説明

直動案内ユニット

【課題】この直動案内ユニットは,転動体への潤滑剤の給油を方向転換路で行い,給油手段の構成を単純化し,確実に安定的に給油してメンテナンスフリーを達成する。
【解決手段】エンドキャップ4の端面47に凹部31を形成し,凹部31に方向転換路30に連通する開口部37を形成する。多孔質成形体25は,凹部31の深部40に嵌入される貯留部20,連係部19,及び導出部26を備えている。凹部31に潤滑剤含浸の多孔質成形体25を配設し,導出部26の端面の接触面39を方向転換路30の開口部37に露出させる。方向転換路30を転走するローラ5は,接触面39に接触し,導出部26を通じてローラ5に潤滑剤が給油され,軌道路38を転動するローラ5が給油される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,例えば,長尺な軌道レール及び該軌道レール上を転動体を介して相対移動するスライダから構成された直動案内ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年,直動案内ユニットは,工作機械,各種組立装置,搬送機械等の各種装置の摺動部への適用が拡大している現状であり,転動体と循環路との間で潤滑をスムーズにするため,潤滑剤を定期的に給油しているのが通常である。しかしながら,各種装置について,省エネ,ランニングコスト,設備維持コストを削減するという観点からメンテナンスフリーが要求されるようになり,機械装置に組み込まれる直動案内ユニットについても,使用状態において潤滑剤等の供給を行わないメンテナンスフリーの実現が要望されると共に潤滑剤の使用量を最小限に抑えることが益々求められ,特に,転動体がローラタイプの直動案内ユニットに対して要望されている。従来の直動案内ユニットは,長尺の軌道レールに対してスライダを転動体を介して摺動自在に構成したユニットであり,潤滑剤を適正に転動体に付着させて循環路の負荷軌道路を転動する転動体に対して金属同士の接触を防止し,耐久性を向上させるため,転動体へ潤滑剤を常に供給して両者間を潤滑させることが不可欠である。
【0003】
従来,直動形ガイド装置として,油溜めへの潤滑油の補給間隔を長くすることにより補給回数を現象させて作業を簡単にし,又は潤滑油の補給を不要にするものが知られている。該直動形ガイド装置は,エンドキャップ部分の外面の凹所にそれぞれ密閉状油溜め部材を配設し,ボール循環路の反転路に連通している。各油溜め部材は,潤滑油供給用筒状部が一体に形成され,該筒状部が反転路に連通する潤滑油供給路内に差し込まれ,潤滑油は,油溜め部材から潤滑油供給路を通って反転路に供給されるものになっている(例えば,特許文献1参照)。
【0004】
また,直線案内装置として,スライダに具備されたボール又はローラの転動体の循環に伴い,テーブル等の可動体を担持したスライダが軌道レールに沿って運動するものが知られている。該直線案内装置は,スライダの端面に固定されたシール部材によって,給油口から通じる潤滑剤供給路が形成され方向転換路に開口している構造を有しており,潤滑剤供給路にはフェルト等の保持供給部材が詰め込まれており,給油口から給油された潤滑剤をスライダの端面とシール部材との間から漏れないようにシール部材に供給溝の縁部全長にわたって帯状突起を形成したものである(例えば,特許文献2参照)。
【特許文献1】実開平5−71443号公報
【特許文献2】特開平11−22726号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記直動形ガイド装置では,潤滑油を収容する油溜め部材の容器が必要になり,また,油溜め部材の筒状部を反転路に近接させて油溜め部材から潤滑油が流れ出るようにしたものであるが,潤滑油の流出量を僅かにして一定量ずつ排出することが難しいものであった。また,上記直線案内装置では,給油口から給油された潤滑剤をスライダの端面とシール部材との間から漏れないようにシール部材に供給溝の縁部全長にわたって帯状突起を形成しなけれぱならず,フェルト等の保持供給部材だけでは潤滑油の流出量が僅かにして一定量ずつ排出することが難しいものであった。
【0006】
ところで,直動案内ユニットは,転動体としてボール又はローラを使用するタイプがあるが,転動体がローラである場合には,ボールの場合に比較して,ローラの姿勢を傾き無く整然と案内するため,ローラの転動面を案内するだけでなく,ローラの端面を摺接案内する必要があり,従来の直動案内ユニットでは,長期間にわたってローラを循環案内し,給油のメンテナンスフリーを安定させるには不充分であった。また,上記従来例のものに対しては,長期間にわたって転動体のローラを滑らかに循環案内し,充分な給油が確保され,安定した給油が行え,商品化が可能な簡単な構成のものが要望されていた。
