説明

磁気ヘッド、磁気ヘッドアセンブリ及び磁気記録再生装置

【課題】高出力で低抵抗の磁気抵抗効果素子を有する磁気ヘッド、磁気ヘッドアセンブリ及び磁気記録再生装置を提供する。
【解決手段】実施形態によれば、磁気記録媒体に対向する媒体対向面を有し、前記磁気記録媒体に記録された磁化の方向を検出する再生部を備える磁気ヘッドが提供される。前記再生部は、磁化の方向が固着された第1磁化固着層と、前記媒体対向面に対して平行な第1方向に沿って前記第1磁化固着層と積層され、磁化の方向が固着された第2磁化固着層と、前記第1磁化固着層と前記第2磁化固着層との間に設けられ、磁化の方向が可変の磁化自由層と、を含む。前記磁化自由層の前記媒体対向面に対して垂直な第2方向に沿った長さは、前記第1磁化固着層の前記第2方向に沿った長さよりも短く、前記第2磁化固着層の前記第2方向に沿った長さよりも短い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気ヘッド、磁気ヘッドアセンブリ及び磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気抵抗効果素子(magnetoresistive effect element)は、磁気ヘッド(例えば、MRヘッド:magnetoresistive head)に用いられている。MRヘッドは、磁気記録再生装置に搭載され、ハードディスクドライブ等の磁気記録媒体からの情報を読み取る。ハードディスクの性能(記録密度)を高めるために、高出力で低抵抗の磁気ヘッドが要求されている。特に、記録密度の向上のために空間分解能がさらに高まる中で、高出力かつ低抵抗の磁気ヘッドを得る技術が重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−208744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態は、高出力で低抵抗の磁気抵抗効果素子を有する磁気ヘッド、磁気ヘッドアセンブリ及び磁気記録再生装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態によれば、磁気記録媒体に対向する媒体対向面を有し、前記磁気記録媒体に記録された磁化の方向を検出する再生部を備える磁気ヘッドが提供される。前記再生部は、磁化の方向が固着された第1磁化固着層と、前記媒体対向面に対して平行な第1方向に沿って前記第1磁化固着層と積層され、磁化の方向が固着された第2磁化固着層と、前記第1磁化固着層と前記第2磁化固着層との間に設けられ、磁化の方向が可変の磁化自由層と、を含む。前記磁化自由層の前記媒体対向面に対して垂直な第2方向に沿った長さは、前記第1磁化固着層の前記第2方向に沿った長さよりも短く、前記第2磁化固着層の前記第2方向に沿った長さよりも短い。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】図1(a)〜図1(d)は、第1の実施形態に係る磁気ヘッドを示す模式図である。
【図2】第1の実施形態に係る磁気ヘッドを示す模式的斜視図である。
【図3】第1の実施形態に係る磁気ヘッドを搭載するヘッドスライダを示す模式的斜視図である。
【図4】磁気ヘッドの特性を例示するグラフ図である。
【図5】図5(a)〜図5(d)は、第1の実施形態に係る別の磁気ヘッドを示す模式図である。
【図6】図6(a)〜図6(d)は、第1の実施形態に係る別の磁気ヘッドを示す模式図である。
【図7】磁気ヘッドの特性を例示するグラフ図である。
【図8】図8(a)〜図8(d)は、第1の実施形態に係る別の磁気ヘッドを示す模式図である。
【図9】図9(a)〜図9(d)は、第1の実施形態に係る別の磁気ヘッドを示す模式図である。
【図10】図10(a)〜図10(d)は、第1の実施形態に係る別の磁気ヘッドを示す模式図である。
【図11】図11(a)〜図11(d)は、第2の実施形態に係る磁気ヘッドの製造方法を示す工程順模式的断面図である。
【図12】図12(a)及び図12(b)は、第2の実施形態に係る磁気ヘッドの製造方法を示す工程順模式的断面図である。
【図13】第2の実施形態に係る磁気ヘッドの製造方法を示すフローチャート図である。
【図14】第3の実施形態に係る磁気記録再生装置を示す模式的斜視図である。
【図15】図15(a)及び図15(b)は、第3の実施形態に係る磁気記録装置の一部を示す模式的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、本発明の各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0008】
(第1の実施の形態)
図1(a)〜図1(d)は、第1の実施形態に係る磁気ヘッドの構成を例示する模式図である。
すなわち、図1(a)は模式的斜視図であり、図1(b)は図1(a)のA1−A2線断面図であり、図1(c)は図1(a)のB1−B2線断面図であり、図1(d)は図1(a)のC1−C2線断面図である。
図2は、第1の実施形態に係る磁気ヘッドの構成を例示する模式的斜視図である。
図3は、第1の実施形態に係る磁気ヘッドを搭載するヘッドスライダの構成を例示する模式的斜視図である。
まず、本実施形態に係る磁気ヘッドの構成の概要と動作の概要について、図2及び図3を用いて説明する。
【0009】
図2に表したように、磁気ヘッド110は、再生部70(再生ヘッド部)を備えている。さらに、磁気ヘッド110は、書き込み部60(書き込みヘッド部)を備えることができる。
【0010】
書き込み部60は、例えば、主磁極61と、リターンパス(シールド)62と、を備える。なお、磁気ヘッド110において、書き込み部60は、スピントルク発振子10などの記録過程に対するアシスト機能する部分をさらに備えることができる。すなわち、磁気ヘッド110の書き込み部60は、任意の構成を有することができる。
【0011】
再生部70は、磁気抵抗効果素子71と、第1磁気シールド72aと、第2磁気シールド72bとを含む。磁気抵抗効果素子71は、第1磁気シールド72aと第2磁気シールド72bとの間に設けられている。後述するように、第1磁気シールド72a及び第2磁気シールド72bは必要に応じて設けられ、場合によっては省略できる。
【0012】
上記の再生部70の各要素、及び上記の書き込み部60の各要素は、図示しない、例えばアルミナの絶縁体により分離される。
【0013】
図3に表したように、磁気ヘッド110は、ヘッドスライダ3に搭載される。ヘッドスライダ3には、例えばAl/TiCなどが用いられる。
ヘッドスライダ3は、磁気ディスクなどの磁気記録媒体80の上を、浮上または接触しながら、磁気記録媒体80に対して相対的に運動する。
【0014】
ヘッドスライダ3は、例えば、空気流入側3Aと空気流出側3Bとを有する。磁気ヘッド110は、ヘッドスライダ3の空気流出側3Bの側面などに配置される。これにより、ヘッドスライダ3に搭載された磁気ヘッド110は、磁気記録媒体80の上を浮上または接触しながら磁気記録媒体80に対して相対的に運動する。
【0015】
図2に表したように、磁気記録媒体80は、例えば媒体基板82と、媒体基板82の上に設けられた磁気記録層81と、を有する。書き込み部60から印加される磁界により、磁気記録層81の磁化83が制御され、これにより書き込み動作が実施される。このとき、磁気記録媒体80は、媒体移動方向85の方向に沿って、磁気ヘッド110に対して相対的に移動する。
【0016】
再生部70は、磁気記録媒体80に対向して配置される。磁気記録媒体80は、媒体移動方向85の方向に沿って、磁気ヘッド110に対して相対的に移動し、再生部70は、磁気記録層81の磁化83の方向を検出する。これにより、再生動作が実施される。
【0017】
図1(a)〜図1(d)は、再生部70の構成を例示している。
この図においては、第1磁気シールド72a及び第2磁気シールド72bは省略されている。
【0018】
図1(a)〜図1(d)に表したように、本実施形態に係る磁気ヘッド110は、再生部70を備える。再生部70は、磁気記録媒体80に対向する媒体対向面701(ABS:Air Bearing Surface)を有する。再生部70は、磁気記録媒体80に記録された磁化83の方向を検出する。
【0019】
再生部70は、第1磁化固着層710と、第2磁化固着層720と、磁化自由層730と、を含む。第1磁化固着層710、第2磁化固着層720及び磁化自由層730は、磁気抵抗効果素子71に含まれる。
【0020】
第1磁化固着層710の磁化(第1磁化710a)の方向は固着されている。
第2磁化固着層720は、媒体対向面701に対して平行な第1方向に沿って第1磁化固着層710と積層される。第2磁化固着層720の磁化(第1磁化720a)の方向は固着されている。
