説明

皮膚外用剤

【課題】 天然由来成分の中には、その効果が充分ではなく、より優れた成分の開発が求められていた。それ故、本発明は抗老化効果、保湿効果、美白効果、抗酸化効果、抗炎症効果を有する優れた皮膚外用剤を提供することにある。
【解決手段】 サケ目サケ科イワナ属の魚類から得られる不凍タンパク質が、保湿効果、美白効果、抗炎症効果、抗老化効果に優れていることを見出し、保湿剤、美白剤、抗炎症剤、抗老化剤、皮膚外用剤を提供するに至った。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サケ目(Salmoniformes)サケ科(Salmonidae)イワナ属(Salvelinus)の魚類から得られる不凍タンパク質を含有することを特徴とする、保湿剤、美白剤、抗炎症剤、抗老化剤、皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、皮膚の乾燥を防ぎ、皮膚にうるおいを与える保湿成分を提供するために、様々な有効成分の配合検討がなされてきた。また、加齢、疾患、ストレス、紫外線などによるシワ、シミ、皮膚の弾力低下といった皮膚症状の要因として、乾燥、細胞機能低下、紫外線によるメラニン産生や色素沈着、真皮マトリックス成分の減少や変性、紫外線などによる細胞の酸化障害などが挙げられる。このような皮膚症状を防止・改善するために、様々な有効成分のスクリーニングおよび配合検討がなされてきた。特に天然由来成分は、様々な薬理作用や美容効果を有することが知られ、これまでにも数多くの動植物や菌類などの抽出物の皮膚外用剤への応用が検討されてきた。
【0003】
例えば、皮膚の老化防止、改善作用を有する皮膚外用剤を得るために、真皮線維芽細胞の賦活あるいは増殖促進作用を有する成分としてポンカンのエッセンス(特許文献1参照)等、皮膚の保湿効果と安全性に優れた保湿剤としてハリブキ属植物の抽出物(特許文献2参照)等、美白剤としては、白鶴霊芝の抽出物(特許文献3参照)等、抗酸化剤としてはサルオガセ科サルオガセ属植物の抽出物(特許文献4参照)等、抗炎症作用を有する植物エキスとして、蘇葉、カカオ及び茴香の乾燥物又はその熱水抽出エキス(特許文献5参照)、カンナ科植物の溶媒抽出物(特許文献6参照)等があり、魚類成分を含む皮膚外用剤では、寒流魚類から抽出されたコラーゲン入り化粧品(特許文献7参照)、サバ科に属する魚類の脳及び/または神経抽出物を配合することを特徴とする化粧品組成物(特許文献8参照)、鮭の卵巣膜をタンパク分解酵素で処理することにより抽出された成分を含むことを特徴とする肌荒れ改良剤(特許文献9参照)等が開示されている。
【0004】
不凍タンパク質とは、一般に低温環境に適応した魚類、昆虫、植物、菌類、細菌等多くの生物で発見されており、氷の結晶に結合し氷結晶が成長するのを抑制する効果を有するタンパク質をいう。不凍タンパク質がそのような効果を示すのは、アミノ酸側鎖に水酸基を持っており、この水酸基を介して水を抱え込んでいるからだと考えられている。それ故、水に溶けやすく、また非常に高い安定性を有するため高温の加熱処理にも適用することができる。
【0005】
魚類の不凍タンパク質を利用したものには、魚類由来の不凍タンパク質(特許文献10参照)、冷凍組成物の製造方法(特許文献11参照)、凍結乾燥方法(特許文献12参照)、澱粉老化防止剤と澱粉製品(特許文献13参照)等が開示されており、食品の保存・貯蔵に関して応用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−131045号公報
【特許文献2】特開2007−77072号公報
【特許文献3】特開2003−89630号公報
【特許文献4】特開平10−182413号公報
【特許文献5】特開2003−201246号公報
【特許文献6】特開平4−270224号公報
【特許文献7】特許第3628100号公報
【特許文献8】特許第4143509号公報
【特許文献9】特許第3899116号公報
【特許文献10】特許第4228068号公報
【特許文献11】特表平10−508759号公報
【特許文献12】特開2003−250506号公報