【0007】
そこで,本出願人は,従来の直動案内ユニットの問題点を解決するため,先に直動案内ユニットを開発して特許出願した(例えば,特願2006−193729号)。該直動案内ユニットは,転動体への潤滑剤の給油を方向転換路において行い,給油手段の構成を単純化し,確実に安定して給油してメンテナンスフリーを達成するものである。該直動案内ユニットは,エンドキャップの端面側から方向転換路に連通する連通孔を形成し,エンドキャップの端面に形成された凹部に潤滑剤含浸の多孔質成形体から成る貯油板を配設し,貯油板の突出部を連通孔に嵌入して突出部の端面が方向転換路の壁面の一部を形成して露出している。方向転換路を転走するローラは,貯油板の突出部に接触し,それによって,貯油板の突出部を通じてローラに潤滑剤が給油され,循環路を転走するローラが潤滑されるように構成されている。
【0008】
しかしながら,先願の直動案内ユニットでは,転動体がローラであって比較的に大形な直動案内ユニットに適したものになっていたが,更に,転動体がローラであって比較的に小形の直動案内ユニットにも適用できるものが要望されている。
【0009】
この発明の目的は,上記の課題を解決することであり,転動体がローラの場合でも,潤滑剤のメンテナンスフリーを可能にし,従来の直動案内ユニットよりも給脂手段を簡素化したものであり,エンドキャップに最大限に体積が大きくなるように形成された深部の凹部に追従して体積が可及的に大きくなる形状に多孔質成形体に貯留部を形成し,潤滑剤が含浸された多孔質成形体をエンドキャップの凹部に配設し,エンドキャップが小形であっても多孔質成形体に多量の潤滑剤が含浸できる構造に構成し,転動体への給油のメンテナンスフリーを長期にわたって確実に容易に安定して達成できる直動案内ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は,長手方向に沿って第1軌道面が形成された軌道レール,及び前記軌道レールの長手方向に摺動自在なスライダから成り,前記スライダは,前記軌道レールの前記第1軌道面に対向して第2軌道面が形成され且つ前記第2軌道面と前記第1軌道面との間に形成される軌道路に平行に延びるリターン路が形成されたケーシング,前記ケーシングの両端面にそれぞれ取り付けられ且つ前記軌道路と前記リターン路とを連通する方向転換路が形成されたエンドキャップ,前記エンドキャップの端面に配設されたエンドシール,並びに前記軌道路,前記リターン路及び一対の前記方向転換路で構成される循環路を転走する複数のローラ又はボールの転動体を有する直動案内ユニットにおいて,
前記エンドキャップには,前記エンドシール側の端面に形成された凹部内に潤滑剤を含浸した多孔質成形体が嵌合され,前記エンドキャップの前記方向転換路の一部を開口して形成された開口部から前記方向転換路に前記多孔質成形体を露出状態に配置し,前記方向転換路を転走する前記転動体が前記多孔質成形体に接して前記潤滑剤が前記転動体に給油されることを特徴とする直動案内ユニットに関する。
【0011】
また,前記エンドキャップに形成された前記凹部は,前記エンドキャップの上部に形成された深さが大きい深部,前記上部から下部へと広がる平面部,及び前記平面部から前記方向転換路の前記開口部まで伸びる貫通部から構成されている。
【0012】
また,前記多孔質成形体は,前記深部に嵌合して前記潤滑剤を多量に貯留する貯留部,前記平面部に嵌合して前記貯留部に連係する平板状でなる連係部,及び前記貫通部に嵌合して前記連係部から延びて前記開口部へ前記潤滑剤を導出する導出部を備えている。
【0013】
また,前記方向転換路に露出した前記多孔質成形体の前記導出部の端面は,前記転動体の転走する方向に沿って細長形状に形成されている。
【0014】
また,前記多孔質成形体の前記貯留部は,前記エンドキャップの両袖部に形成された前記方向転換路が位置していない領域の前記上部に形成された前記深部の形状に追従して形成されたブロック形状に形成されている。
【0015】
また,前記循環路は,前記スライダの幅方向両側部に一対ずつそれぞれ形成され,前記方向転換路は前記ケーシングの前記両端面に配設された前記エンドキャップの両側においてたすき掛けに交差状態にそれぞれ形成されている。
【0016】
