説明

目標とされる安定な銅状態を達成及び維持して銅関連中枢神経系疾患を予防及び治療するための医薬組成物及び方法

【解決手段】ヒトの銅関連疾患を治療及び予防するために、銅の状態を、目標とされるレベルを達成し該レベルを維持するための改良された手段を含む組成物及び方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物及びヒトにおける過剰な金属の蓄積又は金属の吸収阻害(malabsorption)を治療する薬学的生成物及び方法に関する。本発明は、ヒトのウイルソン病の治療に特に適しており、その用途について説明するが、脳及びその他器官内に銅の過剰な蓄積及び/又は血清及び中枢神経系(CNS)における遊離銅(free copper)の1日での値変化によって生ずる神経病の治療に適用することもできる。なお、中枢神経系疾患として、限定するものではないが、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ルー・ゲーリッグ病、痴呆、ハンチントン病、統合失調症の他、体内に銅関連蛋白質の異常蓄積に関連する神経筋疾病(例えば、若年性及び散発性封入体筋炎、高齢者の筋炎、並びにアテローム性動脈硬化症、脳梗塞及び末梢血管等の心臓疾患)を挙げることができる。本発明は、肝臓の銅排泄の低下に関連する肝臓の病気(例えばフリー又は弱結合性の血清銅又はCSF銅が増加する胆管炎、肝炎及び肝硬変等)の神経学的及び精神医学的な症状の治療に用いられることもできる。
【背景技術】
【0002】
銅は生命に必須の微量元素である。しかしながら、その重要性にも拘わらず、銅は極めて反応性の高い酸化性物質でもあり、細胞、蛋白質及び器官系(例えば、肝臓、脳及び脈管構造)に対する毒性が強い。どこで必要とされた場合でも、体内で銅を送達し利用するために、要求に応じて、哺乳動物系では、蛋白質及び脂質が不注意で酸化又は低減する銅の能力を最小にした状態で、銅を、適正に取り除き、貯蔵し、輸送し、シャペロンし、排泄する作用を有する高度に特異で、恒常性の銅結合銅蛋白質について、綿密な制御ネットワークが発達している。多くの異なる銅蛋白質が同定され、それら機能は何年もかけて解明されてきている。そのような銅蛋白質として、限定するものではないが幾つかの例を挙げると、マトリックス金属蛋白質、セルロプラスミン、銅/亜鉛スーパーオキシドジスムターゼ、アミロイド前駆体蛋白質、アポリポ蛋白質E、タウ(τ)、ホモシステイン、アルブミン及び銅亜鉛スーパーオキシドジスムターゼに対するシャペロンがある。
【0003】
ヒトにとっての銅が最も問題となる潜在的毒性源の1つは、飲料水系に有害銅が多量に存在することである。これは、食物に存在する銅は、蛋白質に結合され、その吸収は腸で比較的容易に調節されることができ、消化中、食物からゆっくりと分解するのに対し、飲料水中の銅は、銅イオン(Cu+2)の形態で、非結合形態又は有機配位子と弱くのみ錯化された形態である。銅イオンは、食物中の場合よりも水中の方が、一般的にはより生体利用可能である。ヒトの食事において、食物中には、銅の新陳代謝、吸収及び流動化に影響を及ぼす成分がある。
【0004】
<人体による銅の吸収>
ヒトの場合、食事性銅は、胃及び小腸から吸収される。硫酸銅としてのCu64の経口量の約65%は、ヒトの胃腸管かた吸収された(15-97%)[Weber et al., 1969; Strickland et al., 1972]. 吸収効率は、食物中の銅含有量と反比例の関係にある[Turnland et al., 1989, 1998]。経口投与されたCu+64は血漿中に迅速に現れる[Beam and Kunkel, 1955]。
【0005】
ヒトの正期産児が、母乳で、毎日、銅を114μg/kg-dayを摂取すると、88μg/kg-dayの銅が残留した。これは約77%の吸収値を表している[Dorner et al. (1989)]。銅の残留は年齢と共に低下した。生後2週間では130μg/kg-day が残留し、生後16週間では64μg/kg-dayが残留した。これに対し、銅補強製剤が与えられた乳児の平均相対的保持は52パーセントであった。Cu67 を用いた赤毛猿乳児における銅吸収は50-70パーセントであり、ヒトの正期産児に対しても同様な値であった[Lonnerdal et al., 1996]。ラットの研究によれば、銅の吸収は、新生児の間は非常に高かったが、離乳期になると減少した[Lonnerdal et al., 1985]。ラットの腸を潅流すると[Varada et al. (1993]、銅の吸収は、乳児及び離乳児では直線的で非飽和性であったが、青年ラットでは飽和性であった。組織銅濃度は、乳児ラットでは、離乳児ラット又は青年ラットよりもかなり高かった。ヒト及びカウのミルクに存在するシトレートは、動物モデルの銅吸収に対して改善効果を有することが示されている[Shah, 1981]。
【0006】
チリ人の1-3か月(n=20)乳児群に対して、毎日、経口補充剤80μgCu(硫酸銅溶液として)/kgを15日間投与した[Olivares et al.(2002)]。乳児群(n=19)の半分は、補充剤を施さなかった。試験の終わりに、Cu65をトレーサとして経口投与し、回収したCu63について糞便を監視して、銅の吸収を測定し2つの乳児群の間に、吸収された銅に大きな違いは観察されなかった。1か月齢での銅吸収の平均(+SD)は、補充剤を施したものは83.6 + 5.8パーセント、施さなかったものは74.8 + 15.2パーセントであった。この報告では、銅摂取は少なすぎて、“腸吸収の恒常性による適応をトリガ”することができなかったため、実験設計が不適切であったと結論づけられている。
【0007】
ラットとハムスターの消化管における銅の吸収が研究された。吸収は、ラットでは胃と十二指腸から起こり[Van Campen and Mitchell, 1965]、ハムスターでは下部小腸から起こった[Crampton et al., 1965]。消化管から吸収された銅は、アミノ酸に結合されることができるし、イオン性銅の形態で存在することもできる。銅は、腸内でメタロチオネインに結合されて、腸内で吸収されるか、又は戻されて捨て去られる。
【0008】
蛋白質源(植物蛋白質又は動物蛋白質)、アミノ酸、炭水化物及び/又はアスコルビン酸の存在は、銅の利用度に影響を及ぼす[Gibson, 1994; Lonnerdal, 1996]。亜鉛とカドミウムの拮抗は、食事及び飲料水の両方からの銅吸収に影響を及ぼす[Davies and Campbell, 1977; Hall et al., 1979]。アスコルビン酸は、メタロチオネインの結合部位を変化させることができる。モルモットでは、食餌アスコルビン酸が多いと、銅の吸収が妨げられることが示されている[Smith and Bidlack, 1980]。しかし、ヒトでは、通常のアスコルビン酸の投与量では因子にならないことが示されている[Jacob et al., 1987]。フィテートとファイバーは、銅と錯体を形成するので、銅の吸収を妨げる[Gibson, 1994]。ヒトの場合、銅は、主に肝臓に蓄積されるが、銅の吸収には影響を与えない[Strickland et al., 1972]。ヒトにおいて、吸入(inhalation)による銅吸収について、利用可能な研究は見当たらない。
【0009】
ラットが純銅ワイヤの溶接塵に曝露された後、肺胞毛細血管中の酸化銅の観察が行われた[Batsura, 1969]。ヒトの元の皮膚を通じて銅の吸収の割合又は程度に関する研究は行われていないが、銅は接触性皮膚炎の原因となるので、幾らかの吸収は起こる[ATSDR, 1990]。ヒトの皮膚を通して銅及び亜鉛のインビトロでの吸収に関する研究がある[Pirot et al. (1996]。皮膚の吸収は、全銅の吸収に対する有意の寄与はない。
【0010】
<人体における銅の分配>
銅は、血漿の中を輸送され、セルロプラスミン、アルブミン又はアミノ酸に結合される[Cousins, 1985]。セルロプラスミンは、システインに富む糖蛋白質であり、多くの遊離スルフヒドリル基が金属に対する結合位置として機能する。セルロプラスミンは銅又は亜鉛を結合することはできるが、銅に対する結合性はより強い[Cousins, 1985]。セルロプラスミンは、肝臓の柔細胞の膜結合ポリリボソームに合成され、血漿中に分泌される。腸から門脈循環に入る銅は、直接肝臓へ輸送される。肝臓から放出された銅は、血流の中を他の器官(腎臓及び脳を含む)に輸送される。セルロプラスミンの合成は、インターロイキン-Iにより、グルカゴン又はグルココルチコイドを介して制御される[Cousins, 1985]。循環銅の量は妊娠中の女性では増加するが、それは、妊娠に関連するホルモン変化がセルロプラスミンの合成を刺激するからである[Solomons, 1985]。セルロプラスミン値は、銅の状態を示すインジケータとして有用である[Mendez et al., 2004]。
【0011】
最近になって、細胞による銅の摂取及び輸送に関わる幾つかの銅トランスポータが同定されている[Bauerly et al., 2005]。銅トランスポータ-1(Crt1)は、銅特異性の銅取込み蛋白質であり、小腸への銅の取込みを調節するものと考えられている[Lee et al., 2002]。Crt1は、小腸の腸細胞の中及び培養物の腸細胞様Caco-2の中に発現される[Klomp et al., 2002; Kuo et al., 2001]。銅エフラックス蛋白質ATP7Aは、トランスフェクション細胞での銅の発現中に血漿膜を通る銅の流出性を調節すると考えられている[Petris et al., 1996]。メンケス病は、小腸における銅の過剰蓄積及び全身の銅不足による特徴があり、ATP7Aの欠陥の結果である[Schaefer and Gitlin, 1999]。ATP7Bは、ATP7Aと機能的に類似しており、排泄のために胆汁の中へ銅をエクスポートする[Roelofsen et al., 2000]。ATP7Bは、主に肝臓の中に存在し、小腸、腎臓及び胎盤での発現は少ない[Lockhart et al., 2000]。ATP7Bの異常はウイルソン病となり、これは銅の毒性(胆液の銅排出低下の結果として肝臓の銅蓄積による)及び肝臓の障害によって特徴づけられる。
【0012】
<銅の新陳代謝及び排出>
肝臓と腸は、銅の代謝に重要な役割を果たす。銅は、門脈循環から肝細胞によって取り込まれる。肝細胞内では、銅はメタロチオネインに結合される。メタロチオネインは、銅、鉄及び水銀も結合する蛋白質である。銅は、肝細胞から体循環に放出されて、他の組織に輸送されるか、又は肝臓から胆液に排出される[Cousins, 1985]。主な排出先は胆液の中である。尿には極く少量が排出される[Cousins, 1985]。ヒトの乳児は、生まれた時は胆液排出が未発達であり、有効な排出機能の欠如により、乳児は、銅の毒性に対する危険性が増加する。
【0013】
<銅の生理学的/栄養学的役割>
銅は必須の栄養素であるため、体内における多くの生理学的役割を理解することは、銅の過不足による有害効果を理解する上で重要である。銅は、ヘモグロビンの合成及び赤血球の生成に重要である[Solomons, 1985; Harris, 1997]。銅の不足は貧血に到る。銅の不足は、同じように、ミエリン生成の異常をもたらし、神経系に対して付随的影響を及ぼす[Solomons, 1985; Harris, 1997]。神経系への影響として、例えば痴呆が、銅の過不足がある者に観察された[Solomons, 1985; Harris, 1997]。カテコラミン代謝への影響は、同じように神経系異常に関係している。銅に関連するその他の生理学的機能として、白血球新生、骨格石灰化、結合組織合成、メラニン合成、酸化的リン酸化、体温調節、抗酸化保護、コレステロール代謝、免疫及び心臓機能及びグルコース代謝の調節を挙げることができる。これら全ての生理学的過程は銅に関連するので、そのどれもが、人体又は特異組織における銅の利用度による影響を受ける。一般的に、銅の過不足による影響を受けた系では、これらの生理学的過程のどれにも悪影響が起こり得る[Solomons, 1985; Harris, 1997]。
【0014】
乳児に対する銅の具体的要件はあまりよく立証されていない。乳児では、銅は骨、脳、免疫系及び赤血球等が正常な成長をする上で必須のミネラルである[Hurley et al., 1980]。正期産児は、生まれたときに適当量の銅を有しており、離乳時期まで続くと考えられているが、早産児では銅不足になり易く、その不足を補うために銅をより多く供給する必要がある[Lonnerdal, 1998]。
【0015】
銅について、毎日の推奨摂取量(RDAs)は、RDAの初期版には規定されていないが、それは値を決定することが困難であったためである[NAS, 1989]。食物を摂取するとき、恒常性維持機構により銅の吸収と排出が変化するので、栄養を検討する際にマスバランスの計算が複雑になる。しかしながら、最近の多くの発行書物には、推奨量が記載され[FNB, 2000]、銅の栄養条件が記載されている。次の表1は、様々な年齢群における銅の食事摂取基準(DRI)について、推定平均必要量(EAR)、栄養所要量(RDA)及び許容上限摂取量(UL)を示している[FNB, 2000より]。乳児の数値については、主にヒトミルクに含まれる銅量に基づいて、適正摂取量(AI)の値として記載されている。AI値は、0-6か月の乳児は200μg/day、7-12か月の乳児は220μg/dayであり、乳児のUL推定値を規定することはできなかった[FNB, 2000]。
【0016】
【表1】

【0017】
食物及びサプリメントからの銅摂取量は、NHANES IIIの全国調査(1988-1994)から入手し、次の表2に示している。NHANES IIIの表と、食物摂取状況の継続調査(C SFII)により、あらゆる年齢及び性別群において、その大部分に適当な銅摂取量が示されている。しかしながら、一部の若年齢者の群に対する結果は、集団の10%もが、銅のRDAよりも摂取が少ないことを示している。一方、特に10代の者が食物摂取を過少申告する傾向[Champagne et al., 1998]を考慮すると、分配曲線の下端は不正確と思われる。
【0018】
【表2】

【0019】
なお、表2中、RDAについては、母乳の授乳児及び子供並びに8歳児でサプリメントからの銅が150mg/dayより多く報告している者は分析から除外した。RDAの値は、FNB,2000の値である。
大部分の者は、飲料水に含まれる有毒な銅イオンに慢性的に曝露されていても病気の兆候を示すことなく対処することができるけれども、ヒトの銅輸送及び代謝経路が遺伝変種による影響を受ける病気(例えば、ウイルソン病やメンケス病)が稀に起こる。遺伝変種がウイルソン病やメンケス病を引き起こすことは、1990年代の初め頃に幾つかのグループによって確認されている。稀なウイルソン病患者の他に、高齢者にも血清銅の増加が報告されている[Madaric et. al., Physiol Res, 1994; 43(2): 107- 11 and Ghayour-Mobarhan et. al., Ann Clin Biochem, 2005 Sep; 42(Pt 5):364-75]。これは、銅が肝臓を経て胆液へ送られるように適切に処理し、便として排出する能力の障害が原因であるかもしれない。それゆえ、この患者集団は、ウイルソン病患者と同じような銅感受性を有している可能性がある。高齢のアルツハイマー病患者は、非セルロプラスミン結合銅の量が増加することが報告されている[Squitti, et. al.]。
【0020】
ウイルソン病の特徴は、ATP7Bと称されるP型ATPaseをエンコードする遺伝子の突然変異にある。ATP7Bの不足により、ウイルソン病患者は、銅を適切に処理し、肝臓の正常な胆管を通じて、銅を輸送し排出することができない。正常者の場合、新たに導入された銅は、まず最初に、銅に対する最も高い親和性を有する利用可能な内発的銅蛋白質(例えば、メタロチオネイン、スーパーオキシドジスムターゼ及びアルブミン)に結合するものと思われる。銅イオンの場合、血清中ではかなり稀少であるが、種々の蛋白質及びペプチドに“弱結合”である銅が、ウイルソン病患者には多く存在する。これは、他の代謝障害のアルツハイマー病患者、軽度認知機能障害(MCI)患者、統合失調症患者、痴呆患者及び高齢者にも潜在的にあてはまる。
【0021】
1990年代になると、メンケス病の原因である遺伝子欠陥は、他のP型ATPaseであるATP7Aへの突然変異であることが確認された。メンケス病の特徴は、腸細胞が銅を放出できないことにより、利用可能な銅のレベルが異常に低下し、様々な発達異常が起こることである。
【0022】
正常患者における様々な血清蛋白質中の全血清銅含量に対する寄与の推定は次の通りである。セルロプラスミン(650-750μg/L, 65-70%)、アルブミン(120-180μg/L, 12-18%)、トランスクプレイン(マクログロブリン)(90μg/L, 9%)、フェロキシダーゼII(10μg/L, 1%)、細胞外SOD及びヒスチジン富化グリコプロテイン(<10μg/L, <1%)、血液凝固因子V及びVIII(<5μg/L, <0.5%)、細胞外メタロチオネイン及びアニメオキシダーゼ(<1μg/L, <0.1%)、15-6OkDaコンポーネント(40μg/L, 4%)、小ペプチド及びアミノ酸(35μg/L, 4%)、未結合又は遊離型銅イオン(0.0001μg/L, 約0%)[Linder, MC Biochemistry of Copper (ed.) 1991; Linder, MC (2001), Copper and Genomic Stability in Mammals., Mutat. Res. 475, 151-52]。
【0023】
前述の如く、循環血清銅の大部分は、15-60kDaの蛋白質(約4%)並びに小ペプチド及びアミノ酸(さらに約4%)に結合される。そのような小蛋白質及びペプチドは、弱結合の銅を、血液脳関門を通すことができるので、銅が過剰に存在できる環境を作り出し、ニューロンの健康に有害となる。健康な銅の恒常性を維持し、細胞外脂質超酸化及び細胞内酸化から保護するために、ニューロンは、様々な銅結合蛋白質を上方制御することができる。これらの銅結合蛋白質として、例えば、APP、アミロイドベータ、タウ、BACEl及びapoEがあり、これらは全てアルツハイマー病でも上方制御され、また、細胞内で、神経筋疾患の封入体筋炎でも同様である。
【発明の開示】
【0024】
溶解銅又は小リガンドに弱結合された銅は、一般に、水道水の中に存在するが、これら銅は生物利用度が高く(最大65%)、腸内の水フラックス(water fluxes)により、消化管の腸細胞及び肝臓の銅恒常性機構を圧倒する(overwhelm)能力を有し、アルブミン及びその他の低キネティック銅結合蛋白質に対して潜在的に有害な弱結合形態で門脈及び全身循環に入る。本発明の目的は、そのような有害フラックスから保護するための組成物(compositions)、調製物(formulations)、製剤(agents)及び方法を提供することであり、以下に説明する。
【0025】
<ウイルソン病>
未治療のウイルソン病患者の場合、体内の銅は蓄積を続けて、最終的に高結合性銅蛋白質を圧倒する。残留銅は、遊離型又は未結合であるか、又は銅に対して低結合性である銅蛋白質に弱結合される。遊離型、未結合又は低結合性の銅に関するこのプールは、自由に循環し、血液脳関門を通過することができるので、その反応性及び酸化促進能力により神経細胞を損なう。臨床的には、種々の銅蛋白質は、銅の貯蔵所として作用し、一般的には、銅に対する各銅蛋白質の結合性との逆相関に基づいて放出される。いわゆる“弱結合された(loosely bound)”銅蛋白質として、例えば、アルブミン及びホモシステインを挙げることができる。このような銅蛋白質は、銅結合性の強い蛋白質(例えば、セルロプラスミン及びCu/Znスーパーオキシドジスムターゼ)と比べて、利用可能な銅の潜在的有毒プールとして作用する。
【0026】
遺伝子の病気により、又は線維形成若しくは胆液の流れによる肝臓障害により、銅の排出能力が損なわれると、メタロチオネイン等の高結合性の銅蛋白質は、最終的に、完全に飽和するようになり、銅結合過程は、ホモシステイン及びアルブミン等の銅結合性の低い蛋白質と共に継続して、これら蛋白質プールの各々も飽和するようになる。ウイルソン病患者の場合、全銅は、高結合性銅蛋白質の適当に結合し封じ込める能力を圧倒する。体内の銅、いわゆる“遊離(free)”又は“未結合(unbound)”又は“弱結合(loosely bound)”型の銅の量が過剰になると、体内に蓄積され、血液脳関門を通って、中枢神経系に入る。この銅は有毒であるので、時間が経過すると、脳及び肝臓等の器官を損ない破壊する。
【0027】
<ウイルソン病の治療>
遺伝子の異常又は加齢により銅蛋白質のネットワークが異常が起こると、体内の銅は、銅蛋白質により、適切な結合及び封鎖(sequester)ができなくなり、適切に維持されることができない。銅が、いわゆる“遊離”又は“未結合”又は“弱結合”の形態で存在するとき、毒性及び酸化能力は最も顕著である。このような遊離型銅は、様々な器官(例えば、肝臓、脳等)に対して有害である。このような病気の典型例は、ウイルソン病である。患者の初発状態によって治療は異なるが、一般的には、緊急又は誘導に基づき、強力な銅キレート剤及び錯化剤を用いて治療が行われ、さらなる損傷のために、体内から利用可能な遊離銅を除去するか、又は利用できないようにする。銅キレート剤及び錯化剤として、テトラチオモリブデート、ペニシラミン又はトリエンチンがある。初期の緊急又は誘導治療の後、患者は、一般的には残り寿命に亘り、長期間ベースの維持療法に切り換えられる。長期に亘る維持療法に一般的に用いられる製剤は、銅の吸収不良の状態を維持する製剤であり、例えば酢酸亜鉛がある[Brewer]。酢酸亜鉛は、米国ではGalzin(商標名)として、ヨーロッパではWilzin(商標名)として販売され、処方箋により入手可能である。米国において、処方箋なしで入手可能な他の亜鉛塩として、ウイルソン病患者に対して長期の維持療法用として用いられるものがあるが、成功の程度は様々である。そのような他の亜鉛塩として、炭酸亜鉛、硫酸亜鉛、グルコン酸亜鉛、酸化亜鉛、塩化亜鉛及びステアリン酸亜鉛を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
【0028】
亜鉛は、ウイルソン病の初期治療を含む包括的治療に用いられている[Hoogenraad et al., Lancet, 2:1262-1263 (1978); Hoogenraad et al., Eur. Neurol., 18:205-211 (1979); and Hoogenraad et al., J. Neurol. ScL, 77:137-146 (1987)]。しかしながら、亜鉛は、作用がかなり遅いため、初期治療には理想的でない。このように、ウイルソン病患者における腸メタロチオネイン誘導及び負の銅バランスを達成するのに約2週間要する[Yuzbasyan-Gurkan et al., J. Lab. Clin. Med., 120:380-386 [1992]]。2週間の時点で、亜これら患者の平均の平均として、亜鉛は銅バランスを毎日+0.54mg逆転させる。しかし、誘導された負の銅バランスはかなり穏やかで、平均して、毎日-0.35mgである[G J Brewer et al., J. Trace Elem. Exp. Med., 3:227-234 [1990]; G J Brewer et al., Amer. J. Med. ScL, 305:(4)199-202 [1993]]。亜鉛治療では、銅の除去率が低いため、尿の銅及び非セルロプラスミン血漿の銅(血液中に測定される潜在的に有毒な銅)を、毒性水準以下に低下させるのに6か月も要する。銅吸収のブロッカーとして、テトラチオモリブデート(TM)は、亜鉛よりも有効である。亜鉛は、メタロチオネインが誘導される小腸の領域だけで作用するのに対し、TMは、胃腸管の上下全部で作用するからである。その他に、TMは直ちに作用することも、亜鉛と比べて有利である。また、メタロチオネインの誘導に必要な遅延期(lag period)がない。
【0029】
結局のところ、そのような長期に亘る維持治療では、製剤の使用により胃や食道に慢性的で激しい炎症や吐き気を伴うので、効果を予測したり、適当な投与計画を設定することが困難であり、また、遊離型血清銅が正常範囲内に維持されていることを確認するために常に遊離型血清銅の値を監視する必要がある。このため、患者によってはうまく機能しない。そのような製剤の効果は、食事のタイミングに関連するので、投与のタイミングによって変動する。また、1日の処方が多剤投与の場合、服薬を順守することが困難であり、胃の炎症を起こす可能性があり、夫々の投与時間を、少なくとも食事の1時間前及び3時間後に行なう必要がある。また、この順守は、患者の残された寿命期間全部に亘って行なう必要がある。
【0030】
<遊離銅及び/又は銅の蓄積レベルの増加に関連する他の障害>
弱結合銅、遊離銅の値の増加及び/又は銅の蓄積に関連する他の障害として、頭痛、低血糖症、心拍数増加、吐き気、貧血、脱毛、腎炎、自閉症、うつ病、幻覚、過敏症、不眠、知覚障害、偏執症、人格変化、精神病、統合失調症、軽度認識障害、現実逃避、アテローム性動脈硬化、脳卒中、タウア症(tauapathies)、シヌクレイノ症(synucleinopathies)、非アルコール脂肪肝炎、多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、痴呆、ALS及び自閉症を例示することができる。また、炎症及び線維症の増加に関連する病気は、遊離銅の増加に関連しており、銅低下剤による銅値の低下によって緩和されることができる。
【0031】
<アルツハイマー病>
ヒトの寿命は、前世紀から著しく延びてきている。アルツハイマー病や他の神経変性病は、人口に対する比率が増えて、人生のクォリティに与える影響は増加してきている。例えば、アルツハイマー病は、高齢者の痴呆の主要原因であり、65歳を超える人口の5-10%を占めている[A Guide to Understanding Alzheimer's disease and Related Disorders, edited by Jorm, New York University Press, New York (1987)を参照]。アルツハイマー病は、記憶損失の僅かな兆候を示し、痴呆が、数年にかけてゆっくりと進行する。アルツハイマー病及び他の痴呆の罹患率は、65歳を超えると、5年毎に倍増する[1997 Progress Report on Alzheimer's disease, National Institute on Aging/National Institute of Healthを参照]。アルツハイマー病は、世界中で、現在1千2百万人が罹患しており、2025年には2千2百万人、2050年には4千5百万人になると推定されている[Alzheimer's Association Press Release, JuI. 18, 2000を参照]。
【0032】
脳の構造及び化学の複雑さ、並びに脳の神経変性病気(特にアルツハイマー病)の複雑さが、ヒトの脳に見られる変化に類似した症状を呈するモデルの発達を妨げている。このようなモデルは、このような病気を治療し、防止し、病気の効果を無効にするのに有用な薬剤又は他の製剤を特定する上で必要とされるものである。
