説明

硬化性組成物

【課題】高弾性率を有する硬化物を実現する硬化性組成物の提供。
【解決手段】1分子中に1個のケイ素原子と2個以上のアルコキシ基とを有するアルコキシシラン化合物と、1分子中に少なくとも1個のチエニル基を有するアルコールとの反応により得られる共役ジエン化合物と、1分子中に2個以上のジエノフィル構造を有するジエノフィル化合物とを含有する硬化性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維とマトリクス樹脂とからなる繊維強化複合材料は、軽量で機械的強度が優れているため、航空宇宙用途、一般産業用途、スポーツ用具用途等に広く用いられている。
前記マトリクス樹脂としては、エポキシ樹脂に代表される熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂が用いられている。中でもエポキシ樹脂は、強化繊維との接着性がよく、硬化物の弾性率が高く、耐熱性や耐湿性に優れている。
強化繊維としては、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、ボロン繊維等が用いられ、中でも、比強度、比弾性率に優れ、高性能の複合材料が得られうる炭素繊維が用いられることが多い。
代表的な繊維強化複合材料として、エポキシ樹脂と炭素繊維との組み合わせによる繊維強化複合材料が挙げられる。当該繊維強化複合材料は、耐熱性が高く、大気中で吸湿しガラス転移温度が低下した状態でも高温雰囲気下における圧縮強さが高い。
【0003】
繊維強化複合材料の圧縮強度は、マトリクス樹脂の弾性率(貯蔵弾性率:G′)に依存し、マトリクス樹脂の弾性率が高いほど圧縮強度を高めることができることが知られている。しかし、マトリクス樹脂自体の弾性率を高めることは困難であり、現状では、強化繊維の特性によって繊維強化複合材料の繊維方向に対する弾性率が制御されている。
本出願人は、以前から、共役ジエン化合物とジエノフィル化合物とのディールス−アルダー反応によって得られる付加化合物が、レトロ−ディールス−アルダー反応による熱可逆性を示すことに注目し、熱可逆性を有する熱硬化性樹脂に関する研究を進めている。その中で、共役ジエン構造等を含有する多数のエポキシ樹脂を開発することに成功している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2003−183348号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、高弾性率を有する硬化物を実現する硬化性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、高弾性率を有する硬化物を実現する硬化性組成物に関し、鋭意研究した結果、特定の共役ジエン化合物と、ジエノフィル化合物とを含有する硬化性組成物からなる硬化物が、高い弾性率を有することを見出した。
そして、本発明者は、この知見に基づき、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明は、以下の(1)〜(5)を提供する。
(1)1分子中に1個のケイ素原子と2個以上のアルコキシ基とを有するアルコキシシラン化合物と、1分子中に少なくとも1個のチエニル基を有するアルコールとの反応により得られる共役ジエン化合物。
【0008】
(2)下記式(1)で表される共役ジエン化合物。
SiR1n(OR24-n (1)
(式中、R1は、それぞれ独立に、水素原子が熱硬化性樹脂と反応する官能基で置換されていてもよいアルキル基を表す。R2は、それぞれ独立に、少なくとも1個のチエニル基で置換された1価の炭化水素基を表す。nは、0〜2の整数である。)
【0009】
(3)上記(1)または(2)に記載の共役ジエン化合物と、1分子中に2個以上のジエノフィル構造を有するジエノフィル化合物とを含有する硬化性組成物。
(4)さらに、熱硬化性樹脂を含有する上記(3)に記載の硬化性組成物。
(5)前記熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂であり、さらに、硬化剤を含有する上記(4)に記載の硬化性組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高弾性率の硬化物を生成可能な硬化性組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明において、上記(1)に記載の共役ジエン化合物(1分子中に1個のケイ素原子と2個以上のアルコキシ基とを有するアルコキシシラン化合物と、1分子中に少なくとも1個のチエニル基を有するアルコールとの反応により得られる共役ジエン化合物)を、「本発明の第1の態様の共役ジエン化合物」という。
また、上記(2)に記載の式(1)で表される共役ジエン化合物を、「本発明の第2の態様の共役ジエン化合物」という。
【0012】
まず、本発明の第1の態様の共役ジエン化合物について説明する。
本発明の第1の態様の共役ジエン化合物は、1分子中に1個のケイ素原子と2個以上のアルコキシ基とを有するアルコキシシラン化合物と、1分子中に少なくとも1個のチエニル基を有するアルコールとの反応により得られる共役ジエン化合物である。
【0013】
上記反応は、アルコキシシラン化合物に含有される2個以上のアルコキシ基と、アルコールのヒドロキシ基の水素原子を除いた基とが交換する反応である。
【0014】
はじめに、原料であるアルコキシシラン化合物について説明する。
アルコキシシラン化合物は、1分子中に1個のケイ素原子と2個以上のアルコキシ基とを有するアルコキシシラン化合物である。
アルコキシシラン化合物に含まれるアルコキシ基は、2個以上であり、2〜4個であるのが好ましく、3個または4個であるのがより好ましい。
【0015】
アルコキシ基は、炭素原子数1〜6のアルコキシ基であるのが好ましい態様の一つである。炭素原子数1〜6のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基が挙げられる。なお、炭素原子数3以上のアルコキシ基には、各種の異性体が含まれる。例えば、プロポキシ基には、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基が含まれる。
【0016】
ケイ素原子に結合しているアルコキシ基以外の置換基としては、例えば、水素原子が熱硬化性樹脂と反応する官能基で置換されていてもよいアルキル基が挙げられる。このようなアルキル基としては、例えば、官能基を有さないアルキル基、水素原子が熱硬化性樹脂と反応することができる官能基で置換されているアルキル基が挙げられる。なお、水素原子が熱硬化性樹脂と反応する官能基で置換されていてもよいアルキル基は、当該アルキル基の主鎖に、例えば、エーテル結合、イミノ基を含有することができる。アルキル基の数は、0〜2個であるのが好ましく、0〜1個であるのがより好ましい。
【0017】
官能基を有さないアルキル基としては、例えば、炭素原子数1〜10の直鎖状アルキル基、炭素原子数3〜10の分岐状アルキル基が挙げられる。中でも、炭素原子数1〜10の直鎖状アルキル基が好ましい。
炭素原子数1〜10の直鎖状アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基が挙げられる。
炭素原子数3〜10の分岐状アルキル基としては、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基、イソヘキシル基、イソヘプチル基、イソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基が挙げられる。
【0018】
熱硬化性樹脂と反応することができる官能基としては、例えば、イソシアネート基、ブロックイソシアネート基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、ビニル基、カルボキシ基、ビニル基、メタクリロキシ基、ハロゲン原子が挙げられる。中でもエポキシ基が好ましい。
【0019】
なお、上記のブロックイソシアネート基は、イソシアネート基がブロック化剤で保護されており、熱または湿気によってブロックイソシアネート基からブロック化剤が外れてイソシアネート基を発生しうる基をいう。具体的なブロック化剤としては、例えば、アルコール類、フェノール類、オキシム類、トリアゾール類、カプロラクタム類が挙げられる。このような官能基は、それぞれ単独でまたは2種類以上を組み合わせて用いることができる。官能基が結合するアルキル基の具体例は、上記の官能基を有さないアルキル基と同様である。官能基は、このようなアルキル基の末端に結合することが、反応性の面から好ましい。
【0020】
水素原子が熱硬化性樹脂と反応する官能基で置換されているアルキル基としては、例えば、末端の水素原子がエポキシ基で置換され、主鎖にエーテル結合を含有する直鎖状アルキル基が挙げられる。
末端の水素原子がエポキシ基で置換され、主鎖にエーテル結合を含有する直鎖状アルキル基としては、例えば、γ−グリシドキシメチル基、γ−グリシドキシエチル基、γ−グリシドキシプロピル基、γ−グリシドキシブチル基が挙げられる。中でも、γ−グリシドキシプロピル基が好ましい。
【0021】
原料であるアルコキシシラン化合物は、特に限定されず、例えば、従来公知のものを用いることができる。例えば、テトラアルコキシシラン化合物(例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン)、トリアルコキシシラン化合物、ジアルコキシシラン化合物が挙げられる。
【0022】
トリアルコキシシラン化合物としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシランのようなエポキシ基含有トリアルコキシシラン化合物;γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートエチルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートエチルトリエトキシシランのようなイソシアネート基含有トリアルコキシシラン化合物;γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランのようなアミノ基含有トリアルコキシシラン化合物;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシランのようなメルカプト基含有トリアルコキシシラン化合物が挙げられる。
【0023】
ジアルコキシシラン化合物としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルエチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルエチルジエトキシシランのようなエポキシ基含有ジアルコキシシラン化合物;γ−イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアネートエチルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアネートエチルメチルジメトキシシランのようなイソシアネート基含有ジアルコキシシラン化合物;γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシランのようなアミノ基含有ジアルコキシシラン化合物;γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシランのようなメルカプト基含有ジアルコキシシラン化合物が挙げられる。
アルコキシシラン化合物は、その製法について特に制限されず、例えば、従来公知の方法に従って製造することができる。
【0024】
アルコールについて以下に説明する。
本発明の第1の態様の共役ジエン化合物に使用されるアルコールは、1分子中に少なくとも1個のチエニル基を有するアルコールである。
アルコールは、1分子中に、少なくとも1個のヒドロキシ基と、少なくとも1個のチエニル基とを有するものであれば特に制限されない。また、アルコールは、チエニル基以外の官能基を含有することができる。
【0025】
チエニル基は、チオフェンから1つの水素原子を除いてできる基である。チエニル基は、置換基を含有することができる。チエニル基としては、下記式(2)で表される2−チエニル基、下記式(3)で表される3−チエニル基が挙げられる。
【0026】
【化1】

