説明

直動案内ユニット

【課題】 この直動案内ユニットは,スライダにおける潤滑剤の供給系を安価でコンパクトに構成し,潤滑剤供給のメンテナンスフリーを可能にする。
【解決手段】スライダ2には,潤滑剤が蓄えられた多孔質部材から成る油タンク7及び油タンク7からパイプ部材30に潤滑剤を供給するための簡単な構造の誘導部材39が配設され,潤滑剤を油タンク7から誘導部材39を通ってリターン路22を形成するパイプ部材30に供給する。油タンク7は,ケース27とその中の保持部材28によって十分な潤滑剤が漏れ無く貯留可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,例えば,軌道溝を備えた軌道レール及び該軌道レール上を転動体を介して相対移動するスライダから成る小型化可能な構造を持つ直動案内ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年,直動案内ユニットとしては,半導体製造装置等の各種装置において,往復運動を行う部品に対して高精度,小型化,滑らかな往復運動等の性能を達成できるものが求められるようになった。最近では,直動案内ユニットは,特に,省エネや設備維持に費やすコスト削減等により,潤滑に関してメンテナンスフリーが可能なものが盛んに使用されるようになった。しかしながら,直動案内ユニットとしては,さらに高速化,高サイクル化された半導体製造装置,組立装置等の各種装置にあって,潤滑のメンテナンスフリーを確実に行うことができるものが要望されるようになった。
【0003】
本出願人は,スライダに形成されるリターン通路孔を潤滑剤が含浸された多孔質構造から成る焼結樹脂部材によって形成することにより,潤滑油を長期にわたって転動体に供給し耐久性を向上した直動転がり案内ユニットを開発した。該直動転がり案内ユニットは,スライダが軌道レールに対して複数のボールを介して摺動自在に構成されており,スライダに形成された嵌挿孔にはボールを無限循環させるため多孔質構造を有するスリーブ状の焼結樹脂部材が嵌挿され,焼結樹脂部材の内部に形成されたリターン通路孔をボールが通るように構成されている。潤滑剤が焼結樹脂部材の多孔質構造の内部に吸収されており,転走するボールに潤滑剤を長期にわたって供給し続け,ボールを介して軌道路を潤滑し,耐久性を向上させ,スライダの摺動抵抗を軽減するものである(例えば,特許文献1参照)。
【0004】
また,自動給油式リニアガイドウェーとして,無負荷レールの転がり体を直接潤滑でき,グリースの使用量が節約できると共に,グリースの大量漏れによる汚染もなく,グリースがなくなっても自動給油装置を外すことなく補充できるものが知られている。該自動給油式リニアガイドウェーは,スライダ内にグリースを貯存する貯油室と,貯油室と無負荷ガイドウェーを接続するグリースガイドウェーと,グリース漏れを防ぐ密封パッドとを含むものであり,貯油室内に封入させた繊維の織物を用いてサイフォン原理により,貯油室からグリースをゆっくりと無負荷ガイドウェーに導入し転がり体を潤滑させるものであり,グリースがなくなった場合に,注油器により補充するものである(例えば,特許文献2参照)。
【0005】
また,従来知られているリニアガイドウェーでは,潤滑構造体がスライダ内に横方向に配置され,スライダ内に貯油室を有し,貯油室がスライドウェーに接続するようにスライダの両側にそって延びている。貯油室には,フェルトのような繊維材から成る方向転換部材が配設されている。シール部材がスライダの一端面に貯油室を対応して配設されている。しかしながら,方向転換部材の一端がスライダの軌道溝にまで延びているものである(例えば,特許文献3参照)。
【0006】
また,潤滑剤供給装置付き直動案内軸受装置として,潤滑剤含有のゴム又は合成樹脂材により形成した給油部材を被案内部材に組み込むことにより,外部から潤滑剤を供給することなく,内部の転動体に対して潤滑剤を自動的に供給するものが知られている。該直動案内軸受装置は,被案内部材に給油孔を設け,潤滑剤供給部材を被案内部材に挿入し,潤滑供給部材を弾性部材で弾圧するものであり,潤滑剤供給部材からしみ出た潤滑剤が転動体の循環路へと流れ着くものになっている。潤滑剤供給部材は,合成樹脂と潤滑剤とを混合して加熱溶融した後に冷却固化して成形して構成されており,弾性部材で潤滑剤供給部材を弾圧すること,及び温度上昇することで潤滑剤がしみ出るものになっている(例えば,特許文献4参照)。
