説明

真空バルブ用接点の製造方法

【課題】 本発明では、水素ガス中における溶浸の場合でも内部のポアが少なく密度の高い接点の製造方法を提供する。また、スケルトンを積み重ねて溶浸する場合に、積み重ねの境界部の接合状態を健全にすると同時に内部のポアも少なくできる接点の製造方法を提供する。
【解決手段】 外径30mm以上のCu−Cr接点の溶浸法による製造において、Crを主体とする粉末を金型で加圧して圧粉体を成形する工程と、該圧粉体を水素ガス中で焼結してスケルトンを形成する工程と、該スケルトンにCuを水素ガス雰囲気中で溶浸する工程を備え、該圧粉体の厚みを3mmないし5mmとする。また、スケルトンを積み重ねて溶浸する場合は、上記で得られた2つのスケルトンの間に溶浸用のCu板を挟んで積み重ね、Cu板の体積が該スケルトン2つ分の気孔体積の少なくとも1.05倍とし、下段の該スケルトンの側面に溶融Cu流出防止剤をコーティングした構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、特に高耐圧性能を要求される真空バルブ用接点の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高耐圧向けの真空バルブ用接点では、高耐圧の性質を有するCrを高導電体のCuやAgに分散させたCu−Cr系、Ag−Cr系の材料がよく用いられている。その製造方法としてはCr粉末とCu粉末またはAg粉末を混合して焼結する方法や、Cr粉末を主体して構成されるスケルトンを予め焼結しておいてこれにCuを溶浸させる方法などが知られている。高い耐圧性能を得るには接点内部のポアを少なくして接点の密度を高める必要があり、焼結法よりも溶浸法の方が高密度化しやすい傾向にあるため、高耐圧接点の製造法としてよく利用されている(特許文献1〜4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60−114502
【特許文献2】特開平8−77855
【特許文献3】特開平5−101752
【特許文献4】特開平5−225852
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の溶浸法によるCu−Cr系接点の製造では、Cr粉末を主体として構成されるスケルトンにCuを溶浸させる工程において、雰囲気が水素ガス中よりも真空中の方が内部のポアが少なくなることが示されている(特許文献1)。さらに、同じ真空中の溶浸でも、真空度が高い方が、接点の密度が高くなることが示されている(特許文献2)。これは、真空中での溶浸の場合、溶融CuがCrのスケルトンに浸透していく過程で仮にクローズドポアが局所的に形成されたとしても、該ポアの内部が真空であるためにある程度の時間が経てば溶融Cuがその部分に入り込んで塞がってしまう状況となるのに対し、水素ガス中での溶浸の場合はいったん形成されたクローズドポアは内部が水素ガスであるために気圧が障害となって時間が経っても溶融Cuがその中に入り込むことができず、この状況の差により真空中の方が水素ガス中の溶浸よりもポアが少なくなるものと考えられる。しかしながら、真空中の溶浸はCuの蒸気が炉内の至るところに蒸着してしまい、設備の保守管理の負担が大きいとともに、バッチ式の製造となるため生産性が低くなる問題がある。また、真空中の溶浸でもポアが多量に観察されるケースがあることが指摘されており(特許文献2)、その場合、同時にCrリッチな領域が観測されることが報告されている。これは、内部組織にある程度の不均一性が発生すると真空中であっても均一な溶浸が行えずに内部にポアが残ってしまうことを示しており、この場合は真空中の溶浸であっても高密度の接点を得ることができない。
【0005】
