眼球瘢痕化を抑制するための形質転換成長因子−β受容体阻害剤の使用
【課題】眼球瘢痕化を抑制するための形質転換成長因子−β受容体阻害剤の使用を提供する。
【解決手段】ALK−5阻害剤の有効量を含む、GFS後に生じ得る結膜下瘢痕化の予防に有用な医薬組成物。同様に開示されるものは、眼科手術又は外傷後に発現し得る角膜の濁り及びPVRを含む他の眼球瘢痕化又は線維症の障害又は病気の治療方法であって、ALK−5阻害剤を含む医薬組成物のある量を術後又は外傷部位へ適用することを含む方法である。
【解決手段】ALK−5阻害剤の有効量を含む、GFS後に生じ得る結膜下瘢痕化の予防に有用な医薬組成物。同様に開示されるものは、眼科手術又は外傷後に発現し得る角膜の濁り及びPVRを含む他の眼球瘢痕化又は線維症の障害又は病気の治療方法であって、ALK−5阻害剤を含む医薬組成物のある量を術後又は外傷部位へ適用することを含む方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2009年4月17日に出願された米国仮出願特許第61/170,141号への優先権を請求する。
【0002】
この発明の進展は、米国健康支援財団(American Health Assistance Foundation)、G2006−014からの財政的支援により支持されている。政府機関は本発明に興味を持っている。
【背景技術】
【0003】
背景
眼の線維傷害反応は、特に、緑内障のための外科的治療の結果として、視覚障害及び失明の主な原因である。緑内障は、米国における失明の主な原因であり、2000年に250万人のアメリカ人及び世界中で6500万人の人が該疾患に罹患した。緑内障は視神経頭への損傷並びに神経障害及び視力障害により特徴付けられる疾患である。緑内障の主な危険因子の一つは、房水流出路における異常の結果として生じる眼圧の上昇(IOP)である。緑内障ろ過手術(GFS)は通常、薬物治療がIOPを的確に制御することに失敗した場合に行なわれる。
【0004】
過度の術後瘢痕化が、しばしばGFSの失敗をもたらす。結膜の抗−瘢痕化治療として、ミトマイシン−C(MMC)及び5−フルオロウラシルのような代謝拮抗剤の使用が多くの患者に利益をもたらしているものの、これらは広範な細胞死を引き起こすことによって、その利益をもたらすのであって、低眼圧黄斑症及び感染症のような重度の及び潜在的な失明合併症を伴う。そのため、他の抗−瘢痕化のアプローチが調査されてきている。特に、形質転換成長因子−β(TGF−β)及びその経路が、術後の抗−瘢痕化治療のための標的として浮上した。
【発明の概要】
【0005】
図面の簡単な説明
本明細書に組み込まれ且つ本明細書の一部を構成する、添付の図面は、本発明の観点の種々の実施例態様を説明する種々の実施例系、方法等を説明する。図中で説明される成分枠(例えば、四角形、四角形の群又は他の形状)は、枠の1例を表すものと理解され得る。当業者は、1種の要素は、多重要素として設計され得るか又は多重要素は1種の要素として設計され得ると理解し得る。別の要素の内部構成材として示される要素は、外部構成材として実施され得るが、その逆も同じである。更に、要素は、縮尺通りとは限らない。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】図1は、緑内障ろ過手術の間のヒトの目の側面図である。
【図2】図2は、ウサギの培養結膜下線維芽細胞のTGF−βシグナル伝達レベル上のALK−5阻害剤、616451の効果を示すグラフである。
【図3】図3は、ウサギの培養結膜下線維芽細胞のTGF−βシグナル伝達レベル上のALK−5阻害剤、SB−505124の効果を示すグラフである。
【図4】図4は、ウサギの培養結膜下線維芽細胞のTGF−βシグナル伝達レベル上のALK−5阻害剤、606452の効果を示すグラフである。
【図5】図5は、ウサギの培養結膜下線維芽細胞のTGF−βシグナル伝達レベル上のALK−5阻害剤、SD−208の効果を示すグラフである。
【図6】図6は、ウサギの培養結膜下線維芽細胞のTGF−βシグナル伝達レベル上のALK−5阻害剤、SB−525334の効果を示すグラフである。
【図7】図7は、ウサギの培養結膜線維芽細胞におけるALK−5阻害剤、SB−505124の細胞毒性を示すグラフである。
【図8】図8は、被験動物におけるALK−5阻害剤、SB−505124及び種々のコントロールの効果を示すグラフである。
【図9A】図9Aは、被験動物のIOPにおけるALK−5阻害剤、SB−505124の効果を示すグラフである。
【図9B】図9Bは、被験動物のIOPにおけるミトマイトシン−c(mitomytocin−c)の効果を示すグラフである。
【図9C】図9Cは、被験動物のIOPにおける無処理の効果を示すグラフである。
【図9D】図9Dは、被験動物のIOPにおける乳糖コントロール錠剤の効果を示すグラフである。
【図10】図10A−Cは、被験動物の目におけるALK−5阻害剤、SB−505124及び種々のコントロールの効果を示す写真である。
【図11】図11A−Cは、被験動物の目から取られた外植片からの細胞増生におけるALK−5阻害剤、SB−505124及び種々のコントロールの効果を示す写真である。
【図12A】図12A−Dは、被験動物の目から取られた外植片からの細胞増生におけるALK−5阻害剤、SB−505124及び種々のコントロールの効果を示すグラフである。
【図12B】図12A−Dは、被験動物の目から取られた外植片からの細胞増生におけるALK−5阻害剤、SB−505124及び種々のコントロールの効果を示すグラフである。
【図12C】図12A−Dは、被験動物の目から取られた外植片からの細胞増生におけるALK−5阻害剤、SB−505124及び種々のコントロールの効果を示すグラフである。
【図12D】図12A−Dは、被験動物の目から取られた外植片からの細胞増生におけるALK−5阻害剤、SB−505124及び種々のコントロールの効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
詳細な説明
ここで開示されるものは、哺乳類におけるGFS後の眼球瘢痕化の予防及び治療のための方法である。好ましくは、該方法はGFS中又はその後のヒトの患者を治療するために使用され得る。GFSおいて、眼からの液体の排水を容易にするために新規なドレナージ部位が創出されると、それにより眼におけるIOPが低下する。図1に示されるように、ヒトの眼は、他の構成要素中に、結膜12、小柱網14、虹彩16、角膜18、網膜24及び水晶体26を含む。
【0008】
GFSの間、眼の通常のドレナージ部位(小柱網)14中への排水の代わりに、房水が眼の結膜12の下に創出された新規な“空間”中へ排水される。これを行うために、白眼の中に小さなフラップが作成される。その後、通路の開口部20とろ過胞と呼ばれる貯水部22の間に新規なドレナージルート28が創出される。房水と呼ばれる、前房及び後房中の流体は、その後、新規なドレナージルート28を介して胞22中へ排水され、眼の周囲の血管中へ吸収される。胞22及び/又は新規なドレナージルート28は、傷跡を残し得、そして、該房水が適度に流れ出るのを防ぐ経路を閉ざしてしまい、それは胞不全と呼ばれる。
【0009】
TGF−βは、創傷治癒反応の主要なメディエーターである。眼において、TGF−βは、角膜外傷及びレーザー手術後の角膜の濁り及びGFS後の結膜下の瘢痕化の誘発に関与してきた。加えて、TGF−βの上方調節は、網膜剥離手術の失敗の主原因である、増
殖性硝子体網膜症(PVR)に関わっている。
【0010】
アクチビン受容体様キナーゼ(ALK)5阻害剤は、TGF−βのシグナル伝達経路を遮断すると認識されてきており、よって、角膜外傷及びLASIKのようなレーザー手術後の角膜の濁り並びにGFS及び角膜手術及び硝子体網膜手術を含む眼科手術後の瘢痕化を防止するために使用され得る。同様に、ALK−5阻害剤の使用は、MMCのような現在の抗−瘢痕化薬剤により引き起こされる組織傷害と関連する後期発症の術後感染症を含む副作用も減少し得る。他の副作用は、出血、腫脹、瘢痕化、網膜剥離、眼瞼下垂、複視、視力低下又は失明でさえ含み得る。最終的に、ALK−5阻害剤のヒトの眼への局所適用は、緑内障と関連するIOPを低下させ得る。
【0011】