【特許文献1】特開2001−82469号公報
【特許文献2】実用新案登録第3066116号公報
【特許文献3】US2003/0164264A1
【特許文献4】特開平9−303392号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら,従来の直動案内ユニットは,潤滑剤供給部材からの潤滑剤のしみ出しが弾性部材の弾圧力及び温度上昇によっており,潤滑剤がリターン路に確実に一定的に供給されるものではなく,不確定なものになっていた。また,従来の直動案内ユニットでは,潤滑剤が重力方向に流れ着く構造のものであり,各必要個所に安定して潤滑剤を供給するには不充分なものになっていた。
【0008】
また,上記自動給油式リニアガイドウェーは,グリースを貯油室に詰めただけのものであり,メンテナンスフリーを確実なものにするためには,給油量が十分でなく,補充したグリース量も不明確になり易く,また,注油器での取り扱いが面倒なものになっていた。また,従来のリニアガイドウェーでは,方向転換部材を配設するための配設溝を形成する必要があり,そのような加工は面倒なものであった。
【0009】
そこで,直動案内ユニットについて,リターン路への潤滑剤の供給について,メンテナンスフリーを一層確実なものにするため,潤滑剤の供給容量を増加させること,及び潤滑剤を補給し易くするためにカートリッジ方式での交換タイプのものが要望されている。
【0010】
この発明の目的は,上記の課題を解決することであり,その課題に応えるように,多くの実験を繰り返して到達したものであり,従来の直動案内ユニットにおけるスライダのリターン路が潤滑剤を含浸させた多孔質構造を有するパイプ部材で構成されていることに対応して,潤滑剤を長期に渡って供給できるように,スライダ内に油タンクを設け,油タンクからリターン路のパイプ部材へ潤滑剤を供給即ち誘導できる誘導部材をスライダ内に配設し,更に,油タンクを交換可能に構成し,取り扱い易いものに構成し,全体としてコンパクトで安価に構成し,メンテナンスフリーを可能にした直動案内ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は,長尺状で長手方向に沿って第1軌道溝が設けられた軌道レール,前記第1軌道溝に対応して第2軌道溝が設けられ且つ転動体を介して摺動自在なスライダ,及び前記転動体が循環するための前記スライダに設けられたリターン路を構成する潤滑剤含浸可能な多孔質構造のパイプ部材を有する直動案内ユニットにおいて,
前記スライダには,前記パイプ部材に前記潤滑剤を供給するために前記潤滑剤が蓄えられた油タンク及び前記油タンクから前記パイプ部材に前記潤滑剤を供給するための誘導部材が配設されており,前記油タンクの外枠であるケースは,前記ケース内に前記潤滑剤を蓄えると共に蓄えられた前記潤滑剤が浸透可能な多孔質部材から構成されていることを特徴とする直動案内ユニットに関する。
【0012】
この直動案内ユニットにおいて,前記油タンクの前記ケースは,焼結樹脂から形成されパイプ状に形づくられた形状に構成されている。
【0013】
また,前記油タンクの前記ケースには,前記ケース内の前記潤滑剤を流動なく保持するために保持部材が内蔵され,前記保持部材は,繊維が部分的に熱溶着された多孔質構造の熱接着繊維から構成されている。
【0014】
前記誘導部材は,合成樹脂製の棒状集束繊維及び/又は焼結樹脂製の多孔質構造から構成されており,前記ケースの外面と前記パイプ部材の外面とに当接して接続されている。
【0015】
この直動案内ユニットは,前記スライダを構成するケーシングには,前記パイプ部材,前記油タンク,及び前記誘導部材のそれぞれを嵌挿する嵌挿孔が形成され,前記誘導部材を嵌挿する前記嵌挿孔は互いに交差したストレート状の第1嵌挿孔と第2嵌挿孔とから構成され,前記第1嵌挿孔には前記誘導部材を構成する第1誘導部材が嵌挿され,前記第2嵌挿孔には前記誘導部材を構成する第2誘導部材が嵌挿され,前記第1誘導部材と前記第2誘導部材とが互いに当接して接続されている。
【0016】
この直動案内ユニットは,前記第1誘導部材の一端が前記油タンクの前記ケースに当接し,前記第1誘導部材の他端が前記第2誘導部材に当接し,前記第2誘導部材の一端が前記パイプ部材に当接し,前記第1誘導部材は前記油タンクと前記第2誘導部材とに挟まれた状態に配設されている。