【0027】
アルコールとしては、例えば、従来公知のものを用いることができる。例えば、2−チエニルメチルアルコール、3−チエニルメチルアルコール、1−(2−チエニル)−エチルアルコール、2−(2−チエニル)−エチルアルコール、1−(3−チエニル)−エチルアルコール、2−(3−チエニル)−エチルアルコールが挙げられる。中でも、2−チエニルメチルアルコールが好ましい。
【0028】
本発明の第1の態様の共役ジエン化合物は、上記アルコキシシラン化合物と上記アルコールとの反応により得られる共役ジエン化合物である。当該反応は、アルコキシシラン化合物に含有される2個以上のアルコキシ基と、上記アルコールのヒドロキシ基の水素原子を除く基とが交換する反応であり、例えば、以下のような方法を用いることができる。
【0029】
アルコールの量は、特に限定されない。例えば、当該アルコキシ基に対して0.8〜1.2当量であるのが好ましい。
【0030】
また、当該反応は触媒を使用することができる。使用される触媒としては、例えば、シラン化合物、チタン化合物、塩化亜鉛、三フッ化ホウ素のようなルイス酸;塩酸、硫酸、有機酸のような酸性触媒;塩基性触媒が挙げられる。塩基性触媒としては、例えば、アンモニア、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミンが挙げられる。中でも、第三級アミンが好ましい。
【0031】
第三級アミンとしては、例えば、モノアミン類、ジアミン類、トリアミン類、ポリアミン類、脂肪族アミン、芳香族アミン、環状アミン類、アルコールアミン類、エーテルアミン類が挙げられる。中でも、脂肪族アミン、芳香族アミン(例えば、ピリジン)が好ましい。
【0032】
第三級脂肪族アミンとしては、例えば、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、N,N,N′,N′−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N′,N′−テトラメチルプロパン−1,3−ジアミン、テトラメチルグアニジン、N,N′−ジメチルピペラジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(DBU)、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、ビス(2−ジメチルアミノエチル)エーテルが挙げられる。中でも、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセンが好ましい。
【0033】
このような触媒は、それぞれ単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。触媒の使用量は、原料であるアルコキシシラン化合物100質量部に対して、0.1〜5質量部であるのが好ましい。
【0034】
反応は、溶媒を使用して、または、無溶媒で行うことができ、無溶媒で行うことが好ましい。溶媒を使用する場合は、当該反応によって生成するアルコール(例えば、メタノール、エタノール)と共沸する化合物を使用することができる。このような化合物としては、例えば、メチルプロピルエーテル、メチルブチルエーテル、エチルプロピルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、エトキシメトキシメタンのようなエーテル化合物;n−ペンタン、n−ヘキサン、2,3,3−トリメチルブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、トランス−1,3−ジメチルシクロペンタンのような脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素が挙げられる。
【0035】
反応は、反応によって生成するアルコール(例えば、メタノール、エタノール)を反応系外に留去しながら行うことが好ましい。
反応温度は、好ましくは20〜100℃、より好ましくは40〜60℃である。当該反応は、通常、常圧で行うが、必要に応じ、減圧下または加圧下で行うことができる。
【0036】
上記アルコキシシラン化合物とアルコールとの反応により、本発明の第1の態様の共役ジエン化合物が得られる。得られる共役ジエン化合物は、例えば、1分子中に、1個のケイ素原子と、少なくとも1個のチエニル基を有する2個以上のアルコキシ基とを含有する共役ジエン化合物が挙げられる。中でも、本発明の第1の態様の共役ジエン化合物は、本発明の第2の態様の共役ジエン化合物であるのが好ましい。本発明の第2の態様の共役ジエン化合物の具体的な構造については後述する。
【0037】
次に、本発明の第2の態様の共役ジエン化合物について説明する。
本発明の第2の態様の共役ジエン化合物は、下記式(1)で表される共役ジエン化合物である。
【0038】
SiR1n(OR24-n (1)
【0039】
式中、R1は、それぞれ独立に、水素原子が熱硬化性樹脂と反応する官能基で置換されていてもよいアルキル基を表す。R2は、それぞれ独立に、少なくとも1個のチエニル基で置換された1価の炭化水素基を表す。nは、0〜2の整数である。
【0040】
式(1)中、R1は、それぞれ独立に、水素原子が熱硬化性樹脂と反応する官能基で置換されていてもよいアルキル基を表す。
水素原子が熱硬化性樹脂と反応する官能基で置換されていてもよいアルキル基としては、例えば、官能基を有さないアルキル基、アルキル基の水素原子が熱硬化性樹脂と反応することができる官能基で置換されているものが挙げられる。なお、水素原子が熱硬化性樹脂と反応する官能基で置換されていてもよいアルキル基は、当該アルキル基の主鎖に、例えば、エーテル結合、イミノ基を含有することができる。当該アルキル基の数は、0〜2個であり、0〜1個であるのが好ましい。
【0041】
官能基を有さないアルキル基としては、例えば、炭素原子数1〜10の直鎖状アルキル基、炭素原子数3〜10の分岐状アルキル基が挙げられる。中でも、炭素原子数1〜10の直鎖状アルキル基が好ましい。
炭素原子数1〜10の直鎖状アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基が挙げられる。
炭素原子数3〜10の分岐状アルキル基としては、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基、イソヘキシル基、イソヘプチル基、イソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基が挙げられる。
【0042】
熱硬化性樹脂と反応することができる官能基としては、例えば、イソシアネート基、ブロックイソシアネート基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、ビニル基、カルボキシ基、ビニル基、メタクリロキシ基、ハロゲン原子が挙げられる。中でもエポキシ基が好ましい。
【0043】
なお、上記のブロックイソシアネート基は、イソシアネート基がブロック化剤で保護されており、熱または湿気によってブロックイソシアネート基からブロック化剤が外れてイソシアネート基を発生しうる基をいう。具体的なブロック化剤としては、例えば、アルコール類、フェノール類、オキシム類、トリアゾール類、カプロラクタム類が挙げられる。
このような官能基は、それぞれ単独でまたは2種類以上を組み合わせて用いることができる。官能基が結合するアルキル基の具体例は、上記の官能基を有さないアルキル基と同様である。官能基は、このようなアルキル基の末端に結合することが、反応性の面から好ましい。
【0044】
水素原子が熱硬化性樹脂と反応することができる官能基で置換されているアルキル基としては、例えば、末端の水素原子がエポキシ基で置換され、主鎖にエーテル結合を含有する直鎖状アルキル基が挙げられる。
末端の水素原子がエポキシ基で置換され、主鎖にエーテル結合を含有する直鎖状アルキル基としては、例えば、γ−グリシドキシメチル基、γ−グリシドキシエチル基、γ−グリシドキシプロピル基、γ−グリシドキシブチル基が挙げられる。中でも、γ−グリシドキシプロピル基が好ましい。
【0045】
式(1)中、R2は、それぞれ独立に、少なくとも1個のチエニル基で置換された1価の炭化水素基を表す。炭化水素基は、特に制限されないが、例えば、脂肪族炭化水素基が挙げられる。脂肪族炭化水素基としては、例えば、C1〜C6のアルキル基が挙げられる。C1〜C6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基が挙げられる。C3〜C6のアルキル基は、分岐していてもよい。C3〜C6の分岐したアルキル基としては、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、イソペンチル基、t−ペンチル基、ネオペンチル基、イソヘキシル基が挙げられる。
【0046】
チエニル基としては、式(2)で表される2−チエニル基、式(3)で表される3−チエニル基が挙げられる。チエニル基は、上記炭化水素基のいずれの水素原子と置換されてもよい。
そして、少なくとも1個のチエニル基で置換された1価の炭化水素基としては、例えば、少なくとも1個のチエニル基で置換された1価の脂肪族炭化水素基(例えば、上記のC1〜C6のアルキル基)が挙げられる。また、本発明の第1の態様の共役ジエン化合物で使用されるアルコールのヒドロキシ基を除いた基が好適に挙げられる。
【0047】
具体的には、例えば、下記式(4)で表される2−テニル基、下記式(5)で表される3−テニル基、下記式(6)で表される2−(2−チエニル)−エチル基、下記式(7)で表される2−(3−チエニル)−エチル基が挙げられる。
【0048】
【化2】