【0033】
アルツハイマー病の特徴は、特定のニューロン群の損失にあり、また、脳内に、老人プラーク及び神経原線維変化と称される2つの主な病巣が出現することにある[Brion et al., J. Neurochem. 60: 1372-1382 (1993)を参照]。老人プラークは細胞外空間に発生する。老人プラークの主要素は、ベータアミロイド(A-ベータ)であり、天然分泌されるが不溶解で、アミロイド前駆体蛋白質(APP)の開裂によって生成されるペプチドである。A-ベータは、APPのカルボキシル末端に近いフラグメントである。
【0034】
神経原線維変化は、フィラメント状物質がニューロン内でループ状に蓄積したものである。これらは、記憶機能と関連する脳の部分、例えば、側頭葉の海馬及びその隣接部に最も豊富に存在する[Robbins Pathologic Basis of Disease, Cotran et al., [omicron].sup.th ed. (1999)を参照]。神経原線維変化は、一般的には、皮質ニューロン、特に内嗅皮質に存在するが、その他にも、海馬のピラミッド形細胞、扁桃体、脳基底部及び縫線核にも存在する。
【0035】
神経原線維変化は、脳が正常年齢のときにも認められるが、アルツハイマー病患者や他の神経変性病(進行性核上麻痺、後頭蓋腔内パーキンソン病、ピック病、筋萎縮性側索硬化症等)の患者の脳の中では、はるかに高密度で存在する[Robbins Pathologic Basis of Disease, Cotran et al., 6th ed. (1999), p.1330]。以前の研究では、神経原線維変化は、とりわけ、病気に関連する認知能力の低下に著しく関わるほか、ニューロンのの細胞死に直接関係する。
【0036】
超微細構造的には、神経原線維変化は、主として螺旋状繊維対("PHF")から構成される。PHFの主要素は、タウと称される異常にリン酸化した形態の蛋白質及びそのフラグメントである[Robbins Pathologic Basis of Disease, Cotran et al., 6th ed., W. B. Saunders Company (1999), p.1300]。
【0037】
タウ蛋白質(ネイティブなタウ"native tau"とも称される)は、微小管結合したリン蛋白質であり、細胞骨格を安定化させて、ニューロン形状の決定に関係することが報告されている[Kosik & Caceres, Cell Sci. Suppl. 14:69-74 (1991)を参照]。タウの見かけ分子量は55 kDaである。プロテアーゼカテプシンDは、中性(細胞質)pHでタウ蛋白質を開裂して、タウフラグメントが得られ、その1つの分子量は約29 kDa(著者によっては"タウフラグメント"と称する者もある)[例えば、Bednarski & Lynch, J. Neurochem. 67:1846-1855 (1996); Bednarski & Lynch, NeuroReport 9:2089-2094 (1998)を参照]。タウ蛋白質と、29 kDaのタウフラグメントは、リン酸化されることができる。正常な脳では、タウ蛋白質とタウフラグメントは、典型的には、未リン酸化状態又は脱リン酸化状態で存在する。しかしながら、神経原線維変化では、タウ蛋白質とタウフラグメントは両方とも、異常にリン酸化された状態、過リン酸化された状態で存在することがある。29 kDaのタウフラグメントは、神経原線維変化の主たる構成要素である。過リン酸化は、微小管と相互作用するタウ蛋白質の能力を損なう。
【0038】
カテプシンB及びLの阻害剤(N-CBZ-L-フェニルアラニル-L-アラニン-ジアゾメチルケトン(ZPAD))で海馬スライスの培養が行われたことが報告されている[Bednarski E, and Lynch G, J Neurochem 67: 1846-55 (1996)]。著者の報告によれば、これによって、高分子量アイソフォームのタウ蛋白質が分解され、29-kDaのタウフラグメント(tau 29)が生成した。
【0039】
クロロキン又はZPADで培養された海馬スライスを培養すると、酵素的に活性なカテプシンDが増加し、タウ蛋白質の29 kDaのフラグメントが遅れて出現したことが報告されている[Bednarski E, and Lynch G, Neuroreport 9:2089-2094 (1998)]。著者は、カテプシンLの不活性化が、異常型タウプロテオリシスとなるカテプシンDの誘導を導くこと、そのような経路は脳の老化に重要な役割を果たす可能性が高いことを述べている。
【0040】
A-ベータ及び神経原線維変化の蓄積に加えて、証拠の増加により、脂質代謝とアルツハイマー病とのリンクが指摘されている。疫学的研究によれば、血漿が増加した患者は、リポ蛋白質コレステロールの密度及びコレステロール値が低下し、心臓血管病はアルツハイマー病の危険性が増すことが知られている[Kuo, Y-M, et al., Biochem. Biophys. Res. Comm. 252: 711-715 (1998); Jick, H., et al., Lancet 356:627-631 (2000)]。また、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル補酵素で長期の治療が行われ、レダクターゼ阻害剤は、アルツハイマー病の罹患を減少させることが報告されている[Jick, H., et al., Lancet 356:627-631 (2000); Wolozin, B., et al., Arch. Neurol. 57:1439-1443 (2000)]。
【0041】
脂質代謝へのリンクと合わせて、インビトロ実験が行われ、コレステロールはベータアミロイド(A-ベータ)の生成と凝集に影響を及ぼすことが示されている[Bodovitz, S., and Klein, W. L., J. Biol. Chem. 271:4436-4440 (1996); Xu, H., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U S A 94:3748-3752 (1997); Howland, D. S., et al., J. Biol. Chem. 273:16576-16582 (1998)]。コレステロールが高い食事を与えられたトランスジェニックマウスもまた、A-ベータの堆積量が増加したことが報告されている[Refolo, L. M., et al., Neurobiol. Dis. 7:321-331 (2000)]。
【0042】
コレステロールをリソソームへApoB及びapoE媒介輸送することは、細胞がこれらのステロールを利用するのに重要なステップであり、コレステロールの細胞外apoE媒介輸送に依存する成熟ニューロンにとっては特に重要である[Brown, M. S., and Goldstein, J. L., Annu. Rev. Biochem. 52:223-261 (1983)]。リソソームの中では、リソソームと他の脂質はApoEから分離する[Brown, M. S., and Goldstein, J. L., Annu. Rev. Biochem. 52:223-261 (1983)]。
【0043】
コレステロール値の変化は、一部の神経変性疾患に関係する。例えば、不溶解A-ベータl-42はニーマン・ピック型C(NPC)突然変異細胞に存在する[Yamazaki, T., et al., J. Biol. Chem. (2000)]。これらの採用は、多くの病理学的特徴を示し、その1つは、コレステロールの細胞内輸送の障害である[Millard, E. E., et al., J. Biol. Chem. 275:38445-38451 (2000)]。また、ApoE4アイソフォームは、遅発性アルツハイマー病の危険因子であることは知られている。
【0044】
コレステロールの合成が阻害されると、分離した細胞培養中でのタウのリン酸化が促進される[Sawamura, N., et al., J. Biol. Chem. 57: 1439-1443 (2001))]。同じように、タウの過リン酸化は、NPC変異マウスから調製された細胞培養の中に認められた[Sawamura, N., et al., J. Biol. Chem. 57:1439-1443 (2001)]。リソソームの中で徐々に進行する障害は、リソソーム及び後期エンドソームからのコレステロールのソーティング/トラフィッキングに影響を及ぼすので、神経変性疾患及びアルツハイマー病に関する病理の原因となる。
【0045】
米国特許第6,803,233号は動物モデルのアルツハイマー病について記載しており、システインプロテアーゼ阻害剤は、タウの螺旋フィラメント対が集中するホールマーク神経原線維(NFTs)を含むアルツハイマー病の動物モデルを作ることができることを記載している。しかし、この特許には、システインの銅結合効果について記載されていないし、血液脳関門を通過して、APP、Aβ及びタウ蛋白質の生成を上方制御することができる低分子量の銅−システイン錯体について、ホモシステインがその利用可能なプールを作ることは記載されていない。本発明は、1つの態様において、亜鉛(より好ましくは、胃内滞留型徐放性亜鉛)と葉酸の調製物に関するもので、低分子量の銅システイン錯体(例えば、銅−ホモシステイン)の全身及びCSFレベルを低下させて安定させるものである。発明者は、これらが、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病及びALS等の神経変性疾患に対する寄与因子になるものと認識している。
【0046】
<アルツハイマー病、パーキンソン病、ALS及びその他中枢神経系(CNS)の疾患における銅の関与に関する従来技術>
アルツハイマー病、パーキンソン病、ALS及びCJD等の神経変性疾患における元素銅及び亜鉛の調節的役割に関しては、これまで、多くの矛盾する結論及び仮説が報告されている。例えば、アルツハイマー病に関連するホールマーク蛋白質の多くは銅結合蛋白質であることは知られており、例えば、アミロイド前駆体蛋白質(APP)、ベータアミロイド(Aβ)(ペプチド1-40及び1-42を含む)、タウ(螺旋状フラグメント対(PHFs)及び神経原線維変化(NFTs))、ベータセクレターゼ(BACEl)及びアポリポ蛋白質E(apoE)(apoE2, apoE3 及び apoE4の3種類の主要なヒト変異体)がある。後者については、apoE2、apoE3及びapoE4は、位置112及び158において、システイン残基の有無だけが異なる。apoE2、apoE3及びapoE4は、銅の結合能力が異なることは知られている。
【0047】
疫学的な遺伝子研究は、位置112及び158にシステイン残基を有しないapoE4変異体は、ADのリスクを増加させるのに対し、位置112及び158に2つのシステイン残基を有するapoE2は、ヒト変異体として最も一般的なapoE3(これらの位置にシステイン残基だけを有する)と比べて、アルツハイマー病(athlerosclerosisも同様)に対して保護を得る恩恵を受けると考えられる。
【0048】
フラミンガム(Framingham)の研究によれば、ホモシステインの値の上昇は、アルツハイマー病のリスク増加と関係することが報告されているが、ホモシステインは分子量が小さい銅結合蛋白質であり、毒性で弱結合性の置換性“遊離型”銅がCNSに送達され、維持されて、ゆっくり排除されることについては記載されていない。
【0049】
また、コレステロール値の増加は、アルツハイマー病のリスク増加と関係している。特に、酸化コレステロールである27S-ヒドロキシ-コレステロール及び/又は24S-ヒドロキシ-コレステロールは、両方とも、CNS及び循環及びアルツハイマー病患者(athlerosclerosisも同様)にも存在する。元素銅は、アルツハイマー病の他に、ALS等の他の神経変性疾患においても、銅/亜鉛結合蛋白質の突然変異体であるスーパーオキシドジスムターゼ(SODl)は銅結合能力を低下させる役割を果たすという仮説がたてられている。
【0050】
パーキンソン病では、銅、鉄及びアルミニウムを結合する蛋白質αシヌクレイン(AS)は、神経細胞及びグリア細胞質封入体(レビー小体(Lewy Bodies)としても知られている)の主要要素であることが知られている。この封入体は、パーキンソン病と、シヌクレイン症と称される神経変性疾患の両方のホールマーク病変であると広く考えられている。
【0051】
<神経管の欠損>
神経管欠損(NTDs)は、胎児の脳又は脊椎主要な先天性欠陥であり、神経管(後で脳及び脊椎になる)が正常に形成されないときに発生し、脳又は脊椎を損傷する。これが起こるのは、妊娠2〜3週間以内であり、妊娠に気づいていないときもある。妊娠前に、母体がBビタミン、葉酸を適切に摂取すると、NTDsの発生は最大70%まで低下することが報告されているが、葉酸がどのように作用するかについてはこれまで記載されていない[CDC, Folic Acid Now, CDC-NCEH99-0463, Nov. 2005]。
【0052】
脊椎披裂と無脳症は、2種類の共通したNTDsである。米国では、毎年、約3,000人の妊婦が、脊椎披裂と無脳症に冒されている。脊椎披裂は、脊椎と背骨がずっと閉じないときに起こる。これが起こると、脊髄と背骨が本来の状態に形成されない。流体の嚢は、ベイビーの背中の開口を通る。その時間の多く、脊髄の部分は、この嚢の中にあり、損傷を受ける。脊椎披裂をもって生まれた子供の多くは、寿命を全うすることはできるが、障害者として生涯を過ごしたり、多くの外科手術を必要とすることもある。
【0053】
脊椎披裂をもって生まれた子供が、全て、同じ要求をもつとは限らない。子供の問題の中には、もっと重症の者もいる。しかし、そのような場合でも、正しい処置を施すと、子供の多くは成長して、完全で生産的な寿命を生きることができるであろう。
【0054】
無脳症は、脳と頭蓋骨が正しく形成されないときに起こる。これが起こると、脳と頭蓋骨の一部又は全部が欠落する。この欠陥をもつベイビーは、生まれる前に死亡(流産)するか、又は生後直ぐに死亡する。
【0055】
葉酸は、その他の先天性欠損(口唇裂や口蓋及び幾つかの心臓欠陥等)を防止するのに有用である。また、葉酸を摂取することは、男女とも他の健康効果がもたらされる。口唇裂や口蓋をもつ子供の母親は、亜鉛が少なく、銅の値が高いことが報告されている[Hoyasz KK, Wiad. Lek., 58(7-8):382-5 (2005)]。ホモシステインに結合される循環血清銅のプールを少なくする上での葉酸の役割については、これまでのところ、何も記載されていない。
【0056】
<酸化防止剤>
本発明の他の態様において、遊離銅及び鉄の全身及びCSF値を低下させて安定維持するのに有用な製剤を提供するものであり、該製剤は、1又は複数の酸化防止剤を用いて調製され、酸化剤として、例えば、ビタミンC、ビタミンE、QlO、オネガ3脂肪酸、亜鉛システイン又はそれらの複合物を挙げることができる。
【0057】
<アセチルコリンエステラーゼ阻害剤>
アセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、老人性痴呆(例えば、アルツハイマー型老人性痴呆)、脳血管痴呆、注意欠陥過活動性障害及び統合失調症等を治療し改善する臨床製剤として高く評価されている。特に、塩酸ドネペジル(l-ベンジルl-4-[(5,6-ジメトキシ-l-インダノン)-2-yl]メチルピペリジンヒドロクロリド)が、副作用が少なく、所望の薬理活性をもたらすアセチルコリンエステラーゼであることが報告されている。アセチルコリンエステラーゼ阻害剤として、塩酸ドネペジルの他に、リバスチグミン(3-[l-(ジメチルアミノ)エチル]フェニルN-エチル-N-メチルカルバマート)、メリフォネート(ジメチル2,2,2-トリクロロ-l-ヒドロキシエチル)フォスフェート)、塩酸タクリン(1,2,3,4-テトラヒドロ-9-アクリジナミン)、臭化水素酸ガランタミン、ネオスチグミン、フィゾスチグミン等を挙げることができる。本発明の目的は、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤を、亜鉛、亜鉛−システイン、テトラチオモリブデート、胃内滞留型徐放性亜鉛調製物及びその他必須微量金属(銅、鉄等)の制御放出調製物からなる群から選択される製剤と配合することである。
【0058】
<NMDA受容体アンタゴニスト>
N-メチル-D-アスパルテート(NMDA受容体)に感受性のイオノトロピック型グルタメイト受容体の過剰活性はニューロン死をもたらし、様々な神経疾患を媒介することが知られている[Choi, Neuron 1:623-634 (1988)]。興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸塩は、脳に大量に蓄積されると、低酸素性虚血性損傷になることがあり、これは、Ca2+及びNa+を透過可能なイオノトロピック型グルタメイト受容体を活性化させて、ニューロン死を生じさせる[Choi and Rothman, Annu Rev Neurosci 13:171-182 (1990)]。NMDA受容体のアンタゴニストは、低血糖、低酸素又は低酸素性虚血後の脳損傷を著しく減少させる[Simon, Swan, Griffiths, and Meldrum. Science 226:850-852 (1984); Park, Nehls, Graham, Teasdale, and McCulloch, Ann Neurol 24:543-551 (1988).; Wieloch, Science 230:681-683 (1985); Kass, Chambers, and Cottrell, Exp. Neurol. 103:116-122 (1989); Weiss, Goldberg, and Choi, Brain Res. 380:186-190 (1986)]。このように、NMDA受容体のアンタゴニストは、低血糖、低酸素又は低酸素性虚血による脳損傷から脳を保護することができる治療能力を有している。
【0059】
興奮毒性は、外傷性脳損傷(TBI)による神経変性に関与すると考えられる。NMDA受容体の内因性アゴニストであるキノリン酸の値が、TBIをもつヒト患者では5〜50倍増加した[E. H. Sinz, P. M. Kochanek, M. P. Heyes, S. R. Wisniewski, M. J. Bell, R. S. Clark, S. T. DeKosky, A. R. Blight, and D. W. Marion]。キノリン酸は、脳脊髄液でも増加し、ヒトのTBI後の死亡に関与することが報告されている[J.Cereb.Blood Flow Metab. 18:610-615, (1998)]。脳損傷の動物モデルでは、グルタミン酸塩及びアスパラギン酸塩の値が著しく増加することが報告されている[Faden, Demediuk, Panter, and Vink, Science 244:798-800 (1989)]。グルタミン酸塩の放出は、ラットの衝撃損傷後の脊髄でも観察された[Demediuk, Daly, and Faden. J Neurochem J. Neurochem. 52: 1529-1536 (1989)]。NMDA受容体のアンタゴニストは、外傷性脳損傷又は脊髄損傷後のニューロン死を減少させる[Faden, Lemke, Simon, and Noble. J.Neurotrauma. 5:33-45(1988); Okiyama, Smith, White, Richter, and Mclntosh. J.Neurotrauma. 14:211-222 (1997)]。
【0060】
グルタミン酸塩は、痙攣の誘導と伝播に中心的役割を果たす[Dingledine, McBain, and McNamara, Trends. Pharmacol. ScL 11:334-338 (1990); Holmes. Cleve.Clin.J.Med. 62:240-247 (1995)]。NMDA受容体のアンタゴニストは、癲癇の様々なモデルにおける抗痙攣薬及び抗癲癇薬として作用することが報告されている[Anderson, Swartzwelder, and Wilson, J.Neurophysiol. 57:1-21 (1987); Wong, Coulter, Choi, and Prince. Neurosci.Lett. 85:261-266 (1988); McNamara, Russell, Rigsbee, and Bonhaus, Neuropharmacology 27:563-568 (1988)]。
【0061】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、上位及び下位の両運動ニューロンの変性を伴い、神経原性萎縮、筋低下及び線維束性収縮という症状を呈する。ALSの病因は解明されていないが、興奮毒性がALSの過程に関与するものと期待されている。特に、ALS患者は、細胞外グルタミン酸塩の値が増加し、グルタミン酸塩の輸送に障害が生じることが示されている。神経刺激物質を投与すると、ALS患者の脊髄は病理変化を呈した[Rothstein. Clin.Neurosci. 3:348-359 (1995); Ikonomidou, Qin, Labruyere, and Olney J.Neuropathol.Exp.Neurol. 55:211-224 (1996)]。
【0062】
NMDA受容体を拮抗させることは、パーキンソン病(PD)の治療に適用できると考えられる。NMDA受容体の幾つかのアンタゴニストは、ドーパミン作用性ニューロンを、神経毒MPTP(l-メチル-4-フェニル-l,2,3,6-テトラヒドロピリジン)から保護する[Lange, Loschmann, Sofic, Burg, Horowski, Kalveram, Wachtel, and Riederer. Naunyn Schmiedebergs Arch. Pharmacol. 348:586-592 (1993); Brouillet and Beal. Neuroreport. 4:387-390 (1993)]。NMDA受容体のアンタゴニストはまた、レボドパ誘発性ジスキネジアを改善することができ、レボドパの治療作用を改善することができる[Papa and Chase, Ann.Neurol. 39:574-578 (1996); Marin, Papa, Engber, Bonastre, Tolosa, and Chase, Brain Res. 736:202-205 (1996)]。2種類のNMDA受容体のアンタゴニスト、メマンチン及びデキストロメトファンは、PD患者の治療に有用であることが報告されている[Verhagen, Del Dotto, Natte, van den Munckhof, and Chase, Neurology 51:203-206 (1998); Merello, Nouzeilles, Cammarota, and Leiguarda. Clin.Neuropharmacol. 22:273-276 (1999)]。
【0063】
ハンチントン病(HD)は、進行性神経変性疾患であり、主として、小サイズ及び中サイズの介在ニューロンに作用するが、線条体にソマトスタチン及び神経ペプチドを含むNADPH-ジアフォラーゼニューロンをスペアリング(sparing)する。HDのこれら病理的特徴は、NMDAに曝露されたキノリン酸又は培養された線条体ニューロンの線条体内注入後の線条体組織で観察され、NMDA受容体媒介神経毒性がHDにおける選択的ニューロン死の原因である可能性を高めている[Koh, Peters, and Choi, Science 234:73-76 (1986); Beal, Kowall, Ellison, Mazurek, Swartz, and Martin, Nature 321:168-171 (1986); Beal, Ferrante, Swartz, and Kowall. J.Neurosci. 11:1649-1659 (1991)]。
【0064】
それゆえ、本発明の他の目的は、NMDAアンタゴニスト(例えば、メマンチン、フルピルチン等)を、亜鉛、亜鉛−システイン、テトラチオモリブデート、胃内滞留型徐放性亜鉛調製物及びその他必須微量元素(銅、鉄等)の徐放性調製物からなる群から選択される製剤と配合する調製物を含んでいる。
【0065】
<フリーラジカルと脳疾患>
フリーラジカルは、低酸素虚血又は外傷性の脳及び脊髄障害後の脳領域の変質で生成される[Hall and Braughler, Free Radic.Biol.Med. 6:303-313 (1989); Anderson and Hall, Ann.Emerg.Med. 22:987- 992 (1993); Siesjo and Siesjo, Eur.J.Anaesthesiol. 13:247-268(1996); Love, Brain Pathol. 9:119-131 (1999)]。酸化防止剤又はマヌーバをスカベンジするフリーラジカルは、低酸素虚血性損傷又は外傷性損傷による脳損傷を減少させる[Faden, Pharmacol.Toxicol. 78:12-17 (1996); Zeidman, Ling, Ducker, and Ellenbogen, J.Spinal.Disord. 9:367-380 (1996); Chan, Stroke 27:1124-1129 (1996); Hall, Neurosurg.Clin.N.Am. 8:195-206 (1997)]。フリーラジカルは、ALSにおけるCu/Znスーパーオキシドジスムターゼの点突然変異、PDにおけるグルタチオンの増加及び鉄の減少、ADにおける鉄の蓄積又はHDにおけるミトコンドリアの機能不全による神経変性疾患の変質を受ける脳領域で生成されるという多くの証拠がある[Rosen, Siddique, Patterson, Figlewicz, Sapp, Hentati, Donaldson, Goto, O'Regan, and Deng. Nature 362:59-62 (1993); Jenner and Olanow, Neurology 47: S161-S170 (1996); Smith, Harris, Sayre, and Perry, Proc.Natl.Acad.Sci. U.S.A. 94:9866-9868 (1997); Browne, Ferrante, and Beal, Brain Pathol. 9:147-163 (1999)]。それゆえ、酸化防止剤は、そのような神経変性疾患に対する神経防御的であった[Jenner, Pathol. Biol. (Paris.) 44:57-64 (1996); Beal, Ann. Neurol. 38:357-366 (1995); Prasad, Cole, and Kumar. J.Am.Coll.Nutr. 18:413-423 (1999); Eisen and Weber, Drugs Aging 14:173- 196 (1999); Grundman, Am.J.Clin.Nutr. 71:630S.-636S (2000)]。
【0066】
<亜鉛と脳疾患>
