説明

発熱装置及びその構成部品、並びにそれらの製造方法及び応用

【課題】 発熱装置内部での空洞をなくし、発熱体から被加熱面への熱伝導を促進し、かつ、面状発熱材の単位面積あたりの出力を上げて発熱温度を上げること。
【解決手段】 発熱体の少なくとも表裏両面に対して合成樹脂シートを挟着してなる面状発熱材を有し、その少なくとも片面が、放熱板またはその加工品で被覆された発熱装置。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、発熱装置、とくに高出力、長時間使用する発熱装置(例えば、鉄道の軌道の分岐箇所における転轍機(分岐ポイント)周辺の氷雪を融かすなどの用途に好適なヒーター)及びその構成部品、並びにそれらの製造方法及び応用に関するものである。
【0002】
【従来の技術】鉄道の分岐ポイント(軌条ポイント)の可動部に氷雪が入り込むと、その動きを阻害し、転轍の機能を損なうので、効率良くかつ迅速に融雪を行うことが必要となる。
【0003】従来、そのために発熱体を用いたヒーターを用い、軌条のレールの側面に固定することが行われている(例えば、特開平7−106056号、特開平8−105001号)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】このように、発熱体で、レールの側面の如き平面を加熱しようとする際、図7(A)および図7(B)に示すヒーター15によれば、発熱体2の一方の面をエポキシ樹脂10で固め、他の面を粘着シート11、絶縁材12及び粘着シート13を介してアルミニウム伝熱板(放熱板)14に固着し、この放熱板14をレールに固定する。なお、図中の30a、30b及び31a、31bはそれぞれ発熱体2の電極である。
【0005】このヒーター15を作製するには、まずアルミニウム放熱板14に粘着材13付き絶縁材12をはりつけてから、電極30aなど付きの発熱体2を粘着材11で絶縁材12にはりつける。そして、エポキシ10を注入し、真空脱泡、加熱して、エポキシ10を硬化(150℃、1hr)させる。
【0006】しかしながら、このような構造のヒーターでは、図7(A)のB部分の拡大図である図7(B)に示すように、粘着シート11およびエポキシ10において発熱体2と電極30aおよび30bなどとの段差によって空洞16が生じてしまう。このような空洞16が発生すると、その部分の熱伝導率が下がり、発生した熱が被加熱平面(放熱板14の側)に伝わらず、局部加熱となり易い。この結果、発熱体2が溶けて、電流が流れずに加熱不能となり、またヒーター出力を上げられない。そのために、例えば、前記空洞をなくすように空洞16の部分を真空にして、樹脂等を充填することがあるが、完全ではなく、空洞が残る。
【0007】本発明の目的は、発熱装置内部での前記空洞をなくし、発熱体から被加熱面への熱伝導を促進し、かつ、面状発熱材の単位面積あたりの出力を上げて発熱温度を上げることにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】即ち、本発明は、発熱体の少なくとも表裏両面を合成樹脂シートで挟着し、または、熱硬化性樹脂含浸非導電性布で被包し、硬化圧着してなる面状発熱材の少なくとも片面が、伝熱板またはその加工品で被覆された発熱装置(例えば鉄道の軌道の分岐箇所における転轍機(分岐ポイント)周辺の氷雪を融かすなどの用途に好適なヒーター)、及び発熱体の少なくとも表裏両面に対して熱硬化性樹脂含浸非導電性布を被包し、硬化圧着してなる面状発熱材、更には、この面状発熱材を用いた食品保温器に係るものである。
【0009】このように構成することによって、発熱装置中に発熱体をエポキシ封入する前に、合成樹脂シートにより挟着し、または、エポキシや不飽和ポリエステル等の硬化性樹脂を含浸したガラスクロスなどの非導電性布でサンドイッチし、電極部の段差をなくしておく(実質的に平面としておく)ことができるので、装置を組み立てたときに発熱装置内部に空洞が生じることがなく、結果として面状発熱材の出力を向上させ、また熱的及び強度的にも十分なものとなり、被加熱体となる鉄道の分岐ポイント周辺の氷雪を融かすための用途、焼き鳥やハンバーガーなどの食品の保温、その他の各種の用途に好都合となる。
