説明

磁性層の形成方法及び磁気記録媒体と磁気記録再生装置

【課題】反応性スパッタリングを行う際に、酸素ラジカル濃度分布の均一性を高め、磁性層中に取り込まれる酸素濃度を面方向において一様とし、磁気特性、記録再生特性が安定した磁性層の形成方法を提供する。
【解決手段】反応性スパッタリングにより形成する磁性層の形成方法であって、反応容器内に、基板を配置するとともに、スパッタ電極と、該スパッタ電極の表面に配設された酸化物以外のクロムを含むターゲットとからなる電極ユニットを、一対、それぞれ前記ターゲットを前記基板側にして、前記基板の両面と対向するように配置し、アルゴン及び水を含む混合ガスを、前記一対の電極ユニットの各前記基板側の表面付近に供給し、前記ターゲットに含まれる酸化物以外のクロムを、反応性スパッタリングにより、グラニュラ構造を有する磁性層に含まれる酸化クロムとして形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応性スパッタリングによる磁性層の形成方法に関し、さらに詳しくはハードディスクドライブ等で用いられる垂直磁気記録媒体の磁性層の形成方法及び磁気記録媒体と磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気ディスク装置、可撓性ディスク装置、磁気テープ装置等の磁気記録装置の適用範囲は著しく増大され、その重要性が増すと共に、これらの装置に用いられる磁気記録媒体について、その記録密度の著しい向上が図られつつある。特にHDD(ハードディスクドライブ)では、MRヘッド、及びPRML技術の導入以来、面記録密度の上昇はさらに激しさを増し、近年ではさらにGMRヘッド、TuMRヘッドなども導入され1年に約100%ものペースで増加を続けている。
【0003】
一方、HDDの磁気記録方式として、いわゆる垂直磁気記録方式が従来の面内磁気記録方式(磁化方向が基板面に平行な記録方式)に代わる技術として近年急速に利用が広まっている。
垂直磁気記録方式では、情報を記録する記録層の結晶粒子が基板に対して垂直方向に磁化容易軸をもっている。この磁化容易軸とは、磁化の向きやすい方向を意味し、一般的に用いられているCo合金の場合、Coのhcp構造の(0001)面の法線に平行な軸(c軸)である。
垂直磁気記録方式は、このように磁性結晶粒子の磁化容易軸が垂直方向であることにより、高記録密度が進んだ際にも、記録ビット間の反磁界の影響が小さく、静磁気的にも安定という特徴がある。
【0004】
垂直磁気記録媒体は、非磁性基板上に下地層、中間層(配向制御層)、磁気記録層、保護層の順に成膜されるのが一般的である。また、保護層まで成膜した上で、表面に潤滑層を塗布する場合が多い。
また、多くの場合、軟磁性裏打ち層とよばれる磁性膜が下地層の下に設けられる。下地層や中間層は磁気記録層の特性をより高める目的で形成される。具体的には、磁気記録層の結晶配向を整えると同時に磁性結晶の形状を制御する働きがある。
【0005】
垂直磁気記録媒体の高記録密度化には、熱安定性を保ちながら低ノイズ化を実現する必要がある。ノイズを低減するための方法としては、一般的に2つの方法が用いられる。1つ目は記録層の磁性結晶粒子を磁気的に分離、孤立化させることで、磁性結晶粒子間の磁気的相互作用を低減する方法で、2つ目は磁性結晶粒子の大きさを小さくする方法である。具体的には、例えば、記録層にSiO等を添加し、磁性結晶粒子がSiO等を多く含む粒界領域に取り囲まれた、いわゆるグラニュラ構造を有する垂直磁気記録層を形成する方法がある(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
そして、グラニュラ構造を有する垂直磁気記録層を形成する方法として、非特許文献1には、CoCrPt合金とSiOを含有する複合型ターゲットを用い、アルゴン酸素混合ガス雰囲気中でDCマグネトロンスパッタによりグラニュラ構造を有する記録層を形成する方法が開示されている。この文献では、酸素含有雰囲気中で反応性スパッタを行うことにより、保磁力が増加するとともに記録再生特性が向上することが報告されている。
また、SiOの濃度により最適な酸素分圧が決まり、SiO濃度が低いほど最適酸素分圧が高くなること、酸素濃度が最適値を超えて過剰な状態になると磁気特性や記録再生特性が大幅に劣化することが報告されている。
【0007】
さらに特許文献2には、スパッタガスと反応性ガスを真空室内に導入して反応性スパッタリングによる成膜を行うとき、ターゲットの表面に沿って流れる反応性ガスの濃度を均一にして、反応性ガスとターゲットの反応の均一化を高め、膜厚、膜質、膜特性を均一化できるスパッタリング装置が開示されている。この装置は、少なくとも1つのターゲットを備えたカソードを基板に対向させ、反応性スパッタリングに基づいてターゲットをスパッタして基板に膜を堆積させるスパッタリング装置において、反応性ガス供給装置から供給される反応性ガスをカソードユニットの中央部からターゲットの表面に沿って外方へ流す中央ガス導入機構を設けるように構成されている。
【特許文献1】特開2002−342908号公報
【特許文献2】特開2004−346406号公報
【非特許文献1】IEEE Transactions on Magnetics, Vol.40, No.4, July 2004, pp. 2498-2500
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、酸素含有雰囲気中で反応性スパッタリングを行う場合、スパッタチャンバ内の酸素ラジカル濃度分布の不均一性に起因して、磁性層中に取り込まれる酸素濃度がディスク上の位置により変化する現象が見られる。これにより、ディスク全面に亘って、一様な磁気特性、記録再生特性を得ることを非常に難しくなるという不都合が生じている。
【0009】
この不都合を解消する方法として、特許文献2には、反応性ガスをカソードユニットの中央部からターゲットの表面に沿って外方へ流す方法が記載されている。
しかし、この方法では、反応性ガスそのものは基板表面に均一に供給されるものの、ガスの流れにより基板の表面付近に形成されるプラズマ空間が、下流側に流されて不安定となる。
また、この方法では、基板とプラズマとの間にガスが流れ込み、その箇所に非プラズマ空間が形成されてしまう。この非プラズマ空間は、プラズマ空間から基板表面に飛来する酸素ラジカルを死滅させ、反応性スパッタによる成膜速度低下させると共に、基板表面に析出する磁性膜の不均一性、不均一な膜厚分布を生じさせるという不都合があった。
【0010】
このような背景の下、酸素含有雰囲気中で反応性スパッタリングを行う際に、酸素ラジカル濃度分布が均一となる磁性層の形成方法が要望されていたが、有効適切なものが提供されていないのが実情である。
