説明

真空注型装置用加熱ユニット

【課題】シリコーンゴム製の中空成形型内に熱可塑性樹脂を注入して成形する真空注型装置に用いられ、成形処理時において中空成形型の温度上昇の程度を抑制しながら当該中空成形型内に充填される熱可塑性樹脂を加熱することのできる真空注型装置用加熱ユニットを提供すること。
【解決手段】上記課題は、真空雰囲気形成室内に設置されたシリコーンゴム製の中空成形型内に熱可塑性樹脂を充填して成形する真空注型装置に用いられるものであって、ハロゲンランプと、近赤外域の波長範囲の光の透過率が高く、遠赤外域の波長範囲の光の吸収率が高いフィルタ部材とを具えてなり、ハロゲンランプよりの光がフィルタ部材を介してシリコーンゴム製の中空成形型に照射される構成とされた真空注型装置用加熱ユニットにより、達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばシリコーンゴム製の中空成形型内に成形用樹脂材料を充填して成形する真空注型装置において用いられる加熱ユニットに関し、特に、成形用樹脂材料として熱可塑性樹脂が用いられる真空注型装置用加熱ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば機械部品等の樹脂製工業製品の商品開発、あるいは量産化の必要がなく数千個以下の小ロットで製造が完了するような玩具の類の商品開発を行うに際しては、製品のデザインを決定したり、適宜の物性実験による評価を行ったりするために、試作品を作製することが行われている。
また、近年においては、自動車・機械・電気を中心とした各技術分野で、多品種少量生産の進展に加えて、従来の金属部品に代わってプラスチック部品も使用されるようになってきていることから、試作品を作製することが重要となっている。
【0003】
このような試作品や小ロットの商品を製造する方法として、例えばシリコーンゴムを金型の代わりに複製用の型として使用し、真空中でその型に対して成形用樹脂材料を流し込んで複製品を製作する、真空注型の技術が利用されており、例えば特許文献1および非特許文献1等に記載されている。
真空注型法によれば、真空雰囲気下において、型内に溶融状態とされた成形用樹脂材料を流し込むことにより、型の隅々まで成形用樹脂材料を注入することができるので、気泡ができにくくなり、得られる複製品(成形品)は非常に精度が高いものとなる。また、シリコーンゴム製の型を用いることにより、金型に比べて、短時間でかつ低コストで複製品を作製することができる。
【0004】
非特許文献1にも記載されているように、従来における真空注型法においては、成形用樹脂材料として、例えばポリウレタン樹脂が用いられてきた。
しかしながら、ポリウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂は、機械的強度が低いものであるので、例えばギアなどのムーブモデルを作製することができず、簡単に外形を見るだけのプロトモデルの作製の利用に専ら限られており、成形用樹脂材料それ自体の機械的強度により真空注型法による製品の用途の広がりが制限される、という問題がある。
このような問題に対して、ポリウレタン樹脂に替わる新たな成形用樹脂材料を用いることが求められている。
【0005】
【特許文献1】特開昭61−274909号公報
【非特許文献1】工業材料,日刊工業新聞社,1984年,第34巻,第12号,93頁〜108頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、例えばABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂)などの熱可塑性樹脂は、ポリウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂よりも機械的強度の高いものであり、例えばABS樹脂を真空注型法に用いることができれば、製品の用途は大きく広がることが期待される。
而して、ABS樹脂を用いる場合には、シリコーンゴム製の中空成形型内に注入するに際しては、予め前処理加熱によりABS樹脂を例えば200℃以上に加熱して粘性を小さくしておくこと(溶融状態にしておくこと)が必要である。
【0007】
一方、真空注型法においては、上述したように、成形用樹脂材料の注入作業は、真空雰囲気下で行われるため、真空室内を真空引きすることが必要となるが、工業的生産のため真空注型装置における真空室の容積は大きいものとされており、一般的には例えば0.6〜1m3 もあり、真空室内の真空度を例えば400Pa程度(3Torr)にするためには、排気能力が例えば2600L/minのロータリポンプを用いても5分間程度の時間を要する。