一方、水素ガス中の溶浸におけるポアの低減の試みもなされており、溶融CuとCrのスケルトンとの濡れ性向上の効果を有するBiを添加することが検討されている(特許文献3)。しかしながら、Biは低融点のため真空バルブの耐圧性能を悪化させる傾向にあり、必ずしも特性改善につながるとは言えない。
【0006】
さらに、接点内部のポアを低減するために別の視点からの改善策も検討されており、Crのスケルトンを上下に2つ積み重ねた状態とすることによりCu溶浸時の最終凝固部分が積み重ねの境界部に来るようにし、その部分に欠陥を濃縮させることで相対的に接点表面側のポアの濃度を減らす試みがなされている(特許文献4)。それによれば、溶浸に供するCuの量が過剰でないことが肝要であり、もしCuが過剰であるとCrのスケルトンの内部を満たすよりも早くスケルトンの外周周囲を濡らす傾向にあり、その結果、該スケルトン内部にランダムにポアが形成されてしまう問題があると指摘している。しかしこれは、溶浸に供するCu板の外径が該スケルトンよりも大きい場合に生じる現象であり、もしCu板の外径が該スケルトンよりも小さい場合には、溶融したCuは毛細管現象の作用で速やかにスケルトン上の設置面から吸収されていくためこのような問題は生じず、むしろ積み重ね境界部において、溶融Cuが上下のスケルトンに吸われてしまうために該境界部のCuが欠乏してしまい(引け巣が発生)、健全な接合状態を得ることができなくなる問題がある(図3)。
【0007】
本発明では、水素ガス中における溶浸の場合でも内部のポアが少なく密度の高い接点の製造方法を提供することを目的とする。特に接点の外径が30mm以上になると内部のポアが多発するようになって接点の健全性を保つことが急激に困難になるため、その点を解決できる製造方法を提供する。
【0008】
また、Crのスケルトンを積み重ねて溶浸する場合、積み重ねの境界部で発生するCuの引け巣の問題を解決し、接合状態を健全にすると同時に内部のポアも少なくできる接点の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
水素ガス中の溶浸では、接点内部にクローズドポアがいったんできるとそれが消えずに最後まで残ってしまい、特に外径が30mm以上になると残留ポアが多発する現象が見られることを述べたが、その原因を明らかにするため溶浸メカニズムを詳細に調べた結果、Crのスケルトンに溶融Cuが上部から浸透していく場合に、最初に上面部の表層に溶融Cuが染みこんだ後、内部中央に浸透するよりも早く、スケルトンの側面部表層へ浸透し、次いで底面部表層へ溶融Cuが先行して回り込む現象のあることがわかった(図1)。このことが、接点内部の中央付近にクローズドポアを発生させて接点の密度を低下させた原因といえる。側面部で先行する溶融Cuの浸透厚を調べた結果、Crの粒径にもよるが、概ね8〜12mmの範囲であり、また、底面部の同浸透厚は2〜3mmであることがわかった。このことから、接点の外径が30mmよりも小さい場合は、該スケルトンの側面部で先行する溶融Cuの浸透厚が中央付近まで達するので溶融Cuの回り込み現象が生じにくいが、外径がさらに大きくなると、スケルトンの側面部で先行する溶融Cuの浸透厚が中央まで及ばなくなるため溶融Cuの回り込みが生じて中央にクローズドポアが発生しやすくなるといえる。従ってこの現象は接点の外径が30mm以上の場合に生じる特有の問題とわかった。なお、該スケルトンの内部中央の溶融Cuの浸透が周囲に比べて遅いのは、その部分の密度が周囲に比べて低く(低密度領域の発生)、毛細管現象の作用力が相対的に小さくなっているためと考えられる。この低密度領域が発生する理由は、Crのスケルトンの製造過程でCr粉末を圧縮成形する際、金型に充填された粉末は上下面と側面から加圧力を受けて圧縮されるが、粉末の流動性の具合で加圧力が内部中央まで充分に伝わらない状況が生じたためと考えられる。