【0021】
ここで、本願明細書において、「積層」とは、複数の層が互いに接して重ねられる状態の他に、間に別の層が挿入されて重ねられる場合も含む。
【0022】
磁化自由層730は、第1磁化固着層710と第2磁化固着層720との間に設けられる。磁化自由層730の磁化の方向は可変である。
【0023】
ここで、第1磁化固着層710から第2磁化固着層720に向かう方向をX軸方向とする。媒体対向面701に対して垂直な方向をZ軸方向とする。X軸方向に対して垂直でZ軸方向に対して垂直な方向をY軸方向とする。
【0024】
本具体例では、X軸方向は、媒体対向面701に対して平行である。このとき、「平行」は、X軸方向と媒体対向面701とが厳密に平行である場合の他に、X軸方向が媒体対向面701と小さい角度で傾斜していている場合も含む。例えば、X軸方向は、媒体対向面701に対してプラスマイナス10度以下で傾斜していても良い。
なお、X軸方向は第1方向に一致する。
【0025】
なお、X軸方向は、例えばダウントラック方向(媒体移動方向85)に沿う。Y軸方向は、例えばクロストラック方向(トラック幅方向)に沿う。なお、書き込み部60は、再生部70と、例えばX軸方向に沿って並ぶ。例えば、媒体移動方向85は、再生を行う磁気記録媒体80の相対位置によって、X軸方向に対してプラスマイナス20度以下で傾いている場合がある。従って、このときの「沿う」は、X軸方向(第1磁化固着層710から第2磁化固着層720に向かう方向)が、媒体移動方向85に対して厳密に平行である場合の他に、例えばプラスマイナス20度以下で傾いている場合を含む。
【0026】
第1磁化固着層710及び第2磁化固着層720には、例えば、Fe、Co、Ni、FeCo合金及びFeNi合金などの強磁性材料を用いることができる。
磁化自由層730には、例えば、Fe、Co、Ni、FeCo合金及びFeNi合金などの強磁性材料を用いることができる。
【0027】
本具体例においては、第1磁化固着層710と磁化自由層730との間に第1導電層711が設けられている。第2磁化固着層720と磁化自由層730との間に第2導電層721が設けられている。第1導電層711及び第2導電層721には、例えば、銅などの非磁性の導電材料を用いることができる。
【0028】
本具体例においては、第1磁化固着層710の磁化自由層730とは反対の側に第1反強磁性層712が設けられている。すなわち、第1反強磁性層712と磁化自由層730との間に第1磁化固着層710が設けられている。第1反強磁性層712により第1磁化固着層710の磁化(第1磁化710a)の方向が固着される。第2磁化固着層720の磁化自由層730とは反対の側に第2反強磁性層722が設けられている。すなわち、第2反強磁性層722と磁化自由層730との間に第2磁化固着層720が設けられている。第2反強磁性層722により第2磁化固着層720の磁化(第2磁化720a)の方向が固着される。第1反強磁性層712及び第2反強磁性層722には、例えば、PtMn、PdPtMn、IrMn、RuRhMnなどの反強磁性材料を用いることができる。
【0029】
第1導電層711及び第2導電層721を介して磁化自由層730に電圧(バイアス電圧)が印加される。具体的には、例えば第1反強磁性層712と第2反強磁性層722との間)にバイアス電圧が印加され、第1磁化固着層710、第1導電層711、第2磁化固着層720及び第2導電層721を介して、磁化自由層730に電流が通電される。これにより、磁気抵抗効果素子71における抵抗を検出することで、磁気記録媒体80の磁化83の方向を検出し、再生動作が実施される。
【0030】
後述するように、第1導電層711及び第2導電層721は必要に応じて設けられ、場合によっては省略できる。例えば、第1導電層711及び第2導電層721の機能を第1磁化固着層710及び第2磁化固着層720が果たすことができる。
【0031】
本具体例においては、再生部70の媒体対向面701上に保護層780が設けられている。保護層780には、非磁性材料である例えばカーボンが用いられる。保護層780の厚さは、例えば、1ナノメートル(nm)以上3nm以下とされる。保護層780は必要に応じて設けられ、場合によっては省略される。
【0032】
本実施形態に係る磁気ヘッド110の再生部70においては、第1磁化固着層710、磁化自由層730及び第2磁化固着層720の積層構造体の、磁気記録媒体80に対向する側の端の面が媒体対向面701とされる。
【0033】
第1磁化固着層710の媒体対向面701の側の端710e、第2磁化固着層720の媒体対向面701の側の端720e、及び、磁化自由層730の媒体対向面701の側の端730eは、媒体対向面701を含む平面内にある。すなわち、第1磁化固着層710、第2磁化固着層720及び磁化自由層730は、再生部70の中で、磁気記録媒体80に近接して配置される。これにより、再生部70における磁気記録媒体80の磁化83を効率良く検出することができる。
【0034】
第1磁化固着層710の厚さT1(X軸方向に沿った長さ)は、例えば1nm以上10nm以下とされる。本具体例では、厚さT1は4nmとされる。
第2磁化固着層720の厚さT2(X軸方向に沿った長さ)は、例えば1nm以上10nm以下とされる。本具体例では、厚さT2は4nmとされる。
磁化自由層730の厚さT3(X軸方向に沿った長さ)は、例えば1nm以上10nm以下とされる。本具体例では、厚さT3は5nmとされる。
【0035】
図1(b)に表したように、磁気抵抗効果素子71のX軸方向に沿った厚さT0は、第1磁化固着層710の厚さT1、第2磁化固着層720の厚さT2、磁化自由層730の厚さT3、第1導電層711の厚さ、第2導電層721の厚さ、第1反強磁性層712の厚さ、及び、第2反強磁性層722の厚さの合計となる。
【0036】
再生部70において、例えば、磁気抵抗効果素子71が第1磁気シールド72aと第2磁気シールド72bとの間に設けられ、磁気抵抗効果素子71の厚さT0がギャップ長に相当する。
【0037】
本具体例では、第1磁化固着層710のY軸方向に沿った長さ(第1磁化固着層幅W1)は、第2磁化固着層720のY軸方向に沿った長さ(第2磁化固着層幅W2)と同じである。そして、Y軸方向に沿った磁化自由層730の長さ(磁化自由層幅W3)は、第1磁化固着層幅W1及び第2磁化固着層幅W2と同じである。ただし、後述するように、磁化自由層幅W3は、第1磁化固着層幅W1及び第2磁化固着層幅W2よりも小さく設定されても良い。
【0038】
第1磁化固着層幅W1及び第2磁化固着層幅W2は、例えば4nm以上200nm以下とされる。本具体例では、第1磁化固着層幅W1及び第2磁化固着層幅W2は、12nmである。
磁化自由層幅W3は、第1磁化固着層幅W1及び第2磁化固着層幅W2以下に設定される。本具体例では磁化自由層幅W3も12nmに設定されている。
【0039】
図1(b)に表したように、本具体例では、第1磁化固着層710の磁化(第1磁化710a)の方向は、第2磁化固着層720の磁化(第2磁化720a)の方向に対して平行である。このとき、「平行」は、第1磁化710aの方向が、第2磁化720aの方向と厳密に平行である場合の他、第1磁化710aの方向と第2磁化720aの方向との角度が、プラスマイナス20度以下であることを含む。
【0040】
具体的には、第1磁化710aの方向はZ軸方向に対して平行である。第2磁化720aの方向はZ軸方向に対して平行である。例えば、第1磁化710aの方向とZ軸方向との角度はプラスマイナス20度以下でも良い。例えば、第2磁化720aの方向とZ軸方向との角度はプラスマイナス20度以下でも良い。
ただし、実施形態はこれに限らず、後述するように、例えば、第1磁化710aの方向はY軸方向に対して平行で、第2磁化720aの方向はY軸方向に対して平行でも良い。
【0041】
磁化自由層730の磁化の容易軸(磁化容易軸730a)は、第1磁化固着層710の磁化(第1磁化710a)の方向に対して交差し、第2磁化固着層720の磁化(第2磁化720a)の方向と交差する。
【0042】
具体的には、磁化自由層730の磁化容易軸730aは、第1磁化固着層710の磁化(第1磁化710a)の方向に対して直交し、第2磁化固着層720の磁化(第2磁化720a)の方向と直交している。このとき、「直交」は必ずしも厳密な直交だけではなく、直交に近い状態を含む。磁化自由層730の磁化容易軸730aと、第1磁化710aの方向と、の角度は、例えば60度以上120度以下とされる。磁化自由層730の磁化容易軸730aと、第2磁化720aの方向と、の角度は、例えば60度以上120度以下とされる。このように、磁化自由層730の磁化容易軸730aは、第1磁化固着層710の磁化の方向に対して垂直であり、第2磁化固着層720の磁化の方向に対して垂直である。このとき、「垂直」は、磁化容易軸730aと、第1磁化固着層710の磁化の方向と、が厳密に垂直であり、磁化容易軸730aの方向と、第2磁化固着層720の磁化の方向と、が厳密に垂直である場合の他、これらの間の角度が上記の角度である場合を含む。
