説明

研削方法及び研削装置

【課題】装置及び工程を複雑にすることなく、簡単な方法で研削痕が発生するのを防いで良好な研削面を得る。
【解決手段】研削砥石27(研削手段)を回転させる砥石軸21(第1回転軸)の回転数をウェーハ9(被研削物)を回転させるチャック回転軸15(第2回転軸)の回転数で割った回転数比が整数倍とならないように、チャック回転軸15の回転数を変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削手段を回転させる第1回転軸と被研削物を回転させる第2回転軸とがそれぞれ回転する状態で被研削物を研削する研削方法及び研削装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、研削手段を回転させる第1回転軸と被研削物を回転させる第2回転軸とがそれぞれ回転する状態で被研削物を研削する研削装置は知られている。
【0003】
このような研削装置では、第1回転軸の回転数を第2回転軸の回転数で割った回転数比が整数倍となると、研削手段と被研削物とが共振して被研削物表面の同じ位置に深い研削痕が形成される。
【0004】
例えば、特許文献1の研削装置は、板状被研削物を研削する円環状の研削砥石を有し、第1回転軸に回転可能に支持された研削ホイールと、回転中心を頂点とする極めて小さい勾配の傾斜面からなる円錐面を有し、第2回転軸に回転可能に支持され、上記板状被研削物を吸引保持するチャックテーブルとを備えている。
【0005】
この研削装置では、2つの研削ホイールを有し、研削砥石がチャックテーブルの回転中心上に載るように該チャックテーブルの回転中心と上記研削ホイールの回転中心とがオフセットするようにチャックテーブルを公転可能に配置すると共に、各研削ホイール下面の研削砥石を半導体ウェーハに対してそれぞれ異なる方向に傾斜させて、当たり面を調整している。この状態で各研削ホイールで研削することで、一定方向に研削痕が発生しないようにしている。
【0006】
また、ワークを回転する工作主軸と、砥石又はワークを研削する切り込み送り手段と、工作主軸及び切り込みに対して研削回転する砥石スピンドルを備えるものが一般に用いられている。この従来の研削盤の研削作業中で砥石スピンドルとワーク主軸との間に主軸回転速度を一定にした方法で砥石研削を行った場合は、機械の剛性や、特に砥石の共振によるいわゆる、びびりによって図7に示すような花びら状の仕上げ面となり、真円形状が得にくいという問題があった。
【0007】
そこで、例えば、特許文献2の研削装置のように、砥石スピンドルに一定の回転速度を与え、早送り、研削及び戻し工程を含む1サイクルの研削工程中に、少なくとも仕上げ研削工程を含む間に、プログラムにより指令された工作主軸回転速度の変化時間と開始回転速度の変化率の値にしたがってって工作主軸回転速度を内部サンプリングタイム毎に連続的に単調増加又は単調減少させることにより、花びら状の仕上げ面となるのを防いで真円形状を得ようとするものが知られている。
【特許文献1】特開2000−288881号公報
【特許文献1】特開平6−198566号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1の研削装置では、2つの研削ホイールを必要とするので、装置が大がかりとなる。また、各研削ホイール間を移動する工程が必要となり、工数が増えるという問題がある。また、第1回転軸の回転数を第2回転軸の回転数で割った回転数比が整数倍となり、研削手段と被研削物とが共振する場合には、板状被研削物の表面の同じ位置で研削砥石が強く当たると、花びら状の研削痕が表面に形成されるという問題がある。
【0009】
一方、特許文献2の研削装置では、真円度の向上が見られるものの、連続的に回転数を変化させているため、回転数比が整数倍となる近傍では、相変わらず共振が発生し、整数倍を通過する際に深い研削痕が形成され、仕上げ工程においてもその研削痕が取りきれず、十分な真円度が得られないという問題がある。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、装置及び工程を複雑にすることなく、簡単な方法で研削痕が発生するのを防いで良好な研削面を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、この発明では、第1回転軸の回転数及び第2回転軸の回転数の少なくとも一方を変化させるようにした。
