説明

研磨布

【課題】研磨液の保持性を確保しつつ目詰まりを抑制し被研磨物の平坦性向上を図ることができる研磨布を提供する。
【解決手段】研磨布は、被研磨物を研磨加工するための研磨面Pを有する織物シート2を備えている。織物シート2は、弾性糸7を用いた経糸7aおよび緯糸7bにより平織組織で形成されている。経糸7a、緯糸7bの間には間隙3が形成されている。弾性糸7には、ポリウレタンとアセチルセルロースとを含有するモノフィラメントが束ねられたマルチフィラメントが用いられている。弾性糸7を形成するモノフィラメントは、1.2倍伸長時の伸長モジュラスが0.03〜0.5cN/Dtexの範囲に調整されている。研磨面Pに平織組織による凹凸が略均等に形成され、間隙3が連続的に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は研磨布に係り、特に、被研磨物を研磨加工するための研磨面を有する研磨層を備えた研磨布に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスやハードディスク、液晶ディスプレイ用ガラス基板等の材料(被研磨物)の表面(加工面)では、平坦性が求められるため、研磨布を使用した研磨加工が行われている。半導体デバイスでは半導体回路の集積度が急激に増大するにつれて高密度化を目的とした微細化や多層配線化が進み、ハードディスクでも記憶容量が増大するにつれて高密度化が進み、加工面を一層高度に平坦化する技術が重要となっている。一方、液晶ディスプレイ用ガラス基板では、液晶ディスプレイの大型化に伴い、加工面のより高度な平坦性が要求されている。
【0003】
一般に、これら半導体デバイス等の表面を平坦化する方法としては、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing、以下、CMPと略記する。)法が用いられている。CMP法では、通常、研磨加工時に、砥粒(研磨粒子)をアルカリ溶液等に分散させたスラリ(研磨液)を供給する、いわゆる遊離砥粒方式が採用されている。すなわち、被研磨物(の加工面)は、スラリ中の砥粒による機械的作用と、アルカリ溶液等による化学的作用とで研磨加工される。加工面に要求される平坦性の高度化に伴い、研磨加工における研磨精度や研磨効率等の研磨特性、換言すれば、研磨布に要求される性能も高まっている。一般に、研磨加工に用いられる研磨布では、加工面を研磨加工するための研磨面を有する研磨層を備えている。研磨層は、研磨加工時にスラリを保持しつつ、研磨面と加工面との間に研磨液を略均等に放出するために発泡構造を有しており、研削処理等により研磨面に開孔が形成されている。
【0004】
発泡構造を有するシート状のウレタン系樹脂を形成するために、例えば、樹脂製の外殻を有する中空球状微粒子を混合する技術(特許文献1〜特許文献5参照)、水を添加する技術(特許文献6参照)、不活性気体を混合する技術(特許文献7参照)、水溶性微粒子を混合する技術(特許文献8参照)が開示されている。ところが、研磨面に開孔が形成されていると、研磨加工時に供給される研磨液中の砥粒や研磨加工に伴う研磨屑により開孔が目詰まりし研磨レートが低下することがある。このため、研磨加工中に研磨面にドレス処理を施す必要があり、却って研磨効率を低下させるばかりではなく、研磨屑等により加工面に予期せぬ研磨傷(スクラッチ)の発生を招きやすくなる。そこで、目詰まりや研磨傷の発生を解消するために、砥粒を低減するか、または、含まない状態で、アルカリ溶液等による化学的作用を主とした研磨加工技術の開発が進められており、例えば、織物または編物を研磨層とした研磨布を用い、砥粒を含まない研磨液で化学的に研磨加工する技術が開示されている(特許文献9参照)。
【0005】
【特許文献1】特許3013105号公報
【特許文献2】特許3425894号公報
【特許文献3】特許3801998号公報
【特許文献4】特開2006−186394号公報
【特許文献5】特開2007−184638号公報
【特許文献6】特開2005−68168号公報
【特許文献7】特許3455208号公報
【特許文献8】特開2000−34416号公報
【特許文献9】特開2002−86348号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献9の技術では、織物または編物を構成する糸として基本的にポリエステルのような非弾性糸が用いられるため、砥粒を含まない研磨液を用いたとしても、被研磨物から生ずる研磨屑等により目詰まりを生じる。このため、局所的に被研磨物にかかる圧力(研磨圧)が上昇し、加工面にスクラッチを発生させることとなる。また、砥粒を含まない研磨液では研磨レートや平坦化の点で不十分となり、少量の砥粒を含む研磨液を用いる場合には、スクラッチの発生が更に増加するおそれがある。また、特許文献9では非弾性糸以外にポリウレタンが挙げられているが、通常のポリウレタンの糸では伸長モジュラスが小さく、高伸長で過度の弾性特性を示すため、製編織時のテンションコントロールが難しくなる。このため、安定的に織物や編物を得ることができず、加工面の平坦性向上を目的とする研磨加工に使用することは難しい。
【0007】
本発明は上記事案に鑑み、研磨液の保持性を確保しつつ目詰まりを抑制し被研磨物の平坦性向上を図ることができる研磨布を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、被研磨物を研磨加工するための研磨面を有する研磨層を備えた研磨布において、前記研磨層は弾性糸の織物シートまたは編物シートで形成されており、前記弾性糸は1.2倍伸長時の伸長モジュラスが0.03cN/デシテックス〜0.5cN/デシテックスの範囲の少なくとも1本の単繊維で構成されたことを特徴とする。