【0043】
本実施形態に係る磁気ヘッド110の再生部70においては、磁化自由層730の媒体対向面701に対して垂直な第2方向(Z軸方向)に沿った長さ(磁化自由層高さH3)は、第1磁化固着層710の第2方向に沿った長さ(第1磁化固着層高さH1)よりも短く、第2磁化固着層720の第2方向に沿った長さ(第2磁化固着層高さH2)よりも短い。
【0044】
第1磁化固着層高さH1及び第2磁化固着層高さH2は、例えば磁化自由化層730の高さ(磁化自由化層高さH3)以上200nm以下とされる。本具体例では、第1磁化固着層高さH1及び第2磁化固着層高さH2は、100nmである。
磁化自由層高さH3は、例えば2nm以上8nm未満に設定される。本具体例では、磁化自由層高さH3は、5nmに設定されている。
【0045】
これにより、再生部70において(すなわち磁気抵抗効果素子71において)、高出力で低抵抗が得られる。
【0046】
なお、第1磁化固着層710と第2磁化固着層720とは相互に入れ替えても良い。このとき、第1磁化固着層710と第2磁化固着層720との入れ替えに連動して、第1反強磁性層712と第2反強磁性層722とは相互に入れ替えられる。また、第1導電層711と第2導電層721とは相互に入れ替えられる。
【0047】
なお、磁気ヘッド110においては、第1磁化固着層710と第2磁化固着層720との間において(具体的には、第1導電層711と第2導電層721との間において)、磁化自由層730が設けられていない部分には、非磁性体の絶縁層740が設けられている。絶縁層740には、例えば酸化シリコンなどが用いられる。絶縁層740は、第1磁化固着層710(具体的には第1導電層711)と、第2磁化固着層720(具体的には第2導電層721)と、を電気的に分断する。
【0048】
図4は、磁気ヘッドの特性を例示するグラフ図である。
すなわち、同図は、第1磁化固着層高さH1の磁化自由層高さH3に対する比率R1(R1=H1/H3)を変えたときの出力P1をシミュレーションした結果を例示している。ここで、出力P1は、孤立再生出力である。
【0049】
このシミュレーションにおいては、第2磁化固着層高さH2は第1磁化固着層高さH1と同じとし、磁化自由層高さH3を5nmで一定とし、第1磁化固着層高さH1及び第2磁化固着層高さH2を変えたときの出力P1がシミュレーションされた。同図の横軸は比率R1であり、縦軸は出力P1を示す。なお、このシミュレーションにおいては、MRの原理としてGMRを仮定し、第1磁化固着層710と磁化自由化層730との界面、第2磁化固着層720と磁化自由層730との界面、第1磁化固着層710の層内、第2磁化固着層720の層内、及び、磁化自由層730の層内、において、MR効果が発現すると仮定した。また、磁化自由化層幅W3が10nmであり、第1磁化固着層710の厚さT1及び第2磁化固着層720の厚さT2が10nmであり、磁化自由層730の厚さT3が5nmである素子を仮定した。バイアス電流の上限値はMR素子の温度で決まると仮定して、バイアス電流の上限値はMR素子の温度が90℃の時の値とした。
【0050】
図4に表したように、比率R1が1よりも小さいとき、すなわち、磁化自由層高さH3が第1磁化固着層高さH1よりも大きいときは、出力P1が小さく、例えば出力P1は4ミリボルト(mV)〜4.5mVである。比率R1が1以上になると出力P1が増大する。比率R1が2以上になると出力P1が、例えば10mV〜12mVとほぼ一定となる。
【0051】
すなわち、磁化自由層高さH3が第1磁化固着層高さH1よりも小さくなると出力P1が増大し、磁化自由層高さH3が第1磁化固着層高さH1の2分の1以下になると、出力P1がほぼ飽和する。
【0052】
このように、磁化自由層高さH3が第1磁化固着層高さH1よりも小さくなると、出力P1が増大する。
【0053】
本実施形態に係る磁気ヘッド110においては、このように、磁化自由層高さH3が第1磁化固着層高さH1よりも小さく、磁化自由層730の面積が第1磁化固着層710及び第2磁化固着層720の面積よりも小さいという新しい構成を採用している。
【0054】
この構成においては、磁化自由層730の面積が第1磁化固着層710及び第2磁化固着層720の面積よりも小さいため、磁気抵抗効果素子71における熱拡散効率が良くなる。これにより、大きな電流を流すことができ、その結果、出力が増大できる。
【0055】
さらに、磁化自由層730と第1磁化固着層710との界面の面積、及び、磁化自由層730と第2磁化固着層720との界面の面積が、第1磁化固着層710及び第2磁化固着層720の断面積(電流が通電される方向に対して垂直なY−Z平面で切断したときの断面積)よりも小さくなる。これにより、主にMR効果が発現する上記の界面における抵抗変化の、磁気抵抗効果素子71全体の抵抗に対する割合(抵抗変化率)を大きくすることができる。
【0056】
そして、抵抗変化率を上げつつ、磁気抵抗効果素子71全体を低抵抗化することができる。これは、電流の狭窄の効果に基づいている。すなわち、磁化自由層730の面積が、第1磁化固着層710及び第2磁化固着層720の面積よりも小さいため、第1磁化固着層710と第2磁化固着層720との間に流れる電流が、磁化自由層730において狭窄される。これにより、抵抗変化率を上げつつ低抵抗化が可能になる。
【0057】
なお、CPP(Current Perpendicular to Plane)−CPP(Current-Confined-Path)−GMR(giant magneto resistive effect)素子においては、素子中の非磁性中間層における電流経路を狭窄するのに対し、本実施形態に係る構成においては、磁化自由層730の全体の面積を小さくすることで、電流経路を狭窄する。
【0058】
磁気記録媒体80における記録密度の増大に伴い、磁気抵抗効果素子71の素子サイズは小さくなる。それに伴って印加できるバイアス電圧が低下する傾向にある。また、素子サイズが小さくなると、MRヘッドの抵抗が大きくなるため、素子の低抵抗化が必要とされる。
【0059】
このとき、実施形態に係る磁気ヘッド110においては、その新規な構成により、熱拡散効率の向上による大電流化、抵抗変化率の増大、及び、低抵抗化を実現できる。
【0060】
再生部70において、主にMR効果が発現するのは、磁化自由層730と磁化固着層との界面である。実施形態に係る磁気ヘッド110においては、磁化固着層を2枚使用することにより、主にMR効果が発現する磁化自由層730と磁化固着層との界面が、1枚の磁化固着層を用いた場合の2倍となる。このため、本実施形態においては、GMR効果に基づく全体の出力(最大抵抗変化)が、磁化固着層を1枚用いる構成に対して少なくとも1.5倍になる。
【0061】
実施形態に係る磁気ヘッド110における新しい構成により、スピントルクノイズも抑制できる。
すなわち、第1磁化固着層710と第2磁化固着層720との2つの磁化固着層を用いることで、例えば、一方の磁化固着層からの透過のトルクと、他方の磁化固着層による反射のトルクと、の両方のトルクが、磁化自由層730に印加され、そのトルクの方向は互いに逆になる。これにより、トルクの総量は、1つの磁化固着層を用いる場合よりも小さくなる。
【0062】
一般に知られているスピンバルブ構造の磁気抵抗効果膜を再生素子として機能させるには、膜面に略垂直にバイアス電流(センス電流)を流す。この際、バイアス電流を流すことによって、伝導電子もバイアス電流とは逆方向に流れる。その際、最初に通過した磁性膜のスピン角運動量は、伝導電子のスピン角運動量を介して次に通過する磁性膜に流れ込み、その磁化にトルクを与える。
【0063】
例えば、伝導電子が磁化固着層から磁化自由層に流れる場合は、磁化固着層を通過した際の角運動量が磁化自由層中の磁化にトルクを与えるようになる。また、伝導電子が磁化自由層から磁化固着層に流れる場合は、磁化自由層を通過した際の角運動量が磁化固着層中の磁化にトルクを与えるようになる。
【0064】
上述のようにして発生するトルクは、いわゆるスピントランスファートルクと呼ばれる。このスピントランスファートルクは、ハードディスク等で用いる再生素子に対しては、磁化自由層の磁化に大きな影響を及ぼし、磁気抵抗効果膜において大きなノイズとなる場合がある。
【0065】
