説明

真空蒸着装置、膜厚測定方法、真空蒸着方法

【課題】成膜した薄膜の膜厚を従来より広い範囲で測定できる膜厚測定方法と、均一な膜厚の薄膜を成膜する真空蒸着装置及び真空蒸着方法を提供する。
【解決手段】
薄膜材料60に電子線を照射して、薄膜材料60から蒸気を放出させ、成膜対象物80を薄膜材料60に対して走行移動させながら、成膜対象物80の表面に薄膜を成膜する際に、薄膜材料60から放出され、成膜対象物80上のX線検出装置20で薄膜と成膜対象物80とを透過した透過X線の強度を検出し、あらかじめ記憶された透過X線の強度と薄膜の膜厚との対応関係から、成膜対象物80に形成された薄膜の膜厚を測定する。測定結果を基準値と比較して、比較結果から、成膜対象物80の移動速度や電子線の照射位置の移動速度を変更し、薄膜の膜厚を増減させることで、薄膜の膜厚を基準値に近づける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空蒸着装置、膜厚測定方法、真空蒸着方法に係り、特に電子線の照射により薄膜材料を蒸発させて真空蒸着を行う分野に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、高速の連続巻取式真空蒸着装置には、比較的エネルギーが大きく、照射対象物を溶解、蒸発、昇華等させることができるハイパワーの電子線を放出する電子銃が用いられている。
ここでハイパワーの電子線とは、エネルギーが数kV〜数十kV、電流がアンペアオーダー、出力が数kW〜千kW、さらにはそれ以上の出力を有する電子線のことである。
従来の真空蒸着装置は、容積が1m3以上の比較的大きな真空槽と、真空槽内を真空排気する真空排気装置と、真空槽内に電子線を放出する電子銃と、照射対象物を保持するための照射材料容器とを有している。照射材料容器はここでは水冷ハースであり、通常熱伝導の良い銅でできている。
照射対象物は、主にアルミニウム、チタン、銅等の金属である。
真空排気された真空槽内で、これらの照射対象物に電子銃から電子線を照射して、照射対象物から蒸気を放出させ、放出された蒸気を成膜対象物の表面に到達させて、成膜対象物の表面に薄膜を成膜する。
このように成膜した薄膜の膜厚測定方法としては、従来、可視光の透過吸収量を検出する方式が用いられていた。
しかしながら、可視光の透過吸収量を検出する方式では、装置一台あたり約600万円以上の大きなコストが必要であり、また可視光の透過力が弱いために測定可能な膜厚範囲が狭い(アルミニウムの薄膜で0.3μm程度以下)という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−172532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その目的は、成膜した薄膜の膜厚を従来より広い範囲で測定できる膜厚測定方法と、均一な膜厚の薄膜を成膜できる真空蒸着装置及び真空蒸着方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために本発明は、真空槽と、前記真空槽内を真空排気する真空排気装置と、前記真空槽内に電子線を放出可能に構成された電子銃と、を有し、前記真空槽内に配置される薄膜材料に前記電子銃から電子線を照射して、前記薄膜材料から蒸気を放出させ、前記蒸気が入射する位置に配置される成膜対象物の表面に薄膜を成膜する真空蒸着装置であって、前記成膜対象物から見て前記薄膜材料の逆側に配置され、前記電子線を照射された前記薄膜材料から放出され、前記薄膜と前記成膜対象物とを順に透過した透過X線の強度を検出するX線検出装置と、前記透過X線の強度と前記薄膜の膜厚との対応関係があらかじめ記憶された記憶装置と、前記X線検出装置で検出された前記透過X線の強度と、前記記憶装置に記憶された前記対応関係とから、前記薄膜の膜厚を測定する測定装置と、を有する真空蒸着装置である。
本発明は真空蒸着装置であって、前記成膜対象物の表面に薄膜を成膜させながら、前記成膜対象物を前記薄膜材料に対して走行移動させる成膜対象物移動部を有する真空蒸着装置である。
本発明は真空蒸着装置であって、前記測定装置で測定された前記薄膜の膜厚と基準値とを比較し、比較結果から、前記成膜対象物表面に形成される前記薄膜の膜厚を増減させ、前記成膜対象物表面に形成される前記薄膜の膜厚を前記基準値に近づけるように構成された制御装置を有する真空蒸着装置である。
本発明は真空蒸着装置であって、前記制御装置は、前記成膜対象物移動部を制御して、前記成膜対象物の移動速度を変化させて、前記成膜対象物表面に形成される前記薄膜の膜厚を増減させるように構成された真空蒸着装置である。
本発明は、前記電子銃は前記電子線の照射方向を変化させ、前記電子線の前記薄膜材料表面上の照射位置を移動させるように構成された真空蒸着装置であって、前記制御装置は、前記照射位置の移動速度を変更して、前記成膜対象物表面に形成される前記薄膜の膜厚を増減させるように構成された真空蒸着装置である。
本発明は真空蒸着装置であって、前記測定装置で測定された前記薄膜の膜厚と基準値とを比較し、比較結果から、前記成膜対象物表面に形成される前記薄膜の膜厚を増減させ、前記成膜対象物表面に形成される前記薄膜の膜厚を所定値に近づけるように構成された制御装置を有し、前記電子銃は前記電子線の照射方向を変化させ、前記電子線の前記薄膜材料表面上の照射位置を移動させるように構成され、前記測定装置は、前記成膜対象物上で、前記成膜対象物の走行方向とは垂直な方向の複数の測定位置の膜厚を測定するように構成され、前記制御装置は、各前記測定位置での前記膜厚の測定値を前記基準値と比較し、前記薄膜材料上の各前記測定位置と対面する場所での前記照射位置の移動速度を前記照射位置毎に変更するように構成された真空蒸着装置である。
本発明は、前記成膜対象物は、帯状のフィルムである真空蒸着装置であって、前記成膜対象物移動部は、前記成膜対象物の移動方向に対して前記蒸気が入射する位置より終点側で、前記フィルムを巻き取るように構成された真空蒸着装置である。