【0011】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、反応性スパッタリングを行う際に、酸素ラジカル濃度分布の均一性を高め、磁性層中に取り込まれる酸素濃度を面方向において一様とし、磁気特性、記録再生特性が安定した磁性層の形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供している。
(1)基板の両面に、少なくともコバルト、クロムを含有し、グラニュラ構造を有する磁性層を反応性スパッタリングにより形成する磁気記録媒体用の磁性層の形成方法であって、 反応容器内に、前記基板を配置するとともに、スパッタ電極と、該スパッタ電極の表面に配設された酸化物以外のクロムを含むターゲットとからなる電極ユニットを、一対、それぞれ前記ターゲットを前記基板側にして、前記基板の両面と対向するように配置し、アルゴン及び水を含む混合ガスを、前記一対の電極ユニットの各前記基板側の表面付近に供給し、前記ターゲットに含まれる酸化物以外のクロムを、反応性スパッタリングにより、グラニュラ構造を有する磁性層に含まれる酸化クロムとして形成することを特徴とする磁性層の形成方法。
(2)前記ターゲットが酸化コバルトを含み、該酸化コバルトを、反応性スパッタリングにより、グラニュラ構造を有する磁性層の磁性粒子を構成するコバルトとして形成することを特徴とする(1)に記載の磁性層の形成方法。
(3)アルゴン及び水を含む混合ガスを、前記一対の電極ユニットの各前記基板側の表面付近に、外周部から中央部に向けて流れるように供給するとともに、反応後に生じる排ガスを、前記反応容器の縦方向における両端部から排気しながら反応性スパッタリングによって磁性層を形成することを特徴とする(1)または(2)に記載の磁性層の形成方法。
(4)前記磁性層を基板の表面に対して垂直方向の磁気異方性を有する垂直磁性層とすることを特徴とする(1)ないし(3)のいずれかに記載の磁性層の形成方法。
(5)前記磁性層は、グラニュラ構造を形成する粒界構成物質として、酸化クロムの他に、Si酸化物、Ti酸化物、W酸化物、Co酸化物、Ta酸化物及びRu酸化物のいずれか1種以上を含むことを特徴とする(1)ないし(4)のいずれかに記載の磁性層の形成方法。
(6)前記磁性層の膜厚が、1nm〜15nmの範囲内であることを特徴とする(1)ないし(5)のいずれかに記載の磁性層の形成方法。
(7)前記磁性層が、酸化物を3モル%〜15モル%の範囲内で含むことを特徴とする(1)ないし(6)のいずれかに記載の磁性層の形成方法。
(8)前記基板は、磁気記録媒体で用いられる円盤状基板であり、グラニュラ構造の前記磁性層は、磁気記録媒体の磁気記録層であることを特徴とする(1)ないし(7)のいずれかに記載の磁性層の形成方法。
(9)環状をなし、その内周壁に複数のガス放出口が円周に沿って設けられたガス流入管を、前記一対の電極ユニットの前記基板側に配し、前記混合ガスを、前記ガス流入管に導入し、前記各ガス放出口から放出させることにより、前記混合ガスを、前記一対の電極ユニットの各前記基板側の表面付近に、外周部から中央部に向けて流れるように供給することを特徴とする(1)ないし(8)のいずれかに記載の磁性層の形成方法。
(10)前記排ガスを排気する排気手段は、ターボ分子ポンプを備えることを特徴とする(1)ないし(9)のいずれかに記載の磁性層の形成方法。
(11)前記排ガスを排気する排気手段は、クライオポンプを備えることを特徴とする(1)ないし(10)のいずれかに記載の磁性層の形成方法。
(12)前記排ガスを前記反応容器の縦方向における一端部から排気する第1の排気手段と、他端部から排気する第2の排気手段とを有し、少なくともいずれかの排気手段が2台の真空ポンプを備える構成の装置を用いることを特徴とする(1)ないし(11)のいずれかに記載の磁性層の形成方法。
(13)前記一対の電極ユニットを複数組用い、複数の基板の両面に、並行して磁性層を形成することを特徴とする(1)ないし(12)のいずれかに記載の磁性層の形成方法。
(14)(1)ないし(13)のいずれかの形成方法により得られた磁性層を備えたことを特徴とする磁気記録媒体。
(15)磁気記録媒体と当該磁気記録媒体に情報を記録再生する磁気ヘッドとを備えた磁気記録再生装置であって、前記磁気記録媒体が、(14)に記載の磁気記録媒体であることを特徴とする磁気記録再生装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、水を含む混合ガスを用いて反応性スパッタリングを行っている。その結果、この反応性スパッタリングにより、水が酸素ラジカル及び水素ラジカルに分解されることとなり、反応領域におけるラジカル濃度分布の均一性が高まる。
また、酸素ラジカルが、ターゲットに含まれる酸化物以外のクロムと反応し、酸化クロムとしてグラニュラ構造の磁性層を形成する。すなわち、クロムが酸素を取り込んで磁性層を形成することとなるので、磁性層中の酸素濃度が面内において一様となる。
また、水素ラジカルの還元作用により、磁性粒子が酸化するのを防ぐことができる。
これらにより、磁気特性、記録再生特性が安定した磁性層が得られる。
また、アルゴンに水を加えた混合ガスを用いることで、混合ガス中のアルゴンの量が相対的に減ることとなる。この結果、磁性層の硬度が高まり、磁気記録媒体の耐スクラッチ性が向上する。
【0014】
また、本発明では、ターゲットに含まれる酸化コバルトを水素ラジカルによって還元して、コバルトとしてグラニュラ構造を有する磁性層の磁性粒子とするので、磁性粒子が酸化するのを防ぐことができ、磁気特性、記録再生特性が安定した磁性層が得られる。
【0015】
また、本発明では、混合ガスを、一対の電極ユニットの表面付近に、外周部から中央部に向かって流れるように供給するため、混合ガスの流れが、これと逆方向の混合ガスの流れによって打ち消される。このため、混合ガスの流れによって、ターゲット付近に形成されるプラズマがかく乱されることが抑えられ、ターゲット付近に形成されるプラズマ空間が安定する。これにより、基板側に酸素ラジカルを確実に到達させることができる。
また、反応後のガスを、反応容器の両端部から排気するため、排気されるガスの流れにより、プラズマが特定方向に流されることが少ない。これにより、被成膜基板とプラズマとの間にガスが流れ込み、その箇所に非プラズマ空間が形成されることが抑えられる。
加えて、本願発明の成膜方法は、水を含む混合ガスの供給と排気が円滑に行えるため、真空装置のベースプレッシャーを悪化させるため従来は導入することが困難であった水を積極的に添加することが可能となった。
これらのことから、反応性スパッタリングによる成膜速度が高まり、また、基板表面に析出する磁性層の均一性が高まり、磁気特性、記録再生特性が安定した磁性層が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態である磁性層の形成方法について、図面を参照して詳細に説明する。