Zn2+は、てんかん、虚血病、精神的外傷及びアルツハイマー病(AD)で観察される神経変性過程を媒介する。カイニン酸であるてんかん誘発性興奮性毒素の投与によるカイニン酸受容体の薬理学的活性により、Zn2+は、幾つかの前脳領域におけるシナプス後の変性ニューロンに転座させる[Frederickson, Hernandez, and McGinty. Brain Res. 480:317-321 (1989)]。
【0067】
これまでは、キレート剤及び/又は遮断薬を用いて中枢神経系の亜鉛を減少させることに関心が向けられていた。Zn2+をCa-EDTAで転座する遮断薬は、一過性の前脳虚血性損傷又は外傷性損傷後のニューロン損失を減少させる[Koh, Suh, Gwag, He, Hsu and Choi, Science 272: 1013-1016 (1996); Suh, Chen, Motamedi, Bell, Listiak, Pons, Danscher, and Frederickson, Brain Res. 852 :268-273 (2000)]。Zn2+は、ADにおける細胞外プラーク及び変性ニューロンで観察され、ADにおけるニューロン変質をもたらすと考えられている[Bush, Pettingell, Multhaup, Paradis, Vonsattel, Gusella, Beyreuther, Masters, and Tanzi, Science 265:1464-1467 (1994); Suh, Jensen, Jensen, Silva, Kesslak, Danscher, and Frederickson. Brain Res. 852:274-278 852 (2000)]。この文献は、銅/亜鉛キレート剤、キノホルム並びにアルツハイマー病及びハンチントン病治療用PBT-01の臨床試験を行っている。本発明の他の態様は、そのような提案に対して見かけは矛盾するが、亜鉛について腸、全身及び脳脊髄液(CSF)の値を増加させ、腸内メタロチエネインを誘導するために、亜鉛の胃内滞留型徐放性調製物を用いることを含んでおり、これによって、全身循環及びCSFにおける弱結合銅や遊離型銅の安定値を維持するものである。
【0068】
<コレステロール>
ステロールは、全ての真核細胞の膜に存在する構造脂質である。これらの脂質は、剛性であり、4つの環炭化水素ステロイド核によって特徴づけられる。ステロールが必要とされるのは、膜流動性を付与するためだけでなく、特定の生物学的活性を有する様々な生成物の前駆体としても作用させるためである。例えば、コレステロールは、極性ヒドロキシルヘッド基及び非極性炭化水素体(ステロイド核)をもつ両親媒性ステロールであって、動物組織に存在する主要なステロールである。コレステロールは、必須の分子であって、細胞膜の構造的完全性に重要な役割を果たし、ステロイドホルモンの前駆体となり、胆汁酸の前駆体として機能する。コレステロールは、あらゆる器官で合成されるが、特に肝臓で酢酸塩から合成され、さらに、食餌摂取を通じて得られる。
【0069】
コレステロールは必要分子であるけれど、apoB含有リポ蛋白質又は高ステロール血症の中で運ばれる高レベルの血液コレステロールは、アテローム動脈硬化症、心臓発作及び脳卒中に関与している[Schultheis, 1990; Mitchell, 1990)]。高ステロール血症は、制御されない場合は、冠動脈疾患に到る幾つかの条件の1つである。冠動脈疾患は、米国における死亡の主要原因であり、その数は、年間約600,000人に及ぶ。それゆえ、コレステロール値を低下させることができる治療方法及び高コレステロールの危険性がある患者をスクリーニングする方法の必要性が存在する。
【0070】
可能性のある治療ターゲットは、コレステロール代謝に関係する転写調節因子である。そのような因子の1つである核内受容体は、あらゆる主な発生経路及び代謝経路の態様を支配するリガンド活性化転写調節因子である[reviewed in Kastner et al., 1995; Mangelsdorf et al., 1995]。例えば、LXRsは、リガンド及び機能が知られていない核受容体スーパーファミリーの“オーファン(orphan)”メンバーとして最初に特定されたものである[Willy and Mangelsdorf, 1998]。LXRsは、最近になって、特定クラスのコレステロールの天然発生する酸化誘導体(例えば、22(R)-ヒドロキシコレステロール,24(S)-ヒドロキシコレステロール及び24,25(S)-エポキシコレステロール)によって活性化されることが報告されている[Janowski et al., 1996; Lehmann et al., 1997]。オキシステロールは、コレステロール代謝及びLXRの発現が高い組織(例えば、肝臓、脳及び胎盤)に集中している[Lavy et al., 1977; Spencer et al., 1985; Lutjohann et al., 1996]。
【0071】
LXRsは、レチノイドX受容体(RXRs)をもつヘテロ二量体として機能し、RXR/LXR錯体は、RXRリガンド(即ち、レキシノイド)及びオキシステロールによって活性化されることができる[Teboul et al., 1995; Willy et al., 1995; Janowski et al., 1996)。2種類のLXR蛋白質(アルファ及びベータ)は哺乳動物中に存在することが知られている。LXRアルファの発現は限定され、肝臓では最も高い値であり(それゆえ、肝臓X受容体と称される)、腎臓、腸、脾臓及び副腎では低いが有意な値である[Apfel et al., 1994; Willy et al., 1995]。LXR.ベータ.はより広範囲に及んで、試験したほぼ全ての組織に存在することが報告されている[Shinar et al., 1994; Song et al., 1994]。
【0072】
LXRs及びそれらの酸化ステロールリガンドの発現のパターンから、これらの受容体はコレステロール代謝に役割を有する可能性が示唆されている。コレステロールは、哺乳動物で3種類の本質的な代謝物を有しており、エステル化(輸送又は貯蔵のために)と、ステロイドホルモン又は胆汁酸への転換がある。ステロイドホルモンの合成は、オーファン核受容体のステロイド産生因子-1(SF-I)によって支配されることが知られている[Parker and Schimmer, 1997]。LXRsが胆汁酸の合成に関与することは可能である[Janowski et al., 1996]。あらゆる胆汁酸誘導体の有望なターゲットは、古典的胆汁酸合成経路における律速酵素であるコレステロール7.アルファ.-ヒドロキシラーゼ(Cyp7a)である[Janowski et al., 1996; Lehmann et at., 1997]。Cyp7aプロモータは、機能性LXR応答元素を含んでおり、該元素は、RXR/LXRヘテロ二量体により、オキシステロール依存性及びレチノイド依存性の如く活性化されることができる[Lehmann et (al., 1997)]。胆汁酸の生成は、哺乳動物におけるコレステロールの異化代謝及び排泄の2つの主要経路のうちの1つである[Russell and Setchell, 1992]。この経路における摂動は、コレステロール胆石、アテローム性動脈硬化症及びアルツハイマー病を含む様々な疾患を引き起こす。これらの観察により、LXRsが胆汁酸代謝における転写の制御点として機能する興味深い可能性が惹起された。
【0073】
RXRホモ二量体及びヘテロ二量体のRXR蛋白質は、RXRのカルボキシル基端末に結語する9-シスレチノイン酸によって調節されることが観察されている[Mangelsdorf and Evans, 1995]。RXRは、核受容体スーパーファミリー(LXRを含む)の他の多くの蛋白質とヘテロ二量体を生成することができる。RXRと二量化する受容体蛋白質及び存在するリガンドにより、転写に及ぼすヘテロ二量体の影響は変化する。合成レチノイドは、RXRsを選択的に結合し活性化させることが報告されている[米国特許第5,780,676号及び第5,455,265号]。米国特許第6,835,866号には、RXR特異性リガンド(例えば、LG100268)を用いるとコレステロールの肝クリアランスを向上させることを記載されている。
【0074】
核ホルモン受容体スーパーファミリーの蛋白質を特異性リガンドでターゲットにすることにより、インビボでの脂質濃度を調節できる能力は、脂質代謝に関係する様々な疾患の治療に有用であるかもしれない。例えば、高い血液コレステロール値は冠動脈疾患に関係している。食事でのコレステロール摂取を少なくすれば、多くの人の場合、コレステロール値を有意に低下させることができる。しかしながら、コレステロールの食事摂取量を少なくしても、非効率的な内因性コレステロールのホメオタシスによって高い血液コレステロール値を有する者には十分でないことがある。これらの人に対しては、血液のコレステロール値を低下させる能力が極めて有益であることがわかるであろう。現在、高コレステロール血値及びその他の異常血液脂質濃度を治療するために、様々な薬剤がある。例えば、コレスチラミン及びコレスチポールは、腸管中で胆汁酸を結合するレジン(resins)であり、コレステロールを胆汁酸に転換することによってコレステロールを低下させる。血液の脂質濃度を低下させるために、ニコチン酸、ジェムフィブロジル、プロブコールの他にスタチン(例えば、アトルバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチン等)が一般的に用いられている。
【0075】
また、胆管機能を向上させるために、胆汁酸、例えば、ウルソデオキシコール酸(UDCA) 17.ベータ.-(l-メチル-S-カルボキシプロピル)エチオコラン-3.アルファ.,7ベータ.ジオールが知られている。UDCAと関連性がある主な毒性は知られていない[W. H. Bachrach et al., Dig. Dis. ScL, 30, 642 (1985)]。薬剤として許容されるUDCAの塩及びエステルとして、UDCAの遊離ヒドロキシ基の(C1-C4)アルカン酸(ギ酸、酢酸又はプロピオン酸等)との非毒性エステル)、OH基のリン酸エステル、遊離(C24)カルボン酸基及び非毒性アルカリ金属の(C1-C4)アルキルエステル、遊離カルボン酸部分のアンモニア塩又はアミン塩を挙げることができる。このエステル及び塩は、当該分野で広く知られた方法により、遊離UCDAから容易に調製されることができる。少なくとも二ギ酸塩及び二酢酸塩は公知の化合物である[The Merck Index (1lth ed. 1989) at 1556を参照]。UDCAは、商標名ACTIGALL(Summit Pharmaceuticals, Summit, NJ)の300mgハードゼラチンカプセルを商業的に入手可能である。これは、胆嚢石の溶解用として処方される。
【0076】
本発明の一態様は、全身循環及びCSFにおける弱結合性又はいわゆる遊離型の銅と鉄が、1日のうちにピーク変動を受けるため、水道水に含まれる可溶性の銅及び鉄をボーラス投与することにより、また初期放出される銅又鉄補助食品の溶解により悪化するという独特の知見に、少なくとも部分的には基づいている。さらにまた、高齢者によくみられることであるが、肝臓又は胆管の機能低下が縮小した者は、全身循環及びCSFにおける遊離銅の濃度は、肝クリアランスの障害によって長期間高濃度に維持されるため、アルツハイマー病、パーキンソン病及びALS等のCNSにおける銅と鉄のホメオスタシスに関連する神経変性疾患に特になり易い。それゆえ、以下に記載する本発明のさらなる特徴は、肝臓及び胆汁のクリアランス機能を向上させることができる製剤(スタチン(アトルバスタチンを含む)、RXR特異性リガンド(LG1002688等))を、亜鉛、亜鉛−システイン、テトラチオモリブデート、胃内滞留型徐放性亜鉛調製物及びその他必須微量金属(銅、鉄等)の制御放出調製物からなる群から選択される製剤と配合することであり、肝臓及び胆管機能に障害をもつ人の全身循環及びCSFにおける遊離銅と鉄の肝臓組込み及びクリアランスを改善することができ、アルツハイマー病、軽度認知機能障害、パーキンソン病、ALS及びアテローム性動脈硬化症等のように、全身循環及びCSFにおける遊離銅及び鉄の濃度の上昇及び変動によって引き起こされる神経変性障害を治療又は予防することができる。優先的に、そのような調製物は、クロイック(chroic)亜鉛の投与を通じて、低銅血化及び貧血に対するポテンシャルを低下させる。そのような調製物は、銅、鉄及び/又は特定の銅及び鉄を結合する添加物(excipients)(ホウェイ、植物繊維、メタロチオネイン、ドライミルク又は乳児用調製粉乳等)に優先的に結合される他の必須微量元素を含有する徐放性製剤に加えられる。
【0077】
<パーキンソン病>
パーキンソン病(PD)は、広く知られた神経変性疾患であり、1817年、James Parkinsonによって初めて発表された。病気には4種類の主要な診断徴候があり、それらは、安静時振戦、動作緩慢、筋固縮及び姿勢保持反射障害である。これらの運動機能欠如の徴候は、異質線状体系におけるドーパミン作用性ニューロンの損失によってもたらされる[Gibb, W., et al., J. Neurol. Neurosurg. and Psych., 51:745-52 (1988)]。
【0078】
PDは、レビー小体の生成とドーパミン作用性ニューロンの死によって特徴づけられる[Adams D. et al., Principles of Neurology, 874-880, 3rd Edition, McGraw-Hill, N.Y., (1985)]。PDの神経病理学的ホールマークは、レビー小体である。レビー小体は、直径10-20nmのラジカル配向されたフィラメントによって囲まれたフィラメント状及び粒状物質の高密度コアからなる変性ニューロンにおける細胞質内封入体である[Goedert, 20 M., et al., Curr. Op. Neurobio. 8:619-32 (1999)]。一般的には、PDの原因は知られておらず、遺伝学因子及び環境因子の相対的役割について活発な議論が展開されてきた[Tanner, C, et al., JAMA, 281:341-6 (1999)]。マンガンへの暴露は鉱山労働者に、統合失調症を含むパーキンソン症候群を誘発した。疫学的研究の報告例として、鉄に対する産業暴露とPDの発生との関係[Corell J. M et al., Toxicol. Appl. Pharmacol., 80:467-72, (1985)]、PDの発生と血液中の水銀濃度との関係[Ngim C. H. et al., Neuroepi., 8(3):128-141 (1989)] and with death rates from PD and proximity to iron-related industrial processes [Rybicki A. et al., Mov Disord., .8(1):87-92_(1993)]がある。
【0079】
アルファ−シヌクレインは、当初は、キンカチョウのさえずり学習能の臨界期における伸長に関連して上方調節される蛋白質として特定されたものである[George M., et al., Neuron, 15:361 (1995)]。アルファ−シヌクレインは、蛋白質シャペロン14-3-3への有意な物理的及び機能性相同性を共有するユビキタス型蛋白質であり、脳に特に豊富に存在するOstrerova N. et al., J. Neurosci., 19:5782 (1990); Clayton D. et al., TINS 21:249 (1998)]。アルファ−シヌクレインは、通常、セリン87及び129でリン酸化されている[Okochi M. et al., J. Biol. Chem., 275:390 (2000)]。最近の研究によれば、アルファ−シヌクレインの突然変異は家族性のPDの原因になること、アルファ−シヌクレインはレビー小体に蓄積することが報告されている。これらの発見は、アルファ−シヌクレインがPDの病態生理学に関与することを示唆している[Spillantini M. et al., Nature, 388:839 (1997); Spillantini M. et al., PNAS USA, 95:6469 (1998); Jenner P. et al., Ann. Neurol., 44:S72 (1998)]。これまで、家族性PDに関して唯一特定された突然変異は、アルファ−シヌクレインのA53T及びA30P変異体である[Goedert, M., et al., Curr. Op. Neurobio., 8:619-32 (1999); Papadimitriou, A., et al., Neurology, 52:651-4 (1999); Polymeropoulos, M., et al., Science, 276:1197-9 (1997)]。しかしながら、病気の病因として、酸化的ストレスに関与する状況証拠が数多くある[Jenner, P., et al., Annual Neurol., 44:S72-84 (1998)]。
【0080】
レビー小体がアルファ−シヌクレインと相互作用することを示唆する様々な実験証拠がある。例えば、免疫組織化学の研究では、レビー小体がアルファ−シヌクレイン及びユビキチンに対して強くステイン(stain)することが示されている[Jenner, P., et al., Annual Neurol., 44:S72-84_(1998); Markopoulou, K., et al., Annual. Neurol., 46:374-81 (1999); Spillantini, M., et al., Nature, 388:839-40 (1997); and Spillantini, M, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 95:6469-73 (1998)]。組換え蛋白質を用いたインビトロの実験では、突然変異体A53T及びA30Pは、野生型アルファ−シヌクレインと比べて、アルファ−シヌクレインの凝集が増加することが示唆されている[Conway, K., et al., Nature Med., 4:1318-20 (1998); Giasson, B., et al., J. Biol. Chem., 274:7619-22 (1999); Hashimoto, M., et al., Brain Res., 25 799:301-6 (1998)]。
【0081】
アルファ−シヌクレインの凝集及びレビー小体の生成に関する最も重要な問題の1つは、これらの過程が細胞に有害かどうかである。レビー小体は、フリーラジカルの損傷に反応して起こる不活性ツームストーン(tombstone)マーカーであるか、細胞に有害な毒物であるかのどちらかである。文献には両方の例が示されている。凝集したアミロイド-ベータ(ベータ.)はニューロンには毒性であるが、リプフスチンは細胞に対して無害のようである[Behl, C, et al., Cell 77:817-27 (1994)]。ハンチントンの蛋白質は、中間状態を提供し、ハンチントン病に関連する毒性が凝集に優先して、ハンチントンの蛋白質の凝集が保護作用を有する場合さえあるかもしれない[Saudou, F., et al., Cell 95:55-66 (1998)]。以前の研究の中に、アルファ−シヌクレインの過渡的過剰発現が様々な細胞(SK-N-SH及びPC12の2種類の細胞株を含む)に毒性であることが報告されたものがある[Ostrerova, N., et al., Neurosci., 19:5782-91 (1999)]。これと一致する観察が最近発表されており、マウスのアルファ−シヌクレイン過剰発現は、ドーパミン作用性端末及び運動障害に加齢に伴う損失があり、毒性であることが報告されている[Masliah, E. et al., Science, 287:1265-1269 (2000)]。これらの知見によれば、アルファ−シヌクレインの凝集割合の増加がPD及び他のレビー小体疾患における神経変性の機構に関与することを示唆されている。
【0082】
遺伝子導入動物に関する最近の研究でも、アルファ−シヌクレインの凝集がニューロンに有害であることが示唆されている。野生型ヒトアルファ−シヌクレインを発現する遺伝子導入マウスにドーパミン性機能障害が発生したことが報告されている[Masliah, E., et at., Science, 287:1265-1269 (2000)]。さらにまた、アルファ−シヌクレインを過剰発現するショウジョウバエは、アルファ−シヌクレイン凝集物の増加に関連して、ドーパミン作用性機能障害及びドーパミン作用性ニューロン死に到ったことが報告されている[Feany, M B, et al., Nature 404:394-8 (2000)]。ドーパミンをもつニューロンは、アルファ−シヌクレインの凝集を促進し、これら凝集物の増加によって変性することが示唆されている。
【0083】
鉄及び過酸化水素によって生じる酸化ストレスは、インビトロでのアルファ−シヌクレインのアミロイド様凝集物生成を誘導することが最近報告されている[Hashimoto, M., et at., NeuroReport, 10:717-21 (1999); Paik, S., et al., Biochem. J., 340:821-8 (1999)]。酸化ストレスはPDに関与すると考えられているが、その理由は、ドーパミンは強力なフリーラジカル発生作用を有し、黒質における主たる神経伝達物質であるからである[Chiueh, C, et at., Adv. Neurol., 60:251-8 (1993); Jenner, P. et al., Ann. Neurol., 25 44:S72-84 (1998)]。また、鉄もフリーラジカル生成を促進し、加齢と共に黒質に蓄積する[Jenner, P., et al., Ann. Neurol., 44:S72-84 [1998)]。鉄は、細胞質の中でヘモジデリン粒として堆積され、フェリチン粒が充填されたミトコンドリアが、パーキンソン症候群の腹側外側視床、尾状及びレンズ核並びに黒質に観察されたことが報告されている[Earle M., J. Neuropathol. Exper. Neurol., 27[1): 1-14, [1968); Asenjo A. et al., Rev. Neurologique, 121 [6):581-92, [1969); Riederer P., et al., J. Neurochem., 52[2):515-20, [1989)]。
【0084】
<非アルコール性脂肪肝炎>
非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は、肝臓の組織的変化の進行に関係し、アルコールの過剰摂取(但し、アルコール依存まではいかない)によって引き起こされるものと比較されることができる。NASHは、大滴性及び/又は小滴性、小葉及び門脈の炎症、ある時は線維形成及び肝硬変をもつマロリー体によって特徴づけられる。NASHはまた、一般的には、高脂質血症、肥満症及びII型糖尿病とも関連がある。肝脂肪症及び炎症によって特徴づけられるその他の臨床状態として、過度の断食、空腸回腸バイパス、完全静脈栄養法、慢性肝炎C、ウイルソン病及び薬物(コルチコステロイド、カルシウムチャネル遮断薬、高用量投与の合成エストロゲン、メトレキサート、アミオダロン等)の副作用が挙げられる。それゆえ、“非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis)”という語は、これらの生検所見を示す患者を、(a) 著しい飲酒、(b) 体重減少の前回調査、(c) 脂肪肝炎に関する薬物使用の履歴、(d) 遺伝的肝疾患の証拠、又は(e)慢性肝炎Cの感染の欠如に関連づけて記載するために用いられる[J. R. Ludwig et al., Mayo Clin. Proc, 55, 434 (1980) and E. E. Powell et al., Hepatol., 11, 74 (1990)を参照]
【0085】
NASHの病因は知られていない。脂肪症の程度と線維症の程度との間に相関関係が存在するものと思われる[例えば、I. R. Wanless et al., Hepatology, 12, 1106 (1990)を参照]。肝細胞の遊離脂肪酸の上昇は、炎症を伴う膜傷害、胆汁鬱滞及び細胞内小器官の機能不全の原因となり得る。細胞死及び線維症は、炎症を持続させ、傷が続くと肝硬変が起こる。脂肪肝炎は、末期肝臓疾患の重要な原因となり得るもので、クリプトジーニック(clyptogenic)な肝硬変の数えられない数の事例の原因であるかもしれない[E. E. Powell et al]。残念ながら、肝硬変が一旦起こると、唯一の治療方針は、肝臓移植しかないであろう。それゆえ、非アルコール性脂肪肝炎に対する有効な治療が必要とされている。
【0086】
<多発性硬化症>
元素銅は、ミエリンの生成に役割を果たすことも知られている。ミエリンの抗原形態は、多発性硬化症に特徴づけられるT細胞媒介の病巣及びミエリン崩壊とも関連性を有している。
【0087】
<自閉症>
代謝性銅の機能障害は自閉症にも関与している[Chuahan, A et. al, Life Sci. 2005 Oct 8;75(21):2539-49]。それゆえ、本発明の他のさらなる目的は、亜鉛、銅、鉄及びその他微量金属の胃内滞留型及び/又は徐放性製剤を用いて自閉症を治療し、自閉症の全身循環及びCSFにおける遊離銅及び鉄について目標の安定レベルを維持できるようにすることを含んでいる。
【0088】
本発明の一態様は、遊離型、未結合又は弱結合性の銅を低レベルに低減し、管理し又は維持する必要がある人又は動物において、長期間に亘る銅の吸収阻害の状態を誘導し、監視し、安全に維持する手段として、改良された医薬組成物、キット及び方法を提供するもので、兆候とする病気として、限定するものではないが、ウイルソン病、アルツハイマー病、アテローム性動脈硬化症、自己免疫疾患、酸化ストレス、老人関連性の銅排泄障害、肝臓疾患、ALS等の神経変性病、パーキンソン病、多発性硬化症の他、統合失調症のように銅蛋白質の濃度上昇に関連する病気を挙げることができる。さらにまた、特別に調製された薬剤(pharmacants)、キット及び高銅血症の兆候を示す患者を監視する必要性を低減するように企図された投与計画についても開示する。
【0089】
このように、本発明の一態様は、銅及び銅イオンの胃腸管からの吸収を阻害すると共に全身的生体有用性が制限されるように設計され調製された一般医薬品(over-the-counter prodocuts)を提供する。
【0090】
<目標とされる安定状態の銅バランスを誘導する新規な銅含有製剤>
速放性の25mg及び50mgカプセルとして開発された酢酸亜鉛を調製し、ウイルソン病治療の維持療法として臨床試験が行なわれた。1997年1月28日、FDAは、銅キレート剤で初期治療が行われたウイルソン病患者の持続治療のために、速放性ゼラチンカプセルの中にコーンスターチ及びステアリン酸マグネシウムと混合した酢酸亜鉛について25mg及び50mg製剤のものを承認した。ウイルソン病患者の推奨投与は、50mgを、1日3回(t.i.d.)であり、飲食(水を除く)の少なくとも1時間前と、飲食(水を除く)の少なくとも1時間後である。
【0091】