【0009】
本発明では、研磨層が弾性糸の織物シートまたは編物シートで形成されたため、研磨面に織組織または編組織による窪みが略均等に形成され弾性糸間に連続的な間隙が形成されることから、研磨加工時に研磨液の保持性を確保しつつ目詰まりを抑制することができ、弾性糸を構成する少なくとも1本の単繊維が1.2倍伸長時の伸長モジュラスが0.03cN/デシテックス〜0.5cN/デシテックスの範囲のため、弾性糸の伸縮性が制限されることで研磨層の歪みが抑制されると共に、研磨層の弾性により被研磨物に対する押圧力が均等化されるので、被研磨物の平坦性向上を図ることができる。
【0010】
この場合において、少なくとも1本の単繊維の繊度を5デシテックス〜50デシテックスの範囲としてもよい。弾性糸を1本〜125本の単繊維で形成することができる。また、少なくとも1本の単繊維には、ポリウレタン重合体が含有されていることが好ましい。単繊維が、ポリウレタン重合体に対し、該ポリウレタン重合体の溶媒に可溶で、かつ、水に不溶のポリマが10重量%〜70重量%の割合で含有され形成されていてもよい。このとき、ポリマをアクリル樹脂系ポリマ、アクリロニトリル系ポリマおよびアセチルセルロースから選択される少なくとも1種とすることができる。また、織物シートまたは編物シートが弾性糸同士の重なり部分で融着されていてもよい。織物シートまたは編物シートが研磨面側ないし研磨面と反対の面側をバフ処理されていてもよい。また、織物シートまたは編物シートの研磨面と反対の面側に貼り合わされた基材を更に備えるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、研磨層が弾性糸の織物シートまたは編物シートで形成されたため、研磨面に織組織または編組織による窪みが略均等に形成され弾性糸間に連続的な間隙が形成されることから、研磨加工時に研磨液の保持性を確保しつつ目詰まりを抑制することができ、弾性糸を構成する少なくとも1本の単繊維が1.2倍伸長時の伸長モジュラスが0.03cN/デシテックス〜0.5cN/デシテックスの範囲のため、弾性糸の伸縮性が制限されることで研磨層の歪みが抑制されると共に、研磨層の弾性により被研磨物に対する押圧力が均等化されるので、被研磨物の平坦性向上を図ることができる、という効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明を適用した研磨布の実施の形態について説明する。
【0013】
(研磨布)
図1に示すように、本実施形態の研磨布10は、被研磨物を研磨加工するための研磨面Pを有する研磨層としての織物シート2を備えている。織物シート2は、弾性糸で形成された1枚の織物であり、弾性糸間には間隙が形成されている。
【0014】
図2に示すように、織物シート2は、弾性糸7を用いた経糸7aおよび緯糸7bが1本ずつ交互に交差した平織組織で形成されている。このため、研磨面P側、研磨面Pと反対の面側では、経糸7a、緯糸7bの交差によりそれぞれ略均等な凹凸が形成されている。隣り合う経糸7aの間および隣り合う緯糸7bの間には間隙3が形成されている。間隙3は、経糸7aおよび緯糸7bの交差により連続的に形成されている。経糸7aと緯糸7bとが重なる部分では、弾性糸7同士が熱融着され融着部8が形成されている。なお、図2では、間隙3をわかりやすくするため、隣り合う経糸7aの間隔、隣り合う緯糸7bの間隔をそれぞれ誇張して示している。
【0015】
弾性糸7は、ポリウレタン重合体を含有させた紡糸原液を紡糸することで形成されたモノフィラメント(単繊維)の1〜125本が束ねられ構成されている。このモノフィラメントは、繊度が5〜50デシテックス(Dtex)の範囲となるように紡糸されている。モノフィラメントの繊度や本数を変えることで、織物シート2の厚みを100〜2000μm程度に調整することができる。本例では、弾性糸7として、15デシテックスのモノフィラメントが5本束ねられた、いわゆるマルチフィラメントが用いられている。
【0016】
モノフィラメントには、ポリウレタン重合体の溶媒に可溶で、水に不溶のポリマが配合されている。このポリマとしては、アクリル樹脂系ポリマ、アクリロニトリル系ポリマおよびアセチルセルロースから選択される少なくとも1種が用いられる。ポリマの配合量は、ポリウレタン重合体に対し10〜70重量%の範囲に設定されている。ポリマの配合量が10重量%に満たないと、モノフィラメントの伸長モジュラスが小さくなりすぎ、高伸長で過度の弾性特性を示すため、製編織時のテンションコントロールが難しくなりやすく、安定した製編織性が得られなくなる。反対に、配合量が70重量%を超えると、弾性特性が低下し、伸長モジュラスが大きくなりすぎるため、研磨傷の発生を抑制できなくなる。伸長モジュラスや生産上の観点を考慮すれば、ポリマの配合量を30〜50重量%の範囲とすることが好ましい。
【0017】