まず、本発明で形成される磁性層を有する垂直磁気記録媒体の一例について説明する。
図1は、本発明で形成される磁性層を有する垂直磁気記録媒体を示す縦断面図である。
図1に示す形態の垂直磁気記録媒体1は、非磁性基板2の両面に、それぞれ、少なくとも軟磁性裏打ち層3、その直上の膜の配向性を制御する配向制御層4及び下地層5、磁気記録層(磁性層)6、保護層7、潤滑層8が順に積層された構造を有する。磁気記録層6は、少なくともCoとCrを含むグラニュラ構造を有する垂直磁気記録層である。
【0017】
この垂直磁気記録媒体1に使用される非磁性基板2としては、Alを主成分とした例えばAl−Mg合金等のAl合金基板や、通常のソーダガラス、アルミノシリケート系ガラス、アモルファスガラス類、シリコン、チタン、セラミックス、サファイア、石英、各種樹脂からなる基板など、非磁性基板であれば任意のものを用いることができる。
中でもAl合金基板や結晶化ガラス、アモルファスガラス等のガラス製基板を用いられることが多い。
ガラス基板の場合、鏡面研磨を施した基板や、表面粗さ(Ra)<1(Å)のような低Ra基板などが好ましい。
また、非磁性基板2には、軽度であれば、スクラッチが入っていても構わない。
【0018】
垂直磁気記録媒体1の製造工程においては、まず非磁性基板2の洗浄・乾燥が行われるのが通常であり、本発明においても各層との密着性を確保する見地から、非磁性基板2には、その各層の形成前に洗浄、乾燥が行われていることが望ましい。洗浄については、水洗浄だけでなく、エッチング(逆スパッタ)による洗浄も含まれる。
また、非磁性基板2のサイズは、特に限定されず、用途に応じて適宜決定される。
【0019】
軟磁性裏打ち層3は、媒体に信号を記録する際、ヘッドからの記録磁界を導き、磁気記録層6に対して記録磁界の垂直成分を効率よく印加する働きをする。
【0020】
軟磁性裏打ち層3の材料としては、FeCo系合金、CoZrNb系合金、CoTaZr系合金など、いわゆる軟磁気特性を有する材料を使用することができる。
軟磁性裏打ち層3は、アモルファス構造であることが特に好ましい。これは、アモルファス構造とすることで、表面粗さ(Ra)が大きくなることを防ぎ、ヘッドの浮上量を低減することが可能となり、さらなる高記録密度化が可能となるためである。
【0021】
また、軟磁性裏打ち層3は、このような軟磁性層の単層構成であってもよいが、2層の軟磁性層の間に、Ruなどの極薄い非磁性薄膜をはさみ、軟磁性層間に反強磁性結合を持たせた構造を用いてもよい。
また、軟磁性裏打ち層3の総膜厚は、通常20(nm)〜120(nm)程度が好ましく、記録再生特性と書き込み特性とのバランスにより適宜決定される
【0022】
本発明では、軟磁性裏打ち層3の上に、磁気記録層6の配向性を制御する配向制御層4を設けることが好ましい。配向制御層4の材料としては、Taやfcc(111)結晶面配向するNi、Ni−Nb、Ni−Ta、Ni−V、Ni−WなどのNi合金が好ましい。
また、軟磁性裏打ち層3がアモルファス構造をとる場合でも、材料や成膜条件によって表面粗さRaが大きくなることがあるため、このような場合には、軟磁性裏打ち層3と配向制御層4との間に非磁性のアモルファス層を成膜することが好ましい。
これにより、磁気記録層6が形成される面の表面粗さRaが下がり、磁気記録層6の配向性を向上させることができる。
【0023】
軟磁性裏打ち層3または配向制御層4の上には、下地層5が設けられる。
下地層5の材料としては、磁気記録層6と同様にhcp構造をとる、RuやRe、またはそれらの合金が好ましい。
なお、前述の中間層(配向制御層4)の働きは、磁気記録層6の配向を制御することにあるので、hcp構造をとらなくても磁気記録層6の配向を制御できる材料であれば用いることができる。
下地層5の総膜厚は、記録再生特性と書き込み特性とのバランスから5(nm)以上20(nm)以下であることが好ましい。
【0024】
この形態の垂直磁気記録媒体1は、少なくとも磁性粒子としてCoとCrとを含み、磁性粒子の粒界部に少なくとも酸化クロムを含むグラニュラ構造を有する垂直磁気記録層6を有する。また磁性粒子にはPtを含有させるのが好ましい。
また粒界部を構成する酸化物としては、Cr酸化物のほかに、Si酸化物、Ti酸化物、W酸化物、Co酸化物、Ta酸化物及びRu酸化物のいずれか1種以上を含むものが好ましい。これらの酸化物を添加した強磁性材料としては、例えばCoCrPt−Cr酸化物−Si酸化物、CoCrPt−Cr酸化物−Ti酸化物、CoCrPt−Cr酸化物−W酸化物、CoCrPt−Cr酸化物−Co酸化物、CoCrPt−Cr酸化物−Ta酸化物、CoCrPt−Cr酸化物−Ru酸化物、CoRuPt−Cr酸化物−Si酸化物、CoCrPtRu−Cr酸化物−Si酸化物などを挙げることができる。
これらの組成においては、主に、CoCrPt合金、CoRuPt合金、CoCrPtRu合金が磁性粒子を構成し、Cr酸化物、Si酸化物、Ti酸化物、W酸化物、Co酸化物、Ta酸化物及びRu酸化物が粒界部を構成する。また、磁性粒子の一部に酸化物が混入してもよく、粒界部の一部に合金が混入してもよい。
なお、磁気記録層6には、これらの酸化物を2種以上添加することも可能である。
【0025】
少なくともCoとCrを含むグラニュラ構造を有する垂直磁気記録層6を形成する磁性粒子の平均粒径は、1nm以上12nm以下であることが好ましい。平均粒界幅は0.3nm以上2.0nm以下であることが好ましい。平均結晶粒径及び平均粒界幅は、平面TEM観察像を用いて算出することができる。
少なくともCoとCrを含むグラニュラ構造を有する垂直磁気記録層6中に存在する酸化物の総量は3〜15モル%であることが好ましい。酸化物の添加量の総量がこの範囲であると、本発明の磁性層の形成方法を用いて、良好なグラニュラ構造を形成することができる。
【0026】
保護層7は、ヘッドと媒体との接触によるダメージから媒体を保護するためのものであり、カーボン膜、SiO膜などが用いられるが、カーボン膜を用いることが好ましい。
これら膜の形成にはスパッタリング法、プラズマCVD法などが用いられるが、プラズマCVD法を用いることが好ましい。また、マグネトロンプラズマCVD法も用いることが可能である。
保護層7の膜厚は、1nm〜10nm程度であり、好ましくは2nm〜6nm程度、さらに好ましくは2nm〜4nmである。
【0027】
次に、本発明に係る磁性層の形成方法を、図1に示す垂直磁気記録媒体1の磁気記録層6を形成する場合を例にして説明する。
図2は、本発明の磁性層の形成方法で用いられる成膜装置の一例を示す縦断面図、図3は、図2に示す成膜装置を図2中右側から見た側面図、図4は、図2に示す成膜装置に備えられているガス流入管の一例を示す上面図である。
【0028】