また,前記エンドキャップに形成された前記方向転換路は,長手方向に隔置してそれぞれ形成された外側方向転換路と内側方向転換路とから構成され,前記多孔質成形体は,前記外側方向転換路に形成された前記開口部を通じて露出している。
【0017】
また,前記エンドキャップの前記方向転換路に形成された前記開口部は,前記軌道路から離れた前記リターン路寄りに形成されている。
【0018】
また,前記エンドキャップの幅方向両側にそれぞれ形成された前記凹部には,前記多孔質成形体がそれぞれ配設され,一方の前記多孔質成形体は一方の前記循環路を転走する前記転動体に前記潤滑剤を給油し,他方の前記多孔質成形体は他方の前記循環路を転走する前記転動体に前記潤滑剤を給油する。
【0019】
また,前記エンドキャップの幅方向両側に形成された前記凹部は,中央に形成された連絡凹部で連通しており,両側の前記凹部にそれぞれ配設されている前記多孔質成形体は,前記連絡凹部に配設される連結部で一体構造に形成されている。
【0020】
また,前記多孔質成形体は,超高分子量の合成樹脂微粒子を押し固めて加熱成形された焼結樹脂で形成され,前記合成樹脂微粒子間が連通状態に保形された多孔部に形成され,前記多孔部に前記潤滑剤が含浸されている。更に,前記合成樹脂微粒子は,ポリエチレン又はポリプロピレンから構成されている。
【発明の効果】
【0021】
この発明による直動案内ユニットは,上記のように,循環路を転走するローラ又はボールの転動体への給油をスライダに設けた方向転換路において行うため,給油手段として多孔質成形体の一部を方向転換路に露出させ,方向転換路を転走する転動体を方向転換路に露出した多孔質成形体に接触させて転動体に潤滑剤を給油し,潤滑剤の転動体への給油のメンテナンスフリーを実現するものであって,転動体への給油を方向転換路で行うことによって給油手段の構造そのものを簡素化即ちシンプルに構成し,転動体への給油のメンテナンスフリーを確実に容易に安定して達成する。スライダ,具体的には,エンドキャップの端面に形成した凹部に多孔質成形体を配設し,多孔質成形体の導出部をエンドキャップの開口部に露出させ,しかも多孔質成形体が保形状態のオープンポアである互いに連通した多孔部を持つ構造に構成されて,特に,貯留部を方向転換路が位置していない領域に位置させて可及的に体積を大きく形成し,転動体が導出部の接触面に接触して転走することによって,潤滑剤が貯留部から導出部を通じて転動体に潤滑剤を付着させて給油させることができ,極めて簡潔な構成であるにもかかわらず,長期間にわたって極めて容易に安定して転動体に潤滑剤を供給でき,転動体への給油のメンテナンスフリーを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
この発明による直動案内ユニットは,主として,ローラ又はボールの転動体に対してエンドキャップに形成された方向転換路において潤滑剤を長期間にわたって確実に給油するメンテナンスフリーを達成したことに特徴を有している。この実施例は,転動体への潤滑剤の給油手段を転動体として円筒ころ即ちローラが使用されているタイプについて説明しているが,転動体がボールの場合にも同様に方向転換路において給油できるように構成されることは勿論である。
【0023】
以下,図面を参照して,この発明による直動案内ユニットの実施例について説明する。図1〜図5に示すように,この直動案内ユニットは,幅方向両側面42の長手方向に沿って一対の軌道面11(第1軌道面)がそれぞれ形成された長尺状の軌道レール1,軌道レール1に両袖部41が跨架して軌道レール1の長手方向にローラ5を介して摺動自在なスライダ2,並びに軌道レール1とスライダ2との間に形成される負荷軌道路である軌道路38,軌道路38に平行に延びるスライダ2に設けられたリターン路10,及び軌道路38とリターン路10とを連通する方向転換路30から成る循環路45を転走するローラ5とローラ5間に介在されたセパレータ46(図5)を有している。スライダ2は,主として,軌道レール1の軌道面11に対向して袖部50にそれぞれ形成された一対の軌道面12(第2軌道面)と軌道面12に平行なリターン路10が形成されたケーシング3,ケーシング3の摺動方向両端面35に配設され且つ軌道面11,12間に形成された上下の軌道路38と上下のリターン路10とを連通する方向転換路30(30A,30B)が形成されたエンドキャップ4,エンドキャップ4の摺動方向外側の端面47に配置され且つ軌道レール1とスライダ2との隙間をシールするリップ部16を備えたエンドシール15,及び循環路45を転走する複数のローラ5を有している。この直動案内ユニットは,スライダ2の両袖部50には,一対の循環路45がそれぞれ形成されている。図4に示すように,一対の循環路45のうち,一方の循環路45を転走するローラ5は,スライダ2の下方向の負荷を受けるケーシング3の下側の軌道路38からケーシング3の上側のリターン路10に循環し,また,他方の循環路45を転走するローラ5は,スライダ2の上方向の負荷を受けるケーシング3の上側の軌道路38から下側のリターン路10に循環して構成されている。