アクリル樹脂系ポリマとしては、アクリル酸系モノマの単独重合体やアクリル酸系モノマとアクリルアミド等の不飽和モノマとの共重合体を用いることができる。アクリル酸系モノマとしては、特に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸のほか、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のメタクリル酸エステル類、クロトン酸等の一塩基酸類、フマール酸、マレイン酸、イソフタル酸等の二塩基酸類、および、これらの部分エステルを挙げることができる。また、アクリルアミド以外の不飽和モノマとしては、例えば、N−メチロールアクリルアミド、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン等を挙げることができる。
【0018】
アクリロニトリル系ポリマとしては、アクリロニトリルの単独重合体やアクリロニトリルを主成分とする共重合体を用いることができる。アクリロニトリルと共重合させる成分としては、通常のアクリル繊維を構成する共重合モノマを用いることができる。このような共重合モノマとして、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のメタクリル酸エステル類、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン等の不飽和モノマを挙げることができる。
【0019】
アセチルセルロースとしては、例えば、α−セルロース含有量が90〜97%の木材パルプやリンターパルプを、硫酸触媒法、メチレンクロライド法、酢酸法等の一般的な方法で処理して得られるものであれば特に制限されるものではない。上述したように、ポリウレタン重合体の溶媒に対する溶解性を考慮すれば、酢化度(アセチル化度)30〜62.5%、重合度200〜400のジアセチルセルロースないしトリアセチルセルロースを用いることが好ましく、酢化度45〜62、重合度200〜350のアセチルセルロースを用いることがより好ましい。本例では、ポリウレタン重合体に配合するポリマとして、α−セルロース含有量が90〜97%の木材パルプを酢酸法で処理して得られたアセチルセルロースで、酢化度50%、重合度300のジアセチルセルロースないしトリアセチルセルロースが用いられている。このアセチルセルロースがポリウレタン重合体に対し30重量%の割合で配合されている。
【0020】
ポリウレタン重合体とアセチルセルロースとを含有したモノフィラメントは、1.2倍の長さに伸長したときの伸長モジュラスが0.03〜0.5cN(センチニュートン)/Dtexの範囲となるように調整されている。伸長モジュラスは、ポリウレタン重合体の濃度やアセチルセルロースの配合量を変えることで、調整することができる。
【0021】
図1に示すように、織物シート2の研磨面Pと反対の面側には、研磨機に研磨布10を装着するための両面テープ5が貼り合わされている。両面テープ5は、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記する。)製フィルム等の基材5aの両面に接着剤が塗着され接着剤層(不図示)が形成されている。織物シート2の研磨面Pと反対の面側に形成された凹凸を平坦化し、両面テープ5との接着面積を大きくするため、織物シート2の研磨面Pと反対の面側にバフ処理が施されている。両面テープ5は、一面側の接着剤層で織物シート2と貼り合わされ、他面側の接着剤層が剥離紙5bで覆われている。
【0022】
(研磨布の製造)
研磨布10は、ポリウレタン重合体とアセチルセルロースとを含有させた紡糸原液を紡糸し、マルチフィラメントの弾性糸7を得る紡糸工程、弾性糸7で織物シート2を形成する織成工程、織物シート2の研磨面Pと反対の面側にバフ処理を施すバフ処理工程、織物シート2と両面テープ5とを貼り合わせるラミネート工程、を経て製造される。以下、工程順に説明する。
【0023】
(紡糸工程)
紡糸工程では、ポリウレタン重合体とアセチルセルロースとを含有させた紡糸原液を調製した後、紡糸ノズルから高温雰囲気中に吐出してモノフィラメントを乾式紡糸し、マルチフィラメントの弾性糸7を作製する。紡糸原液は、有機ジイソシアネート化合物とジオール化合物とを反応させたイソシアネート基末端プレポリマ(以下、単に、プレポリマという。)に、鎖伸長剤および末端停止剤を有機溶媒中で反応させて調製したポリウレタン重合体溶液と、同じ有機溶媒を用いて調製したアセチルセルロース溶液と、を混合し調製する。
【0024】
プレポリマの製造に用いられるジオール化合物としては、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリオキシペンタメチレングリコール、ポリオキシヘキサメチレングリコール、ポリオキシプロピレンテトラメチレングリコール等のポリエーテルジオールと、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸等のジカルボン酸の1種または2種以上との反応で生成されるポリエステルジオール化合物、ポリエーテルポリエステルジオール化合物、ポリラクトンジオール化合物、ポリカーボネートジオール化合物、ポリエステルポリカーボネートジオール化合物等の高分子ジオール化合物から選ばれる1種または2種以上を挙げることができる。用いるジオール化合物は、数平均分子量が1000〜2500の範囲であればよい。また、ジオール化合物にエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール等の低分子ジオール化合物やブタノール、ヘキサノール等のモノオール化合物を少量添加、混合してもよいが、上述した高分子ジオール化合物の割合が80重量%に満たないと、鎖伸長反応が十分に進行しないため、好ましくない。本例では、ポリエーテルジオール化合物の中から、数平均分子量が2000のポリオキシテトラメチレングリコールが用いられる。