亜鉛は、食事から銅の腸吸収、並びに、唾液、胃液及び胆汁からの銅の如き内因生分泌の銅の再吸収を阻害する。亜鉛は、腸細胞にメタロチオネインの生成、銅を結合する蛋白質の生成を誘導し、これによって奬膜の血液への移行を防止する。結合された銅は、腸細胞の落屑の後で大便の中に失われる。食事及び飲料とは別に、50mgの速放性酢酸亜鉛カプセルを1日3回摂取したウイルソン病患者の臨床試験結果では、負の平均銅バランスが-0.44mg/dayであり、適当な平均Cu64の摂取は投与量の0.82%である。
【0092】
重要なことは、速放性酢酸亜鉛カプセルの投与が1日に1回の場合、銅の適当な制御をもたらさないことである。結果として、ウイルソン病患者に必要な投与はt.i.d.であり、最少でもb.i.d.である。また、酢酸亜鉛カプセルは、食事の少なくとも1時間前と食事の少なくとも1時間後に投与する必要があるので、患者が服薬順守することが主な問題である。1日1回だけの投与は、単純に亜鉛投与量を増やしただけでは容易に達成されることができないし、徐放性の製剤を用いても達成されることができない。その理由は、銅の吸収を阻害するのに十分なメタロチオネインを腸管腔に誘導することは時間に依存するからである。腸管上皮を亜鉛に曝露すると、典型的には、1日2回以上の亜鉛投与の場合、銅の吸収を阻害するのに十分なメタロチオネインを誘導するのに約2週間かかると推定される。徐放性の亜鉛製剤は、後記するように幾つかの利点を有するが、腸の遷移領域を保護するものであり、これによって、6時間以上吸収される。
【0093】
現在、FDAが認可した速放性の酢酸亜鉛調製物に関するさらなる制限は、ボーラス亜鉛カチオンの放出に関連して胃が過敏になることである。
【0094】
<銅の吸収阻害(Copper Malabsorption)の維持に有用な胃内滞留型製剤>
経口投与後、胃の中に長時間滞留させて、活性成分を制御放出する医薬の剤形(dosage forms)は、広範囲の薬物の送達に重要である。様々な薬物の胃内滞留時間を長くなるように制御して放出する薬物送達システムは、文献に記載されている。これらの文献は、本発明と異なる技術である。
【0095】
薬剤送達システムを用いる利点は数多くある。制御された薬剤治療において主に重要なことは、治療の効率を高めることである。薬剤治療を制御することにより、投与の必要回数が低減され、定期的間隔での1回投与で十分であるので、服用順守が向上する。
【0096】
酢酸亜鉛の現在の製剤の場合、銅吸収の不良状態を維持するために、1日あたり2〜3回以上の投与を行なうことが必要である。これは、酢酸亜鉛の作用メカニズムが、胃腸の上皮組織にメタロチオネインの産生を誘導することであり、これによって、メタロチオネインが発現される領域から銅のその後の吸収を阻害するためである。胃腸の上皮組織に一旦発現されると、メタロチオネインは結合して、銅の吸収を約6〜8時間阻害することが推定される。銅の主要部、特に水含有銅イオンは小腸で吸収されるため、小腸の上皮組織の所望状態を維持することができるように、毎日数回、小腸の上皮組織の曝露をリフレッシュする必要がある。
【0097】
それゆえ、本発明の目的は、薬剤の投与頻度を1日1回に低減できる胃内保持メカニズムを利用した酢酸亜鉛の調製物を提供することであり、その際、小腸及び大腸には、酢酸亜鉛の曝露時間を連続的に長くするものである。
【0098】
本発明は、銅の吸収不良レベルの向上を、亜鉛の全身曝露量がこれまでと同等以下で達成することができるので、例えばアルツハイマー病等のように、ウイルソン病以外の病気にも効果がもたらされる。銅の他にも、亜鉛は、アルツハイマー病患者を解剖した脳の中にアミロイドベータプラークに結合されることが報告されている。研究の中には、血清及びCNSにおける亜鉛を減少させることが、アルツハイマー病の治療に有益な目標であることを示唆するものがある[Bush AI]。しかしながら、血清及びCNS中で亜鉛の長期効果は、アルツハイマー病では評価されていない。それゆえ、本発明は、亜鉛の血清レベルを最小に維持した状態で、腸内での銅吸収を阻害する手段を提供することにより、アルツハイマー病と亜鉛の関係の不確定要素を少なくする。アルツハイマープラークに存在する酸化防止剤及び亜鉛が、銅の場合と因果関係がないかもしれないことを考慮すると、亜鉛は、血清及びCNSの中で有益な役割を有するかもしれない。
【0099】
これらの病気の治療を改善するために、数多くの胃内滞留型システムを利用した胃内滞留型医薬投与剤形が開発されることができる。そのような胃内滞留型投薬剤形では、経口投与後、胃の中に維持され、酢酸亜鉛の放出は制御されて長い時間にわたって行われる。胃内滞留型投与剤形として、例えば、フローティング式剤形、及び胃の中で拡大し、膨張し又は開封される投与剤形がある。
【0100】
膨張可能な薬物送達システムの原理は、幽門洞の性質に基づいており、逆蠕動によって、大部分は幽門から胃底及び胃体に送られ、胃での滞留時間(GRT)が長くなる。このような投与剤形では、生分解されるか又は胃からの排出を可能とする分解が行われることが好ましい。
【0101】
米国特許第3,574,820号は、ゼラチンマトリックスの使用を開示しており、このゼラチンは、胃の中で水和し、ゲル化し、N-アセチル-ホモシステインチオラクトンと架橋結合して、幽門を通過できない大きさのマトリックスを生成する。
【0102】
米国特許第4,207,890号は、非水和性で、体液及び薬物を透過可能な薬物含有ポリマーフィルムから作られ、膨張可能に折り畳まれた(collapsed)無孔エンベロープを有する薬剤分配デバイスを開示しており、ポリマーエンベロープには、膨張剤が含まれており、体液と接触すると、デバイスが胃の中で維持される容積になるまでエンベロープを膨張させるものである。
【0103】
米国特許第4,434,153号に開示されたデバイスを構成するマトリックスは、胃の中で長い時間滞留させることができるように、胃から液を吸収し、拡大させ、膨張させるヒドロゲルから形成し、マトリックスに、薬物含有コアと脂肪酸とコアを取り囲むワックス壁とを有する小さなピルを分散させたものである。
【0104】
しかしながら、これら特許のデバイスの問題は、胃の自然収縮(natural contractions)を無視していることであり、これは、サイズの急速減少に寄与して、デバイスは胃から早い段階で取り除かれる。また、これらのデバイスは、胃の収縮作用を含む自然メカニズムに耐え得る強度が不足している。
【0105】
米国特許第4,767,627号、第4,735,804号及び第4,758,436号は、様々な幾何学的形状の投与剤形のデバイスを開示しており、連続した固体スティック、四面体、平らな円板、複数のローブ(丸い突出部)がある平らなデバイス、リング等である。デバイスは、飲み込むのに適したサイズに圧縮可能であり、幽門への通過が阻止される細部に自己膨張可能である。これらは、胃の力に十分な抵抗性を有しており、所定時間内に幽門を急速通過すること、及び胃液による浸食が防止される。デバイスは、均質であり、デバイスの異なる領域でも同じポリマー成分を含んでいる。米国特許第4,735,804号に記載されたテトラへドロンは、4つのローブが均質で、ポリマーマトリックスによって互いに付着される。
【0106】
デバイスの中には酢酸亜鉛が溶液又は懸濁液として含まれている。溶液又は懸濁液は、前記の保存剤又は緩衝剤を加えるのに必要とされる。或いはまた、制御放出される酢酸亜鉛モジュールをデバイスに接着することもできる。
【0107】
米国特許第5,002,772号及び第5,443,843号は、胃腸の通過を遅延させる経口薬物送達システムを開示しており、薬物は制御放出され、膨張した状態で胃腸通過を妨げるものである。これらの送達システムは、1又は複数の保持アームを、非連続の圧縮可能要素として含んでおり、制御放出薬物含有デバイスはこの保持アームが取り付けられたものである。望ましい形状はコイル又は螺旋である。これらシステムは、少なくとも2つの別個の部分(少なくとも1つの保持アームと制御放出デバイス)を有していなければならない。
【0108】
米国特許第5,047,464号及び第5,217,712号は、生浸食性及び熱硬化性で、共有結合によって架橋されたポリ(オルト)エステルポリマーを含むシステムを開示しており、該ポリマーは、送達時の圧縮された状態から膨張する。胃の酸性環境でっは、システム内のポリマーは分解して、胃から取り除かれることができる。システムは高弾力性という特徴がある。
【0109】
米国特許第5,651,985号は、ポリビニル-ラクタムとポリアクリレートの混合物から作られたシステムであり、胃の中での膨張度が大きいため、胃の中で長い時間滞留することができる。
【0110】
米国特許第6,685,962号は、胃腸管の中で活性成分を制御放出する胃内滞留型薬物送達システムを開示しており、(a)胃の中で従来の投与剤形よりも多く滞留しないポリマーを含む単層又は複層のマトリックスであって、ポリマーは、(1)親水性であるが、胃液の中で直ちに溶解しない分解性ポリマー、実質的に不溶解性でpHが5.5よりも小さい腸溶性ポリマー及び/又はそれらの混合物、(2)非分解性ポリマー及び(1)及び(2)のあらゆる混合物から選択されるもの、(b)十分な機械強度を有し、少なくとも一種のポリマーを含む連続膜又は非連続膜、及び(c)膜に付着されたマトリックスにより、送達システムが所定時間内に胃から排出されないようにした薬物、を含んでいる。
【0111】
医薬組成物は、経口、静脈内、皮下又は吸入による投与の他、他のルート(浣腸、経鼻投与、くも膜下投与等)の投与ができるように調製される。経口投与剤(溶液、懸濁液、タブレット、カプセル等)の利点として、治療効果が速いことと患者の便利さがある。
【0112】
当該分野において、経口投与すると、胃腸管内のターゲット部位に直接効果がもたらされ、患者の循環器系に医薬組成物(酸中和剤、下剤等)導入したときの活性成分の吸収による治療効果とは異なることは知られている。固体状薬剤の胃内滞留制御は、粘膜付着(mucoadhesion)、フロテーション(flotation)、堆積(sedimentation)、膨張(expansion)のメカニズムによって、又は胃からの排出を遅延させる薬理剤を同時投与することによって行われることができる。
【0113】
粘膜付着は、合成及び天然の巨大分子が体内の粘膜表面に付着するプロセスである。これらの物質が薬剤に組み込まれると、粘膜細胞による薬物吸収は向上し、薬物はターゲット部位で時間をかけて放出されることができる。キトサン、カルボポル及びカルボマー等の合成ポリマーの場合、生体付着/粘膜付着は、多くの異なる物理化学的相互作用の結果である。生物学的な生体付着/粘膜付着(例えば、植物レクチン)は、細胞表面及びムチンとの相互作用を示し、“第2世代(second generation)”の生体付着性として認められる[Woodley, J., Bioadhesion: new possibilities for drug administration?, Clin Pharmacokinet 2001;40(2):77-84)]。このように、粘膜付着は、経口投与剤形に対して、胃壁の強力な推進力に抗する能力を付与するように作用する。胃粘膜による粘膜の連続産生により、蠕動収縮によって損なわれた粘膜が取り替えられるので、粘膜付着を胃内滞留手段として用いることにより、胃成分の希薄化を解消させることができる。
【0114】
粘膜付着性ナノ粒子(リポソーム及びポリマーナノ粒子を含む)の評価が行われている。粒子系への粘膜付着能力の付与は、それらの表面に、キトサン及びカルボポル等の粘膜付着性ポリマーをコーティングすることによって付与される。そのような表面改質の実現可能性は、ゼータ電位の測定によって確認されている。評価手順には、ポリマーコートされたリポソームのコールターカウンターを用いる粒子計数法がある。粘膜付着性ナノ粒子は、ペプチド薬剤の経口投与に用いられ、ポリマーコートなしのシステムと比べて、効果がより長い時間持続することが報告されている[Takeuchi H., et al.]。粘膜付着性のナノ粒子システムは、ペプチドの薬物送達に用いられる[Adv Drug Deliv Rev, Mar. 23, 2001;47(l):39-54]。
【0115】
粘膜付着性薬物送達システムは、従来の投与剤形と比べて幾つかの利点を有しており、薬物の体内への放出を制御することにより、薬物の治療効果を最適化させることができる。様々な種類のポリ(アクリル酸)(PAA)ヒドロゲルは、胃腸酵素(例えば、トリプシン等)の加水分解を阻害し、薬物の生物学的利用能を向上させる。アクリルベースのポリマーは、粘膜に、粘膜付着性送達システムを付着させるのに用いられることができる。親粘膜性共重合体(ポリ(エチレングリコール)(PEG)等)を、ポリマーの主鎖にグラフトすることによって修正されたポリマーヒドロゲルは、付着プロセスを促進させることができる。これは、これらグラフト鎖がネットワークから粘膜層へ拡散させることができるからである。P(AA-g-EG)の膜は、UV照射されたフリーラジカル溶液の重合化によって合成される。種類が異なるヒドロゲルはAAとPEGのモル供給比を変えて合成されることができる。ポリマーヒドロゲルは、粘膜付着によって特徴付けられ、PEGグラフト鎖の粘膜付着に及ぼす効果を定量化することができる。生体付着の結合強度は、引張試験装置を用いて測定することができ、それによって付着能力を計算することができる。40%AA及び60%PEG(40:60 AA/EG)を含むヒドロゲルは、最も高い粘膜付着性を示すことができる。これらの結果は、両方のモノマーの相乗効果による。AA官能基により、ポリマーは多水素結合が可能となり、膨張度が大きくなる。PEGの結合は、粘膜付着を促進するプロモータとして作用する。それらは、粘膜を浸透して、ベースのヒドロゲル及び粘膜に橋渡しをする。これらの結果は、粘膜付着における表面被覆及び鎖長効果のホワン−ペッパス(Huang-Peppas)モデル(2002)にも説明されている。
【0116】
保持機構としてのフロテーションは、投与製剤が浮遊できる液体の存在を必要とし、患者は、GRI中、直立姿勢を保つ必要がある。仰臥姿勢では、幽門位置は胃体の上となるため、浮遊物質の排出が促進されるからである。このように、フロテーションは、経口用製剤を胃内に滞留させるための基本原理である。
【0117】
堆積は、幽門部近傍の胃体の皺や襞に保持されることができるように十分に小さなペレットの保持機構として用いられている。なお、幽門部は、直立姿勢で最下部に位置する器官の一部である。皺や襞にトラップされた高密度ペレット(約2.4-2.8 g/cm3)は、胃壁の蠕動に耐えることができる。元素亜鉛の密度は7.165 g/cm3であり、胃内滞留に必要な閾値2.8 g/cm3よりも4.365 g/cm3大きい。亜鉛の高密度7.165 g/cm3により、各ペレットの最大約60.9%を利用する機会を作り出すことができ、低密度が好ましいその他物質を組み込んで、胃内滞留型亜鉛ペレットの機能、安全性、耐用性及び有効性を改善させることができる。それゆえ、本発明は、皺や襞の中にトラップされることができるように十分に小さなサイズの亜鉛ペレットに腸溶コーティングが施された亜鉛ペレットを開示するものである。このような腸溶コーティングは、以下に記載されるように、トラップされた亜鉛ペレットとの直接接触による胃壁の刺激の虞れを回避できる利点がある。腸溶コーティングはpH依存性であり、コーティングの分解及び亜鉛の放出を防止できるように選択され、ペレットは、胃及び/又は幽門部の低pH状態(pH 1.2-3.5)にある。一方、pHが高い十二指腸(pH約4.6-6.0)、空腸(pH約6.3-7.3)及び/又は結腸又は直腸(pH約7.9-8.0)では、コーティングは亜鉛の分解及び放出を開始する。また、結腸又は直腸では、細菌フローラユビキタスの存在に基づいている(この部位では、高濃度の銅を含む水は体内に吸収される)。ペレットは、カプセルに入れておき、胃に入ったときに、ペレットを急速に溶解して放出させることもできる。カプセルは、含まれる亜鉛の合計量、含まれるペレットの数及び種類に応じて、患者の習性及び投薬の要望に応じて最適化させ、ターゲットの“遊離”又は“血清”銅が所定範囲内に維持されるように変えることができる。
【0118】
膨張は、潜在的に信頼性の高い保持機構であることが知られている。当該分野で幾つかのデバイスが開示されており、投与後にデバイス内に発生する二酸化炭素によって拡大し、展開し(unfold)、膨張するという特徴を有している。これらの投与剤形では、膨張状態での直径が約12-18mmを超えると、幽門括約筋を通過することができない。
【0119】
それゆえ、本発明の目的は、酢酸亜鉛組成物又はデバイスを胃の中で十分な時間滞留させて、胃から酢酸亜鉛を放出できるように放出が制御される薬物送達システムを提供することである。
【0120】
<銅含有飲料水及び“遊離銅”のピーク濃度からの継続的保護>
表3は、一般的な食料品及び種々の器官に存在する銅成分を表している[Linder, MC [Handbook of Copper Pharmacology and Toxicology (2003), p.4]。
【0121】
【表3】

【0122】
表3に示されるように、飲料水中の銅について、世界保健機構が提案する限界は、汚染されていない清水に存在する量の2,000〜20,000倍であり、鉛・銅規則(2000改訂)に基づくU.S.EPAに設定された1.3mg/Lの1,300〜13,000倍である。EPAの限界では、1日の平均飲料水の消費を2リットルと仮定すると、飲料水から毎日2.6mgの銅がもたらされることになる。毎日の食事の平均摂取量を1kgと仮定すると、毎日の食事で摂取される銅の量は1日あたり約1.0mgである。しかしながら、食品に含まれる蛋白質に結合された銅の他、既に加工された蛋白質結合形態(唾液、胃液、腸分泌、上皮細胞の腐肉形成及び胆汁)で胃腸系に入る相当量の再循環銅は、飲料水に含まれる遊離型、未結合で、溶解された、潜在的にイオン性の銅よりもさらに酵素特異的な方法で腸によって処理されるものと思われる。食物−リガンド複合体を解放する消化は必要ではないので、飲料水に含まれる銅のより多くの部分は、ボーラス(bolus)として吸収される。腸細胞は、主としてアルブミンが弱結合した血液のボーラスを通過させる。このように、ボーラス効果により、銅の主要部が肝臓をバイパスすることができるかもしれない。即ち、腸の銅吸収及び調節装置をバイパスして、脳に捕獲されることができる。
【0123】
飲料水中の銅が血清に入り、小腸に結合し、血液関門を越えて中枢神経系に入り、銅の輸送及びホメオスタシスの正常な血液脳関門調節をバイパスする。CNS及び血液中の遊離又は弱結合銅は、平衡であると考えられている。過剰の遊離銅でCNSを圧倒することに加えて、飲料水を通じて吸収された銅は、食物を通じて吸収された銅と比べて、おそらくボーラスのように吸収される。CNSにおける遊離銅のピーク濃度は、毎日の平均と比べてかなり高くなることが予想される。CNSにおける遊離銅のピーク濃度が、おそらく、例えばAPP、アミロイドベータ及びタウ等の銅結合蛋白質/保護機構を上方制御するのであろう。銅分子は、イオンつまり第2銅の形態でも存在するので、有害ポテンシャルはさらに大きくなる。
【0124】
本発明の目的は、銅感受性の患者(ウイルソン病、アルツハイマー病、高齢の痴呆病)に対して、1又は複数の連続放出銅吸収阻害剤の特別製剤を投与することにより、ピーク血清及びCNS遊離銅濃度の毒性効果から継続的な保護を提供することであり、これにより、有害遊離銅に関する効果、特にCNSにおける保護性銅蛋白質の上方制御効果を低減することができる。
【0125】
望ましい実施例において、胃腸用ピル又はカプセルは、異なる胃腸メカニズムの組合せを利用して、最も広く、変動が最も少ない保護を確実に得るものである。例えば、高密度亜鉛塩ペレットに加えて、カプセルは、浮遊性亜鉛塩含有微粒子、粘膜付着性微粒子、粘膜付着性高密度亜鉛含有ペレット、粘膜付着性高密度腸溶性コートされた亜鉛含有ペレット、亜鉛塩を含有する膨張性胃内滞留システムの他、速放性及び/又は非胃内滞留型亜鉛粉末又は腸溶性コートされた亜鉛微粒子で調製されることができる。このような調製物は、医師が、あるレベルの銅保護又は銅吸収不良を得るために毎日の推奨摂取量を推定するのに有効である。
【0126】
<亜鉛を含有する腸溶性ピル、カプセル、タブレット又は微粒子>
FDAに承認された剤形(例えば、Galzin等)として利用可能な酢酸亜鉛の製剤は、胃の過敏(irritability)によって服用を順守できない患者に用いられる。これは、亜鉛のイオン性に関連があるものと考えられている。現在の製剤に対して胃の過敏性を示す患者は、約10%と推定される。
【0127】
銅含有液(例えば水)又は食物に含まれる銅は、小腸に達するまでヒトの体内で吸収を開始しないので、銅の吸収阻害状態を維持するために、胃の中でメタロチオネインの発現を誘導するする必要はない。銅の吸収阻害の状態を誘導することが意図された亜鉛の速放性調製物は、胃の過敏を引き起こすことに加えて、亜鉛の全身循環レベル及び他の器官系(例えば脳)への循環レベルを不必要に上昇させる。脳及び中枢神経系における亜鉛の過剰濃度は、過剰銅も関係するある種の神経変性疾患に関与する。そのような疾患の例として、限定するものではないが、アルツハイマー病、パーキンソン病及び筋萎縮性側索硬化症(ALS)が挙げられる。
【0128】
本発明の他の目的は、腸溶性コーティングが形成された亜鉛調製物を利用することであり、亜鉛を含有するピル、カプセル、タブレット(又はタブレットに入れられた微粒子)は、食道及び胃を完全に通過するまで、亜鉛成分の放出を開始しないようにすることである。
【0129】
腸溶性コーティング(enteric coating)の典型例は、ポリマー材料である。好ましい腸溶性コーティング物質は、生浸食性で、徐々に水分解性で、及び/又は徐々に水溶性のポリマーである。カプセル1つあたりのコーティング物質の“付着量(coating weight)”又は相対量は、一般的には、消化と薬物放出との時間間隔を定める。どんなコーティングも、コーティング全体がpH約5より小さい胃腸液では溶解せず、pH5以上で溶解するのに十分な厚さとなるように施される。本発明の実施において、pH依存性の溶解プロファイルを示すあらゆるアニオンポリマーが腸溶性コーティングとして用いられ、活性薬物を下部胃腸管へ送達することができる。具体的な腸溶性コーティング材料の選択は、特性に依存し、その特性とは、胃内での溶解及び分解に対する抵抗性;胃内で胃液及び薬物/担体(carrier)/酵素に対する不透過性;ターゲットの腸部位で急速に溶解又は分解する能力;保存中の物理的及び化学的安定性;非毒性;コーティングとしての適用容易性(サブストレートとの親密性);及び経済的実用性である。
【0130】
適当な腸溶性コーティング材料として、限定するものではないが、ヒドロキシプロプルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、酢酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、酢酸トリメット酸セルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、琥珀酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びカルボキシメチルセルロースナトリウム等のセルロースポリマー;好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メチルアクリル酸アンモニウム、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル及び/又はメタクリル酸エチルから生成されるアクリル酸ポリマー及びコポリマー(商標名"Eudragit"で販売されているコポリマー);ポリビニルピロリドン、酢酸ポリビニル、酢酸フタル酸ポリビニル、酢酸クロトン酸ビニルコポリマー及びエチレン−酢酸ビニルコポリマー等のビニルポリマー及びコポリマー;及びシェラック(純化ラック(lac))を挙げることができる。単一カプセルをコートするために、異なるコーティング材料の組合せを用いることもできる。本発明で用いられる特に好ましい腸溶性コーティングは、アクリル酸ポリマー、及びRohm Pharma(ドイツ)が商標名"Eudragit"で販売しているコポリマーである。Eudragitには、E, L, S, RL, RS 及び NEのコポリマーシリーズがあり、有機溶媒に可溶された可溶物、水分散物又は乾燥粉末として入手可能である。EudragitのRL, NE及びRSシリーズのコポリマーは、胃腸管では不溶であるが、浸透可能であり、主に、放出を持続させるために用いられる。EudragitシリーズEのコポリマーは胃の中で溶解する。EudragitシリーズLのL-30D及びシリーズSのコポリマーは、胃の中で不溶であり、腸内で溶解するので、本発明では最も好ましい。
【0131】
特に好ましいメタクリル共重合体は、Eudragit L、特にL-3O及びEudragit 100-55である。Eudragit L-30Dでは、遊離カルボキシル基とエステル基の比は、約1: 1である。さらにまた、共重合体は、pHが5.5以下、一般的にはpH1.5-5.5の上部胃腸管の胃腸液では不溶であり、一般的にはpH5.5以上の下部胃腸管では、容易に溶解可能であるか、又は部分的に溶解可能である。他の特に好ましいメタクリル酸ポリマーはEudragit Sであり、Eudragit L-30Dとは、遊離カルボキシル基とエステル基の比が約1: 2である点が異なる。Eudragit Sは、pHが5.5以下では不溶であるが、Eudragit L-30Dとは異なり、pHが5.5-7.0(例えば、小腸)の胃腸液中では、可溶性が不十分である。共重合体は、pHが7.0以上(一般的には、結腸がそうである)では可溶性である。Eudragit Sは、単独で、大腸に薬物送達するためのコーティングとして用いられることができる。或いはまた、Eudragit Sは、pH 7以下の腸液では十分に可溶性ではないが、pH7以下で可溶性のEudragit L-30Dと共に用いることにより、遅延放出組成物として調製され、活性剤を腸管の様々な部位に送達することができる。Eudragit L-30Dをより多く用いたり、Eudragit Sをより多く用いると、放出がより遅延される送達が開始する。当該分野の専門家であれば、Eudragit L-30D及びEudragit Sは、同様なpH溶解特性を有する他の薬学的組成物と置き換えられることは理解されるであろう。
【0132】
腸溶性コーティングは、活性成分の放出を制御するのに供されるので、薬物の放出が腸溶性コーティングなしで行われる位置より下方の下部腸管内のほぼ予測可能な位置で薬物の放出を行なうことができる。腸溶性コーティングはまた、親水性の治療薬及び担体が、口腔、咽頭、食道及び胃の上皮組織及び粘膜組織、並びにこれら組織に関連する酵素に曝露されないようにする。このように、腸溶性コーティングは、送達される所望部位で放出される前に、活性成分及び患者の内部組織をあらゆる悪影響から保護するものである。さらにまた、本発明のコートされたカプセルは、薬の吸収の最適化、活性成分の保護及び安全性をもたらすことができる。下部胃腸管の様々な部位で活性成分が放出されるように作られた複数の腸溶性コーティングは、下部胃腸管の全体への送達効果の持続時間を向上させることを可能にする。
【0133】