【0049】
式(1)の中のnは、0〜2の整数であり、好ましくは、0または1である。
本発明の第2の態様の共役ジエン化合物は、(4−n)個つまり2〜4個のチエニル基を含有し、3〜4個のチエニル基を含有するのが好ましい。なぜなら、3個以上のチエニル基を有する共役ジエン化合物は、1分子中に2個以上のジエノフィル構造を有するジエノフィル化合物とディールス−アルダー反応して、3次元的網目構造を有する硬化物を形成することができるからである。
【0050】
ここで、本発明の第1の態様の共役ジエン化合物と、本発明の第2の態様の共役ジエン化合物との関係について説明する。
本発明の第1の態様の共役ジエン化合物は、上記アルコキシシラン化合物と上記アルコールとの反応によって得られる。当該アルコールは、1分子中に少なくとも1個のチエニル基を有する。以下、これを「チエニル基含有アルコール」ということがある。
このとき、原料であるアルコキシシラン化合物が、1分子中に1個のケイ素原子と、2〜4個のアルコキシ基と、水素原子が熱硬化性樹脂と反応する官能基で置換されていてもよいアルキル基0〜2個とを有するアルコキシシラン化合物である場合がある。
【0051】
そして、当該アルコキシシラン化合物と、チエニル基含有アルコールとを反応させると、アルコキシシラン化合物のアルコキシ基とチエニル基含有アルコールのヒドロキシ基の水素原子を除く基とが交換し、1分子中、1個のケイ素原子に、2〜4個のアルコキシ基(このアルコキシ基にチエニル基が含有される)と、水素原子が熱硬化性樹脂と反応する官能基で置換されていてもよいアルキル基0〜2個とが結合している共役ジエン化合物が得られる。
得られた共役ジエン化合物に含有される「水素原子が熱硬化性樹脂と反応する官能基で置換されていてもよいアルキル基0〜2個」は、式(1)の中のR1nと一致する。また、共役ジエン化合物に含有される「2〜4個のチエニル基を有するアルコキシ基」は、式(1)の中の(OR24-n(R2は、少なくとも1個のチエニル基で置換された1価の炭化水素基)と一致する。
【0052】
つまり、本発明の第1の態様の共役ジエン化合物が、1分子中に1個のケイ素原子と、2〜4個のアルコキシ基と、0〜2個の、水素原子が熱硬化性樹脂と反応する官能基で置換されていてもよいアルキル基とを有するアルコキシシラン化合物と、1分子中に少なくとも1個のチエニル基を有するアルコールとから得られる場合、得られる共役ジエン化合物は、本発明の第2の態様の共役ジエン化合物に該当する。
【0053】
本発明の第2の態様の共役ジエン化合物としては、例えば、1分子中に、4個のチエニル基を含有するシラン化合物、3個のチエニル基を含有するシラン化合物、2個のチエニル基を含有するシラン化合物が挙げられる。中でも、4個のチエニル基を含有するシラン化合物が好ましい。
【0054】
4個のチエニル基を含有するシラン化合物としては、例えば、下記式(8)で表されるテトラ(2−テニルオキシ)シラン、テトラ(3−テニルオキシ)シラン、テトラ(2−チエニルエトキシ)シラン、テトラ(3−チエニルエトキシ)シランのようなテトラアルコキシシラン化合物が挙げられる。
【0055】
【化3】