【0017】
この直動案内ユニットは,前記第1嵌挿孔に前記第1誘導部材を嵌挿し且つ前記第2嵌挿孔に前記第2誘導部材を嵌挿した状態では,前記第1嵌挿孔及び前記第2嵌挿孔の外部に露出する端部には埋栓又は止めプラグがそれぞれ配設されている。
【0018】
この直動案内ユニットにおいて,前記第1嵌挿孔は前記ケーシングを幅方向に貫通して形成され,前記第2嵌挿孔は前記ケーシングの上面と前記ケーシングの前記リターン路を構成する前記パイプ部材の前記挿通孔との間に延びて形成されている。
【発明の効果】
【0019】
この直動案内ユニットは,上記のように,スライダに設けたリターン路を潤滑剤含浸可能な多孔質構造を有するパイプ部材で構成しており,パイプ部材に潤滑剤の供給油量を増強するため油タンクをスライダ内に配設し,油タンクからリターン路のパイプ部材へ潤滑剤を漏れが無く滑らかに供給即ち誘導する誘導部材をスライダ内に配設し,しかも,油タンクを交換可能に構成して取り扱い易いものに構成し,油タンク及び誘導部材を簡単な構造に構成し,スライダを安価でコンパクトに構成し,それによって,潤滑剤含浸パイプ部材を有する従来の直動案内ユニットに比較して3倍以上の潤滑のメンテナンスフリーを可能なものにする。即ち,この直動案内ユニットは,スライダ内に潤沢の潤滑剤を保有することが可能となり,潤滑のメンテナンスフリーを確実なものにしており,例えば,潤滑剤含浸パイプ部材を有する従来の直動案内ユニットよりも3倍を越えて潤滑のメンテナンスフリーを可能なものにしている。また,この直動案内ユニットは,油タンクに外枠であるケースが設けられ,ケースが多孔構造に形成されていることで,どの位置からでも誘導部材に潤滑剤を供給できるものであり,スライダの剛性に影響しない位置への設定,円形孔の簡単な構造等,スライダが高機能で,安価で,コンパクトに構成できるものになっている。また,油タンクは,ケースを備えており,ケースそのものが交換可能に構成されているので,取扱い易いものになっている。更に,油タンク及び誘導部材は,簡単な構造になっており,油タンクは保持部材により十分の潤滑剤を漏れ無く貯留可能になっており,保持部材の潤滑剤は,ケースを浸透し誘導部材に誘導され,パイプ部材に緩やかに漏れ無く移送即ち給油されるものになっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下,図面を参照して,この発明による直動案内ユニットの実施例を説明する。この直動案内ユニットは,ボール20又はローラでなる転動体が循環する形式の各種タイプに適用できるものであり,例えば,本出願人に係る特開2001−82469号公報に開示されたものと比較して,油タンク7による潤滑剤の供給系を除いて,同様の構成を有するものである。この直動案内ユニットは,概して,長尺状であって長手方向の両側面3に沿って軌道溝4(第1軌道溝)が設けられた軌道レール1,軌道レール1に対して跨架して転動体であるボール20を介して摺動自在なスライダ2から構成されている。スライダ2は,軌道溝4に対向する軌道溝14(第2軌道溝)が設けられている。この直動案内ユニットは,軌道溝4と軌道溝14とで形成される軌道路である負荷軌道路21を転動する複数の転動体であるボール20を有している。
【0021】
軌道レール1には,軌道レール1をベッド,機台,他部品等のベース8に取り付けるための取付け孔6が形成されている。スライダ2は,軌道溝14及びリターン路22が形成されたケーシング10,ケーシング10の両端に配設され且つ方向転換路(図示せず)が形成されたエンドキャップ11,及びエンドキャップ11の端面に取り付けられたエンドシール12から構成されている。スライダ2の下面には,下面シール17が取り付けられている。エンドキャップ11とエンドシール12は,ケーシング10に取付けねじ13によって固定されている。ケーシング10には,頂面15にワーク,機器等の他部品を取り付けるためのねじ穴16が形成されている。エンドキャップ11には,エンドシール12の端面に配設したグリースニップル25から供給された潤滑剤を方向転換路43とケーシング10の油タンク7とに供給するため,潤滑剤供給路(図示せず)が形成されている。スライダ2には,ボール20の脱落を防止するため,ボール20を保持する保持バンド24が軌道レール1の軌道溝4間の逃げ溝44を挿通するように取り付けられている。スライダ2は,ボール20が無限循環転走するように,負荷軌道路21,一端が負荷軌道路21の両端にそれぞれ連通する一対の方向転換路43,及び該方向転換路43の他端に連通するリターン路22を備えている。言い換えれば,スライダ2には,ボール11が負荷軌道路21,一方の方向転換路43,リターン路22及び他方の方向転換路43から成る無限循環路を転走するように組み込まれる。