すなわち、スピントルクの受け渡し効率は、電流の方向と、磁化自由層磁化と磁化固着層磁化との相対角度と、に大きく依存する。バイアス電流が磁化自由層から磁化固着層に(すなわち、伝導電子が磁化固着層から磁化自由層に)流れるときは、両層の磁化の相対角度は180度に近いほうが、受け渡し効率が良くなる。一方、バイアス電流が磁化固着層から磁化自由層に(すなわち、伝導電子が磁化自由層から磁化固着層に)流れるときは、両層の磁化の相対角度は0度に近いほうが、上記受け渡し効率が良くなる。
【0066】
前者の場合は、伝導電子のスピンが磁化固着層の磁化に対して平行で、磁化自由層の磁化に反平行であり、磁化固着層の磁化と平行なスピンを有する伝導電子が磁化固着層を透過して、磁化自由層に至るためである。後者の場合は、伝導電子のスピンは磁化固着層及び磁化自由層の磁化に対して平行であるが、磁化固着層の磁化に反平行なスピンを有する伝導電子が磁化固着層で反射されて、磁化自由層に入り込むためである。
【0067】
このように磁化自由層の磁化は、上述のようにして磁化自由層中に取り込まれたスピンに起因したトルクを受けるようになる。これにより、磁化自由層の磁化が乱雑に動いて不安定となり、これがノイズとなって再生出力が不十分となる場合がある。磁化自由層磁化と磁化固着層磁化との相対角度を考慮してバイアス電流の流す方向を変え、上述したスピントルクの受け渡し効率を減少させれば、スピントルクの受け渡し効率をある程度は減少させることができる。しかしながら、スピントランファートルクは、バイアス電流値にも依存し、バイアス電流値の増大とともに顕著になるので、単にバイアス電流の流す方向を変えたのみでは、スピントランファートルクの影響を十分に低減することはできない。
【0068】
一方、バイアス電流値を小さくすれば、バイアス電流を流す方向を考慮することなく、スピントランスファートルクを低減することができる。具体的には、約10(A/cm)以下とすれば、スピントランスファートルクの影響を低減することができる。
【0069】
しかしながら、バイアス電流値は磁気抵抗効果素子に要求される特性に大きく関わり、バイアス電流値が増大すれば、磁気抵抗効果素子のMR比が小さくても大きな再生出力を得ることができる。従って、バイアス電流値が約10(A/cm)以下のような場合には、十分な再生出力を得るには磁気抵抗効果素子のMR比が十分高いことが要求され。これに対し、知られているTMR(tunneling magneto resistive effect)素子及びGMR素子ではこのようなMR比を十分に満足することが困難であると考えられる。
【0070】
これに対し、実施形態に係る磁気ヘッド110においては、2つの磁化固着層を用いる新しい構成により、透過のトルクと反射のトルクとにおいてトルクの方向が互いに逆になる。これにより、スピントランスファートルクの影響を抑制する。これにより、スピントランスファートルクに起因した再生出力の減少が抑制され、高い再生出力が得られる。
【0071】
さらに、実施形態に係る磁気ヘッド110においては、熱磁気ノイズによるSN比の低下も抑制できる。
磁性体の磁化は、熱により常に擾乱を受けており、それに伴って磁化自由層や磁化固着層の磁化方向は、常にランダムに変動している。これが熱磁気ノイズの原因となる。このノイズは磁性体の体積の平方根に反比例すると考えられている。例えば、従来から知られている再生ヘッドにおいては、1平方インチあたり5テラビットの記録密度において、熱磁気ノイズが、再生ヘッドの主な原因である媒体起因ノイズと同等となると見積もられ、実用的に問題となる。
【0072】
これに対し、実施形態に係る磁気ヘッド110においては、第1磁化固着層710の高さH1及び第2磁化固着層720の高さH2を高くすることで、磁化固着層の体積が大きくなる。これにより、熱磁気ノイズによるSN比の低下が抑制できる。さらに、後述するようにY軸方向に沿った磁化自由層730の長さ(磁化自由層幅W3)を、磁化自由層730のZ軸方向に沿った長さ(磁化自由層高さH3)よりも長くすることで磁化自由層730の異方性磁界を大きくして、熱磁気ノイズによるSN比の低下が抑制できる。
【0073】
図5(a)〜図5(d)は、第1の実施形態に係る別の磁気ヘッドの構成を例示する模式図である。
すなわち、図5(a)は模式的斜視図であり、図5(b)は図5(a)のA1−A2線断面図であり、図5(c)は図5(a)のB1−B2線断面図であり、図5(d)は図5(a)のC1−C2線断面図である。
【0074】
図5(a)〜図5(d)に表したように、本実施形態に係る磁気ヘッド111の再生部70においては、磁化自由層730の幅が狭くされている。これ以外は、磁気ヘッド110と同様なので説明を省略する。
【0075】
磁気ヘッド111においては、第1方向(X軸方向)及び第2方向(Z軸方向)に対して垂直な第3方向(Y軸方向)に沿った磁化自由層730の長さ(磁化自由層幅W3)は、第1磁化固着層710のY軸方向に沿った長さ(第1磁化固着層幅W1)よりも短く、第2磁化固着層720のY軸方向に沿った長さ(第2磁化固着層幅W2)よりも短い。
【0076】
本具体例においては、第1磁化固着層幅W1及び第2磁化固着層幅W2は50nmに設定され、磁化自由層幅W3は10nmに設定されている。
【0077】
これにより、熱拡散効率の向上による大電流化、抵抗変化率の増大、及び、低抵抗化がさらに促進される。すなわち、さらに高出力化及び低抵抗化が図れる。そして、熱磁気ノイズによるSN比の低下がさらに抑制される。
【0078】
なお、Y軸方向に沿った磁化自由層730の長さ(磁化自由層幅W3)は、磁化自由層730のZ軸方向に沿った長さ(磁化自由層高さH3)よりも長いことが望ましい。これにより、磁化自由層730の異方性磁界を大きくして、熱磁気ノイズによるSN比の低下が抑制できる。
【0079】
図6(a)〜図6(d)は、第1の実施形態に係る別の磁気ヘッドの構成を例示する模式図である。
すなわち、図6(a)は模式的斜視図であり、図6(b)は図6(a)のA1−A2線断面図であり、図6(c)は図6(a)のB1−B2線断面図であり、図6(d)は図6(a)のC1−C2線断面図である。
【0080】
図6(a)〜図6(d)に表したように、本実施形態に係る磁気ヘッド112の再生部70においては、第1磁気シールド72a及び第2磁気シールド72bが設けられている。磁気抵抗効果素子71(第1磁化固着層710、第2磁化固着層720及び磁化自由層730)は、第1磁気シールド72aと第2磁気シールド72bとの間に設けられている。
【0081】
第1磁気シールド72a及び第2磁気シールド72bには、例えば、NiFe、CoFe、Co及びFeなどの強磁性材料が用いられる。これにより、後述するように、再生波形特性が改善し、再生特性が向上する。
【0082】
通常のスピンバルブ膜を用いたCPP−MR素子においては、再生の空間分解能を確保するためにCPP−MR素子が2枚の軟磁性体のシールド層の間に配置される。再生ヘッドの空間分解能は、シールド層どうしの間隔(ギャップ長RG)に対応する。記録密度の上昇が進むと高い空間分解能が要求され、例えば一平方インチあたり5T(テラ)ビットの記録密度では12nmのギャップ長RGが必要と見積もられるが、CPP−MR素子においては、素子の厚さの限界からギャップ長RGの最小値は20nm程度と見積もられる。すなわち、CPP−MR素子においては、一方のシールドの上に、シード層(厚さが2nm〜3nm)、反強磁性層(厚さが5nm以上)、2枚の磁化固着層(厚さの合計が4nm)、金属(Cu)層(厚さが2nm)、磁化自由層(厚さが3nm)及びキャップ層(厚さが2nm〜3nm)が順次積層され、その上に他方のシールドが設けられる。このため、2つのシールドどうしの間隔は19nm〜22nm以上となり、見積もり値より大きくなってしまう。
【0083】
これに対し、第1の実施形態に係る再生部70において、第1磁化固着層710の厚さT1、第2磁化固着層720の厚さT2、磁化自由層730の厚さT3、第1導電層711の厚さ、第2導電層721の厚さ、第1反強磁性層712の厚さ、及び、第2反強磁性層722の厚さの合計である磁気抵抗効果素子71の厚さT0が、第1磁気シールド72aと第2磁気シールド72bとの間のギャップ長RGに対応する。実施形態におけるギャップ長RGは、従来のスピンバルブ膜を用いたCPP−MR素子に対して小さいとは言えない。
【0084】
以下、磁化自由層高さH3と空間分解能との関係について説明する。
図7は、磁気ヘッドの特性を例示するグラフ図である。