【0056】
本発明の第2の態様の共役ジエン化合物の製造方法は、特に限定されない。例えば、本発明の第1の態様の共役ジエン化合物の製造方法に従って製造することができる。
【0057】
次に、本発明の硬化性組成物について説明する。
本発明の硬化性組成物は、本発明の第1の態様の共役ジエン化合物または本発明の第2の態様の共役ジエン化合物と、1分子中に2個以上のジエノフィル構造を有するジエノフィル化合物とを含有する硬化性組成物である。
【0058】
使用される共役ジエン化合物は、本発明の第1の態様の共役ジエン化合物または第2の態様の共役ジエン化合物であれば、特に制限されない。共役ジエン化合物は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0059】
以下に、ジエノフィル化合物について説明する。
本発明の硬化性組成物に含有されるジエノフィル化合物は、1分子中に2個以上のジエノフィル構造を有するジエノフィル化合物である。
ジエノフィル構造は、本発明の第1の態様の共役ジエン化合物または本発明の第2の態様の共役ジエン化合物の共役ジエン構造と、ディールス−アルダー反応による結合を形成させることができる。
ジエノフィル化合物、および、ジエノフィル化合物に含有されるジエノフィル構造の具体例を第1表に示す。なお、第1表中に例示されている各ジエノフィル化合物において、各ジエノフィル化合物の括弧内に表される構造がジエノフィル構造である。
【0060】
【表1】