【0024】
図4,図6〜図9に示すように,方向転換路30(30A,30B)は,エンドキャップ4の袖部48に形成されており,エンドキャップ4の両袖部48において,方向転換路30Aと方向転換路30Bとがたすき掛けに交差状態にそれぞれ形成されている。エンドキャップ4は,方向転換路30の周面を形成するスペーサ7と方向転換路30の外周面を形成するエンドキャップ本体8とから構成されている。一対のスペーサ7は,エンドキャップ本体8の嵌合凹部に嵌入する大スペーサ7Aと大スペーサ7Aに嵌入する小スペーサ7Bとから構成されている。詳しくは,エンドキャップ4の背面において,エンドキャップ本体8に形成された嵌合凹部に,外側方向転換路30Aの内周面と内側方向転換路30Bの外周面の一部分とを形成する大スペーサ7A,及び内側方向転換路30Bの内周面を形成する小スペーサ7Bとが互いに交差状態に組み合わさってそれぞれ配設されている。即ち,エンドキャップ4の左側の袖部48における嵌合凹部に,まず,大きいサイズの大スペーサ7Aを嵌入し,次いで,大スペーサ7Aに交差状態に小さいサイズの小スペーサ7Bを嵌入し,それによって,左側の袖部48には,短円状でなる内側方向転換路30Bと長円状でなる外側方向転換路30Aとが交差状態に互い違いに形成される。そして,外側方向転換路30Aは,外周面を形成するエンドキャップ本体8と内周面を形成する大スペーサ7Aとが共働して形成され,また,内側方向転換路30Bは,外周面を形成するエンドキャップ本体8及び大スペーサ7Aと内周面を形成する小スペーサ7Bとが共働して形成されている。
【0025】
また,循環路45は,図5に示すように,負荷路である軌道路38,リターン路10,エンドキャップ本体8と大スペーサ7Aで形成された長円状の外側方向転換路30A,並びにエンドキャップ本体8,大スペーサ7A及び小スペーサ7Bで形成された短円状の内側方向転換路30Bによってそれぞれ形成されることになる。また,図9に示すように,エンドキャップ4の左右側即ち摺動方向に直交する方向では,内側方向転換路30Aと外側方向転換路30Bとの交差状態が互い違いの構造に構成されている。従って,図4に想像線で示す方向転換路30では,ケーシング3の右側の袖部41において,外側方向転換路30Aが下側の軌道路38と上側のリターン路10とを連通するように形成され,また,内側方向転換路30Bが上側の軌道路38と下側のリターン路10とを連通するように形成されている。また,ケーシング3の左側の袖部41において,外側方向転換路30Aが上側の軌道路38と下側のリターン路10とを連通するように形成され,また,内側方向転換路30Bが下側の軌道路38と上側のリターン路10とを連通するように形成されている。
【0026】
また,エンドキャップ本体8には,リターン路10に接続する連結凸部33が形成されている。連結凸部33は,方向転換路30の外周面側に形成され,スペーサ7と共働してリターン路10へと連通し,エンドキャップ4の方向転換路30とケーシング3のリターン路10とが滑らかに連通している。エンドキャップ4には,中央部及び/又は側面部に給油口29が形成され,必要以外の給油口29には給油口ねじ孔及び/又は側面の給油口ねじ孔28に埋栓を螺入して給油口29を閉鎖している。また,エンドキャップ4は,ケーシング3に対して位置決めされ,エンドキャップ4の取付け用孔22に通じてねじ44でケーシング3に固定されるので,スリーブ6がエンドキャップ4の連結凸部33に当接することによってスリーブ6とエンドキャップ4とが位置合わせされ,ケーシング3のリターン路10とエンドキャップ4の連結凸部33とは合致するようになる。従って,スリーブ6とエンドキャップ4の連結凸部33とが端面同士が当接することによって,リターン路10と方向転換路30との断面矩形状の循環路45が段差無く接続されている。エンドキャップ4に形成された方向転換路30とケーシング3の嵌挿孔9に嵌合したスリーブ6に形成されたリターン路10とが段差無く連通することにより,ローラ5は,方向転換路30からリターン路10へ,及びリターン路10から方向転換路30へとスムーズに転動循環することができる。
【0027】