一つの態様において、GFS処置又は眼球外傷後の眼球瘢痕化を抑制するための方法は、TGF−βのシグナル伝達経路を阻害するのに充分な量で、ALK−5の有効量及びそのための医薬的に許容可能なビヒクルを含む組成物並びにその組み合わせを提供することであり、それは手術後又は外傷部位への該組成物の適用は、眼球手術及び/又は眼球外傷に続く瘢痕組織の形成を抑制する。
【0012】
当業者は、図1で示されるように、ろ過胞22の形成がGFS処置にとって重要であることを理解するだろう。もし該胞22及び/又は新規なドレナージルート28が損なわれるか又は閉じられた場合、房水が適度に流れ出るのを妨げ(胞不全)、ろ過手術は失敗し得る。従って、手術処置の間に使用されるALK−5阻害剤の量は、TGF−βのシグナル伝達経路を阻害するのに充分な量とすべきであり、それにより、胞不全が予防される。用語“約”は、ここで使用されるあらゆる一定数のプラス又はマイナス10%を意味すると理解されるべきである。好ましくは、組成物は約0.3ないし約30マイクロモル(μM)のALK−5阻害剤を、より好ましくは約3ないし約15μMの阻害剤を含み得る。更に、当業者は、30μMを超えて含む組成物もまた使用され得ることを理解するだろう。
【0013】
以下に示す化合物の1種以上が瘢痕組織の形成を抑制するためにGFS処置中に使用され得る。入手可能な所で、製造業者指定のものが提供されてきている。
【化1】
【化2】
【化3】
【0014】
更なる化合物は、それらの製造業者名により既知であり、阻害剤、KI26894、LY2109761、IN−1233及びSKI2126を含む。上述の化合物のコレクションから、以下に示すものが種々の供給元から得られた:63178−9916,ミズーリ州,セントルイス,ピー.オー.ボックス14508のシグマ(Sigma)社から入手可能なLY−364947、SB−525334、SD−208及びSB−505124;08027,ニュージャージー州,ギブスタウン,S.デモクラットロード 480のカルビオケム(Carbiochem)社(EMDケミカルス,Inc.)から入手可
能な616452及び616453;英国,TW8 9GS,ミドレセックス,ブレントフォード,グレートウエストロード 980のグラクソスミスクライン(ClaxoSmithKline)社から入手可能なGW788388及びGW6604;46285,インディアナ州,インディアナポリス,リリーリサーチ(Lilly Research)社から入手可能なLY580276及び、27709−4627,ノースカロライナ州,リサーチトライアングルパーク,デイビスドライブ 5000,ピー.オー.ボックス14627のバイオジェン アイデック(Biogen Idec)社から入手可能なSM16。
【0015】
上記組成物は、ALK−5阻害剤及びその医薬的に許容可能な塩を含み得、それらは持続放出性ポリマー、投与においてゲル形成が可能なキャリア、ハイドロゲル、クリーム、軟膏、噴霧剤、液剤又は錠剤のような、眼に適用される種々のタイプの医薬的に許容可能なビヒクルと組み合わせ得る。ビヒクルは、水性であり得、眼組織と化学的及び物理的に相溶性となるように処方される。例えば、生体内分解性の(又は生体内崩壊性の)ゲル又はコラーゲン挿入物は、胞における阻害剤の有効濃度を保持するために使用され得る。そのようなゲル又は挿入物の使用は、手術部位で活性成分の持続放出を提供する利点を有する。
【0016】
当業者が理解するであろうように、上述の組成物は、無菌であるべきであり、敏感な眼内組織、特に、角膜/内皮細胞に対して毒性を示すどんな薬剤も含むべきでない。上述の組成物は、当業者に既知の技術に従って処方し得る。
【0017】
上述のALK−5阻害剤は、種々の技術の手段により手術部位へ適用し得る。例えば、該組成物は、手術の間に又は手術後直ちに、好ましくは4時間以内に注射の手段により、又は手術部位上又は手術部位周囲の眼中へ挿入し得る持続放出ポリマーと一緒に適用され得る。該組成物は、角膜の濁りを防止又は減少するために、LASIK後の局所処方で手術部位に適用され得る。
【実施例】
【0018】
実施例1:インビトロにおけるTGF−β2の抑制の測定
試料の線維芽細胞は、ニュージーランド白ウサギの眼から得られた。該線維芽細胞は、対象者の眼から単離された結膜下組織に由来するものであった。細胞は、イーグル最小必須培地、10%ウシ胎児血清、5%子牛血清、必須アミノ酸及び非必須アミノ酸及び抗生物質から構成される媒体2mLを用いて25cm2フラスコ中で保持された。該細胞がコンフルエンスに到達した時に、トリプシン処理され及び継代された。
【0019】
6−ウェルプレート中の線維芽細胞培養物は、それぞれ種々の濃度、0.03、0.1、0.03、1.0、3.0及び10.0μMで、ALK−5阻害剤を含む媒体2mLと一緒に1時間前処理され、更に、TGF−β2(R&Dシステムズ、ミネアポリス、MN)2ng/mLで48時間まで処理された。表1に示されるように、試料1−6は、ALK−5阻害剤616451を用いて、試料7−12は、ALK−5阻害剤616452を用いて、試料13−18は、ALK−5阻害剤SD−208を用いて、試料19−24は、ALK−5阻害剤SB505124を用いて、及び試料25−30は、ALK−5阻害剤SB−525334を用いて処理された。
【0020】
試料31及び32は、コントロールとして調製された。試料31は、ALK−5阻害剤又はTGF−β2で処理されなかった。試料32は、TGF−β2 2ng/mLで処理されたが、ALK−5阻害剤で処理されなかった。試料は、以下の表1に示されるように調製された。
【表1】
【0021】
阻害剤及び/又はTGF−β2を用いた処理の後、種々の試料からの細胞は採取され、定量的な評価を提供するためにウエスタンブロッティングが行われた。結膜線維芽細胞はトリトン溶解緩衝液中で溶解された。溶解物中の総タンパク質は、ブラッドフォードタンパク質分析を用いて定量された。タンパク質の等量(20μg/レーン)が10%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)−ポリアクリルアミドゲルに溶解された。タンパク質はその後、ニトロセルロース膜へ転写された。
【0022】
1%ウシ血清アルブミンでブロッキングした後、該膜は、ポリクローナルヤギ抗−結合組織増殖因子(CTGF)(1:200、サンタクルーズ バイオテクノロジー、サンタクルーズ、CA、)でプローブされ、そして、HRP標識−ロバ抗−ヤギIgG(1:1,000;ジャクソン イムノリサーチ、ウエストグローブ、PA)が続いた。TGF−βシグナルは、ピアス(Pierce)(ロックフォールド、IL)製のスーパーシグナル(Super Signal)を使用する高感度化学発光(ECL)により検出された。
濃度測定はその後、バンドの強度を測定することにより達成された。
【0023】
濃度測定は、低下したCTGFタンパク質のバンドの強度、即ち、1μMを超える濃度で試料は、37−38及び42−44kDaを示し、ALK−5阻害剤で処理された試料における減少したタンパク質レベルを示している。膜はまた、内部標準として、ハウスキーピング遺伝子、グリセロアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼのためにもプローブされた。図2−6で示されるように、最大阻害の半分の濃度(IC50)が、TGF−β2機能の阻害における各阻害剤の効果を評価するために計算された。阻害剤の濃度が増加するに従って、阻害されるTGF−β2のパーセンテージもまた増加した。TGF−β発現を阻害することがGFS後の眼球瘢痕化の抑制を引き起こすことが理解され得るだろう。該成長因子の阻害のパーセンテージが、投与された各阻害剤の特定の濃度に依存することに留意すべきである。
【0024】
一般的に、該成長因子は、阻害剤の少なくとも1μMでの細胞への適用により、ある程度阻害された。シグナル経路の阻害を提供するのに3μM程度が必要な場合があった。阻害剤無しに調製されたコントロール試料は、TGF−βシグナル経路の阻害機能を示さなかった。図2−6中、グラフの“−1”境界線は、試料31が試験された場合に見られる、TGF−β下流タンパク質の負の発現パーセンテージを表し、“0”境界線は、各ALK−5阻害剤は添加されないが、TGF−β溶液は添加されて試験される、試料32からの試験データを表す。
【0025】
阻害剤の低濃度を用いて調製された試料の中には、実際に、シグナル経路の活性において増加を示したものもあったが、阻害剤を用いる効果的な治療は、使用した特定の阻害剤及び手術部位へ適用した阻害剤の濃度に依存するであろうとの結論を導く。更に、長時間に亘り、手術部位において、阻害剤の一定濃度を維持するのが望ましい。従って、局所ゲル、ポリマーインプラント等を伴うような、組成物の持続放出を提供する方法を伴って阻害剤を適用することが望ましくあり得る。