【0025】
また、プレポリマの製造に用いられる有機ジイソシアネート化合物としては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の1種または2種以上の組み合わせを挙げることができる。本例では、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが用いられる。
【0026】
プレポリマの製造では、ジオール化合物と有機ジイソシアネート化合物とを、夫々が固化しない温度にて混合し、90℃以下の温度環境下で30〜120分間反応を行い、末端に2個のイソシアネート基を有するプレポリマを得る。このとき、ジオール化合物に対する有機ジイソシアネート化合物の量は、110〜210モル%の範囲、好ましくは150〜190モル%の範囲に調整する。ジオール化合物に対する有機ジイソシアネート化合物の量が110モル%に満たないと、得られるポリウレタンモノフィラメントの強度が不十分となり、紡糸工程で糸切れを起こしやすいので好ましくなく、反対に、210モル%を超えると、プレポリマ中に未反応の有機ジイソシアネート化合物が多く残留するため、鎖伸長反応を行っても得られるポリウレタン重合体中に占める低分子鎖ポリウレタンの割合が多くなり好ましくない。
【0027】
得られたプレポリマに、イソシアネート基と反応しうる活性水素基を2個以上有する鎖伸長剤、および、イソシアネート基と反応しうる活性水素基を1個有する末端停止剤を有機溶媒中で重合反応させて、ポリウレタン重合体溶液を調製する。重合方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、バッチ式重合法や紡糸ノズルに直結して連続的に供給する連続重合法も採用できる。重合時間としては、重合反応が終了する時間であればよく、例えば、バッチ式重合法では、通常30〜90分間反応させればよい。重合温度は、0〜70℃の範囲で行うことが好ましい。重合温度が低すぎると重合に長時間を要し効率が悪くなり、反対に、高すぎると副反応が促進されるため好ましくない。
【0028】
重合反応に用いられる鎖伸長剤としては、エチレンジアミン、1,2−プロピレンジアミン、1,3−プロピレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、4,4’−ジフェニルメタンジアミン、シクロヘキシレンジアミン、2,4−トリレンジアミン、2,6−トリレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヒドラジン、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等の1種または2種以上の組み合わせを挙げることができる。また、末端停止剤としては、ジメチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、メチル−n−プロピルアミン、メチルイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジ−n−ヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等を挙げることができる。本例では、鎖伸長剤としてエチレンジアミン、末端停止剤としてジエチルアミンがそれぞれ用いられる。
【0029】
ポリウレタン重合体溶液の調製に用いられる有機溶媒は、上述したプレポリマ、鎖伸長剤、末端停止剤および反応生成物であるポリウレタン重合体を溶解することができ、通常用いられる条件下で各物質および反応生成物に対して不活性な極性溶媒であれば特に限定されるものではない。このような有機溶媒として、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチルピロリドン(NMP)等を挙げることができる。本例では、有機溶媒としてDMAcが用いられる。
【0030】
一方、ポリウレタン重合体溶液と混合するアセチルセルロース溶液は、アセチルセルロースをDMFに溶解させ調製する。本例で用いたアセチルセルロースは、酢化度50%、重合度300のため、ポリウレタン重合体溶液の調製に用いた有機溶媒のDMFに可溶で、かつ、水に不溶である。アセチルセルロース溶液の濃度は、ポリウレタン重合体溶液に十分に混合できる範囲で、モノフィラメントとして紡出可能な範囲であれば特に制限されるものではないが、概ね15〜40重量%の濃度とすることが好ましい。アセチルセルロースの配合量は、ポリウレタン重合体に対し、10〜70重量%となるように調整する。
【0031】
得られたポリウレタン重合体溶液とアセチルセルロース溶液とを略均一に混合攪拌して紡糸原液を調製する。混合するタイミングとしては、ポリウレタン重合体の重合反応が終了した時点以降であればよい。混合時の攪拌方法は特に制限されるものではなく、一般的な攪拌装置を用いることができる。なお、紡糸原液中に必要に応じてポリウレタン系の弾性糸の製造に通常用いられる、艶消剤、耐光剤、紫外線吸収剤、ガス変色防止剤等を添加混合させてもよい。
【0032】
