説明

磁性体含有熱硬化性樹脂組成物,およびそれを用いた接着シート並びに接着剤付き銅箔

【課題】 耐熱性、接着性にすぐれ、回路内部から輻射される電磁波を吸収することができ、あらかじめシート状に加工しておくことが可能な磁性体含有熱硬化性樹脂組成物および磁性体含有熱硬化性樹脂組成物をシート状にした接着剤シート並びに接着剤つき銅箔を提供する。
【解決の手段】 二官能エポキシ樹脂と二官能フェノール類とをエポキシ基/フェノール水酸基=1/(0.9〜1.1)の当量比で重合させて得られる直鎖状エポキシ重合体に、軟磁性体を配合することを特徴とする磁性体含有熱硬化性樹脂組成物およびそれをシート状にした接着剤シート並びに接着剤つき銅箔。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,印刷回路基板内から発生する,放射ノイズの低減に寄与することができる,磁性体含有熱硬化性樹脂組成物および磁性体含有熱硬化性樹脂組成物をシート状にした接着剤シート並びに接着剤つき銅箔に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の,特にモバイル機器に代表される電子機器は,小型化,薄型化の一途をたどっており,表面に実装する部品の間隔も狭くなり,更に,ライン/スペースも間隙も狭小化が進んでいる。また,作動する周波数帯も,年々高周波化している。
【0003】
その中で,基板内部からの放射ノイズ,および実装した部品等から発生するノイズの処理が大きな問題となってきている。
【0004】
これを解決するために,従来から,薄い金属箔に接着層を付けた磁性体シートを使用し,放射ノイズを低減していた。
【0005】
しかしながら,一般にノイズ遮蔽効果は,距離の4乗に反比例すると言われており,金属シートと基板の間に接着層が介在するこの方法では,金属シートの効果を十分に発揮することができないという問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開平11−163579号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は,軟磁性体を高充填させた熱硬化性樹脂組成物を用いることにより,ノイズ発生源に直接貼り付けることにより,磁性材料が持っている磁性損失能を利用して,遮蔽効果を最大限に発揮することを目的とする。
【0008】
このような用途では,たとえば,特許文献1のように電子機器の筐体表面または内部に磁性体含有シートを設けたものがあるが,やはり,ノイズ発生源となる基板からの距離が遠いため,その効果を最大限に発揮することはできない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は次の発明に関する。
<1> 二官能エポキシ樹脂と二官能フェノール類とをエポキシ基/フェノール水酸基=1/(0.9〜1.1)の当量比で重合させて得られる直鎖状エポキシ重合体に、軟磁性体を配合することを特徴とする磁性体含有熱硬化性樹脂組成物。
<2> 直鎖状エポキシ重合体が数平均分子量70,000以上であることを特徴とする<1>記載の磁性体含有熱硬化性樹脂組成物。
<3> 軟磁性体がNi-Zn系フェライトであることを特徴とする<1>〜<2>に記載の磁性体含有熱硬化性樹脂組成物。
<4> 軟磁性体が,カップリング剤で処理されており,かつ平均粒子径が0.1〜30μmであることを特徴とする<1>〜<3>のいずれかに記載の磁性体含有熱硬化性樹脂組成物。
<5> <1>〜<4>のいずれかに記載の磁性体含有熱硬化性樹脂組成物をシート状にした接着剤シート。
<6> <1>〜<4>のいずれかに記載の磁性体含有熱硬化性樹脂組成物を用いた接着剤つき銅箔。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、耐熱性、接着性にすぐれ、回路内部から輻射される電磁波を吸収することができる。低温で接着が可能であり、あらかじめシート状に加工しておくことが可能である。さらに、溶剤に可溶であるため、あらかじめ披着体に塗布して、他の披着体と接着させることもできる。
また、本発明の接着剤つき金属はくは、あらかじめドリルなどで穴を開けておいた後で多層化接着することにより簡便にIVHを作製できるため、IVHを有する多層回路基板などの製造に好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、二官能エポキシ樹脂と二官能フェノール類とをエポキシ基/フェノール水酸基=1/(0.9〜1.1)の当量比で重合させて得られる直鎖状エポキシ重合体に、(a)多官能エポキシ樹脂、及び(b)軟磁性体を配合して成る熱硬化性樹脂組成物を提供するものである。