【0010】
そこでこの問題を解決するための本発明の真空バルブ用接点の製造法は、外径30mm以上のCu−Cr接点の溶浸法による製造において、Crを主体とする粉末を金型で加圧して圧粉体を成形する工程と、該圧粉体を水素ガス中で焼結してスケルトンを形成する工程と、該スケルトンにCuを水素ガス中で溶浸する工程を備え、該圧粉体の厚みを3mmないし5mmとする(図2)。
【0011】
また、2つのCrのスケルトンを上下に積み重ねて溶浸する場合にそれらの接合状態を健全にするには、2つのスケルトンに溶融Cuが完全に浸透し終わった後に、両スケルトンの境界部に余剰のCuが滞留するような状況をつくれば良い。
【0012】
そこで、本発明の真空バルブ用接点の製造法は、外径30mm以上のCu−Cr接点の溶浸法による製造において、Crを主体とする粉末を金型で加圧して圧粉体を成形する工程と、該圧粉体を水素ガス中で焼結してスケルトンを形成する工程と、2つの該スケルトンの間に溶浸用のCu板を挟んで積み重ねる工程と、積み重ねた2つの該スケルトンと溶浸用Cu板を水素ガス雰囲気中でCuの融点以上に加熱する工程を備え、該圧粉体の厚みを3mmないし5mmとし、Cu板の外径を2つの該スケルトンの外径よりも小さくし、Cu板の体積を該スケルトン2つ分の気孔体積の少なくとも1.05倍とし、下段の該スケルトンの側面に溶融Cu流出防止剤をコーティングした構成とする(図4)。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、圧粉体の厚みを、圧縮成形時の加圧力が粉末内部に充分に伝達される寸法としているため、圧粉体内部中央の低密度領域の発生が解消され、均質性に優れた圧粉体を得ることができる。そのため、Cu溶浸時に溶融Cuの浸透が均一に内部に進行し、従来のように局所的に溶浸から取り残される部分が発生しない。このため、内部にポアのない健全な接点を得ることができる。
【0014】
また、本発明の別の構成によれば、溶浸用のCu板の量を、2つのCrのスケルトンが溶融Cuで完全に充填される量の1.05倍としているので、2つのスケルトンに溶融Cuが完全に浸透し終わった後に、両スケルトンの境界部に余剰のCuが滞留できるようになり、かつ下段のCrのスケルトン側面を通して溶融Cuが流出するのを防止するコーティングを施しているので、2つの該スケルトンの境界部に発生しがちなCu欠乏層(引け巣)を解消することができる。そのため、2つのCrのスケルトンを上下に積み重ねて溶浸した場合に、両者の接合状態が健全な接点を得ることができる。また、圧粉体の厚みを、圧縮成形時の加圧力が粉末内部に充分に伝達される寸法としているため、圧粉体内部中央の低密度領域の発生が解消され、均質性に優れた圧粉体を得ることができる。さらに、溶浸用のCu板の外径を2つのCrのスケルトンの外径よりも小さくしているため、溶浸時に溶融Cuがスケルトンの外周部から回り込むことがない。そのため、Cu溶浸時に溶融Cuのスケルトン内部への浸透が均一に進行し、内部にポアのない健全な接点を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】従来の接点の製法において、Crのスケルトンの内部へ溶融Cuが浸透していく状況を示したCu−Cr接点の断面図である。
【図2】本発明の接点の製法において、Crのスケルトンの内部へ溶融Cuが浸透していく状況を示したCu−Cr接点の断面図である。
【図3】従来の接点の製法において、上下に積み重ねた2つのCrのスケルトンの内部へCuを溶浸する前と後の状態を示したCu−Cr接点の断面図である。