本実施形態では、グラニュラ構造の磁気記録層6を、反応性スパッタリングを用いて成膜する。まず、反応性スパッタリングによって磁気記録層6を成膜するための成膜装置について説明する。
【0029】
本実施形態の成膜装置21は、2枚の被成膜基板22の両面に、同時に磁性層(磁気記録層6)を形成できるように構成されている。本実施形態では、被成膜基板22として、非磁性基板2上に、軟磁性裏打ち層3、配向制御層4、下地層5が既に形成されたものを用いる。
【0030】
この例で用いる成膜装置21は、縦型かつ薄型の反応容器(反応チャンバ)23と、反応容器23内に、不活性ガス(スパッタガスまたはプラズマ生成ガス)と反応性ガスとの混合ガスを供給するガス供給手段24(図4参照)と、反応容器23内のガスを排気する第1の排気手段25及び第2の排気手段26と、外部から搬入された2枚の被成膜基板22を所定の位置に搬送する基板搬送装置27とを有している。
【0031】
反応容器23は、外部と反応空間23aとを仕切る容器であり、気密性を有するとともに、内部が高真空状態とされるため耐圧性を有するものとされる。なお、以下の説明では、この反応容器23において、図2中、右側の側壁を「第1の側壁28」、左側の側壁を「第2の側壁29」、図2の奥行き側の側壁を第「第3の側壁30」、手前側の側壁を「第4の側壁31」(図3参照)と呼称する。
【0032】
第1の側壁28と第2の側壁29は、図3に示すように、正面視正方形に近い若干縦長の長方形状であって、それらの間に図2に示す如く扁平の縦長の空間を構成するように、相互の間隔を狭めて垂直に配置される。また、第1の側壁28と第2の側壁29の左右両側には、被成膜基板22が装着されたキャリア61を搬入・搬出するためのゲートバルブを付した幅狭の第3の側壁30と第4の側壁31とが接続されており、側壁28〜31に囲まれて縦長の扁平の空間が反応容器23内部空間として区画されている。
【0033】
この反応容器23の第1の側壁28の上部側には、後述する第1のカソード(スパッタ電極)32及び第2のカソード33が取り付けられる第1の窓部36が設けられ、第2の側壁29には、後述する第3のカソード34及び第4のカソードが左右に隣接して取り付けられる第2の窓部37が第1の窓部36と対向するように設けられている。
第1の窓部36と第2の窓部37は、図3に示すように、側面視横長のレーストラック形状とされ、互いに対向するように同一高さの位置に配置されている。
【0034】
また、第1の側壁28には、第1の窓部36の下方に、後述する基板搬送装置38を取り付けるための、小型の第3の窓部39が設けられている。
【0035】
第1のカソード〜第4のカソードはいずれも同等の構成とされ、第1の窓部36側に左右に並んで2基、第2の窓部37側に左右に並んで2基取り付けられている。なお、図2、図3においては一部を略して記載している。
【0036】
また、反応容器の天井部及び底部には、それぞれ、第1の排気口40及び第2の排気口41が設けられている。
第1の排気口40及び第2の排気口41には、それぞれ、第1の排気手段25及び第2の排気手段26が接続されている。
【0037】
前記反応容器23の第1の側壁28には、図示略の電源によって電力が供給される第1のカソード32及び第2のカソード33が取り付けられ、第2の側壁29には、図示略の電源によって電力が供給される第3のカソード34及び第4のカソードが取り付けられている。
具体的には、図3に示すように、第1のカソー32及び第2のカソード33は、横方向に並んだ状態で、第1の側壁28に設けられた横長の第1の窓部36に、フレームを介して気密的に接合される。
また、第3のカソード及び第4のカソードは、横方向に並んだ状態で、第2の側壁29に設けられた第2の窓部37に、フレームを介して気密的に接合される。
【0038】
そして、第1のカソード32〜第4のカソードは、それぞれ、その電極面が水平面に対して略直交するような縦置き状態となっており、第1のカソード32と第3のカソード34とは、その反応空間23a側の表面(電極面)同士が対向し、第2のカソード33と第4のカソードとは、その反応空間23a側の表面(電極面)同士が対向した位置関係になっている。
【0039】
第1のカソード32〜第4のカソードの各電極面には、それぞれ、第1のターゲット42〜第4のターゲットが離間し支持されている。各ターゲットは、それぞれ板状をなし、目的とする磁性層の組成に応じた組成とされており、本実施形態では、少なくともクロムと酸化コバルトを含有した組成となっている。
なお、第2のターゲット及び第4のターゲットは、第1のターゲット42及び第3のターゲット43と同様の構成とされており、図示は略する。
【0040】
本実施形態では、第1のカソード32及び第1のターゲット42によって構成される第1の電極ユニットU1と、第3のカソード34及び第3のターゲット44とによって構成される第3の電極ユニットU2とが対をなし、第2のカソード及び第2のターゲットによって構成される第2の電極ユニットと、第4のカソード及び第4のターゲットによって構成される第4の電極ユニットとが対をなしている。
【0041】
各ターゲットは、単体であってもよく、複数のターゲット片によって構成されていてもよい。また、各ターゲットの平面形状は、特に限定されない。単体のターゲットの場合には、例えば、円形または円環状であるのが望ましく、各カソードと同軸的位置関係で配置されるのが望ましい。
更に、ターゲットとして、それぞれCo、Crを含有する半円状の合金ターゲット片と、酸化コバルト等の酸化物を含有する半円状の酸化物ターゲット片などを複合して用いることもできる。
【0042】
反応容器23の内部には、図4に示す形状の第1のガス流入管46〜第4のガス流入管49がそれぞれ配設されている。
第1のガス流入管46〜第4のガス流入管49は、それぞれ、一方向に延在された直管部50と、直管部50の一端に連結された円環状の環状部51とを有し、環状部51の内周壁に、複数のガス放出口51aが円周に沿って略等間隔に設けられてなる。
また、第1のガス流入管46〜第4のガス流入管49に設けるガス放出口51aの孔径は、各ガス流入管に接続する直管部50の位置に応じて、各孔からの放出ガス量が一定となるよう、その位置に応じて変えることが好ましい。即ち、各ガス流入管のガスの上流側においては孔径を小さくし、下流においては孔径を大きくすることが好ましい。
【0043】
第1のガス流入管46〜第4のガス流入管49は、各直管部50の他端が延出されて、それぞれ反応容器23の外部に設けられているガス供給手段24に接続されている。
また、各ガス流入管の環状部51は、それぞれ、第1のターゲット42〜第4のターゲットの各外周縁上に配設されている。即ち、各ガス流入管の環状部51は、各ターゲットと各被成膜基板22との間のプラズマ生成空間の外周を、囲むように配置されている。
【0044】