調製した紡糸原液を、紡糸ノズルから高温雰囲気中に吐出してポリウレタンモノフィラメントを乾式紡糸する。このときの紡糸条件としては、特に制限されるものではなく、通常用いられる条件であればよい。紡糸ノズルの孔径や紡糸原液の吐出速度と巻取速度、高温雰囲気中の溶媒濃度や温度によりモノフィラメントの繊度を調整することができ、紡糸ノズルの孔数により所望の本数のマルチフィラメントを得ることができる。本例では、15デシテックスのモノフィラメントが得られるように紡糸ノズルの孔径が設定されており、孔数が5個に設定されている。すなわち、5本のモノフィラメントが引き揃えられて紡糸されることで、マルチフィラメントの弾性糸7が得られる。得られた弾性糸7は仮撚りしながら糸管に巻き取られ巻糸体とされる。
【0033】
(織成工程)
織成工程では、紡糸工程で得られた弾性糸7を経糸7aおよび緯糸7bとし、平織組織の織物シート2を形成する。
【0034】
織物シート2の形成では、織物の作製(織成)に用いられる一般的な織機、例えば、シャトル織機、エアジェット織機、ウォータージェット織機、レピア織機等を用いることができる。一般に、ポリウレタン等の弾性糸では、伸縮性を有するため、織成することが難しい。すなわち、シャトル織機では弾性糸を緯糸として打ち込む際に弾性糸が伸びきってしまい打ち込みができなくなり、エアジェット織機やウォータージェット織機では緯糸を入れるときに切断が生じ、レピア織機では緯糸の受け渡しが不安定となる。従来弾性糸の織成では、弾性糸をポリエステル糸やナイロン糸等の非弾性糸でカバリングしたカバリング糸とし、弾性糸の伸縮性を安定的に維持、制限した状態で織成されている。
【0035】
上述した紡糸工程で得られた弾性糸7では、モノフィラメントの伸長モジュラスが0.03〜0.5cN/Dtexの範囲となるように調整されている。このため、ポリウレタン弾性糸7の伸縮性が制限されることから、カバリング糸とすることなく織成することができる。すなわち、弾性糸7の巻糸体から、通常のビーム成経で経糸7aを準備し、緯糸7bを準備した後、織機を用いて織成する。織成した織物シート2を、ホットプレートで熱プレスすることや、対向配置された熱ローラ間を通過させることで、経糸7aおよび緯糸7bの交差する部分を熱融着させ融着部8を形成する。このとき、ホットプレートや熱ローラの温度は、弾性糸7が加熱により粘着性を発現する温度(粘着温度)より高く、融点より少なくとも10℃程度低い温度に設定する。温度が弾性糸7の粘着温度を下回ると十分な融着ができず融着部8が形成されないこととなる。反対に、融点に近すぎると、融着部8が大きくなりすぎて間隙3を狭めることとなり、フィラメント切れを起こしてしまうため、好ましくない。得られた平織組織の織物シート2は、ロール状に巻き取られる。
【0036】
(バフ処理工程)
バフ処理工程では、織成工程で得られた織物シート2の研磨面Pと反対の面側にバフ処理が施される。織物シート2では、経糸7aおよび緯糸7bの交差により、研磨面Pと反対の面側に凹凸が形成されている。このため、後述するラミネート工程で両面テープ5との接着強度が若干低下する可能性がある。研磨面Pと反対の面側にバフ処理を施すことで、両面テープ5との接着面積を増大させ、接着強度を確保することができる。織物シート2をバフ処理するときは、織成工程でロール状に巻き取られた織物シート2を引き出し、研磨面P側に、表面平坦性を有する圧接ローラ等の表面を圧接させ、研磨面Pと反対の面側にバフローラでバフ処理を施す。バフ処理された織物シート2は、再度ロール状に巻き取られる。
【0037】
(ラミネート工程)
ラミネート工程では、バフ処理された織物シート2の研磨面Pと反対の面(バフ処理された面)側に、両面テープ5の一面側の接着剤層が貼り合わされる。このとき、両面テープ5の他面側には剥離紙5bが残されている。その後、円形等の所望の形状、サイズに裁断した後、汚れや異物等の付着がないことを確認する等の検査を行い、研磨布10を完成させる。
【0038】
被研磨物の研磨加工を行うときは、研磨機の研磨定盤に研磨布10を装着する。研磨定盤に研磨布10を装着するときは、両面テープ5の剥離紙5bを取り除き、露出した接着剤層で研磨定盤に接着固定する。研磨定盤と対向するように配置された保持定盤に保持させた被研磨物を研磨面P側へ押圧すると共に、外部からスラリ(研磨粒子を含む研磨液)を供給しながら研磨定盤ないし保持定盤を回転させることで、被研磨物の加工面が研磨加工される。
【0039】
(作用等)
次に、本実施形態の研磨布10の作用等について説明する。
【0040】
本実施形態では、織物シート2を用いたため、研磨面Pに平織組織による凹凸が略均等に形成される。このため、窪み部分が略均等に形成されるので、研磨加工時に供給される研磨液の保持性を確保することができる。この織物シート2では、弾性糸7同士の間に間隙3が連続的に形成される。また、弾性糸7として、5本のモノフィラメントが束ねられたマルチフィラメントが用いられているため、モノフィラメント間にも連続的な間隙が形成される。間隙3やモノフィラメント間に形成された間隙を通じて研磨液や研磨加工に伴い生成する研磨屑が移動するので、研磨面Pの窪み部分の目詰まりを抑制することができる。従って、被研磨物を略均等に研磨加工することができ、被研磨物の加工面の平坦性を向上させることができる。更に、研磨面Pに凹凸が形成され、モノフィラメント間に間隙が形成されることから、被研磨物を擦る効果(ワイピング効果)を発揮するため、研磨粒子を使用せずに化学的に研磨加工することも可能である。
【0041】