すなわち、同図は、磁化自由層高さH3を変えたときの孤立再生微分波形のパルス幅をシミュレーションした結果を例示している。本シミュレーションでは、第1磁気シールド72a及び第2磁気シールド72bが設けられる磁気ヘッド112の構成が採用され、ギャップ長RGが22nmに設定された。第1磁化固着層高さH1及び第2磁化固着層高さH2は、100nmとされ、第1磁化固着層幅W1及び第2磁化固着層幅W2は10nmとされた。そして、磁化自由層幅W3は10nmとされた。また、浮上量(Fly Height:磁気記録媒体80と媒体対向面701との間隔)は4nmとされた。
【0085】
同図の横軸は磁化自由層高さH3を示し、縦軸は孤立再生微分波形のパルス幅PW(孤立再生出力が、孤立再生パルス最大値の50%を示す位置でのパルスの幅)を示す。パルス幅PWは、再生部70の空間分解能に対応する。
【0086】
図7に表したように、磁化自由層高さH3が8nmよりも大きい領域においては、磁化自由層高さH3の増大と共にパルス幅PWが緩やかに上昇するが、パルス幅PWはほぼ一定である。これに対し、磁化自由層高さH3が8nm以下の領域では、磁化自由層高さH3の減少と共にパルス幅PWが著しく減少する。すなわち、磁化自由層高さH3が8nm以下においては、空間分解能の向上が顕著になる。
【0087】
このように、磁化自由層高さH3(磁化自由層730のZ軸方向に長さ)は、8nm以下であることが望ましい。これにより、空間分解能を向上させることができる。
【0088】
図7の結果は、第1磁気シールド72a及び第2磁気シールド72bが設けられる構成に関してのシミュレーション結果であるが、磁化自由層高さH3を小さく設定する(例えば8nm程度以下)ことで、第1磁気シールド72a及び第2磁気シールド72bを設けない構成においても必要とされる空間分解能を確保することもできる。
【0089】
第1磁気シールド72a及び第2磁気シールド72bの効果は、本実施形態の場合、孤立再生波形形状に関係する。例えば磁化自由層高さH3を5nmと設定した場合、磁気シールドの有無は、孤立再生出力が、孤立再生パルス最大値の50%を示す位置でのパルスの幅であるパルス幅PWには大きく影響しない。しかし、例えば、孤立再生出力が、孤立再生パルス最大値の25%を示す位置でのパルスの幅であるPW25は磁気シールドがある場合の方が小さくなる。これにより、パルス幅PWで定義する分解能は変わらなくとも最終的な再生特性は磁気シールドを備えた再生ヘッドの方が勝ることになる。
【0090】
また、スピンバルブ膜を用いたCPP−MR素子においては、ギャップ長の減少と共に熱磁気ノイズによるSN比が急激に大きくなる。例えば、熱磁気ノイズの出力に対する比率は、ギャップ長が20nm以上においては、許容される限界値である4%rms以下であるが、ギャップ長が20nmよりも小さくなると急激に増大し、例えばギャップ長が13.5nm(5Tbpiに対応する)においては、7%rmsと許容値を大きく超えてしまう。
【0091】
これに対し、実施形態に係る磁気ヘッド(例えば磁気ヘッド110〜112)においては、高出力化及び低抵抗化が図れ、スピントルクノイズが抑制され、熱磁気ノイズによるSN比の低下が抑制され、さらに、空間分解能も高い。
【0092】
実施形態に係る磁気ヘッド(例えば磁気ヘッド110〜112)においては、磁化自由層高さH3を第1磁化固着層高さH1及び第2磁化固着層高さH2よりも小さくする新しい構成により、高出力化及び低抵抗化が図れ、スピントルクノイズが抑制され、熱磁気ノイズによるSN比の低下が抑制される。この特性は、磁化自由層幅W3を、第1磁化固着層幅W1及び第2磁化固着層幅W2よりも小さくすることでさらに顕著となる。さらに、磁化自由層高さH3を適切に(例えば8nm以下)設定することで、空間分解能が向上できる。
【0093】
図8(a)〜図8(d)は、第1の実施形態に係る別の磁気ヘッドの構成を例示する模式図である。
すなわち、図8(a)は模式的斜視図であり、図8(b)は図8(a)のA1−A2線断面図であり、図8(c)は図8(a)のB1−B2線断面図であり、図8(d)は図8(a)のC1−C2線断面図である。
【0094】
図8(a)〜図8(d)に表したように、本実施形態に係る磁気ヘッド113の再生部70においては、第1導電層711及び第2導電層721が省略されている。第1導電層711及び第2導電層721の機能を、第1磁化固着層710と磁化自由層730との間に生じる磁壁、及び、第2磁化固着層720と磁化自由層730との間に生じる磁壁、が果たす。この構成においては、さらに高出力、低抵抗の再生ヘッドを実現できる。
【0095】
上記で説明した磁気ヘッド110〜113においては、Y軸方向に沿った磁化自由層730の長さ(磁化自由層幅W3)は、磁化自由層730のZ軸方向に沿った長さ(磁化自由層高さH3)よりも長い。すなわち、磁化自由層730は形状異方性を有している。
【0096】
この形状異方性を利用して、磁化自由層730にハードバイアス層の機能を持たせることができる。
すなわち、上記で説明した磁気ヘッド110〜113においては、Y軸方向に沿った磁化自由層730の長さ(磁化自由層幅W3)は、磁化自由層730のZ軸方向に沿った長さ(磁化自由層高さH3)よりも、例えば1.5倍以上長い場合に、磁化自由層730におけるハードバイアス層としての機能が大きくなる。これにより再生部70の動作がより安定化する。
【0097】
また磁化自由層730に、硬磁性材料を用いてハードバイアス層の機能を持たせることもできる。
すなわち、磁化自由層730の容易軸(磁化容易軸730a)がY軸に沿っている場合、磁化自由層730の異方性磁界Hkが1000エルステッド(Oe)以上である場合に、磁化自由層730におけるハードバイアス層としての機能が大きくなる。これにより再生部70の動作がより安定化する。この時、磁化自由層730の材料としては、Fe、Co及びNiなどの強磁性材料にCr及びPtの少なくともいずれか添加した材料、または、Ni及びFeなどの強磁性薄膜と、Pt及びCrなどの薄膜と、を、4層以上積層した人工格子膜などを用いることができる。
【0098】
ただし、実施形態において、磁化自由層730とは別にハードバイアス層をさらに設けても良い。
図9(a)〜図9(d)は、第1の実施形態に係る別の磁気ヘッドの構成を例示する模式図である。
すなわち、図9(a)は模式的斜視図であり、図9(b)は図9(a)のA1−A2線断面図であり、図9(c)は図9(a)のB1−B2線断面図であり、図9(d)は図9(a)のC1−C2線断面図である。
【0099】
図9(a)〜図9(d)に表したように、本実施形態に係る磁気ヘッド114の再生部70においては、磁化自由層730に対してY軸方向に沿って隣接するハードバイアス層750が設けられている。このハードバイアス層750には、例えば、CoPt、CoCrPt及びFePtなどの材料を用いることができる。これにより再生部70の動作をより安定化させることができる。
【0100】
図10(a)〜図10(d)は、第1の実施形態に係る別の磁気ヘッドの構成を例示する模式図である。
すなわち、図10(a)は模式的斜視図であり、図10(b)は図10(a)のA1−A2線断面図であり、図10(c)は図10(a)のB1−B2線断面図であり、図10(d)は図10(a)のC1−C2線断面図である。
【0101】
図10(a)〜図10(d)に表したように、本実施形態に係る磁気ヘッド116の再生部70においては、第1磁化固着層710の磁化(第1磁化710a)の方向は、Y軸方向に対して平行である。そして、第2磁化固着層720の磁化(第2磁化720a)の方向は、Y軸方向に対して平行である。このとき、「平行」は、第1磁化710aの方向がY軸方向に対して厳密に平行であり、第2磁化720aの方向がY軸方向に対して厳密に平行である場合に加え、例えば、第1磁化710aの方向とY軸方向との角度がプラスマイナス10度以下で、第2磁化720aの方向とY軸方向との角度がプラスマイナス10度以下である場合を含む。
【0102】
一方、磁化自由層730の磁化容易軸730aは、X軸方向に対して平行である。このとき、「平行」は、磁化容易軸730aがX軸方向に対して厳密に平行である場合に加え、例えば、磁化容易軸730aとX軸方向との角度がプラスマイナス20度以下である場合を含む。
【0103】
このように、磁気ヘッド116においては、第1磁化710a、第2磁化720a及び磁化容易軸730aが、例えば磁気ヘッド110におけるそれぞれの方向から90度回転している。
【0104】
このような構成を有する磁気ヘッド116においても、高出力化及び低抵抗化が図れ、スピントルクノイズが抑制され、熱磁気ノイズによるSN比の低下が抑制され、空間分解能が向上できる。
【0105】