この直動案内ユニットは,転動体がローラ5でなる小形の直動案内ユニットであり,図4に示すように,軌道路38を転走するローラ5は,保持板13によって保持され,スライダ2を軌道レール1から外した場合に,スライダ2からローラ5が脱落しないように構成されており,保持板13は,保持バンド23によりケーシング3の軌道路38に保持され,保持バンド23の両端がエンドキャップ4の保持バンド溝34に嵌入して係止することによって,スライダ2に固着されている。
【0028】
図6及び図7に示すように,エンドキャップ4には,エンドシール15側の端面47に凹部31が形成されており,凹部31は,端面47から形成された外側枠部24と内側枠部24Aに囲まれて形成された領域に位置しており,エンドキャップ自体を可及的に強度を維持しつつ軽量化するためと,成形時の金型の逃げ部を形成しており,エンドキャップ4の袖部48に形成された方向転換路30の領域では浅く,また,方向転換路30が位置しない上部の領域では深く形成されている。この実施例では,エンドキャップ4自体が小形に形成されているので,エンドキャップ4に形成された給油口29を形成するボス部53に凹部を形成するためのスペースが小さく,凹部31は,図6〜図8に示すように,エンドキャップ4の幅方向即ち摺動方向に直交する方向の左右両側に分かれてそれぞれ形成されている。また,凹部31は,給油口28の両側に形成された深さが大きい深部40,深部40から端面47側に広がる平面部49,及び平面部49から方向転換路30の一部を開口して形成された開口部37まで伸びる貫通部36に形成されている。更に,エンドキャップ4に設けた凹部31に形成された開口部37は,凹部31の貫通部36の先端部に位置しており,外側方向転換路30Aの軌道路38に遠いリターン路10寄りに開口しており,ローラ5の転走する方向に沿ってローラ5との接触長さを長くするように細長形状に形成されている。例えば,開口部37の大きさは,長方形状になり,長辺はローラ5の直径長さ相当であり,短辺はローラ長さの半分以下で形成されている。また,開口部37は,外側方向転換路30Aに開口して構成されており,エンドキャップ4の左右の袖部48では開口部37が形成された位置が異なっており,図8に示すように,右側では中間部に形成され,左側では下部に形成されている。従って,エンドキャップ4がケーシング3の両端面35に固着されているので,それぞれ一対の循環路45について,それぞれの循環路45では外側方向転換路30Aを通じて潤滑剤が給油されるものになっている。
【0029】
この直動案内ユニットは,特に,スライダ2を構成するエンドキャップ4の端面47に形成された凹部31に潤滑剤を含浸した多孔質成形体25を配設し,多孔質成形体25から外側方向転換路30Aを転走するローラ5に潤滑剤を給油することに特徴を有している。多孔質成形体25は,特に,凹部31内に嵌合する形状に形成されており,凹部31の深部40に嵌入して潤滑剤を多量に貯留するブロック形状の貯留部20,凹部31の平面部49に嵌入して貯留部20に連係して平板状でなる連係部19,及び凹部31の貫通部36に嵌入して連係部19から突出して方向転換路30の開口部37へ潤滑剤を導出する導出部26を備えている。また,多孔質成形体25の貯留部20は,エンドキャップ4の両側部即ち袖部48に形成された方向転換路30が位置していない領域の上部55に形成された深さが大きい深部40に嵌入して位置しており,エンドキャップ4に形成された凹部31に追従して可及的に体積が大きくなるように形成されている。エンドキャップ4の上部55の領域は,その中央部に設けた給油口29を形成するボス部53と取付け用孔22を形成するボス部54が設けられると共に,その周囲は外側枠体24及び内側枠体24Aで囲まれており,十分な剛性と強度を確保できているので,大きな肉ぬすみを形成することができ,深さの深い深部40を形成することができる。また,開口部37から僅かに突出して露出する多孔質成形体25の導出部26の先端部は,断面上で見て,開口部37の長手方向にあって,円弧でなる方向転換路30を直線状に横切る平面でなるテーパ面に形成されたものになっており,方向転換路30の曲路を転走するローラ5との接触状態が終始部分で零の突出量でなり,テーパ面の中央で最大の突出量になるので,ローラ5の接触面39への滑らかな接触状態を形成することができるように構成されている。この直動案内ユニットでは,エンドキャップ4には左右両側に凹部31が形成されているので,多孔質成形体25は左右両側の凹部31にそれぞれ嵌合されている。
【0030】