【0026】
実施例2:インビトロにおけるALK−5阻害剤の毒性
GFS処置後の標準治療は、眼球瘢痕化を予防するために、ミトマイシンC(MMC)で手術部位を治療することである。しかしながら、MMCは、手術部位の周囲において高頻度の非−選択的な細胞死を引き起こすことが知られている。この細胞死における増加又は高い細胞毒性は、後期発症の術後感染症の比率増加を含む術後合併症を引き起こすことが知られている。従って、細胞毒性が、ALK−5阻害剤SB−505124で処理されたか又は処理されなかった線維芽細胞を用いて研究された。
【0027】
試料の線維芽細胞は、ニュージーランド白ウサギの眼から得られた。該線維芽細胞は、対象者の眼から単離された結膜組織に由来するものであった。細胞は、イーグル最小必須培地、10%ウシ胎児血清、5%子牛血清、必須アミノ酸及び非必須アミノ酸及び抗生物質から構成される媒体2mLを用いて25cm2フラスコ中で保持された。該細胞がコンフルエンスに到達した時に、トリプシン処理され及び継代された。
【0028】
線維芽細胞の3種の試料が調製された。第一の試料である試料Aは、TGF−β2の2ng/mLで48時間まで処理された線維芽細胞培養物を含んでいた。第二の試料である試料Bは、未処理である線維芽細胞培養物を含んでいた。第三の試料は、ALK−5阻害剤SB−505124の10.0μMを含む媒体2mLと一緒に1時間前処理され、更に、付加的なTGF−β2(R&Dシステムズ社、ミネアポリス、MN)2ng/mLで48時間まで処理された。
【0029】
細胞数がトリプシン処理の後で血球計(ハウザーサイエンティフィック(Hausse
r Scientific)社、ホーシャム、PC)を用いて集計された。図7に示すように、ALK−5で処理された試料とTGF−β2で処理されなかったか又はTGF−β2単独で処理された試料の間に、細胞数における測定可能な差異が存在しなかったことが観察された。従って、TGF−β2の発現の抑制及びALK−5タイプの阻害剤を用いることによる、GFS後に結果として生じ得る眼球瘢痕化の軽減に加えて、ALK−5阻害剤は、術後感染症を予防する手術部位の周辺の健全な細胞を破壊しないという付加された利点を有するように考えられる。
【0030】
実施例3:インビボにおける術後の胞生存結果
GFSに続く眼球瘢痕化の発生を測定する一つの方法は、手術中に形成されるろ過胞の不全又は生存を測定することである。以前で議論したように、図1を参照し、GFSの間、眼の通常のドレナージ部位(小柱網)14中への排水の代わりに、房水が眼の結膜12の下に創出された新規な“空間”中へ排水される。これを行うために、眼の中に小さなフラップが作成される。その後、通路の開口部20とろ過胞と呼ばれる貯水部22の間に新規なドレナージルート28が創出される。房水と呼ばれる、前房及び後房中の流体は、その後、新規なドレナージルート28を介して胞22中へ排水され、眼の周囲の血管中へ吸収される。胞22及び/又は新規なドレナージルート28は、傷跡を残し得、そして、該房水が適度に流れ出るのを防ぐ経路を閉ざしてしまうが、胞不全と呼ばれる。
【0031】
手術に続く胞不全及び眼球瘢痕化の発生を測定するために、GFSを受け及び手術部位の周辺が瘢痕化した4匹のニュージーランド白ウサギを観察した。実験のプロトコールは、ノースイースター・オハイオ大学医学薬学カレッジ(Northeaster Ohio Universities Colleges of Medicine and Pharmacy)における動物管理使用委員会 (Institutional Animal Care and Use Committee)により承認された。動物管理指針は、米国公衆衛生局(US Public Health Service)により発行されたものに匹敵している。
【0032】
被験ウサギは、メデトミジンの約0.25ないし0.5mg/kg及びケタミンの約15ないし20mg/kgの組み合わせの皮下注射により麻酔された。当初の薬量の1/4ないし1/2の追加の注射がまた、麻酔を維持するために30ないし45分毎に与えられた。局所麻酔が0.5%プロパラカインHCl点眼薬で提供された。
【0033】
手術は、無菌条件下で行われ、眼は1:16希釈のプロビドン−ヨウ素 局所消毒薬及び食塩水で洗浄された。手術は、検鏡を用いる眼瞼の引き込みにより行われた。部分−厚さ角膜けん引縫合(8−0シルク、アルコン(Alcon)社、フォート ワース、TX)は、眼を下方に回転するために上部角膜中に配置された。透明な角膜穿刺管が12時と2時の間の位置に作成され、粘弾性材料(0.1−0.2mL、ディスコビスク(Discovisc(登録商標))、アルコン)が房形態を維持するために前房中に注入された。
【0034】
手術は、眼の前部、側頭部及び上部の部位において行われた。円蓋ベースの結膜弁が角膜輪部の後ろに上げられ、角膜間質への強膜トンネルがその後形作られた。22−G/25−mmのベンフロン2カニューレ(ベクトンディッキンソン(Becton Dickinson)社、フランクリンレイク、NJ)が角膜中で目に見えるまで、強膜を通過された。前房中へのカニューレの挿入の後、該カニューレは10−0ナイロン縫合糸(Alcon)で強膜表面へ固定された。結膜切開は、遮断され及びテーパー切断針(エチコン(Ethicon)社、サマービル、NJ)を用いた9−0ナイロン縫合を使用するマットレス縫合により閉じられた。1%アトロピンの1滴並びにネオマイシンとデキサメタゾンが組み合わされた軟膏の単回使用が、手術の終わりに眼表面に適用された。
【0035】
被験対象の第一組であるA群は、GFSを受け、コントロールとしてMMC(ベッドフ
ォードラボラトリーズ(Bedford Laboratories)より入手可能、ベッドフォード、OH)で処理された(MMCコントロール)。0.04%MMCに浸された手術用スポンジが、円蓋ベースの結膜弁が上げられたすぐ後に、5分間手術部位の結膜下腔に適用された。該部位はその後、平衡塩類溶液500mLで洗浄された。
【0036】
被験対象の第二組であるB群は、GFSを受け、SB−505124の5mg及びラクトース65mgを含んだタブレットで、圧縮技術を使用して調製された錠剤(直径6mm、厚さ1.0mm)で処理された。GFS中の結膜切開の縫合に先立って、該ラクトース錠剤は幾つかの片に割られて、手術部位における強膜上に置かれた。
【0037】
被験対象の第三及び第四組であるC及びD群は、それぞれ、あらゆる処理無しにGFSを受け(非添加コントロール)及び阻害剤を欠いているラクトース錠剤を伴ってGFSを受けた(錠剤コントロール)。
【0038】
GFS後、A−D群における全ての動物は、GFS後の最初の1週間の間、連日細隙灯下に置かれ、及び、胞不全が観察されるまで、又は、術後28日までのどちらか長い方の期間、その後の少なくとも1週間当り2回、試験された。ろ過胞、前房活性及び深さ、結膜充血及び房水漏洩が試験された。胞不全は、深前房と関連した、平坦で、血管が新生された、瘢痕化した胞の外観として定義された。眼のマッサージにより促進される胞中への房水廃水の欠如が、胞不全の判断における一助となった。ろ過胞はまた、デジタルカメラで写真撮影された(ファインピックスF40fd、冨士フィルム、日本)。
【0039】
図8に示されるように、それぞれMMCとALK−5阻害剤で処理されたA及びB群の被験対象は、GFS後の少なくとも10日の間維持されたろ過胞を有していたが、一方、コントロール処理を受けていないか又はラクトース錠剤コントロールを受けたC及びD群の被験対象におけるろ過胞は、手術後1週間以内に損傷された。このことは、MMCと同じように、AKL−5阻害剤は手術に続く眼球瘢痕化を予防し得ることを示す。
【0040】
実施例4−インビボにおける術後IOPの結果
A−D群における動物のためのIOPは、局所麻酔が0.5%プロパラカインを用いて適用された後、各被験対象の角膜を穏やかに触れて、TONO−PEN(登録商標)(ライヘルトオフタルミックインストルメンツ(Reichert Ophthalmic Instruments)社、ニューヨーク州、デピュー)を用いて測定された。IOP測定値は、その信頼区間が95%未満である場合、削除された。3回の測定の平均値を推定IOPとした。
【0041】