また、成形品をバリが少ないものとすると共に成形品取り出し後の修正を少なくするために、成形用樹脂材料の注入口は狭くせざるを得ないのが実情であり、中空成形型の大きさ(目的とする成形品の大きさ)にもよるが、成形用樹脂材料の注入充填作業にも所定時間の間、例えば少なくとも5分間以上の時間は必要となる。
従って、前加熱処理によってABS樹脂を所定温度に加熱して溶融状態としても、中空成形型に対する注入作業中に、ABS樹脂の温度は200℃をかなり下回る温度まで低下することとなるため、粘性が大きくなって流動性を失い、型内でムラが発生しやすくなる。このような理由から、ABS樹脂の成形においては、型内において所定時間の間溶融状態に保持されていること、すなわち例えば200℃付近の温度で5分間程度以上の時間の間保持されていることが必要である。
【0008】
一方、ABS樹脂の温度が低下することを考慮して、例えば前加熱処理においてABS樹脂を一層高い温度例えば250℃あるいはそれに近い温度に加熱しておけば、上記のような不具合が生ずることを防止することができるものと考えられるが、中空成形型を構成するシリコーンゴムの耐熱温度は例えば250℃前後であり、高温のABS樹脂が注入されることによってシリコーンゴムの温度が耐熱温度付近にまで達すると、熱変形を起こして成形物の寸法精度が落ちる、という問題が生ずる。
以上のように、真空注型装置においては、ABS樹脂などの熱可塑性樹脂を使用することができないのが実情であった。
【0009】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、シリコーンゴム製の中空成形型内に熱可塑性樹脂を注入して成形する真空注型装置に用いられ、成形処理時において中空成形型の温度上昇の程度を抑制しながら、当該中空成形型内に充填される熱可塑性樹脂を加熱することのできる真空注型装置用加熱ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の真空注型装置用加熱ユニットは、真空雰囲気形成室内に設置されたシリコーンゴム製の中空成形型内に熱可塑性樹脂を充填して成形する真空注型装置に用いられるものであって、
ハロゲンランプと、近赤外域の波長範囲の光の透過率が高く、遠赤外域の波長範囲の光の吸収率が高いフィルタ部材とを具えてなり、ハロゲンランプよりの光がフィルタ部材を介してシリコーンゴム製の中空成形型に照射されることを特徴とする。
本明細書において、「近赤外域の波長範囲の光」とは、波長0.78〜2μmの範囲の光を意味し、「遠赤外域の波長範囲の光」とは、波長4〜1000μmの範囲の光を意味し、これは、日本電熱協会における規定に基づくものである。
【0011】
本発明の真空注型装置用加熱ユニットにおいては、フィルタ部材が、シリコーンゴムを透過すると共に熱可塑性樹脂に吸収される波長範囲の近赤外域の光を透過する機能を有するものにより構成されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の真空注型装置用加熱ユニットにおいては、ハロゲンランプが面状光源を形成するよう構成されていることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明の真空注型装置用加熱ユニットにおいては、フィルタ部材が溶融石英ガラスによりなることが好ましい。
【0014】
さらにまた、本発明の真空注型装置用加熱ユニットにおいては、中空成形型内に充填される熱可塑性樹脂の温度を検知する温度検知手段と、この温度検知手段からの温度検知情報に基づいて、成型処理時における熱可塑性樹脂の温度が当該熱可塑性樹脂が溶融状態に維持される温度範囲内となるよう、ハロゲンランプの入力電力を制御する制御機構とを具えた構成とされていることが好ましい。
また、中空成形型の被光照射面温度を検知する温度検知手段をさらに具え、制御機構が、当該温度検知手段からの温度検知情報に基づいて、成型処理時における中空成形型の温度が当該中空成形型を構成するシリコーンゴムの耐熱温度以下に維持されるよう、ハロゲンランプの入力電力を制御する機能を有する構成とされていることが一層好ましい。ここに、「耐熱温度以下」とは、使用温度範囲の上限温度以下であることを意味する。
【0015】
さらにまた、本発明の真空注型装置用加熱ユニットは、真空雰囲気形成室内の状態を視認するための視認用窓が形成されてなる真空注型装置において、真空雰囲気形成室の外部に配置され、フィルタ部材によって前記視認用窓が構成されるよう、用いることができる。