【図4】本発明の別の構成において、上下に積み重ねた2つのCrのスケルトンの内部へCuを溶浸する前と後の状態を示したCu−Cr接点の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施例を具体的に説明する。
【実施例1】
【0017】
Cr粉末を目空き径45μmと20μmのふるいに通して、20μm以上45μm以下の粒径とし、これにつなぎ材として数μmの粒径のCu粉末を少量添加して撹拌混合した後、内径90mmの金型内に充填して10MPaで加圧し、外径90mmの圧粉体を形成した。圧粉体の板厚は充填量を変えることにより調整し、3〜5mmの厚みの圧粉体を得た。得られた圧粉体を水素ガス雰囲気中、1100℃で2時間の焼結を行って所定の気孔率を有するCrを主体とするスケルトンを作製した。その後、外径85mmのCu板を該スケルトン上に乗せて、水素ガス雰囲気中、1150℃で1時間の加熱を行い、該Cu板を溶かして該スケルトン内部に浸透させ、外径90mm×板厚3〜5mmの60wt%Cu−40wt%Cr溶浸サンプルを得た。また、比較のため、金型への粉末の充填量を増やして板厚7〜15mmの圧粉体を成形し、その後は上記と同様の工程を経て外径90mm×板厚7〜15mmの60wt%Cu−40wt%Cr溶浸サンプルを得た。なお、サンプルは板厚の種類ごとに、内部組織(ポアの状態)観察用、密度測定用、耐圧性能評価用(破壊電圧測定用)の3個をそれぞれ作製した。内部組織の観察では、サンプルを直径方向に切断して光学顕微鏡により観察を行い、撮影した写真から断面中央部2mm×2mmの領域に見られるポアの総面積を計測した。また、密度測定では、板厚方向の中央部から外径80×板厚2.5mmの円板を切り出してアルキメデス法を用いて密度を評価し、真密度と比較して密度比を求めた。また、耐圧性能試験では、板厚方向の中央部から外径20mm×板厚2.5mmの円板を切り出して真空バルブに組み付けて接点間距離2mmの条件でインパルス電圧を徐々に上げながら破壊電圧を計測し、電圧印加回数の増加に伴う破壊電圧の増大プロファイルを計測してその飽和値から耐圧性能を評価した。なお、破壊電圧の計測の前にはAC100kVの電圧コンディショニングを行った。
【0018】
表1に評価結果を示す。表1の実施例1−1〜3に示すようにサンプルの板厚が3〜5mmでは内部のポアの総面積が小さく、密度比99%以上の高値が得られた。一方、比較例1−1〜4に見られるように、板厚が7mm以上になると急激に内部に存在するポアの総面積が大きくなり、99%以上の高い密度が得られなくなった。耐圧性能については、表1の破壊電圧の飽和値に示すように、実施例1−1〜3で149〜156kV程度の値を示し、他の比較例に比べて非常に高い値であった。
【0019】
以上から本実施例では、圧粉体の厚みを、圧縮成形時の加圧力が粉末内部に充分に伝達される3〜5mmとしているため、圧粉体中央部の低密度領域の発生が解消され、均質性に優れた圧粉体を得ることができる。そのため、Cu溶浸時に溶融Cuがスケルトン内部に均一に浸透し、従来のように局所的に溶浸から取り残される部分が発生しない。このため、内部にポアのほとんどない高密度の接点を得ることができ、真空バルブでは高い耐圧性能を得ることができる。
【0020】
【表1】

【実施例2】
【0021】
