パッドの面積と発光出力との関係を説明するためのグラフ図である。また、図6Bは、本発明の実施例1に係る発光素子の電極パッドの面積と順方向電圧との関係を説明するためのグラフ図である。
【0070】
電極パッド9の面積が20000μm以上になると、積層構造10に対する電極パッド9の面積の割合が大きくなり、光吸収要因となり、発光出力が低下する。さらに、面積が増えると同時に発光面積が小さくなるため、チップ内の電流分布が局所的になり、順方向電圧が大きくなる。結果として、エネルギー効率も低下する。
【実施例2】
【0071】
実施例2では、表面電極(第1電極70)の面積を変えて発光素子1を作製した。この際、電極パッド9電極は、直径100μm、第1電極70と第2電極50との発光素子1の厚み方向の距離を12μmにした。
【0072】
また、図1に示す発光素子1の構造で、各形状パラメータに合わせて第1電極70と第2電極50のペア数を変えて作製した。
【0073】
1つの第1電極70の面積毎に、第1電極70の総面積と500mA通電時の発光出力、順方向電圧の測定結果を図7A及び図7Bに示す。
【0074】
図7Aは、本発明の実施例2に係る発光素子の第1電極の総面積と発光出力との関係を説明するためのグラフ図である。また、図7Bは、本発明の実施例2に係る発光素子の第1電極の総面積と順方向電圧との関係を説明するためのグラフ図である。
【0075】
1つの第1電極70の面積が小さいほど、光吸収要因を低減できるため発光出力が高くなる。1つの第1電極70の面積が100μm以上になると、発光出力が著しく低下する。
【0076】
また、第1電極70の総面積が小さい(400μm以下)と、第1電極70と積層構造10との接触抵抗による順方向電圧上昇が生じる。第1電極70の総面積が100μm以下であると、特に順方向電圧の上昇が著しくなる。
【0077】
そのため、1つの第1電極70の面積は小さいほど好ましく、少なくとも100μm以下であることが好ましい。さらに、第1電極70の総面積は、小さすぎると順方向電圧の上昇をもらたらすので、少なくとも100μm以上であることが好ましい。
【実施例3】
【0078】
上記実施の形態において、透明導電膜71の構成について検討を行なったことろ、透明導電膜71を、ラージチップサイズに電流を広げる役割として機能させるためには、少なくとも1×10−3Ω・cm以下の抵抗率を有し、さらに透明導電膜71の膜厚は少なくとも50nm以上であることが好ましいことがわかった。膜厚を50nm未満にすると、電極パッド9から延在する分配電極90を広げる(面積を大きくする)必要があった。
【0079】
分配電極90と透明導電膜71とを組み合わせて電流の分散を行なうことで、図8に示す従来の構成に比して、分配電極90の面積を小さくすることができ(活性層面積に対して20%以下)、これにより光の取り出し効率を向上させることができる。
【0080】
[他の実施の形態]
なお、上記実施の形態及び実施例1〜3において、各構成は記載した内容に限定されるものでなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々な変形が可能である。例えば、以下に示す変形が可能である。
(1)実施の形態及び実施例では、支持基板としてSi基板3を用いているが、LED素子プロセスに耐え得る支持基板であれば他の材料を用いることが可能である。具体的には、Ge基板、GaAs基板、GaP基板、その他メタル基板等が挙げられる。
(2)活性層63をバルク層としているが多重量子井戸等でもよい。
(3)反射金属膜4及び透明導電膜71の波長依存性を除き、本発明は、発光光の波長に依存せずに上記した効果が得られる。
(4)実施の形態及び実施例では、オーミックコンタクト接合部が単一から形成されているが、複数から形成されていても上記した効果は同様に得られる。
(5)実施の形態及び実施例では、平面視において、第2電極50の形状を第1電極を囲む円状に形成した。これは、電極が角部を有する形状であると角部において電流集中が生じるおそれがあるためであるが、このような問題がなければ、円状に限定されず多角形状等のその他の形状であってもよい。また、第2電極50は第1電極70を囲む形状でなくてもよい。
(6)実施の形態及び実施例では、第1電極70及び第2電極50を円形状としたが、上記(5)と同様、多角形状としてもよい。多角形状は、各辺の長さが異なるようにしてもよいが、各辺の長さが等しくすることが、作製の容易さ、各層間の位置合わせの観点から好ましい。
【符号の説明】
【0081】
1 発光素子
1A 発光素子
2 裏面電極
3 支持基板(Si基板)
4 反射金属膜
8 透明絶縁膜
9 電極パッド
10 積層構造
40 反射金属層
41 金属密着層
50 第2電極
51 透明絶縁膜
60 P型コンタクト層
61 P型クラッド層
63 活性層
64 N型クラッド層
65 N型コンタクト層
66 エッチングストップ層
67 GaAs基板
70 第1電極
71 透明導電膜