本発明は、真空排気された真空槽内で薄膜材料に電子線を照射して、前記薄膜材料から蒸気を放出させ、前記蒸気が入射する位置に配置された成膜対象物の表面に薄膜を成膜する際に、前記薄膜の膜厚を測定する膜厚測定方法であって、前記成膜対象物の表面に薄膜を成膜する前に、前記薄膜材料から放出され、前記薄膜と前記成膜対象物とを順に透過した透過X線の強度と、前記薄膜の膜厚との対応関係を記憶しておき、前記成膜対象物の表面に薄膜を成膜する際に、前記透過X線の強度を検出し、検出した前記透過X線の強度と、記憶した前記対応関係とから、前記薄膜の膜厚を測定する膜厚測定方法である。
本発明は、真空排気された真空槽内で薄膜材料に電子線を照射して、前記薄膜材料から蒸気を放出させ、前記成膜対象物を前記薄膜材料に対して走行移動させながら、前記成膜対象物の表面に薄膜を成膜する真空蒸着方法であって、前記成膜対象物の表面に薄膜を成膜する前に、薄膜の膜厚の基準値を決めておき、前記成膜対象物の表面に薄膜を成膜する際に、前記膜厚測定方法で前記薄膜の膜厚を測定し、測定した前記薄膜の膜厚と前記基準値とを比較し、比較結果から、前記成膜対象物表面に形成される前記薄膜の膜厚を増減させ、前記成膜対象物表面に形成される前記薄膜の膜厚を前記基準値に近づける真空蒸着方法である。
本発明は真空蒸着方法であって、測定した前記薄膜の膜厚と前記基準値とを比較した後、比較結果から、前記成膜対象物の移動速度を変化させて、前記成膜対象物表面に形成される前記薄膜の膜厚を増減させる真空蒸着方法である。
本発明は、前記薄膜材料に前記電子線を照射する際に、前記電子線の照射方向を変化させ、前記電子線の前記薄膜材料表面上の照射位置を移動させる真空蒸着方法であって、測定した前記薄膜の膜厚と前記基準値とを比較した後、比較結果から、前記照射位置の移動速度を変更して、前記成膜対象物表面に形成される前記薄膜の膜厚を増減させる真空蒸着方法である。
本発明は、真空排気された真空槽内で前記薄膜材料に前記電子線を照射する際に、電子線の照射方向を変化させ、電子線の薄膜材料表面上の照射位置を移動させて、前記薄膜材料から蒸気を放出させ、前記成膜対象物を前記薄膜材料に対して走行移動させながら、前記成膜対象物の表面に薄膜を成膜する真空蒸着方法であって、前記成膜対象物の表面に薄膜を成膜する前に、薄膜の膜厚の基準値を決めておき、前記成膜対象物の表面に薄膜を成膜する際に、前記成膜対象物上で、前記成膜対象物の走行方向とは垂直な方向の複数の測定位置の膜厚を前記膜厚測定方法で測定し、各前記測定位置での前記膜厚の測定値を前記基準値と比較し、比較結果から、前記薄膜材料上の各前記測定位置と対面する場所での前記照射位置の移動速度を前記照射位置毎に変更して、前記成膜対象物に形成される前記薄膜の膜厚を増減させ、前記成膜対象物表面に形成される前記薄膜の膜厚を前記基準値に近づける真空蒸着方法である。
【0006】
前記電子線の前記薄膜材料表面上の照射位置を移動させる際には、前記照射位置を前記成膜対象物の移動方向に対して垂直な成分を有する移動速度で移動させる。
【発明の効果】
【0007】
蒸着した薄膜の膜厚測定を、従来の可視光の透過吸収量を検出する方式に比べて、半分程度のコストで実行できる。また、従来の水晶膜厚計方式に比べて、運転コストがかからない。
測定できる薄膜の膜厚範囲(ダイナミックレンジ)を従来の可視光の透過吸収量を検出する方式に比べて、成膜材料の光透過性やX線透過性といった条件に依存するが条件が悪くても10倍以上、条件が良ければ100倍以上拡大できる。
膜厚が均一で品質の良い薄膜製品を生産することが可能となる。例えば、フィルムコンデンサー、磁気テープ等の高記憶メディア、熱線遮断膜等の光応用フィルム等の品質向上に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明である真空蒸着装置の内部構成図
【図2】X線検出装置の周辺を立体的に示した模式図
【図3】電子銃の構造を説明するための概略構成図
【図4】X線検出装置の構造を説明するための概略構成図
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明である真空蒸着装置の構造を説明する。
図1は真空蒸着装置10の内部構成図を示している。
真空蒸着装置10は、真空槽11と、真空排気装置13と、薄膜材料容器50と、電子銃30と、成膜対象物保持部70と、X線検出装置20とを有している。
真空排気装置13は真空槽11に接続され、真空槽11内を真空排気するように構成されている。
薄膜材料容器50は、ここではボート状の水冷銅ハースであり、平面形状が細長の凹部を有している。凹部の長手方向の長さは後述する成膜対象物80の成膜領域の幅よりも1割〜2割長くされている。
薄膜材料容器50は、凹部の開口を上方に向けた状態で、真空槽11内の底部に配置され、凹部の内側に薄膜材料60を保持できるように構成されている。
真空槽11の側壁には薄膜材料追加装置12が、側壁を気密に貫通するように設けられている。薄膜材料追加装置12は、真空槽11内の真空雰囲気を維持したまま、真空槽11の外側から内側に薄膜材料60を搬入し、薄膜材料60を薄膜材料容器50の凹部に装填するように構成されている。
【0010】
図3は電子銃30の概略構成図を示している。
電子銃30は一端に銃口114が設けられた有底筒状の筐体31を有している。
筐体31の内側には中心軸線上にガン室110と接続路111と中間室112と放出路113とが、筐体31の底部から銃口114に向かってこの順に並んで設けられている。
ガン室110と中間室112にはそれぞれ不図示の真空排気部が接続され、真空排気部は各室内110、112をそれぞれ真空排気可能に構成されている。接続路111は内周がガン室110や中間室112よりも小さく形成され、ガン室110内と中間室112内を接続するように構成され、従って、ガン室110と中間室112と接続路111とで差動排気構造を成している。接続路111の内側には仕切バルブ39が配置されている。
中間室112内は放出路113を介して銃口114に接続されている。
以下、筐体31のガン室110側を上流、その逆の銃口114側を下流と呼ぶ。
【0011】
ガン室110内には、筐体31の中心軸線上にフィラメント32とカソード33とウェーネルト34とアノード35とが、上流から下流に向かってこの順に並んで配置されている。
