説明

真空部品に付着した薄膜の除去方法

【課題】酸を含まない水を用いて防着板やマスクの洗浄を行える技術を提供する。
【解決手段】Liイオン二次電池を製造する工程で用いられる、マスクと防着装置等の、電解質膜が厚く形成される真空部品は、真空槽から着脱自在であるように構成されている。これらの部品を洗浄する場合は、電解質膜が付着した真空部品を取り外し、付着した電解質膜に、中性の水(pH6〜8)を注水、又は散布して、真空部品から電解質膜を剥離させる。モル比Qの値が大きくなるに従って残渣率が小さくなる傾向があり、モル比Qの値が0.26以上の値では、試験基板表面に成膜されたLiPON薄膜の80%以上が剥離しており、中性の水によってLiPON薄膜を剥離できた。方法は、モル比Qの値が0.26以上のLiPON薄膜を剥離するのに効果的である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸を含まない水を用いて防着板やマスクの洗浄を行える技術に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜Li二次電池を製造する工程で固体電解質として用いられるLiPON薄膜を成膜する際に、Li3PO4をターゲットとしてLiPON薄膜の成膜処理を複数回行うと、真空槽内に配置された防着板やマスクにLi、Li3PO4やLiPONの付着物が付着する。
防着板やマスクは取り外し可能であり、これらに付着した付着物を除去する場合は、5%から10%に希釈された硝酸を含む水を蓄水槽に満たして、加熱しながら防着板やマスクを数時間浸水させて剥離させている。しかし、硫酸や硝酸等の酸を含む水を取り扱う際の安全性や環境面が問題となっており、酸を使わない洗浄方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−7290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明は、薄膜が付着した処理対象物の前記薄膜を除去する薄膜除去方法であって、前記薄膜は、真空槽内に配置されたリチウムとリンと酸素との化合物から成るターゲットが窒素ガスが含有される雰囲気内でスパッタされて前記処理対象物表面に形成され、前記処理対象物上の前記薄膜には、pH6〜8の中性の水を接触させる薄膜除去方法である。
本発明は、前記中性の水を前記処理対象物に注ぐ薄膜除去方法である。
本発明は、前記中性の水を水滴にして前記処理対象物に吹き付ける薄膜除去方法である。
本発明は、前記薄膜は、LiPONから成る薄膜除去方法である。
本発明は、前記処理対象物は、前記薄膜が基板上に形成される前記真空槽内に配置されていた薄膜除去方法である。
【発明の効果】
【0005】
本発明により、酸を含む水を使用しないで防着板やマスクに付着した付着物を除去できる。また、従来と比べて短い時間で、低いコストで洗浄を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】本発明の洗浄対象を有する成膜装置の断面図
【図2】(a):最表面に正極集電体薄膜が成膜された基板の平面図 (b):最表面に正極集電体薄膜が成膜された基板のA−A’裁断断面図
【図3】(a):薄膜リチウム電池の平面図 (b)薄膜リチウム電池のB−B’裁断断面図
【図4】ホースを用いた洗浄方法を説明するための図
【図5】シャワープレートを用いた洗浄方法を説明するための図
【図6】蓄水槽を用いた洗浄方法を説明するための図
【図7】洗浄前と洗浄後の試験基板表面の顕微鏡写真
【図8】洗浄後の試験基板のモル比の値と残渣の関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0007】
図1の符号10は、本発明の剥離方法を適用する部材を有する成膜装置を示している。
この成膜装置10は、Li電池又はLiイオン電池のLiPON層から成る電解質膜を形成するスパッタリング装置であり、真空槽30を有している。
真空槽30内部には、基板ホルダ31が配置されており、基板ホルダ31と対向する位置には、リチウムとリンと酸素の化合物(ここではLi3PO4)の材料から成るターゲット32が配置されている。
真空槽30には、ガス導入系33と真空排気系34とが接続されており、真空槽30内を真空排気して真空雰囲気にしておき、真空雰囲気を維持しながら真空槽30内部に成膜対象物50を配置し、基板ホルダ31に載置し、又は保持させる。
【0008】
図2(a)、(b)は、それぞれ、本成膜装置10の成膜対象物50の平面図とA−A’裁断断面図を示している。
この成膜対象物50は、絶縁性の基板51を有しており、基板51の表面には、正極集電体薄膜52が複数個形成されており、各正極集電体薄膜52上には、正極集電体薄膜52の一部が露出する状態を維持しながら、正電極膜53がそれぞれ形成されている。
ターゲット32には、成膜対象物の正電極膜53が形成された面が向けられており、成膜対象物50のその面上には、各正電極膜53を底面下に位置させる開口を有するマスク70が配置されている。このマスク70によって、露出した正極集電体薄膜52の一部は覆われている。
ターゲット32は電源71に接続されており、真空槽30内にガス導入系33からスパッタリングガスを導入し、電源71からターゲット32に電圧を印加すると、ターゲット32表面近傍でN2ガスを原料としたプラズマが形成され、ターゲット32はスパッタリングされる。図中の符号72は、マグネトロン磁石である。