また、本実施形態では、研磨面Pに形成される窪み部分が織物シート2の平織組織によるため、窪み部分の大きさが略均一となる。従来研磨層に用いられる発泡構造のポリウレタンシートでは、発泡の大きさにバラツキが生じる可能性があるのに対して、織物シート2では窪み部分の大きさが均一化されている。また、織物シート2では、従来発泡構造を形成するためにポリウレタンシートに含有される中空微粒子等を用いていないため、研磨加工に対して異物となる成分が含まれていない。発泡の大きさにバラツキが生じると、研磨粒子や研磨屑で目詰まりし被研磨物に研磨傷(スクラッチ)を生じさせ、異物となる成分が含まれると、予期せぬ研磨不良を招くこととなる。従って、織物シート2を用いた研磨布10では、窪み部分の大きさが均一化され、異物となる成分が含まれていないため、予期せぬ研磨不良を招くことなく安定した研磨加工を行うことができる。
【0042】
更に、本実施形態では、弾性糸7を形成するモノフィラメントが1.2倍伸長時の伸長モジュラスが0.03〜0.5cN/Dtexの範囲となるように調整されている。伸長モジュラスが0.03cN/Dtexに満たないと、弾性糸7が軟らくなりすぎるため、被研磨物の平坦性を低下させやすくなる。反対に、伸長モジュラスが0.5cN/Dtexを超えると、弾性糸7が硬くなりすぎ、研磨加工時にモノフィラメントの切断が生じてしまうため、被研磨物に研磨傷が生じやすくなる。伸長モジュラスを上述した範囲とすることで、弾性糸7の伸縮性を適度に制限し、研磨加工時の織物シート2の歪みを抑制することができる。さらには、織物シート2では、融着部8が形成されているため、間隙3の大きさを確保することができる。また、織物シート2が弾性糸7による弾性を発揮するため、研磨加工時に被研磨物に対する押圧力を均等化することができる。従って、織物シート2の間隙3で研磨液を保持しつつ、略均等な押圧力で研磨加工を行うことができ、被研磨物の平坦性向上を図ることができる。
【0043】
また更に、本実施形態では、弾性糸7を構成するモノフィラメントにポリウレタン重合体とアセチルセルロースとが含有されている。このため、モノフィラメントの伸長モジュラスを上述した範囲に調整することができる。これにより、弾性糸7の伸縮性が制限されるため、織物シート2の織成時に一般的な織機を用いることができる。従来弾性糸の織成では、弾性糸を非弾性糸でカバリングしたカバリング糸が用いられるのに対して、弾性糸7では、カバリング糸とすることなくそのまま織成することができる。従って、製造工程を簡略化することができ、低コスト化を図ることができる。
【0044】
なお、本実施形態では、平織組織の織物シート2を例示したが本発明はこれに限定されるものではない。例えば、織物シートの組織としては、斜紋織や繻子織としてもよく、変化組織とすることも可能である。また、織物シートに代えて編物シートとしてもよい。この場合、例えば、図3に示すように、編物シート12は、弾性糸7に用いたモノフィラメントで構成した弾性糸17を平編み(天竺編み)した平編組織で形成することができる。弾性糸17が重なる部分に融着部18が形成されており、弾性糸17同士の間には間隙13が形成されている。また、平編組織に代えて、ゴム編(フライス)組織、パール編組織とすることもできる。更に、織物シート2の織り密度や編物シート12の編み密度については、特に制限されるものではなく、被研磨物の特性や研磨精度等を考慮して間隙3、13の大きさを適度に設定できるようにすればよい。
【0045】
また、本実施形態では、弾性糸7をそのまま織成する例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。例えば、弾性糸7の伸縮性によりテンション(張力)にバラツキが生じるような場合は、弾性を有していない非弾性糸でカバリングしたカバリング糸を用いて織成するようにしてもよい。非弾性糸としては、織成後、適当な溶媒で溶解除去できる繊維、例えば、ナイロン糸やポリビニルアルコール(PVA)糸を用いることができる。すなわち、ナイロン糸では塩酸、PVA糸では温水でそれぞれ溶解除去することができる。非弾性糸を溶解除去できない場合には、得られる織物シートの弾性を低下させることとなる。カバリング糸としては、例えば、弾性糸7を芯糸とし、この芯糸をナイロン糸等の他の繊維で鞘状に被覆したコアスパンヤーン、ポリウレタン弾性糸7と他のフィラメント状の繊維とを撚り合わせたフィラメントツイストヤ−ン等を挙げることができる。カバリング糸を用いて得られた織物シート2では、カバリングに用いた非弾性糸を溶解除去した部分に間隙が形成され、上述した間隙3と同様の機能を果たすことができる。
【0046】
更に、本実施形態では、弾性糸7として、15デシテックスのモノフィラメントが5本束ねられたマルチフィラメントを用いる例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、モノフィラメントの繊度としては5〜50デシテックスの範囲であればよく、マルチフィラメントの本数としては2〜125本の範囲とすることができる。もちろん、モノフィラメントを1本で用いることも可能である。被研磨物の加工面を一層高精度に研磨加工する精密研磨加工の場合は、間隙3の大きさや表面(研磨面P)の粗さに対する均一性の要求が高まることから、10〜20デシテックス程度のモノフィラメントをそのまま用いるか、または、モノフィラメントを2本束ねたマルチフィラメントとして用いることが好ましい。また、本実施形態では、特に言及していないが、モノフィラメントの断面形状としては、特に制限されるものではなく、円形状や円形状以外の異形状としてもよい。
【0047】