【特許文献13】特開2003−253263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、これまで様々な天然由来成分が応用されてきた。しかしながら、天然由来成分の中には、その効果が充分ではなく、より優れた成分の開発が求められていた。それ故、本発明は保湿効果、美白効果、抗炎症効果、抗老化効果を有する優れた皮膚外用剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
サケ目サケ科イワナ属の魚類から得られる不凍タンパク質が、保湿効果、美白効果、抗炎症効果、抗老化効果に優れていることを見出し、保湿剤、美白剤、抗炎症剤、抗老化剤、皮膚外用剤を提供するに至った。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、サケ目サケ科イワナ属の魚類から得られる不凍タンパク質を配合することにより、優れた効果を有する保湿剤、美白剤、抗炎症剤、抗老化剤、皮膚外用剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、不凍タンパク質を精製した電気泳動の図である。
【図2】図2は、凍結濃縮現象を利用した不凍タンパク質の確認試験の図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明で用いるサケ目サケ科イワナ属の魚類は、日本の河川の最上流の冷水域などに生息しており、肉食性で、動物性プランクトン、水棲昆虫、他の魚、河畔樹木から落下する虫、その他の水底の小動物などを食べる。また、イワナ属には、イワナ(Salvelinus leucomaenis)をはじめ、アメマス(エゾイワナ)(Salvelinus leucomaenis leucomaenis)、ニッコウイワナ(Salvelinus leucomaenis pluvius)、ヤマトイワナ(Salvelinus leucomaenis japonicus)、ゴギ(Salvelinus leucomaenis imbrius)の4亜種が知られている。
【0012】
本発明で用いるサケ目サケ科イワナ属の魚類の収穫時期は、10月下旬から5月上旬が好ましく、冬季12月〜4月上旬が特に好ましい。
【0013】
本発明で、サケ目サケ科イワナ属の魚類を使用する際は、頭部と腹部及び骨を除去し、皮を除いた身の部分を用いるのが好ましい。
【0014】
抽出は、サケ目サケ科イワナ属の魚類の頭部と腹部及び骨を除去し、皮を除いた身の部分に水を加え、1)4℃以下で一晩放置する工程、2)遠心分離し、上清を回収する工程、3)加熱処理する工程、4)2,3)の工程を繰り返し、遠心分離により、タンパク質を得る工程を含む。加熱処理は、70〜80℃、10〜15分間が好ましく、また遠心分離は、5000〜13000rpmで、20〜50分間が好ましい。
【0015】
本発明で用いるサケ目サケ科イワナ属の魚類の上記溶媒による抽出物は、そのままでも使用することができるが、一定期間そのまま静置して熟成させて用いてもよいし、濃縮、乾固した物を水や極性溶媒に再度溶解して使用することもできる。あるいは、これらの生理作用を損なわない範囲で、脱色、脱臭、脱塩等の精製処理や、カラムクロマトグラフィー等による分画処理を行った後に用いてもよい。植物および魚類の前記抽出物やその処理物および分画物は、各処理および分画後に凍結乾燥し、用時溶媒に溶解して用いることもできる。また、リポソーム等のベシクルやマイクロカプセル等に内包させて用いることもできる。
【0016】
サケ目サケ科イワナ属の魚類から得られる不凍タンパク質は、優れた保湿効果、美白効果、抗炎症効果、抗老化効果を有し、保湿剤、美白剤、抗炎症剤、抗老化剤、皮膚外用剤として利用することができる。
【0017】
サケ目サケ科イワナ属の魚類から得られる不凍タンパク質を有効成分とする保湿剤は、フィラグリン合成促進作用を有し、優れた保湿効果を発揮する。
【0018】
サケ目サケ科イワナ属の魚類から得られる不凍タンパク質を有効成分とする美白剤は、表皮メラニン細胞チロシナーゼ活性阻害作用を有し、色素沈着、シミ、そばかす等を予防・改善して、優れた美白効果を発揮する。
【0019】
サケ目サケ科イワナ属の魚類から得られる不凍タンパク質を有効成分とする美白剤は、B16メラノーマ細胞を用いたメラニン産生抑制作用を有し、色素沈着、シミ、そばかす等を予防・改善して、優れた美白効果を発揮する。