フィラメント32にはフィラメント電源41が電気的に接続されている。フィラメント電源41はフィラメント32に電流を流してフィラメント32を加熱できるように構成されている。
フィラメント32とカソード33にはカソード加熱電源42が電気的に接続されている。カソード加熱電源42はフィラメント32に対してカソード33の電位が正になるように、フィラメント32とカソード33との間に電圧を印加可能に構成されている。
ウェーネルト34はカソード33よりも内周の大きい無底の円筒形状に形成され、自身の中心軸線が筐体31の中心軸線と一致するように向けられている。ウェーネルト34はカソード33に電気的に接続されている。
アノード35は無底の円筒形状に形成され、自身の中心軸線が筐体31の中心軸線と一致するように向けられている。アノード35は筐体31に電気的に接続されている。
【0012】
筐体31とカソード33には高電圧電源43が電気的に接続されている。高電圧電源43は筐体31の電位、すなわちアノード35の電位に対してカソード33の電位が負になるように筐体31とカソード33との間に電圧を印加可能に構成されている。
アノード35よりも下流には筐体31の中心軸線に沿って第一のレンズ36と第二のレンズ37と揺動コイル38とがこの順に並んで配置されている。
ここでは第一のレンズ36は接続路111の外側に接続路111を囲むように配置され、第二のレンズ37は放出路113の外側に放出路113を囲むように配置されている。
第一、第二のレンズ36、37にはそれぞれレンズ電源44が電気的に接続されている。レンズ電源44は、第一のレンズ36に電流を流して接続路111内に磁界を形成させ、かつ第二のレンズ37に電流を流して放出路113内に磁界を形成させるように構成されている。
【0013】
揺動コイル38は放出路113の外側で銃口114を囲むように配置されている。揺動コイル38にはコイル電源45が電気的に接続されている。コイル電源45は揺動コイル38に電流を流して、銃口114の内側に位置する電子線の軌道に磁界を形成させるように構成されている。
コイル電源45には不図示の磁界制御装置が接続されている。磁界制御装置はコイル電源45から揺動コイル38に供給される電流の向きと量とを決定して、電子線の軌道に形成する磁界の向きと大きさを制御するように構成されている。
電子銃30の電源装置を電子銃電源40と呼ぶと、電子銃電源40はフィラメント電源41とカソード加熱電源42と高電圧電源43とレンズ電源44とコイル電源45とで構成されている。
【0014】
図1を参照し、ここでは電子銃30は銃口114を薄膜材料容器50内の薄膜材料60に向けた状態で真空槽11の側壁に気密に挿設されている。
電子銃電源40から電子銃30に電力が供給されると、電子銃30は銃口114から真空槽11内に電子線を放出して、薄膜材料容器50内の薄膜材料60に電子線を照射するように構成されている。
さらに電子銃電源40から電子銃30の揺動コイル38に流れる電流を制御することで、電子銃30から放出される電子線の照射方向を変化させ、電子線の薄膜材料60表面上の照射位置を、少なくとも薄膜材料60の長手方向に平行な成分を有する移動方向に、移動させるように構成されている。
薄膜材料60に電子線が照射されて、加熱されると、薄膜材料60から蒸気が放出される。
成膜対象物保持部70は、薄膜材料容器50の上方に配置されている。薄膜材料容器50内の薄膜材料60から蒸気を放出させると、蒸気は成膜対象物保持部70に保持される成膜対象物80の表面に到達し、付着して、成膜対象物80の表面に薄膜が成膜される。
ここでは成膜対象物80は帯状のフィルムであり、成膜前にはロール状に巻き回されて形成されている。
【0015】
成膜対象物保持部70は、ここでは駆動軸71と、従動軸72と、駆動軸回転装置73とを有している。
駆動軸71と、従動軸72は、薄膜材料容器50の上方に、薄膜材料容器50の凹部の幅方向に沿って互いに離間して配置され、それぞれ薄膜材料容器50の凹部の長手方向に平行に向けられている。
従動軸72は成膜対象物80のロールの中心に挿入され、駆動軸71にはロールの外周から引き出された成膜対象物80の端部が巻き付けられている。従って、成膜対象物保持部70に取り付けられた成膜対象物80の幅方向は、薄膜材料容器50の凹部の長手方向に平行にされている。
駆動軸回転装置73は駆動軸71に接続され、駆動軸71を駆動軸71の中心軸線の周りに回転可能に構成されている。
駆動軸回転装置73によって、駆動軸71を回転させると、駆動軸71に巻き付けられた成膜対象物80が引っ張られ、その力によって従動軸72が回転して成膜対象物80がロールから繰り出される。
このとき従動軸72には、ロールに加えられる引っ張りの力による回転力とは逆向きの力が発生しており、その二力によって、成膜対象物80は駆動軸71と従動軸72との間で平面状に張られるようになっている。
【0016】
駆動軸71を更に回転させると、成膜対象物80は、駆動軸71と従動軸72との間で平面性を維持したまま、従動軸72から駆動軸71に向かって走行移動し、駆動軸71にロール状に巻き取られるようになっている。符号5は成膜対象物80の移動方向を示している。
成膜対象物80を、薄膜材料60に対して走行移動させる装置を成膜対象物移動部と呼ぶと、ここでは成膜対象物移動部は駆動軸71と従動軸72と、駆動軸回転装置73とで構成されている。
ここで従動軸72と駆動軸71は薄膜材料容器50の凹部の幅方向に沿って互いに離間して配置されているので、成膜対象物保持部70に取り付けられた成膜対象物80の移動方向は、薄膜材料容器50の凹部の幅方向に平行である。
成膜対象物保持部70に保持される成膜対象物80と、薄膜材料容器50内の薄膜材料60との間には、蒸気の粒子を遮蔽する防着板75が成膜対象物80の下方を覆うように配置されている。
【0017】
防着板75のうち薄膜材料容器50と対面する位置には、X線と蒸気とを通過させる細長の開口が設けられている。防着板75の開口の長手方向は、薄膜材料容器50の凹部の長手方向と平行にされ、成膜対象物80の成膜領域の幅より1割〜2割長く形成されている。