この直動案内ユニットでは,貯留部20は,具体的には,エンドキャップ4に両側に形成されたケーシング3への取付け用孔22と中央部に形成された給油口29との間の方向転換路30が位置していない領域に形成された凹部31の深部40に位置し,可及的に大きな体積に形成されている。即ち,多孔質成形体25は,潤滑剤を最大限に含浸できるように,可及的に体積を大きくするために,凹部31の深部40を最大限に利用する形状に対応して嵌合する貯留部20が設けられている。また,エンドキャップ4の右側の凹部31に嵌合された多孔質成形体25は,図11と図12に示すように,ローラ5に対する接触面39を備えた導出部26が中間部に形成されている。また,エンドキャップ4の左側の凹部31に嵌合された多孔質成形体25は,図13と図14に示すように,ローラ5に対する接触面39を備えた導出部26が下部に形成されている。従って,この直動案内ユニットが小形に構成されたとしても,多孔質成形体25には多量の潤滑剤が貯留部20に保留できるものになっており,凹部31に多孔質成形体25を嵌合するだけで,長期にわたる潤滑のメンテナンスフリーが実現できるものになっている。
【0031】
図5〜図7に示すように,多孔質成形体25は,保持バンド溝34を覆うように形成されているので,スライダ2の組み立てにあたっては,エンドキャップ4をケーシング3の端面35に配設し,保持バンド23をエンドキャップ4の保持バンド溝34に嵌入し係止した後に,エンドキャップ4の凹部31に多孔質成形体25を嵌合することによって多孔質成形体25をスライダ2に組み込むことができるように構成されている。
【0032】
また,多孔質成形体25は,超高分子量の合成樹脂微粒子を押し固めて加熱成形された焼結樹脂で形成され,焼結樹脂の合成樹脂微粒子間が連通状態に保形された多孔部に形成されており,潤滑剤が多孔部に含浸されて構成されている。従って,多孔質成形体25の潤滑剤の保持性が良好になっているので,凹部31に多孔質成形体25を嵌合するだけで,澗滑剤が自然に漏れ出てしまう現象が無いものになっている。また,合成樹脂微粒子が,ポリエチレン又はポリプロピレンからなる場合には,多孔質成形体25は,成形体として寸法精度も高精度に形成でき,複雑な形状でなる凹部31への嵌合が適合可能になり,ローラ5と接触する部分での目詰まりが無く,接触するローラ5へ潤滑剤を限りなく安定して給油できるものになっている。また,多孔質成形体25の導出部26に形成された接触面39は,ローラ5の方向転換路30を転走する方向に沿って細長形状に形成されており,それによって,転走するローラ5が接触面39に接触している期間を長くすることができ,ローラ5へ潤滑剤を限りなく安定して給油できるものになっている。
【0033】
この直動案内ユニットにおいて,ケーシング3に形成されたリターン路10は,スライダ2を構成するケーシング3に形成された嵌挿孔9に嵌挿された長手状でなるスリーブ6の通し孔で形成されている。スリーブ6は,例えば,潤滑剤を含浸できる多孔質成形体でなる焼結樹脂で一体構造又は分割面で分割されたパイプで形成されている。パイプは,パイプ自体の剛性を確保するためのパイプ本体と該パイプ本体に嵌合固定した潤滑剤を含浸保持して適正にローラ5を潤滑するための多孔質部材とから構成されている。また,スリーブ6は,ケーシング3の嵌挿孔9に遊嵌状態に配設されており,ケーシング3の両端面35に配置されたエンドキャップ4の連結凸部33によってスライダ2に固定状態に取り付けられている。また,図7〜図9に示すように,エンドキャップ4には,グリースニップル43等がねじ込まれ配設される給油口29,及び給油口29に続く油溝32が形成され,従来と同様に循環路45に潤滑剤が給油できるものになっており,多孔質成形体25は,給油口29の部分で分離された一対のものに構成されている。また,多孔質成形体25は,貯留部20を備えて十分な潤滑剤を長期にわたって供給できるので,潤滑剤を補給するための給油口29及び油溝32は,場合によっては設けなくてもよいものである。
【0034】