【0020】
サケ目サケ科イワナ属の魚類から得られる不凍タンパク質を有効成分とする美白剤は、表皮メラニン細胞チロシナーゼ活性阻害作用を有し、色素沈着、シミ、そばかす等を予防・改善して、優れた美白効果を発揮する。
【0021】
サケ目サケ科イワナ属の魚類から得られる不凍タンパク質を有効成分とする抗炎症剤は、IL−1α生成抑制作用を有し、優れた抗炎症効果を発揮する。
【0022】
サケ目サケ科イワナ属の魚類から得られる不凍タンパク質を有効成分とする抗老化剤は、ヒト真皮線維芽細胞の賦活作用を有し、老化症状の防止・改善に優れた効果を発揮する。
【0023】
サケ目サケ科イワナ属の魚類から得られる不凍タンパク質を含有する皮膚外用剤は、優れた保湿効果、美白効果、抗炎症効果、抗老化効果などを発揮する。
【0024】
これらの各剤は、サケ目サケ科イワナ属の魚類から得られる不凍タンパク質を有効成分として含む限り、その形態およびその他成分の配合の有無等については、何ら制限されない。形態については、液状、ペースト状、ゲル状、固体状または粉末状等の任意の形態を、その用途等に応じて選択でき、その形態とするために必要なビヒクル(賦形剤)、溶剤、またはその他の一般的な添加剤(酸化防止剤、着色剤または分散剤等)を任意に含むことができる。
【0025】
ここで皮膚外用剤とは、化粧料、医薬部外品または外用医薬品等の皮膚または毛髪に外用される全ての外用組成物を意味している。
【0026】
皮膚外用剤の剤型は任意であり、例えば、ローション等の可溶化系、カラミンローション等の分散系、またはクリームや乳液等の乳化系として提供することができる。さらに、噴射剤と共に充填するエアゾール形態、軟膏剤またはパップ剤等の種々の剤型で提供することもできる。
【0027】
具体的には、乳液、クリーム、ローション、化粧水、パック、美容液、洗浄料またはメイクアップ化粧料等の各種化粧料;液剤、軟膏、粉末、顆粒、エアゾール剤、貼付剤またはパップ剤等の様々な形態の化粧料、医薬部外品または外用医薬品などが例示できる。
【0028】
皮膚外用剤には、サケ目サケ科イワナ属の魚類から得られる不凍タンパク質の他に、その用途と必要に応じて、医薬品、医薬部外品、皮膚化粧料、毛髪用化粧料および洗浄料等に通常配合される任意の成分、例えば水、油性成分、保湿剤、粉体、色素、乳化剤、可溶化剤、ゲル化剤、洗浄剤、紫外線吸収剤、抗炎症剤、増粘剤、pH調整剤、キレート剤、薬剤(薬効成分)、香料、樹脂、防菌防かび剤、抗酸化剤、またはアルコール類等を適宜配合することができる。さらに、本発明の効果を損なわない範囲において、他の保湿剤、美白剤、抗炎症剤、抗老化剤、あるいはサケ目サケ科イワナ属以外の魚類またはその抽出物、またはその他の動植物の抽出物との併用も可能である。
【0029】
サケ目サケ科イワナ属の魚類から得られる不凍タンパク質の皮膚外用剤への配合量は、種類や目的等によって調整することができるが、効果や安定性などの点から全量に対して固形分換算で、好ましくは0.001〜5.0質量%であり、より好ましくは0.01〜5.0質量%であり、さらに好ましくは0.1〜5.0質量%である。
【0030】
以下に、サケ目サケ科イワナ属の魚類から得られる不凍タンパク質の調製例、保湿効果、美白効果、抗炎症効果、および抗老化効果を評価するための試験方法、皮膚外用剤としての処方例についてさらに詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらによってなんら限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
[実施例1]
<抽出物1>
サケ目サケ科イワナ属の魚類の頭部と腹部及び骨を除去し、皮を除いた身の部分をミキサーにかけ粉砕し、等量の水を加えて、4℃以下で一晩放置した。その後、5000rpm、30分間、スイングローターで遠心分離し、上清を取った。その上清を70℃で10分間処理し、氷上に静置した。その後、1.5mLチューブに分注後、13000rpm、20分間遠心分離を行い、上清を取った。その上清を80℃で15分間処理し、1.5mLチューブに移し、13000rpm、50分間遠心分離して、上清を取った。
【0032】
[実施例2]
<タンパク質の精製>