薄膜材料60から蒸気を放出させると、防着板75の開口に入射する蒸気は防着板75の開口を通過して、防着板75の開口と対面する成膜対象物80に到達し、防着板75の開口の外側の遮蔽部に入射する蒸気は防着板75で遮蔽されるため遮蔽部と対面する成膜対象物80に到達しないようになっている。
駆動軸71を回転させながら、薄膜材料60から蒸気を放出させると、成膜対象物80は従動軸72側から駆動軸71側に向かって移動するので、防着板75の開口と対面を開始する前は成膜対象物80に薄膜は成膜されず、防着板75の開口と対面を開始した後、駆動軸71側に近づくにつれて、成膜対象物80に形成される薄膜の膜厚は厚くなり、防着板75の開口と対面を終えた後は、成膜対象物80に形成された薄膜の膜厚は変わらず、一定になる。
ここでは薄膜材料容器50の凹部と、防着板75の開口の長手方向の長さは、成膜対象物80の成膜領域の幅よりも1割〜2割長くされているので、成膜対象物80の成膜領域の幅方向(移動方向に垂直な方向)の両端付近で蒸気の到達量が減って膜厚が減少することが防止されている。
【0018】
薄膜材料60に本実施形態のようにkeVオーダーのエネルギーを有する電子線が照射されると、薄膜材料60からはX線(特性X線及び白色X線)が放出される。ここで特性X線とは電子線を照射されて励起した薄膜材料60表面の原子から放出されるX線であり、白色X線とは薄膜材料60の表面で制動された電子線の電子から放出されるX線である。
薄膜材料60から放出されたX線の少なくとも一部は、防着板75の開口を通過して、防着板75の開口と対面する成膜対象物80に入射するようになっている。本発明では防着板75の開口以外の遮蔽部は、入射する蒸気を遮蔽する材質で形成されているならば、入射するX線を遮蔽する材質で形成されていてもよいし、透過する材質で形成されていてもよい。
【0019】
図4はX線検出装置20の概略構成図を示している。X線検出装置20はここでは複数のX線検知器20a〜20dを有している。各X線検知器20a〜20dの構造は同じなので、符号20aのX線検知器を例に構造を説明する。
X線検知器20aはX線を遮断する材質で形成された検知部容器21を有している。検知部容器21の内側にはX線検知部24が配置されている。
本実施形態での電子線のエネルギーは後述するように数keV〜40keV程度であるので、電子線を照射された薄膜材料60から放出されるX線のエネルギーも同様の範囲となる。X線検知部24はこの範囲のエネルギーのX線に感度を持つX線検知部が使用される。
X線検知部24は上記要件を満たすならば、市販されているX線検知部の中から特徴を選んで様々なタイプのものを使用することができる。
例えば、ガスの電離を利用するタイプの検知器にはGMカウンタ(ガイガーミュラーカウンタ)や比例計数管が代表的なものとしてある。しかしながら、これらのガス検知器は原理的にサイズが大きくなるので、ガス検知器よりも半導体ダイオード検出器に代表される固体検知器を使用する方が望ましい。
【0020】
X線検知部としてX線によって引き起こされる閃光(シンチレーション:scintillation)を利用するシンチレーションカウンタも使用できる。この方式はX線により発生した閃光を光電子増倍管で検出するものである。光を発生させる材料(シンチレータ)としては気体、液体、固体を問わず数多く存在するが、よく使用されるのは微量のヨウ化タリウムを添加したヨウ化ナトリウム(NaI(Tl))結晶である。
X線検知部24にはX線検知部電源25が電気的に接続され、X線検知部電源25はX線検知部24に電圧を印加可能に構成されている。
X線検知部24と検知部容器21の開口との間には、検知窓23が配置されている。
検知窓23には上述した市販の検知器に付けられている物がそのまま使用できる。一般に、検知窓23には広いエネルギー範囲を持つX線を透過できる材料を選ぶ必要があるが、高いエネルギーのX線ほど透過する力が大きいので、低いエネルギーのX線も透過できる材料を選べばよく、従って、検知窓23の材料には低原子番号の元素で構成された材料が一般に選ばれる。たとえば、金属ではBe材が用いられ、非金属ではガラス類やプラスチック材料が用いられる。
【0021】
検知窓23を中央にしてX線検知部24の反対側には、検知部容器21の開口を覆うように窓部22が配置され、窓部22は検知部容器21の開口に気密に固定されている。窓部22はX線が透過できるように薄く、かつ真空壁として検知部容器21の内側を気密に保つための強度を持つように形成されている。
窓部22には、低原子番号の金属(Be、Al、Si、Ti等)やガラスやプラスチックを使用することができる。さらに、これらの材料にステンレス等の金属メッシュで補強したものはより安全に使用できる。
検知部容器21はX線を遮断する材質で形成されているので、X線がX線検知器20aに入射する場合には、窓部22を通過するX線だけがX線検知部24に到達するようになっている。
また窓部22は検知部容器21と共に検知部容器21の内側を気密に保つように構成され、X線検知器20aを真空排気された真空槽11内に配置したとき、検知窓23及びX線検知部24を真空雰囲気から隔離する役割を果たしている。
【0022】
図1を参照し、各X線検知器20a〜20dは成膜対象物80から見て薄膜材料60の逆側に配置され、それぞれ窓部22が成膜対象物80の裏面と対面するように向けられている。
成膜対象物80に入射する蒸気の粒子は成膜対象物80を透過しないので、各X線検知器20a〜20dには蒸気は到達せず、各X線検知器20a〜20dに蒸気が付着することによるX線検知性能の低下は生じないようになっている。
各X線検知器20a〜20dと成膜対象物80との間には、X線を遮蔽する遮蔽板76が配置され、遮蔽板76の各X線検知器20a〜20dの窓部22と対面する部分には、X線を通過させる開口部が設けられている。
