説明

磁気ディスク用ガラス基板の製造方法及び固定砥粒ツールの表面修正方法

【課題】固定砥粒ツールが表面に形成された定盤を研削面として新規に使用する場合、固定砥粒ツール表面には、固定砥粒ツール形成時に生じた形状の凹凸、定盤表面の形状等により、数十μmのうねりがある。そのうねりを効率よく除去することを課題とする。
【解決手段】定盤上に形成されたダイヤモンド粒子を含む固定砥粒ツールに、固定砥粒砥石を押し付け、研削液310を循環して供給しながら定盤と固定砥粒砥石とを相対的に移動させて、固定砥粒ツールの表面を修正する方法であって、固定砥粒砥石から遊離化した遊離砥粒の研削液中の濃度が実質的に一定になるよう濃度調整部330により濃度調整する。研削液中の遊離砥粒の濃度を一定に保つので、修正レートを適切な値に一定に保つことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク用ガラス基板等の製造方法、及びそれに用いられるガラス基板の表面研削加工装置の固定砥粒ツールの表面形状を修正する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク用ガラス基板の製造工程における研削工程では、従来、鋳鉄定盤を用いて、遊離砥粒を含む研削液をガラス基板と定盤との間に供給しながら研削を行うラッピングが行われている。このとき、研削を行うにつれて、定盤の研削面の平滑性は低下していく。
【0003】
このように平滑性が低下した研削面を修正する場合は、典型的には、遊星歯車方式の定盤を用い、上定盤と下定盤との間に修正リングを挟み、研削工程と同様に、遊離砥粒を供給しながら、定盤を圧接させて研削を行うことで、定盤が削れ、定盤の平滑性を回復させていた。
【0004】
上述のような研削と修正とを繰り返すラッピング等の方法は、遊離砥粒法と呼ばれる。しかしながら、遊離砥粒法を用いる研削は、研削表面層へのクラック進行があり、後行程の研磨にて残留クラックを除去する為に加工時間がかかって能率が悪く、また縁部にダレを生じるなどの問題点があった。一方、近年、定盤による研削に要求される精度が高まり、ガラス基板の平滑性を今まで以上に向上させる必要が生じている。
【0005】
これらの事情により、ラッピング等の遊離砥粒法は、近年開発された、微粒ダイヤモンドを含有する微粒レジノイドボンドダイヤモンドを固定砥粒として研削面に貼り付けた定盤による、固定砥粒法に置き換えられつつある(特許文献1〜特許文献3)。
【0006】
固定砥粒ツールが表面に形成された定盤を研削面として新規に使用する場合、固定砥粒ツール表面には、固定砥粒ツール形成時に生じた形状の凹凸、定盤表面の形状等により、数十μmのうねりがある。よって、そのままでは求める加工対象物表面(ガラス基板など)の加工品質を達成することが出来ない。
【0007】
そこで新規使用開始時には、ワーク加工開始前に固定砥粒ツールの表面を平坦化する必要性がある。この作業をツルーイングと呼ぶ。さらに固定砥粒の場合、砥粒を保持している保持層(ボンド)から砥粒の砥出量を最適化する必要性があり、この作業をドレッシング(目たて)と呼ぶ。これらの固定砥粒ツールの表面の形状修正は、主に固定砥粒砥石を用いて実施されている。具体的には、固定砥粒砥石が削れることにより発生した切子が研削剤として作用し、ダイヤモンド粒子を含む固定砥粒を貼り付けた定盤の平滑性を修正することになる(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−202997号公報
【特許文献2】特開2001−191247号公報
【特許文献3】特許第2977508号公報
【特許文献4】特開2000−153458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