ガス供給手段24と第1のガス流入管46〜第4のガス流入管49との間には、各配管の途中に設けられたバルブを有している。これらのバルブは、それぞれ、図示しない制御機構によって開閉が制御されるように構成されている。
【0045】
ガス供給手段24によって送出される混合ガスは、上述の各バルブによって流量が制御されつつ、第1のガス流入管46〜第4のガス流入管49に、それぞれ、導入される。各ガス流入管に導入された混合ガスは、直管部50を通過して環状部51に流入し、円環状に配置されている複数のガス放出口51aから、環状部51の内側方向に向けて放出されるようになっている。
なお、本実施形態の装置では、混合ガスとして、アルゴン及び水を含有するものを用いている。
【0046】
また、図2に示すように、反応容器23の天井部及び底部には、それぞれ、第1の排気手段25及び第2の排気手段26が接続されている。
第1の排気手段25及び第2の排気手段26は、それぞれ真空ポンプの動作により、反応容器23内を減圧状態にしたり、反応性スパッタリングによって成膜を行う際、反応容器23内のガスを所定の流量で排気したりする。
【0047】
第1の排気手段25及び第2の排気手段26は、それぞれ、真空ポンプ52、53、54と、各真空ポンプに接続され、図示しない制御手段によって開閉が制御されるゲートバルブ55、56、57と、第1の排気管58ないし第2の排気管59とを有する。
第1の排気管58は、ゲートバルブ55、56と第1の排気口40とを接続しており、第2の排気管59は、ゲートバルブ57と第2の排気口41とを接続している。
【0048】
本実施形態の排気手段は、反応容器23内を高速で排気可能であることが要望されており、反応容器23内を高速で排気するためには、反応容器23の容積を小さくし、一方で、真空ポンプの排気能力を高める必要がある。
しかしながら、真空ポンプの排気能力を高めると、真空ポンプは大型となり真空ポンプを反応容器23に取り付けるためのフランジ部の径が大きくなる。そのため、反応容器23にも大きなフランジ部が必要となり、結果として反応容器23を大きくする必要が生ずる。
【0049】
本実施形態では、第1の排気手段25及び第2の排気手段26を構成する真空ポンプ52、53、54の取り付けフランジを、ターゲット面と平行に配置し、また第1の排気手段25を構成する2つの真空ポンプ52、53の取り付けフランジを、平行に対向させて配置している。これにより、排気能力の高い大きな真空ポンプを多数取り付けているにもかかわらず、反応容器23の容積を小さくすることを可能としている。
【0050】
なお、第1の排気手段25及び第2の排気手段26が備える真空ポンプ52、53、54の数は、1台であってもよく、複数台であっても構わない。複数台の真空ポンプを用いた場合は、反応容器23内のガスを、より効率よく排気することができる。
ただし、真空ポンプの数が余り多くなると、装置の大型化、消費電力の増大を招くおそれがあるため、各排気手段が備える真空ポンプの数は2台を上限とするのが望ましい。また、各排気手段において、真空ポンプの数は同じであってもよく、異なっていても構わない。
【0051】
なお、第1の排気手段25及び第2の排気手段26に用いる真空ポンプ52、53、54は、特に限定されないが、クラリオンポンプやターボ分子ポンプであるのが望ましい。
特に、ターボ分子ポンプは、油を使用しないため、清浄度が高く、また、高い真空度が得られる。このため、反応容器23内のガスを効率よく排気することができる。
【0052】
本実施形態では、第1の排気手段25は、2台のターボ分子ポンプ52、53を有し、第2の排気手段26は、1台のクライオポンプ54によって構成されている。
このため、装置の大型化および消費電力の増大を抑えながら、反応容器23内のガスを効率よく排気することができる。この種のクライオポンプはためこみ式のポンプであるため、ポンプからの不純物の発生が少なく、反応容器内をクリーンな排気環境に保つことが可能である。
【0053】
基板搬送装置27は、外部から搬入された2枚の被成膜基板22を、それぞれ、第1のターゲット42と第3のターゲット44との間、及び、第2のターゲットと第4のターゲットとの間に、縦置き状態となるように搬送する。
【0054】
この基板搬送装置27は、基板搬送装置38と、キャリア搬送装置60と、キャリア搬送装置60に保持された第1のキャリア61および第2のキャリアとを有する。なお、第2のキャリアおよび後述する第2のキャリア保持部は、第1のキャリア61及び後述する第1のキャリア保持部62と同様の構成とされており、図示は省略する。
【0055】
基板搬入部は、反応容器の側壁部30、31に設けられ、その内部が、反応容器23内の空間と連通している。また、この基板搬入部には、外部から基板を搬入するための開口と、この開口を開閉する図示しないゲートバルブが設けられている。
【0056】
第1のキャリア61及び第2のキャリアは、それぞれ、被成膜基板22の外周縁の一部を着脱可能に保持するものであり、移動操作機構63の動作によって、基板搬入部の開口付近から、それぞれ第1の反応空間(第1のターゲット42と第3のターゲット44との間の空間)及び第2の反応空間(第2のターゲットと第4のターゲットとの間の空間)に移動操作される。
【0057】
このキャリア搬送装置60は、磁石を動かすことによってキャリア保持部62を非接触状態で横方向に移動させる。そして、基板搬入時には、第1のキャリア61及び第2のキャリアが基板搬入部の開口付近に位置している。そして、基板搬入部の開口から2枚の被成膜基板22が装着された各キャリアが搬入され、第1のキャリア61及び第2のキャリアは、移動操作機構63の動作によって、それぞれの反応空間に移動操作される。
【0058】
これにより、各キャリアに装着された各被成膜基板22は、それぞれ、第1のターゲット42と第3のターゲット44との間、及び、第2のターゲットと第4のターゲットとの間に、縦置き状態で配置される。
この状態で、一方の被成膜基板22は、その両主面が、第1のカソード32及び第3のカソード34の各電極面と対向し、且つ、各電極面との距離が略等しい状態になる。また、他方の被成膜基板22は、その両主面が、第2のカソード33及び第4のカソードの各電極面と対向し、且つ、各電極面との距離が略等しい状態になる。
【0059】
この状態で、第1のカソード32〜第4のカソードにそれぞれ電力が供給されると、これら反応空間に供給された混合ガスが、プラズマ化する。そして、このプラズマ中に生成された不活性ガスのイオンが、第1のターゲット42〜第4のターゲットに衝突し、各ターゲットからターゲット物質(スパッタ粒子)が弾き出される。
弾き出されたスパッタ粒子はその一部が活性化された反応性ガスと反応し、被成膜基板22の各表面に被着する。これにより、2枚の被成膜基板22の両面に、並行してグラニュラ構造の磁性層が成膜される。