この上清をSDS−PAGEにより分画した。VIVASPIN6カラムを用いて行い、不凍タンパク(AFPIII)を含む7kDa付近のタンパク質を精製した。その結果を図1に示す。
抽出物1(図1、レーン2)
VIVASPIN6カラムで精製後(図1、レーン5,7)
【0033】
[実施例3]
<タンパク質粗精製物>
実施例1で得られた上清を24時間凍結乾燥したものをタンパク質粗精製物として用いた。
【0034】
[実施例4]
<不凍タンパク質確認試験>
凍結濃縮現象を利用した、不凍タンパク質の確認試験を行った。不凍タンパク質は水を抱え込む機能を持ち、それによって氷の結晶化が進むのを抑制するので、以下のようにインクなど共雑物と共に不凍タンパク質を加え凍結させると凍結しても溶質が均一分散状態を保つことができる。結果を図2に示す。
*インク+水
氷だけが水分子だけを使って結晶成長し、他の溶質を物理的に排除するので溶質と氷は分離する(凍結濃縮現象)。解凍後は、溶質が水面に浮かんだり、底に溜まっていた。
*インク+水+7kDaタンパク質溶液
凍結濃縮現象は起きず、溶質は凍結前と同様にきれいな分散状態を保っていた。
以上のことから、精製したタンパク質中には、不凍タンパク質が含まれていることを確認することができた。
【0035】
上記抽出物を用いて、各効果の評価を行った。なお各評価結果に記載した*および**は、t検定における有意確率P値に対し、有意確率5%未満(P<0.05)を*で、有意確率1%未満(P<0.01)を**でそれぞれ表したものである。
【0036】
[実施例4]
<保湿効果(フィラグリン合成促進作用の評価)>
1.ヒト表皮ケラチノサイトHaCaT細胞を、10%FCSを含むダルベッコMEM培地で、37℃、5%CO条件下にて培養した。
2.コンフルエントな状態になったところで、抽出物1を添加したダルベッコMEM培地にて、さらに24時間培養した後、総RNAの抽出を行った。総RNAの抽出にはRNAprotect Cell Reagent及びRNeasy Protect Cell Mini Kit(QIAGEN)を用いた。
3.HaCaT細胞から抽出した総RNAを基にRT−PCR法によりフィラグリンmRNA発現量の測定を行った。
4.内部標準としてはGAPDHを用いた。GAPDH mRNA発現量を補正値として用い、フィラグリンmRNAの発現量をブランク(培地のみ処理した)細胞でのmRNA発現量に対する割合として求めた。
評価結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1の結果から明らかなように、抽出物1は有意な保湿効果が認められた。
【0039】
[実施例5]
<美白効果(ヒト表皮メラニン細胞チロシナーゼ活性阻害作用の評価)>
クラボウ社製正常ヒト表皮メラニン細胞を1ウェル当り3.0×10個となるように96ウェルマイクロプレートに播種した。播種培地にはクラボウ社製Medium154Sを用いた。24時間後、Medium154Sによって各濃度に調整したタンパク質粗精製物培養液に交換し、さらに48時間培養した。次に1質量%Triton−Xを含有するリン酸緩衝液75μLに交換し、細胞を完全に溶解させ、内50μLを粗酵素液として使用した。粗酵素液に基質となる50μLの0.05質量%L−ドーパ含有リン酸緩衝液を加え、37℃で2時間静置した。基質添加直後と反応終了時の405nmの吸光度を測定し、生成されたドーパメラニン量は両測定値の差を次式に導入して求めた。
生成されたドーパメラニン量={(反応後405nm値−反応前405nm値)−2.166}/5.238
また、PIERCE社製BCAプロテインアッセイキットにて各ウェルのタンパク量を測定し、単位タンパク量当りのドーパメラニン生成量を求めた。コントロールの値を100とした時の相対値より、チロシナーゼ活性阻害作用を評価した。その結果を表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
表2の結果から明らかなように、タンパク質粗精製物は有意な美白効果が認められた。
【0042】
[実施例6]
<美白効果(B16マウスメラノーマ細胞メラニン産生抑制作用の評価)>