また、本発明の真空注型装置用加熱ユニットは、熱可塑性樹脂としてABS樹脂が用いられる真空注型装置に好適である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の真空注型装置用加熱ユニットによれば、近赤外域の波長範囲の光の透過率が高く、遠赤外域の波長範囲の光の吸収率の高い特定の光学特性を有するフィルタ部材を具えていることにより、主に近赤外域の波長範囲の光が照射されるので、シリコーンゴム製の中空成形型の温度上昇の程度を抑制しながら当該中空成形型内に注入される成形用樹脂材料である熱可塑性樹脂を選択的に加熱することができる結果、当該熱可塑性樹脂を中空成形型内において溶融状態に維持することができ、これにより、ムラを生じさせることなく充填することができ、従って、得られる成形品(複製品)は、高い機械的強度を有すると共に高い寸法精度を有するものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の真空注型装置用加熱ユニットを具えてなる真空注型装置の一例における要部の構成を概略的に示す説明図用断面図である。
この真空注型装置は、排気装置11が接続された真空雰囲気形成室(以下、「真空室10」という。)を備えており、この真空室10内において、目的とする複製品を成形するための中空成形型15が設置されている。
中空成形型15は、例えば割型可能な一対の成形型が接合されて内部にキャビティCが形成されたシリコーンゴムよりなるものであって、例えば中空成形型15の上方位置に設けられた湯口16からキャビティC内に成形用樹脂材料が注入される構成とされている。
ここに、中空成形型15の樹脂注入口17の大きさは、例えばφ20mmである。
【0018】
中空成形型15を構成するシリコーンゴムとしては、従来より好適に用いられているものを用いることができ、例えば信越化学工業株式会社から市販されている真空注型汎用のシリコーンゴム「KE−1310ST」などが用いられている。
また、成形用樹脂材料としては、例えばABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂)などの熱可塑性樹脂が用いられる。
【0019】
この真空注型装置には、特定の波長域の光を照射することにより被加熱対象物を加熱する真空注型装置用加熱ユニット(以下、単に、「加熱ユニット20」という。)が設けられている。
加熱ユニット20は、図2にも示すように、真空室10内における中空成形型15の上方位置に配設された灯具20Aと、真空室10の外部に配置された、灯具20Aの動作状態を制御する点灯制御機構30と、温度検知部が灯具20Aによる中空成形型15の被光照射面(図1において上面)に接触状態で設けられて点灯制御機構30に接続された、例えばK熱電対よりなる第1の温度検知手段35と、温度検知部が中空成形型15におけるキャビティC内に充填される成形用樹脂材料例えばABS樹脂に接触状態とされるよう設けられて点灯制御機構30に接続された、例えばK熱電対よりなる第2の温度検知手段36とを具えている。
【0020】
灯具20Aは、例えばアルミニウムよりなる断面矩形枠状の筐体21を具え、この筐体21内に、例えば各々ランプ電力線31によって点灯制御機構30に接続された、複数本の直管状のハロゲンランプ22が並設されていると共にハロゲンランプ22の光照射方向後方側に例えばアルミニウムよりなる反射部材23が設けられており、これにより、面状光源を形成している。ここに、ハロゲンランプ22の配列ピッチは、例えば中空成形型15の上面の全域に実質的に均一な分布で光を照射することができるという理由から、例えば7〜20mmであることが好ましく、また、中空成形型15と灯具20Aとの離間距離の大きさは、例えば300〜750mmであることが好ましい。
反射部材23には、例えば水冷管23Aが反射部材23の肉厚中をハロゲンランプ22の管軸と平行に延びるよう形成されており、ハロゲンランプ22の点灯時において冷却水により冷却される。
【0021】
この灯具20Aには、筐体21の光照射用開口21Aを気密に塞ぐよう平板状のフィルタ部材25が設けられており、ハロゲンランプ22よりの光がフィルタ部材25を介して照射される。
フィルタ部材25は、近赤外域の波長範囲の光の透過率が高く、遠赤外域の波長範囲の光の吸収率が高いという光学特性を有する。具体的には、中空成形型15を構成するシリコーンゴムを透過すると共に成形用樹脂材料である熱可塑性樹脂に吸収される波長範囲の近赤外域の光を透過する機能を有するものにより構成されていることが好ましい。
ここに、「透過率が高い」とは、特定の波長範囲の光の透過率が70%以上であることをいい、「吸収率が高い」とは、特定の波長範囲の光の透過率が30%以下であることをいう。
【0022】
