説明

真空処理装置

【課題】真空処理装置において、試料の位置ずれが発生した際にそのずれ量を抑制し、予期しない搬送動作の停止を防ぐ。
【解決手段】試料の搬送を行う真空搬送室において、ロボットによる前記搬送の動作中に生じるアーム上に載せられたウエハの加速度はアームの伸長の開始または収縮の終了の際の加速度が最大であって、搬送中の試料の位置ずれを検出し、そのずれ量が所定の閾値(許容値)を超えた場合に、ロボットのアームの伸長の開始または収縮の終了の際の加速度をA‘からAに低下させてずれ量が閾値を超えないようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の処理室を有して、各処理室内で半導体ウエハ等の試料を処理する真空処理装置に係り、特に、真空容器と連結されその内部を被処理基板が搬送される搬送容器を備えた真空処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような真空処理装置において、半導体ウエハ等の試料(以下、試料と呼ぶ)を搬送する際、試料の位置ずれが発生し、搬送エラーや処理不良の原因となっていた。
【0003】
試料の位置ずれに対し、特許文献1に記載のように位置ずれを検出し、処理室へ試料を搬送する際に位置ずれの方向や量を補正して処理不良を抑えるものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−123556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の従来技術では、以下の点について考慮が不十分であるため、問題が生じていた。
【0006】
すなわち、特許文献1では、補正可能な試料の位置ずれ量には限界があり、それを超えて試料の位置ずれが発生した場合には位置ずれエラーとして試料の搬送動作を停止するしかなく、予期しない装置の停止によって半導体の生産ラインが停止し、生産計画に多大な影響を与えてしまっていた。
【0007】
本発明の目的は、試料の位置ずれが発生した際にそのずれ量を抑制し、予期しない搬送動作の停止を防ぐことにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の真空処理装置は、試料の搬送を行う真空搬送室において、搬送中の位置ずれを検出し、そのずれ量が所定の閾値を超えた場合に搬送動作にかかる加速度を抑制してずれ量が閾値を超えないようにする。
【0009】
本発明の真空処理装置は、減圧された内部で処理対象のウエハが収納されて保持される真空容器と、減圧された内部で前記ウエハが搬送され外周に複数の前記真空容器が連結されこれらの内部同士が連通された真空搬送容器と、前記真空搬送容器の内部に配置され前記ウエハをアームの上面に載せて保持し前記アームによる伸長、収縮の動作と回転との動作により前記ウエハを前記複数の真空容器の一方から他方に搬送するロボットと、前記真空搬送容器の内部に配置されこの内部と前記連結された真空容器内部とを連通する通路の開口と前記アームとの間に配置されこのアームに載せられた前記ウエハの位置を検知するセンサと、前記センサの出力から得られた前記ウエハの位置の情報に基づいて前記ロボットの搬送の動作を調節する制御器と、を備え、前記ロボットによる前記搬送の動作中に生じる前記アーム上に載せられたウエハの加速度は前記アームの伸長の開始または収縮の終了の際の加速度が最大であって、前記制御器は前記センサにより検出された前記ウエハの位置のズレが所定の大きさを越えたと判定した場合に前記ロボットの前記アームの伸長の開始または収縮の終了の際の加速度を低下させることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の真空処理装置は、更に、前記センサが前記アームが収縮した状態でこの上に載せられた前記ウエハの外周端と前記開口との間に位置してこのウエハの前記外周縁の位置を検知するものであって、前記搬送の前記伸長または収縮の方向について後側の前記ウエハの外周縁が前記センサにより検知される前に前記加速度が最大となることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の真空処理装置は、更に、前記制御器は低下させた前記アームの伸長の開始または収縮の終了の際の前記ウエハの加速度が前記搬送の他の動作中に生じる加速度よりも大きくなるように前記ロボットの動作を調節することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の真空処理装置は、更に、前記ウエハは前記外周縁の外周側において前記アームとの間に前記ズレの所定の大きさよりも大きいすき間を開けて保持されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、試料の処理中に位置ずれが発生した場合でも、その原因となる動作の加速度を落とし、位置ずれを抑制することにより、予期しない装置の停止を防ぐことができ、半導体生産ラインへの影響を抑えることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は本発明の第1の実施例における装置の構成を示した図である。