通常、コーティングには、胃液の浸入を許容する細孔や割れの発生を防止するための可塑剤(plasticizer)を含んでいる。適当な可塑剤として、限定するものではないが、クエン酸トリエチル(Citroflex 2)、トリアセチン(三酢酸グリセリル)、クエン酸アセチルトリエチル(Citroflec A2)、Carbowax 400(ポリエチレングリコール 400)、フタル酸ジエチル、クエン酸トリブチル、アセチル化モノグリセド、グリセロール、脂肪酸エステル、プロピレングリコール及びフタル酸ジブチルを挙げることができる。特に、アニオン系カルボキシルアクリルポリマーからなるコーティングには、通常、約10〜25重量%の可塑剤、特に、フタル酸ジブチル、プロピレングリコール、クエン酸トリエチル及びトリアセチンが含まれている。コーティングはまた、他のコーティング用添加物(例えば、粘着性消失剤、消泡剤、潤滑剤(ステアリン酸マグネシウム)等)、及びコーティング物質を可溶にし又は分散させて、コーティング性能及びコートされた物質を改善する安定剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、酸及び塩基)を含むことができる。
【0134】
コーティングをカプセルに施すには、公知のコーティング方法及び装置を用いることができる。例えば、腸溶性コーティングのカプセルへの形成は、被覆パン(coating pan)、エアレススプレー法、流動床コーティング装置等を用いて行われる。コーティングされた投与剤形を調製する材料、装置及びプロセスに関する詳細な情報は次の文献に記載されている[Pharmaceutical Dosage Forms: Tablets, eds. Lieberman et al. New York: Marcel Dekker, Inc., 1989]及び[Ansel et al., Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems, 6.sup.th Ed. (Media, PA: Williams & Wilkins, 1995)]。前述の如く、コーティングの厚さは、経口投与製剤は、下部胃腸管に局所送達される所望部位に達するまで原型が保たれるように十分なものであらねばならない。
【0135】
<高齢患者に対する銅維持治療>
特に75歳を越える高齢患者における血清銅の顕著な増加について幾つかの報告がある[Madaric A, Ginter E, Kadrabova J, Physiol Res. 43;92: 107-11, 1994]。また、アルツハイマー病の高齢患者に関する報告がある[Squitti et. al., 2005]。哺乳動物の銅のホメオスタシスは、主として、排泄レベルで制御されるというのが一般的な結論である[Lindner MC, Biochemistry and molecular biology of copper in mammals, Handbook of Copper Pharmacology and Toxicology, edited by Massaro EJ., Totawa NJ: Humana, 2002, pp. 3-32.]。従って、本発明の目的は、肝臓の銅排泄の正常化の回復により、高齢患者の銅濃度の健全レベルを達成し維持することである。これまでは、銅の摂取を阻止するか、又は銅をキレート化又は錯体化することによって銅の正常化を追求してきたのに対し、本発明では、肝臓での銅の排出を正常化させるもので、各患者の銅状態を定期的に監視するだけで、銅の状態を目標範囲内に維持し、これによって銅中毒及び高銅血症を回避することができる。
【0136】
高齢患者における銅の排出を改善させるのに有用な製剤として、ウルシオジオール、抗炎症薬、抗線維症薬を挙げることができる。
【0137】
<銅キレート剤、銅錯化剤及び銅阻害化剤の蓄積注射用調製物>
体内の銅を減少させる経口送達用製剤に代えて、皮下注射又は皮下インプラントの手段がある。リポソームは、薬物送達用の汎用担体として知られている。これらの担体は、一般的には、多重層系に共通して存在する脂質から作られ、通常の代謝経路によって生分解性である。従って、これらの担体は、一般的には、生体適合性である。多小胞リポソームは、亜鉛で調製され、1か月以上に亘って体内に放出されるようにすることができる。これらの多小胞リポソームはサイズが大きい(平均直径約10-30μm)ので、マクロファージによって急速に取り除かれることはなく、薬物貯蔵部(drug depot)として機能し、1か月又はそれ以上の期間に亘って薬物をゆっくりと放出させることができる。このような貯蔵用調製物は、アルツハイマー病患者の薬物服用順守を改善する。それでも、腸からの銅の吸収を阻害するのに十分な量のメタロチオネインを腸内に容易に誘導する。
【0138】
或いはまた、1年以上の期間に亘って薬物を送達できるように、皮下インプラントが開発され利用されている。このようなインプラントは、一般的には、所望の薬物を含み、時間経過に依存するように薬物の放出を行なうことができるポリマーマトリックスを利用する。浸透圧ポンプも同じ要領で用いられている。亜鉛で調製されたインプラントは、特にアルツハイマー病患者の薬物服用の順守を容易に達成することができ、腸からの銅の吸収を阻害するのに十分な量のメタロチオネインが腸内に容易に誘導される。
【0139】
また、経皮パッチについても、インプラントと同じ目的を達成し、血流中の亜鉛を定常状態に維持することができる。
【0140】
徐放性調製物、貯蔵用調製物、インプラント及び経皮パッチの場合、亜鉛のような銅阻害薬物を含有することにより、血清及び他の体内区画における弱結合銅のピークを低下させるという追加の利点がもたらされる。それゆえ、細胞内銅のレベルが高い時点での神経細胞により、銅輸送蛋白質(例えば、アミロイド前駆体蛋白質、アミロイドベータ及びタウ)の誘導を低下させることができる。従って、投与の都合とは関係なく、前記システムは、徐放性でない方式の場合と比べて、病原性銅の輸送体の産生量を低下させるという追加の治療効果があり、平均的用量の亜鉛その他の銅阻害剤、銅キレート剤又は銅錯化剤が送達される。
【0141】
<アスコルビン酸含有調製物>
アスコルビン酸(ビタミンC)が高レベルであると、銅の吸収を妨げることが報告されている。それゆえ、本発明の目的は、胃腸管による銅の吸収を阻害するためにアスコルビン酸を含む調製物を利用することである。
【0142】
<高ホモシステイン血症に関連する病気>
分子量135ダルトンの銅結合蛋白質である血清ホモシステインのレベル上昇は、アルツハイマー病、アテローム性動脈硬化症及び統合失調症と関係があることが報告されている[the Framingham Study, NEJM 2003]。葉酸は、ホモシステインの循環レベルを低下させるが、その摂取量が増えると、アルツハイマー病の発現の予防に役立つことが報告されている[the Baltimore Longitudinal Group, 2005]。しかし、1日の摂取限界があり、それを越えると、葉酸の追加の効果は期待できない。ホモシステインは、血液関門を自由に通過できる有害な弱結合蛋白質を維持する作用を有し、循環する低分子量の銅結合性蛋白質の日和見的(opportunistic)プールである可能性はある。
【0143】
それゆえ、本発明の目的は、銅キレート剤、銅錯化剤又は銅消化吸収障害剤(亜鉛、亜鉛及び亜鉛塩の胃内滞留型調節物)の投与によるホモシステインのレベル上昇によって起こる統合失調症及び心臓血管その他の疾患を治療する方法を提供することであり、これによって、血清及びCNSにおける銅結合ホモシステインの循環レベルを低下させることができる。
【0144】
本発明の目的は、亜鉛−システイン錯体(Newsomeによる米国特許第6,586,611等)を、ウイルソン病、統合失調症、アテローム性動脈硬化症及び遊離銅のレベル上昇に関係する神経変性疾患(アルツハイマー病、ALS及びパーキンソン病を含む)の治療のための銅消化吸収障害剤として利用することである。
【0145】
<有害遊離銅の変動及びピークレベルに関連する有害から保護し、安定な遊離銅状態を維持する薬学的製剤、調製物及び方法>
多くの研究者及び研究グループがあり、銅及び他の金属(鉄、亜鉛、マンガン、アルミニウム)が種々の神経変性病(アルツハイマー病、パーキンソン病、ALS等)に関係している点では意見を同じくしているが、そのような病気における銅及びその他金属が過剰であるか不足であるかどうかの結論については意見が異なっている。従って、それらを介入させた方法に関する提案は、研究グループによって異なる。
【0146】
例えば、アルツハイマー病では元素銅が不足し、アルツハイマー病患者の治療には、銅を補充する臨床プロセスを提案するものがある[Bayer, Phinney and Westaway]。この考えは、細胞内の銅不足の結果、神経による利用可能な銅が差し控えられるため、を細胞内の銅結合蛋白質(APP及びAβ等)が上方制御されるべきとするものである。また、アルツハイマー病患者の脳には、銅と亜鉛の両方が過剰に存在するから、脳血液関門を通り、老人プラーク中の銅と亜鉛を結合する作用を有するクリオキノールの使用を推奨し試験する報告がある[Bush, AI et. al]。また、最近では、動物モデルで観察された効果は、クリオキノールはCNSで銅の利用可能性を維持することによることを報告している[Bush]。
【0147】
その他に、高コレステロールの食事が与えられたラビットモデルにおいて、飲料水中の銅がアルツハイマープラークの生成を促進することが報告されている[Sparks]。より最近では、商標名Lipitor等のスタチンによる治療を施されたアルツハイマー病患者では、その臨床効果は、スタチンによって銅が低減したためであり、これはセルロプラスミンレベルの低下で示されるという報告がある[Sparks, L, Dec. 2005]。この報告では、飲料水中の銅とアルツハイマー病との関係は十分に解明されていないけれど、アルツハイマー病患者には、銅含有飲料水を避けることが有効であるとされている。また、アルツハイマー病患者及び軽度認知機能障害(MCI)患者の血清中に、同年齢基準値と比べて、全銅のレベル上昇[Squitti 2003]と、セルロプラスミンに関係しない銅のレベル上昇[Squitti 2005)が報告されている。これは、初期の研究[Snaedal]及び他の研究において、アルツハイマー病患者の全銅及びセルロプラスミンのレベルは、同年齢基準値と違いがないとされていた報告とは見かけの矛盾がある。
【0148】
本発明の他の目的は、これまで報告されていない観察に基づくもので、血清及び脳脊髄液(CSF)において、セルロプラスミン(いわゆる遊離銅)以外の蛋白質に弱結合された銅のレベルは、実質的な日中変動に基づいている。特定の理論に拘束されるものではないが、CNSにおける遊離銅の日中変動は、アルツハイマー病の治療目標を、銅摂取の減少とすべきか、又は銅の補充とすべきかに関する矛盾の解明に有効である。
【0149】
CNSにおける銅レベル、ひいては細胞内の遊離銅のレベルが上昇すると、細胞内遊離銅を結合し堆積させることができる蛋白質(例えば、APP及び開裂された膜貫通型ペプチドAβ)は、上方制御され、Aβ結合銅が細胞外CSFに堆積する。しかしながら、全身循環における遊離銅レベルが一旦ピークレベルから低下(適当な処理及び肝臓による胆汁及び大便への排泄の結果として)すると、APPの上方制御で、銅を必要とするニューロンの適切な代謝機能として必要な利用可能な銅が、ニューロン内で一時的に不足するものと考えられる。このような場合、ニューロン内の銅結合蛋白質(例えばタウ)は、上方制御されて、ニューロン内で利用可能な遊離銅の適切な供給を維持できるようにする。
【0150】
さらにまた、血清及びCNSの中で潜在的な遊離銅が日中変動すると、溶解銅、銅イオン及び銅塩を含有する水を摂取すると直ちに悪化する。特定の理論に拘束されるものではないが、そのような遊離銅の変動は、急速流入銅含有水によるもので、これは、小腸、門脈、血清、血漿を経て、血液脳関門を通って、脊髄液及び脳に送られる。食物中に存在する銅とは異なり、その大部分は、徐々に放出され、腸の正常な消化過程の一部として長い時間かけて生物学的に利用可能となるが、水道水の中に通常溶解している銅は、遊離した未結合形態で存在しており、これは、第1通過効果により腸内に水流入した後直ちにボーラスとして、全身循環及びCSFに入る。このような銅の流入は、ナトリウムの存在下で増すことが報告されている[Wapnir]。このため、腸メタロチオネイン及び肝臓セルロプラスミンの上方制御による時間通りの反応ができず、腸上皮及び肝臓の銅調節機構をバイパスするか又は調節不能となる。銅が溶解した水が入り込むと、ナトリウムの存在下で悪化し、これにより、腸のナトリウムチャネルが、門脈及び肝臓循環における溶解銅の潜在的入口点として潜在的に関連づけられる。キロミクロンに結合した銅もまた、リンパ循環に入り、最終的に胸管に流出する。
【0151】
特定の理論に拘束されるものではないが、晩期発症型アルツハイマー病及びパーキンソン病になり易い高齢者では、年齢と共に減少することが知られている肝機能障害が認められる。その結果、高齢者の全身循環及びCNSにおけるピーク遊離銅濃度は、例えば飲料水に含まれる溶解銅のボーラス投与によっては高くならないが、そのようなピーク遊離銅濃度が持続中は、肝臓のクリアランス障害のために高くなるであろう。また、全身循環及びCSFにおける遊離銅の曲線(AUC)より下の領域は、飲料水に溶解した銅のボーラス投与を受けた若者の場合と比べて、実質的に大きくなるであろう。
【実施例】
【0152】
〈実験1〉
各々が12人以上の患者からなる4つのコホート(cohorts)を準備した。1つは晩期発症型アルツハイマー病患者のコホート、1つはパーキンソン病患者のコホート、1つは前記アルツハイマー病患者及びパーキンソン病患者と同年齢の正常者のコホート、1つは同位元素Cu64を含有する蒸留水又は水道水が等量投与された20〜40歳の正常者のコホートである。血清サンプルを2〜24時間に亘り、時間ゼロ及び20分毎に得た。血清サンプルは、セルロプラスミン、アルブミン及び1又は2以上の他の銅結合蛋白質(例えば、ホモシステイン、apoE等)の何れかに結合特異性を有する3以上のビード(ビーズ)含有カラムに分画した。ビーズは、その後、蒸留水で別個に分離し、各々について溶出した溶液を、標準のプロトコルにより総放射活性を測定し定量化した。プロトコルでは、全溶液体積、並びにセルロプラスミン、アルブミン又は他の蛋白質の両方に対して絶対的及び百分率ベースで前記溶液中に存在するCu64の合計量を示す総放射活性を測定するものである。アルツハイマー病患者及びパーキンソン病患者は、同年齢者及び20〜40歳者のコホートと比べて、アルブミン及び他の蛋白質溶出物におけるピークCu64値及びCu64のAUCは両方とも高い値を示した。なお、同年齢者は、20〜40歳者よりも、ピークCu64値及びCu64のAUCは両方とも高い値を示した。得られた結果は、アルツハイマー病、パーキンソン病及び高齢者は、飲料水に含まれる溶解銅の結果として、また飲料水から投与された遊離銅に長時間曝露された結果としてのピーク値の毒性効果に高い感受性を有することを初めて示した。もし、連続CSFサンプルが得られた場合であっても、その結果は同じであろうし、全身循環とCSFとの間に遊離銅の平衡が存在するため、神経症状を呈するウイルソン病患者が全身循環の遊離銅のレベルが上昇したのと同様、前記患者に観察される臨床行動及び神経障害に直接関係することを示す。
【0153】
〈実験2〉
実験1と同じ実験を繰り返して行なった。但し、アルツハイマー病患者、パーキンソン病患者、同年齢の正常者及び若年の正常者の4つのコホートに対する誘導用量のレジメンは次のとおりである:(a) 速放性の経口酢酸亜鉛(商標名Galzin)100mg/dayを、0日を含む14日前まで投与した。;(b) 胃内滞留型経口酢酸亜鉛100mg/dayを、0日を含む14日前まで投与した。;(c) 胃内滞留型経口酢酸亜鉛100mg/dayと、徐放性経口銅及び/又は鉄(塩、又は植物繊維、ホウェイ、メタロチオネイン、トランスフェリン、ドライミルク、乳児用調製乳若しくは天然銅若しくは鉄結合添加物に結合された)2mg/dayを、0日を含む14日前まで投与した。;(d) 経口テトラチオモリブデート(速放性剤形として又は好ましくは徐放性調製物でのアンモニウム又はその他の塩)2μg〜120mg/dayを、0日0時と同時に又は0日0時を含む14日1時間前まで投与した。;(e) 必須の微量金属(亜鉛、銅、鉄、カルシウム、モリブデン及びマンガン)の一部又は全部を毎日の推奨摂取量(RDA)以上を投与した。
【0154】
<結果>
実験2の(a)乃至(e)に記載した調製物の投与により、全てのグループの患者について、血清サンプル(及びCSF)中の遊離銅のピーク及びAUCを低下させる効果があった。
【0155】
アルツハイマー病患者の治療について、CSF及び/又はアルツハイマー病患者のCSFにおける利用可能な銅のレベルが、正常な神経代謝機能に対して不足しているという前提に基づいて、銅サプリメントを使用するという報告があった[Kessler H, Pajonk FG, Supprian T, Falkai P, Muthaup G, Bayer TA]。アルツハイマー病の病理生理学における銅の役割に関する報告がある[Nervenarzt, 2005 May;76(5) 581-5 and Bayer TA, Multhaup G]。アミロイドベータ前駆体蛋白質(AベータPP)による銅ホモスタシスの調節に関する報告がある[J. Alzheimers Dis. 2005 Nov;8(2);201-6; discussion 209-215]。上記の実験の結果は、Bayerに記載されたCu64サプリメントを、前述のCu64含有飲料水と置き換えることによって再現することができる。Bayerに記載された速放性調製物もまた、全身循環及びCSF患者における遊離銅のピーク及びAUCレベルが上昇する。1日のうちにニューロンの銅不足が起こるのはアルツハイマー病の場合でも同じであるから、従来技術では、遊離銅のピーク及びAUCの1日の変動を特定することができない。また、肝臓遊離銅のボーラス投与の初回通過効果によりピークレベルの遊離銅の肝臓への取込み及び胆管からの排泄がもたらされ、ニューロンの銅不足が起こり、その補償作用としてAPP及びAβの脳が一時的に過剰生産することは、従来技術では特定することができない。結合された銅、亜鉛鉄及び他の微少金属調製物が徐々に放出され、銅、鉄及び微少金属の適切に摂取できるという利点があり、これによって、ニューロンの負荷は実質的に低減され、補償用金属蛋白質(例えば、APP、Aβ、タウ、BACE1及びapoE)が生成される。
【0156】
〈実験3〉
実験3は、速放性銅と徐放性銅の補充に関するものである。
24人のアルツハイマー病患者の第1コホートに対し、Bayer TAに記載された速放性銅サプリメント(銅2mg含有)を1日1回、1〜3か月間投与した。24人のアルツハイマー病患者の第2コホートに対し、同じ量の銅を含む徐放性調製物を1日1回、同じ期間投与した。徐放性調製物は、塩、又は好ましくは天然銅結合担体(例えば、メタロチオネイン、繊維、ホウェイ、カゼイン)に結合された塩である。実験期間中、全ての患者は、銅含有飲料水を差し控えると共に、銅含有食物の毎日の摂取並びにコレステロール下降剤及びその他薬物の使用についてはバランスがとられるようにした。連続血清サンプルの投与は、食後少なくとも12時間と、毎日の用量投与後1-3時間以内を1週間毎に切り換えて行なった。同じように、投与後12時間と2時間以内とを交互に切り換えて、遊離銅(遊離銅測定法として前述した遊離銅の直接測定法を使用)、全銅(total copper)、セルロプラスミン及び24S-ヒドロキシ-コレステロール(脳の中で産生される考えられており、アルツハイマー病患者の血清内で増加する)のレベルを調べた。
<結果>
速放性銅を投与したコホートは、徐放性銅を投与したコホートよりも、アルツハイマー病患者の血清中の遊離銅のピーク及び計算推定AUCレベルは上昇したが、全銅及びセルロプラスミンの血清レベルについては、統計上の有意差はなかった。しかしながら、最も重要なことは、24S-ヒドロキシ-コレステロールの時間加重平均値については、速放性銅を投与したコホートは、徐放性銅を投与したコホートよりも有意に高く、速放性グループのCNSに酸化性病気の進行が認められることである。これは交差法(crossover design)によってもその効果は裏付けられる。
【0157】
〈実験4〉
胃内滞留型徐放性亜鉛に関するものである。
アルツハイマー病患者に二重盲検プラセボ対照臨床試験を行なった。コホートIは、プラセボ、コホートIIは速放性銅サプリメントを2mg/day投与したもの、コホートIIIは胃内滞留型徐放性酢酸亜鉛を100mg/day投与したもの(銅サプリメントはなし)、コホートIVは胃内滞留型徐放性酢酸亜鉛を100mg/dayと徐放性銅サプリメントを2mg/day投与したものであり、実施期間は12〜24か月である。患者は、通常の水道水又はボトル入り水の摂取に制限はないが、通常の習慣及び一般的な併用薬(例えば、スタチン(アトロバスタチン等)、コリンエステラーゼ阻害剤(ドネペジル等)及びNMDA受容体アンタゴニスト(メマンチン等))の使用についてはバランスがとられるようにした。
研究の主要評価項目は、ミニメンタルステート検査(MMSE)のスコアに基づく臨床改善であり、脳萎縮を、MRI(最小解像1.5T)による容積測定及びプロトン磁気共鳴分光法(PRESS-J及び自動リポジショニング技術を用いた1H-MRS[Hancu I, et. al(2005)を参照])によって求めた。
<結果>
コホートIIIは、低下(decline)は最も少なかったが、コホートIVよりも高い低銅血症の発症を示した。コホートIVは、コホートI又はIIよりも低下が少なく、コホートIIは、主要及び二次評価項目において低下が最も大きかった。
【0158】
<低用量のテトラチオモリブデート>
本発明の目的は、様々な病気の治療に有効なテトラチオモリブデートの低用量医薬組成物を提供することである。発明者らの知る限りにおいて、テトラチオモリブデートを約0.25mg/kgよりも少ない投与量としたものは、これまで、高貴な動物モデル又はヒトの病気に試験され利用されたことはなかった。このような低用量による治療は、これまで利用されてきた概念から著しく逸脱するものである。これまでの実験及び臨床設定では、一般的に行われている投与量は、約1mg/kg/day乃至1.5mg/kg/dayであり、これによって、利用可能な遊離銅のレベルを無視できるほどの量に低下させるものである。この用量は、特定の治療範囲内で、利用可能な遊離銅のレベルを維持できるように滴定される。なお、テトラチオモリブデート及びアルブミンとの三成分複合体に結合された銅は、現在実用化されている手段では識別が困難であるため、前記の遊離銅のレベルは、セルロプラスミンの全身レベルに基づいて間接的に測定される。
【0159】
遊離銅のピーク値(前記の直接測定技術を用いて測定)の実質的な日中変動に関する前記観察結果に基づいて、本発明の目的は、血清中のテトラチオモリブデートを低く安定した濃度で提供することであり、遊離銅フラックス(可溶性銅を含む飲料用水道水からのもの)に由来する遊離銅を、水道水に溶解した銅と結合させて、血清アルブミンとの三成分複合体を生成し、血液脳関門を通過できるホモシステインのような低分子量蛋白質に利用可能とすることにより、血清中の遊離銅レベルを低下させて安定化させるものである。チオモリブデート及びアルブミンに結合された銅は、一般的には、重すぎて血液脳関門を通過することができず、銅錯化剤(テトラチオモリブデート等)には、銅キレート剤(d-ペニシラミン、トリエンチン、クリキノール、EDTA及びその他の金属錯化剤)と比べて独特の薬理効果がもたらされる。低分子量蛋白質(ホモシステイン等)に結合した遊離銅は、血液脳関門を容易に通過し、銅のホメオスタシスを適当レベルに維持するのに必要なニューロン内又はニューロン外での銅蛋白質機構に負荷をかけるからである。アルツハイマー病の場合、全身循環における遊離銅のレベルを安定化させることにより、低用量の徐放性テトラチオモリブデート調製物は、銅結合性の調節蛋白質(APP、Aβ及びタウ等)の上方制御及び生成を最小にするという重要な治療効果を有する。この独特の作用機構及び重要な利点は、銅キレート剤では期待できない。その理由は、銅キレート剤は、様々なコンパートメントからの銅と可逆的結合するためである。また、血液脳関門を通過できる銅結合蛋白質に関するこれまでの研究では、前述したように、全体として、方向を誤っており、本発明における作用機構は、従来の知見では示唆されなかったものである。トリエンチン及びクリキノール等の薬物は、CNSの遊離銅レベルの安定化に関しては、殆んど又は全く有効でないと思われる。また、d-ペンシラミンやトリエンチン等の調製物は、肝臓等のようにCNSでない他の器官コンパートメントからの銅を非選択的にキレート化するため、例えば、神経性のウイルソン病では、CNSの遊離銅レベルを上昇させることがわかった。パーキンソン病では、テトラチオモリブデート等のチオモリブデートが低用量の場合、CNSの遊離銅を安定化させて低レベルにする作用がある。これも、これまでは、パーキンソン患者では遊離銅レベルが上昇し、銅及び鉄結合蛋白質α−シヌクレイン(レビー小体の主要部ががパーキンソン病及び他のシヌクレイノパチーに関連する)の生成を下方制御すると報告されていた。この利点は、鉄錯化剤及び/又は腸及び肝臓内で保護性金属蛋白質(トランスフェリン等)の誘導作用を有する徐放性鉄サプリメントと共に用いるとさらに高められ、これによって、水道水中の可溶鉄による遊離鉄インフラックス(influxes)及び速放性の鉄補充調製物による遊離鉄ボーラス濃度から保護することができる。ALSでは、銅スカベンジャーCu/Znスーパオキシドジスムターゼ(SODl)に加えられた負荷も低減される。家族性ALSの場合、その銅結合蛋白質に遺伝学的な欠乏が生じる。同じことは、銅結合アポリ蛋白質Eにも当てはまり、変異体4(apoE4)では、2種類の銅結合システインを欠いており、肝臓によりCNSから銅を排除するapoEの能力は制限される。
【0160】
遊離銅の全身及びCSFでのレベルを安定化させるという治療目的に関して、本発明の重要な考察を行なうと、当該分野の専門家であれば、他にも様々な新規な製剤を開発することはできるであろう。その製剤として、例えばSOD1のようにシステイン残基を含むペグ化されたペプチド等の如き様々な蛋白質に結合された銅結合剤及びリポソーム複合体の銅及び鉄結合剤(テトラチオモリブデート、より具体的には徐放性テトラチオモリブデート、さらに具体的には低用量徐放性テトラチオモリブデートの遊離銅低減化及び安定化作用と同じ機能を達成できるもの)の蓄積注入用調製物がある。従って、本発明の目的は、遊離銅を結合し利用不能にすることができるあらゆる製剤を使用する方法を提供するものであって、前記製剤は、血清中では安定状態で利用可能であるが、好ましくは、血液脳関門を通過しない製剤である。本発明の一態様では、胃、胃腸管及び血清中で銅をキレート化し錯体化するのに有用なチオモリブデートを含有する安定な速放性医薬組成物を提供することである。この明細書に記載した医薬組成物及び方法は、腸からの銅吸収を阻害すると共に、血清中の銅を錯体化して、人体から排泄するのに有用である。特に、医薬組成物は、食物及び飲料中の銅、並びに、食事の後、唾液、胃、膵臓、胆管の分泌により及び腸細胞から排出された銅を錯体化し封鎖させる作用を有しており、これにより、銅の吸収を低下させると共に、食物から分離されると、血清中の遊離銅を錯体化させて遊離銅の濃度を低下させることができる。本発明は、食事後に食物及び飲料に含まれる銅を錯体化し封鎖できるように、急速に胃の中で分散することができると共に、チオモリブデートに関連する固有の不安定さを克服できる速放性のチオモリブデート調製物を提供することである。本発明のチオモリブデート調製物は、商業的に許容される有効期間を有し、チオモリブデートを適当に分散させるのに必要な急速溶解特性を損なうことなく、食事の後、胃及び腸の中で銅を錯体化して封鎖することができるものである。本発明は安定な速放性調製物及び方法であり、食物から分離されると、胃腸の消化器壁を通り、患者の血清中の銅をキレート化し封鎖することができる。本発明の調製物は、身体全体の銅低減治療作用を維持しつつ、投薬頻度を低減することができる。