フィルタ部材25を構成する材質としては、例えば石英ガラス、液晶用ガラスに用いられる無アルカリガラスや、バイコール(登録商標)ガラスやパイレックス(登録商標)ガラス等を例示することができるが、これらのうちでも、石英ガラス特に溶融石英ガラスが好ましい。この理由は、溶融石英ガラスには、OH基が多く含まれているため、例えば波長2.7μm付近にあらわれる当該OH基による吸収ピークが大きくなり、不所望の波長範囲の光を確実に吸収することができるからである。
【0023】
フィルタ部材25の厚みは、例えば溶融石英ガラスを用いた場合には、例えば2.5〜8mmであることが好ましい。溶融石英ガラスについての波長2.7μm付近における吸収ピークは、厚みが大きくなるにつれて大きくなることから、厚みが2.5mmより小さい場合には、十分な大きさの吸収ピークを得ることができず、不所望の波長範囲例えば遠赤外域の光が多く照射されることになる。一方、厚みが8mmより大きい場合には、重量が重くなるのと共にコストが高くなり、実用上問題がある。
【0024】
加熱ユニット20を構成する点灯制御機構30は、例えばPID制御装置よりなり、第1の温度検知手段35によって検知される中空成形型15の被光照射面についての温度検知情報、および第2の温度検知手段36によって検知される中空成形型15内に充填される成形用樹脂材料と中空成形型15との境界面についての温度検知情報に基づいて、ハロゲンランプ22の入力電力を適正な大きさに制御する機能を有する。
【0025】
灯具20Aの動作制御方法、換言すればハロゲンランプ22の点灯制御方法について具体的に説明すると、加熱ユニット20による中空成形型15の被光照射面(図1において上面)に設けられた第1の温度検知手段35からの温度検知情報である信号電圧値および中空成形型15におけるキャビティC内に設けられた第2の温度検知手段36からの温度検知情報である信号電圧値に基づいてPID制御することにより、ハロゲンランプ22の入力電力の大きさが下記条件を満たすよう適正な大きさに調整される。
【0026】
条件(1)中空成形型15の表面温度がシリコーンゴムの耐熱温度以下例えば250℃以下の温度範囲内に維持されること。
条件(2)中空成形型15内に注入された熱可塑性樹脂(例えばABS樹脂)が溶融状態に維持される温度範囲内に維持されること。
【0027】
上記条件(1)を満たすことにより、中空成形型15が熱変形を起こすことを確実に防止することができる。
また、上記条件(2)を満たすことにより、成形用樹脂材料をムラを生じさせることなしに中空成形型15のキャビティCに充填することができる。
従って、上記条件を満たすことにより、得られる成形品(複製品)を確実に寸法精度の高いものとすることができる。
【0028】
上記真空注型装置を構成する加熱ユニット20の一構成例を示すと、真空室(10)が縦方向(図1において紙面に垂直な方向)の寸法が800mm、横方向(図1において左右方向)の寸法が800mm、高さ方向(図1において上下方向)の寸法が1000mmであるものであり、中空成形型(15)が縦方向の寸法が700mm、横方向の寸法が700mm、高さ方向の寸法が700mmであるものである場合に、筐体(21)が例えば縦方向の寸法が700mm、横方向の寸法が700mmであり、ハロゲンランプ(22)の数が63本、ハロゲンランプ(22)の配列ピッチが11mmであり、各ハロゲンランプ(22)は、長さが700mm、入力電力が850Wであるものである。
フィルタ部材(25)は、厚みが5mmの溶融石英ガラスよりなるものである。
【0029】
上記構成の真空注型装置においては、成形用樹脂材料である例えばABS樹脂を図示しない樹脂桶に入れて約200〜250℃に加熱する前加熱処理をしてこれを溶融し、溶融状態とされたABS樹脂を真空雰囲気下において湯口16から中空成形型15に徐々に流し込み、キャビティC内に充填されたABS樹脂を硬化処理することにより、目的とする成形品が作製されるが、上述したように、ABS樹脂の注入作業時においては、キャビティC内でABS樹脂が溶融状態に維持される温度例えば200℃程度に数分間の時間の間保持されることが必要とされることから、加熱ユニット20によってキャビティC内に充填されたABS樹脂を選択的に加熱することが行われる。
【0030】
すなわち、加熱ユニット20を構成するハロゲンランプ22は、例えば0.2〜15μmという幅広い発光スペクトルを有すると共に例えば1〜2μmの間にピーク波長を有するものであるところ、例えば溶融石英ガラスよりなる特定の厚みのフィルタ部材25の作用(透過波長範囲が例えば0.18〜3.8μm)によって、遠赤外域の光の多くはフィルタ部材25によって吸収され、例えば近赤外域の光を含む0.2〜3.8μmの波長範囲の光が主に照射されることとなる。