【0012】
具体的には、第1の発明では、研削手段を回転させる第1回転軸と被研削物を回転させる第2回転軸とがそれぞれ回転する状態で被研削物を研削する方法を対象とし、
第1回転軸の回転数を第2回転軸の回転数で割った回転数比が整数倍とならないように、上記第1回転軸の回転数及び第2回転軸の回転数の少なくとも一方を変化させる構成とする。
【0013】
すなわち、第1回転軸の回転数を第2回転軸の回転数で割った回転数比が整数倍になると、研削手段と被研削物との間で共振が発生し、被研削物の同じ位置で研削手段の当たりが強くなり、深い研削痕が形成される。しかし、上記の構成によると、第1回転軸の回転数及び第2回転軸の回転数の少なくとも一方を変化させ、回転数比が整数倍にならないようにしているので、研削手段と被研削物との間で共振が発生しない。したがって、被研削物の同じ位置で研削手段が強く当たることがなく、深い研削痕の発生が防止される。
【0014】
第2の発明では、上記回転数比の小数成分が0.2よりも大きく0.8よりも小さくなるように、上記第1回転軸の回転数及び第2回転軸の回転数の少なくとも一方を変化させる。
【0015】
すなわち、回転数比が整数倍のときには、共振により、研削手段が被研削物に同じ場所で強く当たるので、整数倍にならないように第1回転軸の回転数及び第2回転軸の回転数の少なくとも一方を変化させる必要があるが、回転数比が整数倍でなくてもその近辺の値で変化させると、同じような位置で研削手段が強く当たるので、研削痕が発生する。しかし、上記の構成によると、回転数比を整数倍から所定量離すようにすることで、研削手段が強く当たる位置が適切にずらされ、研削痕の発生が防止される。
【0016】
第3の発明では、研削中、常時回転数比が整数倍とならないように第1回転軸の回転数及び第2回転軸の回転数の少なくとも一方を制御するように構成されている。
【0017】
上記の構成によると、例えば、荒削りの段階から、回転数比が整数倍とならないように第1回転軸の回転数及び第2回転軸の回転数の少なくとも一方を制御することにより、仕上げ工程において、それまでに形成された研削痕が取りきれないということが防止される。
【0018】
第4の発明では、上記第2回転軸の回転数を変化させるものとする。
【0019】
すなわち、通常、被研削物の回転数よりも、研削手段の回転数の方が大きく、研削手段の回転数は、研削物の仕上げ精度に大きく左右する。しかし、上記の構成によると、研削手段の回転数ではなく、被研削物の回転数を変化させているので、被研削物の仕上げ精度に影響を与えることなく、研削痕の発生が防止される。
【0020】
第5の発明では、上記第2回転軸の回転数を毎分0.01回刻みで変化させる構成とする。
【0021】
上記の構成によると、極めて綿密に第2回転軸の回転数を変化させることで、同じ位置に研削手段が強く当たって研削痕が発生するのが防止される。
【0022】
第6の発明では、上記研削手段は、上記第1の回転軸によって回転される研削ホイールに取り付けられた円環状の研削砥石であり、
上記被研削物は、上記第2の回転軸によって回転されるチャックテーブル上に載置されたウェーハであり、
上記研削砥石が上記チャックテーブルの回転中心上に載るように第1回転軸と第2回転軸とがオフセットして配置する構成とする。
【0023】
すなわち、第1回転軸の回転数を第2回転軸の回転数で割った回転数比が整数倍になると、研削砥石とウェーハとの間で共振が発生し、ウェーハの同じ位置で研削砥石の当たりが強くなり、深い研削条痕が形成される。しかし、上記の構成によると、第1回転軸の回転数及び第2回転軸の回転数の少なくとも一方を変化させて回転数比が整数倍にならないようにして、研削砥石とウェーハとの間で共振の発生を防止しているので、ウェーハの同じ位置で研削砥石が強く当たることがなく、深い研削条痕の発生が防止される。
【0024】
第7の発明では、上記研削手段は、上記第1の回転軸によって回転される円形の研削砥石であり、
上記被研削物は、上記第2の回転軸によって回転される円筒形状のものであり、
上記第1回転軸と第2回転軸とは平行に配置され、
上記研削砥石の外周面を上記円筒状被研削物の内周面に当接させ、研削砥石又は被研削物を切り込み送りして研削する構成とする。
【0025】