この場合も、磁化自由層730に硬磁性材料を用いることで、磁化自由層730にハードバイアス層の機能を持たせることができる。すなわち、磁化自由層730の磁化の容易軸(磁化容易軸730a)がX軸方向に沿っている場合、磁化自由層730の異方性磁界Hkが3000Oe以上であるときに、磁化自由層730におけるハードバイアス層としての機能が大きくなる。これにより再生部70の動作がより安定化する。
【0106】
なお、この構成においては、磁化自由層730の磁化容易軸730aはX軸方向に沿っているので、ハードバイアス層を別途設けてハードバイアスを磁化自由層730の外部から磁化自由層730に印加するのは困難である。従って、上記のように、磁化自由層730を硬磁性にする構成(すなわち異方性磁界Hkを3000Oe以上にする構成)が有効である。
【0107】
また他の構成として、第1磁化固着層710の磁化(第1磁化710a)の方向、および、第2磁化固着層720の磁化(第2磁化720a)の方向が、X軸方向に対して平行で、かつ、磁化自由層730の磁化容易軸730aが、Y軸方向に対して平行である構成も適用できる。この場合も、各軸に対して「平行」は、軸方向との角度がプラスマイナス10度以下である場合を含む。
【0108】
本実施形態において、第1磁化固着層710として機能する層として、シンセティックピンド層を用いても良い。シンセティックピンド層においては、2枚の強磁性体層が数オングストロームの厚みのRuなどの非磁性層を介して積層される。この構成において、2枚の強磁性層のうちで反強磁性体層712に近い側の強磁性体層を磁化固着層と呼び、磁化自由層730に近い側の強磁性体層を磁化参照層と呼ぶ場合がある。ここでの磁化参照層の磁化と磁化固着層の磁化とは、Ru等の非磁性層を介して、互いに180度の方向に固着されている。この場合180度の固着とは、150度から210度の間の角度である場合も含む。
【0109】
シンセティックピンド層における磁化参照層を第1磁化固着層710と見なし、シンセティックピンド層における磁化固着層を第3磁化固着層と見なすことができる。すなわち、実施形態に係る磁気抵抗効果素子の再生部70は、第3磁化固着層と、第1中間層と、をさらに含むことができる。第3磁化固着層と磁化自由層730との間に第1磁化固着層710が配置される。第3磁化固着層の磁化の方向は、第1磁化固着層の磁化の方向に対して反平行な方向(上記のように、150度以上210度以下の角度)に固着されている。第1中間層は、第1磁化固着層710と第3磁化固着層との間に設けられ、非磁性である。
【0110】
同様に、第2磁化固着層720として機能する層として、シンセティックピンド層を用いても良い。すなわち、実施形態に係る磁気抵抗効果素子の再生部70は、第4磁化固着層と、第2中間層と、をさらに含むことができる。第4磁化固着層と磁化自由層730との間に第2磁化固着層720が配置される。第4磁化固着層の磁化の方向は、第2磁化固着層の磁化の方向に対して反平行な方向(例えば、150度以上210度以下の角度)に固着されている。第2中間層は、第2磁化固着層720と第4磁化固着層との間に設けられ、非磁性である。
【0111】
(第2の実施の形態)
図11(a)〜図11(d)は、第2の実施形態に係る磁気ヘッドの製造方法を例示する工程順模式的断面図である。
図12(a)及び図12(b)は、第2の実施形態に係る磁気ヘッドの製造方法を例示する工程順模式的断面図である。
なお、本製造方法は、上記で説明した磁気ヘッド111を製造する場合の製造方法である。図11(a)〜図11(d)は、X−Y平面に沿って切断した断面図であり、図12(a)及び図12(b)は、Y−Z平面に沿って切断したときの断面図である。
【0112】
図11(a)に表したように、例えば図示しない基体の上に、第1反強磁性層712となる第1反強磁性膜712f、第1磁化固着層710となる第1磁化固着膜710f、第1導電層711となる第1導電膜711f、及び、磁化自由層730となる磁化自由膜730fを順次積層する。
【0113】
図11(b)に表したように、磁化自由膜730fの上に所定の形状のレジスト膜730rを形成する。レジスト膜730rの形状は、フォトリソグラフィ技術により形成される。
【0114】
図11(c)に表したように、レジスト膜730rをマスクとして用い、磁化自由膜730fを加工する。この加工には例えばミリングエッチングなどの手法が用いられる。この加工により、磁化自由層730(磁化自由膜730f)の幅(磁化自由層幅W3)が第1磁化固着層710(第1磁化固着膜710f)の幅(第1磁化固着層幅W1)よりも小さくされる。なお、このとき、後述するように、磁化自由膜730fのZ軸方向に沿った長さは、第1磁化固着膜710fのZ軸方向に沿った長さよりも小さく加工される。この後、レジスト膜730rを除去する。
【0115】
図11(d)に表したように、磁化自由膜730fの上、及び、第1導電膜711fの上に、絶縁層740となる絶縁膜740fを形成し、表面を平坦化し、磁化自由膜730fを露出させる。そして、磁化自由膜730f及び絶縁膜740fの上に、第2導電層721となる第2導電膜721f、第2磁化固着層720となる第2磁化固着膜720f及び第2反強磁性層722となる第2反強磁性膜722fを順次積層する。これにより、磁気抵抗効果素子71となる積層構造体が形成される。
【0116】
図12(a)に表したように、上記の磁化自由膜730fの加工により、磁化自由膜730fのY軸方向に沿った幅は、第1磁化固着膜710fのY軸方向に沿った幅(幅W1a)よりも小さく、第2磁化固着膜720fのY軸方向に沿った幅(幅W2a)よりも小さくされている。なお、磁化自由膜730fのY軸方向に沿った幅は、最終形態である磁化自由層730のY軸方向に沿った長さ(磁化自由層幅W3)に対応する。
【0117】
さらに、上記の磁化自由膜730fの加工により、磁化自由膜730fのZ軸方向に沿った長さ(高さH3a)は、第1磁化固着膜710fのZ軸方向に沿った長さ(高さH1a)よりも小さくされている。そして、磁化自由膜730fのZ軸方向に沿った長さ(高さH3a)は、第2磁化固着膜720fのZ軸方向に沿った長さ(高さH2a)よりも小さくされている。この段階における磁化自由膜730fのZ軸方向に沿った長さ(高さH3a)は、最終形態である磁化自由層730のZ軸方向に沿った長さ(磁化自由層高さH3)よりも大きい。
【0118】
この状態の積層構造体を、積層構造体の一端からZ軸方向に沿って研磨する。すなわち、矢印Zdに沿って積層構造体を機械的に加工する。
【0119】
これにより、図12(b)に表したように、磁化自由膜730fが、研磨される端面から露出し、磁化自由層730が形成される。これにより、磁化自由層730のZ軸方向に沿った長さ(磁化自由層高さH3)は、第1磁化固着層710(第1磁化固着膜710f)のZ軸方向に沿った長さ(第1磁化固着層高さH1)よりも小さく、第2磁化固着層720(第2磁化固着膜720f)のZ軸方向に沿った長さ(第2磁化固着層高さH2)よりも小さくされる。この研磨(機械的加工)によって形成された積層構造体の端面が、媒体対向面701となる。
【0120】
この後、必要に応じて積層構造体のY軸方向に沿った端面が加工され、第1磁化固着層710及び第2磁化固着層720が形成される。なお、積層構造体のY軸方向に沿った端面の加工は、図11(d)に関して説明した工程から、図12(b)に関して説明した工程の間の任意の工程で実施することができる。
【0121】
このようにして、磁気ヘッド111が製造される。また、第1実施形態に関して説明した他の磁気ヘッドも、これと同様の方法により製造することができる。
【0122】
上記で説明した製造方法においては、磁化自由層730のY軸方向に沿った長さ(磁化自由層幅W3)は、フォトリソグラフィのエッチングにより制御される。そして磁化自由層730のZ軸方向に沿った長さ(磁化自由層高さH3)は、研磨(機械的加工)によって制御される。機械的加工の精度は、フォトリソグラフィの精度よりも高いので、この製造方法を用いることで、磁化自由層高さH3の高精度の制御を低コストで実現することができる。
【0123】
図13は、第2の実施形態に係る磁気ヘッドの製造方法を例示するフローチャート図である。
本実施形態に係る磁気ヘッドの製造方法は、磁気記録媒体80に対向する媒体対向面701(ABS)を有し、磁気記録媒体80に記録された磁化83の方向を検出する再生部70を含む磁気ヘッドの製造方法である。再生部70は、磁化の方向が固着された第1磁化固着層710と、媒体対向面701に対して平行な第1方向(X軸方向)に沿って第1磁化固着層710と積層され、磁化の方向が固着された第2磁化固着層720と、第1磁化固着層710と第2磁化固着層720との間に設けられ、磁化の方向が可変の磁化自由層730と、を含み、磁化自由層730の媒体対向面701に対して垂直な第2方向(Z軸方向)に沿った長さ(磁化自由層高さH3)は、第1磁化固着層710の第2方向に沿った長さ(第1磁化固着層高さH1)よりも短く、第2磁化固着層720の第2方向に沿った長さ(第2磁化固着層高さH2)よりも短い。