【0022】
この直動案内ユニットにおいて,ボール20が転走するためのリターン路22を構成するパイプ体であるパイプ部材30は,潤滑剤が含浸可能な多孔質構造から形成されている。スライダ2を構成するケーシング10には,パイプ部材30を配設するための嵌挿孔26が形成されている。ケーシング10は,軌道レール1の上面5に対向する上部35,及び上部35の両側からそれぞれ垂下して軌道溝14が形成された袖部36から断面逆U字状に形成され,両袖部36と上部35とから凹部34に形成されている。ケーシング10の袖部36に形成された軌道溝14に対して平行に延びる嵌挿孔26には,リターン路22を形成するパイプ部材30が配設されている。
【0023】
この直動案内ユニットは,特に,パイプ部材30への潤滑剤の供給系において特徴があり,従来のものに比較して,更に潤滑剤の供給量を増加させ,且つ潤滑剤の供給系の部材を交換し易くし,取扱い性や潤滑剤供給の確実性を向上させたものであり,潤滑剤の供給系を構成する油タンク7及び潤滑剤をガイドする誘導体である誘導部材39をケーシング10に装備したものである。また,油タンク7は,特に,ケース27を有することを特徴とし,パイプ部材30に給油するための潤滑剤を蓄えたものになっており,ケーシング10の上部35にあって,ケーシング幅及び上部35の肉厚部の略中央の長手方向に沿って形成された嵌挿孔31に嵌挿して配設されている。誘導部材39は,油タンク7からパイプ部材30に潤滑剤を誘導するためのものであり,両端が油タンク7及びパイプ部材30に当接して接続するように構成されている。この実施例では,誘導部材39は,第1誘導部材9及び第2誘導部材19からなり,ケーシング10の長手方向の略中央に位置している。第1誘導部材9は,油タンク7の嵌挿孔31に交差するようにケーシング10の幅方向に沿った水平孔で上部35に形成された嵌挿孔32に嵌挿されている。また,第2誘導部材19は,第1誘導部材9の嵌挿孔31とパイプ部材30の嵌挿孔26とに交差するように垂下して袖部36に形成された嵌挿孔33に嵌挿されている。
【0024】
第1誘導部材9は,第2誘導部材19と油タンク7とで挟まれた状態になっている。油タンク7は,潤滑剤を蓄えるための外枠であるケース27を有し,ケース27は,ケース27内の潤滑剤を浸透可能な多孔質構造で形成されている。第1誘導部材9は,ケース27が持つ弾性力を利用して第1誘導部材9が第2誘導部材19と油タンク7とで確実に挟まれる状態になっている。詳しくは,第1誘導部材9の一端が油タンク7のケース27の外面に当接し,第1誘導部材9の他端が第2誘導部材19の外面に当接し,第2誘導部材19の一端がパイプ部材30に当接し,第1誘導部材9は油タンク7と第2誘導部材19とに挟まれた状態に配設されている。油タンク7の嵌挿孔31及び誘導部材39のそれぞれの嵌挿孔32,33は,断面円形に形成され,第1嵌挿孔32及び第2嵌挿孔33の外部に露出する端部は密閉されている。言い換えれば,第1誘導部材9の嵌挿孔32のケーシング側面にある両側の開口部37は,それぞれ埋栓29(ボール)と止めプラグ23で塞がれ,第2誘導部材19の嵌挿孔33のケーシング10の上部35にある一方の開口部38は埋栓18(ボール)で塞がれている。
【0025】
油タンク7は,スライダ2の一端面の中央に配設されているグリースニップル25又は他端面の中央に配設されている止めプラグ40を取り外して後に,開口したグリースニップル25の取付孔41及び止めプラグ40の取付孔41から取り出すことができる構造になっている。従って,新品の油タンク7を装填即ち交換する場合に,グリースニップル25及び止めプラグ40を取り外して,新品の油タンク7をグリースニップル25の取付孔41又は止めプラグ40の取付孔41から挿入し,既に配設されている使用済み油タンク7を押し出すように反対側の止めプラグ40の取付孔41又はグリースニップル25の取付孔41から排出するようにすれば,油タンク7を嵌挿孔31に容易に装填できるものになっている。言い換えれば,油タンク7は,カートリッジ方式で交換できる構造に構成されている。