すなわち、第1回転軸の回転数を第2回転軸の回転数で割った回転数比が整数倍になると、研削砥石と被研削物との間で共振が発生し、被研削物の内周の同じ位置で研削砥石の当たりが強くなり、内周の断面が花びら状の凸凹の研削痕が形成される。しかし、上記の構成によると、第1回転軸の回転数及び第2回転軸の回転数の少なくとも一方を変化させて回転数比が整数倍にならないようにして、研削砥石と被研削物との間で共振の発生を防止しているので、被研削物の同じ位置で研削手段が強く当たることがなく、深い研削痕の発生が防止される。
【0026】
第8の発明では、板状被研削物を研削する円環状の研削砥石を有し、第1回転軸に回転可能に支持された研削ホイールと、
回転中心を頂点とする極めて小さい勾配の傾斜面からなる円錐面を有し、第2回転軸に回転可能に支持され、上記板状被研削物を吸引保持するチャックテーブルとを備え、
上記研削砥石が上記チャックテーブルの回転中心上に載るように該チャックテーブルの回転中心と上記研削ホイールの回転中心とがオフセットして配置された研削装置を対象とし、
第1回転軸の回転数を第2回転軸の回転数で割った回転数比の小数成分が0.2よりも大きく0.8よりも小さくなるように、上記第1回転軸の回転数及び第2回転軸の回転数の少なくとも一方を変化させる構成とする。
【0027】
すなわち、第1回転軸の回転数を第2回転軸の回転数で割った回転数比が整数倍になると、研削砥石と板状被研削物との間で共振が発生し、板状被研削物の同じ位置で研削砥石の当たりが強くなり、深い研削痕が形成される。しかし、上記の構成によると、第1回転軸の回転数及び第2回転軸の回転数の少なくとも一方を変化させて、回転数比を整数倍から所定量離すようにしているので、研削砥石と板状被研削物との間で共振の発生が防がれ、板状被研削物の同じ位置で研削砥石が強く当たることがない。このため、深い研削痕の発生が防止される。
【0028】
第9の発明によると、研削砥石を回転させる第1回転軸と、該第1回転軸に平行に配置され、円筒形状の被研削物を回転させる第2回転軸と、研削砥石又は被研削物を切り込み送りする手段とを備え、研削砥石によって被研削物の内周面を研削する研削装置を対象とする。
【0029】
そして、この研削装置は、第1回転軸の回転数を第2回転軸の回転数で割った回転数比の小数成分が0.2よりも大きく0.8よりも小さくなるように、上記第1回転軸の回転数及び第2回転軸の回転数の少なくとも一方を変化させるように構成されている。
【0030】
すなわち、第1回転軸の回転数を第2回転軸の回転数で割った回転数比が整数倍になると、研削砥石と被研削物との間で共振が発生し、被研削物の内周の同じ位置で研削砥石の当たりが強くなり、断面が花びら状の凸凹の研削痕が形成される。しかし、上記の構成によると、第1回転軸の回転数及び第2回転軸の回転数の少なくとも一方を変化させて、回転数比を整数倍から所定量離すようにしているので、研削砥石と被研削物との間で共振の発生が防がれ、被研削物の同じ位置で研削砥石が強く当たることがない。このため、深い研削痕の発生が防止される。
【発明の効果】
【0031】
以上説明したように、上記第1の発明によれば、第1回転軸の回転数を第2回転軸の回転数で割った回転数比が整数倍とならないように、第1回転軸の回転数及び第2回転軸の回転数の少なくとも一方を変化させている。このため、研削手段と被研削物との間で共振が発生しないので、被研削物の同じ位置で研削手段が強く当たることがなく、深い研削痕の発生を防いで良好な研削面を得ることができる。
【0032】
上記第2の発明によれば、第1回転軸の回転数及び第2回転軸の回転数の少なくとも一方を変化させ、回転数比の小数成分を0.2よりも大きく0.8よりも小さくしている。このため、回転数比を整数倍から所定量離すようにすることで、研削手段が強く当たる位置を適切にずらし、研削痕の発生を防いで確実に良好な研削面を得ることができる。
【0033】
上記第3の発明では、研削中、常時回転数比が整数倍とならないように第1回転軸の回転数及び第2回転軸の回転数の少なくとも一方を制御し、研削中に研削痕が生じないようにしている。このため、研削痕の発生を防いで確実に良好な研削面を得ることができる。
【0034】
上記第4の発明によれば、研削手段の回転数ではなく、被研削物の回転数を変化させ、回転数比が整数倍とならないようにしている。このため、被研削物の仕上げ精度に影響を与えることなく、研削痕の発生を防止することができる。
【0035】