【0010】本発明はまた、発熱体の少なくとも表裏両面に対して熱硬化性樹脂含浸非導電性布を被包し、次いで、熱硬化性樹脂の硬化温度下に20〜150kg/cm2の圧力で、前記発熱体の少なくとも表裏両面に前記熱硬化性樹脂含浸非導電性布を硬化圧着する、面状発熱材の製造方法、並びに得られた面状発熱材を次いで伝熱板またはその加工品に、接着剤を介して固着し、さらに伝熱板またはその加工品の凹部に熱硬化性樹脂を充填し、熱硬化する発熱装置の製造方法も提供するものである。
【0011】この製造方法では、エポキシや不飽和ポリエステル等の熱硬化性樹脂を含浸したガラスクロスなどの非導電性布を発熱体、被包し、上記条件下で熱プレスすることにより硬化させる。このプレスは、20kg/cm2 以上(特に50kg/cm2 以上)の高圧で行うため、空洞が生じる余地がない。また、高圧であることによる面状発熱材の伸びは、ガラスクロスなどにより抑制される。
【0012】
【発明の実施の形態】本発明においては、発熱体の材料が耐熱性合成樹脂であるPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)であるときは、多少の蓄熱による発熱が仮にあっても、抵抗力があり、有利に用いることができる。
【0013】また、前記合成樹脂シートは、硬化された熱硬化性樹脂含浸非導電性布が好ましく、ポリエステルとポリエチレンとの積層体、ポリエーテルイミド樹脂をフェノール樹脂でパウチしたものなども用いられる。
【0014】また、前記熱硬化性樹脂含浸非導電性布が、エポキシ樹脂含浸のガラス繊維のプリプレグであるのがよい。
【0015】ここに、本発明における単位面積当たりの出力(W/cm2 )は、幅2.7cm、長さ15.5cmの発熱体の両端に銅電極を取り付け、それに交流電圧100Vを印加し、20分後の電流と電圧を測定し、得られた各値から、次式により求められる。
【0016】単位面積当りの出力 (W/cm2 )={電流(I) ×電圧(100V) }/{発熱体の幅(cm)×電極間距離(cm)}
【0017】前記従来の発熱装置中の面状発熱材は、発熱装置内部にある空洞の存在により、上記出力の測定の結果、ほとんどのものが焼損してしまったり、溶断したりして、電流が0となるか、或いは、単位面積当りの出力が2W/cm2 未満であるのに対し、本発明による面状発熱材のそれは2〜10W/cm2 である。
【0018】次に、本発明の好ましい実施の形態を図面について述べる。
【0019】図1(A)、(B)に示すように、本実施の形態による発熱装置(ヒーター)55は発熱体2の両面をエポキシ樹脂含浸のガラスクロス(プリプレグ40と50)で固め、面状発熱材41を形成する。この一方の面を粘着シート43を介してアルミニウム伝熱板(放熱板)14に固着すると共に、この伝熱板14の凹部にエポキシ樹脂10を充填する。この伝熱板14は例えばレールに固定される。なお、図中の30a、30b、及び31a、31bはそれぞれ発熱体2の電極である。
【0020】プリフレグ40、50において、使用可能な熱硬化性樹脂は、エポキシ、不飽和ポリエステルなどがある。また、使用可能な無機繊維としては、ガラスクロス、ガラスマットがあり、有機繊維としては、紙パルプ、不織布、ナイロン布、ポリエステル布があり、上記の中では、伸びにくさ、耐熱性の点からガラスクロスが最適である。
【0021】次に、発熱装置55の作製方法を説明する。
【0022】まず、エポキシプリプレグ40、50は図2R>2のように、ガラスクロス42にエポキシ44を含浸させたものであってよいが、エポキシ以外に、不飽和ポリエステル、フェノール、メラミン等がある。これは、図3R>3のように、例えばエポキシ樹脂液44中にガラスクロス42を通すことによって作製できる。
【0023】そして次に、電極30a、30b、31a、31b付きの発熱体2の両面より、上記のエポキシプリプレグ材40、50をそれぞれ150℃、1hr、50kg/cm2 で熱プレスする。これによって、エポキシ含浸ガラスクロスで被包された面状発熱材を得る。
【0024】次いで、このヒーター素子に粘着シート43をはりつけた後、例えば、アルミニウム放熱板14へはりつける。しかる後、エポキシ10を封入し、加熱してエポキシ10を硬化(150℃、1hr)させる。この場合、前記従来技術で必要であった真空脱泡の工程は原則として必要がない。ただ必要に応じ、真空脱泡工程を採用することは自由である。
【0025】本実施の形態によるヒーター55は、図4に示すように、軌条の分岐ポイントのレール61の側面などに固着される。ヒーター55の加熱温度は110℃とし、レールの温度を2〜20℃とすることができる。このヒーターにおいては上記したように空洞が生じないために、エポキシ充填後に真空脱泡を行う必要はなく、空洞部の存在による局部発熱(断線)を起こすことがなく、これによってヒーター出力を上げ、単位面積あたりの出力を2〜5W/cm2 (通常のものは1W/cm2 以下)と大きくできる。