図9Aは、未処理の眼40のIOPと、SB−505124阻害剤で処理した手術被験対象42のそれとを比べる比較を示す。図9Bは、未処理の眼40のIOPと、MMCで処理した手術被験対象44のそれとを比べる比較を示す。図9Cは、未処理の眼40のIOPと、あらゆる適用無しで処理された手術被験対象MMCで処理した手術被験対象(非添加コントロール)46のそれとを比べる比較を示す。図9Dは、未処理の眼40のIOPと、100%ラクトースの錠剤で処理した手術被験対象(錠剤コントロール)のそれとを比べる比較を示す。図9A−Dにおいて示されるように、外科的に処理されていない眼を用いたため、処理された眼のIOPは、SB−505124で処理された群において10日間までの間、及びMMCで処理されたものにおいて観察期間に亘って、低下した。ラクトースコントロール又は非添加コントロールの群のIOPにおける差異は僅かであったため、阻害剤の使用はMMCと同様に、手術に続いて減少されたIOPを導くという結論が導かれた。
【0042】
実施例5−イクスビボにおけるヘモトキシリン及びエオシン染色結果
手術の5日後、製造業者の説明書に従って、A−D群の被験対象をフェイタル−プラス
(登録商標:Fatal−plus)(ボルテックファーマシューティカル(Vortech Pharmaceutical)社、ミシガン州、ディアボーン)で安楽死させた。被験対象の眼が、結膜上皮及び結膜下腔を無傷に維持するために、眼瞼の角膜輪部と共に摘出された。摘出された眼は、10%の緩衝化されたホルマリンで固定化され、5μm厚のパラフィン切片が調製された。該切片は組織学的試験のためにヘモトキシリン及びエオシン(H&E)で染色され、写真がオリンパスDX51光学顕微鏡及びDPコントローラー(オリンパス、東京、日本)を用いて撮影された。
【0043】
図10は、SB−505124を用いた(10A)、MMCを用いた(MMCコントロール、10B)及び何らの添加も用いない(非添加コントロール 10C)、手術5日後の眼からの組織切片におけるヘモトキシリン及びエオシン染色の写真である。2〜3の炎症細胞及び軽い瘢痕化のみの浸潤が、SB−505124を用いたGFS又はMMCコントロールにおける眼の結膜下腔48において観察されたが、一方、多くの炎症細胞及び重度の瘢痕化が、非添加コントロール(10C)において見られた。角膜輪部浸潤が全てにおいて観察された。より薄い結膜上皮が、SB−505124を伴うGFS(10A)及び非添加コントロール(10C)におけるものと比べて、MMCコントロール(10B)において見られた。結膜血管54が、概して、SB−505124を伴うGFS(10A)及び非添加コントロール(10C)において見られたが、MMCコントロール(10B)においては殆ど見られなかった。よって、未処理の被験対象のように、これらの写真は、SB−505124阻害剤で処理された被験対象が、組織毒性の兆候が無いか又は非常に低いを示すことを示し、実証する。従って、SB−505124による眼球瘢痕化の抑制における機構が、広範な細胞死に起因する眼球瘢痕化を抑制するMMCのそれとは異なると結論付けることができる。
【0044】
実施例5−イクスビボにおいて細胞増生を測定することによるALK−5阻害剤の毒性
眼球瘢痕化を抑制するALK−5阻害剤の能力がMMCと同じようにその毒性と関連するものであるか否かを更に調査するために、結膜下組織線維芽細胞の増生アッセイが行われた。GFSの5日後、A及びB群として、MMC又はALK−5阻害剤を用いて調製された被験対象を、上述のようにして安楽死させた。眼科手術用顕微鏡下で、結膜下組織を手術部位から切開し及び手術部位から180°(6時の位置)を切開した(180°コントロール)。各生体標本(外植片)を完全な媒体と一緒に25cm2細胞培養フラスコ内に設置した。生体標本の取り扱いにおいて、特に、試料が乾燥しないように及び細胞の生存能力に影響しないことを確実にするために注意が払われた。各外植片の端からミリサイズで細胞増生が観察され、4つの四辺形中の増生の長さが測定された。
【0045】
図11A−Cは、それぞれ、SB−505124、MMCで及びコントロール無しで処理された被験対象から取られた外植片からの細胞増生の写真である。図11Aで示されるように、SB−505124で処理された被験対象のための結膜下組織外植片の端からの細胞増生56は健全であり、一方、細胞増生56は、MMCで処理されたそれらにおいて貧弱であった。図11A及び11Cにおいて示されるように、SB−505124で処理された結膜下組織と処理されなかった群における被験対象の間の細胞増生における明確な差異は存在しておらず、一方、図11B及び11Cにおいて示されるように、MMC群と処理されなかったコントロール群の対象者の間に明確な差異が見られた。死滅細胞のように見える、2〜3の小さな丸い小片が、ALK−5阻害剤及びMMCで処理された組織からの増生の頂部において見られたが、処理されなかったコントロール群からは殆ど見られなかった。
【0046】
図12A−Dは、それぞれ、SB−505124 180°コントロール、MMC 180°コントロール、SB−505124手術部位及びMMC手術部位から取られた外植片から測定された細胞増生長のグラフ表示である。図A−Cで示される、18日間にわた
って約7mmという、外植片から測定された細胞増生の量において明確な差異は無いように見られた。しかし、MMCで処理された組織の手術部位から取られた外植片から測定された細胞増生は、18日間にわたって2mm未満という、非常に小さいものであった。従って、処理されていない組織のように、SB−505124で処理された組織は、MMCと異なり、明確な細胞毒性を引き起こさないように見える。
【0047】
結果の統計的有意性を評価するために、二元分散分析を実行してGFS後のIOP変化及び結膜下組織からの線維芽細胞増生を評価した。胞生存を分析するためにカプラン−マイヤー法を使用した(SPSS 第16版、イリノイ州、シカゴ)。
【0048】
当業者は、ここに開示される実施例及び方法が、基本的に例示を意図するものであり、請求された発明を限定することを意図するものでないことを認識し得る。
【技術分野】
【0001】
本願は、2009年4月17日に出願された米国仮出願特許第61/170,141号への優先権を請求する。
【0002】
この発明の進展は、米国健康支援財団(American Health Assistance Foundation)、G2006−014からの財政的支援により支持されている。政府機関は本発明に興味を持っている。
【背景技術】
【0003】
背景
眼の線維傷害反応は、特に、緑内障のための外科的治療の結果として、視覚障害及び失明の主な原因である。緑内障は、米国における失明の主な原因であり、2000年に250万人のアメリカ人及び世界中で6500万人の人が該疾患に罹患した。緑内障は視神経頭への損傷並びに神経障害及び視力障害により特徴付けられる疾患である。緑内障の主な危険因子の一つは、房水流出路における異常の結果として生じる眼圧の上昇(IOP)である。緑内障ろ過手術(GFS)は通常、薬物治療がIOPを的確に制御することに失敗した場合に行なわれる。
【0004】
過度の術後瘢痕化が、しばしばGFSの失敗をもたらす。結膜の抗−瘢痕化治療として、ミトマイシン−C(MMC)及び5−フルオロウラシルのような代謝拮抗剤の使用が多くの患者に利益をもたらしているものの、これらは広範な細胞死を引き起こすことによって、その利益をもたらすのであって、低眼圧黄斑症及び感染症のような重度の及び潜在的な失明合併症を伴う。そのため、他の抗−瘢痕化のアプローチが調査されてきている。特に、形質転換成長因子−β(TGF−β)及びその経路が、術後の抗−瘢痕化治療のための標的として浮上した。
【発明の概要】
【0005】
図面の簡単な説明
本明細書に組み込まれ且つ本明細書の一部を構成する、添付の図面は、本発明の観点の種々の実施例態様を説明する種々の実施例系、方法等を説明する。図中で説明される成分枠(例えば、四角形、四角形の群又は他の形状)は、枠の1例を表すものと理解され得る。当業者は、1種の要素は、多重要素として設計され得るか又は多重要素は1種の要素として設計され得ると理解し得る。別の要素の内部構成材として示される要素は、外部構成材として実施され得るが、その逆も同じである。更に、要素は、縮尺通りとは限らない。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】図1は、緑内障ろ過手術の間のヒトの目の側面図である。