一方、中空成形型15を構成するシリコーンゴムは、例えば0.2〜2.2μmの波長範囲の光を透過すると共に2.2μm以上の波長の光を吸収する特性を有し、ABS樹脂は、例えば0.3〜3.2μmの波長範囲の光を吸収する特性を有し、従って、加熱ユニット20から照射される光のうち近赤外域の波長範囲の光はシリコーンゴム製の中空成形型15を透過してABS樹脂によって吸収され、これにより、ABS樹脂が選択的に加熱されることとなる。
【0031】
また、加熱ユニット20から照射される一部の波長範囲の光(具体的には2.2μm以上の光)は中空成形型15それ自体によって吸収されるが、第1の温度検知手段35によって中空成形型15の表面温度がモニターされると共に、第2の温度検知手段36によって中空成形型15のキャビティC内に充填されたABS樹脂の温度(厳密には中空成形型15のキャビティCを形成する壁面とABS樹脂との境界面の温度)がモニターされ、これらの温度検知手段35,36からの温度検知情報に基づいて適正な大きさに制御された入力電力でハロゲンランプ22が点灯されることにより、上記構成の真空注型装置によれば、中空成形型15の表面温度を例えば250℃(耐熱温度)以下の温度に維持して温度上昇の程度を抑制しながら、ABS樹脂を溶融状態が保持される例えば200〜250℃付近の温度となるよう選択的に加熱することができるので、ABS樹脂を中空成形型15のキャビティC内にムラを生じさせることなく充填することができる。
【0032】
実際に、前処理加熱によって例えば200〜250℃に加熱して溶融したABS樹脂を肉厚20mmのシリコーンゴム製の中空成形型15に充填して、例えば1.2μmに放射ピークを有する入力電力850Wのハロゲンランプ22を使用して光照射したところ、照射開始から160秒間の時間が経過した時点において、シリコーンゴム製の中空成形型15の表面温度が117℃、ABS樹脂の温度が196℃であり、ABS樹脂をキャビティC内で溶融状態に維持することができることが確認された。
従って、得られる成形品(複製品)は、高い機械的強度を有すると共にムラのない高い寸法精度を有するものとなる。
【0033】
また、本発明の加熱ユニット20によれば、中空成形型15の構成、例えば樹脂注入口17の径の大きさや、キャビティCの形状(目的とする成形品の形状)等の具体的な構成条件の制限が緩和されるので、設計の自由度が高くなる。
【0034】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
本発明の加熱ユニットが適用される真空注型装置は、真空室内の状態を視認するための視認用窓が形成されたものであってもよく、このような構成のものにおいては、例えば図3に示すように、加熱ユニット20を真空室10の外部に配置し、フィルタ部材25によって当該視認用窓40が構成されるよう用いることができる。なお、図3においては、図1に示すものと同一の構成部材については、便宜上、同一の符号が付してある。
このような真空注型装置によれば、例えば上下方向に長い縦長の成形物(複製品)を成形する際に、中空成形型15の側面側から光を照射して中空成形型15内に充填される成形用樹脂材料を確実に加熱することができる。また、加熱ユニット20が真空室10の外部に配置されていることにより、メンテナンスを容易に行うことができる。
【0035】
図3に示す構成からも明らかなように、本発明の加熱ユニットの、中空成形型に対する配置位置は、特に制限されるものではない。
加熱ユニットは、中空成形型の上面側または下面側から光照射されるよう配置されていても、側面側から光照射されるよう配置されていてもよい。
また、例えば2つの加熱ユニットを用いて中空成形型の上面側および下面側の両方から光照射される構成、あるいは、中空成形型の両側面側から光照射される構成とされていてもよい。
さらに、例えば図1に示す構成のものにおいて、中空成形型の下方位置に反射部材を設け、加熱ユニットから直接的に照射される光により中空成形型をその上面側から加熱すると共に反射部材による反射光によって中空成形型をその下面側から加熱するよう構成することもできる。
【0036】
また、本発明の加熱ユニットにおいては、ハロゲンランプは直管状のものに限定されるものではなく、例えば環状のものであってもよい。また、一端封止型のランプが多数並べて配置された構成とされていてもよい。
【0037】