【0060】
次に、この成膜装置21を用いた磁性層の形成方法について説明する。
まず、被成膜基板22が装着された第1のキャリア61及び第2のキャリアを、基板搬送装置27及び、移動操作機構63の動作によって、第1のターゲット42と第3のターゲット44との間の空間、及び、第2のターゲットと第4のターゲットとの間の空間に、それぞれ移動させる。
【0061】
次に、ゲートバルブ55、56、57を開き、第1の排気手段25及び第2の排気手段26が備える真空ポンプ52、53、54の動作により、反応容器23内及び基板搬送装置38内を減圧状態とする。
圧力は、5×10−5Pa以下とすることが好ましく、1×10−5Pa以下とすることがより好ましく、5×10−6Pa以下とすることが最も好ましい。反応容器のベースプレッシャーは低いほど好ましい。
【0062】
ここで、被成膜基板22を挟んで対向する第1のターゲット42と第3のターゲット44との間の空間ないし、第2のターゲットと第4のターゲットとの空間と、第1の排気手段25との間の部分に特別な機器類は配置されていない。一方、被成膜基板22を挟んで対向する第1のターゲット42と第3のターゲット44との間の空間ないし、第2のターゲットと第4のターゲットとの空間と、第2の排気手段26との間には、第1のキャリア61と第2のキャリアとを含む複雑な形状のキャリア搬送装置60が設けられている。
【0063】
したがって、各ターゲットの上方側の空間は、第1の排気手段25で十分に減圧できるが、各ターゲットの下方側の空間は、キャリア搬送装置60が減圧の抵抗となるため、第1の排気手段25では、十分に減圧できない。
したがって、このキャリア搬送装置60とその周囲の空間を効率良く減圧するために、第2の排気手段26が有効に作用する。
【0064】
即ち、キャリア搬送装置60とその周囲の空間の直近位置に、第2の排気手段26が設けられているので、キャリア搬送装置60とその周囲の空間を効率良く減圧できる。
これにより、第1の排気手段25と第2の排気手段26とが共同して、反応容器23の内部空間全体を従来よりも素早く排気することができる。
【0065】
なお、第2の排気手段26を設けないと、反応容器23の最上部側に第1の排気手段25があるだけなので、最底部側に複雑な構造の移動操作機構が存在すると、この移動操作機構部分が減圧時の抵抗となり易く、反応容器23を目的の状態まで減圧する際に必要以上に時間がかかるという不都合がある。
本実施形態の構成によれば、第1の排気手段25に加えて第2の排気手段26を移動操作機構の近くに設けることで、この不都合を回避できる。
【0066】
その後、第1のゲートバルブ55〜第3のゲートバルブ57を制御し、第1の排気口40及び第2の排気口41から排出されるガスの流量を、所定の流量に調整する。
第1のガス流入管46〜第4のガス流入管49に導入された混合ガスは、環状部51を通過して、各ガス放出口51aから各ターゲット(各電極ユニット)の外周部付近に放出され、各ターゲットの中央部に向かって流れる。
【0067】
また、本実施形態では、混合ガスとして、アルゴン及び水を含有するものを用いる。アルゴンと水の混合ガス中の水の量は、形成する磁性層の組成にもよるが、アルゴンと水の合計量に対して、水が0.1〜20体積パーセントの割合であることが好ましい。20パーセントを超えると、Coが酸化され、また、磁性膜中の酸化物の量が多くなりすぎ、磁性膜の電磁変換特性が低下することとなってしまい好ましくない。また、0.1パーセントより少ないと、磁性膜のグラニュラ構造における磁性粒子の分離が不十分となり、電磁変換特性が悪化し、また、Crが磁性粒子内に残り、電磁変換特性が悪化することとなり好ましくない。
また、混合ガスの流量は、反応容器の容積、排気手段の排気能力に応じて適切なスパッタガス圧が得られるように適宜定められる。
【0068】
このようにアルゴンに水を加えた混合ガスを用いることで、ガス中のアルゴンの量が相対的に減ることとなる。この結果、磁性層の硬度が高まり、磁気記録媒体の耐スクラッチ性が向上する。
【0069】
また、本実施形態で用いる各ターゲットとしては、Crを酸化物以外の状態で含むものが良く、CrPt合金、CrCoPt合金、CrCoPtRu合金として含むものが良い。更に、酸化物を含むものが良く、Si酸化物、Ti酸化物、W酸化物、Co酸化物、Ta酸化物及びRu酸化物を含むものが良い。
具体的には、CoCrPt−Co酸化物−Si酸化物、CoCrPt−Co酸化物−Ti酸化物、CoCrPt−Co酸化物−W酸化物、CoCrPt−Co酸化物−Co酸化物、CoCrPt−Co酸化物−Ta酸化物、CoCrPt−Co酸化物−Ru酸化物、CoRuPt−Co酸化物−Si酸化物、CoCrPtRu−Co酸化物−Si酸化物などを挙げることができる。
【0070】
次に、第1のカソード32〜第4のカソードに電圧を印加する。
これにより、各カソードに対応する空間において、混合ガスがプラズマ化し、このプラズマ中に生成された不活性ガスのイオンが、各ターゲットに衝突し、各ターゲットからターゲット物質(スパッタ粒子)が弾き出される。弾き出されたスパッタ粒子はその一部が活性化された反応性ガスと反応し、他の一部は反応性ガスと未反応の状態で、各被成膜基板22の各表面に被着する。
【0071】
なお、水を分解して酸素ラジカルと水素ラジカルを形成するのに必要なプラズマ条件として、反応容器23内の圧力は、0.1〜10Pa、好ましくは0.1〜5Paとし、成膜レートを0.1〜100nm/sとし、被成膜基板温度は、100〜300℃とし、パワーを、100〜2000Wとし、パワーの入力方式として、DC電源またはRF電源を用いるのが好ましい。
【0072】
本実施形態では、前述したように、混合ガスとして、アルゴン及び水を含有するものを用いている。
アルゴンは、反応性プラズマの発生を安定化する作用を有する。また、水は、反応性プラズマ内で酸素ラジカルと水素ラジカルとに分解されるので、反応領域におけるラジカル濃度分布の均一性が高まる。
よって、本願発明では、低いガス圧でも磁性粒子と酸化物粒界の分離が可能となる。
【0073】
そして、酸素ラジカルが、ターゲットに含まれる酸化物以外のクロムと反応することで、クロムが、酸化クロムとなってグラニュラ構造の磁性層の粒界部を形成する。すなわち、クロムが酸素を取り込んで磁性層を形成することとなるので、磁性層中の酸素濃度が面方向において一様となる。
また、水素ラジカルが、ターゲットに含まれる酸化コバルトと反応することで、酸化コバルトが、コバルトとなってグラニュラ構造を有する磁性層の磁性粒子を形成する。さらに、水素ラジカルが還元反応を起こすことで、磁性粒子が酸化するのを防ぐことができる。例えば、CoCrPt−xCo酸化物−Si酸化粒をターゲットとして用いると、磁性層は、Co1+xCr1−xPt−Si酸化物−xCr酸化物となる。