表面加工装置の定盤研削面に形成された固定砥粒ツールのツルーイングとドレッシングは同一作業にて実施するのが好ましく、固定砥粒砥石を用いて行なっている。そのメカニズムは、研削液を流しながら、固定砥粒砥石と定盤研削面上の固定砥粒ツール表面とをこすり合わせることにより、固定砥粒砥石自身の固定砥粒が遊離化し、遊離砥粒となって固定砥粒ツール表面を研削しツルーイングとドレッシング(以下、「修正」という)を行なうのである。遊離化した砥粒によって研削される為、研削液を掛け捨てにしたのでは、せっかくの遊離砥粒が修正している部分からすぐに排出されてしまい作用能力が少なく効率が悪い。その為、研削液を循環させることにより、遊離砥粒を修正すべき部分に戻し作用能力を増やす必要がある。
【0010】
しかし循環方法では、修正作業が進むにつれて研削液に含まれる遊離砥粒の濃度が増加することになり、修正レートが変化する。よって、定量作業にて適正な修正取しろを管理できず固定砥粒ツール表面のうねりを低減することが困難となるという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために本発明者は、表面加工装置の定盤研削面に形成された固定砥粒ツール表面を、固定砥粒砥石を用いて修正する場合おいて、研削液を循環させる際に、遊離砥粒の濃度を管理することを考えた。
【0012】
つまり、本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の製造方法は、定盤上に形成された固定砥粒ツールを用いてガラス基板の主表面を研削する研削工程を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、前記固定砥粒ツールは、前記固定砥粒ツールに固定砥粒砥石を所定の加重で押圧し、研削液を循環して供給しながら前記固定砥粒ツールと前記固定砥粒砥石とを所定の回転速度で摺動させると共に、前記固定砥粒砥石から遊離化した遊離砥粒の前記研削液中の濃度が実質的に一定になるよう濃度調整することにより、前記固定砥粒ツールの表面を修正したものであって、前記固定砥粒ツールの表面の平坦度が30μm以下であることを特徴とするものである。
【0013】
上記本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の製造方法においては、固定砥粒ツールの表面の平坦度が、修正前に比べて概ね2/3になった以降は、前記所定の加重を所定量だけ増加すると共に、前記所定の回転速度を所定量だけ増加して表面修正すると好適である。また、遊離砥粒の前記研削液中の濃度が5重量%〜20重量%となるように濃度調整すると好適である。固定砥粒ツールに含有される固定砥粒は、ダイヤモンド、人工ダイヤ、又はガーネットであってもよい。
【0014】
本発明に係る固定砥粒ツールの表面修正方法においては、定盤上に形成された固定砥粒ツールに、固定砥粒砥石を所定の加重で押圧し、研削液を循環して供給しながら前記固定砥粒ツールと前記固定砥粒砥石とを所定の回転速度で摺動させて固定砥粒ツールの表面を修正する方法であって、前記固定砥粒砥石から遊離化した遊離砥粒の前記研削液中の濃度が実質的に一定になるよう濃度調整することを特徴とする。
【0015】
上記本発明に係る固定砥粒ツールの表面修正方法においては、固定砥粒ツールの表面の平坦度が、修正前に比べて概ね2/3になった以降は、前記所定の加重を所定量だけ増加すると共に、前記所定の回転速度を所定量だけ増加して表面修正すると好適である。また、遊離砥粒の前記研削液中の濃度が5重量%〜20重量%となるように濃度調整すると好適である。固定砥粒ツールに含有される固定砥粒は、ダイヤモンド、人工ダイヤ、又はガーネットであってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、定盤研削面の固定砥粒ツール表面を、固定砥粒砥石を用いて修正する際に、研削液中の遊離砥粒の濃度を一定に保つので、修正レートを適切な値に一定に保つことができ、固定砥粒ツール表面の修正による取り代を必要最低限にすることができ、さらには安定したツルーイングを実現でき、ドレッシングの最適化が可能となる。