【0061】
(第1表の中で、R3〜R7は、それぞれ独立に、単結合、水素原子、炭化水素基またはハロゲン原子を表し、R8は、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭化水素基を表し、nは2以上の整数である。)
第1表の中のR3〜R7は、それぞれ独立に、単結合、水素原子、炭化水素基またはハロゲン原子を表す。
第1表の中のR3〜R7で表される炭化水素基としては、例えば、炭素原子数1〜10の直鎖状アルキル基、炭素原子数3〜10の分岐状アルキル基が挙げられる。
【0062】
炭素原子数1〜10の直鎖状アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基が挙げられる。
【0063】
炭素原子数3〜10の分岐状アルキル基としては、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基、イソヘキシル基、イソヘプチル基、イソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基が挙げられる。
【0064】
第1表の中のR3〜R7で表されるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
8は、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭化水素基を表す。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子が挙げられる。ヘテロ原子を含んでいてもよい炭化水素基は、2価以上の炭化水素基であれば特に制限されない。例えば、ヘテロ原子を含んでいてもよい2価の炭化水素基、ヘテロ原子を含んでいてもよい3価の炭化水素基、ヘテロ原子を含んでいてもよい4価の炭化水素基が挙げられる。ヘテロ原子を含んでいてもよい2価の炭化水素基としては、例えば、後述する第2表に示される基が挙げられる。
nは2以上の整数であり、2〜4の整数であるのが好ましい。nは、各ジエノフィル化合物に含有されるジエノフィル構造(括弧内の構造)の数を示す。
中でも、ジエノフィル構造は、マレイミド骨格であるのが好ましい態様の一つである。マレイミド骨格とチオフェン骨格との間でディールス−アルダー反応により形成された結合は、熱により解離しないからである。
マレイミド骨格は、下記式(9)で表される骨格である。
【0065】
【化4】

【0066】
(式中、R9およびR10は、それぞれ独立に、水素原子、炭化水素基またはハロゲン原子を表す。)
【0067】
式(9)のなかのR9およびR10で表される炭化水素基は、第1表の中のR3〜R7で表される炭化水素基と同様である。
式(9)のなかのR9およびR10で表されるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
なお、式(9)で表されるマレイミド骨格は、第1表に示されているジエノフィル化合物(I)の括弧内のジエノフィル構造と同様である。
【0068】
9およびR10は、この後のディールス−アルダー反応が進行しやすい観点、ディールス−アルダー反応によって形成される結合の解離温度の観点、入手のしやすさから、水素原子が特に好ましい。
ジエノフィル化合物は、マレイミド骨格を有し、さらに、マレイミド骨格の窒素原子が、ヘテロ原子を含有してもよい2価以上の炭化水素基と結合し、さらに他のジエノフィル構造と結合していることが好ましい。
他のジエノフィル構造としては、例えば、第1表に列挙されたジエノフィル構造が挙げられる。中でも、マレイミド骨格であるのが好ましい。この場合、ジエノフィル化合物は、1分子中に2個以上のマレイミド骨格を有することとなる。このようなジエノフィル化合物としては、例えば、第1表に示されるジエノフィル化合物(I)が挙げられる。
【0069】
1分子中にジエノフィル化合物に含有されるマレイミド骨格の数(第1表に示されるジエノフィル化合物(I)のn)は、2個以上であり、好ましくは2〜4個であり、より好ましくは2〜3個であり、さらに好ましくは2個である。
1分子中に2個のマレイミド骨格を有するジエノフィル化合物としては、例えば、下記式(10)で表されるジエノフィル化合物が好適に挙げられる。1分子中のジエノフィル化合物に含まれる2個のマレイミド骨格は、同一であっても、異なっていてもよい。
【0070】
【化5】

【0071】
(式中、R11〜R14は、それぞれ独立に、水素原子、炭化水素基またはハロゲン原子を表す。Yは、第2表に列記する群から選ばれる基を表し、第2表中、pおよびqは1以上の整数を表す。)
【0072】
式(10)中のR11〜R14で表される炭化水素基は、式(9)の中のR9〜R10で表される炭化水素基と同様である。
式(10)中のR11〜R14で表されるハロゲン原子は、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
式(10)中のR11〜R14は、この後のディールスアルダー反応が進行しやすい観点、ディールスアルダー反応によって形成される結合の解離温度の観点、入手のしやすさから、水素原子が特に好ましい。
【0073】
【表2】