上記第5の発明によれば、第2回転軸の回転数を毎分0.01回刻みで変化させ、回転数比が整数倍とならないようにしている。このため、極めて綿密に第2回転軸の回転数を変化させることができるので、同じ位置に研削手段が強く当たって研削痕が発生するのを防止することができる。
【0036】
上記第6及び第7の発明によれば、研削砥石を回転させる第1回転軸の回転数及び被研削物を回転させる第2回転軸の回転数の少なくとも一方を変化させて回転数比が整数倍にならないようにしている。このため、研削砥石と被研削物との間で共振の発生を防止することができるので、被研削物の同じ位置で研削砥石が強く当たらず、深い研削条痕の発生を確実に防止することができる。
【0037】
上記第8の発明によると、円環状の研削砥石が板状被研削物を吸引保持するチャックテーブルの回転中心上に載るようにチャックテーブルの回転中心と研削ホイールの回転中心とがオフセットして配置された研削装置において、また、上記第9の発明によると、研削砥石によって円筒形状の被研削物の内周面を研削する研削装置において、それぞれ第1回転軸の回転数を第2回転軸の回転数で割った回転数比の小数成分が0.2よりも大きく0.8よりも小さくなるように、第1回転軸の回転数及び第2回転軸の回転数の少なくとも一方を変化させ、研削砥石と被研削物との間で共振の発生を防止することができるので、装置及び工程を複雑にすることなく、簡単な方法で研削痕が発生するのを防いで良好な研削面を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0039】
(実施形態1)
図1に本発明の実施形態にかかる研削装置1を示し、この研削装置1は、基台2と、この基台2から略垂直に立設された縦壁部3とを備えている。この縦壁部3の正面側には、1対のレール4が基台2に対して略垂直に配設されている。このレール4には、スライド板5が上下方向にスライド移動可能に取り付けられている。このスライド板5から略垂直に縦壁部3に向かって推進部6が設けられている。この推進部6には、雌ネジが設けられている。
【0040】
すなわち、上記縦壁部3の上端には、推進モータ7が設けられ、その駆動軸である推進軸8には、推進ねじ(ボールねじ)が設けられている。この推進ねじに上記推進部6の雌ネジが嵌合し、推進モータ7を駆動することで、上記スライド板5が上下にスライド移動可能となっている。
【0041】
上記基台2には、板状被研削物としての半導体ウェーハ9を吸引保持するチャックテーブル10が設けられている。すなわち、基台2の上面には、中央に貫通孔11aが設けられたベース11が配置されている。このベース11の貫通孔11aにベアリングハウジング12が配置されている。ベアリングハウジング12内には、第1のエアーベアリング13が配置され、この第1のエアーベアリング13にチャックテーブル10が回転可能に支持されている。
【0042】
図2に示すように、上記チャックテーブル10は、回転中心Xを頂点とする極めて小さい勾配の傾斜面からなる多孔質材料で形成された円錐面10aを有している。チャックテーブル10は、下方に向かって伸びる中心軸10bを有し、その中心には、空気孔10cが設けられている。この空気孔10cから空気を吸引することで、円錐面10aの多数の孔から空気を吸引して半導体ウェーハ9が吸引保持されるようになっている。円錐面10aの反対側には、平坦な表面を有する円板状の底部10dが形成されている。
【0043】
上記第1のエアーベアリング13は、表面がカーボンなどの多孔質材料で構成され、図示しない圧力源から供給される加圧気体を小さな孔からチャックテーブル10の中心軸10b及び底部10dに吹き付けて発生した静圧によって、チャックテーブル10を回転可能に支持するようになっている。
【0044】
図1に示すように、チャックテーブル10の中心軸10bの下端部は、カップリング14で第2回転軸としてのチャック回転軸15に傾斜可能に連結されている。このチャック回転軸15は、その下端側にチャック側プーリー16が設けられている。このチャック側プーリー16に嵌められたベルト17がチャック回転用モータ18に駆動されるようになっている。チャック回転用モータ18は、サーボモータ又はステッピングモータよりなる。
【0045】