B16マウスメラノーマ細胞(B16F0細胞)を1ディッシュ当り18000個となるように90mmディッシュに播種した。播種培地には5質量%のウシ胎児血清(FBS)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を用いた。24時間後、5%質量FBS添加DMEM培地にて表3に示す濃度になるようにタンパク質粗精製物を添加した培養液に交換し、さらに5日間培養した。培養終了後、トリプシン処理にて細胞をはがし、1.5mLマイクロチューブに移して遠心操作して細胞沈殿物を得た。得られた沈殿物は下記判定表を基にその黒化状況を肉眼判定した。評価ではネガティブコントロールに5%質量FBS添加DMEM培地、ポジティブコントロールに50mM乳酸ナトリウムを含有する5質量%のFBS添加DMEM培地を用いた。これらの肉眼判定結果は判定5及び判定1とし、サンプル判定の指標とした。肉眼判定は下記に示す通り、5段階評価した。
判定及び基準
判定 基準
1 ポジティブコントロールと同程度(ほぼ白)
2 ポジティブコントロールより僅かに黒化する(うすい褐色)
3 ポジティブコントロールとネガティブコントロールの中間(褐色)
4 ネガティブコントロールと比べやや黒化が抑制されている(黒褐色)
5 ネガティブコントロールと同程度(ほぼ黒)
また同時に、沈殿物に組織溶解剤(商品名 Solvable)を添加して煮沸し、室温に戻して96ウェルマイクロプレートに150μL添加して、分光光度計(HITACHI製分光光度計U−3010)により500nmの吸光度を測定し、総メラニン量を求めた。評価結果を表3に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
表3の結果から明らかなように、タンパク質粗精製物は有意な美白効果が認められた。
【0045】
[実施例7]
<抗炎症効果(IL−1α生成抑制作用の評価)>
1.ヒト表皮ケラチノサイトHaCaT細胞を、10%FCSを含むダルベッコMEM培地で、37℃、5%CO条件下にて培養した。
2.コンフルエントな状態になったところで、抽出物1を添加したダルベッコMEM培地にて、さらに24時間培養した後、総RNAの抽出を行った。総RNAの抽出にはRNAprotect Cell Reagent及びRNeasy Protect Cell Mini Kit(QIAGEN)を用いた。
3.HaCaT細胞から抽出した総RNAを基にRT−PCR法によりフィラグリンmRNA発現量の測定を行った。
4.内部標準としてはGAPDHを用いた。GAPDH mRNA発現量を補正値として用い、IL−1αのmRNAの発現量をブランク(培地のみ処理した)細胞でのmRNA発現量に対する割合として求めた。
評価結果を表4に示す。
【0046】
【表4】

【0047】
表4の結果から明らかなように、抽出物1は有意な抗炎症効果が認められた。
【0048】
[実施例8]
<抗老化効果(ヒト真皮繊維芽細胞タイプIコラーゲン産生促進作用の評価)>
正常ヒト真皮繊維芽細胞を1ウェル当り2.0×10個となるように96ウェルマイクロプレートに播種した。播種培地には5重量%のウシ胎児血清(FBS)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を用いた。24時間後、0.5質量%のFBS添加DMEM培地にて表5に示す濃度になるようにタンパク質粗精製物を添加した培養液に交換し、さらに24時間培養した。培養上清中に分泌されたタイプIコラーゲンの定量にはELISA法を用い、最後は標識されたペルオキシダーゼに対し、2,2’−アジノビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)ジアンモニウム塩(ABTS)及び過酸化水素を添加し反応させた後、マイクロプレートリーダーにより、405nmの吸光度を測定した。評価では、サンプル培養液の他にネガティブコントロールとして、0.5質量%FBS添加DMEM培地を、ポジティブコントロールとして50μMのL−アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム塩(VCPMg)を含有する0.5質量%のFBS添加DMEM培地を用いた。評価はコントロールにおける細胞賦活作用を100とした時の相対値を求めて行った。また、BECKMAN社製のCoulter Counter又はPIERCE社製BCAプロテインアッセイキットにて各ウェルの細胞数又は単位タンパク量当りのコラーゲン産生量を求めた。評価はネガティブコントロールの単位当りコラーゲン産生量を100とした時の相対値を求めて行った。