【図2】図2は、ウサギの培養結膜下線維芽細胞のTGF−βシグナル伝達レベル上のALK−5阻害剤、616451の効果を示すグラフである。
【図3】図3は、ウサギの培養結膜下線維芽細胞のTGF−βシグナル伝達レベル上のALK−5阻害剤、SB−505124の効果を示すグラフである。
【図4】図4は、ウサギの培養結膜下線維芽細胞のTGF−βシグナル伝達レベル上のALK−5阻害剤、606452の効果を示すグラフである。
【図5】図5は、ウサギの培養結膜下線維芽細胞のTGF−βシグナル伝達レベル上のALK−5阻害剤、SD−208の効果を示すグラフである。
【図6】図6は、ウサギの培養結膜下線維芽細胞のTGF−βシグナル伝達レベル上のALK−5阻害剤、SB−525334の効果を示すグラフである。
【図7】図7は、ウサギの培養結膜線維芽細胞におけるALK−5阻害剤、SB−505124の細胞毒性を示すグラフである。
【図8】図8は、被験動物におけるALK−5阻害剤、SB−505124及び種々のコントロールの効果を示すグラフである。
【図9A】図9Aは、被験動物のIOPにおけるALK−5阻害剤、SB−505124の効果を示すグラフである。
【図9B】図9Bは、被験動物のIOPにおけるミトマイトシン−c(mitomytocin−c)の効果を示すグラフである。
【図9C】図9Cは、被験動物のIOPにおける無処理の効果を示すグラフである。
【図9D】図9Dは、被験動物のIOPにおける乳糖コントロール錠剤の効果を示すグラフである。
【図10】図10A−Cは、被験動物の目におけるALK−5阻害剤、SB−505124及び種々のコントロールの効果を示す写真である。
【図11】図11A−Cは、被験動物の目から取られた外植片からの細胞増生におけるALK−5阻害剤、SB−505124及び種々のコントロールの効果を示す写真である。
【図12A】図12A−Dは、被験動物の目から取られた外植片からの細胞増生におけるALK−5阻害剤、SB−505124及び種々のコントロールの効果を示すグラフである。
【図12B】図12A−Dは、被験動物の目から取られた外植片からの細胞増生におけるALK−5阻害剤、SB−505124及び種々のコントロールの効果を示すグラフである。
【図12C】図12A−Dは、被験動物の目から取られた外植片からの細胞増生におけるALK−5阻害剤、SB−505124及び種々のコントロールの効果を示すグラフである。
【図12D】図12A−Dは、被験動物の目から取られた外植片からの細胞増生におけるALK−5阻害剤、SB−505124及び種々のコントロールの効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
詳細な説明
ここで開示されるものは、哺乳類におけるGFS後の眼球瘢痕化の予防及び治療のための方法である。好ましくは、該方法はGFS中又はその後のヒトの患者を治療するために使用され得る。GFSおいて、眼からの液体の排水を容易にするために新規なドレナージ部位が創出されると、それにより眼におけるIOPが低下する。図1に示されるように、ヒトの眼は、他の構成要素中に、結膜12、小柱網14、虹彩16、角膜18、網膜24及び水晶体26を含む。
【0008】
GFSの間、眼の通常のドレナージ部位(小柱網)14中への排水の代わりに、房水が眼の結膜12の下に創出された新規な“空間”中へ排水される。これを行うために、白眼の中に小さなフラップが作成される。その後、通路の開口部20とろ過胞と呼ばれる貯水部22の間に新規なドレナージルート28が創出される。房水と呼ばれる、前房及び後房中の流体は、その後、新規なドレナージルート28を介して胞22中へ排水され、眼の周囲の血管中へ吸収される。胞22及び/又は新規なドレナージルート28は、傷跡を残し得、そして、該房水が適度に流れ出るのを防ぐ経路を閉ざしてしまい、それは胞不全と呼ばれる。
【0009】
TGF−βは、創傷治癒反応の主要なメディエーターである。眼において、TGF−βは、角膜外傷及びレーザー手術後の角膜の濁り及びGFS後の結膜下の瘢痕化の誘発に関与してきた。加えて、TGF−βの上方調節は、網膜剥離手術の失敗の主原因である、増
殖性硝子体網膜症(PVR)に関わっている。
【0010】
アクチビン受容体様キナーゼ(ALK)5阻害剤は、TGF−βのシグナル伝達経路を遮断すると認識されてきており、よって、角膜外傷及びLASIKのようなレーザー手術後の角膜の濁り並びにGFS及び角膜手術及び硝子体網膜手術を含む眼科手術後の瘢痕化を防止するために使用され得る。同様に、ALK−5阻害剤の使用は、MMCのような現在の抗−瘢痕化薬剤により引き起こされる組織傷害と関連する後期発症の術後感染症を含む副作用も減少し得る。他の副作用は、出血、腫脹、瘢痕化、網膜剥離、眼瞼下垂、複視、視力低下又は失明でさえ含み得る。最終的に、ALK−5阻害剤のヒトの眼への局所適用は、緑内障と関連するIOPを低下させ得る。
【0011】
一つの態様において、GFS処置又は眼球外傷後の眼球瘢痕化を抑制するための方法は、TGF−βのシグナル伝達経路を阻害するのに充分な量で、ALK−5の有効量及びそのための医薬的に許容可能なビヒクルを含む組成物並びにその組み合わせを提供することであり、それは手術後又は外傷部位への該組成物の適用は、眼球手術及び/又は眼球外傷に続く瘢痕組織の形成を抑制する。
【0012】
当業者は、図1で示されるように、ろ過胞22の形成がGFS処置にとって重要であることを理解するだろう。もし該胞22及び/又は新規なドレナージルート28が損なわれるか又は閉じられた場合、房水が適度に流れ出るのを妨げ(胞不全)、ろ過手術は失敗し得る。従って、手術処置の間に使用されるALK−5阻害剤の量は、TGF−βのシグナル伝達経路を阻害するのに充分な量とすべきであり、それにより、胞不全が予防される。用語“約”は、ここで使用されるあらゆる一定数のプラス又はマイナス10%を意味すると理解されるべきである。好ましくは、組成物は約0.3ないし約30マイクロモル(μM)のALK−5阻害剤を、より好ましくは約3ないし約15μMの阻害剤を含み得る。更に、当業者は、30μMを超えて含む組成物もまた使用され得ることを理解するだろう。
【0013】
以下に示す化合物の1種以上が瘢痕組織の形成を抑制するためにGFS処置中に使用され得る。入手可能な所で、製造業者指定のものが提供されてきている。
【化1】
【化2】
【化3】
【0014】
更なる化合物は、それらの製造業者名により既知であり、阻害剤、KI26894、LY2109761、IN−1233及びSKI2126を含む。上述の化合物のコレクションから、以下に示すものが種々の供給元から得られた:63178−9916,ミズーリ州,セントルイス,ピー.オー.ボックス14508のシグマ(Sigma)社から入手可能なLY−364947、SB−525334、SD−208及びSB−505124;08027,ニュージャージー州,ギブスタウン,S.デモクラットロード 480のカルビオケム(Carbiochem)社(EMDケミカルス,Inc.)から入手可
能な616452及び616453;英国,TW8 9GS,ミドレセックス,ブレントフォード,グレートウエストロード 980のグラクソスミスクライン(ClaxoSmithKline)社から入手可能なGW788388及びGW6604;46285,インディアナ州,インディアナポリス,リリーリサーチ(Lilly Research)社から入手可能なLY580276及び、27709−4627,ノースカロライナ州,リサーチトライアングルパーク,デイビスドライブ 5000,ピー.オー.ボックス14627のバイオジェン アイデック(Biogen Idec)社から入手可能なSM16。
【0015】
上記組成物は、ALK−5阻害剤及びその医薬的に許容可能な塩を含み得、それらは持続放出性ポリマー、投与においてゲル形成が可能なキャリア、ハイドロゲル、クリーム、軟膏、噴霧剤、液剤又は錠剤のような、眼に適用される種々のタイプの医薬的に許容可能なビヒクルと組み合わせ得る。ビヒクルは、水性であり得、眼組織と化学的及び物理的に相溶性となるように処方される。例えば、生体内分解性の(又は生体内崩壊性の)ゲル又はコラーゲン挿入物は、胞における阻害剤の有効濃度を保持するために使用され得る。そのようなゲル又は挿入物の使用は、手術部位で活性成分の持続放出を提供する利点を有する。
【0016】