また更に、本実施形態では、特に言及していないが、織成工程で織機を用い織成することから、紡糸工程では得られた弾性糸7に鉱物油やシリコーン油等の油剤を付着させている。このため、得られた織物シート2を熱ローラ等で加熱して融着部8を形成する際に、付着油剤により融着部8の形成が不十分となる可能性がある。このような場合は、加熱する前に、通常の洗浄(精錬)処理等により付着油剤を除去するようにしてもよい。また、ラミネート工程で両面テープ5と貼り合わされることを考慮すれば、融着部8を形成することなく研磨布20を作製するようにしても、上述した効果を得ることができる。
【0048】
更にまた、本実施形態では、紡糸工程で調製した紡糸原液を紡糸ノズルから高温雰囲気中に吐出することで、モノフィラメントを乾式紡糸する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。紡糸原液を、例えば、ポリウレタン重合体やアセチルセルロースに対して貧溶媒である水を主成分とする凝固浴中に吐出することで、湿式紡糸することも可能である。
【0049】
また、本実施形態では、ポリウレタン重合体に酢化度50%、重合度300のアセチルセルロースを配合する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、ポリウレタン重合体の溶媒に可溶で、水に不溶のポリマを配合することができる。例えば、アセチルセルロースとしては、上述した酢化度や重合度のものを用いることができる。また、アセチルセルロース以外に上述したアクリル樹脂系ポリマやアクリロニトリル系ポリマを用いるようにしてもよい。
【0050】
更に、本実施形態では、織物シート2と両面テープ5とを貼り合わせる例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、織物シート2と両面テープ5との間にPET製フィルム等の基材を更に貼り合わせるようにしてもよい。このようにすれば、柔軟な織物シート2を取扱いやすくすることができる。また、織物シート2と両面テープ5との接着性を高めるために、織物シート2の研磨面Pと反対の面側をバフ処理する例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。両面テープ5の接着剤層が十分な接着性を有していれば、バフ処理をしなくてもよい。また、研磨面P側をバフ処理するようにすれば、織物シート2の厚み精度を向上させることもできる。
【実施例】
【0051】
次に、本実施形態に従い製造した研磨布10の実施例について説明する。なお、比較のために製造した比較例の研磨布についても併記する。
【0052】
(実施例1)
実施例1では、次のようにして紡糸原液を調製し、得られた弾性糸7で織物シート2を織成し研磨布10を製造した。すなわち、数平均分子量1800のポリオキシテトラメチレングリコールの2870部、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートの595部を45℃にて混合した後、75℃にて80分間反応させて、プレポリマの3465部を得た。このときのイソシアネート基含有量はプレポリマ100g中1880gであった。これとは別に、鎖伸長剤としてエチレンジアミンの44部と末端停止剤としてジエチルアミンの6部とを、0℃に冷やしたDMAcの1262部に加えて十分に攪拌し、鎖伸長剤と末端停止剤との混合溶液を得た。
【0053】
先に得たプレポリマの3400部を、0℃に冷やしたDMAcの5896部に加え、十分に攪拌した後、プレポリマのイソシアネート基に対して、鎖伸長剤と末端停止剤との活性水素基が等モルとなるように鎖伸長剤と末端停止剤との混合溶液を添加し反応させて濃度35%のポリウレタン重合体溶液を得た。
【0054】
一方、アセチルセルロース(酢化度50%、重合度300)をDMAcに溶解させて、濃度30%のアセチルセルロース溶液を得た。先に得たポリウレタン重合体溶液にアセチルセルロース溶液を添加混合して紡糸原液を得た。このとき、アセチルセルロースがポリウレタン重合体に対し30重量%となるように混合した。得られた紡糸原液を直径0.2mmのオリフィスを5個有する紡糸ノズルを用いて乾式紡糸した。紡糸速度を300m/分に設定し、20%伸長しながら仮撚りをかけてポリウレタン弾性糸に用いられているポリジメチルシロキサン系仕上げ油剤を3%を付着させた後、紙管に巻き取り、78Dtex(フィラメント数5本)の弾性糸7の巻糸体を得た。この弾性糸7で織物シート2を織成し、精錬処理により油剤を除去した後、140℃のホットプレートにて荷重8.4g/cmをかけながら1分間圧着させ、研磨布10を製造した。
【0055】
(比較例1)
比較例1では、アセチルセルロースを含有させない以外は実施例1と同様にして、ポリウレタン製の78Dtex(フィラメント数5本)の弾性糸を得た。この弾性糸を用いて織成した織物シートで研磨布を製造した。この場合、弾性糸の伸縮性が大きすぎるため、そのまま織成することが難しかったため、PVA糸でカバリングしたカバリング糸を作製し織物シートを作製した。織成後の織物シートを温湯で処理してPVAを溶解除去した後、研磨布を製造した。
【0056】
(比較例2)
比較例2では、弾性糸7に代えて75Dtexのポリエステルマルチフィラメント(フィラメント数72本)を用いた以外は実施例1と同様にして研磨布を製造した。
【0057】
(評価)