磁気ディスク用ガラス基板の製造工程において、この修正方法により修正した固定砥粒ツールを用いてガラス基板の主表面を研削すると良好な平坦度のガラス基板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態に係る定盤を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る修正リングを示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るキャリヤを修正リングに置き換えた場合の定盤を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る定盤の修正を行う際の研削装置を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る修正工程のメカニズムを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。図中、本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。また、同様の要素は同一の参照符号によって表示する。
【0019】
図1は、本発明の実施形態を適用する定盤に含まれる、ガラス基板用のキャリヤを示す図である。図1(a)は定盤を上から見た図であり、ガラス基板100は、下定盤10の上にて、外周にギヤを有するキャリヤ110に保持され、このキャリヤ110を太陽ギヤ120、インターナルギヤ130に噛合させる。太陽ギヤ120を矢印方向に回転させることにより、各キャリヤ110はそれぞれの矢印方向に遊星歯車として自転しながら公転する。
【0020】
図1(b)は図1のキャリヤ110のA−A断面図であり、下定盤10に対して上定盤140が上下方向に移動可能であって、上下からキャリヤ110を挟み、ガラス基板100の研削を行う様子を示している。図1(b)に示すように、上定盤140と下定盤10とには、それぞれ、ダイヤモンド粒子を含む固定砥粒ツール160が研削面に配備され、かかる定盤200が回転することにより、ダイヤモンド粒子を含む固定砥粒ツール160が配備された研削面と、ガラス基板100の主表面とを、互いに押圧させて摺動させることによって、ガラス基板100の主表面が研削される。
【0021】
なお、図1(b)に示すように、ダイヤモンド粒子を含む固定砥粒ツール160は、ダイヤモンド粒子を、樹脂を用いて上下の定盤140、10に平面的に接着させたダイヤモンドツールである。ダイヤモンド粒子としては人工ダイヤでもよく、ダイヤモンド粒子の他にガーネットやCBN(立方晶窒化ホウ素)を用いても良い。
【0022】
固定砥粒ツールが表面に形成された定盤を研削面として新規に使用する場合、固定砥粒ツール表面には、固定砥粒ツール形成時に生じた形状の凹凸、定盤表面の形状等により、数十μmのうねりがある。よって、そのままでは求める加工対象物表面(ガラス基板など)の加工品質を達成することが出来ない。
【0023】
そこで、本発明の実施形態の目的は、後述するように、固定砥粒ツール160が配備された定盤の研削面を平滑化することである。このような修正を行うには、新規使用時に定盤に存在する上記うねりを、修正部材を用いて修正する必要がある。この修正部材の材料として、固定砥粒からなる砥石を用いる。
【0024】
図2は本発明の実施形態に用いる修正部材の一例である、修正リングを示す図である。図2に示す修正リング202は、図1に示すキャリヤ110と置換可能な構成を有する。すなわち、外周にギヤを有するキャリヤ210に保持され、金属製の心材220の上下に固定砥粒砥石を貼り付けたものとしてよい。あるいは、図示しないものの、心材のない板状の固定砥粒砥石としてもよい。あるいは、固定砥粒砥石を専用のキャリヤにセットしてもよい。
【0025】
固定砥粒ツールには一般的にペレットタイプの焼結固定砥粒を用いられる。加工物の形状修正が主な目的である第1研削工程に用いる固定砥粒ツールには、主に固定砥粒ツールの形状変化が起き難く、重研削が可能なメタルペレット(メタルボンドの固定砥粒砥石)が適している。表面粗さを下げる目的の第2研削工程に用いる固定砥粒ツールには、形状変化が起きやすいが低粗さを達成しやすいレジンペレット(レジンボンドの固定砥粒砥石)が適している。これらの固定砥粒ツールの修正には同様の考えから、ツルーイングには高結合力(硬度)の固定砥粒砥石が用いられ、ドレッシングには低結合力(硬度)の固定砥粒砥石が用いられる。