Cr粉末を目空き径45μmと20μmのふるいに通して、20μm以上45μm以下の粒径とし、これにつなぎ材として数μmの粒径のCu粉末を少量添加して撹拌混合した後、内径90mmの金型内に充填して所定の圧力で加圧し、外径75mm×板厚5mmの圧粉体を形成した。圧粉体の内部の気孔率を、加圧力を8〜25MPaの範囲で変えることにより調整し、種々の気孔率を有する圧粉体を得た。得られた圧粉体を水素ガス雰囲気中、1100℃で2時間の焼結を行って種々の気孔率を有するCrを主体とするスケルトンを作製した。その後、外径70mmのCu板を該スケルトン上に乗せて、水素ガス雰囲気中、1150℃で1時間の加熱を行い、該Cu板を溶かして該スケルトン内部に浸透させ、Cr量が異なる種々の組成のCu−Cr溶浸サンプルを得た。また、比較のため、加圧力を6MPaで圧粉体を成形し、その後は上記と同様の工程を経て70wt%Cu−30wt%Cr溶浸サンプルを得た。なお、サンプルは組成の種類ごとに、内部組織(ポアの状態)観察用、密度測定用、耐圧性能評価用(破壊電圧測定用)の3個をそれぞれ作製した。内部組織の観察では、サンプルを直径方向に切断して光学顕微鏡により観察を行い、撮影した写真から断面中央部2mm×2mmの領域に見られるポアの総面積を計測した。また、密度測定では、板厚方向の中央部から外径70mm×板厚2.5mmの円板を切り出してアルキメデス法を用いて密度を評価し、真密度と比較して密度比を求めた。また、耐圧性能試験では、板厚方向の中央部から外径20mm×板厚2.5mmの円板を切り出して真空バルブに組み付けて接点間距離2mmの条件でインパルス電圧を徐々に上げながら破壊電圧を計測し、電圧印加回数の増加に伴う破壊電圧の増大プロファイルを計測してその飽和値から耐圧性能を評価した。なお、破壊電圧の計測の前にはAC100kVの電圧コンディショニングを行った。
【0022】
表2に評価結果を示す。表2の実施例2−1〜7に示すようにサンプルのCr組成が35〜65wt%では、内部のポアの総面積が小さく、密度比99%以上の高値が得られた。一方、比較例2−1に見られるように、Cr組成が30wt%になると、急激に内部に存在するポアの総面積が大きくなり、99%以上の高い密度が得られなくなった。耐圧性能については、表2の破壊電圧の飽和値に示すように、実施例2−1〜7で149〜161kV程度の値を示し、比較例2−1に比べて非常に高いことがわかった。
【0023】
以上から本実施例では、圧粉体の厚みを、圧縮成形時の加圧力が粉末内部に充分に伝達される5mmとしているため、圧粉体中央部の低密度領域の発生が解消され、均質性に優れた圧粉体を得ることができる。そのため、Cu溶浸時に溶融Cuがスケルトン内部に均一に浸透し、従来のように局所的に溶浸から取り残される部分が発生しない。このため、Cr組成が35〜65wt%の範囲においても内部にポアのほとんどない高密度のCu−Cr接点を得ることができ、この結果、真空バルブでは高い耐圧性能を得ることができる。なお、Cr組成が30wt%の場合にポアが多くなって密度が低下するのは、Cr組成が低すぎるのでCrのスケルトン構造の維持が困難になり、内部に局所的に構造が不均一になる部分が発生し、溶融Cuの浸透性が不均一になるためと考えられる。
【0024】
【表2】

【実施例3】
【0025】
Cr粉末を目空き径45μmと20μmのふるいに通して、20μm以上45μm以下の粒径とし、これにつなぎ材として数μmの粒径のCu粉末を少量添加して撹拌混合した後、種々の内径を有する金型内に充填して10MPaで加圧し、外径30〜105mm×板厚4.5mmの圧粉体を形成した。得られた圧粉体を水素ガス雰囲気中、1100℃で2時間の焼結を行って所定の気孔率を有するCrを主体とするスケルトンを作製した。その後、Cu板を該スケルトン上に乗せて、水素ガス雰囲気中、1150℃で1時間の加熱を行い、該Cu板を溶かして該スケルトン内部に浸透させ、外径が異なる種々の60wt%Cu−40wt%Cr溶浸サンプルを得た。なお、Cu板は該スケルトンのサイズに応じて外径を変えて使用し、具体的には該スケルトンの外径に応じてそれよりも2〜5mm小さい外径のものを用いた。また、サンプルは外径の種類ごとに、内部組織(ポアの状態)観察用、密度測定用、耐圧性能評価用(破壊電圧測定用)の3個をそれぞれ作製した。