成膜対象物80にX線を入射させると、成膜対象物80が少なくとも一部のX線を透過させる材質で形成されている場合には、成膜対象物80を透過した透過X線は、遮蔽板76に入射する。遮蔽板76の開口部に入射する透過X線は開口部を通過して開口部と対面する各X線検知器20a〜20dの窓部22に入射し、遮蔽板76の開口部の外側の遮蔽部に入射するX線は遮蔽部で遮蔽されて各X線検知器20a〜20dに入射しないようになっている。
成膜対象物80の各X線検知器20a〜20dと対面する位置を測定位置と呼ぶと、各X線検知器20a〜20dは成膜対象物80のそれぞれ対面する測定位置を透過する透過X線の強度を検出することができる。
【0023】
図2は、X線検知器20a〜20dの周辺を立体的に示した模式図である。
X線検知器20a〜20dはここでは成膜対象物80の走行方向とは垂直な幅方向に沿って等間隔に並んで配置されている。従って、各X線検知器20a〜20dは、成膜対象物80の幅方向に沿って等間隔に位置する複数の測定位置の透過X線の強度をそれぞれ検出するように構成されている。
ここでは各X線検知器20a〜20dはいずれも、防着板75の開口のうち、成膜対象物80の移動方向の終点側の端部に近い所定の位置の真上に配置されている。
成膜対象物80が各X線検知器20a〜20dと対面する位置から防着板75の開口と対面を終了する位置まで移動する間に成膜対象物80に形成される薄膜の膜厚の増加量は無視できるほど少なくされており、薄膜が膜厚に応じて入射するX線の強度を減衰させる場合、各X線検知器20a〜20dに入射する透過X線の強度は、成膜終了後と同じ厚みの薄膜を透過した透過X線の強度とみなすことができる。
【0024】
各X線検知器20a〜20dには測定装置17が接続され、測定装置17には記憶装置18が接続されている。
記憶装置18には、後述するように予め決められたパワーの電子線を薄膜材料60に照射したときに、成膜対象物80の表面の薄膜と成膜対象物80とを順に透過した透過X線の強度と、薄膜の膜厚との対応関係が記憶されている。
測定装置17は、各X線検知器20a〜20dで検出された透過X線の強度と、記憶装置18に記憶された対応関係とから、成膜対象物80の走行方向に垂直な複数の測定位置の薄膜の膜厚を測定するように構成されている。
測定装置17で薄膜の膜厚を測定した後、例えば手動で、測定値を基準値と比較して、比較結果から、成膜対象物80の表面に形成される薄膜の膜厚を増減させることで、成膜対象物80に形成される薄膜の膜厚を基準値に近づけることができる。
【0025】
ここでは測定装置17と記憶装置18には制御装置19が接続されている。制御装置19には、薄膜の膜厚の目標とする基準値と、各X線検知器20a〜20dの設置位置とが記憶され、測定装置17で測定された各測定位置の薄膜の膜厚を、基準値と比較し、比較結果から、成膜対象物80の表面に形成される薄膜の膜厚を増減させ、成膜対象物80表面に形成される薄膜の膜厚を基準値に近づけるように構成されている。
ここでは制御装置19は電子銃電源40と成膜対象物移動部にそれぞれ接続されている。
【0026】
制御装置19は、電子銃電源40に制御信号を送って、電子銃30から放出される電子線の照射方向を変化させ、薄膜材料60上の照射位置の移動速度を変更して、成膜対象物80表面に形成される薄膜の膜厚を増減させることができるように構成され、かつ成膜対象物移動部に制御信号を送って、成膜対象物80の移動速度を変化させ、成膜対象物80表面に形成される薄膜の膜厚を増減させることができるように構成されている。
【0027】
次に上述の真空蒸着装置10を用いた真空蒸着方法を、フィルム状の成膜対象物80にアルミニウムの薄膜を成膜する場合を例に説明する。
成膜対象物80は入射するX線の少なくとも一部を透過させる材質で形成されている必要があり、ここでは成膜対象物80として幅が600〜1200mm、厚さが2〜3μm、1ロールの長さが1600mであるPET、PP、ポリイミド等のフィルムを使用する。
また薄膜材料60にはアルミニウム(Al)を使用する。アルミニウム膜は膜厚に応じて入射するX線の強度を減衰させるが、目標とする膜厚(数100nm)のアルミニウム膜は入射するX線の少なくとも一部を透過させることができる。
【0028】
図1を参照し、先ず試験工程として、試験用の成膜対象物80からなるロールを真空槽11内に搬入し、成膜対象物保持部70に取り付ける。
真空槽11内を真空排気装置13で真空排気する。以後、真空排気を継続して、真空槽11内の真空雰囲気を維持しておく。
薄膜材料追加装置12により、真空槽11内に細長形状に整形された薄膜材料60であるアルミニウムを搬入し、薄膜材料容器50の凹部に装填する。
【0029】
図3を参照し、真空槽11内を真空排気すると、電子銃30の筐体31内も真空排気される。
真空槽11内の圧力が10-2Pa台に入ったら、不図示の排気系により電子銃30のガン室110と中間室112内を真空排気し、仕切バルブ39を開く。
中間室112を設けて作動排気構造にしているため、以後、真空槽11内の圧力が電子線照射等により上昇し、1×10-1Pa程度になってもガン室110内の圧力を5×10-3Pa以下に保つことができる。このことにより、ガン室110内での異常放電を防ぎ、フィラメント32及びカソード33の焼損を防ぐことができる。
電子銃30の筐体31とアノード35と真空槽11と薄膜材料容器50とをいずれも電気的に接地しておく。
フィラメント32の電位に対してカソード33の電位が正になるようにフィラメント32とカソード33との間に電圧を印加しておく。さらに、アノード35の接地電位(0V)に対してカソード33の電位が負(ここでは−40kV)になるようにカソード33とアノード35との間に電圧を印加しておく。また、第一、第二のレンズ36、37に電流を流して、接続路111と放出路113の内側にそれぞれ磁界を形成しておき、揺動コイル38に電流を流して銃口114の内側に磁界を形成しておく。
【0030】
中間室112内が10-3Pa台、ガン室110内が10-4Pa台に入ったら、フィラメント電源41からフィラメント32に電流を流し、フィラメント32を加熱する。フィラメント32が高温になると(ここでは2800K)、フィラメント32から熱電子が発生する。
熱電子はカソード33に向かって加速され、カソード33に衝突し、カソード33を加熱する。