【0124】
図13に表したように、第1磁化固着層710となる第1磁化固着膜710fの上に、磁化自由層730となる磁化自由膜730fを形成する(ステップS110)。すなわち、例えば、図11(a)に関して説明した処理を行う。
【0125】
磁化自由膜730fの第2方向(Z軸方向)に沿った長さ(高さH3a)を、フォトリソグラフィとエッチングにより、第1磁化固着膜710fの第2方向に沿った長さ(高さH1a)よりも小さくする(ステップS120)。すなわち、例えば、図11(b)及び図11(c)に関して説明した処理を行う。
【0126】
第2方向に沿った長さが小さくされた磁化自由膜730fの上に、第2磁化固着層720となる第2磁化固着膜720fを形成して、第1磁化固着膜710f、磁化自由膜730f及び第2磁化固着膜720fを含む積層構造体を形成する(ステップS130)。すなわち、例えば、図11(d)に関して説明した処理を行う。
【0127】
積層構造体を第2方向に沿って研磨し、磁化自由膜730fの第2方向に沿った長さを、第1磁化固着膜710fの第2方向に沿った長さよりも小さく、第2磁化固着膜720fの第2方向に沿った長さよりも小さくする(ステップS140)。これにより、磁気ヘッドが製造される。
上記において、「上に形成」は、下側の層に接して上側の層を形成する場合の他に、下側の層に、別の層を介して、上側の層を形成する場合も含む。
【0128】
なお、この研磨により形成される面が媒体対向面701となる。そして、この研磨により、磁化自由膜730f(磁化自由層730)が、媒体対向面701において露出する。
【0129】
本製造方法においては、磁化自由層730のZ軸方向に沿った長さ(磁化自由層高さH3)を、フォトリソグラフィとエッチングを用いた第1加工(ステップS120)と、研磨(機械的加工)を用いた第2加工(ステップS140)と、の2つの加工により制御するため、磁化自由層高さH3の高精度の制御が低コストで実現できる。
【0130】
例えば、磁気抵抗効果素子71の素子幅(例えば磁化自由層幅W3)は、5テラビットの記録密度では、10nm程度となる。実施形態に係る磁気ヘッドにおいては、既に説明したように、磁化自由層高さH3を8nm以下にすることが望ましい。すなわち、高い空間分解能を確保する場合には、素子幅よりも磁化自由層高さH3を小さくする。このとき、上記の方法を適用することで、低コストで磁化自由層高さH3を高精度で制御し、実用的な磁気ヘッドをする提供することができる。
【0131】
(第3の実施の形態)
上記で説明した実施形態に係る磁気ヘッドは、例えば、記録再生一体型の磁気ヘッドアセンブリに組み込まれ、磁気記録再生装置に搭載することができる。なお、実施形態に係る磁気記録再生装置は、再生機能のみを有することもできるし、記録機能と再生機能の両方を有することもできる。
【0132】
図14は、第3の実施形態に係る磁気記録再生装置の構成を例示する模式的斜視図である。
図15(a)及び図15(b)は、第3の実施形態に係る磁気記録装置の一部の構成を例示する模式的斜視図である。
図14に表したように、本実施形態に係る磁気記録再生装置150は、ロータリーアクチュエータを用いた形式の装置である。同図において、記録用媒体ディスク180は、スピンドルモータ4に装着され、図示しない駆動装置制御部からの制御信号に応答する図示しないモータにより矢印Aの方向に回転する。本実施形態に係る磁気記録再生装置150は、複数の記録用媒体ディスク180を備えても良い。
【0133】
記録用媒体ディスク180に格納する情報の記録再生を行うヘッドスライダ3は、既に説明したような構成を有し、薄膜状のサスペンション154の先端に取り付けられている。ここで、ヘッドスライダ3の先端付近に、例えば、既に説明した実施形態に係る磁気ヘッド(例えば磁気ヘッド110〜114及び116)のいずれかが搭載される。
【0134】
記録用媒体ディスク180が回転すると、サスペンション154による押し付け圧力とヘッドスライダ3の媒体対向面(ABS)で発生する圧力とがつりあい、ヘッドスライダ3の媒体対向面は、記録用媒体ディスク180の表面から所定の浮上量をもって保持される。なお、ヘッドスライダ3が記録用媒体ディスク180と接触するいわゆる「接触走行型」としても良い。
【0135】
サスペンション154は、図示しない駆動コイルを保持するボビン部などを有するアクチュエータアーム155の一端に接続されている。アクチュエータアーム155の他端には、リニアモータの一種であるボイスコイルモータ156が設けられている。ボイスコイルモータ156は、アクチュエータアーム155のボビン部に巻き上げられた図示しない駆動コイルと、このコイルを挟み込むように対向して配置された永久磁石及び対向ヨークからなる磁気回路とを含むことができる。
【0136】
アクチュエータアーム155は、軸受部157の上下2箇所に設けられた図示しないボールベアリングによって保持され、ボイスコイルモータ156により回転摺動が自在にできるようになっている。その結果、磁気ヘッドを記録用媒体ディスク180の任意の位置に移動可能となる。
【0137】
図15(a)は、磁気記録再生装置の一部の構成を例示しており、ヘッドスタックアセンブリ160の拡大斜視図である。
また、図15(b)は、ヘッドスタックアセンブリ160の一部となる磁気ヘッドアセンブリ(ヘッドジンバルアセンブリ:HGA)158を例示する斜視図である。
【0138】
図15(a)に表したように、ヘッドスタックアセンブリ160は、軸受部157と、この軸受部157から延出したヘッドジンバルアセンブリ158と、軸受部157からHGAと反対方向に延出していると共にボイスコイルモータのコイル162を支持した支持フレーム161と、を有している。
【0139】
また、図15(b)に示したように、ヘッドジンバルアセンブリ158は、軸受部157から延出したアクチュエータアーム155と、アクチュエータアーム155から延出したサスペンション154と、を有している。
【0140】
サスペンション154の先端には、ヘッドスライダ3が取り付けられている。そして、ヘッドスライダ3には、実施形態に係る磁気ヘッドのいずれかが搭載される。
【0141】
すなわち、実施形態に係る磁気ヘッドアセンブリ(ヘッドジンバルアセンブリ)158は、実施形態に係る磁気ヘッドと、磁気ヘッドが搭載されたヘッドスライダ3と、ヘッドスライダ3を一端に搭載するサスペンション154と、サスペンション154の他端に接続されたアクチュエータアーム155と、を備える。
【0142】
サスペンション154は、信号の書き込み及び読み取り用、浮上量調整のためのヒーター用、及び、例えばスピントルク発振子用などのためのリード線(図示しない)を有する。これらのリード線と、ヘッドスライダ3に組み込まれた磁気ヘッドの各電極と、が電気的に接続される。
【0143】
また、磁気ヘッドを用いて磁気記録媒体への信号の書き込みと読み出しを行う信号処理部190が設けられる。信号処理部190は、例えば、図14に例示した磁気記録再生装置150の図面中の背面側に設けられる。信号処理部190の入出力線は、ヘッドジンバルアセンブリ158の電極パッドに接続され、磁気ヘッドと電気的に結合される。
【0144】
このように、本実施形態に係る磁気記録再生装置150は、磁気記録媒体と、上記の実施形態に係る磁気ヘッドと、磁気記録媒体と磁気ヘッドとを離間させ、または、接触させた状態で相対的に移動可能とした可動部と、磁気ヘッドを磁気記録媒体の所定記録位置に位置合わせする位置制御部と、磁気ヘッドを用いて磁気記録媒体への信号の書き込みと読み出しを行う信号処理部と、を備える。
【0145】
すなわち、上記の磁気記録媒体として、記録用媒体ディスク180が用いられる。
上記の可動部は、ヘッドスライダ3を含むことができる。
また、上記の位置制御部は、ヘッドジンバルアセンブリ158を含むことができる。
【0146】
このように、本実施形態に係る磁気記録再生装置150は、磁気記録媒体と、実施形態に係る磁気ヘッドアセンブリと、磁気ヘッドアセンブリに搭載された磁気ヘッドを用いて磁気記録媒体への信号の書き込みと読み出しを行う信号処理部と、を備える。
【0147】
本実施形態に係る磁気記録再生装置150によれば、上記の実施形態に係る磁気ヘッドを用いることで、高出力で低抵抗の再生が可能になる。さらに、スピントルクノイズが抑制され、熱磁気ノイズによるSN比の低下が抑制され、空間分解能が向上できる。
【0148】
実施形態によれば、高出力で低抵抗の磁気抵抗効果素子を有する磁気ヘッド、磁気ヘッドアセンブリ及び磁気記録再生装置が提供される。