一方、上記スライド板5には、砥石回転用モータ20が設けられている。この砥石回転用モータ20の第1回転軸としての砥石軸21は、ステータ22に対して回転可能となっている。図2に示すように、この砥石軸21には、研削ホイール25の中心軸25aが連結されている。この研削ホイール25の中心軸25aは下端部に円板状に広がった表面が平坦な円板部25bを有し、その下側に砥石取付部25cが設けられている。この砥石取付部25cの下端にウェーハ9を研削する円環状の研削砥石27が着脱可能に取り付けられている。例えば、この研削砥石27は、円環状のアルミフレームにダイヤモンド砥石が取り付けられた構造となっている。
【0046】
上記砥石回転用モータ20の下端側内面には、第2のエアーベアリング26が設けられている。この第2のエアーベアリング26も、上記第1のエアーベアリング13と同様に構成され、加圧気体を小さな孔から研削ホイール25の中心軸25a及び円板部25bに吹き付けて発生した静圧によって、研削ホイール25を回転可能に支持するようになっている。
【0047】
上記研削砥石27が上記チャックテーブル10の回転中心X上に載るように、このチャックテーブル10の回転中心Xと上記研削ホイール25の回転中心Yとがオフセットして配置されている。
【0048】
そして、本発明の特徴として、砥石軸21の回転数をチャック回転軸15の回転数で割った回転数比が整数倍とならないように、チャック回転軸15の回転数を変化させるように構成されている。具体的には、回転数比の小数成分が0.2よりも大きく0.8よりも小さくなるように制御されるようになっている。
【0049】
−運転動作−
次に、本実施形態にかかる研削装置1の運転動作について説明する。
【0050】
(研削条痕の発生メカニズム)
図3を用いて、回転数制御を行わないときの研削条痕の発生メカニズムについて説明する。すなわち、例えば、研削ホイール25の回転数を3516回/分としたときに、チャックテーブル10の回転数で割った回転数比の整数部分が研削条痕の本数を示す。その回転数比の小数点以下の値が、0以上0.2以下のとき及び0.8以上1.0以下(矢印Aで示す領域)、研削手段と被研削物との間で共振が発生し、研削条痕が形成される。このとき、回転数比が整数倍に近いほど共振は大きくなる。
【0051】
一方、その回転数比の小数点以下の値が、0.2よりも大きく、0.8よりも小さいとき(矢印Bで示す領域)には、研削手段と被研削物との間で共振が発生せず、研削条痕は形成されない。
【0052】
(研削条痕の防止制御)
そこで、本実施形態にかかる研削装置1では、以下の研削条痕の防止制御を行うことで、上述したような研削条痕の発生が防止される。
【0053】
研削時には、まず、チャックテーブル10にウェーハ9を吸引保持し、チャック回転用モータ18を駆動してチャックテーブル10を回転させる。
【0054】
次いで、移動工程において、砥石回転用モータ20を駆動して研削ホイール25を回転させる。例えば、その回転数を3516回/分に設定する。この回転数は、固定とする。
【0055】
次いで、研削砥石27がチャックテーブル10の回転中心X上に載るまで、推進モータ7を駆動して研削ホイール25を下降させる。すると、チャックテーブル10は、第1のエアーベアリング13に、研削ホイール25は、第2のエアーベアリング26に、それぞれ隙間を空けて載置されているので、チャックテーブル10又は研削ホイール25は、傾斜するのみで、すぐに研削は始まらない。
【0056】
そして、ある程度ウェーハ9に荷重が負荷された段階で研削が開始され、さらに、研削ホイール25を下降させて荷重を加え、ウェーハ9を研削する。
【0057】
次いで、一定のスピードで安定して研削ホイール25を下降させて荒削りする(荒削り工程)。
【0058】
次いで、研削ホイール25の下降スピードを緩めて仕上げ工程を行う。
【0059】
次いで、最終仕上げ工程(スパークアウト工程)において、切り込みを停止させ、研削砥石27とウェーハ9との間に溜まった撓みを開放する。この最終仕上げ工程では、形状変化速度が最少となり、最終形状が決まる。
【0060】
上記工程のうち、少なくとも実際に研削が行われる工程において、回転数制御が行われる。
【0061】
図4を用いて、本実施形態の回転数制御について説明する。
【0062】
まず、ステップS1において、砥石軸21の回転数が入力される。
【0063】
次いで、ステップS2において、チャックテーブルの回転数が入力される。
【0064】
次いで、ステップS3において、(研削砥石27の回転数)/(チャックテーブル10の回転数)が計算される。
【0065】
次に、ステップS4において、回転数比の少数成分Dが計算される。
【0066】