90 分配電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板と、
光取り出し面としての第1の面と、前記第1の面に対向する第2の面と、前記第1の面と前記第2の面との間に発光層とを有するIII−V族化合物半導体からなる積層構造と、
前記支持基板と前記第2の面との間に設けられ前記発光層の発光光を前記第1の面側に反射する反射金属膜と、
前記第1の面の一部に複数設けられて前記積層構造と導電する第1電極と、
前記第1の面に設けられ前記第1電極と導電する透明導電膜と、
前記透明導電膜の上に設けられる電極パッドとを備える発光素子。
【請求項2】
前記第1電極は、平面視において前記第1の面上のうち前記パッド電極の設けられる領域を投影した領域外に配置される請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
上記反射金属膜界面と上記半導体層との間に、透明絶縁膜と、前記透明絶縁膜の一部を貫通して前記第2の面と前記反射金属膜とを導電する第2電極とをさらに備える請求項1又は2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記第2電極は、平面視において前記第1の面上のうち前記第1電極の設けられる領域を投影した領域外に第2電極が配置される請求項3に記載の発光素子。
【請求項5】
前記第2電極は、平面視において前記第1の面上のうち前記電極パッドの設けられる領域を投影した領域外に第2電極が配置される請求項3又は4に記載の発光素子。
【請求項6】
前記第2電極は、平面視において前記第1電極のそれぞれからの最短距離が略等距離に配置される請求項2〜5のいずれかに記載の発光素子。
【請求項7】
前記積層構造は、前記第1の面の表面に凹凸形状が形成される請求項2〜6のいずれかに記載の発光素子。
【請求項8】
前記積層構造は、前記発光層の面積が150000μm以上である請求項1〜7のいずれかに記載の発光素子。
【請求項9】
請求項8に記載の発光素子は、駆動電流DC100mA以上である。
【請求項10】
前記第1電極は、1つの面積が、100μm以下であり、かつすべての第1電極と前記積層構造との接触する総面積が、100μm以上であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の発光素子。
【請求項11】
前記第2電極と前記第2の面の接触する総面積が100μm以上であり、
平面視において前記第1電極と前記第2電極との距離の平均値が5μm以上50μm以下であり、当該距離の70%が平均値の±20μm以内であり、前記パッド電極と前記第1電極又は前記第2電極との最短距離が10μm以上であることを特徴とする請求項3〜9のいずれかに記載の発光素子。
【請求項12】
前記透明導電膜は、膜厚が50nm以上、1.0μm以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の発光素子。
【請求項13】
前記積層構造は、前記第1の面側の導電型がN型、前記第2の面側の導電型がP型であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の発光素子。
【請求項14】
上記金属パッド電極の面積が3500μm以上20000μm以下であり、金属パッド電極の縁から延びた幅1.0μm以上20μm以下、断面積が0.5μm以上の分配電極が配置されており、さらに分配電極面積が活性層面積の20%以下とする請求項1〜8のいずれかに記載の発光素子。
【請求項15】
前記積層構造は、前記第1電極との間にAlGa1−xAs(但し0≦x≦0.3)から成るコンタクト層を有し、さらに当該コンタクト層は、平面視において前記分配電極が形成される領域以外の領域に形成される請求項14に記載の発光素子。
【請求項16】
前記透明導電膜は、真空蒸着法、スパッタ法のいずれかの方法で形成されたITO(錫ドープ酸化インジウム)、SnO(酸化錫)、In(酸化インジウム)、ZnO(酸化亜鉛)、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)、GZO(ガリウムドープ酸化亜鉛)若しくはTiO(酸化チタン)のいずれか、又はこれらを複数層形成した構造であり、少なくとも1×10−3Ω・cm以下の抵抗率を有する請求項1〜8に記載の発光素子。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図2F】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−69684(P2012−69684A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212510(P2010−212510)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】