【0026】
砥粒について、ツルーイング用には炭化ケイ素系であるGC(グリーンカーボランダム)、ドレッシング用にはアルミナ系であるA(アランダム)又はWA(ホワイトアランダム)が一般的に用いられる。
【0027】
砥粒サイズについては重研削には粒度を粗く、仕上げ研削には粒度を細かくする。結合剤の結合力については、結合力が弱いと新しい刃が出てくるので常に高い研削能力を維持するが平坦度などの形状を維持できず、結合力が強いと平坦度などの形状変化は起き難いが、新しい刃が出てこないので研削能力の維持は難しい、ということになる。修正対象である固定砥粒ツールとその使用目的等に応じて、適正な固定砥粒砥石を選択する。
【0028】
また、固定砥粒ツールや固定砥粒砥石における結合剤として、上記のメタルやレジンの他に、ビトリファイド、電着、ラバー、シリケート、セラミック、マグネシアセメント等を使用することもできる。
【0029】
図2の固定砥粒砥石230は、キャリヤ210の円周に沿って貼り付けられた矩形の砥石である。本実施の形態においては、一例として、キャリヤ210の中央部は円形の空洞になっていて、砥石は貼られていない例を示す。キャリヤ210全体が固定砥粒砥石によって被覆されていないのは、キャリヤ全体が固定砥粒砥石になると、定盤と接触した場合に摩擦力が大きくなりすぎ、定盤に対して修正リングを回転させることができず、定盤の研削面の平滑性の向上という目的が達成できなくなるからである。また、キャリヤ全体が固定砥粒砥石によって被覆される必要がないことから、固定砥粒砥石の材料コストを節約する利点もある。ただし、これは一例であって、キャリヤ全体が固定砥粒砥石によって被覆される場合もある。
【0030】
図3は、図1で示したキャリヤを図2に示した修正リングで置換した結果を示す図である。このようにして、研削対象であるガラス基板100のキャリヤ110を、修正リング202に置換し、ガラス基板100の研削を行うときと同様に定盤を回転させることにより、固定砥粒ツールが修正リング202によって削られ、平滑性が修正されることとなる。
【0031】
このような修正リング202の修正面と、下定盤10上の固定砥粒ツール160と上定盤140上の固定砥粒ツール160の研削面とを、研削液を供給しながら、互いに押圧させて摺動させることにより、下定盤10上の固定砥粒ツール160と上定盤140上の固定砥粒ツール160の研削面の平滑性を高めることができる。
【0032】
図4は図3に示す修正リングを用いて固定砥粒ツールの修正を行う際の研削装置の全体図である。研削装置300は下定盤10と上定盤140との間に、インターナルギヤ130を上下方向から挟む。インターナルギヤ130内には、研削時にはキャリヤ110が保持され、定盤の平滑性の修正時には修正リングが保持される。なお図4では、上定盤140及び下定盤10に平面的に接着させた固定砥粒ツール160を用いて研削面としている。
【0033】
研削工程または修正工程では、いずれも、既に述べたように、外周にギヤを有するキャリヤ110または修正リング202をインターナルギヤ130内に遊星歯車として保持し、太陽ギヤ120を回転させる。これにより、ガラス基板の主表面または修正リング202の修正面と、上定盤140及び下定盤10の研削面とを、研削液を供給しながら、互いに押圧させ、摺動させる。
【0034】
修正工程では、容器302内の研削液310をポンプ320によって定盤200内に供給し、循環させる。研削液310としては例えば水を用いることができる。この修正工程では、研削液310を流しながら、修正リング202の固定砥粒砥石230と上定盤140及び下定盤10の研削面上の固定砥粒ツール160表面とをこすり合わせることにより、固定砥粒砥石230自身の固定砥粒が遊離化し、遊離砥粒となって固定砥粒ツール160表面を研削しツルーイングとドレッシング(すなわち、修正)をする。