次に,図15〜図17を参照して,エンドキャップ4の別の実施例を説明する。別の実施例では,エンドキャップ4に形成された給油口29を形成するボス部53に凹部を形成する余地が有るものであり,エンドキャップ4の幅方向即ち摺動方向に直交する方向の左右両側の凹部31がボス部53の下方周囲のスペースに形成された連絡凹部51で連通して形成されている。多孔質成形体25は,可及的に体積を大きくするために,凹部31を最大限に利用する形状に形成されており,右側の凹部31に嵌合された多孔質成形体25と左側の凹部31に嵌合された多孔質成形体25から構成され,右側の多孔質成形体25と左側の多孔質成形体25とは,連絡凹部51に配設される連結部52で一体構造に形成されている。即ち,多孔質成形体25は,図6と図7に示すものと同様に,凹部31内に嵌合する形状に形成されており,凹部31の深部40に嵌入して多量の潤滑剤が貯留可能なブロック状でなる貯留部20,凹部31の平面部49に嵌入して貯留部20に連係して平板状でなる連係部19,及び凹部31の貫通部36に嵌入して連係部19から突出し方向転換路30に開口する開口部37へ潤滑剤を導出する導出部26を有すると共に,左右の貯留部20を連結する連結部52を有している。そして,多孔質成形体25は,右側の多孔質成形体25の導出部26が中間部に形成され,また,左側の多孔質成形体25の導出部26が下部に形成されている。
【0035】
この直動案内ユニットは,上記のように,潤滑剤を含浸した多孔質成形体25をエンドキャップ4の端面47の凹部31に嵌合して配設するだけで,ローラ5に給油することを可能にした簡素で簡単な構成になっている。また,ローラ5への給油の目的は,直動案内ユニットが負荷を受ける軌道路38に潤滑剤を供給されることであり,方向転換路30を通るローラ5が給油を受けることによって,給油された状態即ち潤滑剤が塗布された状態のローラ5が軌道路38に循環することによって達成されることになる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
この発明による直動案内ユニットは,工作機械,各種組立装置,搬送機械,各種ロボット,半導体製造装置,精密機械,測定・検査装置,医療機器,マイクロマシーン等の各種装置における摺動部に組み込んで利用され,潤滑剤のメンテナンスフリーを達成し,転動体への良好な潤滑,循環路での転動体の滑らかな転走を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】この発明による直動案内ユニットの実施例を示す正面図である。
【図2】図1の直動案内ユニットを示す平面図である。
【図3】図1の直動案内ユニットを示す側面図である。
【図4】図3のスライダからエンドキャップを取り外した状態を示す断面図である。
【図5】図1のスライダに形成された循環路を示す断面説明図である。
【図6】図1のエンドキャップの一例を示す正面図である。
【図7】図6のA−A断面におけるエンドキャップを示す断面図である。
【図8】図6のエンドキャップから多孔質成形体及びスペーサを取り外した状態であるエンドキャップ本体を示す正面図である。
【図9】図8のエンドキャップ本体を示す背面図である。
【図10】図8のエンドキャップ本体を示す側面図である。
【図11】図6のエンドキャップの右側の凹部に配設した多孔質成形体の一例を示す正面図である。
【図12】図11の多孔質成形体を示す側面図である。
【図13】図6のエンドキャップの左側の凹部に配設した多孔質成形体の一例を示す正面図である。
【図14】図13の多孔質成形体を示す側面図である。
【図15】図1のエンドキャップの別の例を示す正面図である。
【図16】図15のエンドキャップの凹部に配設した多孔質成形体の別の例を示す正面図である。
【図17】図16の多孔質成形体を示す下面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 軌道レール
2 スライダ
3 ケーシング
4 エンドキャップ
5 ローラ(転動体)
10 リターン路
11 軌道面(第1軌道溝)
12 軌道面(第2軌道溝)
13 保持板
15 エンドシール
19 連係部
20 貯留部
25 多孔質成形体
26 導出部
30 方向転換路
30A 外側方向転換路
30B 内側方向転換路
31 凹部
35 ケーシングの端面
36 貫通部
37 開口部
38 軌道路
39 接触面
40 深部
45 循環路
47 エンドキャップの端面
48 袖部(下部)
51 連絡凹部
52 連結部
53,54 ボス部
55 上部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に沿って第1軌道面が形成された軌道レール,及び前記軌道レールの長手方向に摺動自在なスライダから成り,前記スライダは,前記軌道レールの前記第1軌道面に対向して第2軌道面が形成され且つ前記第2軌道面と前記第1軌道面との間に形成される軌道路に平行に延びるリターン路が形成されたケーシング,前記ケーシングの両端面にそれぞれ取り付けられ且つ前記軌道路と前記リターン路とを連通する方向転換路が形成されたエンドキャップ,前記エンドキャップの端面に配設されたエンドシール,並びに前記軌道路,前記リターン路及び一対の前記方向転換路で構成される循環路を転走する複数のローラ又はボールの転動体を有する直動案内ユニットにおいて,