【0049】
【表5】

【0050】
表5の結果から明らかなように、タンパク質粗精製物は有意な抗老化効果が認められた。
【0051】
続いて、上記調製方法で得られた抽出物1またはタンパク質粗精製物を配合した皮膚外用剤の処方例を示す。
【0052】
[実施例9]
乳液
(1)スクワラン 10.0(質量%)
(2)メチルフェニルポリシロキサン 4.0
(3)水素添加パーム核油 0.5
(4)水素添加大豆リン脂質 0.1
(5)モノステアリン酸ポリオキシエチレン
ソルビタン(20E.O.) 1.3
(6)モノステアリン酸ソルビタン 1.0
(7)グリセリン 4.0
(8)パラオキシ安息香酸メチル 0.1
(9)カルボキシビニルポリマー 0.15
(10)精製水 100とする残部
(11)タンパク質粗精製物 1.0
(12)アルギニン(1質量%水溶液) 20.0
製法:(1)〜(6)の油相成分を80℃にて加熱溶解する。一方(7)〜(11)の水相成分を80℃にて加熱溶解する。これに前記油相成分を攪拌しながら加え、ホモジナイザーにより均一に乳化する。冷却後40℃にて、(12)を順次加え、均一に混合する。
【0053】
[実施例10]
化粧水
(1)エタノール 15.0(質量%)
(2)ポリオキシエチレン(40E.O.)硬化ヒマシ油 0.3
(3)香料 0.1
(4)精製水 100とする残部
(5)クエン酸 0.02
(6)クエン酸ナトリウム 0.1
(7)グリセリン 1.0
(8)ヒドロキシエチルセルロース 0.1
(9)タンパク質粗精製物 0.5
製法:(1)に(2)及び(3)を溶解する。さらに(4)〜(8)を順次添加した後、十分に攪拌し、(9)を加え、均一に混合する。
【0054】
[実施例11]
クリーム
(1)スクワラン 10.0(質量%)
(2)ステアリン酸 2.0
(3)水素添加パーム核油 0.5
(4)水素添加大豆リン脂質 0.1
(5)セタノール 3.6
(6)親油型モノステアリン酸グリセリン 2.0
(7)グリセリン 10.0
(8)パラオキシ安息香酸メチル 0.1
(9)アルギニン(20質量%水溶液) 15.0
(10)精製水 100とする残部
(11)カルボキシビニルポリマー(1質量%水溶液) 15.0
(12)タンパク質粗精製物 1.0
製法:(1)〜(6)の油相成分を80℃にて加熱溶解する。一方(7)〜(10)の水相成分を80℃にて加熱溶解する。これに前記油相成分を攪拌しながら加え、ホモジナイザーにより均一に乳化する。(11)を添加して攪拌後、冷却し40℃にて(12)を加え、均一に混合する。
【0055】
[実施例12]
美容液
(1)精製水 100とする残部(質量%)
(2)グリセリン 10.0
(3)ショ糖脂肪酸エステル 1.3
(4)カルボキシビニルポリマー(1質量%水溶液) 17.5
(5)アルギン酸ナトリウム(1質量%水溶液) 15.0
(6)モノラウリン酸ポリグリセリル 1.0
(7)マカデミアナッツ油脂肪酸フィトステリル 3.0
(8)N−ラウロイル−L−グルタミン酸
ジ(フィトステリル−2−オクチルドデシル) 2.0
(9)硬化パーム油 2.0
(10)スクワラン(オリーブ由来) 1.0
(11)ベヘニルアルコール 0.75
(12)ミツロウ 1.0
(13)ホホバ油 1.0
(14)1,3−ブチレングリコール 10.0
(15)L−アルギニン(10質量%水溶液) 2.0
(16)タンパク質粗精製物 1.0
製法:(1)〜(6)の水相成分を混合し、75℃にて加熱溶解する。一方、(7)〜(14)の油相成分を混合し、75℃にて加熱溶解する。次いで、上記水相成分に油相成分を添加して予備乳化を行った後、ホモミキサーにて均一に乳化する。冷却後50℃にて(15)を、40℃にて(16)を加え、均一に混合する。
【0056】
[実施例13]
水性ジェル
(1)カルボキシビニルポリマー 0.5(質量%)
(2)精製水 100とする残部
(3)水酸化ナトリウム(10質量%水溶液) 0.5
(4)エタノール 10.0
(5)パラオキシ安息香酸メチル 0.1
(6)香料 0.1
(7)ポリオキシエチレン(60E.O.)硬化ヒマシ油 1.0