【0035】
以下、図5を用いて修正工程のメカニズムを説明する。図5は、下定盤10の固定砥粒ツール160と固定砥粒砥石230とが接している部分の拡大図である。固定砥粒砥石230の固定砥粒は固定砥粒ツール160表面により削り取られ遊離化して遊離砥粒510となり、研削液310の中を漂うことになる。この遊離砥粒510が固定砥粒ツール160表面を研削することにより、固定砥粒ツール160がツルーイング・ドレッシングされ、固定砥粒ツール160内のダイヤモンド粒子520が砥出する。
【0036】
その際に、研削液310は循環させるため、修正作業が進むにつれて研削液に含まれる遊離砥粒510の濃度が増加することになり、修正レートが変化してしまう。この修正レートの変化を防ぐために、本発明の実施形態では図4に示すように濃度調整部330を設けた。濃度調整部330では、循環する研削液310に含まれる遊離砥粒の濃度を公知の手段で測定し、所望の濃度になるように公知の手段で調整する。よって、修正レートを一定に保つことができ、固定砥粒ツール160内のダイヤモンド粒子520砥出量を精度良く調整することができる。
【0037】
この修正工程において、上定盤140及び下定盤10の研削面に配備されている固定砥粒ツール160の取代は、50〜100数十μm程度とするとよい。
【実施例】
【0038】
以下、本発明に係る固定砥粒ツールの表面形状修正方法の実施例を説明する。磁気ディスク用ガラス基板等の表面研削に用いられる表面加工装置の定盤の上に形成された固定砥粒ツール(ダイヤモンド粒子を固定砥粒とする)を、上記で図4を用いて説明したように修正した。具体的には、固定砥粒砥石としては、WA(ホワイトアランダム)をレジンボンドによって焼結させた固定砥粒砥石を用い、研削液としては水を用い、研削液中の遊離砥粒(固定砥粒砥石から遊離したもの)の濃度を濃度調整部により、3重量%、5重量%、10重量%、20重量%又は30重量%にそれぞれ保持しながら、修正を行った。また、比較のために濃度調整をせずに修正を行った。それぞれの場合について修正時間を20分間とした。
【0039】
また、固定砥粒砥石の固定砥粒ツールに対する押圧加重及び上定盤の回転速度は、それぞれ、固定砥粒ツールの平坦度が、修正前の概ね2/3になるまでは、低加重・低回転で行い、それ以降は、高加重・高回転で行った。具体的には、低加重・低回転の場合を押圧加重20g/cmとし、回転速度を10rpmとし、高加重・高回転の場合を押圧加重70g/cmとし、回転速度を30rpmとした。固定砥粒ツールの平坦度を定盤形状測定器(HIT INTERNATIONAL製 HSS−1400)を用いて測定しながら、平坦度が概ね2/3になった時点で、低加重・低回転から高加重・高回転に切り替えた。この測定器は、インターナルギヤ上に測定器の脚をセットし、定盤の端から端までを接触型の変位センサによって走査させて定盤形状を測定するものである。なお、このように低加重・低回転から高加重・高回転に切り替えて修正すると、低加重・低回転一定で実施した場合には十分な平坦度が得られ難いという欠点と、高加重・高回転一定で実施した場合には固定砥粒砥石が割れやすいという欠点を回避できる点で好適である。
【0040】
上記の修正を実施した後の固定砥粒ツールの平坦度を測定した。その結果を下記表1の固定砥粒ツール平坦度の欄に示した。固定砥粒ツール平坦度の欄において、○は、平坦度30μm以下、△は平坦度30〜50μm、×は50μmを超えることを示す。
【0041】
さらに、修正後の固定砥粒ツールを用いてガラス基板を所定の条件で研削加工し、加工基板平坦度を測定した。測定は、定盤形状測定器(HIT INTERNATIONAL製 HSS−1400)を用いて行った。その結果を下記表1の加工基板平坦度の欄に示した。加工基板平坦度の欄において、○は平坦度10μm以下、△は平坦度10〜15μm、×は15μmを超えることを示した。
【0042】
下記表1に示すように、研削液中の遊離砥粒濃度が5%〜20%の場合に固定砥粒ツール平坦度が30μm以下となり、良好な結果が得られた。また、その場合に、加工基板平坦度も良好な結果が得られた(平坦度10μm以下)。