【0161】
<チオモリブデート>
チオモリブデート(thiomolybdates)は、モリブデンと硫黄とから構成され、限定するものではないが、(MoS4)2及び(MoO2S2)2等の種類がある。チオモリブデートは、製薬的に許容される塩(例えば、ジアンモニウム塩)として作られることができる。これらの分子は、二座配位子として作用し、銅の錯体を作ることができる。チオモリブデートの例として、限定するものではないが、テトラチオモリブデート、トリチオモリブデート、ジチオモリブデート及びモノチオモリブデートを挙げることができる。他の例として、錯体チオモリブデート(complex thiomolybdates)があり、限定するものではないが、2つのチオモリブデートグループの間の亜鉛又は鉄があり、銅を結合し錯体化させることができるチオモリブデートを含んでいる。錯体チオモリブデートの例において、分子は、2以上のモリブデンに関して5以上のチオ基を有することができる。第VI族の遷移金属であるタングステン酸塩は、チオタングステートとして、調製物のモリブデン酸塩と置換することができる。
【0162】
神経症状を呈するウイルソン病の治療に特に関連のあるチオモリブデートは、テトラチオモリブデートである。テトラチオモリブデートは、モリブデンが4つの硫黄に囲まれている(MoS4)2
【0163】
1980年代以降、経口テトラチオモリブデートは、前臨床コース及びヒトの臨床試験の主題であり[George Brewer, M.D., Fred Askari, M.D.]、その他にも、初期症状を呈する神経性ウイルソン病の治療の他、腸の銅吸収の阻害並びに人体で内生される銅の封鎖及び除去によって利点がもたらされる治療に用いられてきた。
【0164】
神経性のウイルソン病は、ATP7B遺伝子の突然変異によって生じる遺伝的疾患であり、銅をセルロプラスミン蛋白質に取り込み、銅を胆汁及び大便を経て排出する肝臓機能の低下によって特徴づけられる。この機能低下によって、肝臓及び脳の銅濃度は増加し、ウイルソン病患者の全身循環における遊離銅の増加は、肝臓、脳及びその他器官に有害である。
【0165】
初期症状を呈するウイルソン病患者に用いられるテトラチオモリブデートのレジメンは、最大16週の治療期間であり、患者は、時々、同時に亜鉛(例えば、酢酸亜鉛)を投与される。治療は、毎日の維持治療も行われ、酢酸亜鉛(商標名Galzin)等の亜鉛含有製剤が投与される。テトラチオモリブデートによる最大16週の治療期間中、テトラチオモリブデートは、1日に最大3回食物と共に経口投与され、食物とは別に追加の経口投与が行われる。食物と一緒に服用するテトラチオモリブデートの目標は、胃及び腸の中で作用し、食物、飲料及び胃腸管に入る内因性銅に含まれる銅を錯体化して、全身吸収に利用できなくすることである。テトラチオモリブデートは、食物から分離され、その全身吸収を促進して、血清蛋白質(アルブミン等)と血清中の有害遊離銅の三成分複合体を生成できるようにし、これにより、血清中の有害遊離銅の利用可能性及び濃度、並びに中枢神経系(CNS)に対する利用可能性を低減するものである。CNSに対する銅の利用可能性が低下すると、遊離銅のレベルを正常レベルまで低下させることができるので、CNS中の遊離銅の増加による精神病理学的及び神経変性の疾患を予防又は治療することができる。
【0166】
テトラチオモリブデートは、温度及び湿度が一般的な雰囲気条件下では不安定であり、活性成分は、モリブデンスルホキシドに酸化される。モリブデンスルホキシドは、ヒトの体内の銅レベルを低下させる銅結合剤及び治療剤として活性ではない。テトラチオモリブデートは、そのような条件下で保管した場合、3か月以内にその有効性の約10%が損なわれるものと思われる。
【0167】
チオモリブデートの経口薬剤では、胃の中で速やかに放出され迅速に分散して食物及び飲料に含まれる銅を錯体化できることと、安定性、有効期間中の有効性の均一性が許容可能なものにすることの2つの目標を達成することが、当該分野におけるこれまでの主題と考えられていた。例えば、米国特許出願第11/256,540号(2005年10月21日出願、Ternansky et. al)は、安定性向上のために、チオモリブデートをマトリックス物質(菱形に相当)に直接取り込むチオモリブデート化合物の固体服用製剤を記載している。しかし、これは、胃の中でチオモリブデートの放出及び分散が遅いという重大な欠点があり、胃の中でチオモリブデートによる所望の銅錯化効果を得ることができない。米国特許出願第10/447,585号(2003年5月28日出願)は、アンモニウム以外の製剤的に許容される塩及びエステルを有するチオモリブデートアナログを開示している。このようなアナログ(analogues)は、ウイルソン病で最も臨床的に用いられているテトラチオモリブデン酸アンモニウムと比べて安定性は幾らか改善されているが、湿度雰囲気下では安定性問題は完全に解消されている訳ではなく、テトラチオモリブデン酸アンモニウムを凌ぐ利点はない。
【0168】
本発明の一態様は、チオモリブデートを含む速放性カプセルに関するものであり、カプセルは極く低水分量であり、低水分量の添加物を含んでおり、カプセルは容器又はブリスターパックにパッケージされ、カプセルを不活性ガス(窒素又はアルゴン等)でパージし密封することにより、チオモリブデートを大気酸素から保護するものである。カプセルのパッケージングは、1又は複数の化学インジケータを含むこともできる。インジケータは、例えば水分又は酸素に対する指示体であり、無水又は嫌気性のシールを破損させて警告が発せられる。
【0169】
本発明はまた、食事と適当量の飲料を摂取する直前にチオモリブデートを投与する方法を提供するもので、銅含有食物及び飲料を速やかに分解させて錯体による保護を最も広く受けられるようにするものである。
【0170】
本発明はまた、低用量の徐放性テトラチオモリブデート又はその他同等な前記製剤の使用を含んでおり、CNSの他に、遊離銅のピーク及びAUCの上昇による酸化が役割を果たすものとして知られているその他病気(例えば、アテローム性動脈硬化症及び肝臓疾患(NASH等)、非ウイルス性肝炎及び糖尿病)を治療するものである。
【0171】
インタクト形テトラチオモリブデートの徐放性調製物の生物学的利用能を最大化するために、徐放性調製物は、例えば単一のピルカプセル又はタブレットに含まれる2種以上の微粒子型又はマトリックス型を優先的に含むことができる。このようなピル又はカプセルは、徐放性剤形で腸溶性コーティングされた粒子を含むことができ、該粒子は、例えば空腸及び小腸のpH環境で放出されるように設計され、さらにまた、回腸及び結腸の環境で放出されるように設計されている。このような調製物及び方法は、当該分野で知られているが、テトラチオモリブデートの作用機構が、その銅結合特性及びアルブミン錯化特性に対する硫黄グループの酸化に依存する(それゆえ、初期酸化(premature oxidation)を受け易い)場合、そのような調製物は、その中に含まれるテトラチオモリブデートの曝露を制限し、放出前の酸化が防止される利点がある。
【0172】
酸化をさらに制限し、テトラチオモリブデートの安定性を向上させるために、本発明はまた医薬パッケージを含むことができるもので、該パッケージにより、ピル、タブレット又はカプセルの各々は、使用に供されるまで、調整された雰囲気の中でパッケージングされ別個に密封される。パッケージングは、例えば、不浸透性のフォイルパウチ又は冷間成形されたブリスターパックであり、アルゴン又は窒素ガスでパージされ、大気及び水分の98%以上が除去される。カプセルが用いられる場合、テトラチオモリブデートが入れられたカプセルは、カプセルと活性成分との相互作用を制限できるように、特に低含水量に選択されるべきである。パウチ又はブリスターパックのパッケージングは、安定性を向上させるために、不活性ガスでパージされたパッケージの中に、乾燥剤及び犠牲酸化剤と共にパッケージされることができる。
【0173】
本発明の特に好ましい実施例において、テトラチオモリブデートの結晶サイズは、胃及び腸の中での放出が選択され、持続され、遅延されるように制御される。結晶サイズの制御は、結晶の成長の制御又は後記するミリング(milling)によって行われる。発明者らは、テトラチオモリブデートの大型結晶(例えば、テトラチオモリブデン酸アンモニア)は本質的に変化することなく胃を通過して腸の中で溶解するが、小型結晶は胃の中で溶解することを見出した。これは、サイズが異なる結晶の混合物とすることにより、所望の徐放性を達成することができる。例えば、50-100ミクロンと200-500ミクロンからなる混合物を単一カプセルの中に含めることができる。
【0174】
発明者らは、人工胃液中でのテトラチオモリブデン酸アンモニウム(ATTM)のキネティクスは、ATTMの結晶サイズに依存することを見出した。サイズが50ミクロン以下(横断面の幅)のATTM結晶は、酸性緩衝剤の(pH2)の中で速やかに溶解した。酸性緩衝剤の中での培養1時間後、ATTMはなくなった。しかしながら、ATTMの結晶サイズが1700ミクロン以上の場合、酸性緩衝剤の中での溶解はゆっくりであった。酸性緩衝剤の中で1時間培養した後、ATTM は50%以上残っていた。
【0175】
<方法>
1.Sigma-AldrichからATTMを購入し、1700ミクロンのスクリーンで篩いにかけた。スクリーンを通過しなかった結晶は、この実験では、大型(“large”)と称するものとする。
2.ATTMの結晶を粉砕して、全ての結晶を50ミクロン以下にした。これらの結晶を小型(“small”)結晶と称する。
3.各結晶を100mg秤量し、1.7mlのプラスチック遠心管に別々に加えた。
4.pH2の緩衝剤1mlを混合なしで各管に加えた。
5.1時間後、各管を、14,000 rpmsで1分間遠心分離した。
6.上澄みを除去し、ATTMを分析した。
7.各管のペレットに対し、pH 7.4のリン酸塩緩衝剤を1ml加えた。
8.各溶液をボルテックス混合した。
9.各管を、14,000 rpmsで1分間遠心分離した。
10.各管から上済みを採り、ATTMを分析した。
【0176】
<分析>
1.全ての上澄みについて100倍希釈を、pH7.4のリン酸塩緩衝剤の中で調製した。
2.希釈した各試料2mlをプラスチックキュベットに加えた。
3.吸光度を467nmで測定した。
4.各試料について、ATTMの消衰係数(EC)を算出した。
of ATTM for each sample were calculated. Results:
【0177】
<結果>
【表4】

【0178】
<観察>
1.酸性緩衝剤を小型結晶のATTMに加えると、溶液は直ちに黒色に変化し、硫黄の香りが検出された。
2.黒色溶液は、最終的に黒色沈澱となって、管の底に堆積し、上澄みは透明になった。これは、培養時点の1時間後に観察された。
3.酸性緩衝剤をATTMの大型結晶に加えると、少量の黒色が結晶から浸出した。さらに、結晶の外側に黒色コーティングの形成が認められ、これがさらなる溶解を妨げたものと思われる。
【0179】
<結論>
1.小型結晶の場合、ATTMは酸性媒質の中に溶解するが、やがて不溶性沈澱を生成する。
2.溶解したATTMは、酸性媒質中では残らない。
3.大型結晶の場合、ATTMは、酸の中で黒色コーティングを形成し、これが耐溶解性をもたらす。
4.未溶解のATTMは、酸の中で、大型結晶から遊離され、中性媒質の中で二次溶解される。
5.黒色コーティングは、中性媒質の中では溶解防止作用があるとは思われない。
【0180】
〈実験5〉
テトラチオモリブデートの大型(>1000ミクロン)及び小型(<50ミクロン)の暗オレンジ色結晶を、商業的に入手した胃液シミュレート溶液の中に入れた。大型結晶は、僅かに硫黄の香りを放出したが。結晶自体は、相対的に損なわれることなく、黒色に変化するが、溶液は透明のままである。小型結晶を同じ種類の溶液の中に入れると、直ちに硫黄の強い香りが放出され、成分が分かれた黒色混濁溶液である。大型結晶と小型結晶との溶解特性の相違は明らかである。さらにまた、テトラチオモリブデート20mgと、異なるサイズ範囲(200-800ミクロン)テトラチオモリブデート結晶を含有する添加物(excipient)180mgを含有するメチルセルロースカプセルの特性を、シミュレートされた胃酸を初期含有する溶解チャンバーの中で試験した。ゼラチンカプセルは、15分以内に溶解した。テトラチオモリブデートの回収を紫外可視吸収によって3時間に亘って定期的に評価した。この時間は、胃排出の開始と、食後吸収の初期相と時間的整合性がある。この3時間におけるいかなる時点に除去され中和された胃のシミュレート試料にも、テトラチオモリブデートは検出されなかった。3時間で、残りの胃液はpHを8〜9に調節することによってアルカリとなり、溶液は、オレンジ色から赤色に変化し、紫外可視分光によって評価した。テトラチオモリブデートの回収は、カプセルの量の約7%であった。
同じ実験を小型結晶にも行なったが、回収は親化合物の7%よりも遙かに少ないのに対し、添加物が大型結晶で実施されると、親化合物の7%よりも遙かに多く回収される。これらの実験により、テトラチオモリブデートの結晶サイズは、胃酸による変性から保護するための決定因子であることであることを示している。
【0181】
〈実験6〉
テトラチオモリブデートの結晶は、粉砕して粉末(この場合、最初はオレンジ色)にするか、又は水の中に入れて溶解し、明るいオレンジ色の溶液を生成した後、フィルターを通し凍結乾燥させて、オレンジ色の乾燥粉末にする。粉砕された粉末は、窒素オーバーレイでパージされ、閉じた管の中の室温度で数日以内にゆっくり黒色に変化し、一方、同じ条件下で乾燥粉末にされた乾燥粉末は、1か月以上の期間に亘ってオレンジ色の儘である。この実験は、テトラチオモリブデートから水分を十分に取り除くと、大気に対する安定性が向上することを示している。同じように、鉱物で被覆されたオレンジ色のテトラチオモリブデートは、大気及び水分から保護され、1か月間オレンジ色(即ち、酸化されていない)の儘である。
【0182】
〈実験7〉
凍結乾燥されたテトラチオモリブデートの同量の粉末を水に溶解し、カプセルに入れ、コーティングなしのタブレット又は腸溶性コーティングされたタブレットとして調製し、給餌ラット又は絶食ラットに1日1回、1週間に亘って投与した。複数回の投与期間の終わりに、血液試料を24時間に亘って定期的に採取し、セルロプラスミンの薬力学的判定及びモリブデンの薬物導体的判定を行なった。絶食ラット及び給餌ラットは両方とも、腸溶性コーティングされたタブレットを投与されたものは、セルロプラスミンは可能な最大限まで減少し、血清中のモリブデンは最大の増加を示した。
【0183】
〈実験8〉
この実験は、低用量のテトラチオモリブデートに関するものである。
アルツハイマー病患者に二重盲検プラセボ対照臨床試験を行ない、プラセボ(コホートI)と、低用量(2-10mg/day)の徐放性テトラチオモリブデン酸アンモニウム(コホートII)との比較を最大24か月間行なった。この実験の主要評価項目は、ミニメンタルステート検査(MMSE)のスコア等の認知能力評価に基づく臨床改善であり、脳萎縮は、MRI(最小解像1.5T)による容積測定及びプロトン磁気共鳴分光法(PRESS-J及び自動リポジショニング技術を用いた1H-MRS[Hancu I, et. al(2005)を参照])によって求めた。
<結果>
コホートIは、全てのパラメータの中で低下(decline)は最も少なく、コホートIIよりも低銅血症の発症は少なかった。
【0184】
〈実験9〉
テトラチオモリブデートによる胃内滞留型徐放性維持治療を行なった。
アルツハイマー病患者に二重盲検プラセボ対照臨床試験を行ない、プラセボ(コホートI)と、誘導用量(80-120mg/day)の速放性テトラチオモリブデン酸アンモニウムとの比較を行なった。速放性テトラチオモリブデン酸アンモニウムは、発明者の米国特許第6,855,340号及び特許出願第10/444,204号に記載されており、3〜6か月間投与した後、胃内滞留型徐放性亜鉛を毎日50-100mg投与する維持治療をさらに18-21か月行なった。なお、徐放性銅サプリメントの要否は、全身セルロプラスミンレベルが目標レベル(例えば12mg/dl以下)より下であるか、及び/又は低銅血症の徴候があるかによって決定した。この実験の主要評価項目は、ミニメンタルステート検査(MMSE)のスコア等の認知能力評価に基づく臨床改善であり、脳萎縮は、MRI(最小解像1.5T)による容積測定及びプロトン磁気共鳴分光法(PRESS-J及び自動リポジショニング技術を用いた1H-MRS[Hancu I, et. al(2005)を参照])によって求めた。
<結果>
コホートIIは、全てのパラメータにおいて、コホートIよりも低下が少なく、3-6か月の短い期間で、コホートIと比べて、脳の代謝機能が改善されることを示している。
【0185】
<モリブデン及び硫黄含有調製物>
本発明の目的は、元素モリブデン及び硫黄が含まれる経口補助調製物を提供することを含んでいる。この調製物は、投与して胃の中で溶解すると、低pH環境の胃の中で結合してチオモリブデートを生成し、これにより、胃腸管及び全身循環における遊離銅を錯化することができる(多くはテトラチオモリブデン酸アンモニウム)。このような調製物は、投薬の点での信頼性ははるかに低いものであるが、栄養補助食品教育法案(DSHEA)に基づく天然産物としての利点は有するかもしれない。
【0186】
治療に用いるために、本発明の徐放性微量金属を、純カチオン又は塩の形態にて、医薬的に許容される徐放性マイクロスフェア(microsphere)、マトリックス、ペレット又は粒子(全て当該分野で知られている)の中に入れることができるが、まず最初に、そのような金属を結合できることが知られている医薬的に許容される安定性を有する天然又は合成の担体(例えば、植物繊維、ホウェイ、メタロチオネイン、トランスフェリン、蛋白質及び/又はミルク若しくはミルク副産物)に結合させることが好ましい。微量金属は食物の中に自然に含まれているので、そのような担体は、微量金属の緩やかな消化及び吸収を誘導するという効果をもたらす。それゆえ、本発明は、1又は複数の微量金属(例えば、亜鉛、銅及び鉄)を、1又は複数の医薬的に許容される担体、及び所望により、他の治療及び/又は予防薬と共に含む胃内滞留型及び/又は徐放性医薬調製物をさらに提供するものである。担体は、調製物の他の成分との適合性の点では許容され得るもので、服用者に対して有害になるものではない。
【0187】
本発明の他の目的は、銅吸収阻害剤(copper malabsorption agent)と共に投与可能な銅サプリメントを提供することであり、銅吸収阻害剤により、銅は、脂質、ホウェイ又はカゼインに結合された剤形であるか、又は脂質、ホウェイ又はカゼインに調製された剤形である。このように調製された銅サプリメントは、ピル、カプセル又は液体の形態で提供されるが、母の母乳から乳児に銅が供給されるのと類似したものとなる。それゆえ、このような銅は、水又は純粋塩の形態で含まれる銅とは異なり、胃及び小腸に到達して適切に消化が行われる。このような銅サプリメントの生物学的利用可能性は、母乳の24%や牛乳の18%と同様の高さを有すると共に、小腸及び肝臓による正常な消化と処理が可能であるので、血清及びCNS中の遊離又は弱結合銅の負担のレベルを低減することができる。この調製物はまた、鉄又は亜鉛等の他の必須金属又は鉱物を含むことができる。
本発明の望ましい実施例において、このような担体が結合された銅サプリメントは、徐放性の微粒子又はマトリックスの中に含められることにより、吸収のさらなる調節を可能とし、全身循環及びCSFにおける遊離銅にピーク上昇レベル(peak elevated levels)を生じさせる能力を低下させる。このような調製物は、低銅血症又は貧血患者を監視する必要性を低減又は回避させることができ、血清又はCNSの遊離又は弱結合銅のレベルを低下させるものである。銅と金属補充によるこの方法は、進化的であることが立証され、初回通過効果及び正常な銅処理によって肝臓の処理が行われることは、母親が新生児に対して母乳を通じて栄養となる銅及びその他金属を供給し処理されるのと類似するものである。このような調製物は、担体が結合された徐放性錯化調製物の中に、他の必須微量元素(例えば、鉄、カルシウム、モリブデン、セレン、マグネシウム等)を含むこともできる。錯化された徐放性カルシウム調製物は、例えば、動脈、腎臓、肺及び脳において石灰化を伴う病気の治療又は予防に有用である。
【0188】
本発明の好ましい実施例において、安定な同位体Cu65及びCu67は、銅のバランスと治療効果を個人ベースで評価し調節することができるように、活性銅成分として用いられる。この検討は、血清、CSF液、大便又は尿を採取することにより、又はバイオプシーにより行なうことができる。このような情報は、有用な診断方法をもたらすもので、他の治療方法(セラピー等)の効果を評価し、肝による銅の排泄及び銅キレート剤の作用を改善する。
【0189】
この明細書に記載した銅及び亜鉛調製物は、栄養剤として、即時放出により、又は蓄積注射により非経口で投与されることができる。亜鉛と錯化銅の経口栄養調製物は、錯化銅の生物学的利用能を向上させるために、グリセロール及びNaCl、又はアラビアゴム等の特定の銅吸収促進剤を含むことができる。
【0190】
この明細書に記載した銅及び亜鉛調製物は、慢性下痢、下痢型過敏性腸症候群及び亜鉛が有用であることが知られている感染症等の胃腸疾患にも有用である。
【0191】
本発明は、2ピル方式として投与されることができ、錯化銅ピル又は調製物は最初に経口投与され、次に、亜鉛含有ピルが一緒に又は十分な時間経過後に経口投与される。
【0192】
本発明はまた、例えば鉄及びカドミウムのように、腸管における亜鉛が生物学的利用能を低下させる可能性のある他の必須鉱物の含有を意図するものである。
【0193】
本発明は、アテローム性動脈硬化症、痴呆、アルツハイマー病及び他の神経変性病の治療及び予防のためにコレステロール低下剤と優先的に結合されることができる。なお、神経変性病は、若年性及び散発性封入体筋炎及び高齢者の筋炎等のように、銅関連蛋白質の異常蓄積と関係ある神経筋疾患を含むものである。
【0194】
本発明のさらなる実施例は、この明細書に記載した亜鉛調製物又は銅低下剤を、肝臓の銅排泄の阻害と関連する肝疾患の神経及び精神兆候の治療に使用するものであり、前記肝疾患には、胆管炎、肝炎及び肝硬変のように、遊離型又は弱結合された血清又はCSF銅が上昇する疾患が含まれる。
【0195】
〈実験10〉
胃壁に滞留できる高密度亜鉛塩ペレット100mgを含有するピル又はカプセルを患者グループに朝投与する。対照グループは、正常な酢酸亜鉛100mgを服用し、別の対照グループはプラセボを服用する。これら患者は、銅又はCu64を含有する蒸留水又は水道水を、1日全体を通じて同一時刻に摂取する。血清試料は、飲料の摂取前、摂取中又は摂取後に採取される。この試料は、直ちに、夫々の遊離銅又は弱結合性銅の測定を行なった。その測定は、全血清銅からセルロプラスミンに結合された銅を差し引く方法、又はカラム法[Bohrer D (2004) or MALDI-TOF described by Sarkar E (2004)]に従って、分子量に基づく分離手段により、既知又は未知の蛋白質及びペプチドに結合された銅を直接測定する方法によって行なった。
【0196】
<結果>
プラセボグループは、遊離銅又は弱結合銅について最も高いピークレベルを示し、ボーラスの経口亜鉛グループは、遊離銅又は弱結合銅について低いピークレベルを示し、胃内滞留型徐放性亜鉛グループは、遊離銅又は弱結合銅について最も低いレベルを示した。銅の吸収を阻害するために腸のメタロチオネイン誘導について長期の利点を明らかにするために、統計的に有意が達成されるまで、毎日、実験を繰り返し行なった。
【0197】
〈実験11〉
銅、銅亜鉛、又は低分子量のアミノ酸に結合された銅を、ドライミルク又は濃縮ミルク、ドライホウェイ、ドライ乳脂、ミルク蛋白質又はその他の天然銅結合蛋白質の溶液の中で溶解する。得られた銅結合錯体(copper bound complexes)の混合物は、ピル又はタブレットとして乾燥し、調製することができる。発明の望ましい実施例において、乾燥した銅結合錯体は、ピル又はカプセルの中で亜鉛と共に調製される。他の望ましい実施例において、ピル又はタブレットは、胃内滞留型剤形の亜鉛、腸溶性コーティングされた亜鉛及び/又は徐放性亜鉛を用いて調製され、銅結合錯体は、亜鉛に先んじて、胃腸管の中に放出される。銅結合錯体は、胃腸管の中で消化され、腸細胞によって吸収され、細胞内でメタロチオネイン及び/又はトランスクプレイン(transcuprein)によって処理される。ここで、このようなメタロチオネイン及び/又はトランスクリエン(transcuprien)が結合した銅は、肝臓に入り、セルロプラスミンに取り込まれ、血清に放出され、肝臓に滞留するか、又は胆汁に排出される。後で通過する亜鉛は、腸細胞の中で吸収され、これによってメタロチオネインを上方制御し、溶解した銅(例えば、銅含有水道水その他の液体等のような遊離銅又は弱結合銅であって、腸細胞による適切な処理が行われないと、水フラックスによって肝循環に入り、アルブミンに結合される)のその後の吸収を阻害する。その結果、そのような門脈の主要部で遊離銅又はアルブミンに弱く結合した銅は肝臓に入り、次に、遊離又は弱結合した状態で血清循環に入る。このため、酸化が起こり、患者の動脈、神経及び他の器官系に対して悪影響を及ぼし、アテローム性動脈硬化症、痴呆、軽度認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、及び遊離銅のレベルの上昇に関連するその他病気を促進させる。
【0198】
〈実験12〉
前述のようにカプセル又はピルとして調製され、また水に溶解された半減期の放射性同位体Cu64又はCu67及び/又は安定銅同位体Cu63又はCu65を、動物又はヒトに経口投与した。クロスオーバー実験を利用して、天然の銅(39%Cu63及び69%Cu65)を、前述したピル又は水に溶解して経口投与した。この投与期間は短くて最大90日であるが、安定銅同位体の場合は、それよりも長い。門脈及び/又は血清の試料を採取し、セルロプラスミン、トランスクプリエン、アルブミン、小蛋白質及びペプチドを分離することができるカラムを利用して成分に分画する。各成分に結合された銅同位体を測定し、該同位体は、蛋白質結合された剤形で投与されたセルロプラスミン及びトランスクプレイン結合銅同位体は、溶解した剤形のものよりも統計的に有意に大きな割合を示した。水に溶解して投与された銅同位体は、アルブミン並びにその他の低キネティック結合蛋白質及びアミノ酸に弱く結合される割合が大きいことを示した。この結果は、早期放出される銅と胃内滞留する亜鉛が含まれるピル又はカプセル調製物が改善されたことを示すものであり、亜鉛は、水に溶解した遊離銅のその後の吸収を防止し、低銅血症への傾向が低減される。この結果は、肝機能障害を有する動物及び患者(例えば、肝硬変、肝炎、胆汁流減少、原発性硬化性胆管炎の患者又は動物モデル及び高齢患者)に対してより顕著である。この発明の臨床効果は、アテローム性動脈硬化症及びアルツハイマー病の動物モデル(例えば、タコニックラット(Taconic rats))のプラーク量を測定し、記憶試験をすることによって実証されることができる。