【0074】
【表3】

【0075】
【表4】

【0076】
【表5】

【0077】
Yは、下記式(11)で表される基であるのが好ましい態様の一つである。
【0078】
【化6】

【0079】
1分子中に2個のマレイミド骨格を有するジエノフィル化合物としては、例えば、4,4′−ビスマレイミドジフェニルメタンが好適に挙げられる。
このようなジエノフィル化合物は、それぞれ単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。
1分子中に2個以上のジエノフィル構造を有するジエノフィル化合物は、その製法について、特に制限されない。例えば、従来公知の方法に従って製造することができる。
【0080】
ジエノフィル化合物の量は、共役ジエン化合物1当量に対して、0.4〜1.5当量であるのが好ましく、0.8〜1.2当量であるのがより好ましい。
【0081】
また、本発明の硬化性組成物は、さらに、熱硬化性樹脂を含有するのが好ましい。
熱硬化性樹脂は、特に制限されない。例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、変成シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂が挙げられる。中でも、エポキシ樹脂が好ましい。
【0082】
エポキシ樹脂としては、例えば、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂を使用することができる。また、エポキシ当量が100〜1000のエポキシ樹脂を使用することができる。また、エポキシ樹脂は、常温(15〜30℃)で液体であるものが、溶媒成分を用いずに硬化性組成物を硬化させることが可能となる理由から好適な態様の一つとして挙げられる。
【0083】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールS型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型のようなビスフェニル基を有するエポキシ化合物、ポリアルキレングリコール型、アルキレングリコール型のエポキシ化合物、ナフタレン環を有するエポキシ化樹脂、フルオレン基を有するエポキシ化合物のような2官能型のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;
フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、DPPノボラック型、トリス・ヒドロキシフェニルメタン型、3官能型、テトラフェニロールエタン型のような3官能以上のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;
ダイマー酸のような合成脂肪酸のグリシジルエステル型エポキシ樹脂;
N,N,N′,N′−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(TGDDM)、トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、N,N−ジグリシジルアニリン、トリグリシジル−p−アミノフェノールのようなグリシジルアミノ型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0084】
なかでも、耐熱性が高く、比較的低粘度であることから、ビスフェノールA型、N,N,N′,N′−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(TGDDM)、トリグリシジル−p−アミノフェノールが好ましい。
熱硬化性樹脂は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0085】
従来、熱硬化性樹脂は、弾性率が低く架橋密度も低いという問題があった。
これに対して、本発明の硬化性組成物(本発明の第1の態様の共役ジエン化合物または本発明の第2の態様の共役ジエン化合物と、1分子中に2個以上のジエノフィル構造を有するジエノフィル化合物とを含有する硬化性組成物)から得られる硬化物は、弾性率が高く架橋密度が高い。本発明の硬化性組成物がさらに熱硬化性樹脂を含有する場合、架橋密度の低い熱硬化性樹脂を含有しても得られる硬化物の弾性率を高くすることができる。
【0086】
また、従来、ディールス−アルダー反応が可能な硬化性組成物に配合される化合物としては、1分子中に、熱硬化性樹脂由来の官能基と、共役ジエン構造および/またはジエノフィル構造とを有する硬化性化合物が用いられており、共役ジエン構造と、ジエノフィル構造と、熱硬化性樹脂由来の官能基との配合比を簡単に変えることができず、硬化物の弾性率を向上させることが困難であった。
これに対して、本発明の硬化性組成物は、共役ジエン化合物と、ジエノフィル化合物との配合比を自由に調節するより、得られる硬化物の弾性率を向上させることができる。本発明の硬化性組成物がさらに熱硬化性樹脂を含有する場合、共役ジエン化合物と、ジエノフィル化合物と、熱硬化性樹脂とを別々の化合物として配合することができるので、共役ジエン化合物と、ジエノフィル化合物と、熱硬化性樹脂との配合比を、自由に、より簡単に変えることができる。
【0087】
本発明の硬化性組成物は、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂であるとき、さらに、硬化剤を含有することが好ましい。
使用される硬化剤は、特に限定されない。例えば、エポキシ樹脂の硬化剤として従来公知のものを用いることができる。例えば、アミン系硬化剤、酸または酸無水物系硬化剤、ポリメルカプタン系硬化剤、ジシアンジアミド類、イミダゾール化合物、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ルイス酸が挙げられる。
【0088】
アミン系硬化剤としては、例えば、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、オレイルアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,2−ジアミノプロパン、ブチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジプロピレンジアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、グアニジンのような鎖状脂肪族アミン;シクロヘキシルアミン、トリエチレンジアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、1,8−ジアザビシクロ〔5.4.0〕−7−ウンデセン、イソホロンジアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、N−アミノエチルピペラジン、3,3−ジメチル−4,4−ジアミノジシクロヘキシルメタン、メンセンジアミン、4,4−ジアミノジシクロヘキシルメタン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサンのような環状脂肪族アミン;ベンジルアミン、m−キシレンジアミンのような芳香環を含有する脂肪族アミン;
【0089】
m−フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジフェニルグアニジンのような芳香族アミン;
アミンアダクト(ポリアミンエポキシ樹脂アダクト)、ポリアミン−エチレンオキシドアダクト、脂肪族アミンとケトンとの反応物であるケチミン;
ジブチルアミン、ベンジルジメチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、テトラメチルグアニジン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ピペリジン、ピリジンのような第二級アミンまたは第三級アミン;
これらのアミン化合物のカルボン酸塩;
ダイマー酸とジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンのようなポリアミンとを反応させてなるポリアミドアミン;
ベンジルトリエチルアンモニウムアセタートのような第四級アンモニウム塩が挙げられる。
【0090】
酸または酸無水物系硬化剤としては、例えば、アジピン酸、アゼライン酸、デカンジカルボン酸のようなポリカルボン酸;
無水フタル酸、無水トリメリット酸、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、グリセロールトリス(アンドロトリメリテート)、無水ピロメリット酸、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物のような芳香族酸無水物;
無水マレイン酸、無水コハク酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸のような環状脂肪族酸無水物;
ポリアジピン酸無水物、ポリアゼライン酸無水物、ポリセバシン酸無水物、ドデセニル無水コハク酸、ポリ(エチルオクタデカン二酸)無水物のような脂肪族酸無水物;
テトラブロム無水フタル酸、無水ヘット酸のようなハロゲン化酸無水物が挙げられる。
【0091】
ポリメルカプタン系硬化剤としては、例えば、ペンタエリスリトールテトラチオグリコレート、ジペンタエリスリトールヘキサチオグリコレートのようなチオグリコール酸のエステル;末端にメルカプト基を有するポリスルフィドゴムのようなメルカプト基を有する化合物が挙げられる。
ジシアンジアミド類としては、例えば、ジシアンジアミド、ジシアンジアミドと芳香族アミンとの反応付加物が挙げられる。
イミダゾール化合物としては、例えば、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾールが挙げられる。
フェノール樹脂としては、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、フェノールポリマーが挙げられる。