(8)タンパク質粗精製物 0.5
製法:(1)を(2)に加え、均一に攪拌した後、(3)を加える。均一に攪拌した後、(4)に予め溶解した(5)を加える。均一に攪拌した後、予め混合しておいた(6)〜(7)を加え、最後に(8)を加えて、均一に攪拌混合する。
【0057】
[実施例14]
クレンジング料
(1)スクワラン 81.0(質量%)
(2)イソステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル 15.0
(3)精製水 100とする残部
(4)タンパク質粗精製物 1.0
製法:(1)と(2)を均一に溶解する。これに、(3)と(4)を順次加え、均一に混合する。
【0058】
[実施例15]
洗顔フォーム
(1)ステアリン酸 16.0(質量%)
(2)ミリスチン酸 16.0
(3)親油型モノステアリン酸グリセリン 2.0
(4)グリセリン 25.0
(5)水酸化ナトリウム 7.5
(6)ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン 1.0
(7)精製水 100とする残部
(8)タンパク質粗精製物 0.1
製法:(1)〜(4)の油相成分を80℃にて加熱溶解する。一方(5)〜(7)の水相成分を80℃にて加熱溶解し、油相成分と均一に混合撹拌する。冷却後40℃にて(8)を加え、均一に混合する。
【0059】
[実施例16]
メイクアップベースクリーム
(1)スクワラン 10.2(質量%)
(2)セタノール 2.0
(3)グリセリントリ−2−エチルヘキサン酸エステル 2.5
(4)親油型モノステアリン酸グリセリル 1.0
(5)プロピレングリコール 11.0
(6)ショ糖脂肪酸エステル 1.3
(7)精製水 100とする残部
(8)酸化チタン 1.0
(9)ベンガラ 0.1
(10)黄酸化鉄 0.4
(11)香料 0.1
(12)タンパク質粗精製物 1.0
製法:(1)〜(4)の油相成分を混合し、75℃にて加熱溶解する。一方、(5)〜(7)の水相成分を混合し、75℃にて加熱溶解し、これに(8)〜(10)の顔料を加え、ホモミキサーにて均一に分散させる。この水相成分に前記油相成分を加え、ホモミキサーにて乳化する。冷却後40℃にて(11)と(12)の成分を加え、均一に混合する。
【0060】
[実施例17]
乳液状ファンデーション
(1)メチルポリシロキサン 2.0(質量%)
(2)スクワラン 5.0
(3)ミリスチン酸オクチルドデシル 5.0
(4)セタノール 1.0
(5)ポリオキシエチレン(20E.O.)
ソルビタンモノステアリン酸エステル 1.3
(6)モノステアリン酸ソルビタン 0.7
(7)1,3−ブチレングリコール 8.0
(8)キサンタンガム 0.1
(9)パラオキシ安息香酸メチル 0.1
(10)精製水 100とする残部
(11)酸化チタン 9.0
(12)タルク 7.4
(13)ベンガラ 0.5
(14)黄酸化鉄 1.1
(15)黒酸化鉄 0.1
(16)香料 0.1
(17)タンパク質粗精製物 0.1
製法:(1)〜(6)の油相成分を混合し、75℃にて加熱溶解する。一方、(7)〜(10)の水相成分を混合し、75℃にて加熱溶解し、これに(11)〜(15)の顔料を加え、ホモミキサーにて均一に分散する。油相成分を加え、乳化を行う。冷却後40℃にて(16)と(17)の成分を順次加え、均一に混合する。
【0061】
[実施例18]
油中水型エモリエントクリーム
(1)流動パラフィン 34.0(質量%)
(2)マイクロクリスタリンワックス 2.0
(3)ワセリン 5.0
(4)ジグリセリンオレイン酸エステル 5.0
(5)塩化ナトリウム 1.3
(6)塩化カリウム 0.1
(7)プロピレングリコール 3.0
(8)1,3−ブチレングリコール 5.0
(9)パラオキシ安息香酸メチル 0.1
(10)精製水 100とする残部
(11)香料 0.1
(12)タンパク質粗精製物 1.0
製法:(5)と(6)を(11)の一部に溶解して50℃とし、50℃に加熱した(4)に撹拌しながら徐々に加える。これを混合した後、70℃にて加熱溶解した(1)〜(3)に均一に分散する。これに(7)〜(9)を(10)の残部に70℃にて加熱溶解したものを撹拌しながら加え、ホモミキサーにて乳化する。冷却後40℃にて(11)と(12)を加え、均一に混合する。