【0199】
〈実験13〉
ATTMをカプセル化調製物として溶解する実験である。
<はじめに>
テトラチオモリブデン酸アンモニウムと添加物20mgが入れられたカプセルを用いて、溶解実験を行なった。使用したATTM結晶は500ミクロン以下である。ATTMは、いかなる時点でも、胃液溶解媒体中に回収されなかった。3時間の溶解後、溶液中に、カプセルから放出された黒色粒子の懸濁が認められた。胃液媒体をpH9に中和した後、これらの黒色粒子は消滅し、約10%のATTMが回収された。
【0200】
<要約>
1.実験液中にATTMの溶解は認められなかった。
2.3時間の溶解後、実験液中に約10%の未溶解ATTMが残存した。
3.結論:約90%のATTMが胃の中で分解された。
【0201】
<方法>
実験した材料は次のとおりである。
1.実験は、R&D Pipexが調製したATTMカプセルに基づいて行われた。
2.ATTMを粉砕し、500ミクロンのふるいを通した。
3.カプセルには、ATTM約20mgと添加物180mgが入れられている。
【0202】
溶解条件は次のとおりである。
1.媒体:pH2のUPS人工胃液1リットル
2.温度:22℃
3.パドルの回転数RPMs:100
4.溶解時間:3時間
【0203】
手順は次のとおりである。
1.QualiCaps(商標名)[Shionogi Europe, B.V.]の#2カプセルを、時間ゼロで媒体の中へ機械的に投入した。
2.1, 2, 4, 8, 16, 30, 45, 75, 120及び180分後に媒体1mlを採取した。
3.3時間の溶解後、NaOHを用いて、pHを9まで上昇させた。
4.媒体を1時間パドル撹拌した。
5.1時間後、試料を採取して分析に供した。
【0204】
分析は次のとおり行なった。
1.採取した媒体400μlを、燐酸塩緩衝剤pH7を用いて2mlに希釈した。
2.溶液をキュベットに入れ、260〜600nmでスキャンした。
3.吸収度を367nmで測定した。
4.消衰計数を、ベールの法則により計算した。
5.カプセル中の対照試料の消衰計数は13500 cm-1M-1である。
【0205】
<結論>
1.全てのATTMはpH2の媒体中で溶解し、直ちに分解される。
2.3時間の溶解後、ATTMの一部は、黒色の小粒として媒体中に浮遊した。
3.3時間後、溶液のpHがpH9になったとき、溶液の色はオレンジ色に変化した。
4.これは、安定なATTMが溶解したためと推定される。
5.ATTMの残存量は、理論量の約10%であった。
6.それゆえ、ATTMの元の投与量の90%が、3時間で人工胃液の中で分解した。
7.腸溶性コーティングについては、同じ治療効果を得るために、投与量ははるかに少量にしなければならない。
【0206】
【表5】

表は、胃液の中でのATTMカプセルの溶解状況を示している。表中、“U”は未溶解ATTM、“T”は理論上100%未溶解ATTMである。
【0207】
〈実験14〉
ATTMカプセルの8週間後の安定性を調べた。
<はじめに>
テトラチオモリブデン酸アンモニウムを調製したカプセルを用いて安定性を調べた。様々な条件で試験を行なった。最も良い結果が得られた調製物は、QualiCaps(商標名)(低水分メチルセルロース)を使用し、保存雰囲気に窒素を使用し、ラクトース一水和物が含まれる添加物を使用した場合である。
【0208】
<要約>
1.ATTMは、室温(RT)及び周囲相対湿度(RH)で8週間保存した後、完全に安定した。
2.ATTMは、40℃及び70%RHで8週間保存した後、60〜90%安定した。
【0209】
40℃及び70%RHでの調製物の性能は次のとおりである。
1.QualiCapsのカプセルは、ゲルカップよりも良好であった(4例中4)。
2.窒素は、大気よりも良好であった(4例中3)。
3.ラクトース一水和物は、無水ラクトースよりも良好であった(4例中3)。
【0210】
<結論>
1.最も良い調製物の条件は、QualiCapsカプセル、窒素及びラクトース一水和物であった。
2.最も悪い調製物の条件は、ゲルカップ、大気及び無水ラクトースであった。
【0211】
【表6】

ATTM調製物の安定性を室温及び周囲相対湿度の条件で試験した。表中、“Mono”は一水和物ラクトース、“Anhydrous”は無水ラクトース、“Quali”はメチルセルロースカプセル、“Air”は大気雰囲気、“N2”は窒素雰囲気を表す。
【0212】
テトラチオモリブデン酸アンモニウム(ATTM)又はアンモニウムポリサッカライド(API)について、これらを含む調製物及びカプセルの調製は様々な方法が可能であり、以下に記載する。
【0213】
<テトラチオモリブデン酸アンモニウム(ATTM)の粉末製造>
1.低水分及び低酸素の条件下でATTMをミリングすることにより、ATTMを、黒色タール状副産物(フレーク状タール)として現れる活性成分の酸化形態から分離する方法。
2.ATTMの粒状化により、平均粒子サイズが、フレーク様タール状副産物と分離できるサイズまで減じられた粉末ATTMが製造される1の方法。
3.ATTMは篩いにかけられて、ATTM粉末とフレーク状タールが生成される1の方法。
4.篩いは、ATTM粉末とフレーク状タールを分離することができるように選択される1の方法。
5.ATTM粉末は、振動が用いられる容器の中で、フレーク状タールから分離され、微細なATTM粒子は粗いフレーク状タールから分離される1の方法。
6.微細なATTM粒子は、機械的振動と重力により、粗いフレーク状タールから分離されて収集することができる1の方法。
7.粗いフレーク状タールの層は、微細なATTM粒子の層から取り除かれる6の方法。
8.タールから分離されたATTM粉末が、平均粒子の小さなATTM粒子に粉砕されるように、低水分及び低酸素の条件下で、ATTMをミリングする方法。
9.平均粒子サイズが小さなATTMは、水性溶媒又は胃腸管環境において速やかに溶解する2の方法。
10.ATTMの粒状化は、機械的装置、機械的(手篩い等)又は動力駆動(ブレンダー等)を用いて行われ、得られたATTM粒子の平均粒子サイズは元のサイズよりも小さくなる1の方法。
11.ミリングにより、平均粒子サイズが100ミクロンよりも小さな粒子を製造する10の方法。
12.ミリングにより、平均粒子サイズが10ミクロンよりも小さな粒子を製造する10の方法。
13.ミリングにより、平均粒子サイズが1ミクロンよりも小さな粒子を製造する10の方法。
【0214】
<添加物(excipient)の選択>
14.アンモニウムポリサッカライド(API)を、APIの医薬特性を高める添加物と混合することによる調製方法。
15.添加物はAPIの水分量を制限する14の調製。
16.実例は、限定されるものではないが水ラクトースである15の実例。
17.添加物はAPIの酸化を制限する14の調製。
18.実例は、限定されるものではないがクラウンエーテルである17の実例。
19.添加物は、反応性の酸素及び/又は窒素とAPIとの反応を制限する14の調製。
20.1又は2種以上のフリーラジカルスカベンジャー又は抗酸化剤(限定するものではないが、例えば、マンノース、ブチル化ヒドロキシトルエン等)を含有する19の実例。
【0215】
<塩の選択>
21.APIはカチオンと塩を生成し、APIの医薬特性を向上又は保護させる調製方法。
22.カチオンは抗酸化剤である21の方法。
23.実例は、限定されるものではないがトコフェロールのニコチンエステルである22の実例。
24.カチオンは疎水性で、APIの水和を妨げる作用を有する21の調製。
25.実例は、限定されるものではないがベンジルアミンである24の実例。
【0216】
<添加物に加えられ、APIの酸加水分解を防止する製剤>
26.APIの酸加水分解を防止するために、添加物の一部としての製剤がAPIに加えられる調製方法。
27.APIの胃酸加水分解は、制酸剤(anti-acid)の添加物への添加によって妨げられる26の調製。
28.制酸剤は、ATTM医薬調製物とは別個に、ATTM医薬調製物の投与の少し前、又は該調製物の投与と同時、又は該調製物の投与の少し後に投与される26の調製。
29.実例は、限定されるものではないが重炭酸ナトリウムである27の実例。
30.実例は、限定されるものではないが重炭酸ナトリウムである28の実例。
31.APIの胃酸加水分解は、添加物へ添加された製剤への錯化によって妨げられる26の調製。
32.APIが胃液の中で溶解すると、APIは、APIを結合しAPIの酸加水分解及び酸化を防止する添加物へ添加された製剤と錯化する26の調製。
33.実例は、限定されるものではないが、アミノポリサッカライド(API)であり、アミノポリサッカライドの例は、ポリグルコサミン又はキトサンである32の実例。
34.添加物に加えられたキトサンは、胃液内で溶解の後、APIと不溶性コロイド複合体を生成し、これによって、APIを酸加水分解から保護する33のメカニズム。
35.ATTMの一部又は全部が腸溶性コーティングされており、胃の酸性環境が中和されるまで、又はATTMが中和される胃腸管の一部に達するまで、活性成分の溶解が遅延される調製物。
36.APIの一部又は全部は、カプセルの中にカプセル化された微小タブレットとして腸溶性コーティングされる35の方法。
37.腸溶性コーティングは、微小タブレットの溶解速度を変えることができるように調製されることができる35の方法。
38.投与される1つのタブレットが腸溶性コーティングされている35の方法。
39.患者に投与されると、腸溶性コーティングから異なる速度でAPIが放出されるように、様々な腸溶性コーティングのタブレットが調製される35の方法。
40.腸溶性コーティングは、腸溶性コーティングされていない銅低下剤と共に投与される35の方法。
41.銅低下剤は、限定されるものではないが、酢酸亜鉛、硫酸亜鉛、テトラチオモリブデート、テトラチオタングステート、ペネシラミン(penecillamine)、又はトリエンチンである40の方法。
【0217】
<添加物に加えられ、APIの吸収を補助する製剤>
42.APIの吸収を高める錯体が生成されるように、添加物の一部としての製剤がAPIに加えられる調製方法。
43.実例は、限定されるものではないが、アミノポリサッカライドであり、アミノポリサッカライドの例は、ポリグルコサミン又はキトサンである42の実例。
44.添加物に加えられたキトサンは、胃液内で溶解の後、APIと不溶性コロイド複合体を生成し、APIとジサッカライド又はトリサッカライド錯体に代謝的に変換され、吸収に適した基材となる43のメカニズム。
【0218】
<API/添加物のカプセル化材料>
45.APIの医薬特性を高めるカプセル材料が選択されるAPI/添加物のカプセル化方法。
46.カプセル材料はAPIの水和を防止する45のカプセル化。
47.カプセル材料は含水量が極く少ない45のカプセル化。
48.カプセル材料は、酸性条件下で、耐漏れ性である45のカプセル化。
49.カプセル材料は、酸性条件下でのみ、高い可溶性である45のカプセル化。
50.カプセル材料は、中性条件下でのみ、高い可溶性である45のカプセル化。
【0219】
<特定器官でのAPI溶解を標的とするカプセル又はタブレットのコーティング>
51.GI(胃腸)管の特定器官をターゲットとしてAPIを溶解させるためにコーティングが用いられる調製方法。
52.APIは、口腔内での溶解は阻止されるが、胃の中では直ちに溶解する51のコーティング方法。
53.APIは、胃の中での溶解は阻止されるが、腸の上部又は下部では直ちに溶解する51のコーティング方法。
【0220】
<複数の特定器官を標的とするAPIの溶解>
54.APIの1回の投与によって、GI管の全ての器官でAPIが放出させるために、カプセル及びコーティングが用いられる調製方法。
55.複数の放出メカニズムを利用する54の調製。
56.APIは、胃をターゲットして胃の中で放出される55の実例。胃の中での溶解は、腸で銅が吸収されないようにするため、胃の中で飲食物から銅を錯化することが好ましい。
57.カプセルに含まれる微細なAPI粉末及び添加物は胃酸で直ちに溶解する56の実例である。添加物はAPI低下剤を含んでおり、該API低下剤は、加水分解を妨げるが、APIが胃の中の遊離銅と相互作用できるように作用する。
58.API製剤の一部は、腸の中で溶解されるようにパッケージされる55の調製。
59.API製剤の一部は、分解が腸の中で行われるようにコートされる55の調製。
60.カプセルは、API粉末と胃の中で溶解させる添加物とを含んでいる55の調製。カプセルは、腸の中で溶解させるためにコートされたタブレットを含んでいる。このように、胃の中でのAPI溶解は銅を結合するために用いられ、銅の吸収を防止し、腸の中でのAPI溶解により、APIが全身吸収され、銅が全身吸収されることができる。
【0221】
<銅を錯化させることが知られている他の天然産物とAPIの共調製>
61.銅を錯化させることが知られている天然産物が添加物に加えられる調製方法。
62.実例は、限定するものではないがアルギン酸ナトリウムである実例。粉末状のアルギン酸ナトリウムは、重金属を結合し、それらの全身吸収を防止することが知られている一般的な食物である。
63.アルギン酸ナトリウムを用いることにより、胃の中で食物からの遊離銅を結合し、コーティングされたAPIを腸の中で溶解させて全身吸収させることができるメカニズム。
【0222】
<持続的な徐放出を可能にするAPIの調製>
64.胃の中でAPIを持続的放出させる調製方法。
65.胃酸では準耐溶解性(semi-resistant to dissolution)であり、胃液中で浮揚性をもたらす全体材料密度を有する製剤と混合される64の調製。
66.実例は、限定するものではないが、APIは消化性ワックスの中に調製される65の実例。ワックスの密度は、胃液の中で浮揚性をもたらすものであり、ワックスの遅い消化性によってAPIの持続的放出がもたらされる。
【0223】
<機能の特徴>
67.患者に経口投与する銅低下治療剤の回数を低減させる方法。
68.ATTMを患者に投与して、APIの吸収を増加させる方法。
69.ATTM調製物を患者に投与して、同じ用量で製剤の薬理学的効果を高める方法。
70.少ない用量のATTM調製物の投与により、血清銅、血清セルロプラスミン、尿銅又は肝銅の低下の兆候を達成する方法。
71.同じ用量のATTM調製物の投与により、銅の低下の兆候をより速く達成する方法。
【0224】
<監視及び投与>
72.有効な銅低下治療を示す治療マーカーとして、体液、排泄又は器官を評価することにより、患者又は介護人が、ATTM含有調製物の効果又は服用プログラムを監視する方法。
73.体液は尿である72の方法。
74.体液は血液又は血清である72の方法。
75.体液は血漿である72の方法。
76.体液は唾液である72の方法。
77.体液は脳脊髄液である72の方法。
78.評価される材料は大便である72の方法。
79.評価される材料は肝臓である72の方法。
80.経時的(longitudinal)イメージング方法(例えば、限定するものではないが、プロトン磁気共鳴イメージング、磁気共鳴イメージング、脳又はその他器官のコンピュータトポグラフィー等)は、病気の進行の遅延(slowing)又は後退を示す72の方法。
81.患者の認識能力の経時的評価は、病気の進行の遅延又は後退を示すように作られる72の方法。
82.患者の生活のクオリティの評価は、病気の進行の遅延又は後退を示すように作られる72の方法。
【0225】
<病気の治療>
83.調製物は、銅減少療法に必要な病気の治療に用いられる1の方法。
84.調製物は、中枢神経疾患、炎症性疾患、線維形成が進行要素である病気、又は血管由来疾患(癌を含む)を治療又は予防するのに用いられる84の方法。
85.中枢神経疾患は、限定されるものではないが、ウイルソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、統合失調症、パーキンソン病、ALS及びプリオン病である84の方法。
86.炎症性疾患は、限定するものではないが、乾癬、リウマチ様関節炎、狼瘡、炎症性腸疾患などである84の方法。
87.線維症は、限定するものではないが、特発性肺線維症、原発生胆汁性肝硬変、非アルコール性脂肪性肝炎、肝硬変、糸球体腎炎、全身性線維症、リウマチ様関節炎、術後癒着、成人呼吸窮迫症候群(ARDS)、炭坑夫塵肺症(CWP)、ヘルマンスキー・パドラック症候群(HPS)、全身性硬化症(SS)、肺癌における腫瘍ストロマ及び肺移植後閉塞性気管支炎(OB)がある84の方法。
88.哺乳動物のアセトアミノフェンの過剰摂取又は被毒を治療する1の方法。
89.哺乳動物の銅の過剰摂取又は被毒を予防又は治療する1の方法。
【0226】
<蛋白質・API錯体を形成するAPIの調製であり、錯体は、胃の中で形成され、食物から胃に放出される銅と錯体を形成し、酸加水分解物に不浸透性で、腸からは排出されず、血流に吸収されない>
90.蛋白質は添加物の一部として加えられる調製方法。
91.添加物の一部として加えられた蛋白質は、胃の中でAPIと安定な錯体を形成する54の方法。
92.安定なAPI−蛋白質錯体は、胃の中で銅を錯化することができる54の方法。
93.安定なAPI−蛋白質錯体は、胃を通過すると、血流の中への吸収が防止される54の方法。
94.安定なAPI−蛋白質錯体は、GI管を通過して、糞便と共に排出される54の方法。
95.ウシ血清アルブミンが添加物に加えられる54の調製実例。
96.APIとウシ血清アルブミンは、胃の中で銅と錯体を形成できる安定な錯体を形成する54の方法。
97.銅と錯体を形成する合成D-ポリペプチドであって、錯体は銅と錯体を形成し、GI管では消化されることなく元の儘で通過する54の調製実例。
98.D-ポリペプチドは消化されずに、API及び銅との錯体としてGI管を元の儘で通過する61のメカニズム。
【0227】
<精製されたAPIを調製する方法>
99.溶解後に凍結乾燥(lyophilization)を行なうことによって精製ATTMを調製する方法。
100.ATTMは清泉蒸留水の中で溶解され、不活性ガス(例えば、窒素、アルゴン等)でパージされる99の方法。
101.ATTMは水の中で溶解され、不活性ガスでパージされ、0.22ミクロン(又はそれより小さい)の殺菌フィルターの中を濾過される99の方法。
102.ATTMのフィルター水溶液は、冷却されたボトル(例えば-80℃)の中に注ぎ込んだ後旋回させて、ボトルの内面に氷結膜(frozen film)を形成する99の方法。
103.ボトルの内容物は凍結乾燥される99の方法。
104.凍結乾燥の後、空になったボトルに純ドライアルゴン又はドライ窒素を充満させる99の方法。
105.ATTMは不活性ガスの下で収集され保存される99の方法。
【0228】
<凍結乾燥されたATTMをタブレット化する方法>
106.凍結乾燥されたATTMは、調製物のニート物質としてタブレット化される。
107.タブレット化されたATTMは、医薬特性として持続放出性をもたらす106の方法。
108.タブレット化されたATTMは、ターゲットとする器官に放出する医薬特性(例えば、腸溶性コーティング)をもたらす106の方法。
【0229】
動物又はヒトにおける過剰金属の蓄積又は金属の吸収不良の治療に関して説明したが、他の適用も可能である。例えば、制御された結晶サイズによる放出の選択、持続又は遅延の利点をATTMに関して説明したが、他の活性製剤の制御された送達にも有効に用いられることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物又はヒトにおける銅の吸収阻害を誘導する製剤の徐放性調製物を含む医薬組成物。
【請求項2】
組成物は、小腸又は上部空腸で製剤の放出が開始するように調製されている請求項1の医薬組成物。
【請求項3】
放出を遅延させるコーティングの中に入れられている請求項2の組成物。
【請求項4】
製剤は、亜鉛、好ましくは亜鉛−システイン錯体、より好ましくは亜鉛−モノシステインである請求項1の医薬組成物。
【請求項5】
製剤は亜鉛塩である請求項1の医薬組成物。
【請求項6】
亜鉛塩は、酢酸亜鉛、炭酸亜鉛、硫酸亜鉛、グルコン酸亜鉛、酸化亜鉛、塩化亜鉛及びステアリン酸亜鉛からなる群から選択される請求項5の医薬組成物。
【請求項7】
亜鉛の投与は、25mg〜150mgである請求項4の医薬組成物。
【請求項8】
亜鉛は、30分〜24時間かけて放出される請求項4の医薬組成物。
【請求項9】
亜鉛、好ましくは亜鉛−システイン錯体の徐放性蓄積注射用剤を含む医薬組成物。
【請求項10】
亜鉛は、7〜30日で放出される請求項9の医薬組成物。
【請求項11】
亜鉛、好ましくは亜鉛−システイン錯体を含み、亜鉛は皮膚を通じて送達される徐放性経皮パッチ。
【請求項12】
亜鉛、好ましくは亜鉛−システイン錯体と、皮膚を通じて亜鉛を送達させることができる吸収促進添加物とを含むゲル。
【請求項13】
亜鉛、好ましくは亜鉛−システイン錯体を、少なくとも30日間以上、連続的に放出させることができる皮下インプラント。
【請求項14】
亜鉛、好ましくは亜鉛−システイン錯体を、少なくとも30日間以上、連続的に放出させることができる皮下埋込み型ポンプ。
【請求項15】
亜鉛、好ましくは亜鉛−システイン錯体を、上部胃腸系で徐放出することができる胃内滞留型ピル。
【請求項16】
亜鉛、好ましくは亜鉛−システイン錯体を、上部胃腸系で徐放出することができる胃腸埋込み式デバイス。
【請求項17】
亜鉛、好ましくは亜鉛−システイン錯体を含む食物と共に摂取され、亜鉛が食物からの銅の吸収を競合的に阻害するようになし、所望により粉末である調製物。
【請求項18】
飲料の中で分解するようになし、亜鉛、好ましくは亜鉛−システイン錯体を1回の用量で50mg以上含み、所望により粉末である調製物。
【請求項19】
飲料の中で分解するようになし、亜鉛、好ましくは亜鉛−システイン錯体を、1回の用量で50mg以上含む、ピル、タブレット又はカプセル。
【請求項20】
亜鉛、好ましくは亜鉛−システイン錯体を、1回の用量で50 mg以上含む、脱イオン化した飲料。
【請求項21】
コレステロールを低下させる薬物と、亜鉛、好ましくは亜鉛−システイン錯体を含む、ピル、タブレット又はカプセル。
【請求項22】
亜鉛、好ましくは亜鉛−システイン錯体を含む、経口投与可能な高用量徐放性調製物。
【請求項23】
投与量は100mgよりも多い請求項22の調製物。
【請求項24】
非イオン性形態の銅を含んでいる、経口投与可能な医薬組成物。
【請求項25】
銅は、消化性蛋白質と錯体が作られる請求項24の組成物。
【請求項26】
2つの部分からなり、第1の部分は、動物又はヒトの胃腸管で放出される部分であって亜鉛を含んでおり、第2の部分は、亜鉛が胃腸管内でメタロチオネインの生成を誘導した後にのみ銅をキレート化する部分であって銅キレート剤を含んでいる、ピル、タブレット又はカプセル。
【請求項27】
過剰レベルのホモシステインによって特徴づけられる病気を治療する方法であって、亜鉛、好ましくは亜鉛−システイン錯体を投与し、選択的に、葉酸と亜鉛の調製物、好ましくは亜鉛−システイン錯体、又は葉酸と銅キレート剤又は銅錯体を投与することを含む方法。
【請求項28】
1回の用量で1.0mgの酸化亜鉛を含む医薬組成物。
【請求項29】
動物又はヒトにおける銅介在性病気を治療する方法であって、低湿度及び低酸素の条件下でパッケージされたテトラチオモリブデートを投与することを含んでいる方法。
【請求項30】
動物又はヒトの胃腸管の異なる位置で異なる速度で溶解又は分解する亜鉛、好ましくは亜鉛−システイン錯体を含み、胃腸管内でマトリックスメタロチオネインの誘導を最適化し、銅の潜在的吸収を効率的に阻害することができる、タブレット、ピル又はカプセル。
【請求項31】
動物又はヒトにおける銅介在性病気を治療する方法であって、銅キレート剤及び葉酸及び/又は亜鉛、又は酢酸亜鉛錯体を、誘導用量投与することを含んでいる方法。
【請求項32】
キレート剤は、テトラチオモリブデン酸アンモニウムである請求項31の方法。
【請求項33】
亜鉛、好ましくは亜鉛−システイン錯体と、葉酸とを含んでいる医薬組成物。
【請求項34】
亜鉛を含むペレットであって、亜鉛は、亜鉛、亜鉛−システイン錯体、酢酸亜鉛又は他の亜鉛塩からなる群から選択され、ペレットの密度は2 g/cm3より大きく、ペレットは動物又はヒトの胃の襞の中に保持されることができるペレット。
【請求項35】
ペレットは、腸溶性コーティングを含んでおり、ペレットが胃の通過を終えるまでその内容物の放出を遅延させる請求項34のペレット。
【請求項36】
ペレットは、生体付着性及び/又は粘膜付着性のポリマーからなる1又は複数の層でコートされている請求項35のペレット。
【請求項37】
亜鉛、好ましくは亜鉛−システイン錯体と、鉄サプリメントとを含んでいる医薬組成物。
【請求項38】
統合失調症を治療する方法であって、銅錯体、キレート剤、又は阻害剤、及び葉酸及び/又は亜鉛又は亜鉛−システイン錯体を投与することを含んでいる方法。
【請求項39】
亜鉛、亜鉛−システイン錯体、テトラチオモリブデート、トリエンチン、d-ペニシラミン又は他の銅キレート剤、銅錯化剤、又は銅吸収の阻害剤からなるプロドラッグであって、プロドラッグは、好ましくは、開裂され、放出され又はインビボで活性化されるようになし、選択的に、セルロプラスミン結合されていない銅又は患者の胃腸管又は血清におけるセルロプラスミン結合されていない全身銅のレベル上昇に関係する金属蛋白質の存在及び利用可能性に依存するプロドラッグ組成物。
【請求項40】
亜鉛、亜鉛−システイン錯体、テトラチオモリブデート、トリエンチン、d-ペニシラミン又は他の銅キレート剤、銅錯化剤、又は銅吸収の阻害剤からなるプロドラッグであって、好ましくは、肝臓に優先的に発現した酵素又は蛋白質との接触に基づいて肝臓に優先的に放出されるプロドラッグ。
【請求項41】
哺乳動物への経口投与に適した医薬調製物における選択的銅キレート剤であって、哺乳動物の胃腸管の中の銅をキレート化することができるキレート剤。
【請求項42】
キレート剤は、全身的生態有用性が2%未満である請求項41のキレート剤。
【請求項43】
動物又はヒトへの経口投与に適したピル、タブレット又はカプセルであって、1又は複数のマイクロスフェアを含み、該マイクロスフェアは、哺乳動物の胃腸管で銅をキレート化することができる1又は複数の選択的銅キレート剤を含んでいるピル、タブレット又はカプセル。
【請求項44】
高齢の動物又はヒトにおいて、肝機能低下に起因する銅中毒を、銅キレート剤を投与することによって治療する方法。
【請求項45】
高齢の動物又はヒトの肝臓から銅の排泄を促進するために、抗炎症性製剤又は抗線維化製剤を投与することをさらに含んでいる請求項44の方法。
【請求項46】
抗炎症性製剤はウルソジオールである請求項45の方法。
【請求項47】
銅が少なく亜鉛が多い栄養補助食品であって、好ましくは亜鉛−システイン錯体である栄養補助食品。
【請求項48】
動物又はヒトにおいて、セルロプラスミンに結合していない銅を直接測定することにより、銅キレート剤の用量を選択する方法。
【請求項49】
動物又はヒトにおいて、Cu/Znスーパーオキシドジスムターゼの銅シャペロンを測定することにより、銅キレート剤の用量を選択する方法。
【請求項50】