【0026】
図4には,この直動案内ユニットにおいて,ケーシング10に組み込まれたパイプ部材30が示されている。図4は,(A)がパイプ部材30の正面図であり,(B)がパイプ部材30の側面図である。この実施例のパイプ部材30は,一種のスリーブの構造であり,超高分子量のポリエチレン微粒子で焼結してパイプ状に成形されたものであり,微粒子間に作られた多孔が連通して多孔質構造の焼結樹脂の成形体に形成された構成になっており,成形体の多孔に潤滑剤が含浸される構造に構成されている。パイプ部材30は,内側の孔がリターン路22に形成されており,ボール10よりも僅かに大きな孔に形成され,断面円形でなる外側の外径はケーシング10の嵌挿孔26に僅かの隙間で挿入できる大きさになっている。また,パイプ部材30の内側の孔は,この実施例では転動体がボール20であるので,断面円形に形成されている。従って,パイプ部材30は,剛性を有し,潤滑剤を吸収し,保持し,排出できる構造に形成されている。
【0027】
図5には,この直動案内ユニットにおいて,ケーシング10に組み込まれた油タンク7が示されている。図5は,(A)が油タンク7の正面図であり,(B)が油タンク7の側面図である。油タンク7は,ケーシング10の嵌挿孔31に配設された断面円形のパイプ状で多孔質構造のケース27,ケース27の内側の孔42に嵌挿された保持部材28,及びケース27と保持部材28に含浸された潤滑剤から構成されている。ケース27は,この実施例では,パイプ部材30の材質と形状とが同一のものを利用したものであり,多孔質構造の焼結樹脂の成形体に形成されている。従って,油タンク7の外枠であるケース27は,剛性を有し,潤滑剤を吸収し,保持し,排出できるものであり,ケース27内の潤滑剤を浸透可能な構造に構成されている。また,保持部材28は,スライダ2が高速,高サイクルで摺動してもケース27内の潤滑剤を流動なく保持するためにアクリル長繊維等の熱接着繊維体,即ち,部分的に熱溶着した繊維で構成され,断面円形にしてケース27の全長に渡って嵌入されている。熱接着繊維体は,一般的に,インキの吸蔵体,液体芳香剤用吸上げ芯,草花水供給調節体等に通常使用されている材料である。油タンク7に内蔵された保持部材28により,ケース27の両端が開口されていても潤滑剤が外部に漏洩しない構造になっている。また,油タンク7の他の実施例として,保持部材28を用いずに半固形性の潤滑剤であるグリースをケース27に直接充填するようにしてもよいものである。その際には,ケース27の両端の開口部を塞ぐように一部分が給脂できるように孔が開けられた給脂プラグを嵌入してもよいものである。従って,油タンク7は,保持部材28により十分の潤滑剤を漏れ無く貯留可能になっており,且つ,保持部材28の潤滑剤がケース27を浸透して当接する誘導部材39に流出が可能になっている。
【0028】
図6及び図7には,この直動案内ユニットにおいて,ケーシング10に組み込まれた誘導部材39が示されている。図6は,(A)が第1誘導部材9の正面図であり,(B)が第1誘導部材9の側面図である。図7は,(A)が第2誘導部材19の正面図であり,(B)が第2誘導部材19の側面図である。誘導部材39は,第1誘導部材9及び第2誘導部材19とも,断面円形のアクリル樹脂繊維など合成樹脂繊維の棒状集束繊維から構成されている。誘導部材39は,それぞれの嵌挿孔32,33に僅かの隙間を有して嵌挿している。棒状集束繊維は,一般的に,水性用,油性用,ホワイトボード用等のペン先などに使用されている材料である。第2誘導部材19の大きさである外径は,リターン路22であるパイプ部材30の強度に影響しない大きさになっており,パイプ部材30の半分以下の径に形成されていることが好ましい。第1誘導部材9は,油タンク7から第2誘導部材17に潤滑剤を漏れなく移送するために,油タンク7と第2誘導部材19との中間の大きさに形成されていることが好ましい。従って,これらの外径は,「油タンク7の外径>第1誘導部材9の外径>第2誘導部材19の外径」の関係に形成されることが好ましい。誘導部材39は,油タンク7からパイプ部材30への潤滑剤の流入が緩やかに漏れの無いものになっている。また,誘導部材39の他の実施例として,ケース27又はパイプ部材30と同様に,超高分子量のポリエチレン微粒子で焼結して多孔質構造の焼結樹脂からなる成形体に形成してもよいものになっており,パイプ状又は中実状(無垢状)の形状に構成してよいものである。また,誘導部材39には,ケーシング10への組み込み前から潤滑剤を含浸させておいてよいものである。