加熱されたカソード33から熱電子が発生する。熱電子の発生量はカソード33の温度が高いほど多くなる。カソード33の温度はカソード加熱電源42により制御され、従って、熱電子発生量はカソード加熱電源42により制御される。
ウェーネルト34はカソード33と同電位であり、カソード33からの電子の発散を抑え、アノード35へ導く役割を果たす。
アノード35の円筒形の内側を通過した電子は第一のレンズ36の磁界で収束され、仕切弁39の開口を通り、中間室112を通過した後、第二のレンズ37の磁界で再度収束される。さらに、電子は揺動コイル38の磁界で軌道補正を加えられ、真空槽11内に放出される。
このようにカソード33から生成した電子は電子銃30の筐体31内部で線状に整形されて輸送されるので、通常電子線と呼ばれる。
【0031】
上述のように電子銃30の筐体31とアノード35と真空槽11と薄膜材料容器50とはいずれも電気的に接地されており、薄膜材料容器50を介して薄膜材料60も電気的に接地されている。
電子線は最初にカソード33の電位(ここでは−40kV)とアノード35の接地電位(0V)との差(40kV)で加速され、40keVのエネルギーを獲得する。その後は接地電位の空間(すなわち電界フリーの空間)を通り、40keVのエネルギーで接地電位にある薄膜材料60に照射される(図1参照)。
【0032】
本実施形態においては、電子線のパワーは電子線の電流で決まる。電流が1Aの場合は、40kV×1A=40kWとなる。
電子線を照射された薄膜材料60であるアルミニウムは、加熱されて、溶解し、アルミニウムの蒸気を放出する。
電子銃電源40を制御して、電子線の照射方向を変化させ、電子線の照射位置を薄膜材料60の長手方向に沿って一定の速度で往復移動させる。
薄膜材料60は長手方向に沿って均一に加熱され、長手方向に沿って均一の蒸発速度で蒸気が放出される。
薄膜材料60から放出され、防着板75の開口を通過した蒸気は、防着板75の開口と対面する成膜対象物80の表面に到達し、付着する。
【0033】
試験用の成膜対象物80を防着板75の開口と対面する位置に静止させたまま、電子線の照射を継続し、成膜対象物80の表面に蒸気の粒子を堆積させる。その間に各X線検出装置20a〜20dで成膜対象物80を透過した透過X線の強度を検出し、検出した透過X線の強度を電子線照射の経過時間と共に記憶しておく。
電子線照射を所定の時間継続した後、電子銃電源40に制御信号を送信して電子銃30からの電子線の放出を停止させる。次いで、試験用の成膜対象物80を真空槽11から取り出した後、不図示の膜厚計で試験用の成膜対象物80表面に成膜された薄膜の膜厚を測定する。
測定した薄膜の膜厚を電子線照射時間で割って、薄膜材料60の成膜速度を求め、検出した透過X線の強度とそのときの薄膜の膜厚とを対応付けて記憶しておく。
【0034】
次いで、生産工程として、真空槽11内に生産用の成膜対象物80からなるロールを搬入し、成膜対象物保持部70に取り付ける。
試験工程で求めた薄膜材料60の成膜速度と、成膜対象物80の移動距離(すなわち成膜対象物80の移動方向に対する防着板75の開口の長さ)と、目標とする薄膜の膜厚(基準値)とから、生産用の成膜対象物80の移動速度を決定し、決定した移動速度で成膜対象物80を駆動軸71と従動軸72との間で走行移動させる。ここでは約350m/minの速度で成膜対象物80を走行移動させる。
電子銃30から試験工程と同じパワーの電子線を放出させ、かつ薄膜材料60の照射面上で電子線の照射位置を試験工程と同じ移動速度で移動させて、薄膜材料60を加熱し、蒸発させる。
試験工程と同じ照射条件で電子線を照射しているので、試験工程と同じ成膜速度で薄膜材料60から蒸気が放出される。
放出された蒸気は、遮蔽板76の開口と対面する位置を走行移動する生産用の成膜対象物80に到達し、生産用の成膜対象物80の表面に薄膜が形成される。
【0035】
薄膜材料60に電子線を照射しながら、各X線検知器20a〜20dで、薄膜材料60から放出され、生産用の成膜対象物80に形成された薄膜と、生産用の成膜対象物80とを順に透過した透過X線の強度を検出する。
検出した透過X線の強度と、試験工程で記憶した対応関係とから、生産用の成膜対象物80に形成された薄膜の膜厚を測定する。
ここでは試験工程と同じパワーで電子線を照射しているので、薄膜材料60からは試験工程と同じ強度でX線が放出される。従って、試験工程で記憶した対応関係をそのまま使用することができる。
【0036】
このようにして、生産用の成膜対象物80の表面に連続的に薄膜を成膜しながら、成膜した薄膜の膜厚を測定することができる。
本発明の膜厚測定方法では、可視光よりも透過力の大きいX線の透過量を検出するので、0.3μm以上の厚みのアルミニウム膜でも膜厚を測定できる。
ここでは、試験工程と同じ条件で薄膜材料60に電子線を照射し、薄膜材料60の成膜速度から計算で求めた移動速度で生産用の成膜対象物80を移動させているので、生産用の成膜対象物80には目標とする膜厚で薄膜が連続的に成膜される。
【0037】
しかしながら、電子線の照射中に、例えば時間の経過に伴って薄膜材料容器50内の薄膜材料60の量が減少すると、薄膜材料60の単位時間当たりの蒸発量が減少し、成膜速度が減少して、成膜対象物80の表面に形成される薄膜の膜厚が減少する。
このとき、各X線検知器20a〜20dが検出する透過X線の強度はいずれも同じ大きさで増加する。測定装置17は各測定位置での透過X線の強度から各測定位置の薄膜の膜厚を測定する。測定した薄膜の膜厚が、制御装置19に設定された基準値よりも許容範囲を超えて小さい場合には、制御装置19は測定した薄膜の膜厚と、成膜対象物80の移動速度と移動距離(成膜対象物80の移動方向に対する遮蔽板76の開口の長さ)とから、成膜対象物80の移動速度の変更量を計算し、計算結果に基づいて、成膜対象物80の移動速度を遅くさせる。成膜対象物80の成膜面が蒸気に曝される時間が増加し、成膜面に到達する蒸気の量が増加するので、薄膜の膜厚は増加して基準値に近づく。
【0038】