次いで、ステップS5において、Dが0.2よりも大きく、0.8よりも小さいかが判断され、0.2<D<0.8のときには、共振が発生していないので終了し、0以上0.2以下又は0.8以上1.0以下の場合には、ステップS6に進む。
【0067】
S6において、Dが0.2以下のときには、ステップS8に進み、ステップS8において、チャックテーブル10の回転数を小さくする。このとき、チャック回転軸15の回転数を毎分0.01回刻みで変化させ、回転数比が整数倍とならないようする。そして、再びステップS2に戻る。
【0068】
一方、Dが0.2よりも大きいとき、ステップS7に移る。ステップS7において、Dが0.8以上のときは、ステップS9に進み、チャックテーブル10の回転数を大きくする。このときも、チャック回転軸15の回転数を毎分0.01回刻みで変化させ、回転数比が整数倍とならないようする。そして、再びステップS2に戻る。
【0069】
このようにしてチャックテーブル10の回転数が、回転数比が整数倍とならないように、離散的に制御される。
【0070】
−実施形態1の効果−
したがって、本実施形態にかかる研削方法によると、砥石軸21の回転数をチャック回転軸15の回転数で割った回転数比が整数倍とならないように、チャック回転軸15の回転数を変化させている。このため、研削砥石27とウェーハ9との間で共振が発生しないので、ウェーハ9の同じ位置で研削砥石27が強く当たることがなく、深い研削痕の発生を防いで良好な研削面を得ることができる。
【0071】
また、チャック回転軸15の回転数を変化させ、回転数比の小数成分を0.2よりも大きく0.8よりも小さくしている。このため、回転数比を整数倍から所定量離すようにすることで、研削砥石27が強く当たる位置を適切にずらし、研削痕の発生を防いで確実に良好な研削面を得ることができる。
【0072】
また、研削中、常時回転数比が整数倍とならないようにチャック回転軸15の回転数を制御し、研削中に研削痕が生じないようにしている。このため、研削痕の発生を防いで確実に良好な研削面を得ることができる。
【0073】
さらに、研削砥石27の回転数ではなく、ウェーハ9の回転数を変化させ、回転数比が整数倍とならないようにしている。このため、ウェーハ9の仕上げ精度に影響を与えることなく、研削痕の発生を防止することができる。
【0074】
また、チャック回転軸15の回転数を毎分0.01回刻みで変化させ、回転数比が整数倍とならないようにしている。このため、極めて綿密にチャック回転軸15の回転数を変化させることができるので、同じ位置に研削砥石27が強く当たって研削痕が発生するのを防止することができる。
【0075】
(実施形態2)
図5及び図6は本発明の実施形態2を示す。
【0076】
図5に示す研削装置としての研削盤100は、ベッド110を備え、このベッド110上にワーク駆動装置112及び砥石駆動装置114が相対向する状態で配設されている。
【0077】
ワーク駆動装置112は、主軸台115を備え、この主軸台115に第2の回転軸としての主軸(図示せず)がZ軸方向(図5の左右方向)に延びる状態で回転可能に支持されている。この主軸の後端(図5では左端)には主軸駆動モータ(ワーク駆動手段)116が連結され、前端(同図右端)には、被研削物としてのワーク120を把持するチャック118が設けられている。そして、このワーク120の本体が上記チャック118に把持された状態で主軸駆動モータ116が作動することにより、上記主軸と一体にワーク120がその中心軸回りに回転駆動されるようになっている。
【0078】
上記砥石駆動装置114は、固定台130を備え、この固定台130はベッド110上に固定されている。固定台130上には、X軸テーブル132が上記主軸と直交するX軸方向(図5では上下方向)にスライド可能に設置され、このX軸テーブル132はX軸駆動モータ134及び図略の送りねじ機構からなる切り込み送り手段によってX軸方向にスライド駆動される(すなわち切り込み送りされる)ようになっている。
【0079】
なお、本発明では、必ずしも砥石側を動かさなくてもよく、ワーク側を切り込みみ方向に動かして切り込み送りを行うようにしてもよい。
【0080】
X軸テーブル132上には、Z軸テーブル136が上記主軸と平行なZ軸方向(図5では左右方向)にスライド可能に設置され、このZ軸テーブル136はZ軸駆動モータ138及び図略の送りねじ機構によってZ軸方向にスライド駆動されるようになっている。そして、このZ軸テーブル136上に砥石支持台140が設けられている。