内部組織の観察では、サンプルを直径方向に切断して光学顕微鏡により観察を行い、撮影した写真から断面中央部2mm×2mmの領域に見られるポアの総面積を計測した。また、密度測定では、板厚方向の中央部から外径25mm×板厚2.5mmの円板を切り出してアルキメデス法を用いて密度を評価し、真密度と比較して密度比を求めた。また、耐圧性能試験では、板厚方向の中央部から外径20mm×板厚2.5mmの円板を切り出しての真空バルブに組み付けて接点間距離2mmの条件でインパルス電圧を徐々に上げながら破壊電圧を計測し、電圧印加回数の増加に伴う破壊電圧の増大プロファイルを計測してその飽和値から耐圧性能を評価した。なお、破壊電圧の計測の前にはAC100kVの電圧コンディショニングを行った。
【0026】
表3に評価結果を示す。表3の実施例3−1〜6に示すようにいずれの外径のサンプルにおいても、内部のポアの総面積が小さく、密度比99%以上の高値が得られることがわかった。耐圧性能については、表3の破壊電圧の飽和値に示すように、149〜155kV程度の高い値を示した。
【0027】
以上から本実施例では、圧粉体の厚みを、圧縮成形時の加圧力が粉末内部に充分に伝達される4.5mmとしているため、圧粉体中央部のやや密度が低い領域の発生が解消され、均質性に優れた圧粉体を得ることができる。そのため、Cu溶浸時に溶融Cuがスケルトン内部に均一に浸透し、従来のように局所的に溶浸から取り残される部分が発生しない。このため、接点の外径が30〜105mmの範囲においても内部にポアのほとんどない高密度のCu−Cr接点を得ることができ、この結果、真空バルブでは高い耐圧性能を得ることができる。
【0028】
【表3】

【実施例4】
【0029】
Cr粉末を目空き径45μmと20μmのふるいに通して、20μm以上45μm以下の粒径とし、これにつなぎ材として数μmの粒径のCu粉末を少量添加して撹拌混合した後、内径90の金型内に充填して10MPaで加圧し、外径90mm×板厚5mmの圧粉体を形成した。また、Cr粉末を目空き径75μmと45μmのふるいに通して、45μm以上75μm以下の粒径とし、これにつなぎ材として数μmの粒径のCu粉末を少量添加して撹拌混合した後、内径90の金型内に充填して9MPaで加圧し、外径90mm×板厚5mmの圧粉体を形成した。また、Cr粉末を目空き径125μmと75μmのふるいに通して、75μm以上125μm以下の粒径とし、これにつなぎ材として数μmの粒径のCu粉末を少量添加して撹拌混合した後、内径90の金型内に充填して8MPaで加圧し、外径90mm×板厚5mmの圧粉体を形成した。得られた圧粉体を水素ガス雰囲気中、1100℃で2時間の焼結を行って所定の気孔率を有するCrを主体とするスケルトンを作製した。その後、外径85mmのCu板を該スケルトン上に乗せて、水素ガス雰囲気中、1150℃で1時間の加熱を行い、該Cu板を溶かして該スケルトン内部に浸透させ、Cr粉末粒径の異なる60wt%Cu−40wt%Cr溶浸サンプルを得た。なお、サンプルはCr粉末粒径の種類ごとに、内部組織(ポアの状態)観察用、密度測定用、耐圧性能評価用(破壊電圧測定用)の3個をそれぞれ作製した。内部組織の観察では、サンプルを直径方向に切断して光学顕微鏡により観察を行い、撮影した写真から断面中央部2mm×2mmの領域に見られるポアの総面積を計測した。また、密度測定では、板厚方向の中央部から外径80mm×板厚2.5mmの円板を切り出してアルキメデス法を用いて密度を評価し、真密度と比較して密度比を求めた。また、耐圧性能試験では、板厚方向の中央部から外径20mm×板厚2.5mmの円板を切り出して真空バルブに組み付けて接点間距離2mmの条件でインパルス電圧を徐々に上げながら破壊電圧を計測し、電圧印加回数の増加に伴う破壊電圧の増大プロファイルを計測してその飽和値から耐圧性能を評価した。なお、破壊電圧の計測の前にAC100kVの電圧コンディショニングを行った。