【0062】
[実施例19]
パック
(1)精製水 100とする残部(質量%)
(2)ポリビニルアルコール 12.0
(3)エタノール 17.0
(4)グリセリン 9.0
(5)ポリエチレングリコール(平均分子量1000) 2.0
(6)タンパク質粗精製物 1.0
(7)香料 0.1
製法:(2)と(3)を混合し、80℃に加温した後、80℃に加温した(1)に溶解する。均一に溶解した後、(4)と(5)を加え、攪拌しながら冷却する。40℃にて(6)と(7)を加え、均一に混合する。
【0063】
[実施例20]
入浴剤
(1)香料 0.3(質量%)
(2)タンパク質粗精製物 3.0
(3)炭酸水素ナトリウム 50.0
(4)硫酸ナトリウム 46.7
製法:(1)〜(4)を均一に混合する。
【0064】
[実施例21]
ヘアーワックス
(1)ステアリン酸 3.0(質量%)
(2)マイクロクリスタリンワックス 2.0
(3)セチルアルコール 3.0
(4)高重合メチルポリシロキサン 2.0
(5)メチルポリシロキサン 5.0
(6)ポリ(オキシエチレン・オキシプロピレン)
メチルポリシロキサン共重合体 1.0
(7)パラオキシ安息香酸メチル 0.1
(8)1,3−ブチレングリコール 7.5
(9)アルギニン 0.7
(10)精製水 100とする残部
(11)タンパク質粗精製物 1.0
(12)香料 0.1
製法:(1)〜(6)の油相成分を混合し、75℃にて加熱溶解後する。一方、(7)〜(10)の水相成分を75℃にて加熱溶解し、前記油相成分を加え、ホモミキサーにて乳化する。冷却後40℃にて(11)と(12)の成分を加え、均一に混合する。
【0065】
[実施例22]
ヘアートニック
(1)エタノール 50.0(質量%)
(2)精製水 100とする残部
(3)抽出物1 1.0
(4)香料 0.1
製法:(1)〜(4)の成分を混合、均一化する。
【0066】
実施例8〜実施例22に示した皮膚外用剤は、保湿効果、美白効果、抗炎症効果、抗老化効果を有する組成物であった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のサケ目サケ科イワナ属の魚類から得られる不凍タンパク質は、皮膚化粧料、毛髪用化粧料または洗浄料等の皮膚外用剤、医薬品、医薬部外品に配合して用いるのに有用である。また、本発明に係るイワナ属の魚類から得られる不凍タンパク質は、天然由来成分であることから、安全性が高いことが容易に考えられ、皮膚外用剤としての意義も大きく、したがって本発明は、新たな皮膚外用剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サケ目(Salmoniformes)サケ科(Salmonidae)イワナ属(Salvelinus)の魚類から得られる不凍タンパク質を含有することを特徴とする、保湿剤。
【請求項2】
サケ目(Salmoniformes)サケ科(Salmonidae)イワナ属(Salvelinus)の魚類から得られる不凍タンパク質を含有することを特徴とする、美白剤。
【請求項3】
サケ目(Salmoniformes)サケ科(Salmonidae)イワナ属(Salvelinus)の魚類から得られる不凍タンパク質を含有することを特徴とする、抗炎症剤。
【請求項4】
サケ目(Salmoniformes)サケ科(Salmonidae)イワナ属(Salvelinus)の魚類から得られる不凍タンパク質を含有することを特徴とする、抗老化剤。
【請求項5】
サケ目(Salmoniformes)サケ科(Salmonidae)イワナ属(Salvelinus)の魚類から得られる不凍タンパク質を含有することを特徴とする、皮膚外用剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−26223(P2011−26223A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−172003(P2009−172003)
【出願日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(000135324)株式会社ノエビア (258)
【Fターム(参考)】