【図2】図2は第1の実施例における真空搬送室の構成を示した図である。
【図3】図3は第1の実施例における真空搬送ロボットの構成を示した図である。
【図4】図4は第1の実施例における真空搬送ロボットの旋回動作時の試料の速度を示した図である。
【図5】図5は図4における試料に加わる加速度を示した図である。
【図6】図6は第1の実施例における真空搬送ロボットの伸縮動作におけるアームの角速度を示した図である。
【図7】図7は第1の実施例における真空搬送ロボットの伸縮動作における試料の速度を示した図である。
【図8】図8は図7における試料の加速度を示した図である。
【図9】図9は第1の実施例における搬送動作時の試料の速度を示した図である。
【図10】図10は図9において試料に加わる加速度を示した図である。
【図11】図11は試料に加わる加速度と位置ずれ量の関係を示した図である。
【図12】図12は図11における位置ずれ量の編曲点を拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0016】
図1乃至図6を用いて本発明の第1の実施例を説明する。図1は、本発明の第1の実施例に係る真空処理装置の全体的な構成の概略を示す図である。
【0017】
図1に示す本実施例に係る真空処理装置100は、大きく分けて、大気圧下で試料の搬送を行う大気搬送部101と、大気圧から減圧された圧力下で試料の搬送を行う真空搬送部102からなる。真空搬送部102は複数の真空搬送室105と、真空搬送室105に連結されたプロセスモジュール106からなる。プロセスモジュール106は真空圧下で試料の処理等を行うモジュールである。
【0018】
大気搬送部101は、内部に大気側搬送ロボット110を備えた略直方体形状の筐体103を有し、この筐体103の前面側(図上下側)に取付けられ、処理用又はクリーニング用の試料が収納されているカセットがその上に載せられる複数のカセット台111を備えている。
【0019】
真空搬送部102は、複数の真空搬送室105と、真空搬送室105−aと大気搬送部103との間に配置され試料を大気側と真空側との間でやりとりするロック室104と、真空搬送室105−aと105−bとの間に配置され、資料をやりとりする中間室107とを備えている。この真空搬送部102は減圧されて高い真空度の圧力に維持可能である。
【0020】
真空搬送室105内には、真空下で試料をロック室104もしくは中間室107とプロセスモジュール106内の処理室との間で搬送する真空搬送ロボット109がその中央に配置されている。この真空搬送ロボット109のアーム上に試料が載せられて、プロセスモジュール106の処理室内に配置された試料台上と何れかのロック室104もしくは中間室107内の試料台との間で搬入、搬出が行われる。これらプロセスモジュール106、ロック室104、中間室107と真空搬送室105内の搬送室との間は、各々気密に閉塞、開放可能なバルブ108により連通する通路が開閉される。
【0021】
カセット台102の何れか上に載せられたカセット内に収納された複数の半導体試料等の試料は、真空処理装置の動作を調節する図示しないユーザインターフェース装置が判断し、または、真空処理装置が設置される製造ラインのホスト等からの指令を受けて、その処理が開始される。
【0022】
ロック室104では、搬送された試料を収納した状態でバルブが閉塞されて密封され、所定の圧力まで減圧される。その後、真空搬送室105内の搬送室に面した側のバルブ108が開放されてロック室104内と真空搬送室105内とが連通され、真空搬送ロボット109のアームがロック室104内に伸張して、内部の試料を搬出する。真空搬送ロボット109上のアームに載せられた試料は、カセットから取り出される際に予め定められたプロセスモジュール106の何れか内の真空にされた処理室内に搬入される。
【0023】
ここで試料の搬送先が図上上側のプロセスモジュール106であった場合には、試料は中間室107を経由して真空搬送室105−bに搬送され、真空搬送室105−bの真空搬送ロボット109により所定のプロセスモジュール106内の処理室へ搬入される。
【0024】
試料が何れかのプロセスモジュール106内の処理室に搬送された後、この処理室内と真空搬送室105との間を開放、遮蔽するバルブ108が閉じられて処理室が封止される。この後、処理室内に処理用のガスが導入されプラズマが処理室内に形成されて試料が処理される。
【0025】
試料の処理が終了したことが検出されると、前記バルブ108が開放されて真空搬送ロボット109により、処理室内に搬入された場合と逆にロック室104へ向けて搬出される。ロック室104に試料が搬送されると、このロック室104内と真空搬送室105とを連通する通路を開閉するバルブ108が閉じられて内部が密封され、ロック室104内の圧力が大気圧まで上昇させられる。