スパッタによって飛び出したターゲット32の粒子は、N2プラズマと反応してマスク70の開口を通過し、正電極膜53上にLiPONから成る電解質膜54が形成される。このとき、マスク70表面にもLi、Li3PO4、又は電解質膜54の薄膜から成る付着物が形成される。
【0009】
ターゲット32と基板ホルダ31の間は、板状又は筒状の防着装置75によって取り囲まれており、スパッタリング粒子は防着装置75の表面に付着し、その部分にも付着物が形成される。
所定膜厚の電解質膜54が形成された成膜対象物50はこの成膜装置10の真空槽30外に搬出され、電解質膜54上に、負電極膜55と負極集電体薄膜56、保護膜57とが形成され、正負電極膜53、55間に電位差が発生するLiイオン二次電池60が形成される。図3(a)、(b)は、それぞれLiイオン二次電池60の平面図とB−B’裁断断面図を示している。
多数の成膜対象物に対して、電解質膜54を繰り返し形成すると、マスク70の表面と防着装置75の表面に、電解質膜54が厚く成膜され、真空槽30内で剥離するとパーティクルが発生してしまう。
マスク70と防着装置75等の、付着物が厚く形成される真空部品は、真空槽30から着脱自在であるように構成されており、付着物が付着した真空部品を取り外し、付着物に、洗浄水として、中性の水(pH6〜8)を注水(図4)、又は散布(図5)すると、真空部品から付着物を剥離させることができる。
【0010】
図4の符号61はホース66から放出された洗浄水を表し、図5の符号62は、シャワープレート64に形成されたノズルから放出された洗浄水を表している。
この場合、真空部品を水に浸漬させるための大きな蓄水槽65は不要になるが、真空部品は、洗浄水63に浸漬させても付着物を剥離させることができる。(図6)
【0011】
<実施例>
縦1cm横1cmのSiから成るSi基板を8個用いて、各Si基板表面に、リチウムに対するリンの組成(モル)であるモル比Qが互いに異なる厚さ1μmのLiPON薄膜を成膜し、8種類の試験基板を作成した。
中性の水(pH6〜8)を洗浄水とし、8種類の試験基板をそれぞれ25℃に保った20mLの洗浄水に10分間浸漬させる水洗を行った。
試験基板のモル比Qが小さいものから大きいものへ順番に番号1〜8を付すと図7の「番号」の右側に並んだ1〜8の数は試験基板の番号であり、番号1〜8の下にある2枚の写真は、上側が水洗前、下側が水洗後の試験基板の表面の顕微鏡写真である。
各試験基板の残渣率を、各試験基板の水洗前のLiPON薄膜の表面積の大きさと、水洗後に剥離せずに残ったLiとSi(基板)との合金もしくはLiPON薄膜の表面積の大きさを測定し、水洗前のLiPON薄膜の表面積の大きさに対する水洗後に剥離せずに残ったLiとSi(基板)との合金もしくはLiPON薄膜の表面積の大きさ比である残渣率を求めた。
【0012】
図8は、横軸が、モル比Qを示し、縦軸が残渣率を示すグラフであり、プロットのグラフ上の位置は、試験基板のモル比Qと残渣率との関係を示している。符号Lは、各プロットを結んだ線が折れ線であり、各プロットに付された符号1〜8は、その符号を付されたプロットの残渣率を測定した試験基板の番号1〜8を示している。
図8より、モル比Qの値が大きくなるに従って残渣率が小さくなる傾向があり、モル比Qの値が0.26以上の値では、試験基板表面に成膜されたLiPON薄膜の80%以上が剥離しており、中性の水によってLiPON薄膜を剥離できた。本発明の薄膜除去方法では、モル比Qの値が0.26以上のLiPON薄膜を除去するのに効果的である。
【符号の説明】
【0013】
32……ターゲット 54……電解質膜 61〜63……洗浄水 64……シャワープレート 65……蓄水槽 66……ホース 70……マスク 75……防着装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜が付着した処理対象物の前記薄膜を除去する薄膜除去方法であって、
前記薄膜は、真空槽内に配置されたリチウムとリンと酸素の化合物から成るターゲットが窒素ガスが含有される雰囲気内でスパッタされて前記処理対象物表面に形成され、
前記処理対象物上の前記薄膜には、pH6〜8の中性の水を接触させる薄膜除去方法。
【請求項2】
前記中性の水を前記処理対象物に注ぐ請求項1記載の薄膜除去方法。
【請求項3】
前記中性の水を水滴にして前記処理対象物に吹き付ける請求項1記載の薄膜除去方法。
【請求項4】
前記薄膜は、窒素置換リン酸リチウム(LiPON)から成る請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の薄膜除去方法。
【請求項5】
前記処理対象物は、前記薄膜が基板上に形成される前記真空槽内に配置されていた請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の薄膜除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−242199(P2010−242199A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95179(P2009−95179)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】