【0149】
なお、本願明細書において、「垂直」及び「平行」は、厳密な垂直及び厳密な平行だけではなく、例えば製造工程におけるばらつきなどを含むものであり、実質的に垂直及び実質的に平行であれば良い。
【0150】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、磁気ヘッドに含まれる再生部、磁気抵抗効果素子、磁化固着層、磁化自由層、反強磁性層、導電層、保護層及び書き込み部など、並びに、磁気ヘッドアセンブリに含まれるヘッドスライダ、サスペンション及びアクチュエータアーム、並びに、磁気記録再生装置に含まれる磁気記録媒体などの各要素の具体的な構成に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。例えば、上記実施形態の中で説明した材料、組成、膜厚なども一例であり、種々の選択が可能である。
【0151】
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
【0152】
その他、本発明の実施の形態として上述した磁気ヘッド、磁気ヘッドアセンブリ及び磁気記録再生装置を基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての磁気ヘッド、磁気ヘッドアセンブリ及び磁気記録再生装置も、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
【0153】
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【0154】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0155】
3…ヘッドスライダ、 3A…空気流入側、 3B…空気流出側、 4…スピンドルモータ、 10…スピントルク発振子、 60…書き込み部、 61…主磁極、 62…リターンパス、 70…再生ヘッド部、 71…磁気抵抗効果素子、 72a…第1磁気シールド、 72b…第2磁気シールド、 80…磁気記録媒体、 81…磁気記録層、 82…媒体基板、 83…磁化、 85…媒体移動方向、 110、111、112、113、114、116…磁気ヘッド、 150…磁気記録再生装置、 154…サスペンション、 155…アクチュエータアーム、 156…ボイスコイルモータ、 157…軸受部、 158…ヘッドジンバルアセンブリ、 160…ヘッドスタックアセンブリ、 161…支持フレーム、 162…コイル、 180…記録用媒体ディスク、 190…信号処理部、 701…媒体対向面、 710…第1磁化固着層、 710a…第1磁化、 710e…端、 710f…第1磁化固着膜、 711…第1導電層、 711f…第1導電膜、 712…第1反強磁性層、 712f…第1反強磁性膜、 720…第2磁化固着層、 720a…第2磁化、 720e…端、 720f…第2磁化固着層膜、 721…第2導電層、 721f…第2導電膜、 722…第2反強磁性層、 722f…第2反強磁性膜、 730…磁化自由層、 730a…磁化容易軸、 730e…端、 730f…磁化自由膜、 730r…レジスト膜、 740…絶縁層、 740f…絶縁膜、 750…ハードバイアス層、 780…保護層、 H1…第1磁化固着層高さ、 H1a…高さ、 H2…第2磁化固着層高さ、 H2a…高さ、 H3…磁気自由層高さ、 H3a…高さ、 P1…出力、 PW…パルス幅、 R1…比率、 RG…ギャップ長、 T0、T1、T2、T3…厚さ、 W1…第1磁化固着層幅、 W1a…幅、 W2…第2磁化固着層幅、 W2a…幅、 W3…磁化自由層幅、 Zd…矢印

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気記録媒体に対向する媒体対向面を有し、前記磁気記録媒体に記録された磁化の方向を検出する再生部を備え、
前記再生部は、
磁化の方向が固着された第1磁化固着層と、
前記媒体対向面に対して平行な第1方向に沿って前記第1磁化固着層と積層され、磁化の方向が固着された第2磁化固着層と、
前記第1磁化固着層と前記第2磁化固着層との間に設けられ、磁化の方向が可変の磁化自由層と、
を含み、
前記磁化自由層の前記媒体対向面に対して垂直な第2方向に沿った長さは、前記第1磁化固着層の前記第2方向に沿った長さよりも短く、前記第2磁化固着層の前記第2方向に沿った長さよりも短いことを特徴とする磁気ヘッド。
【請求項2】
前記第1磁化固着層の前記媒体対向面の側の端、前記第2磁化固着層の前記媒体対向面の側の端、及び、前記磁化自由層の前記媒体対向面の側の端は、前記媒体対向面を含む平面内にあることを特徴とする請求項1記載の磁気ヘッド。
【請求項3】
前記第1方向及び前記第2方向に対して垂直な第3方向に沿った前記磁化自由層の長さは、前記第1磁化固着層の前記第3方向に沿った長さよりも短く、前記第2磁化固着層の前記第3方向に沿った長さよりも短いことを特徴とする請求項1または2に記載の磁気ヘッド。
【請求項4】
前記第1方向及び前記第2方向に対して垂直な第3方向に沿った前記磁化自由層の長さは、前記磁化自由層の前記第2方向に沿った前記長さよりも長いことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の磁気ヘッド。
【請求項5】
前記磁化自由層の前記第2方向に沿った前記長さは、8ナノメートル以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の磁気ヘッド。
【請求項6】
前記磁化自由層の磁化の容易軸は前記第1方向及び前記第2方向に対して垂直な第3方向に沿い、前記磁化自由層の異方性磁界が1000エルステッド以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の磁気ヘッド。
【請求項7】
前記磁化自由層の磁化の容易軸は前記第1方向に沿い、前記磁化自由層の異方性磁界が3000エルステッド以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の磁気ヘッド。
【請求項8】
前記再生部は、前記第1磁化固着層と前記第2磁化固着層との間において前記第1方向に対して垂直な平面内で前記磁化自由層に並置されたハードバイアス層をさらに含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載の磁気ヘッド。
【請求項9】
前記第1磁化固着層の前記磁化の方向、及び、前記第2磁化固着層の前記磁化の方向は、前記第1方向に対して垂直であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載の磁気ヘッド。
【請求項10】
前記第1磁化固着層の前記磁化の方向は、前記第2磁化固着層の前記磁化の方向に対して平行であることを特徴とする請求項9記載の磁気ヘッド。
【請求項11】
前記磁化自由層の前記磁化の容易軸は、前記第1磁化固着層の前記磁化の方向に対して垂直であり、前記第2磁化固着層の前記磁化の方向に対して垂直であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1つに記載の磁気ヘッド。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1つに記載の磁気ヘッドと、
前記磁気ヘッドを一端に搭載するサスペンションと、
前記サスペンションの他端に接続されたアクチュエータアームと、
を備えたことを特徴とする磁気ヘッドアセンブリ。
【請求項13】
請求項12記載の磁気ヘッドアセンブリと、
前記磁気ヘッドアセンブリに搭載された前記磁気ヘッドを用いて情報が再生される前記磁気記録媒体と、
を備えたことを特徴とする磁気記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−64280(P2012−64280A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208833(P2010−208833)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願、「平成21年度、経済産業省、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究 「超高密度ナノビット磁気記録技術(グリーンITプロジェクト)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願」
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】