【0012】
本発明で用いる直鎖状エポキシ重合体は、二官能エポキシ樹脂と二官能フェノール類の配合当量比をエポキシ基/フェノール水酸基=1/(0.9〜1.1)とし、触媒の存在下、沸点が130℃以上のアミド系溶媒中、反応固形分濃度5〜50重量%で、加熱して重合させることにより得られる。
【0013】
二官能エポキシ樹脂は、分子内に二個のエポキシ基を持つ化合物であればどのようなものでもよく、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂、二官能フェノール類のジグリシジルエーテル化物、二官能アルコール類のジグリシジルエーテル化物、これらのハロゲン化物これらの水素添加物などがある。これらの化合物の分子量に制限はない。また、これらの化合物を何種類か併用することができる。二官能エポキシ樹脂以外の成分が、不純物として含まれていてもかまわない。
【0014】
二官能フェノール類は、二個のフェノール性水酸基を持つ化合物であればどのようなものでもよく、例えば、単環二官能フェノールであるビスフェノールA、ビスフェノールF及びこれらのハロゲン化物、アルキル置換体等がある。これらの化合物の分子量にも制限はない。二官能エポキシ樹脂と同様に、これらの化合物を、何種類かを併用して用いることができる。また、二官能フェノール以外の成分が不純物として含まれていてもかまわない。
【0015】
二官能エポキシ樹脂と二官能フェノール樹脂とを重合させるための触媒は、エポキシ基とフェノール性水酸基のエーテル化反応を促進させるような触媒機能を持つ化合物であればどのようなものでもよく、例えばアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、イミダゾール類、有機リン化合物、第二級アミン、第三級アミン、第四級アンモニウム塩等が挙げられる。アルカリ金属化合物の例としては、ナトリウム、リチウム又はカリウムの、水酸化物、ハロゲン化物、有機酸塩、アルコラート、フェノラート、水素化物、ホウ水素化物、アミドなどが挙げられる。これらの触媒は併用することができる。
【0016】
アミド系溶媒は、原料となる二官能エポキシ樹脂と二官能フェノール類を溶解するものであればよく、例えば、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N,N’,N’テトラメチル尿素、2−ピロリドン、N−メチルピロリドン、カルバミド酸エステルなどがある。これらの溶媒は併用することができる。
【0017】
二官能エポキシ樹脂と二官能フェノール類の配合当量比は、エポキシ基/フェノール性水酸基=1/(0.9〜1.1)とする。フェノール性水酸基の当量が0.9当量より小さいと、直鎖状に高分子化せず、副反応がおきて架橋し、樹脂が不溶になる。フェノール性水酸基の当量が1.1当量より大きいと、樹脂の高分子化が進まない。
【0018】
触媒の配合量は特に制限しないが、一般には、二官能エポキシ樹脂1モルに対して触媒が0.0001〜0.2モル程度である。触媒の配合量が、二官能エポキシ樹脂1モルに対し、0.0001モルより少ないと、高分子量化反応が著しく遅く、0.2モルより多いと副反応が多くなり直鎖状に高分子量化しないことがある。
【0019】
アミド系溶媒を用いた重合反応の際の固形分濃度は50%(重量%、以下同じ)以下であればよいが、好ましくは10〜30%がよい。高濃度になるに従って副反応が多くなり、直鎖状に高分子量化しにくくなる。10%より低い濃度では、反応が遅く高分子量化させるのが困難である。従って、比較的高濃度で重合反応を行い、しかも直鎖状の高分子量エポキシ重合体を得ようとする場合には、反応温度を低くし、触媒量を少なくすればよい。高分子量エポキシ重合体の分子量は、樹脂単独でフィルム形成可能であり、シート状の接着剤がえられる分子量であれば問題ない。その様な分子量はおおおよそ70,000以上である。更に好ましくは、100,000以上である。なお、高分子量エポキシ重合体の分子量の上限は特に限定されない。しかしながら、実際は1,500,000以上では正確な分子量の測定は困難であり、高粘度となるためにワニスとしての取扱いが難しくなる。
【0020】
高分子エポキシ重合体に配合する多官能エポキシ樹脂としては、エポキシ基を1分子当り平均2個以上有するエポキシ化合物、すなわち、ビスフェノール系エポキシ樹脂、ハロゲン化ビスフェノール系エポキシ樹脂、ビスフェノールノボラック系エポキシ樹脂、ハロゲン化ビスフェノールノボラック系エポキシ樹脂、アルキルフェノールノボラック系エポキシ樹脂、ポリフェノール系エポキシ樹脂、ポリグリコール系エポキシ樹脂、環状脂肪族系エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは、単独又は二種以上混合して用いられる。