【0030】
表4に評価結果を示す。表4の実施例4−1〜3に示すようにいずれのサンプルにおいても、内部のポアの総面積が小さく、密度比99%以上の高値が得られることがわかった。耐圧性能については、表4の破壊電圧の飽和値に示すように、156〜159kV程度の高い値を示した。
【0031】
以上から本実施例では、圧粉体の厚みを、圧縮成形時の加圧力が粉末内部に充分に伝達される5mmとしているため、圧粉体中央部のやや密度が低い領域の発生が解消され、均質性に優れた圧粉体を得ることができる。そのため、Cu溶浸時に溶融Cuがスケルトン内部に均一に浸透し、従来のように局所的に溶浸から取り残される部分が発生しない。このため、Crの粉末粒径が、ふるい分級による20μm以上45μm以下の場合、45μm以上75μm以下の場合、75μm以上125μm以下の場合、のいずれについても、内部にポアのほとんどない高密度のCu−Cr接点を得ることができ、この結果、真空バルブでは高い耐圧性能を得ることができる。
【0032】
【表4】

【実施例5】
【0033】
Cr粉末を目空き径45μmと20μmのふるいに通して、20μm以上45μm以下の粒径とし、これにつなぎ材として数μmの粒径のCu粉末を少量添加して撹拌混合した後、内径75mmの金型内に充填して10MPaで加圧し、外径75mm×板厚4mmの圧粉体を2つ形成した。得られた2つの圧粉体を水素ガス雰囲気中、1100℃で2時間の焼結を行って所定の気孔率を有するCrを主体とするスケルトンを作製した。その後、該スケルトン2つ分の気孔体積の1.05倍になるよう外径70mm×板厚6.1mmのCu板を用意し、これを図4(a)に示すように上下に積み重ねた2つの該スケルトンの間に挟んで、水素ガス雰囲気中、1150℃で1時間の加熱を行い、該Cu板を溶かして該スケルトン内部に浸透させ、60wt%Cu−40wt%Cr溶浸サンプルを得た。また、該スケルトン2つ分の気孔体積の1.08倍になるよう外径70mm×板厚6.4mmのCu板を用意し、前記と同様に上下に積み重ねた2つの該スケルトンの間に挟んで、水素ガス雰囲気中、1150℃で1時間の加熱を行って60wt%Cu−40wt%Cr溶浸サンプルを得た。なお、これらのサンプルは、溶浸の前に下段のスケルトンの側面に、粒径2μmのアルミナ粉末を溶剤に分散させたペースト状のものを、溶融Cuの流出防止剤として予めコーティングしておいた。溶浸後のサンプルを直径方向に切断して光学顕微鏡により観察を行った結果、いずれのサンプルも図4(b)に示すように2つのスケルトンの境界部には厚み0.05mm程度のCu層が形成されており、内部に引け巣などの欠陥は見られなかった。よって、溶浸用のCu板の体積が溶浸対象のCrのスケルトンの気孔体積よりも5%または10%の余剰がある状態にした場合、境界部の接合状態は健全になっていることがわかった。なお、下段のCrのスケルトンの下部には溶融Cuの余剰分が残留していたが、サンプルの内部組織への影響は特に見られなかった。
【0034】
一方、比較のために上記と同様の2つのスケルトンを用意し、該スケルトン2つ分の気孔体積と同じになるよう外径70mm×板厚5.8mmのCu板を用意し、これを図3(a)に示すように上下に積み重ねた2つの該スケルトンの間に挟んで、水素ガス雰囲気中、1150℃で1時間の加熱を行い、該Cu板を溶かして該スケルトン内部に浸透させ、60wt%Cu−40wt%Cr溶浸サンプルを得た。溶浸後のサンプルを直径方向に切断して光学顕微鏡により観察を行った結果、図3(b)に示すように2つのスケルトンの境界部には厚み0.1mm程度のCu層が形成されていたが、Cu層の外縁や内部に引け巣が見られ、特に外縁部の引け巣は内径方向に数mmにわたって発生していた。よって、溶浸用のCu板の体積が溶浸対象のCrのスケルトンの気孔体積と同じ場合、境界部の接合状態が悪くなることがわかった。