【0026】次に、本実施の形態によるヒーターの面状発熱材41の構成をその作製工程に沿って説明すると、まず図5に示すように、発熱体2の両端に銅箔電極を取り付ける。これらの電極はそれぞれ一対の銅箔30a、30b及び31a、31bからなり、これらを発熱体2の両面からミシン縫い、ホッチキス止め又はリベット止めなどで固定し、その周辺で互いに接し合うようにしておく。
【0027】次いで、熱ロール(例えば150℃、1hr、50kg/cm2 )を使用して上記のプリプレグ40及び50と、電極30a、30b及び31a、31bに電源コード36の一方のコード36A、他方のコード36Bを接続した発熱体2とをラミネートし、面状発熱材41を得る。ここで、一方のコード36Aを電極31a、31bに、他方のコード36Bを電極30a、30bに接続させる。
【0028】こうして作製された面状発熱材41を組み込んだ図1のヒーター55において注目すべき構成は、ヒーターとして発熱体2が組み込まれていることである。この発熱体2は、従来のシーズヒーターなどとは全く異なり、ヒーター面(上記では放熱板14)の面を一様(均等)に加熱することができ、導電性合成樹脂シート、合成樹脂シート基材に導電性塗料を塗布したものなどである。導電性付与物質としては、導電性カーボンなどが挙げられる。
【0029】このような発熱体2としては、図6(A)、および図6(B)に例示する如きものが使用可能である。即ち、図6(A)は、160mm幅のPTFEシート21bの両端に銅箔30、31を取り付けたヒーターを示し、更に図6(B)は、シリコンゴム42内にコードヒーター21cを蛇行させたシリコンゴムヒーターを示す。いずれも、面加熱に適しており、特に図6(B)の如きヒーターでは、ヒーター間ピッチPが15mm以下であることが必要である。
【0030】なお、図5に仮想線で示すように、発熱体2の近傍(特にプリプレグ40との間)にサーモスタットや温度ヒューズなどの温度過上昇防止手段64や、サーミスタおよび制御装置を配置してもよい。
【0031】上記のサーモスタットなど64を配置することによって、温度が過熱状態になると、自動的に発熱体2をオフして安全な動作を可能とする。また、急激に温度が降下した際、サーモスタットに代えてサーミスタおよび制御回路を配しておけば、精度高く温度調節することができる。
【0032】以上に述べた実施の形態は、本発明の技術的思想に基づいて、更に変形が可能である。
【0033】例えば、発熱体2、面状発熱材41、プリプレグ40、50などをはじめ、ヒーター構成部分の構造、形状や材質などは種々に変化させてよい。発熱体2に対する電極及び電源コードの取り付け方法又は取り付け構造は、上述したものに限られることはない。また、加熱対象は、上述のレールに限られるものではなく、種々であってよい。
【0034】
【発明の作用効果】本発明は上述した如く、発熱体の少なくとも表裏両面に合成樹脂シートを挟着してなる面状発熱材を有し、その少なくとも片面が、伝熱板またはその加工品で被覆されているので、発熱装置中に発熱体をエポキシ封入する前に、合成樹脂シートにより挟着し、又はエポキシや不飽和ポリエステル等の硬化性樹脂を含浸したガラスクロスなどの非導電性布でサンドイッチし、電極部の段差をなくしておくことができる。このため、装置を組み立てたときに発熱装置内部に空洞が生じることがなく、結果として面状発熱材の出力を向上させることができ、又熱的および強度的にも十分なものとなり、被加熱体である鉄道の分岐ポイント周辺の融氷雪装置や食品の保温用に用いられる。また、硬化圧着時に、高圧で行うために、空洞が生じる余地がなく、また、高圧であることによる発熱体の伸びは、ガラスクロスなどの非導電性布により抑制される。
【図面の簡単な説明】
【図1(A)】本発明の実施の形態による発熱装置(ヒーター)の断面図である。
【図1(B)】同、発熱装置の要部の拡大断面図である。
【図2】同、発熱装置に用いる熱硬化性樹脂含浸ガラスクロスの断面図である。
【図3】同、熱硬化性樹脂含浸ガラスクロスの作製方法を示す断面図である。
【図4】同、発熱装置の固定状態を示す断面図である。
【図5】同、発熱装置の要部分解断面図である。
【図6(A)】同、発熱装置に用いる発熱体の具体例の斜視図である。
【図6(B)】同、他の具体例の斜視図である。