当業者が理解するであろうように、上述の組成物は、無菌であるべきであり、敏感な眼内組織、特に、角膜/内皮細胞に対して毒性を示すどんな薬剤も含むべきでない。上述の組成物は、当業者に既知の技術に従って処方し得る。
【0017】
上述のALK−5阻害剤は、種々の技術の手段により手術部位へ適用し得る。例えば、該組成物は、手術の間に又は手術後直ちに、好ましくは4時間以内に注射の手段により、又は手術部位上又は手術部位周囲の眼中へ挿入し得る持続放出ポリマーと一緒に適用され得る。該組成物は、角膜の濁りを防止又は減少するために、LASIK後の局所処方で手術部位に適用され得る。
【実施例】
【0018】
実施例1:インビトロにおけるTGF−β2の抑制の測定
試料の線維芽細胞は、ニュージーランド白ウサギの眼から得られた。該線維芽細胞は、対象者の眼から単離された結膜下組織に由来するものであった。細胞は、イーグル最小必須培地、10%ウシ胎児血清、5%子牛血清、必須アミノ酸及び非必須アミノ酸及び抗生物質から構成される媒体2mLを用いて25cm2フラスコ中で保持された。該細胞がコンフルエンスに到達した時に、トリプシン処理され及び継代された。
【0019】
6−ウェルプレート中の線維芽細胞培養物は、それぞれ種々の濃度、0.03、0.1、0.03、1.0、3.0及び10.0μMで、ALK−5阻害剤を含む媒体2mLと一緒に1時間前処理され、更に、TGF−β2(R&Dシステムズ、ミネアポリス、MN)2ng/mLで48時間まで処理された。表1に示されるように、試料1−6は、ALK−5阻害剤616451を用いて、試料7−12は、ALK−5阻害剤616452を用いて、試料13−18は、ALK−5阻害剤SD−208を用いて、試料19−24は、ALK−5阻害剤SB505124を用いて、及び試料25−30は、ALK−5阻害剤SB−525334を用いて処理された。
【0020】
試料31及び32は、コントロールとして調製された。試料31は、ALK−5阻害剤又はTGF−β2で処理されなかった。試料32は、TGF−β2 2ng/mLで処理されたが、ALK−5阻害剤で処理されなかった。試料は、以下の表1に示されるように調製された。
【表1】
【0021】
阻害剤及び/又はTGF−β2を用いた処理の後、種々の試料からの細胞は採取され、定量的な評価を提供するためにウエスタンブロッティングが行われた。結膜線維芽細胞はトリトン溶解緩衝液中で溶解された。溶解物中の総タンパク質は、ブラッドフォードタンパク質分析を用いて定量された。タンパク質の等量(20μg/レーン)が10%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)−ポリアクリルアミドゲルに溶解された。タンパク質はその後、ニトロセルロース膜へ転写された。
【0022】
1%ウシ血清アルブミンでブロッキングした後、該膜は、ポリクローナルヤギ抗−結合組織増殖因子(CTGF)(1:200、サンタクルーズ バイオテクノロジー、サンタクルーズ、CA、)でプローブされ、そして、HRP標識−ロバ抗−ヤギIgG(1:1,000;ジャクソン イムノリサーチ、ウエストグローブ、PA)が続いた。TGF−βシグナルは、ピアス(Pierce)(ロックフォールド、IL)製のスーパーシグナル(Super Signal)を使用する高感度化学発光(ECL)により検出された。
濃度測定はその後、バンドの強度を測定することにより達成された。
【0023】
濃度測定は、低下したCTGFタンパク質のバンドの強度、即ち、1μMを超える濃度で試料は、37−38及び42−44kDaを示し、ALK−5阻害剤で処理された試料における減少したタンパク質レベルを示している。膜はまた、内部標準として、ハウスキーピング遺伝子、グリセロアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼのためにもプローブされた。図2−6で示されるように、最大阻害の半分の濃度(IC50)が、TGF−β2機能の阻害における各阻害剤の効果を評価するために計算された。阻害剤の濃度が増加するに従って、阻害されるTGF−β2のパーセンテージもまた増加した。TGF−β発現を阻害することがGFS後の眼球瘢痕化の抑制を引き起こすことが理解され得るだろう。該成長因子の阻害のパーセンテージが、投与された各阻害剤の特定の濃度に依存することに留意すべきである。
【0024】
一般的に、該成長因子は、阻害剤の少なくとも1μMでの細胞への適用により、ある程度阻害された。シグナル経路の阻害を提供するのに3μM程度が必要な場合があった。阻害剤無しに調製されたコントロール試料は、TGF−βシグナル経路の阻害機能を示さなかった。図2−6中、グラフの“−1”境界線は、試料31が試験された場合に見られる、TGF−β下流タンパク質の負の発現パーセンテージを表し、“0”境界線は、各ALK−5阻害剤は添加されないが、TGF−β溶液は添加されて試験される、試料32からの試験データを表す。
【0025】
阻害剤の低濃度を用いて調製された試料の中には、実際に、シグナル経路の活性において増加を示したものもあったが、阻害剤を用いる効果的な治療は、使用した特定の阻害剤及び手術部位へ適用した阻害剤の濃度に依存するであろうとの結論を導く。更に、長時間に亘り、手術部位において、阻害剤の一定濃度を維持するのが望ましい。従って、局所ゲル、ポリマーインプラント等を伴うような、組成物の持続放出を提供する方法を伴って阻害剤を適用することが望ましくあり得る。
【0026】
実施例2:インビトロにおけるALK−5阻害剤の毒性
GFS処置後の標準治療は、眼球瘢痕化を予防するために、ミトマイシンC(MMC)で手術部位を治療することである。しかしながら、MMCは、手術部位の周囲において高頻度の非−選択的な細胞死を引き起こすことが知られている。この細胞死における増加又は高い細胞毒性は、後期発症の術後感染症の比率増加を含む術後合併症を引き起こすことが知られている。従って、細胞毒性が、ALK−5阻害剤SB−505124で処理されたか又は処理されなかった線維芽細胞を用いて研究された。
【0027】
試料の線維芽細胞は、ニュージーランド白ウサギの眼から得られた。該線維芽細胞は、対象者の眼から単離された結膜組織に由来するものであった。細胞は、イーグル最小必須培地、10%ウシ胎児血清、5%子牛血清、必須アミノ酸及び非必須アミノ酸及び抗生物質から構成される媒体2mLを用いて25cm2フラスコ中で保持された。該細胞がコンフルエンスに到達した時に、トリプシン処理され及び継代された。
【0028】
線維芽細胞の3種の試料が調製された。第一の試料である試料Aは、TGF−β2の2ng/mLで48時間まで処理された線維芽細胞培養物を含んでいた。第二の試料である試料Bは、未処理である線維芽細胞培養物を含んでいた。第三の試料は、ALK−5阻害剤SB−505124の10.0μMを含む媒体2mLと一緒に1時間前処理され、更に、付加的なTGF−β2(R&Dシステムズ社、ミネアポリス、MN)2ng/mLで48時間まで処理された。
【0029】
細胞数がトリプシン処理の後で血球計(ハウザーサイエンティフィック(Hausse
r Scientific)社、ホーシャム、PC)を用いて集計された。図7に示すように、ALK−5で処理された試料とTGF−β2で処理されなかったか又はTGF−β2単独で処理された試料の間に、細胞数における測定可能な差異が存在しなかったことが観察された。従って、TGF−β2の発現の抑制及びALK−5タイプの阻害剤を用いることによる、GFS後に結果として生じ得る眼球瘢痕化の軽減に加えて、ALK−5阻害剤は、術後感染症を予防する手術部位の周辺の健全な細胞を破壊しないという付加された利点を有するように考えられる。
【0030】
実施例3:インビボにおける術後の胞生存結果
GFSに続く眼球瘢痕化の発生を測定する一つの方法は、手術中に形成されるろ過胞の不全又は生存を測定することである。以前で議論したように、図1を参照し、GFSの間、眼の通常のドレナージ部位(小柱網)14中への排水の代わりに、房水が眼の結膜12の下に創出された新規な“空間”中へ排水される。これを行うために、眼の中に小さなフラップが作成される。その後、通路の開口部20とろ過胞と呼ばれる貯水部22の間に新規なドレナージルート28が創出される。房水と呼ばれる、前房及び後房中の流体は、その後、新規なドレナージルート28を介して胞22中へ排水され、眼の周囲の血管中へ吸収される。胞22及び/又は新規なドレナージルート28は、傷跡を残し得、そして、該房水が適度に流れ出るのを防ぐ経路を閉ざしてしまうが、胞不全と呼ばれる。