【0035】
以上から、本実施例では溶浸用のCu板の量を、2つのCrのスケルトンが溶融Cuで完全に充填される量の1.05倍または1.1倍としているので、2つのスケルトンに溶融Cuが完全に浸透し終わった後に、両スケルトンの境界部に余剰のCuが滞留できるようになり、かつ下段のCrのスケルトン側面を通して溶融Cuが流出するのを防止するコーティングを施しているので、2つの該スケルトンの境界部に発生しがちなCu欠乏層(引け巣)を解消することができる。そのため、2つのCrのスケルトンを上下に積み重ねて溶浸した場合に、両者の接合状態が健全な接点を得ることができる。
【0036】
なお、溶融Cuの流出を防止するためのコーティング剤として本実施例では、アルミナ粉末を溶剤に分散させたものを用いたが、粉末としてはこれに限られることなく、シリカ粉末や、マグネシア粉末、ジルコニア粉末等の酸化物粉末や窒化ボロン粉末、窒化シリコン粉末等の窒化物粉末を用いることができる。
【0037】
また、本実施例では圧粉体の厚みを、圧縮成形時の加圧力が粉末内部に充分に伝達される寸法としているため、圧粉体内部中央の低密度領域の発生が解消され、均質性に優れた圧粉体が得られる。さらに、溶浸用のCu板の外径を2つのCrのスケルトンの外径よりも小さくしているため、溶浸時に溶融Cuがスケルトンの外周部から回り込むことがない。そのため、Cu溶浸時に溶融Cuのスケルトン内部への浸透が均一に進行し、内部にポアのない健全な接点が得られる。
【符号の説明】
【0038】
1:Crのスケルトン、2:溶浸用のCu板、3:クローズドポアの多発領域、4:Cuで溶浸されたCrのスケルトン、5:境界部のCu凝固層、6:引け巣、7:溶融Cu流出防止剤コート、8:溶融Cuの余剰分の残留物、9:台座

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外径30mm以上のCu−Cr接点の溶浸法による製造において、Crを主体とする粉末を金型で加圧して圧粉体を成形する工程と、該圧粉体を水素ガス雰囲気中で焼結してスケルトンを形成する工程と、該スケルトンにCuを水素ガス雰囲気中で溶浸する工程を備え、該圧粉体の成形厚さが3mmないし5mmであることを特徴とする真空バルブ用接点の製造方法。
【請求項2】
圧粉体の成形圧が8〜25MPaであり、Cr組成が35wt%以上であることを特徴とする請求項1記載の真空バルブ用接点の製造方法。
【請求項3】
外径30mm以上のCu−Cr接点の溶浸法による製造において、Crを主体とする粉末を金型で加圧して圧粉体を成形する工程と、該圧粉体を水素ガス雰囲気中で焼結してスケルトンを形成する工程と、2つの該スケルトンの間に溶浸用のCu板を挟んで積み重ねた状態で水素ガス雰囲気中でCuの融点以上に加熱する工程を備え、該圧粉体の厚みが3mmないし5mmであり、Cu板の外径が2つの該スケルトンの外径よりも小さく、Cu板の体積が該スケルトン2つ分の気孔体積の少なくとも1.05倍であり、下段の該スケルトンの側面に溶融Cu流出防止剤がコーティングされていることを特徴とする真空バルブ用接点の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−96497(P2011−96497A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248869(P2009−248869)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】