【0026】
この後、大気搬送室103側のバルブ108が開放されてロック室104内と大気搬送室103とが連通され、大気側搬送ロボット110によりロック室104から元のカセットに試料が搬送され、カセット内の元の位置に戻される。
【0027】
図2は図1に示す真空搬送室105を拡大した図である。真空搬送室105は内部に真空搬送ロボット109を備え、ロック室104及び中間室107及びプロセスモジュール106とバルブ108を介して接続可能な構成となっており、真空搬送ロボット109の縮み位置の他モジュールと連結する方向にそれぞれ2つのウエハ検出センサ201を備えている。
【0028】
試料をあるモジュールから他のモジュールへ搬送する際、他モジュールから試料を搬入する時にウエハ検出センサ201により試料の真空ロボット109上での中心方向への位置ずれを検出することが可能となっている。
【0029】
図3は図1及び図2における真空搬送ロボット109の構成を示した図である。真空搬送ロボット109は、試料を保持するハンド部301、第一のアーム部302、第二のアーム部303からなり、第一のアーム部302及び第二のアーム部303は同期して動作を制御され、ハンド部301が直線方向(図上左右方向)にのみ動作するような構成となっている。これらの制御は図示しないコントローラによって行われ、動作速度及び加速度等のパラメータは同コントローラに設定可能となっている。
【0030】
ハンド部301上には試料を保持する為のパッド305が備えられ、試料をパッド305との摩擦力で保持する構成となっている。本実施例では試料の保持をパッド305による摩擦力で行うこととするが、静電吸着など、試料の保持方法については問わない。
【0031】
また、ハンド部301の根元には試料の脱落を防止するストッパ304を備え、ハンド部301上で試料が滑った場合でも試料を保持し続けることが出来るような構成となっている。
【0032】
図4及び図5を用いて真空搬送ロボット109の旋回動作において試料に加わる力について説明する。図4は真空搬送ロボット109の旋回動作時の速度であり、図5は旋回動作時の加速度を表した図である。
【0033】
真空搬送ロボット109の旋回動作は図4のようなS字加減速によって速度制御される。この時の加速度は図5のようになり、試料に加わる力の向きは加速度と慣性から加速時、減速時ともに旋回方向とは逆向きとなる。
【0034】
次に、図6乃至図8を用いて真空ロボット109の伸縮動作において試料に加わる力について説明する。図6は真空ロボット109のアーム部302及び303の回転角の速度を示した図であり、図7は試料を保持するハンド部301の速度、図8はハンド部301に加わる加速度を表している。
【0035】
伸縮動作においても、アーム部302及び303の角速度は旋回動作と同様、図6のようなS字加減速によって制御される。
【0036】
ここで、角速度が一定の時はハンド部301の速度はコサインカーブを描くため、加減速領域を考慮すると伸縮動作時のハンド部301の速度は図7のようになる。また、ハンド部301に加わる加速度は図7の微分値となるため、図8のようになる。
【0037】
伸縮動作時の最大加速度は伸ばし始め及び縮み終わりに発生し、この時に試料に加わる力の向きは双方ともハンド部301の根元方向(図3上左方向)になる。
【0038】
ここで、伸縮、旋回動作における最大加速度は伸縮動作時の方が大きくなるように設定するのが望ましい。この場合には、試料の位置ずれはハンド301の根元方向で始めに発生し、もし位置ずれ量が大きくなったとしても前記ストッパ304により試料が停止し、真空搬送室105の側面等に試料が干渉したり、ハンド部301から試料を取り落としたりすることが無い。
【0039】
次に、図9及び図10を用いて試料の位置ずれの検出方法について説明する。図9はロック室104から真空搬送室105−aに連結された何れかのプロセスモジュール106へ試料を搬送する際の試料の速度を示し、図10はその加速度を示している。尚、図9において、縮み動作は真空ロボット109の根元方向、旋回動作はロック室104からプロセスモジュール106へ旋回する方向、伸び動作は真空ロボット109の先端方向への速度の大きさを示している。
【0040】
ロック室104からプロセスモジュール106へ試料を搬送する際の動作は、ロック室104から試料を搬出(縮み動作)、プロセスモジュール106位置へ移動(旋回動作)、プロセスモジュール106へ試料搬入(伸び動作)という流れとなる。この時の試料の速度は前記伸縮動作と旋回動作の組合せであるので図9のようになり、加速度は図9の微分値となるので図10のようになる。
【0041】
ここで、試料の位置ずれは最大加速度(-αMAX)が発生した後、ロック室104からの試料の搬出時(図10鎖線時)において検出することができる。この時点で位置ずれが発生しなければ、以降の動作における加速度はそれと同じか小さい為、位置ずれは起こらないと考えられる。