前記エンドキャップには,前記エンドシール側の端面に形成された凹部内に潤滑剤を含浸した多孔質成形体が嵌合され,前記エンドキャップの前記方向転換路の一部を開口して形成された開口部から前記方向転換路に前記多孔質成形体を露出状態に配置し,前記方向転換路を転走する前記転動体が前記多孔質成形体に接して前記潤滑剤が前記転動体に給油されることを特徴とする直動案内ユニット。
【請求項2】
前記エンドキャップに形成された前記凹部は,前記エンドキャップの上部に形成された深さが大きい深部,前記上部から下部へと広がる平面部,及び前記平面部から前記方向転換路の前記開口部まで伸びる貫通部から構成されていることを特徴とする請求項1に記載の直動案内ユニット。
【請求項3】
前記多孔質成形体は,前記深部に嵌合して前記潤滑剤を多量に貯留する貯留部,前記平面部に嵌合して前記貯留部に連係する平板状でなる連係部,及び前記貫通部に嵌合して前記連係部から延びて前記開口部へ前記潤滑剤を導出する導出部を備えていることを特徴とする請求項2に記載の直動案内ユニット。
【請求項4】
前記方向転換路に露出した前記多孔質成形体の前記導出部の端面は,前記転動体の転走する方向に沿って細長形状に形成されていることを特徴とする請求項3に記載の直動案内ユニット。
【請求項5】
前記多孔質成形体の前記貯留部は,前記エンドキャップの両袖部に形成された前記方向転換路が位置していない領域の前記上部に形成された前記深部の形状に追従して形成されたブロック形状に形成されていることを特徴とする請求項3又は4に記載の直動案内ユニット。
【請求項6】
前記循環路は,前記スライダの幅方向両側部に一対ずつそれぞれ形成され,前記方向転換路は前記ケーシングの前記両端面に配設された前記エンドキャップの両側においてたすき掛けに交差状態にそれぞれ形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項7】
前記エンドキャップに形成された前記方向転換路は,長手方向に隔置してそれぞれ形成された外側方向転換路と内側方向転換路とから構成され,前記多孔質成形体は,前記外側方向転換路に形成された前記開口部を通じて露出していることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項8】
前記エンドキャップの前記方向転換路に形成された前記開口部は,前記軌道路から離れた前記リターン路寄りに形成されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項9】
前記エンドキャップの幅方向両側にそれぞれ形成された前記凹部には,前記多孔質成形体がそれぞれ配設され,一方の前記多孔質成形体は一方の前記循環路を転走する前記転動体に前記潤滑剤を給油し,他方の前記多孔質成形体は他方の前記循環路を転走する前記転動体に前記潤滑剤を給油することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項10】
前記エンドキャップの幅方向両側に形成された前記凹部は中央に形成された連絡凹部で連通しており,両側の前記凹部にそれぞれ配設されている前記多孔質成形体は,前記連絡凹部に配設される連結部で一体構造に形成されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項11】
前記多孔質成形体は,超高分子量の合成樹脂微粒子を押し固めて加熱成形された焼結樹脂で形成され,前記合成樹脂微粒子間が連通状態に保形された多孔部に形成され,前記多孔部に前記潤滑剤が含浸されていることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項12】
前記合成樹脂微粒子は,ポリエチレン又はポリプロピレンから構成されていることを特徴とする請求項11に記載の直動案内ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2008−82433(P2008−82433A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−262816(P2006−262816)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(000229335)日本トムソン株式会社 (96)
【Fターム(参考)】