【0081】
この砥石支持台140には、スピンドルが回転可能に支持され、このスピンドルも上記主軸と同様にZ軸方向に延びている。このスピンドルの後端(図5では右端)には電動モータからなる砥石駆動モータ(砥石駆動手段)144が連結され、前端(同図左端)には砥石把持部142が設けられている。そして、この砥石把持部142に第1回転軸としての砥石軸146が把持された状態で、当該砥石把持部142、砥石軸146及びこの砥石軸146の先端に固定された研削手段としての円板状の研削砥石148が一体に高速回転駆動されるようになっている。
【0082】
なお、上記ワーク駆動装置112側には、図5に示すようなアーム122を介してドレス用工具124が支持され、このドレス用工具124によって上記研削砥石148の整形が可能となっている。
【0083】
上記各モータ116,134,138,144の駆動制御は、コンピュータを含むコントローラ150によって行われるようになっている。
【0084】
−運転動作−
次に、本実施形態にかかる研削方法の作動について説明する。
【0085】
(研削条痕の発生メカニズム)
図7を用いて、回転数制御を行わないときの研削条痕の発生メカニズムについて説明する。
【0086】
すなわち、例えば、砥石軸146の回転数を3600回/分としたときに、主軸の回転数(225回/分)で割った回転数比は、16となる。このことで、研削砥石148とワーク120との間で共振が発生し、16本の研削条痕の山が形成されている。このようにして、断面が花形の内周面が形成されてしまう。
【0087】
(研削条痕の防止制御)
そこで、本実施形態にかかる研削盤100では、以下の研削条痕の防止制御を行うことで、上述したような研削条痕の発生が防止される。
【0088】
まず、研削砥石148をワーク120の内側に位置させ、かつ、砥石駆動モータ144を作動させて高速回転駆動する。この状態でX軸駆動モータ134を作動させ、予め設定された接近用速度で上記研削砥石148をワーク120の内周面に接近させる。
【0089】
次いで、図6に示すように、研削砥石148がワーク120に当接し、切り込みを行うことで、研削が開始される。
【0090】
この研削行程において、コントローラ150により上記実施形態1と同様の研削条痕の防止制御が行われる。具体的には、図4におけるチャックテーブル回転数を主軸回転数に置き換えた制御が行われる。
【0091】
−実施形態2の効果−
したがって、本実施形態にかかる研削方法においても、上記実施形態1と同様に装置及び工程を複雑にすることなく、簡単な方法で研削痕が発生するのを防いで良好な研削面を得ることができる。
【0092】
(その他の実施形態)
本発明は、上記各実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0093】
すなわち、上記各実施形態では、上記回転数比の小数成分が0.2よりも大きく0.8よりも小さくなるように、第2回転軸としてのチャック回転軸15、主軸をそれぞれ変化させているが、第1回転軸としての砥石軸21、砥石軸146をそれぞれ変化させてもよい。
【0094】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0095】
以上説明したように、本発明は、研削手段を回転させる第1回転軸と、円筒状や板状の被研削物を回転させる第2回転軸とがそれぞれ回転する状態で被研削物を研削する方法及び装置について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の実施形態1にかかる研削装置を示す側面図である。
【図2】チャックテーブル、研削ホイール及びその周辺を拡大して示す側方断面図である。
【図3】チャックテーブル回転数と回転数比との関係を示すグラフである。
【図4】研削条痕の防止制御を示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施形態2にかかる研削装置を示す平面図である。
【図6】研削砥石とワークとを拡大して示す側面図である。
【図7】研削条痕の防止制御を行わない場合のワーク内面を示す断面図である。
【符号の説明】
【0097】
1 研削装置
8 推進軸
9 ウェーハ(被研削物)
15 チャック回転軸(第2回転軸)
21 砥石軸(第1回転軸)
27 研削砥石(研削手段)