【表1】

【0043】
以下、上記の表面形状修正方法により表面を修正した固定砥粒ツールを有する定盤を適用した表面加工装置を用いた磁気ディスク用ガラス基板の製造方法および磁気ディスクの製造方法を説明する。この磁気ディスク用ガラス基板および磁気ディスクは、0.8インチ型ディスク(内径6mm、外径21.6mm、板厚0.381mm)、1.0インチ型ディスク(内径7mm、外径27.4mm、板厚0.381mm)、1.8インチ型磁気ディスク(内径12mm、外径48mm、板厚0.508mm)などの所定の形状を有する磁気ディスクとして製造される。また、2.5インチ型ディスクや3.5インチ型ディスクとして製造してもよい。
【0044】
(1)形状加工工程およびラッピング工程
本実施例に係る磁気ディスク用ガラス基板の製造方法においては、まず、板状ガラスの表面をラッピング(研削)加工してガラス母材とし、このガラス母材を切断してガラスディスクを切り出す。板状ガラスとしては、様々な板状ガラスを用いることができる。この板状ガラスは、例えば、溶融ガラスを材料として、プレス法やフロート法、ダウンドロー法、リドロー法、フュージョン法など、公知の製造方法を用いて製造することができる。これらのうち、プレス法を用いれば、板状ガラスを廉価に製造することができる。板状ガラスの材質としては、アモルファスガラスやガラスセラミクス(結晶化ガラス)を利用できる。板状ガラスの材料としては、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ボロシリケートガラス等を用いることができる。特にアモルファスガラスとしては、化学強化を施すことができ、また主表面の平坦性及び基板強度において優れた磁気ディスク用基板を供給することができるという点で、アルミノシリケートガラスを好ましく用いることができる。
【0045】
本実施例においては、溶融させたアルミノシリケートガラスを上型、下型、胴型を用いたダイレクトプレスによりディスク形状に成型し、アモルファスの板状ガラスを得た。なお、アルミノシリケートガラスとしては、SiO:58〜75重量%、Al:5〜23重量%、LiO:3〜10重量%、NaO:4〜13重量%を主成分として含有する化学強化ガラスを使用した。
【0046】
次に、この板状ガラスの両主表面をラッピング加工し、ディスク状のガラス母材とした。このラッピング加工は、遊星歯車機構を利用した両面ラッピング装置により、アルミナ系遊離砥粒を用いて行った。具体的には、板状ガラスの両面に上下からラップ定盤を押圧させ、遊離砥粒を含む研削液を板状ガラスの主表面上に供給し、これらを相対的に移動させてラッピング加工を行った。このラッピング加工により、平坦な主表面を有するガラス母材を得た。
【0047】
(2)切り出し工程(コアリング、フォーミング、チャンファリング)
次に、ダイヤモンドカッタを用いてガラス母材を切断し、このガラス母材から円盤状のガラス基板を切り出した。次に、円筒状のダイヤモンドドリルを用いて、このガラス基板の中心部に内孔を形成し、円環状のガラス基板とした(コアリング)。そして内周端面および外周端面をダイヤモンド砥石によって研削し、所定の面取り加工を施した(フォーミング、チャンファリング)。
【0048】
(3)固定砥粒法による研削工程
次に、ガラス基板を、上記の表面形状修正方法により表面を修正した固定砥粒ツールを有する定盤を適用した表面加工装置により研削した。表面形状修正において、遊離砥粒の濃度を5%〜20%とした場合であって、固定砥粒ツール表面の平坦度が、30μm以下の定盤を用いた。研削後のガラス基板の平坦度は、10μm以下であった。
【0049】
(4)端面研磨工程
次に、ガラス基板の外周端面について、ブラシ研磨方法により、鏡面研磨を行った。このとき、研磨砥粒としては、酸化セリウム砥粒を含むスラリー(遊離砥粒)を用いた。
【0050】
そして、端面研磨工程を終えたガラス基板を水洗浄した。この端面研磨工程により、ガラス基板の端面は、ナトリウムやカリウムの析出の発生を防止できる鏡面状態に加工された。特に内周端面は、200〜300枚ほどの多数枚を積層して研磨した場合であっても、内孔の公差や真円度が低下することなく良好な状態であった。