逆に成膜対象物80に形成される薄膜の膜厚が増加したときは、各X線検知器20a〜20dが検出する透過X線の強度はいずれも同じ大きさで減少する。測定装置17は各測定位置での透過X線の強度から各測定位置の薄膜の膜厚を測定する。測定した薄膜の膜厚が基準値よりも許容範囲を超えて大きい場合には、制御装置19は測定した薄膜の膜厚と、成膜対象物80の移動速度と移動距離とから、成膜対象物80の移動速度の変更量を計算し、計算結果に基づいて、成膜対象物80の移動速度を速くさせる。成膜対象物80の成膜面が蒸気に曝される時間が減少し、成膜面に到達する蒸気の量が減少するので、薄膜の膜厚は減少して基準値に近づく。
【0039】
上記説明では、各X線検知器20a〜20dが検出する透過X線の強度がいずれも同じ大きさで増減したときに、成膜対象物80の移動速度を変更して成膜対象物80に形成される薄膜の膜厚を基準値に近づけたが、本発明はこの方法に限定されず、後述するように電子線の照射方向を変更して、薄膜材料60上の照射位置の移動速度を変化させ、薄膜の膜厚を基準値に近づけてもよい。
なお、薄膜の膜厚を増減させるには、電子線のパワーを変化させる方法も考えられるが、電子線のパワーを変化させると薄膜材料60から放出されるX線の強度が変化し、試験工程で記憶した対応関係が使用できなくなるので、本発明では電子線のパワーは変化させず、一定のパワーで照射を行う。
このようにして、成膜対象物80の表面には許容範囲内で一定とみなすことができる膜厚(ここでは数100nm(膜抵抗が1.6Ω))で連続的にアルミニウムの薄膜が成膜される。
【0040】
さらに、電子線の照射中に、例えば時間の経過に伴って薄膜材料60の温度が特定の照射領域で局所的に増加すると、当該照射領域からの蒸気の単位時間当たりの蒸発量が増加し、成膜対象物80の表面に形成される薄膜の膜厚が当該照射領域と対面する測定位置で増加する。
このとき、成膜対象物80を介して当該測定位置と対面するX線検知器(例えば符号20a)が検出する透過X線の強度は減少し、他のX線検知器(20b〜20d)が検出する透過X線の強度は変わらない。測定装置17は各測定位置の透過X線の強度から各測定位置の薄膜の膜厚を測定する。測定した薄膜の膜厚が制御装置19に設定された基準値よりも許容範囲を超えて大きい場合には、制御装置19は当該測定位置の薄膜の膜厚と、成膜対象物80の移動速度と移動距離と、薄膜材料60上の当該照射領域を通過するときの照射位置の移動速度とから、電子線の照射方向の変更量を計算し、計算結果に基づいて、電子線の照射方向を変更し、薄膜材料60上の照射位置が当該照射領域を通過するときの移動速度を速くさせる。当該照射領域が電子線に曝される時間が減少し、当該照射領域の加熱量が減少して成膜速度が減少するので、当該照射領域と対面する測定位置に形成される薄膜の膜厚は減少して基準値に近づく。
【0041】
逆に成膜対象物80の表面に蒸着する薄膜の膜厚が特定の測定位置で減少したときは、成膜対象物80を介して当該測定位置と対面するX線検知器が検出する透過X線の強度が増加し、他のX線検知器が検出する透過X線の強度は変わらない。測定装置17は各測定位置の透過X線の強度から各測定位置の薄膜の膜厚を測定する。測定した薄膜の膜厚が制御装置19に設定された基準値よりも許容範囲を超えて小さい場合には、制御装置19は当該測定位置の薄膜の膜厚と、成膜対象物80の移動速度と移動距離と、薄膜材料60上の当該照射領域を通過するときの照射位置の移動速度とから、電子線の照射方向の変更量を計算し、計算結果に基づいて、電子線の照射方向を変更し、照射位置が薄膜材料60の当該照射領域を通過するときの移動速度を遅くさせる。当該照射領域が電子線に曝される時間が増加し、当該照射領域の加熱量が増加して当該照射領域の成膜速度が増加するので、当該照射領域と対面する測定位置に形成される薄膜の膜厚は増加して基準値に近づく。
【0042】
このようにして、成膜対象物80の幅方向に対して薄膜の膜厚が変化することを防止できる。
成膜された成膜対象物80は駆動軸71にロール状に巻き取られる。
1ロールの成膜を終了した後、電子銃30からの電子線の放出を停止させ、真空排気装置13を停止して真空槽11内を大気に解放し、未成膜の成膜対象物80からなる新しいロールを成膜対象物保持部70に装填して、次の成膜サイクルを行う。
【0043】
上記説明では薄膜材料60としてアルミニウムを使用する場合を例に説明したが、本発明の薄膜材料はこれに限定されず、薄膜材料としてチタン、銅等も使用できる。
上記説明ではX線検出装置20は複数のX線検知器20a〜20dを有していたが、本発明はX線検知器を一個有している場合も含まれる。ただし、X線検知器の数が一個の場合には、成膜対象物80の幅方向に対して薄膜の膜厚の変化を検知できないので、X線検知器を複数個使用する方が望ましい。
【0044】
上記説明では複数のX線検知器20a〜20dはいずれも防着板75の開口のうち、成膜対象物80の移動方向の終点側の端部に近い所定の位置の真上に配置されていたが、本発明のX線検知器20a〜20dの位置は、防着板75の開口の真上であれば上記の位置に限定されない。X線検知器20a〜20dを防着板75の開口のうち、成膜対象物80の移動方向の終点側の端部から離れた位置に配置した場合には、検出した透過X線の強度と、記憶された対応関係とから、当該検出位置の薄膜の膜厚を測定し、測定した薄膜の膜厚と、成膜対象物80の移動速度と移動距離と、成膜対象物80の移動方向の終点側の端部と当該測定位置との間の距離とから、成膜終了後の薄膜の膜厚を計算で求めればよい。
【符号の説明】
【0045】
10 ……真空蒸着装置
11……真空槽
13……真空排気装置
17……測定装置
18……記憶装置
19……制御装置
20a〜20d……X線検出装置
30……電子銃
60……薄膜材料
70……成膜対象物移動部
80……成膜対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空槽と、
前記真空槽内を真空排気する真空排気装置と、
前記真空槽内に電子線を放出可能に構成された電子銃と、
を有し、
前記真空槽内に配置される薄膜材料に前記電子銃から電子線を照射して、前記薄膜材料から蒸気を放出させ、前記蒸気が入射する位置に配置される成膜対象物の表面に薄膜を成膜する真空蒸着装置であって、