ルイス酸としては、例えば、BF3モノエチルアミン、BF3ピペラジンが挙げられる。
【0092】
なかでも、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン、3,3′−ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジフェニルメタン、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、イミダゾール化合物、ノボラック型フェノール樹脂、BF3モノエチルアミンが好ましく、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン、3,3′−ジアミノジフェニルスルホンがより好ましい。
【0093】
これらの硬化剤は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。上記硬化剤の量は、エポキシ樹脂1当量に対して、0.4〜1.5当量であるのが好ましく、0.8〜1.2当量であるのがより好ましい。
共役ジエン化合物とジエノフィル化合物とは、例えば加熱しない限り硬化しないため、取り扱いが非常に容易である。
また、硬化性組成物に含有される共役ジエン化合物および熱硬化性樹脂が室温で液体である場合、共役ジエン化合物と熱硬化性樹脂とは混合しやすいので作業上好ましい。
【0094】
本発明の硬化性組成物は、上述の各成分に加え、本発明の目的を損なわない範囲で、例えば、種々の充填剤、可塑剤、硬化触媒、脱水剤、軟化剤、安定剤、着色剤、難燃剤、補強剤、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、染料、顔料のような添加剤を配合することができる。
【0095】
本発明の硬化性組成物は、その製法について、特に限定されない。例えば、共役ジエン化合物およびジエノフィル化合物以外に、熱硬化性樹脂、硬化剤、添加剤を使用して、これらを、例えば、ロール、ニーダー、押出し機、万能かくはん機により混合する方法が挙げられる。
【0096】
本発明の硬化性組成物は、1液型の硬化性組成物として、または、熱硬化性樹脂を含む主剤と、硬化剤とからなる2液型硬化性組成物として使用することができる。2液型硬化性組成物として使用する場合、共役ジエン化合物、ジエノフィル化合物は、主剤および硬化剤のいずれにも添加することができる。
【0097】
本発明の硬化性組成物は、通常の熱硬化性樹脂の硬化反応に用いられる条件で硬化させることができる。反応温度は、好ましくは室温〜250℃、より好ましくは120〜180℃である。反応の圧力は、通常常圧下である。硬化性組成物が熱硬化性樹脂を含有する場合、湿気または硬化剤の存在下で行うことが好ましい。
【0098】
本発明の硬化性組成物は、熱によって硬化し硬化物を生成することができる。
本発明の硬化性組成物が加熱されると、共役ジエン化合物とジエノフィル化合物とが、ディールス−アルダー反応し、共役ジエン化合物とジエノフィル化合物との間に結合が形成され硬化し、硬化物を生成する。生成した硬化物は、鎖状構造または三次元構造を有する。例えば、1つの共役ジエン化合物に含有される共役ジエンが2個であり、1つのジエノフィル化合物に含有されるジエンが2個である場合、生成する硬化物は鎖状構造となる。また、1つの共役ジエン化合物に含有される共役ジエンが3個以上であり、1つのジエノフィル化合物に含有されるジエンが2個以上である場合、および、1つの共役ジエン化合物に含有される共役ジエンが2個以上であり、1つのジエノフィル化合物に含有されるジエンが3個以上である場合、生成する硬化物は三次元構造となる。
本発明の硬化性組成物が、さらに熱硬化性樹脂を含有する場合、当該硬化性組成物を湿気または硬化剤の存在下で加熱すると、共役ジエン化合物とジエノフィル化合物とがディールス−アルダー反応し、共役ジエン化合物とジエノフィル化合物との間に結合が形成され、さらに、熱硬化性樹脂が硬化反応して、硬化物を生成する。熱硬化性樹脂が硬化して得られる樹脂は熱硬化性樹脂の官能基の数によって鎖状構造または三次元構造となる。このように本発明の硬化性組成物がさらに熱硬化性樹脂を含有する場合、得られる硬化物は、ディールス−アルダー反応によって得られる鎖状構造または三次元構造(以下、「ディールス−アルダー反応による構造」ということがある。)と、熱硬化性樹脂が硬化反応することによって得られる熱硬化性樹脂の鎖状構造または三次元構造(以下、「熱硬化性樹脂の硬化反応による構造」ということがある。)とを有する。
そして、本発明の硬化性組成物による硬化物は、硬化性組成物が熱硬化性樹脂を含有する場合、硬化後、加熱されても、本発明の硬化性組成物が本発明の共役ジエン化合物を含有することによって、共役ジエン化合物とジエノフィル化合物との間に形成された結合は解離しない。
【0099】
このように、上記の硬化物の共役ジエン化合物とジエノフィル化合物との間に形成された結合は、一般的に、熱硬化性樹脂が分解する200℃を超える温度でも解離しないので、ディールスアルダー反応による構造は強固であると言える。
このことから、本発明の硬化性組成物が熱硬化性樹脂を含有し、かつ、熱硬化性樹脂に対する共役ジエン化合物およびジエノフィル化合物の割合が低い場合であっても、ディールス−アルダー反応による構造は、硬化物内で、言うなれば骨組みの役割を担い、その結果、硬化物の弾性率を優れたものにしていると考えられる。
なお、本発明の硬化性組成物による硬化物について上記のようなメカニズムは本発明者の推測であり、仮にメカニズムが上記のものとは別であっても本発明の範囲内である。
【0100】
本発明の硬化性組成物から得られる硬化物は、弾性率が高く、曲げ強度や圧縮強度に優れる。
本発明の硬化性組成物は、非常に広い範囲に用いることができる。具体的な用途としては、例えば、繊維強化複合材料用マトリクス樹脂、プリプレグ、接着剤(例えば、土木建築用、コンクリート用、木材用、金属用、ガラス用、プラスチック用)、シーラント、防水剤、塗料、発泡体、ホットメルト用材料(例えば、ホットメルト接着剤、ホットメルト塗料)が挙げられる。中でも繊維強化複合材料用マトリクス樹脂、プリプレグが好ましい。
【実施例】
【0101】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。硬化物の物性は、下記の方法により評価した。
【0102】
(弾性率の評価)
下記の実施例および比較例で合成した硬化物について、DMA法により、各硬化物(長さ32mm×幅12mm×厚さ1mmの短冊状試験体として)のG′(貯蔵弾性率)を測定した。G′(貯蔵弾性率)の測定は、測定装置としてARES(TA−instruments社製)を用いた。測定条件は、トーションモード、歪み0.01%、振動数1ヘルツ、測定温度40℃、加熱速度5℃/minであった。結果を第3表に示す。
【0103】
1.実施例1
テトラエトキシシラン(信越化学工業社製)4.56g(21.9ミリモル)と2−チオフェンメタノール(関東化学社製)10g(87.6ミリモル)に塩基性触媒である1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(DBU、関東化学社製)0.3g(1.97ミリモル)を加え、減圧下で加熱し、60℃で3時間反応させた。反応後、H−NMR分析によりエトキシ基が略完全に消失していることを確認し、式(8)で表される共役ジエン化合物を略定量的に得た。以下、式(8)で表される共役ジエン化合物を「共役ジエン1」という。共役ジエン1は室温で液体であった。
【0104】
2.実施例2
共役ジエン1(1.0g、2.08ミリモル)と4,4′−ビスマレイミドジフェニルメタン1.49g(4.16ミリモル)(ケーアイ化成社製、BDM−S、以下同様)とを混合した後、180℃で2時間反応させた。その結果、硬化物が得られた。
【0105】
3.実施例3
共役ジエン1(1.0g、2.08ミリモル)と、4,4′−ビスマレイミドジフェニルメタン1.49g(4.16ミリモル)と、さらにビスフェノールA型エポキシ樹脂7.9g(エポキシ当量として41.6ミリモル、東都化成社製、YD−128、以下同様)と4,4′−ジアミノジフェニルスルホン2.58g(10.4ミリモル、和歌山精化工業社製、以下同様)とを混合した後、180℃で2時間反応させた。その結果、硬化物が得られた。以下、実施例3で得られた硬化物を「硬化物1」という。
【0106】
4.実施例4
共役ジエン1(0.6g、1.24ミリモル)と、4,4′−ビスマレイミドジフェニルメタン0.894g(2.49ミリモル)と、さらにN,N,N′,N′−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン12.9g(エポキシ当量として0.115モル)(TGDDM、HUNTSMAN社製、MY−721、以下同様)と、トリグリシジル−p−アミノフェノール7.1g(エポキシ当量として67.6ミリモル)(HUNTSMAN社製、MY−0500、以下同様)と、3,3′−ジアミノジフェニルスルホン6.44g(25.9ミリモル、小西化学工業社製、以下同様)とを混合した後、180℃で2時間反応させた。その結果、硬化物が得られた。以下、実施例4で得られた硬化物を「硬化物2」という。
【0107】
5.比較例1
ビスフェノールA型エポキシ樹脂9.12g(24.0ミリモル)と4,4′−ジアミノジフェニルスルホン2.98g(12.0ミリモル)とを混合した後、180℃で2時間反応させた。その結果、硬化物が得られた。以下、比較例1で得られた硬化物を「硬化物3」という。
【0108】
6.比較例2
N,N,N′,N′−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(TGDDM)12.9g(エポキシ当量として0.115モル)と、トリグリシジル−p−アミノフェノール7.1g(エポキシ当量として67.6ミリモル)と、3,3′−ジアミノジフェニルスルホン6.44g(25.9ミリモル)とを混合した後、180℃で2時間反応させた。その結果、硬化物が得られた。以下、比較例2で得られた硬化物を「硬化物4」という。
【0109】
【表6】