【0051】
(5)主表面研磨工程
主表面研磨工程として、まず第1研磨工程を施した。この第1研磨工程は、前述のラッピング工程において主表面に残留したキズや歪みの除去を主たる目的とするものである。この第1研磨工程においては、遊星歯車機構を有する両面研磨装置により、硬質樹脂ポリッシャを用いて、主表面の研磨を行った。研磨剤としては、酸化セリウム砥粒を用いた。
【0052】
この第1研磨工程を終えたガラス基板を、中性洗剤、純水、IPA(イソプロピルアルコール)、の各洗浄槽に順次浸漬して、洗浄した。
【0053】
次に、主表面研磨工程として、第2研磨工程を施した。この第2研磨工程は、主表面を鏡面状に仕上げることを目的とする。この第2研磨工程においては、遊星歯車機構を有する両面研磨装置により、軟質発泡樹脂ポリッシャを用いて、主表面の鏡面研磨を行った。研磨剤としては、第1研磨工程で用いた酸化セリウム砥粒よりも微細な酸化セリウム砥粒を用いた。
【0054】
この第2研磨工程を終えたガラス基板を、中性洗剤、純水、IPA(イソプロピルアルコール)の各洗浄槽に順次浸漬して、洗浄した。なお、各洗浄槽には、超音波を印加した。
【0055】
(6)化学強化工程
次に、ガラス基板に、化学強化を施した。化学強化は、まず硝酸カリウム(60%)と硝酸ナトリウム(40%)を混合した粉末状の化学強化塩を、固体の化学強化塩として用意し、塩投入容器に投入して、電磁波発生器によって加熱溶融した。
【0056】
このように、ガラス基板中のリチウムイオンおよびナトリウムイオンが、化学強化溶液中のナトリウムイオンおよびカリウムイオンにそれぞれ置換され、ガラス基板が強化された。
【0057】
化学強化処理を終えたガラス基板を、20℃の水槽に浸漬して急冷し、約10分間維持した。そして、急冷を終えたガラス基板を、約40℃に加熱した濃硫酸に浸漬して洗浄を行った。さらに、硫酸洗浄を終えたガラス基板を純水、IPA(イソプロピルアルコール)の各洗浄槽に順次浸漬して洗浄した。
【0058】
上記の如く、本実施例においては、本発明に係る固定砥粒ツールの修正方法により表面を修正した固定砥粒ツールを有する定盤を用いてガラス基板を研削したので、平坦かつ平滑な磁気ディスク用ガラス基板を得た。
【0059】
(7)磁気ディスク製造工程
上述した工程を経て得られたガラス基板の両面に、ガラス基板の表面にCr合金からなる付着層、CoTaZr基合金からなる軟磁性層、Ruからなる下地層、CoCrPt基合金からなる垂直磁気記録層、水素化炭素からなる保護層、パーフルオロポリエーテルからなる潤滑層を順次成膜することにより、垂直磁気記録ディスクを製造した。なお、本構成は垂直磁気ディスクの構成の一例であるが、面内磁気ディスクとして磁性層等を構成してもよい。
【0060】
上述の磁気ディスクの製造方法を用いて製造された磁気ディスク用ガラス基板は、DFH(Dynamic Flying Height)ヘッド対応の磁気ディスク用のガラス基板である。磁気ヘッド浮上量の制御を安定化し、更なる低浮上量化を図るための技術の1つとして、近年、DFH(Dynamic Flying Height)という技術が開発されている。磁気ヘッドにヒータ素子を埋め込み、磁気ヘッドの動作時に、ヒータ素子を発熱させ、その熱によって磁気ヘッドが熱膨張し、磁気ディスクに向かってわずかに突出する。これにより、磁気ヘッドと磁気ディスク主表面との間の磁気的な間隙である磁気的スペーシングをその時にのみ小さくすることが可能である。すなわち、DFHとは、磁気ヘッドの磁気ディスクからの浮上量を低浮上量化することが可能な技術である。
【0061】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0062】