【0029】
図8には,この直動案内ユニットについて,油タンク7からリターン路22を構成するパイプ部材30への潤滑剤の供給試験をするため,試験時のスライダ2の姿勢を説明するためケーシング10の配置状態を示す説明図が示されている。図9には,この直動案内ユニットについて,図8に示す姿勢にスライダ2を配置した場合,時間経過に従って油タンク7からリターン路22を構成するパイプ部材30への潤滑剤の供給試験結果である潤滑剤の伝達油量を示すグラフである。図9が潤滑剤の油伝達推移の試験は,図8に示すように,スライダ2を横に置いた状態で,油タンク7の潤滑剤がリターン路22を形成するパイプ部材30に伝達する様子を試験したものである。また,この試験では,パイプ部材30及び誘導部材39には,当初,潤滑剤が含浸されていないものを使用した結果を示している。
【0030】
上記試験結果は,多種の部材を用いて試験した結果,上記の材料から成る油タンク7,誘導部材39及びパイプ部材30を用いた場合が,最も潤滑剤の漏れが無く,潤滑剤が供給系において緩やかに伝達されるものになっており,好適なものになっている。即ち,油タンク7は,ケース27を多孔質構造の焼結樹脂の成形体と,ケース27内の保持部材28が熱接着繊維とで形成されている。誘導部材39は,第1誘導部材9及び第2誘導部材19から構成し,合成樹脂繊維の棒状集束繊維で形成されている。また,誘導部材39が多孔質構造の焼結樹脂から構成されたものでは,上記結果に近い結果であり潤滑剤の漏れが無く緩やかに伝達されるものになっていることを確認した。また,試験結果では,図8に示す上部のリターン路22であるパイプ部材30にも下部のパイプ部材30と同様に中央に位置する油タンク7から潤滑剤が伝達されるものになっており,図9は,それぞれのパイプ部材30に流入した潤滑量を平均して表している。しかしながら,総じて,パイプ部材30へ流入する潤滑量は,下部の方が上部の方よりも多めになっている。また,この直動案内ユニットについて,他の寿命試験結果から,潤滑剤は,従来のものと比較して,3倍以上の走行距離又は走行時間で使用しても十分なものになっていた。また,誘導部材39の他の構成として,潤滑剤を急激に消費する使用条件などによっては,誘導部材39を多孔質構造の焼結樹脂でパイプ状に形成して,パイプ状の内側の孔に連続長繊維不織布(コットン100%)を詰めるものでもよいものであることが分かった。また,この直動案内ユニットは,油タンク7が新品のものと交換可能になっているが,スライダ2の端面にあるグリースニップル25又はグリースニップル25に代えた管継ぎ手から潤滑剤を油タンク7に給油してもよいものになっている。グリースニップル25から給油された潤滑剤は,従来からある給油路に給油されると共に,油タンク7のケース27内に給油されるものにもなっている。
【産業上の利用可能性】
【0031】
この発明による直動案内ユニットは,半導体製造装置,組立装置,検査装置,医療機器,測定装置等の各種装置に適用して往復運動を行う部品に対して高精度,超小型化,滑らかな往復運動等の性能を達成でき,高速化,高サイクル化された半導体製造装置等の各種装置にあって潤滑のメンテナンスフリーを確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明による直動案内ユニットの一実施例を示す部分断面を含む斜視図である。
【図2】図1の直動案内ユニットを示す正面図である。
【図3】図2の直動案内ユニットにおけるA−A断面を示す断面図である。
【図4】図1の直動案内ユニットにおけるパイプ部材を示し,(A)がパイプ部材の正面図であり。(B)は左側面図。
【図5】図1に示す油タンクであり,(A)は,正面図。(B)は左側面図。
【図6】図1に示す第1誘導部材であり,(A)は,正面図。(B)は左側面図。
【図7】図1に示す第2誘導部材であり,(A)は,正面図。(B)は左側面図。
【図8】この直動案内ユニットについて,油タンクからパイプ部材への潤滑剤の供給試験をするため,試験時のスライダの姿勢を説明するためケーシングの配置状態を示す説明図である。