【0110】
第3表から明らかなように、硬化物1のG′(貯蔵弾性率)は硬化物3に比較して高く、硬化物2のG′(貯蔵弾性率)は硬化物4に比較して高いことが判明した。本発明の硬化性組成物は、室温付近でのG′(貯蔵弾性率)が高い硬化物を形成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子中に1個のケイ素原子と2個以上のアルコキシ基とを有するアルコキシシラン化合物と、1分子中に少なくとも1個のチエニル基を有するアルコールとの反応により得られる共役ジエン化合物。
【請求項2】
下記式(1)で表される共役ジエン化合物。
SiR1n(OR24-n (1)
(式中、R1は、それぞれ独立に、水素原子が熱硬化性樹脂と反応する官能基で置換されていてもよいアルキル基を表す。R2は、それぞれ独立に、少なくとも1個のチエニル基で置換された1価の炭化水素基を表す。nは、0〜2の整数である。)
【請求項3】
請求項1または2に記載の共役ジエン化合物と、1分子中に2個以上のジエノフィル構造を有するジエノフィル化合物とを含有する硬化性組成物。
【請求項4】
さらに、熱硬化性樹脂を含有する請求項3に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂であり、さらに、硬化剤を含有する請求項4に記載の硬化性組成物。

【公開番号】特開2006−193478(P2006−193478A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−7251(P2005−7251)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】