前記成膜対象物から見て前記薄膜材料の逆側に配置され、前記電子線を照射された前記薄膜材料から放出され、前記薄膜と前記成膜対象物とを順に透過した透過X線の強度を検出するX線検出装置と、
前記透過X線の強度と前記薄膜の膜厚との対応関係があらかじめ記憶された記憶装置と、
前記X線検出装置で検出された前記透過X線の強度と、前記記憶装置に記憶された前記対応関係とから、前記薄膜の膜厚を測定する測定装置と、
を有する真空蒸着装置。
【請求項2】
前記成膜対象物の表面に薄膜を成膜させながら、前記成膜対象物を前記薄膜材料に対して走行移動させる成膜対象物移動部を有する請求項1記載の真空蒸着装置。
【請求項3】
前記測定装置で測定された前記薄膜の膜厚と基準値とを比較し、比較結果から、前記成膜対象物表面に形成される前記薄膜の膜厚を増減させ、前記成膜対象物表面に形成される前記薄膜の膜厚を前記基準値に近づけるように構成された制御装置を有する請求項1又は2のいずれか1項記載の真空蒸着装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記成膜対象物移動部を制御して、前記成膜対象物の移動速度を変化させて、前記成膜対象物表面に形成される前記薄膜の膜厚を増減させるように構成された請求項3記載の真空蒸着装置。
【請求項5】
前記電子銃は前記電子線の照射方向を変化させ、前記電子線の前記薄膜材料表面上の照射位置を移動させるように構成された請求項3記載の真空蒸着装置であって、
前記制御装置は、前記照射位置の移動速度を変更して、前記成膜対象物表面に形成される前記薄膜の膜厚を増減させるように構成された真空蒸着装置。
【請求項6】
前記測定装置で測定された前記薄膜の膜厚と基準値とを比較し、比較結果から、前記成膜対象物表面に形成される前記薄膜の膜厚を増減させ、前記成膜対象物表面に形成される前記薄膜の膜厚を所定値に近づけるように構成された制御装置を有し、
前記電子銃は前記電子線の照射方向を変化させ、前記電子線の前記薄膜材料表面上の照射位置を移動させるように構成され、
前記測定装置は、前記成膜対象物上で、前記成膜対象物の走行方向とは垂直な方向の複数の測定位置の膜厚を測定するように構成され、
前記制御装置は、各前記測定位置での前記膜厚の測定値を前記基準値と比較し、前記薄膜材料上の各前記測定位置と対面する場所での前記照射位置の移動速度を前記照射位置毎に変更するように構成された請求項2記載の真空蒸着装置。
【請求項7】
前記成膜対象物は、帯状のフィルムである請求項2乃至請求項6のいずれか1項記載の真空蒸着装置であって、
前記成膜対象物移動部は、前記成膜対象物の移動方向に対して前記蒸気が入射する位置より終点側で、前記フィルムを巻き取るように構成された真空蒸着装置。
【請求項8】
真空排気された真空槽内で薄膜材料に電子線を照射して、前記薄膜材料から蒸気を放出させ、前記蒸気が入射する位置に配置された成膜対象物の表面に薄膜を成膜する際に、前記薄膜の膜厚を測定する膜厚測定方法であって、
前記成膜対象物の表面に薄膜を成膜する前に、前記薄膜材料から放出され、前記薄膜と前記成膜対象物とを順に透過した透過X線の強度と、前記薄膜の膜厚との対応関係を記憶しておき、
前記成膜対象物の表面に薄膜を成膜する際に、前記透過X線の強度を検出し、検出した前記透過X線の強度と、記憶した前記対応関係とから、前記薄膜の膜厚を測定する膜厚測定方法。
【請求項9】
真空排気された真空槽内で薄膜材料に電子線を照射して、前記薄膜材料から蒸気を放出させ、前記成膜対象物を前記薄膜材料に対して走行移動させながら、前記成膜対象物の表面に薄膜を成膜する真空蒸着方法であって、
前記成膜対象物の表面に薄膜を成膜する前に、薄膜の膜厚の基準値を決めておき、
前記成膜対象物の表面に薄膜を成膜する際に、請求項8記載の膜厚測定方法で前記薄膜の膜厚を測定し、測定した前記薄膜の膜厚と前記基準値とを比較し、比較結果から、前記成膜対象物表面に形成される前記薄膜の膜厚を増減させ、前記成膜対象物表面に形成される前記薄膜の膜厚を前記基準値に近づける真空蒸着方法。
【請求項10】
測定した前記薄膜の膜厚と前記基準値とを比較した後、比較結果から、前記成膜対象物の移動速度を変化させて、前記成膜対象物表面に形成される前記薄膜の膜厚を増減させる請求項9記載の真空蒸着方法。
【請求項11】
前記薄膜材料に前記電子線を照射する際に、前記電子線の照射方向を変化させ、前記電子線の前記薄膜材料表面上の照射位置を移動させる請求項9記載の真空蒸着方法であって、
測定した前記薄膜の膜厚と前記基準値とを比較した後、比較結果から、前記照射位置の移動速度を変更して、前記成膜対象物表面に形成される前記薄膜の膜厚を増減させる真空蒸着方法。
【請求項12】
真空排気された真空槽内で前記薄膜材料に前記電子線を照射する際に、電子線の照射方向を変化させ、電子線の薄膜材料表面上の照射位置を移動させて、前記薄膜材料から蒸気を放出させ、前記成膜対象物を前記薄膜材料に対して走行移動させながら、前記成膜対象物の表面に薄膜を成膜する真空蒸着方法であって、
前記成膜対象物の表面に薄膜を成膜する前に、薄膜の膜厚の基準値を決めておき、
前記成膜対象物の表面に薄膜を成膜する際に、前記成膜対象物上で、前記成膜対象物の走行方向とは垂直な方向の複数の測定位置の膜厚を請求項8記載の膜厚測定方法で測定し、各前記測定位置での前記膜厚の測定値を前記基準値と比較し、比較結果から、前記薄膜材料上の各前記測定位置と対面する場所での前記照射位置の移動速度を前記照射位置毎に変更して、前記成膜対象物に形成される前記薄膜の膜厚を増減させ、前記成膜対象物表面に形成される前記薄膜の膜厚を前記基準値に近づける真空蒸着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−214025(P2011−214025A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80840(P2010−80840)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】