【0031】
手術に続く胞不全及び眼球瘢痕化の発生を測定するために、GFSを受け及び手術部位の周辺が瘢痕化した4匹のニュージーランド白ウサギを観察した。実験のプロトコールは、ノースイースター・オハイオ大学医学薬学カレッジ(Northeaster Ohio Universities Colleges of Medicine and Pharmacy)における動物管理使用委員会 (Institutional Animal Care and Use Committee)により承認された。動物管理指針は、米国公衆衛生局(US Public Health Service)により発行されたものに匹敵している。
【0032】
被験ウサギは、メデトミジンの約0.25ないし0.5mg/kg及びケタミンの約15ないし20mg/kgの組み合わせの皮下注射により麻酔された。当初の薬量の1/4ないし1/2の追加の注射がまた、麻酔を維持するために30ないし45分毎に与えられた。局所麻酔が0.5%プロパラカインHCl点眼薬で提供された。
【0033】
手術は、無菌条件下で行われ、眼は1:16希釈のプロビドン−ヨウ素 局所消毒薬及び食塩水で洗浄された。手術は、検鏡を用いる眼瞼の引き込みにより行われた。部分−厚さ角膜けん引縫合(8−0シルク、アルコン(Alcon)社、フォート ワース、TX)は、眼を下方に回転するために上部角膜中に配置された。透明な角膜穿刺管が12時と2時の間の位置に作成され、粘弾性材料(0.1−0.2mL、ディスコビスク(Discovisc(登録商標))、アルコン)が房形態を維持するために前房中に注入された。
【0034】
手術は、眼の前部、側頭部及び上部の部位において行われた。円蓋ベースの結膜弁が角膜輪部の後ろに上げられ、角膜間質への強膜トンネルがその後形作られた。22−G/25−mmのベンフロン2カニューレ(ベクトンディッキンソン(Becton Dickinson)社、フランクリンレイク、NJ)が角膜中で目に見えるまで、強膜を通過された。前房中へのカニューレの挿入の後、該カニューレは10−0ナイロン縫合糸(Alcon)で強膜表面へ固定された。結膜切開は、遮断され及びテーパー切断針(エチコン(Ethicon)社、サマービル、NJ)を用いた9−0ナイロン縫合を使用するマットレス縫合により閉じられた。1%アトロピンの1滴並びにネオマイシンとデキサメタゾンが組み合わされた軟膏の単回使用が、手術の終わりに眼表面に適用された。
【0035】
被験対象の第一組であるA群は、GFSを受け、コントロールとしてMMC(ベッドフ
ォードラボラトリーズ(Bedford Laboratories)より入手可能、ベッドフォード、OH)で処理された(MMCコントロール)。0.04%MMCに浸された手術用スポンジが、円蓋ベースの結膜弁が上げられたすぐ後に、5分間手術部位の結膜下腔に適用された。該部位はその後、平衡塩類溶液500mLで洗浄された。
【0036】
被験対象の第二組であるB群は、GFSを受け、SB−505124の5mg及びラクトース65mgを含んだタブレットで、圧縮技術を使用して調製された錠剤(直径6mm、厚さ1.0mm)で処理された。GFS中の結膜切開の縫合に先立って、該ラクトース錠剤は幾つかの片に割られて、手術部位における強膜上に置かれた。
【0037】
被験対象の第三及び第四組であるC及びD群は、それぞれ、あらゆる処理無しにGFSを受け(非添加コントロール)及び阻害剤を欠いているラクトース錠剤を伴ってGFSを受けた(錠剤コントロール)。
【0038】
GFS後、A−D群における全ての動物は、GFS後の最初の1週間の間、連日細隙灯下に置かれ、及び、胞不全が観察されるまで、又は、術後28日までのどちらか長い方の期間、その後の少なくとも1週間当り2回、試験された。ろ過胞、前房活性及び深さ、結膜充血及び房水漏洩が試験された。胞不全は、深前房と関連した、平坦で、血管が新生された、瘢痕化した胞の外観として定義された。眼のマッサージにより促進される胞中への房水廃水の欠如が、胞不全の判断における一助となった。ろ過胞はまた、デジタルカメラで写真撮影された(ファインピックスF40fd、冨士フィルム、日本)。
【0039】
図8に示されるように、それぞれMMCとALK−5阻害剤で処理されたA及びB群の被験対象は、GFS後の少なくとも10日の間維持されたろ過胞を有していたが、一方、コントロール処理を受けていないか又はラクトース錠剤コントロールを受けたC及びD群の被験対象におけるろ過胞は、手術後1週間以内に損傷された。このことは、MMCと同じように、AKL−5阻害剤は手術に続く眼球瘢痕化を予防し得ることを示す。
【0040】
実施例4−インビボにおける術後IOPの結果
A−D群における動物のためのIOPは、局所麻酔が0.5%プロパラカインを用いて適用された後、各被験対象の角膜を穏やかに触れて、TONO−PEN(登録商標)(ライヘルトオフタルミックインストルメンツ(Reichert Ophthalmic Instruments)社、ニューヨーク州、デピュー)を用いて測定された。IOP測定値は、その信頼区間が95%未満である場合、削除された。3回の測定の平均値を推定IOPとした。
【0041】
図9Aは、未処理の眼40のIOPと、SB−505124阻害剤で処理した手術被験対象42のそれとを比べる比較を示す。図9Bは、未処理の眼40のIOPと、MMCで処理した手術被験対象44のそれとを比べる比較を示す。図9Cは、未処理の眼40のIOPと、あらゆる適用無しで処理された手術被験対象MMCで処理した手術被験対象(非添加コントロール)46のそれとを比べる比較を示す。図9Dは、未処理の眼40のIOPと、100%ラクトースの錠剤で処理した手術被験対象(錠剤コントロール)のそれとを比べる比較を示す。図9A−Dにおいて示されるように、外科的に処理されていない眼を用いたため、処理された眼のIOPは、SB−505124で処理された群において10日間までの間、及びMMCで処理されたものにおいて観察期間に亘って、低下した。ラクトースコントロール又は非添加コントロールの群のIOPにおける差異は僅かであったため、阻害剤の使用はMMCと同様に、手術に続いて減少されたIOPを導くという結論が導かれた。
【0042】
実施例5−イクスビボにおけるヘモトキシリン及びエオシン染色結果
手術の5日後、製造業者の説明書に従って、A−D群の被験対象をフェイタル−プラス
(登録商標:Fatal−plus)(ボルテックファーマシューティカル(Vortech Pharmaceutical)社、ミシガン州、ディアボーン)で安楽死させた。被験対象の眼が、結膜上皮及び結膜下腔を無傷に維持するために、眼瞼の角膜輪部と共に摘出された。摘出された眼は、10%の緩衝化されたホルマリンで固定化され、5μm厚のパラフィン切片が調製された。該切片は組織学的試験のためにヘモトキシリン及びエオシン(H&E)で染色され、写真がオリンパスDX51光学顕微鏡及びDPコントローラー(オリンパス、東京、日本)を用いて撮影された。
【0043】
図10は、SB−505124を用いた(10A)、MMCを用いた(MMCコントロール、10B)及び何らの添加も用いない(非添加コントロール 10C)、手術5日後の眼からの組織切片におけるヘモトキシリン及びエオシン染色の写真である。2〜3の炎症細胞及び軽い瘢痕化のみの浸潤が、SB−505124を用いたGFS又はMMCコントロールにおける眼の結膜下腔48において観察されたが、一方、多くの炎症細胞及び重度の瘢痕化が、非添加コントロール(10C)において見られた。角膜輪部浸潤が全てにおいて観察された。より薄い結膜上皮が、SB−505124を伴うGFS(10A)及び非添加コントロール(10C)におけるものと比べて、MMCコントロール(10B)において見られた。結膜血管54が、概して、SB−505124を伴うGFS(10A)及び非添加コントロール(10C)において見られたが、MMCコントロール(10B)においては殆ど見られなかった。よって、未処理の被験対象のように、これらの写真は、SB−505124阻害剤で処理された被験対象が、組織毒性の兆候が無いか又は非常に低いを示すことを示し、実証する。従って、SB−505124による眼球瘢痕化の抑制における機構が、広範な細胞死に起因する眼球瘢痕化を抑制するMMCのそれとは異なると結論付けることができる。
【0044】
実施例5−イクスビボにおいて細胞増生を測定することによるALK−5阻害剤の毒性