【0042】
次に、図11及び図12を用いて本実施例における試料の位置ずれ量の抑制方法について説明する。図11は試料における位置ずれ量と試料にかかる加速度の関係を示した図であり、図12は図11における位置ずれ量が増加する領域を拡大した図である。
【0043】
初期状態(パッド305の劣化が無い状態)では位置ずれ量と加速度の関係は1101のような曲線を描く。この状態から経時変化等によりパッド305が劣化し、摩擦力が低下した場合、曲線1101から曲線1102の方向に遷移する。
【0044】
予め位置ずれ量に許容値と限界値を定め、装置のティーチング時に初期状態で許容値まで位置ずれが発生する加速度A‘を求めておき、それよりも小さな加速度Aを最大加速度とする動作で定常動作させる。
【0045】
パッド305の劣化が進み、動作の最大加速度Aで許容値701以上の位置ずれを検出した場合、予め求めていたA‘とAの差分をAから引いた加速度Bを次の動作の最大加速度とする。
【0046】
ここで、前記方法で求めた加速度Bはハンド部301上に試料が存在する時のみに適用し、ハンド部301上に試料が存在しない場合は最大加速度Aで動作させる。
【0047】
以上により、試料の位置ずれが発生した場合でも試料の搬送動作における最大化速度を抑制することにより位置ずれを抑制し、搬送エラーや処理不良の発生を防ぐことが出来る。
【符号の説明】
【0048】
100 真空処理装置
101 大気搬送部
102 真空搬送部
103 待機搬送室
104 ロック室
105 真空搬送室
106 プロセスモジュール
107 中間室
108 バルブ
109 真空搬送ロボット
110 大気搬送ロボット
111 カセット台
201 ウエハ検出センサ
301 ハンド部
302 第一のアーム
303 第二のアーム
304 ストッパ
305 保持パッド
1101 初期状態での加速度と位置ずれ量の関係を示す曲線
1102 パッド劣化状態での加速度と位置ずれ量の関係を示す曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧された内部で処理対象のウエハが収納されて保持される真空容器と、
減圧された内部で前記ウエハが搬送され外周に複数の前記真空容器が連結されこれらの内部同士が連通された真空搬送容器と、
前記真空搬送容器の内部に配置され前記ウエハをアームの上面に載せて保持し前記アームによる伸長、収縮の動作と回転との動作により前記ウエハを前記複数の真空容器の一方から他方に搬送するロボットと、
前記真空搬送容器の内部に配置されこの内部と前記連結された真空容器内部とを連通する通路の開口と前記アームとの間に配置されこのアームに載せられた前記ウエハの位置を検知するセンサと、
前記センサの出力から得られた前記ウエハの位置の情報に基づいて前記ロボットの搬送の動作を調節する制御器と、を備え、
前記ロボットによる前記搬送の動作中に生じる前記アーム上に載せられたウエハの加速度は前記アームの伸長の開始または収縮の終了の際の加速度が最大であって、前記制御器は前記センサにより検出された前記ウエハの位置のズレが所定の大きさを越えたと判定した場合に前記ロボットの前記アームの伸長の開始または収縮の終了の際の加速度を低下させることを特徴とする真空処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の真空処理装置であって、
前記センサが前記アームが収縮した状態でこの上に載せられた前記ウエハの外周端と前記開口との間に位置してこのウエハの前記外周縁の位置を検知するものであって、
前記搬送の前記伸長または収縮の方向について後側の前記ウエハの外周縁が前記センサにより検知される前に前記加速度が最大となることを特徴とする真空処理装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の真空処理装置であって、
前記制御器は低下させた前記アームの伸長の開始または収縮の終了の際の前記ウエハの加速度が前記搬送の他の動作中に生じる加速度よりも大きくなるように前記ロボットの動作を調節することを特徴とする真空処理装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の真空処理装置であって、
前記ウエハは前記外周縁の外周側において前記アームとの間に前記ズレの所定の大きさよりも大きいすき間を開けて保持されることを特徴とする真空処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−49357(P2012−49357A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190625(P2010−190625)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】