これにより、磁気特性の優れたグラニュラ磁性層を形成することが可能となる。
【0074】
また、本実施形態の成膜装置21では、ガス流入管46、47、48、49の各ガス放出口51aから放出された混合ガスが、第1のターゲット42〜第4のターゲットの表面付近で、外周部から中央に向かって流れる。そして、この流れが、それぞれ、対向するガス放出口51aから放出される混合ガスの流れによって打ち消される。
このため、混合ガスの流れによって、各ターゲットと被成膜基板22との間の空間に形成されるプラズマがかく乱されることが抑えられ、各ターゲットと被成膜基板22との間の空間に形成されるプラズマ(空間)が安定する。特に、水を含む混合ガスを用いる場合には、外周から中央に向けて混合ガスを流すことで、ラジカルの分布をより一層均一にできる。
【0075】
反応後のガスは、第1の排気手段25及び第2の排気手段26によって、反応容器23の上方及び下方から円滑に排気されるため、排気されるガスの流れにより、プラズマ空間が特定方向に流されることが少ない。
これにより、各被成膜基板22とプラズマとの間にガスが流れ込み、その箇所に非プラズマ空間が形成されることが抑えられる。
これらのことから、この成膜装置21では、反応性スパッタリングによる成膜速度が高まり、また、被成膜基板22の表面に析出する磁性層の均一性が高まる。すなわち、この成膜装置21では、均一性の高い磁性層を、高速で成膜することができる。
【0076】
そして、被成膜基板22の両面において、スパッタ粒子の層(磁気記録層6)が所定の厚さとなったところで成膜終了とする。
以上のようにして2枚の被成膜基板22の両面に、並行して磁気記録層6が形成される。このようにして形成された各磁気記録層6は、スパッタ粒子が均一に析出することによって成膜されていることにより、面方向において一様な磁気特性を有し、安定な記録再生特性を得ることができる。
【0077】
図5は、上述の垂直磁気記録媒体を用いた磁気記録再生装置の一例を示すものである。
図5に示す磁気記録再生装置70は、図1に示す構成の垂直磁気記録媒体1と、磁気記録媒体1を回転駆動させる媒体駆動部71と、磁気記録媒体1に情報を記録再生する磁気ヘッド72と、この磁気ヘッド72を磁気記録媒体1に対して相対運動させるヘッド駆動部73と、記録再生信号処理系74とを備えて構成されている。
【0078】
記録再生信号処理系74は、外部から入力されたデ−タを処理して、記録信号を磁気ヘッド72に送り、磁気ヘッド72からの再生信号を処理してデ−タを外部に送ることができるようになっている。
この磁気記録再生装置70に用いる磁気ヘッド72には、巨大磁気抵抗効果(GMR)を利用したGMR素子、トンネル効果を利用したTuMR素子などを有した、より高記録密度に適した磁気ヘッドを適宜用いることができる。
【実施例】
【0079】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明する。膜組成の単位はいずれもモル%である。
(実施例)
2.5インチハードディスク形状のガラス基板(コニカミノルタ製MEL3)をANELVA社製C−3040型スパッタリング装置の真空チャンバー内に導入した。
スパッタリング装置の真空度を1×10−5Pa以下に排気した後、基板の両面に、密着層として、Cr膜を10nm、裏打ち層として、70Co−20Fe−5Ta−5Zrを15nm、Ru膜を0.8nm、70Co−20Fe−5Ta−5Zrを15nm成膜した。
次いで、配向制御膜として、94Ni−6Wを10nm、下地膜として、Ruを20nm、成膜した。
スパッタの際には、Arガスを用い、裏打ち層及び94Ni−6Wは、ガス圧を0.8Paとして成膜し、Ru下地層は、ガス圧8Paとして成膜した。
【0080】
次に、成膜後の基板を、図2、図3に示す反応性スパッタ装置(成膜装置)に導入し、基板の両側に垂直磁気記録層[組成:92(70Co−10Cr−16Pt−4B)−4(TiO)−4(CrO)、膜厚:8nm]を形成した。
ここで、ターゲット組成は、89(63Co−17Cr−16Pt−4B)−4(TiO)−7(CoO)である。
ガス流入管に導入した原料ガスは、アルゴンを100sccm、水を1.5sccmの流量で混合した混合ガスであり、この混合ガスを、外径200mmのサイズの環状部を備えたガス流入管の内側に等間隔に16個設けられたガス放出口(内径0.5mmの細孔)から放出させた。
基板温度は150℃、スパッタにはDCマグネトロンを使用し、550Wの電力を投入した。
【0081】
反応性スパッタ時の容器内圧力は3Pa、実効排気は上部側800l/秒、下側は300l/秒とした。
また、本反応性スパッタ装置の上部には2台のターボ分子ポンプ、下部には1台のターボ分子ポンプを設け、成膜時には、トータルの実効排気速度が上部で600リットル/秒、下部で350リットル/秒となるように、反応性ガスを排気した。
次いで、Ruを0.3nm、69Co−20Cr−9Pt−2B磁性層を4.5nm成膜し、その後、基板をCVD成膜装置に移し、基板上にカーボン保護膜をCVD法にて4nm成膜した。
以上の工程により、磁気記録媒体を作製した。
【0082】
得られた磁気記録媒体について、潤滑剤を塗布し、米国Guzik社製リードライトアナライザ1632及びスピンスタンドS1701MPを用いて、記録再生特性の評価を行った。
記録再生特性としては、信号対ノイズ比(SNR、ただしSは線記録密度576kFCIでの出力、Nは線記録密度576kFCIでのrms(root mean square)値)とOW値(線記録密度576kFCIの信号を記録した後、線記録密度77kFCIの信号を上書きした前後の576kFCIの信号の再生出力比(減衰率))を評価した。
その結果、磁気記録媒体のHcは5284Oe、Hnは2911Oe、OWは32.3dB、SNRは10.75dBと電磁変換特性に優れる磁気記録媒体であった。
【0083】
「比較例」
実施例と同様に磁気記録媒体を製造したが、グラニュラ構造磁性層の形成に反応性スパッタリングを使用せず、形成する磁性層と同一組成のターゲット[組成:92(70Co−10Cr−16Pt−4B)−4(TiO)−4(CrO)]を使用して、スパッタリングにより形成した。なおスパッタリングガスにはアルゴンを使用した。
その結果、磁気記録媒体のHcは3800Oe、Hnは1730Oe、OWは50.46dB、SNRは8.93dBと実施例に比べ電磁変換特性が劣る磁気記録媒体であった。
【0084】
実施例、比較例で成膜したグラニュラ構造磁性層を平面TEMで観察したところ、いずれの膜も平均粒子径8nm程度の磁性粒子が確認されたが、比較例の磁性粒子は磁界部分が不鮮明であった。この結果から、比較例で成膜したグラニュラ構造磁性層の硬度が、実施例の磁性層に比べ低下していることが推測された。
【0085】