眼球瘢痕化を抑制するALK−5阻害剤の能力がMMCと同じようにその毒性と関連するものであるか否かを更に調査するために、結膜下組織線維芽細胞の増生アッセイが行われた。GFSの5日後、A及びB群として、MMC又はALK−5阻害剤を用いて調製された被験対象を、上述のようにして安楽死させた。眼科手術用顕微鏡下で、結膜下組織を手術部位から切開し及び手術部位から180°(6時の位置)を切開した(180°コントロール)。各生体標本(外植片)を完全な媒体と一緒に25cm2細胞培養フラスコ内に設置した。生体標本の取り扱いにおいて、特に、試料が乾燥しないように及び細胞の生存能力に影響しないことを確実にするために注意が払われた。各外植片の端からミリサイズで細胞増生が観察され、4つの四辺形中の増生の長さが測定された。
【0045】
図11A−Cは、それぞれ、SB−505124、MMCで及びコントロール無しで処理された被験対象から取られた外植片からの細胞増生の写真である。図11Aで示されるように、SB−505124で処理された被験対象のための結膜下組織外植片の端からの細胞増生56は健全であり、一方、細胞増生56は、MMCで処理されたそれらにおいて貧弱であった。図11A及び11Cにおいて示されるように、SB−505124で処理された結膜下組織と処理されなかった群における被験対象の間の細胞増生における明確な差異は存在しておらず、一方、図11B及び11Cにおいて示されるように、MMC群と処理されなかったコントロール群の対象者の間に明確な差異が見られた。死滅細胞のように見える、2〜3の小さな丸い小片が、ALK−5阻害剤及びMMCで処理された組織からの増生の頂部において見られたが、処理されなかったコントロール群からは殆ど見られなかった。
【0046】
図12A−Dは、それぞれ、SB−505124 180°コントロール、MMC 180°コントロール、SB−505124手術部位及びMMC手術部位から取られた外植片から測定された細胞増生長のグラフ表示である。図A−Cで示される、18日間にわた
って約7mmという、外植片から測定された細胞増生の量において明確な差異は無いように見られた。しかし、MMCで処理された組織の手術部位から取られた外植片から測定された細胞増生は、18日間にわたって2mm未満という、非常に小さいものであった。従って、処理されていない組織のように、SB−505124で処理された組織は、MMCと異なり、明確な細胞毒性を引き起こさないように見える。
【0047】
結果の統計的有意性を評価するために、二元分散分析を実行してGFS後のIOP変化及び結膜下組織からの線維芽細胞増生を評価した。胞生存を分析するためにカプラン−マイヤー法を使用した(SPSS 第16版、イリノイ州、シカゴ)。
【0048】
当業者は、ここに開示される実施例及び方法が、基本的に例示を意図するものであり、請求された発明を限定することを意図するものでないことを認識し得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼科手術処置後の眼球瘢痕化を抑制するための方法であって:
形質転換増殖因子−βのシグナル伝達経路を阻害するのに充分な量における、ALK−5阻害剤の有効量、及びそれらの医薬的に許容可能なビヒクルを含む組成物を準備することを含み、ここで、前記ALK−5阻害剤は、
【化1】
【化2】
【化3】
及びそれらの組み合わせからなる群より選択され、前記組成物の患者の眼への適用が、眼科手術処置の後の瘢痕組織の形成を抑制する方法。
【請求項2】
前記ALK−5阻害剤は、
【化4】
及びそれらの組み合わせからなる群より選択される請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ALK−5阻害剤は、
【化5】
を含む請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記ALK−5阻害剤は、その医薬的に許容可能な塩である請求項1
、2又は3記載の方法。
【請求項5】
前記組成物は、眼科手術処置の後に術後の手術部位へ局所適用の形態で適用される請求項1、2又は3記載の方法。
【請求項6】
前記医薬的に許容可能なビヒクルは、持続放出ポリマーキャリアを含む請求項1、2又は3記載の方法。
【請求項7】
前記医薬的に許容可能なビヒクルは更に、患者の眼の手術部位への投与においてゲル形成が可能なキャリア媒体を含む請求項1、2又は3記載の方法。
【請求項8】
前記医薬的に許容可能なビヒクルは更に、錠剤の形態にあるキャリア媒体を含む請求項8記載の方法。
【請求項9】
前記ALK−5阻害剤は、約1.0ないし約30.0μMの量で前記組成物中に存在する請求項1、2又は3記載の方法。
【請求項10】
前記ALK−5阻害剤は、約3.0ないし約15.0μMの量で前記組成物中に存在する請求項1、2又は3記載の方法。
【請求項1】
眼科手術処置後の眼球瘢痕化を抑制するための方法であって:
形質転換増殖因子−βのシグナル伝達経路を阻害するのに充分な量における、ALK−5阻害剤の有効量、及びそれらの医薬的に許容可能なビヒクルを含む組成物を準備することを含み、ここで、前記ALK−5阻害剤は、
【化1】
【化2】
【化3】
及びそれらの組み合わせからなる群より選択され、前記組成物の患者の眼への適用が、眼科手術処置の後の瘢痕組織の形成を抑制する方法。
【請求項2】
前記ALK−5阻害剤は、
【化4】
及びそれらの組み合わせからなる群より選択される請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ALK−5阻害剤は、
【化5】
を含む請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記ALK−5阻害剤は、その医薬的に許容可能な塩である請求項1
、2又は3記載の方法。
【請求項5】
前記組成物は、眼科手術処置の後に術後の手術部位へ局所適用の形態で適用される請求項1、2又は3記載の方法。
【請求項6】
前記医薬的に許容可能なビヒクルは、持続放出ポリマーキャリアを含む請求項1、2又は3記載の方法。
【請求項7】
前記医薬的に許容可能なビヒクルは更に、患者の眼の手術部位への投与においてゲル形成が可能なキャリア媒体を含む請求項1、2又は3記載の方法。
【請求項8】
前記医薬的に許容可能なビヒクルは更に、錠剤の形態にあるキャリア媒体を含む請求項8記載の方法。
【請求項9】
前記ALK−5阻害剤は、約1.0ないし約30.0μMの量で前記組成物中に存在する請求項1、2又は3記載の方法。
【請求項10】
前記ALK−5阻害剤は、約3.0ないし約15.0μMの量で前記組成物中に存在する請求項1、2又は3記載の方法。
【図1】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図12A】
【図12B】
【図12C】
【図12D】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図10】
【図11】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図12A】
【図12B】
【図12C】
【図12D】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2012−524073(P2012−524073A)
【公表日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−505972(P2012−505972)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【国際出願番号】PCT/US2010/031433
【国際公開番号】WO2010/121162
【国際公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(510316660)スムマ ヘルス システムズ エルエルシー (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【国際出願番号】PCT/US2010/031433
【国際公開番号】WO2010/121162
【国際公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(510316660)スムマ ヘルス システムズ エルエルシー (2)
【Fターム(参考)】
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