各実施例および比較例の研磨布を構成するモノフィラメントについて、伸長モジュラスを測定した。伸長モジュラスの測定では、引張試験装置(オリエンテック社製、テンシロンRTA−100)を用い、マルチフィラメントに初荷重(繊度(Dtex)の1/1000g)をかけたときの繊維長(元の糸長)に対して1.2倍に伸長したときの伸長荷重を測定し、マルチフィラメントの繊度で除してモノフィラメントの伸長モジュラスを算出した。
【0058】
この結果、比較例1で用いた弾性糸を構成するモノフィラメントでは、伸長モジュラスが0.25cN/Dtexを示した。これに対して、実施例1で用いた弾性糸7を構成するモノフィラメントでは、伸長モジュラスが0.01cN/Dtexを示した。このことから、アセチルセルロースを配合することで弾性糸7の伸縮性が制限されることが明らかとなった。一方、比較例2で用いたポリエステルモノフィラメントでは、1.2倍に伸長することができず、非弾性を示した。
【0059】
(研磨性能評価)
次に、各実施例及び比較例の研磨布を用いて、以下の研磨条件でハードディスク用のアルミニウム基板の研磨加工を行い、研磨レートを測定した。研磨レートは、1分間当たりの研磨量を厚さで表したものであり、研磨加工前後のアルミニウム基板の重量減少から求めた研磨量、アルミニウム基板の研磨面積および比重から算出した。また、目視にてスクラッチの有無を判定した。研磨レートおよびスクラッチの測定結果を下表1に示す。
(研磨条件)
使用研磨機:スピードファム社製、9B−5Pポリッシングマシン
研磨速度(回転数):30rpm
加工圧力:100g/cm
スラリ:アルミナスラリ(pH:2.0)
スラリ供給量:100cc/min
被研磨物:ハードディスク用アルミニウム基板
(外径95mmφ、内径25mm、厚さ1.27mm)
【0060】
【表1】

【0061】
表1に示すように、比較例1の研磨布では、研磨レートが0.095μm/minを示し、十分な研磨加工を行うことができなかった。また、比較例2の研磨布では、研磨レートが0.125μm/minを示し、比較例1より良好であったが、被研磨物の加工面には多数のスクラッチが認められた。これに対して、実施例1の研磨布10では、研磨レートが0.185μm/minを示し、十分な研磨加工を行うことができた。また、加工面にスクラッチが認められず、優れた平坦性の得られることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は研磨液の保持性を確保しつつ目詰まりを抑制し被研磨物の平坦性向上を図ることができる研磨布を提供するため、研磨布の製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明を適用した実施形態の研磨布を模式的に示す断面図である。
【図2】実施形態の研磨布を構成する研磨層の織物シートを模式的に示す平面図である。
【図3】本発明を適用可能な研磨布を構成する研磨層の編物シートを模式的に示す平面図である。
【符号の説明】
【0064】
2 織物シート(研磨層)
3 間隙
7 弾性糸
7a 経糸
7b 緯糸
10 研磨布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被研磨物を研磨加工するための研磨面を有する研磨層を備えた研磨布において、前記研磨層は弾性糸の織物シートまたは編物シートで形成されており、前記弾性糸は1.2倍伸長時の伸長モジュラスが0.03cN/デシテックス〜0.5cN/デシテックスの範囲の少なくとも1本の単繊維で構成されたことを特徴とする研磨布。
【請求項2】
前記少なくとも1本の単繊維は、繊度が5デシテックス〜50デシテックスの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の研磨布。
【請求項3】
前記弾性糸は、1本〜125本の前記単繊維で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の研磨布。
【請求項4】
前記少なくとも1本の単繊維には、ポリウレタン重合体が含有されていることを特徴とする請求項1に記載の研磨布。
【請求項5】
前記少なくとも1本の単繊維は、前記ポリウレタン重合体に対し、該ポリウレタン重合体の溶媒に可溶で、かつ、水に不溶のポリマが10重量%〜70重量%の割合で含有され形成されていることを特徴とする請求項4に記載の研磨布。
【請求項6】
前記ポリマは、アクリル樹脂系ポリマ、アクリロニトリル系ポリマおよびアセチルセルロースから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項5に記載の研磨布。
【請求項7】
前記織物シートまたは編物シートは、前記弾性糸同士が重なり部分で融着されたことを特徴とする請求項1に記載の研磨布。
【請求項8】
前記織物シートまたは編物シートは、前記研磨面側ないし前記研磨面と反対の面側がバフ処理されていることを特徴とする請求項1に記載の研磨布。
【請求項9】
前記織物シートまたは編物シートの前記研磨面と反対の面側に貼り合わされた基材を更に備えたことを特徴とする請求項1に記載の研磨布。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−64216(P2010−64216A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−234600(P2008−234600)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(000005359)富士紡ホールディングス株式会社 (180)
【Fターム(参考)】