【0021】
本発明に用いる軟磁性体は,Ni,Zn系や,Mn,Zn系のような軟磁性フェライトを使用することができる。中でも,絶縁性が必須となる電子機器用途での使用を考慮すると,Ni・Zn系フェライトを選択するのが好ましい。
【0022】
使用する磁性体の粒度分布は,その平均粒子径が0.1〜30μmのものが好ましい。0.1μm以下では,凝集などによる取り扱いが難しく,30μm以上では,磁性体シートの薄膜化の妨げになる。
【0023】
また,配合する磁性体の量は,15〜75vol%の範囲が好ましい。15vol%未満では,電磁波を遮蔽する効果が著しく低下し,75vol%よりも多いと,接着シートの接着性が著しく低下してしまうためである。電磁波の遮蔽性と接着性を両立するためには,30〜65vol%の範囲がより好ましい。
【0024】
さらに,磁性体の分散性をより安定させるために,カップリング剤などで表面処理することもできる。カップリング剤には,シラン系またはチタン系カップリング剤などの一般的なものを使用することができ,また,オリゴマ化したものも使用することができる。
【0025】
上記カップリング剤は,ワニス化する前に,磁性体をあらかじめカップリング処理することもできるし,ワニスの配合中に処理することもできる。
【0026】
このとき配合するカップリング剤の量は,磁性体に対して,0.5〜5.0重量%であることが望ましい。5.0重量%以上加えても,分散に対する効果がそれ以上は見られず,
0.5%以下では,分散性が改善されない。効果を最大限に発揮するためには,1.0〜3.0%の範囲がより好ましい。
【0027】
さらには,磁性体の分散性をよりよくするために,混練することも有効な手段である。混練の方法は,らいかい機や,ボールミルやビーズミル,ナノメーカーやナノマイザーなどの一般的な装置を用いることができる。
【0028】
このようにして得られたワニスの粘度は,1,000〜30,000mPa・sの範囲にあることが好ましい。1,000mPa・sより小さいと,塗膜形成能を発現することが出来にくくなり,30,000mPa・s以上になるとワニス中の気泡を除去することが難しくなる他,取り扱いにくくなる。以上のような問題点を考慮すると,ワニスの粘度は,2.000〜10,000の範囲にあることがより好ましい。
【0029】
本発明の磁性体含有樹脂組成物は、あらかじめ好ましくは、0.01〜0.1mmのシート状に成形しておき、シート状接着剤として用いるとよい。また、本発明の樹脂組成物をガラス布、ガラスマット、芳香族ポリアミド繊維布、芳香族ポリアミド繊維マット等にワニスとして含浸し、樹脂を半硬化させて繊維強化型のシート接着剤として用いることもできる。
【0030】
本発明の磁性体含有樹脂組成物をワニスとし、そのまま披着物に塗布、乾燥し、他の披着物と加熱加圧して接着してもよい。この場合、温度100〜250℃、圧力0.1〜10MPaで20分以上加熱加圧するのが好ましい。特に温度150〜200℃、圧力1〜4MPaで60〜120分加熱加圧するのがより好ましい。
【0031】
本発明の磁性体含有樹脂組成物をワニスとし、このワニスを金属箔の片面に塗布し乾燥した接着剤つき金属箔は、IVH(Interstitial Via Hole)を有する多層回路基板などの製造に特に有用である。
【実施例】
【0032】
以下,本発明の実施例およびその比較例によって本発明をさらに具体的に説明するが,本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
実施例1
【0033】
(高分子量エポキシ重合体の合成)
二官能エポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量:177.5)177.5g、二官能フェノール類としてビスフェノールA(水酸基当量:115.5)115.5g、エーテル化触媒として水酸化ナトリウム1.77gをアミド系溶媒であるN,N−ジメチルホルムアミド547.9gに溶解させ、反応系中の固形分濃度を30重量%とした。これを機械的に撹袢しながら、125℃のオイルバス中で反応系中の温度を120℃に保ち、そのまま4時間撹袢した。その結果、粘度が12,800mPa・sで飽和し、反応が終了した。得られた高分子量エポキシ重合体の平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定した結果では、72,500であった。また、この高分子量エポキシ樹脂の希薄溶液の還元粘度は0.770dl/gであった。
【0034】