例えば、上記実施例においては、固定砥粒砥石の固定砥粒ツールに対する押圧加重及び上定盤の回転速度を、それぞれ、固定砥粒ツールの平坦度が修正前の概ね2/3になるまでは、低加重・低回転で行い、それ以降は、高加重・高回転で行った。その際に、低加重・低回転の場合を押圧加重20g/cmとし、回転速度を10rpmとし、高加重・高回転の場合を押圧加重70g/cmとし、回転速度を30rpmとしたが、これには限定されず、低加重の場合は、5g/cm〜35g/cmの範囲であればよく、高加重の場合は、35g/cm〜100g/cmの範囲であればよい。また低回転の場合は0rpm〜20rpmの範囲であればよく、高回転の場合は20rpm〜40rpmの範囲であればよい。または、加重及び回転数を一定とした場合でも良い。
【符号の説明】
【0063】
10 下定盤
100 ガラス基板
110 キャリヤ
120 太陽ギヤ
130 インターナルギヤ
140 上定盤
160 固定砥粒ツール
230 固定砥粒砥石
310 研削液
330 濃度調整部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
定盤上に形成された固定砥粒ツールを用いてガラス基板の主表面を研削する研削工程を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、
前記固定砥粒ツールは、前記固定砥粒ツールに固定砥粒砥石を所定の加重で押圧し、研削液を循環して供給しながら前記固定砥粒ツールと前記固定砥粒砥石とを所定の回転速度で摺動させると共に、前記固定砥粒砥石から遊離化した遊離砥粒の前記研削液中の濃度が実質的に一定になるよう濃度調整することにより、前記固定砥粒ツールの表面を修正したものであって、前記固定砥粒ツールの表面の平坦度が30μm以下であることを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記固定砥粒ツールの表面の平坦度が、修正前に比べて概ね2/3になった以降は、前記所定の加重を所定量だけ増加すると共に、前記所定の回転速度を所定量だけ増加して表面修正することを特徴とする請求項1記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記遊離砥粒の前記研削液中の濃度が5重量%〜20重量%となるように濃度調整する請求項1又は2記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記固定砥粒ツールに含有される固定砥粒は、ダイヤモンド、人工ダイヤ、又はガーネットである請求項1乃至3のいずれか記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項5】
定盤上に形成された固定砥粒ツールに、固定砥粒砥石を所定の加重で押圧し、研削液を循環して供給しながら前記固定砥粒ツールと前記固定砥粒砥石とを所定の回転速度で摺動させて固定砥粒ツールの表面を修正する方法であって、前記固定砥粒砥石から遊離化した遊離砥粒の前記研削液中の濃度が実質的に一定になるよう濃度調整することを特徴とする固定砥粒ツールの表面修正方法。
【請求項6】
前記固定砥粒ツールの表面の平坦度が、修正前に比べて概ね2/3になった以降は、前記所定の加重を所定量だけ増加すると共に、前記所定の回転速度を所定量だけ増加して表面修正することを特徴とする請求項5記載の固定砥粒ツールの表面修正方法。
【請求項7】
前記遊離砥粒の前記研削液中の濃度が5重量%〜20重量%となるように濃度調整する請求項5又は6記載の固定砥粒ツールの表面修正方法。
【請求項8】
前記固定砥粒ツールに含有される固定砥粒は、ダイヤモンド、人工ダイヤ、又はガーネットである請求項5乃至7のいずれか記載の固定砥粒ツールの表面修正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−250893(P2010−250893A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−98877(P2009−98877)
【出願日】平成21年4月15日(2009.4.15)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】