【図9】図8に示す姿勢にスライダを配置した場合,時間経過に従って油タンクからパイプ部材への潤滑剤の供給試験結果である潤滑剤の伝達油量を示すグラフである。
【符号の説明】
【0033】
1 軌道レール
2 スライダ
4 軌道溝(第1軌道溝)
7 油タンク
9 第1誘導部材
10 ケーシング
14 軌道溝(第2軌道溝)
18,29 埋栓
19 第2誘導部材
20 ボール(転動体)
22 リターン路
23 止めプラグ
26,31 嵌挿孔
27 ケース
28 保持部材
30 パイプ部材
32 嵌挿孔(第1嵌挿孔)
33 嵌挿孔(第2嵌挿孔)
39 誘導部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状で長手方向に沿って第1軌道溝が設けられた軌道レール,前記第1軌道溝に対応して第2軌道溝が設けられ且つ転動体を介して摺動自在なスライダ,及び前記転動体が循環するための前記スライダに設けられたリターン路を構成する潤滑剤含浸可能な多孔質構造のパイプ部材を有する直動案内ユニットにおいて,
前記スライダには,前記パイプ部材に前記潤滑剤を供給するために前記潤滑剤が蓄えられた油タンク及び前記油タンクから前記パイプ部材に前記潤滑剤を供給するための誘導部材が配設されており,前記油タンクの外枠であるケースは,前記ケース内に前記潤滑剤を蓄えると共に蓄えられた前記潤滑剤が浸透可能な多孔質部材から構成されていることを特徴とする直動案内ユニット。
【請求項2】
前記油タンクの前記ケースは,焼結樹脂から形成されパイプ状に形づくられた形状に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の直動案内ユニット。
【請求項3】
前記油タンクの前記ケースには,前記ケース内の前記潤滑剤を流動なく保持するために保持部材が内蔵され,前記保持部材は,繊維が部分的に熱溶着された多孔質構造の熱接着繊維から構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の直動案内ユニット。
【請求項4】
前記誘導部材は,合成樹脂製の棒状集束繊維及び/又は焼結樹脂製の多孔質構造から構成されており,前記ケースの外面と前記パイプ部材の外面とに当接して接続されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項5】
前記スライダを構成するケーシングには,前記パイプ部材,前記油タンク,及び前記誘導部材のそれぞれを嵌挿する嵌挿孔が形成され,前記誘導部材を嵌挿する前記嵌挿孔は互いに交差したストレート状の第1嵌挿孔と第2嵌挿孔とから構成され,前記第1嵌挿孔には前記誘導部材を構成する第1誘導部材が嵌挿され,前記第2嵌挿孔には前記誘導部材を構成する第2誘導部材が嵌挿され,前記第1誘導部材と前記第2誘導部材とが互いに当接して接続されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項6】
前記第1誘導部材の一端が前記油タンクの前記ケースに当接し,前記第1誘導部材の他端が前記第2誘導部材に当接し,前記第2誘導部材の一端が前記パイプ部材に当接し,前記第1誘導部材は前記油タンクと前記第2誘導部材とに挟まれた状態に配設されていることを特徴とする請求項5に記載の直動案内ユニット。
【請求項7】
前記第1嵌挿孔に前記第1誘導部材を嵌挿し且つ前記第2嵌挿孔に前記第2誘導部材を嵌挿した状態では,前記第1嵌挿孔及び前記第2嵌挿孔の外部に露出する端部には埋栓又は止めプラグがそれぞれ配設されていることを特徴とする請求項5又は6に記載の直動案内ユニット。
【請求項8】
前記第1嵌挿孔は前記ケーシングを幅方向に貫通して形成され,前記第2嵌挿孔は前記ケーシングの上面と前記ケーシングの前記リターン路を構成する前記パイプ部材の前記挿通孔との間に延びて形成されていることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−266357(P2006−266357A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−83571(P2005−83571)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【出願人】(000229335)日本トムソン株式会社 (96)
【Fターム(参考)】