以上の比較から、スパッタリング時に、アルゴン及び水を含む混合ガスを供給することが重要であり、更に、ターゲットの組成として、酸化物以外のクロムを含むことが重要であり、また、ターゲットの組成として、酸化コバルトを含むことが重要であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、磁気記録媒体を製造する製造業において幅広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】図1は、本発明の磁性層の形成方法を用いて磁性層が形成される垂直磁気記録媒体の一例を示す模式的な縦断面図である。
【図2】図2は、本発明の磁性層の形成方法で用いられる成膜装置の一例を示す縦断面図である。
【図3】図3は、図2に示す成膜装置の右側面略図である。
【図4】図4は、図2に示す成膜装置が備えるガス流入管の一例を示す側面図である。
【図5】図5は、本発明に係る磁性層の形成方法によって磁性層が形成された垂直磁気記録媒体が適用された磁気記録再生装置の一例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0088】
1・・・垂直磁気記録媒体、2・・・非磁性基板、6・・・磁気記録層、22・・・被成膜基板、23・・・反応容器、24・・・ガス供給手段、25・・・第1の排気手段、26・・・第2の排気手段、32〜34・・・カソード、42〜44・・・ターゲット、46〜49・・・ガス流入管、51・・・環状部、51a・・・ガス放出口、52〜54・・・真空ポンプ、70・・・磁気記録再生装置、72・・・磁気ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の両面に、少なくともコバルト、クロムを含有し、グラニュラ構造を有する磁性層を反応性スパッタリングにより形成する磁気記録媒体用の磁性層の形成方法であって、
反応容器内に、前記基板を配置するとともに、
スパッタ電極と、該スパッタ電極の表面に配設された酸化物以外のクロムを含むターゲットとからなる電極ユニットを、一対、それぞれ前記ターゲットを前記基板側にして、前記基板の両面と対向するように配置し、
アルゴン及び水を含む混合ガスを、前記一対の電極ユニットの各前記基板側の表面付近に供給し、
前記ターゲットに含まれる酸化物以外のクロムを、反応性スパッタリングにより、グラニュラ構造を有する磁性層に含まれる酸化クロムとして形成することを特徴とする磁性層の形成方法。
【請求項2】
前記ターゲットが酸化コバルトを含み、該酸化コバルトを、反応性スパッタリングにより、グラニュラ構造を有する磁性層の磁性粒子を構成するコバルトとして形成することを特徴とする請求項1に記載の磁性層の形成方法。
【請求項3】
アルゴン及び水を含む混合ガスを、前記一対の電極ユニットの各前記基板側の表面付近に、外周部から中央部に向けて流れるように供給するとともに、反応後に生じる排ガスを、前記反応容器の縦方向における両端部から排気しながら反応性スパッタリングによって磁性層を形成することを特徴とする請求項1または2に記載の磁性層の形成方法。
【請求項4】
前記磁性層を基板の表面に対して垂直方向の磁気異方性を有する垂直磁性層とすることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の磁性層の形成方法。
【請求項5】
前記磁性層は、グラニュラ構造を形成する粒界構成物質として、酸化クロムの他に、Si酸化物、Ti酸化物、W酸化物、Co酸化物、Ta酸化物及びRu酸化物のいずれか1種以上を含むことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の磁性層の形成方法。
【請求項6】
前記磁性層の膜厚が、1nm〜15nmの範囲内であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の磁性層の形成方法。
【請求項7】
前記磁性層が、酸化物を3モル%〜15モル%の範囲内で含むことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の磁性層の形成方法。
【請求項8】
前記基板は、磁気記録媒体で用いられる円盤状基板であり、グラニュラ構造の前記磁性層は、磁気記録媒体の磁気記録層であることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の磁性層の形成方法。
【請求項9】
環状をなし、その内周壁に複数のガス放出口が円周に沿って設けられたガス流入管を、前記一対の電極ユニットの前記基板側に配し、
前記混合ガスを、前記ガス流入管に導入し、前記各ガス放出口から放出させることにより、前記混合ガスを、前記一対の電極ユニットの各前記基板側の表面付近に、外周部から中央部に向けて流れるように供給することを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の磁性層の形成方法。
【請求項10】
前記排ガスを排気する排気手段は、ターボ分子ポンプを備えることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の磁性層の形成方法。
【請求項11】
前記排ガスを排気する排気手段は、クライオポンプを備えることを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載の磁性層の形成方法。
【請求項12】
前記排ガスを前記反応容器の縦方向における一端部から排気する第1の排気手段と、他端部から排気する第2の排気手段とを有し、少なくともいずれかの排気手段が2台の真空ポンプを備える構成の装置を用いることを特徴とする請求項1ないし請求項11のいずれか1項に記載の磁性層の形成方法。
【請求項13】
前記一対の電極ユニットを複数組用い、複数の基板の両面に、並行して磁性層を形成することを特徴とする請求項1ないし請求項12のいずれか1項に記載の磁性層の形成方法。
【請求項14】
請求項1ないし請求項13のいずれかの形成方法により得られた磁性層を備えたことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項15】
磁気記録媒体と当該磁気記録媒体に情報を記録再生する磁気ヘッドとを備えた磁気記録再生装置であって、前記磁気記録媒体が、請求項14に記載の磁気記録媒体であることを特徴とする磁気記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−118115(P2010−118115A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−291031(P2008−291031)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】