得られた高分子量エポキシ重合体溶液(30重量%)400gにビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量177.5)50gとフェノールノボラック樹脂(水酸基当量106)50gを溶解させワニスとした。さらに,軟磁性体として,平均粒子径5.8umのNi・Znフェライトをワニスに対して50vol%になるよう投入し,カップリング剤としてウレイドプロピルトリエトキシシラン系(東レダウコーニング:AY43031)を軟磁性体に対し2.0重量%になるように加え,機械的に攪拌し,磁性体配合ワニスを作成した。得られたワニスの粘度は,4,200mPa・sであった。
【0035】
得られたワニスをガラス板状に流延し、100℃で10分間乾燥後、ガラス板から引きはがし、鉄枠に固定し、140℃で15分間乾燥し、厚み50μmのシートを得た。
【0036】
ガラス基材エポキシ両面銅張り積層板(厚み0.2mm、銅はく18μm)の両面に内層回路を形成し、その両面に上記で得られた接着剤シートと厚み18μmの銅はくを配し、180℃、3Mpaで90分間加圧し、4層シールド板を得た。
【0037】
実施例2
実施例1でにおいて,配合する磁性体の量を65vol%にした他は,実施例1と同様の配合でワニスを作製し,実施例1と同様の方法で4層シールド板を得た。
【0038】
実施例3
実施例1において、配合する磁性体の平均粒子径が11.5umのNi・Znフェライトを使用した他は,実施例1と同様の配合でワニスを作成し,実施例1と同様の方法で4層シールド板を得た。
【0039】
実施例4
実施例1において,磁性体の配合量を35vol%とした他は,実施例1と同様の配合でワニスを作成し,実施例1と同様の方法で4層シールド板を得た。
【0040】
比較例1
実施例1において、カップリング剤を使用せずに配合した他は,実施例1と同様の配合でワニスを作成し,実施例1と同様の方法で4層シールド板を得た。
【0041】
比較例2
実施例1において,配合する磁性体の量を80vol%配合した他は,実施例1と同様の配合でワニスを作成し,実施例1と同様の方法で4層シールド板を得た。
【0042】
以上の各実施例及び比較例で得られた4層シールド板について、JIS C6481に従い、誘電特性を調べた。また、外層銅はくをエッチングし、外層銅はく引きはがし強さ(kN/m)及び260℃のはんだ浴に30秒浮かべた後の外観の変化を調べた。
また,電磁シールド性について測定した。電磁波シールド性は、同軸導波管変換器(日本高周波株式会社製、TWC−S−024)のフランジ間に試料を挿入し、スペクトラムアナライザー(YHP製、8510Bベクトルネットワークアナライザー)を用い、周波数30MHz〜1GHzで測定した。さらに,得られた4層シールド板の断面をSEM観察し,磁性体の凝集の有無について確認した。
【0043】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
二官能エポキシ樹脂と二官能フェノール類とをエポキシ基/フェノール水酸基=1/(0.9〜1.1)の当量比で重合させて得られる直鎖状エポキシ重合体に、軟磁性体を配合することを特徴とする磁性体含有熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
直鎖状エポキシ重合体が数平均分子量70,000以上であることを特徴とする請求項1記載の磁性体含有熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
軟磁性体がNi-Zn系フェライトであることを特徴とする請求項1〜2に記載の磁性体含有熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
軟磁性体が,カップリング剤で処理されており,かつ平均粒子径が0.1〜30μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の磁性体含有熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の磁性体含有熱硬化性樹脂組成物をシート状にした接着剤シート。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の磁性体含有熱硬化性樹脂組成物を用いた接着剤つき銅箔。


【公開番号】特開2006−1998(P2006−1998A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−178189(P2004−178189)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】