【図7(A)】従来例による発熱装置(ヒーター)の断面図である。
【図7(B)】同、発熱装置の要部の拡大断面図である。
【符号の説明】
2…発熱体、10、44…エポキシ樹脂、11、13、43…粘着シート、12…絶縁材、14…アルミニウム放熱板(伝熱板)、15、55…発熱装置(ヒーター)、16…空洞、30、31、30a、30b、31a、31b…電極、36…電源コード、40、50…エポキシ含浸ガラスクロス、41…面状発熱材、42…ガラスクロス、60…分岐ポイント、61…レール

【特許請求の範囲】
【請求項1】 発熱体の少なくとも表裏両面を合成樹脂シートで挟着してなる面状発熱材を有し、その少なくとも片面が、伝熱板またはその加工品で被覆された発熱装置において、前記面状発熱材の少なくとも一方の表面が実質的に平面であることを特徴とする発熱装置。
【請求項2】 前記合成樹脂シートが硬化された熱硬化性樹脂含浸非導電性布である、請求項1に記載した発熱装置。
【請求項3】 前記面状発熱材は、その単位面積当りの出力が2〜10W/cm2 である、請求項1又は2に記載した発熱装置。
【請求項4】 前記発熱体が導電性カーボン含有合成樹脂シートである、請求項1〜3のいずれか1項に記載した発熱装置。
【請求項5】 前記合成樹脂がポリテトラフルオロエチレンである、請求項4に記載した発熱装置。
【請求項6】 前記発熱体が、ヒーター間ピッチが15mm以下となるようにコードヒーターをゴム内に配したものによって構成されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載した発熱装置。
【請求項7】 前記熱硬化性樹脂含浸非導電性布が、エポキシ樹脂含浸のガラス繊維のプリプレグである、請求項2〜6のいずれか1項に記載した発熱装置。
【請求項8】 発熱体の少なくとも表裏両面に対して熱硬化性樹脂含浸非導電性布を被包し、硬化圧着してなる面状発熱材。
【請求項9】 前記発熱体が導電性カーボン含有合成樹脂シートである、請求項8に記載した面状発熱材。
【請求項10】 前記合成樹脂がポリテトラフルオロエチレンである、請求項9に記載した面状発熱材。
【請求項11】 前記熱硬化性樹脂含浸非導電性布が、エポキシ樹脂含浸のガラス繊維のプリプレグである、請求項8〜10のいずれか1項に記載した面状発熱材。
【請求項12】 発熱体の少なくとも表裏両面に対して熱硬化性樹脂含浸非導電性布を被包し、次いで、熱硬化性樹脂の硬化温度下に20〜150kg/cm2 の圧力で、前記発熱体の少なくとも表裏両面に前記熱硬化性樹脂含浸非導電性布を硬化圧着する、面状発熱材の製造方法。
【請求項13】 請求項12で得られた面状発熱材を、次いで伝熱板またはその加工品に接着材を介して固着し、さらに前記伝熱板またはその加工品の凹部に熱硬化性樹脂を充填し、熱硬化する、発熱装置の製造方法。
【請求項14】 被加熱体であるレール本体に金属製の前記伝熱板又はその加工品が接した状態で装着乃至固着され、前記発熱体の加熱により軌条ポイント周辺の氷雪を融かす、請求項1〜7のいずれか1項に記載した発熱装置。
【請求項15】 請求項8〜11のいずれか1項に記載した面状発熱材をヒーターとして用いる食品保温器。

【図1(A)】
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【図1(B)】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6(A)】
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【図6(B)】
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【図7(A)】
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【図7(B)】
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【公開番号】特開2000−58234(P2000−58234A)
【公開日】平成12年2月25日(2000.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−224754
【出願日】平成10年8月7日(1998.8.7)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】