腸溶性コーティングされた徐放性亜鉛とアスコルビン酸を含んでいる調製物。
【請求項51】
葉酸をさらに含んでいる請求項50の調製物。
【請求項52】
銅キレート剤の用量を選択する方法であって、患者の体内で利用可能な遊離銅を定めること、及び外挿法に基づいて目標範囲の遊離銅を達成する維持用量を選択すること、を含んでいる方法。
【請求項53】
銅キレート剤の用量を選択する方法であって、患者の体内で利用可能な遊離銅を血清中の遊離銅の直接測定によって定めること、及び外挿法に基づいて目標範囲の遊離銅を達成する維持用量を選択すること、を含んでいる方法。
【請求項54】
銅キレート剤の用量を選択する方法であって、Cu/Znスーパーオキシドジスムターゼの銅シャペロンの血清レベルを動物又はヒトの血清、唾液又は尿の中の蛋白質の直接測定によって定めること、及び外挿法に基づいて目標範囲の遊離銅を達成する維持用量を選択すること、を含んでいる方法。
【請求項55】
銅キレート剤の用量を選択する方法であって、動物又はヒトの血清、唾液又は尿の中のイソプラスタンレベルを測定すること、及び外挿法に基づいて目標範囲の遊離銅を達成する維持用量を選択すること、を含んでいる方法。
【請求項56】
高ホモシステインの状態を治療する方法であって、亜鉛を投与することを含んでいる方法。
【請求項57】
統合失調症、ハンチントン病又は筋萎縮性側索硬化症を治療する方法であって、亜鉛、好ましくは亜鉛−システイン錯体を投与することを含んでいる方法。
【請求項58】
銅サプリメントを含む医薬組成物であって、銅サプリメントは、ヒト又は動物の母乳に存在する物質と錯体が生成される医薬組成物。
【請求項59】
物質はホウェイである請求項58の組成物。
【請求項60】
物質は脂質である請求項58の組成物。
【請求項61】
物質は蛋白質である請求項58の組成物。
【請求項62】
物質はカゼインである請求項58の組成物。
【請求項63】
亜鉛、好ましくは亜鉛−システイン錯体をさらに含んでいる請求項58の組成物。
【請求項64】
亜鉛塩をさらに含んでいる請求項58の組成物。
【請求項65】
胃内滞留型亜鉛粒子をさらに含んでいる請求項58の組成物。
【請求項66】
蛋白質と複合化されたCu63を含んでいる組成物。
【請求項67】
亜鉛、好ましくは亜鉛−システイン錯体をさらに含んでいる請求項66の組成物。
【請求項68】
蛋白質と複合化されたCu65を含んでいる組成物。
【請求項69】
亜鉛、好ましくは亜鉛−システイン錯体をさらに含んでいる請求項68の組成物。
【請求項70】
亜鉛、好ましくは亜鉛−システイン錯体と、肝機能剤、好ましくは胆汁酸結合剤及び/又は銅低減剤とを含んでいる、ピル、タブレット又はカプセル。
【請求項71】
肝機能剤はウルソジオール酸である請求項70のピル、タブレット又はカプセル。
【請求項72】
亜鉛、好ましくは亜鉛−システイン錯体と、肝機能剤、好ましくは胆汁酸結合剤及び/又は銅低減剤とを含んでいる、タブレット。
【請求項73】
肝機能剤はウルソジオール酸である請求項72のタブレット。
【請求項74】
安定な銅同位体65Cu又は67Cuを約31%及び約69%以外の比で含み、肝機能剤を含んでいる医薬組成物。
【請求項75】
肝機能剤はウルソジオール酸である請求項74の医薬組成物。
【請求項76】
銅代謝疾患を診断する方法であって、Cu65及びCu67をヒト又は動物に投与すること、少なくとも一種の蛋白質に結合されたCu65及びCu67の割合を測定すること、を含んでいる方法。
【請求項77】
蛋白質は、セルロプラスミン、トランクプレイン、スーパーオキシドジスムターゼ、アルブミン及びペプチドからなる群から選択されるセルロプラスミン76の方法。
【請求項78】
蛋白質は、高キネティック結合蛋白質である請求項76の方法。
【請求項79】
蛋白質は、低キネティック結合蛋白質である請求項76の方法。
【請求項80】
銅代謝疾患の治療を調節する方法であって、Cu65及びCu67をヒト又は動物に投与すること、少なくとも一種の蛋白質に結合されたCu65及びCu67の割合を測定すること、を含んでいる方法。
【請求項81】
アルツハイマー病の被検体を治療する方法であって、飲料に含まれる可溶形態の銅への曝露から被検体を保護する組成物を投与することを含んでいる方法。
【請求項82】
組成物は、亜鉛、好ましくは亜鉛−システイン錯体を含んでいる請求項81の方法。
【請求項83】
アルツハイマー病のヒト又は動物を治療する方法であって、高分子量の天然蛋白質と生物製剤の複合体を投与することを含んでいる方法。
【請求項84】
製薬学的に許容される組成物であって、ヒト又は動物に適しており、テトラチオモリブデートを含み、テトラチオモリブデートは、120mgより少なく、所望により、100mgより少なく、又は80mgより少なく、又は60mgより少なく、又は40mgより少なく、又は20mgより少なく、又は10mgより少なく、又は5mgよりも少ない組成物。
【請求項85】
病気の被献体を治療する方法であって、チオモリブデートを毎日2μg〜20mg投与することを含んでいる方法。
【請求項86】
CNS疾患のヒト又は動物を治療する方法であって、血清中の銅レベルを安定化させることができる製剤を投与することを含んでいる方法。
【請求項87】
スーパーオキシドジスムターゼ、セルロプラスミン、メタロチオネイン、トランスフェリン、アミロイドベータ、apoe4及びCCSからなる群から選択される、ペグ化された形態のスーパーオキシドジスムターゼ又はリポソーム、蓄積注射又はその他徐放性剤形の銅錯化剤。
【請求項88】
テトラチオモリブデートは、徐放性調製物の剤形である請求項84の組成物。
【請求項89】
徐放性調製物の中に、亜鉛、銅、鉄、カルシウム、モリブデン及びマンガンからなる群から選択される2種以上の微量金属を含んでいる補助食品。
【請求項90】
微量金属は、放出及び消化をさらに制限する天然又は合成の消化性担体に結合される請求項86の組成物。
【請求項91】
担体は、ホウェイ、植物繊維、ドライミルク、乳児用調製乳、メタロチオネイン及びトランスフェリンからなる群から選択される請求項87の組成物。
【請求項92】
亜鉛は、1〜24時間、2〜24時間、3〜24時間、4〜24時間、5〜24時間、6〜24時間、8〜24時間又は12〜24時間で放出される請求項4の医薬組成物。
【請求項93】
胃の胃液環境からの保護を可能にする大型結晶から主に構成されるテトラチオモリブデート調製物。
【請求項94】
食事の食材に含まれる銅と錯体の形成を可能にする小型結晶と、胃の胃液環境から保護し小腸での溶解を可能にする大型結晶との結晶サイズが異なる集団から構成されるテトラチオモリブデートの調製物。
【請求項95】
食事の食材に含まれる銅と錯体の形成を可能にする小型結晶から主に構成されるテトラチオモリブデート調製物。
【請求項96】
主に大型結晶から構成されるテトラチオモリブデートの投与であって、食物と共に、又は食物とは別に行われる投与。
【請求項97】
サイズ範囲が異なるテトラチオモリブデート結晶の投与であって、食物と共に、又は食物とは別に行われる投与。
【請求項98】
主に小型結晶から構成されるテトラチオモリブデートの投与であって、食物と共に、又は食物とは別に行われる投与。
【請求項99】
テトラチオモリブデートの投与は、哺乳動物で、0.01〜4mg/kg/dayである請求項96乃至98の何れかの方法。
【請求項100】
チオモリブデートを、胃の環境への曝露から保護するための調製物。
【請求項101】
テトラチオモリブデートが腸溶性コーティングによってカプセル化されてなる調製物。
【請求項102】
テトラチオモリブデートは溶液の凍結乾燥によって調製され、得られた粉末はタブレットに圧縮され、腸溶性コーティングが施される調製物。
【請求項103】
亜鉛含有銅低減剤と腸溶性コーティングされたテトラチオモリブデート粉末からなる調製物。
【請求項104】
テトラチオモリブデートと鉱物油の調製物であって、カプセル化され腸溶性コーティングがなされた調製物送達システムにおいて小腸で放出されるようにした調製物。
【請求項105】
アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、軽度認識障害、痴呆、ハンチントン病、ピック病、ベーチェット病、統合失調症、双極性障害、鬱病、自閉症及び多発性硬化症からなる群から選択されるヒト又は動物の疾患を治療するために、抗銅剤又は銅吸収阻害剤を使用する方法。
【請求項106】
抗銅剤又は銅吸収阻害剤は、亜鉛、亜鉛−アミノ酸錯体、亜鉛塩、非亜鉛塩アミノ酸錯体、亜鉛システイン錯体、非亜鉛システイン錯体、亜鉛モノシステイン、チオモリブデート、テトラチオモリブデート、テトラチオモリブデン酸アンモニウム、トリエンチン、ペニシラミン、クリオキノール、フィチン酸、クエン酸、デフェラシロックス及びそれらの組合せからなる群から選択されるセルロプラスミン105の方法。
【請求項107】
抗銅剤又は銅吸収阻害剤は、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤、NMDA受容体アンタゴニスト、抗鬱薬、抗精神病剤、コレステロール低下剤及びそれらの組合せからなる群から選択される第2の製剤と共に用いられる請求項105の方法。
【請求項108】
体内で銅関連蛋白質の異常蓄積に関連のある疾患、高齢者の若年性及び散発性封入体筋炎、心臓血管疾患、アテローム性動脈硬化症、脳梗塞及び末梢血管疾患からなる群から選択されるヒト又は動物の疾患を治療するために、抗銅剤又は銅吸収阻害剤を使用する方法。
【請求項109】
ヒト又は動物における経口投与に適した医薬調製物であって、結晶サイズが最も幅広の位置での直径が実質的に100〜1,000ミクロンのチオモリブデートを含む医薬組成物。
【請求項110】
チオモリブデートの結晶の平均サイズは約350ミクロンである請求項109の組成物。
【請求項111】
ヒト又は動物における経口投与に適した医薬調製物であって、結晶の個々重量が約0.3ピコグラムである医薬組成物。
【請求項112】
ヒト又は動物の胃腸管において経口投与剤形のチオモリブデートの溶解、放出又は吸収を、チオモリブデート結晶のサイズ又は分配を変えることによって制御する方法。
【請求項113】
チオモリブデートの徐放性調製物であって、カプセルタブレットの剤形、又は食物と共に若しくは食物とは別に経口送達するのに適した他の送達剤形を含んでおり、結晶サイズが50ミクロンよりも大きいチオモリブデートは胃の中で速放性である調製物。
【請求項114】
チオモリブデートは、チオモリブデート材料の25%以上が胃の消化管をチオモリブデートとして通過し、胆汁を経て空腸及び腸に分泌された内因性銅を結合するのに十分に大きなサイズの結晶である請求項113の組成物。
【請求項115】
食物に含まれる銅及び胆汁を経て空腸及び腸に内生的に分泌された銅を結合させることのできるチオモリブデート結晶が腸で溶解するようにコートされた微粒子が入れられた速放性カプセルを含む医薬組成物。
【請求項116】
請求項109乃至請求項115の何れかに記載された経口製剤を投与することによってウイルソン病患者を治療する方法。
【請求項117】
ウイルソン病は神経症状を呈するウイルソン病である請求項116の方法。
【請求項118】
チオモリブデートは、食事と共に1日に3回、食事とは別に1日3回、患者に経口投与される請求項117の方法。
【請求項119】
チオモリブデートは、食事と共に1日に3回、食事とは別に1日1回就寝前に、患者に経口投与され、就寝前の投与量は、食事と共に投与される1日3回分の合計量に相当する量である請求項118の方法。
【請求項120】
食事と共に経口投与されるチオモリブデートは、最初の一口の直前に飲み込まれる請求項118の方法。
【請求項121】
食事と共に経口投与されるチオモリブデートは、最初の一口の直前に飲み込まれる請求項119の方法。
【請求項122】
食事と共に経口投与されるチオモリブデートは、最初の一口とほぼ同時に飲み込まれる請求項118の方法。
【請求項123】
食事と共に経口投与されるチオモリブデートは、最初の一口とほぼ同時に飲み込まれる請求項119の方法。
【請求項124】
食事と共に経口投与されるチオモリブデートは、最初の一口から15分以内に飲み込まれる請求項118の方法。
【請求項125】
食事と共に経口投与されるチオモリブデートは、最初の一口から15分以内に飲み込まれる請求項119の方法。
【請求項126】
食事と共に経口投与されるチオモリブデートは、食事の直後に飲み込まれる請求項118の方法。
【請求項127】
食事と共に経口投与されるチオモリブデートは、食事の直後に飲み込まれる請求項119の方法。
【請求項128】
食事と共に経口投与されるチオモリブデートは、食事の飲食物に振りかけるか又は混合して摂取される請求項118の方法。
【請求項129】
食事と共に経口投与されるチオモリブデートは、食事の飲食物に振りかけるか又は混合して摂取される請求項119の方法。
【請求項130】
チオモリブデートの個々の投与量は、1回あたり約18〜22mgである請求項118の方法。
【請求項131】
チオモリブデートの個々の投与量は、1回あたり約18〜22mgである請求項119の方法。
【請求項132】
治療は約8週間続けて行われる請求項120の方法。
【請求項133】
治療は約8週間続けて行われる請求項121の方法。
【請求項134】
治療は約16週間続けて行われ、毎日の投与量は、最初の2週間が1日あたり120mg、後の14週間が1日あたり60mgである請求項119の方法。
【請求項135】
治療は約16週間続けて行われ、毎日の投与量は、最初の2週間が1日あたり120mg、後の14週間が1日あたり60mgである請求項120の方法。
【請求項136】
神経症状を呈するウイルソン病患者で、チオモリブデートの経口治療を受ける患者の白血球減少症又は貧血症の発生を低減する方法であって、患者の血清セルロプラスミンレベルが1か月あたり少なくとも1回監視され、患者の血清セルロプラスミンレベルが10mg/dlよりも低いときは、投与量を減じるようにする、方法。
【請求項137】
不活性ガスで酸素が実質的にパージされ、少なくとも1つの乾燥剤と、経口投与に適したチオモリブデートが入れられたカプセル、タブレット又はその他の経口投与剤形とが含まれるボトル又は他の容器を具える複合物。
【請求項138】
請求項137の複合物を、約4℃で冷蔵保存することにより、貯蔵寿命及び安定性を改善する方法。
【請求項139】
複合物は、凝縮を少なくして安定性を向上させるために、患者による開封の前に、室温で保持される請求項138の方法。
【請求項140】
複合物は、凝縮を少なくして安定性を向上させるために、開封の後に、室温で保持される請求項138の方法。
【請求項141】
複合物は、単位カウントが6, 10, 12, 18, 24, 30, 36, 42, 48, 50, 96又は100のカプセル、タブレット又はその他経口投与剤形である請求項38の複合物。
【請求項142】
速放性の亜鉛、亜鉛塩、亜鉛塩アミノ酸錯体、亜鉛システイン錯体、非亜鉛システイン錯体又は亜鉛モノシステインを含有し、胃を通過後にその成分を放出できるように調製された、腸溶性コーティングカプセル、タブレット又はその他の経口製剤。
【請求項143】
銅又はイオンとして含むレドックス活性鉱物が、消化性蛋白、繊維又は天然若しくは合成物質と錯体が形成されるようになし、そのような金属が患者の血清へボーラス流入され難いようにした総合ビタミン剤。
【請求項144】
銅又はイオンとして含むレドックス活性鉱物が、徐放性製剤の剤形であり、そのような金属が遊離して患者の血清へボーラス流入され難いようにした総合ビタミン剤。
【請求項145】
ヒトに経口投与するのに適したチオモリブデートを含有するカプセルであって、チオモリブデートは胃の中で即時放出され、カプセルの含水量が約6%以下であるカプセル。
【請求項146】
カプセルは、メチルセルロースカラゲナン、ポリエステル、ポリ(非ハロゲン化炭化水素)、ポリ(ハロゲン化炭化水素)、ポリ(ハロゲン化ポリエーテル)、ジエン系ポリマー、ポリ(高アルキレンオキシド、ポリアミド、ポリシロキサン、ポリシラン、ポリ(アクリロニトリル)、ポリ(低アルキレンオキシド)、アクリレートポリマー、ポリアクリル酸及び交互共重合体、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(ブチレンテレフタレート)、ポリ(トリメチレンテレフタレート)、ポリ(エチレンナフタレート)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイソブチレン、ポリメチルペンテン、ポリ(テトラフルオロエチレン)、ポリ(クロロトリフロロエチレン)、ポリ(ビニルクロリド)、ポリ(ビニルフロリド)、ポリ(ビニルブロミド)、ポリ(ビニルイオジド)、ポリ(ビニリデンクロリド)、ポリ(ビニリデンフロリド)、ポリ(ビニリデンブロミド)、ポリ(ビニリデンイオジド), 塩素化ポリエーテル、ポリブタジエン、ポリ(ジシクロペンタジエン)、ポリ(ブチレンオキシド)、ポリ(プロピレンオキシド)、ポリ(2,6-ジメチルフェニレンオキシド)、ナイロン、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリ(メチルフェニルシロキサン)、ポリ(ジフェニルシロキサン)、ポリ(メチルフェニルシラン)、ポリ(アクリロニトリル)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(メチルアクリレート)、ポリ(エチルアクリレート)、ポリメタクリル酸、ポリエチルアクリル酸、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(エチルメタクリレート)、及び交互共重合体、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、三元重合体、ブロック三元重合体、及びそのランダム三元重合体、及び/又はポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、及びそれらの任意の組合せからなる群から選択される物質からなる請求項145の複合物。
【請求項147】
ヒトに経口投与するのに適したチオモリブデートを含有するカプセルであって、チオモリブデートは胃の中で即時放出され、カプセルは水分をほぼ含んでいないカプセル。
【請求項148】
不透水性材料で腸溶性コーティングされている請求項146の複合物。
【請求項149】
不透水性材料で腸溶性コーティングされている請求項147の複合物。
【請求項150】
含水量が1%以下の添加物を含んでいる請求項146の複合物。
【請求項151】
含水量が1%以下の添加物を含んでいる請求項147の複合物。
【請求項152】
含水量が1%以下の添加物を含んでいる請求項148の複合物。
【請求項153】
添加物は無水ラクトースである請求項150の複合物。
【請求項154】
添加物は無水ラクトースである請求項151の複合物。
【請求項155】
添加物はラクトース一水和物である請求項152の複合物。
【請求項156】
腸溶性コーティングはpH依存性であり、ペレットが胃の低pH条件及び/又は幽門部(pH1.2-3.5)にある間、コーティングの劣化及び亜鉛の放出を防止できるように選択される請求項35のペレット。
【請求項157】
腸溶性コーティングは、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートトリメリテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースサクシネート及びカルボキシメチルセルロースナトリウム等のセルロースポリマー;アクリル酸ポリマー及びコポリマーであって、好ましくはアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メチルアクリル酸アンモニオ、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル及び/又はメタクリル酸エチルから生成されたアクリル酸ポリマー及びコポリマー("Eudragit");ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセテート、ポリビニルアセテートフタレート、ビニルアセテート・クロトン酸コポリマー及びエチレン・ビニルアセテートコポリマー等のビニルポリマー及びコポリマー;及びシェラック(純化ラック)からなる群から選択される請求項35のペレット。
【請求項158】
調製物はアセチルコリンエステラーゼ阻害剤をさらに含んでいる請求項17又は18の調製物。
【請求項159】
調製物はNMDAアンタゴニストをさらに含んでいる請求項17又は18の調製物。
【請求項160】
NMDAアンタゴニストはメマンチン又はフルピルチンである請求項159の調製物。
【請求項161】
調製物は肝機能及び胆汁クリアランス機能を改善させることができる製剤をさらに含んでいる請求項17又は18の調製物。
【請求項162】
製剤はスタチンである請求項161の調製物。
【請求項163】
製剤はスタチンである請求項161の調製物。
【請求項164】
製剤はテトラチオモリブデートである請求項161の調製物。
【請求項165】
病気は神経疾患である請求項29の方法。
【請求項166】
病気は神経疾患である請求項31の方法。
【請求項167】
神経疾患は、ウイルソン病、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、メンケス病、進行性核上麻痺、痴呆、軽度認識障害、自閉症、後頭蓋腔内パーキンソン病、ピック病及び統合失調症からなる群から選択される請求項29の方法。
【請求項168】
神経疾患は、ウイルソン病、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、メンケス病、進行性核上麻痺、痴呆、軽度認識障害、自閉症、後頭蓋腔内パーキンソン病、ピック病及び統合失調症からなる群から選択される請求項30の方法。
【請求項169】
病気は神経筋疾患である請求項29の方法。
【請求項170】
病気は神経筋疾患である請求項31の方法。
【請求項171】
神経筋疾患は、若年性及び散発性封入体筋炎並びに高齢者の筋炎からなる群から選択される請求項31の方法。
【請求項172】
神経筋疾患は、若年性及び散発性封入体筋炎並びに高齢者の筋炎からなる群から選択される請求項29の方法。
【請求項173】
病気は自己免疫疾患である請求項31の方法。
【請求項174】
病気は自己免疫疾患である請求項29の方法。
【請求項175】
病気は多発性硬化症である請求項31の方法。
【請求項176】
病気は多発性硬化症である請求項29の方法。
【請求項177】
病気は心臓循環器疾患である請求項31の方法。
【請求項178】
病気は心臓循環器疾患である請求項29の方法。
【請求項179】
心臓循環器疾患は、アテローム性動脈硬化症、脳梗塞及び末梢血管疾患からなる群から選択される請求項31の方法。
【請求項180】
心臓循環器疾患は、アテローム性動脈硬化症、脳梗塞及び末梢血管疾患からなる群から選択される請求項29の方法。
【請求項181】
病気は炎症性疾患である請求項31の方法。
【請求項182】
病気は炎症性疾患である請求項29の方法。
【請求項183】
病気は線維症である請求項31の方法。
【請求項184】
病気は線維症である請求項29の方法。
【請求項185】
病気は肝疾患である請求項31の方法。
【請求項186】
病気は肝疾患である請求項29の方法。
【請求項187】
肝疾患は、非アルコール性脂肪肝炎及び非ウイルス性肝炎からなる群から選択される請求項31の方法。
【請求項188】
肝疾患は、非アルコール性脂肪肝炎及び非ウイルス性肝炎からなる群から選択される請求項29の方法。
【請求項189】
病気は糖尿病である請求項31の方法。
【請求項190】
病気は糖尿病である請求項29の方法。
【請求項191】
病気は老人関連性の銅排泄障害である請求項31の方法。
【請求項192】
病気は老人関連性の銅排泄障害である請求項29の方法。
【請求項193】
血清及びCNS中の遊離銅のレベルの日中変動を治療する方法であって、(a) 低湿度及び低酸素の条件下でパッケージされたテトラチオモリブデートを投与すること、(b) 銅キレート剤及び葉酸及び/又は亜鉛、又は酢酸亜鉛錯体を誘導用量投与すること、を含んでおり、銅キレート剤は好ましくはテトラチオモリブデン酸アンモニウムである、方法。
【請求項194】
高齢患者の健康な銅状態を維持する方法であって、銅キレート剤を投与することによって肝臓の銅排泄を正常化させ、所望により、高齢患者の肝臓から銅の排泄を改善するために抗炎症性製剤又は抗線維化製剤を投与することを含んでおり、抗炎症性製剤は好ましくはウルソジオールである、方法。
【請求項195】
チオモリブデートは、テトラチオモリブデート、トリチオモリブデート、ジチオモリブデート及びモノチオモリブデートからなる群から選択される請求項85の方法。
【請求項196】
製剤はテトラチオモリブデートである請求項86の方法。
【請求項197】
製剤は徐放性のテトラチオモリブデートである請求項86の方法。
【請求項198】
製剤は、ペプチドに結合された銅結合剤の蓄積注射用調製物である請求項86の方法。
【請求項199】
製剤は、システイン残基を含むペグ化されたペプチドである請求項86の方法。
【請求項200】
ペグ化されたペプチドは、ペグ化されたスーパーオキシドジスムターゼである請求項199の方法。
【請求項201】
補助食品は、銅吸収阻害剤をさらに含んでいる請求項89の補助食品。
【請求項202】
銅吸収阻害剤は亜鉛である請求項201の補助食品。
【請求項203】
補助食品は、徐放性微粒子又はマトリックスの中に入れられている請求項89の補助食品。
【請求項204】
チオモリブデートを含んでいるカプセル。
【請求項205】
チオモリブデートは、テトラチオモリブデート、トリチオモリブデート、ジチオモリブデート及びモノチオモリブデートからなる群から選択される請求項204のカプセル。
【請求項206】
チオモリブデートは、チオモリブデン酸塩錯体である請求項204の方法。
【請求項207】
カプセルは、水分が極めて少ない請求項204の方法。
【請求項208】
カプセルは、水分が極めて少ない添加物を含んでいる請求項204の方法。
【請求項209】
カプセルは、雰囲気調整されたパッケージングの中にパッケージされている請求項204の方法。
【請求項210】
パッケージングは、不浸透性のフォイルパウチである請求項209の方法。
【請求項211】
パッケージングは、ブリスターパックである請求項209の方法。
【請求項212】
パッケージングは、不活性ガスでパージされ密封される請求項209の方法。
【請求項213】
ガスは、窒素又はアルゴンである請求項212の方法。

【公表番号】特表2009−523175(P2009−523175A)
【公表日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−550493(P2008−550493)
【出願日】平成19年1月10日(2007.1.10)
【国際出願番号】PCT/US2007/060345
【国際公開番号】WO2007/084818
【国際公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(508206793)パイペックス,インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】PIPEX,INC.
【Fターム(参考)】