さらに、本発明の加熱ユニットを具えた真空注型装置において用いられる成形用樹脂材料である熱可塑性樹脂は、特に限定されるものではなく、ABS樹脂以外にも、例えばポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂などを用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の加熱ユニットを具えた真空注型装置によれば、従来のものでは使用できなかった熱可塑性樹脂を成形用樹脂材料として使用することができるので、成形用樹脂材料それ自体の特性(物性)による成形品の用途の制限がなくなり、例えばギアなどのムーブモデル、自動車のバンパー、電気機器のパネルおよびその他の十分に高い機械的強度が要求されるモデルを作製する場合に、極めて有用なものとなることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の真空注型装置用加熱ユニットを具えてなる真空注型装置の一例における要部の構成を概略的に示す説明用断面図である。
【図2】本発明の真空注型装置用加熱ユニットの一構成例を示す説明用断面図である。
【図3】本発明の真空注型装置用加熱ユニットを具えてなる真空注型装置の他の例における要部の構成を概略的に示す説明用断面図である。
【符号の説明】
【0040】
10 真空室
11 排気装置
15 中空成形型
16 湯口
17 樹脂注入口
C キャビティ
20 加熱ユニット
20A 灯具
21 筐体
21A 光照射用開口
22 ハロゲンランプ
23 反射部材
23A 水冷管
25 フィルタ部材
30 ランプ点灯制御機構
31 ランプ電力線
35 第1の温度検知手段
36 第2の温度検知手段
40 視認用窓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空雰囲気形成室内に設置されたシリコーンゴム製の中空成形型内に熱可塑性樹脂を充填して成形する真空注型装置に使用する真空注型装置用加熱ユニットであって、
ハロゲンランプと、近赤外域の波長範囲の光の透過率が高く、遠赤外域の波長範囲の光の吸収率が高いフィルタ部材とを具えてなり、ハロゲンランプよりの光がフィルタ部材を介して前記シリコーンゴム製の中空成形型に照射されることを特徴とする真空注型装置用加熱ユニット。
【請求項2】
フィルタ部材は、シリコーンゴムを透過すると共に熱可塑性樹脂に吸収される波長範囲の近赤外域の光を透過する機能を有することを特徴とする請求項1に記載の真空注型装置用加熱ユニット。
【請求項3】
ハロゲンランプは面状光源を形成することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の真空注型装置用加熱ユニット。
【請求項4】
フィルタ部材が溶融石英ガラスよりなることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の真空注型装置用加熱ユニット。
【請求項5】
中空成形型内に充填される熱可塑性樹脂の温度を検知する温度検知手段と、この温度検知手段からの温度検知情報に基づいて、成型処理時における熱可塑性樹脂の温度が当該熱可塑性樹脂が溶融状態に維持される温度範囲内となるよう、ハロゲンランプの入力電力を制御する制御機構とを具えていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の真空注型装置用加熱ユニット。
【請求項6】
中空成形型の被光照射面温度を検知する温度検知手段をさらに具え、
制御機構は、当該温度検知手段からの温度検知情報に基づいて、成型処理時における中空成形型の温度が当該中空成形型を構成するシリコーンゴムの耐熱温度以下に維持されるよう、ハロゲンランプの入力電力を制御する機能を有することを特徴とする請求項5に記載の真空注型装置用加熱ユニット。
【請求項7】
真空注型装置は、真空雰囲気形成室内の状態を視認するための視認用窓が形成されてなるものであり、
加熱ユニットは、真空雰囲気形成室の外部に配置されて、フィルタ部材によって前記視認用窓を構成することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の真空注型装置用加熱ユニット。
【請求項8】
熱可塑性樹脂としてABS樹脂が用いられることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の真空注型装置用加熱ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−216444(P2007−216444A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−37549(P2006−37549)
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】