120 ワーク(被研削物)
146 砥石軸(第1回転軸)
148 研削砥石(研削手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
研削手段を回転させる第1回転軸と被研削物を回転させる第2回転軸とがそれぞれ回転する状態で被研削物を研削する方法であって、
第1回転軸の回転数を第2回転軸の回転数で割った回転数比が整数倍とならないように、上記第1回転軸の回転数及び第2回転軸の回転数の少なくとも一方を変化させることを特徴とする研削方法。
【請求項2】
請求項1に記載の研削方法において、
上記回転数比の小数成分が0.2よりも大きく0.8よりも小さくなるように、上記第1回転軸の回転数及び第2回転軸の回転数の少なくとも一方を変化させることを特徴とする研削方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の研削方法において、
研削中、常時回転数比が整数倍とならないように第1回転軸の回転数及び第2回転軸の回転数の少なくとも一方を制御することを特徴とする研削方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1つに記載の研削方法において、
上記第2回転軸の回転数を変化させることを特徴とする研削方法。
【請求項5】
請求項4に記載の研削方法において、
上記第2回転軸の回転数を毎分0.01回刻みで変化させることを特徴とする研削方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1つに記載の研削方法において、
上記研削手段は、上記第1の回転軸によって回転される研削ホイールに取り付けられた円環状の研削砥石であり、
上記被研削物は、上記第2の回転軸によって回転されるチャックテーブル上に載置されたウェーハであり、
上記研削砥石が上記チャックテーブルの回転中心上に載るように第1回転軸と第2回転軸とをオフセットして配置し、
上記研削砥石をウェーハの表面に当接させ、研削砥石又はウェーハを切り込み送りして研削することを特徴とする研削方法。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか1つに記載の研削方法において、
上記研削手段は、上記第1の回転軸によって回転される円形の研削砥石であり、
上記被研削物は、上記第2の回転軸によって回転される円筒形状のものであり、
上記第1回転軸と第2回転軸とは平行に配置され、
上記研削砥石の外周面を上記円筒状被研削物の内周面に当接させ、研削砥石又は被研削物を切り込み送りして研削することを特徴とする研削方法。
【請求項8】
板状被研削物を研削する円環状の研削砥石を有し、第1回転軸に回転可能に支持された研削ホイールと、
回転中心を頂点とする極めて小さい勾配の傾斜面からなる円錐面を有し、第2回転軸に回転可能に支持され、上記板状被研削物を吸引保持するチャックテーブルとを備え、
上記研削砥石が上記チャックテーブルの回転中心上に載るように該チャックテーブルの回転中心と上記研削ホイールの回転中心とがオフセットして配置された研削装置であって、
第1回転軸の回転数を第2回転軸の回転数で割った回転数比の小数成分が0.2よりも大きく0.8よりも小さくなるように、上記第1回転軸の回転数及び第2回転軸の回転数の少なくとも一方を変化させるように構成されていることを特徴とする研削装置。
【請求項9】
研削砥石を回転させる第1回転軸と、該第1回転軸に平行に配置され、円筒形状の被研削物を回転させる第2回転軸と、研削砥石又は被研削物を切り込み送りする手段とを備え、研削砥石によって被研削物の内周面を研削する研削装置であって、
第1回転軸の回転数を第2回転軸の回転数で割った回転数比の小数成分が0.2よりも大きく0.8よりも小さくなるように、上記第1回転軸の回転数及び第2回転軸の回転数の少なくとも一方を変化させるように構成されていることを特徴とする研削装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−54896(P2007−54896A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−240086(P2005−240086)
【出願日】平成17年8月22日(2005.8.22)
【出願人】(391003668)トーヨーエイテック株式会社 (145)
【Fターム(参考)】